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特許7198006ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
B41J2/14 303
B41J2/14 611
B41J2/14 607
B41J2/14 613
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018127622
(22)【出願日】2018-07-04
(65)【公開番号】P2020006537
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 仁
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-115188(JP,A)
【文献】特開2000-127378(JP,A)
【文献】特開2000-301718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に圧力を印加するアクチュエータプレートを備え、前記液体を噴射するヘッドチップであって、
前記アクチュエータプレートは、
厚み方向に分極された第1圧電基板と、
前記第1圧電基板の分極方向と逆方向に分極されるとともに、前記第1圧電基板に対向して設けられた第2圧電基板と、
前記第2圧電基板と前記第1圧電基板との間に設けられた中間層と、
前記第1圧電基板、前記中間層および前記第2圧電基板にわたって設けられ、互いに側壁を介して配置された複数の溝と、
前記側壁に設けられた電極と
を含み、
前記中間層は、絶縁材料のみから構成されている
ヘッドチップ。
【請求項2】
前記中間層の圧電歪定数は、前記第1圧電基板および前記第2圧電基板の圧電歪定数と異なっている
請求項1に記載のヘッドチップ。
【請求項3】
前記中間層は未分極である
請求項1または請求項2に記載のヘッドチップ。
【請求項4】
前記中間層は、前記第1圧電基板および前記第2圧電基板の構成材料と同じ材料を含む
請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載のヘッドチップ。
【請求項5】
前記側壁を構成する前記中間層の厚みは、前記側壁を構成する前記第1圧電基板および前記第2圧電基板の厚みよりも小さい
請求項1ないし請求項4のうちいずれか1項に記載のヘッドチップ。
【請求項6】
前記電極はめっき膜である
請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載のヘッドチップ。
【請求項7】
前記電極は、前記第1圧電基板および前記第2圧電基板の前記側壁のみに設けられている
請求項1ないし請求項6のうちいずれか1項に記載のヘッドチップ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のヘッドチップと、
前記ヘッドチップに前記液体を供給する供給機構と
を備えた液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体を収容する収容部と
を備えた液体噴射記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体を噴射するヘッドチップ、そのヘッドチップを備えた液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被記録媒体に画像を記録する記録装置として、液体噴射ヘッドを備えた液体噴射記録装置が知られており、その液体噴射ヘッドは、液体を噴射するヘッドチップを含んでいる。この液体噴射記録装置では、ヘッドチップから被記録媒体に液体が噴射されるため、その被記録媒体に画像が記録される。
【0003】
このヘッドチップは、液体を噴射させるために電気的に駆動されるアクチュエータプレートを含んでいる。アクチュエータプレートは、例えば、分極方向が異なる2枚の圧電基板を有している(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-96414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アクチュエータプレートの駆動応答性は、ヘッドチップの液体噴射効率に大きく影響を及ぼす。
【0006】
そこで、液体噴射効率を向上させることが可能なヘッドチップ、そのヘッドチップを備えた液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態のヘッドチップは、液体に圧力を印加するアクチュエータプレートを備え、液体を噴射するヘッドチップであって、アクチュエータプレートは、厚み方向に分極された第1圧電基板と、第1圧電基板の分極方向と逆方向に分極されるとともに、第1圧電基板に対向して設けられた第2圧電基板と、第2圧電基板と第1圧電基板との間に設けられた中間層と、第1圧電基板、中間層および第2圧電基板にわたって設けられ、互いに側壁を介して配置された複数の溝と、側壁に設けられた電極とを含むものである。また、上記中間層は、絶縁材料のみから構成されている。
【0008】
本開示の一実施形態の液体噴射ヘッドは、液体を噴射するヘッドチップと、そのヘッドチップに液体を供給する供給部と備え、そのヘッドチップが上記した本開示の一実施形態のヘッドチップと同様の構成を有するものである。
【0009】
本開示の一実施形態の液体噴射記録装置は、被記録媒体に液体を噴射する液体噴射ヘッドと、その液体を収容する収容部とを備え、その液体噴射ヘッドが上記した本開示の一実施形態の液体噴射ヘッドと同様の構成を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態のヘッドチップ、液体噴射ヘッドまたは液体噴射記録装置によれば、アクチュエータプレートの駆動応答性を高め、ヘッドチップの液体噴射効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態の液体噴射記録装置の概略構成を表す斜視図である。
図2図1に示した液体噴射ヘッドの概略構成を表す斜視図である。
図3図2に示した液体噴射ヘッドチップの概略構成を表す斜視図である。
図4図2に示した液体噴射ヘッドチップの概略構成を表す他の斜視図である。
図5図4に示したカバープレートおよびアクチュエータプレートの構成を表す断面模式図である。
図6】比較例に係るアクチュエータプレートの構成を、カバープレートとともに表す断面模式図である。
図7図6に示したアクチュエータプレートの圧電共振の一例を表す図である。
図8図5に示したアクチュエータプレートの圧電共振の一例を表す図である。
図9図5に示したアクチュエータプレートの構成の他の例を、カバープレートとともに表す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.液体噴射記録装置(ヘッドチップおよび液体噴射ヘッド)
1-1.全体構成
1-2.液体噴射ヘッドの構成
1-3.ヘッドチップの構成
1-4.動作
1-5.作用および効果
2.変形例
3.その他の変形例
【0013】
<1.液体噴射記録装置(ヘッドチップおよび液体噴射ヘッド)>
本開示の一実施形態の液体噴射記録装置に関して説明する。
【0014】
なお、本開示の一実施形態のヘッドチップおよび液体噴射ヘッドのそれぞれは、ここで説明する液体噴射記録装置のうちの一部である。そこで、ヘッドチップおよび液体噴射ヘッドのそれぞれに関しては、以下で併せて説明する。
【0015】
ここで説明する液体噴射記録装置は、例えば、被記録媒体に画像を形成するプリンタである。被記録媒体の種類は、特に限定されないが、例えば、紙およびフィルムなどである。
【0016】
<1-1.全体構成>
最初に、液体噴射記録装置の全体構成に関して説明する。
【0017】
図1は、液体噴射記録装置(インクジェットプリンタ)の一具体例であるプリンタ1の斜視構成を表している。図1では、筐体10の外縁(輪郭)を破線で示している。
【0018】
このプリンタ1は、例えば、循環機構により循環されている記録用の液体(インク9)を用いるインク循環方式を採用している。具体的には、プリンタ1は、例えば、図1に示したように、筐体10の内部に、一対の搬送機構2a,2bと、インクタンク3と、インクジェットヘッド4と、供給チューブ50と、走査機構6とを備えている。
【0019】
[搬送機構およびインクタンク]
搬送機構2a,2bは、プリンタ1に投入された記録紙Pを搬送方向D(X軸方向)に搬送させる機構であり、例えば、いずれもグリッドローラ21およびピンチローラ22を含んでいる。インクタンク3は、インク9を貯蔵する器である。ここで、インクタンク3は、本開示の「収容部」の一実施形態である。ここでは、プリンタ1は、例えば互いに異なる色のインク9を収容する4個のインクタンク3(3Y,3M,3C,3B)を備えており、インクタンク3Y,3M,3C,3Bのそれぞれは、例えば、イエロー(Y)のインク9、マゼンタ(M)のインク9、シアン(C)のインク9およびブラック(B)のインク9のそれぞれを収容している。
【0020】
[インクジェットヘッドおよび供給チューブ]
インクジェットヘッド4は、供給チューブ50から供給される液滴状のインク9を記録紙Pに噴射する液体噴射ヘッドであり、例えば、エッジシュートタイプのインクジェットヘッドである。エッジシュートタイプのインクジェットヘッド4では、例えば、後述するように、複数のチャネルC1のそれぞれが所定の方向(例えば、Z軸方向)に延在しており、複数のノズル孔H2のそれぞれから複数のチャネルC1のそれぞれの延在方向と同様の方向(Z軸方向)にインク9が噴射される(図3参照)。すなわち、各チャネルC1の延在方向と各ノズル孔H2からインク9が噴射される方向とは、互いに一致している。
【0021】
ここでは、プリンタ1は、例えば、図1に示したように、互いに異なる色のインク9を噴射する4個のインクジェットヘッド4(4Y,4M,4C,4B)を備えている。なお、インクジェットヘッド4の詳細な構成に関しては、後述する(図2参照)。
【0022】
[走査機構]
走査機構6は、搬送方向Dと交差する方向においてインクジェットヘッド4を走査させる機構であり、例えば、一対のガイドレール61a,61bと、キャリッジ62と、駆動機構63とを含んでいる。例えば、キャリッジ62は、例えば、基台62aおよび壁部62bを含んでおり、インクジェットヘッド4を支持しながらガイドレール61a,61bに沿って搬送方向Dと交差する方向に移動可能である。駆動機構63は、例えば、一対のプーリ631a,631bと、無端状のベルト632と、駆動モータ633とを含んでおり、そのベルト632は、例えば、キャリッジ62に連結されている。
【0023】
<1-2.液体噴射ヘッドの構成>
図2は、図1に示したインクジェットヘッド4(4Y,4M,4C,4B)の斜視構成を拡大して表している。
【0024】
このインクジェットヘッド4は、例えば、図2に示したように、固定板40と、インクジェットヘッドチップ41と、供給機構42と、制御機構43と、ベースプレート44とを備えている。固定板40の一面には、例えば、インクジェットヘッドチップ41と、供給機構42(後述する流路部材42a)と、ベースプレート44とが固定されている。ここで、インクジェットヘッドチップ41は、本開示の「ヘッドチップ」の一実施形態であると共に、供給機構42は、本開示の「供給部」の一実施形態である。
【0025】
[インクジェットヘッドチップ]
インクジェットヘッドチップ41は、インク9を噴射するインクジェットヘッド4の主要部である。なお、インクジェットヘッドチップ41の詳細な構成に関しては、後述する(図3図5参照)。
【0026】
[供給機構]
供給機構42は、供給チューブ50を介して供給されたインク9をインクジェットヘッドチップ41(後述するインク導入孔410a:図3および図4参照)に供給する。この供給機構42は、例えば、インク連結管42cを介して互いに連結された流路部材42aおよび圧力緩衝器42bを含んでいる。流路部材42aはインク9が流れる流路であり、そのインク9の貯留室を有する圧力緩衝器42bには、例えば、供給チューブ50が取り付けられている。
【0027】
[制御機構]
制御機構43は、例えば、回路基板43aと、駆動回路43bと、フレキシブル基板43cとを含んでいる。回路基板43aは、例えば、インクジェットヘッドチップ41を駆動させる駆動回路43bを含んでおり、その駆動回路43bは、例えば、集積回路(IC:Integrated Circuit)などを含んでいる。フレキシブル基板43cは、駆動回路43bとインクジェットヘッドチップ41(後述する駆動電極Ed:図5参照)とを互いに電気的に接続させている。ここでは図示していないが、フレキシブル基板43cは、例えば、駆動回路43bおよび複数の駆動電極Edのそれぞれに接続された複数の引き出し電極を含んでいる。
【0028】
<1-3.ヘッドチップの構成>
図3および図4のそれぞれは、図2に示したインクジェットヘッドチップ41の斜視構成を表している。図5は、図4に示したカバープレート410およびアクチュエータプレート411の断面構成(XY面に沿った断面)を表している。
【0029】
図3では、インクジェットヘッドチップ41の一連の構成要素が互いに組み合わされた状態を示している。一方、図4では、インクジェットヘッドチップ41の一連の構成要素を見やすくするために、その一連の構成要素が互いに離間された状態を示している。図5では、複数のノズル孔H2を破線で示している。
【0030】
このインクジェットヘッドチップ41は、例えば、図3および図4に示したように、カバープレート410と、アクチュエータプレート411と、ノズルプレート(噴射孔プレート)412と、支持プレート413とを含んでいる。カバープレート410およびアクチュエータプレート411は、互いに重ねられている。ノズルプレート412は、例えば支持プレート413に設けられた嵌合孔413aにカバープレート410およびアクチュエータプレート411が嵌め込まれた状態において、その支持プレート413に当接されている。
【0031】
カバープレート410は、例えば接着剤を介してアクチュエータプレート411に貼り付けられている。ノズルプレート412は、Z軸方向におけるカバープレート410およびアクチュエータプレート411の一端部に接着剤を介して取り付けられている。
【0032】
[アクチュエータプレート]
アクチュエータプレート411は、複数のノズル孔H2からインク9を噴射させるために電気的に駆動される部材である。
【0033】
このアクチュエータプレート411は、図5に示したように、互いに対向する第1圧電基板4111および第2圧電基板4112と、第1圧電基板4111と第2圧電基板4112との間に設けられた中間層4113とを有している。詳細は後述するが、本実施の形態では、このようにアクチュエータプレート411が、第1圧電基板4111と第2圧電基板4112との間に設けられた中間層4113を含んでいるので、中間層4113の分極状態を自在に調整することができる。これにより、例えば圧電共振の高次モードの影響を低減することが可能となる。
【0034】
アクチュエータプレート411は、例えば、カバープレート410側から、第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112をこの順に有している。第1圧電基板4111および第2圧電基板4112は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料により構成されたプレートである。第1圧電基板4111は、厚み方向(図5のY方向)の一方向に分極されており、所定の圧電歪定数(d定数)を有している。第2圧電基板4112は、第1圧電基板4111の分極方向とは逆方向に分極されている。即ち、このアクチュエータプレート411は、シェブロンタイプのアクチュエータプレートである。例えば、第1圧電基板4111は、Y方向マイナスの分極方向を有し、第2圧電基板4112は、Y方向プラスの分極方向を有している。第2圧電基板4112は、例えば、第1圧電基板4111の圧電歪定数と略同じ圧電歪定数を有している。
【0035】
第1圧電基板4111と第2圧電基板4112との間に設けられた中間層4113は、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112による圧電共振を調整するためのものであり、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の圧電歪定数とは異なる圧電歪定数を有している。例えば、中間層4113の圧電歪定数は、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の圧電歪定数よりも小さくなっている。中間層4113は、未分極の状態であることが好ましい。詳細は後述するが、中間層4113の圧電歪定数を、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の圧電歪定数よりも小さくすることにより、圧電共振の高次モード(高周波成分)、具体的には3次モードのピークを小さくすることができる。
【0036】
中間層4113は、例えば、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の構成材料と同じ材料により構成されている。例えば、中間層4113は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等により構成されている。中間層4113を、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の構成材料と同じ材料により構成すると、第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112の物理的および化学的特性が、略同じになる。このため、例えば、第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112にわたる溝(後述のチャネルC1)を、機械加工を用いて、容易に形成することができる。また、例えば電極(後述の駆動電極Ed)を形成する際に酸処理等を行っても、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112と同程度、中間層4113の劣化が抑えられる。
【0037】
第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の構成材料と、異なる材料により構成されていてもよく、例えば、シリコン(Si)およびガラス等の絶縁材料により構成されていてもよい。
【0038】
この第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112には、複数のチャネルC1が設けられている。
【0039】
ここで、この「チャネルC1」が、本開示の「溝」の一具体例に対応する。
【0040】
図3および図4に示したように、複数のチャネルC1のそれぞれは、Z軸方向に延在しており、その複数のチャネルC1は、X軸方向において間隔を隔てながら配列されている。
【0041】
すなわち、アクチュエータプレート411は、複数のチャネルC1を画定する複数の駆動壁Wdを含んでいる。複数の駆動壁Wdのそれぞれは、Z軸方向に延在しており、その複数の駆動壁Wdは、所定の配列方向(X軸方向)において間隔を隔てながら配列されている。これにより、チャネルC1のうちの一部(噴射チャネルC1e)は、互いに隣り合う2個の駆動壁Wdの間に形成されている。
【0042】
ここで、この「駆動壁Wd」が、本開示の「側壁」の一具体例に対応する。
【0043】
複数のチャネルC1のそれぞれは、第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112にわたって設けられた溝である。換言すれば、各チャネルC1を区画する駆動壁Wdは、第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112により構成されている。複数のチャネルC1のそれぞれは、第1圧電基板4111および中間層4113を貫通し、第2圧電基板4112に底面を有している。即ち、複数のチャネルC1は、非貫通溝である。
【0044】
駆動壁Wdを構成する第1圧電基板4111の厚みT1(図5のY方向の大きさ)と、駆動壁Wdを構成する第2圧電基板4112の厚みT2とは、略同じであり、駆動壁Wdを構成する中間層4113の厚みT3は、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の厚みT1,T2よりも小さくなっている。第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の厚みT1,T2は、例えば、40μm~150μm程度であり、中間層4113の厚みT3は、例えば、20μm~150μm程度である。このように、中間層4113の厚みT3を、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の厚みT1,T2よりも小さくすることにより、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112により駆動壁Wdを十分に変形させつつ、中間層4113により圧電共振の高次モードに起因した変形を抑えることができる。
【0045】
互いに厚み方向の異なる方向に分極された第1圧電基板4111および第2圧電基板4112を有するアクチュエータプレート411では、厚み方向の一方向に分極された1つの圧電基板により構成されたアクチュエータプレートに比べて、理論的に、2倍程度大きく駆動壁Wdを変形させることが可能である。
【0046】
図3図5に示したように、駆動壁Wdを介して配置された複数のチャネルC1は、インク9を吐出させるための噴射チャネルC1eと、インク9を吐出させないダミーチャネル(非噴射チャネル)C1dとを含んでいる。言い換えると、噴射チャネルC1eにはインク9が充填される一方、ダミーチャネルC1dにはインク9が充填されないようになっている。また、図5に示したように、各噴射チャネルC1eは、後述するノズルプレート412におけるノズル孔H2と連通している一方、各ダミーチャネルC1dはノズル孔H2には連通しておらず、後述するカバープレート410によって上方から覆われている。これらの噴射チャネルC1eとダミーチャネルC1dとは、図3図5に示したように、X軸方向に沿って、交互に並んで配置されている。
【0047】
複数のチャネルC1のうち、複数の噴射チャネルC1eのそれぞれは、例えば、インク9に圧力を付与する圧力室として機能する。この圧力室として機能する複数の噴射チャネルC1eを利用して、アクチュエータプレート411は、複数の噴射チャネルC1eに収容されたインク9を噴射させる。
【0048】
複数のチャネルC1のそれぞれは、Z軸方向において、第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112の一端部(ノズルプレート412に近い側の端部)から他端部(ノズルプレート412から遠い側の端部)に向かって延在している。ただし、複数のダミーチャネルC1dのそれぞれは、例えば、第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112の他端部まで延在し、他端部で終端している。これに対して、複数の噴射チャネルC1eのそれぞれは、例えば、第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112の他端部まで延在しておらず、途中(一端部と他端部との間の位置)で終端している。
【0049】
なお、例えば、図3および図4に示したように、各噴射チャネルC1eを画定する内壁面は、ノズルプレート412から遠い側における各噴射チャネルC1eの端部近傍において切り上がっている。
【0050】
これにより、アクチュエータプレート411は、例えば、一端部側に位置すると共に複数の噴射チャネルC1eおよび複数のダミーチャネルC1dの双方が設けられている第1チャネル形成部分411aと、他端部側に位置すると共に複数の噴射チャネルC1eが設けられておらずに複数のダミーチャネルC1dだけが設けられている第2チャネル形成部分411bとを含んでいる。上記した複数の駆動壁Wdは、複数のチャネルC1(複数の噴射チャネルC1eおよび複数のダミーチャネルC1d)を画定しているため、上記した第1チャネル形成部分411aに設けられている。
【0051】
複数の駆動壁Wdのそれぞれの側面には、Z軸方向に延在する駆動電極Edが設けられている。駆動電極Edは、複数の噴射チャネルC1eを圧力室として機能させるために、駆動壁Wdを電気的に駆動(変形)させる電極である。
【0052】
この駆動電極Edは、噴射チャネルC1eを画定する駆動壁Wdの側面に設けられた一対のコモン電極Edcと、ダミーチャネルC1dを画定する駆動壁Wdの側面に設けられた一対のアクティブ電極Edaとを含んでいる。噴射チャネルC1eの内部において互いに対向する一対のコモン電極Edcは、例えば、図示しないコモン端子を介して互いに電気的に接続されている。ダミーチャネルC1dの内部において互いに対向する一対のアクティブ電極Edaは、例えば、図示しないアクティブ端子を介して互いに電気的に接続されている。ただし、図3および図4では、複数の駆動電極Edの図示を省略している。
【0053】
ここで、駆動電極Edは、本開示の「電極」の一具体例に対応する。
【0054】
各アクティブ電極Edaは、例えば、駆動壁Wdの側面全面に設けられ、第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112に接している。また、各コモン電極Edcは、例えば、駆動壁Wdの側面全面に設けられ、第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112に接している。
【0055】
中間層4113が絶縁材料により構成されていると、中間層4113に接して駆動電極Ed(各アクティブ電極Edaおよび各コモン電極Edc)が設けられていても、駆動電極Edのうち、中間層4113の側面に設けられた部分は静電容量の値に影響しない。このため、中間層4113が絶縁材料により構成されていると、駆動壁Wdの変形に寄与する駆動電極Edの面積(駆動電極Edのうち、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の側面に設けられた部分の面積)と、静電容量の値との相関関係が単純になる。したがって、静電容量の値から、適切な面積の駆動電極Edが形成されているか否かを判定しやすくなる。
【0056】
駆動壁Wdの側面に駆動電極Edが設けられたアクチュエータプレート411では、例えば、駆動壁Wdの上下に電極を設ける場合に比べてチャネルC1を微細化しやすい。これは以下のような理由による。例えば、駆動壁Wdの上下に電極を設けると、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の厚みT1,T2が変わらない限り、所定の駆動壁Wdの変形量を実現するための印加電圧はほとんど変化しない。即ち、チャネルC1のピッチを狭めても、印加電圧はほとんど低減されない。これに対し、駆動壁Wdの側面に駆動電極Edを設けた場合には、チャネルC1のピッチを狭めることにより駆動電極Ed間の駆動壁Wdの厚みが小さくなるので、所定の駆動壁Wdの変形量を実現するための印加電圧を低減することが可能となる。このように、駆動壁Wdの側面に駆動電極Edが設けられたアクチュエータプレート411では、チャネルC1の微細化により、印加電圧を低減することが可能となる。
【0057】
複数の駆動電極Edおよび回路基板43a(駆動回路43b)は、例えば、フレキシブル基板43cに設けられた図示しない複数の引き出し電極を介して互いに電気的に接続されている。これにより、フレキシブル基板43cを介して駆動回路43bから複数の駆動電極Edに駆動電圧が印加される。この場合には、例えば、コモン電極Edcおよびアクティブ電極Edaのそれぞれに対して、互いに極性が異なる駆動電圧が印加される。図3では、フレキシブル基板43cのうちの一部(複数の駆動電極Edに接続されている部分)の輪郭だけを破線で示していると共に、図4では、フレキシブル基板43cの図示を省略している。
【0058】
駆動電極Edの形成材料は、特に限定されないため、駆動電極Edの形成方法などとの関係において、任意に設定可能である。具体的には、駆動電極Edの形成材料は、例えば、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)およびアルミニウム(Al)などの金属材料のうちのいずれか1種類または2種類以上などである。ただし、駆動電極Edは、例えば、単層でもよいし、多層でもよい。駆動電極Edが多層である場合には、例えば、各層が互いに異なる種類の金属材料を含んでいてもよい。
【0059】
中でも、駆動電極Edは、無電解めっき法等のめっき法を用いて形成されていることが好ましい。すなわち、駆動電極Edは、めっき膜であることが好ましい。駆動電極Edがめっき膜であることが好ましいのは、例えば、無電解めっき法を用いることにより、スパッタ法および蒸着法等の他の方法を用いる場合に比べて、駆動壁Wd全面を十分に被覆する駆動電極Edを容易に形成することができる。
【0060】
[カバープレート]
カバープレート410は、アクチュエータプレート411を被覆する部材である。
【0061】
具体的には、カバープレート410は、例えば、図3図5に示したように、複数のスリット410bが設けられた窪み状のインク導入孔410aを有している。各スリット410bは、例えば、各チャネルC1の延在方向(Z軸方向)と同様の方向に延在する貫通溝である。
【0062】
各スリット410bの位置は、各噴射チャネルC1eの位置に対応しているため、インク導入孔410aは、各スリット410bを介して各噴射チャネルC1eに連通されている。これにより、各噴射チャネルC1eに各スリット410bを介してインク9が供給されるため、その複数の噴射チャネルC1eにインク9が充填される。
【0063】
[ノズルプレート]
ノズルプレート412は、貫通口である複数のノズル孔H2を有しており、
アクチュエータプレート411に対向している。複数のノズル孔H2は、例えば、X軸方向において間隔を隔てながら配列されており、ノズル孔H2の開口形状、すなわちZ軸方向から見たノズル孔H2の形状は、例えば、円形である。ノズル孔H2の内径は、例えば、インク9が噴射される方向において次第に小さくなっている。これにより、インク9の噴射速度および直進性が向上するからである。ノズルプレート412は、例えば、ポリイミドなどの絶縁性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ノズルプレート412は、例えば、ステンレス鋼(SUS)などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0064】
[支持プレート]
支持プレート413は、例えば、図4に示したように、X軸方向に延在する嵌合孔413aを有しており、この嵌合孔413aには、例えば、カバープレート410およびアクチュエータプレート411が互いに積層された状態で嵌め込まれている。
【0065】
<1-4.動作>
[プリンタの動作]
このプリンタ1では、搬送方向Dに記録紙Pが搬送されると共に、搬送方向Dと交差する方向においてインクジェットヘッド4が往復移動しながら記録紙Pにインク9を噴射する。これにより、記録紙Pに画像が記録される。
【0066】
[インクジェットヘッドの動作]
このインクジェットヘッド4では、例えば、以下の手順により、せん断(シェア)モードを用いて記録紙Pにインク9が噴射される。
【0067】
まず、駆動回路43bが、フレキシブル基板43cを介して、アクチュエータプレート411に設けられた複数の駆動電極Edに駆動電圧を印加する。より具体的には、駆動回路43bは、複数の駆動電極Ed(複数のアクティブ電極Edaおよび複数のコモン電極Edc)のうちの複数のアクティブ電極Edaに駆動電圧を印加する。これにより、噴射チャネルC1eを画定している一対の駆動壁Wdは、その噴射チャネルC1eに隣接されている2個のダミーチャネルC1dに向かって突出するように変形する。
【0068】
ここで、前述したように、アクチュエータプレート411では、分極方向が厚み方向に沿って異なっている(前述した第1圧電基板4111および第2圧電基板4112が積層されている)と共に、駆動電極Edが、駆動壁Wdにおける内側面上の深さ方向の全体にわたって形成されている。このため、上記した駆動回路によって駆動電圧を印加することで、駆動壁Wdにおける深さ方向の中間位置を中心として、駆動壁WdがV字状に屈曲変形することになる。そして、このような駆動壁Wdの屈曲変形により、噴射チャネルC1eがあたかも膨らむように変形する。
【0069】
このように各駆動壁Wdの屈曲変形を利用して、各噴射チャネルC1eの容積が増大する。これにより、インク導入孔410aに供給されたインク9は、各スリット410bを介して各噴射チャネルC1eに誘導される。
【0070】
続いて、各噴射チャネルC1eに誘導されたインク9は、圧力波として各噴射チャネルC1eの内部に伝播する。この場合には、ノズルプレート412に設けられたノズル孔H2に圧力波が到達したタイミングにおいて、各アクティブ電極Edaに印加される駆動電圧がゼロ(0V)になる。これにより、屈曲変形した各駆動壁Wdが元の状態に戻るため、各噴射チャネルC1eの容積が元に戻る。
【0071】
最後に、各噴射チャネルC1eの容積が元に戻ると、各噴射チャネルC1eの内部において圧力が増加するため、各噴射チャネルC1eに誘導されたインク9が加圧される。これにより、各ノズル孔H2から外部(記録紙P)に液滴状のインク9が噴射される。
【0072】
<1-5.作用および効果>
次に、本実施の形態のインクジェットヘッドチップ41、インクジェットヘッド4およびプリンタ1における作用および効果について、比較例と比較しつつ詳細に説明する。
【0073】
図6は、比較例に係るアクチュエータプレート1411の構成例を、カバープレート410とともに模式的に断面図(XY断面図)で表したものである。この比較例のアクチュエータプレート1411は、分極方向が厚み方向に沿って互いに異なる第1圧電基板4111および第2圧電基板4112を有している。第1圧電基板4111および第2圧電基板4112は、互いに接して積層されている。即ち、このアクチュエータプレート1411は、中間層(図5の中間層4113)が設けられていない点において、アクチュエータプレート411と異なっている。アクチュエータプレート1411には、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112にわたって複数のチャネルC1が設けられている。複数のチャネルC1は、互いに駆動壁Wdにより区画されている。この駆動壁Wd全面に駆動電極Edが設けられている。
【0074】
このようなアクチュエータプレート1411に吐出パルスが入力されると、圧電共振の1次モードに由来して駆動壁Wdが変形し、インク9の噴射がなされる。このとき、駆動壁Wdの変形が山形(Chevron)であるため、1次モードに加えて、例えば、3次モード等の高次モードに由来した駆動壁Wdの変形が生じる。
【0075】
図7は、アクチュエータプレート1411の圧電共振のピークを表したものである。このように、アクチュエータプレート1411では、1次モードのピーク(紙面左側のピーク)に加えて、3次モードのピーク(紙面右側のピーク)が発生する。
【0076】
このような圧電共振の高次モードに由来した駆動壁Wdの変形は、アクチュエータプレート1411の駆動応答性を低下させる。
【0077】
これに対し、本実施の形態のアクチュエータプレート411は、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の間に、中間層4113を有しているので、中間層4113の分極状態を自在に調整することができる。例えば、中間層4113の圧電歪定数を第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の圧電歪定数よりも小さくすることにより、圧電共振の高次モードのピークを小さくすることができる。中間層4113を未分極の状態とすることにより、より効果的に、圧電共振の高次モードを小さくすることができる。
【0078】
図8は、未分極の状態の中間層4113を有するアクチュエータプレート411の圧電共振のピークを表している。このように、アクチュエータプレート411が中間層4113を有することにより、アクチュエータプレート1411に比べて、3次モードのピークを小さくすることができる。これにより、アクチュエータプレート411の駆動応答性が高まる。
【0079】
以上のように本実施の形態のインクジェットヘッドチップ41では、アクチュエータプレート411が、第1圧電基板4111と第2圧電基板4112との間に中間層4113を有しているので、中間層4113の分極状態を自在に調整することができる。例えば、中間層4113の圧電歪定数を、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の圧電歪定数よりも小さくすることにより、圧電共振の高次モードに由来した駆動壁Wdの変形が抑えられ、アクチュエータプレート411の駆動応答性を高めることができる。特に、中間層4113を未分極の状態にすることにより、効果的に圧電共振の高次モードに由来した駆動壁Wdの変形を抑えることができる。したがって、インクジェットヘッドチップ41、インクジェットヘッド4およびプリンタ1では、インク9の噴射効率を向上させることができる。
【0080】
また、中間層4113を、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の構成材料と同じ材料により構成することで、第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112の物理的性質および化学的性質が略同じになる。したがって、アクチュエータプレート411にチャネルC1および駆動電極Ed等を形成し易くなる。
【0081】
・ 変形例>
駆動電極Edは、駆動壁Wdの側面全面に設けられていなくてもよい。駆動電極Edは、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112が構成する駆動壁Wdの部分のみに設けられていてもよい。
【0082】
図9は、図5に示したアクチュエータプレート411の構成の他の例を、カバープレート410とともに表したものである。このアクチュエータプレート411では、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112が構成する駆動壁Wdの部分のみに駆動電極Edが設けられている。換言すれば、中間層4113が構成する駆動壁Wdの部分には、駆動電極Edが設けられていない。
【0083】
各アクティブ電極Edaは、例えば、駆動壁Wdのうち、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112各々の側面に分離して設けられ、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112に接している。また、各コモン電極Edcは、例えば、駆動壁Wdのうち、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112各々の側面に分離して設けられ、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112に接している。アクティブ電極Edaおよびコモン電極Edcは、少なくとも第1圧電基板4111、第2圧電基板4112各々の側面の一部に設けられていればよい。
【0084】
駆動電極Edは、例えば、ポリパラキシレン(パリレン(登録商標))等の電極保護膜(図示せず)に覆われている。この電極保護膜は、例えば、チャネルC1の内壁を被覆しており、駆動壁Wdの側面全面および駆動電極Edのカバープレート410側の端面にわたって設けられている。この電極保護膜は、例えば、駆動電極Edに接するとともに、中間層4113の側面に接している。電極保護膜は、ポリイミドまたはアクリル樹脂等により構成するようにしてもよく、あるいは、シリコン(Si)酸化物,アルミニウム(Al)酸化物,ジルコニウム(Zr)酸化物またはチタン(Ti)酸化物等により構成するようにしてもよい。例えば、電着法を用いて、ポリイミドおよびアクリル樹脂等からなる電極保護膜を形成することができ、CVD(Chemical Vapor Deposition)法または塗布法を用いて上記酸化物等からなる電極保護膜を形成することができる。これらのうちの2種以上を組み合わせて電極保護膜を構成することも可能である。ポリパラキシレン膜と、これらの膜とを組み合わせるようにしてもよい。
【0085】
中間層4113が、例えば第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の構成材料と同じ材料により構成されているとき、中間層4113の側面に駆動電極Edが設けられていると(例えば、図5)、この中間層4113の側面に設けられた駆動電極Edは静電容量の値に影響する。このため、駆動壁Wdの変形に寄与する駆動電極Edの面積(駆動電極Edのうち、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の側面に設けられた部分の面積)と、静電容量の値との相関関係が複雑になりやすい。これに対し、中間層4113の側面に駆動電極Edを設けないと、駆動壁Wdの変形に寄与する駆動電極Edの面積と、静電容量の値との相関関係が単純になる。したがって、静電容量の値から、適切な面積の駆動電極Edが形成されているか否かを判定しやすくなる。
【0086】
また、このような中間層4113の側面には、電極保護膜が設けられる。ポリパラキシレン等により構成された電極保護膜は、駆動電極Edよりも、中間層4113との密着性が高い。したがって、駆動壁Wd、駆動電極Edおよび電極保護膜の密着強度を維持することができる。
【0087】
このようなアクチュエータプレート411は、例えば、中間層4113がシリコン(Si)またはガラス等により構成されているとき、容易に製造することができる。まず、第1圧電基板4111、中間層4113および第2圧電基板4112に溝(チャネルC1)を形成する。溝は、例えば、機械加工を用いて形成する。次いで、この溝の表面に、エッチング液を用いてエッチングを施す。これにより、溝の表面に微小な凹凸が形成される(粗される)。この際、中間層4113のエッチング耐性は、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112とのエッチング耐性と異なるため、中間層4113の溝の表面には十分な凹凸が形成されない。次に、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の溝に例えば、無電解めっき法を用いて駆動電極Edを形成する。無電解めっき法は、例えば第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の溝にパラジウム(Pd)等の触媒を付着させた後、触媒反応を用いてめっき膜を形成する。このとき、表面が十分に粗されていない中間層4113の溝には、触媒が付着しにくく、触媒反応によるめっき膜が形成されない。このようにして、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112が構成する駆動壁Wdの部分のみに駆動電極Edを形成することができる。
【0088】
<3.その他の変形例>
以上、実施の形態および変形例を挙げながら本開示に関して説明したが、本開示の態様は上記した実施の形態等において説明された態様に限定されず、種々の変形が可能である。
【0089】
具体的には、例えば、1個の液体噴射ヘッド(液体噴射ヘッドチップ)が1色の液体(インク)を噴射せずに、その1個の液体噴射ヘッドが互いに異なる複数色(例えば、2色など)の液体を噴射してもよい。
【0090】
また、例えば、液体噴射ヘッドは、上記したエッジシュートタイプの液体噴射ヘッドに限定されず、サイドシュートタイプの液体噴射ヘッドでもよい。このサイドシュートタイプの液体噴射ヘッドでは、アクチュエータプレートに設けられた各チャネルが特定の方向に延在している場合において、ノズルプレートに設けられた各ノズル孔から各チャネルの延在方向と交差する方向にインクが噴射される。
【0091】
また、例えば、上記実施の形態等では、中間層4113の圧電歪定数が、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の圧電歪定数よりも小さい場合について説明したが、中間層4113の圧電歪定数は、第1圧電基板4111および第2圧電基板4112の圧電歪定数よりも大きくなっていてもよい。
【0092】
また、例えば、上記実施の形態等では、ノズル孔H2の開口形状が円形状である場合について説明したが、ノズル孔H2の開口形状は、例えば、楕円形状や、三角形状等の多角形状、星型形状など他の形状であってもよい。
【0093】
また、例えば、本開示の液体噴射ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置のそれぞれが適用される用途は、インクジェットプリンタに限定されず、他の用途でよい。他の用途は、例えば、ファクシミリおよびオンデマンド印刷機などの他の装置である。
【0094】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0095】
また、本開示は、以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
液体に圧力を印加するアクチュエータプレートを備え、前記液体を噴射するヘッドチップであって、
前記アクチュエータプレートは、
厚み方向に分極された第1圧電基板と、
前記第1圧電基板の分極方向と逆方向に分極されるとともに、前記第1圧電基板に対向して設けられた第2圧電基板と、
前記第2圧電基板と前記第1圧電基板との間に設けられた中間層と、
前記第1圧電基板、前記中間層および前記第2圧電基板にわたって設けられ、互いに側壁を介して配置された複数の溝と、
前記側壁に設けられた電極と
を含むヘッドチップ。
(2)
前記中間層の圧電歪定数は、前記第1圧電基板および前記第2圧電基板の圧電歪定数と異なっている
前記(1)に記載のヘッドチップ。
(3)
前記中間層は未分極である
前記(1)または前記(2)に記載のヘッドチップ。
(4)
前記中間層は、前記第1圧電基板および前記第2圧電基板の構成材料と同じ材料を含む
前記(1)ないし前記(3)のうちいずれか1つに記載のヘッドチップ。
(5)
前記側壁を構成する前記中間層の厚みは、前記側壁を構成する前記第1圧電基板および前記第2圧電基板の厚みよりも小さい
前記(1)ないし前記(4)のうちいずれか1つに記載のヘッドチップ。
(6)
前記電極はめっき膜である
前記(1)ないし前記(5)のうちいずれか1つに記載のヘッドチップ。
(7)
前記電極は、前記第1圧電基板および前記第2圧電基板の前記側壁のみに設けられている
前記(1)ないし前記(6)のうちいずれか1つに記載のヘッドチップ。
(8)
前記(1)ないし前記(7)のいずれか1つに記載のヘッドチップと、
前記ヘッドチップに前記液体を供給する供給機構と
を備えた液体噴射ヘッド。
(9)
前記(8)に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体を収容する収容部と
を備えた液体噴射記録装置。
【符号の説明】
【0096】
1…プリンタ、3…インクタンク、4…インクジェットヘッド、9…インク、41…インクジェットヘッドチップ、42…供給機構、410…カバープレート、411…アクチュエータプレート、4111…第1圧電基板、4112…第2圧電基板、4113…中間層、412…ノズルプレート、413…支持プレート、C1…チャネル、C1d…ダミーチャネル、C1e…噴射チャネル、Ed…駆動電極、Eda…アクティブ電極、Edc…コモン電極、H2…ノズル孔、P…記録紙、Wd…駆動壁。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9