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特許7198008UVオゾン-プラズマ複合処理方法及び処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】UVオゾン-プラズマ複合処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20221221BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20221221BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20221221BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20221221BHJP
   C12M 1/22 20060101ALI20221221BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/00 A
C12N1/00 A
C12N5/071
C12M1/22
C08J7/00 306
C08J7/00 CER
C08J7/00 CEZ
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018131485
(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公開番号】P2019017387
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2017135535
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017141966
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000120401
【氏名又は名称】荏原実業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀一
(72)【発明者】
【氏名】大平 美智男
(72)【発明者】
【氏名】中田 英夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隼人
(72)【発明者】
【氏名】宮田 昌悟
(72)【発明者】
【氏名】遠山 周吾
(72)【発明者】
【氏名】藤田 淳
(72)【発明者】
【氏名】福田 恵一
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-198976(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136251(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12M 1/00-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞担持面を有するポリスチレンを主成分とする細胞担持用基材の製造方法であって、
加湿環境下、酸素及び/又はオゾン供給雰囲気中で、前記基材の細胞担持面にUVを照射するUV照射工程、及び
前記基材の細胞担持面に、窒素ガスをプラズマ発生源として用いて窒素プラズマを照射するプラズマ照射工程
を含み、
前記UV照射工程の後又は当該工程と同時に前記プラズマ照射工程を行うことを特徴とする細胞担持用基材の製造方法。
【請求項2】
前記UV照射が、平均波長184.9nm及び253.7nmのUVを照射することにより行われることを特徴とする、請求項1に記載の細胞担持用基材の製造方法。
【請求項3】
前記UV照射が、前記細胞担持面の水接触角が40~70°となるまでの間行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞担持用基材の製造方法。
【請求項4】
さらに、UV照射工程の前に、該細胞担持面にアンモニア溶液を塗布する工程を備える、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
接着細胞の培養方法であって、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法により得られた細胞担持用基材の細胞担持面上で細胞を培養することを含む培養方法。
【請求項6】
前記接着細胞が幹細胞である、請求項に記載の培養方法。
【請求項7】
前記幹細胞が、マウスiPS細胞又はヒトiPS細胞である、請求項に記載の培養方法。
【請求項8】
フィーダー細胞の非存在下で培養することを特徴とする,請求項6又は7に記載の培養方法。
【請求項9】
細胞担持面を有するポリスチレンを主成分とする細胞担持用基材を格納するための格納部と、該格納部に格納された前記細胞担持用基材に対して紫外線を照射可能な紫外線照射手段と、紫外線照射の後または紫外線照射と同時に、該格納部に格納された細胞担持用基材に対して窒素プラズマを照射可能なプラズマ照射手段と、前記細胞担持用基材格納部内の湿度を制御可能な加湿手段と、前記細胞担持用基材格納部内のオゾン濃度を制御可能な酸素又はオゾン供給手段を有する細胞担持用基材表面改質装置。
【請求項10】
更に、前記細胞担持用基材の細胞担持面に対してアンモニア溶液を塗布可能なアンモニア溶液塗布手段を備える、請求項に記載の細胞担持用基材表面改質装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,細胞の担持,接着,保存,培養,及び/又は増殖に適した表面を有する細胞担持用基材の製造方法,及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
接着性細胞は,疎水性表面及び親水性が極めて高い表面に対してはほとんど接着しないのに対し,適切な親水性を有する表面には接着して進展した形態をとることが知られている。特に,水接触角40~70°(非特許文献1)又は60~80°(非特許文献2)の中程度の濡れ性を示す表面に細胞が良く接着することが知られている。よって,このような接着性細胞の接着性及び増殖性に優れる適度な親水性表面を得るための手段が開発されている。これまで,高分子材料表面を親水性とする手法として,コロナ放電処理(特許文献1)等の大気圧プラズマ処理(特許文献2),親水性骨格を含むポリマー鎖のグラフト(特許文献3),表面上にアミノプロピルエチレン無水マレイン酸を結合させて接触角を約10~30°とした基体(特許文献4),及び,両親媒性物質の親水基を表面に提示させる方法(特許文献5)等の化合物修飾などが報告されている。また,表面の親水性の程度をコントロールする方法として,一度高い親水性とした表面を酸化処理及び/又は分解処理することにより,その親水性の程度を下げる方法や,親水性分子と表面とをリンカーを介して結合させ,リンカーの密度により親水性の程度を調節する方法が報告されている(特許文献6)。特にこれらの中でも,コロナ放電処理や大気圧プラズマ処理などの物理的方法は簡便であることから,親水性の細胞培養表面の改質において主要な方法となっている。
【0003】
このような親水性表面においては,主に水酸基,カルボニル基,及びカルボキシ基などの酸素原子を有する基が親水性の発揮に寄与していると考えられている。しかし,コロナ放電により導入された酸素原子は急速に除去されるため,表面が劣化しやすいという問題があった。さらに,コロナ放電処理は,約20%の表面酸素しか基材上に提供できないと考えられており,親水性の付与に限界があった。また,プラズマ放電は,コロナ放電よりも高い酸素レベルを達成できるが,基材を真空で処理することが必要であり,処理工程が複雑であった。更に,プラズマ処理は表面を傷つけやすいという問題があった。
【0004】
高分子材料表面を親水性とするための別のアプローチとして,フッ素樹脂基板等への紫外線レーザー照射(特許文献4)やオゾンを発生させる波長の紫外線を照射する方法(非特許文献3及び4)が報告されている。これらの報告においても,細胞増殖には表面酸素原子の割合が中程度であることが望ましいこと(非特許文献4)が報告されている。また,このようなオゾン/紫外線を用いた方法を改良すべく,オゾン・紫外線処理と生体材料とを組み合わせること(非特許文献5),超高分子ポリエチレンへ酸素原子を導入すること(非特許文献6)などが検討されている。
【0005】
また,特に,親水性表面を未分化細胞培養用の基材として利用する場合,未分化細胞である幹細胞は培養が難しく,フィーダー細胞,LIFなどのサイトカイン,又は,マトリゲル(登録商標)やコラーゲン等の細胞外基質タンパク質によるコーティング等の特殊な環境を必要としていた。しかし,これらの技術はいずれも生体由来材料に依存することから安定性が低くロット差による結果の違いを生じること,潜在的なコンタミネーションが生じ得ること,貯蔵における寿命が短いこと等が問題となっていた。
【0006】
そこで,未分化細胞である幹細胞を培養可能な細胞培養表面をより安定的に化学的改質で作製することが試みられている。例えば,細胞培養表面に膨潤性(メタ)アクリレート層を形成させることにより,これらの問題を解決することが提案されている(特許文献7)。
【0007】
また,本発明者らは,加湿,酸素又はオゾン供給下でUV処理を行うことにより,ポリスチレン等の表面を接着細胞の培養に適した表面に加工できることを見出し,報告している(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-98756号公報
【文献】国際公開公報WO2012/144624号
【文献】特開2009-17809号公報
【文献】特表2012-527896号公報
【文献】特開2012-175983号公報
【文献】特表2011-510655号公報
【文献】特開2010-68755号公報
【文献】国際公開公報WO2016/136251号
【非特許文献】
【0009】
【文献】酒井康行及び民谷栄一監修,「動物実験代替のためのバイオマテリアルデバイス」シーエムシー出版,2014年,133~134頁
【文献】Yasushi Tamadaら,Journal of Biomedical Materials Research;28:783-789(1994)
【文献】D.O.H.Teareら,Kanbmuir;16:2818-2824(2000)
【文献】S.A.Mitchellら,Biomaterials;25:4079-4086(2004)
【文献】Fabio Formosaら,Microvascular Research;75:330-342(2008)
【文献】Alexandra H.C.Poulssonら,Langmuir;25:3718-3727(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし,既存の処理方法ではまだ十分な細胞を担持及び培養させるための表面修飾が得られていない。よって,本発明は選りすぐれた細胞を担持及び培養させるための表面修飾の方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは,種々の方法を用いて樹脂基材表面を処理して細胞増殖との関係を調べた結果,加湿環境下,酸素及び/又はオゾン雰囲気中のUV照射とプラズマ処理との両方の処理を行うことにより,細胞接着及び細胞増殖により適した表面が生成されることを見出し,本発明を完成させた。更に,本発明者らは,このような表面が,従来報告した加湿環境下,酸素及び/又はオゾン雰囲気中のUV照射より優れることを見出し,本発明を完成させた。
【0012】
よって,本発明は,以下の発明を含むものである:
(1) 細胞担持面を有する非フッ素系樹脂を主成分とする細胞担持用基材の製造方法であって,
加湿環境下,酸素及び/又はオゾン供給雰囲気中で,前記基材の細胞担持面にUVを照射するUV照射工程,及び
前記基材の細胞担持面にプラズマを照射するプラズマ照射工程
を含む方法。
(2) 前記非フッ素系樹脂が,ポリエチレン,アクリル樹脂,ABS樹脂,ポリエチレンテレフタレート,ポリプロピレン,ポリカーボネート,及びポリスチレンからなる群から選択される少なくとも1種類の樹脂である,(1)に記載の細胞担持用基材の製造方法。
(3) UV照射工程の後にプラズマ照射工程を行うことを特徴とする,(1)又は(2)に記載の細胞担持用基材の製造方法。
(4) プラズマ照射工程の後にUV照射工程を行うことを特徴とする,(1)又は(2)に記載の細胞担持用基材の製造方法。
(5) UV照射工程とプラズマ照射工程を同時に行うことを特徴とする,(1)又は(2)に記載の細胞担持用基材の製造方法。
(6) 前記UV照射が,平均波長184.9nm及び253.7nmのUVを照射することにより行われることを特徴とする,(1)~(5)のいずれか1項に記載の細胞担持用基材の製造方法。
(7) 前記UV照射が,前記非フッ素系樹脂表面の水接触角が40~70°となるまでの間行われることを特徴とする,(1)~(6)のいずれか1項に記載の細胞担持用基材の製造方法。
(8) さらに,UV照射工程の前に,該細胞担持面にアンモニア溶液を塗布する工程を備える,(1)~(7)のいずれか1項に記載の製造方法。
(9) 接着細胞の培養方法であって,(1)~(8)のいずれか1項に記載の製造方法により得られた細胞担持用基材の細胞担持面上で細胞を培養することを含む培養方法。
(10) 前記接着細胞が幹細胞である,(9)に記載の培養方法。
(11) 前記幹細胞が,マウスiPS細胞又はヒトiPS細胞である,(10)に記載の培養方法。
(12) フィーダー細胞の非存在下で培養することを特徴とする,(10)又は(11)に記載の培養方法。
(13) 細胞担持面を有する非フッ素系樹脂を主成分とする細胞担持用基材を格納するための格納部と,該格納部に格納された前記細胞担持用基材に対して紫外線を照射可能な紫外線照射手段と,該格納部に格納された細胞担持用基材に対して窒素プラズマを照射可能なプラズマ照射手段と,前記細胞担持用基材格納部内の湿度を制御可能な加湿手段と,前記細胞担持用基材格納部内のオゾン濃度を制御可能な酸素又はオゾン供給手段を有する細胞担持用基材表面改質装置。
(14) 更に,前記細胞担持用基材の細胞担持面に対してアンモニア溶液を塗布可能なアンモニア塗布手段を備える,(13)に記載の細胞担持用基材表面改質装置。
【0013】
本明細書において「細胞担持用基材」とは,細胞を表面上に担持させて用いられる基材のことであり,細胞の担持,接着,保存,培養,及び/又は増殖を目的とする基材であってもよい。例えば,細胞担持用基材は,細胞培養用基材(例えば,細胞培養用容器),細胞保存用基材,又はインプラント用基材などを含む。本明細書における細胞担持用基材が担持する細胞は,接着細胞であれば特に制限されるものではなく,例えば,平滑筋細胞,内皮細胞,線維芽細胞,骨芽細胞,幹細胞などの哺乳類細胞を含み,好ましくは,幹細胞である。本明細書において,幹細胞とは,iPS細胞,ES細胞,間葉系幹細胞などを含み,マウス,ラット,ウサギ,イヌ,サル,及びヒトの細胞を含むが,好ましくは,マウスiPS細胞及びヒトiPS細胞である。また,本明細書における細胞担持用基材の形状は,その目的に応じて適宜選択することができ,例えば,プレート状,シート状,球状,ディッシュ状,チップ状,又は,所望の組織(例えば,人工骨又はその表面部分)の形状とすることができる。好ましくは,細胞担持用基材は,接着細胞培養用容器又は接着細胞保存用容器であり,より好ましくは,iPS細胞培養用容器又はiPS細胞保存用容器である。
【0014】
本明細書における細胞担持用基材は,主成分として非フッ素系樹脂を含有するが,必要に応じて「他の成分」を含有していても良い。例えば,必要に応じて,マトリゲル(登録商標),ラミニン,コラーゲン又はフィブロネクチンなどの他の細胞接着に寄与する物質を適宜含んでいても良い。例えば,本明細書における細胞担持用基材は,マトリゲルを20~80μg/cm,30~70μg/cm,又は40~60μg/cm含有する。また,例えば,本明細書における細胞担持用基材は,0.1~1μg/cm,0.3~0.8μg/cm,又は0.5μg/cmの濃度で,ラミニンを含有していてもよい。
【0015】
本明細書において,「非フッ素系樹脂」とは,フッ素を含有しない樹脂を意味し,例えば,ポリエチレン,超高分子ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル,ポリビニルアルコール,アクリル樹脂,ポリエチレンテレフタレート,ポリアセタール,ポリカーボネート,ポリアミド,ポリイミド樹脂,フェノール樹脂,アミノ樹脂,エポキシ樹脂,ポリエステル,及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)を挙げることができる。これらのうち,好ましくは,ポリスチレンである。ポリスチレンは立体規則性(タクティシティー,tacticity)を有し,イソタクチック(アイソタクチック)型,シンジオタクチック型,アタクチック型が存在するが,本発明におけるポリスチレンの型は限定されるものではなく,これらのいずれの型,又はこれらのうち2種類以上の型の混合物であってもよく,通常はアタクチック型が汎用される。またポリスチレンは高分子化合物であるため種々の重合度(平均分子量)の製品が供給されているが,本発明においては限定されない。例えば,重合度が10~100,000,50~10,000とすることができる。従って各社が供給するポリスチレン製培養用ディッシュには材質・物性上の差異が存在し得るが本発明においては限定されず,いずれの製造元の培養用ディッシュを使用することができる。一例として,IWAKI(登録商標)組織培養用ディッシュ(AGCテクノグラス株式会社)を挙げることができる。
【0016】
本発明の細胞担持用基材は少なくともその一部に細胞担持面を有する。本明細書において,「細胞担持面」とは,細胞を担持,接着,保存,培養,及び/又は増殖させることができる表面を意味し,必ずしも当該表面上で細胞を培養し又は増殖させることを必要とするものではない。また,細胞担持面は,平面,曲面,波状面,球体表面等,いかなる形状であっても良い。
【0017】
一態様において,本発明の細胞担持用基材の細胞担持面は,ケミカルシフトを生じたC-C結合及び/又はC-H結合を表面に有する。本明細書において「ケミカルシフトを生じたC-C結合及び/又はC-H結合」とは,ポリスチレンの分子構造に酸素原子が組み込まれたことによって結合状態が変化した構造であって,酸素原子を含まない構造である。即ち,ケミカルシフトを生じたC-C結合及び/又はC-H結合とは,ポリスチレンに含まれないC-C結合及び/又はC-Hを意味し,C-H,C-C及びC-Ph以外の構造を意味する。本発明の細胞担持面は,酸素原子の導入された基(OH,COOH,C=Oなど)が極めて少ないにもかかわらず,接触角が減少している。よって,この接触角の減少はケミカルシフトを生じたC-C結合及び/又はC-H結合によりもたらされたものと考えられる。
【0018】
細胞培養表面上のカルボキシ基(COOH基)は細胞にとって良くない影響を及ぼすと考えられている。本発明の細胞担持用基材の細胞担持面は,非加湿下の同条件においてUV/オゾン処理された細胞担持用基材と比較して極めて少ない量のカルボキシ基しか有しない。よって,本発明の細胞担持用基材は,細胞担持面に実質的にカルボキシ基が存在しない。ここで,「実質的に存在しない」とは,全く存在しないことを意味するのではなく,細胞培養に影響を与える程度に存在しないことを意味し,好ましくは,非加湿下の同条件においてUV/オゾン処理された細胞担持用基材と比較して極めて少ないことを意味し,より好ましくは,C(1s)ナロースキャンXPSスペクトルにおいてほとんど検出されないか,又は検出されないことを意味してもよい。
【0019】
本発明の細胞担持用基材は,細胞担持面の水接触角が中程度であり,例えば,30~80°,30~70°,30~60°,40~80°,40~70°,40~60°である。好ましくは,前記水接触角は,40~60°である。好ましくは,本明細書における接触角は,自動接触角計にて試料に1μLの純水を滴下しθ/2法により測定される接触角である。また,本発明の細胞担持用基材は,細胞接着性表面の保存安定性に優れる。このため,本発明の細胞担持用基材は,好ましくは,UV照射から24時間後及び1週間密閉保管の表面の水接触角がいずれも,前記接触角の範囲内であり,好ましくは,UV照射から24時間後及び1ヶ月密閉保管の表面の水接触角がいずれも,前記接触角の範囲内である。即ち,本発明の細胞担持用基材は,好ましくは,UV照射から1週間密閉保管後又は1月密閉保管後においても,優れた細胞接着性を維持するものである。
【0020】
一態様において,本発明の細胞担持用基材の細胞担持面は,フィーダー細胞(足場細胞)及び細胞外基質タンパク質コーティングの非存在下又はより低濃度の細胞外基質タンパク質コーティング存在下においても,幹細胞を未分化の状態で担持し又は増殖させることができる。例えば,本発明の細胞担持用基材の細胞担持面は,フィーダー細胞及び細胞外基質タンパク質コーティングがなくても,129/Ola系統由来マウス胚性幹細胞であるEB3細胞(Mol.Cell biol.(2002)22:1526-36;Genes to Cell(2004)9:471-7)が増殖することができる表面であってもよい。又は,前記細胞担持面は,表面未処理の前記非フッ素系樹脂を主成分とする基材において幹細胞を接着させるために必要なマトリゲル(登録商標)の濃度の0.2倍の濃度においても,幹細胞(例えば,ヒトiPS細胞又はマウスiPS細胞)が接着し又は増殖することができる表面であってもよい。あるいは,前記細胞担持面は,表面未処理の前記非フッ素系樹脂を主成分とする基材において幹細胞を接着させるために必要なラミニンの濃度の0.5倍の濃度においても,幹細胞(例えば,ヒトiPS細胞又はマウスiPS細胞)が接着し又は増殖することができる表面であってもよい。
【0021】
具体的な態様において,本発明は,上記細胞担持用基材を備える,接着細胞用の細胞培養容器に関する。細胞培養容器としては,プレート状,シート状,球状,ディッシュ状,チップ状,繊維状,又はフラスコ状の培養容器を挙げることができる。
【0022】
また,別の態様において,本発明は,前記方法を実現するための装置に関し,具体的には,細胞担持面を有する非フッ素系樹脂を主成分とする細胞担持用基材を格納するための格納部と,該格納部に格納された前記細胞担持用基材に対して紫外線を照射可能な紫外線照射手段と,該格納部に格納された細胞担持用基材に対して窒素プラズマを照射可能なプラズマ照射手段と,前記細胞担持用基材格納部内の湿度を制御可能な加湿手段と,前記細胞担持用基材格納部内のオゾン濃度を制御可能な酸素又はオゾン供給手段を有するように構成された細胞担持用基材表面改質装置に関する。このような構成において,紫外線照射手段は,紫外光(100~400nmの範囲の電磁波)を発生可能な光源,例えば,水銀ランプ又はLEDを有する。好ましくは,紫外線照射手段は,本明細書に記載するUV照射工程を実施可能な光源を有する。プラズマ照射手段は,チャンバー内に窒素ガス圧力を一定の減圧状態に保つ減圧部,電極間に印加した直流電圧,高周波電圧,マイクロ波などによる電界によって電子を加速する電子加速部,加速された電子とガス分子との衝突による電離を利用してプラズマを生成させるプラズマ生成部を有する。加湿手段は,水保持部を有し,必要に応じて水保持部から供給された水を加温して水蒸気を発生させる加温部を有していてもよい。酸素又はオゾン供給手段は,酸素ガス又はオゾンガスを格納部内に供給するものである。オゾンガスは,まず酸素ガスを供給して前記紫外線供給手段により紫外線を照射して発生させてもよいし,酸素ガスを放電式オゾン発生器によりオゾンに変換してから格納部に供給してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の細胞担持用基材の製造方法は,より簡便な方法で安定的に細胞接着に適した親水性を付与することができる。また,本発明の細胞担持用基材は,生体由来材料を用いる必要が無いか,従来より少ない量で幹細胞を含む接着細胞を培養することができることから安定性が高くロット差による結果の違いを生じにくい他,より安価に培養することができる。また,動物由来成分を使用せず,又は使用量を減らすことができ得ることから潜在的なコンタミネーションの問題を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】UV/オゾン表面改質装置の内部構造を示す図面である。
図2】未処理ポリスチレンのワイドスキャンスペクトルを示すグラフである。縦軸は光電子強度を,横軸は結合エネルギー(eV)を表す(以下,図3図9においても同じ)。
図3】未処理ポリスチレンのC1sのナロースキャンスペクトルを示すグラフである。
図4】(A)UV1minのC1sのナロースキャンスペクトルを示すグラフである。(B)UV3minのC1sのナロースキャンスペクトルを示すグラフである。(C)UV10minのC1sのナロースキャンスペクトルを示すグラフである。
図5】(A)Plasma5sのC1sのナロースキャンスペクトルを示すグラフである。(B)Plasma40sのC1sのナロースキャンスペクトルを示すグラフである。(C)Plasma160sのC1sのナロースキャンスペクトルを示すグラフである。
図6】O1sのナロースキャンスペクトルを示すグラフである。
図7】N1sのナロースキャンスペクトルを示すグラフである。
図8】(A)UV/ozone3min→プラズマ40sのC1sのナロースキャンスペクトルを示すグラフである。(B)プラズマ40s→UV/ozone3minのC1sのナロースキャンスペクトルを表すグラフである。
図9】(A)UV/ozone10min→プラズマ160sのC1sのナロースキャンスペクトルを表すグラフである。(B)プラズマ160s→UV/ozone10minのC1sのナロースキャンスペクトルを表すグラフである。
図10】表面改質ポリスチレン製培養ディッシュ細胞上で培養したマウスES細胞(ES-D3株)の写真である。(a)未処理ディッシュ,(b)UV/ozone単独処理10min,(c)大気圧プラズマ10s,(d)大気圧プラズマ10s→UV/ozone 10min,(e)UV/ozone 10min→大気圧プラズマ10s。
図11】未処理,ゼラチンコート,UV/ozoneまたはプラズマ単独,UV/ozone・プラズマ複合改質基材上で培養したマウスES細胞(ES-B3株)の総DNA量を示すグラフである。
図12】表面改質ポリスチレン製培養ディッシュ細胞上で培養したマウスiPS細胞(APS0001株)の写真である。右側は蛍光顕微鏡によるGFP発現の観察像を示す。(a)フィーダー細胞上の通常培養,(b)UV/ozone 3min→大気圧プラズマ40s,(c)未処理ディッシュ。
図13】本発明にかかる細胞担持用基材表面改質装置の構成図である。
図14】マルチチャンバークラスターツールである細胞担持用基材表面改質装置の構成図である。
図15図14のマルチチャンバーの紫外線処理部の構成図である。
図16図14のマルチチャンバーのプラズマ処理部の構成図である。
図17】アンモニア処理表面改質ポリスチレン製培養ディッシュ細胞上で培養したヒトiPS細胞(253G4株)の写真である。左から順に,推奨使用量(×1.0)マトリゲル添加群,推奨使用量の0.2倍(×0.2)のマトリゲル添加群,UV30s処理→大気圧プラズマ80s処理した×0.2マトリゲル添加群,アンモニウム塗布後にUV30s処理→大気圧プラズマ80s処理した×0.2マトリゲル添加群を表す。スケールバーは200μmを表す。
図18】推奨使用量の0.2倍(×0.2)のマトリゲル添加群の細胞数をカウントしたグラフを表す。グラフは左から順に,表面改質なし,UV30s処理,UV30s処理→大気圧プラズマ80s処理,及びアンモニウム塗布後にUV30s処理→大気圧プラズマ80s処理したディッシュの結果を表す。縦軸は,推奨使用量(×1.0)マトリゲル添加ディッシュで培養された細胞数を1.0としたときの相対的な細胞数を表す。星印はp<0.05vs(表面改質なしの細胞数)を表す。
図19】アンモニア処理表面改質ポリスチレン製培養ディッシュ細胞上で培養したヒトiPS細胞(253G4株)の写真である。上段左から順に,推奨使用量(×1.0)ラミニン添加群,推奨使用量の0.3倍(×0.3)のラミニン添加群,UV30s処理した×0.3ラミニン添加群,下段左から順に,UV30s処理→大気圧プラズマ60s処理した×0.3ラミニン添加群,アンモニウム塗布後にUV30s処理→大気圧プラズマ60s処理した×0.3ラミニン添加群を表す。スケールバーは400μmを表す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.細胞担持用基材の製造方法
本発明の細胞担持用基材の製造方法は,UV照射工程及びプラズマ照射工程の両方を含むことを特徴とする。
【0026】
(1)UV照射工程
UV照射工程は,非フッ素系樹脂を主成分とする基材の周囲を加湿し,前記加湿中及び/又は加湿後,すなわち加湿環境化において,該基材を酸素及び/又はオゾン雰囲気中でUVを照射することにより行うことができる。
【0027】
(加湿)
加湿は,非フッ素系樹脂を主成分とする基材の周囲に水蒸気を提供することができる方法であれば,いかなる方法を用いて行われても良い。加湿は,UVを照射する基材表面が水蒸気に曝されるように行われる。すなわち,次のUV照射工程は加湿環境下で行われる。また,必ずしも基材の全ての面が水蒸気に曝されることを必要としない。例えば,加湿は,前記樹脂を内包する外界とは遮断された一定容積を有する容器又は装置内において,水を加熱することにより行うことができる。加湿後の湿度(例えば,UV照射時の湿度)としては,例えば,20~60%RHとすることができ,好ましくは,30℃では40~50%RH,40℃では20~30%である。加湿は,UV照射時に基材の周囲に水蒸気が存在する環境,又は,UVが照射される基材表面が水蒸気に曝される環境とすることができればよく,UV照射前及び/又はUV照射中に行うことができるが,好ましくは,UV照射前及びUV照射中に行う。
【0028】
(UV照射)
UV照射は,酸素及び/又はオゾン雰囲気中で前記基材に対してUVを照射することにより行う。照射するUVは平均波長が184.9nm及び253.7nmとすることができる。UVの波長は分光放射計を用いて測定することができる。UVは,例えば,UV照度として,2000~5000μW/cm,2500~4500μW/cm,3000~4000μW/cm,3200~3800μW/cm,又は3500μW/cmで行うことができる。UVランプから各プレートまでの距離は,2~6cm,3~5cm,3.5~4.5cm,3.6~4.4cm,3.7~4.3cm,3.8~4.2cm,3.9~4.1cm,又は4cmとすることができる。UV照射時間は,非フッ素系樹脂表面の水接触角が,例えば,40~90°,40~80°,40~70°,50~90°,50~80°,50~70°,55~65℃,60~90°,60~80°,60~70°,70~90°,又は70~80°となるまでの間行うことができる。あるいは,UV照射時間は,1~20分間,1~15分間,1~10分間,3~20分間,3~15分間,3~10分間,5~20分間,5~15分間,又は5~10分間とすることができる。
【0029】
酸素雰囲気とは,基材周辺の酸素濃度が80%以上(好ましくは90%以上)であることを意味する。酸素(例えば,99%酸素)(例えば,乾燥酸素)を一定時間(例えば,5分間)基材を保持する環境に供給することにより酸素雰囲気とすることができる。また,オゾン雰囲気とは,オゾン濃度が400ppm以上(好ましくは450ppm以上)であることを意味する。酸素を放電方式オゾン発生器に通気することにより,オゾンを発生させて基材を保持する環境に供給することにより,オゾン雰囲気とすることができる。酸素雰囲気中でもUV照射によりオゾンは発生するが,オゾン雰囲気中でUV照射することにより,基材表面上にケミカルシフトを生じたC-C結合及び/又はC-H結合が増加することから,好ましくは,オゾン雰囲気中(酸素及びオゾン雰囲気中を含む)でUVを照射する。
【0030】
UV照射工程は,基材表面にケミカルシフトを生じたC-C結合及び/又はC-H結合を導入することに加え,基材表面の水接触角を減少させて親水性を付与する。また,カルボキシ基は,基材表面を親水性にするものの反応性が高いことから細胞培養には適さないが,本発明のUV照射工程は基材表面にほとんどカルボキシ基を導入しないことから,細胞培養に適した親水性表面を提供する。
【0031】
(2)プラズマ照射工程
プラズマ照射工程に用いられるプラズマ発生源としては,特に限定されるものではないが,水素,ヘリウム,希ガス,酸素,窒素,ハロゲン,アンモニア,二酸化炭素,水蒸気,又はこれらの任意の2種類以上のガスの混合ガスを挙げることができる。プラズマ照射は,1又は複数回行うことができる。供給ガスの圧力は,0.001~10MPa,0.01~1MPa,0.05~0.15MPa,又は0.1~0.2MPaとすることができる。プラズマ照射1回当りの供給ガス流量は,任意の流量とすることができるが,例えば,安定的にプラズマを発生させるために,2~30L/分,3~20L/分,5~15L/分,8~12L/分,又は10L/分とすることができる。プラズマ照射口と基材表面との距離は,1~30mm,3~20mm,5~15mm,8~12mm,又は10mmとすることができる。また,プラズマ照射時間は,1~500秒であってもよく,例えば,2~300秒,3~200秒,又は5~160秒とすることができる。
【0032】
(3)アンモニア溶液塗布工程
本発明の製造方法は,UV照射前にアンモニア溶液を塗布する工程を含んでいてもよい。アンモニア溶液の塗布は,基材の細胞担持面にアンモニア(NH)を含有する液体を接触させることにより行うことができる。アンモニアは水,PBS,培地などの液体に溶解させて,アンモニア溶液として塗布することができる。アンモニア溶液の濃度は特に限定されるものではないが,1~50%,5~40%,10~30%とすることができる。アンモニアは揮発性であるため,アンモニア塗布の後,速やかにUV/プラズマ処理行うことが望ましい。
【0033】
2.細胞担持用基材を用いた細胞培養方法
一態様において,本発明は接着性細胞の培養方法であって,上述の細胞培養容器の細胞担持面上で細胞を培養することを含む培養方法に関する。細胞の培養は,通常,細胞培養容器に培地を添加すること,当該培地中に所望の細胞を播種すること,及び,当該培地と細胞との混合物をインキュベータ(通常は,5%CO,37℃)内で静置することにより行うことができる。培養は,細胞が接着するまでの期間又は細胞が所望の数まで分裂するまでの期間行うことができ,例えば,数時間~数週間行うことができる。培養が長期間の場合,必要に応じて培地交換することが望ましい。
【0034】
本明細書における細胞の培養方法において,使用する「培地」は,当業者に知られた培地の中から使用する細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば,幹細胞(例えば,iPS細胞)を培養する場合,間葉系細胞用DMEM,間葉系細胞用MSCBM,EC細胞用培地,間葉系細胞用培地,ES細胞用培地,iPS細胞用培地,幹細胞用の培地,iSTEM,Cellartis(登録商標) DEF-CS 500 Xeno-Free Culture Medium,GS2-M(登録商標),GS1-R(登録商標)(以上,タカラバイオ株式会社),Poweredby10,Plusoid-M,G031101,M061101,SODATT201(以上,株式会社グライコテクニカ),ReproFF2,ReproNaive,RCHEMD001,RCHEMD001A,RCHEMD001B,ReproStem,ReproXF,ReproFF2,ReproFF,NutriStem(以上,株式会社リプロセル),StemFit(登録商標)AK02N等のStem fit培地(AJINOMOTO)を使用することができる。
【0035】
本明細書における細胞の培養方法において,培養する接着性細胞は特に限定されるものではないが,好ましくは幹細胞(iPS細胞を含む)である。幹細胞は,本発明の培養方法を用いることにより,フィーダー細胞及び細胞外基質タンパク質コーティング(ラミニン,マトリゲル(登録商標)等)非存在下又は従来より低濃度の細胞外基質タンパク質コーティングにおいても培養することができることから,生体由来材料を用いることによる安定性の低下やロット差による結果の違い,又はコンタミネーションを生じにくい。また,本発明に細胞培養方法により幹細胞を培養する場合,幹細胞としての性質(分化能,及び自己増殖能)を維持することができる。よって,本発明の細胞培養方法は,生体由来材料を用いることなく,幹細胞を培養することができることから,より安定的に安全な再生医療材料を調製することができる。
【0036】
例えば,本発明の培養方法は,上述の細胞培養容器の細胞担持面上で細胞を培養することを含む培養方法であって,フィーダー細胞の非存在下で培養することを特徴とする培養方法であってもよい。また,本発明の培養方法は,表面未処理の前記非フッ素系樹脂を主成分とする基材において幹細胞を接着させるために通常必要なマトリゲル(登録商標)の濃度の0.2倍以上1倍未満(例えば,0.2倍~0.9倍,0.2倍~0.8倍,0.2倍~0.7倍,0.2倍~0.6倍,0.2倍~0.5倍,0.2倍~0.4倍,0.2倍~0.3倍,0.2倍,0.3倍~0.9倍,0.3倍~0.8倍,0.3倍~0.7倍,0.3倍~0.6倍,0.3倍~0.5倍,0.3倍~0.4倍,0.3倍,0.4倍~0.9倍,0.4倍~0.8倍,0.4倍~0.7倍,0.4倍~0.6倍,0.4倍~0.5倍,0.4倍,0.5倍~0.9倍,0.5倍~0.8倍,0.5倍~0.7倍,0.5倍~0.6倍,又は0.5倍)の濃度のマトリゲル(登録商標)存在下で培養することを特徴とする,前記培養方法であってもよい。本明細書において,「表面未処理の前記非フッ素系樹脂を主成分とする基材」とは,表面が当該基材の主成分である前記非フッ素系樹脂のみからなる基材を意味する。また,本明細書において,表面未処理の前記非フッ素系樹脂を主成分とする基材において幹細胞を接着させるために通常必要なマトリゲル(登録商標)の濃度のマトリゲル(登録商標)(1倍)とは,マトリゲル(登録商標)Growth factor reduced(Corning)170μlに対してDMEM-F12培地(Life Technologies)10mlの割合でとかし,培養皿表面を常温1時間でコーティングしたものを意味する。
【0037】
更に,本発明の培養方法は,表面未処理の前記非フッ素系樹脂を主成分とする基材において幹細胞を接着させるために通常必要なラミニンの濃度の0.2倍以上1倍未満(例えば,0.2倍~0.9倍,0.2倍~0.8倍,0.2倍~0.7倍,0.2倍~0.6倍,0.2倍~0.5倍,0.2倍~0.4倍,0.2倍~0.3倍,0.2倍,0.3倍~0.9倍,0.3倍~0.8倍,0.3倍~0.7倍,0.3倍~0.6倍,0.3倍~0.5倍,0.3倍~0.4倍,0.3倍,0.4倍~0.9倍,0.4倍~0.8倍,0.4倍~0.7倍,0.4倍~0.6倍,0.4倍~0.5倍,0.4倍,0.5倍~0.9倍,0.5倍~0.8倍,0.5倍~0.7倍,0.5倍~0.6倍,又は0.5倍)の濃度のラミニン存在下で培養することを特徴とする,前記培養方法であってもよい。本明細書において表面未処理の前記非フッ素系樹脂を主成分とする基材において幹細胞を接着させるために通常必要なラミニンの濃度(1倍)とは,最終的に0.5μg/cmになるように,iMatrix(1μg/μl)をPBS希釈した後,37℃,5%COインキュベータで1時間インキュベートしコートしたものを意味する。また,本明細書において,ラミニンは,代表的にはラミニン511E8である。
【0038】
本発明にかかる細胞担持用基材表面改質装置の一実施例を添付図面に基づいて説明する。図13は,一つの格納部8からなる本発明にかかる細胞担持用基材表面改質装置の構成図である。窒素ガス供給路1から供給された窒素ガスは,高周波電源4と接続した高周波コイル3を有するプラズマ発生部2によりプラズマに変換され,窒素プラズマとして細胞担持用基材9に照射される。一方,紫外線発生部6において発生した紫外線11は,直接又は放物面ミラー5により反射して細胞担持用基材9に照射される。細胞担持用基材表面改質装置は更に,細胞担持用基材9を出し入れするバルブ7,及び酸素又はオゾンガス注入口10を備える。また,図には示されていないが,本実施態様の細胞担持用基材表面改質装置は加湿手段を備える。バルブ7より挿入された細胞担持用基材は,プラズマ発生部2から照射されるプラズマ及び紫外線発生部6より照射される紫外線により表面が改質される。
【0039】
図14は,格納部14,格納部15,格納部16,及び格納部17の複数の格納部を有し,プラズマ処理及び紫外線処理がそれぞれ異なる格納部で行われる本発明にかかる細胞担持用基材表面改質装置の構成図である。細胞担持用基材設置部18に設置された細胞担持用基材9は,基材輸送機構12及び基材輸送機構13により,格納部14,格納部15,格納部16,格納部17に輸送される。格納部14,格納部15,格納部16,格納部17は,それぞれ,図15に記載の紫外線処理用の格納部,又は図16に記載のプラズマ処理用の格納部のいずれかの構成を有する。なお,格納部14,格納部15,格納部16,及び格納部17のうち,少なくとも1つは紫外線処理用の格納部であり,少なくとも一つはプラズマ処理用の格納部である。格納部14,格納部15,格納部16,格納部17に輸送された細胞担持用基材9は,各格納部に設置された紫外線発生部からの紫外線照射又はプラズマ照射部によるプラズマ照射により,その表面が改質される。
【0040】
図15は,図14に記載の細胞担持用基材表面改質装置における格納部のうち,紫外線処理用格納部19の構成図である。紫外線発生部6において発生した紫外線は,直接又は放物面ミラー5により反射して細胞担持用基材9に照射される。紫外線処理用格納部19は,細胞担持用基材9を出し入れするバルブ7,及び酸素又はオゾンガス注入口10を備える。また,図には示されていないが,紫外線処理用格納部19は加湿手段を備える。
【0041】
図16は,図14に記載の細胞担持用基材表面改質装置における格納部のうち,プラズマ処理用格納部20の構成図である。窒素ガス供給路1から供給された窒素ガスは,高周波電源4と接続した高周波コイル3を有するプラズマ発生部2によりプラズマに変換され,窒素プラズマとして細胞担持用基材9に照射される。一方,細胞担持用基材表面改質装置は更に,細胞担持用基材9を出し入れするバルブ7を備える。
【実施例
【0042】
以下,実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが,本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお,本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0043】
(実施例1)UV/ozone・大気圧プラズマ複合改質処理
(1)UV/ozone表面改質
UV/ozone表面改質は,ozone発生UV曝露装置(細胞アレイヤー,EKBIO-1100,荏原実業)を用いて実施した(図1)。装置内部には波長が185nm及び254nmの2種類のUVを照射できる低圧水銀ランプが2本設置されている。また,本装置には酸素ボンベから装置内に酸素を充填する酸素パージが可能であり,UVを照射する前に槽内の空気を除去して酸素で充たすことができる。酸素への紫外線の照射により,酸素分子が乖離し,培養基材表面にオゾン及び活性酸素が生成することで基材表面への酸素原子の導入が可能となる。本実施例では,酸素供給圧力0.1MPa,供給流量4L/min,パージ時間5minによる酸素パージを実施,槽内の雰囲気温度及び加湿槽の水温は共に25℃に設定している。また,UVの照射距離は40mmで一定とした。
【0044】
(2)大気圧プラズマ表面処理
大気圧プラズマ表面処理は,ペン型大気圧プラズマ装置を用いて実施した。プラズマ発生源として窒素ガス(N)を用い,大気圧低温プラズマを生成することで処理対象物に対して熱,電荷ダメージを与えずに窒素原子を導入する表面改質を実施することができる。本実施例では,窒素ガス供給圧力0.1~0.2MPa,供給流量10L/minとし,照射距離は10mmで一定とした。
【0045】
(3)UV/ozone・大気圧プラズマ複合改質処理による培養基材の作製
本実施例では,直径60mmのポリスチレン製細胞用培養ディッシュ(430589,Corning)を用いた。表面改質はUV/ozone表面改質の単独改質処理ではUVを1分,3分,又は10分間照射した試料を用意した。また,大気圧プラズマ処理の単独改質処理ではプラズマを5秒,40秒,160秒間照射した試料を用意した。また,control群として表面改質を施していない未処理の試料も用意した。UV/ozone表面改質と大気圧プラズマ処理を複合プロセス化して施した試料として,上記のUV照射時間のUV/ozone表面改質とプラズマ照射時間の大気圧プラズマ処理を,UV/ozone表面改質と大気圧プラズマ処理の順番を前後で入れ替えて実施した。詳細な改質条件を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
(実施例2)XPS分析
実施例1において作製した試料について,XPSによる表面分子構造の分析を実施して,本発明による表面改質が表面性状の改質に与える効果を検討した。各ディッシュから8mm各のプレートを切り出して,光電子分光装置(日本電子株式会社,JPS-9010)を用いて表面分析を行った。各試料を試料台に貼付し,試料台を準備室に入れて真空引きを行った後,試料台を測定室に挿入した。本分析で使用する試料はポリスチレン製であるため,構成元素は炭素及び酸素である(水素も構成元素ではあるが,水素は電子が1個しか存在しないので,XPSでは測定ができない)。従って,本分析では,ワイドスキャンは行わず,炭素の1s軌道の電子のナロースキャンスペクトルを取得した。X線はAlKa線(1486.6eV)を用い,炭素のナロースキャンの測定範囲は294.0~280.0eVとした.また,ステップ幅は0.1eV,積算回数は10回とした。スペクトルを取得後,ステップ数5でスムージングによるスペクトルの平滑化を行った。非弾性散乱した電子やノイズが原因で発生するスペクトルのバックグラウンドの除去は,シャーリーバックグラウンド除去を利用して行った。スペクトルの波形分離は,成分波形をガウス-ローレンツ関数の正規分布型の関数で近似して行った。
【0048】
Control群の試料のワイドスキャンスペクトルを図2に,C(1s)のナロースキャンスペクトルを図3に示す。処理試料のC(1s)のナロースキャンスペクトル及び波形分離を図4図6に示す。各表面改質処理を単独で施した試料群の分析におけるO(1s)のナロースキャンスペクトルを図6に示す。また,大気圧プラズマ処理を単独で施した試料群の分析におけるN(1s)のナロースキャンスペクトルを図7に示す。さらに,図8にUV照射3minとプラズマ照射40sの複合処理を施した試料のC(1s)のナロースキャンスペクトルを,図9に,UV照射10minとプラズマ照射160sの複合処理を施した試料のC(1s)のナロースキャンスペクトルを示す。
【0049】
UV/ozone表面改質を施した試料ではUVの照射時間の増加に伴って酸素の発現量も増加した(図6)。また,UVの照射時間が短いときはカルボキシ基(COOH)のみが発現し,UVの照射時間が長いときはCOOHに加えて炭素と酸素の単結合(C-O)が発現することが分かった(図4)。以上の結果より,UV/ozone表面改質では,UV照射時間の増加に伴ってCOOH,C-Oの順で官能基が導入されることが示された。
【0050】
次に,大気圧プラズマ処理を施した試料ではcontrol群と比較して酸素の発現量が増加し,プラズマ照射時間の増加に伴い酸素の発現量の増加が認められた(図6)。また,プラズマ照射時間が増加すると窒素の発現量の増加も認められた(図7)。一方,プラズマ照射時間5sの試料からはポリスチレン由来の結合以外の結合状態は観測されなかったが,照射時間40sの試料からは炭素と窒素の単結合(C-N)が,照射時間160sの試料からはC-N結合とカルボキシ基が観測された(図5C)。さらに,プラズマ照射時間の増加に伴ってC-N結合の発現量の増加が認められた(図5)。以上の結果より,大気圧プラズマ処理ではプラズマ照射時間が増加するとC-N結合の発現量が増加し,照射時間が長くなるとカルボキシ基が導入されることが示唆された。
【0051】
最後に,UV/ozone表面改質と大気圧プラズマ処理を複合プロセス化して施した試料群では,全ての処理条件で酸素を含む官能基として-COOHが認められた(図8及び図9)。一方,窒素を含む官能基については,UV/ozone表面改質を先に施した試料からはイミノ基(C=N)が,大気圧プラズマ処理を先に施した試料からはアミド結合(NH-C=O)が認められた(図8図9)。また,大気圧プラズマ処理を先に施した試料の方がUV/ozone表面改質を先に施した試料よりも窒素を含む官能基の発現量が多く,大気圧プラズマ処理を先に施した試料からはC=NとNH-C=Oの両方が,UV/ozone表面改質を先に施した試料からはC=Nのみが認められた(図8図9)。以上の結果より,UV/ozone表面改質と大気圧プラズマ処理の複合処理において,UV照射を先に行った場合はC=Nが形成されやすく,プラズマ照射を先に行った場合はNH-C=Oが形成されやすいことが示唆された。なお,イミド基,アミド基はUV/ozone単独,プラズマ単独では形成し得ず,本発明の実施によって初めて培養基材上に生成可能であった。
【0052】
(実施例3)細胞培養
(1)細胞
細胞はマウスES細胞株2種,マウスiPS細胞株1種で実施した。マウスES細胞はES-B3株とES-D3株を用いた。ES-B3株は,培養にフィーダー細胞を必要としない株化細胞である。ES-B3株は,未分化状態を示すマーカーであるOct3/4遺伝子の片方がires-blasticidin S耐性遺伝子と置換されているため,Oct3/4遺伝子の転写活性によってblasticidin S耐性遺伝子を発現する。このため,ヌクレオシド系抗生物質であるBlasticidin S存在下で培養することで分化した細胞はBlasticidin Sにより死滅し,未分化形態のES細胞のみを純化培養することが可能となる。ES-D3株は研究実施例が多く,多能性が分化誘導試験で十分に担保されているES細胞株である。ES-D3株は,培養にフィーダー細胞が必要である。多能性幹細胞としてマウスiPS細胞株での培養試験も実施するため,理研セルバンク提供のAPS0001株を用いた。本細胞株は未分化マーカーであるNanogのプロモーターの制御下にGFP遺伝子が導入されており,未分化形態の細胞を蛍光顕微鏡で識別可能である。
【0053】
(2)培養方法
マウスES細胞はB3株およびD3株を用いた。ES-B3株はグラスゴー最少必須培地(Glasgow Modified Minimum Essential Medium,GMEM)に,濃度10%仔ウシ胎児血清(Fetal bovine Serum,FBS),1%抗菌-抗生物質(Antibiotic-Antimycotic),0.1mM必須アミノ酸(Non Essential Amino Acid,NEAA),1mMピルビン酸ナトリウム(Sodium pyruvate),,0.1mMメルカプトエタノール(2-mercaptoethanol,2ME)を添加した溶液を基礎培養液として,1000μg/ml blasticidin S,1000U/ml白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor,LIF)を添加した培地にて培養を行った。ES-D3株はダルベッコ変法イーグル培地(高グルコース)(Dulbecco’s Modified Eagle Medium high-glucose:DMEM high-glucose)に,濃度15%仔ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum:FBS),1%抗菌-抗生物質(Antibiotic-Antimycotic),0.1mM必須アミノ酸(Non Essential Amino Acid:NEAA),0.1mMメルカプトエタノール(2-mercaptoethanol:2ME)を添加した溶液を基礎培養液として,1000μg/ml blasticidin S,1000U/ml白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor,LIF)を添加した培地にて培養を行った。マウスiPS細胞はiPS-MEF-Ng-20D-17株(APS0001理研セルバンク)を用い,ダルベッコ変法イーグル培地(高グルコース)(Dulbecco’s Modified Eagle Medium high-glucose:DMEM high-glucose)に,濃度15%仔ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum:FBS),1%抗菌-抗生物質(Antibiotic-Antimycotic),0.1mM 必須アミノ酸(Non Essential Amino Acid:NEAA),0.1mMメルカプトエタノール(2-mercaptoethanol:2ME)を添加した溶液を基礎培養液として,1000μg/ml blasticidin S,1000U/ml白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor,LIF)を添加した培地にて培養を行った.培養基材は,ES-B3株では未処理のポリスチレン製培養ディッシュ(control),UV/ozone単独10min,プラズマ単独10s,40s,それぞれの改質処理を前後に順を変えて連続的に実施する複合プロセス処理を施したポリスチレン製培養ディッシュを用いた。ES-D3株では未処理の基材(control),UV/ozone単独10min,プラズマ単独10s,それぞれの改質処理を前後に順を変えて連続的に実施する複合プロセス処理を施したポリスチレン製培養ディッシュを用いた。
【0054】
マウスiPS細胞の培養ではフィーダー細胞を播種したポリスチレン製培養ディッシュ,UV/ozone 3m処理した後にプラズマ14sを施したポリスチレン製培養ディッシュ,未処理のポリスチレン製培養ディッシュを用いた。培養期間は細胞播種後72時間として,細胞の接着および増殖性の評価は倒立型位相差顕微鏡(CKX41,オリンパス社)に備え付けた顕微鏡用デジタルカメラ(DP73,オリンパス社)にて倍率100倍で顕微鏡像を撮像することで行った。マウスiPS細胞の培養ではNanogマーカーの発現を落射蛍光管を備えた倒立型位相差顕微鏡(CKX41,オリンパス社)でB励起の下で緑色蛍光を確認することで行った。また,細胞数は細胞播種72時間後に接着細胞のすべてを0.25%トリプシンではく離回収して,総DNA量を定量することで行った。総DNA量は細胞数と比例の関係があることから細胞数の定量評価が可能となる。回収した細胞懸濁液は,蛍光分光光度計(Qubit(登録商標)2.0 Fluorometer,Life Technologies 社)および付属のQubit Buffer,Qubit Reagentを用いて,試料内に含有される総DNA量を定量した。
【0055】
(3)結果
ES-D3株の培養ではcontrolおよび単独処理群と比較して,複合プロセスを施した群で高い細胞接着性を示した。特にUV/ozone改質を施した直後に窒素プラズマ処理を施す複合プロセスにおいて良好な細胞接着性を示した(図10)。ES-D3株の培養では,プラズマ単独(10s,40s),UV単独改質処理基材上での培養と比較して,UV/ozone改質を施した直後に窒素プラズマ処理を施す複合プロセスで,他の処理群と比較して良好な細胞接着性を示した。また,基材上の細胞数を示す指標である総DNA含有量もUV/ozone改質を施した直後に窒素プラズマ処理を施した試料群が有意に細胞数が多いことが認められた(図11)。マウスiPS細胞の培養においても,良好な複合プロセスにより細胞接着性が向上し,さらに未分化マーカーであるNanogをプロモーターとしてGFP発現が蛍光顕微鏡観察により認められた(図12)ことから,本発明による改質処理が多能性幹細胞の多能性を維持することも示された。
【0056】
(実施例4)複合表面改質アンモニウム処理
(1)表面改質処理
直径35mmのポリスチレン製組織培養用ディッシュ(#3000-035,AGCテクノグラス)を用いた。まず,培養機材を表面改質装置内に設置した後,28%アンモニア水(#02511-05,ナカライテスク)180μlを基材中心に滴下した。次に,装置の扉を素早く閉め,直ちにUVランプとプラズマ発生装置の電源を入れ,表面改質を開始した。改質開始30秒後にUVランプの電源を切り,改質開始60秒後にプラズマ装置の電源を切って,表面改質を終了した。
【0057】
(2)ヒトiPS細胞253G4株(Nakagawa Mら,Nat Biotechnol.26(1):101-6(2008))を(1)で調製したポリスチレンディッシュ中の,推奨使用量の0.2倍のマトリゲル又は推奨使用量の0.3倍のラミニンを添加したStem fit培地(AJINOMOTO)(Scientific Reports 4, Article number: 3594 (2014)doi:10.1038/srep03594)(Y27364含有)に7.0×10細胞/ディッシュで播種した。37℃,5%CO,湿度100%の条件下で,3日間培養した。コントロールとして,それぞれ,推奨使用量のマトリゲル又はラミニンを用いて表面改質していないディッシュで同様に培養を行った。培養後,非接着細胞を除去し,ViCellにより細胞数をカウントすることにより接着細胞数を評価した。
【0058】
(3)結果
結果を図17~19に示す。UV/プラズマ表面処理前にアンモニア水を塗布することにより,推奨量の0.3倍のラミニン使用で,推奨量のラミニン濃度添加群と同等の細胞増殖が確認された。また,UV/プラズマ表面処理前にアンモニア水を塗布することにより,推奨量の0.2倍のマトリゲル濃度でも,推奨量のマトリゲル濃度添加群を超える細胞増殖が見られた。このアンモニア水塗布群の細胞増殖は,同量のラミニン/マトリゲルを添加したUV/プラズマ表面処理群よりも更に亢進していた。これらの結果から,UV/プラズマ表面処理前のアンモニア水塗布は,UV/プラズマ表面によるiPS細胞増殖能の向上を更に高めることが示された。
【符号の説明】
【0059】
1 窒素ガス供給路
2 プラズマ発生部
3 高周波コイル
4 高周波電源
5 放物面ミラー
6 紫外線発生部
7 バルブ
8 格納部
9 細胞担持用基材
10 オゾンガス注入口
11 紫外線
12 基材輸送機構
13 基材輸送機構
14~17 格納部
18 細胞担持用基材設置部
19 紫外線処理用格納部
20 プラズマ処理用格納部
図1
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