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特許7198022燃料電池車搭載用高圧水素貯蔵用タンクおよびその製造方法
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  • 特許-燃料電池車搭載用高圧水素貯蔵用タンクおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】燃料電池車搭載用高圧水素貯蔵用タンクおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20221221BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20221221BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20221221BHJP
   C08L 63/02 20060101ALI20221221BHJP
   C08G 59/24 20060101ALI20221221BHJP
   C08G 59/44 20060101ALI20221221BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
F17C1/06
F16J12/00 A
C08L51/04
C08L63/02
C08G59/24
C08G59/44
B32B27/38
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018182064
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020051538
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】中西 哲也
(72)【発明者】
【氏名】三宅 力
(72)【発明者】
【氏名】稲生 隆嗣
(72)【発明者】
【氏名】林 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉田 浩昭
(72)【発明者】
【氏名】高見 昌宜
(72)【発明者】
【氏名】上田 直樹
【審査官】佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/099060(WO,A1)
【文献】特開2018-100768(JP,A)
【文献】特開2011-157491(JP,A)
【文献】特開2011-089071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-13/12
C08G 59/00-59/72
B29C 70/32
F16J 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉可能なプラスチック製の中空容器の外表面に補強層を備えた燃料電池車搭載用の高圧水素タンクであって、
前記補強層は、前記中空容器の外表面に、熱硬化性樹脂組成物(A)と炭素繊維束(B)の重量比(A):(B)が20~30:80~70であるテープ状のプリプレグが巻き付けられて形成されたプリプレグ層を、140℃以上の温度で硬化させて形成した層であり、
前記熱硬化性樹脂組成物(A)は、下記成分(A-1)、(A-2)、(A-3)及び(A-4)の4成分を必須成分として含み、前記4成分の合計を100重量部としたとき、それぞれの配合比(重量比)が(A-1)/(A-2)/(A-3)/(A-4)として、80.0~85.0/4.5~5.5/2.5~3.5/9.0~11.0であること、かつ固体成分である(A-2)及び(A-3)が熱硬化性組成物中に分散され、25μm以上の凝集物又は固形分を含まないこと、
(A-1)液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂20~15重量部に対し、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂80~85重量部から構成され、25℃における粘度が4000~8000mPa・sである液状エポキシ樹脂
(A-2)ジシアンジアミド
(A-3)下記式(1)および/または(2)で表される硬化促進剤、
【化1】
(A-4)粒子状のコアシェル型ゴム、及び、
前記炭素繊維束(B)は、1万~5万本の平均直径が5~8μmである炭素繊維から構成されることを特徴とする高圧水素タンク。
【請求項2】
密閉可能なプラスチック製中空容器の外表面に補強層を備えた燃料電池車搭載用高圧水素タンクの製造方法であって、前記中空容器の外表面に、あらかじめ硬化前の熱硬化性樹脂組成物(A)が炭素繊維束(B)に、(A)20~30重量%、(B)80~70重量%の比率で含浸されたテープ状のプリプレグを巻き付けた後に、140℃以上の温度で硬化、固定化して補強層を形成し、前記補強層を構成する熱硬化性樹脂組成物(A)および炭素繊維束(B)が下記要件を満足することを特徴とする燃料電池車搭載用高圧水素タンクの製造方法。
(A)下記(A-1)、(A-2)、(A-3)、(A-4)の4種の必須成分からなり、(A-1)/(A-2)/(A-3)/(A-4)の配合比が80.0~85.0/4.5~5.5/2.5~3.5/9.0~11.0(重量%、4成分の配合比合計が100重量%)であり、かつ固体成分である(A-2)、(A-3)を組成物中に分散する工程を含み、25μm以上の凝集物を含まないように固形分が分散された熱硬化性樹脂組成物、
(A-1)液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂および液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂から構成され、その混合比がビスフェノールA型エポキシ樹脂20~15重量部、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が80~85重量部であり、25℃における粘度が4000~8000mPa・sであるエポキシ樹脂
(A-2)ジシアンジアミド
(A-3)化合物(1)および/または(2)
【化2】

(A4)粒子状のコアシェル型ゴム、
(B)炭素繊維の平均直径が5~8μmであり、1万~5万本の前記炭素繊維から構成される炭素繊維束。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉可能なプラスチック製中空容器の外表面に炭素繊維強化複合材料からなる補強層を備えた燃料電池車搭載用高圧水素貯蔵用タンクおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的に温暖化対策が喫緊の課題となっており、自動車を中心とした輸送機器の化石エネルギー消費削減に向けた解決策の一つとして、水素をエネルギー源として利用する燃料電池を搭載した車両が実用化されている。
【0003】
燃料電池を用いて車両の動力源となる電気を生み出すためには、移動する車両内に水素を搭載することが必須となる。水素は高圧で圧縮すればするほど多量に搭載することが可能となり、車両の走行距離に大きな影響を与える。
【0004】
圧縮水素を貯蔵する車載用の高圧水素タンクは、車両の走行距離を延ばすためにできるだけ軽量な材料を用いることが望ましく、その構成は最内層にガスバリア性を有したプラスチック製中空容器(ライナー)を有し、その外表面を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で補強する手段が一般に採用されている。
【0005】
高圧水素を貯蔵するタンクにおいては、その安全性のために、タンクの破裂に至る最大圧力と繰返し充填の際に受ける繰返し疲労への耐性が求められ、特に繰返し疲労への耐性は、車載用の水素貯蔵タンクに求められる最も重要な特性である。
【0006】
また、CFRPで補強された高圧水素タンクの製法としては、中空容器状に成形したライナーの周囲に樹脂および硬化剤等を含有する樹脂組成物を含浸させテープ状とした炭素繊維(CF)/樹脂組成物複合体を巻き付け、補強層を形成した後に樹脂組成物を加熱等の手段により硬化させCFRPタンクを製造する技術(フィラメントワインディング法)が知られている。炭素繊維は繊維方向の強度と剛性が高く、各種角度で巻き付けを行うことで、高圧水素充填時の内圧に耐え得る強度のタンクを形成することが可能となる。
【0007】
CFRPタンクを製造する技術としては、前述のフィラメントワインディング法において、炭素繊維束に硬化前の樹脂組成物を含浸しながら一気通貫でライナーに巻き付ける工法(ウェット工法)と、あらかじめ硬化前の樹脂組成物を炭素繊維束に含浸したテープ状のプリプレグ(トゥプリプレグ)を作成した後に、別工程においてトゥプリプレグをライナーに巻き付ける工法(ドライ工法)に大別される。
【0008】
ウエット工法は工程が一気通貫のため簡便ではあるが、含浸と巻き付けが一つの工程になるため、巻き付け速度変化により含浸する樹脂量が不安定になることに加え、大量生産を目的に巻き付け速度を上げると樹脂の含浸不良や樹脂の飛び散りが発生するという問題がある。ドライ工法では、トゥプリプレグを作成する工程とライナーに巻き付ける工程が分離しているため、ウエット工法の問題点は避けられ、一般的には大量生産には後者の工法が品質の安定性の観点から優れている。但し、その一方でトゥプリプレグの貯蔵の安定性が求められる。
【0009】
高圧水素を貯蔵するCFRP製タンクを構成する材料については、例えば特許文献1には、補強繊維束内に局在させることなく熱硬化性樹脂に分散したエラストマー粒子及び/または熱可塑性樹脂微粒子を存在させることにより強度と耐熱性、ガス透過性を抑制した高圧ガスタンク、およびその製造方法が開示されている。本技術を用いるとマトリックス成分の破壊靭性値を高め、CFRPの強度を高めることにより、繰返し疲労に対する体制を向上させることが可能である一方で、本技術はウエット工法に対応したものであり、硬化剤として酸無水物が使用されており、ドライ工法においては、トゥプリプレグの冷凍保管、その後の解凍、また使用環境における水分の影響を受け、硬化物の品質安定性に欠けるため、大量生産においても品質安定性に優れるドライ工法に最適な材料が求められていた。
また、特許文献2には、補強繊維束に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、その表面近傍にエラストマー及び/または熱硬化性樹脂を偏在させたヤーンプリプレグを用いたガスボンベおよびその製造方法が開示されている。本技術も例示されている工法はウエット工法であり、ヤーンプリプレグの貯蔵安定性については何らの記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-63015号公報
【文献】特開平08-219386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような現状を鑑みてなされたものであり、トゥプリプレグを経由してフィラメントワインディング法(ドライ工法)で製造される高圧水素タンクおよびその製造方法を提供するものであり、トゥプリプレグの貯蔵、使用環境下での安定性を飛躍的に高め、生産性を向上させるとともに、繰返し疲労耐性を高めた車載用高圧水素貯蔵用タンクおよびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を重ね、トゥプリプレグの貯蔵安定性を高めるためには、固体の潜在性硬化剤および硬化促進剤を使用すること、また繰返し疲労耐性を高めるためには粒子状のコア/シェル型ゴムを用い、エポキシ樹脂との高度な組み合わせにおいて初めてそれぞれの特性を両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、密閉可能なプラスチック製の中空容器の外表面に補強層を備えた燃料電池車搭載用の高圧水素タンクであって、前記補強層は、前記中空容器の外表面に、樹脂組成物(A)と炭素繊維束(B)の重量比(A):(B)が20~30:80~70であるテープ状のプリプレグが巻き付けられて形成されたプリプレグ層を、140℃以上の温度で硬化させて形成した層であり、
前記熱硬化性樹脂組成物(A)は、下記成分(A-1)、(A-2)、(A-3)及び(A-4)の4成分を必須成分として含み、前記4成分の合計を100重量部としたとき、それぞれの配合比(重量比)が(A-1)/(A-2)/(A-3)/(A-4)として、80.0~85.0/4.5~5.5/2.5~3.5/9.0~11.0であること、かつ固体成分である(A-2)及び(A-3)が熱硬化性組成物中に分散され、25μm以上の凝集物又は固形分を含まないこと、
(A-1)液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂20~15重量部に対し、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂80~85重量部から構成され、25℃における粘度が4000~8000mPa・sである液状エポキシ樹脂
(A-2)ジシアンジアミド
(A-3)下記式(1)および/または(2)で表される硬化促進剤、
【化1】

(A-4)粒子状のコアシェル型ゴム、及び、前記炭素繊維束(B)は、1万~5万本の平均直径が5~8μmである炭素繊維から構成されることを特徴とする高圧水素タンクである。
【0014】
また、本発明は、密閉可能なプラスチック製中空容器の外表面に補強層を備えた燃料電池車搭載用高圧水素タンクの製造方法であって、前記中空容器の外表面に、あらかじめ硬化前の熱硬化性樹脂組成物(A)が炭素繊維束(B)に、(A)20~30重量%、(B)80~70重量%の比率で含浸されたテープ状のプリプレグを巻き付けた後に、140℃以上の温度で硬化、固定化して補強層を形成し、前記補強層を構成する熱硬化性樹脂組成物(A)および炭素繊維束(B)が上記要件を満足することを特徴とする燃料電池車搭載用高圧水素タンクの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トゥプリプレグの貯蔵安定性を飛躍的に高め、冷凍、冷蔵等の特別な条件下での保管、管理を不要とすることができる。加えて、繰返し疲労耐性に優れた高圧水素タンクの大量生産の安定性に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】高圧水素タンクの構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、熱硬化性樹脂組成物(A)は、その構成要素としてエポキシ樹脂(A-1)、潜在性硬化剤(A-2)、硬化促進剤を(A-3)、補強材を(A-4)を必須成分として含む。また本発明の高圧水素タンクにおける補強層は熱硬化性樹脂組成物(A)と炭素繊維束(B)からなる。以下、熱硬化性樹脂組成物(A)、エポキシ樹脂(A-1)、潜在性硬化剤(A-2)、硬化促進剤(A-3)、補強材(A-4)、炭素繊維束(B)をそれぞれ(A)成分、(A-1)成分、(A-2)成分、(A-3)成分、(A-4)成分、(B)成分ともいう。また(A)成分を(B)成分に含浸させテープ状としたプリプレグをトゥプリプレグともいう。
【0018】
まず、(A)成分の熱硬化性樹脂組成物について説明する。
【0019】
(A)成分を構成するエポキシ樹脂(A-1)は、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂および液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂の両者を含有し、その混合比がビスフェノールA型エポキシ樹脂20~15重量部、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が80~85重量部であり、25℃における粘度が4000mPa・s~8000mPa・sである。
この粘度は、25℃におけるE型粘度計(コーンプレートタイプ)を使用して測定した粘度である。(A-1)成分の粘度が4000mPa・s未満であるとトゥプリプレグ生産時の通糸時や巻き取り時の液だれを起こしやすく、またフィラメントワインディング時に巻きずれ等があり好ましくない。8000mPa・sを超える場合、炭素繊維への含浸時に十分に含浸することができず、またフィラメントワインディング時にボイドが発生し易くなる。好ましくは4000mPa・s~6000mPa・sである。
【0020】
(A)成分を構成する潜在性硬化剤(A-2)は、ジシアンジアミドである。ジシアンジアミドは熱分解温度が200℃以上である固形エポキシ樹脂硬化剤である。固形であることで、室温ではエポキシ樹脂にほとんど溶解しないが、100℃以上まで加熱すると溶解し、エポキシ基と反応するという特性を有することから、室温での保存安定性とコストに優れた潜在性硬化剤である。
【0021】
(A)成分を構成する硬化促進剤(A-3)は、式(1)で表される2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-S-トリアジンイソシアヌル酸付加物および/または式(2)で表される2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンである。これらは1種または2種以上を組合せて用いても良い。固形であり安定性に優れる。
【0022】
(A)成分を構成する補強材(A-4)は、架橋したエポキシ樹脂(A-1)に不溶のゴム粒子の表面を非ゴム成分で被覆したコアシェル構造を有するゴム粒子である。この場合、被覆する非ゴム成分はポリメタクリル酸メチルのようにエポキシ樹脂に溶解、あるいは膨潤するものでもよく、むしろ粒子のエポキシ樹脂中への分散が良好になるため好ましい。エポキシ樹脂不溶のコアシェル構造を有するゴム粒子を用いる利点は、樹脂硬化物の耐熱性への影響が小さいことである。
【0023】
コアシェル型のゴム成分の添加には、靱性の向上効果に加えて、プリプレグのタック性の向上効果があり、平均粒子径が体積平均粒子径で1~500nmであることが好ましく、3~300nmであればさらに好ましい。
【0024】
(A)成分を構成する上記(A-1)から(A-4)成分の配合比は(A-1)/(A-2)/(A-3)/(A-4)=80.0~85.0/4.5~5.5/2.5~3.5/9.0~11.0(重量%、4成分の配合比合計が100重量%)であることが必要である。(A-2)成分、(A-3)成分の比率が上記から外れると硬化が不十分となったり、硬化物の耐熱性が低下したりする。(A-4)成分の比率が上記範囲以下の場合は疲労耐性に影響を与える破壊靭性値が低下し、上記範囲以上では剛性と耐熱性が低下する。
【0025】
(A)成分は、構成する(A-1)から(A-4)の各成分を均一に混合することにより製造される。原料の混合は公知慣用の方法により混合できる。たとえば自転公転式遠心撹拌装置を用いてもよいし、ディスパーなどで分散してもよく、ロール分散を行ってもよい。他の方法でもよいし、これらを組み合わせてもよい。ただし、温度が高くなる場合は、硬化剤等が一部エポキシ樹脂中に溶解することがあり、貯蔵安定性が悪化することがあるため、混練温度は、50℃以下、好ましくは40℃以下の条件で混合することが良い。
【0026】
(A)成分は混合後に固体である(A-2)成分と(A-3)成分が凝集物を含んでいないことが必要である。凝集物は炭素繊維の直径の5倍以上になると、疲労特性に与える影響が大きくなるため、25μm以上の凝集物を含まないことが必要である。固体成分の凝集物は含まれているとタンクの常温圧力サイクル試験において判定基準回数を満たさなくなる。なお、(A-4)成分も固形であるが、ゴム粒子を予めエポキシ樹脂に分散したマスターバッチを使用することにより、組成物中に良好に分散される。
【0027】
前記の(A)成分とともにトゥプリプレグを形成する炭素繊維束(B)は、炭素繊維の平均直径が5~8μmであり、1万~5万本の炭素繊維から構成されるものであればよい。恒長式番手でいえば、繊度500~3000TEXのものがよい。炭素繊維束はたとえば、東レ株式会社製T700SC-12000-50C(直径7μm、密度1.8g/cm3、繊度802TEX)、東レ株式会社製T720SC-36000-50C(直径6μm、密度1.8g/cm3、繊度1650TEX)などが挙げられるが、本発明においてはこれらに限定されるものではない。
【0028】
トゥプリプレグの製造方法は特に限定されない。例えば、加熱して低粘度化した(A)成分をロールや離型紙上にフィルム化し、次いで炭素繊維束(B)の片面、あるいは両面に転写したあと、屈曲ロールあるいは圧力ロールを通すことで加圧して含浸させる方法や、(A)成分を加熱により低粘度化し、通糸、開繊した(B)成分上に塗布させながら含浸、巻き取りを行う方法などで製造できる。
【0029】
例えば、上記後者のトゥプリプレグの製法では、通糸速度と樹脂の塗布量のバランスを取ることにより、所望の樹脂量を含有したトゥプリプレグの製造が可能となる。
【0030】
トゥプリプレグ中の(A)成分と(B)成分の比率は、(A)20~30重量%、(B)80~70重量%の比率であることが必要である。(A)成分の比率が20重量%未満では熱硬化性樹脂組成物が炭素繊維空隙を十分に埋めることができないため、炭素繊維間において力の伝達が起こり難くなり、初期破裂試験の判定基準の圧力を下回る。30重量%を超えると炭素繊維空隙を埋めるには十分であるが、タンク形成時に同一巻き数では炭素繊維量が不足し、初期破裂試験値が低下するか、それを補うために巻き数を増加するとコストアップをまねき、加えて軽量化効果も失われる。
【0031】
上記により得られたトゥプリプレグをフィラメントワインディング法により密閉可能なプラスチック製中空容器(ライナー)に巻き付ける。繊維強化プラスチック層は、フィラメントワインディング法(以下FW法)によって、トウプリプレグをライナーと口金に巻回されて形成されることが好ましい。ライナーへの巻き付け方法は公知のフープ巻、低角度、高角度のヘリカル巻き等を用いて巻回することが出来る。
【0032】
その後、140℃以上の温度で硬化、固定化することにより本発明の高圧水素タンクが得られる。硬化、固定化の温度が140℃未満では硬化時間が2時間以上必要となり、タンクの生産性が悪化する。硬化、固定化の温度の上限は、ライナーを構成するプラスチック材料の耐熱性により決定される。
【実施例
【0033】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0034】
熱硬化性樹脂組成物(A)の原料は、以下のとおりである。
(A-1)成分
・液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂:YDF-170(新日鉄住金化学株式会社製)
(エポキシ当量160~180g/eq,粘度2000mPa・s~5000mPa・s)
・液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂:(A-4)成分のエポキシマスターバッチ
(A-2)成分
・ジシアンジアミド:DICYANEX1400F(AIRPRODUCT社製)
(A-3)成分
・2MZA-PW(四国化成工業製) 2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-
メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン
・2MAOK-PW(四国化成工業製) 2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’
-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物
(A-4)成分
・MX-154(株式会社カネカ製):エポキシマスターバッチ
(コアシェルゴム配合量40wt%、BPA型エポキシ樹脂配合量60wt%、平均粒径
100nm、株式会社カネカ製)
その他硬化剤(A-2’)成分
・ジエチルメチルベンゼンジアミン:エタキュア100(Albemarle社製、室温液状)
【0035】
トゥプリプレグを得るために炭素繊維束(B)としては、以下の原料を用いた。
・T720SC-36000-50C:東レ株式会社製(直径6μm、密度1.8g/cm、本数36000、繊度1650TEX)
【0036】
トゥプリプレグの作成
既知のトゥプリプレグ作製装置を用い、上記原料を配合して得られた(A)成分を炭素繊維束(B)に、(A)成分の含有量を20~30wt%になるように塗布調整し作製する。
【0037】
高圧水素タンクの作成
最初に口金を取り付けたライナーを用意する。次に上記作製したトゥプリプレグをフィラメントワインディング法にて、ライナーにフープ巻、低角度、高角度のヘリカル巻きを用いて巻回する。
その後、トゥプリプレグを加熱炉にて硬化させる。加熱炉内にて加熱しエポキシ樹脂を熱硬化させ、ライナー外表面に補強層としての繊維強化プラスチック層を形成する。
【0038】
高圧水素タンクの構成
作製したタンクの構成を図1に示す。高圧タンク(10)は、最内層の樹脂製ライナー(12)、口金(14,16)、繊維強化プラスチック層(40) からなる。口金は、ライナーの長手方向の両端に設けられている。ライナーは、ナイロン系樹脂など水素ガスに対してバリア性の樹脂を成形して構成されている。強化プラスチック層(40)は、ライナーと口金の外表面に形成されている。繊維強化プラスチック層は、フィラメントワインディング法によって、トウプリプレグをライナーと口金に巻回されて形成されている。
【0039】
測定方法を以下に示す。
(1)硬化剤、硬化促進剤凝集物の有無:
JIS K 5600-2に準拠し、グラインドゲージ(粒度ゲージ)を用いて、25μm以上の固体の硬化剤、硬化促進剤の凝集物の存在の有無を評価した。
(2)トゥプリプレグの貯蔵安定性:
23℃、50%RHに調整された恒温恒湿槽に48時間保管したトゥプリプレグを用い、手触りにてタック性の有無を評価し、タックがあるものを○、無いものを×とした。
(3)高圧水素タンクの試験:
容器保安規則、国際圧縮水素自動車燃料装置用容器の技術基準の解釈に準じ、下記試験を行った。
初期破裂試験:判定基準 157.5MPa以上を合格(○)とし、未満を不合格(×)とした。
常温圧力サイクル試験2Ma⇔87.5MPa
判定基準:22000回以上 破裂無きことを合格(○)とし、未満を不合格(×)とした。
【0040】
配合例1
YDF-170の一部(3割)、DICYANEX、2MZA-PW、2MAOK-PWをディスパー(高速分散機)を用いて混合後に、3本ロールミルを用いて予備分散物(マスターバッチ)を作成した後、各成分が表1記載の材料、配合比となるよう残分(7割)のYDF-170、MX-154を投入し、50Lのプラネタリーミキサー(遊星式混練機)に投入し、上限温度が50℃を超えないように外部から水冷を行いながら、1時間混練し熱硬化性樹脂組成物(A-a)を得た。
【0041】
配合例2
YDF-170、エタキュア100、MX-154成分を表1記載の材料、配合比となるよう、50Lのプラネタリーミキサーに投入し、上限温度が50℃を超えないように外部から水冷を行いながら、1時間混練し熱硬化性樹脂組成物(A-b)を得た。
【0042】
実施例1
配合例1で得られた熱硬化性樹脂組成物(A-a)を炭素繊維束T720SC-36000-50Cに塗布、含浸させ、トゥプリプレグを得た後、フィラメントワインディング法により口金を取り付けたナイロン製ライナーに巻き付け、加熱炉に投入し、120℃60分+160℃60分硬化を行い、CFRP補強層を有する高圧水素タンクを得た。DICYANEXの中位粒径D50は2.5μm、2MZA-PWのD50は4.2μm、2MAOK-PWのD50は3.0μmであった。また得られたトゥプリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物(A-a)含有量は25重量%であった。
【0043】
実施例2
配合例1において、DICYANEX、2MZA-PW、2MAOK-PWの3種の成分を事前に混合した後、微粉砕した(D50が1.2μm)ものを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、トゥプリプレグ、高圧水素タンクを得た。
【0044】
比較例1
予備分散を行うことなく、表1の配合例1と同様の配合比にてプラネタリーミキサーのみで混練し、熱硬化性樹脂組成物(A)を得たこと以外は実施例1と同様の方法で、トゥプリプレグ、高圧水素タンクを得た。
【0045】
比較例2
熱硬化性樹脂組成物として、配合例2に記載の熱硬化性樹脂組成物(A-b)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、トゥプリプレグ、高圧水素タンクを得た。
【0046】
比較例3
硬化温度を130℃2時間としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて熱硬化性樹脂組成物(A)、トゥプリプレグ、高圧水素タンクを得た。
【0047】
比較例4
トゥプリプレグを製造する際に(A)成分の塗布、含浸量を調整し、(A)成分含有量を18重量%としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて高圧水素タンクを得た。
【0048】
比較例5
トゥプリプレグを製造する際に(A)成分の塗布、含浸量を調整し、(A)成分含有量を40重量%としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて高圧水素タンクを得た。
【0049】
実施例、比較例の各成分の配合比率を表1に示す。
【表1】
【0050】
実施例、比較例の評価結果を表2に示す。

【表2】
【0051】
参考例
原材料として用いる(A-1)成分のエポキシ樹脂は(A-4)成分に含有されるものも含まれるため、(A-4)成分として用いたMX-154に含まれている液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂と同等の分子量、分子量分布を有するYD-128を用いて実施例、比較例の(A-1)成分の粘度を測定した。測定には、E型粘度計(コーンプレートタイプ)を使用し、25℃における粘度を測定した。結果を表3に示す。

【表3】
図1