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特許7198031導電性ペースト用溶剤組成物、ビヒクル、および導電性ペースト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】導電性ペースト用溶剤組成物、ビヒクル、および導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20221221BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20221221BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20221221BHJP
   C07C 35/18 20060101ALN20221221BHJP
   C07C 35/17 20060101ALN20221221BHJP
   C07C 35/08 20060101ALN20221221BHJP
   C07C 69/68 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
H05K1/09 D
C07C35/18
C07C35/17
C07C35/08
C07C69/68
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018187324
(22)【出願日】2018-10-02
(65)【公開番号】P2020057691
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000117319
【氏名又は名称】ヤスハラケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085224
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 重隆
(72)【発明者】
【氏名】本田 絵里
(72)【発明者】
【氏名】高田 茂人
(72)【発明者】
【氏名】道田 実
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-143984(JP,A)
【文献】特開2017-165923(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168004(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/09
H01B 1/22
H01G 4/30
C07C 35/18
C07C 35/17
C07C 35/08
C07C 69/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)モノテルペンアルコールおよび/またはモノテルペン脂肪酸エステル、ならびに(B)乳酸アルキルエステルを含有する導電性ペースト用溶剤組成物であって、(A)成分がターピネオールまたはジヒドロターピネオールであり、(B)成分が乳酸エチルまたは乳酸ブチルである導電性ペースト用溶剤組成物
【請求項2】
さらに、(C)テルペン系炭化水素として、パラメンタンを含有する請求項1に記載の導電性ペースト用溶剤組成物。
【請求項3】
(A)~(C)の各成分の割合が、(A)、(B)、および(C)成分の合計100重量部に対して(A)10~90重量部、(B)5~70重量部、および(C)0~85重量部である、請求項1~のいずれかに記載の導電性ペースト用溶剤組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の導電性ペースト用溶剤組成物、およびバインダー樹脂を含有するビヒクル。
【請求項5】
バインダー樹脂がセルロース系樹脂、ブチラール樹脂、およびアクリル系樹脂の群から選ばれた少なくとも1種を含有する請求項記載のビヒクル。
【請求項6】
請求項または記載のビヒクル、および導電性粉末を含有する導電性ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板などの多層セラミック部品を製造する際に使用される導電性ペースト用溶剤組成物、この導電性ペースト用溶剤組成物にバインダー樹脂を配合したビヒクル、さらにこのビヒクルに導電性粉末を配合した導電性ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層セラミック部品は、キャリアフィルム上にドクターブレード法などにより誘電体ペーストを塗布してセラミックグリーンシートを形成し、そのシート上に導電性ペーストを印刷、乾燥することで内部電極を形成後、得られたシートを数十から数百層積み重ね同時焼成して得られるセラミック積層体に、外部電極を塗布、焼き付け加工して得られる。
【0003】
導電性ペーストとしては、銅、銀、金、白金、ニッケル、パラジウムなどの金属粉末などの導電性材料、エチルセルロース樹脂やアルキッド樹脂などのバインダー樹脂、およびターピネオール等の溶剤を混合かつ分散処理して得られたものが使用される。
【0004】
近年、各種情報機器の小型化、薄型化、高機能化に伴い、多層セラミック部品も更なる小型化、高容量化が求められており、それに対応するため積層1層当たりの厚みを薄くし、積層数を増やす手法が種々検討されている。
【0005】
ところが、積層の厚みが薄くなるほど、導電性ペースト中の溶剤がセラミックグリーンシートに含まれるポリビニルブチラール樹脂などの樹脂バインダーを溶かしてセラミックグリーンシートに皺や穴を生じるシートアタックと呼ばれる現象の影響が顕著となり、多層セラミック部品の性能低下を引き起こす。
【0006】
この問題を解決する方法として、特許文献1には水素添加テルピネオール、特許文献2にはイソボルニルアセテートおよび/またはノピルアセテート、特許文献3には水素添加テルピネオールアセテートなど、水素添加したテルペン類やテルペンとカルボン酸を反応させて得られるテルペン類のエステル化合物を使用する導電性ペースト用溶剤が提案されている。しかしながら、これらの溶剤は、ポリビニルブチラール樹脂に対する溶解性が依然として高く、完全にシートアタック現象を抑制することが困難であった。
【0007】
一方、このようなグリーンシートへの悪影響を少なくするため、溶剤の乾燥温度の低温度化が試みられ、また積層数増加による工程の長時間化を短縮するために、乾燥時間の短時間化が進められている。その結果、上記のような比較的沸点の高い溶剤では乾燥が不十分となり、内部電極中に残留した溶剤が焼成時に揮発して層間剥離やクラックなどの原因となるなどの問題がある。
【0008】
これに対して、例えば特許文献4には、溶剤成分として1-P-メンテン、P-メンタンなどを含む導電性ペーストが開示されている。これらの溶剤は、セラミックグリーンシートに使用されるブチラール樹脂に対する溶解性が低いため、シートアタック現象を抑制することができ、しかも蒸発速度が速いため、グラビア印刷のような高速の印刷方法に対しても好適に使用可能とされている。しかしながら、これらの溶剤は、エチルセルロースなどのバインダー樹脂の溶解度が低く、スクリーン印刷やグラビア印刷などの印刷方法に要求される適度な粘度の導電性ペーストを作製するのが困難であったり、導電性ペーストの経時的粘度変動により印刷時に不良を引き起こし易かったりする場合があった。
【0009】
また、特許文献5には、ナフテン系炭化水素を30重量%以上含む炭化水素系溶剤と、アルコール系溶剤などの炭化水素系溶剤以外の溶剤を特定割合で含有する導電性ペーストが開示されている。この導電性ペーストは、シートアタック現象を抑制することができ、ペーストの安定性も優れているものの、バインダー樹脂の溶解度が依然として低く、印刷に適した粘度の導電性ペーストが得られない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平7-21832号公報
【文献】特開2002-270456号公報
【文献】特開平7-21833号公報
【文献】特開2003-249121号公報
【文献】特開2007-19122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、電気的特性劣化の発生しない多層セラミック部品を製造するための、蒸発乾燥が容易で、かつ適度な粘度特性を備えた導電性ペースト用溶剤組成物、それを利用したビヒクル、および導電性ペーストを提供することを目的とする。さらに本発明は、前記特性を備えつつ、シートアタック現象による層間剥離を抑制可能な導電性ペースト用溶剤組成物、それを利用したビヒクル、および導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の請求項1~9から構成される。
<請求項1>
(A)モノテルペンアルコールおよび/またはモノテルペン脂肪酸エステル、ならびに(B)乳酸アルキルエステルを含有する導電性ペースト用溶剤組成物。
<請求項2>
さらに、(C)テルペン系炭化水素を含有する請求項1に記載の導電性ペースト用溶剤組成物。
<請求項3>
(A)成分がターピネオール、ジヒドロターピネオール、ターピニルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、イソボルニルアセテート、イソボルニルプロピオネート、イソボルニルブチレート、およびイソボルニルイソブチレートから選択される1種または2種以上である請求項1または2に記載の導電性ペースト用溶剤組成物。
<請求項4>
(B)成分が乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-プロピル、乳酸イソプロピル、乳酸n-ブチル、乳酸イソブチル、乳酸ペンチル、乳酸ヘキシル、乳酸オクチル、および乳酸2-エチルヘキシルから選択される1種または2種以上である請求項1~3のいずれかに記載の導電性ペースト用溶剤組成物。
<請求項5>
(C)成分がα-ピネン、β-ピネン、ピナン、3-カレン、カラン、カンフェン、フェンチェン、ジペンテン、リモネン、α-テルピネン、γ-テルピネン、α-フェランドレン、β-フェランドレン、テルピノレン、1-パラメンテン、パラメンタン、パラサイメン、サビネン、ミルセン、ジヒドロミルセン、アロオシメン、および2,6-ジメチルオクタンから選択される1種または2種以上である請求項2~4のいずれかに記載の導電性ペースト用溶剤組成物。
<請求項6>
(A)~(C)の各成分の割合が、(A)、(B)、および(C)成分の合計100重量部に対して(A)10~90重量部、(B)5~70重量部、および(C)0~85重量部である、請求項1~5のいずれかに記載の導電性ペースト用溶剤組成物。
<請求項7>
請求項1~6のいずれかに記載の導電性ペースト用溶剤組成物、およびバインダー樹脂を含有するビヒクル。
<請求項8>
バインダー樹脂がセルロース系樹脂、ブチラール樹脂、およびアクリル系樹脂の群から選ばれた少なくとも1種を含有する請求項7記載のビヒクル。
<請求項9>
請求項7または8記載のビヒクル、および導電性粉末を含有する導電性ペースト。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溶剤組成物を使用した導電性ペーストは、従来の導電性ペーストと比較してシートアタック現象を抑制でき、低沸点かつ低粘度であるので、電気的特性の劣化の発生しない多層セラミック部品を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<導電性ペースト用溶剤組成物>
本発明の導電性ペースト用溶剤組成物は、(A)モノテルペンアルコールおよび/またはモノテルペン脂肪酸エステル、ならびに(B)乳酸アルキルエステルを含む。また、本発明の導電性ペースト用溶剤組成物は、さらに(C)テルペン系炭化水素を含有していてもよい。
ここで、(A)、(B)、(C)それぞれの成分について、以下に説明する。
【0015】
<(A)モノテルペンアルコール、モノテルペン脂肪酸エステル>
本発明の(A)モノテルペンアルコールおよび/またはモノテルペン脂肪酸エステルは、(Cの分子式で表わされるモノテルペン炭化水素の少なくとも1つ以上の水素原子が水酸基、または脂肪酸残基で置換された化合物である。ここで、モノテルペン炭化水素は、1つ以上の脂環骨格を有するのが好ましい。また、モノテルペン炭化水素の不飽和度は特に制限はなく、化合物中の多重結合が水素化されていてもよいし、芳香環を含有していてもよい。また、上記脂肪酸としては、炭素数が2から6のカルボン酸であり、飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0016】
本発明の(A)成分の常圧における沸点は、50℃以上、300℃以下であり、好ましくは100℃以上、250℃以下の範囲である。沸点が50℃未満では、溶剤の乾燥速度が速すぎ、ペーストの安定性が悪化する場合があり、一方300℃を超えると、溶剤の乾燥速度が遅すぎ、残存した溶剤により電気的特性を損なう場合があり好ましくない。
【0017】
本発明の(A)成分の具体例としては、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ターピニルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、イソボルニルアセテート、イソボルニルプロピオネート、イソボルニルブチレート、イソボルニルイソブチレート、ノピルアセテート等が挙げられ、これらを単独または2種以上併用して使用することができる。
【0018】
<(B)乳酸アルキルエステル>
本発明の(B)乳酸アルキルエステルは、アルキル基の炭素数が8以下の乳酸エステルであり、例えば、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-プロピル、乳酸イソプロピル、乳酸n-ブチル、乳酸イソブチル、乳酸ペンチル、乳酸ヘキシル、乳酸オクチル、乳酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。これらのうち、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-プロピル、乳酸イソプロピル、乳酸n-ブチル、乳酸イソブチル、乳酸ペンチルなどの炭素数5以下のアルキル基を有する乳酸エステルが好ましく、アルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。アルキル基の炭素数が8を超えると、乾燥速度が遅くなりすぎる場合があり好ましくない。
【0019】
本発明の(B)成分の常圧における沸点は、100℃以上、300℃以下であり、好ましくは120℃以上、250℃以下の範囲である。沸点が100℃未満では、溶剤の乾燥速度が速すぎ、ペーストの安定性が悪化する場合があり、一方300℃を超えると、溶剤の乾燥速度が遅すぎ、残存した溶剤が焼成時に揮発して層間剥離を引き起こしたり、印刷精度が悪化したりする場合があり好ましくない。
【0020】
本発明の乳酸アルキルエステルは、公知の方法で製造でき特に制限されるものではないが、例えば、乳酸とアルコールの脱水縮合反応、乳酸エステルとアルコールとのエステル交換反応などで得ることができる。また、原料となる乳酸は、発酵法、合成法などいかなる方法で製造されたものでも使用可能であるが、環境負荷低減の観点から、発酵法によるものが好ましい。
【0021】
<(C)テルペン系炭化水素>
本発明の(C)テルペン系炭化水素は、(C)の分子式で表わされるイソプレン則に基づく化合物のうち、n=2のモノテルペン炭化水素化合物である。ただし、化合物の不飽和度に特に制限はなく、化合物中の多重結合が水素化されていてもよいし、芳香環を含有していてもよい。
【0022】
本発明のテルペン系炭化水素の常圧における沸点は、50℃以上、250℃以下であり、好ましくは100℃以上、200℃以下の範囲である。沸点が50℃未満では、溶剤の乾燥速度が速すぎ、ペーストの安定性が悪化する場合があり、一方250℃を超えると、溶剤の乾燥速度が遅すぎ、残存した溶剤により電気的特性を損なう場合があり好ましくない。
【0023】
本発明のテルペン系炭化水素の具体例としては、α-ピネン、β-ピネン、ピナン、3-カレン、カラン、カンフェン、フェンチェン、ジペンテン、リモネン、α-テルピネン、γ-テルピネン、α-フェランドレン、β-フェランドレン、テルピノレン、1-パラメンテン、パラメンタン、パラサイメン、サビネン、ミルセン、ジヒドロミルセン、アロオシメン、2,6-ジメチルオクタンなどが挙げられ、これらを単独または2種以上併用して使用することができる。
【0024】
本発明の導電性ペースト用溶剤組成物は、(C)成分を含有することにより、シートアタック現象をさらに抑制することが可能となり、また導電性ペーストの粘度を下げ乾燥速度を向上することができる。
【0025】
本発明の導電性ペースト用溶剤組成物を構成する(A)、(B)、および(C)成分の混合割合は特に制限はないが、好ましくは(A)、(B)、および(C)成分の合計100重量部に対して(A)10~90重量部、(B)5~70重量部、および(C)0~85重量部であり、さらに好ましくは(A)10~70重量部、(B)5~50重量部、および(C)0~85重量部である。
(B)成分が70重量部を超えると、シートアタック現象が顕著となる場合があり好ましくない。また、(B)成分が70重量部以下であっても、(A)成分が10重量部未満であると、得られるペーストの粘度と乾燥速度のバランスが充分でなかったり、低温下における安定性が悪化する場合がある。一方、(A)成分が90重量部を超えると〔(B)成分が5重量部未満〕、粘度特性や乾燥速度の改善効果が乏しいため、好ましくない。
なお、(C)成分が85重量部を超えると、溶剤組成物へのバインダー樹脂の溶解性が低下し、ペーストの粘度が著しく低下するため、好ましくない。
【0026】
なお、本発明の溶剤組成物を構成する(A)~(C)成分は、いずれも再生可能な天然資源であるテルペン化合物や乳酸から誘導可能な溶剤であり、石油由来の溶剤と比較して低毒性であり、かつ環境負荷の低減に寄与するものである。
【0027】
さらに、本発明の溶剤組成物中には、必要に応じて、酸化防止剤などの添加剤、通常、導電性ペーストや誘電体ペーストに用いられる他の溶剤を含有させてもよい。通常、導電性ペーストや誘電体ペーストに用いられる他の溶剤としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶剤、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、トルエンなどの炭化水素系溶剤、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノールなどのアルコール系溶剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
<ビヒクル、導電性ペースト>
次に、本発明のビヒクル、および導電性ペーストについて説明する。
本発明のビヒクルは、本発明の溶剤組成物とバインダー樹脂を含有するものである。また、本発明の導電性ペーストは、内部電極層に相当するもので、本発明のビヒクル中に、導電性粉末を分散させたものである。
【0029】
バインダー樹脂としては、エチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂や、ポリビニルブチラールなどのアセタール系樹脂、ブチルメタクリレート、メチルメタクリレートなどを重合して得られるアクリル系樹脂などが使用される。導電性ペースト用のバインダー樹脂としては、エチルセルロースが好ましい。
【0030】
本発明のビヒクルの調製方法に特に制限はなく、従来公知の方法で調製できる。また、溶剤組成物を構成する(A)~(B)成分、あるいは(A)~(C)成分、およびバインダー樹脂の混合溶解の順序には特に制限なく、任意の順序で混合溶解すればよい。例えば、(A)~(B)成分、あるいは(A)~(C)成分を混合した溶剤組成物にバインダー樹脂を溶解してもよいし、先に特定の溶剤成分にバインダー樹脂を溶解したあと、残りの溶剤成分を混合して調製してもよい。
【0031】
ビヒクルは、溶剤組成物とバインダー樹脂を主成分とし、ビヒクル中の溶剤組成物の割合は、特に限定はないが、60~98重量%であることが好ましい。さらに、70~95重量%が好ましい。60重量%未満では、エチルセルロースなどの溶解性が悪くなったり、ビヒクルの粘度が高くなりすぎる場合がある。一方、98重量%を超えると、ビヒクルの粘度が低くなり過ぎて好ましくない場合がある。
【0032】
本発明の導電性ペーストの調製方法に特に制限はなく、従来公知の方法で調製できる。また、溶剤組成物を構成する(A)~(B)成分、あるいは(A)~(C)成分、バインダー樹脂、および導電性粉末の混合溶解の順序には特に制限なく、任意の順序で混合溶解すればよい。例えば、(A)~(B)成分、あるいは(A)~(C)成分、ならびにバインダー樹脂を混合溶解したビヒクルに導電性粉末を溶解してもよいし、先に特定の溶剤成分、バインダー樹脂、ならびに導電性粉末を混合溶解したあと、残りの溶剤成分を混合して調製してもよい。
【0033】
また、ビヒクルに配合されて導電性ペーストを構成する導電性粉末は、銅、銀、金、白金、ニッケル、パラジウムなどの金属粉末が使用される。より好ましくは、白金粉末、ニッケル粉末、パラジウム粉末である。
【0034】
導電性ペースト中の導電性粉末の割合は、特に限定はないが、通常、30~95重量%、好ましくは40~80重量%である。30重量%未満では、導電性粉末の充填密度が低くなるため好ましくない場合があり、一方95重量%を超えると、ペーストの粘度が高くなり、生産性が著しく悪化するため好ましくない場合がある。
【0035】
導電性ペースト中における、上記ビヒクルの割合は、5~70重量%であることが好ましい。より好ましくは、20~60重量%である。ビヒクルは、5重量%未満であると、乾燥膜の強度が弱くなり、一方70重量%を超えると、焼成後の電極厚さが薄くなりすぎて好ましくない。
【0036】
さらに、本発明の導電性ペーストは、溶剤、バインダー樹脂、導電性粉末以外に、酸化防止剤、界面活性剤、分散剤、フィラー、可塑剤、反応性モノマーなどを含有していても良い。
【実施例
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1
ターピネオール(ヤスハラケミカル社製)90重量部、および乳酸エチル(コービオンジャパン社製 PURASOLV EL)10重量部を混合して溶剤組成物を作製した。この溶剤組成物95重量部にエチルセルロース(ダウケミカル社製 ETHOCEL200)5重量部を配合し、遊星式攪拌・脱泡装置(クラボウ社製 マゼルスター)を使用してビヒクルを作製した。このビヒクル100重量部に対し、ニッケル粉(粒径0.3μm)100重量部、チタン酸バリウム(粒径0.1μm)10重量部を加え、遊星式攪拌・脱泡装置を使用して導電性ペーストを作製した。
作製した溶剤組成物、ビヒクル、および導電性ペーストは、それぞれ以下の評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0038】
なお、粘度、乾燥時間、ブチラール樹脂溶解性、およびシートアタック性は、それぞれ下記のようにして測定した。
(粘度)
ビヒクルの20℃における粘度をB型粘度計で測定した。粘度が5,000mPa・s未満を◎、5,000mPa・s以上50,000mPa・s未満を○、50,000mPa・s以上を×とした。
(乾燥時間)
熱重量測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製)を使用して、120℃の温度条件で溶剤組成物が50%減量するのにかかった時間(50%減量時間)を測定した。
50%減量時間が5分未満を◎、5分以上20分未満を○、20分以上を×とした。
【0039】
(ブチラール樹脂の溶解性)
50mL共栓付試験管にブチラール樹脂(住友化学社製:商品名S-LEC SV-05)1,000mgと本発明の溶剤組成物12.5gを入れ、スターラーで撹拌しながら60℃で2時間加温した。加温終了後、上清を分取し、さらに2,000rpmで5分間遠沈操作を行った。このものの上澄み1gに対して、標品(ADEKA社製:アデカスタブAO-330)を20mg、テトラヒドロフラン10mLになるように試料を調製し、GPCを測定した。
GPCの測定は、以下の条件で実施した。
装置:Waters社製、モデル510
カラム:東ソー社製、TSKgel(G2000H8×2およびG3000HXL×1)
溶離液:テトラヒドロフラン
注入量:250μL
流速:1.0mL/分
測定後、ブチラール樹脂の分子量に相当するピークエリアと標品のピークエリア比より、各溶剤12.5gに溶解したブチラール樹脂量(mg)を算出した。
ブチラール樹脂量が100mg未満を◎、100mg以上600mg未満を○、600mg以上を×と判定した。
【0040】
(シートアタック性)
上記で得られた導電性ペーストを、チタン酸バリウムおよびポリビニールブチラールからなる厚さ2μmのグリーンシート上にスクリーン印刷し、80℃で5分乾燥後、表面を実体顕微鏡で観察して、破れおよび皺の有無を確認した。
セラミックグリーンシート上に、破れおよび皺が観察されなかった場合を◎、破れは見られなかったが皺が観察された場合を○、破れが観察された場合を×と判定した。
【0041】
実施例2~18、比較例1~5
溶剤の組成を表1~2に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして、溶剤組成物、ビヒクル、および導電性ペーストを作製した。作製した溶剤組成物、ビヒクル、および導電性ペーストは、実施例1と同様の評価に供した。なお、比較例4については、エチルセルロースが溶剤に完溶せず、ビヒクルを作製できなかったため、粘度およびシートアタック性を“-”とした。

【0042】
【表1】

【0043】
【表2】
【0044】
表1~2に示すように、本発明の導電性ペースト用溶剤組成物は、従来のペースト用溶剤として使用されているターピネオールやジヒドロターピネオールなどと比較して、低粘度、かつ乾燥速度が速い。また、乳酸エチルと比較し、ブチラール樹脂の溶解性が低く、シートアタック現象を抑止できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の導電性ペースト用溶剤組成物を用いた導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサなどの多層セラミック部品の製造の際に使用されるペーストとして利用できる。