(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】洗濯機
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20221221BHJP
D06F 33/30 20200101ALI20221221BHJP
【FI】
H02P27/08
D06F33/30
(21)【出願番号】P 2018187380
(22)【出願日】2018-10-02
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】503376518
【氏名又は名称】東芝ライフスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】細糸 強志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信行
(72)【発明者】
【氏名】會澤 敏満
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205286(JP,A)
【文献】特開2006-230766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 33/30
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動対象とし、3相ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を所定のPWM信号パターンに従いオンオフさせるインバータ回路と、
前記インバータ回路に接続され、電流値に対応する信号を発生する電流検出素子と、
前記モータのロータ位置に追従するように3相のPWM信号パターンを生成するPWM信号生成部と、
前記電流検出素子に発生した信号と前記PWM信号パターンとに基づいて、前記モータの相電流を検出する電流検出部とを備え、
前記PWM信号生成部は、前記電流検出部が、前記PWM信号の搬送波周期内において少なくとも
2相以上の電流を検出
するためのPWM信号パターンの生成を行い、
前記電流検出部は、少なくとも1m秒に1回以上電流値の検出を行い、
検出された電流値を閾値と比較して、
検出された電流値が前記閾値を超えておらず、且つ、前記PWM信号が各相について出力された際の相間時間差が、2相以上の電流を検出可能な時間差に達していなければ、その直前に、前記相間時間差が検出可能な時間差であった際の出力電圧を保持し、検出された電流値が前記閾値を超えているとPWM制御による出力電圧を低下させ、
前記相間時間差が、2相以上の電流を検出可能な時間差に達していれば、d,q軸電流制御を行なう出力電圧制限部を更に備え
る洗濯機。
【請求項2】
前記電流検出部は、前記電流が過電流レベルに達する際の変化速度よりも速い時間で電流を検出するように設定されている請求項1記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを制御するためにU,V,W各相の電流を検出する場合、インバータ回路に挿入した1つのシャント抵抗を用いて電流検出を行う技術がある。この方式で3相全ての電流を検出するには、PWM(Pulse Width Modulation,パルス幅変調)キャリア,搬送波の1周期内において、2相以上の電流を検出できるように3相のPWM信号パターンを発生させる必要がある。そのため、1周期内におけるPWM信号の位相をシフトさせることで常に2相以上の電流を、騒音を増大させること無く検出できるモータ制御装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
この技術では、各PWM信号のデューティの差が小さくなると2相の電流が検出できない場合があり、その場合には、直前に検出した電流値を用いて制御を継続することが一般に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、洗濯機では、モータに係る負荷の変動幅が大きく、回転ロックやそれに近い状態が発生し易い。このような洗濯機に特許文献1のモータ制御装置を適用すると、電流が検出できない期間に、モータの誘起電圧や巻線インピーダンスの急激な低下が発生して電流値が大きく上昇し、過電流状態に至るおそれがある。
そこで、1シャント電流検出方式を採用しても過電流状態に至ることを防止できる洗濯機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の洗濯機は、モータを駆動対象とし、3相ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を所定のPWM信号パターンに従いオンオフさせるインバータ回路と、
前記インバータ回路に接続され、電流値に対応する信号を発生する電流検出素子と、
前記モータのロータ位置に追従するように3相のPWM信号パターンを生成するPWM信号生成部と、
前記電流検出素子に発生した信号と前記PWM信号パターンとに基づいて、前記モータの相電流を検出する電流検出部とを備え、
前記PWM信号生成部は、前記電流検出部が、前記PWM信号の搬送波周期内において少なくとも2相以上の電流を検出するためのPWM信号パターンの生成を行い、
前記電流検出部は、少なくとも1m秒に1回以上電流値の検出を行い、
検出された電流値を閾値と比較して、検出された電流値が前記閾値を超えておらず、且つ、前記PWM信号が各相について出力された際の相間時間差が、2相以上の電流を検出可能な時間差に達していなければ、その直前に、前記相間時間差が検出可能な時間差であった際の出力電圧を保持し、検出された電流値が前記閾値を超えているとPWM制御による出力電圧を低下させ、
前記相間時間差が、2相以上の電流を検出可能な時間差に達していれば、d,q軸電流制御を行なう出力電圧制限部を更に備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態であり、洗濯機の電気的構成を示す回路図
【
図3】電流検出周期に応じて行われる過電流判定処理のサブルーチンを示すフローチャート
【
図6】ステップS35における電流未検出判定の詳細を示すフローチャート
【
図7】ステップS37における電流未検出判定の詳細を示すフローチャート
【
図8】ステップS39における電流未検出判定の詳細を示すフローチャート
【
図9】ベクトル制御におけるd,q軸電流制御を行うか否かを決定するフローチャート
【
図10】洗濯機が洗い行程を行っている場合に、制御回路が行うベクトル制御にて得られるq軸電流データの一例を示す波形図
【
図12】
図11に示す期間に対応するq軸電圧データの波形を示す図
【
図13】
図11に示す期間に対応する制御回路に読み込まれたU相電流データの波形を示す図
【
図14】
図11に示す期間に対応する実際にモータ通電されているU相電流の波形を示す図
【
図15】制御回路における電流データの取得状況と電圧抑制状況とを、3値レベルの波形で示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、縦軸形の全自動洗濯機に適用した一実施形態について、図面を参照して説明する。まず、
図2は、全自動洗濯機1の全体構成を示す縦断面図である。すなわち、全体として矩形状をなす外箱2内には、水受槽3が、4組の防振機構4を介して弾性支持されている。尚、図示は1組のみである。この場合、防振機構4は、上端が外箱2内において上方に係止された吊り棒4aと、その吊り棒4aの他端側に取り付けられた振動減衰用のダンパー4bとを含んで構成されている。これらの防振機構4を介して水受槽3が弾性支持されることにより、洗濯運転時に発生する振動が外箱2に極力伝達されないようにしている。
【0009】
上記水受槽3内には、洗濯槽兼脱水槽用の回転槽5が配設されており、この回転槽5の内底部には、撹拌体,パルセータ6が配設されている。上記回転槽5は、槽本体5aと、この槽本体5aの内側に設けられた内筒5bと、これらの上端部に設けられたバランスリング5cとから構成されている。そして、この回転槽5が回転されると、内部の水を回転遠心力により揚水して槽本体5aの上部の脱水孔5dから水受槽3内に放出するようになっている。
【0010】
また、回転槽5の底部には、通水口7が形成されており、この通水口7は、排水通路7aを通して排水口8に連通されている。そして、排水口8には、排水弁9を備えた排水路10が接続されている。従って、排水弁9を閉塞した状態で回転槽5内に給水すると、回転槽5内に水が貯溜され、排水弁9を開放すると、回転槽5内の水は排水通路7a、排水口8および排水路10を通じて排出されるようになっている。
【0011】
水受槽3の底部には、補助排水口8aが形成されており、この補助排水口8aは、図示しない連結ホースを介し前記排水弁9をバイパスして前記排水路10に接続され、前記回転槽5が回転したときに、その上部から水受槽3内に放出された水を排出するようになっている。
【0012】
また、前記水受槽3の外底部には、機構部ハウジング11が取付けられており、この機構部ハウジング11には、中空の槽軸12が回転自在に設けられ、この槽軸12には、回転槽5が連結されている。また、槽軸12の内部には、撹拌軸13が回転自在に設けられており、この撹拌軸13の上端部には、撹拌体6が連結されている。そして、撹拌軸13の下端部は、アウタロータ形のDCブラシレスモータ14(永久磁石型モータ,以下、単にモータと称す)のロータ14aに連結されている。このモータ14は、洗い時には、撹拌体6を直接正逆回転駆動するようになっている。
【0013】
また、モータ14は、脱水時には、図示しないクラッチにより槽軸2と撹拌軸13とが連結された状態で、回転槽5および撹拌体6を一方向に直接回転駆動するようになっている。従って、本実施形態では、モータ14の回転速度は、洗い時には撹拌体6のそれと同一になり、脱水時には回転槽5および撹拌体6のそれと同一になる、いわゆる、ダイレクトドライブ方式が採用されている。
【0014】
図1は、モータ14の駆動制御系を示す機能ブロック図である。インバータ回路21は、半導体スイッチング素子である6個のIGBT22a~22fを三相ブリッジ接続して構成されており、各IGBT22a~22fのコレクタ-エミッタ間には、フライホイールダイオード23a~23fが接続されている。下アーム側のIGBT22d、22e、22fのエミッタは、電流検出素子であるシャント抵抗24を介してグランドに接続されている。
【0015】
また、IGBT22d、22e、22fのエミッタとシャント抵抗24との共通接続点は、抵抗素子25及びコンデンサ26を介してグランドに接続されている。そして、抵抗素子25及びコンデンサ26の共通接続点は、制御回路39のA/D入力端子(2)に接続されていると共に、過電流判定回路27の入力端子に接続されている。過電流判定回路27は、コンパレータ等を用いて構成されている。過電流判定回路27の出力信号は過電流検出に基づく緊急停止信号となり、制御回路39は、緊急停止信号の入力があるとインバータ回路21に対するPWM信号の出力を停止する。
【0016】
モータ14には、ロータの回転位置を検出する位置センサ44(A,B,C)が配置されている。位置センサ44は例えばホールICで構成され、位相が120度異なる3相信号を出力する。センサ信号の出力端子は、夫々NOTゲート45A,45B,45Cを介して制御回路39の各入力端子に接続され、NOTゲート45A,45B,45Cの出力端子は、コンデンサ46A,46B,46Cを介してグランドに接続されている。
【0017】
インバータ回路21の入力側には駆動用電源回路47が接続されている。駆動用電源回路47は、100Vの交流電源48を、ダイオードブリッジで構成される全波整流回路49及び直列接続された2個のコンデンサ50a,50bにより倍電圧全波整流し、約280Vの直流電圧をインバータ回路21に供給する。インバータ回路21の各相出力端子は、モータ14の各相巻線14u,14v,14wに接続されている。
【0018】
第1電源回路51は、インバータ回路21に供給される約280Vの駆動用電源を降圧して15V電源を生成すると、制御回路39及び駆動回路52に供給する。また、第2電源回路53は、上記駆動用電源を降圧して5Vの制御用電源を生成し、制御回路39に供給する三端子レギュレータである。高圧ドライバ回路54は、インバータ回路21における上アーム側のIGBT22a~22cを駆動するために配置されている。第3電源回路56は、上記の5Vより3.3V電源を生成し、その電源を過電流判定回路27に供給する。また、制御回路39のA/D入力端子(2)は、抵抗素子57により3.3V電源にプルアップされている。
【0019】
また、駆動用電源回路47の出力端子,インバータ回路21の正側直流母線とグランドとの間には、抵抗素子55a,55bの直列回路が接続されており、両者の共通接続点は、制御回路39のA/D入力端子(1)に接続されている。制御回路39は、抵抗素子24の端子電圧に基づきモータ14に通電される3相電流を検出し、ベクトル制御を行うことで電圧率が正弦波状に変化する三相上下分のPWM信号を生成する。
【0020】
3相電流を検出する方式の詳細については、特許文献1に開示されている。また、以降の説明において、特許文献1で行っている3相PWM信号パルスの位相をシフトする処理を「シフト2PWM」と称し、前記処理を行わないPWM制御を「通常PWM」と称する場合がある。制御回路39は、生成した各PWW信号を、駆動回路52及び上側については高圧ドライバ回路54を介して、インバータ回路21を構成する各IGBT22a~22fのゲートに出力する。制御回路39は、PWM信号生成部,電流検出部及び出力電圧制限部に相当する。
【0021】
次に、本実施形態の作用について説明する。尚、PWM制御における搬送波周期は例えば64μ秒であり、制御回路39は1周期内で2回電流検出を行う。したがって、電流検出周期は128μ秒となる。
図3は、電流検出周期に応じて行われる過電流判定処理のサブルーチンを示すフローチャートである。制御回路39は、2回の電流検出においてそれぞれA/D変換値(0),(1)を得ると(S1)、A/D変換値(0),(1)の大小を比較判定する(S2)。A/D変換値(0)がA/D変換値(1)よりも大であれば(YES)、「A/D値」にA/D変換値(0)を代入し(S3)、A/D変換値(1)がA/D変換値(0)よりも大であれば(NO)、「A/D値」にA/D変換値(1)を代入する(S4)。
【0022】
それから、「A/D値」及び2回の電流検出によって得られたU,V,Wの3相電流の各A/D変換値をローパスフィルタ演算すると(S5)、それらの各値がそれぞれ過電流判定閾値である7A以下か否かを判断する(S6~S9)。全ての値が前記閾値以下であれば(S9;YES)過電流フラグを「0」にクリアする(S10)。一方、何れか1つの値が前記閾値を超えていると(S6~S9;NO)過電流フラグを「1」にセットする(S11)。
【0023】
図4は、
図3に示す処理に続いて実行される過電流制御処理を示すフローチャートである。制御回路39は、A/D入力端子(1)を介して検出される直流母線電圧が100Vを超えているか否かを判断する(S21)。直流母線電圧が100Vを超えていれば(YES)、線間電圧振幅が両者の差電圧を超えているか否かを判断する(S22)。線間電圧振幅が前記差電圧を超えていれば(YES)、過電流フラグが「1」にセットされているか否かを判断する(S23)。過電流フラグが「1」にセットされていれば(YES)ステップS24に移行する。また、ステップS22~23の何れかで「NO」と判断すると、図示しないメインルーチンにリターンする。
【0024】
ステップS24では、ベクトル制御において得られているPI制御の比例項に対応するd軸電圧値Vdについて、前記差電圧を前記線間電圧振幅で除した値を乗じて抑制したd軸電圧値を更新する。また、PI制御の積分項に対応するd軸電圧値Vdについても、上記と同様の演算を行って更新する(S25)。更に、q軸電圧値についても、ステップS24,S25と同様の演算を行う(S26,S27)。
【0025】
図5は、
図4に示す処理に続いて実行される電流未検出フラグ処理を示すフローチャートである。制御回路39は、その時点で実行している電流切替方式が「通常PWM」の2相変調か(S31),「シフト2PWM」の3相変調か(S32),「シフト2PWM」の2相変調か(S33)を判断する。これらの何れでもない場合は(S33;NO)電流未検出フラグをクリアして(S34)リターンする。
【0026】
電流切替方式が「通常PWM」の2相変調であれば(S31;YES)、電流が未検出状態か否かを判断し(S35)、未検出状態であれば(YES)電流未検出フラグをセットして(S36)リターンする。電流切替方式が「シフト2PWM」の3相変調である場合(S32;YES),「シフト2PWM」の2相変調である場合(S33;YES)も、ステップS35及びS36と同様の処理を行う(S37及びS38,S39及びS40)。また、各方式において電流が未検出の状態でなければ(S35,S37,S39:NO)、ステップS34に移行する。
【0027】
図6は、ステップS35における電流未検出判定の詳細を示すフローチャートである。先ず、PWM信号のON時間のパルス幅が10.5μ秒未満か否かを判断し(S41)、パルス幅が10.5μ秒以上であれば(NO)相間のパルス幅の差が10.5μ秒未満か否かを判断する(S43)。10.5μ秒は、搬送波周期の約16.4%に相当する。パルス幅の差が10.5μ秒以上であれば(NO)2回の検出タイミングで2相の電流が検出できているので、電流未検出フラグをクリアして(S44)リターンする。この場合、ステップS35における判断は「NO」となる。
【0028】
また、パルス幅が10.5μ秒未満であるか(S41;YES)又はパルス幅の差が10.5μ秒未満であれば(S43;YES)2相の電流が検出できていないと判断し、電流未検出フラグをセットして(S42)リターンする。この場合、ステップS35における判断は「YES」となる。
【0029】
図7は、ステップS37における電流未検出判定の詳細を示すフローチャートである。先ず、V相又はW相のうち、PWM信号のOFF時間の長い方が10.5μ秒未満か否かを判断し(S51)、そのOFF時間が10.5μ秒以上であれば(NO)ステップS53に移行する。ステップS53では、V相又はW相のうち、PWM信号のOFF時間の短い方が10.5μ秒未満か否かを判断する。そのOFF時間が10.5μ秒以上であれば(NO)2回の検出タイミングで2相の電流が検出できているので、電流未検出フラグをクリアして(S54)リターンする。この場合、ステップS37における判断は「NO」となる。
【0030】
また、長い方のOFF時間が10.5μ秒未満であるか(S51;YES)又は短い方のOFF時間が10.5μ秒未満であれば(S53;YES)2相の電流が検出できていないと判断し、電流未検出フラグをセットして(S52)リターンする。この場合、ステップS37における判断は「YES」となる。
【0031】
図8は、ステップS39における電流未検出判定の詳細を示すフローチャートである。先ず、3相のうちPWM信号のON時間が長い2相にU相が含まれるか否かを判断し(S61)、U相が含まれれば(YES)U相のON時間が21μ秒未満か否かを判断する(S62)。U相のON時間が21μ秒以上であれば(NO)、ON時間が長い2相でU相ではない相のON時間が10.5μ秒未満か否かを判断する(S64)。そのON時間が10.5μ秒以上であれば(NO)2回の検出タイミングで2相の電流が検出できているので、電流未検出フラグをクリアして(S65)リターンする。この場合、ステップS39における判断は「NO」となる。
【0032】
一方、U相のON時間が21μ秒未満であるか(S62;YES)、又はU相ではない相のON時間が10.5μ秒未満であれば(S64;YES)、電流未検出フラグをセットして(S63)リターンする。この場合、ステップS39における判断は「YES」となる。
【0033】
また、PWM信号のON時間が長い2相にU相が含まれていなければ(S61;NO)、ON時間が長い2相の各相のON時間が、それぞれ10.5μ秒未満か否かを判断する(S66,S68)。各相のON時間が10.5μ秒以上であれば(S69;NO)2回の検出タイミングで2相の電流が検出できているので、電流未検出フラグをクリアして(S69)リターンする。一方、何れか相のON時間が10.5μ秒未満であれば(S66,S69;YES)、電流未検出フラグをセットして(S67)リターンする。
【0034】
図9は、3相電流の検出状態に応じてベクトル制御におけるd,q軸電流制御を行うか否かを決定するフローチャートであり、電流未検出フラグがクリアされていれば(S71;NO)d,q軸電流制御を行い(S73)、同フラグがセットされていれば(S71;YES)d,q軸電流制御を停止する(S72)。また、d,q軸電流制御を停止した場合、d,q軸電圧制御においては、電流未検出フラグがセットされる直前の電圧制御において得られたd,q軸電圧値がメモリに保持されているので、その保持されている値が使用される。
【0035】
図10は、洗濯機1が洗い行程を行っている場合に、制御回路39が行うベクトル制御にて得られるq軸電流データの一例を示すものである。また、
図11~
図15は、
図10中に両矢印で示す期間の時間軸を拡大して示す電流,電圧等のデータ波形である。
図15は、制御回路39における電流データの取得状況と電圧抑制状況とを、以下のように3値レベルの波形で示している。
レベル ステータス
0 電流取得有/電圧抑制無
1 電流取得無/電圧抑制無
2 電流取得無/電圧抑制有
「電流取得有」は「電流未検出フラグクリア」に対応し、「電流取得無」は「電流未検出フラグセット」に対応する。「電圧抑制有」は、ステップS24~S27で行われる処理に対応する。
【0036】
電流未検出フラグがセットされるとd,q軸電流制御が停止されるため、
図11に示すq軸電流データは、その直前に取得済みの値が維持される。また、過電流が検出されたことで電圧抑制処理が行われ、
図12に示すq軸電圧データの負の値が減少している。q軸電圧データが減少したことに伴い、q軸電流データの負の値も減少する。その結果、
図14,
図13に示す実際にモータ14に通電されているU相電流の振幅,及び制御回路39がA/D変換して読み込んだU相電流データも減少している。
【0037】
以上のように本実施形態によれば、インバータ回路21に接続され、電流値に対応する信号を発生するシャント抵抗24を備え、制御回路39は、モータ14のロータ位置に追従するように3相のPWM信号パターンを生成し、シャント抵抗24に発生した電圧信号とPWM信号パターンとに基づいて、モータ14の各相電流を検出する。
【0038】
制御回路39は、PWM信号の搬送波周期64μ秒内において2回,2相の電流を検出可能となるようにPWM信号パターンの生成を行い、検出された電流値を閾値と比較して、前記閾値を超えているとPWM制御による出力電圧を低下させる。これにより、1シャント電流検出方式により搬送波周期内で2相の電流が検出できない状態が生じても、過電流状態に至ることを防止できる。
【0039】
また、制御回路39は、
図10~
図15に示すように、モータ14に通電される電流が過電流レベルに達する際の変化速度よりも速い時間で電流を検出するので、過電流状態に至ることをより確実に防止できる。また、制御回路39は、PWM信号が各相について出力された際の相間時間差が2相の電流を検出可能な時間差に達していなければ、その直前に、相間時間差が検出可能な時間差であった際の出力電圧を保持するので、搬送波周期内で2相の電流が検出できない状態が生じても、電流制御を安定させることができる。
【0040】
(その他の実施形態)
PWM制御における搬送波周期は、個別の設計に応じて適宜変更すれば良い。
電流値の検出は、少なくとも1m秒に1回以上行えば良い。
過電流判定用の閾値や、電流未検出判定用のPWMパルス幅,及びパルス幅の差等も、実施形態中の数値に限らず適宜変更して良い。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
図面中、1は全自動洗濯機、14はモータ、21はインバータ回路、24はシャント抵抗、39は制御回路を示す。