(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置用のセンサホルダおよびそれを備える車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20221221BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20221221BHJP
F16C 33/76 20060101ALI20221221BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20221221BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/18
F16C33/76 A
F16C43/04
B60B35/02 L
(21)【出願番号】P 2018214847
(22)【出願日】2018-11-15
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 寿範
(72)【発明者】
【氏名】信川 愛純
(72)【発明者】
【氏名】山口 徹
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-110602(JP,U)
【文献】特開2012-036960(JP,A)
【文献】特開2016-205415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪用軸受装置の外方部材に嵌合される嵌合部と、
磁気センサが取り付けられる取付部と、を有する車輪用軸受装置のセンサホルダにおいて、
前記嵌合部には、前記外方部材に嵌め合わされる爪部と、当該嵌合部と前記外方部材との隙間を密閉する弾性部材とが設けられ
、
前記爪部の一側にテーパ面が形成され、前記爪部の他側に垂直な係合面が形成される、車輪用軸受装置用のセンサホルダ。
【請求項2】
前記爪部は、スリットを有する請求項1に記載の車輪用軸受装置用のセンサホルダ。
【請求項3】
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪を有し、前記ハブ輪と前記内輪との外周面に、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
磁性が周方向に等間隔で交互に変化する磁気エンコーダを有し、前記内方部材のインナー側の端部に圧入嵌合されたエンコーダリングと、
前記外方部材に嵌合され、前記磁気センサが前記取付部に取り付けられた請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置用のセンサホルダと、を有する車輪用軸受装置であって、
前記外方部材に溝部が形成され、
前記溝部に前記センサホルダの前記爪部が嵌め合わされている車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置用のセンサホルダおよびそれを備える車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において、ABS(Anti-LockBreakingSystem)等の制御に必要な車輪の回転速度を検出するための回転速度検出装置を備えた車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置の回転速度検出装置は、磁気エンコーダが設けられたエンコーダリングと磁気センサとから構成されている。エンコーダリングは、内輪に圧入嵌合されることで固定されている。磁気センサは、樹脂材料により形成された軸受キャップを介して外輪に設けられている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の軸受キャップは、外輪の軸方向内端開口部に内嵌される金属製の嵌合環がモールドされている円筒部を有している。外輪は、圧入された軸受キャップの円筒部から加わる力によって径方向に膨張する。これにより、車輪用軸受装置は、外輪の軌道面の真円度が劣化して軸受寿命の低下を招く場合があった。また、軸受キャップの円筒部は、外輪から加わる反力によって径方向に圧縮される。これにより、車輪用軸受装置は、樹脂キャップの底部が軸方向に膨張して磁気センサを適切な状態で設けられない場合があった。
【0005】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、抜け耐力を確保しつつ、外輪とセンサホルダとの膨張を抑制することができる車輪用軸受装置用のセンサホルダおよびそれを備える車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、第一の発明は、車輪用軸受装置の外方部材に嵌合される嵌合部と、磁気センサが
取り付けられる取付部と、を有する車輪用軸受装置のセンサホルダにおいて、前記嵌合部
には、前記外方部材に嵌め合わされる爪部と、当該嵌合部と前記外方部材との隙間を密閉
する弾性部材とが設けられ、前記爪部の一側にテーパ面が形成され、前記爪部の他側に垂直な係合面が形成される車輪用軸受装置用のセンサホルダである。
【0007】
第二の発明は、前記爪部は、スリットを有する車輪用軸受装置用のセンサホルダである。
【0008】
第三の発明は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪を有し、前記ハブ輪と前記内輪との外周面に、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、磁性が周方向に等間隔で交互に変化する磁気エンコーダを有し、前記内方部材のインナー側の端部に圧入嵌合されたエンコーダリングと、前記外方部材に嵌合され、前記磁気センサが前記取付部に取り付けられた車輪用軸受装置用のセンサホルダと、を有する車輪用軸受装置であって、前記外方部材に溝部が形成され、前記溝部に前記センサホルダの前記爪部が嵌め合わされている車輪用軸受装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
即ち、第一の発明は、センサホルダに形成されている爪部が車輪用軸受装置に嵌め合わされるので、センサホルダの嵌合部を車輪用軸受装置に圧入嵌合する必要がない。これにより、抜け耐力を確保しつつ外輪とセンサホルダとの膨張を抑制することができる。
【0011】
第二の発明は、爪部が弾性変形し易くなるので、センサホルダに環状の爪部や複数の爪部が形成されていても確実に車輪用軸受装置に嵌め合わされる。これにより、抜け耐力を確保しつつ外輪とセンサホルダとの膨張を抑制することができる。
【0012】
第三の発明は、外輪の溝部にセンサホルダの爪部が嵌め合わされるので、センサホルダの嵌合部を外輪の嵌合部に圧入嵌合する必要がない。これにより、抜け耐力を確保しつつ外輪とセンサホルダとの膨張を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】車輪用軸受装置の第一実施形態においてセンサホルダが嵌合されていない状態を示す拡大部分断面図。
【
図3】車輪用軸受装置の第一実施形態においてセンサホルダが嵌合されている状態を示す拡大部分断面図。
【
図4】
図4はセンサホルダを示す。(A)はスリットが設けられたセンサホルダの斜視図を示し、(B)はスリットが設けられたセンサホルダの軸方向の平面図を示す。
【
図5】
図5は車輪用軸受装置の第二実施形態を示す。(A)はセンサホルダが嵌合されていない状態を示す拡大部分断面図を示し、(B)は(A)におけるA矢視端面図を示す。
【
図6】
図6は車輪用軸受装置の第三実施形態を示す。(A)は
図5(A)におけるA矢視端面図であって、外方部材の係合部とセンサホルダの係合部とが係合している状態を示し、(B)は同じくセンサホルダの係合部が外方部材の案内面上を移動している状態を示し、(C)は同じくセンサホルダの係合部と外方部材の係合部との係合が解除された状態を示す。
【
図7】車輪用軸受装置の他の実施形態においてセンサホルダが嵌合されている状態を示す拡大部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
【0015】
図1に示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材である外輪2、内方部材であるハブ輪3、内輪4、転動列である二列のインナー側ボール列5、アウター側ボール列6、エンコーダリング9、センサホルダ(センサキャップとも呼ぶ)12、シール部材であるアウター側シール部材14等を具備する。なお、以下において、「インナー側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、「アウター側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、軸方向とは、車輪用軸受装置1の回転軸に沿った方向を表す。
【0016】
外輪2のインナー側の開口部の内周面には、センサホルダ12が嵌合可能なインナー側嵌合部2aが形成されている。外輪2のアウター側の開口部には、アウター側シール部材14が嵌合可能なアウター側嵌合部2bが形成されている。外輪2の内周面には、環状に形成されているインナー側の外側軌道面2cと、アウター側の外側軌道面2dとが形成されている。外輪2の外周面には、図示しない車体側の部材(ナックル)に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体に形成されている。
【0017】
ハブ輪3のインナー側端部には、外周面にアウター側端部よりも縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、円周等配位置に複数のハブボルト3eが設けられている。また、ハブ輪3には、外輪2のアウター側の外側軌道面2dに対向するようにアウター側の内側軌道面3cが設けられている。また、ハブ輪3には、車輪取り付けフランジ3bの基部側にアウター側シール部材14のリップ摺動面3dが形成されている。ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が設けられている。
【0018】
内輪4は、転動列であって車載時に車体側に配置されるインナー側ボール列5と車載時に車輪側に配置されるアウター側ボール列6とに予圧を与えるものである。内輪4の外周面には、周方向に環状の内側軌道面4aが形成されている。内輪4は、圧入および加締加工によりハブ輪3の小径段部3aに固定されている。つまり、ハブ輪3のインナー側には、内輪4によって内側軌道面4aが構成されている。内輪4の内側軌道面4aは、外輪2のインナー側の外側軌道面2cに対向している。
【0019】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール8が保持器7によって環状に保持されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道面4aと、外輪2のインナー側の外側軌道面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道面3cと、外輪2のアウター側の外側軌道面2dとの間に転動自在に挟まれている。
【0020】
車輪用軸受装置1は、外輪2と、ハブ輪3および内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とからなる複列アンギュラ玉軸受で構成されている。なお、本実施形態において、車輪用軸受装置1は、複列アンギュラ玉軸受に限らず、複列円錐ころ軸受で構成されていてもよい。
【0021】
エンコーダリング9は、回転側の部材であるハブ輪3および内輪4の回転速度を検出する回転速度検出装置の一部である。エンコーダリング9は、支持環10と磁気エンコーダ11とから構成されている。
【0022】
支持環10は、磁気エンコーダ11を内輪4に固定する支持部材である。支持環10は、円環状の鋼板の外縁部と内縁部とがプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略L字状に形成されている。支持環10は、防錆性の向上と検出精度の安定性の向上のため強磁性体の鋼板、例えば、フェライト系のステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS430系等)や防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて形成されている。支持環10には、アウター側端から内輪4が圧入嵌合されている。
【0023】
磁気エンコーダ11は、フェライト等の磁性紛体が混入された合成ゴムが環状に形成され、周方向に等ピッチで磁極Nと磁極Sとに着磁されている。磁気エンコーダ11は、支持環10のインナー側の側面に例えば加硫接着等によって固定されている。つまり、磁気エンコーダ11は、支持環10が圧入嵌合されている内輪4と一体に回転するように構成されている。
【0024】
センサホルダ12は、磁気センサ15を保持しつつ外輪2のインナー側の開口部を密閉するキャップである。センサホルダ12は、外輪2のインナー側嵌合部2aに固定されている。
【0025】
センサホルダ12は樹脂製である。センサホルダ12は、全体が有底円筒状で、円筒状の円筒部分12aと、当該円筒部分12aの開口部を塞ぐ底板部分12bとを有している。センサホルダ12の円筒部分12aには、段部12cとセンサホルダ嵌合部12dとが形成されている。
【0026】
センサホルダ嵌合部12dには、弾性部材であるOリング13が設けられている。センサホルダ嵌合部12dは、Oリング13を介して外輪2のインナー側嵌合部2aに嵌合されている。言い換えると、Oリング13は、センサホルダ嵌合部12dとインナー側嵌合部2aとの間に挟まっている。これにより、センサホルダ12は、シール部材として作用するOリング13によって外輪2のインナー側の開口部を密閉し、潤滑グリースの漏れおよび外部からの雨水や粉塵等の入り込みを防止している。また、センサホルダ嵌合部12dの先端部(アウター側端部)には、全周に亘る環状の爪部12e(
図2参照)が形成されている。爪部12eと段部12cとの間に、Oリング13が設けられている。
【0027】
センサホルダ12の底板部分12bには、磁気センサ15が取り付けられる取付部12hが形成されている。取付部12hは、センサホルダ12の中心部から径方向外側に延びる領域に軸方向インナー側に突出して形成されている。取付部12hのうち磁気エンコーダ11と対向する部分には、当該取付部12hを軸方向に貫通する挿入孔12iが形成されている。挿入孔12iには、磁気センサ15が挿入される。
【0028】
芯金12jは、センサホルダ12を補強する部材である。芯金12jは、例えばフェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)から構成されている。芯金12jは、鋼板をプレス成形して断面L字形の円環状に形成されている。芯金12jは、センサホルダ嵌合部12dの内部にモールドされ、センサホルダ嵌合部12dを補強している。芯金12jは、センサホルダ嵌合部12dの径方向の剛性を向上させるので、外輪2と爪部12eとの嵌め合いが解除され難くなる。
【0029】
密閉部材であるアウター側シール部材14は、主に外輪2とハブ輪3との隙間を塞ぐシール部材である。アウター側シール部材14は、外輪2のアウター側嵌合部2bに円筒部分が嵌合され、ハブ輪3のリップ摺動面3dに複数のシールリップが油膜を介して接触または近接することでハブ輪3に対して摺動可能に構成されている。
【0030】
磁気センサ15は、ハブ輪3と一体的に回転して交互に検出面を通過するエンコーダリング9の各磁性の通過時間を検出する。これにより、車輪用軸受装置1は、エンコーダリング9と磁気センサ15とからなる回転速度検出装置を備えている。なお、本実施形態において、回転速度検出装置は、磁気エンコーダ11以外の他の被検知部を用いる以外の構成であってもよい。
【0031】
以下に、
図2と
図3とを用いて、車輪用軸受装置1における外輪2の溝部2fとセンサホルダ12の爪部12e、およびそれらの嵌め合いについて詳細に説明する。センサホルダ嵌合部12dは、外輪2のインナー側嵌合部2aに嵌合された際に外輪2を押し広げない程度の外径に形成されている。つまり、センサホルダ12には、外輪2に保持される程度の抜け耐力がほとんど発生していない。
【0032】
図2に示すように、外輪2のインナー側嵌合部2aの嵌合面(インナー側開口部の内周面)には、全周に亘る環状の溝部2fが形成されている。溝部2fは、センサホルダ12の環状の爪部12e(薄墨部分)が嵌め合わされることで、センサホルダ12によって外輪2の開口部を密閉可能な位置、幅、深さおよび形状に形成されている。
【0033】
センサホルダ嵌合部12dには、全周に亘る環状の爪部12eが形成されている。爪部12eは、センサホルダ嵌合部12dのアウター側端部であって、径方向視で芯金12j(
図1参照)に重複しない位置に形成されている。爪部12eは、センサホルダ嵌合部12dの径方向外側に向かって突出している。爪部12eのアウター側にはテーパ面12fが形成され、当該テーパ面12fは、爪部12eを外輪2のインナー側嵌合部2aに誘う案内面としての機能を有している。爪部12eのインナー側には、軸方向に垂直な係合面12g(かえり形状)が形成され、外輪2の環状の溝部2fの側面に引っかかる機能を有している。センサホルダ12は、センサホルダ嵌合部12d側から外輪2のインナー側嵌合部2aに挿入される(白塗矢印参照)。
【0034】
図3に示すように、センサホルダ12は、センサホルダ12の段部12cが外輪2のインナー側端に接触した状態で、環状の爪部12e(薄墨部分)が外輪2の環状の溝部2fに嵌め合わされる。これにより、センサホルダ12は、軸方向アウター側への移動を外輪2のインナー側端と段部12cとの接触によって制限され、軸方向インナー側への移動を溝部2fと爪部12eの係合面12gとの係合によって制限されている。また、センサホルダ12は、Oリング13によってインナー側嵌合部2aとセンサホルダ嵌合部12dとの隙間が塞がれている。つまり、センサホルダ12は、圧入嵌合による抜け耐力が発生していなくても外輪2に保持され、外輪2のインナー側の開口部を密閉している。
【0035】
このように構成されるセンサホルダ12を含む車輪用軸受装置1は、外輪2の溝部2fにセンサホルダ12の爪部12eが嵌め合わされることで係合による抜け耐力が発生している。従って、車輪用軸受装置1は、センサホルダ嵌合部12dを外輪2のインナー側嵌合部2aに圧入嵌合する必要がないので、外輪2への径方向外側の力と、センサホルダ12への径方向内側の力が発生していない。これにより、車輪用軸受装置1は、抜け耐力を確保しつつ、外輪2の径方向への膨張と径方向内側の力によるセンサホルダ12の底面の軸方向への膨張を抑制することができる。
【0036】
なお、
図4(A)に示すように、爪部12eには、任意の間隔で径方向のスリット12kが設けられてもよい。爪部12eは、スリット12kによって任意の長さの複数の円弧状に分割されている。スリット12kは、所定の幅で軸方向に爪部12eの先端からセンサホルダ嵌合部12dに到達するまで切り欠くように形成されている。爪部12eは、スリット12kによって分割されることで径方向に弾性変形し易くなる。また、爪部12eは、スリット12kの軸方向の深さによって径方向への弾性変形に必要な外力の大きさを調整することができる。
【0037】
図4(B)に示すように、センサホルダ嵌合部12dを外輪2のインナー側嵌合部2aに挿入する際、環状の爪部12eは、インナー側嵌合部2aの内径よりも大きい外径D1に形成されているので、インナー側嵌合部2aによって径方向内側に押圧される。爪部12eは、径方向内側に押圧されることでインナー側嵌合部2aの内径と同一の外径D2まで縮小される(二点鎖線図参照)。爪部12eは、スリット12kによって外径の縮小分が周方向に吸収されるので、容易に径方向内側に弾性変形される。このように構成することで、車輪用軸受装置1は、センサホルダ12に爪部12eが形成されていてもインナー側嵌合部2aに容易に嵌合することができる。
【0038】
次に、
図5を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置1の第二実施形態における外輪2の所定長さの溝部2gとセンサホルダ12の所定長さの爪部12m、およびそれらの嵌め合いについて詳細に説明する。なお、以下の各実施形態に係る車輪用軸受装置1は、
図1に示す車輪用軸受装置1において、車輪用軸受装置1に替えて適用されるものとして、その説明で用いた名称、図番、符号を用いることで、同じものを指すこととし、以下の実施形態において、既に説明した実施形態と同様の点に関してはその具体的説明を省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0039】
図5(A)と
図5(B)に示すように、外輪2のインナー側嵌合部2aには、複数の所定長さの溝部2gが形成されている。複数の所定長さの溝部2gは、周方向に所定の長さを有する凹部としてインナー側嵌合部2aの嵌合面に形成されている。複数の所定長さの溝部2gは、センサホルダ12の所定長さの爪部12mが嵌め合わされることで、センサホルダ12が外輪2の開口部を密閉可能な位置、幅、深さ、長さおよび形状に形成されている。
【0040】
センサホルダ嵌合部12dには、複数の所定長さの爪部12mが形成されている。所定長さの爪部12mは、周方向に所定の長さを有する凸部としてセンサホルダ嵌合部12dの径方向外側に向かって突出している。所定長さの爪部12mは、外輪2の所定長さの溝部2gと略同一の周方向長さに形成されている。複数の所定長さの爪部12mは、所定長さの溝部2gに嵌め合わされることで、所定長さの爪部12mの周方向の側面が所定長さの溝部2gの周方向の側面に接触している(
図5(B)参照)。つまり、センサホルダ12は、所定長さの溝部2gと所定長さの爪部12mとの係合によって、軸方向の移動と軸周りの回転とが制限されている。
【0041】
このように構成されるセンサホルダ12を含む車輪用軸受装置1は、外輪2の所定長さの溝部2gにセンサホルダ12の所定長さの爪部12mが嵌め合わされることで係合による軸方向の抜け耐力と軸周りの回転に対する耐力が発生している。従って、車輪用軸受装置1は、センサホルダ嵌合部12dを外輪2のインナー側嵌合部2aに圧入嵌合する必要がないので、外輪2への径方向外側の力と、センサホルダ12への径方向内側の力が発生していない。これにより、車輪用軸受装置1は、抜け耐力を確保しつつ、外輪2の径方向への膨張とセンサホルダ12の軸方向への膨張を抑制することができる。
【0042】
次に、
図5(A)と
図6とを用いて、本発明に係る車輪用軸受装置1の第三実施形態における外輪2の所定長さの溝部2hとセンサホルダ12の所定長さの爪部12m、およびそれらの係合について詳細に説明する。
【0043】
図5(A)に示すように、外輪2のインナー側嵌合部2aには、複数の所定長さの溝部2hが形成されている。
図6(A)に示すように、所定長さの溝部2hの周方向側には、所定長さの溝部2hの底面からインナー側嵌合部2aの嵌合面に向かって延びるテーパ面または曲面等からなる案内面2iが形成されている。
【0044】
図6(B)に示すように、センサホルダ12は、軸周りに回転されると(白塗矢印参照)、所定長さの溝部2hに係合されている所定長さの爪部12m(薄墨部分)が案内面2iに接触して径方向内側に押圧する力が加わる(黒塗矢印参照)。所定長さの爪部12mは、案内面2iによって径方向内側に弾性変形されながら案内面2iに沿って周方向に移動される。
【0045】
図6(C)に示すように、所定長さの爪部12mは、案内面2iによって径方向内側に弾性変形されながらインナー側嵌合部2aの嵌合面まで案内される。つまり、所定長さの爪部12mは、所定長さの溝部2hに嵌め合わさっていない状態になる。このように、センサホルダ12は、軸周りに回転されることで所定長さの爪部12mが所定長さの溝部2hの外に押し出されて係合が解除される。センサホルダ12は、所定長さの爪部12mがインナー側嵌合部2aの嵌合面に到達した位置で軸方向に移動することで外輪2から取り外すことができる。なお、案内面は、所定長さの爪部12mの周方向側に形成されていてもよい。
【0046】
車輪用軸受装置1の第二実施形態と第三実施形態とにおいて、外輪2の所定長さの溝部2g・2hの軸方向の位置、周方向の間隔または溝部の長さ等をそれぞれ異なる長さに形成し、センサホルダ12の所定長さの爪部12mを複数の所定長さの溝部2g・2hに対応する位置、大きさに形成してもよい。このように構成することで、車輪用軸受装置1は、外輪2に対してセンサホルダ12を所定の軸方向の位置と軸周りの位置とに配置することができる。また、車輪用軸受装置1は、外輪2に溝部2fが形成され、センサホルダ12に複数の所定長さの爪部12mが形成される構成でもよい。
【0047】
次に、
図7を用いて、車輪用軸受装置の他の実施形態である車輪用軸受装置16における外輪2の爪部2jとセンサホルダ12の溝部12n、およびそれらの係合について詳細に説明する。
【0048】
図7に示すように、外輪2のインナー側嵌合部2aには、環状または複数の所定長さの爪部2j(薄墨部分)が形成されている。爪部2jは、インナー側嵌合部2aの径方向内側に向かって突出している。センサホルダ嵌合部12dには、環状または複数の溝部12nが形成されている。センサホルダ12は、センサホルダ12の段部12cが外輪2のインナー側端に接触した状態で、溝部12nが外輪2の爪部2jに嵌め合わされる。これにより、センサホルダ12は、圧入嵌合による抜け耐力が発生していなくても外輪2に保持され、外輪2のインナー側の開口部を密閉している。
【0049】
本願における車輪用軸受装置1は、内方部材として一つの内輪4が嵌合されたハブ輪3を備え、外方部材である外輪2と内方部材である内輪4とハブ輪3の嵌合体で構成された内輪回転仕様の第3世代構造としているが、外方部材である外輪と内方部材である一対の内輪で構成された第1世代構造や、外方部材である外輪と内方部材である一対の内輪とで構成され、この一対の内輪がハブ輪の外周に嵌合される内輪回転仕様の第2世代構造であってもよい。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0051】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2f 環状の溝部
3 ハブ輪
4 内輪
12 センサホルダ(センサキャップ)
12b センサホルダ嵌合部
12c 取付部
12e 環状の爪部
15 磁気センサ