(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】水性樹脂組成物、塗膜および塗装物品
(51)【国際特許分類】
C08L 33/04 20060101AFI20221221BHJP
C08K 5/41 20060101ALI20221221BHJP
C08L 61/28 20060101ALI20221221BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20221221BHJP
C09D 161/28 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C08L33/04
C08K5/41
C08L61/28
C09D133/04
C09D161/28
(21)【出願番号】P 2018223408
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市原 有人
(72)【発明者】
【氏名】小菅 宏
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-000913(JP,A)
【文献】特開2004-298836(JP,A)
【文献】特開2011-079981(JP,A)
【文献】特開平11-209664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C09D
B32B
C08G12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重量平均分子量が10万~80万であり、かつ、水酸基価が40~130mgKOH/gであるアクリル樹脂、
(B)溶解性パラメータδ(SP値)が5.0~8.0であるアルキルエーテル化メラミン樹脂、
(C)アニオン系界面活性剤、
(D)有機溶剤、および
(E)水
を含有し、前記アクリル樹脂(A)および前記アルキルエーテル化メラミン樹脂(B)が水に分散されている水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルキルエーテル化メラミン樹脂(B)が、エチルエーテル化メラミン樹脂およびプロピルエーテル化メラミン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
(F)Paulingの電気陰性度が1.31~2.02の金属からなるカチオンと、酸解離定数pKaが1.0以下のプロトン酸の脱プロトン化体である対アニオンとからなるルイス酸触媒をさらに含有する、請求項1または2に記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤(D)が、沸点が50~200℃、かつ、20℃における水への溶解度が10g/100ml以下の有機溶剤(Da)を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
前記アニオン系界面活性剤(C)が、炭素数8~16のアルキルスルホコハク酸塩である、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物から形成された塗膜。
【請求項7】
請求項6に記載の塗膜を含む塗装物品。
【請求項8】
請求項1に記載の水性樹脂組成物の製造方法であって、
溶解性パラメータδ(SP値)が5.0~8.0であるアルキルエーテル化メラミン樹脂(B)、アニオン系界面活性剤(C)および有機溶剤(D)を含む混合物(G)を、
重量平均分子量が10万~80万であり、かつ、水酸基価が40~130mgKOH/gであるアクリル樹脂(A)が水に分散しているアクリル樹脂エマルション(A”)に添加
して前記アクリル樹脂(A)および前記メラミン樹脂(B)を水に分散させる工程を含む、水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記混合物(G)が、Paulingの電気陰性度が1.31~2.02の金属からなるカチオンと、酸解離定数pKaが1.0以下のプロトン酸の脱プロトン化体である対アニオンとからなるルイス酸触媒(F)をさらに含む、請求項8に記載の水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記工程が、前記アクリル樹脂エマルション(A”)を1,000~10,000rpmの範囲で撹拌しながら前記混合物(G)を添加する工程である、請求項8または9に記載の水性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂組成物、該組成物からなる塗膜(硬化膜)、および該塗膜を含む塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
水性樹脂組成物は、近年、工場等からの揮発性有機化合物(VOC)対策が求められる中、環境対応塗料の一つとして需要が増大している。また、水性樹脂組成物を工業用途に適用する場合、一般的に塗装・硬化工程において焼付硬化が行われることになるが、エネルギーコストの削減、いわゆるCO2削減のため、工業的により低温で硬化させることができる塗料が求められている。加えて、自動車塗装においては、製造ラインで量産されるボディーの塗装・硬化工程において、鋼板素材とバンパー等を構成するプラスチック素材とを同時に塗装・硬化することを可能にするため、プラスチック素材に対する焼付け温度の制限からも低温硬化技術が求められている。このようなことから、環境対応、エネルギーコストの削減及び塗装・硬化工程の効率化を同時に達成することができる水性塗料技術の開発が急務となっている。
【0003】
特許文献1には、(A)水性樹脂、(B)メラミン核1個当たりの平均イミノ基量が1.0個以上、かつ平均メチロール基量が0.5個以上のメラミン樹脂、および(C)弱酸触媒を含む水性塗料組成物が開示されており、80~120℃で硬化が可能であることが示されている。特許文献1では硬化性の指標をゲル分率で評価しているが、実際の塗膜においては耐溶剤性や硬度などの塗膜物性が重要であり、これらの塗膜物性に関する評価は考慮されておらず実用上の性能が不明である。また、本発明者らの検証の結果、これらの実施例を参考に試験したところ良好な結果は得られなかった。
【0004】
また、特許文献2には、低温硬化可能な樹脂組成物として、エチルエーテル化メラミン(以下「エチル化メラミン」と称し、他のアルキルエーテル化メラミンも同様に称する。)樹脂を用いて、90~180℃で20~30分(より具体的には120℃で30分)の焼き付け条件において無触媒下でポリオールを硬化させることで、メチル化メラミンおよびブチル化メラミンを用いた場合よりも、硬度と耐水性のバランスに優れた硬化膜が形成できることが開示されている。しかしながら、特許文献2に記載されている実施例の希釈溶媒は有機溶剤で構成されており、水性樹脂組成物とした場合の低温硬化性が明らかにされていない。また、本発明者らの検証の結果、エチル化メラミン樹脂は水への溶解性に乏しいため、単に特許文献2の希釈溶媒を水に置き換えただけでは良好な水性樹脂組成物が得られず、また低温硬化性も十分ではないことが明らかとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-174958号公報
【文献】特開2014-098105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐久性および外観に優れた塗膜(硬化膜)を低温で得ることができ、かつ、保存安定性に優れた水性樹脂組成物、該組成物の製造方法および該組成物からなる塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アクリル樹脂とアルキルエーテル化メラミン樹脂とを含む水性樹脂組成物に関し、低温で硬化させることができる技術について種々検討した結果、重量平均分子量および水酸基価が特定の範囲であるアクリル樹脂と、溶解性パラメータδ(SP)が特定の範囲であるアルキルエーテル化メラミン樹脂とを用いることで、従来の技術と比較して優れた低温硬化性および貯蔵安定性が得られることを見出して本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の態様を含む。
【0008】
[1](A)重量平均分子量が10万~80万であり、かつ、水酸基価が40~130mgKOH/gであるアクリル樹脂、
(B)溶解性パラメータδ(SP値)が5.0~8.0であるアルキルエーテル化メラミン樹脂、
(C)アニオン系界面活性剤、
(D)有機溶剤、および
(E)水
を含有し、前記アクリル樹脂(A)および前記アルキルエーテル化メラミン樹脂(B)が水に分散されている水性樹脂組成物。
[2] 前記アルキルエーテル化メラミン樹脂(B)が、エチルエーテル化メラミン樹脂およびプロピルエーテル化メラミン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項[1]に記載の水性樹脂組成物。
[3](F)Paulingの電気陰性度が1.31~2.02の金属からなるカチオンと、酸解離定数pKaが1.0以下のプロトン酸の脱プロトン化体である対アニオンとからなるルイス酸触媒をさらに含有する、項[1]または[2]に記載の水性樹脂組成物。
[4] 前記有機溶剤(D)が、沸点が50~200℃、かつ、20℃における水への溶解度が10g/100ml以下の有機溶剤(Da)を含む、項[1]~[3]のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
[5] 前記アニオン系界面活性剤(C)が、炭素数8~16のアルキルスルホコハク酸塩である、項[1]~[4]のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
[6] 項[1]~[5]のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物から形成された塗膜。
[7] 項[6]に記載の塗膜を含む塗装物品。
[8] 項[1]に記載の水性樹脂組成物の製造方法であって、
溶解性パラメータδ(SP値)が5.0~8.0であるアルキルエーテル化メラミン樹脂(B)、アニオン系界面活性剤(C)および有機溶剤(D)を含む混合物(G)を、
重量平均分子量が10万~80万であり、かつ、水酸基価が40~130mgKOH/gであるアクリル樹脂(A)が水に分散しているアクリル樹脂エマルション(A”)に添加する工程を含む、水性樹脂組成物の製造方法。
[9] 前記混合物(G)が、Paulingの電気陰性度が1.31~2.02の金属からなるカチオンと、酸解離定数pKaが1.0以下のプロトン酸の脱プロトン化体である対アニオンとからなるルイス酸触媒(F)をさらに含む、項[8]に記載の水性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐久性および外観に優れた塗膜(硬化膜)を低温で得ることができ、硬度の高い塗膜を形成することができるとともに、保存安定性に優れた水性樹脂組成物、該組成物の製造方法および該組成物からなる塗膜が提供される。また、低温硬化の実現により、従来のシステムの省エネルギー化のみならず、新たに耐熱性の低いプラスチック等への塗装も可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
[水性樹脂組成物]
本発明の水性樹脂組成物(以下、単に「本発明の組成物」ともいう。)は、
(A)重量平均分子量が10万~80万であり、かつ、水酸基価が40~130mgKOH/gであるアクリル樹脂、
(B)溶解性パラメータδ(SP値)が5.0~8.0であるアルキルエーテル化メラミン樹脂、
(C)アニオン系界面活性剤、
(D)有機溶剤、および
(E)水
を含有し、前記アクリル樹脂(A)および前記アルキルエーテル化メラミン樹脂(B)が水に分散されている。本発明の組成物は、必要に応じてルイス酸触媒(F)をさらに含有してもよい。
【0011】
<アクリル樹脂(A)>
本発明で用いられる、アクリル樹脂(A)(以下、単に「樹脂(A)」ともいう。)としては、重量平均分子量(Mw)が10万~80万であり、かつ、固形分の水酸基価が40~130mgKOH/gであれば特に限定されない。前記樹脂(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよく、2種以上のアクリル樹脂を使用する場合は、用いた樹脂のMwおよび水酸基価の平均値が上記範囲になるように組み合わせてもよい。Mwは、ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定することができる。
【0012】
また、前記樹脂(A)のMwは、好ましくは15万~75万、より好ましくは20万~70万である。Mwが前記範囲内であると、塗装性、塗膜の強度及び硬度が十分であるとともに、塗膜の可撓性が適切であり、耐衝撃性および外観が良好となる。また水性樹脂組成物の貯蔵安定性も良好となる。
【0013】
前記樹脂(A)の水酸基価は、好ましくは45~120mgKOH/g、より好ましくは50~110mgKOH/g(固形分)である。水酸基価が前記範囲内であると、塗膜の架橋密度が高くなり、塗膜の強度及び硬度が十分になるとともに、塗膜の可撓性が適切となり、耐衝撃性および外観が良好となる。また水性樹脂組成物の貯蔵安定性も良好となる。
前記樹脂(A)の市販品としては、例えば、DSM製「NeoCryl XK-103」などが挙げられる。
【0014】
本発明の組成物全量に対する前記樹脂(A)(固形分)の含有割合は、好ましくは1~60質量%、より好ましくは1.1~57.0質量%、さらに好ましくは5.0~40.0質量%である。樹脂(A)の含有割合が前記範囲内であることにより、塗装性、貯蔵安定性、塗膜の強度、硬度および耐摩耗性などに優れる。
本発明の組成物では、前記樹脂(A)は水に分散されている。これにより良好な塗膜を形成することができるとともに、貯蔵安定性にも優れる。
【0015】
<アルキルエーテル化メラミン樹脂(B)>
本発明で用いられるアルキルエーテル化メラミン樹脂(B)(以下、単に「メラミン樹脂(B)」ともいう。)は、メラミン樹脂(該メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとから得られる熱硬化性樹脂のことを指す。)のメチロール基の少なくとも一部がアルキルエーテル化された樹脂を指し、溶解性パラメーター(SP値)が5.0~8.0であれば特に限定されない。メラミン樹脂のSP値が上限を上回ると塗膜にした場合の低温硬化性が低下し、下限を下回ると水性樹脂組成物の貯蔵安定性が低下する。
【0016】
前記メラミン樹脂(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよく、2種以上のメラミン樹脂を使用する場合は、用いた樹脂のSP値の平均値が上記範囲になるように組み合わせてもよい。
【0017】
上記SP値とは、当業者等の間で一般にソルビリティ・パラメーターとも呼ばれるものであって、樹脂の親水性又は疎水性の度合いを示す尺度であり、また樹脂間の相溶性を判断する上でも重要な尺度である。溶解性パラメータは、例えば、濁度測定法等に基づいて数値定量化することができる(参考文献:K.W.Suh,D.H.Clarke J.Polymer.Sci.,A-1,5,1671(1967).)。本明細書中の溶解性パラメータは、濁度測定法により求めたパラメータである。濁度測定法による溶解性パラメータは、例えば、測定対象である樹脂固形分(所定質量)を一定量の良溶媒(アセトン等)に溶解させた後、水又はヘキサン等の貧溶媒を滴下することによって、上記樹脂が不溶化し、溶液中に濁度を生じるまでの各々の滴定量から、上記参考文献等に記載されている公知の計算方法により求めることができる。
【0018】
メラミン樹脂(B)の好ましい例としては、特許文献2に記載のエチル化(エチルエーテル化)メラミン樹脂、およびプロピルエーテル化メラミン樹脂が挙げられる。
メラミン樹脂(B)は、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が、好ましくは800~15000であり、より好ましくは1000~7000であり、さらに好ましくは1100~5000である。メラミン樹脂(B)の重量平均分子量が前記範囲にあることで、適度な粘性を有する樹脂組成物を得ることができ、機械特性、平滑性、外観などに優れる塗膜(硬化物)を得ることができる。
【0019】
メラミン樹脂(B)は、好ましくは、メラミン、ホルムアルデヒドおよび炭素数2または3のアルキル鎖を有するアルコールを、酸触媒の存在下で縮合させて得ることができる。このようなメラミン樹脂(B)の製造方法としては、特許文献2に記載の方法を用いることができる。例えば、エチル化メラミン樹脂の場合、前記アルコールとしてエタノールが用いられるが、該エタノールとしては、含水エタノールを用いてもよく、また、メタノールやイソプロパノールなどを少量含有する、いわゆる混合エタノールを用いてもよい。
【0020】
前記メラミンとしては、特に限定されず、従来公知の方法で合成してもよく、市販品でもよい。前記ホルムアルデヒドは、水溶液であってもよく、固形のパラホルムアルデヒドであってもよい。経済性の観点からホルマリン濃度が80%以上のパラホルムアルデヒドが好ましい。
【0021】
本発明の組成物全量に対する前記メラミン樹脂(B)(固形分)の含有割合は、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは0.2~33.0質量%、さらに好ましくは0.5~20.0質量%である。メラミン樹脂(B)の含有割合が前記範囲内であることにより、硬度と可撓性のバランスに優れた塗膜が得られる。
【0022】
また、前記樹脂(A)の固形分と前記メラミン樹脂(B)の固形分の質量比(A/B)は、好ましくは95/5~45/55、より好ましくは90/10~65/35である。質量比(A/B)が前記範囲であることにより、硬度と可撓性のバランスに優れた塗膜が得られる。
【0023】
本発明の組成物では、前記メラミン樹脂(B)は水に分散されている。これにより良好な塗膜を形成することができるとともに、貯蔵安定性にも優れる。前記メラミン樹脂(B)を水に分散させる、すなわち前記メラミン樹脂(B)を乳化させる方法としては、例えば、メラミン樹脂(B)にせん断応力をかけながら粒子化して水中に分散させる方法が挙げられる。
【0024】
<アニオン系界面活性剤(C)>
本発明で用いられるアニオン系界面活性剤(C)は、前記メラミン樹脂(B)を乳化できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アシル化アミノ酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、N-アシル-N-メチルタウリン塩、α-オレフィンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、アルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ヤシ油脂肪酸メチルタウリン塩;ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム等の脂肪酸石ケン、アルキルリン酸エステル塩、N-ラウロイルグルタミン酸塩、N-パルミトイルグルタミン酸塩、N-ラウロイル-N-エチルグリシン塩、N-ラウロイルザルコシン塩、N-ミリストイル-β-アラニン塩、又はこれらのポリオキシエチレン付加物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中では、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩が好ましく、炭素数が8~16のアルキルスルホコハク酸塩が特に好ましい。また、これらの塩の対イオンとしては、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩などが挙げられる。前記アニオン系界面活性剤(C)は、より好ましくは、炭素数が8~16のアルキルスルホコハク酸金属塩、特に好ましくは、炭素数が8~16のアルキルスルホコハク酸アルカリ金属塩である。アルキル基の炭素数が前記範囲外であると、水性樹脂組成物の貯蔵安定性が低下する恐れがある。
【0025】
本発明の組成物全量に対する前記アニオン系界面活性剤(C)(固形分)の含有割合は、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.02~10.0質量%、さらに好ましくは0.05~5.0質量%である。アニオン系界面活性剤(C)の含有割合が前記範囲内であることにより、低温硬化性と貯蔵安定性のバランスに優れた水性樹脂組成物が得られる。
【0026】
<有機溶剤(D)>
本発明で用いられる有機溶剤(D)は、前記メラミン樹脂(B)を乳化できるものであれば特に限定されるものではないが、沸点が50~200℃、かつ、20℃における水への溶解度が10g/100ml以下の有機溶剤(Da)を含むことが好ましい。沸点が上限を上回ると塗膜にした場合に溶剤が残存し硬化性が低下する恐れがある。また、沸点が下限を下回る、あるいは有機溶剤の水への溶解度が上限を上回ると、水性塗料組成物の貯蔵安定性が低下する恐れがある。
【0027】
有機溶剤(Da)としては、例えば、酢酸n-プロピル(沸点101℃、水溶解度1.6g/100ml)、酢酸イソブチル(沸点118℃、水溶解度0.67g/100ml)、酢酸n-ブチル(沸点126℃、水溶解度0.70g/100ml)等のエステル類;イソブチルメチルケトン(MIBK)(沸点116℃、水溶解度1.7g/100ml)、シクロヘキサノン(沸点156℃、水溶解度10g/100ml)等のケトン類;1-ヘキサノール(沸点157℃、水溶解度0.58g/100ml)、2-エチル-1-ヘキサノール(沸点185℃、水溶解度0.07g/100ml)等のアルコール類;シクロヘキサン(沸点81℃、水溶解度0.006g/100ml)等の脂肪族炭化水素類;トルエン(沸点110℃、水溶解度0.05g/100ml)等の芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらの中でも、アルコール類が乳化性および消泡性に優れるため特に好ましい。これらは、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0028】
本発明の組成物全量に対する前記有機溶剤(D)の含有割合は、好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは0.2~25質量%、更に好ましくは0.5~20質量%である。有機溶剤(D)の含有割合が前記範囲内であることにより、低温硬化性および貯蔵安定性に優れた水性樹脂組成物が得られる。
【0029】
前記有機溶剤(D)は、前記有機溶剤(Da)以外の有機溶剤(Db)を含んでいてもよい。本発明の組成物全量に対する前記有機溶剤(Db)の含有量は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下である。
【0030】
<水(E)>
本発明で用いられる水(E)は、特に限定されるものではなく、一般的に使用されているイオン交換水、蒸留水などを使用することができる。本発明の組成物全量に対する水(E)の含有割合は、好ましくは20~95質量%、より好ましくは30~90質量%、更に好ましくは40~90質量%である。水(E)の含有割合が前記範囲内であることにより、低温硬化性および貯蔵安定性に優れ、VOC排出量の少ない水性樹脂組成物が得られる。
【0031】
<ルイス酸触媒(F)>
本発明で必要に応じて用いられるルイス酸触媒(F)(以下、単に「触媒(F)」ともいう。)としては、例えば、Paulingの電気陰性度が1.31~2.02の金属からなるカチオンと、酸解離定数pKaが1.0以下のプロトン酸の脱プロトン化体である対アニオンとからなるルイス酸触媒が挙げられる。
【0032】
Paulingの電気陰性度が1.31~2.02の金属としては、例えば、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、コバルト、ニッケル、錫、亜鉛、銅、ビスマスなどが挙げられる。これらの中ではカルシウムおよびマグネシウムが硬化速度に優れ、アクリル樹脂(A)を凝集させにくい点で好ましい。
【0033】
酸解離定数pKaが1.0以下のプロトン酸(ブレンステッド酸)としては、硝酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸などが挙げられる。なお、前記酸解離定数は水を溶媒とした時の値である。
【0034】
前記ルイス酸触媒(F)は、硝酸塩、硫酸塩およびハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、硝酸塩またはハロゲン化物がより好ましい。
前記ルイス酸触媒(F)の具体例としては、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸マンガン、硝酸アルミニウム、硝酸亜鉛、硝酸コバルト、硝酸銅、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ビスマスなどが挙げられる。
【0035】
前記触媒(F)の含有量は、前記アクリル樹脂(A)および前記メラミン樹脂(B)の固形分の合計100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.1~4質量部である。前記触媒(F)の含有量が前記範囲内であることにより、貯蔵安定性および低温硬化性に優れた水性樹脂組成物が得られる。
【0036】
<添加剤>
本発明の組成物は、必要に応じて、上述した成分以外の添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の添加剤を用いることができる。具体的には、顔料、染料、レベリング剤、安定向上剤、発泡抑制剤、耐候性向上剤、ワキ防止剤、酸化防止剤、分散剤および紫外線吸収剤などが挙げられる。添加剤は1種単独で用いても、2種以上を用いてもよい。
【0037】
<本発明の組成物の製造方法>
本発明の組成物の製造方法は、前記メラミン樹脂(B)、前記アニオン性界面活性剤(C)および前記有機溶剤(D)を含む混合物(G)を、前記アクリル樹脂(A)が水に分散しているアクリル樹脂エマルション(A”)に添加する工程を含む。前記混合物(G)は、必要に応じて、前記触媒(F)をさらに含んでもよい。
【0038】
前記工程では、前記アクリル樹脂(A)および前記メラミン樹脂(B)を水に分散させるために、前記アクリル樹脂エマルション(A”)を撹拌しながら前記混合物(G)を添加することが好ましい。撹拌は、プロペラミキサー、ディスパー等の一般に使用される撹拌機で行うことが出来る。回転数は、容量により異なるため一概には言えないが、通常1,000~10,000rpmの範囲であり、攪拌時の温度は10~70℃の範囲である。水性樹脂組成物の粒子径は、撹拌強度(=動力×時間)を調節することにより所望の粒子径とし、貯蔵安定性および低温硬化性に優れた水性樹脂組成物が得られる。なお、粒子径は0.5μm以下であることが好ましい。
【0039】
[塗膜および塗装物品]
本発明の組成物は、塗料(コーティング材)用途に好適に用いることができる。すなわち、本発明の塗膜は、本発明の組成物からなることを特徴とし、通常、硬化膜の形態である。また、本発明の塗装物品は、本発明の組成物からなる塗膜を含むことを特徴とする。
【0040】
本発明の塗膜の製造方法は、本発明の組成物を被覆体に塗布した後、60~120℃、好ましくは60~90℃の温度に加熱して硬化させる工程(以下「加熱工程」ともいう。)を含む。このように本発明の組成物は低温で硬化可能であるので、すなわち加熱を開始してから硬化温度に達するまでの時間を短くできるので、本発明の方法は生産性に優れる。
【0041】
前記加熱工程における加熱時間は、好ましくは1~60分、より好ましくは1~40分、さらに好ましくは5~30分である。このように本発明の組成物は短い加熱時間で硬化可能であることから、本発明の方法は生産性に優れる。なお、加熱は二段階以上で行ってもよい。さらに、前記加熱工程は、減圧下で行ってもよく、不活性ガス雰囲気下等で行ってもよい。
【0042】
前記被覆体(基材)としては、例えば、鉄、アルミ、亜鉛、ステンレス及びこれらに表面処理をされたもの等の金属素材、塩化ビニル,ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS及びこれらに表面処理をされたもの等の樹脂素材などが挙げられる。また、これらの被覆体に、必要に応じてプライマー、中塗り、上塗り塗料が塗装されたものも使用することができる。
【0043】
前記のとおり、本発明では低温かつ短時間での硬化が可能であることから、前記被覆体の熱変形を抑制することができる。すなわち、本発明では、耐熱性に劣る被覆体を用いることができるため、所望の用途に応じて、様々な被覆体を選択することができる。
【0044】
本発明の組成物を前記被覆体に塗布する方法としては、特に限定されず、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、グラビアコート法、スピンコート法、および、バーコーターやドクターブレードを用いる方法などが挙げられる。
前記塗膜(硬化膜)の厚さは、特に限定されず、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは5~50μmであり、より好ましくは10~20μmである。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下において「部」は、特記しない限り質量部を示す。
【0046】
[材料]
下記実施例および比較例において、組成物(コーティング材)を調製する際に用いた原料および組成物を塗布する際に用いた被覆体(基材)は以下のとおりである。
【0047】
<アクリル樹脂(A)>
・(A-1)DSM製「NeoCryl XK-102」
固形分:40%
重量平均分子量:20万
水酸基価:52mgKOH/g
・(A-2)DSM製「NeoCryl XK-103」
固形分:45%
重量平均分子量:43万
水酸基価:106mgKOH/g
【0048】
<樹脂(A)以外のアクリル樹脂(A')>
・(A'-1)DSM製「NeoCryl XK-110」
固形分:46.5%
重量平均分子量:2万
水酸基価:84mgKOH/g
【0049】
・(A'-2)アクリル樹脂水分散体
還流冷却器、撹拌器、温度計および滴下ロートを装備した反応容器に、脱イオン水122.2部およびアニオン性乳化剤(花王(株)社製「ラテムルPD-104」、固形分20%)0.46部を加え、窒素置換後、80℃に保った。これに過硫酸アンモニウム0.025部を添加し、添加15分後から下記組成をエマルション化してなるプレエマルションを3時間にわたって滴下した。
脱イオン水 142.8部
メチルメタクリレート 45.0部
n-ブチルアクリレート 33.0部
2-エチルヘキシルアクリレート 10.0部
2-ヒドロキシエチルアクリレート 7.0部
アクリル酸 5.0部
ラテムルPD-104 9.0部
過硫酸アンモニウム 0.10部
滴下終了後、さらに2時間80℃に保持した。その後40~60℃に温度を下げ、アンモニア水でpH7~8に調整し、重量平均分子量30万、水酸基価34mgKOH/g、不揮発分40.4%のアクリル樹脂水分散体(A'-2)を得た。
【0050】
・(A'-3)アクリル樹脂水分散体
還流冷却器、撹拌器、温度計および滴下ロートを装備した反応容器に、脱イオン水122.2部およびアニオン性乳化剤(花王(株)社製「ラテムルPD-104」、固形分20%)0.46部を加え、窒素置換後、80℃に保った。これに過硫酸アンモニウム0.025部を添加し、添加15分後から下記組成をエマルション化してなるプレエマルションを3時間にわたって滴下した。
脱イオン水 142.8部
メチルメタクリレート 40.0部
n-ブチルアクリレート 15.0部
2-エチルヘキシルアクリレート 5.0部
2-ヒドロキシエチルアクリレート 35.0部
アクリル酸 5.0部
ラテムルPD-104 9.0部
過硫酸アンモニウム 0.10部
滴下終了後、さらに2時間80℃に保持した。その後40~60℃に温度を下げ、アンモニア水でpH7~8に調整し、重量平均分子量30万、水酸基価169mgKOH/g、不揮発分40.4%のアクリル樹脂水分散体(A'-3)を得た。
【0051】
・(A'-4)アクリル樹脂水分散体
還流冷却器、撹拌器、温度計および滴下ロートを装備した反応容器に、脱イオン水122.2部およびアニオン性乳化剤(花王(株)社製「ラテムルPD-104」、固形分20%)0.46部を加え、窒素置換後、80℃に保った。これに過硫酸アンモニウム0.025部を添加し、添加15分後から下記組成をエマルション化してなるプレエマルションを3時間にわたって滴下した。
脱イオン水 142.8部
メチルメタクリレート 40.0部
n-ブチルアクリレート 30.0部
2-エチルヘキシルアクリレート 10.0部
2-ヒドロキシエチルアクリレート 15.0部
アクリル酸 5.0部
ラテムルPD-104 9.0部
過硫酸アンモニウム 0.03部
滴下終了後、さらに2時間80℃に保持した。その後40~60℃に温度を下げ、アンモニア水でpH7~8に調整し、重量平均分子量100万、水酸基価72mgKOH/g、不揮発分40.4%のアクリル樹脂水分散体(A'-4)を得た。
【0052】
<アルキルエーテル化メラミン樹脂(B)>
≪エチル化メラミン樹脂≫
・(B-1)エチル化メラミン樹脂溶液
撹拌機、温度計、還流コンデンサーおよび窒素導入管を備えた4つ口フラスコにメラミン126g(1.0モル)、ホルマリン濃度が92%のパラホルムアルデヒド130g(4.0モル)およびエタノール276g(6.0モル)を仕込み、還流温度まで昇温した。還流温度で1時間メチロール化反応を行った後、パラトルエンスルホン酸の50%水溶液0.180g(0.53ミリモル)を加え、還流状態にてエチルエーテル化反応を3時間行った。その後、20%水酸化ナトリウム溶液0.160g(0.80ミリモル)で反応生成物を中和し、次いで減圧下でエタノールおよび水を留去した後、イソブタノールで不揮発分70重量%となるまで希釈することでエチル化メラミン樹脂溶液(B-1)を得た。得られた樹脂のSP値は6.9、Mwは2,000であった。
【0053】
・(B-2)エチル化メラミン樹脂溶液
撹拌機、温度計、還流コンデンサーおよび窒素導入管を備えた4つ口フラスコにメラミン126g(1.0モル)、ホルマリン濃度が92%のパラホルムアルデヒド196g(6.0モル)およびエタノール276g(6.0モル)を仕込み、還流温度まで昇温した。還流温度で1時間メチロール化反応を行った後、パラトルエンスルホン酸の50%水溶液0.180g(0.53ミリモル)を加え、還流状態にてエチルエーテル化反応を3時間行った。その後、20%水酸化ナトリウム溶液0.160g(0.80ミリモル)で反応生成物を中和し、次いで減圧下でエタノールおよび水を留去した後、イソブタノールで不揮発分70重量%となるまで希釈することでエチル化メラミン樹脂溶液(B-2)を得た。得られた樹脂のSP値は7.3、Mwは2,500であった。
【0054】
≪プロピル化メラミン樹脂≫
・(B-3)プロピル化メラミン樹脂溶液
撹拌機、温度計、還流コンデンサーおよび窒素導入管を備えた4つ口フラスコにメラミン126g(1.0モル)、ホルマリン濃度が92%のパラホルムアルデヒド196g(6.0モル)および2-プロパノール361g(6.0モル)を仕込み、還流温度まで昇温した。還流温度で1時間メチロール化反応を行った後、パラトルエンスルホン酸の50%水溶液0.180g(0.53ミリモル)を加え、還流状態にてプロピルエーテル化反応を3時間行った。その後、20%水酸化ナトリウム溶液0.160g(0.80ミリモル)で反応生成物を中和し、次いで減圧下で2-プロパノールおよび水を留去した後、イソブタノールで不揮発分70重量%となるまで希釈することでプロピル化メラミン樹脂溶液(B-3)を得た。得られた樹脂のSP値は7.7、Mwは3,000であった。
【0055】
<樹脂(B)以外のアルキルエーテル化メラミン樹脂(B’)>
≪ブチル化メラミン樹脂≫
・(B'-1)三井化学(株)製「ユーバン20SB」
溶剤:キシレン、n-ブタノールの混合溶剤
固形分:50%
SP値:9.6
Mw:5,500
≪メチルブチル化メラミン樹脂≫
・(B'-2)ダイセル・オルネクス社製「サイメル254」
溶剤:iso-ブタノール
固形分:60%
SP値:11.0
Mw:1,000
・(B'-3)ダイセル・オルネクス社製「サイメル202」
溶剤:iso-ブタノール
固形分:80%
SP値:12.0
Mw:1,000
≪メチル化メラミン樹脂≫
・(B'-4)ダイセル・オルネクス社製「サイメル325」
溶剤:iso-ブタノール
固形分:70%
SP値:14.0
Mw:8,00
<アニオン系界面活性剤(C)>
≪アルキルスルホコハク酸ナトリウム≫
・(c-1)花王(株)製「ペレックスTR」
溶剤:メタノール
固形分:70%
・(c-2)花王(株)製「ペレックスOT-P」
溶剤:メタノール
固形分:70%
<有機溶剤(D)>
≪有機溶剤(Da)≫
・(D-1)1-ヘキサノール
沸点:157℃
水への溶解度:0.58g/100ml
・(D-2)2-エチル-1-ヘキサノール
沸点:185℃
水への溶解度:0.07g/100ml
・(D-3)iso-ブタノール
沸点:108℃
水への溶解度:8.5g/100ml
≪有機溶剤(Db)≫
・(D-4)メタノール
沸点:65℃
水への溶解度:∞g/100ml
<触媒(F)>
・(F-1)硝酸カルシウム四水和物
・(F-2)硝酸マグネシウム六水和物
<被覆体(基材)>
・鋼板((株)テストピース製、JIS-G3141(SPCC,SB),5Φ1個 PB-N144、150mm×70mm×厚さ0.8mm)
【0056】
[水性樹脂組成物の製造方法]
<実施例1~11>
100mlフラスコに、メラミン樹脂(B)、アニオン系界面活性剤(C)、有機溶剤(D)および触媒(F)を表1に示す割合で加えて混合し、混合物(G)を調製した。次いで、500mlフラスコにアクリル樹脂(A)を表1に示す割合で加え、2,000rpmで撹拌しているところに混合物(G)を加えた後、水(E)で希釈することにより、配合液を得た。
【0057】
得られた配合液を鋼板(150mm×70mm×厚さ0.8mm)に、硬化膜厚が15μmになるようにバーコーターを用いて塗布した後、該組成物を80℃で20~30分間加熱して硬化させることにより、塗膜付試験板を作成して評価した。なお、鉛筆硬度の評価については80℃×30分で加熱硬化させた試験片の結果を示す。評価結果を表1に示す。
【0058】
<比較例1>
100mlフラスコに、メラミン樹脂(B)、アニオン系界面活性剤(C)、有機溶剤(D)、触媒(F)を表2に示す割合で加えて混合し、混合物(G)を調製した。次いで、500mlフラスコにアクリル樹脂(A)を表2に示す割合で加え、20rpmで撹拌しているところに混合物(G)を加えた後、水(E)で希釈することにより、配合液を得た。しかしながら、本組成物は分離がみられ、すなわち良好な分散体とならず、塗膜を得ることが困難であったため、後述する評価を行うことができなかった。
【0059】
<比較例2~11>
100mlフラスコに、メラミン樹脂(B)もしくは(B')、アニオン系界面活性剤(C)、有機溶剤(D)および触媒(F)を表2に示す割合で加えて混合し、混合物(G)を作製した。次いで、500mlフラスコにアクリル樹脂(A)もしくは(A')を表2に示す割合で加え、2,000rpmで撹拌しているところに混合物(G)を加えた後、水(E)で希釈することにより、配合液を得た。
【0060】
得られた配合液を鋼板(150mm×70mm×厚さ0.8mm)に、硬化膜厚が15μmになるようにバーコーターを用いて塗布した後、該組成物を80℃で20~30分間加熱して硬化させることにより、塗膜付試験板を作成して評価した。なお、鉛筆硬度の評価については80℃×30分で加熱硬化させた試験片の結果を示す。評価結果を表2に示す。
【0061】
[評価項目および評価方法]
<配合液の外観>
実施例および比較例で得られた組成物を、透明なガラス製のサンプル瓶に入れて蓋をして25℃で30分静置した。外観を目視で観察し、析出物や未溶解物がない場合を「〇」、析出物や未溶解物がある場合を「×」と判定した。
【0062】
<配合液の貯蔵安定性>
ガラス製のサンプル瓶に入れた組成物を40℃で8時間静置した後、サンプル瓶を傾けて外観を目視で観察し、流動性がみられるもの(組成物が流れるもの)を「〇」、流動性がみられない又は分離がみられるものを「×」とした。
【0063】
<塗膜の外観>
実施例および比較例で得られた塗膜付試験板の塗膜を目視で観察し、異物などがなく表面が平滑な場合を「〇」、全面に異物や凹凸が見られる場合または光沢が損なわれている場合を「×」と評価した。
【0064】
<耐溶剤性評価:キシレンラビングテスト>
実施例および比較例で得られた塗膜付試験板の塗膜表面を、ガーゼにキシレンを浸したもので、荷重500gでこすり、被塗装材の表面が現れるまでの往復回数の一桁目を四捨五入し、往復回数を評価した。80℃×20分で硬化させた場合においては、100回以上を「〇」、99~50回を「△」、49~0回を「×」と判定し、80℃×30分で硬化させた場合においては、200回以上を「◎」、100~199回を「〇」、30~90回を「△」、0~20回を「×」と判定した。
【0065】
<鉛筆硬度>
JIS K 5600-5-4に準じて、試験塗板面に対し約45°の角度に鉛筆の芯を当て、芯が折れない程度に強く試験塗板面に押し付けながら前方に均一な速さで約10mm動かした。塗膜に傷が生じなかった最も硬い鉛筆の硬度記号を鉛筆硬度とした。
【0066】
【0067】
【0068】
なお、表2中の「(A)の合計(質量部)」および「(B)の合計(質量部)」等における(A)および(B)には、それぞれ(A’)および(B’)が含まれる。