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  • 特許-セラミック膜フィルタ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】セラミック膜フィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20221221BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20221221BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20221221BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20221221BHJP
   C04B 41/85 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
C04B41/85 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018509027
(86)(22)【出願日】2017-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2017010778
(87)【国際公開番号】W WO2017169865
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2019-10-23
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2016068395
(32)【優先日】2016-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稗田 耕士
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 宗之
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】原 和秀
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-284328(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146354(WO,A1)
【文献】特開2002-128512(JP,A)
【文献】特開2009-255035(JP,A)
【文献】国際公開第2013/147272(WO,A1)
【文献】特開2002-282629(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0071962(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D71/02
B01D69/02-69/12
C04B38/00
C04B41/85-41/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流通するセルを形成する基材と、
前記基材上に形成された中間膜と、
前記中間膜上に形成された分離膜と、を備え、
水中での初回発泡圧が0.08MPa以上であり、初回発泡時の発泡セル数の割合が総セル数の9%以下であり、
前記中間膜は、平均の膜厚が120μm以上450μm以下である、
セラミック膜フィルタ。
【請求項2】
前記分離膜は、平均の膜厚が5μm以上20μm以下である、請求項1に記載のセラミック膜フィルタ。
【請求項3】
水中発泡評価で求めた大きさが4μm以下のクラックがある前記セルが総セル数の9%以下であり、前記中間膜は、平均の膜厚が120μm以上450μm以下である、請求項1又は2に記載のセラミック膜フィルタ。
【請求項4】
前記中間膜は、平均細孔径が0.1μm以上0.6μm以下の範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセラミック膜フィルタ。
【請求項5】
前記中間膜は、酸化アルミニウム及び酸化チタンのうちいずれかを主原料として含み、粘土及び酸化チタンのうちいずれかを焼結材として含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のセラミック膜フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する本開示は、セラミック膜フィルタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミック膜フィルタとしては、精密濾過膜(MF膜)である多孔質基材上に形成した、平均細孔径が2~20nm、膜厚が0.1~1.0μmの限外濾過膜(UF膜)であるチタニアUF膜上に、その一部が、チタニアUF膜の細孔内、又はチタニアUF膜及び多孔質基材の細孔内に浸透しているセラミック多孔質膜であるセラミック膜を形成したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このセラミック膜フィルタでは、欠陥が少なく、膜厚が薄く均一で分解能も高いセラミック多孔質膜を備えたセラミックフィルタを提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-255035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1に記載されたセラミック膜フィルタでは、基材上に形成する膜をより厚くすることは検討されていなかった。基材上に形成する膜厚をより厚くすると、乾燥時に切れが発生するなど、欠陥が生じやすく、このような膜の欠陥をより抑制するこことが望まれていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、膜欠陥の発生をより抑制することができるセラミック膜フィルタ及びその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した主目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、比較的分子量の小さい鎖状構造を有する樹脂を添加した原料スラリーを用いて基材上に中間膜を形成するとこの中間膜の欠陥の発生をより抑制することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示するセラミック膜フィルタは、
流体が流通するセルを形成する基材と、
前記基材上に形成された中間膜と、
前記中間膜上に形成された分離膜と、を備え、
4μm以下のクラックがある前記セルが総セル数の9%以下であるものである。
【0008】
本明細書で開示するセラミック膜フィルタの製造方法は、
鎖状構造を有し分子量が1000以下の樹脂である乾燥クラック抑制剤と解膠材と多糖類化合物とを含む有機バインダと、セラミック原料と、溶媒とを混合した原料スラリーを用いて中間膜の原料層を基材上に形成する形成工程、を含み、
前記形成工程では、前記乾燥クラック抑制剤を前記セラミック原料の100質量部に対して0.25質量部以上0.95質量部以下の範囲で添加し、前記解膠材を前記セラミック原料の100質量部に対して0.15質量部以上0.25質量部以下の範囲で添加し、前記多糖類化合物を前記セラミック原料の100質量部に対して0.95質量部以下の範囲で前記原料スラリーに添加し、膜厚が平均150μm以上480μm以下である前記原料層を形成するものである。
【発明の効果】
【0009】
本明細書で開示するセラミック膜フィルタ及びその製造方法は、基材上に形成された中間膜の膜欠陥の発生をより抑制することができる。この理由は、以下のように推察される。例えば、原料スラリーに含まれる有機バインダの乾燥クラック抑制剤は、分子量が1000以下と比較的低く、原料スラリーの粘度の上昇をより抑制することができると考えられる。また、このような原料スラリーでは、有機バインダにより乾燥時の切れなどを抑制することができると推察される。このため、例えば、100μm以上などの中間膜の厚膜化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】セラミック膜フィルタ10の構成の概略を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本開示を実施するための形態を図面を用いて説明する。図1は、本開示の一実施形態であるセラミック膜フィルタ10の構成の概略を示す説明図である。セラミック膜フィルタ10は、多孔質基材13と、多孔質基材13上に形成された中間膜15と、中間膜15上に形成された分離膜18とを備える。セラミック膜フィルタ10は、その外周面にスリット17が形成されており、両端面にはシール部19が形成されている。このセラミック膜フィルタ10は、分離対象を含む処理対象流体を分離するフィルタである。
【0012】
セラミック膜フィルタ10は、4μm以下のクラックがあるセルが総セル数の9%以下であるものである。即ち、4μmを超えるクラックがなく、中間膜15、分離膜18の欠陥が非常に少ないものである。このセラミック膜フィルタ10は、水中での初回発泡圧が0.08MPa以上であり、発泡セル数の割合が総セル数の9%以下であるものとしてもよい。なお、「水中での初回発泡圧が0.08MPa以上であり、発泡セル数の割合が総セル数の9%以下である」ものは、「4μmを超えるクラックがなく、且つ4μm以下のクラックがあるセルが総セル数の9%以下である」に相当する。なお、クラックは、流体が漏れ出てしまうようなものが該当し、1.0μm以上の大きさのものをいうものとする。ここで、水中での発泡圧は、フィルタを常温(20℃)、常圧(大気圧)の水中に入れ、フィルタの側面側(スリット17)から徐々に空気を加圧し、出口側(又は入口側)から発泡したときの圧力(MPa)とする。また、このとき発泡したセル数を測定し、全体のセル数に対する発泡セル数に割合を求めるものとする。この発泡圧は、0.15MPa以上であることが好ましい。また、この発泡セル率は、2.0%以下であるものとしてもよい。このような範囲であれば、膜欠陥がより少なく、好ましい。なお、発泡セル率が3%を超えると、例えば、JIS-K3835の除菌試験においては、除菌性能が99.99%を下回る。
【0013】
セラミック膜フィルタ10は、例えば、ガス分離、水分離に用いることができる。セラミック膜フィルタ10は、例えば、分離膜18としてゼオライト膜を有するものとしてもよい。この分離膜18は、除菌用のMF膜として用いられるものとしてもよい。特に、膜面積の大きいセラミック膜フィルタ10において、欠陥の少ない、原料粒子の小さいゼオライト膜を製膜することができる。また、完全除菌できるような膜欠陥の少ないフィルタとすることができる。
【0014】
多孔質基材13は、分離対象の流体の流路となる複数のセル12が形成されている。このセラミック膜フィルタ10では、入口側からセル12へ入った処理対象流体のうち、分離膜18を透過可能な分子サイズを有する流体が、分離膜18、中間膜15及び多孔質基材13を透過し、セラミック膜フィルタ10の側面からスリット17を介して透過流体として送出される。一方、分離膜18を透過できない非透過流体は、セル12の流路に沿って流通し、セル12の出口側から送出される。多孔質基材13は、複数のセル12を備えたモノリス構造を有しているものとしてもよいし、1つのセルを備えたチューブラー構造を有しているものとしてもよい。その外形は、特に限定されないが、円柱状、楕円柱状、四角柱状、六角柱状などの形状とすることができる。あるいは、多孔質基材13は、断面多角形の管状としてもよい。
【0015】
多孔質基材13は、例えば、平均細孔径が0.1μm~数100μm程度であるものとしてもよい。また、多孔質基材13は、気孔率が20体積%以上70体積%以下の範囲であるものとしてもよい。多孔質基材13を構成する主材料としては、酸化アルミニウム(α-アルミナ、γ-アルミナ、陽極酸化アルミナ等)、酸化チタン(チタニア)、酸化ケイ素(シリカ)、ジルコニア、コージェライト、ムライトなどのうち1以上のセラミックスを挙げることができる。このような多孔質基材13は、耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性などに優れたものとすることができる。このうち、基材の作製、入手の容易さの点から、アルミナが好ましい。多孔質基材13は、平均粒径0.001~30μmのアルミナ粒子を原料として成形、焼結させたものが好ましい。この多孔質基材13は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。多孔質基材13は、例えば、中間膜15が表面に形成された細粒部と、細粒部が表面に形成された粗粒部と、を含むものとしてもよい。多孔質基材13は、中間膜15よりも気孔径が大きい部材であるものとしてもよいし、気孔率が高い部材であるものとしてもよい。また、多孔質基材13は、例えば押し出し成型等によって得られた部材としてもよい。
【0016】
中間膜15は、分離膜18の下地層として機能する膜である。この中間膜15は、例えば、100μm以上の厚さで多層ではなく単層で形成された支持層であるものとしてもよい。単層(一体)で形成されると、多層で形成されたものに比して界面が少なく、欠陥が入りにくく好ましい。中間膜15は、平均の膜厚が120μm以上450μm以下であるものとしてもよい。このように厚膜で且つ欠陥が少ないと、分離膜18の欠陥の活性もより抑制することができる。中間膜15は、中心セルの膜厚と最外周セルの膜厚との膜厚差の最大値が50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。中間膜15の膜厚は、フィルタをセルの形成方向に切断して電子顕微鏡観察(SEMやSTEM、TEM)で観察し、中心のセルと上下の最外周のセルとの中間膜を任意の24箇所で測定するものとする。中間膜15の膜厚差は、中心セルと最外周セルとの差を求めその最大値とする。中間膜15の平均の膜厚は、測定したすべての膜厚を平均するものとする。中間膜15は、平均細孔径が0.1μm以上0.6μm以下の範囲であることが好ましい。
【0017】
中間膜15を構成する主材料としては、アルミナ、チタニア、シリカ、コージェライト、ジルコニア、ムライトなどのうち1以上のセラミックスを挙げることができる。このような中間膜15は、耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性などに優れたものとすることができる。このうち、中間膜15の作製、入手の容易さの点から、アルミナが好ましい。中間膜15は、主材料のほか、5質量%以上20質量%以下の範囲の粘土及び1質量%以上35質量%以下の範囲の酸化チタンのうち1以上の焼結材を含むものとしてもよい。焼結材を含むものとすると、機械的強度をより高めることができる。
【0018】
分離膜18は、中間膜15上に形成され、処理対象流体から分離対象を選択的に透過する膜である。分離膜18は、例えば、平均の膜厚が5μm以上20μm以下の範囲であるものとしてもよい。膜厚が5μm以上では膜の強度をより高めることができ、20μm以下では分離対象の透過速度を確保することができる。分離膜18は、中心セルの膜厚と最外周セルの膜厚との膜厚差の最大値が5μm以下であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることが更に好ましい。分離膜18の膜厚は、フィルタをセルの形成方向に切断して電子顕微鏡観察(SEMやSTEM、TEM)で観察し、中心のセルと上下の最外周のセルとの分離膜を任意の24箇所で測定するものとする。分離膜18の膜厚差は、中心セルと最外周セルとの差を求めその最大値とする。分離膜18の平均の膜厚は、測定したすべての膜厚を平均するものとする。分離膜18は、平均細孔径が0.05μm以上0.5μm以下の範囲であることが好ましい。
【0019】
分離膜18を構成する主材料としては、アルミナ、チタニア、シリカ、コージェライト、ジルコニア、ムライトなどのうち1以上のセラミックスを挙げることができる。このような分離膜18は、耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性などに優れたものとすることができる。このうち、分離膜18の作製、入手の容易さの点から、アルミナが好ましい。あるいは、分離膜18は、ゼオライトを含むゼオライト膜としてもよい。ゼオライトとしては、例えば、LTA(A型)、MFI(ZSM-5、シリカライト)、MOR(モルデナイト)、AFI(SSZ-24)、FER(フェリエライト)、FAU(X型、T型)、DDR(デカ-ドデカシル-3R)などが挙げられる。
【0020】
シール部19は、多孔質基材13の端面を被覆するように配置された流体不透過性のシール材である。このシール部19は、アルカリ成分を含むガラスで形成されているものとしてもよい。シール部19は、基材端面から基材内部に処理対象流体が浸入することを防止する。
【0021】
次に、セラミック膜フィルタ10の製造方法について説明する。セラミック膜フィルタ10の製造方法は、例えば、基材を作製する基材作製工程と、基材上に中間膜を形成する中間膜形成工程と、中間膜上に分離膜を形成する分離膜形成工程とを含むものとしてもよい。なお、基材を用意して基材作製工程を省略してもよいし、中間膜まで作製し、分離膜形成工程を省略してもよい。
【0022】
(基材作製工程)
この工程では、多孔質基材を作製する。基材の原料は、セラミック膜フィルタ10で挙げたものとすればよい。また、基材の原料は、平均粒径が第1粒径である第1主原料Xと第1粒径より小さい平均粒径である第2粒径を有する第2主原料Yとを混合するものとしてもよい。第1主原料Xの第1粒径は、例えば、平均粒径50μm以上200μm以下の範囲としてもよい。第2主原料Yの第2粒径は、例えば、平均粒径20μm以上100μm以下の範囲としてもよい。第1主原料Xと第2主原料Yとの質量比X/Yは、1/2~2/1の範囲としてもよい。また、この原料には、焼結材を添加することが好ましい。焼結材としては、例えば、ガラスや粘土、チタニアなどが挙げられる。焼結材の添加量は、セラミック原料との全体に対して、5質量%以上20質量%以下の範囲とすることが好ましく、15質量%以下の範囲とすることがより好ましい。基材の形状は、例えば、図1に示すフィルタ形状などに押出成形で成形するものとしてもよい。フィルタ形状としては、直径30mm×長さ500mm、セル数37個の形状や、直径90mm×長さ500mm、セル数360個の形状や、は、直径180mm×長さ1000mm、セル数2000個の形状などにすることができる。この成形体を1000℃以上1400℃以下の温度範囲、酸化雰囲気中で焼成して、セラミック基材の焼成体を得ることができる。ここで、「原料粒子の平均粒径」は、レーザー式粒度分布測定器(HORIBA社製LA-920)で計測した値とする。
【0023】
(中間膜形成工程)
この工程では、中間膜の原料層を基材上に形成する。また、この工程では、鎖状構造を有し分子量が1000以下の樹脂である乾燥クラック抑制剤を含む有機バインダと、セラミック原料と、溶媒とを混合した原料スラリーを用いるものとする。セラミック原料としては、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア、コージェライト、ムライトなどのうち1以上のセラミックスを挙げることができる。このうち、アルミナ、チタニアなどが好ましい。セラミック原料には、主原料と焼結材とが含まれることが好ましい。焼結材としては、粘土及びチタニアを用いることが好ましく、その添加量は、粘土ではセラミック原料全体に対して5質量%以上20質量%以下の範囲が好ましく、チタニアでは、セラミック原料全体に対して1質量%以上35質量%以下の範囲が好ましい。原料スラリーの濃度は、例えば、セラミック原料の固形分で10質量%以上20質量%以下の範囲とすることができる。
【0024】
有機バインダに含まれる乾燥クラック抑制剤としては、ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。この乾燥クラック抑制剤の分子量は、300以上600以下の範囲であることがより好ましい。この工程では、乾燥クラック抑制剤を、セラミック原料の100質量部に対して0.25質量部以上0.95質量部以下の範囲で添加することが好ましい。添加量が0.25質量部以上では乾燥きれによる膜欠陥の発生をより抑制することができ、0.95質量部以下では製膜後の脱水を十分に行うことができる。また、この工程では、解膠材と多糖類化合物とを更に含む有機バインダを用いることが好ましい。解膠材としては、例えば、ポリカルボン酸ナトリウムを用いることができる。この工程では、解膠材をセラミック原料の100質量部に対して0.15質量部以上0.25質量部以下の範囲で添加することが好ましい。解膠材の添加量が0.15質量部以上では膜原料が充分に分散し、凝集粒子による膜欠陥の発生を抑制することができる。また、この添加量が0.25質量部以下では、再凝集の発生をより抑制することができる。解膠材は、徐々に添加量を増やすと粘性が低下するが、更に添加すると、粘性が上昇し始めるか、または粘性が変化しなくなる。解膠材の添加量は、スラリー粘性より予め求めておくことが好ましい。また、多糖類化合物としては、例えば、ウエランガムなどが挙げられる。この工程では、多糖類化合物をセラミック原料の100質量部に対して0.95質量部以下の範囲で添加することが好ましい。多糖類化合物の添加量が0.95質量部以下では、真空などによる脱水ができ、より確実に製膜することができる。また、この多糖類化合物の添加量は、0.2質量部以上であることが好ましい。多糖類化合物の添加量が0.2質量部以上では、膜の厚みを均一にすることができ、膜欠陥の発生をより抑制でき、好ましい。
【0025】
この工程では、平均の膜厚が150μm以上480μm以下である原料層を形成することが好ましい。上述した有機バインダの配合により、切れなどをより抑制することができるため、例えば、150μm以上などの厚膜を、1回の膜形成により行うことができる。なお、この中間膜において、より厚膜化を図る際に有機バインダの配合がより有効になるが、100μm以下など、より薄い中間膜においても、欠陥の発生をより抑制することができる。この中間膜の原料層の形成において、平均粒径が第1粒径である第1主原料Aと第1粒径より小さい平均粒径である第2粒径を有する第2主原料Bとを質量比A/Bが0.6以上2以下の範囲で混合したセラミック原料を用いることが好ましい。第1粒径は、例えば、平均粒径が1μm以上5μm以下の範囲としてもよい。また、第2粒径は、例えば、平均粒径が0.1μm以上1μm以下の範囲としてもよい。粒径の異なる原料を混合すると、1回の膜形成、焼成で中間膜を作製することができる。中間膜の原料層を基材上に形成する方法としては、例えば、クロスフローろ過製膜装置を用いて行うことができる。この方法において、中間膜の厚さの制御は、濾液の流量により行うことができる。
【0026】
(分離膜形成工程)
この工程では、中間膜上に分離膜を形成する。分離膜の形成は、例えば、有機バインダと、セラミック原料と、溶媒とを混合した原料スラリーを用いるものとしてもよい。セラミック原料としては、上述したアルミナ、チタニアや、ゼオライトなどを用いることができる。有機バインダには、解膠材と、多糖類化合物と、水溶性アクリル樹脂とを含むものとしてもよい。解膠材や多糖類化合物は上述したものを利用できる。分離膜の形成において、解膠材の添加量は、セラミック原料の100質量部に対して0.25質量部以上0.95質量部以下の範囲であることが好ましい。また、多糖類化合物の添加量は、セラミック原料の100質量部に対して0.95質量%以下の範囲であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。また、水溶性アクリル樹脂の添加量は、0.5質量%以上2.4質量%以下の範囲であることが好ましい。このような範囲では、膜欠陥の発生をより抑制して分離膜を作製することができる。原料スラリーの濃度は、例えば、セラミック原料の固形分で5質量%以上10質量%以下の範囲とすることができる。この工程では、平均の膜厚が5μm以上20μm以下である分離膜を形成することが好ましい。分離膜の原料層を中間膜上に形成する方法としては、例えば、クロスフローろ過製膜装置を用いて行うことができる。この方法において、分離膜の厚さの制御は、濾液の流量により行うことができる。
【0027】
このようにして得たセラミック膜フィルタは、端面にシール部を形成することが好ましい。シール部は、例えばガラスなどとしてもよい。シール部の形成は、減量をスラリーにして塗布する方法や、原料を加熱溶融させて端面に溶射して形成してもよい。また、中間膜の原料層や分離膜の原料を形成したのち、1000℃以上1200℃以下の温度範囲、酸化雰囲気中で焼成して、セラミック膜フィルタを得ることができる。
【0028】
以上説明した本実施形態のセラミック膜フィルタによれば、基材上に形成された中間膜の膜欠陥の発生をより抑制することができる。更に、膜欠陥の少ない中間膜上に分離膜を形成するため、分離膜の膜欠陥の発生をより抑制することができる。この理由は、以下のように推察される。例えば、原料スラリーに含まれる有機バインダの乾燥クラック抑制剤は、分子量が1000以下と比較的低く、原料スラリーの粘度の上昇をより抑制することができると考えられる。また、このような原料スラリーでは、有機バインダにより乾燥時の切れなどを抑制することができると推察される。このため、例えば、100μm以上や150μm以上などの中間膜の厚膜化を図ることができる。
【0029】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例
【0030】
以下には、セラミック膜フィルタを具体的に製造した例を実験例として説明する。なお、実験例1~4、8~11、17~19、21~24、26~28、30~39、41~49が実施例に相当し、実験例5~7、12~16、20、25、29、40、50~52が比較例に相当する。
【0031】
[セラミック膜フィルタの作製]
[基材の作製]
平均粒径100μmのアルミナ原料30質量%と、平均粒径40μmのアルミナ原料60質量%と、平均粒径5μmのガラス原料10質量%を秤量した。この原料100質量部に対し、メチルセルロ-ス5質量部と油脂潤滑剤1質量部と水35質量部を加えて混練し、真空土練機で、直径250mm×長さ1000mmの脱気された土の中間成形体を成形した。次に、この中間性成形体を油圧式プランジャー成形機の先端に口金を取り付け、押出し成形で、直径180mm×長さ1000mm、セル数が2000個である円柱状基材を作製した。基材には、均一に製膜できるように、径方向の5列セルごとに、スリットを入れ、ろ過製膜時の排水が均一となるように加工した。この成形体を酸化雰囲気、1250℃で2時間焼成し、基材を得た。この基材は、平均細孔径10μm、気孔率38体積%であった。なお、原料粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(HORIBA社製LA-920)で測定した。また、基材の細孔径、気孔率は、水銀ポロシメータ(島津社製オートポアIII9400)で測定した。
【0032】
[中間膜の作製]
セラミック原料と所定の有機バインダの組み合わせにより、中間膜の原料スラリ-を調合した。セラミック原料は、平均粒径2μmのアルミナ原料Aと、平均粒径0.5μmのアルミナ原料Bとを質量比A/Bが1/1となるよう秤量した。また、このアルミナ原料90質量%と、焼結材としての粘土を10質量%とを混合してセラミック原料とした。有機バインダは、解膠材と、多糖類化合物と、乾燥クラック抑制剤としてのポリビニルアルコールを用いた。解膠材としては、ポリカルボン酸ナトリウム(東亜合成製アロンA6114)を用いた。多糖類化合物としては、ウエランガム(PCケルコ製ウエランガムK1A96)を用いた。乾燥クラック抑制剤として、分子量500のポリビニルアルコール(PVA,日本酢ビ・ポバール社製JL-05E)を用い、固形分2%水溶液に溶解し添加した。スラリー濃度をアルミナ固形分で、10~20質量%に調整した。調合は、アルミナ原料に水を加え、その後、多糖類・PVA・ポリカルボン酸ナトリウムを添加した。有機バインダの添加量は、セラミック原料100質量部に対して解膠材を0.2質量部、多糖類化合物を0.6質量部、PVAを0.4質量部とした。クロスフローろ過製膜装置を用いて基材の製膜面積に250μmの膜厚が付くように、スラリーを基材でろ過した排水量を調整した。製膜した後、装置から取り出し、乾燥機で乾燥させた。乾燥後、1200℃の酸化雰囲気で5時間焼成した。
【0033】
[分離膜の作製]
セラミック原料と所定の有機バインダの組み合わせにより、分離膜の原料スラリ-を調合した。セラミック原料は、平均粒径0.3μmのアルミナ原料を用いた。有機バインダは、解膠材と、多糖類化合物と、水溶性アクリル樹脂(樹脂A)を用いた。解膠材としては、ポリカルボン酸ナトリウム(東亜合成製アロンA6114)を用いた。多糖類化合物としては、ウエランガム(PCケルコ製ウエランガムK1A96)を用いた。水溶性アクリル樹脂として、アクリル系特殊水溶性樹脂(東亜合成製アロンAS-7503)を用いた。スラリー濃度をアルミナ固形分で、5~10質量%に調整した。調合は、アルミナ原料に水を加え、次いで解膠材を加え、その後、多糖類・PVA・ポリカルボン酸ナトリウムを添加した。なお、実験例48は、解膠材以外の有機バインダを加えたのち解膠材を加えてスラリーを作製した。クロスフローろ過製膜装置を用いて製膜面積に10μmの膜厚が付くように、スラリーを基材でろ過した排水量を調整した。製膜した後、装置から取り出し、乾燥機で乾燥させた。
【0034】
[端面ガラス成形]
予め固形分2質量%で溶解したメチルセルロ-ス溶液を用い、平均粒子径5μmのガラス粉末を、粉末20質量%、メチルセルロ-ス溶液80質量%で混合し、スプレーを用いて、噴霧塗布する。このとき、両端面と外周の両端約15mm(Oリングがはまる部分)のみにガラスが塗布されるように、塗布しない部分をカバーした。ガラスの厚さは、基材の表面が滑らかになるように1mmで塗布した。
【0035】
[焼成]
端面にガラスを成形したのち、酸化雰囲気中、950℃で焼成した。
【0036】
[実験例1~5]
中間膜の原料混合比について検討した。上記工程のうち、原料混合比をA/B=2/1、1/1、0.6/1、0.5/1、0.4/1としたものを実験例1~5とした。
【0037】
[実験例6~12]
中間膜の厚さについて検討した。上記工程のうち、中間膜の厚さを、80μm、100μm、150μm、250μm、300μm、400μm及び500μmとしたものを実験例6~12とした。
【0038】
[実験例13~28]
中間膜の有機バインダの添加量について検討した。上記工程のうち、解膠材、多糖類化合物及びPVAの添加量を表1、2に示したものにしたものを、それぞれ実験例13~28とした。
【0039】
[実験例29~33]
中間膜の焼結材について検討した。焼結材をチタニア(ルチル型)とし、主材料と焼結材の全体に対して焼結材の添加量を0.5質量%、1質量%、5質量%、10質量%及び35質量%としたものを実験例29~33とした。
【0040】
[実験例34]
基材の形状について検討した。基材の形状を、直径90mm×長さ1000mmとし、スリットを端面に均等に3列入れたものを実験例34とした。
【0041】
[実験例35]
端面のシール材について検討した。上記工程のうち、分離膜を形成したのち、1200℃で焼成し、続いて端面にアルミナ溶射シールを行った。溶射は、1000℃に加熱溶融させたアルミナを焼成後のセラミック膜フィルタの両端面に厚さ1mmで形成させた。得られたものを実験例35とした。
【0042】
[実験例36~50]
分離膜の有機バインダの添加量について検討した。上記工程のうち、解膠材、多糖類化合物及び樹脂Aの添加量を表3に示したものにしたものを、それぞれ実験例36~50とした。
【0043】
[実験例51、52]
中間膜に用いる有機バインダに含まれるPVAの分子量について検討した。中間膜に用いる有機バインダに含まれるPVAの分子量を2400、添加量を0.2質量%、0.4質量%としたものをそれぞれ実験例51、52とした。
【0044】
(水中発泡評価)
実験例1~52のセラミック膜フィルタの製膜後の水中発泡評価を行った。各実験例のフィルタを20℃、常圧(大気圧)の水中に入れ、側面側から徐々に空気を加圧し、出口側から発泡したときの圧力(MPa)と発泡したセル数とを測定した。水中発泡評価は、「水中での初回発泡圧が0.08MPa以上であり、発泡セル数の割合が総セル数の9%以下である」ものは、「4μmを超えるクラックがなく、且つ1μm以上4μm以下のクラックがあるセルが総セル数の9%以下である」に相当し、これを「○」とし、これを満たさないもの、即ち4μmを超えるクラックがあるか、又は4μmを超えるクラックはないが1μm以上4μm以下のクラックがあるセルが総セル数の9%を超えるものを「×」とした。
【0045】
(中間膜及び分離膜の平均細孔径)
中間膜と分離膜との平均細孔径は、SEM画像を解析して求めた。中間膜の断面をSEM観察し、中間膜の気孔領域と材料領域とに画像処理により分離した。気孔領域に内接する円の直径を求め、その平均値を平均細孔径とした。なお、分離膜も同様である。
【0046】
(膜厚差測定)
セラミック膜フィルタの中心セルと最外周セルとの中間膜の膜厚差、分離膜の膜厚差を測定した。フィルタをセルの形成方向に切断し中心のセルと上下の最外周のセルとの中間膜及び分離膜の厚さを測定した。膜厚は、セルの任意の24箇所を測定し、その中心セルの膜厚と最外周セルの膜厚との差を求めその最大値を膜厚差(μm)とした。また、求めた膜厚をすべて平均した値を中間膜の膜厚、分離膜の膜厚とした。
【0047】
セラミック膜フィルタを作製する際に、有機バインダの適正添加量を求めた。セラミック原料を含む原料スラリーへの解膠材の添加量を変化させ、そのときのスラリー粘度を求め、添加量に対する原料スラリーの粘度の関係を求め、粘度がより低くなる範囲を適正添加量とした。また、解膠材単独、多糖類化合物とPVAとの組み合わせ、解膠材とPVAとの組み合わせで添加量を変化させ、その膜厚差を求めた。その測定では、基材を垂直に立て、原料スラリーを用いて中間膜あるいは分離膜を製膜した。添加量に対する膜厚差の関係を求め、膜厚差がより小さくなる範囲、即ち径方向の厚さ分布とセル形成方向の厚さ分布とがより均一となる添加量の範囲を適正添加量とした。
【0048】
(結果と考察)
実験例1~52の作製条件と試験結果を表1~3に示す。表1に示すように、実験例1~5では、中間膜の主原料の配合比率は、平均粒径2μmのアルミナ原料Aと平均粒径0.5μmのアルミナ原料Bとの質量比A/Bが0.6~2の範囲では、水中の初回発泡圧が0.1MPa以上である発泡セル数が、セル全体の2.5%以下と好適であることがわかった。また、中間膜の平均細孔径は、0.1~0.6μmの範囲が好ましかった。中間膜の膜厚は、実験例6~12に示すように、80μmを超え、500μm未満が好ましく、120~480μmの範囲が好ましいと推察された。有機バインダの添加量は、実験例13~28に示すように、解膠材がセラミック原料の100質量%に対して0.15質量%以上0.25質量%以下の範囲であることが好ましく、多糖類化合物が0.95質量%以下の範囲(より好ましくは0.2質量%以上の範囲)であることが好ましく、PVAが0.25質量%以上0.95質量%以下の範囲であることが好ましいことがわかった。焼結材について、実験例29~33に示すように、焼結材をチタニアにした場合、セラミック原料全体に対する添加量が1質量%以上35質量%以下の範囲であることが好ましいことがわかった。焼結材が粘土である場合、添加量と水中発泡セル数との関係を別途調べたところ、セラミック原料全体に対する添加量が5質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましいことがわかった。また、実験例34に示すように、基材を変更しても同様の結果が得られた。
【0049】
分離膜の形成において、有機バインダの添加量は、実験例36~50に示すように、解膠材がセラミック原料の100質量%に対して0.20質量%以上0.95質量%以下の範囲であることが好ましく、多糖類化合物が0.95質量%以下の範囲(より好ましくは0.2質量%以上の範囲)であることが好ましく、水溶性アクリル樹脂(樹脂A)が0.5質量%以上2.4質量%以下の範囲であることが好ましいことがわかった。また、分離膜の主材料は、アルミナやチタニアでも同様の結果が得られることがわかった。また、実験例51、52に示すように、中間膜の有機バインダに分子量が2400のPVAを用いると、粘性が高く、中間膜の欠陥が発生した。これに対し、分子量が500のPVAを用いたものは、中間膜の欠陥の発生を抑えることができることがわかった。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0054】
本出願は、2016年3月30日に出願された日本国特許出願第2016-68395号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本明細書で開示する発明は、分離膜の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
10 セラミック膜フィルタ、12 セル、13 多孔質基材、15 中間膜、17 スリット、18 分離膜、19 シール部。
図1