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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】バルブタイミング調整装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/352 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
F01L1/352
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019016681
(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2020125688
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木野内 惣一
(72)【発明者】
【氏名】多田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】大坪 誠
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-007409(JP,A)
【文献】特開2009-121292(JP,A)
【文献】特開2018-165531(JP,A)
【文献】特開2007-239642(JP,A)
【文献】特開2008-095549(JP,A)
【文献】特開2018-087564(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0248047(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/352
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(200)において、駆動軸(210)と、前記駆動軸から動力が伝達されてバルブを開閉駆動する従動軸(220)と、のうちの一方の軸の軸方向(AD)の端部に締結され、電動アクチュエータ(300)により駆動されて前記駆動軸に対する前記従動軸の相対回転位相を変化させて前記バルブのバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置(100)であって、
前記一方の軸と連動して回転軸心(AX1)を中心に回転する第1回転体(30)と、
前記従動軸と前記駆動軸とのうちの他方の軸と連動して前記回転軸心を中心に回転する第2回転体(10)と、
を有し、
前記第1回転体は、
前記軸方向に貫通する貫通孔(36)が形成され、前記貫通孔に配置されるボルト(63)により前記一方の軸と締結される締結部(31、31a)と、
前記軸方向と交差する方向に沿った摺動面(SS、SSa)を有し、前記摺動面において前記第2回転体と摺動する摺動部(32、32a)と、
前記摺動部の外縁部に連なり前記軸方向において前記一方の軸側とは反対側に形成され、前記第2回転体の内周面(19)と対向する外周面(37)を有し、前記第2回転体を軸受けする軸受部(33)と、
を有し、
前記締結部は、前記摺動部および前記軸受部よりも前記軸方向において前記一方の軸側に突出し、
前記締結部の前記軸方向における前記一方の軸側の端面である第1端面(S1)は、前記摺動面よりも前記軸方向において前記一方の軸側に位置し、
前記締結部の前記軸方向における前記一方の軸側とは反対側の端面である第2端面(S2、S2a)は、前記摺動部の前記軸方向における前記一方の軸側とは反対側の端面である第3端面(S3)よりも、前記一方の軸側に位置し、
前記第2端面は、前記摺動面よりも前記軸方向において前記一方の軸側に位置する、
バルブタイミング調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバルブタイミング調整装置において、
前記第2回転体は、前記第1端面よりも、前記軸方向において、前記一方の軸側とは反対側に位置する、
バルブタイミング調整装置。
【請求項3】
請求項または請求項に記載のバルブタイミング調整装置において、
前記第2端面は、前記軸受部よりも前記軸方向において前記一方の軸側に位置する、
バルブタイミング調整装置。
【請求項4】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のバルブタイミング調整装置において、
前記回転軸心に平行に形成され、前記締結部と前記摺動部とを連結する連結部(34)をさらに備える、
バルブタイミング調整装置。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置において、
前記締結部と前記摺動部とは、互いに平行に形成されている、
バルブタイミング調整装置。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置において、
前記軸受部の内周面(38)には、内歯(39t)が形成されている、
バルブタイミング調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バルブタイミング調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の吸気弁や排気弁のバルブタイミングを調整可能な電動式のバルブタイミング調整装置が知られている。このようなバルブタイミング調整装置は、駆動軸と従動軸とのうちの一方の軸の端部に固定されて用いられることがある。特許文献1に記載のバルブタイミング調整装置では、吸気カムシャフトの軸方向の端部に、出力ギヤを有する従動回転体がボルト締結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-087564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のバルブタイミング調整装置では、従動回転体に形成され駆動回転体と摺動する面が、ボルト締結による軸力によって変形するおそれがある。かかる変形により、従動回転体と駆動回転体との摺動性が悪化するおそれがある。このため、従動回転体と駆動回転体との摺動性の悪化を抑制できる技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、バルブタイミング調整装置(100)が提供される。このバルブタイミング調整装置は、内燃機関(200)において、駆動軸(210)と、前記駆動軸から動力が伝達されてバルブを開閉駆動する従動軸(220)と、のうちの一方の軸の軸方向(AD)の端部に締結され、電動アクチュエータ(300)により駆動されて前記駆動軸に対する前記従動軸の相対回転位相を変化させて前記バルブのバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置であって、前記一方の軸と連動して回転軸心(AX1)を中心に回転する第1回転体(30)と、前記従動軸と前記駆動軸とのうちの他方の軸と連動して前記回転軸心を中心に回転する第2回転体(10)と、を有し、前記第1回転体は、前記軸方向に貫通する貫通孔(36)が形成され、前記貫通孔に配置されるボルト(63)により前記一方の軸と締結される締結部(31、31a)と、前記軸方向と交差する方向に沿った摺動面(SS、SSa)を有し、前記摺動面において前記第2回転体と摺動する摺動部(32、32a)と、前記摺動部の外縁部に連なり前記軸方向において前記一方の軸側とは反対側に形成され、前記第2回転体の内周面(19)と対向する外周面(37)を有し、前記第2回転体を軸受けする軸受部(33)と、を有し、前記締結部は、前記摺動部および前記軸受部よりも前記軸方向において前記一方の軸側に突出し、前記締結部の前記軸方向における前記一方の軸側の端面である第1端面(S1)は、前記摺動面よりも前記軸方向において前記一方の軸側に位置し、前記締結部の前記軸方向における前記一方の軸側とは反対側の端面である第2端面(S2、S2a)は、前記摺動部の前記軸方向における前記一方の軸側とは反対側の端面である第3端面(S3)よりも、前記一方の軸側に位置し、前記第2端面は、前記摺動面よりも前記軸方向において前記一方の軸側に位置する。
【0007】
この形態のバルブタイミング調整装置によれば、従動回転体の締結部が、摺動部および軸受部よりも軸方向において一方の軸側に突出している。このため、締結部の貫通孔に配置されるボルトにより従動回転体が一方の軸と締結されて軸力が加えられた場合に、締結部の変形の影響が摺動部と軸受部とに及ぶことを抑制でき、摺動部と軸受部との変形をそれぞれ抑制できる。したがって、従動回転体の摺動面と駆動回転体との摺動性の悪化を抑制でき、軸受部の外周面と駆動回転体の内周面との摺動性の悪化を抑制できる。このため、従動回転体と駆動回転体との摺動性の悪化を抑制できる。
【0008】
本開示は、種々の形態で実現することも可能である。例えば、バルブタイミング調整装置の製造方法、バルブタイミング調整装置を備える内燃機関、かかる内燃機関を備える車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】バルブタイミング調整装置の概略構成を示す断面図である。
図2】バルブタイミング調整装置の概略構成を示す分解斜視図である。
図3】従動回転体の構成を模式的に示す断面図である。
図4】ボルト締結による従動回転体の変形を説明する説明図である。
図5】比較例におけるボルト締結による従動回転体の変形を説明する説明図である。
図6】第2実施形態の従動回転体の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態:
図1に示す第1実施形態のバルブタイミング調整装置100は、図示しない車両が備える内燃機関200において、クランク軸210から動力が伝達されるカム軸220により開閉駆動される図示しないバルブのバルブタイミングを調整する。バルブタイミング調整装置100は、カム軸220の回転軸心AX1に沿った方向(以下、「軸方向AD」とも呼ぶ)において、カム軸220の端部に締結されている。本実施形態のバルブタイミング調整装置100は、図示しないバルブとしての吸気弁と排気弁とのうち、吸気弁のバルブタイミングを調整する。
【0011】
図1および図2に示すように、本実施形態のバルブタイミング調整装置100は、いわゆる2K-H型の遊星歯車機構の減速機構を含んで構成され、電動モータ300により駆動される。バルブタイミング調整装置100は、駆動回転体10と、従動回転体30と、入力回転体40と、遊星回転体50とを備える。
【0012】
駆動回転体10は、カム軸220の回転軸心AX1と同一の回転軸心AX1を有し、クランク軸210と連動して回転する。駆動回転体10は、第1ハウジング11と、第2ハウジング21とを有する。
【0013】
第1ハウジング11は、略有底筒状の外観形状を有し、第1円筒部12と、第1底部13とを有する。第1円筒部12は、略円筒状の外観形状を有する。第1円筒部12の外周面には、スプロケット14が形成されている。図1に示すように、スプロケット14と、クランク軸210に形成されたスプロケット212とには、タイミングチェーン230が掛け渡される。クランク軸210の機関トルクがタイミングチェーン230を介してスプロケット14に伝達することにより、第1ハウジング11は、クランク軸210と連動して回転する。なお、タイミングチェーン230に代えてタイミングベルト等が用いられてもよい。
【0014】
図1に示すように、第1円筒部12の径方向内側には、後述する従動回転体30の軸受部33が配置されている。このため、第1円筒部12の内周面19は、軸受部33の外周面37と対向している。図2に示すように、第1円筒部12には、径方向内側に突出する複数の駆動側ストッパDSが、周方向に並んで形成されている。周方向において互いに隣り合う駆動側ストッパDSの間には、後述する従動回転体30の従動側ストッパFSが配置される。各駆動側ストッパDSには、ボルト挿入孔18がそれぞれ形成されている。各ボルト挿入孔18は、第2ハウジング21との締結に用いられる。第1底部13の略中央には、軸方向ADに貫通する挿入孔15が形成されている。図1に示すように、挿入孔15には、後述する従動回転体30の連結部34が挿入されている。第1底部13は、軸方向ADにおいてカム軸220側とは反対側の面である内側面16を有する。第1底部13は、内側面16において、後述する従動回転体30の摺動面SSと摺動する。
【0015】
第2ハウジング21は、略有底筒状の外観形状を有し、第2円筒部22と、第2底部23とを有する。図2に示すように、第2円筒部22の内周面には、駆動側内歯車部24が形成されている。駆動側内歯車部24は、径方向内側に向かって形成された複数の駆動側内歯24tを有する。図1に示すように、駆動側内歯車部24の軸心は、回転軸心AX1と一致する。第2底部23の略中央には、開口部25が形成されている。開口部25には、第1ベアリング45を介して入力回転体40が配置されている。図2に示すように、第2底部23の外縁側には、複数のボルト挿入孔27が周方向に互いに並んで形成されている。各ボルト挿入孔27には、第1ハウジング11に形成された各ボルト挿入孔18とともに、それぞれ締結ボルト62が挿入される。締結ボルト62は、第1ハウジング11と第2ハウジング21とを締結する。
【0016】
図1に示すように、従動回転体30は、駆動回転体10に対して相対回転可能となるように、第1ハウジング11の径方向内側に配置されている。従動回転体30は、入力回転体40に入力されるトルクを出力するための出力部品として機能する。従動回転体30は、有底の段付円筒状の外観形状を有し、締結部31と、摺動部32と、軸受部33と、連結部34と、調芯部35とを有する。
【0017】
図1および図3に示すように、締結部31は、略円板状の外観形状を有し、軸方向ADに直交する方向に沿って形成されている。締結部31の中央には、軸方向ADに貫通する貫通孔36が形成されている。締結部31は、貫通孔36に配置されるボルト63によりカム軸220と締結される。これにより、従動回転体30は、カム軸220と連動して回転する。締結部31は、後述するように、摺動部32および軸受部33よりも軸方向ADにおいてカム軸220側に突出している。
【0018】
摺動部32は、軸方向ADに直交する方向に沿って形成されている。このため、摺動部32は、締結部31と平行に形成されている。図3に示すように、摺動部32は、軸方向ADにおいてカム軸220側の面である摺動面SSを有する。摺動部32は、摺動面SSにおいて、駆動回転体10の第1底部13の内側面16と摺動する。このため、摺動面SSは、スラスト受け面として機能する。
【0019】
軸受部33は、摺動部32の外縁部に連なり軸方向ADにおいてカム軸220側とは反対側に形成されている。軸受部33は、軸方向ADに沿って形成された円筒状の外観形状を有し、駆動回転体10の第1円筒部12の径方向内側に配置されている。軸受部33の外周面37は、第1円筒部12の内周面19と対向して摺動する。図2に示すように、軸受部33には、径方向外側に突出する複数の従動側ストッパFSが、周方向に並んで形成されている。各従動側ストッパFSは、周方向において互いに隣り合う駆動側ストッパDSの間にそれぞれ配置される。従動側ストッパFSと駆動側ストッパDSとは、駆動回転体10に対する従動回転体30の回転位相を規制する。軸受部33の内周面38には、従動側内歯車部39が形成されている。従動側内歯車部39は、径方向内側に向かって形成された複数の従動側内歯39tを有する。従動側内歯車部39の軸心は、回転軸心AX1と一致する。
【0020】
連結部34は、円筒状の外観形状を有し、締結部31の外縁部と摺動部32の外縁部とにそれぞれ連なり、回転軸心AX1に平行に形成されている。連結部34は、締結部31と摺動部32とを連結している。
【0021】
調芯部35は、締結部31の外縁部から軸方向ADに沿ってカム軸220側に突出して形成されている。調芯部35は、カム軸220の端部の外周面に配置され、カム軸220とバルブタイミング調整装置100との同軸ずれを抑制する。
【0022】
図3に示すように、本実施形態において、締結部31の軸方向ADにおけるカム軸220側の端面である第1端面S1は、摺動面SSよりも軸方向ADにおいてカム軸220側に位置し、締結部31の軸方向ADにおけるカム軸220側とは反対側の端面である第2端面S2は、摺動部32の軸方向ADにおけるカム軸220側とは反対側の端面である第3端面S3よりもカム軸220側に位置している。また、第2端面S2は、摺動面SSよりも軸方向ADにおいてカム軸220側に位置し、軸受部33よりも軸方向ADにおいてカム軸220側に位置している。このような構成を備える理由については、後述する。
【0023】
図1および図2に示す入力回転体40は、略円筒状の外観形状を有し、遊星回転体50のキャリアとして機能する。図1に示すように、入力回転体40の内側には、電動モータ300の回転軸としてのシャフト310が挿入されて固定されている。入力回転体40は、電動モータ300の駆動力により、シャフト310と一体に回転する。電動モータ300のシャフト310の軸心は、カム軸220の回転軸心AX1と一致する。入力回転体40の外周面には、軸方向ADの略中央部において、径方向外側に突出する壁部41が形成されている。入力回転体40の外周面には、壁部41を境に、軸方向ADにおいて電動モータ300側に第1ベアリング45が配置され、軸方向ADにおいてカム軸220側に第2ベアリング55が配置されている。入力回転体40は、第1ベアリング45を介して、第2ハウジング21に回転可能に支持されている。したがって、入力回転体40は、シャフト310と一体回転可能、且つ、駆動回転体10に対して相対回転可能に構成されている。
【0024】
入力回転体40は、回転軸心AX1に対して偏心する偏心部42を有している。偏心部42は、周方向の肉厚を偏らせて厚肉に形成されることにより構成されている。入力回転体40の外周面には、径方向外側に開口する凹部43が周方向において偏心部42側に偏って設けられている。凹部43には、付勢部材44が収容されている。付勢部材44は、復元力により、偏心部42において第2ベアリング55を径方向外側へと付勢する。このため、入力回転体40は、偏心軸心AX2を中心軸として第2ベアリング55を支持する。付勢部材44のカム軸220側の端面には、スナップリング64が配置されている。スナップリング64は、軸方向において付勢部材44が凹部43から抜けることを抑制する。
【0025】
遊星回転体50は、上述した第2ベアリング55と、遊星歯車51とを含んで構成されている。第2ベアリング55は、遊星歯車51の内周面に配置され、付勢部材44を介して入力回転体40により支持されることにより、付勢部材44から受ける復元力を遊星歯車51へ伝達する。遊星歯車51は、段付円筒状に形成され、第2ベアリング55を介して偏心軸心AX2を中心軸として回転する。図2に示すように、遊星歯車51は、駆動側外歯車部52と、従動側外歯車部54とを有する。駆動側外歯車部52のピッチ円径は、従動側外歯車部54のピッチ円径よりも大きい。
【0026】
駆動側外歯車部52は、径方向外側に向かって形成された駆動側外歯52tを有する。駆動側外歯52tは、駆動側内歯車部24に形成された駆動側内歯24tと互いに噛み合う。従動側外歯車部54は、径方向外側に向かって形成された従動側外歯54tを有する。従動側外歯54tは、従動側内歯車部39に形成された従動側内歯39tと互いに噛み合う。駆動側外歯52tおよび従動側外歯54tの歯数は、駆動側内歯24tおよび従動側内歯39tの歯数よりも、それぞれ同数ずつ少ない。
【0027】
図1に示す遊星回転体50は、入力回転体40が回転軸心AX1を中心軸として回転すると、偏心軸心AX2を中心軸として自転しつつ、回転軸心AX1まわりに公転する遊星運動を行う。遊星回転体50の自転速度は、入力回転体40の回転速度に対して減速される。従動側内歯車部39および従動側外歯車部54は、遊星回転体50の自転を従動回転体30に伝達する伝達手段として機能する。
【0028】
以上のような構成を備えるバルブタイミング調整装置100は、入力回転体40の回転速度を減速して従動回転体30へと伝達し、駆動回転体10に対する従動回転体30の相対回転位相を変化させる。これにより、かかる相対回転位相に応じたバルブタイミングを実現する。
【0029】
入力回転体40の回転速度と駆動回転体10の回転速度とが同じである場合には、入力回転体40が駆動回転体10に形成された駆動側内歯車部24に対して相対回転しないので、遊星回転体50が遊星運動せず、駆動回転体10および従動回転体30と連れ回りする。その結果、駆動回転体10に対する従動回転体30の相対回転位相が変化せず、バルブタイミングが保持される。
【0030】
他方、入力回転体40の回転速度が駆動回転体10の回転速度よりも速い場合には、入力回転体40が駆動側内歯車部24に対して進角側へと相対回転し、遊星回転体50が遊星運動する。その結果、駆動回転体10に対して従動回転体30が進角側へと相対回転し、バルブタイミングが進角する。また、入力回転体40の回転速度が駆動回転体10の回転速度よりも遅い場合、または、入力回転体40の回転方向が駆動回転体10の回転方向と反対方向である場合には、入力回転体40が駆動側内歯車部24に対して遅角側へと相対回転し、遊星回転体50が遊星運動する。その結果、駆動回転体10に対して従動回転体30が遅角側へ相対回転し、バルブタイミングが遅角することになる。
【0031】
上述のように、従動回転体30は、締結部31の貫通孔36に配置されるボルト63によりカム軸220と締結される。このため、図4に示すようにボルト63締結により白抜きの矢印で示すように軸力が加えられると、締結部31が僅かに歪んで変形する。
【0032】
ここで、本実施形態の従動回転体30では、締結部31が、摺動部32および軸受部33よりも軸方向ADにおいてカム軸220側に突出している。より具体的には、締結部31の第1端面S1が摺動面SSよりもカム軸220側に位置し、締結部31の第2端面S2が摺動部32の第3端面S3よりもカム軸220側に位置している。このような構成により、締結部31の変形の影響が摺動部32と軸受部33とに及ぶことが抑制され、摺動部32と軸受部33との変形がそれぞれ抑制されている。このため、従動回転体30の摺動面SSと駆動回転体10の第1底部13との摺動性の悪化を抑制でき、従動回転体30の外周面37と駆動回転体10の内周面19との摺動性の悪化を抑制できる。したがって、従動回転体30と駆動回転体10との摺動性の悪化を抑制できる。また、第2端面S2が摺動面SSおよび軸受部33よりもカム軸220側に位置していることにより、締結部31の変形の影響が摺動部32と軸受部33とに及ぶことがさらに抑制され、摺動部32と軸受部33との変形がそれぞれさらに抑制されている。
【0033】
本実施形態において、クランク軸210は、本開示における駆動軸および他方の軸の下位概念に相当し、カム軸220は、本開示における従動軸および一方の軸の下位概念に相当する。また、電動モータ300は、本開示における電動アクチュエータの下位概念に相当し、吸気弁は、本開示におけるバルブの下位概念に相当する。また、従動回転体30は、本開示における第1回転体に相当し、駆動回転体10は、本開示における第2回転体に相当する。また、従動側内歯39tは、本開示における内歯の下位概念に相当する。
【0034】
以上説明した第1実施形態のバルブタイミング調整装置100によれば、従動回転体30の締結部31が、摺動部32および軸受部33よりも軸方向ADにおいてカム軸220側に突出している。このため、締結部31の貫通孔36に配置されるボルト63により従動回転体30がカム軸220と締結されて軸力が加えられた場合に、締結部31の変形の影響が摺動部32と軸受部33とに及ぶことを抑制でき、摺動部32と軸受部33との変形をそれぞれ抑制できる。したがって、従動回転体30の摺動面SSと駆動回転体10の第1底部13との摺動性の悪化を抑制でき、軸受部33の外周面37と駆動回転体10の内周面19との摺動性の悪化を抑制できる。このため、従動回転体30と駆動回転体10との摺動性の悪化を抑制できる。
【0035】
また、従動回転体30と駆動回転体10との摺動性の悪化を抑制できるので、従動回転体30と駆動回転体10との摺動におけるフリクションの増加を抑制でき、耐摩耗性の低下を抑制できる。
【0036】
また、締結部31の第1端面S1が摺動面SSよりもカム軸220側に位置し、締結部31の第2端面S2が摺動部32の第3端面S3よりもカム軸220側に位置しているので、締結部31の変形の影響が摺動部32と軸受部33とに及ぶことを抑制でき、摺動部32と軸受部33との変形をそれぞれ抑制できる。
【0037】
また、第2端面S2が摺動面SSよりもカム軸220側に位置しているので、締結部31の変形の影響が摺動部32に及ぶことをさらに抑制でき、摺動部32の変形をさらに抑制できる。このため、従動回転体30の摺動面SSと駆動回転体10の第1底部13との摺動性の悪化をさらに抑制できる。また、第2端面S2が軸受部33よりもカム軸220側に位置しているので、締結部31の変形の影響が軸受部33に及ぶことをさらに抑制でき、軸受部33の変形をさらに抑制できる。このため、従動回転体30の外周面37と駆動回転体10の内周面19との摺動性の悪化をさらに抑制できる。
【0038】
また、締結部31と摺動部32とを連結する連結部34が回転軸心AX1に平行に形成されているので、バルブタイミング調整装置100の構成の複雑化および大型化を抑制できる。また、締結部31と摺動部32とが互いに平行に形成されているので、バルブタイミング調整装置100の構成の複雑化および大型化を抑制できる。
【0039】
また、バルブタイミング調整装置100が2K-H型の遊星歯車機構を含んで構成されているので、従動回転体30の軸受部33の内周面38に、従動側内歯車部39の従動側内歯39tが形成されている。このような構成において、締結部31の変形の影響が軸受部33に及ぶことが抑制されているので、従動側内歯39tと従動側外歯54tとの噛み合いの傾きを抑制できる。このため、バルブタイミング調整装置100の信頼性の低下を抑制できる。また、従動側内歯39tと従動側外歯54tとの摩耗を抑制できる。
【0040】
B.比較例:
図5に示す比較例のバルブタイミング調整装置における従動回転体530は、締結部531の軸方向ADの位置が、摺動部532の軸方向ADの位置と一致している。換言すると、締結部531と摺動部532とは、軸方向ADにおけるカム軸220側の面とカム軸220側とは反対側の面とがそれぞれ同一面上に形成されている。このため、締結部531の貫通孔536に配置されるボルト563により従動回転体530がカム軸220と締結されて軸力が加えられた場合に、締結部531の変形の影響が摺動部532に及ぶこととなる。より具体的には、摺動部532は、外縁側に向かうにつれて軸方向ADにおいてカム軸220側とは反対側に歪む。また、摺動部532の変形の影響は、軸受部533に及ぶこととなる。より具体的には、軸受部533は、軸方向ADにおいてカム軸220側とは反対側に向かうにつれて径方向内側に歪む。摺動部532が変形することにより、従動回転体530の摺動面S4と駆動回転体との摺動性が悪化する。また、軸受部533が変形することにより、従動回転体530の軸受部533の外周面537と駆動回転体10との摺動性が悪化する。したがって、従動回転体530と駆動回転体との摺動性が悪化する。
【0041】
これに対し、本実施形態のバルブタイミング調整装置100によれば、従動回転体30の締結部31が、摺動部32および軸受部33よりも軸方向ADにおいてカム軸220側に突出している。このため、締結部31の貫通孔36に配置されるボルト63により従動回転体30がカム軸220と締結されて軸力が加えられた場合に、締結部31の変形の影響が摺動部32と軸受部33とに及ぶことを抑制でき、摺動部32と軸受部33との変形をそれぞれ抑制できる。したがって、従動回転体30と駆動回転体10との摺動性の悪化を抑制できる。
【0042】
C.第2実施形態:
図6に示す第2実施形態のバルブタイミング調整装置が備える従動回転体30aは、連結部34が省略されている点と、第2端面S2aと摺動面SSaとの位置関係とにおいて、第1実施形態のバルブタイミング調整装置100と異なる。その他の構成は、第1実施形態と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。
【0043】
第2実施形態のバルブタイミング調整装置における従動回転体30aの摺動面SSaは、第2端面S2aよりも軸方向ADにおいてカム軸220側に位置している。このような構成により、従動回転体30aの締結部31aが、摺動部32aおよび軸受部33よりも軸方向ADにおいてカム軸220側に突出している。
【0044】
以上説明した第2実施形態のバルブタイミング調整装置によれば、第1実施形態のバルブタイミング調整装置100と同様な効果を奏する。
【0045】
D.他の実施形態:
(1)上記各実施形態における従動回転体30、30aの構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、連結部34は、回転軸心AX1と平行に限らず、回転軸心AX1を軸心とするテーパ状に形成されていてもよい。また、例えば、摺動部32、32aは、締結部31、31aと平行に限らず、軸方向ADに交差する任意の方向に沿って形成されて、かかる方向に沿って形成された駆動回転体10の第1底部13と摺動する態様であってもよい。また、例えば、調芯部35が省略されてもよい。このような構成によっても、上記各実施形態と同様な効果を奏する。
【0046】
(2)上記各実施形態において、バルブタイミング調整装置100は、いわゆる2K-H型の遊星歯車機構を含んで構成されていたが、2K-H型に限らず、いわゆるK-H-V型や、3K型の遊星歯車機構を含んで構成される態様であってもよい。かかる態様において、従動回転体30、30aの軸受部33の内周面38には、従動側内歯39tが形成されていなくてもよい。また、遊星歯車機構に代えて、波動歯車を有する波動歯車機構を含んで構成されていてもよく、ローラと保持器とを有するローラ機構を含んで構成されていてもよい。このような構成によっても、上記各実施形態と同様な効果を奏する。
【0047】
(3)上記各実施形態において、バルブタイミング調整装置100は、カム軸220が開閉駆動する吸気弁のバルブタイミングを調整していたが、吸気弁に代えて、カム軸220が開閉駆動する排気弁のバルブタイミングを調整してもよい。また、上記各実施形態において、バルブタイミング調整装置100は、電動モータ300の駆動力によりクランク軸210に対するカム軸220の相対回転位相を変化させていたが、電動モータ300に限らず、ブレーキ式アクチュエータ等の任意の電動アクチュエータの駆動力により相対回転位相を変化させてもよい。また、駆動軸としてのクランク軸210から中間の軸を介して動力が伝達される従動軸としてのカム軸220の端部に締結されて用いられてもよく、カム軸220に代えてクランク軸210の端部に締結されて用いられてもよく、二重構造のカム軸が備える駆動軸と従動軸とのうちの一方の軸の端部に締結されて用いられてもよい。
【0048】
本開示は、上述の各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 駆動回転体、19 内周面、30、30a 従動回転体、31、31a 締結部、32、32a 摺動部、33 軸受部、36 貫通孔、37 外周面、63 ボルト、100 バルブタイミング調整装置、200 内燃機関、210 クランク軸(駆動軸)、220 カム軸(従動軸)、310 シャフト、AD 軸方向、AX1 回転軸心、SS、SSa 摺動面
図1
図2
図3
図4
図5
図6