(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】熱交換媒体
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20221221BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C09K5/10 F
F28D15/02 104A
(21)【出願番号】P 2019017449
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】399040313
【氏名又は名称】谷川油化興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和参
(72)【発明者】
【氏名】原田 仁
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102250591(CN,A)
【文献】特開平07-278856(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107523393(CN,A)
【文献】米国特許第04192760(US,A)
【文献】特表2010-513646(JP,A)
【文献】特開平08-319478(JP,A)
【文献】特開2002-212580(JP,A)
【文献】特開2000-119671(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107667157(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107629763(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0103340(US,A1)
【文献】特開2013-053610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
F28D 15/00- 15/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面を伝熱面として、対象物との間で熱交換を行う液状の熱交換媒体であって、
下記一般式(1)で表されるグリコールジエーテル類、下記一般式(2)で表されるグリコールジエステル類及び、下記一般式(3)で表されるグリコールモノエーテルエステル類から選ばれる少なくとも1つの化合物を含む熱媒体成分
を主成分とし、
前記熱媒体成分の100質量部に対して、0.05~10質量部である腐食抑制
剤を有
し、
R
2-O-(-R
1-O-)
n-R
3 (1)
ここで、nは1~5、R
1はC
mH
2m、mは1~4、R
2及びR
3はC
kH
2k+1、kは1~5であり、
R
2-O-(-R
1-O-)
n-R
3 (2)
ここで、nは1~5、R
1はC
mH
2m、mは1~4、R
2及びR
3はOCC
kH
2k+1、kは1~4であり、
R
2-O-(-R
1-O-)
n-R
3 (3)
ここで、nは1~5、R
1はC
mH2
m、mは1~4、R
2はC
kH
2k+1、kは1~5、R
3はOCC
LH
2L+1、Lは1~4であ
り、
容器内に-30℃で充填された前記熱交換媒体において、前記容器の底面から前記熱交換媒体の液面に空気層が到達するまでの時間が1.5秒以下であることを特徴とする熱交換媒体。
【請求項2】
金属表面を伝熱面として、対象物との間で熱交換を行う液状の熱交換媒体であって、
下記一般式(1)で表されるグリコールジエーテル類、下記一般式(2)で表されるグリコールジエステル類及び、下記一般式(3)で表されるグリコールモノエーテルエステル類から選ばれる少なくとも1つの化合物を含む熱媒体成分を主成分とし、
前記熱媒体成分の100質量部に対して、0.05~10質量部である腐食抑制剤を有し、
R
2
-O-(-R
1
-O-)
n
-R
3
(1)
ここで、nは1~5、R
1
はC
m
H
2m
、mは1~4、R
2
及びR
3
はC
k
H
2k+1
、kは1~5であり、
R
2
-O-(-R
1
-O-)
n
-R
3
(2)
ここで、nは1~5、R
1
はC
m
H
2m
、mは1~4、R
2
及びR
3
はOCC
k
H
2k+1
、kは1~4であり、
R
2
-O-(-R
1
-O-)
n
-R
3
(3)
ここで、nは1~5、R
1
はC
m
H2
m
、mは1~4、R
2
はC
k
H
2k+1
、kは1~5、R
3
はOCC
L
H
2L+1
、Lは1~4であり、
-30℃における動粘度が60mm
2/s以下であることを特徴とす
る熱交換媒体。
【請求項3】
前記熱媒体成分が前記グリコールジエーテル類を含む場合において
は、
前記一般式(1)において、nは2又は3、mは2又は3、かつ、kは1~4であ
り、
前記熱媒体成分が前記グリコールジエステル類を含む場合においては、
前記一般式(2)において、nは1~3、mは2又は3、かつ、kは1であり、
前記熱媒体成分が前記グリコールモノエーテルエステル類を含む場合においては、
前記一般式(3)において、nは2又は3、mは2又は3、かつ、kは1~4であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の熱交換媒体。
【請求項4】
前記熱交換媒体が、水及び/又はグリコール類を含むことを特徴とする請求項1から
3のいずれか1つに記載の熱交換媒体。
【請求項5】
前記熱媒体成分の100質量部に対して、前記水及び/又はグリコール類の合計が50質量部未満であることを特徴とする請求項
4に記載の熱交換媒体。
【請求項6】
前記腐食抑制剤がトリアゾール系化合物及び/又はアミン化合物であることを特徴とする請求項1から
5のいずれか1つに記載の熱交換媒体。
【請求項7】
前記熱媒体成分の100質量部に対して、0.001~0.1質量部のシリコン系消泡剤を含むことを特徴とする請求項1から
6のいずれか1つに記載の熱交換媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面を介して、対象物との間で熱交換を行うことにより、例えば、対象物を冷却する液状の熱交換媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面熱を伝熱面とする熱交換媒体には、金属腐食の抑制が要求される。また、幅広い温度領域(特に、高温領域)で使用可能であることも同時に要求されるが、この要求に対して、高度な両方の性能を満足する熱交換媒体は、これまで提案されていない。
【0003】
特許文献1には、エチレングリコールを含む冷却液が開示されている。腐食抑制剤が3,5-ジメチルピラゾールであり、腐食抑制助剤がテトラエトキシシラン化合物であり、安定化剤が2-メルカプトチアゾリンである。
【0004】
特許文献2には、ホルムアミド及び/又はメチルホルムアミドを主成分とした冷却液組成物が開示されている。具体的には、この冷却液組成物は、20~70重量%のホルムアミド及び/又はメチルホルムアミドと、80~30重量%の水と、0.1~10重量%の防錆剤とを含有する。
【0005】
特許文献3には、金属材料を用いる燃料電池に使用される冷媒には、高い絶縁性と共に幅広い温度領域(-30℃~150℃)に対応できる温度特性が要求されることと、冷媒による腐食によって発生する冷媒の汚染とが開示されており、汚染防止のために、流路等を絶縁被覆するようにしている。
【0006】
特許文献4には、水に比して高沸点液体である冷却油を用いた高温下での熱応力を吸収する冷却装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014―203739号公報
【文献】特開2015―193765号公報
【文献】特開2005―222764号公報
【文献】特開昭63-32116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1,2に記載の発明では、熱交換媒体の高温での揮発性の問題について解決されていない。特許文献3では、幅広い温度領域で使用可能な熱交換媒体については開示されていない。また、特許文献4では、水の沸点以上の沸点の冷凍油が用いられているが、金属腐食の抑制及び幅広い温度領域で使用可能な熱交換媒体については開示されていない。
【0009】
本発明者等によれば、特定のグリコールジエーテル類、特定のグリコールジエステル類、特定のグリコールモノエーテルエステル類を、腐食抑制剤と併用することにより、金属腐食の抑制に優れ、低温であっても流動性に優れ、広い温度領域(特に、高温領域)においても揮発しにくい熱交換媒体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の目的は、金属腐食を抑制し、低温での流動性に優れ、高温で使用しても蒸気圧を低く維持して熱交換媒体の漏洩等の防止に貢献する、新規な熱交換媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、金属表面を伝熱面として、対象物との間で熱交換を行う液状の熱交換媒体であって、熱媒体成分及び腐食抑制剤を有する。熱媒体成分は、熱交換媒体の主成分であり、下記一般式(1)で表されるグリコールジエーテル類、下記一般式(2)で表されるグリコールジエステル類及び、下記一般式(3)で表されるグリコールモノエーテルエステル類から選ばれる少なくとも1つの化合物を含む。腐食抑制剤は、熱媒体成分の100質量部に対して、0.05~10質量部である。
【0012】
R2-O-(-R1-O-)n-R3 (1)
上記一般式(1)において、nは1~5、R1はCmH2m、mは1~4、R2及びR3はCkH2k+1、kは1~5である。
【0013】
R2-O-(-R1-O-)n-R3 (2)
上記一般式(2)において、nは1~5、R1はCmH2m、mは1~4、R2及びR3はOCCkH2k+1、kは1~4である。
【0014】
R2-O-(-R1-O-)n-R3 (3)
上記一般式(3)において、nは1~5、R1はCmH2m、mは1~4、R2はCkH2k+1、kは1~5、R3はOCCLH2L+1、Lは1~4である。
【0015】
熱媒体成分がグリコールジエーテル類を含むとき、上記一般式(1)において、nは2又は3、mは2又は3、かつ、kは1~4とすることができる。熱媒体成分がグリコールジエステル類を含むとき、上記一般式(2)において、nは1~3、mは2又は3、かつ、kは1とすることができる。熱媒体成分がグリコールモノエーテルエステル類を含むとき、上記一般式(3)において、nは2又は3、mは2又は3、かつ、kは1~4とすることができる。
【0016】
熱交換媒体には、水及び/又はグリコール類を含ませることができる。ここで、熱媒体成分の100質量部に対して、水及び/又はグリコール類の合計を50質量部未満とすることができる。
【0017】
腐食抑制剤としては、トリアゾール系化合物及び/又はアミン化合物を用いることができる。また、熱交換媒体には、熱媒体成分の100質量部に対して、0.001~0.1質量部のシリコン系消泡剤を含ませることができる。
【0018】
本発明の熱交換媒体を-30℃で容器内に充填したときにおいて、容器の底面から熱交換媒体の液面に空気層が到達するまでの時間は、1.5秒以下である。また、本発明の熱交換媒体について、-30℃における動粘度が60mm2/s以下である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、伝熱面である金属の腐食抑制性に優れ、低温であっても優れた流動性を有し、高温であっても揮発しにくい優れた伝熱媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態の熱交換媒体は、液状の媒体であって、熱交換媒体及び対象物の間の熱交換によって、対象物を加温したり冷却したりするために用いられる。具体的には、熱交換媒体を加熱しておき、この熱交換媒体の熱を対象物に伝達すれば、対象物を加温することができる。また、熱交換媒体を冷却しておけば、対象物から熱交換媒体に熱を伝達して対象物を冷却することができる。このように対象物の加温又は冷却を行うときには、熱交換媒体を流動させればよく、熱交換媒体の流動には、例えば、金属製の流動管、層状電熱板等が用いられる。
【0021】
対象物としては、例えば、室内や冷蔵庫等の温度調節器用熱媒体、車両のエンジン、燃料電池、二次電池、モーター、制御用のコンピューターといった電源や駆動部材が挙げられるが、これに限るものではなく、熱交換媒体を接触させて加温又は冷却させるものであればよい。
【0022】
本実施形態の熱交換媒体は、以下に説明する熱媒体成分及び腐食抑制剤を有する。腐食抑制剤の含有量は、熱媒体成分の100質量部に対して、0.05~10質量部であり、好ましくは0.05~2質量部であり、更に好ましくは0.05~0.6質量部である。
【0023】
(熱媒体成分)
熱媒体成分は、後述するグリコールジエーテル類、グリコールジエステル類及びグリコールモノエーテルエステル類から選ばれる少なくとも1つの化合物を含む。
【0024】
グリコールジエーテル類は、以下の一般式(1)で表される。
R2-O-(-R1-O-)n-R3 (1)
【0025】
一般式(1)において、R1はCmH2mであり、R2及びR3はCkH2k+1である。ここで、nは1から5の整数であり、熱交換媒体の流動性を向上させる上では、好ましくは、2又は3である。mは1から4の整数であり、熱交換媒体の流動性を向上させる上では、好ましくは、2又は3である。kは1から5の整数であり、熱交換媒体の流動性を向上させる上では、好ましくは1から4の整数である。
【0026】
グリコールジエーテル類としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル、ペンタエチレングリコールジメチルエーテル、ペンタプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラプロピレングリコールジエチルエーテル、ペンタエチレングリコールジエチルエーテル、ペンタプロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリプロピレングリコールジプロピルエーテル、テトラエチレングリコールジプロピルエーテル、テトラプロピレングリコールジプロピルエーテル、ペンタエチレングリコールジプロピルエーテル、ペンタプロピレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、テトラプロピレングリコールジブチルエーテル、ペンタエチレングリコールジブチルエーテル、ペンタプロピレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールメチルブチルエーテル、プロピレングリコールメチルブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルブチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルブチルエーテル、テトラプロピレングリコールメチルブチルエーテル、ペンタエチレングリコールメチルブチルエーテル、ペンタプロピレングリコールメチルブチルエーテル、などが挙げられる。これらのグリコールジエーテル類については、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
グリコールジエステル類は、以下の一般式(2)で表される。
R2-O-(-R1-O-)n-R3 (2)
【0028】
一般式(2)において、R1はCmH2mであり、R2及びR3はOCCkH2k+1である。ここで、nは1から5の整数であり、熱交換媒体の流動性を向上させる上では、好ましくは、1から3の整数である。mは1から4の整数であり、熱交換媒体の流動性を向上させる上では、好ましくは2又は3である。kは1から4の整数であり、熱交換媒体の流動性を向上させる上では、好ましくは1である。
【0029】
グリコールジエステル類としては、例えば、プロピレングリコールジアセタート、エチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールジアセタート、トリエチレングリコールジアセタートなどが挙げられる。これらのグリコールジエステル類については、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
グリコールモノエーテルエステル類は、以下の一般式(3)で表される。
R2-O-(-R1-O-)n-R3 (3)
【0031】
一般式(3)において、R1はCmH2mであり、R2はCkH2k+1であり、R3はOCCLH2L+1である。ここで、nは1から5の整数であり、熱交換媒体の流動性を向上させる上では、好ましくは、2又は3である。mは1から4の整数であり、熱交換媒体の流動性を向上させる上では、好ましくは2又は3である。kは1から5の整数であり、熱交換媒体の流動性を向上させる上では、好ましくは1から4の整数である。Lは1から4の整数である。
【0032】
グリコールモノエーテルエステル類としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタートなどが挙げられる。これらのグリコールモノエーテルエステル類については、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
熱交換媒体には、水及び/又はグリコール類を含めることができる。水及び/又はグリコール類の含有量は、金属の腐食を抑制することと、熱交換媒体を使用する所定の温度範囲(例えば、-30~150℃)において流動性を示すことを考慮して、適宜決めることができる。ここで、熱媒体成分の100質量部に対して、水及び/又はグリコール類の合計量は、50質量部未満であることが好ましい。水及び/又はグリコール類の合計量は、30質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。水及び/又はグリコール類は、熱交換媒体に予め含ませておくこともできるし、熱交換媒体を使用するときに添加することもできる。
【0034】
水としては、例えば、イオン交換水が挙げられる。グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールが挙げられる。
【0035】
(腐食抑制剤)
腐食抑制剤としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸又はそれらの塩、ホウ酸又はこの塩、ケイ酸又はこの塩、リン酸又はこの塩、亜硝酸塩、硝酸塩、モリブデン酸塩、トリアゾール系化合物、ジアゾール系化合物、チアゾール系化合物、及びアミン化合物から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。好ましくは、腐食抑制剤として、トリアゾール系化合物及び/又はアミン化合物を用いることができる。以下、具体的に説明する。
【0036】
(脂肪族モノカルボン酸)
脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、ステアリン酸等、及びそれらのアルカリ金属塩、アミン塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0037】
(芳香族モノカルボン酸)
芳香族モノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、ニトロ安息香酸、ヒドロキシ安息香酸等の安息香酸類、p-トルイル酸、p-エチル安息香酸、p-プロピル安息香酸、p-イソプロピル安息香酸、p-tertブチル安息香酸等のアルキル安息香酸、一般式RO-C6H4-COOH(Rは炭素数が1から5のアルキル基)で示されるアルコキシ安息香酸、一般式R-C6H4-CH=COOH(Rは炭素数が1から5のアルキル基又はアルコキシ基)で示されるケイヒ酸、アルキルケイヒ酸、アルコキシケイヒ酸、及びこれらのアルカリ金属塩、アミン塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0038】
(脂肪族ジカルボン酸)
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピペリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン酸、ドデカン2酸、ブラシル酸、タブチン酸等、及びそれらのアルカリ金属塩、アミン塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0039】
(芳香族ジカルボン酸)
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、無水フタル酸又はテレフタル酸等、及びそれらのアルカリ金属塩、アミン塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0040】
(ホウ酸、ホウ酸塩)
ホウ酸、及びホウ酸塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0041】
(ケイ酸、ケイ酸塩)
ケイ酸、及びケイ酸塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0042】
(リン酸、リン酸塩)
リン酸、及びリン酸塩としては、例えば、正リン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、テトラリン酸等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0043】
(亜硝酸塩)
亜硝酸塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0044】
(硝酸塩)
硝酸塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0045】
(モリブデン酸塩)
モリブデン酸塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0046】
(トリアゾール系化合物)
トリアゾール系化合物としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、4-フェニル-1,2,3-トリアゾール、2-ナフトトリアゾール、4-ニトロベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0047】
(ジアゾール系化合物)
ジアゾール系化合物としては、例えば、イミダゾリン、イミダゾール、メルカプトイミダゾリン、メルカプトイミダゾール、ベンズイミダゾール、メチルイミダゾールが挙げられる。
【0048】
(チアゾール系化合物)
チアゾール系化合物としては、例えば、ベンゾチアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、及びそのアルカリ金属塩が挙げられる。
【0049】
(アミン化合物)
アミン化合物としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンのようなエタノールアミン類;モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンのようなイソプロパノールアミン類;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、シクロヘキシルジエタノールアミンのようなシクロヘキシルアミン類;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどのような脂肪族アミン類が挙げられる。
【0050】
(シリコン系消泡剤)
本実施形態の熱交換媒体には、シリコン系消泡剤を含めることができる。ここで、シリコン系消泡剤の含有量は、熱媒体成分の100質量部に対して、0.001~0.1質量部とすることができる。
【0051】
シリコン系消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサンコポリマー、α,ω-ジヒドロキシジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等の一般シリコン;アミノ変性シリコン、アルキル変性シリコン、ポリエーテル変性シリコン、高級脂肪酸変性シリコン、カルボキシル変性シリコン、アルコール変性シリコン等の各種変性シリコン;各種架橋シリコン、共重合系シリコンが挙げられる。これらのシリコン系消泡剤については、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
本実施形態の熱交換媒体には、上述した熱媒体成分、腐食抑制剤、シリコン系消泡剤の他に、熱交換媒体の用途に応じて、潤滑油、耐摩耗剤、着色剤、PH調整剤などを添加してもよい。
【0053】
本実施形態の熱交換媒体は、以下に説明する特性を有する。
【0054】
(空気層の移動時間)
熱交換媒体を試料瓶(容器)に充填し、試料瓶の上方に空気層を設けておく。試料瓶の底面から熱交換媒体の液面までの距離は110mmとする。試料瓶内の熱交換媒体の温度を-30℃とした後に、この試料瓶を逆さまにすると、空気層が試料瓶の底面から熱交換媒体の液面に向かって移動する。この空気層が熱交換媒体の液面に到達するまでの時間(空気層の移動時間)、言い換えれば、試料瓶を逆さまにしたタイミングから、空気層が熱交換媒体の液面に到達するまでの時間は、1.5秒以下であり、好ましくは1秒以下である。
【0055】
(動粘度)
本実施形態の熱交換媒体については、-30℃での動粘度が60mm2/s以下である。この動粘度は、好ましくは40mm2/s以下であり、さらに好ましくは20mm2/s以下である。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0057】
(実施例1)
熱媒体成分として、グリコールジエーテル類であるトリエチレングリコールジメチルエーテルを用い、腐食抑制剤として、ジエタノールアミン及びトリルトリアゾールを用い、シリコン系消泡剤を添加して熱交換媒体を製造した。トリエチレングリコールジメチルエーテルを100質量部としたとき、ジエタノールアミンを0.3質量部、トリルトリアゾールを0.3質量部、シリコン系消泡剤を0.01質量部とした。
【0058】
(実施例2)
熱媒体成分として、グリコールジエーテル類であるトリプロピレングリコールジメチルエーテルを用い、腐食抑制剤として、ジエタノールアミン及びトリルトリアゾールを用い、シリコン系消泡剤を添加して熱交換媒体を製造した。トリプロピレングリコールジメチルエーテルを100質量部としたとき、ジエタノールアミンを0.2質量部、トリルトリアゾールを0.1質量部、シリコン系消泡剤を0.01質量部とした。
【0059】
(実施例3)
熱媒体成分として、グリコールジエーテル類であるトリエチレングリコールジメチルエーテルを用い、腐食抑制剤として、ジエタノールアミン及びトリルトリアゾールを用い、シリコン系消泡剤及び水を添加して熱交換媒体を製造した。トリエチレングリコールジメチルエーテルを100質量部としたとき、水を10質量部、ジエタノールアミンを0.2質量部、トリルトリアゾールを0.1質量部、シリコン系消泡剤を0.01質量部とした。
【0060】
(実施例4)
熱媒体成分として、グリコールジエーテル類であるジエチレングリコールジブチルエーテルを用い、腐食抑制剤として、ジエタノールアミン及びトリルトリアゾールを用い、シリコン系消泡剤を添加して熱交換媒体を製造した。ジエチレングリコールジブチルエーテルを100質量部としたとき、ジエタノールアミンを0.2質量部、トリルトリアゾールを0.1質量部、シリコン系消泡剤を0.01質量部とした。
【0061】
(実施例5)
熱媒体成分として、グリコールジエステル類であるプロピレングリコールジアセタートを用い、腐食抑制剤として、ジエタノールアミン及びトリルトリアゾールを用い、シリコン系消泡剤を添加して熱交換媒体を製造した。プロピレングリコールジアセタートを100質量部としたとき、ジエタノールアミンを0.2質量部、トリルトリアゾールを0.1質量部、シリコン系消泡剤を0.01質量%とした。
【0062】
(実施例6)
熱媒体成分として、グリコールジエーテル類であるトリエチレングリコールジメチルエーテルを用い、腐食抑制剤として、ジエタノールアミン及びトリルトリアゾールを用い、シリコン系消泡剤、水及びエチレングリコールを添加して熱交換媒体を製造した。トリエチレングリコールジメチルエーテルを100質量部としたとき、水を10質量部、エチレングリコールを20質量部、ジエタノールアミンを0.2質量部、トリルトリアゾールを0.1質量部、シリコン系消泡剤を0.01質量部とした。
【0063】
(実施例7)
熱媒体成分として、グリコールジエーテル類であるトリエチレングリコールジメチルエーテルと、グリコールジエステル類であるプロピレングリコールジアセタートと、グリコールモノエーテルエステル類であるジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタートを用い、腐食抑制剤として、ジエタノールアミン及びトリルトリアゾールを用い、シリコン系消泡剤を添加して熱交換媒体を製造した。トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジアセタート及びジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタートの合計量を100質量部としたとき、ジエタノールアミンを0.2質量部、トリルトリアゾールを0.1質量部、シリコン系消泡剤を0.01質量部とした。
【0064】
(比較例1)
水、エチレングリコール、腐食抑制剤及びシリコン系消泡剤を混合して熱交換媒体を製造した。腐食抑制剤としては、ジエタノールアミン及びトリルトリアゾールを用いた。ここで、水を70質量部とし、エチレングリコールを30質量部とした。水及びエチレングリコールの合計を100質量部としたとき、ジエタノールアミンを0.2質量部、トリルトリアゾールを0.1質量部、シリコン系消泡剤を0.01質量部とした。
【0065】
(比較例2)
熱媒体成分として、グリコールジエーテル類であるトリエチレングリコールジメチルエーテルを用い、水を添加して熱交換媒体を製造した。トリエチレングリコールジメチルエーテルを100質量部としたとき、水を10質量部とした。本比較例では、腐食抑制剤やシリコン系消泡剤は添加していない。
【0066】
上述した実施例1~7及び比較例1~2の熱交換媒体について、以下に説明する評価を行った。以下、これらの評価内容について説明する。
【0067】
(腐食性の評価)
腐食性の評価では、アルミニウム及び鋳鉄でそれぞれ形成された2枚の試験片を互いに離した状態で試験液(150ml)に浸漬し、2枚の試験片に電圧を印加して試験片の質量の変化を調べた。試験液は、実施例1~7及び比較例1~2の熱交換媒体である。
【0068】
試験片としては、JIS K2234不凍液に規定する試験片を使用した。試験装置は、直流安定化電源(0~20V,0~2.2A)を使用した。試験を行う前に、試験液に2枚の試験片を離した状態で30分浸漬した。
【0069】
試験装置のマイナス極に一方の試験片を接続するとともに、試験装置のプラス極に他方の試験片を接続し電圧を12Vに設定して30分の間、電流を流した。この後、試験片の質量変化を測定した。
【0070】
上述した測定結果に基づいて、試験片の質量変化値を算出した。質量変化値は、下記式(4)に基づいて算出した。
【0071】
D=|m2-m1| ・・・(4)
【0072】
上記式(4)において、Dは試験片の質量変化値(絶対値)[mg]であり、m1は試験前の試験片の質量[mg]であり、m2は試験後の試験片の質量[mg]である。
【0073】
上述した質量変化値Dに基づいて、腐食性を評価した。ここで、質量変化値Dが大きいほど、試験片の腐食が進行していることになる。腐食性の評価においては、質量変化値Dに関する2つの閾値D_th1,D_th2を設定した。閾値D_th1は閾値D_th2よりも小さく、例えば、閾値D_th1を0.4mgとし、閾値D_th2を0.6mgとすることができる。質量変化値Dが閾値D_th1以下であるとき、腐食性の評価をAとし、質量変化値Dが閾値D_th1~D_th2の間であるとき、腐食性の評価をBとし、質量変化値Dが閾値D_th2以上であるとき、腐食性の評価をCとした。腐食性の評価では、A、B、Cの順で耐腐食性に優れていることを示す。
【0074】
(150℃蒸気圧の評価)
熱交換媒体の温度を150℃として、熱交換媒体の蒸気圧を測定した。蒸気圧は、比較的適用範囲が広いいわゆる「静置法」に基づいて測定した。蒸気圧が低いほど、熱交換媒体が揮発しにくいことを意味する。蒸気圧の評価においては、蒸気圧に関する2つの閾値e_th1,e_th2を設定した。閾値e_th1,eは閾値e_th2よりも低く、例えば、閾値e_th1を1atmとし、閾値e_th2を3atmとすることができる。蒸気圧が閾値e_th1以下であるときの評価をAとし、蒸気圧が閾値e_th1~e_th2の間であるときの評価をBとし、蒸気圧が閾値e_th2以上であるときの評価をCとした。
【0075】
(流動性の評価)
流動性の評価では、JIS K2233の耐寒性評価で規定される装置及び器具を用いた。直径37mm、高さ165mmの試料瓶に100mLの熱交換媒体を入れ、清浄なコルク栓で試料瓶の開口に栓をして密閉状態とした。-30℃±2℃に調節した低温槽中に試料瓶を入れ、144±4時間経過した後、試料瓶を低温槽から取り出し、試料瓶を速やかに逆さまに倒立させた。試料瓶を逆さまに倒立させてから、試料瓶内の空気層が熱交換媒体の液面に達するまでの時間(以下、液面到達時間という)をストップウオッチで測定した。この測定した液面到達時間に基づいて、熱交換媒体の流動性を評価した。
【0076】
流動性の評価においては、液面到達時間が短いほど、熱交換媒体の流動性に優れていることになる。ここで、液面到達時間が1秒未満であるときの評価をAとし、液面到達時間が1秒以上1.5秒以内であるときの評価をBとし、液面到達時間が1.5秒以上であるときの評価をCとし、熱交換媒体が固化して空気層が流動しないときの評価をDとした。
【0077】
(動粘度の評価)
熱交換媒体の動粘度は、JIS K2283(2000)の規定に準じ、ウベローデ粘度計を用いて測定した。ここで、熱交換媒体の温度を-30℃に調整した。動粘度の評価としては、動粘度が20mm2/s以下であるときの評価をAとし、動粘度が20~40mm2/sであるときの評価をBとし、動粘度が40~60mm2/sであるときの評価をCとし、動粘度が60~80mm2/sであるときの評価をDとし、動粘度が80mm2/sを超えたときの評価をEとした。
【0078】
(泡立ち性の評価)
JIS K2234の規定に準じて、熱交換媒体の泡立ち性を評価した。具体的には、メスシリンダーに所定量の熱交換媒体を入れ、メスシリンダーを所定回数だけ振とうした。振とう後、10秒間静置した後において、メスシリンダーの外部から泡が発生しているか否かを目視によって確認した。
【0079】
上述した評価の結果を下記表1に示す。
【0080】
【0081】
表1から分かるように、腐食性については、実施例1~7の評価がAであり、比較例1,2よりも優れていることが分かった。蒸気圧については、実施例1~7の評価がA又はBであり、比較例1よりも優れていることが分かった。流動性については、実施例1~7の評価がAであり、比較例1よりも優れていることが分かった。動粘度については、実施例1~7の評価がA~Cであり、比較例1よりも優れていることが分かった。泡立ち性については、実施例1~7で泡立ちが見られなかった。
【0082】
実施例3及び比較例2を比較すると、腐食性及び泡立ちの有無において、実施例3は比較例2よりも優れている。実施例5及び比較例2を比較すると、腐食性、蒸気圧及び泡立ちの評価において、実施例5は比較例2よりも優れている。実施例6,7と比較例2を比較すると、動粘度において、実施例6,7の評価(C)が比較例2の評価(B)よりも劣るが、腐食性、蒸気圧及び泡立ちの評価において、実施例6,7は比較例2よりも優れている。