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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】多段圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 23/00 20060101AFI20221221BHJP
   F04C 18/16 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
F04C23/00 E
F04C18/16 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019037458
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2020139487
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】土屋 豪
(72)【発明者】
【氏名】千葉 紘太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢部 利明
(72)【発明者】
【氏名】笠原 雅之
(72)【発明者】
【氏名】酒井 航平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄二
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-524202(JP,A)
【文献】特開2007-138919(JP,A)
【文献】特開平02-221634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 23/00
F04C 18/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前段圧縮機本体と、前記前段圧縮機本体で圧縮された気体を更に圧縮する後段圧縮機本体と、前記前段圧縮機本体の吐出側と前記後段圧縮機本体の吸入側の間で接続された中間流路と、前記後段圧縮機本体の吐出側に接続された吐出流路と、を備えた多段圧縮機において、
前記前段圧縮機本体の吐出行程の作動室とは異なる圧縮行程の作動室と前記中間流路を連通する前段弁孔と、
前記前段弁孔に配置され、前記前段圧縮機本体の前記圧縮行程の作動室の圧力と前記中間流路の圧力との差圧によって作動する前段リリース弁と
前記後段圧縮機本体の吐出行程の作動室とは異なる圧縮行程の作動室と前記吐出流路の間で接続された後段弁孔と、
前記後段弁孔に配置され、前記後段圧縮機本体の前記圧縮行程の作動室の圧力と前記吐出流路の圧力との差圧によって作動する後段リリース弁とを備え、
前記前段リリース弁は、前記前段圧縮機本体の前記圧縮行程の作動室の圧力が前記中間流路の圧力より低い場合に前記前段弁孔を遮断状態とし、前記前段圧縮機本体の前記圧縮行程の作動室の圧力が前記中間流路の圧力より高い場合に前記前段弁孔を連通状態とし、
前記後段リリース弁は、前記後段圧縮機本体の前記圧縮行程の作動室の圧力が前記吐出流路の圧力より低い場合に前記後段弁孔を遮断状態とし、前記後段圧縮機本体の前記圧縮行程の作動室の圧力が前記吐出流路の圧力より高い場合に前記後段弁孔を連通状態とすることを特徴とする多段圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の多段圧縮機において、
前記前段圧縮機本体は、スクリューロータと、前記スクリューロータを収納してその歯溝に作動室を形成するケーシングとを備え、
前記前段弁孔は、前記スクリューロータの歯溝の延在方向に沿って形成されたことを特徴とする多段圧縮機。
【請求項3】
請求項1又は2記載の多段圧縮機において、
前記前段圧縮機本体の容積比は、2.3以上2.8以下であることを特徴とする多段圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の圧縮機本体を備えた多段圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧縮機の省エネ化が強く求められており、高効率や大風量であることが益々重要になっている。圧縮機の多段化は、そのための手法の1つであり、例えば、特許文献1は、二段スクリュー圧縮機を開示する。
【0003】
多段圧縮機は、前段圧縮機本体と、前段圧縮機本体で圧縮された気体を更に圧縮する後段圧縮機本体と、前段圧縮機本体の吐出側と後段圧縮機本体の吸入側の間で接続された中間流路とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-166401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中間流路の圧力(以降、中間圧力という)の設定値は、多段圧縮機の圧力比(詳細には、最終段圧縮機本体の吐出側圧力と初段圧縮機本体の吸入側圧力との比)の設定値に応じて決める。構造上の各段圧縮機本体の容積比(詳細には、吸入完了時の作動室の容積と吐出開始時の作動室の容積との比)は、多段圧縮機の圧力比の設定値と中間圧力の設定値に基づいて設計する。
【0006】
ところで、多段圧縮機の運転条件(詳細には、例えば最終段圧縮機本体の吐出側圧力の制御値)によって多段圧縮機の圧力比の運転値が変化し、これに伴って中間圧力の運転値が変化する。また、各段圧縮機本体の圧力差(詳細には、吐出側圧力と吸入側圧力との差)が変化し、これに伴って各段圧縮機本体の体積効率が変化し、その影響も受けて中間圧力の運転値が変化する。
【0007】
中間圧力の運転値が設定値より高ければ、前段圧縮機本体の圧縮行程の作動室の圧力が中間圧力の運転値より低くなり、圧縮不足な状態となる。そのため、中間圧力の設定値が比較的高くなるように、各段圧縮機本体の容積比を設計することが好ましい。しかし、中間圧力の設定値が比較的高くなるように設計した場合、中間圧力の運転値が設定値より低くなりやすい。中間圧力の運転値が設定値より低ければ、前段圧縮機本体の圧縮行程の作動室の圧力が中間圧力の運転値より高くなり、圧縮過剰な状態となる。すなわち、エネルギー損失が発生し、効率が低下する。
【0008】
本発明は、上記事柄に鑑みてなされたものであり、中間圧力の変化に応じて前段圧縮機本体の圧縮行程の作動室の圧力を調整して、効率を向上させることを課題の一つとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、特許請求の範囲に記載の構成を適用する。本発明は、上記課題を解決するための手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、前段圧縮機本体と、前記前段圧縮機本体で圧縮された気体を更に圧縮する後段圧縮機本体と、前記前段圧縮機本体の吐出側と前記後段圧縮機本体の吸入側の間で接続された中間流路と、前記後段圧縮機本体の吐出側に接続された吐出流路と、を備えた多段圧縮機において、前記前段圧縮機本体の吐出行程の作動室とは異なる圧縮行程の作動室と前記中間流路を連通する前段弁孔と、前記前段弁孔に配置され、前記前段圧縮機本体の前記圧縮行程の作動室の圧力と前記中間流路の圧力との差圧によって作動する前段リリース弁と、前記後段圧縮機本体の吐出行程の作動室とは異なる圧縮行程の作動室と前記吐出流路の間で接続された後段弁孔と、前記後段弁孔に配置され、前記後段圧縮機本体の前記圧縮行程の作動室の圧力と前記吐出流路の圧力との差圧によって作動する後段リリース弁とを備え、前記前段リリース弁は、前記前段圧縮機本体の前記圧縮行程の作動室の圧力が前記中間流路の圧力より低い場合に前記前段弁孔を遮断状態とし、前記前段圧縮機本体の前記圧縮行程の作動室の圧力が前記中間流路の圧力より高い場合に前記前段弁孔を連通状態とし、前記後段リリース弁は、前記後段圧縮機本体の前記圧縮行程の作動室の圧力が前記吐出流路の圧力より低い場合に前記後段弁孔を遮断状態とし、前記後段圧縮機本体の前記圧縮行程の作動室の圧力が前記吐出流路の圧力より高い場合に前記後段弁孔を連通状態とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、中間圧力の変化に応じて前段圧縮機本体の圧縮行程の作動室の圧力を調整して、効率を向上させることができる。
【0011】
なお、上記以外の課題、構成及び効果は、以下の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態における二段スクリュー圧縮機の概略構造を表す鉛直断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態における前段圧縮機本体の構造を表す水平断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態における前段圧縮機本体の構造を表す径方向断面図である。
図4】本発明の第1の変形例における前段圧縮機本体の構造を表す水平断面図である。
図5】本発明の第2の実施形態における二段スクリュー圧縮機の概略構造を表す鉛直断面図である。
図6】本発明の第2の変形例における二段スクロール圧縮機の概略構造を表す鉛直断面図である。
図7】本発明の第3の変形例における二段スクロール圧縮機の概略構造を表す鉛直断面図である。
図8】本発明の第4の変形例におけるリリース弁の構造を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の適用対象として二段スクリュー圧縮機を例にとり、本発明の第1の実施形態を、図1図3を用いて説明する。
【0014】
図1は、本実施形態における二段スクリュー圧縮機の概略構造を表す鉛直断面図である。図2は、本実施形態における前段圧縮機本体の構造を表す水平断面図である。図3は、本実施形態における前段圧縮機本体の構造を表す径方向断面図である。なお、図2においては、便宜上、前段リリース弁のリテーナの図示を省略する。
【0015】
本実施形態の二段スクリュー圧縮機は、前段圧縮機本体1と、前段圧縮機本体1で圧縮された気体(詳細には、空気又は冷媒等)を更に圧縮する後段圧縮機本体2と、前段圧縮機本体1の吐出側と後段圧縮機本体2の吸入側の間で接続された中間流路3と、後段圧縮機本体2の吐出側に接続された吐出流路4とを備える。なお、図示しないものの、中間流路3にはインタークーラが設けられ、吐出流路4にはアフタークーラが設けられている。
【0016】
前段圧縮機本体1は、回転軸が平行で互いに噛み合う雄ロータ5A及び雌ロータ6A(スクリューロータ)と、雄ロータ5A及び雌ロータ6Aを収納して、それらの歯溝に雄ロータ側作動室及び雌ロータ側作動室を形成するケーシング7Aとを備える。
【0017】
雄ロータ5Aは、吸入側軸受8A及び吐出側軸受9Aで回転可能に支持され、雌ロータ6Aは、吸入側軸受8B及び吐出側軸受9Bで回転可能に支持されている。雄ロータ5A及び雌ロータ6Aのうちの一方は、第1モータ(図示せず)によって回転し、他方は、雄ロータ5Aと雌ロータ6Aの噛み合いによって回転する。但し、ギアを用いて、雄ロータ5Aと雌ロータ6Aを同期回転させてもよい。
【0018】
雄ロータ5A及び雌ロータ6Aの回転に伴い、雄ロータ側作動室及び雌ロータ側作動室は、軸方向の一方側(図1及び図2の左側)から他方側(図1及び図2の右側)へ移動しつつ、それらの容積が変化する。これにより、吸入行程、圧縮行程、吐出行程を順次行うようになっている。詳しく説明すると、吸入行程の雄ロータ側作動室X1及び雌ロータ側作動室Y1は、それらの容積が増加して、吸入口10Aから気体を吸入する。圧縮行程の雄ロータ側作動室X2及び雌ロータ側作動室Y2は、それらの容積が縮小して、気体を圧縮する。吐出行程の雄ロータ側作動室X3及び雌ロータ側作動室Y3は、吐出口11Aから圧縮気体を吐出する。
【0019】
後段圧縮機本体2は、回転軸が平行で互いに噛み合う雄ロータ5B及び雌ロータ6B(但し、5Bのみ図示)と、雄ロータ5B及び雌ロータ6Bを収納して、それらの歯溝に雄ロータ側作動室及び雌ロータ側作動室を形成するケーシング7Bとを備える。
【0020】
雄ロータ5Bは、吸入側軸受及び吐出側軸受(図示せず)で回転可能に支持され、雌ロータ6Bは、吸入側軸受及び吐出側軸受(図示せず)で回転可能に支持されている。雄ロータ5B及び雌ロータ6Bのうちの一方は、第2モータ(図示せず)によって回転し、他方は、雄ロータ5Bと雌ロータ6Bの噛み合いによって回転する。但し、ギアを用いて、雄ロータ5Bと雌ロータ6Bを同期回転させてもよい。
【0021】
雄ロータ5B及び雌ロータ6Bの回転に伴い、雄ロータ側作動室及び雌ロータ側作動室は、軸方向の一方側(図1の左側)から他方側(図1の右側)へ移動しつつ、その容積が変化する。これにより、吸入行程、圧縮行程、吐出行程を順次行うようになっている。詳しく説明すると、吸入行程の雄ロータ側作動室X4及び雌ロータ側作動室(図示せず)は、それらの容積が増加して、吸入口10Bから気体を吸入する。圧縮行程の雄ロータ側作動室X5及び雌ロータ側作動室(図示せず)は、それらの容積が縮小して、気体を圧縮する。吐出行程の雄ロータ側作動室X6及び雌ロータ側作動室(図示せず)は、吐出口11Bから圧縮気体を吐出する。
【0022】
ここで、本実施形態の特徴の一つとして、二段スクリュー圧縮機の圧力比(詳細には、後段圧縮機本体2の吐出側圧力と前段圧縮機本体1の吸入側圧力との比)の運転値の変化に伴う中間流路3の圧力(以降、中間圧力という)の運転値の変化を考慮するため、中間圧力の設定値が比較的高くなるように、前段圧縮機本体1の容積比が設定されている。これにより、前段圧縮機本体1の圧縮不足を回避するようになっている。以下、その詳細を説明する。
【0023】
中間流路3の圧力損失や気体漏れが無いと仮定し、後段圧縮機本体2の吸気温度が前段圧縮機本体1の吸気温度と同じであると仮定した場合に、動力が最小になるための前段圧縮機本体1の圧力比Pi/Ps1は、下記の式(1)で与えられる。Ps1は前段圧縮機本体1の吸入側圧力、Piは中間圧力、Pd2は後段圧縮機本体2の吐出側圧力である。
【0024】
【数1】
【0025】
しかしながら、実際には、中間流路3での冷却不足により、後段圧縮機本体2の吸気温度が前段圧縮機本体1の吸気温度と同じにならない。また、二段スクリュー圧縮機の圧力比の運転値が変化すると、各段圧縮機本体の圧力差(詳細には、吐出側圧力と吸入側圧力との差)も変化し、これに伴って各段圧縮機本体の体積効率が変化する。そして、下記の式(2)で示すように、前段圧縮機本体1の圧力比Pi/Ps1は、後段圧縮機本体2の行程容積Vth2と前段圧縮機本体1の行程容積Vth1との比、後段圧縮機本体2の回転数N2と前段圧縮機本体1の回転数N1との比、後段圧縮機本体2の体積効率ηv2と前段圧縮機本体1の体積効率ηv1との比、及び後段圧縮機本体2の吸入側温度Ts2と前段圧縮機本体1の吸入側温度Ts1との比で決まる。すなわち、実際の圧力比Pi/Ps1は、式(1)を用いて算出された理想値より高くなる。
【0026】
【数2】
【0027】
例えば二段スクリュー圧縮機の圧力比の運転値が8~9の範囲で変化する場合を想定する。式(1)を用いれば、二段スクリュー圧縮機の圧力比Pd2/Ps1=9であるとき、前段圧縮機本体1の圧力比Pi/Ps1=3である(すなわち、前段圧縮機本体1の吸入側圧力Ps1=0.1MPaであれば、中間圧力Pi=0.3MPaである)。そして、圧力比Pi/Ps1=3(理想値)に対応する前段圧縮機本体1の容積比=2.2であるものの、実際の圧力比Pi/Ps1が理想値より高いため、前段圧縮機本体1の容積比=2.3となるように設定する。これにより、二段スクリュー圧縮機の圧力比の運転値の変化に伴って中間圧力の運転値が変化しても、前段圧縮機本体1の圧縮行程の作動室の圧力が中間圧力の運転値より高くならない。したがって、圧縮不足な状態とならない。
【0028】
また、例えば二段スクリュー圧縮機の圧力比の運転値が8~14の範囲で変化する場合を想定する。式(1)を用いれば、二段スクリュー圧縮機の圧力比Pd2/Ps1=14であるとき、前段圧縮機本体1の圧力比Pi/Ps1=3.74である(すなわち、前段圧縮機本体1の吸入側圧力Ps1=0.1MPaであれば、中間圧力Pi=0.374MPaである)。そして、圧力比Pi/Ps1=3.74(理想値)に対応する前段圧縮機本体1の容積比=2.6であるものの、実際の圧力比Pi/Ps1が理想値より高いため、前段圧縮機本体1の容積比=2.8となるように設定する。これにより、二段スクリュー圧縮機の圧力比の運転値の変化に伴って中間圧力の運転値が変化しても、前段圧縮機本体1の圧縮行程の作動室の圧力が中間圧力の運転値より高くならない。したがって、圧縮不足な状態とならない。前述した考察によれば、前段圧縮機本体1の容積比は、2.3以上2.8以下となる。
【0029】
上述した通り、中間圧力の設定値が比較的高くなるように、前段圧縮機本体1の容積比が設定されている。そして、二段スクリュー圧縮機の圧力比の運転値が比較的低くなり、これに伴って中間圧力の運転値が比較的低くなれば、前段圧縮機本体1が過圧縮(詳細には、圧縮行程の作動室の圧力が中間圧力より高い状態)となる。そのため、本実施形態の他の特徴として、前段圧縮機本体1は、圧縮行程の雄ロータ側作動室X2と中間流路3を連通する前段弁孔12Aと、前段弁孔12Aに配置された前段リリース弁13Aと、圧縮行程の雌ロータ側作動室Y2と中間流路3を連通する前段弁孔12Bと、前段弁孔12Bに配置された前段リリース弁13Bとを備える。
【0030】
図2で示すように、前段弁孔12Aは、雄ロータ5Aの軸方向に対して垂直な方向に延在するように形成されている。同様に、前段弁孔12Bは、雌ロータ6Aの軸方向に対して垂直な方向に延在するように形成されている。
【0031】
図3で示すように、前段弁孔12A,12Bの弁座(段差面)は、雄ロータ5Aの中心と雌ロータ6Aの中心を結ぶ直線に対して平行な方向に延在するように形成されている。但し、前段弁孔12A,12Bにおける座面より作動室側の容積を低減するため、前段弁孔12A,12Bの弁座は、雄ロータ5Aの中心と雌ロータ6Aの中心を結ぶ直線に対して傾斜させてもよい。
【0032】
前段リリース弁13Aは、前段弁孔12Aの弁座に配置された弁体14Aと、弁体14Aの抑えであるリテーナ15Aと、弁体14A及びリテーナ15Aを固定するボルト16Aとを有する。そして、圧縮行程の雄ロータ側作動室X2の圧力が中間圧力より低い場合は、弁体14Aが変形しないため、前段弁孔12Aを遮断状態とする。一方、圧縮行程の雄ロータ側作動室X2の圧力が中間圧力より高い場合は、弁体14Aが変形するため、前段弁孔12Aを連通状態とする。これにより、圧縮行程の雄ロータ側作動室X2の圧力を中間圧力まで低減することができる。
【0033】
同様に、前段リリース弁13Bは、前段弁孔12Bの弁座に配置された弁体14Bと、弁体14Bの抑えであるリテーナ15Bと、弁体14B及びリテーナ15Bを固定するボルト16Bとを有する。そして、圧縮行程の雌ロータ側作動室Y2の圧力が中間圧力より低い場合は、弁体14Bが変形しないため、前段弁孔12Bを遮断状態とする。一方、圧縮行程の雌ロータ側作動室Y2の圧力が中間圧力より高い場合は、弁体14Bが変形するため、前段弁孔12Bを連通状態とする。これにより、圧縮行程の雌ロータ側作動室Y2の圧力を中間圧力まで低減することができる。
【0034】
したがって、本実施形態では、中間圧力の変化に応じて前段圧縮機本体1の圧縮行程の作動室の圧力を調整して、効率を向上させることができる。また、本実施形態では、前段リリース弁13A,13Bは、前段圧縮機本体1の圧縮行程の作動室の圧力と中間圧力との差圧によって作動する。そのため、オイルフリー式の(詳細には、作動室に油を供給しない)圧縮機に好適である。
【0035】
なお、第1の実施形態において、前段弁孔12Aは、雄ロータ5Aの軸方向に対して垂直な方向に延在するように形成され、前段弁孔12Bは、雌ロータ6Aの軸方向に対して垂直な方向に延在するように形成された場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で変形が可能である。例えば図4で示す変形例のように、前段弁孔12Aは、雄ロータ5Aの歯溝の延在方向に沿って形成され、前段弁孔12Bは、雌ロータ6Aの歯溝の延在方向に沿って形成されてもよい。この変形例では、第1の実施形態と比べ、隣接する圧縮行程の雄ロータ側作動室が前段弁孔12Aを介して連通する時間を低減することができる。また、第1の実施形態と比べ、隣接する圧縮行程の雌ロータ側作動室が前段弁孔12Bを介して連通する時間を低減することができる。したがって、圧縮動作の阻害を抑制することができる。
【0036】
本発明の第2の実施形態を、図5を用いて説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0037】
図5は、本実施形態における二段スクリュー圧縮機の構造を表す鉛直断面図である。
【0038】
本実施形態では、後段圧縮機本体2は、圧縮行程の雄ロータ側作動室X5と吐出流路4を連通する後段弁孔17Aと、後段弁孔17Aに配置された後段リリース弁18Aと、圧縮行程の雌ロータ側作動室と吐出流路4を連通する後段弁孔17B(図示せず)と、後段弁孔17Bに配置された後段リリース弁18B(図示せず)とを備える。なお、後段弁孔17A,17Bは、上述した前段弁孔12A,12Bと同様の構造であるため、その説明を省略する。
【0039】
後段リリース弁18Aは、上述した前段リリース弁13Aと同様の構造である。すなわち、後段弁孔17Aの弁座に配置された弁体と、弁体の抑えであるリテーナと、弁体及びリテーナを固定するボルトとを有する。そして、圧縮行程の雄ロータ側作動室X5の圧力が吐出流路4の圧力より低い場合は、弁体が変形しないため、後段弁孔17Aを遮断状態とする。一方、圧縮行程の雄ロータ側作動室X5の圧力が吐出流路4の圧力より高い場合は、弁体が変形するため、後段弁孔17Aを連通状態とする。これにより、圧縮行程の雄ロータ側作動室X5の圧力を吐出流路4の圧力まで低減することができる。
【0040】
同様に、後段リリース弁18Bは、上述した前段リリース弁13Bと同様の構造である。すなわち、後段弁孔17Bの弁座に配置された弁体と、弁体の抑えであるリテーナと、弁体及びリテーナを固定するボルトとを有する。そして、圧縮行程の雌ロータ側作動室の圧力が吐出流路4の圧力より低い場合は、弁体が変形しないため、後段弁孔17Bを遮断状態とする。一方、圧縮行程の雌ロータ側作動室の圧力が吐出流路4の圧力より高い場合は、弁体が変形するため、後段弁孔17Bを連通状態とする。これにより、圧縮行程の雌ロータ側作動室の圧力を吐出流路4の圧力まで低減することができる。
【0041】
したがって、本実施形態では、第1の実施形態と同様の効果に加え、吐出流路4の圧力の変化に応じて後段圧縮機本体2の圧縮行程の作動室の圧力を調整して、効率を向上させるという効果を得ることができる。
【0042】
なお、第1及び第2の実施形態において、各段圧縮機本体は、2つのスクリューロータを備えた場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で変形が可能である。例えば、各段圧縮機本体は、1つ又は3つのスクリューロータを備えたものでもよい。
【0043】
また、第1及び第2の実施形態において、本発明の適用対象として二段スクリュー圧縮機を例にとって説明したが、これに限られず、二段スクロール圧縮機であってもよい。このような変形例を、図6又は図7を用いて説明する。なお、本変形例において、第1又は第2の実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0044】
図6で示す変形例では、前段圧縮機本体1Aは、渦巻状のラップを有する固定スクロール部材20Aと、固定スクロール部材20Aのラップと噛み合って作動室を形成する渦巻き状のラップを有する旋回スクロール部材21Aと、旋回スクロール部材21Aに係合されたクランク軸22Aと、固定スクロール部材20Aの下側に設けられて旋回スクロール部材21Aを収納するケーシング23Aと、固定スクロール部材20Aの上側(吐出側)に設けられたカバー24Aとを備える。
【0045】
旋回スクロール部材21Aは、オルダムリング(図示せず)で自転することなく旋回可能に支持され、クランク軸22Aは、軸受(図示せず)で回転可能に支持されている。クランク軸22Aは、モータ(図示せず)によって回転して、旋回スクロール部材21Aを旋回させる。
【0046】
旋回スクロール部材21Aの旋回に伴い、作動室は、径方向の外側から内側へ移動しつつ、その容積が変化する。これにより、吸入行程、圧縮行程、吐出行程を順次行うようになっている。詳しく説明すると、吸入行程の作動室は、その容積が増加して、吸入口25Aから気体を吸入する。圧縮行程の作動室Z1は、その容積が縮小して、気体を圧縮する。吐出行程の作動室Z2は、吐出口26Aから圧縮気体を吐出する。
【0047】
後段圧縮機本体2Aは、渦巻状のラップを有する固定スクロール部材20Bと、固定スクロール部材20Bのラップと噛み合って作動室を形成する渦巻き状のラップを有する旋回スクロール部材21Bと、旋回スクロール部材21Bに係合されたクランク軸22Bと、固定スクロール部材20Bの下側に設けられて旋回スクロール部材21Bを収納するケーシング23Bと、固定スクロール部材20Bの上側(吐出側)に設けられたカバー24Bとを備える。
【0048】
旋回スクロール部材21Bは、オルダムリング(図示せず)で自転することなく旋回可能に支持され、クランク軸22Bは、軸受(図示せず)で回転可能に支持されている。クランク軸22Bは、モータ(図示せず)によって回転して、旋回スクロール部材21Bを旋回させる。
【0049】
旋回スクロール部材21Bの旋回に伴い、作動室は、径方向の外側から内側へ移動しつつ、その容積が変化する。これにより、吸入行程、圧縮行程、吐出行程を順次行うようになっている。詳しく説明すると、吸入行程の作動室は、その容積が増加して、吸入口25Bから気体を吸入する。圧縮行程の作動室Z3は、その容積が縮小して、気体を圧縮する。吐出行程の作動室Z4は、吐出口26Bから圧縮気体を吐出する。
【0050】
本変形例では、第1及び第2の実施形態と同様、中間圧力の設定値が比較的高くなるように、前段圧縮機本体1Aの容積比が設定されている。前段圧縮機本体1Aは、圧縮行程の作動室Z1と中間流路3を連通する前段弁孔12と、前段弁孔12に配置された前段リリース弁13とを備える。そして、圧縮行程の作動室Z1の圧力が中間圧力より低い場合に、前段リリース弁13は、前段弁孔12を遮断状態とする。一方、圧縮行程の作動室Z1の圧力が中間圧力より高い場合に、前段リリース弁13は、前段弁孔12を連通状態とする。これにより、圧縮行程の作動室Z1の圧力を中間圧力まで低減することができる。したがって、第1及び第2の実施形態と同様、中間圧力の変化に応じて前段圧縮機本体1Aの圧縮行程の作動室の圧力を調整して、効率を向上させることができる。
【0051】
図7で示す変形例では、第2の実施形態と同様、後段圧縮機本体2Aは、圧縮行程の作動室Z3と吐出流路4を連通する後段弁孔17と、後段弁孔17に配置された後段リリース弁18とを備える。そして、圧縮行程の作動室Z3の圧力が吐出流路4の圧力より低い場合に、後段リリース弁18は、後段弁孔17を遮断状態とする。一方、圧縮行程の作動室Z3の圧力が吐出流路4の圧力より高い場合に、後段リリース弁18は、後段弁孔17を連通状態とする。これにより、圧縮行程の作動室Z3の圧力を吐出流路4の圧力まで低減することができる。したがって、第2の実施形態と同様、吐出流路4の圧力の変化に応じて後段圧縮機本体2Aの圧縮行程の作動室の圧力を調整して、効率を向上させることができる。
【0052】
なお、上述した実施形態及び変形例において、前段リリース弁(又は後段リリース弁)は、圧縮行程の作動室の圧力と中間圧力(又は吐出流路の圧力)との差圧によって変形する弁体を有する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で変形が可能である。このような変形例を、図8を用いて説明する。なお、図8においては、代表として前段リリース弁13を示すものの、他の前段リリース弁又は後段リリース弁であってもよい。
【0053】
本変形例では、前段リリース弁(又は後段リリース弁)は、弁体30と、弁体30を作動室側(図8の下側)へ付勢するバネ31と、弁体30及びバネ31の抑えであるリテーナ32と、リテーナ32を固定するボルト34とを有する。そして、圧縮行程の作動室の圧力が中間圧力(又は吐出流路の圧力)とバネ31の付勢力の総和より低い場合は、弁体30が作動室側に位置して前段弁孔(又は後段弁孔)を遮断状態とし、圧縮行程の作動室の圧力が中間流路の圧力(又は吐出流路の圧力)とバネ31の付勢力の総和より高い場合は、弁体30が中間流路側(又は吐出流路側)に位置して前段弁孔(又は後段弁孔)を連通状態とする。このような変形例においても、上記同様の効果を得ることができる。
【0054】
なお、以上においては、本発明の適用対象として、2つの圧縮機本体を備えた二段圧縮機を例にとって説明したが、これに限られず、3つ以上の圧縮機本体を備えた多段圧縮機でもよい。具体例の一つである三段圧縮機について詳述する。
【0055】
三段圧縮機は、第1段圧縮機本体と、第1段圧縮機本体で圧縮された気体を更に圧縮する第2段圧縮機本体と、第2段圧縮機本体で圧縮された気体を更に圧縮する第3段圧縮機本体と、第1段圧縮機本体の吐出側と第2段圧縮機本体の吸入側を接続する第1中間流路と、第2段圧縮機本体の吐出側と第3段圧縮機本体の吸入側を接続する第2中間流路と、第3段圧縮機本体の吐出側に接続された吐出流路とを備える。
【0056】
そして、第1段圧縮機本体の吐出行程の作動室とは異なる圧縮行程の作動室と第1中間流路を連通する第1段弁孔(前段弁孔)と、第1段弁孔に配置された第1段リリース弁(前段リリース弁)とを設けてもよい。また、第2段圧縮機本体の吐出行程の作動室とは異なる圧縮行程の作動室と第2中間流路を連通する第2段弁孔(前段弁孔)と、第2段弁孔に配置された第2段リリース弁(前段リリース弁)とを設けてもよい。また、第3段圧縮機本体の吐出行程の作動室とは異なる圧縮行程の作動室と吐出流路を連通する第3段弁孔(後段弁孔)と、第3段弁孔に配置された第3段リリース弁(後段リリース弁)とを設けてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1,1A…前段圧縮機本体、2,2A…後段圧縮機本体、3…中間流路、4…吐出流路、5A,5B…雄ロータ(スクリューロータ)、6A,6B…雌ロータ(スクリューロータ)、7A,7B…ケーシング、12,12A,12B…前段弁孔、13,13A,13B…前段リリース弁、17,17A,17B…後段弁孔、18,18A,18B…後段リリース弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8