(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】水分侵入検知システムおよび水分侵入検知方法
(51)【国際特許分類】
B25J 19/00 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
B25J19/00 Z
(21)【出願番号】P 2019055377
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 弘幸
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-012601(JP,A)
【文献】特開平07-246587(JP,A)
【文献】特表2018-536984(JP,A)
【文献】特開2009-224514(JP,A)
【文献】特開昭63-237889(JP,A)
【文献】特開昭61-121895(JP,A)
【文献】特開2005-205576(JP,A)
【文献】特開2008-307637(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0043587(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 17/02-19/00
H01L 21/304-21/673
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部に閉鎖空間を形成する産業用ロボットと、
前記閉鎖空間に圧縮エアを供給するエア供給機構と、
前記産業用ロボットの外部空間と前記閉鎖空間とを連通するべく前記産業用ロボットに設けられた通路であって、前記圧縮エアの供給に伴い前記閉鎖空間から押し出されるエアを前記外部空間に導くエア抜き通路と、
前記圧縮エアの供給に伴い、前記エア抜き通路から前記外部空間に押し出される押し出しエアの湿度を検出する湿度センサと、
前記湿度センサで検出された前記押し出しエアの検出湿度に基づいて、前記閉鎖空間に侵入した水分の有無を判断する制御装置と、
を備えることを特徴とする水分侵入検知システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水分侵入検知システムであって、
前記エア供給機構は、
前記圧縮エアの供給源と、
前記供給源に連通され、前記圧縮エアが流れるエアホースと、
前記産業用ロボットに設けられ、前記エアホースが着脱可能なコネクタであって、前記閉鎖空間に連通されたコネクタと、
を備えることを特徴とする水分侵入検知システム。
【請求項3】
請求項2に記載の水分侵入検知システムであって、
前記エア供給機構は、さらに、前記閉鎖空間内に配置され、一端が前記コネクタに接続される内部ホースであって、前記圧縮エアを前記閉鎖空間に放出する放出口を1以上有した内部ホースを備える、ことを特徴とする水分侵入検知システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の水分侵入検知システムであって、
前記エア供給機構は、前記閉鎖空間内の複数箇所において、前記圧縮エアを放出する、ことを特徴とする水分侵入検知システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の水分侵入検知システムであって、
前記産業用ロボットは、関節を介して連結された複数のアームを有し、先端にツールが着脱可能なメカニカルインターフェースが設けられた多関節ロボットであり、
前記エア供給機構は、前記関節の近傍および前記先端の近傍の少なくとも一方において前記圧縮エアを放出する、ことを特徴とする水分侵入検知システム。
【請求項6】
請求項5に記載の水分侵入検知システムであって、
前記エア供給機構は、前記先端近傍において前記圧縮エアを放出し、
前記エア抜き通路は、前記産業用ロボットの基端近傍に設けられている、
ことを特徴とする水分侵入検知システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の水分侵入検知システムであって、
前記制御装置は、前記エア供給機構による前記圧縮エアの供給を、所定の基準時間以上継続させ、前記圧縮エアの供給開始から前記基準時間以上経過した判断タイミングに検出された検出湿度に基づいて、前記閉鎖空間に侵入した水分の有無を判断しており、
前記基準時間は、供給された前記圧縮エアが、前記閉鎖空間を通って前記エア抜き通路から出力される時間である、
ことを特徴とする水分侵入検知システム。
【請求項8】
産業用ロボットの内部に設けられた閉鎖空間に圧縮エアを供給し、
前記圧縮エアの供給に伴い、前記産業用ロボットに設けられたエア抜き通路から押し出される押し出しエアの湿度を湿度センサで検知し、
制御装置が、湿度センサで検知された湿度に基づいて、前記閉鎖空間内に侵入した水分の有無を判断する、
ことを特徴とする水分侵入検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、産業用ロボットの内部に設けられた閉鎖空間に侵入した水分の有無を検知する水分侵入検知システムおよび水分侵入検知方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において産業用ロボットが多用されている。かかる産業用ロボットは、水がかかりやすい環境や、湿度が高い環境でも使用されることがある。一般に、産業用ロボットは、かかる環境下でも水分が産業用ロボット内部に侵入しないようにシールされている。しかしながら、僅かな隙間から水分が産業用ロボット内に侵入することがある。産業用ロボット内部に水分が侵入した状態で放置すると、漏電や産業用ロボット内部に設けられた歯車の潤滑不良等、様々な問題が生じる。そこで、こうした問題を避けるためには、産業用ロボット内部に水分が侵入したことを正確に検知できるシステムが求められる。
【0003】
特許文献1,2には、機器の内部に侵入した水分を検知する技術が開示されている。特許文献1には、電極対を有する浸水センサをモータケース内に設置したモータが開示されている。浸水センサは、電極対の間の電気抵抗に基づいて水分の有無を判断している。
【0004】
特許文献2には、水中電動ポンプに、侵入した水が溜まりやすい浸水溜まり室を設け、この浸水溜まり室に浸水検知センサを設置した技術が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、エアに含まれる水分を検出する技術が開示されている。具体的には、特許文献3には、スピンドルシャフトと、スピンドルシャフトを回転可能に支持するエアベアリングと、エアベアリングに高圧エアを供給するエア供給路と、エア供給源からエアベアリングに供給される高圧エア中の水分を検出する水分検出部と、を備えた切削装置が開示されている。水分検出装置は、水分を吸着することで変色する水分吸着部と、水分吸着部の変色を検出する変色検出センサと、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5939199号公報
【文献】特許第4283549号公報
【文献】特開2013-188806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、電極対の間に水が存在しなくてはならず、センサの近傍の水分しか検知できない。特許文献2のように水が溜まりやすい浸水溜まり室を設けることで、この問題は多少軽減できる。しかし、姿勢が複雑に変化する産業用ロボットの内部に、特許文献2の浸水溜まり室のような空間を設けることは困難だった。また、特許文献3では、電極対を用いない水分検出技術が開示されている。しかし、特許文献3の技術は、あくまで、エア供給源から出力された高圧エア内の水分を検出するものであり、機器(スピンドルシャフト、エアベアリング)内部の水分の有無を検出する技術ではない。
【0008】
つまり、従来、産業用ロボットの内部に侵入した水分の有無を正確に検知できる技術はなかった。そこで、本明細書では、産業用ロボットの内部に侵入した水分を正確に検知できる水分侵入検知システムおよび水分侵入検知方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書で開示する水分侵入検知システムは、その内部に閉鎖空間を形成する産業用ロボットと、前記閉鎖空間に圧縮エアを供給するエア供給機構と、前記産業用ロボットの外部空間と前記閉鎖空間とを連通するべく前記産業用ロボットに設けられた通路であって、前記圧縮エアの供給に伴い前記閉鎖空間から押し出されるエアを前記外部空間に導くエア抜き通路と、前記圧縮エアの供給に伴い、前記エア抜き通路から前記外部空間に押し出される押し出しエアの湿度を検出する湿度センサと、前記湿度センサで検出された前記押し出しエアの検出湿度に基づいて、前記閉鎖空間に侵入した水分の有無を判断する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この場合、前記エア供給機構は、前記圧縮エアの供給源と、前記供給源に連通され、前記圧縮エアが流れるエアホースと、前記産業用ロボットに設けられ、前記エアホースが着脱可能なコネクタであって、前記閉鎖空間に連通されたコネクタと、を備えてもよい。
【0011】
また、前記エア供給機構は、さらに、前記閉鎖空間内に配置され、一端が前記コネクタに接続される内部ホースであって、前記圧縮エアを前記閉鎖空間に放出する放出口を1以上有した内部ホースを備えてもよい。
【0012】
また、前記エア供給機構は、前記閉鎖空間内の複数箇所において、前記圧縮エアを放出してもよい。
【0013】
また、前記産業用ロボットは、関節を介して連結された複数のアームを有し、先端にツールが着脱可能なメカニカルインターフェースが設けられた多関節ロボットであり、前記エア供給機構は、前記関節の近傍および前記先端の近傍の少なくとも一方において前記圧縮エアを放出してもよい。
【0014】
この場合、前記エア供給機構は、前記先端近傍において前記圧縮エアを放出し、前記エア抜き通路は、前記産業用ロボットの基端近傍に設けられていてもよい。
【0015】
また、前記制御装置は、前記エア供給機構による前記圧縮エアの供給を、所定の基準時間以上継続させ、前記圧縮エアの供給開始から前記基準時間以上経過した判断タイミングに検出された検出湿度に基づいて、前記閉鎖空間に侵入した水分の有無を判断しており、前記基準時間は、供給された前記圧縮エアが、前記閉鎖空間を通って前記エア抜き通路から出力される時間でもよい。
【0016】
本明細書で開示される水分侵入検知方法は、産業用ロボットの内部に設けられた閉鎖空間に圧縮エアを供給し、前記圧縮エアの供給に伴い、前記産業用ロボットに設けられたエア抜き通路から押し出される押し出しエアの湿度を湿度センサで検知し、制御装置が、湿度センサで検知された湿度に基づいて、前記閉鎖空間内に侵入した水分の有無を判断する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本明細書で開示する水分侵入検知システムおよび水分侵入検知方法によれば、閉鎖空間内における空気の経路途中における水分の有無が、押し出しエアの湿度に反映される。そのため、空気経路という非常に広い範囲について水分の有無を検知できる。結果として、産業用ロボットという複雑な構造物であっても、その内部に侵入した水分を正確に検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】水分侵入検知システムが組み込まれた工作機械の斜視図である。
【
図2】水分侵入検知システムの構成を示す図である。
【
図3】水分侵入がない場合の検出湿度の経時変化の一例を示す図である。
【
図4】水分侵入がある場合の検出湿度の経時変化の一例を示す図である。
【
図5】他の水分侵入検知システムの一例を示す図である。
【
図6】他の水分侵入検知システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して水分侵入検知システム10の構成について説明する。
図1は、水分侵入検知システム10が組み込まれた工作機械100の斜視図である。また、
図2は、水分侵入検知システム10の構成を示す図である。
【0020】
水分侵入検知システム10は、産業用ロボット12の内部に侵入した水分の有無を検知するものである。この水分侵入検知システム10は、
図2に示す通り、その内部に閉鎖空間22を有する産業用ロボット12を備えている。
【0021】
産業用ロボット12は、産業自動化の用途に用いられるロボットである。こうした産業用ロボット12は、一般には、自動制御され、再プログラム可能で、多目的なマニピュレータであり、三軸以上でプログラム可能で、1ヶ所に固定して、または、移動機能を持つロボットである。また、ロボットとは、プログラムによって動作し、ある程度の自律性を持ち、環境内で動作して所定の作業を実行する運動機構である。
【0022】
本明細書では、
図2に示す通り、産業用ロボット12は、関節16を介して連結された複数のアーム14を有した多関節ロボットとしている。ただし、産業用ロボット12は、その内部に閉鎖空間22を有したものであれば、特に限定されない。そのため、産業用ロボット12は、例えば、直角座標ロボットやパラレルリンクロボット、振り子ロボット等でもよい。
【0023】
本例の産業用ロボット12は、
図1に示す通り、工作機械100の加工室102内に設置されている。工作機械100は、切削工具110を用いて金属材料を切削加工する切削加工機(金属加工機)である。より具体的には、この工作機械100は、主軸装置104で回転保持されたワークを、刃物台106で保持された切削工具110で旋削する旋盤装置である。産業用ロボット12は、こうした工作機械100の加工室102内に設置され、ワークや工具等の搬送処理、切削加工の補助処理(加工中のワークの保持等)、各種物理量のセンシング処理、各部の清掃処理等を行う。
【0024】
なお、ここで説明した産業用ロボット12の設置位置や処理内容は、一例であり、適宜変更されてもよい。したがって、産業用ロボット12は、例えば、旋盤装置に限らず、プレス加工機や研磨装置、放電加工機、レーザー加工機等の他の工作機械に組み込まれてもよい。また、産業用ロボット12は、工作機械に限らず、他の機械装置、例えば溶接装置や塗装装置等に組み込まれてもよい。また、産業用ロボット12は、他の機械装置に組み込まれることなく、単独で用いられてもよい。したがって、産業用ロボット12は、部品を組み立てる組み立てロボットや、対象物の寸法等を検査する検査ロボット、各種物品を搬送する搬送ロボット等でもよい。
【0025】
産業用ロボット12は、既述した通り、また、
図2に示す通り、関節16を介して連結された複数(図示例では四つ)のアーム14を有した多関節ロボットである。各アーム14は、中空の筒状部材である。このアーム14の開口部には、パッキンやシールを施した蓋15が取り付けてあり、アーム14の内部空間の密閉性が担保されている。アーム14の端部には、関節16を介して、他のアーム14が連結されている。各関節16とアーム14との繋ぎ目には、シール部材18が設けられており、閉鎖空間22の密閉性が担保されている。また、関節16には、二つのアーム14を連通するための貫通孔16aが設けられており、複数のアーム14の内部空間が、互いに連通し合うようになっている。換言すれば、複数のアーム14それぞれの内部空間は、互いに繋がって、産業用ロボット12の基端付近から先端付近まで延びる一つの閉鎖空間22を構成する。
【0026】
各関節16には、アーム14の動きを可能にするジョイント(図示せず)が設けられている。かかるジョイントとしては、例えば、二つのアーム14の相対直進運動を可能にする直進ジョイントや、二つのアーム14の相対回転運動を可能にする回転ジョイント、二つのアーム14の固定点の周りの三自由度相対回転運動を可能にする球ジョイント等を用いることができる。また、各ジョイントの近傍には、アーム14を動かす動力源や、動力源の運動をアーム14に伝達する伝動部品、アーム14の運動量を計測するセンサ(いずれも図示せず)が設けられている。動力源としては、電力で駆動するモータや電磁シリンダでもよいし、油圧や空圧で駆動する油圧・空圧シリンダなどでもよい。また、伝動部品としては、歯車やラック等を用いてもよい。センサとしては、エンコーダや、レゾルバ等を用いてもよい。
【0027】
産業用ロボット12の先端部分には、エンドエフェクタ120(
図1参照、
図2で図示せず)が着脱可能なメカニカルインターフェース20が設けられている。エンドエフェクタ120は、産業用ロボット12が作業を行えるように、メカニカルインターフェース20に取り付けて用いる機器である。かかるエンドエフェクタ120としては、例えば、物品を保持する保持装置(ハンド機構や吸着機構等)や、各種物理量を計測するセンサ、各種加工処理を行う加工装置(スプレーガンや溶接ガン、ねじ回し装置等)、流体を吐出する吐出ノズル等でもよい。こうしたエンドエフェクタへの給電や制御信号の授受のための電気ケーブルは、産業用ロボット12の外部に通されてもよいし、閉鎖空間22内に通されてもよい。また、閉鎖空間22の内部には、動力源やセンサなどの電子部品が内蔵されている。閉鎖空間22の内部には、この電子部品への給電および制御信号の授受のための電気ケーブル(図示せず)が通されている。
【0028】
ここで、これまでの説明で明らかな通り、産業用ロボット12の内部の閉鎖空間22には、モータやセンサなどの電子部品や、給電および信号授受のための電気ケーブル等が存在している。また、閉鎖空間22には、動力を伝達するための歯車やラックも設けられている。かかる閉鎖空間22に水分が侵入すると、電子部品の故障や漏電、歯車等の潤滑不良等、様々な問題が生じる。そこで、通常、水分の多い環境下で使用する産業用ロボット12の場合、繋ぎ目などにシール部材18を設けることで、その内部の空間を液密に閉鎖している。
【0029】
しかし、こうしたシール部材18は、経年や薬品の影響を受けて徐々に劣化し、シール性が低下する場合がある。また、産業用ロボット12の使用環境によっては、水が高圧力で噴射されることがあり、水分がシール部を超えて閉鎖空間22に侵入することがある。例えば、工作機械100では、ワークや切削工具110を冷却するとともに、切粉を吹き飛ばす目的で、切削加工の際に切削水が噴射されることがある。かかる切削水は、比較的高圧力で噴射されるため、当該噴射位置の近傍に産業用ロボット12を位置させていると、切削水がシール部を超えて閉鎖空間22に侵入する場合があった。こうした水分の侵入を長期間放置していると、上述したように、電子部品の故障、伝動部品の潤滑不良、漏電等の問題を招く。
【0030】
水分侵入検知システム10は、こうした水分の侵入の有無を検知するもので、産業用ロボット12に加え、さらに、エア供給機構24と、エア抜き通路26と、湿度センサ34と、温度センサ36、制御装置28と、を備えている。エア供給機構24は、閉鎖空間22に圧縮エアを供給する。このエア供給機構24について具体的に説明すると、エア供給機構24は、圧縮エアの供給源となるエア供給源38を有している。エア供給源38は、圧縮エアを出力するものである。このエア供給源38から出力される圧縮エアの湿度は、既知である。また、圧縮エアは、大気よりも湿度が低い、ドライエアでもよい。ドライエアの湿度は、温度10~35℃で大気圧のときに、15%以下であることが好ましく、11%以下であることがさらに好ましく、8%以下であることが特に好ましい。したがって、エア供給源38は、例えば、コンプレッサおよびエアドライヤを有している。エアドライヤは、出力されるエアの湿度を一定に保てるのであれば、その構成は、特に限定されない。したがって、エアドライヤとしては、例えば、メンブレンエアドライヤや冷凍式エアドライヤ、膜式エアドライヤ等を用いることができる。
【0031】
エア供給源38には、圧縮エアが流れるエアホース40が接続されている。産業用ロボット12には、このエアホース40の他端が接続されるコネクタ42が設けられている。コネクタ42は、エアホース40が着脱可能であり、閉鎖空間22に連通されている。このコネクタ42の形状および配置は、特に限定されないが、通常、コネクタ42は、アーム14の筐体(産業用ロボット12の筐体)を貫通する孔を含んでいる。
図2の例では、コネクタ42は、最も基端側のアーム14に形成されている。これは、基端側が先端側に比べて、水分(切削水)がかかりにくく、かかる基端側にコネクタ42を設けることで、当該コネクタ42を経由しての水分侵入が生じにくいためである。また、コネクタ42は、エアホース40が取り外された際に、当該コネクタ42を経由しての水分や粉塵の侵入を防止するためにコネクタ42の開口を塞ぐ蓋(図示せず)を有していてもよい。また、別の形態として、コネクタ42は、エアホース40の端部が接続された場合だけ開くような自動開閉バルブを有した流体カプラであってもよい。
【0032】
閉鎖空間22内には、このコネクタ42に接続された内部ホース44が引き回されている。エア供給源38から供給された圧縮エアは、エアホース40、コネクタ42を介して、この内部ホース44に流れる。内部ホース44は、この圧縮エアを閉鎖空間22内に放出する放出口46を有している。この放出口46の位置は、特に限定されないが、
図2の例では、先端近傍に放出口46を設けている。
【0033】
エアホース40および内部ホース44は、いずれも、圧縮エアを導くことができるのならば、その材質やサイズは、特に限定されない。ただし、内部ホース44は、閉鎖空間22内で、電子部品等の他部材に近接することが予想されるため、充分な耐熱性や絶縁性を有していてもよい。また、産業用ロボット12の姿勢変更に伴い、閉鎖空間22内に引き回された内部ホース44が、弛緩または緊張することが予想される。そのため、閉鎖空間22内に、バネ等の付勢部材を利用して内部ホース44のテンションを一定に保つテンションリール(図示せず)を設けてもよい。
【0034】
産業用ロボット12には、さらに、エア抜き通路26が設けられている。エア抜き通路26は、産業用ロボット12の外部空間と閉鎖空間22とを連通するべく、産業用ロボット12の筐体に設けられた貫通孔である。このエア抜き通路26は、閉鎖空間22内への圧縮エアの放出に伴い、閉鎖空間22から押し出される押し出しエアを外部空間に導く。エア抜き通路26の形態や配置も、特に限定されない。
図2の例では、エア抜き通路26は、最も基端側のアーム14、別の言い方をすれば、閉鎖空間22のうち放出口46から離れる側の端部付近に形成されている。水分がかかりにくい基端側にエア抜き通路26を設けることで、当該エア抜き通路26を経由しての水分の侵入を抑制できる。なお、エア抜き通路26を介しての水分や粉塵の侵入を防止するために、当該エア抜き通路26を開閉する蓋や絞りを設けてもよい。また、放出口46の反対側端部にエア抜き通路26を設けることで、後述するように、圧縮エアの供給に伴い生じる気流が、閉鎖空間22全体に流れる。そして、これにより、侵入した水分の有無を、閉鎖空間22全体に渡って診断することができるが、これについては後述する。
【0035】
産業用ロボット12の外部であって、エア抜き通路26の近傍には、当該エア抜き通路26から出力される押し出しエアの湿度および温度を計測する湿度センサ34および温度センサ36が設けられている。湿度センサ34としては、例えば、二つの電極間の電気抵抗に基づいて湿度を出力する抵抗式湿度センサでもよいし、二つの電極間の静電容量に基づいて湿度を出力する静電容量式湿度センサでもよい。また、温度センサ36も、特に限定されず、サーミスタや熱電対、赤外線センサ、デジタルセンサ等でもよい。いずれにしても、湿度センサ34および温度センサ36での検知結果は、随時、制御装置28に送られる。
【0036】
制御装置28は、エア供給機構24の駆動を制御するとともに、湿度センサ34で検出された湿度等に基づいて、閉鎖空間22に侵入した水分の有無を判断する。この制御装置28は、例えば、CPU等のプロセッサ30と、各種データおよびプログラムを記憶するメモリ32と、を有したコンピューターである。この制御装置28は、水分侵入検知システム10のために専用に設けられたコンピューターでもよいし、他の用途にも用いられるコンピューターでもよい。例えば、制御装置28は、産業用ロボット12の駆動制御するためのコンピューターでもよいし、工作機械100に搭載された数値制御装置でもよい。
【0037】
制御装置28は、必要に応じて、エア供給源38を駆動して、閉鎖空間22に圧縮エアを供給させるとともに、その際、湿度センサ34および温度センサ36で検出された検出湿度および検出温度を取得する。そして、この検出湿度および検出温度に基づいて、水分の侵入の有無を判断する。
【0038】
次に、この水分侵入検知システム10を用いた水分侵入検知の原理について説明する。既述した通り、水分の侵入の有無を判断する際には、エア供給機構24を用いて、閉鎖空間22に圧縮エアを供給する。閉鎖空間22は、コネクタ42およびエア抜き通路26を除いて、液密に閉鎖されている。そのため、放出口46から圧縮エアが放出されると、当該放出口46からエア抜き通路26に向かうエアの流れ、すなわち気流が発生する。この気流の経路途中に、水分が存在する場合、その水分の一部がエアに溶け込み、エア抜き通路26から出力される押し出しエアの湿度が増加する。特に、閉鎖空間22内に放出している圧縮エアを、湿度が低いドライエアとした場合、水分が溶け込みやすくなる。そのため、圧縮エアとしてドライエアを用いた場合、気流の経路途中にある水分の有無により、押し出しエアの湿度が顕著に変化する。したがって、押し出しエアの湿度を監視することで、水分の侵入の有無を判断することができる。
【0039】
具体的に、水分侵入検知処理の流れについて説明する。水分の侵入の有無を検知する場合には、まず、コネクタ42にエアホース40を取り付け、エア供給源38と放出口46とを連通させる。また、エア抜き通路26に蓋などが設けられている場合には、これを取り外し、エア抜き通路26を開放しておく。
【0040】
この状態になれば、制御装置28は、エア供給源38を駆動し、圧縮エアを閉鎖空間22に供給させる。なお、圧縮エアの湿度(以下「基準湿度Hd」と呼ぶ)は、エア供給源38において、ほぼ一定に保たれている。制御装置28は、この基準湿度Hdを予め記憶している。この圧縮エアの供給は、例えば、放出口46から放出された圧縮エアが、エア抜き通路26から出力される基準時間以上、継続される。したがって、例えば、放出口46から放出される圧縮エアの容量が、閉鎖空間22の容量に達するまで、圧縮エアの供給が継続される。
【0041】
圧縮エアの供給が開始されると、エア抜き通路26からは、閉鎖空間22から押し出された押し出しエアが出力される。湿度センサ34および温度センサ36は、この押し出しエアの湿度および温度を計測する。そして、計測された湿度および温度は、それぞれ、検出湿度Hm、検出温度Tmとして、制御装置28に送られる。制御装置28は、この検出湿度Hm、検出温度Tmを検出時間と対応付けてメモリに記憶する。
【0042】
制御装置28は、少なくとも検出湿度Hmに基づいて、水分の侵入の有無を判断する。すなわち、制御装置28は、検出湿度Hmが高い場合には、閉鎖空間22内に水分が侵入していると判断する。この判断の具体的な手順は、特に限定されないが、その一例について、
図3、
図4を参照して説明する。
図3、
図4は、検出湿度Hmの経時変化の一例を示す図であり、
図3は、水分の侵入がない場合を、
図4は、水分の侵入がある場合を、それぞれ示している。
図3、
図4において、横軸は、時間tを、縦軸は、湿度Hを示している。また、破線は、圧縮エアの湿度である基準湿度Hdを示している。また、この例において、圧縮エアは、大気よりも湿度の低いドライエアである。
【0043】
図3に示す通り、圧縮エアの供給を開始した直後、検出湿度Hmは、圧縮エアの湿度である基準湿度Hdよりも充分に高い値をとる。これは、圧縮エアの供給を開始した直後は、エア抜き通路26近傍にもともとあった空気が押し出されるためである。閉鎖空間22にもともと存在する空気は、水分の侵入の有無に関わらず、大気とほぼ同じ湿度を有しており、基準湿度Hdよりも充分に高い。
【0044】
閉鎖空間22内に水分が侵入していない場合、その後、圧縮エアの供給を継続することで、検出湿度Hmが急激に低下し、最終的に、基準湿度Hdに近い値となる。これは、充分な量の圧縮エアを供給した場合、放出口46から放出された圧縮エアが、閉鎖空間22内を通って、エア抜き通路26から出力されるためである。閉鎖空間22内に水分がない場合、放出口46から放出された圧縮エアは、湿度が殆ど上昇しない状態で、エア抜き通路26に到達する。その結果、検出湿度Hmも基準湿度Hdに近い値となる。
【0045】
一方、閉鎖空間22内に水分が侵入している場合、
図4に示すように、検出湿度Hmが、途中で急上昇する。これは、放出口46から放出された圧縮エアが、水分近傍を通過する際に、当該圧縮エアにこの水分が溶け込み、湿度が上昇するためである。そして、この水分が溶け込んだエアが、エア抜き通路26から出力されることで、検出湿度Hmが急上昇する。
【0046】
つまり、閉鎖空間22内に水分が侵入している場合、圧縮エアの供給を開始してから一定時間経過後の検出湿度Hmが高くなる。したがって、制御装置28は、この一定時間経過後の検出湿度Hmを予め規定した閾値と比較し、検出湿度Hmが閾値以上の場合に、水分が侵入していると判断してもよい。
【0047】
なお、閾値は、当然ながら、基準湿度Hdよりも高い値である。この閾値は、常に一定の固定値でもよいし、環境温度等に応じて変化する変動値でもよい。また、閾値と比較する検出湿度Hmは、上述した通り、圧縮エアの供給を開始してから充分な時間が経過したタイミングでの検出湿度Hmである。以下では、水分侵入の有無判断に用いる検出湿度Hmの検出タイミングのことを、「判断タイミング」と呼ぶ。この判断タイミングは、圧縮エアの供給を開始してから充分な時間、具体的には、エアが放出口46からエア抜き通路26に到達するまでの時間以上の時間が経過したタイミングである。かかる判断タイミングは、放出口46からエア抜き通路26までの距離や、圧縮エアの流量、閉鎖空間22の容量等に基づいて予め規定しておくことができる。また、判断タイミングは、1回に限らず、複数回あってもよい。判断タイミングが複数あり、検出湿度Hmが複数得られる場合には、この複数の検出湿度Hmを代表する統計値(平均値や中間値等)を閾値と比較してもよい。
【0048】
また、検出湿度Hmの絶対値ではなく、検出湿度Hmの初期値や基準湿度Hd、大気湿度との比較結果に基づいて、水分侵入の有無を判断してもよい。すなわち、最終的に得られる検出湿度Hmは、水分の有無に限らず、大気の湿度や温度によっても上下する。例えば、大気湿度が非常に高い環境下では、閉鎖空間22内に水分が侵入していなくても、検出湿度Hmが高くなることがある。そこで、かかる場合には、判断タイミングで得られた検出湿度Hmの絶対値ではなく、判断タイミングで得られた検出湿度Hmと、大気湿度または初期タイミングに得られた検出湿度Hmと、の差分値に基づいて、水分侵入の有無を判断してもよい。また、差分値ではなく、比率(例えば、検出湿度Hm/大気湿度の値等)に基づいて、水分侵入の有無を判断してもよい。
【0049】
さらに、判断タイミングにおける検出湿度Hmだけでなく、検出温度Tmも考慮して、水分侵入の有無を判断してもよい。例えば、温度と湿度が分かれば、空気中の水分量が求まる。そこで、判断タイミングにおける検出湿度Hmおよび検出温度Tmから、押し出しエアに含まれる水分量を算出し、この水分量を予め規定された閾値と比較し、水分侵入の有無を判断してもよい。
【0050】
いずれにしても、制御装置28は、閉鎖空間22内に水分が存在する場合、存在しない場合に比べて、押し出しエアの湿度が高くなることを利用して、水分侵入の有無を判断すればよい。そして、水分侵入の有無が判断できれば、オペレーターは、エアホース40を、コネクタ42から取り外せばよい。なお、判断の結果、水分が侵入していると判断された場合には、産業用ロボット12の内部部品の故障や寿命低下が考えられるため、アラームを出力し、早期の修理を促す。
【0051】
以上の説明から明らかな通り、本例では、閉鎖空間22内に圧縮エアを供給し、供給に伴い押し出されたエアの湿度に基づいて、閉鎖空間22内への水分の侵入の有無を判断している。かかる構成とした場合、放出口46からエア抜き通路26に至るまでの広い範囲について、水分の有無を判断できる。すなわち、放出口46からエア抜き通路26に向かう空気の経路途中に水分があれば、押し出しエアの湿度に反映される。その結果、電極対を有した湿度センサを機器の内部に設置した特許文献1,2と異なり、より広い範囲について、水分の有無を判断できる。特に、
図2に示す例では、放出口46を閉鎖空間22の一端近傍に、エア抜き通路26を閉鎖空間22の一端近傍に設けている。そのため、放出口46から放出されたエアは、閉鎖空間22のほぼ全体を通るため、閉鎖空間22のほぼ全体について、水分の有無を判断できる。
【0052】
また、本例では、産業用ロボット12の外部に湿度センサ34等を設けており、閉鎖空間22内には、湿度センサ34を設けていない。かかる構成とすることで、湿度センサ34を設置するためのスペースを設ける必要がなく、産業用ロボット12の更なる小型化が可能となる。また、本例では、閉鎖空間22内に内部ホース44を通すことで、コネクタから遠く離れた位置において、圧縮エアを放出することができる。換言すれば、かかる構成とすることで、コネクタ42の設置位置の自由度を高めることができる。
【0053】
なお、ここまで説明した構成は、一例であり、少なくとも、閉鎖空間22に圧縮エアを供給したうえで、湿度センサ34で検出された押し出しエアの湿度に基づいて水分の有無を判断するのであれば、その他の構成は、適宜変更されてもよい。例えば、これまでの説明では、放出口46を一つのみとしているが、放出口46は、複数設けられてもよい。例えば、
図5に示すように、閉鎖空間22の先端近傍に加えて、複数の関節16それぞれの近傍にも、放出口46を設けてもよい。こうした放出口46は、エア抜き通路26から離れた位置、あるいは、水分が留まりやすい位置に設けられてもよい。水分が留まりやすい位置としては、例えば、関節16周辺が該当する。
【0054】
複数の放出口46は、同じ内部ホース44に設けられていてもよいし、異なる内部ホース44に設けられてもよい。また、複数の放出口46を設ける場合には、必要に応じて、開放する放出口46切り替えられるように、閉鎖空間22内にバルブ50(例えば電磁弁等)を設けてもよい。
【0055】
また、湿度センサ34や温度センサ36も一つに限らず、複数設けられてもよい。例えば、
図5に示すように、エア抜き通路26の近傍に加えて、放出口46の近傍(すなわち閉鎖空間22内)にも湿度センサ34を設けてもよい。この場合、放出口46近傍の湿度センサ34での検出湿度と、エア抜き通路26近傍の湿度センサ34での検出湿度と、の比較に基づいて、水分侵入の有無を判断してもよい。
【0056】
また、これまでの説明では、閉鎖空間22内に内部ホース44を設けているが、内部ホース44は、なくてもよい。例えば、
図6に示すように、コネクタ42の内側端部が、閉鎖空間22内に開口されており、この内側端部から直接閉鎖空間22に圧縮エアが放出されるようにしてもよい。つまり、この場合は、コネクタ42の内側端部が、放出口46となる。かかる構成とすることで、閉鎖空間22の内部にホースを引き回す必要がない。その結果、ホースの絡まりや破損を考慮する必要がないため構成を簡易化でき、また、産業用ロボット12をより小型化できる。
【符号の説明】
【0057】
10 水分侵入検知システム、12 産業用ロボット、14 アーム、16 関節、18 シール部材、20 メカニカルインターフェース、22 閉鎖空間、24 エア供給機構、26 エア抜き通路、28 制御装置、30 プロセッサ、32 メモリ、34 湿度センサ、36 温度センサ、38 エア供給源、40 エアホース、42 コネクタ、44 内部ホース、46 放出口、50 バルブ、100 工作機械、102 加工室、104 主軸装置、106 刃物台、110 切削工具、120 エンドエフェクタ。