(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20221221BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20221221BHJP
B60R 21/2338 20110101ALI20221221BHJP
B60R 21/015 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
B60R21/207
B60N2/42
B60R21/2338
B60R21/015 312
(21)【出願番号】P 2019064270
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-149285(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0082457(US,A1)
【文献】特開2014-237381(JP,A)
【文献】特開平10-217818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
B60N 2/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシートクッションの座面下に、エアバッグ本体と、前記エアバッグ本体を膨張展開させるガス発生部とを備えるシートクッションエアバッグが内蔵され、
自車両が衝突したと制御部が判断したときに、前記制御部が前記ガス発生部を作動させて前記エアバッグ本体を膨張展開させる車両用シートにおいて、
前記エアバッグ本体は、
その最終展開形状を前後方向の縦断面でみたときに、前記自車両の前方に向かって下り勾配で傾斜する前傾斜部と、前記自車両の後方に向かって下り勾配で傾斜する後傾斜部とを備え、
前記最終展開形状を平面視したときの前記前傾斜部の前後長は、前記エアバッグ本体の前後長の半分以上に設定さ
れ、
前記エアバッグ本体は、前記最終展開形状において、前記前傾斜部の傾斜面に沿って前端から前方に向かって斜め下方に延長された仮想線が、前記シートクッションの前端部よりも上方に位置する、
車両用シート。
【請求項2】
前記制御部は、前記自車両が前面衝突すると予測したときは、前記ガス発生部を作動させて前面衝突前に前記エアバッグ本体を膨張展開させる、
請求項
1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記制御部は、前記自車両が前面方向以外の方向から衝突すると予測したときは、前記ガス発生部の作動を中止する、
請求項
2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記制御部は、前記乗員の着座姿勢を示す姿勢情報を含む乗員情報を取得する乗員情報取得部から出力された前記乗員情報に基づいて、前記乗員が正規の着座姿勢でないと判断したときは、前記ガス発生部の作動を中止する、
請求項1~
3の何れか1項に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車両用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の前面衝突時又は前面衝突予測時による急停止(以下、まとめて「前面衝突時など」と記載することもある)には、シートベルトを装着した乗員が前方に移動する慣性力を受けて、乗員の腰部がシートクッションに深く沈み込みながらシートベルトの下側を潜り抜けようとする、所謂「サブマリン現象」が発生し得る。
【0003】
特に、車両の走行速度がある程度以上の中・高速域で前面衝突などが生じた場合、前方に向かう慣性力が大きいため、乗員の下腿が跳ね上がり、下肢全体が車両前方側に強く引っ張られたような格好で車両前方側に移動するため、サブマリン現象の発生率が高まる。
【0004】
下記特許文献1には、乗員保護の観点から前面衝突時に発生し得るサブマリン現象を抑制して乗員に過大な衝撃荷重が加わらないようにするため、車両の前面衝突時などに、シートベルトをした乗員の腰部における重心よりも後部側を後上方に向けて押し上げるようにする押し上げ体が、シートクッションの下方におけるシート架台に支持された車両のシート装置について開示されている。
【0005】
この装置では、車両の前面衝突が検出されると、エアバッグにインフレータからガスが送り込まれることでエアバッグが瞬間的に膨張し、シートクッションの上面部分を介して乗員の腰部の後部側を後上方に向かって押し上げて前面衝突時のサブマリン現象の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるシート装置は、前面衝突時などにシートクッションの座面部分を介して乗員の腰部を後上方に向かって押し上げている。しかし、このシート装置では、前面衝突時などにシートクッションに対する乗員の臀部の沈み込み量を、衝突前の着座姿勢時と同等の沈み込み量にする程度の効果しか得られず、サブマリン現象の発生を防止するには至らない。
【0008】
また、前面衝突時などにサブマリン現象が発生した場合、後部座席(後席)に着座した乗員は、シートベルトの下側を潜り込んで前方に移動し、膝部が前部座席(前席)の背面に衝突することがある。このとき、後席乗員の膝部が、前席の背面を突き抜け前席に着座する乗員の背中に当たると、前席乗員は、胸部がシートベルトと膝部とで強く圧迫され重大な被害を受けることになる。
【0009】
以上のように、特許文献1の装置においては、サブマリン現象を抑制する点、前面衝突時などに後席の乗員の攻撃性を抑止して前席の乗員を保護する点について、更なる改善の余地が残されている。
【0010】
本発明は、上記課題を解決することを目的とし、車両の前面衝突時などにおいて、乗員のサブマリン現象を防止すると共に、特に後席の乗員による前席の乗員に対する攻撃性を抑止することができる車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の車両用シートは、乗員が着座するシートクッションの座面下に、エアバッグ本体と、前記エアバッグ本体を膨張展開させるガス発生部とを備えるシートクッションエアバッグが内蔵され、自車両が衝突したと制御部が判断したときに、前記制御部が前記ガス発生部を作動させて前記エアバッグ本体を膨張展開させる車両用シートにおいて、前記エアバッグ本体は、その最終展開形状を前後方向の縦断面でみたときに、前記自車両の前方に向かって下り勾配で傾斜する前傾斜部と、前記自車両の後方に向かって下り勾配で傾斜する後傾斜部とを備え、前記最終展開形状を平面視したときの前記前傾斜部の前後長は、前記エアバッグ本体の前後長の半分以上に設定される。
【0012】
好適には、前記車両用シートにおいて、前記エアバッグ本体は、展開開始時には前記最終展開形状を平面視したときの前記前傾斜部の前後長が、前記エアバッグ本体の前後長の半分未満に設定される。
【0013】
好適には、前記車両用シートにおいて、前記エアバッグ本体は、前記最終展開形状において、前記前傾斜部の傾斜面に沿って前端から前方に向かって斜め下方に延長された仮想線が、前記シートクッションの前端部よりも上方に位置する。
【0014】
好適には、前記車両用シートにおいて、前記制御部は、前記自車両が前面衝突すると予測したときは、前記ガス発生部を作動させて前面衝突前に前記エアバッグ本体を膨張展開させる。
【0015】
好適には、前記車両用シートにおいて、前記制御部は、前記自車両が前面方向以外の方向から衝突すると予測したときは、前記ガス発生部の作動を中止する。
【0016】
好適には、前記車両用シートにおいて、前記制御部は、前記乗員の着座姿勢を示す姿勢情報を含む乗員情報を取得する乗員情報取得部から出力された前記乗員情報に基づいて、前記乗員が正規の着座姿勢でないと判断したときは、前記ガス発生部の作動を中止する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、車両の前面衝突時などにおいて、乗員のサブマリン現象を防止すると共に、特に後席の乗員による前席の乗員に対する攻撃性を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る車両用シートを備えた車両内の概略斜視図である。
【
図3】同シートと接続される制御部の機能ブロック図である。
【
図5】同シートにおけるエアバッグの最終展開形状における前後方向の縦断面図である。
【
図6】同シートにおけるエアバッグの最終展開形状の平面図である。
【
図7】(a)は同シートにおいて展開前のエアバッグの状態と乗員の姿勢を示す図であり、(b)は同シートにおいて展開開始時のエアバッグの状態と乗員の姿勢を示す図であり、(c)は同シートにおいて最終展開時のエアバッグの状態と乗員の姿勢を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。この実施の形態によって本発明が限定されるものではなく、この形態に基づいて当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれるものとする。
【0020】
なお、本明細書において、「前後方向」は、車両100の前後方向(車両100の前進・後進方向)と一致し、「左右方向」は、車両100の左右方向(車両100の幅方向)と一致し、「上下方向」は、車両100の上下方向と一致する。また、「前面衝突」とは、車両100に対してフルラップの前面衝突(対称衝突)することを指す。
【0021】
[車両内部の概要]
まず、本実施形態に係る車両用シート1を備えた車両100について説明する。
図1に示すように、乗員Mが乗車する車両(自車両)100は、前方にステアリングホイール(ハンドル)103が設置される運転席と、運転席と隣り合う助手席とを含む前部座席(前席)101と、前席101の後方に配置される後部座席(後席)102と、を備えている。本実施形態に係る車両用シート1は、前席101及び後席102に適用可能である。
【0022】
[車両用シートの構成]
<車両用シートの概要>
次に、本実施形態に係る車両用シート1の構成について説明する。
図2に示すように、車両用シート1は、車内のフロアF上に設置され、乗員Mの着座面を形成するシートクッション2と、シートクッション2の後端から斜め後上方へ起立して乗員Mの背もたれ面を形成するシートバック3と、乗員Mの頭部を保持する高さ調整可能なヘッドレスト4と、を備えている。また、シートクッション2の内部(座面2aの下部)には、シートクッションエアバッグ10(以下、単に「エアバッグ10」ともいう)が内蔵されている。
【0023】
車両用シート1は、フロアFに対して位置が固定された状態で設けてもよいし、フロアFに設けられた前後方向に延びる図示しないシートレールに沿って車体に対する前後方向の位置が変更可能に設けてもよい。また、車両用シート1は、乗員Mの着座向きが前後方向に可変できるように、シート自体の向きが所定方向に回転可能に設けることもできる。
【0024】
図3に示すように、車両用シート1は、前面衝突時などにエアバッグ10を展開制御する制御部50と接続されている。なお、制御部50の機能及び処理内容については後段で詳述する。
【0025】
シートクッション2は、構造的強度を付与するための金属製のベース部材(図示せず)を覆うように、弾性変形特性及び振動減衰特性を有する発泡ウレタン製の部材が設けられている。シートクッション2の上面には、乗員Mが着座する座面2aが設けられている。
【0026】
シートバック3は、構造的強度を付与するための金属製のフレーム(図示せず)を覆うように、弾性変形特性及び振動減衰特性を有する発泡ウレタン製の部材が設けられている。シートバック3の下端部3aは、シートクッション2の後端部2cに対して前後方向に揺動可能に連結されている。
【0027】
ヘッドレスト4は、構造的強度を付与するための金属製のフレーム(図示せず)を覆うように、弾性変形特性及び振動減衰特性を有する発泡ウレタン製の部材が設けられている。ヘッドレスト4は、乗員Mの頭部の位置に応じて上下方向に移動可能に設けられている。なお、ヘッドレスト4は、その下端を支点として前後方向に揺動可能に設けることも可能である。
【0028】
<シートクッションエアバッグの概要>
図4は、本実施形態に係る車両用シート1の要部を示す部分拡大断面図である。
図4に示すように、車両用シート1のシートクッション2の内部には、エアバッグ収容部(リテーナボックス)11が設けられている。エアバッグ収容部11には、エアバッグ本体12と、ガス発生部(インフレータ)13とが収容されている。エアバッグ10は、前面衝突時などでガス発生部13が作動すると、エアバッグ本体12が座面2aを突き破りながら膨張展開する。
【0029】
エアバッグ本体12は、強度が高く、且つ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸などを用いて成形された1枚の基布で構成される袋体である。エアバッグ本体12は、ガス発生部13と接続され、制御部50の制御によりガス発生部13から供給されたガスにより所定形状に展開する。
【0030】
エアバッグ本体12内には、最終展開形状を制御するためのテザーなどの仕切り部材からなる傾斜調整部14が所定箇所に設けられている。また、エアバッグ本体12の所定箇所には、膨張展開した後にエアバッグ本体12内に充満するガスを排気させる図示しないベントホール(ガス流通孔)が設けられている。
【0031】
ガス発生部13は、例えば筒形形状を成し、エアバッグ本体12に内包された部分にガス噴出口が設けられている。ガス発生部13は、その内部に格納された薬剤を燃焼させてガスを発生させ、エアバッグ本体12内にガスを供給する。ガス発生部13は、前面衝突時などに制御部50により制御されることで、エアバッグ本体12にガスを供給する。
【0032】
<シートクッションエアバッグの要部>
次に、エアバッグ10の展開時の形状について説明する。
図5に示すように、エアバッグ本体12は、その最終展開形状を前後方向の縦断面でみたときに、エアバッグ本体12の上面12aが前方(前席101側)に向かって下り勾配で傾斜する前傾斜部12cと、上面12aが後方(シートバック3側)に向かって下り勾配で傾斜する後傾斜部12dが形成される。
【0033】
また、エアバッグ本体12は、その最終展開形状が以下の条件1,2を満たすように、適切な長さの傾斜調整部14が内部に設けられており、展開形状が制御される。
【0034】
(条件1)
条件1として、エアバッグ10は、エアバッグ本体12の最終展開形状を前後方向の縦断面でみたときに、前傾斜部12cと連続するエアバッグ本体12の前端部12e上に点「Q1」を設定し、後傾斜部12dと連続するエアバッグ本体12の後端部12f上に点「Q2」を設定する。次に、エアバッグ本体12の上面12aにおける上下方向の最上点「P」からエアバッグ本体12の最下位置(最下点)となる下面12bまで垂線Lを引き、設定した点Q1と点Q2とを結ぶ水平線Hを引く。このとき、エアバッグ本体12は、垂線Lと水平線Hとの交点を「R」としたときの点Q1と交点Rとの間の距離である「距離D1」が、点Q1と点Q2との間の距離である「距離D2」の半分以上、すなわち、「距離D1」の方が、点Q2と交点Rとの間の距離である「距離D3」よりも長く設定されている。よって、
図6に示すように、エアバッグ本体12の最終展開形状を平面視したとき、図中の「距離D1」に相当する前傾斜部12cの長さ(前後長)は、点Q1と点Q2との間の距離である「距離D2」の長さに相当する、エアバッグ本体12の前後長の半分以上となる。
【0035】
(条件2)
条件2として、エアバッグ10は、
図5に示すように、エアバッグ本体12の最終展開形状において、前傾斜部12cの傾斜面に沿って前端から前方に向かって斜め下方に延長された仮想線K(図中の一点鎖線)が、シートクッション2の前端部2bよりも上方に位置するように展開する。
【0036】
エアバッグ10は、最終展開形状が上記条件1,2を満たすことで、着座姿勢の乗員Mの腰部は、座面2aから浮き上がり、乗員Mの下肢は、屈曲状態から伸長状態に近付いて下肢の移動方向を前方からフロアFに向き、乗員Mの足裏は、フロアFに着くようになる。これにより、乗員Mは、前面衝突時などに前方へ移動しないように踏ん張りを効かせ易い姿勢となるため、サブマリン現象の発生が防止される。
【0037】
上記条件1、2を満たすように、傾斜調整部14は、エアバッグ本体12の上面(天面)12a側に位置する部位に一端部が結合(縫製)され、エアバッグ本体12の下面(底面)12b側に位置する部位に他端部が結合(縫製)されている。傾斜調整部14は、上記垂線L上に配置され上面12aと下面12bとに結合される第1傾斜調整部14aと、エアバッグ本体12の前端部12eに沿って略垂直に立ち上がるように上面12aと下面12bとに結合される第2傾斜調整部14bと、エアバッグ本体12の後端部12fに沿って略垂直に立ち上がるように上面12aと下面12bとに結合される第3傾斜調整部14cと、を備えている。エアバッグ10は、第1傾斜調整部14a~第3傾斜調整部14cにより部分的に展開形状を抑制されることで、エアバッグ本体12が
図5に示すような上記条件1,2を満たす最終展開形状となる。
【0038】
また、エアバッグ10は、エアバッグ本体12の展開開始時には、最終展開形状を平面視したときの前傾斜部12cの前後長が、エアバッグ本体12の前後長の半分未満に設定される。つまり、エアバッグ10は、臀部を中心に乗員Mを一旦浮き上がらせて座面2aから離隔させるため、展開開始時には、上記条件1における距離D1が距離D3の半分未満となっている。
【0039】
そのため、第1傾斜調整部14a~第3傾斜調整部14cは、展開が開始されてから所定時間だけ各調整部14a~14cと上面12aとの結合部分が略同等の高さで伸長する。これにより、エアバッグ10の展開が開始された際に、乗員Mの臀部を座面2aから離隔させて乗員Mが中腰の状態となるため、エアバッグ10が最終展開形状となったときに、乗員Mの下肢は、屈曲状態から伸長状態に近付き易くなる。よって、乗員Mは、前面衝突時などに前方へ移動しないように踏ん張りを効かせ易い姿勢となるため、サブマリン現象の発生が防止される。
【0040】
[車両に搭載される他の構成]
車両100は、エアバッグ10の展開制御を行う際に必要な情報を取得する、衝突検出部20と、衝突予測部30と、乗員情報取得部40とを備えている。
【0041】
衝突検出部20は、例えば加速度センサで構成され、車両100の前後方向への加速度を検知する。また、衝突検出部20は、車両100の前後方向に加えて、左右方向や上下方向への加速度を検出する加速度センサであってもよい。衝突検出部20は、車両100に作用する衝突の衝撃を検出し、加速度に対応する電気信号を衝突検出情報として制御部50に出力する。
【0042】
衝突予測部30は、車両100の前方を撮像して障害物を検出する車載カメラ及び車両100の前方にミリ波などの電波を照射して車両100の前方に存在する障害物から反射されたミリ波(反射波)を受信して障害物を検出する車載レーダなどの、所謂プリクラッシュセーフセンサで構成される。障害物としては、例えば歩行者、二輪車、四輪車(他車両)などの移動物体、例えば路上の落下物、交通信号、ガードレール、縁石、道路標識、樹木、建造物のような静止物体を含んでいてもよい。
【0043】
衝突予測部30は、障害物の位置(車両100と障害物との間の距離)と、障害物の車両100に対する相対的な移動方向及び移動速度(相対速度)を検出して車両100の障害物に対する前面衝突を予測する。衝突が予測された場合には、障害物と車両100とが衝突するまでの時間、障害物が衝突する車両100上の位置を予測し、衝突予測時間に関する情報と衝突予測位置に関する情報とを含む衝突予測情報を制御部50に出力する。
【0044】
乗員情報取得部40は、例えばCCDカメラ、CMOSカメラなどの固体撮像素子を用いたカメラ機能を備える撮像装置である。乗員情報取得部40、例えば車両100のインストルメントパネルの上面などに設置され、車両100の車室内を画像として取得する。本実施形態では、乗員情報取得部40で取得された撮像画像が制御部50で解析処理されることで、この画像に含まれる乗員Mの着座姿勢などが知得される。乗員情報取得部40は、車内を撮像した撮像画像を、乗員Mの着座姿勢を示す姿勢情報が含まれる乗員情報として制御部50に出力する。
【0045】
[制御部の構成]
制御部50は、CPU、各種メモリ(ROM、RAM)を備える周知のマイクロコンピュータ(ECU:Electronic Control Unit)で構成され、車両用シート1に対する各種制御を統括的に実施する。制御部50は、展開判断部51と、展開制御部52と、を備えている。制御部50は、車両用シート1におけるエアバッグ10の展開制御が実行可能であればよいため、車両用シート1自体に搭載してもよいし、車両100の所定箇所に搭載してもよい。本実施形態では、制御部50が車両用シート1に具備される構成とする。
【0046】
展開判断部51は、衝突検出部20から入力された衝突検出情報に基づいて車両100が前面衝突したか否かの判断をし、車両100が前面衝突したと判断したときに、展開制御部52にエアバッグ10の展開指示を出力する。また、展開判断部51は、衝突予測部30から入力された衝突予測情報に基づいて車両100が前面衝突する可能性が高いか否かを判断し、車両100が前面衝突する可能性が高いと判断したときは、展開制御部52にエアバッグ10の展開指示を出力する。
【0047】
一方、展開判断部51は、入力された衝突検出情報に基づいて車両100が前面方向以外の方向から衝突したと判断した場合若しくは衝突予測情報に基づいて車両100が前面方向以外の方向からの衝突可能性が高いと判断したときは、展開制御部52に展開指示を出力せず、エアバッグ10の展開を中止する。
【0048】
車両100は、例えば側面衝突のような前面衝突以外の衝突を受けた場合、乗員Mが受ける衝撃の方向及び慣性力による移動方向が前面衝突時とは異なる。そのため、前面衝突時以外の衝突では、サブマリン現象が発生する可能性が低く、寧ろエアバッグ10を展開したことにより乗員Mの着座姿勢が崩れ、衝突時などに乗員Mが重大な被害を受ける虞がある。このことから、前面衝突時若しくは前面衝突の可能性が高い場合に限り、エアバッグ10の展開を実行するのが好ましい。
【0049】
展開判断部51は、乗員情報取得部40からの乗員情報に含まれる車内の撮像画像を解析し、乗員Mの着座姿勢が正規の着座姿勢であるか否かを判断する。展開判断部51は、乗員Mの着座姿勢が正規の着座姿勢であると判断したときは、展開制御部52にエアバッグ10の展開指示を出力する。
【0050】
一方、展開判断部51は、乗員Mの着座姿勢が正規の着座姿勢でないと判断したときは、展開制御部52にエアバッグ10の展開指示を出力せず、エアバッグ10の展開を中止する。
【0051】
乗員Mの着座姿勢が正規でない場合、正規の着座姿勢のときに受ける衝撃の方向及び慣性力による移動方向とは異なる。そのため、乗員Mの着座姿勢が正規でない場合にエアバッグ10を展開してしまうと、乗員Mの着座姿勢が崩れ、衝突時などに乗員Mが重大な被害を受ける虞がある。このことから、乗員Mの着座姿勢が正規の場合に限り、エアバッグ10の展開を実行するのが好ましい。
【0052】
展開制御部52は、展開判断部51からの展開指示に基づいてガス発生部13に作動指示を出力する。これにより、ガス発生部13は、ガスを発生させエアバッグ本体12に供給し、エアバッグ本体12は、供給されたガスにより膨張展開する。
【0053】
[エアバッグの挙動]
次に、本実施形態の車両用シート1の展開前から最終展開時までのエアバッグの挙動について説明する。ここでは、衝突検出部20によって前面衝突が検出された際の挙動を例にとって説明する。
【0054】
図7(a)に示すように、エアバッグ10は、前面衝突が検出される前において、エアバッグ収容部11内にエアバッグ本体12が収容された状態となる。
【0055】
次に、衝突検出部20により車両100の前面衝突が検出されると、展開判断部51は、車両100が前面衝突したと判断して展開制御部52からエアバッグ10のガス発生部13に作動指示を出力させる。ガス発生部13は、展開制御部52から作動指示を入力すると、エアバッグ本体12にガスを供給する。エアバッグ本体12は、ガスの供給により展開が開始されると、
図7(b)に示すように、座面2aを突き破って展開し始める。このとき、乗員Mは、臀部を中心に一旦浮き上がって座面2aから離隔して中腰の状態となる。
【0056】
その後、エアバッグ10が最終展開形状となると、
図7(c)に示すように、エアバッグ10は、乗員Mの膝部の裏側をエアバッグ本体12の前傾斜部12cで支持する。乗員Mの下肢は、屈曲状態から伸長状態に近付いて下肢の移動方向が前方からフロアFに向き、乗員Mの足裏がフロアFに着く。乗員Mの姿勢は、前面衝突時に前方へ移動しないように踏ん張りを効かせ易い姿勢となるため、サブマリン現象が防止されることになる。
【0057】
[作用効果]
以上のように、本実施形態に係る車両用シート1は、エアバッグ本体12は、その最終展開形状を前後方向の縦断面でみたときに、車両100の前方に向かって下り勾配で傾斜する前傾斜部12cと、車両100の後方に向かって下り勾配で傾斜する後傾斜部12dとを備え、最終展開形状を平面視したときの前傾斜部12cの前後長は、エアバッグ本体12の前後長の半分以上に設定された構成となっている。
【0058】
これにより、乗員Mは、前面衝突時に前方へ移動しないように踏ん張りを効かせ易い姿勢となるため、前面衝突時の前方への慣性力に抗することができるようになり、結果としてサブマリン現象の発生が防止されるようになる。また、サブマリン現象が防止されることで、前面衝突の際に、後席に着座する乗員Mの、前席の乗員Mに対する胸部攻撃性が抑止される。
【0059】
また、本実施形態に係る車両シート1において、エアバッグ本体12は、展開開始時には最終展開形状を平面視したときの前傾斜部12cの前後長が、エアバッグ本体12の前後長の半分未満に設定された構成となっている。
【0060】
これにより、展開開始時には、着座姿勢の乗員Mの腰部を一旦座面2aから浮き上がらせることができるため、エアバッグ10が最終展開形状となったときに、乗員Mの下肢は、屈曲状態から伸長状態に近付き易くなる。よって、乗員Mは、前面衝突時の前方への慣性力に抗することができるため、サブマリン現象の発生が防止される。
【0061】
また、本実施形態に係る車両シート1において、エアバッグ本体12は、最終展開形状において、前傾斜部12cの傾斜面に沿って前端から前方に向かって斜め下方に延長された仮想線Kが、シートクッション2の前端部2bよりも上方に位置する構成となっている。
【0062】
これにより、乗員Mは、前面衝突時に前方へ移動しないように踏ん張りを効かせ易い姿勢となるため、前面衝突時の前方への慣性力に抗することができるようになり、結果としてサブマリン現象の発生が防止されるようになる。
【0063】
また、本実施形態に係る車両シート1において、制御部50は、車両100が前面衝突すると予測したときは、ガス発生部13を作動させる構成となっている。
【0064】
これにより、エアバッグ10は、前面衝突が予測された時点で展開されるため、前面衝突時に発生し得るサブマリン現象を防止して乗員Mの安全性を確保することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る車両シート1において、制御部50は、車両100が前面方向以外の方向から衝突すると予測したときは、ガス発生部13の作動を中止する構成となっている。
【0066】
これにより、乗員Mは、前面衝突以外の衝突が予測されたときに、エアバッグ10を展開したことで生じ得る着座姿勢の崩れが防止され、衝突時などに乗員Mが重大な被害を受けることを防止することができる。
【0067】
また、本実施形態に係る車両シート1において、制御部50は、乗員Mの着座姿勢を示す姿勢情報を含む乗員情報を取得する乗員情報取得部40から出力された乗員情報に基づいて、乗員Mが正規の着座姿勢でないと判断したときは、ガス発生部13の作動を中止する構成となっている。
【0068】
これにより、乗員Mは、正規の着座姿勢以外の着座姿勢のときに、エアバッグ10を展開したことで生じ得る着座姿勢の崩れが防止され、衝突時などに乗員Mが重大な被害を受けることを防止することができる。
【0069】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下に示すように使用環境などに応じて適宜変更して実施することもできる。また、以下の変形例を本発明の要旨を逸脱しない範囲の中で任意に組み合わせて実施することもできる。
【0070】
上述した形態において、展開判断部51は、乗員Mの着座姿勢を乗員情報取得部40により撮像した撮像画像である乗員情報に基づいてエアバッグ10の展開の可否を判断する構成で説明したが、これに限定されない。乗員情報取得部40の他の構成例としては、例えば座面2aにおける乗員Mの臀部と当接する箇所、シートバック3における乗員Mの背中部と当接する箇所にそれぞれ乗員Mの姿勢を検出する感圧シートを内蔵させ、乗員Mの着座姿勢における臀部、背中部の位置などを取得する構成とすることもできる。この場合、展開判断部51は、乗員情報取得部40で取得された乗員Mの臀部の位置情報及び背中部の位置情報を乗員情報として入力し、この乗員情報に基づいて乗員Mの着座姿勢が正規の着座姿勢であるか否かを判断してエアバッグ10の展開実行の可否を判断することも可能である。
【0071】
[その他]
上述の実施形態において、車両用シート1は、特許請求の範囲に記載された「車両用シート」の一例に該当する。シートクッション2は、特許請求の範囲に記載された「シートクッション」の一例に該当する。座面2aは、特許請求の範囲に記載された「座面」の一例に該当する。シートクッションエアバッグ10は、特許請求の範囲に記載された「シートクッションエアバッグ」の一例に該当する。エアバッグ本体12は、特許請求の範囲に記載された「エアバッグ本体」の一例に該当する。前傾斜部12cは、特許請求の範囲に記載された「前傾斜部」の一例に該当する。後傾斜部12dは、特許請求の範囲に記載された「後傾斜部」の一例に該当する。ガス発生部13は、特許請求の範囲に記載された「ガス発生部」の一例に該当する。制御部50は、特許請求の範囲に記載された「制御部」の一例に該当する。車両100は、特許請求の範囲に記載された「自車両」の一例に該当する。乗員Mは、特許請求の範囲に記載された「乗員」の一例に該当する。
【0072】
上述の実施形態及び特許請求の範囲で使用される用語は、限定的でない用語として解釈されるべきである。例えば、「含む」という用語は、「含むものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「備える」という用語は、「備えるものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0073】
1 車両用シート、2 シートクッション(2a 座面、2b 前端部、2c 後端部)、3 シートバック(3a 下端部)、4 ヘッドレスト、10 シートクッションエアバッグ(エアバッグ)、11 エアバッグ収容部、12 エアバッグ本体(12a 上面、12b 下面、12c 前傾斜部、12d 後傾斜部、12e 前端部、12f 後端部)、13 ガス発生部、14 傾斜調整部(14a 第1傾斜調整部、14b 第2傾斜調整部、14c 第3傾斜調整部)、20 衝突検出部、30 衝突予測部、40 乗員情報取得部、50 制御部、51 展開判断部、52 展開制御部、100 車両(自車両)、101 前部座席(前席)、102 後部座席(後席)、103 ステアリングホイール(ハンドル)、F 車内のフロア、H 水平線、K 仮想線、L 垂線、M 乗員