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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】バルコニー床のプレキャスト施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/00 20060101AFI20221221BHJP
   E04G 21/14 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
E04B1/00 501C
E04G21/14
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019080970
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2020176479
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】幸田 昌之
(72)【発明者】
【氏名】石久保 猛
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-008401(JP,U)
【文献】実開昭61-163816(JP,U)
【文献】実開昭48-074515(JP,U)
【文献】特開平10-331250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00
E04G 21/14 -21/22
E04G 9/00 -19/00;25/00 -25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体の床に定着するスラブ筋を側面から突出させたプレキャストのバルコニー床を製作する工程と、
前記躯体における前記バルコニー床設置面に沿って配置されている梁と直交する方向に片持ち梁を突設させる工程と、
前記バルコニー床を前記片持ち梁に架設する工程と、
前記バルコニー床を架設した後、前記躯体の床を構成するコンクリートを打設して前記バルコニー床と躯体の床とを一体化する工程と、を有し、
前記バルコニー床を前記片持ち梁に架設する工程では、前記片持ち梁の上に前記バルコニー床を架設した後、当該片持ち梁の先端に設けるアジャスタで当該バルコニー床の傾斜角度を調整した後、位置決めを行うことを特徴とするバルコニー床のプレキャスト施工方法。
【請求項2】
前記バルコニー床を前記片持ち梁に架設する工程の後、前記コンクリートを打設する工程の前に、前記バルコニー床の少なくとも一部を前記梁に固定する工程または、
前記片持ち梁を支保用受梁とし、前記バルコニー床と前記躯体の床とを一体化する工程の後に、前記支保用受梁を除去する工程を有することを特徴とする請求項1に記載のバルコニー床のプレキャスト施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルコニー床の施工方法に係り、特にバルコニー床の施工にプレキャスト工法を適用する場合に好適な施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバルコニー床の施工方法は、下階の床面に立てたサポートを用いてベニヤ型枠を支持し、この型枠上に配筋を施した後に、コンクリートを打設することでバルコニー床を形成するというものが一般的であった。
【0003】
しかし、バルコニーの内側には一般的に、外壁やアルミサッシ等の立ち上がり部の他、下階への避難開口などが設けられる。このため、上記のような施工方法では、バルコニー床自体の型枠の他、立ち上がり部用の型枠や、開口用の型枠を設置する必要がある。また雨水を流すために、バルコニー床の上面には水勾配や排水溝などが設けられているが、これらはコンクリート打設後に左官作業によって構築する必要があった。
【0004】
このような実状に鑑み、特許文献1に開示されているようなバルコニー床の施工方法が提案されている。特許文献1に開示されている施工方法は、バルコニー用の基礎床版や、立ち上がり部といった型枠を必要とする要素をプレキャストコンクリート(以下、単にプレキャストと言う)として構成した上で、躯体に対する配置、接合を行うというものである。具体的には、プレキャストとして構成したバルコニー用の基礎床版を、下階を基点として配置されるサポートやチェーン等を介してバランスを取りながら躯体に支持し、必要とされる立ち上がり部材等のプレキャストを配置する。その後、躯体の床と同時にバルコニー床上面のコンクリートを打設することで、躯体に対するバルコニー床の一体化を図るというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-10028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているバルコニー床の施工方法によれば、現場での型枠の設置や配筋の施工が無く、作業性の向上と工期の短縮を図ることができると考えられる。しかし、バルコニー用基礎床版は、依然として下階に立てたサポートにより支持されることとなっている。このような支持形態を採用する場合サポートは、養生のためにコンクリート打設日から4週間残置する必要がある。このため、コンクリート打設後に次の工程に進むまでには従来と同様の期間が必要となるといった問題が残っている。また、バルコニー床表面の水勾配に関しては、従来通り左官作業による構築が必要となることが考えられる。
【0007】
そこで本発明では、上記問題を解決し、下階に立てるサポートを無くすことができ、複雑な形状のバルコニー床を精度良く簡単に構築することのできるバルコニー床のプレキャスト施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るバルコニー床のプレキャスト施工方法は、躯体の床に定着するスラブ筋を側面から突出させたプレキャストのバルコニー床を製作する工程と、前記躯体における前記バルコニー床設置面に沿って配置されている梁と直交する方向に片持ち梁を突設させる工程と、前記バルコニー床を前記片持ち梁に架設する工程と、前記バルコニー床を架設した後、前記躯体の床を構成するコンクリートを打設して前記バルコニー床と躯体の床とを一体化する工程と、を有し、前記バルコニー床を前記片持ち梁に架設する工程では、前記片持ち梁の上に前記バルコニー床を架設した後、当該片持ち梁の先端に設けるアジャスタで当該バルコニー床の傾斜角度を調整した後、位置決めを行うことを特徴とする。
【0009】
また、上記のような特徴を有するバルコニー床のプレキャスト施工方法では、前記バルコニー床を前記片持ち梁に架設する工程の後、前記コンクリートを打設する工程の前に、前記バルコニー床の少なくとも一部を前記梁に固定する工程を有することを特徴とする。このような特徴を有する事によれば、打設したコンクリートが硬化する前にバルコニー床がズレてしまう事を防ぐ事ができる。
【0010】
さらに、上記のような特徴を有するバルコニー床のプレキャスト施工方法では、前記片持ち梁を支保用受梁とし、前記バルコニー床と前記躯体の床とを一体化する工程の後に、前記支保用受梁を除去する工程を有することを特徴とする。このような特徴を有する事によれば、完成後の躯体と設計上の躯体を一致させることができる。
【発明の効果】
【0011】
上記のような特徴を有するバルコニー床のプレキャスト施工方法によれば、下階に立てるサポートを無くすことができる。また、複雑な形状のバルコニー床を精度良く簡単に構築することができる。よって、施工にかかる工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】躯体にバルコニー床を設置した状態を示す部分断面側面図である。
図2】躯体に支保用受梁を取り付ける様子を示す側面図である。
図3】バルコニー床の構成を示す側断面図である。
図4】躯体に対するバルコニー床の施工の手順を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のバルコニー床のプレキャスト施工方法に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
[躯体について]
まず、図1図2を参照して、バルコニー床を設置する躯体について説明する。なお、図面において、図1は、躯体にバルコニー床を設置した状態を示す部分断面図であり、図2は、躯体に支保用受梁を取り付ける様子を示す図である。
【0015】
図2に示す躯体10の一部は、躯体の2階以上のフロアを構成する部位であり、図示しない柱間に配置される大梁12や、大梁12間に配置される小梁(不図示)、およびフロアの基礎となるデッキプレート14などが配置されている様子を示すものである。
【0016】
本実施形態に係るバルコニー床のプレキャスト施工方法(以下、単に施工方法とも言う)では、バルコニー床22を設置するための下準備を行う。具体的には、バルコニー床22の設置面に沿って配置されている梁(図2に示す例では大梁12)に対して、当該梁(大梁12)に直交する方向に突設する片持ち梁(支保用受梁16)を設置する工程を有する。なお、支保用受梁16の突設方向は、図2に示す大梁12を基点として、バルコニー床22を設置する方向と一致させる。また、大梁12に対する支保用受梁16の設置方法については、特に限定しない。例えば、溶接や、図示しないアングル材などを用いたボルト止めなどの一般的な定着手法によれば良い。また、支保用受梁16の設置時期(場所)についても限定するものではない。すなわち、現場での設置であっても良いし、工場において、大梁12に設置した状態で現場に搬入するようにしても良い。
【0017】
支保用受梁16の形態についても限定するものではない。図2に示す例では、ベース材(H型鋼)16aと、その先端側にアジャスタ20を備えたアングル材18を配置することで構成している。アジャスタ20は、詳細を後述するバルコニー床22の傾斜角などのレベル出し、および姿勢保持を行うための要素である。なお、図2に示す支保用受梁16の形態は、好適な形態の一例であり、ベース材16とアングル材18を一体に形成したもの、その他種々の形態とする事ができる。
【0018】
[バルコニー床について]
バルコニー床22は、事前に工場や現場で製作し、これを所定位置に設置するプレキャストとする。プレキャストとして構成されるバルコニー床22は、鉄筋コンクリート製とし、排水溝24や立ち上がり部26を備え、表面には水勾配28を備えたものとする。バルコニー床22をフルプレキャストにより構成することにより、現場での作業は、バルコニー床22の設置、固定作業のみとなり、設置、固定後の左官作業等が不要となる。
【0019】
本実施形態で用いるバルコニー床22は、外形を構成するコンクリート30における基端側端部の側面からスラブ筋32を構成する鉄筋を突出させている。躯体10の床を構成するコンクリート10aに定着させ、バルコニー床22を固定するためである。バルコニー床22から突出させるスラブ筋32は、少なくとも上端筋に相当する鉄筋と、下端筋に相当する鉄筋を有するようにする。
【0020】
また、上記のような構成のバルコニー床22には、スラブ筋32を突出させているコンクリート30の側面に、仮固定、並びにレベル出し時のガイドとしての金属プレート(ライナープレート34)を備えるようにすると良い。ライナープレート34を躯体10の大梁12や、大梁12に備えたアングル材12aに固定することで、架設したバルコニー床22にズレが生ずることを防止することができる。
【0021】
[施工について]
次に、上記のような構成の躯体10に対するバルコニー床の施工について説明する。まず、図4(A)に示すように、支保用受梁16を設置した躯体10にバルコニー床22を架設する。この時、バルコニー床22の基端側のコンクリート30の側面には、丸環36などの係合部を突出させておくと良い。
【0022】
バルコニー床22を躯体10に架設した後、丸環36にワイヤ等を掛けると共に、当該ワイヤをレバーブロック(登録商標)等の巻き取り手段38を用いてバルコニー床22のレベル出しを行う。具体的には、図2(B)に示すように、ライナープレート34を支点、丸環36を力点、およびバルコニー床22の先端を作用点として、バルコニー床22の傾斜角度を調整する(レベル出し)。
【0023】
バルコニー床22の傾斜角度が定まったところで、アジャスタ20による位置決めを行うと共に、ライナープレート34を大梁12に備えたアングル材12aに固定し、ズレ防止を図る。ライナープレート34の固定方法は、溶接の他、ボルト締めなど既知の手法によれば良い。架設したバルコニー床22を躯体10の大梁12に固定することで、躯体10の床を構成するコンクリート10aを打設した後、コンクリート10aが硬化するまでの間に、バルコニー床22がズレてしまう事を防ぐことができる。
【0024】
次に、図4(C)に示すように、躯体10のフロアを構成するデッキプレート14の上に、スラブ筋14aや溶接金網などを配置する。フロアの配筋等を終えた後、図4(D)に示すように、コンクリート10aを打設して、フロアとバルコニー床22の一体化を図る。コンクリート10aを打設した後、養生することで、コンクリート10aの硬化を待つ。なお、コンクリート10aが硬化した後には、必要に応じて支保用受梁16の撤去を行うようにする。
【0025】
[効果]
上記のようなバルコニー床のプレキャスト施工方法によれば、バルコニー床22を施工するにあたって、バルコニー床22を下階から支える必要が無くなる。このため、下階に立てるサポートを無くすことができる。よって、コンクリート10aを打設した後の養生期間であっても、次の工程に進むことができる。また、下階にサポートを立てる必要が無くなるため、下階におけるコンクリート10aの硬化を待つ必要が無い。よって、複数のフロアで同時にバルコニー床22の施工を行う事が可能となり、大幅な工期短縮を図ることができる。
【0026】
また、バルコニー床22をプレキャストにより構成するため、現場での直接作業と異なり、複雑な形状のバルコニー床22を精度良く簡単に構築することができる。
【0027】
[変形例]
上記実施形態では、バルコニー床を架設する片持ち梁について、支保用受梁16を後付けし、バルコニー床22の施工終了後に、必要に応じて撤去する旨記載した。このような工法は、躯体10の設計段階において片持ち梁が考慮されていない事による。
【0028】
このため、設計段階において本発明に係る施工方法を考慮した場合には、片持ち梁を支保用受梁16とせず、躯体を構成する梁と一体のものとしても良い。予め片持ち梁が突設されていれば、支保用受梁16として後付けする手間を省くことができるからである。
【符号の説明】
【0029】
10………躯体、10a………コンクリート、12………大梁、12a………アングル材、14………デッキプレート、14a………スラブ筋、16………支保用受梁、16a………ベース材(H型鋼)、18………アングル材、20………アジャスタ、22………バルコニー床、24………排水溝、26………立ち上がり部、28………水勾配、30………コンクリート、32………スラブ筋、34………ライナープレート、36………丸環、38………巻き取り手段。
図1
図2
図3
図4