(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】ワイヤーロープ式防護柵用ワイヤーロープカバー
(51)【国際特許分類】
E01F 15/06 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
E01F15/06 A
(21)【出願番号】P 2019089824
(22)【出願日】2019-05-10
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】517413605
【氏名又は名称】ニッタ化工品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】阪本 龍太
(72)【発明者】
【氏名】塩見 薫
(72)【発明者】
【氏名】櫻庭 歩
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-221740(JP,A)
【文献】特開2019-027267(JP,A)
【文献】登録実用新案第3134120(JP,U)
【文献】特開2003-247314(JP,A)
【文献】特開平09-277409(JP,A)
【文献】特開2019-218739(JP,A)
【文献】登録実用新案第3213025(JP,U)
【文献】特開2012-045966(JP,A)
【文献】実開昭56-176217(JP,U)
【文献】登録実用新案第3079580(JP,U)
【文献】特許第3402557(JP,B2)
【文献】特開2000-008577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のカバー本体と、前記カバー本体の軸心方向に貫通形成される切り込みとを有し、
前記カバー本体は、合成樹脂製の芯材と、前記芯材より柔らかい合成樹脂製で前記芯材を覆う主材とから形成されている
ワイヤーロープ式防護柵用ワイヤーロープカバー。
【請求項2】
前記切り込みの一端部及び/又は他端部が、前記軸心方向で端に行くほど切り込み幅が大となる開先状に形成されている請求項1に記載の
ワイヤーロープ式防護柵用ワイヤーロープカバー。
【請求項3】
前記主材は前記芯材と種類が同じで硬度の低い合成樹脂製である請求項1又は2に記載の
ワイヤーロープ式防護柵用ワイヤーロープカバー。
【請求項4】
前記芯材が硬質塩化ビニル樹脂製であり、前記主材が軟質塩化ビニル樹脂製である請求項3に記載の
ワイヤーロープ式防護柵用ワイヤーロープカバー。
【請求項5】
前記主材の硬度daは、(JIS K 7215)プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法のタイプAに準拠して測定した値で50~90(50≦da≦90)であり、前記芯材の硬度dbは、前記試験方法のタイプDに準拠して測定した値で60~90(60≦db≦90)である請求項1~4に記載の
ワイヤーロープ式防護柵用ワイヤーロープカバー。
【請求項6】
前記主材の硬度daは、(JIS K 7215)プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法のタイプAに準拠して測定した値で60~75(60≦da≦75)であり、前記芯材の硬度dbは、前記試験方法のタイプDに準拠して測定した値で65~85(65≦db≦85)である請求項1~5に記載の
ワイヤーロープ式防護柵用ワイヤーロープカバー。
【請求項7】
前記芯材がコイル状に形成されるとともに、前記主材が円筒状に形成されている請求項1~6の何れか一項に記載の
ワイヤーロープ式防護柵用ワイヤーロープカバー。
【請求項8】
前記カバー本体の外表面に反射体が設けられている請求項1~7の何れか一項に記載の
ワイヤーロープ式防護柵用ワイヤーロープカバー。
【請求項9】
前記主材は、蓄光材が混ぜられた合成樹脂製である請求項1~7の何れか一項に記載の
ワイヤーロープ式防護柵用ワイヤーロープカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として道路の線形や中央線を標示するために用いられるワイヤーロープ式防護柵に好適なワイヤーロープカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速道路や一般道路における中央線(センターライン)を示す手段としては、特許文献1や特許文献2で開示されているように、進行方向に適宜の間隔を置いて立設される多数の標識柱が知られている。また、特許文献3や特許文献4で開示されるように、適宜の間隔で並ぶ支柱と、隣り合う支柱に亘って架設されるガードレールやパネルとでなる防護柵も知られている。
【0003】
前者の標識柱を用いる手段は、コスト安で工期も短くて済む利点があり、多用されているが、対向車の食み出しを防止できない点で不利である。後者の防護柵を用いる手段は、施工コストが比較的高くなる点で不利ではあるが、対向車の食み出し防止効果がある点で評価は高い。
【0004】
そこで、対向車の食み出し防止機能を備えながらコスト増を抑えたものとして、ワイヤーロープを用いた防護柵(例:特許文献5)が使われつつある。このワイヤーロープ式防護柵は、例えば、高速道路の暫定二車線区間における中央分離標に、対向車線への飛び出し防止として広まってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-206170号公報
【文献】特開2009-299306号公報
【文献】特開平9-49216号公報
【文献】特開平10-18236号公報
【文献】特開2011-208491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ワイヤーロープ式防護柵を中央分離帯として用いた場合、対向車の食み出し(飛び出し)防止機能がある点は好ましいが、金属製のワイヤーロープと接触することによって走行車体に傷ができてしまう点が指摘されてきている。
【0007】
本発明の目的は、ワイヤーロープ式防護柵を用いた場合の前記問題点である「ワイヤーロープとの接触により走行車体が損傷すること」が極力回避されるように、ワイヤーロープに被せるカバー、即ち、ワイヤーロープカバーを開発して提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ワイヤーロープ式防護柵用ワイヤーロープカバーにおいて、筒状のカバー本体2と、前記カバー本体2の軸心P方向に貫通形成される切り込み3とを有し、
前記カバー本体2は、合成樹脂製の芯材4と、前記芯材4より柔らかい合成樹脂製で前記芯材4を覆う主材5とから形成されていることを特徴とする。
【0009】
前記切り込み3の一端部3a及び/又は他端部3bが、前記軸心P方向で端に行くほど切り込み幅が大となる開先状に形成されているとよい。前記主材5は前記芯材4と種類が同じで硬度の低い合成樹脂製であると好都合であり、前記芯材4が硬質塩化ビニル樹脂製であり、前記主材5が軟質塩化ビニル樹脂製であればより好都合である。
【0010】
前記主材の硬度daは、(JIS K 7215-1986)によるプラスチックのデュロメータ硬さ試験方法のタイプAに準拠して測定した値(以下「デュロメータA硬さ」と称す)で50~90(50≦da≦90)であり、前記芯材の硬度dbは、前記試験方法のタイプDに準拠して測定した値(以下「デュロメータD硬さ」と称す)で60~90(60≦db≦90)であるとよい。この場合、主材の硬度daがデュロメータA硬さで60~75(60≦da≦75)であり、芯材の硬度dbがデュロメータD硬さで65~85(65≦db≦85)であるとさらによい。
【0011】
また、前記芯材4がコイル状に形成されるとともに、前記主材5が円筒状に形成されていると好都合である。そして、前記カバー本体2の外表面2aに反射体8が設けられているとより好都合である。また、主材5を、蓄光材が混ぜられた合成樹脂製としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ワイヤーロープに被せて使用するに好適なワイヤーロープカバーを、柔らかさ(硬さ)の互いに異なる2つの材料から構成した点にある。
例えば、1つの材料からなるワイヤーロープカバーでは、ワイヤーロープへの装着作業性を重視した柔らかさ(硬さ)にすれば、走行車両接触時の強さ(耐衝撃強さ)が十分にならない問題がある。一方、その強さ(耐衝撃強さ)を重視した柔らかさ(硬さ)にすれば、ばね定数が高くなってワイヤーロープへの装着が困難になって作業性が悪くなる問題がある。従って、1つの材料によるワイヤーロープカバーでは改善の余地がある。
【0013】
本発明によるワイヤーロープカバーは、硬質材製の芯材と、芯材を覆う軟質材製の主材とでなるから、ワイヤーロープに装着する際の弾性変形をさせ易いしなやかさと、自動車などの走行車両が強く接触した際の耐衝撃強さとを兼ね備えることが可能となる利点がある。
【0014】
その結果、ワイヤーロープ式防護柵を用いた場合の問題点である「ワイヤーロープとの接触により走行車体が損傷すること」が極力回避されるように、ワイヤーロープに被せて使用されるワイヤーロープカバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ワイヤーロープカバーを示し、(A)は底面図、(B)は
図1(A)のZ-Z線で切った断面図
【
図2】ワイヤーロープカバーをワイヤーロープに装着する手順を示し、(A)はワイヤーロープカバーの拡径工程、(B)は被せ工程
【
図3】ワイヤーロープ式防護柵への装着例を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明によるワイヤーロープカバーの実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0017】
〔実施形態1〕
図1(A),(B)に示されるように、ワイヤーロープカバー1は、円筒状のカバー本体2と、カバー本体2の軸心P方向に貫通形成される切り込み(スリット)3とを有して構成されている。カバー本体2は、可撓性を有する硬質材製の芯材4と、芯材4より柔らかくて可撓性を有する材料製で芯材4を覆う主材5とから形成されている。
【0018】
芯材4は、合成樹脂製であって、円形材料を螺旋状に巻いた円形コイル状のものに形成されている。主材5は、合成樹脂製であって芯材4を覆って内包する円筒状の部材である。ワイヤーロープカバー1においては、
図1(B)に示されるように、芯材4は主材5に埋設されており、外観として芯材4が見えるとすれば、軸心P方向(長手方向)の各端面のみである。
【0019】
図1(A)に示されるように、切り込み3の軸心P方向での一端部3a及び他端部3bは、軸心P方向で端に行くほど切り込み幅が大となる開先状(先拡がり状)に形成されている。これら開先状の端部3a,3bを設けることにより、ワイヤーロープへの装着作業(後述)がやり易くなる利点がある。
【0020】
ワイヤーロープカバー1は、例えば、押出成形により、芯材4を内包した主材5を螺旋状に押し出して巻き付けることにより、主材5が一体化されてコイル状の芯材4が内包された円筒状のカバー原形が作成される。そして、カバー原形に加工して切り込み3を設けることにより、
図1(A)に示されるワイヤーロープカバー1が作製される。
【0021】
また、ワイヤーロープカバー1は、長手方向の各端面以外の箇所において芯材4が外から見える状態のワイヤーロープカバー1も可能である。例えば、芯材4が主材5から径内側に有る程度はみ出て内面側に露出する構造のワイヤーロープカバー1でもよい。
【0022】
ワイヤーロープカバー1の使用例を
図3に示す。高速道路Wの中央分離帯として、適宜の間隔を置いて立設される多数の支柱6と、それら支柱6に亘って複数本(例:5本)のワイヤーロープ7が上下一列に並んで架設される構造のワイヤーロープ式防護柵Aに、実施形態1によるワイヤーロープカバー1が適用されている。
【0023】
図3においては、1つの装着例として、上下方向で奇数段の列のワイヤーロープ7には2つのワイヤーロープカバー1,1が装備され、偶数段の列のワイヤーロープ7には1つのワイヤーロープカバー1が装備されている。なお、
図3において、隣り合う支柱6,6の間隔などの各部の寸法緒元は、図示の通りの寸法比とは限らない。
【0024】
ワイヤーロープカバー1をワイヤーロープ7に装着するには、まず、
図2(A)に示されるように、ワイヤーロープカバー1を強制的に開き操作し、切り込み3の幅をワイヤーロープ7に嵌め入れ可能な大きさまで拡大させる拡径工程を行う。次いで、ワイヤーロープカバー1を移動し、
図2(B)に示されるように、拡大されている切り込み3からワイヤーロープ7に被せる被せ工程を行う。ワイヤーロープ7は、3本のワイヤー7aを束ねたものとして描いてあるが、この限りではない。
【0025】
被せ工程において、ワイヤーロープカバー1の開き状態を解除すると、
図2(B)に示されるように、弾性により切り込み3が基の幅となる状態にワイヤーロープカバー1が閉じ変位し、ワイヤーロープ7への装着が完了する。なお、
図2(B)では、ワイヤーロープ7にワイヤーロープカバー1が遊嵌合するように描かれているが、弾性によりワイヤーロープカバー1がワイヤーロープ7に密嵌合する設定とすれば、ワイヤーロープカバー1のズレ動きが抑制又は回避され、位置固定が可能になるなど、好都合である。
【0026】
例えば、1つの材料からなるワイヤーロープカバーの場合には、ワイヤーロープ7への装着作業性を重視した柔らかさ(硬さ)にすれば、走行車両接触時の強さに欠ける。また、装着後に外れ易くなる不利もある。一方、その強さを重視した、或いは装着後の外れ難さも重視した柔らかさ(硬さ)にすれば、ばね定数が高くなってワイヤーロープへの装着が困難になって作業性が悪く、いずれの場合でも改善の余地がある。
【0027】
図3に示されるように、ワイヤーロープカバー1付のワイヤーロープ式防護柵Aが施された道路では、自動車などの走行車両が対向車線に飛び出そうとしてワイヤーロープ7に接触しても、表面に合成樹脂製のワイヤーロープカバー1が装着されているので、金属製のワイヤーロープ7に接触する場合に比べて、走行車体や二輪車体などの損傷が大幅に抑制又は回避される利点がある。
【0028】
ワイヤーロープカバー1は、硬質材製の芯材4と、芯材4を覆う軟質材製の主材5とでなるものであるから、ワイヤーロープ7に装着する際の弾性変形をさせ易いしなやかさと、自動車などの走行車両が強く接触した際の耐衝撃強さとを兼ね備える利点がある。例えば、主材5のみによるワイヤーロープカバーでは、切り込み3を広げてワイヤーロープに取付けた後、元の切り込みの幅に復元され難くなるが、本発明においては、主材5よりも硬い芯材4が入れられているので、元の切り込みの幅に復元し易く、装着後に外れ難くなる利点もある。
【0029】
また、
図3に示されるように、ワイヤーロープカバー1の(カバー本体2の)外表面2aの全面や部分的に、或いはフレキシブルな面の凹部に反射部材(反射体の一例)8を設けておけば好都合である。反射部材8としては、光を乱反射する反射シートとすれば、夜間におけるワイヤーロープカバー1の(ワイヤーロープ7の)視認性が明確に向上して好ましい。フレキシブルな面の凹部とは、蛇腹状の外観を呈するワイヤーロープカバー1(図示省略)である場合の凹んだ箇所のことである。
【0030】
ワイヤーロープカバー1の実施例について説明する。
〔実施例1〕
・主材5の硬度daが、デュロメータA硬さで50~90(50≦da≦90)である軟質塩化ビニル樹脂。
・芯材4の硬度dbが、デュロメータD硬さで60~90(60≦db≦90)である硬質塩化ビニル樹脂。
・芯材4の径が2.5~3.0mm、螺旋ピッチが4~5.5mm
なお、主材5の硬度daをデュロメータD硬さに換算すると、おおよそ13~40に相当し、当然ながら、芯材4の硬度dbは主材5の硬度daより高い値となっている。
【0031】
〔実施例2〕
・主材5の硬度daが、デュロメータA硬さで60~75(60≦da≦75)である合成樹脂。
・芯材4の硬度dbが、デュロメータD硬さで65~85(65≦db≦85)である合成樹脂。
・芯材4の径が2.0~9.0mm、螺旋ピッチが4.0~24mm
・主材5の材料が軟質塩化ビニル樹脂
・芯材4の材料が硬質塩化ビニル樹脂
なお、主材5の硬度daをデュロメータD硬さに換算すると、おおよそ17~27に相当し、当然ながら、芯材4の硬度dbは主材5の硬度daより高い値となっている。
【0032】
〔実施例3〕
・芯材4の断面形状やコイル状の形状は、円形のほか、楕円形、四角形、多角形などでもよい。
【0033】
〔別実施例〕
・主材5の材料は、軟質塩化ビニル樹脂に限定されず、TPU、TPO、ナイロン、シリコーンゴムなどのうちのいずれかでもよい。
・芯材4の材料は、硬質塩化ビニル樹脂に限定されず、ポリプロピレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂などのうちのいずれかであってもよい。
【0034】
芯材4が主材5の内部に被着される構造や、芯材4が主材5の外部に被着される構造のワイヤーロープカバー1でもよい。
反射体8は、矩形や円形の乱反射シートなど、種々の変更設定が可能である。
また、主材5が、蓄光材が混入(配合)された合成樹脂製としてもよく、そうすれば、夜間に主材5が光って視認性が良くなるワイヤーロープカバー1となる利点がある。
【符号の説明】
【0035】
2 カバー本体
2a 外表面
3 切り込み
3a 一端部
3b 他端部
4 芯材
5 主材
8 反射体
P 軸心