(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】壁高欄の補強方法及び補強構造
(51)【国際特許分類】
E01D 19/10 20060101AFI20221221BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
E01D19/10
E01D22/00 B
(21)【出願番号】P 2019114410
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598072180
【氏名又は名称】ファイベックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096611
【氏名又は名称】宮川 清
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】藤原 保久
(72)【発明者】
【氏名】安藤 直文
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏一朗
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】迎 邦博
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-023477(JP,A)
【文献】特開2001-355209(JP,A)
【文献】特開平11-182061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート床版の側部が片持ち状に張り出した橋梁又は高架橋に設けられ、前記コンクリート床版の側縁に沿って立ち上げられた鉄筋コンクリートからなる壁高欄の補強方法であって、
前記壁高欄の内壁面の直下に、前記コンクリート床版を上下方向に貫通し、帯状又は綱状の補強部材が挿通される貫通孔を形成するする工程と、
前記補強部材を、前記壁高欄の内壁面に沿った位置から前記貫通孔を通過し、前記コンクリート床版の下側で反転して前記壁高欄の外壁面に沿った位置にまで連続するように配置する工程と、
前記補強部材の両端部を前記壁高欄の内壁面及び外壁面にそれぞれ固定する工程と、
前記コンクリート床版の下側で、緊張用ブロックが有する曲面に前記補強部材を巻き回して前記緊張用ブロックを該補強部材に係止する工程と、
前記緊張用ブロックに下方への力を付与して前記補強部材に緊張力を導入する工程と、
前記緊張用ブロックを前記コンクリート床版に対して位置を固定する工程と、を有することを特徴とする壁高欄の補強方法。
【請求項2】
前記補強部材は、軸線方向に連続する複数のアラミド繊維、炭素繊維、鉱物繊維又はガラス繊維を主材料とする帯状の部材であることを特徴とする請求項1に記載の壁高欄の補強方法。
【請求項3】
前記帯状の部材の、前記壁高欄の内壁面及び外壁面に沿わせる範囲には、該帯状の部材の繊維間にあらかじめ合成樹脂を含浸し、前記緊張用ブロックに巻き回される範囲は柔軟に変形が可能な状態としておき、
該帯状の部材を前記壁高欄の内壁面に沿った位置から外壁面に沿った位置に配置し、緊張力を導入した後に、前記緊張用ブロックに巻き回した範囲に合成樹脂を含浸させることを特徴とする請求項2に記載の壁高欄の補強方法。
【請求項4】
前記補強部材の両端部を前記壁高欄に固定する工程は、
前記補強部材の両端部を、それぞれ2枚の鋼板の間に挟み込んで該鋼板に接着する工程と、
該鋼板は、前記壁高欄を貫通するボルトによって該壁高欄に固定する工程と、を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の壁高欄の補強方法。
【請求項5】
前記緊張用ブロックを固定する工程は、
前記緊張用ブロックと前記コンクリート床版との間にコンクリート又はモルタルを充填し、硬化させる工程を含むことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の壁高欄の補強方法。
【請求項6】
前記壁高欄の下端部に、前記コンクリート床版の上面に沿った方向の横方向貫通孔を形成する工程と、
前記コンクリート床版の上面に沿った位置から前記横方向貫通孔を通過し、該コンクリート床版の先端を囲むように反転して、該コンクリート床版の下面に沿った位置にまで連続する帯状又は綱状の床版補強部材を配置する工程と、
前記床版補強部材の両端部を前記コンクリート床版の上面及び下面にそれぞれ固定する工程と、
前記床版補強部材が前記コンクリート床版の先端より側方に引き出された部分で、反転する該床版補強部材が巻き回されるように横方向緊張用ブロックを該床版補強部材に係止する工程と、
前記横方向緊張用ブロックにコンクリート床版の側方への力を付与し、前記床版補強部材に緊張力を導入する工程と、
前記横方向緊張用ブロックを前記コンクリート床版の先端部に固定する工程と、を有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の壁高欄の補強方法。
【請求項7】
コンクリート床版の側部が片持ち状に張り出した橋梁又は高架橋に設けられ、前記コンクリート床版の側縁に沿って立ち上げられた鉄筋コンクリートからなる壁高欄の補強構造であって、
前記壁高欄の内壁面の直下に、前記コンクリート床版を上下方向に貫通する貫通孔が設けられ、
帯状又は線状の補強部材が、内壁面に沿った位置から前記貫通孔を通過し、前記コンクリート床版の下側で反転して前記壁高欄の外壁面に沿った位置にまで連続するように配置され、
前記補強部材の両端部が前記壁高欄の内壁面及び外壁面にそれぞれ固定されるとともに、前記コンクリート床版の下側に設けられた緊張用ブロックの曲面に該補強部材が巻き回わされており、
前記補強部材に緊張力が導入された状態で前記緊張用ブロックが前記コンクリート床版に固定されていることを特徴とする壁高欄の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床版を有する橋梁、高架橋等の側縁に沿って立ち上げられた壁高欄を補強する方法及び補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート床版を有する鉄道橋、道路橋等において、コンクリートの壁高欄が広く採用されている。コンクリートの壁高欄は、コンクリート床版の側縁部の上面にコンクリートを打ち足して形成されており、コンクリート床版に一部が埋め込まれた鉄筋が壁高欄内に連続するように配置され、コンクリート床版と一体となっている。
このようなコンクリートの壁高欄は、経年による劣化が生じたり、コンクリート床板に生じる振動が繰り返し伝達されること等によってひび割れを生じたりすることがある。劣化が生じた壁高欄は、鋼板を添接する方法、高強度の繊維からなるシートを貼り付ける方法等によって補修又は補強することが提案されており、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されるものがある。
【0003】
特許文献1に記載の補修方法は、壁高欄の側面に鋼板を貼り付けて補修するものである。また、特許文献2に記載の補強方法は、壁高欄の側面に高強度の繊維を主材料とする帯状部材を貼り付けて補強するものである。帯状部材は壁高欄の内壁面に沿って貼り付けられ、コンクリート床版と壁高欄との接合部を越えて連続するものとなっている。これにより、壁高欄の下端に作用する曲げモーメントに対しても補強効果を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-355209号公報
【文献】特開2016-23477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コンクリートの壁高欄の補修、補強に関しては、次のような解決が望まれる課題がある。
特許文献1に記載されているように壁高欄の側面に鋼板又は高強度繊維のシート等を貼り付ける補修では、鉄筋の腐食による劣化等に対しては有効であるが、壁高欄の下端部に作用する曲げモーメントに対しては有効な補強とすることができない。つまり、壁高欄の下端部の内側で曲げモーメントによる引張応力度が発生するときに、この引張応力度に抵抗する部材を有効に付加することが難しい。
【0006】
特許文献2に記載されている補強では、高強度繊維を主材料とする帯状部材を壁高欄の側面に貼り付け、コンクリート床版にまで巻き回すように配置しているので、壁高欄の下端に作用する曲げモーメントに対しても有効な補強となる。しかし、鉄道の高架橋等に設けられた壁高欄では、車両の走行によって繰り返し振動が発生するとともに、大きな風圧が繰り返し作用することになる。特に新幹線の高架橋や橋梁では高速で走行する車両によって壁高欄の下端部には大きな負荷が作用している場合がある。このような負荷によって、壁高欄の下端部にひび割れが生じたり、コンクリート床版とコンクリートの壁高欄との打ち継ぎ目に目開きが生じたりすることがある。このような場合には、引張力に抵抗する部材を付加するのみではなく、壁高欄の下端部に圧縮応力度つまりプレストレスを追加導入する補強が望まれる。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、コンクリートからなる壁高欄の下端部における内側及び外側の両面に引張部材を付加するとともに壁高欄の下端部に圧縮応力度を作用させて補強することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 コンクリート床版の側部が片持ち状に張り出した橋梁又は高架橋に設けられ、前記コンクリート床版の側縁に沿って立ち上げられた鉄筋コンクリートからなる壁高欄の補強方法であって、 前記壁高欄の内壁面の直下に、前記コンクリート床版を上下方向に貫通し、帯状又は綱状の補強部材が挿通される貫通孔を形成するする工程と、 前記補強部材を、前記壁高欄の内壁面に沿った位置から前記貫通孔を通過し、前記コンクリート床版の下側で反転して前記壁高欄の外壁面に沿った位置にまで連続するように配置する工程と、 前記補強部材の両端部を前記壁高欄の内壁面及び外壁面にそれぞれ固定する工程と、 前記コンクリート床版の下側で、緊張用ブロックが有する曲面に前記補強部材を巻き回して前記緊張用ブロックを該補強部材に係止する工程と、 前記緊張用ブロックに下方への力を付与して前記補強部材に緊張力を導入する工程と、 前記緊張用ブロックを前記コンクリート床版に対して位置を固定する工程と、を有する壁高欄の補強方法を提供する。
【0009】
この補強方法では、壁高欄の内壁面及び外壁面に沿って配置された補強部材に緊張力が導入されることによって、壁高欄の下部に圧縮応力度すなわちプレストレスが導入され、壁高欄がコンクリート床版に押し付けられる。これにより、壁高欄の下部のひび割れが生じた部分や下端部の打ち継ぎ目が補強されるとともに、壁高欄の変形が抑制される。
また、この補強方法では、厚さが小さい既存の壁高欄に適用してプレストレスを導入することが可能となる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の壁高欄の補強方法において、 前記補強部材は、軸線方向に連続する複数のアラミド繊維、炭素繊維、鉱物繊維又はガラス繊維を主材料とする帯状の部材とする。
【0011】
この補強方法では、繊維を主材料とする補強部材を用いて補強するものであり、補強部材は壁高欄の表面に貼り付けて使用しても腐食による劣化が抑えられる。また、コンクリート床版の下側で方向が反転するように巻き回しても強度の低下を小さく抑え、有効にプレストレスを導入することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の壁高欄の補強方法において、 前記帯状の部材の、前記壁高欄の内壁面及び外壁面に沿わせる範囲には、該帯状の部材の繊維間にあらかじめ合成樹脂を含浸し、前記緊張用ブロックに巻き回される範囲は柔軟に変形が可能な状態としておき、 該帯状の部材を前記壁高欄の内壁面に沿った位置から外壁面に沿った位置に配置し、緊張力を導入した後に、前記緊張用ブロックに巻き回した範囲に合成樹脂を含浸させるものとする。
【0013】
この補強方法では、軸線方向に連続する繊維に合成樹脂を含浸させることによって、補強部材の強度が増大する。また、緊張用ブロックに巻き回す部分では、補強部材を配置する時には、含浸した合成樹脂の硬化によって柔軟な曲げが阻害されるのを回避し、配置作業を容易に行うことができる。そして、緊張用ブロックに密着するように巻き回して多数の繊維に均等に近い状態で緊張力を導入することが可能となる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の壁高欄の補強方法において、 前記補強部材の両端部を前記壁高欄に固定する工程は、 前記補強部材の両端部を、それぞれ2枚の鋼板の間に挟み込んで該鋼板に接着する工程と、 該鋼板は、前記壁高欄を貫通するボルトによって該壁高欄に固定する工程と、を有するものとする。
【0015】
この補強方法では、補強部材を鋼板に対して強固に接着するとともに、鋼等より強度が小さく、表面付近が劣化している可能性があるコンクリートに対しては上記鋼板を、ボルトを用いて機械的に強固に固定することができる。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の壁高欄の補強方法において、 前記緊張用ブロックを固定する工程は、 前記緊張用ブロックと前記コンクリート床版との間にコンクリート又はモルタルを充填し、硬化させる工程を含むものとする。
【0017】
この補強方法では、緊張力が導入された補強部材を簡単かつ廉価で定着することができる。また、腐食等による定着部の劣化の可能性が小さく抑えられる。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5までのいずれかに記載の壁高欄の補強方法において、 前記壁高欄の下端部に、前記コンクリート床版の上面に沿った方向の横方向貫通孔を形成する工程と、 前記コンクリート床版の上面に沿った位置から前記横方向貫通孔を通過し、該コンクリート床版の先端を囲むように反転して、該コンクリート床版の下面に沿った位置にまで連続する帯状又は綱状の床版補強部材を配置する工程と、 前記床版補強部材の両端部を前記コンクリート床版の上面及び下面にそれぞれ固定する工程と、 前記床版補強部材が前記コンクリート床版の先端より側方に引き出された部分で、反転する該床版補強部材が巻き回されるように横方向緊張用ブロックを該床版補強部材に係止する工程と、
前記横方向緊張用ブロックにコンクリート床版の側方への力を付与し、前記床版補強部材に緊張力を導入する工程と、 前記横方向緊張用ブロックを前記コンクリート床版の先端部に固定する工程と、を有するものとする。
【0019】
この補強方法では、壁高欄の下端から曲げモーメントが伝達されるコンクリート床版の張り出し先端部を、壁高欄と併せて補強することができる。
【0020】
請求項7に係る発明は、 コンクリート床版の側部が片持ち状に張り出した橋梁又は高架橋に設けられ、前記コンクリート床版の側縁に沿って立ち上げられた鉄筋コンクリートからなる壁高欄の補強構造であって、 前記壁高欄の内壁面の直下に、前記コンクリート床版を上下方向に貫通する貫通孔が設けられ、 帯状又は線状の補強部材が、内壁面に沿った位置から前記貫通孔を通過し、前記コンクリート床版の下側で反転して前記壁高欄の外壁面に沿った位置にまで連続するように配置され、 前記補強部材の両端部が前記壁高欄の内壁面及び外壁面にそれぞれ固定されるとともに、前記コンクリート床版の下側に設けられた緊張用ブロックの曲面に該補強部材が巻き回わされており、 前記補強部材に緊張力が導入された状態で前記緊張用ブロックが前記コンクリート床版に固定されている壁高欄の補強構造を提供するものである。
【0021】
この補強構造では、壁高欄の内壁面及び外壁面に沿って配置された補強部材の緊張力によって、壁高欄がコンクリート床版に押し付けられ、壁高欄の下部に圧縮応力度が導入される。これにより、壁高欄の下部のひび割れが生じた部分や下端部の打ち継ぎ目が補強され、壁高欄の変形が抑制される。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明に係る壁高欄の補強方法又は壁高欄の補強構造では、コンクリートからなる壁高欄の下端部における内側及び外側の両面に補強部材として引張力に抵抗する部材が付加される。そして、これらに緊張力を導入することによって壁高欄の下端部に圧縮応力度を作用させ、補強することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】鉄道の高架橋に設けられた壁高欄であって、本発明の補強方法を適用することができる壁高欄の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態である補強方法によって補強された壁高欄であって、本発明に係る補強構造を適用した壁高欄の一例を示す断面図及び側面図である。
【
図3】本発明に係る壁高欄の補強方法の工程を説明するための概略断面図である。
【
図4】本発明に係る壁高欄の補強方法の工程を説明するための概略断面図及び側面図である。
【
図5】本発明に係る壁高欄の補強方法で用いることができる緊張用ブロックの一例を示す正面図、側面図及び底面図である。
【
図6】
図5に示す緊張用ブロックを用いて補強部材である帯状の部材に緊張力を導入し、定着する工程を説明するための正面図及び側面図である。
【
図7】
図5に示す緊張用ブロックを用いて補強部材である帯状の部材に緊張力を導入し、定着する工程を説明するための正面図及び側面図である。
【
図8】
図5に示す緊張用ブロックを用いて補強部材である帯状の部材に緊張力を導入し、定着する工程を説明するための正面図及び側面図である。
【
図9】緊張用ブロックを用いて帯状の補強部材に緊張力を導入する方法の他の例を示す正面図及び側面図である。
【
図10】本発明の他の実施形態である壁高欄の補強構造を示す断面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の補強方法を適用することができる壁高欄の一例を示す断面図である。
この壁高欄1は鉄道の高架橋に設けられたものであり、コンクリート床版2の両側縁部に立ち上げられ、鉄道路線の方向に連続するコンクリートの壁体となっている。上記コンクリート床版2は、鉄道路線の軸線方向に設けられた主桁3及び該主桁3とほぼ直角方向に設けられた横桁4と一体に形成されており、主桁3及び横桁4がコンクリートの支柱5によって支持されている。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態である補強方法によって補強された壁高欄であって、本発明の一実施形態である壁高欄の補強構造を示す断面図及び側面図である。
この壁高欄1は、鉄筋コンクリート構造となっており、コンクリート床版2の上面に連続してコンクリートを打ち足すことによって形成され、コンクリート床板2から壁高欄1にわたって連続する鉄筋6が配置されている。コンクリート床版2から所定の高さまでは増厚部1aとなっており、所定の高さ以上の標準部1bより壁厚が増大されている。
【0026】
図2に示す補強構造は、壁高欄1の内壁面に一端が固定され、下方に伸長されてコンクリート床版2を貫通し、壁高欄1の外壁面にまで連続するように配置された帯状の補強部材11によって補強されたものである。帯状の補強部材11は、両端が壁高欄1の内壁面及び外壁面に固定され、緊張力が導入されることによって壁高欄1の下部に上下方向の圧縮応力度つまりプレストレスを導入するものである。このような帯状の補強部材11が、鉄道路線の軸線方向に所定の間隔で設けられ、鉄道路線の軸線方向に連続して伸びる壁高欄1を補強するものとなっている。
【0027】
上記補強部材11は、多数のアラミド繊維を軸線方向に用いて帯状に織った部材が用いられる。アラミド繊維に代えて、炭素繊維、鉱物繊維、ガラス繊維等を用いることもできる。帯状となった補強部材の幅は、例えば5cm程度とすることができ、必要とされる引張強度に応じて幅及び繊維量等を適宜に決定することができる。
なお、補強部材は、アラミド繊維を帯状に束ねたもの、アラミド繊維を束ねた複数のひも状体を帯状に編んだものであってもよい。
【0028】
壁高欄の内壁面における標準部1bと増厚部1aとの段差部にはモルタル1cを詰め入れ、段差を解消して補強部材11が内壁面に連続して密着することが可能となるように内壁面が調整されている。そして、増厚部1aの内壁面の直下ではコンクリート床版2に上下方向の貫通孔2aが形成されており、補強部材11は壁高欄の内壁面に沿った位置から該貫通孔2aに挿通され、コンクリート床板の下側へ貫通するように配置されている。
コンクリート床版2の下側では、補強部材11がモルタル又はコンクリートによって形成された緊張用ブロック12の曲面に巻き回され、上方へ方向を反転して壁高欄1の外壁面に沿って密着する位置に配置されている。
【0029】
このように配置された補強部材11の両端部を壁高欄1の内壁面及び外壁面に固定する構造は、補強部材11の両端部のそれぞれに2枚の鋼板13を接着し、これらの鋼板13を壁高欄11に固定するものとしている。鋼板13は、補強部材11より幅が大きく、補強部材11の端部における所定の範囲を2枚の鋼板13,13の間に挟み込み、接着剤により互い接着されたものである。補強部材の一端に接着された鋼板13は壁高欄1の内壁面に当接されるとともに、他端に接着された鋼板13は外壁面の同じ高さに当接され、壁高欄1を貫通するボルト14よって壁高欄1に締め付けて固定されている。
【0030】
上記緊張用ブロック12は、円筒曲面又はこれに近似した滑らかな曲面と、この曲面の背後に平坦な面とを有する鞍状の部材であり、鉄道路線の方向に所定の長さを有するものである。この緊張用ブロック12の平坦な面はコンクリート床版2の下面と対向し、対向する双方の面の間には無収縮モルタル15が充填されている。この無収縮モルタル15は、緊張用ブロック12に下方への力を作用させた状態で充填され、硬化したものである。したがって、緊張用ブロック12に下方への力が作用することによって補強部材11に導入された緊張力が、緊張用ブロック12の位置を固定することによって維持されている。
上記緊張用ブロック12は、鉄筋コンクリート、鉄筋で補強されたモルタル、短繊維を混入した繊維補強コンクリート、繊維補強モルタル等によって形成することができる。
【0031】
上記壁高欄の補強構造は、次のように施工することができる。
図3(a)に示すように、壁高欄1の内壁面にある段差部にモルタル1cを詰め込み、帯状の補強部材11が連続して密着することができるように内壁面の形状を調整する。また、内壁面の直下におけるコンクリート床版2に貫通孔2aを切削する。貫通孔2aの切削には、超硬質材料による切削、打撃をともなうドリル等による機械的な切削を採用することもできるし、流体の噴流を用いた切削を採用することもできる。また、補強部材11の両端部を固定する位置には壁高欄1を水平方向に貫通するボルト孔1dを形成する。
なお、壁高欄1の下端部又はその他の位置にひび割れが生じていたり、コンクリート床板2と壁高欄1との打ち継ぎ目に目開きが生じていたりするときには、エポキシ樹脂等の注入を行う。
【0032】
補強部材11は、
図3(a)及び
図3(b)に示すように一端からコンクリート床版2の貫通孔2aに挿通し、コンクリート床版2の下側から壁高欄1の外側に送り出す。このとき、補強部材11の他端には2枚の鋼板13,13を接着しておくことができる。また、補強部材11の内壁面に当接される部分11a及び外壁面に当接される部分11bには合成樹脂を帯状となった補強部材11の繊維間に含浸させた状態とする。内壁面に当接される部分11aと外壁面に当接される部分11bとの間の、コンクリート床版2の下側で緊張用ブロック12に巻き回される部分11cは、合成樹脂を繊維間に含浸させず、帯状となった補強部材11が柔軟に変形する状態としておく。
【0033】
壁高欄1の外壁面に沿った位置にまで送り出された補強部材11の端部は、
図3(b)に示すように2枚の鋼板13,13によって挟み込み、接着剤で鋼板13,13と補強部材11とを接着する。そして、
図4に示すように補強部材11の両端に2枚を重ねて接着された鋼板13を壁高欄1の内壁面及び外壁面に当接し、壁高欄1を貫通するボルト14で締め付けて固定する。このとき、コンクリート床版2の下側では、補強部材11の樹脂が含浸されていない部分がループ状に垂れ下がった状態となっている。
【0034】
補強部材11の両端部が壁高欄1に固定されると、コンクリート床版2の下側でループ状に垂れ下がった補強部材11の内側に緊張用ブロック12を差し入れ、
図4に示すように曲面に補強部材11を巻き回わすとともに緊張用ブロック12に装着された緊張用ボルト16をコンクリート床版2の下面に当接して、緊張用ブロック12を支持する。
【0035】
緊張用ブロック12は、
図5に示すように、下側が円筒曲面となっており、上側は平坦な面となっている。そして、円筒曲面の軸線方向における中央部に補強部材11を巻き回す凹部12aが形成されている。補強部材11が巻き回される位置の両側における上面付近には、複数の固定ナット17が埋め込まれており、該固定ナット17から下側には円筒曲面にまで貫通するボルト孔18が形成されている。これらのボルト孔18には下側から緊張用ボルト16を挿入し、固定ナット17にねじり合わせて、先端を緊張用ブロック12の上面から突き出し、先端をコンクリート床版2の下面に当接することができるものとなっている。緊張用ボルト16の先端には、緊張用ボルトの相対的な回転が可能となる当接板20を取り付けられており、この当接板20を介してコンクリート床版2の下面に突き当てられる。当接板20は、緊張用ボルト16を軸線方向に強く引き下げると該緊張用ボルト16から離脱するものとする。
【0036】
コンクリート床版2の下側で上記緊張用ブロック12を補強部材11と緊張用ボルト16とによって支持した状態で、
図6に示すように緊張用ボルト16をねじ込む方向に回転し、緊張用ブロック12から上方への突き出し量を増大する。これにともない緊張用ブロック12は下方に押し下げられ、補強部材11には緊張力が導入される。そして、緊張用ボルト16の突き出し量の管理又は緊張用ブロック12の変位量の管理により、補強部材11に所定の緊張力を導入する。これにより壁高欄1の下部には上下方向に圧縮応力度が導入される。
【0037】
補強部材11に緊張力が導入されると、
図7に示すように緊張用ボルト16の緊張用ブロック12から上方に突き出した部分を囲うようにシース21を装着する。そして、緊張用ブロック12とコンクリート床版2との間の空間を囲むように型枠22を設ける。この型枠22内に無収縮モルタルを充填し、補強部材11に緊張力が導入された状態で硬化させる。これにより、補強部材11に緊張力が導入された状態で緊張用ブロック12が固定され、壁高欄1の下部は上下方向にプレストレスが導入された状態が維持される。
その後、
図8に示すように緊張用ボルト16を固定ナット17から引き抜く方向に回転させる。これにより、緊張用ボルト16の先端は当接板20から離脱し、緊張用ブロック12から抜き取ることができる。緊張用ボルト16を抜き取った後のボルト孔18にはモルタルを充填する。
【0038】
補強部材11が緊張用ブロック12に巻き回された部分では、帯状となった補強部材11の繊維間に合成樹脂を含浸させる。これにより繊維を保護するとともに、合成樹脂を含浸させることによって補強部材11の強度を増大することができる。また、補強部材11を挿通するためにコンクリート床版2に切削した貫通孔2aは、モルタルを充填して埋め戻す。
さらに、帯状の補強部材11が壁高欄1の内壁面又は外壁面に沿って接触している部分では、補強部材11と壁高欄1との間に未硬化の合成樹脂を含浸させ、補強部材11を壁高欄1に接着しておく。
【0039】
このように帯状の補強部材11を付加することによりコンクリートからなる壁高欄1の下端部における内側及び外側の両面に引張力に抵抗する部材を付加することができる。そして、補強部材11に導入された緊張力によって壁高欄1の下端部に圧縮応力度を作用させることができる。これにより、壁高欄1の下端部が有効に補強される。
【0040】
図9は、緊張用ブロック12を用いて補強部材11に緊張力を導入する他の方法を示す正面図及び側面図である。
この方法でも、緊張用ブロック12として
図5に示すものと同じものを用いることができる。この緊張用ブロック12の曲面に補強部材11を巻き回し、コンクリート床版2の下側に緊張用ブロック12を支持する。そして、この方法では緊張用ブロック12にねじり合わされる緊張用ボルト16を、緊張用ブロック12の平坦な上面より突き出さないように固定ナット17にねじり合わせ、緊張用ブロック12より下方に突き出した頭部を緊張用梁23に係止する。緊張用梁23は、H形鋼23aや溝形鋼23bを用いて形成することができ、鉄道路線の方向に緊張用ブロック12より張り出す長さを有するものとする。この緊張用梁23の両側へ張り出した部分とコンクリート床版2の下面との間にそれぞれジャッキ24を介挿する。これらのジャッキ24を、緊張用梁23とコンクリート床版2の下面との間隔を拡大するように駆動することにより、補強部材11には緊張力を導入することができ、壁高欄1の下部にプレストレスを導入することができる。
【0041】
補強部材11に緊張力を導入した後は、
図7に示すのと同様に、緊張用ブロック12とコンクリート床版2の下面との間の空間を囲むように形枠を設置し、無収縮モルタルを充填して硬化させる。そして、ジャッキ24、緊張用梁23を撤去し、緊張用ボルト16を抜き取った後に、ボルト孔18にモルタルを充填する.
この方法では、補強部材11に緊張力を導入するのに複数のジャッキ24を用いているので、補強部材11に大きな緊張力を導入することが可能となり、緊張力の管理も容易となる。
【0042】
図10は、本発明に係る壁高欄の補強構造の他の例を示す断面図及び側面図である。
この補強構造は、
図2に示す構造と同様に壁高欄1の下端部を補強部材11によって補強するのに併せて、コンクリート床版2の先端部分を曲げモーメントに対して補強するものである。
壁高欄1の下端部に作用する曲げモーメントは、片持ち状に張り出したコンクリート床版2の先端部に伝達される。したがって、コンクリート床版2の先端部は、壁高欄1の下端部と同等もしくはそれ以上の耐力を備えていることが望ましく、壁高欄1の補強にともなってコンクリート床版2の補強が必要となるときに採用することができるものである。
【0043】
この構造では、壁高欄1の下端部におけるコンクリート床版2の上面に相当する位置に横方向の貫通孔32が形成される。そして、コンクリート床版2の上面に沿った位置から上記貫通孔32に挿通され、コンクリート床版2の先端の側方で反転してコンクリート床版2の下面に沿った位置まで床版補強部材31が配置されたものである。この床板補強部材31は、高架橋の軸線方向に所定の間隔、望ましくは壁高欄1を補強する補強部材11と同じ間隔で配設される。
【0044】
上記床版補強部材31は、壁高欄1に用いられる補強部材11と同じアラミド繊維を主材料とする帯状の部材を用いることができる。そして、両端部はコンクリート床版2の上面と下面とに、壁高欄1に補強部材11の両端部を固定するのと同様に固定することができる。また、コンクリート床版2の先端面の側方には
図5に示す緊張用ブロックと同様の鞍状の床版緊張用ブロック33を配置し、床版補強部材31を曲面に巻き回してコンクリート床版2の上側から下側にかけて配置することができる。そして、床版緊張用ブロック33に側方への力を付与し、床版補強部材31に緊張力を導入した状態で、床版緊張用ブロック33とコンクリート床版2の先端面との間に無収縮モルタル34を充填する。これにより、床版補強部材31によってコンクリート床版2の先端部分が壁高欄1の下端部と同様に補強される。
【0045】
以上に説明した壁高欄の補強構造及び補強方法は、本発明の一実施形態であって、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で適宜に変更して実施することができる。
例えば、上記実施の形態では、鉄道の高架橋に設けられた壁高欄を補強するものであるが、道路橋に設けられた壁高欄についても適用することができる。また、鉄筋コンクリートの高架橋に限定されるものではなく、プレストレストコンクリートからなる長支間の橋梁に設けられた壁高欄、鋼桁上にコンクリート床版を支持した橋梁の壁高欄等についても適用することができる。
【0046】
また、補強部材に用いる高強度の繊維の種類、一本の帯状となった補強部材に用いる繊維の量、帯状となった補強部材の幅等の寸法、繊維を帯状に織る形態、又は帯状に編む形態、補強部材を配置する間隔等についても、補強の対象となる壁高欄の形状・寸法等に応じて、又は補強する壁高欄に要求される条件等に応じて適宜に設計することができる。さらに、補強部材は、帯状の部材に代えて、高強度の繊維を束ねてひも状又は綱状にし、これらに合成樹脂を含浸したものを用いることもできる。
【0047】
一方、以上に説明した実施の形態では、補強部材は壁高欄の高さの中位においてボルトにより内壁面及び外壁面に固定しているが、このようなボルトによる固定とともに、又はボルトによる固定に代えて、補強部材を壁高欄の内壁面及び外壁面に沿って接着剤で接着し、上端部に巻き回して内壁面側に接着された補強部材と外壁面側に接着された補強部材とを接続するものであってもよい。
また、上記実施の形態で補強部材は壁高欄の下端部から内壁面又は外壁面に沿って鉛直上方に配置するものとなっているが、適宜に傾斜するように沿わせて配置することもできる。例えば、壁高欄には分電盤やスイッチボックスが取り付けられていることがあり、補強部材はこれらを回避するように傾斜して配置することができる。
その他、補強部材に緊張力を導入する手段、形態、寸法等についても状況に応じて適切なものを採用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1:壁高欄, 1a:壁高欄の増厚部, 1b:壁高欄の標準部, 1c:モルタル, 1d:ボルト孔, 2:コンクリート床板, 2a:貫通孔, 3:主桁, 4:横桁, 5:支柱, 6:鉄筋,
11:補強部材, 11a:補強部材の内壁面に当接される部分, 11b:補強部材の外壁面に当接される部分, 11c:補強部材の緊張用ブロックに当接される部分, 12:緊張用ブロック, 12a:凹部, 13:鋼板, 14:ボルト, 15:無収縮モルタル, 16:緊張用ボルト, 17:固定ナット, 18:ボルト孔, 20:当接板, 21:シース, 22:型枠, 23:緊張用梁, 24:ジャッキ,
31:床版補強部材, 32:貫通孔, 33:床版緊張用ブロック, 34:無収縮モルタル