IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-スイッチング電源装置 図1
  • 特許-スイッチング電源装置 図2
  • 特許-スイッチング電源装置 図3
  • 特許-スイッチング電源装置 図4
  • 特許-スイッチング電源装置 図5
  • 特許-スイッチング電源装置 図6
  • 特許-スイッチング電源装置 図7
  • 特許-スイッチング電源装置 図8
  • 特許-スイッチング電源装置 図9
  • 特許-スイッチング電源装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】スイッチング電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
H02M3/28 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019137303
(22)【出願日】2019-07-25
(65)【公開番号】P2021022995
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】日本電産モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101786
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】古井 崇介
(72)【発明者】
【氏名】今井 基裕
(72)【発明者】
【氏名】川本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】安田 政幸
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-92744(JP,A)
【文献】特開2003-153530(JP,A)
【文献】特開2007-174890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された直流電圧をスイッチングして所定電圧値の直流電圧に変換するコンバータと、前記コンバータの動作を制御する制御部と、を備え、
前記コンバータは、
スイッチング素子を有し、当該スイッチング素子のオンオフ動作により、前記直流電圧をスイッチングするスイッチング回路と、
前記スイッチング回路を駆動する駆動回路と、
前記スイッチング回路でスイッチングされて交流に変換された電圧を整流する整流回路と、
前記スイッチング回路と前記整流回路との間に設けられ、前記スイッチング回路が接続された一次巻線、および前記整流回路が接続された二次巻線を有する絶縁トランスと、を含むスイッチング電源装置において、
前記絶縁トランスの二次巻線は、主巻線と補助巻線とからなり、
前記整流回路は、前記主巻線と前記コンバータの出力端子との間に設けられた第1整流回路と、前記補助巻線に接続された第2整流回路とからなり、
前記第1整流回路の出力電圧を検出する第1電圧検出回路と、
前記第2整流回路の出力電圧を検出する第2電圧検出回路と、
前記スイッチング素子の過熱状態を検出する過熱検出回路と、
前記コンバータの出力電圧が目標値となるように、前記駆動回路に対してフィードバック制御を行うフィードバック回路と、をさらに備え、
前記過熱検出回路は、前記スイッチング素子の温度が閾値を超えた場合に、前記スイッチング回路のスイッチング動作を停止させて過熱保護を行うための停止信号を出力し、
前記制御部は、前記第1電圧検出回路で検出された電圧の変化と、前記第2電圧検出回路で検出された電圧の変化との比較結果に基づいて、前記コンバータの出力に短絡が発生したこと、または前記コンバータの出力が低電圧になったことを判定し、当該判定結果に応じて、出力短絡保護または出力低電圧保護のための制御を実行する、ことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチング電源装置において、
前記制御部は、
前記第1電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下し、かつ、前記第2電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下した状態が、一定時間継続した後、所定の第1時間が経過する前に、前記各検出電圧が上昇した場合は、前記過熱検出回路による過熱保護が行われたと判定し、
前記第1電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下し、かつ、前記第2電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも上昇した状態が、所定の第2時間継続した場合は、前記コンバータの出力に短絡が発生したと判定して、出力短絡保護のための制御を実行し、
前記第1電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下し、かつ、前記第2電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下した状態が、前記第1時間より長い第3時間継続した場合は、前記コンバータの出力が低電圧になったと判定して、出力低電圧保護のための制御を実行する、ことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項3】
請求項1に記載のスイッチング電源装置において、
前記制御部は、
前記第1電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下し、かつ、前記第2電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下した状態が、一定時間継続した後、所定の第1時間が経過する前に、前記各検出電圧が上昇した場合は、前記過熱検出回路による過熱保護が行われたと判定し、
前記第1電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下し、かつ、前記第2電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも上昇した状態が、所定の第2時間継続した場合は、前記コンバータの出力に短絡が発生したと判定して、出力短絡保護のための制御を実行する、ことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項4】
請求項1に記載のスイッチング電源装置において、
前記制御部は、
前記第1電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下し、かつ、前記第2電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下した状態が、一定時間継続した後、所定の第1時間が経過する前に、前記各検出電圧が上昇した場合は、前記過熱検出回路による過熱保護が行われたと判定し、
前記第1電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下し、かつ、前記第2電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下した状態が、前記第1時間より長い第3時間継続した場合は、前記コンバータの出力が低電圧になったと判定して、出力低電圧保護のための制御を実行する、ことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項5】
入力された直流電圧をスイッチングして所定電圧値の直流電圧に変換するコンバータと、前記コンバータの動作を制御する制御部と、を備え、
前記コンバータは、
スイッチング素子を有し、当該スイッチング素子のオンオフ動作により、前記直流電圧をスイッチングするスイッチング回路と、
前記スイッチング回路を駆動する駆動回路と、
前記スイッチング回路でスイッチングされて交流に変換された電圧を整流する整流回路と、
前記スイッチング回路と前記整流回路との間に設けられ、前記スイッチング回路が接続された一次巻線、および前記整流回路が接続された二次巻線を有する絶縁トランスと、を含むスイッチング電源装置において、
前記絶縁トランスの二次巻線は、主巻線と補助巻線とからなり、
前記整流回路は、前記主巻線と前記コンバータの出力端子との間に設けられた第1整流回路と、前記補助巻線に接続された第2整流回路とからなり、
前記第1整流回路の出力電圧を検出する第1電圧検出回路と、
前記第2整流回路の出力電圧を検出する第2電圧検出回路と、
前記コンバータの出力電圧が目標値となるように、前記駆動回路に対してフィードバック制御を行うフィードバック回路と、をさらに備え、
前記制御部は、前記第1電圧検出回路で検出された電圧の変化と、前記第2電圧検出回路で検出された電圧の変化との比較結果に基づいて、前記コンバータの出力に短絡が発生したこと、または前記コンバータの出力が低電圧になったことを判定し、当該判定結果に応じて、出力短絡保護または出力低電圧保護のための制御を実行する、ことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項6】
請求項5に記載のスイッチング電源装置において、
前記制御部は、
前記第1電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下し、かつ、前記第2電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも上昇した状態が、所定時間継続した場合は、前記コンバータの出力に短絡が発生したと判定して、出力短絡保護のための制御を実行し、
前記第1電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下し、かつ、前記第2電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下した状態が、前記所定時間より長い時間継続した場合は、前記コンバータの出力が低電圧になったと判定して、出力低電圧保護のための制御を実行する、ことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項7】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項5、または請求項6に記載のスイッチング電源装置において、
前記制御部は、前記スイッチング回路のスイッチング動作を許可する場合は、許可信号を出力し、前記コンバータの出力に短絡が発生したと判定した場合は、前記許可信号を停止するか、または前記許可信号とは別の禁止信号を出力することにより、前記スイッチング回路のスイッチング動作を停止させて出力短絡保護を行う、ことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項8】
請求項7に記載のスイッチング電源装置において、
前記制御部は、前記コンバータの出力に短絡が発生した回数が所定回数に達した場合に、前記許可信号を停止するか、または前記禁止信号を出力することを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項9】
請求項1、請求項2、請求項4、請求項5、または請求項6に記載のスイッチング電源装置において、
前記制御部は、前記出力低電圧保護のための制御として、故障検出信号を出力する、ことを特徴とするスイッチング電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電圧を降圧または昇圧するDC-DCコンバータを備えたスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば電気自動車やハイブリッドカーには、走行用モータを駆動するための高電圧バッテリが搭載されるとともに、このバッテリの電圧を降圧して各部へ供給するための電源装置が搭載される。この電源装置としては、直流電圧をスイッチングして交流電圧に変換し、この交流電圧を整流して所定の電圧値の直流電圧に変換するDC-DCコンバータを備えたスイッチング電源装置が一般に用いられている。
【0003】
このようなスイッチング電源装置においては、過電流や過電圧による異常が発生した場合に、これを検出して回路を保護する機能が備わっている。たとえば、特許文献1のスイッチング電源装置では、入力電流検出回路、入力電圧検出回路、および出力電圧検出回路が設けられている。そして、これらの各検出回路で検出された入力電流、入力電圧、および出力電圧の値に基づいて、出力電流の値を見積り、出力電圧に加えて出力電流も考慮したうえで、故障か否かの判断を行うようにしている。
【0004】
また、特許文献2のスイッチング電源装置では、電流検出回路と第1開閉素子を含む過電流保護回路と、電圧検出回路と第2開閉素子を含む過電圧保護回路とが設けられている。スイッチング素子を流れる電流が過大になると、第1開閉素子がオンし、過電流保護回路がスイッチング素子を強制的にオフして1次直流電源回路を停止させることで、スイッチング素子を過電流から保護する。また、2次直流電源電圧が設定電圧値以上となると、第2開閉素子がオンし、過電圧保護回路がスイッチング素子を強制的にオフして1次直流電源回路を停止させることで、スイッチング素子を過電圧から保護する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-97368号公報
【文献】特開平7-213051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スイッチング電源装置で発生する異常には、短絡による電流の異常(過電流)や、回路の断線・故障等に起因する電圧の異常(出力電圧低下)のほか、スイッチング素子が異常に発熱して高温となる過熱異常もある。このような各種の異常を検出して、それぞれの異常に対応した保護を行うため、従来は、異常の種類に応じて電流検出回路、電圧検出回路、および過熱検出回路を設け、各検出回路から出力される検出信号を制御部へ送り、制御部が異常の有無や異常の種類を判別して、それぞれの異常に応じた保護のための制御を実行していた。しかしながら、これによると、異常の種類の数だけ検出回路が必要となるので、回路構成が複雑になるという問題がある。
【0007】
本発明の課題は、回路構成が簡単でありながら、異常に対する保護を正確に行えるスイッチング電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るスイッチング電源装置は、入力された直流電圧をスイッチングして所定電圧値の直流電圧に変換するコンバータと、このコンバータの動作を制御する制御部とを備えている。コンバータは、直流電圧をスイッチングするスイッチング回路と、このスイッチング回路を駆動する駆動回路と、スイッチングされて交流に変換された電圧を整流する整流回路と、スイッチング回路と整流回路との間に設けられた絶縁トランスとを含む。絶縁トランスの二次巻線は、主巻線と補助巻線とからなり、整流回路は、主巻線とコンバータの出力端子との間に設けられた第1整流回路と、補助巻線に接続された第2整流回路とからなる。また、第1整流回路の出力電圧を検出する第1電圧検出回路と、第2整流回路の出力電圧を検出する第2電圧検出回路と、スイッチング素子の過熱状態を検出する過熱検出回路と、コンバータの出力電圧が目標値となるように、駆動回路に対してフィードバック制御を行うフィードバック回路とが設けられている。過熱検出回路は、スイッチング素子の温度が閾値を超えた場合に、スイッチング回路のスイッチング動作を停止させて過熱保護を行うための停止信号を出力する。制御部は、第1電圧検出回路で検出された電圧の変化と、第2電圧検出回路で検出された電圧の変化との比較結果に基づいて、コンバータの出力に短絡が発生したこと、またはコンバータの出力が低電圧になったことを判定し、当該判定結果に応じて、出力短絡保護または出力低電圧保護のための制御を実行する。
【0009】
このようにすると、スイッチング素子が過熱状態となった場合に、過熱検出回路から出力される停止信号によって、制御部を介さずにスイッチング回路のスイッチング動作を停止させ、過熱保護を行うことができる。また、制御部は、第1電圧検出回路と第2電圧検出回路の各検出電圧の変化を比較することにより、コンバータの出力に短絡または電圧低下が発生したと判定することができる。このため、過熱検出回路と制御部との間にインターフェイス回路などが不要となり、また、短絡検出のための過電流検出回路も不要となって、回路構成が簡素化される。しかも、簡単な回路構成でありながら、異常の種別に応じた保護を正確に行うことができる。
【0010】
本発明において、制御部は、たとえば以下のような処理を実行する。
A.第1電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下し、かつ、第2電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下した状態が、一定時間継続した後、所定の第1時間が経過する前に、各検出電圧が上昇した場合は、過熱検出回路による過熱保護が行われたと判定する。
B.第1電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下し、かつ、第2電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも上昇した状態が、所定の第2時間継続した場合は、コンバータの出力に短絡が発生したと判定して、出力短絡保護のための制御を実行する。
C.第1電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下し、かつ、第2電圧検出回路で検出された電圧が正常時の電圧よりも低下した状態が、第1時間より長い第3時間継続した場合は、コンバータの出力が低電圧になったと判定して、出力低電圧保護のための制御を実行する。
【0011】
本発明において、制御部は、上記のA~Cのうち、AとB、AとC、またはBとCの機能のみを備えていてもよい。
【0012】
本発明において、制御部は、スイッチング回路のスイッチング動作を許可する場合は、許可信号を出力し、コンバータの出力に短絡が発生したと判定した場合は、許可信号を停止するか、または許可信号とは別の禁止信号を出力することにより、スイッチング回路のスイッチング動作を停止させて出力短絡保護を行ってもよい。
【0013】
本発明において、制御部は、コンバータの出力に短絡が発生した回数が所定回数に達した場合に、許可信号を停止するか、または禁止信号を出力してもよい。
【0014】
本発明において、制御部は、出力低電圧保護のための制御として、故障検出信号を出力してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスイッチング電源装置によれば、回路構成が簡単でありながら、異常に対する保護を正確に行うことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のスイッチング電源装置の一例を示したブロック図である。
図2図1の要部の回路図である。
図3】スイッチング電源装置の過熱保護時の動作を示したフローチャートである。
図4】過熱保護時の各巻線電圧の変化を示したタイムチャートである。
図5】スイッチング電源装置の出力短絡保護時の動作を示したフローチャートである。
図6】出力短絡保護時の各巻線電圧の変化を示したタイムチャートである。
図7】スイッチング電源装置の出力低電圧保護時の動作を示したフローチャートである。
図8】出力低電圧保護時の各巻線電圧の変化を示したタイムチャートである。
図9】スイッチング電源装置における回路状態と保護機能と巻線電圧との関係を示したテーブルである。
図10】比較例によるスイッチング電源装置の要部の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。以下では、自動四輪車などの車両に搭載されるスイッチング電源装置を例に挙げる。
【0018】
図1において、スイッチング電源装置100は、入力端子T1、T2と、出力端子T3、T4と、出力端子T5、T6と、第1コンバータ101と、第2コンバータ102とを備えている。
【0019】
第1コンバータ101は、メイン側のDC-DCコンバータであり、入力端子T1、T2に入力された直流電圧Viを所定電圧値の直流電圧V1に変換して、出力端子T3、T4へ出力する。第2コンバータ102は、サブ側のDC-DCコンバータであり、入力端子T1、T2に入力された直流電圧Viを前記所定電圧値と異なる電圧値の直流電圧V2に変換して、出力端子T5、T6へ出力する。
【0020】
一例として、入力端子T1、T2の入力電圧Viは200V、出力端子T3、T4の出力電圧V1は12V、出力端子T5、T6の出力電圧V2は10Vである。すなわち、本例の場合、第1コンバータ101と第2コンバータ102は、いずれも、高電圧を低電圧に変換する降圧型のDC-DCコンバータである。
【0021】
入力端子T1は、直流電圧Viを供給するバッテリ(図示省略)の正極に接続され、入力端子T2は、同バッテリの負極に接続される。出力端子T3、T4には、出力電圧V1を電源として作動する負荷や、出力電圧V1によって充電されるバッテリなどが接続される(図示省略)。出力端子T5、T6には、出力電圧V2を電源として作動する制御回路などが接続される(図示省略)。端子T1~T6のうち、出力端子T4と出力端子T6は、スイッチング電源装置100の外部において電気的に接続されて、共通のグランドに接地される(図示省略)。
【0022】
スイッチング電源装置100は、さらに、電圧検出回路6と、電源回路7と、バックアップ制御回路8と、制御部9と、ダイオードD1、D2とを備えている。
【0023】
電圧検出回路6は、出力端子T3と制御部9との間に設けられていて、第1コンバータ101の出力電圧V1を検出する。電源回路7は、バックアップ制御回路8と制御部9との間に設けられていて、通常時は、出力電圧V1に基づいて制御部9に電源電圧を供給する。バックアップ制御回路8は、出力端子T5と電源回路7との間に設けられていて、第1コンバータ101の出力電圧V1が、断線や故障により消失したり所定値未満まで低下したりした場合に、第2コンバータ102の出力電圧V2を、バックアップ用電源として電源回路7へ供給する。
【0024】
ダイオードD1は、出力端子T3と電源回路7との間に設けられていて、第1コンバータ101の出力電圧V1を電源回路7へ供給するための供給路を形成する。ダイオードD2は、バックアップ制御回路8と電源回路7との間に設けられていて、バックアップ制御回路8からのバックアップ用電源(出力電圧V2)を電源回路7へ供給するための供給路を形成する。
【0025】
制御部9は、マイクロコンピュータから構成されており、第1コンバータ101、第2コンバータ102、およびバックアップ制御回路8の各動作を制御する。制御部9には、車載ECU(電子制御ユニット)などの外部装置から、外部信号S1が入力される。この外部信号S1は、第2コンバータ102の動作を要求する信号である。また、制御部9は、外部信号S1を受けて、許可信号S2を第2コンバータ102へ出力する。この許可信号S2は、第2コンバータ102のスイッチング動作を許可する信号である。さらに、制御部9は、出力電圧V1が所定値未満となったことが電圧検出回路6により検出された場合に、バックアップ指令信号S3をバックアップ制御回路8へ出力する。このバックアップ指令信号S3は、バックアップ制御回路8に備わるスイッチング素子(図示省略)をオンさせるための信号である。
【0026】
第1コンバータ101は、入力フィルタ1、スイッチング回路2、絶縁トランス3、整流回路4、および平滑回路5を備えている。これらの各部の構成は公知であり、また、第1コンバータ101自体は本発明と直接関係しないので、第1コンバータ101についての詳細な説明は割愛する。なお、本例の第1コンバータ101は、絶縁トランス3によって入力側と出力側が絶縁された、絶縁型のDC-DCコンバータである。
【0027】
第2コンバータ102は、スイッチング回路20、絶縁トランス21、第1整流回路22、第2整流回路23、絶縁回路26、PWM(Pulse Width Modulation)回路27、フィードバック回路28、および過熱検出回路29を備えている。第2コンバータ102は、前述したように、入力端子T1、T2に入力された直流電圧Viを降圧して出力する機能と、第1コンバータ101の出力異常時に電源回路7へバックアップ用電源を供給する機能とを有している。本例の第2コンバータ102も、絶縁トランス21によって入力側と出力側が絶縁された、絶縁型のDC-DCコンバータである。
【0028】
図2は、第2コンバータ102におけるスイッチング回路20、絶縁トランス21、第1整流回路22、および第2整流回路23の具体的な回路を示している。ここに示した回路は一例であって、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、図2においては、図1の第2コンバータ102を構成するブロックのうち、絶縁回路26を省略してある。
【0029】
スイッチング回路20は、スイッチング素子Q3および測温素子Kを有している。本例では、スイッチング素子Q3はFET(電界効果トランジスタ)であり、絶縁トランス21の一次巻線Laとグランドとの間に接続されている。スイッチング素子Q3のゲートはPWM回路27に接続されており、PWM回路27からゲートに与えられるPWM信号により、スイッチング素子Q3はオンオフ動作を行う。測温素子Kは、たとえばサーミスタからなり、スイッチング素子Q3の近傍に配置されて、スイッチング素子Q3の温度を検出する。測温素子Kの出力(検出温度)は、後述の過熱検出回路29へ送られる。
【0030】
絶縁トランス21は、一次巻線Laと、二次巻線Lb、Lcとを有している。二次巻線のうち、巻線Lbは主巻線であり、巻線Lcは補助巻線である。一次巻線Laにはスイッチング回路20が接続され、主巻線Lbには第1整流回路22が接続され、補助巻線Lcには第2整流回路23が接続されている。絶縁トランス21の一次側と二次側は、電気的に絶縁されている。一次巻線Laに印加される入力電圧Viは、スイッチング素子Q3のオンオフによりスイッチングされて交流電圧(パルス電圧)となり、絶縁トランス21の一次巻線Laから主巻線Lbおよび補助巻線Lcへ伝達される。
【0031】
主巻線Lbに接続された第1整流回路22は、ダイオードD3とコンデンサC1とを有しており、これらの後段に第1電圧検出回路24が設けられている。ダイオードD3は、主巻線Lbに生じる交流電圧を整流して、直流電圧にするための整流ダイオードである。コンデンサC1は、ダイオードD3で整流された直流電圧を平滑して、出力端子T5、T6から出力するための出力コンデンサである。ダイオードD3は、主巻線Lbの一端と出力端子T5との間に接続されており、コンデンサC1は、出力端子T5、T6間に接続されている。
【0032】
第1電圧検出回路24は、コンデンサC1と並列に接続されており、コンデンサC1の両端電圧、すなわち第1整流回路22の出力電圧を検出する。この出力電圧は、主巻線Lbに発生する電圧に応じた電圧であるため、以下では「主巻線電圧」と呼ぶ。この主巻線電圧Vaは、第2コンバータ102の出力電圧V2でもある(Va=V2)。第1電圧検出回路24で検出された主巻線電圧Vaは、制御部9へ送られる。
【0033】
補助巻線Lcに接続された第2整流回路23は、ダイオードD4とコンデンサC2とを有しており、これらの後段に第2電圧検出回路25が設けられている。ダイオードD4は、補助巻線Lcに生じる交流電圧を整流して、直流電圧にするための整流ダイオードである。コンデンサC2は、ダイオードD4で整流された直流電圧を平滑するためのコンデンサである。
【0034】
第2電圧検出回路25は、コンデンサC2と並列に接続されており、コンデンサC2の両端電圧、すなわち第2整流回路23の出力電圧を検出する。この出力電圧は、補助巻線Lcに発生する電圧に応じた電圧であるため、以下では「補助巻線電圧」と呼ぶ。第2電圧検出回路25で検出された補助巻線電圧Vbは、制御部9へ送られる。なお、本例では、第2整流回路23の後段に負荷は接続されておらず、第2整流回路23は、補助巻線電圧Vbの検出のためだけに設けられているが、第2整流回路23の後段に負荷を接続してもよいことは言うまでもない。
【0035】
図1に戻って、バックアップ制御回路8は、制御部9から出力されるバックアップ指令信号S3により動作する。第1コンバータ101の出力電圧V1の消失や低下が電圧検出回路6で検出されると、制御部9はバックアップ指令信号S3を出力する。この信号により、バックアップ制御回路8のトランジスタ(図示省略)がオンして、第2コンバータ102の出力電圧V2をバックアップ用電源として電源回路7へ供給する供給路が形成される。
【0036】
絶縁回路26は、制御部9から出力された許可信号S2を電気的に絶縁しつつPWM回路27へ伝達する回路であって、アイソレータから構成される。
【0037】
PWM回路27は、絶縁回路26からの許可信号S2を受けて、所定のデューティを持ったPWM信号を生成し、これをスイッチング回路20へ出力する。このPWM信号は、前述のようにスイッチング素子Q3(図2)のゲートに与えられる。フィードバック回路28は、第2コンバータ102の出力電圧V2を目標値と比較し、出力電圧V2が目標値となるように、PWM回路27に対してフィードバック制御を行う。すなわち、出力電圧V2が目標値より高い場合は、PWM信号のデューティを下げ、出力電圧V2が目標値より低い場合は、PWM信号のデューティを上げるように、フィードバック制御が行われる。PWM回路27は、本発明における「駆動回路」の一例である。
【0038】
過熱検出回路29は、測温素子K(図2)で検出されたスイッチング素子Q3の温度を、所定の閾値と比較することによって、スイッチング素子Q3が過熱状態であることを検出する。詳しくは、過熱検出回路29は、測温素子Kの検出温度が閾値を超えてなければ、スイッチング素子Q3の過熱状態を検出せず、測温素子Kの検出温度が閾値を超えていれば、スイッチング素子Q3の過熱状態を検出する。過熱検出回路29は、過熱状態を検出すると、絶縁回路26を介してPWM回路27へ停止信号S4を出力する。この停止信号S4は、スイッチング回路20のスイッチング動作を停止させて、スイッチング素子Q3に対する過熱保護を行うための信号である。
【0039】
次に、上記の構成を備えたスイッチング電源装置100の動作を説明する。以下では、過熱保護、出力短絡保護、および出力低電圧保護の3つの場合に分けて、それぞれの動作を詳細に説明する。
【0040】
(1)過熱保護
過熱保護は、スイッチング素子Q3が異常に発熱して高温となった場合に、当該素子の熱破壊を防止するために必要な保護機能である。過熱保護の動作を図3のフローチャートを参照しながら説明する。
【0041】
図3において、スイッチング素子Q3に異常が発生すると(A1)、素子が発熱して温度が上昇してゆき(A2)、測温素子Kで検出されたスイッチング素子Q3の温度が閾値を超えると、過熱検出回路29が過熱を検出して、停止信号S4を出力する(A3)。この停止信号S4は、絶縁回路26を介してPWM回路27へ与えられ、これを受けてPWM回路27は、PWM信号の出力を停止する(A4)。これにより、スイッチング素子Q3がオフ状態となるので、スイッチング回路20はスイッチング動作を停止する(A5)。
【0042】
スイッチング回路20のスイッチング動作が停止すると、絶縁トランス21の一次巻線Laに電圧が印加されなくなるので、主巻線Lbと補助巻線Lbの電圧が低下し、その結果、第1整流回路22と第2整流回路23の出力電圧、つまり主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbがいずれも低下する(A6)。主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbは、それぞれ、第1電圧検出回路24と第2電圧検出回路25で検出され、各検出結果が制御部9に送られる。そして、各巻線電圧Va、Vbがいずれも閾値未満まで低下すると、制御部9はこれを検出してタイマをスタートさせる(A7)。
【0043】
一方、スイッチング回路20では、スイッチング動作が停止したことで、スイッチング素子Q3の温度が徐々に低下する(A8)。このため、測温素子Kの検出温度も低下する。そして、過熱検出回路29は、スイッチング素子Q3の温度が閾値以下まで低下したことを検出すると、停止信号S4の出力を停止する(A9)。このため、PWM回路27に停止信号S4が与えられなくなり、PWM回路27はPWM信号の出力を再開する(A10)。これにより、スイッチング素子Q3は再びオンオフ動作を行い、スイッチング回路20がスイッチング動作を再開するので(A11)、主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbは、いずれも上昇してゆく(A12)。そして、各巻線電圧Va、Vbがいずれも閾値以上まで上昇すると、制御部9はこれを検出してタイマを停止させる(A13)。
【0044】
図4は、過熱保護時の主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbの変化の様子を示したタイムチャートである。図4では、図3のステップA1~A13がどの時点(または期間)に該当するのかが容易にわかるように、これらのステップも併記してある。
【0045】
図4において、VmとVnは、それぞれ正常時の主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbを表している(後述の図6図8においても同様)。時刻t1で異常が発生して、スイッチング素子Q3の温度が上昇し、時刻t2で過熱検出回路29が過熱を検出すると、前記のとおり、スイッチング回路20のスイッチング動作が停止する。このため、主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbは、ともに正常時の電圧Vm、Vnから低下してゆく。そして、主巻線電圧Vaが閾値Vα未満(Va<Vα)となり、かつ、補助巻線電圧Vbが閾値Vβ未満(Vb<Vβ)となった時刻t3において、制御部9はタイマをスタートさせる。なお、ここでは、閾値Vαと閾値Vβは、Vα>Vβの関係にあるが、Vα=VβまたはVα<Vβであってもよい(後述の図6図8においても同様)。
【0046】
その後も、主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbは、ともに低下を続け、時刻t4で、各電圧Va、Vbは略ゼロとなる(Va≒0、Vb≒0)。しかるに、時刻t2でスイッチング動作が停止した以降は、スイッチング素子Q3への通電がなくなって、素子の温度が低下を続けるので、当該温度が閾値以下となる時刻t5で、過熱検出回路29が停止信号S4を出力しなくなると、スイッチング回路20がスイッチング動作を再開する。このため、主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbは、ともに上昇し始める。そして、主巻線電圧Vaが閾値Vα以上(Va≧Vα)となり、かつ、補助巻線電圧Vbが閾値Vβ以上(Vb≧Vβ)となった時刻t6において、制御部9はタイマを停止させる。以後、各巻線電圧Va、Vbが上昇を続けて、時刻t7で正常時の電圧Vm、Vnになると、回路は通常状態に戻る。
【0047】
ここで、時刻t3でタイマがスタートしてから、時刻t6でタイマが停止するまでの時間Xは、たとえば400sである。この時間X内に、スイッチング素子Q3の温度が低下してスイッチング動作が再開される(時刻t5)ように、すなわち異常状態からの復帰が行われるように、Xの値が設定されている。時間Xは、本発明における「第1時間」に相当する。
【0048】
このように、過熱保護の場合は、スイッチング素子Q3が過熱状態になると、過熱検出回路29がこれを検出して、スイッチング動作を停止させるための停止信号S4をPWM回路27へ出力することで、制御部9を介さずに、過熱検出回路29が直接スイッチング回路20の動作を停止させる。また、スイッチング動作が停止してから、一定時間X内にスイッチング動作が再開され、各巻線電圧Va、Vbが上昇するので、制御部9は、これを検出することで、過熱検出回路29による過熱保護が行われたと判定する。
【0049】
(2)出力短絡保護
出力短絡保護は、出力端子T5、T6間で短絡が発生した場合に、過電流による回路部品の焼損等を防止するために必要な保護機能である。出力短絡保護の動作を図5のフローチャートを参照しながら説明する。
【0050】
図5において、出力端子T5、T6間で短絡が発生すると(B1)、第2コンバータ102の出力電圧V2が低下する(B2)。このため、フィードバック回路28は、PWM回路27に対して、デューティを上げるようにフィードバック制御を行う(B3)。その結果、PWM回路27は、最大デューティのPWM信号を出力する(B4)。しかるに、出力端子T5、T6間が短絡状態となっているため、スイッチング回路20が最大デューティでスイッチング動作を行っても、第1整流回路22の出力電圧、すなわち主巻線電圧Vaは上昇することがなく、低下を続ける(B5)。これに対して、第2整流回路23の出力電圧、すなわち補助巻線電圧Vbは、出力端子T5、T6間の短絡に影響されないので、スイッチング回路20が最大デューティでスイッチング動作を行うことで、上昇を続ける(B5)。この間、各電圧検出回路24、25は、各巻線電圧Va、Vbの検出を継続する。
【0051】
そして、主巻線電圧Vaが低下して閾値未満となり、補助巻線電圧Vbが上昇して閾値を超えたことを、各電圧検出回路24、25の出力に基づいて制御部9が検出すると、制御部9はタイマをスタートさせる(B6)。その後、一定時間が経過した時点で、制御部9は出力の短絡を確定するとともに、タイマを停止させ(B7)、また、許可信号S2の出力を停止する(B8)。これによって、PWM回路27は非動作状態となり、スイッチング回路20のスイッチング動作が停止する(B9)。
【0052】
図6は、出力短絡保護時の主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbの変化の様子を示したタイムチャートである。図6では、図5のステップB1~B9がどの時点(または期間)に該当するのかが容易にわかるように、これらのステップも併記してある。
【0053】
図6において、時刻t1’で出力短絡が発生すると、主巻線電圧Vaは正常時の電圧Vmから低下し、補助巻線電圧Vbは正常時の電圧Vnから上昇する。そして、主巻線電圧Vaが閾値Vα未満となり、かつ補助巻線電圧Vbが閾値Vγ以上となる時刻t2’で、制御部9はタイマをスタートさせる。その後、時刻t3’で、主巻線電圧Vaは略ゼロとなり、補助巻線電圧Vbは最大電圧となる。タイマがスタートしてから一定時間Yが経過した時刻t4’になると、制御部9は出力短絡を確定するとともに、タイマを停止させる。また、制御部9からの許可信号S2の出力が停止し、スイッチング回路20のスイッチング動作も停止する。
【0054】
時刻t4’でスイッチング動作が停止することで、補助巻線電圧Vbは低下するが、短絡状態が継続しているため、主巻線電圧Vaに変化はない(Va≒0)。そして、時刻t5’になると、補助巻線電圧Vbも略ゼロとなる(Vb≒0)。その後、時刻t6’で短絡状態が解消されると、スイッチング動作が再開されて、主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbは、ともに上昇に転じる。
【0055】
ここで、時刻t2’でタイマがスタートしてから、時刻t4’でタイマが停止するまでの時間Yは、たとえば200msであり、図4の時間X(400s)に比べて十分小さな値に設定されている(図6では便宜上Yを長くしてあるが、実際にはY≪Xである)。これは、過電流から回路部品を保護するために、出力短絡を早期に確定して、スイッチング動作を速やかに停止させる必要があるからである。時間Yは、本発明における「第2時間」に相当する。
【0056】
このように、出力短絡保護の場合は、主巻線電圧Vaが低下する一方で、補助巻線電圧Vbは上昇するので、制御部9は、これらの電圧の変化を検出することにより、出力に短絡が生じたと判定する。そして、制御部9が許可信号S2の出力を停止することで、スイッチング回路20の動作が停止する。
【0057】
(3)出力低電圧保護
出力低電圧保護は、スイッチング素子Q3のオープン故障やPWM回路27の故障等が原因で、出力側に電力が伝送されなくなった場合に、当該故障を検出するために必要な保護機能である。出力低電圧保護の動作を図7のフローチャートを参照しながら説明する。
【0058】
図7において、スイッチング素子Q3やPWM回路27の故障等による異常が発生すると(C1)、絶縁トランス21の一次側から二次側へ電力が伝送されなくなるので、主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbはともに低下する(C2)。そして、各巻線電圧Va、Vbがいずれも閾値未満まで低下したことを、各電圧検出回路24、25の出力に基づいて制御部9が検出すると、制御部9はタイマをスタートさせる(C3)。その後、一定時間が経過すると、制御部9は出力低電圧を確定するとともに、タイマを停止させ(C4)、また、故障検出信号を出力する(C5)。この故障検出信号は、図示しない車載ECUへ送信され、車載ECUでは警報や表示などの処理が実行される。
【0059】
図8は、出力低電圧保護時の主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbの変化の様子を示したタイムチャートである。図8では、図7のステップC1~C5がどの時点(または期間)に該当するのかが容易にわかるように、これらのステップも併記してある。
【0060】
図8において、時刻t1”で異常が発生し、出力側へ電力が伝送されなくなると、主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbは、ともに正常時の電圧Vm、Vnから低下してゆく。そして、主巻線電圧Vaが閾値Vα未満(Va<Vα)となり、かつ、補助巻線電圧Vbが閾値Vβ未満(Vb<Vβ)となった時刻t2”において、制御部9はタイマをスタートさせる。
【0061】
その後も、主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbは、ともに低下を続け、時刻t3”で、各電圧Va、Vbは略ゼロとなる(Va≒0、Vb≒0)。そして、タイマがスタートしてから一定時間Zが経過した時刻t4”に至ると、制御部9は、出力低電圧を確定するとともに、タイマを停止させ、また故障検出信号を出力する。その後、時間が経過して、時刻t5”でスイッチング素子Q3等の故障が解消されると、スイッチング動作が再開されて、主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbは、ともに上昇に転じる。
【0062】
ここで、時刻t2”でタイマがスタートしてから、時刻t4”でタイマが停止するまでの時間Zは、図4の時間Xよりも長い時間に設定されている(Y<X<Z)。これは、図4の過熱保護の場合は、スイッチング動作が停止した後、スイッチング素子Q3の温度が自然に下がって、自動的にスイッチング動作が再開されるので、時間Xを長い時間に設定する必要がないのに対し、図8の出力低電圧保護の場合は、故障が解消されない限りスイッチング動作が再開されることはないので、出力低電圧確定のためにある程度長い時間Zが必要だからである。時間Zは、本発明における「第3時間」に相当する。
【0063】
したがって、過熱保護と出力低電圧保護とを比較すると、異常によって主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbが共に低下する点は両者とも同じであるが、過熱保護の場合は、一定時間X内にスイッチング動作が再開される(復帰が開始される)のに対し、出力低電圧保護の場合は、一定時間Z内にスイッチング動作が再開されない(復帰が開始されない)点で、両者は区別される。
【0064】
このように、出力低電圧保護の場合は、主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbがともに低下し、その状態が一定時間継続するので、制御部9は、これらの電圧の変化を検出することにより、出力が低電圧になったと判定し、故障検出信号を出力する。
【0065】
図9は、スイッチング電源装置100における回路状態と保護機能と巻線電圧との関係を示している。回路が正常な状態であれば、主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbは、ともに高い電圧(図4等における正常時の電圧Vm、Vn)を維持する。スイッチング素子Q3が過熱すると、過熱保護機能(1)が働いて、スイッチング動作が停止し、各巻線電圧Va、Vbはともに低下するが、一定時間内に自動復帰(スイッチング動作が再開)する。また、出力端子T5、T6間が短絡すると、主巻線電圧Vaは低下するが、補助巻線電圧Vbは上昇し、出力短絡保護機能(2)が働いて、スイッチング動作が停止する。この場合は、一定時間内に自動復帰はしない。また、出力電圧V2が低下すると、主巻線電圧Vaと補助巻線電圧Vbはともに低下し、出力低電圧保護機能(3)が働いて、故障の検出が行われる。この場合も、一定時間内に自動復帰はしない。
【0066】
図9からわかるように、過熱保護機能(1)と出力短絡保護機能(2)とは、補助巻線電圧Vbの変化の違いによって、区別することができる。また、出力短絡保護機能(2)と出力低電圧保護機能(3)も、補助巻線電圧Vbの変化の違いによって、区別することができる。一方、過熱保護機能(1)と出力低電圧保護機能(3)とは、各巻線電圧Va、Vbだけでは区別できないが、一定時間内の自動復帰の有無によって、区別することができる。
【0067】
図10は、本発明の比較例を示している。図中、図2と同一の部分には同一の符号を付してある。図10では、図2の構成以外に、過熱検出回路29と制御部9との間に設けられたインターフェイス回路30と、第1整流回路22と出力端子T5との間に設けられた過電流検出回路31とが備わっている。インターフェイス回路30は、過熱検出回路29の出力信号を、電気的に絶縁しつつ制御部9へ入力するための回路である。過電流検出回路31は、出力端子T5、T6間に短絡が発生した場合に流れる過電流を検出する回路である。過電流検出回路31の出力は、制御部9へ入力される。
【0068】
図10のような構成を採用した場合、制御部9は、第1電圧検出回路24の出力(主巻線電圧)と、第2電圧検出回路25の出力(補助巻線電圧)とに基づいて、出力低電圧を判定する。これは、図2の場合と変わりがない。しかるに、過熱保護については、図2では、スイッチング素子Q3の過熱時に、過熱検出回路29が自ら停止信号を出力して、スイッチング動作を停止させるのに対し、図10では、制御部9が、過熱検出回路29の出力信号に基づいて、スイッチング素子Q3の過熱の有無を判定し、過熱と判定した場合は、許可信号S2の出力を停止することで、スイッチング動作を停止させる。また、図2では、制御部9は、第1電圧検出回路24の出力(主巻線電圧Va)と、第2電圧検出回路25の出力(主巻線電圧Vb)とに基づいて、出力短絡の有無を判定するのに対し、図10では、制御部9は、過電流検出回路31の出力信号に基づいて、出力短絡の有無を判定する。
【0069】
図2図10の比較から明らかなように、図10の場合は、インターフェイス回路30と過電流検出回路31とが設けられているため、図2と比べて回路構成が複雑となる。一方、図2の場合は、過熱検出回路29が停止信号S4を出力して、スイッチング動作を停止させるので、図10のインターフェイス回路30が不要となり、また、第1電圧検出回路24と第2電圧検出回路25の各出力に基づいて、出力短絡の有無を判定できるので、図10の過電流検出回路31も不要となる。さらに、図10の場合は、制御部9においてスイッチング素子Q3の過熱の有無を判定するので、制御部9の負荷が増加するが、図2の場合は、制御部9において過熱の有無を判定する必要がないので、制御部9の負荷が軽減される。
【0070】
以上説明したように、本実施形態のスイッチング電源装置100によれば、スイッチング素子Q3が過熱状態となった場合に、過熱検出回路29から出力される停止信号S4によって、制御部9を介さずにスイッチング回路20のスイッチング動作を停止させ、過熱保護を行うことができる。また、制御部9は、第1電圧検出回路24の検出電圧(主巻線電圧Va)と、第2電圧検出回路25の検出電圧(補助巻線電圧Vb)の変化を比較することにより、第2コンバータ102の出力に短絡または電圧低下が発生したと判定することができる。このため、過熱検出回路29と制御部9との間にインターフェイス回路30(図10)が不要となり、また、出力短絡を検出するための過電流検出回路31(図10)も不要となって、回路構成が簡素化されるとともに、制御部9の負荷も軽減される。しかも、簡単な回路構成でありながら、図9で示したように、異常の種別に応じた保護を正確に行うことができる。
【0071】
本発明では、上述した実施形態以外にも、以下のような種々の実施形態を採用することができる。
【0072】
前記実施形態では、第2コンバータ102における各種の保護機能について述べたが、第1コンバータ101に、図1図2と同様の構成を設けてもよく、両方のコンバータ101、102に同様の構成を設けてもよい。また、本発明は、第1コンバータ101と第2コンバータ102を備えたスイッチング電源装置100に限らず、単一のコンバータのみを備えたスイッチング電源装置や、3つ以上のコンバータを備えたスイッチング電源装置にも適用することができる。
【0073】
前記実施形態では、図9の(1)~(3)の各機能を全て備えたスイッチング電源装置100を例に挙げたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、過熱保護機能(1)と出力短絡保護機能(2)だけを備えたスイッチング電源装置や、過熱保護機能(1)と出力低電圧保護機能(3)だけを備えたスイッチング電源装置にも、本発明は適用が可能である。また、出力短絡保護機能(2)と出力低電圧保護機能(3)だけを備えたスイッチング電源装置にも、本発明は適用が可能である。この場合は、過熱検出回路29や測温素子Kは不要となる。
【0074】
前記実施形態では、図5の出力短絡保護の動作において、出力の短絡が検出(確定)されると、ただちに許可信号S2の出力を停止して、スイッチング動作を停止させたが(B7~B9)、短絡が検出された回数を制御部9がカウントし、当該回数が所定回数N(N≧2)に達した場合に、制御部9は許可信号S2の出力を停止し、スイッチング動作を停止させてもよい。
【0075】
前記実施形態では、制御部9は、出力短絡時に許可信号S2の出力を停止することによって、スイッチング動作を停止させたが、出力短絡時に許可信号S2とは別の禁止信号を出力することにより、スイッチング動作を停止させてもよい。
【0076】
前記実施形態では、過熱検出回路29から出力される停止信号S4を、PWM回路27へ与えることにより、スイッチング動作を停止させたが、停止信号S4をスイッチング回路20へ与えることにより、スイッチング動作を停止させてもよい。同様に、制御部9から出力される許可信号S2(または禁止信号)を、スイッチング回路20へ与えてもよい。
【0077】
前記実施形態では、第1コンバータ101と第2コンバータ102が共に降圧型のDC-DCコンバータである例を挙げたが、各コンバータ101、102は昇圧型のDC-DCコンバータであってもよい。また、各コンバータ101、102の一方が降圧型のDC-DCコンバータで、他方が昇圧型のDC-DCコンバータであってもよい。
【0078】
前記実施形態では、第1コンバータ101と第2コンバータ102が共に絶縁型のDC-DCコンバータである例を挙げたが、各コンバータ101、102は非絶縁型のDC-DCコンバータであってもよい。
【0079】
前記実施形態では、スイッチング回路20を駆動する駆動回路として、PWM回路27を例に挙げたが、PWM以外の方式によりスイッチング回路20を駆動する駆動回路を設けてもよい。
【0080】
前記実施形態では、車両に搭載されるスイッチング電源装置100を例に挙げたが、本発明のスイッチング電源装置は、車載以外の用途にも適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
9 制御部
20 スイッチング回路
21 絶縁トランス
22 第1整流回路
23 第2整流回路
24 第1電圧検出回路
25 第2電圧検出回路
27 PWM回路(駆動回路)
28 フィードバック回路
29 過熱検出回路
100 スイッチング電源装置
101 第1コンバータ
102 第2コンバータ
K 測温素子
La 一次巻線
Lb 二次巻線(主巻線)
Lc 二次巻線(補助巻線)
T5、T6 出力端子
Q3 スイッチング素子
S2 許可信号
S4 停止信号
Va 主巻線電圧
Vb 補助巻線電圧
X 第1時間
Y 第2時間
Z 第3時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10