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特許7198178セラミックス基板、回路基板及びその製造方法、並びにパワーモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】セラミックス基板、回路基板及びその製造方法、並びにパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/587 20060101AFI20221221BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20221221BHJP
   H01L 23/15 20060101ALI20221221BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20221221BHJP
   C04B 41/91 20060101ALI20221221BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221221BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C04B35/587
H01L23/12 C
H01L23/14 C
C04B37/02 Z
C04B41/91 B
H05K1/03 610D
H05K3/38 D
H05K3/38 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019149319
(22)【出願日】2019-08-16
(65)【公開番号】P2021031310
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】山縣 利貴
(72)【発明者】
【氏名】森 和久
(72)【発明者】
【氏名】小宮 勝博
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-172172(JP,A)
【文献】特開2009-239041(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037842(WO,A1)
【文献】特開2019-052072(JP,A)
【文献】特開2011-187511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/587
C04B 37/00 - 37/04
C04B 41/91
H01L 23/13
H01L 23/15
H05K 1/03
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス成分と、当該セラミックス成分とは異なる、構成元素としてY及びMgを有する金属酸化物とを含有し、
少なくとも一つの主面において、表面粗さが互いに異なる第1領域と第2領域とを有し、前記第1領域と前記第2領域における、前記セラミックス成分に対する前記金属酸化物の割合は互いに異なる、セラミックス基板。
【請求項2】
前記第1領域における表面粗さRaに対する、前記第2領域における表面粗さRaの比が、1.5以上である、請求項1に記載のセラミックス基板。
【請求項3】
前記第2領域は、第1領域よりも大きい表面粗さRaを有しており、
前記第2領域の少なくとも一部は樹脂と接着する、請求項1又は2に記載のセラミックス基板。
【請求項4】
前記第1領域は、第2領域よりも小さい表面粗さRaを有しており、
前記第1領域の少なくとも一部には導体部が接合される、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックス基板。
【請求項5】
前記セラミックス成分は窒化ケイ素を含有し、
前記金属酸化物におけるMgに対するYの質量比が、それぞれMgO及びYに換算したときに0.3~3である、請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミックス基板。
【請求項6】
前記主面における前記第1領域の面積比率が30~90%であり、前記主面における前記第2領域の面積比率が10~70%である、請求項1~5のいずれか一項に記載のセラミックス基板。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載のセラミックス基板と、
前記第1領域の少なくとも一部に接合される導体部と、を備え、
前記第1領域は、前記第2領域よりも小さい表面粗さRaを有する、回路基板。
【請求項8】
前記第2領域の少なくとも一部と樹脂とが接着しており、
前記第2領域は、第1領域よりも大きい表面粗さRaを有する、請求項に記載の回路基板。
【請求項9】
請求項又はに記載の回路基板と、
前記回路基板を封止する樹脂と、を備え、
前記第2領域の少なくとも一部と前記樹脂とが接着している、パワーモジュール。
【請求項10】
前記回路基板の前記導体部と、前記導体部と電気的に接続される半導体素子と、を備え、
前記半導体素子は前記回路基板とともに前記樹脂によって封止されている、請求項に記載のパワーモジュール。
【請求項11】
セラミックス成分と、当該セラミックス成分とは異なる、構成元素としてY及びMgを有する金属酸化物とを含有するとともに、表面粗さRaを有するセラミックス基板の主面に金属基板を接合して複合基板を得る工程と、
前記複合基板における前記金属基板の一部をエッチングによって除去して、導体部を形成する工程と、を有し、
前記エッチングによって、前記セラミックス基板の前記主面に、前記表面粗さRa を有する第1領域と、前記表面粗さRa よりも大きい表面粗さRaを有する第2領域と、を形成し、前記第1領域と前記第2領域における、前記セラミックス成分に対する前記金属酸化物の割合は互いに異なる、回路基板の製造方法。
【請求項12】
前記セラミックス成分は窒化ケイ素を含有し、
前記金属酸化物におけるMgに対するYの質量比が、それぞれMgO及びY に換算したときに0.3~3である、請求項11に記載の回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックス基板、回路基板及びその製造方法、並びにパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電鉄、産業用機器、及び発電関係等の分野には、大電流を制御するパワーモジュールが用いられている。パワーモジュールに搭載される絶縁基板には、セラミックス基板が利用されている。このような用途においては、セラミックス基板は、絶縁性に加えて良好な放熱特性を有することが求められる。例えば、特許文献1では、セラミックス基板として、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ケイ素又は炭化ケイ素を主成分とする材質のものが提案されている。
【0003】
また、特許文献2では、半導体モジュールに用いられるセラミックス基板の表面粗さRaを0.1~5μmとして、樹脂層がセラミックス基板の表面の微視的な凹凸に入り込ませて樹脂層の密着性を向上する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-2123316号公報
【文献】特開2016-181715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パワーモジュールは、各種装置を制御する重要な製品であることから、安定的に機能することが求められる。このようなパワーモジュール及び他の種々の用途に部品として用いられるセラミックス基板は、高い信頼性を有することが求められる。一方で、パワーモジュール等の各種製品は、各種分野で用いられていることから、これに伴って、各部品についても更なる信頼性の向上が求められている。
【0006】
そこで、本開示では、部品として優れた信頼性を有するセラミックス基板を提供する。また、部品として優れた信頼性を有する回路基板及びその製造方法を提供する。また、本開示では、このような回路基板を備えることによって信頼性に優れるパワーモジュールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係るセラミックス基板は、少なくとも一つの主面において、表面粗さが互いに異なる第1領域と第2領域とを有する。このような、セラミックス基板は、主面に接触する部材の種類に応じて部材との密着性又は接合性を調整することができる。このようなセラミックス基板は、部品として優れた信頼性を有する。
【0008】
上記第1領域における表面粗さRaに対する、上記第2領域における表面粗さRaの比が、1.5以上であってよい。このように、表面粗さが大きく異なる主面を有することによって、主面に接触する部材の種類に応じて部材との密着性又は接合性を十分に調整することができる。このようなセラミックス基板は、部品として一層優れた信頼性を有する。
【0009】
上記第2領域は、上記第1領域よりも大きい表面粗さRaを有しており、上記第2領域の少なくとも一部は樹脂と接着してもよい。第2領域は、第1領域の表面粗さRaよりも大きい表面粗さRaを有するため、アンカー効果によって樹脂との密着性を向上することができる。
【0010】
上記第1領域は、上記第2領域よりも小さい表面粗さRaを有しており、第1領域の少なくとも一部には導体部が接合されてもよい。第1領域は、表面粗さRaよりも小さい表面粗さRaを有するため、例えばろう材等を用いることによって導体部と十分強固に接合することができる。
【0011】
上記セラミックス基板は、セラミックス成分と、当該セラミックス成分とは異なる、構成元素としてY及びMgを有する金属酸化物とを含有し、金属酸化物におけるMgに対するYの質量比が、それぞれMgO及びYに換算したときに0.3~3であってよい。このようなセラミックス基板であれば、エッチングによって主面の表面粗さを高い自由度で調整することができる。このため、例えば、セラミックス基板と金属基板の複合基板において、エッチングによって金属基板を除去して導体部を形成する際に、併せて主面の表面粗さを調整することができる。
【0012】
上記セラミックス基板の主面における第1領域の面積比率が30~90%であり、当該主面における第2領域の面積比率が10~70%であってよい。このようなセラミックス基板であれば、種々の用途において信頼性を向上することができる。
【0013】
上記セラミックス基板は、窒化ケイ素と、構成元素としてY及びMgを有する金属酸化物とを含有し、第1領域と第2領域における、窒化ケイ素に対する金属酸化物の割合は互いに異なっていてもよい。このようなセラミックス基板は、第1領域と第2領域における表面粗さを十分に異ならせることができる。
【0014】
本開示の一側面に係る回路基板は、上述のいずれかのセラミックス基板と、上記第1領域の少なくとも一部に接合される導体部と、を備え、第1領域は、第2領域よりも小さい表面粗さRaを有する。第1領域は、第2領域の表面粗さRaよりも小さい表面粗さRaを有するため、例えばろう材等を用いることによって導体部と十分強固に接合することができる。したがって、この回路基板は、部品として優れた信頼性を有する。
【0015】
上記回路基板における第2領域の少なくとも一部と樹脂とが接着しており、第2領域は、第1領域よりも大きい表面粗さRaを有していてよい。第2領域は、第1領域の表面粗さRaよりも大きい表面粗さRaを有するため、アンカー効果によって樹脂との密着性を向上することができる。
【0016】
本開示の一側面に係るパワーモジュールは、上述のいずれかの回路基板と、回路基板を封止する樹脂と、を備え、第2領域の少なくとも一部と樹脂とが接着している。このようなパワーモジュールは、樹脂とセラミックス基板との密着性に優れるため、信頼性に優れる。
【0017】
上記パワーモジュールは、回路基板の導体部と、導体部と電気的に接続される半導体素子と、を備え、半導体素子は回路基板とともに樹脂によって封止されていてよい。このようなパワーモジュールは、例えば半導体素子が発熱しても、樹脂とセラミックス基板との密着性を維持することができる。したがって、高い信頼性を維持することができる。
【0018】
本開示の一側面に係る回路基板の製造方法は、表面粗さRaを有するセラミックス基板の主面に金属基板を接合して複合基板を得る工程と、複合基板における金属基板の一部をエッチングによって除去して、導体部を形成する工程と、を有し、エッチングによって、セラミックス基板の主面に、表面粗さRaよりも大きい表面粗さRaを有する領域を形成する。この製造方法によれば、金属基板のエッチングを行いつつ、セラミックス基板の主面に表面粗さRaを有する領域を形成することができる。したがって、工程数を増やすことなく部品として優れた信頼性を有する回路基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、部品として優れた信頼性を有するセラミックス基板を提供することができる。また、部品として優れた信頼性を有する回路基板及びその製造方法を提供することができる。また、このような回路基板を備えることによって信頼性に優れるパワーモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、一実施形態に係るセラミックス基板の斜視図である。
図2図2は、一実施形態に係る回路基板の断面図である。
図3図3は、一実施形態に係るパワーモジュールの断面図である。
図4図4は、実施例1のセラミックス基板の主面の光学顕微鏡写真である。
図5図5は、実施例1のセラミックス基板の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図6図6は、実施例2のセラミックス基板の主面の光学顕微鏡写真である。
図7図7は、実施例2のセラミックス基板の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0022】
図1は、一実施形態に係るセラミックス基板の斜視図である。図1のセラミックス基板100は、平板形状を有する。セラミックス基板100は、一方の主面100Aは、互いに異なる表面粗さを有する第1領域10と第2領域20に区画されている。第1領域10は、第2領域20によって取り囲まれている。第1領域10と第2領域20とを区画する区画線VLは、両者の境界を示す境界線であり、仮想線であってよい。一つの第1領域10及び第2領域20は、それぞれ、100mm以上の面積を有する。
【0023】
第2領域20における表面粗さRaは、第1領域10における表面粗さRaよりも大きくてよい。第1領域10における表面粗さRaに対する、第2領域20における表面粗さRaの比は、1.5以上であってよく、1.8以上であってよく、2.0以上であってもよい。当該比を大きくすることによって、主面100Aに接触する部材の種類に応じて部材との密着性又は接合性を十分に調整することができる。このようなセラミックス基板100は、部品として一層優れた信頼性を有する。同様の観点から、第2領域20における表面粗さRaと第1領域10における表面粗さRaの差は、0.1μm以上であってよく、0.2μm以上であってもよい。
【0024】
第1領域10における表面粗さRaに対する、第2領域20における表面粗さRaの比は、5.0以下であってよく、4.0以下であってよく、3.0以下であってもよい。当該比を小さくすることによって、表面粗さRaが過大となることが抑制され、セラミックス基板100の強度を十分に高く維持することができる。同様の観点から、第2領域20における表面粗さRaと第1領域10における表面粗さRaの差は、1.5μm以下であってよく、0.5μm以下であってもよい。
【0025】
第1領域10の少なくとも一部には、例えば、ろう材を介して導体部が接合される。第1領域10は、表面粗さRaよりも小さい表面粗さRaを有するため、ろう材によって導体部と十分強固に接合することができる。第2領域20の少なくとも一部は、例えば樹脂と接着する。第2領域20は、表面粗さRaよりも大きい表面粗さRaを有するため、アンカー効果によって樹脂との密着性を向上することができる。
【0026】
第1領域10における表面粗さRaは、簡便に製造することを可能にしつつ導体との接合性を良好にする観点から、例えば、0.05~1.0μmであってよく、0.1~0.8μmであってよく、0.15~0.4μmであってよい。第2領域20における表面粗さRaは、セラミックス基板100の強度を維持しつつ樹脂との密着性を高くする観点から、例えば、0.2~3.0μmであってよく、0.3~2.0μmであってよく、0.45~1.0μmであってよい。表面粗さRa及び表面粗さRaは、中心線平均粗さであり、JIS B 0601-2001に準拠して測定される値である。
【0027】
第1領域10内の各位置における表面粗さは、多少ばらついていてもよいが、そのばらつきは0.1μm以下である。すなわち、最大値と最小値の差異が0.1μm以下であれば、第1領域10であるとみなすことができる。第2領域20内の各位置における表面粗さも、多少ばらついていてもよいが、そのばらつきは0.1μm以下である。すなわち、最大値と最小値の差異が0.1μm以下であれば、第2領域20であるとみなすことができる。
【0028】
本実施形態のように、複数の第1領域10を有する場合、各第1領域10の表面粗さRaは、3つの第1領域10の表面粗さRaの平均値±0.05μmの範囲内にある。複数の第2領域20を有する場合も、各第2領域20の表面粗さRaは、複数の第2領域20の表面粗さRaの平均値±0.05μmの範囲内にある。
【0029】
セラミックス基板100の主面100Aは、第1領域10と第2領域20で構成される。第1領域の面積比率は30~90%であってよく、40~80%であってもよい。主面100Aにおける第2領域20の面積比率は10~70%であってよく、20~60%であってよい。本実施形態では、主面100Aにおいて第1領域10と第2領域20とが互いに隣接している。変形例では、主面100Aが、第1領域10と第2領域20がそれぞれ一つずつであってよく、第1領域10と第2領域20が交互に並ぶように設けられていてもよい。また、セラミックス基板100の主面100Aは、第1領域10及び第2領域20とは表面粗さが異なる別の領域を有していてもよい。
【0030】
セラミックス基板100の主成分であるセラミックス成分の種類に特に制限はなく、例えば、炭化物、酸化物及び窒化物等が挙げられる。具体的には、炭化ケイ素、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素等が挙げられる。セラミックス基板100は、セラミックスの他に、セラミックス成分とは異なる金属酸化物を含有してよい。
【0031】
金属酸化物としては、構成元素としてY及びMgを有する金属酸化物が挙げられる。金属酸化物におけるMgに対するYの質量比は、それぞれMgO及びYに換算したときに0.3~3であってよく、0.5~2であってもよい。このようなセラミックス基板であれば、エッチングによって主面100Aの表面粗さを高い自由度で調整することができる。このため、例えば、セラミックス基板100と金属基板の複合基板において、エッチングによって金属基板を除去して導体部を形成する際に、併せて主面100Aの表面粗さを調整することができる。したがって、主面100Aに第1領域10と第2領域20を円滑に形成することができる。なお、同じエッチング条件で比較すると、Mgに対するYの質量比が1に近づくにつれて表面粗さが大きくなる傾向にある。一方、Mgに対するYの質量比が1から遠ざかるにつれて、表面粗さが小さくなる傾向にある。これは、金属酸化物又はこれに由来する成分がエッチングによってセラミックス基板100の主面100Aから除去されるためと考えられる。
【0032】
第1領域10と第2領域20における、窒化ケイ素に対する金属酸化物の割合は互いに異なっていてもよい。例えば、第1領域10の方が第2領域20よりも当該割合が高くてよい。このようなセラミックス基板100は、第2領域20における表面粗さRaを、第1領域10における表面粗さRaよりも十分に大きくすることができる。
【0033】
図2は、一実施形態に係る回路基板200の斜視図である。回路基板200は、セラミックス基板100と、主面100Aに配置された導体部11と、主面100Bに配置された導体部12と、を備える。導体部11は、主面100Aの第1領域10に接合されている。導体部11は、図示しないろう材を介して主面100Aに接合されていてよい。一方、主面100Aの第2領域20は、導体部11で覆われておらず露出している。このため、回路基板200を樹脂で封止したときに、樹脂が第2領域20に接着することができる。なお、第1領域10の一部は導体部11で覆われずに露出していてもよい。
【0034】
例えば、第1領域10全体のうち、導体部11に覆われる領域の面積比率は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上であってよい。第2領域20の一部は、導体部11で覆われていてもよい。例えば、第2領域20全体のうち、導体部11で覆われずに露出している領域の面積比率は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上であってよい。
【0035】
セラミックス基板100の主面100Bには、導体部11とは形状が異なる導体部12が接合されている。導体部12は、導体部11と同様に、主面100Bにおける第1領域10に接合されている。導体部12も、図示しないろう材を介して主面100Bに接合されていてよい。一方、主面100Bにおける第2領域20は、導体部12で覆われておらず露出している。
【0036】
変形例では、回路基板200は第2領域20に接着される樹脂を有していてもよい。また、主面100Aと主面100Bにおける導体部の形状は同一であってもよいし、主面100Aと主面100Bの一方は、導体部を有していなくてもよい。
【0037】
回路基板200のセラミックス基板100における第1領域10は、表面粗さRaよりも小さい表面粗さRaを有するため、ろう材によって導体部11,12と十分強固に接合することができる。また、第2領域20は、アンカー効果によって樹脂との密着性が良好である。したがって、回路基板200は、部品として優れた信頼性を有する。
【0038】
図3は、一実施形態に係るパワーモジュール300の模式断面図である。パワーモジュール300は、ベース板70と、ハンダ32を介してベース板70の一方面と接合される回路基板200とを備える。回路基板200の導体部12がハンダ32と接合している。
【0039】
回路基板200の導体部11には、ハンダ31を介して半導体素子60が取り付けられている。半導体素子60は、アルミワイヤ(アルミ線)等の金属ワイヤ34で導体部11の所定箇所に接続されている。筐体36の外部と導体部11とを電気的に接続するため、導体部11の所定部分は、ハンダ35を介して筐体36を貫通して設けられる電極33に接続されている。
【0040】
ベース板70の一方面には、回路基板200を収容するように筐体36が配置されている。ベース板70の一方面と筐体36とで形成される収容空間にはシリコーンゲル等の樹脂30が充填されている。樹脂30は、セラミックス基板100の主面100A,100Bにおける第2領域20に接着している。第2領域20は、大きい表面粗さRaを有することから、樹脂30との密着性に優れる。このため、パワーモジュール300は信頼性に優れる。
【0041】
ベース板70の他方面には、グリース74を介して放熱部材をなす冷却フィン72が接合されている。ベース板70の端部には冷却フィン72をベース板70に固定するネジ73が取り付けられている。ベース板70及び冷却フィン72はアルミニウムで構成されていてもよい。ベース板70及び冷却フィン72は、高い熱伝導率を有することによって放熱部として良好に機能する。
【0042】
セラミックス基板100によって、導体部11と導体部12は電気的に絶縁される。導体部11は電気回路を形成していてもよいし、していなくてもよい。導体部11及び導体部12の材質は同一であっても異なっていてもよい。導体部11及び導体部12は、銅で構成されていてよい。ただし、その材質は銅に限定されるものではない。
【0043】
パワーモジュール300は、回路基板200の導体部11,12と、導体部11と電気的に接続される半導体素子60とを備える。半導体素子60は回路基板200とともに樹脂30によって封止されている。このようなパワーモジュール300は、半導体素子60が発熱しても、樹脂30とセラミックス基板100との密着性を維持することができる。
【0044】
セラミックス基板100の第2領域20に接着する樹脂は、封止樹脂に限定されない。例えば、セラミックス基板が圧接構造用のセラミックスヒートシンク材に用いられる場合、第2領域20に接着する樹脂は、熱硬化型樹脂であってもよく、光硬化型樹脂であってもよい。
【0045】
次に、セラミックス基板の製造方法の一例を説明する。まず、セラミックス成分で構成されるセラミックス粉末と焼結助剤として機能する酸化物系焼結助剤を準備する。酸化物系焼結助剤としてはY3、MgO、SiO及びAl等を含むものが挙げられる。原料粉末における酸化物系焼結助剤の含有量は、高い熱伝導率と優れた絶縁性を高水準で両立できるセラミックス基板(焼結体)を得る観点から、例えば4.0~8.0質量%であってよく、4.0~5.0質量%であってもよい。
【0046】
上述の原料粉末を例えば3.0~10.0MPaの成形圧力で加圧して成形体を得る。成形体は一軸加圧して作製してもよいし、CIPによって作製してもよい。また、ホットプレスによって成形しながら焼成してもよい。成形体の焼成は、窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行ってよい。焼成時の圧力は、0.7~0.9MPaであってよい。セラミックス成分が窒化ケイ素の場合、焼成温度は例えば1600~2100℃であってよく、1800~2000℃であってもよい。当該焼成温度における焼成時間は6~20時間であってよく、8~16時間であってよい。
【0047】
このようにして得られる焼結体を必要に応じて加工してセラミックス基板を得る。このときの両方の主面は、表面粗さRaを有する。このようにして得られたセラミックス基板の主面の一部をテープ等でマスキングした後、サンドブラスト等による物理的な研磨、又は、エッチング等による化学的な処理を行う。これによって、セラミックス基板の主面の一部は、表面粗さRaを有する第2の領域となり、残部は、表面粗さRaを有する第1の領域となる。このようにして得られたセラミックス基板の主面において第1領域に導体テープ等を貼り付けて、導体部としてもよい。第1領域の表面粗さRaは、表面粗さRaよりも小さいことから、導体テープと導体部の第1領域は高い接着力で結合される。
【0048】
第2領域の形成方法は、上述の方法に限定されず、例えばホーニングによって行ってもよいし、レーザー光等を用いて主面を荒らすことによって行ってもよい。また、エッチングによって形成してもよい。エッチングは2回以上繰り返して行ってもよい。
【0049】
回路基板の製造方法の一例を説明する。表面粗さRaを有するセラミックス基板を準備する。このセラミックス基板の主面に金属基板をろう材を介して重ね合わせ、加熱炉で加熱して複合基板を得る。ろう材は、セラミックス基板の主面に、ロールコーター法、スクリーン印刷法、又は転写法等の方法によって塗布する。ろう材は、例えば、Ag、Cu、Sn及びTi等の金属及び金属化合物成分、有機溶媒、及びバインダ等を含有してよい。ろう材の粘度は、例えば5~20Pa・sであってよい。ろう材における有機溶媒の含有量は、例えば、5~25質量%、バインダの含有量は、例えば、2~15質量%であってよい。
【0050】
加熱炉における加熱温度は例えば700~900℃であってよい。炉内の雰囲気は窒素等の不活性ガスであってよく、大気圧未満の減圧下で行ってもよいし、真空下で行ってもよい。加熱炉は、複数の接合体を連続的に製造する連続式のものであってもよいし、一つ又は複数の接合体をバッチ式で製造するものであってもよい。加熱は、セラミックス基板と金属基板の接合体を積層方向に押圧しながら行ってもよい。
【0051】
続いて、複合基板における金属基板の一部をエッチングによって除去して、導体部を形成する。金属基板の一部が除去された後、当該一部が除去されることによって露出したセラミックス基板の主面の一部もエッチングする。これによって、当該主面の一部も粗面化され、表面粗さRaを有する第1領域と、表面粗さRaよりも大きい表面粗さRaを有する第2領域が形成される。
【0052】
このように、本例の製造方法によれば、複合基板から回路基板を得るとともに、表面粗さが互いに異なる複数の領域を有する主面を備えるセラミックス基板を得ることができる。したがって、工程数を増やすことなく部品として優れた信頼性を有するセラミックス基板の及び回路基板を製造することができる。
【0053】
このようにして得られた回路基板を用いて、パワーモジュールを製造することができる。パワーモジュールは、回路基板に、ハンダとワイヤボンディング等を用いて半導体素子を搭載し、回路基板及び半導体素子を筐体の収容空間内に収容したうえで樹脂封止を行って製造することができる。
【0054】
以上、幾つかの実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、回路基板は、導体部と電気的に接続される半導体素子を備えていてもよい。また、両方の主面に第1領域及び第2領域を有する必要はなく、どちらか一方の主面に第1領域及び第2領域を有していればよい。
【実施例
【0055】
実施例及び参考例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の具体例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
<窒化ケイ素焼結体の作製>
窒化ケイ素粉末と、焼結助剤として、酸化マグネシウム粉末、及び酸化イットリウム粉末を準備した。これらを、Si:Y:MgO=94.0:3.0:3.0(質量比)で配合して原料粉末を得た。この原料粉末を、一軸加圧成形し、成形体を作製した。この成形体を、カーボンヒータを備える電気炉中に配置し、窒素ガスの雰囲気下、1800℃で12時間焼成して、平板形状の窒化ケイ素焼結体を得た。
【0057】
<エッチング>
窒化ケイ素焼結体の一部を、テープでマスキングした後、市販のエッチング液(塩化第二銅水溶液)に60分間浸漬した。エッチング液から窒化ケイ素焼結体を取り出した後、再度同じエッチング液に窒化ケイ素焼結体を60分間浸漬した。このように2回エッチング処理を行ってセラミックス基板を得た。テープを取り外して、得られたセラミックス基板の外観を光学顕微鏡で観察した。
【0058】
<外観評価>
図4は、セラミックス基板の光学顕微鏡写真である。図4に示すように、セラミックス基板の主面には、濃淡が互いに異なる第1領域10と第2領域20が形成されていた。それぞれの領域における表面粗さを、小型表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製、商品名:サーフテスト SJ-310)を用いて測定した。その結果、第1領域10の表面粗さRaは0.25μmであり、第2領域20の表面粗さRaは0.50μmであった。
【0059】
<断面評価>
セラミックス基板を厚さ方向に切断し、主面近傍の断面を、走査型電子顕微鏡(SEN)を用いて観察した。図5は、実施例1のセラミックス基板の第2領域における主面近傍の断面を示すSEM写真である。図5に示すように、第2領域では表面が粗面化されていることが確認された。
【0060】
(実施例2)
<窒化ケイ素焼結体の作製>
窒化ケイ素粉末と、焼結助剤として、酸化マグネシウム粉末、酸化イットリウム粉末及び二酸化珪素粉末を準備した。これらを、Si:Y:MgO:SiO=91.35:6.0:1.58:1.07(質量比)で配合して原料粉末を得た。この原料粉末を用いたこと以外は実施例1と同じ手順で、平板形状の窒化ケイ素焼結体を得た。そして実施例1と同じ手順でエッチングを行ってセラミックス基板を得た。テープを取り外して、得られたセラミックス基板の外観を光学顕微鏡で観察した。
【0061】
<外観評価>
図6は、セラミックス基板の光学顕微鏡写真である。図6に示すように、セラミックス基板の主面には、濃淡が互いに異なる第1領域10と第2領域が形成されていた。ただし、実施例1に比べると、濃淡の差が小さかった。第1領域10の表面粗さRaは0.30μmであり、第2領域20の表面粗さRaは0.31μmであった。
【0062】
<断面評価>
実施例1と同様に、主面近傍の断面を、走査型電子顕微鏡(SEN)を用いて観察した。図7は、実施例2のセラミックス基板の第2領域における主面近傍の断面を示すSEM写真である。図7に示すように、第2領域では表面が粗面化されていることが確認された。ただし、図5に示されるほど粗面化されていなかった。
【0063】
実施例1,2のセラミックス基板の抗折強度を測定した。抗折強度は、3点曲げ抗折強度であり、JIS R 1601:2008に準拠して市販の抗折強度計(島津製作所製、装置名:AG-2000)を用いて測定した。その結果、実施例1のセラミックス基板の抗折強度は、802MPaであった。また、実施例2のセラミックス基板の抗折強度は769MPaであった
【0064】
(参考例1)
焼結助剤として、Mgに対するYの質量比が、それぞれMgO及びYに換算したときに0.1である金属酸化物粉末を準備した。これと窒化ケイ素粉末と配合して原料粉末を得た。この原料粉末を用いたこと以外は、実施例1と同じ手順で、平板形状の窒化ケイ素焼結体を得た。実施例1と同様にエッチング処理を行ったが、主面の粗化が十分に進行せず、主面の表面粗さを調整することができなかった。ただし、エッチング以外の方法(例えば、サンドブラスト)を用いれば、主面の一部を粗化して、実施例1,2と同様の第1領域及び第2領域を形成することは可能である。
【0065】
(参考例2)
焼結助剤として、Mgに対するYの質量比が、それぞれMgO及びYに換算したときに5.0である金属酸化物粉末を準備した。これと窒化ケイ素粉末と配合して原料粉末を得た。この原料粉末を用いたこと以外は、実施例1と同じ手順で、平板形状の窒化ケイ素焼結体を得た。実施例1と同様にエッチング処理を行ったが、主面の粗化が十分に進行せず、主面の表面粗さを調整することができなかった。ただし、参考例1と同様に、エッチング以外の方法(例えば、サンドブラスト)を用いれば、主面の一部を粗化して、実施例1,2と同様の第1領域及び第2領域を形成することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示によれば、部品として優れた信頼性を有するセラミックス基板を提供することができる。また、部品として優れた信頼性を有する回路基板及びその製造方法を提供することができる。また、このような回路基板を備えることによって信頼性に優れるパワーモジュールを提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
10…第1領域,11,12…導体部,20…第2領域,30…樹脂,31,32,35…ハンダ,33…電極,34…金属ワイヤ,36…筐体,60…半導体素子,70…ベース板,72…冷却フィン,73…ネジ,74…グリース,100…セラミックス基板,100A,100B…主面,200…回路基板,300…パワーモジュール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7