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特許7198190接着剤組成物、フレキシブルプリント配線板用カバーレイ及びフレキシブルプリント配線板
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  • 特許-接着剤組成物、フレキシブルプリント配線板用カバーレイ及びフレキシブルプリント配線板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】接着剤組成物、フレキシブルプリント配線板用カバーレイ及びフレキシブルプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C09J 179/08 20060101AFI20221221BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20221221BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20221221BHJP
   C09J 163/02 20060101ALI20221221BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20221221BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20221221BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20221221BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C09J179/08 B
C09J163/00
C09J11/06
C09J163/02
C09J7/35
B32B27/34
B32B27/38
H05K3/28 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019184093
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021059656
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500400216
【氏名又は名称】住友電工プリントサーキット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】米澤 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】改森 信吾
(72)【発明者】
【氏名】山内 雅晃
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】柿本 正也
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-282891(JP,A)
【文献】特開2010-155975(JP,A)
【文献】国際公開第2017/158917(WO,A1)
【文献】特開2005-154511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/34
B32B 27/38
H05K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドイミド樹脂と、
エポキシ樹脂と、
トリアジン環を有する化合物と
を含有する接着剤組成物。
【請求項2】
上記ポリアミドイミド樹脂100質量部に対する上記エポキシ樹脂の含有量が20質量部以上80質量部以下である請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記ポリミアミドイミド樹脂100質量部に対する上記化合物の含有量が1質量部以上80質量部以下である請求項1又は請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
硬化後のガラス転移温度が85℃以上である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
フレキシブルプリント配線板のカバーレイ用である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
カバーフィルムと、このカバーフィルムに積層される接着剤層とを備えるフレキシブルプリント配線板用カバーレイであって、
上記接着剤層が接着剤組成物から形成され、
上記接着剤組成物がポリアミドイミド樹脂と、エポキシ樹脂と、トリアジン環を有する化合物とを含有するフレキシブルプリント配線板用カバーレイ。
【請求項8】
ベースフィルムと、このベースフィルムに直接又は間接に積層される導電パターンと、上記ベースフィルム及び上記導電パターンに積層されるカバーレイとを備えるフレキシブルプリント配線板であって、
上記カバーレイが、カバーフィルムと、このカバーフィルムに積層される接着剤層とを備え、
上記接着剤層が接着剤組成物から形成され、
上記接着剤組成物がポリアミドイミド樹脂と、エポキシ樹脂と、トリアジン環を有する化合物とを含有するフレキシブルプリント配線板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接着剤組成物、フレキシブルプリント配線板用カバーレイ及びフレキシブルプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化及び高性能化に伴い、フレキシブルプリント配線板が広く用いられている。このフレキシブルプリント配線板は、ベースフィルムと、このベースフィルムに積層される導電パターンと、このベースフィルム及び導電パターンに積層されるカバーレイとを備える。このカバーレイは、カバーフィルムと、このカバーフィルムに積層される接着剤層とを備える。この接着剤層を形成するために用いられる接着剤組成物としては、例えば特許文献1において、酸成分(カルボキシル基を両末端に有するアクリロニトリル-ブタジエンゴム、炭素数が4~12である脂肪族ジカルボン酸、及び芳香環を有するポリカルボン酸の無水物)と芳香環を有するジイソシアネート又はジアミンとを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂、リン含有エポキシ樹脂及びリン化合物を含有する難燃性接着剤組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2010/038644号
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る接着剤組成物は、ポリアミドイミド樹脂と、エポキシ樹脂と、トリアジン環を有する化合物とを含有する。
【0005】
本開示の別の一態様に係るフレキシブルプリント配線板用カバーレイは、カバーフィルムと、このカバーフィルムに積層される接着剤層とを備えるフレキシブルプリント配線板用カバーレイであって、上記接着剤層が接着剤組成物から形成され、上記接着剤組成物がポリアミドイミド樹脂と、エポキシ樹脂と、トリアジン環を有する化合物とを含有する。
【0006】
本開示のさらに別の一態様に係るフレキシブルプリント配線板は、ベースフィルムと、このベースフィルムに直接又は間接に積層される導電パターンと、上記ベースフィルム及び上記導電パターンに積層されるカバーレイとを備えるフレキシブルプリント配線板であって、上記カバーレイが、カバーフィルムと、このカバーフィルムに積層される接着剤層とを備え、上記接着剤層が接着剤組成物から形成され、上記接着剤組成物がポリアミドイミド樹脂と、エポキシ樹脂と、トリアジン環を有する化合物とを含有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示のフレキシブルプリント配線板1を示す模式的断面図である。
図2図2は、実施例における耐イオンマイグレーション性2の試験後のNo.2の顕微鏡画像である。
図3図3は、実施例における耐イオンマイグレーション性2の試験後のNo.3の顕微鏡画像である。
図4図4は、実施例における耐イオンマイグレーション性2の試験後のNo.14の顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
接着剤組成物により形成される接着剤層には、剥離強度が大きいこと及び半田耐熱性に優れることが要求されている。
【0009】
また、フレキシブルプリント配線板では、水分が存在する環境下で銅回路の端子間に電圧を印加すると陽極側から溶出した銅が陰極側に析出し、回路が短絡するイオンマイグレーションと呼ばれる現象が発生するおそれがある。近年、電子機器の小型化及び高性能化に伴い、フレキシブルプリント配線板の回路は、回路幅/回路間距離(L/S)が、50μm/50μmから25μm/25μm、さらには10μm/10μmとファインピッチ化が急速に進行している。このような回路のファインピッチ化に伴い、イオンマイグレーションを抑制することが要求されている。
【0010】
本開示は上記事情に基づいてなされたものであり、剥離強度が大きく、半田耐熱性に優れると共に、優れた耐イオンマイグレーション性を有する接着剤組成物、フレキシブルプリント配線板用カバーレイ及びフレキシブルプリント配線板を提供することを目的とする。
【0011】
[本開示の効果]
本開示の一態様に係る接着剤組成物、並びにこの接着剤組成物を用いたフレキシブルプリント配線板用カバーレイ及びフレキシブルプリント配線板は、剥離強度が大きく、半田耐熱性に優れると共に、優れた耐イオンマイグレーション性を有する。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
本開示の一態様に係る接着剤組成物は、ポリアミドイミド樹脂と、エポキシ樹脂と、トリアジン環を有する化合物とを含有する。
【0014】
当該接着剤組成物は、エポキシ硬化剤としてトリアジン環を有する化合物を含有することにより、剥離強度が大きく、半田耐熱性に優れると共に、優れた耐イオンマイグレーション性を有する。
【0015】
当該接着剤組成物は、上記ポリアミドイミド樹脂100質量部に対する上記エポキシ樹脂の含有量が20質量部以上80質量部以下であることが好ましい。上記エポキシ樹脂の含有量が上記下限未満であると半田耐熱性が低下するおそれがあり、また上記上限を超えると可撓性が低下するおそれがある。
【0016】
当該接着剤組成物は、上記ポリミアミドイミド樹脂100質量部に対する上記化合物の含有量が1質量部以上80質量部以下であることが好ましい。上記化合物の含有量が上記下限未満であると、エポキシ樹脂の硬化が不十分になり、耐イオンマイグレーション性が低下するおそれがあり、また上記上限を超えると、硬化物の接着性が低下するおそれがある。
【0017】
当該接着剤組成物は、上記エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂であることが好ましい。エポキシ樹脂がこれらの樹脂であることにより、耐イオンマイグレーション性をより向上させることができる。
【0018】
当該接着剤組成物は、硬化後のガラス転移温度が85℃以上であることが好ましい。硬化後のガラス転移温度が上記範囲内であることにより、高温高湿条件下(例えば85℃85%RH)でも接着剤の物性変化を抑制することができる。
【0019】
当該接着剤組成物は、フレキシブルプリント配線板のカバーレイ用接着剤として好適に用いることができる。
【0020】
本開示の別の一態様に係るフレキシブルプリント配線板用カバーレイは、カバーフィルムと、このカバーフィルムに積層される接着剤層とを備えるフレキシブルプリント配線板用カバーレイであって、上記接着剤層が接着剤組成物から形成され、上記接着剤組成物がポリアミドイミド樹脂と、エポキシ樹脂と、トリアジン環を有する化合物とを含有する。
【0021】
当該フレキシブルプリント配線板用カバーレイは、接着剤層が当該接着剤組成物により形成されているため、剥離強度が大きく、半田耐熱性に優れると共に、優れた耐イオンマイグレーション性を有する。
【0022】
本開示のさらに別の一態様に係るフレキシブルプリント配線板は、ベースフィルムと、このベースフィルムに直接又は間接に積層される導電パターンと、上記ベースフィルム及び上記導電パターンに積層されるカバーレイとを備えるフレキシブルプリント配線板であって、上記カバーレイが、カバーフィルムと、このカバーフィルムに積層される接着剤層とを備え、上記接着剤層が接着剤組成物から形成され、上記接着剤組成物がポリアミドイミド樹脂と、エポキシ樹脂と、トリアジン環を有する化合物とを含有する。
【0023】
当該フレキシブルプリント配線板は、当該フレキシブルプリント配線板用カバーレイを備えるため、剥離強度が大きく、半田耐熱性に優れると共に、優れた耐イオンマイグレーション性を有する。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示に係る接着剤組成物、フレキシブルプリント配線板用カバーレイ及びフレキシブルプリント配線板について詳説する。
【0025】
<接着剤組成物>
当該接着剤組成物は、ポリアミドイミド樹脂と、エポキシ樹脂と、トリアジン環を有する化合物とを含有する。以下、各成分について説明する。
【0026】
(ポリアミドイミド樹脂)
ポリアミドイミド樹脂は、分子内にアミド結合及びイミド結合を有する樹脂である。
【0027】
ポリアミドイミド樹脂としては、例えばポリカルボン酸無水物とジイソシアネート又はジアミン化合物とを反応させて得られるものなどが挙げられる。中でも、可撓性をより向上できる観点から、カルボキシ基を両末端に有するアクリロニトリルブタジエンゴム、炭素数4~12の脂肪族ジカルボン酸及び芳香環を有するポリカルボン酸無水物を含む酸成分と、芳香環を有するジイソシアネート又はジアミンとを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂が好ましい。ポリアミドイミド樹脂は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
カルボキシ基を両末端に有するアクリロニトリルブタジエンゴムは、アクリロニトリルに由来する繰り返し単位とブタジエンに由来する繰り返し単位とを有する。
【0029】
上記ポリアミドイミド樹脂に含まれる全酸成分におけるカルボキシ基を両末端に有するアクリロニトリルブタジエンゴムの含有割合の下限としては、3モル%が好ましい。上記含有割合の上限としては、10モル%が好ましく、8モル%がより好ましい。
【0030】
炭素数4~12の脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカ二酸、ドデカン二酸などの直鎖状の脂肪族ジカルボン酸、2-メチルコハク酸などの分岐鎖状の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。炭素数4~12の脂肪族ジカルボン酸は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
上記ポリアミドイミド樹脂に含まれる全酸成分における炭素数4~12の脂肪族ジカルボン酸の含有割合の下限としては、10モル%が好ましく、20モル%がより好ましい。上記含有割合の上限としては、80モル%が好ましく、60モル%がより好ましい。
【0032】
芳香環を有するポリカルボン酸無水物としては、例えばトリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、1,4-ブタンジオールビスアンヒドロトリメリテート、ヘキサメチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ポリエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ポリプロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート等のアルキレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6-ピリジンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス[4-(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン二無水物などが挙げられる。芳香環を有するポリカルボン酸無水物は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記ポリアミドイミド樹脂に含まれる全酸成分における芳香環を有するポリカルボン酸無水物の含有割合の下限としては、10モル%が好ましい。上記含有割合の上限としては、87モル%が好ましい。
【0034】
芳香環を有するジイソシアネートとしては、例えばジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3,2’-ジメチルジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3,2’-ジエチルジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3,2’-ジメトキシジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-3,3’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-3,4’-ジイソシアネート、ジフェニルエーテル-4,4’-ジイソシアネート、ベンゾフェノン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルスルホン-4,4’-ジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネート、トリレン-2,6-ジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、ナフタレン-2,6-ジイソシアネート、4,4’-[2,2ビス(4-フェノキシフェニル)プロパン]ジイソシアネート、3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジエチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメトキシビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジエトキシビフェニル-4,4’-ジイソシアネートなどが挙げられる。芳香環を有するジアミンとしては、例えば上記ジイソシアネートとして例示したものに対応するジアミンなどが挙げられる。芳香環を有するジイソシアネート又はジアミンは、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
上記ポリアミドイミド樹脂は、例えば国際公開第2010/038644号に記載された方法により製造することができる。
【0036】
上記ポリアミドイミド樹脂は、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば東洋紡社の「HRシリーズ」などが挙げられる。
【0037】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂としては、1分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する樹脂であれば特に制限されず、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ、脂環式エポキシなどが挙げられる。これらの中でも、耐イオンマイグレーションをより向上させる観点からビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
当該接着剤組成物におけるポリアミドイミド樹脂100質量部に対するエポキシ樹脂の含有量の下限としては、20質量部が好ましく、25質量部がより好ましく、30質量部がさらに好ましい。上記含有量の上限としては、80質量部が好ましく、75質量部がより好ましく、70質量部がさらに好ましい。エポキシ樹脂の含有量が上記下限未満であると半田耐熱性が低下するおそれがあり、また上記上限を超えると可撓性が低下するおそれがある。
【0039】
(トリアジン環を有する化合物)
「トリアジン環を有する化合物」には、トリアジン環を有する単量体及びトリアジン環を含む2以上の繰り返し単位を有する重合体の両方が含まれる。トリアジン環としては、1,3,5-トリアジン環、1,2,3-トリアジン環、1,2,4-トリアジン環が挙げられる。トリアジン環を有する化合物は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
トリアジン環を含む単量体としては、例えばメラミン、チオシアヌル酸などが挙げられる。
【0041】
トリアジン環を含む2以上の繰り返し単位を有する重合体としては、例えばメラミン樹脂などが挙げられる。
【0042】
トリアジン環を有する化合物としては、耐イオンマイグレーション性をより向上させることができる観点から、トリアジン環を含む2以上の繰り返し単位を有する重合体が好ましく、メラミン樹脂がより好ましい。
【0043】
メラミン樹脂の市販品としては、例えば三和ケミカル社の「ニカラックMW30」、「ニカラックMX730」などが挙げられる。
【0044】
当該接着剤組成物におけるポリアミドイミド樹脂100質量部に対するトリアジン環を有する化合物の含有量の下限としては、1質量部が好ましく、2質量部がより好ましく、3質量部がさらに好ましい。上記含有量の上限としては、80質量部が好ましく、75質量部がより好ましく、70質量部がさらに好ましい。トリアジン環を有する化合物の含有量が上記下限未満であるとエポキシ樹脂の硬化が不十分となり、耐イオンマイグレーション性が低下するおそれがあり、また上記上限を超えると硬化物の接着性が低下するおそれがある。
【0045】
当該接着剤組成物におけるエポキシ樹脂100質量部に対するトリアジン環を有する化合物の含有量の下限としては、1質量部が好ましく、3質量部がより好ましく、6質量部がさらに好ましい。上記含有量の上限としては、150質量部が好ましく、120質量部がより好ましく、110質量部がさらに好ましい。トリアジン環を有する化合物の含有量が上記下限未満であるとエポキシ樹脂の硬化が不十分となり、耐イオンマイグレーション性が低下するおそれがあり、また上記上限を超えると硬化物の接着性が低下するおそれがある。
【0046】
当該接着剤組成物におけるポリアミドイミド樹脂100質量部に対するエポキシ樹脂及びトリアジン環を有する化合物の合計含有量の下限としては、30質量部が好ましく、40質量部がより好ましく、50質量部がさらに好ましい。上記合計含有量の上限としては、160質量部が好ましく、150質量部がより好ましく、145質量部がさらに好ましい。エポキシ樹脂及びトリアジン環を有する化合物の合計含有量が上記範囲内であることにより、可撓性を向上できる。
【0047】
当該接着剤組成物は、本開示の効果を損なわない範囲において、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば難燃剤、消泡剤、レベリング材、シランカップリング剤などが挙げられる。
【0048】
当該接着剤組成物の硬化後のガラス転移温度(Tg)の下限としては、85℃が好ましく、90℃がより好ましい。上記ガラス転移温度の上限としては、170℃が好ましく、160℃がより好ましい。当該接着剤組成物の硬化後のガラス転移温度が上記範囲内であることにより、高温高湿条件下(例えば85℃85%RH)においても接着剤の物性変化を抑制することができる。
【0049】
なお、当該接着剤組成物の硬化後のガラス転移温度(Tg)は、接着剤組成物の硬化物から幅10mm、長さ50mm、厚さ20μmの試験片を作製し、この試験片をチャック間長さを20mmとして動的粘弾性測定装置(DMA)(日立ハイテクソリューション社)にて、昇温速度10℃/分、周波数1Hzで測定した貯蔵弾性率E’(MPa)の変曲点の値である。
【0050】
当該接着剤組成物は、フレキシブルプリント配線板用接着剤又はフレキシブルプリント配線板のカバーレイ用接着剤として好適に用いられる。
【0051】
<フレキシブルプリント配線板>
図1は、本開示のフレキシブルプリント配線板1を示す模式的部分断面図である。当該フレキシブルプリント配線板1は、ベースフィルム3と、このベースフィルム3に直接又は間接に積層される導電パターン4と、上記ベースフィルム3及び上記導電パターン4に接着層6を介して積層されるカバーレイ2とを備える。
【0052】
(ベースフィルム)
ベースフィルム3は、絶縁性及び可撓性を有する。ベースフィルム3は、合成樹脂を主成分とする。なお、「主成分」とは、最も含有割合の多い成分を意味し、例えば含有割合が50質量%以上の成分を意味する。合成樹脂としては、例えばポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂などが挙げられる。これらの中でも、絶縁性、柔軟性、耐熱性等に優れるポリイミドが好ましい。
【0053】
ベースフィルム3の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記平均厚さの上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましい。ベースフィルム3の平均厚さが上記下限未満であると、絶縁性及び機械的強度が不十分となるおそれがある。一方、ベースフィルム3の平均厚さが上記上限を超えると、当該プリント配線板が不必要に厚くなるおそれや、可撓性が不十分となるおそれがある。なお、「平均厚さ」とは、任意の10点において測定した厚さの平均値を意味する。
【0054】
(導電パターン)
導電パターン4は、当該フレキシブルプリント配線板の回路を構成する。
【0055】
導電パターン4の主成分としては、例えば無酸素銅等の銅、アルミニウム、銀、金、ニッケル、これらの合金、ステンレス鋼などが挙げられる。これらの中で、銅又は銅合金が好ましく、銅がより好ましい。
【0056】
導電パターン4の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、5μmがより好ましく、10μmがさらに好ましい。上記平均厚さの上限としては、500μmが好ましく、100μmがより好ましく、50μmがさらに好ましい。導電パターン4の平均厚さが上記下限未満であると、導電パターン4の強度が低下するおそれがある。一方、導電パターン4の平均厚さが上記上限を超えると、当該プリント配線板が不必要に厚くなるおそれや、可撓性が不十分となるおそれがある。
【0057】
導電パターン4は、さらに不図示の表面処理層を有していてもよい。表面処理層は、導電パターン4の表面を被覆するものであり、導電パターン4からの導電成分の漏出、又は導電パターン4への導電性成分に対する反応性成分(酸素、硫黄など)の拡散を抑制するものである。
【0058】
表面処理層の材質としては、導電パターン4からの導電成分の漏出又は導電パターン4への反応性成分の拡散を抑制できるものであれば特に制限されず、例えば金属、樹脂、セラミック、これらの混合物などが挙げられる。表面処理層は、単層であってもよいし、複数層であってもよい。
【0059】
(カバーレイ)
図1のカバーレイ2は、それ自体が本開示の一実施形態のフレキシブルプリント配線板用カバーレイである。このカバーレイ2は、カバーフィルム5と、このカバーフィルム5に積層される接着剤層6とを備える。
【0060】
カバーフィルム5は、絶縁性及び可撓性を有する。カバーフィルム5の主成分としては、例えば上述のベースフィルム3の主成分と同様の合成樹脂などが挙げられる。
【0061】
カバーフィルム5の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記平均厚さの上限としては、60μmが好ましく、50μmがより好ましい。カバーフィルム5の平均厚さが上記下限未満であると、絶縁性が不十分となるおそれがある。一方、カバーフィルム5の平均厚さが上記上限を超えると、カバーレイ2が不必要に厚くなるおそれや、当該フレキシブルプリント配線板の可撓性が不十分となるおそれがある。
【0062】
接着剤層6は、上述の当該接着剤組成物から形成される。
【0063】
接着剤層6の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記平均厚さの上限としては、100μmが好ましく、75μmがより好ましい。接着剤層6の平均厚さが上記下限未満であると、カバーレイ2と導電パターン4との接着性が不十分となるおそれがある。一方、接着剤層6の平均厚さが上記上限を超えると、カバーレイ2が不必要に厚くなるおそれや、当該フレキシブルプリント配線板の可撓性が不十分となるおそれがある。
【0064】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0065】
例えば当該接着剤組成物は、フレキシブルプリント配線板のカバーレイ用接着剤としてだけでなく、フレキシブルプリント配線板のベースフィルムと導電パターンとを接着するための接着剤として用いられてもよい。
【実施例
【0066】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
<接着剤組成物の調製>
下記表1に示す各成分を下記表1に示す配合で混合することにより接着剤組成物No.1~17を調製した。各接着剤組成物の調製に用いた成分を以下に示す。なお、表1中、「-」は該当する成分を使用しなかったことを示す。
【0068】
[ポリアミドイミド樹脂]
ポリアミドイミド樹脂1:ポリアミドイミド(東洋紡社の「HRタイプ」)、Mw:12.8万、Mn:1.4万、Tg:160℃
ポリアミドイミド樹脂2:ポリアミドイミド(東洋紡社の「HRタイプ」)、Mw:10.0万、Mn:2.0万、Tg:225℃
【0069】
なお、「重量平均分子量(Mw)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量である。ポリイミドアミド樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、以下の条件によるGPCにより測定した値である。
測定装置:wataers 2695(water社)
カラム:GMH-HR-H
移動相:N-メチル-2-ピロリドン
流速:0.5mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:10μL
検出器:示唆屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
【0070】
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂1:エピコート828(三菱化学社)
エポキシ樹脂2:エピコート807(三菱化学社)
【0071】
[エポキシ硬化剤]
エポキシ硬化剤1:ニカラックMW30(三和ケミカル社)
エポキシ硬化剤2:ニカラックMX730(三和ケミカル社)
エポキシ硬化剤3:リカシッドMH-700(新日本理化社)
エポキシ硬化剤4:H-4(昭和化成工業社)
エポキシ硬化剤5:キュアゾールC11Z-CN(四国化成工業社)
エポキシ硬化剤6:ジアミノジフェニルスルホン
【0072】
なお、エポキシ硬化剤1~2はメラミン樹脂であり、エポキシ硬化剤3~6は、トリアジン環を含む化合物には該当しない。
【0073】
[難燃剤]
難燃剤1:SPH-100(大塚化学社)
難燃剤2:HCA(三光社)
【0074】
<評価>
上記調製した接着剤組成物を用いて、ガラス転移点(Tg)、剥離強度、半田耐熱性及び耐マイグレーション性を下記方法に従って評価した。
【0075】
[ガラス転移点(Tg)]
接着剤組成物No.1~17の硬化物から幅10mm、長さ50mm、厚さ20μmの試験片を作製し、この試験片をチャック間長さを20mmとして動的粘弾性測定装置(DMA)(日立ハイテクソリューション社)にて、昇温速度10℃/分、周波数1Hzで測定し、貯蔵弾性率E’(MPa)の変曲点を接着剤組成物の硬化後のガラス転移温度(Tg)とした。結果を下記表1に示す。
【0076】
[剥離強度]
厚さ12.5μmのポリイミドフィルムに接着剤組成物No.1~17を接着剤層の厚さが20μmとなるよう塗工し、カバーレイ用フィルムを作製した。上記カバーレイ用フィルムを厚さ18μmの圧延銅箔に180℃、60分、3MPaの条件でプレス圧着し評価用サンプルを作製した。上記カバーレイ用フィルムから圧延銅箔を剥離する際の剥離強度(N/cm)をJIS-K6584-2:1999「接着剤-はく離接着強さ試験方法、第2部:180度はく離」に準拠し、剥離速度50mm/分で測定した。結果を下記表1に示す。
【0077】
[半田耐熱性]
厚さ12.5μmのポリイミドフィルムに接着剤組成物No.1~17を接着剤層の厚さが20μmとなるよう塗工し、カバーレイ用フィルムを作製した。上記カバーレイ用フィルムを厚さ18μmの圧延銅箔に180℃、60分、3MPaの条件でプレス圧着し評価用サンプルを作製した。上記評価用サンプルを280℃から340℃まで10℃ずつ異なる各温度の半田槽に10秒間浸漬し、目視で基板を観察し、外観変化が観察されない上限温度を半田耐熱温度とした。結果を下記表1に示す。なお、下記表1中、「<280」とは、280℃の半田槽に浸漬した場合に外観変化が観察されたことを示す。
【0078】
[耐イオンマイグレーション性1]
厚さ12.5μmのポリイミドフィルムに接着剤組成物No.1~17を接着剤層の厚さが20μmとなるよう塗工し、カバーレイ用フィルムを作製した。上記カバーレイ用フィルムを回路幅/回路間距離(L/S)=10μm/10μmにくし形に銅回路を形成した基板に180℃、60分、3MPaの条件でプレス圧着し評価用基板を作製した。上記評価用基板に85℃、85%RH(相対湿度)の条件下で30Vの電圧を500時間印加した。耐イオンマイグレーション性1は、500時間経過時点で短絡がない場合は「A(良好)」と、250時間以上500時間未満の間に短絡が見られた場合は「B(不良)」と、100時間以上250時間未満の間に短絡が見られた場合は「C(極めて不良)」と評価した。結果を下記表1に示す。
【0079】
[耐イオンマイグレーション性2]
厚さ12.5μmのポリイミドフィルムに接着剤組成物No.1~17を接着剤層の厚さが20μmとなるよう塗工し、カバーレイ用フィルムを作製した。上記カバーレイ用フィルムを回路幅/回路間距離(L/S)=25μm/25μmにくし形に銅回路を形成した基板に180℃、60分、3MPaの条件でプレス圧着し評価用基板を作製した。上記評価用基板に110℃、85%RHの条件下で32Vの電圧を24時間印加した。耐マイグレーション性2は、24時間経過時点でキーエンス製のデジタル顕微鏡(VHX-5000)を用いて評価基板を観察し、陰極側に銅の析出を示すデンドライトが観察されなかった場合は「A(良好)」と、デンドライトが観察された場合は「B(不良)」と評価した。結果を下記表1に示す。
【0080】
また、接着剤組成物No.2、3及び14を用いた場合の顕微鏡画像を図2~4にそれぞれ示す。
【表1】
【0081】
<評価結果>
上記表1に示すように、ポリアミドイミド樹脂とエポキシ樹脂とエポキシ硬化剤としてトリアジン環を有する化合物とを含有する接着剤組成物No.1~12は、剥離強度及び半田耐熱性に優れており、かつ優れた耐イオンマイグレーション性を有することが分かった。一方、エポキシ硬化剤としてトリアジン環を有する化合物以外のエポキシ硬化剤を含有する接着剤組成物No.13~17は、接着剤組成物No.1~12と比較して、剥離強度が低く、耐イオンマイグレーション性に劣ることが分かった。
【0082】
また、図2~4に示すように、接着剤組成物No.2及び3を用いた場合には、回路間に銅の析出を示すデンドライトは観察されなかった。一方、接着剤組成物No.14を用いた場合には、デンドライトが観察された。
【符号の説明】
【0083】
1 フレキシブルプリント配線板
2 カバーレイ
3 ベースフィルム
4 導電パターン
5 カバーフィルム
6 接着剤層

図1
図2
図3
図4