(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】歯科用ファイル
(51)【国際特許分類】
A61C 5/42 20170101AFI20221221BHJP
【FI】
A61C5/42
(21)【出願番号】P 2019188038
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390003229
【氏名又は名称】マニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松谷 和彦
(72)【発明者】
【氏名】荻野 真充
(72)【発明者】
【氏名】豊田 昌弘
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-523687(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1569202(KR,B1)
【文献】米国特許第5762497(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
らせん状に形成された作業部を有する歯科用ファイルであって、
長手方向に垂直な断面の断面形状が、1本の円弧状部と、上記円弧状部から順次連続する第1から第3の3本の線状部とで構成され、基端部から先端部にかけて、上記円弧状部を含む仮想円の直径が小さく設定されるとともに、
上記第1の線状部と第2の線状部との接続点、および第2の線状部と第3の線状部との接続点が、上記仮想円よりも内側に位置するように設定され、
上記円弧状部と第1の線状部との接続点を通る直径と、第1の線状部とのなす角度が、上記基端部から先端部にかけて大きく設定されていることを特徴とする歯科用ファイル。
【請求項2】
請求項1の歯科用ファイルであって、
上記仮想円の直径に対する、上記仮想円の中心から上記第1の線状部までの距離の割合が、上記基端部から先端部にかけて大きく設定されていることを特徴とする歯科用ファイル。
【請求項3】
請求項2の歯科用ファイルであって、
上記第1の線状部と第3の線状部とが平行に形成されるとともに、上記仮想円の直径に対する、上記第1の線状部と第3の線状部との間の距離の割合が、上記基端部から先端部にかけて大きく設定されていることを特徴とする歯科用ファイル。
【請求項4】
請求項2の歯科用ファイルであって、
上記仮想円の中心から上記第1の線状部に下ろした垂線と、
上記仮想円の中心から上記第3の線状部に下ろした垂線とがなす上記円弧状部側の角度が、上記基端部から先端部にかけて小さく設定されていることを特徴とする歯科用ファイル。
【請求項5】
請求項1の歯科用ファイルであって、
上記円弧状部に対応する中心角が、上記基端部から先端部にかけて大きく設定されていることを特徴とする歯科用ファイル。
【請求項6】
請求項1の歯科用ファイルであって、
上記仮想円の中心から、上記第1から第3の線状部までの各距離が、互いに等しく設定されていることを特徴とする歯科用ファイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療において根管の拡大や清掃に用いられる歯科用ファイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において根管の拡大や清掃に用いられる歯科用根管切削具として、リーマやファイルがある(例えば、特許文献1参照。)。リーマは主に回転させることで根管内を切削し、ファイルは回転させたり軸方向に押し引きしたりして根管内を切削するものである。
【0003】
一般的な歯科用ファイルには、把持部を手で把持して用いられるものと、把持部を歯科用ハンドピースに接続して用いられるものとがある。歯科用ファイルは、らせん状で先端に向かって細くなっている形状の作業部と、その作業部の後端に連なるシャフトと、そのシャフトの後端に連なる把持部とを有している。このような歯科用ファイルに要求される主な性能としては、複雑な形状の根管に追従できる柔軟性、根管を適切に切削できる切削性、および作業中に破損することがない耐破断性などが挙げられる。これらの性能が高いほど、根管形成を容易かつ素早く行うことが可能となり、施術者および患者の負担を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような事情に鑑み、本発明は、歯科用ファイルの柔軟性、切削性、および/または耐破断性を高くすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、
らせん状に形成された作業部を有する歯科用ファイルであって、
長手方向に垂直な断面の断面形状が、1本の円弧状部と、上記円弧状部から順次連続する第1から第3の3本の線状部とで構成され、基端部から先端部にかけて、上記円弧状部を含む仮想円の直径が小さく設定されるとともに、
上記第1の線状部と第2の線状部との接続点、および第2の線状部と第3の線状部との接続点が、上記仮想円よりも内側に位置するように設定され、
上記円弧状部と第1の線状部との接続点を通る直径と、第1の線状部とのなす角度が、上記基端部から先端部にかけて大きく設定されていることを特徴とする。
【0007】
これにより、例えば歯科用ファイルが上記円弧状部から第1の線状部の方向に回転する場合、切削は、上記円弧状部が切削孔の内面に沿いながら主として円弧状部と第1の線状部との接続点によって行われるとともに、上記円弧状部と第1の線状部との接続点を通る直径と、第1の線状部とのなす角度が、上記基端部から先端部にかけて大きく設定されていることによって、例えば、先端付近の切削力を抑えつつ、基端部にかけて切削性能や排出性能、柔軟性を向上させることなどができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、歯科用ファイルの柔軟性、切削性、および/または耐破断性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1の歯科用ファイルの平面図である。
【
図4】実施形態2における
図1のIII-III線断面相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態や変形例において、同様の機能を有する構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0011】
(実施形態1)
歯科用ファイル100は、
図1に示すように、根管を切削する作業部100aと、その作業部100aの後端に連なるシャフト100bと、そのシャフト100bの後端に連なり歯科用ハンドピースに取り付けられる図示しない把持部とを有している。歯科用ファイル100の素材としては、例えば、複雑に湾曲した根管の治療に適する弾力性の高いニッケルチタン等が用いられることが多いが、これに限らず、ステンレス材や、種々の合金、プラスチックなども適用され得る。
【0012】
歯科用ファイル100の作業部100aは、外面の包絡面が、先端に向かって断面が小さくなるテーパー形状であり、かつ、類似した形状の断面がらせん状に形成された構成を有している。より詳しくは、作業部100aにおける長手方向に垂直な断面の断面形状は、例えば
図1のII-II線断面図、またはIII-III線断面図を
図2または
図3に示すように形成されている。すなわち、上記断面形状は、1本の円弧状部111(ランド部)と、上記円弧状部111から順次連続する第1から第3の3本の線状部112~114とで構成され、作業部100aの基端部から先端部にかけて、上記円弧状部111を含み中心がOの仮想円101の直径が小さくなるように設定されている。上記線状部112~114は、必ずしも正確な直線でなくてもよく、例えば多少湾曲したりしても以下に説明するような作用効果を得ることはできる。ここで、
図2および
図3においては、便宜上、仮想円101の直径が等しくなるような縮尺で描かれている。
【0013】
上記第1の線状部112と第2の線状部113との接続点122、および上記第2の線状部113と第3の線状部114との接続点123は、上記仮想円101よりも内側に位置するように設定されている。また、特に限定されないが、例えば第1の線状部112、および第3の線状部114は、互いに平行に形成されている。これによって、刃溝研削加工を容易にしたり、刃溝研削加工精度を高くしたりすることなどが容易になっている。
【0014】
ここで、歯科用ファイル100の通常の使用時において、作業部100aでの切削くずが基部の方に向けて運ばれる回転方向を主となる回転方向Rとすると、すなわち、具体的には例えば、歯科用ファイル100のらせんが右ねじの場合には、先端側から見て反時計回りが主となる回転方向Rとすると、そのようなRの方向に回転する際には、円弧状部111と第1の線状部112との接続点121が、歯科用ファイル100の回転に伴って切削作用を生じることになる。なお、歯科用ファイル100の回転方向はR方向に限らず、逆回転を含むモードや、交互に回転方向が変わるモードで用いられるなどしてもよい。
【0015】
また、円弧状部111と第1の線状部112との接続点121を通る仮想円101の直径と、第1の線状部112とのなす角度A11・A12は、先端部での角度(例えばA11)の方が基端部での角度(例えばA12)よりも大きくなるように設定されている。なお、絶対的な角度A11・A12の大きさは特に限定されないが、例えば10°~40°の範囲などに設定される。
【0016】
上記のような角度A11・A12の設定は、例えば、仮想円101の直径に対する仮想円101の中心Oから第1の線状部112までの相対的な距離(距離の割合)が、先端部での距離L11の方が基端部での距離L21よりも長くなるように設定することによって、行うことができる。
【0017】
また、上記のような設定と等価ではないが、実際上、仮想円101の直径に対する第1の線状部112と第3の線状部114との間の距離L21・L22の割合を規定することによって設定することもできる。すなわち、例えば特に歯科用ファイル100の断面形状が仮想円101の中心Oを通る直線に対して線対称で、第1の線状部112と第3の線状部114とが平行に形成される場合には、仮想円101の直径に対する、第1の線状部112と第3の線状部114との間の距離L21・L22の割合が、歯科用ファイル100の基端部から先端部にかけて大きく設定されるようにしてもよい。また、円弧状部111に対応する中心角A21・A22が、歯科用ファイル100の基端部から先端部にかけて大きく設定されるようにしてもよい。
【0018】
これらによって、先端付近の切削力を少し抑えたい段階(根管形成の初期段階等)や、根尖付近が曲がった根管などでの追従性向上に効果を発揮させることが容易になる。また、シャンク部にかけて切削性能や排出性能が向上し、シャンク部にかけて柔軟性も向上することにより切削性と操作性の両立を図ることもできる。さらに、先端付近に、いわゆる「コシ」があり、回転伝達力も向上させることが容易になる。
【0019】
(実施形態2)
上記のような歯科用ファイル100の先端部と基端部における角度A11・A12と同様の角度関係は、基端部での断面形状を
図4に示すように形成することによって設定することもできる。すなわち、円弧状部111の中心Oから第1の線状部112に下ろした垂線と、第3の線状部114に下ろした垂線とが成す角度(円弧状部111側の角度)が、先端部での角度A31の方が、基端部での角度A33に比べて小さくなるように設定されている。これによって、円弧状部111と第1の線状部112との接続点121を通る仮想円101の直径と、第1の線状部112とのなす角度A11・A13が、先端部での角度(例えばA11)の方が基端部での角度(例えばA13)よりも大きくなるように設定することができる。
【0020】
これによって、やはり、先端付近の切削力を少し押さえたい段階(根管形成の初期段階等)で適度な切削性能を得られるだけでなく、仕上げ段階や全体の切削力を求められる症例でも効果を発揮させることが容易になる。また、曲がった根管への高い追従性を備えながらシャンク部にかけて切削力を増すことが可能になる。また、シャンク部にかけて切削性能や排出性能が向上し、シャンク部にかけて柔軟性も向上することにより切削性と操作性の両立を図ることも可能になる。
【0021】
(その他の事項)
上記のような歯科用ファイル100の断面形状において、仮想円101の中心Oから、第1から第3の線状部112~114の2本以上までの距離が互いに等しく設定され、またはこれらの線状部112~114が、仮想円101の中心Oと同じ中心をもつ同一の内接円に接するようにされてもよい。このような形状は、仮想円101の外周から各線状部112~114までの削り込み量を等しくすることによって容易に形成することができ、例えば研削機械を動作させるプログラムにおいて、所定の削り込み量のルーチンを共通に用いて研削することなどが容易にできる。
【符号の説明】
【0022】
100 歯科用ファイル
100a 作業部
100b シャフト
101 仮想円
111 円弧状部
112 第1の線状部
113 第2の線状部
114 第3の線状部
121 接続点
122 接続点
123 接続点