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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の正極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20221221BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221221BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20221221BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/485
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019218328
(22)【出願日】2019-12-02
(62)【分割の表示】P 2017197444の分割
【原出願日】2017-10-11
(65)【公開番号】P2020043089
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2019-12-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2016200835
(32)【優先日】2016-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017052309
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017100619
(32)【優先日】2017-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】川上 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】落合 輝明
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 彩恵
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正弘
(72)【発明者】
【氏名】三上 真弓
【合議体】
【審判長】酒井 朋広
【審判官】須原 宏光
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-129498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト及びリチウムを含む複合酸化物を有する正極活物質であって、
前記正極活物質は、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、リチウムと、コバルトと、アルミニウムと、を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、を有し、
前記第2の領域は、前記正極活物質の表面近傍に位置し、
STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度のピークは、前記正極活物質の表面から深さ2nmまでに存在する、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項2】
コバルト及びリチウムを含む複合酸化物を有する正極活物質であって、
前記正極活物質は、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、リチウムと、コバルトと、アルミニウムと、を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆し、
STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度のピークは、前記正極活物質の表面から深さ2nmまでに存在する、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項3】
コバルト及びリチウムを含む複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記正極活物質は、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、リチウムと、コバルトと、アルミニウムと、を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第2の領域は、前記正極活物質の表面近傍に位置し、
STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度のピークは、前記正極活物質の表面から深さ2nmまでに存在し、
前記第1の領域は、層状岩塩型の結晶構造を有し、
前記第2の領域は、岩塩型の結晶構造を有し、
前記第1の領域と前記第2の領域は、結晶の配向が互いに概略一致するリチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項4】
コバルト及びリチウムを含む複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記正極活物質は、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、リチウムと、コバルトと、アルミニウムと、を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆し、
STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度のピークは、前記正極活物質の表面から深さ2nmまでに存在し、
前記第1の領域は、層状岩塩型の結晶構造を有し、
前記第2の領域は、岩塩型の結晶構造を有し、
前記第1の領域と前記第2の領域は、結晶の配向が互いに概略一致するリチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項5】
コバルト及びリチウムを含む複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記正極活物質は、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、リチウムと、コバルトと、アルミニウムと、を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第2の領域は、前記正極活物質の表面近傍に位置し、
STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度のピークは、前記正極活物質の表面から深さ2nmまでに存在し、
前記第1の領域は、層状岩塩型の結晶構造を有し、
前記第2の領域は、岩塩型の結晶構造を有し、
前記第1の領域と前記第2の領域は、結晶の配向が互いに概略一致し、
前記第2の領域は、STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度がピークの1/5になる深さまでであるリチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項6】
コバルト及びリチウムを含む複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記正極活物質は、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、リチウムと、コバルトと、アルミニウムと、を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆し、
STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度のピークは、前記正極活物質の表面から深さ2nmまでに存在し、
前記第1の領域は、層状岩塩型の結晶構造を有し、
前記第2の領域は、岩塩型の結晶構造を有し、
前記第1の領域と前記第2の領域は、結晶の配向が互いに概略一致し、
前記第2の領域は、STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度がピークの1/5になる深さまでであるリチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項7】
コバルト及びリチウムを含む複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記正極活物質は、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、リチウムと、コバルトと、アルミニウムと、を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第2の領域は、前記正極活物質の表面近傍に位置し、
STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度のピークは、前記正極活物質の表面から深さ2nmまでに存在し、
前記第1の領域は、層状岩塩型の結晶構造を有し、
前記第2の領域は、岩塩型の結晶構造を有し、
前記第1の領域と前記第2の領域は、結晶の配向が互いに概略一致し、
前記第2の領域は、前記正極活物質の最表面から、ToF-SIMSを用いた深さ方向分析で検出されるマグネシウムの濃度が、ピークの1/5になるまでの範囲であり、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であるリチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項8】
コバルト及びリチウムを含む複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記正極活物質は、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、リチウムと、コバルトと、アルミニウムと、を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆し、
STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度のピークは、前記正極活物質の表面から深さ2nmまでに存在し、
前記第1の領域は、層状岩塩型の結晶構造を有し、
前記第2の領域は、岩塩型の結晶構造を有し、
前記第1の領域と前記第2の領域は、結晶の配向が互いに概略一致し、
前記第2の領域は、前記正極活物質の最表面から、ToF-SIMSを用いた深さ方向分析で検出されるマグネシウムの濃度が、ピークの1/5になるまでの範囲であって、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であるリチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項9】
コバルト及びリチウムを含む複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記正極活物質は、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、リチウムと、コバルトと、アルミニウムと、を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第2の領域は、前記正極活物質の表面近傍に位置し、
STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度のピークは、前記正極活物質の表面から深さ2nmまでに存在し、
前記第1の領域は、層状岩塩型の結晶構造を有し、
前記第2の領域は、岩塩型の結晶構造を有し、
前記第1の領域と前記第2の領域は、結晶の配向が互いに概略一致し、
前記正極活物質は、さらに第3の領域を有し、
前記第3の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第3の領域は、前記第1の領域の内部に位置し、
前記第3の領域は、前記第1の領域の結晶欠陥のある部分およびその近傍に位置するリチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項10】
コバルト及びリチウムを含む複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記正極活物質は、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、リチウムと、コバルトと、アルミニウムと、を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆し、
STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度のピークは、前記正極活物質の表面から深さ2nmまでに存在し、
前記第1の領域は、層状岩塩型の結晶構造を有し、
前記第2の領域は、岩塩型の結晶構造を有し、
前記第1の領域と前記第2の領域は、結晶の配向が互いに概略一致し、
前記正極活物質は、さらに第3の領域を有し、
前記第3の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第3の領域は、前記第1の領域の内部に位置し、
前記第3の領域は、前記第1の領域の結晶欠陥のある部分およびその近傍に位置するリチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項11】
コバルト及びリチウムを含む複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記正極活物質は、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、リチウムと、コバルトと、アルミニウムと、を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第2の領域は、前記正極活物質の表面近傍に位置し、
STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度のピークは、前記正極活物質の表面から深さ2nmまでに存在し、
前記第1の領域は、層状岩塩型の結晶構造を有し、
前記第2の領域は、岩塩型の結晶構造を有し、
前記第1の領域と前記第2の領域は、結晶の配向が互いに概略一致し、
前記第2の領域は、前記正極活物質の最表面から、ToF-SIMSを用いた深さ方向分析で検出されるマグネシウムの濃度が、ピークの1/5になるまでの範囲であり、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であり、
前記正極活物質は、さらに第3の領域を有し、
前記第3の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第3の領域は、前記第1の領域の内部に位置し、
前記第3の領域は、前記第1の領域の結晶欠陥のある部分およびその近傍に位置するリチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項12】
コバルト及びリチウムを含む複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記正極活物質は、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域は、リチウムと、コバルトと、アルミニウムと、を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆し、
STEM-EDXの線分析で測定されるマグネシウムの濃度のピークは、前記正極活物質の表面から深さ2nmまでに存在し、
前記第1の領域は、層状岩塩型の結晶構造を有し、
前記第2の領域は、岩塩型の結晶構造を有し、
前記第1の領域と前記第2の領域は、結晶の配向が互いに概略一致し、
前記第2の領域は、前記正極活物質の最表面から、ToF-SIMSを用いた深さ方向分析で検出されるマグネシウムの濃度が、ピークの1/5になるまでの範囲であって、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であり、
前記正極活物質は、さらに第3の領域を有し、
前記第3の領域は、マグネシウムと、フッ素と、コバルトと、を有し、
前記第3の領域は、前記第1の領域の内部に位置し、
前記第3の領域は、前記第1の領域の結晶欠陥のある部分およびその近傍に位置するリチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか一において、
前記正極活物質の表面におけるX線光電子分光で測定される、リチウム、コバルト、酸素、フッ素およびマグネシウムを含む原子の総量を100atomic%としたときの、マグネシウムの濃度が、1atomic%以上16atomic%以下である、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれか一において、
前記正極活物質におけるX線光電子分光で測定される、リチウム、コバルト、酸素、フッ素およびマグネシウムを含む原子の総量を100atomic%としたときの、フッ素の濃度が、0.2atomic%以上4atomic%以下である、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか一において、
前記第2の領域は、マグネシウムとフッ素の濃度が、Mg:F=y:1(3≦y≦5)(原子数比)である領域を有する、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項16】
請求項1乃至請求項15のいずれか一において、
前記第2の領域は、2価で存在しているコバルトの方が3価で存在しているコバルトよりも多い電子エネルギー損失分光法による分析点を有するリチウムイオン二次電池の正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一様態は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、
マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。
本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置または電子機
器の製造方法に関する。特に、二次電池に用いることのできる正極活物質、二次電池、お
よび二次電池を有する電子機器に関する。
【0002】
なお、本明細書中において、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すも
のである。例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電池(二次電池ともいう)、リチウ
ムイオンキャパシタ、及び電気二重層キャパシタなどを含む。
【0003】
また、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を
有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池等、種々の蓄電装
置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高容量であるリチウムイオン二次電池は、
携帯電話、スマートフォン、もしくはノート型コンピュータ等の携帯情報端末、携帯音楽
プレーヤ、デジタルカメラ、医療機器、又は、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(
EV)、もしくはプラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー
自動車など、半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギー
の供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0005】
現在リチウムイオン二次電池に要求されている特性としては、さらなる高容量化、サイク
ル特性の向上及び様々な動作環境での安全性、長期信頼性の向上などがある。
【0006】
リチウムイオン二次電池の容量を増やす方法の一つとして、充電電圧を高くすることが知
られている。たとえばリチウムイオン二次電池の正極活物質によく用いられるコバルト酸
リチウムの容量は、一般的に、充電電圧が4.3Vのときは155mAh/gであるが、
充電電圧を4.6Vに上げると220mAh/gとなる(図21(A)参照)。
【0007】
しかしながら、充電電圧を高くすると、サイクル特性が悪化することも知られている。た
とえば一般的なコバルト酸リチウムは、充電電圧が4.4Vのときの30サイクル後の容
量維持率は95%以上であるが、充電電圧を4.6Vに上げると30サイクル後の容量維
持率は50%以下にまで低下する(図21(B)参照)。
【0008】
そのためリチウムイオン二次電池のサイクル特性の向上および高容量化のために、正極活
物質の改良が検討されている(特許文献1および特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-018914号公報
【文献】特開2016-076454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このようにリチウムイオン二次電池およびそれに用いられる正極活物質には、容量、サイ
クル特性、充放電特性、信頼性、安全性、又はコストといった様々な面で改善の余地が残
されている。
【0011】
本発明の一態様は、リチウムイオン二次電池に用いることで、充放電サイクルにおける容
量の低下が抑制される正極活物質を提供することを課題の一とする。または、本発明の一
態様は、高容量の二次電池を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は
、充放電特性の優れた二次電池を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態
様は、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することを課題の一とする。
【0012】
または、本発明の一態様は、新規な物質、活物質、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提
供することを課題の一とする。
【0013】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一
態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請
求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、正極活物質の表層部に、偏析によって被
覆層を形成することを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様は、正極活物質であって、正極活物質は、第1の領域と、第2の領域と、
を有し、第1の領域は正極活物質の内部に存在し、第2の領域は、正極活物質の表層部お
よび内部の一部に存在し、第1の領域はリチウムと、遷移金属と、酸素と、を有し、第2
の領域はマグネシウムと、フッ素と、酸素と、を有する、正極活物質である。
【0016】
また、本発明の一態様は、正極活物質であって、正極活物質は、リチウムと、遷移金属と
、酸素と、マグネシウムと、フッ素と、を有し、正極活物質の表面に存在し、X線光電子
分光で測定されるリチウム、遷移金属、酸素、フッ素、およびマグネシウムを含む原子の
総量を100atomic%として、正極活物質の表面に存在し、X線光電子分光で測定
されるマグネシウム濃度が1atomic%以上16atomic%以下であり、フッ素
濃度が0.2atomic%以上4atomic%以下である、正極活物質である。
【0017】
また、本発明の一態様は、正極活物質であって、正極活物質は、リチウムと、遷移金属と
、酸素と、マグネシウムと、フッ素と、を有し、X線光電子分光で測定される正極活物質
の表面のマグネシウム濃度とフッ素濃度の比は、Mg:F=y:1(3≦y≦5)である
、正極活物質である。
【0018】
また、本発明の一態様は、正極活物質であって、正極活物質は、リチウムと、遷移金属と
、酸素と、マグネシウムと、フッ素と、を有し、X線光電子分光で測定される正極活物質
表面のフッ素の結合エネルギーのピーク位置が、682eV以上685eV未満となる、
正極活物質である。
【0019】
また上記において、遷移金属は、コバルトを含むことが好ましい。または、上記において
、遷移金属は、マンガン、コバルトおよびニッケルを含むことが好ましい。
【0020】
また、本発明の一態様は、正極活物質であって、正極活物質は、第1の領域と、第2の領
域と、を有し、第1の領域は内部に存在し、リチウムと、遷移金属と、酸素と、を有し、
層状岩塩型の結晶構造を有し、第2の領域は、表層部および内部の一部に存在し、マグネ
シウムと、フッ素と、酸素と、を有し、岩塩型の結晶構造を有し、第1の領域と第2の領
域の結晶の配向は一致し、X線光電子分光で測定される正極活物質の表面のマグネシウム
濃度とフッ素濃度の比は、Mg:F=y:1(3≦y≦5)である、正極活物質である。
【0021】
また上記において、X線光電子分光で測定される正極活物質表面のフッ素の結合エネルギ
ーのピーク位置が、682eV以上685eV未満であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の一態様は、リチウム源、遷移金属源、マグネシウム源およびフッ素源を混
合する工程と、800℃以上1100℃以下で2時間以上20時間以下加熱する工程と、
酸素を有する雰囲気で500℃以上1200℃以下、保持時間50時間以下で加熱する工
程と、を有する正極活物質の作製方法であり、フッ素源に含まれるフッ素と、マグネシウ
ム源に含まれるマグネシウムの原子数比は、Mg:F=1:x(1.5≦x≦4)である
、正極活物質の作製方法である。
【0023】
または、本発明の一態様は、正極活物質であって、正極活物質は、第1の領域と、第2の
領域と、を有し、第1の領域は正極活物質の内部に存在し、第2の領域は、正極活物質の
表層部および内部の一部に存在し、第1の領域はリチウムと、コバルトと、酸素と、を有
し、第2の領域はコバルトと、マグネシウムと、フッ素と、酸素と、を有し、正極活物質
を、電子エネルギー損失分光法で分析したとき、第1の領域が有するコバルトのL/L
は3.8未満であり、第2の領域が有するコバルトはL/Lは3.8以上である、
正極活物質である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様により、リチウムイオン二次電池に用いることで、充放電サイクルにおけ
る容量の低下が抑制される正極活物質を提供することができる。また、高容量の二次電池
を提供することができる。また、充放電特性の優れた二次電池を提供することができる。
また、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することができる。また、新規な物質、活
物質、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】正極活物質の一例を説明する図。
図2】正極活物質の作製方法の一例を説明する図。
図3】導電助剤としてグラフェン化合物を用いた場合の活物質層の断面図。
図4】コイン型二次電池を説明する図。
図5】円筒型二次電池を説明する図。
図6】二次電池の例を説明する図。
図7】二次電池の例を説明する図。
図8】二次電池の例を説明する図。
図9】二次電池の例を説明する図。
図10】ラミネート型の二次電池を説明する図。
図11】ラミネート型の二次電池を説明する図。
図12】二次電池の外観を示す図。
図13】二次電池の外観を示す図。
図14】二次電池の作製方法を説明するための図。
図15】曲げることのできる二次電池を説明する図。
図16】曲げることのできる二次電池を説明する図。
図17】電子機器の一例を説明する図。
図18】電子機器の一例を説明する図。
図19】電子機器の一例を説明する図。
図20】電子機器の一例を説明する図。
図21】従来例の二次電池の特性を説明する図。
図22】実施例1の正極活物質のSTEM像およびEDXマッピング。
図23】実施例1の正極活物質のSTEM像およびEDXマッピング。
図24】実施例1の正極活物質の表面近傍のマグネシウム量を示すグラフ。
図25】実施例1の二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図26】実施例1の二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図27】実施例1の二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図28】実施例1の二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図29】実施例2の正極活物質のSTEM像。
図30】実施例2の正極活物質のSTEM像。
図31】実施例2の二次電池の充放電特性を示すグラフ。
図32】実施例2の二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図33】実施例3の正極活物質のSTEM像およびFFT像。
図34】実施例3の正極活物質のSTEM像およびFFT像。
図35】実施例3の正極活物質のSTEM像およびEDXマッピング。
図36】実施例3の正極活物質のTEM像。
図37】実施例3の正極活物質のSTEM像およびEDXマッピング。
図38】実施例3の正極活物質のToF-SIMS深さ分析。
図39】実施例3の正極活物質のXPSスペクトル。
図40】実施例4の二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図41】実施例4の二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図42】実施例4の二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図43】実施例6の二次電池のサイクル特性を示すグラフ。
図44】実施例6の正極活物質のSTEM像。
図45】実施例6の正極活物質のSTEM像。
図46】実施例6の正極活物質のSTEM像およびFFT像。
図47】実施例6の正極活物質のSTEM像および結晶構造の推定モデル。
図48】実施例6の正極活物質のSTEM像およびEDXマッピング。
図49】実施例6の正極活物質のSTEM像およびEDXマッピング。
図50】実施例7の正極活物質のEELS分析結果を示すグラフ。
図51】実施例7の正極活物質のEELS分析結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は
以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれ
ば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈さ
れるものではない。
【0027】
なお、本明細書で説明する各図において、正極、負極、活物質層、セパレータ、外装体な
どの各構成要素の大きさや厚さ等は、個々に説明の明瞭化のために誇張されている場合が
ある。よって、必ずしも各構成要素はその大きさに限定されず、また各構成要素間での相
対的な大きさに限定されない。
【0028】
また、本明細書等で説明する本発明の構成において、同一部分又は同様の機能を有する部
分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。また
、同様の機能を有する部分を指す場合には、ハッチパターンを同じくし、特に符号を付さ
ない場合がある。
【0029】
また、結晶面および方向の表記にはミラー指数を用いる。ミラー指数の表記では、結晶学
上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等では出願表記の制約上、数字の前に-(マ
イナス符号)を付すこととする。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な
方向すべてを示す集合方位は< >で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を
有する集合面は{ }でそれぞれ示すこととする。
【0030】
本明細書等において、偏析とは、複数の元素(たとえばA,B,C)からなる固体におい
て、ある元素(たとえばB)が不均一に分布する現象をいう。
【0031】
本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する層状岩塩型の結晶構
造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属とリ
チウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である
結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層
状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合が
ある。
【0032】
岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列している構造をいう。なお陽イ
オンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0033】
層状岩塩型結晶および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)を
とる。層状岩塩型結晶と岩塩型結晶が接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充
填構造が一致する結晶面が存在する。ただし、層状岩塩型結晶の空間群はR-3mであり
、岩塩型の空間群Fm-3mとは異なるため、上記の条件を満たす結晶面の指数は層状岩
塩型結晶と岩塩型結晶では異なる。本明細書では、層状岩塩型結晶及び岩塩型結晶におい
て、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃うとき、結晶の配向が概略一
致する、と言う事が出来る。
【0034】
たとえば層状岩塩型の結晶構造を有するコバルト酸リチウムと、岩塩型の結晶構造を有す
る酸化マグネシウムが接するとき、結晶の配向が概略一致するのは、コバルト酸リチウム
の(1-1-4)面と酸化マグネシウムの{001}面が接する場合、コバルト酸リチウ
ムの(104)面と酸化マグネシウムの{001}面が接する場合、コバルト酸リチウム
の(0-14)面と酸化マグネシウムの{001}面が接する場合、コバルト酸リチウム
の(001)面と酸化マグネシウムの{111}面が接する場合、コバルト酸リチウムの
(012)面と酸化マグネシウムの{111}面が接する場合、等である。
【0035】
二つの領域の結晶の配向が概略一致することは、TEM(透過電子顕微鏡)像、STEM
(走査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕
微鏡)像、ABF-STEM(環状明視野走査透過電子顕微鏡)像等から判断することが
できる。X線回折、電子線回折、中性子線回折等も判断の材料にすることができる。TE
M像等では、陽イオンと陰イオンの配列が、明線と暗線の繰り返しとして観察できる。層
状岩塩型結晶と岩塩型結晶において立方最密充填構造の向きが揃うと、結晶間で、明線と
暗線の繰り返しのなす角度が5度以下、より好ましくは2.5度以下である様子が観察で
きる。なお、TEM像等では酸素、フッ素をはじめとする軽元素は明確に観察できない場
合があるが、その場合は金属元素の配列で配向の一致を判断することができる。
【0036】
また本明細書等において、二次元界面の構造に類似性があることをエピタキシという。ま
た二次元界面の構造に類似性を有する結晶成長を、エピタキシャル成長という。また三次
元的な構造上の類似性を有すること、または結晶学的に同じ配向であることをトポタキシ
という。そのためトポタキシである場合、断面の一部を観察すると、二つの領域(たとえ
ば下地となった領域と成長して形成された領域)の結晶の配向が概略一致する。
【0037】
(実施の形態1)
[正極活物質の構造]
まず図1を用いて、本発明の一態様である正極活物質100について説明する。図1(A
)に示すように、正極活物質100は、第1の領域101と、第2の領域102を有する
。第1の領域101上に第2の領域102を有するといってもよいし、第2の領域102
は、第1の領域101の少なくとも一部を被覆するといってもよい。
【0038】
第1の領域101と第2の領域102は、異なる組成を有する領域である。しかし第2の
領域102は、後述するが特定の元素が偏析している領域であることが好ましいため、二
つの領域の境界は明瞭でない場合がある。図1(A)では、第1の領域101と第2の領
域102を点線で分け、点線をまたいである元素の濃度が傾斜している様子をグレーの濃
淡で示した。図1(B)以降では便宜上、第1の領域101と第2の領域102の境界を
点線のみで示すこととする。第1の領域101と第2の領域102の境界の詳細について
は後述する。
【0039】
また図1(B)に示すように、正極活物質の内部に第2の領域102が存在してもよい。
たとえば第1の領域101が多結晶であるとき、粒界およびその近傍に特定の元素が偏析
し、第2の領域102を形成していてもよい。また、正極活物質の結晶欠陥のある部分お
よびその近傍に、特定の元素が偏析し、第2の領域102を形成していてもよい。なお本
明細書等において、結晶欠陥とはTEM像等で観察可能な欠陥、結晶中に他の元素の入り
込んだ構造等をいうこととする。
【0040】
また、図1(B)に示すように、第2の領域102は、第1の領域101の全てを被覆し
ていなくてもよい。
【0041】
言い換えれば、第1の領域101は、正極活物質100の内部に存在し、第2の領域10
2は、正極活物質100の表層部に存在する。さらに第2の領域102は、正極活物質1
00の内部に存在していてもよい。
【0042】
また第1の領域101は、たとえば固相Aといってもよい。また第2の領域102は、た
とえば固相Bといってもよい。
【0043】
正極活物質100の粒径は、大きすぎるとリチウムの拡散が難しくなる、集電体に塗工し
たときに活物質層の表面が粗くなりすぎる、等の問題がある。一方、小さすぎると、集電
体への塗工時に活物質層を担持しにくくなる、電解液との反応が過剰に進む等の問題点も
生じる。そのため、D50(メディアン径ともいう)が、0.1μm以上100μm以下
が好ましく、1μm以上40μm以下であることがより好ましい。
【0044】
<第1の領域101>
第1の領域101は、リチウムと、遷移金属と、酸素と、を有する。第1の領域101は
リチウムと遷移金属を含む複合酸化物を有するといってもよい。
【0045】
第1の領域101が有する遷移金属としては、リチウムとともに層状岩塩型の複合酸化物
を形成しうる金属を用いることが好ましい。たとえばマンガン、コバルト、ニッケルのう
ち一つもしくは複数を用いることができる。つまり第1の領域101が有する遷移金属と
してコバルトのみを用いてもよいし、コバルトとマンガンの2種を用いてもよいし、コバ
ルト、マンガン、ニッケルの3種を用いてもよい。また第1の領域101は遷移金属に加
えて、アルミニウムをはじめとする遷移金属以外の金属を有していてもよい。
【0046】
つまり第1の領域101は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルトの一部
がマンガンで置換されたコバルト酸リチウム、ニッケル-マンガン-コバルト酸リチウム
等、ニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウム等の、リチウムと遷移金属を含む複合
酸化物を有することができる。
【0047】
第1の領域101は、正極活物質100の中でも特に充放電反応に寄与する領域として機
能する。正極活物質100を二次電池に用いた際の容量を大きくするために、第1の領域
101は、第2の領域102よりも体積が大きいことが好ましい。
【0048】
層状岩塩型の結晶構造は、リチウムが二次元的に拡散しやすいため第1の領域101とし
て好ましい。また、第1の領域101が層状岩塩型の結晶構造を有する場合、意外にも、
後述するようにマグネシウムが偏析しやすい。しかし第1の領域101のすべてが層状岩
塩型の結晶構造でなくてもよい。たとえば第1の領域101の一部に結晶欠陥があっても
よいし、第1の領域101の一部は非晶質であってもよいし、その他の結晶構造を有して
いてもよい。
【0049】
<第2の領域102>
第2の領域102は、マグネシウムと、フッ素と、酸素と、を有する。たとえば第2の領
域102は酸化マグネシウムを有し、酸素の一部がフッ素で置換されているといってもよ
い。
【0050】
第2の領域102は、第1の領域101の少なくとも一部を被覆している。第2の領域1
02が有する酸化マグネシウムは電気化学的に安定な材料であるため、充放電を繰り返し
ても劣化が生じにくく被覆層として好適である。
【0051】
第2の領域102は、薄すぎると被覆層としての機能が低下するが、厚くなりすぎても容
量の低下を招く。そのため、第2の領域の厚さは0.5nm以上50nm以下が好ましく
、0.5nm以上3nm以下がより好ましい。
【0052】
第2の領域102は、岩塩型の結晶構造を有すると、第1の領域101と結晶の配向が一
致しやすく、安定した被覆層として機能しやすいため好ましい。しかし、第2の領域10
2のすべてが岩塩型の結晶構造でなくてもよい。たとえば第2の領域102の一部は非晶
質であってもよいし、その他の結晶構造を有していてもよい。
【0053】
一般的に、正極活物質は、充放電を繰り返すにつれ、コバルトやマンガン等の遷移金属が
電解液に溶出する、酸素が離脱する、結晶構造が不安定になる、といった副反応が生じ、
劣化が進んでゆく。しかしながら本発明の一態様の正極活物質100は、表層部に第2の
領域102を有するため、第1の領域101が有するリチウムと遷移金属を含む複合酸化
物の結晶構造をより安定にすることが可能である。
【0054】
また第2の領域102は、マグネシウムと、フッ素と、酸素と、を有するが、さらに第1
の領域101と同じ遷移金属を有することが好ましい。また第1の領域101と第2の領
域102が同じ遷移金属を有する場合、これら2つの領域では遷移金属の価数が異なって
いることが好ましい。より具体的には、第1の領域101が有する遷移金属は3価の原子
が他の価数の原子より多いことが好ましく、第2の領域102が有する遷移金属は2価の
原子が他の価数の原子より多いことが好ましい。
【0055】
第2の領域102に2価の遷移金属が多いと、CoO(II)、MnO(II)、Ni(
II)のような、遷移金属:酸素=1:1(原子数比)の金属酸化物が多くなる。これら
の金属酸化物は、同じく2価の金属の酸化物である、酸化マグネシウムと安定した固溶体
を形成しやすい。そのため、第2の領域102がより安定で良好な被覆層になりうる。
【0056】
遷移金属の価数はEELS(電子エネルギー損失分光法)、XAFS(X線吸収微細構造
解析)、XPS(X線光電子分光)、ESR(電子スピン共鳴)、メスバウアー分光法等
で分析することができる。なかでもEELSは空間分解能が高いため、第2の領域102
が数nmの薄い層であっても分析することができ、好ましい。
【0057】
遷移金属の価数をEELSで分析する場合、価数はL/Lの比で判断することができ
る。L/Lが大きいほど2価の遷移金属の割合が高くなる。たとえば、EELSで第
1の領域101と第2の領域102の遷移金属を分析したとき、第1の領域101が有す
る遷移金属のL/Lは3.8未満であり、第2の領域102が有する遷移金属はL
/Lは3.8以上であることが好ましい。
【0058】
また、第2の領域102は上記に加えて、リチウムを有していてもよい。
【0059】
また図1(B)に示すように第1の領域101の内部にも第2の領域102が存在すると
、第1の領域101が有するリチウムと遷移金属を含む複合酸化物の結晶構造をさらに安
定化することができる場合があり好ましい。
【0060】
また第2の領域102が有するフッ素は、MgF、LiF以外の結合状態で存在してい
ることが好ましい。具体的には、正極活物質100の表面をXPS分析したとき、フッ素
と他の元素との結合エネルギーのピーク位置は682eV以上685eV未満であること
が好ましく、684.3eV程度であることがより好ましい。これはMgF、LiFの
いずれとも一致しない結合エネルギーである。
【0061】
なお本明細書等において、XPS分析したときのある元素の結合エネルギーのピーク位置
とは、その元素の結合エネルギーに該当する範囲で、エネルギースペクトルの強度が極大
となる結合エネルギーの値をいうこととする。
【0062】
<第1の領域101と第2の領域102の境界>
第1の領域101と第2の領域102は、TEM像、STEM像、FFT(高速フーリエ
変換)解析、EDX(エネルギー分散型X線分析)、ToF-SIMS(飛行時間型二次
イオン質量分析法)による深さ方向の分析、XPS(X線光電子分光)、オージェ電子分
光法、TDS(昇温脱離ガス分析法)等によって異なる組成を有することを確認できる。
たとえば正極活物質100の断面TEM像およびSTEM像では、構成元素の違いが像の
明るさの違いとなって観察されるため、第1の領域101と第2の領域102の構成元素
が異なることが観察できる。またEDXの元素分布像でも第1の領域101と第2の領域
102が異なる元素を有することが観察できる。しかし必ずしも、各種分析によって第1
の領域101と第2の領域102の明確な境界が観察できなくてもよい。
【0063】
本明細書等において、正極活物質100の表層部に存在する第2の領域102の範囲は、
正極活物質100の最表面から、深さ方向分析で検出されるマグネシウムの濃度が、ピー
クの1/5になるまでをいうこととする。深さ方向分析としては、上述のEDXの線分析
、およびToF-SIMSを用いた深さ方向の分析等を用いることができる。マグネシウ
ムの濃度のピークは、正極活物質100の表面から中心に向かった深さ2nmまでに存在
することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmま
でに存在することがさらに好ましい。マグネシウムの濃度がピークの1/5になる深さ、
つまり第2の領域102の範囲は、作製方法により異なるが、後述する作製方法の場合は
、おおむね正極活物質の表面から2nm以上5nm程度までである。
【0064】
第1の領域101の内部に存在する第2の領域102についても、深さ方向分析で検出さ
れるマグネシウムの濃度が、ピークの1/5以上である領域をいうこととする。
【0065】
正極活物質100が有するフッ素の分布は、マグネシウムの分布と重畳することが好まし
い。そのため、フッ素の濃度のピークは、正極活物質100の表面から中心に向かった深
さ2nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく
、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。
【0066】
このように、第2の領域102は、正極活物質100の表面から内部に向かってマグネシ
ウムおよびフッ素の濃度が減少してゆく、濃度傾斜領域であるとも言える。
【0067】
マグネシウムおよびフッ素の濃度は、ToF-SIMS、XPS、オージェ電子分光法、
TDS等により分析することができる。
【0068】
なおXPSは正極活物質100の表面から5nm程度が測定範囲である。そのため、表面
から5nmほどに存在する元素濃度を定量的に分析可能である。そのため第2の領域10
2の厚さが5nm未満の場合は第2の領域102および第1の領域101の一部を合わせ
た領域、第2の領域102の厚さが表面から5nm以上の場合は第2の領域102の、元
素濃度を定量的に分析することができる。正極活物質100の表面をXPS分析し、リチ
ウム、第1の領域101が有する遷移金属、酸素、フッ素およびマグネシウムを含む原子
の総量を100atomic%としたときの、マグネシウム濃度が1atomic%以上
16atomic%以下であり、フッ素濃度が0.2atomic%以上4atomic
%以下であることが好ましい。またマグネシウムとフッ素の濃度の比は、Mg:F=y:
1(3≦y≦5)(原子数比)であることが好ましく、Mg:F=4:1程度であること
がさらに好ましい。マグネシウム濃度とフッ素濃度がこれらの範囲であると、二次電池に
用いたときに極めて良好なサイクル特性を示す正極活物質100とすることができる。
【0069】
上述のようにマグネシウムおよびフッ素の濃度は表面から内部に向かって徐々に減少して
いくため、第1の領域101は、マグネシウム等の第2の領域102が有する元素を有し
ていてもよい。同様に、第2の領域102は、第1の領域101が有する元素を有してい
てもよい。また第1の領域101は、炭素、硫黄、ケイ素、ナトリウム、カルシウム、塩
素、ジルコニウム等のその他の元素を有していてもよい。第2の領域102は、炭素、硫
黄、ケイ素、ナトリウム、カルシウム、塩素、ジルコニウム等のその他の元素を有してい
てもよい。
【0070】
[偏析]
第2の領域102は、スパッタリング、固相法、ゾル-ゲル法をはじめとする液相法、等
の方法でも形成することができる。しかし本発明者らは、マグネシウム源とフッ素源を出
発材料と混合した後、加熱することでマグネシウムを偏析させ、第2の領域102を形成
できることを明らかにした。さらに、このようにして形成された第2の領域102を有す
る正極活物質は、極めて優れた特性を有することを明らかにした。
【0071】
例えば特許文献2(特開2016-076454号公報)の実施例4では、マグネシウム
を含む複合酸化物を合成してから、該複合酸化物の粉末と、フッ化リチウムとを混合して
加熱し、複合酸化物の表面にフッ素化とリチウム化した表面酸化物を形成している。この
方法では、表面酸化物からはマグネシウムが検出されなかったことが記載されている。
【0072】
しかしながら、本発明者らは、マグネシウム源とフッ素源を出発材料として同時に混合す
ることで、酸化マグネシウムを正極活物質100の表層部に偏析させることができた。意
外にも、出発原料に加えられたフッ素に、マグネシウムを偏析させる効果があることを本
発明者らは明らかにした。
【0073】
第2の領域102をマグネシウムの偏析により形成するため、正極活物質100の表層部
だけでなく、粒界およびその近傍、結晶欠陥およびその近傍にもマグネシウムが偏析しう
る。粒界およびその近傍や結晶欠陥およびその近傍に形成された第2の領域102は、第
1の領域101が有するリチウムと遷移金属を含む複合酸化物の結晶構造のさらなる安定
化に寄与しうる。
【0074】
第2の領域102の偏析を効果的に行うには、原料のマグネシウムとフッ素の濃度がMg
:F=1:x(1.5≦x≦4)(原子数比)であることが好ましく、Mg:F=1:2
(原子数比)程度であることがさらに好ましい。
【0075】
一方、偏析した結果生じた第2の領域102が有するマグネシウムとフッ素の濃度は、M
g:F=y:1(3≦y≦5)(原子数比)であることが好ましく、Mg:F=4:1程
度であることがさらに好ましい。
【0076】
偏析により形成された第2の領域102は、エピタキシャル成長により形成されているた
め、第1の領域101と第2の領域102の結晶の配向は、一部で概略一致することがあ
る。つまり第1の領域101と第2の領域102がトポタキシとなることがある。第1の
領域101と第2の領域102の結晶の配向が概略一致していると、第2の領域102は
より良好な被覆層として機能しうる。
【0077】
<第3の領域103>
なおこれまで正極活物質100が第1の領域101および第2の領域102を有する例に
ついて説明したが、本発明の一態様はこれに限らない。たとえば図1(C)に示すように
、正極活物質100は第3の領域103を有していてもよい。第3の領域103は、たと
えば、第2の領域102の少なくとも一部と接するように設けることができる。第3の領
域103は、グラフェン化合物をはじめとする炭素を有する被膜であってもよいし、リチ
ウムまたは電解液の分解生成物を有する被膜であってもよい。第3の領域103が炭素を
有する被膜である場合、正極活物質100同士、および正極活物質100と集電体との導
電性を高めることができる。また第3の領域103がリチウムまたは電解液の分解生成物
を有する被膜である場合、電解液との過剰な反応を抑制し、二次電池に用いた際にサイク
ル特性を向上させることができる。
【0078】
さらに、第1の領域101および第2の領域102の間にバッファ領域を設けてもよい。
バッファ領域は、たとえばリチウム、遷移金属、酸素に加えて、チタン、アルミニウム、
ジルコニウム、バナジウム等の金属を有することが好ましい。バッファ領域は、第1の領
域101および第2の領域102と重畳していてもよい。バッファ領域を有する正極活物
質100とすると、第1の領域101と第2の領域102の結晶構造をさらに安定化する
ことができ、さらにサイクル特性の優れた正極活物質とすることができ好ましい。
【0079】
[作製方法]
第1の領域101および第2の領域102を有し、第2の領域102を偏析によって形成
する場合の正極活物質100の作製方法を、図2を用いて説明する。本実施の形態では、
第1の領域101が有する遷移金属がコバルトである場合、つまり第1の領域101がコ
バルト酸リチウムを有する場合について説明する。また、偏析により酸化マグネシウムと
フッ素を有する第2の領域102を形成する場合について説明する。
【0080】
まず、出発原料を準備する(S11)。具体的には、リチウム源、コバルト源、マグネシ
ウム源およびフッ素源をそれぞれ秤量する。リチウム源としてはたとえば炭酸リチウム、
フッ化リチウム、水酸化リチウム等を用いることができる。コバルト源としてはたとえば
酸化コバルト、水酸化コバルト、オキシ水酸化コバルト、炭酸コバルト、シュウ酸コバル
ト、硫酸コバルト等を用いることができる。またマグネシウム源としては、たとえば酸化
マグネシウム、フッ化マグネシウム等を用いることができる。またフッ素源としては、た
とえばフッ化リチウム、フッ化マグネシウム等を用いることができる。つまり、フッ化リ
チウムはリチウム源としてもフッ素源としても用いることができるし、フッ化マグネシウ
ムはマグネシウム源としてもフッ素源としても用いることができる。
【0081】
本実施の形態では、リチウム源として炭酸リチウム(LiCO)、コバルト源として
酸化コバルト(Co)、マグネシウム源として酸化マグネシウム(MgO)、リチ
ウム源およびフッ素源としてフッ化リチウム(LiF)を用いることとする。
【0082】
原料のマグネシウムとフッ素の原子数比は、Mg:F=1:x(1.5≦x≦4)(原子
数比)が好ましく、Mg:F=1:2(原子数比)程度であることがより好ましいため、
酸化マグネシウムとフッ化リチウム比は、MgO:LiF=1:x(1.5≦x≦4)(
モル比)であることが好ましく、MgO:LiF=1:2(モル比)程度であることがよ
り好ましい。
【0083】
各原料のモル比は、例えば以下のようにすることができる。
1/2・LiCO+((1-z)/3)・Co+z・MgO+2z・LiF
(z=0.01)
【0084】
次に、秤量した出発原料を混合する(S12)。混合には例えばボールミル、ビーズミル
等を用いることができる。
【0085】
次に、S12で混合した材料に加熱を行う(S13)。本工程は、後の加熱工程との区別
のために、第1の加熱または焼成という場合がある。第1の加熱は800℃以上1050
℃以下で行うことが好ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましい。
加熱時間は、2時間以上20時間以下とすることが好ましい。第1の加熱は、乾燥空気等
乾燥した雰囲気で行うことが好ましい。乾燥した雰囲気は、露点が-50℃以下であるこ
とが好ましく、-100℃以下であるとさらに好ましい。本実施の形態では、1000℃
で10時間加熱することとし、昇温は200℃/h、露点が-109℃の乾燥空気を10
L/minで流すこととする。
【0086】
S13の第1の加熱により、第1の領域101が有する、リチウムと遷移金属を含む複合
酸化物を合成することができる。またこの第1の加熱により、出発原料に含まれたマグネ
シウムとフッ素の一部がリチウムと遷移金属を含む複合酸化物の表層部に偏析する。ただ
しこの時点では、マグネシウムとフッ素の多くはリチウムと遷移金属を含む複合酸化物に
固溶している状態である。
【0087】
次に、S13で加熱した材料を室温まで冷却する(S14)。冷却は、昇温と同じかそれ
以上の時間をかけて行うことが好ましい。たとえば10時間以上15時間以下の時間で行
うことができる。冷却後、合成された材料をふるいにかけることが好ましい。本実施の形
態では、53μmのメッシュを用いてふるいにかけることとする。
【0088】
なお、出発原料としてあらかじめ合成されたリチウム、コバルト、フッ素、マグネシウム
を含む複合酸化物の粒子を用いてもよい。この場合、ステップS12乃至ステップS14
を省略することができる。
【0089】
次に、S14で冷却した材料に第2の加熱を行う(S15)。本工程は、先の加熱工程と
の区別のために、第2の加熱またはアニールという場合がある。第2の加熱の最適な条件
は、リチウム、コバルト、フッ素、マグネシウムを含む複合酸化物の粒径および組成等に
より異なるが、規定温度での保持時間を50時間以下で行うことが好ましく、2時間以上
10時間以下で行うことがより好ましい。規定温度としては500℃以上1200℃以下
が好ましく、700℃以上1000℃以下がより好ましく、800℃程度がさらに好まし
い。また、酸素を含む雰囲気で加熱することが好ましい。本実施の形態では、800℃で
2時間加熱することとし、昇温は200℃/h、露点が-109℃の乾燥空気を10L/
minで流すこととする。
【0090】
S15の第2の加熱を行うことで、出発原料に含まれたマグネシウムとフッ素が、リチウ
ムと遷移金属を含む複合酸化物の表層部へ偏析することを促進できる。
【0091】
最後に、S15で加熱した材料を室温まで冷却する。冷却は、昇温と同じかそれ以上の時
間をかけて行うことが好ましい。そして冷却された材料を回収して(S16)、第1の領
域101および第2の領域102を有する正極活物質100を得ることができる。
【0092】
本実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性の良好な二次
電池とすることができる。本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いるこ
とができる。
【0093】
(実施の形態2)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100を有する二次電池に用い
ることのできる他の材料の例について説明する。本実施の形態では、正極、負極および電
解液が、外装体に包まれている二次電池を例にとって説明する。
【0094】
[正極]
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。
【0095】
<正極活物質層>
正極活物質層は、正極活物質を有する。また、正極活物質層は、導電助剤およびバインダ
を有していてもよい。
【0096】
正極活物質としては、先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることができる
。先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることで、高容量でサイクル特性に
優れた二次電池とすることができる。
【0097】
導電助剤としては、炭素材料、金属材料、又は導電性セラミックス材料等を用いることが
できる。また、導電助剤として繊維状の材料を用いてもよい。活物質層の総量に対する導
電助剤の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以下
がより好ましい。
【0098】
導電助剤により、電極中に電気伝導のネットワークを形成することができる。導電助剤に
より、正極活物質どうしの電気伝導の経路を維持することができる。活物質層中に導電助
剤を添加することにより、高い電気伝導性を有する活物質層を実現することができる。
【0099】
導電助剤としては、例えば天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛、炭素繊
維などを用いることができる。炭素繊維としては、例えばメソフェーズピッチ系炭素繊維
、等方性ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維を用いることができる。また炭素繊維として、カ
ーボンナノファイバーやカーボンナノチューブなどを用いることができる。カーボンナノ
チューブは、例えば気相成長法などで作製することができる。また、導電助剤として、例
えばカーボンブラック(アセチレンブラック(AB)など)、グラファイト(黒鉛)粒子
、グラフェン、フラーレンなどの炭素材料を用いることができる。また、例えば、銅、ニ
ッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉末や金属繊維、導電性セラミックス材料等を
用いることができる。
【0100】
また、導電助剤としてグラフェン化合物を用いてもよい。
【0101】
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および高
い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェン
化合物は平面的な形状を有する。グラフェン化合物は、接触抵抗の低い面接触を可能とす
る。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で導
電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電助剤として用いるこ
とにより、活物質と導電助剤との接触面積を増大させることができるため好ましい。また
、電気的な抵抗を減少できる場合があるため好ましい。ここでグラフェン化合物として例
えば、グラフェンまたはマルチグラフェンまたはreduced Graphene O
xide(以下、RGO)を用いることが特に好ましい。ここで、RGOは例えば、酸化
グラフェン(graphene oxide:GO)を還元して得られる化合物を指す。
【0102】
粒径の小さい活物質、例えば1μm以下の活物質を用いる場合には、活物質の比表面積が
大きく、活物質同士を繋ぐ導電パスがより多く必要となる。そのため導電助剤の量が多く
なりがちであり、相対的に活物質の担持量が減少してしまう傾向がある。活物質の担持量
が減少すると、二次電池の容量が減少してしまう。このような場合には、導電助剤として
グラフェン化合物を用いると、グラフェン化合物は少量でも効率よく導電パスを形成する
ことができるため、活物質の担持量を減らさずに済み、特に好ましい。
【0103】
以下では一例として、活物質層200に、導電助剤としてグラフェン化合物を用いる場合
の断面構成例を説明する。
【0104】
図3(A)に、活物質層200の縦断面図を示す。活物質層200は、粒状の正極活物質
100と、導電助剤としてのグラフェン化合物201と、バインダ(図示せず)と、を含
む。ここで、グラフェン化合物201として例えばグラフェンまたはマルチグラフェンを
用いればよい。ここで、グラフェン化合物201はシート状の形状を有することが好まし
い。また、グラフェン化合物201は、複数のマルチグラフェン、または(および)複数
のグラフェンが部分的に重なりシート状となっていてもよい。
【0105】
活物質層200の縦断面においては、図3(A)に示すように、活物質層200の内部に
おいて概略均一にシート状のグラフェン化合物201が分散する。図3(A)においては
グラフェン化合物201を模式的に太線で表しているが、実際には炭素分子の単層又は多
層の厚みを有する薄膜である。複数のグラフェン化合物201は、複数の粒状の正極活物
質100を包むように、覆うように、あるいは複数の粒状の正極活物質100の表面上に
張り付くように形成されているため、互いに面接触している。
【0106】
ここで、複数のグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合物
シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成することが
できる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士を
結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくするこ
とができる、又は使用しないことができるため、電極体積や電極重量に占める活物質の比
率を向上させることができる。すなわち、蓄電装置の容量を増加させることができる。
【0107】
ここで、グラフェン化合物201として酸化グラフェンを用い、活物質と混合して活物質
層200となる層を形成後、還元することが好ましい。グラフェン化合物201の形成に
、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いることにより、グラフェン化
合物201を活物質層200の内部において概略均一に分散させることができる。均一に
分散した酸化グラフェンを含有する分散媒から溶媒を揮発除去し、酸化グラフェンを還元
するため、活物質層200に残留するグラフェン化合物201は部分的に重なり合い、互
いに面接触する程度に分散していることで三次元的な導電パスを形成することができる。
なお、酸化グラフェンの還元は、例えば熱処理により行ってもよいし、還元剤を用いて行
ってもよい。
【0108】
従って、活物質と点接触するアセチレンブラック等の粒状の導電助剤と異なり、グラフェ
ン化合物201は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、通常の導電助剤よ
りも少量で粒状の正極活物質100とグラフェン化合物201との電気伝導性を向上させ
ることができる。よって、正極活物質100の活物質層200における比率を増加させる
ことができる。これにより、蓄電装置の放電容量を増加させることができる。
【0109】
バインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレ
ン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プ
ロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして
、フッ素ゴムを用いることができる。
【0110】
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分
子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチ
ルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセ
ルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉など
を用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して用
いると、さらに好ましい。
【0111】
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メ
チル(ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニ
ルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、
ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピ
レン、イソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(
PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー、ポ
リ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0112】
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
【0113】
例えば粘度調整効果の特に優れた材料と、他の材料とを組み合わせて使用してもよい。例
えばゴム材料等は接着力や弾性力に優れる反面、溶媒に混合した場合に粘度調整が難しい
場合がある。このような場合には例えば、粘度調整効果の特に優れた材料と混合すること
が好ましい。粘度調整効果の特に優れた材料としては、例えば水溶性高分子を用いるとよ
い。また、粘度調整効果に特に優れた水溶性高分子としては、前述の多糖類、例えばカル
ボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシ
プロピルセルロースおよびジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導
体や、澱粉を用いることができる。
【0114】
なお、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えばカルボキシメチル
セルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩などの塩とすることにより溶解度が上がり、
粘度調整剤としての効果を発揮しやすくなる。溶解度が高くなることにより電極のスラリ
ーを作製する際に活物質や他の構成要素との分散性を高めることもできる。本明細書にお
いては、電極のバインダとして使用するセルロースおよびセルロース誘導体としては、そ
れらの塩も含むものとする。
【0115】
水溶性高分子は水に溶解することにより粘度を安定化させ、また活物質や、バインダとし
て組み合わせる他の材料、例えばスチレンブタジエンゴムなどを、水溶液中に安定して分
散させることができる。また、官能基を有するために活物質表面に安定に吸着しやすいこ
とが期待される。また、例えばカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、
例えば水酸基やカルボキシル基などの官能基を有する材料が多く、官能基を有するために
高分子同士が相互作用し、活物質表面を広く覆って存在することが期待される。
【0116】
活物質表面を覆う、または表面に接するバインダが膜を形成する場合には、不動態膜とし
ての役割を果たして電解液の分解を抑える効果も期待される。ここで、不動態膜とは、電
子の伝導性のない膜、または電気伝導性の極めて低い膜であり、例えば活物質の表面に不
動態膜が形成された場合には、電池反応電位において、電解液の分解を抑制することがで
きる。また、不動態膜は、電気の伝導性を抑えるとともに、リチウムイオンは伝導できる
とさらに望ましい。
【0117】
<正極集電体>
正極集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれ
らの合金など、導電性が高い材料をもちいることができる。また正極集電体に用いる材料
は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカ
ンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用
いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成して
もよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チ
タン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン
、コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチング
メタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが
5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0118】
[負極]
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は、導電助剤およ
びバインダを有していてもよい。
【0119】
<負極活物質>
負極活物質としては、例えば合金系材料や炭素系材料等を用いることができる。
【0120】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可
能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲ
ルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等のうち少
なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が大
きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質にシ
リコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例
えば、SiO、MgSi、MgGe、SnO、SnO、MgSn、SnS、V
Sn、FeSn、CoSn、NiSn、CuSn、AgSn、Ag
Sb、NiMnSb、CeSb、LaSn、LaCoSn、CoSb、I
nSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反
応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合があ
る。
【0121】
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiO
と表すこともできる。ここでxは1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0
.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下がより好ましい。
【0122】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハー
ドカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよい
【0123】
黒鉛としては、人造黒鉛や、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカ
ーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げら
れる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例え
ば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積
を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば、
鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0124】
黒鉛はリチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)に
リチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/L
)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さら
に、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価である
、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0125】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO)、リチウムチタン酸化物(Li
12)、リチウム-黒鉛層間化合物(Li)、五酸化ニオブ(Nb
、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)等の酸化物を用いることが
できる。
【0126】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、LiN型構造をもつ
Li3-xN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6
Co0.4は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm)を示
し好ましい。
【0127】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、
正極活物質としてリチウムイオンを含まないV、Cr等の材料と組み合わせ
ることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも
、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質とし
てリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0128】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば
、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウム
との合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が
生じる材料としては、さらに、Fe、CuO、CuO、RuO、Cr
の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn、CuN、Ge
等の窒化物、NiP、FeP、CoP等のリン化物、FeF、BiF等の
フッ化物でも起こる。
【0129】
負極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダとしては、正極活物質層が有
することのできる導電助剤およびバインダと同様の材料を用いることができる。
【0130】
<負極集電体>
負極集電体には、正極集電体と同様の材料を用いることができる。なお負極集電体は、リ
チウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0131】
[電解液]
電解液は、溶媒と電解質を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ま
しく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチ
レンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラ
クトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート
(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチ
ル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1
,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホ
キシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テト
ラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等の1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の
組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0132】
また、電解液の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性等に対する安
全性が高まる。また、二次電池の薄型化および軽量化が可能である。ゲル化される高分子
材料の代表例としては、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエ
チレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーのゲル等
がある。
【0133】
また、電解液の溶媒として、難燃性および難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一
つ又は複数用いることで、蓄電装置の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇して
も、蓄電装置の破裂や発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオン
からなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級
アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、および四級ホスホニウムカチオン等
の脂肪族オニウムカチオンや、イミダゾリウムカチオンおよびピリジニウムカチオン等の
芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系ア
ニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキル
スルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレート
アニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、またはパーフルオロアルキルホスフェ
ートアニオン等が挙げられる。
【0134】
また、上記の溶媒に溶解させる電解質としては、例えばLiPF、LiClO、Li
AsF、LiBF、LiAlCl、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO
、Li10Cl10、Li12Cl12、LiCFSO、LiCSO
、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiN(CFSO
、LiN(CSO)(CFSO)、LiN(CSO等のリチ
ウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いること
ができる。
【0135】
蓄電装置に用いる電解液は、粒状のごみや電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不
純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具
体的には、電解液に対する不純物の重量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好
ましくは0.01%以下とすることが好ましい。
【0136】
また、電解液にビニレンカーボネート、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチルベ
ンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、LiBOB、またスクシ
ノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物などを添加してもよい。添加する材料
の濃度は、例えば溶媒全体に対して0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。
【0137】
また、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲル電解質を用いてもよい。ポリマーゲル
電解質を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電池の薄型化およ
び軽量化が可能である。
【0138】
ゲル化されるポリマーとして、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、
ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーの
ゲル等を用いることができる。
【0139】
ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキシ
ド構造を有するポリマーや、PVDF、およびポリアクリロニトリル等、およびそれらを
含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(H
FP)の共重合体であるPVDF-HFPを用いることができる。また、形成されるポリ
マーは、多孔質形状を有してもよい。
【0140】
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、P
EO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができ
る。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電
池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0141】
[セパレータ]
また二次電池は、セパレータを有することが好ましい。セパレータとしては、例えば、紙
をはじめとするセルロースを有する繊維、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナ
イロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アク
リル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いること
ができる。セパレータは袋状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置
することが好ましい。
【0142】
セパレータは多層構造であってもよい。たとえばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機
材料フィルムに、セラミック系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを
混合したもの等をコートすることができる。セラミック系材料としては、たとえば酸化ア
ルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、た
とえばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材
料としては、たとえばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用い
ることができる。
【0143】
セラミック系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充放電の際のセパレー
タの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコ
ートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。
ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安
全性を向上させることができる。
【0144】
たとえばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコ
ートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウ
ムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい
【0145】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を
保つことができるため、二次電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0146】
(実施の形態3)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100を有する二次電池の形状
の例について説明する。本実施の形態で説明する二次電池に用いる材料は、先の実施の形
態の記載を参酌することができる。
【0147】
[コイン型二次電池]
まずコイン型の二次電池の一例について説明する。図4(A)はコイン型(単層偏平型)
の二次電池の外観図であり、図4(B)は、その断面図である。
【0148】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶
302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。
正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306
により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設け
られた負極活物質層309により形成される。
【0149】
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304および負極307は、それぞれ活物
質層は片面のみに形成すればよい。
【0150】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウム
、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼
等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウ
ム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極30
7とそれぞれ電気的に接続する。
【0151】
これら負極307、正極304およびセパレータ310を電解質に含浸させ、図4(B)
に示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負
極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介し
て圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0152】
正極304に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れたコイン型の二次電池300とすることができる。
【0153】
[円筒型二次電池]
次に、円筒型の二次電池の例について図5を参照して説明する。円筒型の二次電池600
は、図5(A)に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面および
底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)6
02とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0154】
図5(B)は、円筒型の二次電池の断面を模式的に示した図である。中空円柱状の電池缶
602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで捲
回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に捲
回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602には
、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれら
の合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。
また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好まし
い。電池缶602の内側において、正極、負極およびセパレータが捲回された電池素子は
、対向する一対の絶縁板608、609により挟まれている。また、電池素子が設けられ
た電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)が注入されている。非水電解液は、コ
イン型の二次電池と同様のものを用いることができる。
【0155】
円筒型の二次電池に用いる正極および負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成
することが好ましい。正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負
極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603および負
極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子6
03は安全弁機構612に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接され
る。安全弁機構612は、PTC素子(Positive Temperature C
oefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。
安全弁機構612は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601
と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が
上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して
異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO)系
半導体セラミックス等を用いることができる。
【0156】
また、図5(C)のように複数の二次電池600を、導電板613および導電板614の
間に挟んでモジュール615を構成してもよい。複数の二次電池600は、並列接続され
ていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後さらに直列に接続さ
れていてもよい。複数の二次電池600を有するモジュール615を構成することで、大
きな電力を取り出すことができる。
【0157】
図5(D)はモジュール615の上面図である。図を明瞭にするために導電板613を点
線で示した。図5(D)に示すようにモジュール615は、複数の二次電池600を電気
的に接続する導線616を有していてもよい。導線616上に導電板613を重畳して設
けることができる。また複数の二次電池600の間に温度制御装置617を有していても
よい。二次電池600が過熱されたときは、温度制御装置617により冷却し、二次電池
600が冷えすぎているときは温度制御装置617により加熱することができる。そのた
めモジュール615の性能が外気温に影響されにくくなる。
【0158】
正極604に、先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることで、高容量でサ
イクル特性に優れた円筒型の二次電池600とすることができる。
【0159】
[二次電池の構造例]
二次電池の別の構造例について、図6乃至図9を用いて説明する。
【0160】
図6(A)及び図6(B)は、電池パックの外観図を示す図である。電池パックは、回路
基板900と、二次電池913と、を有する。二次電池913は、端子951と、端子9
52とを有し、ラベル910で覆われている。また電池パックはアンテナ914を有して
もよい。
【0161】
回路基板900はシール915で固定されている。回路基板900は、回路912を有す
る。端子911は、回路基板900を介して、二次電池913が有する端子951および
端子952と電気的に接続される。また端子911は、回路基板900を介して、アンテ
ナ914、及び回路912と電気的に接続される。なお、端子911を複数設けて、複数
の端子911のそれぞれを、制御信号入力端子、電源端子などとしてもよい。
【0162】
回路912はたとえば、過充電、過放電および過電流から二次電池913を保護する、保
護回路としての機能を有する。回路912は、回路基板900の裏面に設けられていても
よい。なお、アンテナ914は、コイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよ
い。また、平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテ
ナ、誘電体アンテナ等のアンテナを用いてもよい。アンテナ914は、たとえば外部機器
とのデータ通信を行うことができる機能を有する。アンテナ914を介した電池パックと
他の機器との通信方式としては、NFCなど、電池パックと他の機器との間で用いること
ができる応答方式などを適用することができる。
【0163】
電池パックは、アンテナ914と、二次電池913との間に層916を有する。層916
は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層916
としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0164】
なお、電池パックの構造は、図6に限定されない。
【0165】
例えば、図7(A-1)及び図7(A-2)に示すように、図6(A)及び図6(B)に
示す二次電池913のうち、対向するもう一対の面にアンテナ918を設けてもよい。図
7(A-1)は、上記一対の面の一方側方向から見た外観図であり、図7(A-2)は、
上記一対の面の他方側方向から見た外観図である。なお、図6(A)及び図6(B)に示
す電池パックと同じ部分については、図6(A)及び図6(B)に示す電池パックの説明
を適宜援用できる。
【0166】
図7(A-1)に示すように、二次電池913の一対の面の一方に層916を挟んでアン
テナ914が設けられ、図7(A-2)に示すように、二次電池913の一対の面の他方
に層917を挟んでアンテナ918が設けられる。層917は、例えば二次電池913に
よる電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層917としては、例えば磁性体を用
いることができる。
【0167】
上記構造にすることにより、電池パックにアンテナを二つ設け、かつアンテナ914及び
アンテナ918の両方のサイズを大きくすることができる。
【0168】
アンテナ918は、アンテナ914に適用可能な形状のアンテナを適用することができる
。さらにアンテナ918は平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導
体の一つとして機能することができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの
一つの導体として、アンテナ914を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だけ
でなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
【0169】
又は、図7(B-1)に示すように、図6(A)及び図6(B)に示す電池パックに表示
装置920を設けてもよい。表示装置920は、端子911に電気的に接続される。なお
図6(A)及び図6(B)に示す電池パックと同じ部分については、図6(A)及び図
6(B)に示す電池パックの説明を適宜援用できる。
【0170】
表示装置920には、例えば充電中であるか否かを示す画像、蓄電量を示す画像などを表
示してもよい。表示装置920としては、例えば電子ペーパー、液晶表示装置、エレクト
ロルミネセンス(ELともいう)表示装置などを用いることができる。例えば、電子ペー
パーを用いることにより表示装置920の消費電力を低減することができる。
【0171】
又は、図7(B-2)に示すように、図6(A)及び図6(B)に示す二次電池913に
センサ921を設けてもよい。センサ921は、端子922および回路基板900を介し
て端子911に電気的に接続される。なお、図6(A)及び図6(B)に示す蓄電装置と
同じ部分については、図6(A)及び図6(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる
【0172】
センサ921としては、例えば、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光
、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流
量、湿度、傾度、振動、におい、又は赤外線を測定することができる機能を有すればよい
。センサ921を設けることにより、例えば、蓄電装置が置かれている環境を示すデータ
(温度など)を検出し、回路912内のメモリに記憶しておくこともできる。
【0173】
さらに、二次電池913の構造例について図8及び図9を用いて説明する。
【0174】
図8(A)に示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設け
られた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液に含浸される
。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体
930に接していない。なお、図8(A)では、便宜のため、筐体930を分離して図示
しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952が
筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウムな
ど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0175】
なお、図8(B)に示すように、図8(A)に示す筐体930を複数の材料によって形成
してもよい。例えば、図8(B)に示す二次電池913は、筐体930aと筐体930b
が貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体950が
設けられている。
【0176】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナ
が形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、二次電池913による電界の
遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの
内部にアンテナ914やアンテナ918などのアンテナを設けてもよい。筐体930bと
しては、例えば金属材料を用いることができる。
【0177】
さらに、捲回体950の構造について図9に示す。捲回体950は、負極931と、正極
932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟んで
負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体で
ある。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複数
重ねてもよい。
【0178】
負極931は、端子951及び端子952の一方を介して図6に示す端子911に接続さ
れる。正極932は、端子951及び端子952の他方を介して図6に示す端子911に
接続される。
【0179】
正極932に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた二次電池913とすることができる。
【0180】
[ラミネート型二次電池]
次に、ラミネート型の二次電池の例について、図10乃至図15を参照して説明する。ラ
ミネート型の二次電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なくと
も一部有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて二次電池も曲げることも
できる。
【0181】
図10を用いて、ラミネート型の二次電池980について説明する。ラミネート型の二次
電池980は、図10(A)に示す捲回体993を有する。捲回体993は、負極994
と、正極995と、セパレータ996と、を有する。捲回体993は、図9で説明した捲
回体950と同様に、セパレータ996を挟んで負極994と、正極995とが重なり合
って積層され、該積層シートを捲回したものである。
【0182】
なお、負極994、正極995およびセパレータ996からなる積層の積層数は、必要な
容量と素子体積に応じて適宜設計すればよい。負極994はリード電極997およびリー
ド電極998の一方を介して負極集電体(図示せず)に接続され、正極995はリード電
極997およびリード電極998の他方を介して正極集電体(図示せず)に接続される。
【0183】
図10(B)に示すように、外装体となるフィルム981と、凹部を有するフィルム98
2とを熱圧着などにより貼り合わせて形成される空間に上述した捲回体993を収納する
ことで、図10(C)に示すように二次電池980を作製することができる。捲回体99
3は、リード電極997およびリード電極998を有し、フィルム981と、凹部を有す
るフィルム982との内部で電解液に含浸される。
【0184】
フィルム981と、凹部を有するフィルム982は、例えばアルミニウムなどの金属材料
や樹脂材料を用いることができる。フィルム981および凹部を有するフィルム982の
材料として樹脂材料を用いれば、外部から力が加わったときにフィルム981と、凹部を
有するフィルム982を変形させることができ、可撓性を有する二次電池を作製すること
ができる。
【0185】
また、図10(B)および図10(C)では2枚のフィルムを用いる例を示しているが、
1枚のフィルムを折り曲げることによって空間を形成し、その空間に上述した捲回体99
3を収納してもよい。
【0186】
正極995に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた二次電池980とすることができる。
【0187】
また図10では外装体となるフィルムにより形成された空間に捲回体を有する二次電池9
80の例について説明したが、たとえば図11のように、外装体となるフィルムにより形
成された空間に、短冊状の複数の正極、セパレータおよび負極を有する二次電池としても
よい。
【0188】
図11(A)に示すラミネート型の二次電池500は、正極集電体501および正極活物
質層502を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有する
負極506と、セパレータ507と、電解液508と、外装体509と、を有する。外装
体509内に設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設置されて
いる。また、外装体509内は、電解液508で満たされている。電解液508には、実
施の形態2で示した電解液を用いることができる。
【0189】
図11(A)に示すラミネート型の二次電池500において、正極集電体501および負
極集電体504は、外部との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正極
集電体501および負極集電体504の一部は、外装体509から外側に露出するように
配置してもよい。また、正極集電体501および負極集電体504を、外装体509から
外側に露出させず、リード電極を用いてそのリード電極と正極集電体501、或いは負極
集電体504と超音波接合させてリード電極を外側に露出するようにしてもよい。
【0190】
ラミネート型の二次電池500において、外装体509には、例えばポリエチレン、ポリ
プロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、ア
ルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金
属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹
脂膜を設けた三層構造のラミネートフィルムを用いることができる。
【0191】
また、ラミネート型の二次電池500の断面構造の一例を図11(B)に示す。図11
A)では簡略のため、2つの集電体で構成する例を示しているが、実際は、複数の電極層
で構成する。
【0192】
図11(B)では、一例として、電極層数を16としている。なお、電極層数を16とし
ても二次電池500は、可撓性を有する。図11(B)では負極集電体504が8層と、
正極集電体501が8層の合計16層の構造を示している。なお、図11(B)は負極の
取り出し部の断面を示しており、8層の負極集電体504を超音波接合させている。勿論
、電極層数は16に限定されず、多くてもよいし、少なくてもよい。電極層数が多い場合
には、より多くの容量を有する二次電池とすることができる。また、電極層数が少ない場
合には、薄型化でき、可撓性に優れた二次電池とすることができる。
【0193】
ここで、ラミネート型の二次電池500の外観図の一例を図12及び図13に示す。図1
2及び図13は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リー
ド電極510及び負極リード電極511を有する。
【0194】
図14(A)は正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体50
1を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極
503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極
506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成
されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領
域を有する。正極及び負極が有するタブ領域の面積や形状は、図14(A)に示す例に限
られない。
【0195】
[ラミネート型二次電池の作製方法]
ここで、図12に外観図を示すラミネート型二次電池の作製方法の一例について、図14
(B)、(C)を用いて説明する。
【0196】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。図14(B)に積層さ
れた負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を
4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ
領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いれば
よい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リ
ード電極511の接合を行う。
【0197】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0198】
次に、図14(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その
後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時
、後に電解液508を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に
接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0199】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液508を外装体509の内側へ導入
する。電解液508の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性ガス雰囲気下で行うことが好
ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の二次電池で
ある二次電池500を作製することができる。
【0200】
正極503に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル
特性に優れた二次電池500とすることができる。
【0201】
[曲げることのできる二次電池]
次に、曲げることのできる二次電池の例について図15および図16を参照して説明する
【0202】
図15(A)に、曲げることのできる電池250の上面概略図を示す。図15(B1)、
(B2)、(C)にはそれぞれ、図15(A)中の切断線C1-C2、切断線C3-C4
、切断線A1-A2における断面概略図である。電池250は、外装体251と、外装体
251の内部に収容された正極211aおよび負極211bを有する。正極211aと電
気的に接続されたリード212a、および負極211bと電気的に接続されたリード21
2bは、外装体251の外側に延在している。また外装体251で囲まれた領域には、正
極211aおよび負極211bに加えて電解液(図示しない)が封入されている。
【0203】
電池250が有する正極211aおよび負極211bについて、図16を用いて説明する
図16(A)は、正極211a、負極211bおよびセパレータ214の積層順を説明
する斜視図である。図16(B)は正極211aおよび負極211bに加えて、リード2
12aおよびリード212bを示す斜視図である。
【0204】
図16(A)に示すように、電池250は、複数の短冊状の正極211a、複数の短冊状
の負極211bおよび複数のセパレータ214を有する。正極211aおよび負極211
bはそれぞれ突出したタブ部分と、タブ以外の部分を有する。正極211aの一方の面の
タブ以外の部分に正極活物質層が形成され、負極211bの一方の面のタブ以外の部分に
負極活物質層が形成される。
【0205】
正極211aの正極活物質層の形成されていない面同士、および負極211bの負極活物
質の形成されていない面同士が接するように、正極211aおよび負極211bは積層さ
れる。
【0206】
また、正極211aの正極活物質が形成された面と、負極211bの負極活物質が形成さ
れた面の間にはセパレータ214が設けられる。図16(A)では見やすくするためセパ
レータ214を点線で示す。
【0207】
また図16(B)に示すように、複数の正極211aとリード212aは、接合部215
aにおいて電気的に接続される。また複数の負極211bとリード212bは、接合部2
15bにおいて電気的に接続される。
【0208】
次に、外装体251について図15(B1)、(B2)、(C)、(D)を用いて説明す
る。
【0209】
外装体251は、フィルム状の形状を有し、正極211aおよび負極211bを挟むよう
に2つに折り曲げられている。外装体251は、折り曲げ部261と、一対のシール部2
62と、シール部263と、を有する。一対のシール部262は、正極211aおよび負
極211bを挟んで設けられ、サイドシールとも呼ぶことができる。また、シール部26
3は、リード212a及びリード212bと重なる部分を有し、トップシールとも呼ぶこ
とができる。
【0210】
外装体251は、正極211aおよび負極211bと重なる部分に、稜線271と谷線2
72が交互に並んだ波形状を有することが好ましい。また、外装体251のシール部26
2及びシール部263は、平坦であることが好ましい。
【0211】
図15(B1)は、稜線271と重なる部分で切断した断面であり、図15(B2)は、
谷線272と重なる部分で切断した断面である。図15(B1)、(B2)は共に、電池
250及び正極211aおよび負極211bの幅方向の断面に対応する。
【0212】
ここで、負極211bの幅方向の端部と、シール部262との間の距離を距離Laとする
。電池250に曲げるなどの変形を加えたとき、後述するように正極211aおよび負極
211bが長さ方向に互いにずれるように変形する。その際、距離Laが短すぎると、外
装体251と正極211aおよび負極211bとが強く擦れ、外装体251が破損してし
まう場合がある。特に外装体251の金属フィルムが露出すると、当該金属フィルムが電
解液により腐食されてしまう恐れがある。したがって、距離Laを出来るだけ長く設定す
ることが好ましい。一方で、距離Laを大きくしすぎると、電池250の体積が増大して
しまう。
【0213】
また、積層された正極211aおよび負極211bの合計の厚さが厚いほど、負極211
bとシール部262との間の距離Laを大きくすることが好ましい。
【0214】
より具体的には、積層された正極211aおよび負極211bおよび図示しないがセパレ
ータ214の合計の厚さを厚さtとしたとき、距離Laは、厚さtの0.8倍以上3.0
倍以下、好ましくは0.9倍以上2.5倍以下、より好ましくは1.0倍以上2.0倍以
下であることが好ましい。距離Laをこの範囲とすることで、コンパクトで、且つ曲げに
対する信頼性の高い電池を実現できる。
【0215】
また、一対のシール部262の間の距離を距離Lbとしたとき、距離Lbを負極211b
の幅Wbよりも十分大きくすることが好ましい。これにより、電池250に繰り返し曲げ
るなどの変形を加えたときに、正極211aおよび負極211bと外装体251とが接触
しても、正極211aおよび負極211bの一部が幅方向にずれることができるため、正
極211aおよび負極211bと外装体251とが擦れてしまうことを効果的に防ぐこと
ができる。
【0216】
例えば、一対のシール部262の間の距離Lbと、負極211bの幅Wbとの差が、正極
211aおよび負極211bの厚さtの1.6倍以上6.0倍以下、好ましくは1.8倍
以上5.0倍以下、より好ましくは、2.0倍以上4.0倍以下を満たすことが好ましい
【0217】
言い換えると、距離Lb、幅Wb、及び厚さtが、下記数式1の関係を満たすことが好ま
しい。
【0218】
【数1】
【0219】
ここで、aは、0.8以上3.0以下、好ましくは0.9以上2.5以下、より好ましく
は1.0以上2.0以下を満たす。
【0220】
また、図15(C)はリード212aを含む断面であり、電池250、正極211aおよ
び負極211bの長さ方向の断面に対応する。図15(C)に示すように、折り曲げ部2
61において、正極211aおよび負極211bの長さ方向の端部と、外装体251との
間に空間273を有することが好ましい。
【0221】
図15(D)に、電池250を曲げたときの断面概略図を示している。図15(D)は、
図15(A)中の切断線B1-B2における断面に相当する。
【0222】
電池250を曲げると、曲げの外側に位置する外装体251の一部は伸び、内側に位置す
る他の一部は縮むように変形する。より具体的には、外装体251の外側に位置する部分
は、波の振幅が小さく、且つ波の周期が大きくなるように変形する。一方、外装体251
の内側に位置する部分は、波の振幅が大きく、且つ波の周期が小さくなるように変形する
。このように、外装体251が変形することにより、曲げに伴って外装体251にかかる
応力が緩和されるため、外装体251を構成する材料自体が伸縮する必要がない。その結
果、外装体251は破損することなく、小さな力で電池250を曲げることができる。
【0223】
また、図15(D)に示すように、電池250を曲げると、正極211aおよび負極21
1bとがそれぞれ相対的にずれる。このとき、複数の積層された正極211aおよび負極
211bは、シール部263側の一端が固定部材217で固定されているため、折り曲げ
部261に近いほどずれ量が大きくなるように、それぞれずれる。これにより、正極21
1aおよび負極211bにかかる応力が緩和され、正極211aおよび負極211b自体
が伸縮する必要がない。その結果、正極211aおよび負極211bが破損することなく
電池250を曲げることができる。
【0224】
また、正極211aおよび負極211bの端部と、外装体251との間に空間273を有
していることにより、曲げた時、内側に位置する正極211aおよび負極211bの端部
が、外装体251に接触することなく、相対的にずれることができる。
【0225】
図15および図16で例示した電池250は、繰り返し曲げ伸ばしを行っても、外装体の
破損、正極211aおよび負極211bの破損などが生じにくく、電池特性も劣化しにく
い電池である。電池250が有する正極211aに、先の実施の形態で説明した正極活物
質を用いることで、さらに高容量でサイクル特性に優れた電池とすることができる。
【0226】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について説明
する。
【0227】
まず実施の形態3の一部で説明した、曲げることのできる二次電池を電子機器に実装する
例を図17に示す。曲げることのできる二次電池を適用した電子機器として、例えば、テ
レビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモ
ニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(
携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パ
チンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0228】
また、フレキシブルな形状を備える二次電池を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動車
の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0229】
図17(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401
に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、ス
ピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、二次
電池7407を有している。上記の二次電池7407に本発明の一態様の二次電池を用い
ることで、軽量で長寿命な携帯電話機を提供できる。
【0230】
図17(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機740
0を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている二次電池
7407も湾曲される。また、その時、曲げられた二次電池7407の状態を図17(C
)に示す。二次電池7407は薄型の蓄電池である。二次電池7407は曲げられた状態
で固定されている。なお、二次電池7407は集電体7409と電気的に接続されたリー
ド電極7408を有している。
【0231】
図17(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、
筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び二次電池7104を備える。
また、図17(E)に曲げられた二次電池7104の状態を示す。二次電池7104は曲
げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して二次電池7104の一部または
全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径の
値で表したものを曲率半径であり、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半径
が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体または二次電池7104の主表面の一部ま
たは全部が変化する。二次電池7104の主表面における曲率半径が40mm以上150
mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。上記の二次電池7104に本発明の
一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯表示装置を提供できる。
【0232】
図17(F)は、腕時計型の携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末7200は
、筐体7201、表示部7202、バンド7203、バックル7204、操作ボタン72
05、入出力端子7206などを備える。
【0233】
携帯情報端末7200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インタ
ーネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができ
る。
【0234】
表示部7202はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うこ
とができる。また、表示部7202はタッチセンサを備え、指やスタイラスなどで画面に
触れることで操作することができる。例えば、表示部7202に表示されたアイコン72
07に触れることで、アプリケーションを起動することができる。
【0235】
操作ボタン7205は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ
動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持
たせることができる。例えば、携帯情報端末7200に組み込まれたオペレーティングシ
ステムにより、操作ボタン7205の機能を自由に設定することもできる。
【0236】
また、携帯情報端末7200は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能で
ある。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで
通話することもできる。
【0237】
また、携帯情報端末7200は入出力端子7206を備え、他の情報端末とコネクターを
介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子7206を介して充電
を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子7206を介さずに無線給電により行
ってもよい。
【0238】
携帯情報端末7200の表示部7202には、本発明の一態様の二次電池を有している。
本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯情報端末を提供できる。
例えば、図17(E)に示した二次電池7104を、筐体7201の内部に湾曲した状態
で、またはバンド7203の内部に湾曲可能な状態で組み込むことができる。
【0239】
携帯情報端末7200はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋セン
サ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサや、タッチセンサ、加圧センサ、加速度セン
サ、等が搭載されることが好ましい。
【0240】
図17(G)は、腕章型の表示装置の一例を示している。表示装置7300は、表示部7
304を有し、本発明の一態様の二次電池を有している。また、表示装置7300は、表
示部7304にタッチセンサを備えることもでき、また、携帯情報端末として機能させる
こともできる。
【0241】
表示部7304はその表示面が湾曲しており、湾曲した表示面に沿って表示を行うことが
できる。また、表示装置7300は、通信規格された近距離無線通信などにより、表示状
況を変更することができる。
【0242】
また、表示装置7300は入出力端子を備え、他の情報端末とコネクターを介して直接デ
ータのやりとりを行うことができる。また入出力端子を介して充電を行うこともできる。
なお、充電動作は入出力端子を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0243】
表示装置7300が有する二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽
量で長寿命な表示装置を提供できる。
【0244】
次に、図18(A)および図18(B)に、2つ折り可能なタブレット型端末の一例を示
す。図18(A)および図18(B)に示すタブレット型端末9600は、筐体9630
a、筐体9630b、筐体9630aと筐体9630bを接続する可動部9640、表示
部9631、表示モード切り替えスイッチ9626、電源スイッチ9627、省電力モー
ド切り替えスイッチ9625、留め具9629、操作スイッチ9628、を有する。表示
部9631には、可撓性を有するパネルを用いることで、より広い表示部を有するタブレ
ット端末とすることができる。図18(A)は、タブレット型端末9600を開いた状態
を示し、図18(B)は、タブレット型端末9600を閉じた状態を示している。
【0245】
また、タブレット型端末9600は、筐体9630aおよび筐体9630bの内部に蓄電
体9635を有する。蓄電体9635は、可動部9640を通り、筐体9630aと筐体
9630bに渡って設けられている。
【0246】
表示部9631は、一部をタッチパネルの領域とすることができ、表示された操作キーに
ふれることでデータ入力をすることができる。また、タッチパネルのキーボード表示切り
替えボタンが表示されている位置に指やスタイラスなどでふれることで表示部9631に
キーボードボタン表示することができる。
【0247】
また、表示モード切り替えスイッチ9626は、縦表示又は横表示などの表示の向きを切
り替え、白黒表示やカラー表示の切り替えなどを選択できる。省電力モード切り替えスイ
ッチ9625は、タブレット型端末9600に内蔵している光センサで検出される使用時
の外光の光量に応じて表示の輝度を最適なものとすることができる。タブレット型端末は
光センサだけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出
装置を内蔵させてもよい。
【0248】
図18(B)は、閉じた状態であり、タブレット型端末は、筐体9630、太陽電池96
33、DCDCコンバータ9636を含む充放電制御回路9634有する。また、蓄電体
9635として、本発明の一態様に係る二次電池を用いる。
【0249】
なお、タブレット型端末9600は2つ折り可能なため、未使用時に筐体9630aおよ
び筐体9630bを重ね合せるように折りたたむことができる。折りたたむことにより、
表示部9631を保護できるため、タブレット型端末9600の耐久性を高めることがで
きる。また、本発明の一態様の二次電池を用いた蓄電体9635は高容量、良好なサイク
ル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができるタブレット型端末を提供でき
る。
【0250】
また、この他にも図18(A)および図18(B)に示したタブレット型端末は、様々な
情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻な
どを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力操作又は編集するタッチ
入力機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有する
ことができる。
【0251】
タブレット型端末の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッチパネル、
表示部、又は映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池9633は、筐
体9630の片面又は両面に設けることができ、蓄電体9635の充電を効率的に行う構
成とすることができる。
【0252】
また、図18(B)に示す充放電制御回路9634の構成、および動作について図18
C)にブロック図を示し説明する。図18(C)には、太陽電池9633、蓄電体963
5、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3、表
示部9631について示しており、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コン
バータ9637、スイッチSW1乃至SW3が、図18(B)に示す充放電制御回路96
34に対応する箇所となる。
【0253】
まず外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する。
太陽電池で発電した電力は、蓄電体9635を充電するための電圧となるようDCDCコ
ンバータ9636で昇圧又は降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に太陽電池
9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ9637
で表示部9631に必要な電圧に昇圧又は降圧をすることとなる。また、表示部9631
での表示を行わない際には、SW1をオフにし、SW2をオンにして蓄電体9635の充
電を行う構成とすればよい。
【0254】
なお太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、圧
電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段による蓄電
体9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送受信し
て充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構成とし
てもよい。
【0255】
図19に、他の電子機器の例を示す。図19において、表示装置8000は、本発明の一
態様に係る二次電池8004を用いた電子機器の一例である。具体的に、表示装置800
0は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体8001、表示部8002、スピーカ部
8003、二次電池8004等を有する。本発明の一態様に係る二次電池8004は、筐
体8001の内部に設けられている。表示装置8000は、商用電源から電力の供給を受
けることもできるし、二次電池8004に蓄積された電力を用いることもできる。よって
、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る
二次電池8004を無停電電源として用いることで、表示装置8000の利用が可能とな
る。
【0256】
表示部8002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光
装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Devi
ce)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field
Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0257】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など
、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0258】
図19において、据え付け型の照明装置8100は、本発明の一態様に係る二次電池81
03を用いた電子機器の一例である。具体的に、照明装置8100は、筐体8101、光
源8102、二次電池8103等を有する。図19では、二次電池8103が、筐体81
01及び光源8102が据え付けられた天井8104の内部に設けられている場合を例示
しているが、二次電池8103は、筐体8101の内部に設けられていても良い。照明装
置8100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8103に蓄
積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が
受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8103を無停電電源として用いる
ことで、照明装置8100の利用が可能となる。
【0259】
なお、図19では天井8104に設けられた据え付け型の照明装置8100を例示してい
るが、本発明の一態様に係る二次電池は、天井8104以外、例えば側壁8105、床8
106、窓8107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上
型の照明装置などに用いることもできる。
【0260】
また、光源8102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができ
る。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光
素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0261】
図19において、室内機8200及び室外機8204を有するエアコンディショナーは、
本発明の一態様に係る二次電池8203を用いた電子機器の一例である。具体的に、室内
機8200は、筐体8201、送風口8202、二次電池8203等を有する。図19
は、二次電池8203が、室内機8200に設けられている場合を例示しているが、二次
電池8203は室外機8204に設けられていても良い。或いは、室内機8200と室外
機8204の両方に、二次電池8203が設けられていても良い。エアコンディショナー
は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8203に蓄積された電
力を用いることもできる。特に、室内機8200と室外機8204の両方に二次電池82
03が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時で
も、本発明の一態様に係る二次電池8203を無停電電源として用いることで、エアコン
ディショナーの利用が可能となる。
【0262】
なお、図19では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを
例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコン
ディショナーに、本発明の一態様に係る二次電池を用いることもできる。
【0263】
図19において、電気冷凍冷蔵庫8300は、本発明の一態様に係る二次電池8304を
用いた電子機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫8300は、筐体8301、冷
蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303、二次電池8304等を有する。図19では、二
次電池8304が、筐体8301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫8300は、
商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8304に蓄積された電力を
用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時
でも、本発明の一態様に係る二次電池8304を無停電電源として用いることで、電気冷
凍冷蔵庫8300の利用が可能となる。
【0264】
また、電子機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量の
うち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、二次
電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑える
ことができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫8300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉830
2、冷凍室用扉8303の開閉が行われない夜間において、二次電池8304に電力を蓄
える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行わ
れる昼間において、二次電池8304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率
を低く抑えることができる。
【0265】
上述の電子機器の他、本発明の一態様の二次電池はあらゆる電子機器に搭載することがで
きる。本発明の一態様により、二次電池のサイクル特性が良好となる。また、本発明の一
態様によれば、高容量の二次電池とすることができ、よって、二次電池自体を小型軽量化
することができる。そのため本発明の一態様である二次電池を、本実施の形態で説明した
電子機器に搭載することで、より長寿命で、より軽量な電子機器とすることができる。本
実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0266】
(実施の形態5)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様である二次電池を搭載する例を示す。
【0267】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、又はプ
ラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる
【0268】
図20において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。図20(A)
に示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車で
ある。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いる
ことが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、航続距離の長
い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有する。二次電池は
、車内の床部分に対して、図12(C)および図12(D)に示した二次電池のモジュー
ルを並べて使用すればよい。また、図17に示す二次電池を複数組み合わせた電池パック
を車内の床部分に対して設置してもよい。二次電池は電気モーター8406を駆動するだ
けでなく、ヘッドライト8401やルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供
給することができる。
【0269】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示
装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲ
ーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0270】
図20(B)に示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン方
式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができ
る。図20(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二
次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際し
ては、充電方法やコネクターの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の所定の
方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションで
もよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの
電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる。
充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行う
ことができる。
【0271】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給
して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組
み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電
の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に
太陽電池を設け、停車時や走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触で
の電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
【0272】
また、図20(C)は、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。図20
(C)に示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示
灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することが
できる。
【0273】
また、図20(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池860
2を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても
、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能とな
っていることが好ましく、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走
行する前に収納することが好ましい。
【0274】
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の容量を大き
くすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池自
体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることがで
きる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源としても用いることもでき
る。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができ
る。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および
二酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二
次電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減ら
すことができる。
【0275】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0276】
本実施例では、正極活物質中の第1の領域が有する遷移金属としてコバルトを適用した。
そして出発材料にマグネシウムおよびフッ素を加えて作製した正極活物質、および比較例
としてマグネシウムおよびフッ素を加えずに作製した正極活物質を作製し、特徴を分析し
た。また、出発材料に添加するマグネシウムおよびフッ素の濃度を変えてサイクル特性を
評価した。
【0277】
<サンプル1からサンプル6の正極活物質の作製>
マグネシウム源およびフッ素源の濃度を変えた、サンプル1からサンプル6までの正極活
物質を作製した。共通出発材料として炭酸リチウムおよび酸化コバルトを用いた。サンプ
ルごとに異なる添加出発材料として、酸化マグネシウムおよびフッ化リチウムを用いた。
【0278】
サンプル1は、共通出発原料に含まれるコバルトに対して、0.5atomic%のマグ
ネシウムおよび1atomic%のフッ素が含まれるように、酸化マグネシウムおよびフ
ッ化リチウムを添加出発材料に用いた。以下、サンプル1は添加出発材料として0.5m
ol% MgO、1mol% LiFを用いる、と表記する。
【0279】
上記のように本明細書等では、添加出発材料の量を、共通出発原料に含まれる遷移金属に
対するatomic%またはmol%で示すこととする。サンプル2以降についても同様
に表記する。
【0280】
サンプル2は、添加出発材料としてコバルトに対して0.5mol% MgO、0.5m
ol% LiFを用いた。サンプル3は、添加出発材料として0.5mol% MgO、
2mol% LiFを用いた。サンプル4は比較例として、添加出発材料として1mol
% LiFを用い、マグネシウムは添加しなかった。サンプル5は比較例として、添加出
発材料として0.5mol% MgOを用い、フッ素は添加しなかった。サンプル6は比
較例として、マグネシウムおよびフッ素のいずれも添加しなかった。各サンプルの共通出
発材料および添加出発材料を表1に示す。
【0281】
【表1】
【0282】
上記の6サンプルについて、それぞれ実施の形態1に記載した作製方法と同様に、出発材
料を混合し、第1の加熱を行い、冷却した後ふるいにかけ、第2の加熱を行い、冷却し、
回収して、正極活物質を得た。これらの工程の途中の粒子、およびこれらの工程を終えた
正極活物質について、以下の分析を行った。
【0283】
<STEM-EDX>
サンプル1およびサンプル5(比較例)について、第2の加熱前の粒子の表面近傍断面を
STEM-EDXを用いて分析した。図22にサンプル1の第2の加熱前、図23にサン
プル5(比較例)の第2の加熱前のSTEM-EDX像を示す。図22(A)および図2
3(A)はSTEM像、図22(B)および図23(B)はマグネシウムのマッピング、
図22(C)および図23(C)はフッ素のマッピングである。
【0284】
図22(B)に示すように、出発材料にマグネシウムおよびフッ素を含むサンプル1では
、第2の加熱を行う前から、粒子の表面近傍にある程度マグネシウムが偏析している様子
が観察された。偏析している領域は粒子の表面から1nmから2nm程度であった。
【0285】
一方、図23(B)のEDXマッピングに示すように、出発材料にマグネシウムを含むが
フッ素を含まないサンプル5では、マグネシウムの表面近傍への偏析は観察されなかった
【0286】
なお図22(C)および図23(C)に示すように、サンプル1およびサンプル5ともに
、正極活物質の内部にはフッ素はほとんど観察されなかった。これは、EDXでは軽元素
であるフッ素が検出されにくいためと考えられた。
【0287】
<X線光電子分光(XPS)>
次に、サンプル1およびサンプル5(比較例)について、第2の加熱の前後における正極
活物質の表面近傍のマグネシウム量を分析した。
【0288】
XPS分析の条件は下記の通りとした。
測定装置:PHI社製QuanteraII
X線源:単色化Al(1486.6eV)
検出領域:100μmφ
検出深さ:約4~5nm(取出角45°)
測定スペクトル:ワイド,Li1s,Co2p,Ti2p,O1s,C1s,F1s,S
2p,Ca2p,Mg1s,Na1s,Zr3d
【0289】
XPSを用いて各元素の濃度を定量した結果を、表2に示す。なお定量精度は±1ato
mic%程度、検出下限は元素にもよるが約1atomic%である。またCaでは波形
分離したMg Augerピークを除去しているため、定量誤差が通常より大きい。
【0290】
また、コバルトを1とした場合の各元素の存在比を計算した結果を、表3に示す。
【0291】
【表2】
【0292】
【表3】
【0293】
また表3に示した元素の存在比のうち、マグネシウムについてグラフにしたものを、図2
4に示す。
【0294】
表2、表3および図24に示すように、添加出発材料としてマグネシウムとフッ素を有す
るサンプル1では、第2の加熱の前でも、XPSで測定可能な正極活物質表面近傍にマグ
ネシウムが存在した。第2の加熱後は、正極活物質表面近傍のマグネシウムの量はさらに
増加した。
【0295】
つまり第2の加熱により、正極活物質表面へのマグネシウムの偏析が進んだと考えられる
。このようにサンプル1の正極活物質は、内部に第1の領域を有し、表層部に第2の領域
を有し、第1の領域はコバルト酸リチウムを有し、第2の領域はマグネシウムを有する正
極活物質であることが確認できた。
【0296】
一方、添加出発材料としてフッ素を有さず、マグネシウムのみを有するサンプル5では、
第2の加熱の前後ともに正極活物質表面近傍のマグネシウムは検出下限以下であった。つ
まり、出発材料に含まれるフッ素は、意外にもマグネシウムを正極活物質の表層部に偏析
させる効果があることが明らかとなった。
【0297】
<サイクル特性>
次に、サンプル1の第2の加熱前後、サンプル5の第1の加熱前後、およびサンプル2、
サンプル3、サンプル4、サンプル6の正極活物質を用いてCR2032タイプ(直径2
0mm高さ3.2mm)のコイン型の二次電池を作製し、サイクル特性を評価した。
【0298】
正極には、上記で作製した正極活物質と、アセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化ビ
ニリデン(PVDF)を正極活物質:AB:PVDF=95:2.5:2.5(重量比)
で混合したスラリーを集電体に塗工したものを用いた。
【0299】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0300】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を用
い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がE
C:DEC=3:7(体積比)、ビニレンカーボネート(VC)が2重量%で混合された
ものを用いた。
【0301】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0302】
サイクル特性試験の測定温度は25℃とした。充電は、活物質重量あたりの電流密度68
.5mA/gの定電流、上限電圧4.6Vで行い、その後電流密度1.4mA/gとなる
まで定電圧充電を行った。放電は、活物質重量あたりの電流密度68.5mA/gの定電
流、下限電圧2.5Vで行った。それぞれ30サイクル充放電を行った。
【0303】
図25(A)および図25(B)に、サンプル1の第2の加熱前後およびサンプル5の第
1の加熱前後の正極活物質を用いた二次電池のサイクル特性のグラフを示す。図25(A
)は4.6V充電時のエネルギー密度、図25(B)は4.6V充電時のエネルギー密度
維持率のグラフである。なおエネルギー密度は、放電容量と放電平均電圧の積である。
【0304】
図25に示すように、添加出発材料にマグネシウムとフッ素を有するサンプル1では、第
2の加熱を行うことでサイクル特性が大幅に向上した。またエネルギー密度も良好であっ
た。
【0305】
これは、上述のXPSの結果からも明らかになったように、第2の加熱を行うことで、正
極活物質の表面近傍に存在する、マグネシウムの量が増加したためだと考えられる。
【0306】
一方、添加出発材料にマグネシウムのみを有するサンプル5では、第2の加熱の前後では
サイクル特性に大きな違いはみられなかった。
【0307】
次に図26および図27に、第2の加熱後のサンプル1からサンプル6の正極活物質を用
いた二次電池のサイクル特性のグラフを示す。図26は4.6V充電時のエネルギー密度
のグラフ、図27は4.6V充電時のエネルギー密度維持率のグラフである。
【0308】
図26および図27に示すように、出発材料にフッ素のみを添加したサンプル4(比較例
)、マグネシウムのみを添加したサンプル5(比較例)は、マグネシウムおよびフッ素と
もに添加しないサンプル6(比較例)より劣ったサイクル特性を示した。
【0309】
一方、出発材料にマグネシウムおよびフッ素を添加したサンプル1からサンプル3は良好
なサイクル特性を示した。最も良好なサイクル特性を示したのは、マグネシウムとフッ素
の原子数比が1:2であるサンプル1であった。次いで、マグネシウムとフッ素の含有比
が1:4であるサンプル2が良好なサイクル特性を示した。また図26からも明らかなよ
うに、サイクル特性だけでなくエネルギー密度も良好であった。
【0310】
このように、出発材料にマグネシウムとフッ素を添加することで、良好なサイクル特性を
示す正極活物質を得られることが明らかとなった。また、出発材料に含まれるマグネシウ
ムとフッ素の原子数比は、Mg:F=1:x(1.5≦x≦4)が好ましく、Mg:F=
1:2程度が最も好ましいことが明らかとなった。
【0311】
<サンプル7、8の正極活物質の作製>
次に、マグネシウムとフッ素の比を一定(Mg:F=1:2)にしたまま添加量を変えた
、サンプル7およびサンプル8の正極活物質を作製した。
【0312】
サンプル7は、添加出発材料として1mol% MgO、2mol% LiFを用いた。
サンプル8は、添加出発材料として2mol% MgO、 4mol% LiFを用いた
。サンプル7およびサンプル8について、それぞれ実施の形態1に記載した作製方法と同
様に、出発材料を混合し、第1の加熱を行い、冷却した後ふるいにかけ、第2の加熱を行
い、冷却し、回収して、正極活物質を作製し、二次電池を作製した。
【0313】
原料のマグネシウムとフッ素の原子数比がMg:F=1:2である、サンプル1、サンプ
ル7、サンプル8と、比較例としてマグネシウムおよびフッ素を添加していないサンプル
6の共通出発材料および添加出発材料を表4に示す。
【0314】
【表4】
【0315】
<サイクル特性>
図28(A)および図28(B)に、サンプル1、サンプル7、サンプル8およびサンプ
ル6(比較例)の正極活物質を用いた二次電池のサイクル特性のグラフを示す。図28
A)は4.6V充電時のエネルギー密度のグラフ、図28(B)は4.6V充電時のエネ
ルギー密度維持率のグラフである。
【0316】
図28(A)および図28(B)に示すように、原料のマグネシウムとフッ素の原子数比
がMg:F=1:2であるサンプルはいずれも良好なサイクル特性を示した。中でも、添
加出発材料として1mol% MgO、2mol% LiFを用いたサンプル7が最も良
好なサイクル特性を示し、30サイクル後のエネルギー密度維持率は93%であった。ま
図28(A)からも明らかなように、サイクル特性だけでなくエネルギー密度も良好で
あった。
【実施例2】
【0317】
本実施例では、マグネシウムの偏析により形成された第2の領域を有する正極活物質と、
外部からの被覆により形成された酸化マグネシウム層を有する正極活物質を比較した結果
について示す。
【0318】
<偏析により形成された第2の領域を有する正極活物質>
マグネシウムの偏析により形成された第2の領域を有する正極活物質としては、添加出発
材料として1mol% MgO、2mol% LiFを用いた、実施例1のサンプル7を
用いた。
【0319】
<外部からの被覆MgOを有する正極活物質>
外部からの被覆により形成された酸化マグネシウム層を有する正極活物質としては、コバ
ルト酸リチウムに多角バレルスパッタを用いて酸化マグネシウムを被覆した、サンプル9
(比較例)およびサンプル10(比較例)の正極活物質を用いた。サンプル9(比較例)
およびサンプル10(比較例)の作製方法を以下に述べる。
【0320】
コバルト酸リチウムとして日本化学工業製(製品名;C-10N)を用いた。多角バレル
スパッタはターゲットとして酸化マグネシウムを用い、パワーを450W、スパッタガス
としてAr、Oを用いて成膜を行った。ArとOの分圧はそれぞれ、0.6Pa、0
.5Paとした。処理時間は、サンプル9では36分、サンプル10では180分とした
【0321】
多角バレルスパッタ処理後にSTEM観察を行ったところ、サンプル9では正極活物質の
表面に約1nmから3nmの酸化マグネシウム層が付着していた。また、サンプル10で
は正極活物質の表面に約6nmから8nmの酸化マグネシウム層が付着していた。
【0322】
その後、サンプル9およびサンプル10について実施の形態1に記載の第2の加熱と同様
に800℃で2時間加熱した。昇温は200℃/h、露点が-109℃の乾燥空気を10
L/minで流した。
【0323】
本実施例で比較するサンプル7、サンプル9(比較例)、およびサンプル10(比較例)
の条件を表5に示す。
【0324】
【表5】
【0325】
<STEM>
サンプル7およびサンプル10(比較例)の正極活物質の断面を、STEMを用いて観察
した。図29(A)および図29(B)に、偏析により形成された第2の領域を有するサ
ンプル7のSTEM像を示す。図30(A)および図30(B)に、外部からの被覆によ
り形成された酸化マグネシウム層を有するサンプル10(比較例)のSTEM像を示す。
【0326】
サンプル7では、第1の領域と第2の領域が異なる領域であることが、像の明るさの違い
等から観察することができた。図29に示すように、偏析により形成された第2の領域を
有するサンプル7では、1nmから2nm程度の第2の領域が観察された。
【0327】
またサンプル10(比較例)においても、図30に示すように、コバルト酸リチウム上に
酸化マグネシウム層が形成されたことが、像の明るさの違い等から観察することができた
。サンプル10(比較例)では、8nm程度の酸化マグネシウム層が観察された。
【0328】
サンプル7およびサンプル10(比較例)のいずれも、異層間の陽イオンおよび陰イオン
の配列は少なくとも一部がそろっており、第1の領域と第2の領域の結晶の配向が一致し
ている様子が観察された。
【0329】
<充放電特性>
サンプル7、サンプル9(比較例)およびサンプル10(比較例)の正極活物質を用いて
実施例1と同様に二次電池を作製し、充放電特性を評価した。図31(A)にサンプル7
図31(B)にサンプル9(比較例)、図31(C)にサンプル10(比較例)の正極
活物質を用いた二次電池の充放電特性のグラフを示す。
【0330】
図31に示すように、マグネシウムの偏析により形成された第2の領域を有するサンプル
7の方が、多角バレルスパッタにより形成された酸化マグネシウム層を有するサンプル9
およびサンプル10よりも容量が大きく、良好な充放電特性を示した。
【0331】
<サイクル特性>
次に、サンプル7、サンプル9(比較例)およびサンプル10(比較例)の正極活物質を
用いた二次電池のサイクル特性を評価した結果を図32(A)および図32(B)に示す
。サイクル特性試験は実施例1と同様に行った。
【0332】
図32(A)は4.6V充電時のエネルギー密度、図32(B)は4.6V充電時のエネ
ルギー密度維持率のグラフである。図32(B)に示すように、偏析により形成された第
2の領域を有するサンプル7の方が、多角バレルスパッタにより形成された酸化マグネシ
ウム層を有するサンプル9およびサンプル10よりもきわめて良好なサイクル特性を示し
た。また図32(A)に示すように、エネルギー密度もサンプル7の方が良好であった。
【0333】
このように、マグネシウムの偏析により形成された第2の領域は、多角バレルスパッタに
より形成された酸化マグネシウム層よりも、良好な充放電特性およびサイクル特性に寄与
することが明らかとなった。
【0334】
これらの結果から、コバルト酸リチウム粒子の外側から被覆された酸化マグネシウム層よ
りも、あらかじめ出発材料に含まれていたマグネシウムが表面に偏析した結果形成された
マグネシウムを含む領域の方が、コバルト酸リチウムの結晶構造の安定化に寄与すること
が推測された。
【実施例3】
【0335】
本実施例では、マグネシウムの偏析により形成された第2の領域を有する正極活物質の特
徴を各種分析により明らかにした。
【0336】
<分析した正極活物質>
添加出発材料として1mol% MgO、2mol% LiFを用いた、実施例1のサン
プル7を、本実施例の分析サンプルとした。
【0337】
<STEM、FFT>
偏析により形成された第2の領域を有するサンプル7の、正極活物質の表面近傍断面のS
TEM-FFT像を図33および図34に示す。図33(A)は正極活物質の表面近傍の
STEM像であり、図33(A)中にFFT1で示した領域のFFT(高速フーリエ変換
)像が図33(B)である。図33(B)のFFT像の輝点の一部を図33(C)に示す
ようにA、B、C、Oと呼ぶこととした。
【0338】
FFT1で示した領域のFFT像の輝点について、実測値はそれぞれ、OAはd=0.2
0nm、OBはd=0.24nm、OCはd=0.25nmであった。また∠AOB=5
3°、∠BOC=74°、∠AOC=127°であった。
【0339】
これは、ICDD(International Centre for Diffra
ction Data)データベースにおける酸化マグネシウム(MgO)のデータ(I
CDD45-0945)から求められる、OA(200)のd=0.21nm、OB(1
-11)のd=0.24nm、OC(-1-11)のd=0.24nm、∠AOB=55
°、∠BOC=70°、∠AOC=125°と近い。そのため、FFT1で示した領域は
岩塩型の結晶構造を有する領域であり、[011]入射の像であることが明らかになった
【0340】
図34(A)は図33(A)と同じ正極活物質の表面近傍のSTEM像であり、図34
A)中にFFT2で示した領域のFFT像が図34(B)である。図34(B)のFFT
像の輝点の一部を図34(C)に示すようにA、B、C、Oと呼ぶこととした。
【0341】
FFT2で示した領域のFFT像の輝点について、実測値はそれぞれ、OAはd=0.2
4nm、OBはd=0.20nm、OCはd=0.45nmであった。また∠AOB=2
5°、∠BOC=53°、∠AOC=78°であった。
【0342】
これは、ICDDデータベースにおけるコバルト酸リチウム(LiCoO)のデータ(
ICDD50-0653)から求められる、OA(101)のd=0.24nm、OB(
104)のd=0.20nm、OC(003)のd=0.47nm、∠AOB=25°、
∠BOC=55°、∠AOC=80°と近い。そのため、FFT2で示した領域は、コバ
ルト酸リチウムを有する領域であり、[010]入射の像であることが明らかになった。
【0343】
また、図33(A)および図34(A)のSTEM像からは、第1の領域と第2の領域で
像の明るさが異なる様子が観察され、さらに第1の領域と第2の領域で結晶の配向が一致
していることが観察された。
【0344】
<STEM-EDX>
次にサンプル7の、表面近傍および結晶欠陥近傍をSTEM-EDXを用いて分析した結
果を、図35乃至図37に示す。
【0345】
図35はサンプル7の正極活物質の表面近傍のSTEM-EDX分析結果である。図35
(A)はSTEM像、図35(B)はマグネシウムのマッピング、図35(C)はフッ素
のマッピングである。
【0346】
実施例1の、0.5mol% MgO、1mol% LiFを添加出発材料として用いた
サンプル1(図22)よりも、1mol% MgO、2mol% LiFを添加出発材料
として用いたサンプル7(図35)の方が、正極活物質の表面近傍のマグネシウムが明瞭
に観察された。これは、正極活物質の表面近傍のマグネシウム量が多いほど、サイクル特
性が良好であるという、実施例1の結果を支持するものである。
【0347】
図36はサンプル7の正極活物質の結晶欠陥近傍の断面TEM像である。図中の結晶欠陥
1001に、結晶欠陥とみられる他と明るさの異なる部分が観察された。
【0348】
図36の結晶欠陥1001の部分を、STEM-EDXを用いて分析した結果を図37
示す。
【0349】
図37(A-1)は結晶欠陥1001部分のSTEM像、図37(A-2)はマグネシウ
ムのマッピング、図37(B-1)はフッ素のマッピング、図37(B-2)はジルコニ
ウムのマッピングである。
【0350】
図37(A-2)に示すように、サンプル7の正極活物質の結晶欠陥およびその近傍には
、マグネシウムの偏析が観察された。そのため、サンプル7は表面近傍だけでなく、内部
にも第2の領域を有する正極活物質であることが示された。また、図37(B-2)に示
すように内部の第2の領域にはジルコニウムの偏析も多く観察された。出発原料を混合す
る工程は、ボールミルにより行われており、ボールミルの材質にジルコニウムが使用され
ているため、サンプル7にジルコニウムが混入した可能性がある。また、図37(B-1
)に示すように内部の第2の領域にフッ素はほとんど検出されなかったが、これはEDX
では軽元素であるフッ素が検出されにくいためと考えられた。
【0351】
<ToF-SIMS>
次に、偏析により形成された第2の領域を有するサンプル7の正極活物質について、マグ
ネシウムおよびフッ素の深さ方向の分布を調べるため、ToF-SIMSを用いて分析し
た結果について図38に示す。
【0352】
複数の正極活物質の粒子を試料に用い、ToF-SIMS分析とスパッタリングを交互に
繰り返しながら、正極活物質の表面から深さ方向に分析を行った。測定装置はTOF.S
IMS5-300(ION-TOF社製)を用い、スパッタリングのイオン源としてはC
sを用いた。また分析は約50μm角の範囲で行った。
【0353】
酸化マグネシウムイオン([MgO2-)とフッ素イオン(F)の強度について、
横軸を測定回数(サイクル数)としてグラフ化したものを図38に示す。この測定では負
イオンに関する分析を行っているため、マグネシウムの分布は[MgO2-の強度で
評価した。なお、それぞれの強度は最大値を1にして規格化している。
【0354】
図38に示すように、マグネシウムの偏析により形成された第2の領域を有するサンプル
7では、マグネシウムとフッ素の深さ方向の分布とピークは重畳することが明らかになっ
た。
【0355】
<XPS>
次に、サンプル7の正極活物質について、第2の加熱の前後でXPSを用いて分析した結
果について、表6および図39に示す。XPS分析は実施例1と同様に行った。
【0356】
XPSを用いてサンプル7の各元素の濃度を定量した結果を、表6に示す。なお定量精度
は±1atomic%程度、検出下限は元素にもよるが約1atomic%である。また
Caでは波形分離したMg Augerピークを除去しているため、定量誤差が通常より
大きい。
【0357】
【表6】
【0358】
表6の定量値は、XPS分析可能な、正極活物質の表面から中心に向かった深さ4nmか
ら5nmまでの範囲に存在し、リチウム、コバルト、チタン、酸素、炭素、フッ素、硫黄
、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびジルコニウムの総量を100atomi
c%としたときの数値である。
【0359】
表6に示すように、第2の加熱後の、偏析により形成された第2の領域を有するサンプル
7の、表面から中心に向かった深さ4nmから5nmまでの範囲において、リチウム、コ
バルト、チタン、酸素、炭素、フッ素、硫黄、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムお
よびジルコニウムの総量を100%としたとき、マグネシウム濃度は5.5atomic
%、フッ素濃度は1.4atomic%であった。
【0360】
なお、リチウム、コバルト、酸素、フッ素、マグネシウムの総量を100%としたときの
マグネシウムの濃度を計算すると6.7%、フッ素の濃度を計算すると1.7%となった
【0361】
またマグネシウムとフッ素の濃度の比は、Mg:F=y:1(3≦y≦5)の範囲内であ
り、より正確にはMg:F=3.9:1程度であった。
【0362】
次に、表面XPS分析により第2の加熱後のサンプル7のフッ素の結合状態について分析
した結果を、図39に示す。比較例として、添加出発材料として10mol% LiFを
用い、マグネシウムを添加しなかった他は、サンプル7と同様に作製したサンプルの結果
を示す。またMgFとLiFの標準試料のXPSスペクトルも合わせて示す。
【0363】
図39に示すように、添加出発材料として10mol% LiFを用い、マグネシウムを
添加しなかったサンプルでは、フッ素の結合エネルギーのピークはLiFと一致する68
5eV程度であり、正極活物質の表層部に存在するフッ素についてはLiFが主な結合状
態であると考えられた。一方、1mol% MgOと2mol% LiFを添加出発材料
として用い、第2の領域を有するサンプル7では、正極活物質の表層部に存在するフッ素
の結合エネルギーのピークは682eV以上685eV未満、より正確には684.3e
Vであり、MgF、LiFのいずれとも一致しなかった。つまり、正極活物質の第2の
領域が有するフッ素は、MgF、LiF以外の結合状態で存在していることが推察され
た。
【実施例4】
【0364】
本実施例では、偏析により形成された第2の領域を有する正極活物質を作製する際の、第
2の加熱の温度、および第2の加熱の際の雰囲気について検討した結果について説明する
【0365】
≪第2の加熱の温度≫
<サンプル11からサンプル13の正極活物質の作製>
第2の加熱の温度を変えた、サンプル11からサンプル13の正極活物質を作製した。出
発材料はすべて、共通出発材料として炭酸リチウムおよび酸化コバルト、添加出発材料と
して1mol% MgO、2mol% LiFを用いた。
【0366】
第2の加熱の温度をサンプル11は700℃、サンプル12は900℃、サンプル13は
1000℃とした他は、実施例1のサンプル7と同様に正極活物質を作製した。なおサン
プル7の第2の加熱の温度は800℃である。各サンプルの第2の加熱の温度を表7に示
す。
【0367】
【表7】
【0368】
サンプル7、サンプル11からサンプル13の正極活物質を用いて、実施例1と同様に二
次電池を作製し、サイクル特性を評価した。サンプル7、サンプル11からサンプル13
のサイクル特性を図40に示す。充放電の条件は実施例1と同様に行った。
【0369】
図40(A)は4.6V充電時のエネルギー密度のグラフ、図40(B)は4.6V充電
時のエネルギー密度維持率のグラフである。図40(B)に示すように、第2の加熱温度
を800℃にしたサンプル7が最も良好なサイクル特性を示した。第2の加熱温度を70
0℃にしたサンプル11および900℃にしたサンプル12はそれに次ぐ良好なサイクル
特性であった。第2の加熱温度を1000℃にしたサンプル13でも、20サイクル後の
エネルギー密度維持率は76%であった。これは、図26で示した添加出発材料なしのサ
ンプル6において、20サイクル後のエネルギー密度維持率が63%であったことと比較
すると、良好なサイクル特性を示したといえる。
【0370】
これより、第2の加熱の温度は700℃以上1000℃以下が好ましく、700℃以上9
00℃以下がより好ましく、800℃程度がさらに好ましいことが明らかとなった。
【0371】
≪第2の加熱の雰囲気≫
<サンプル14からサンプル16の正極活物質の作製>
第2の加熱の雰囲気を乾燥空気から100%酸素に変えた、サンプル14からサンプル1
6までの正極活物質を作製した。出発材料はすべて、共通出発材料として炭酸リチウムお
よび酸化コバルト、添加出発材料として1mol% MgO、2mol% LiFを用い
た。第2の加熱を酸素雰囲気に変えた他は、サンプル7、サンプル12、サンプル13と
同様に正極活物質を作製した。
【0372】
サンプル14からサンプル16の正極活物質を用いて、実施例1と同様に二次電池を作製
し、サンプル7、サンプル12、サンプル13と共にサイクル特性を評価した。
【0373】
サンプル7、サンプル12からサンプル16までのエネルギー密度およびサイクル特性の
グラフを、図41および図42に示す。図41はエネルギー密度、図42はサイクル特性
のグラフである。図41(A)および図42(A)は第2の加熱の温度を800℃にした
サンプル14およびサンプル7、図41(B)および図42(B)は900℃にしたサン
プル15およびサンプル12、図41(C)および図42(C)は1000℃にしたサン
プル16およびサンプル13のサイクル特性を示す。また図41および図42に示した各
サンプルの第2の加熱の雰囲気と、第2の加熱の温度を表8に示す。
【0374】
【表8】
【0375】
図41に示すように、800℃、900℃および1000℃の第2の加熱を行った場合、
第2の加熱は酸素雰囲気で行った方が、乾燥空気で行うよりも良好なサイクル特性を示し
た。
【実施例5】
【0376】
本実施例では、添加出発材料にマグネシウムとフッ素を用いた場合と、マグネシウムとフ
ッ素以外の元素を用いた場合のサイクル特性を比較した。
【0377】
≪フッ素と塩素の比較≫
まず添加出発材料に、マグネシウムとフッ素を用いた場合と、フッ素に変えて塩素を用い
た場合のサイクル特性を比較した。
【0378】
<サンプル17、18の正極活物質の作製>
サンプル7は、添加出発材料としてコバルトに対して1mol% MgO、2mol%
LiFを用いた。サンプル17は1mol% MgO、1mol% LiF、1mol%
LiClを用いた。サンプル18は比較例として、1mol% MgO、2mol%
LiClを用いた。サンプル6は比較例として、マグネシウム、フッ素、塩素のいずれも
添加しなかった。
【0379】
サンプル7、サンプル17、サンプル18、サンプル6について、それぞれ実施例2と同
様に正極活物質を作製し、それらを用いた二次電池を作製し、サイクル特性を評価した。
サイクル特性試験は実施例1と同様に行った。
【0380】
<サイクル特性>
表9に、各サンプルの添加出発材料と、それぞれの20サイクル後のエネルギー密度維持
率を示す。
【0381】
【表9】
【0382】
表9に示すように、フッ素に変えて塩素を添加すると、サイクル特性は低下する傾向が見
られた。しかしながらフッ素と塩素を1%ずつ有するサンプル17は、20サイクル後の
エネルギー密度維持率は80%以上であった。これは、マグネシウム、フッ素、塩素のい
ずれも有さないサンプル6と比較すると、良好なサイクル特性であった。
【0383】
≪マグネシウムと、その他の金属の比較≫
次に添加出発材料に、マグネシウムとフッ素を用いた場合と、マグネシウムに変えて他の
金属を用いた場合のサイクル特性を比較した。
【0384】
<サンプル19からサンプル29の正極活物質の作製>
添加出発材料にマグネシウムとフッ素を用いたサンプルとしては、実施例1のサンプル7
を用いた。サンプル19は比較例として、添加出発材料として、1mol% MgO、1
mol% TiO、2mol% LiFを用いた。サンプル20は比較例として、1m
ol% ZrO、2mol% LiFを用いた。サンプル21は比較例として、1mo
l% TiO、2mol% LiFを用いた。サンプル22は比較例として、1mol
% V、2mol% LiFを用いた。サンプル23は比較例として、1mol%
ZnO、2mol% LiFを用いた。サンプル24は比較例として、1mol% C
aO、2mol% LiFを用いた。サンプル25は比較例として、1mol% Al
、2mol% LiFを用いた。サンプル26は比較例として、1mol% MoO
、2mol% LiFを用いた。サンプル27は比較例として、1mol% SrO、
2mol% LiFを用いた。サンプル28は比較例として、1mol% NaF、1m
ol% LiFを用いた。サンプル29は比較例として、1mol% BaO、2mol
% LiFを用いた。またフッ素も、いずれの金属も添加しない比較例としては、実施例
1のサンプル6を用いた。
【0385】
サンプル6、サンプル7およびサンプル19からサンプル29について、それぞれ実施例
1と同様に正極活物質を作製し、それらを用いた二次電池を作製し、サイクル特性を評価
した。
【0386】
<サイクル特性>
表10に、各サンプルの添加出発材料と、それぞれの20サイクル後のエネルギー密度維
持率を示す。
【0387】
【表10】
【0388】
表10に示すように、マグネシウムに変えて他の金属を添加すると、サイクル特性は低下
する傾向がみられた。
【0389】
これらの結果から、添加出発材料として、マグネシウムおよびフッ素を組み合わせて用い
ることが極めて効果的であることが明らかとなった。
【0390】
先の実施例より、正極活物質の出発材料としてマグネシウムとフッ素を添加することで、
マグネシウムが正極活物質表面に偏析することが明らかとなった。また偏析により形成さ
れた良好な被覆層を有するため、高容量かつサイクル特性に優れた正極活物質となること
が明らかとなった。
【0391】
このような正極活物質を有する二次電池は高容量、長寿命であるため、携帯電子機器に好
適である。さらに自動車をはじめとする車両に適用すれば、電力需要のピーク時に商用電
源を用いることを回避することも可能であり、省エネルギーおよび二酸化炭素の排出の削
減に寄与することもできる。
【実施例6】
【0392】
本実施例では、第1の領域が有する遷移金属としてニッケル、マンガンおよびコバルトを
適用した正極活物質を作製し、評価した結果について説明する。
【0393】
<サンプル31、サンプル32>
マグネシウムおよびフッ素を有するサンプル31と、比較例としてマグネシウムおよびフ
ッ素を有さないサンプル32を作製した。
【0394】
サンプル31は、出発材料のニッケル、マンガン、コバルトの和に対して、マグネシウム
を1atomic%、フッ素を2atomic%加えたサンプルとした。また、出発材料
のニッケル、マンガン、コバルトの原子数比は、Ni:Mn:Co=1:1:1とした。
【0395】
まず、共通出発原料のリチウム源としては、炭酸リチウム(LiCO)を用いた。ニ
ッケル源としては、酸化ニッケル(NiO)を用いた。マンガン源としては、酸化マンガ
ン(MnO)を用いた。コバルト源としては、酸化コバルト(Co)を用いた。
添加出発材料のマグネシウム源としては、酸化マグネシウム(MgO)を用いた。フッ素
源としては、フッ化リチウム(LiF)を用いた。
【0396】
各出発原料を、LiCo0.323Mn0.333Ni0.333+MgO0.01
LiF0.02の原子数比となるように秤量した。
【0397】
次に、秤量した出発原料を、ボールミルを用いて混合した。
【0398】
次に、混合した出発材料を焼成した。焼成は950℃で10時間、昇温は200℃/h、
乾燥雰囲気の流量は10L/minとした。
【0399】
上記の工程で、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルト、マグネシウム、フッ素を含む
複合酸化物の粒子を合成した。
【0400】
合成された複合酸化物の粒子を室温まで冷却した。
【0401】
次に、複合酸化物の粒子を加熱した。加熱は、800℃(昇温200℃/時間)、保持時
間2時間、乾燥空気雰囲気下で行った。
【0402】
加熱した粉末を室温まで冷却し、解砕処理を行った。解砕処理は、ふるいにかけることに
より行い、ふるいは目開きが53μmのものを用いた。
【0403】
解砕処理を終えた粒子を、サンプル31の正極活物質とした。
【0404】
サンプル32は、各出発原料をLiCo0.333Mn0.333Ni0.333
原子数比となるように秤量した。また、焼成を1000℃で行った。他は、サンプル31
と同様に作製した。
【0405】
サンプル31およびサンプル32の作製条件を表11に示す。
【0406】
【表11】
【0407】
<サイクル特性>
次に、上記のようにして作製したサンプル31およびサンプル32の正極活物質を用いて
CR2032タイプ(直径20mm高さ3.2mm)のコイン型の二次電池を作製し、サ
イクル特性を評価した。
【0408】
正極には、サンプル31およびサンプル32の正極活物質と、アセチレンブラック(AB
)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を正極活物質:AB:PVDF=95:2.5
:2.5(重量比)で混合したスラリーをアルミニウム箔の集電体に塗工したものを用い
た。また溶媒にはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いた。
【0409】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0410】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を用
い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がE
C:DEC=3:7(体積比)で混合されたものに、ビニレンカーボネート(VC)を2
重量%添加したものを用いた。
【0411】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0412】
サイクル特性試験の測定温度は25℃とした。充電は、活物質重量あたりの電流密度68
.5mA/gの定電流、上限電圧4.6Vで行い、その後電流密度1.4mA/gとなる
まで定電圧充電を行った。放電は、活物質重量あたりの電流密度68.5mA/gの定電
流、下限電圧2.5Vで行った。
【0413】
サンプル31およびサンプル32の正極活物質を用いた二次電池の、4.6V充電時の放
電容量を図43(A)に、放電容量維持率を図43(B)に示す。
【0414】
マグネシウムおよびフッ素を加えなかったサンプル32と比較して、マグネシウムおよび
フッ素を加えたサンプル31は極めて良好なサイクル特性を示した。
【0415】
次にサンプル31について、各種分析を行った結果を以下に示す。
【0416】
<STEM-FFT>
サンプル31の正極活物質の表面近傍の断面のSTEM像を図44および図45に示す。
図44(B)は図44(A)の一部を拡大したSTEM像である。図45(A)および図
45(B)は、図44(A)の一部を拡大したHAADF-STEM像である。
【0417】
図45から明らかなように、正極活物質の表面から0.5nm程度の領域は、他の領域と
明るさが異なる様子が観察された。これは遷移金属よりも軽い元素である、マグネシウム
が多いためだと考えられた。
【0418】
また、正極活物質の表面から0.5nm程度以上5nm程度までの領域は、内部の領域と
規則性が異なる様子が観察された。これは、表面から0.5nm程度以上5nm程度まで
の領域と、それより内部と、で結晶の配向が異なっているためだと考えられた。
【0419】
図46(A)は、図45(B)と同じ範囲の明視野STEM像である。図46(A)中に
FFT1で示した領域のFFT(高速フーリエ変換)像が図46(B)である。FFT1
像の輝点の一部を図46(B)に示すように、A、B、C、Oと呼ぶこととした。
【0420】
FFT1で示した領域のFFT像の輝点について、実測値はそれぞれ、OAはd=0.2
2nm、OBはd=0.25nm、OCはd=0.23nmであった。また∠AOB=5
8°、∠BOC=69°、∠AOC=127°であった。
【0421】
これは、ICDD(International Centre for Diffra
ction Data)データベースにおける酸化マグネシウム(MgO)のデータ(I
CDD45-0945)から求められる、OA(200)のd=0.21nm、OB(1
-11)のd=0.24nm、OC(-1-11)のd=0.24nm、∠AOB=55
°、∠BOC=70°、∠AOC=125°と近い。そのため、FFT1で示した領域は
岩塩型の結晶構造を有する領域であり、[011]入射の像であることが推測された。
【0422】
また、図46(A)中にFFT2で示した領域のFFT像が図46(C)である。FFT
2像の輝点の一部を図46(C)に示すように、A、B、C、Oと呼ぶこととした。
【0423】
FFT2で示した領域のFFT像の輝点について、実測値はそれぞれ、OAはd=0.2
5nm、OBはd=0.21nm、OCはd=0.49nmであった。また∠AOB=2
6°、∠BOC=57°、∠AOC=83°であった。
【0424】
これは、ICDDデータベースにおけるコバルト酸リチウム(LiCoO)のデータ(
ICDD50-0653)から求められる、OA(10-11)のd=0.24nm、O
B(10-14)のd=0.20nm、OC(0003)のd=0.47nm、∠AOB
=25°、∠BOC=55°、∠AOC=80°と近い。そのため、FFT2で示した領
域は層状岩塩型の結晶構造を有する領域であり、[-12-10]入射の像であることが
推測された。
【0425】
また、また、図46(A)中にFFT3で示した領域のFFT像が図46(D)である。
FFT3像の輝点の一部を図46(D)に示すように、A、B、C、Oと呼ぶこととした
【0426】
FFT3で示した領域のFFT像の輝点について、実測値はそれぞれ、OAはd=0.2
1nm、OBはd=0.26nm、OCはd=0.24nmであった。また∠AOB=5
6°、∠BOC=72°、∠AOC=128°であった。
【0427】
これは、ICDDデータベースにおけるコバルト酸リチウム(LiCoO)のデータ(
ICDD50-0653)から求められる、OA(01-14)のd=0.20nm、O
B(10-1-2)のd=0.23nm、OC(1-102)のd=0.23nm、∠A
OB=55°、∠BOC=70°、∠AOC=125°と近い。そのため、FFT2で示
した領域は層状岩塩型の結晶構造を有する領域であり、[02-21]入射の像であるこ
とが推測された。
【0428】
つまり、FFT2とFFT3で示した領域は、同じ層状岩塩型の結晶構造を有するが、結
晶軸の方向が異なる領域であることが明らかとなった。
【0429】
また、図45(A)、図45(B)および図46(A)で観察できる範囲では、明るさが
異なっても、結晶の配向は概略一致している様子が観察された。
【0430】
図47に、STEM-FFTの結果から推測される、正極活物質の表面近傍の構造をST
EM像と共に示す。図47中のMはニッケル、マンガン、コバルトのいずれかを示す。
【0431】
正極活物質の内部の領域であるFFT3は、層状岩塩型の結晶構造を有する。またリチウ
ムとMの原子が重なって観察される[02-21]入射の像である。
【0432】
また、正極活物質の表層部の領域であるFFT2は、層状岩塩型の結晶構造を有する。ま
た酸素原子の層と、M(ニッケル、マンガン、コバルトのいずれか)原子の層と、リチウ
ム原子の層が繰り返される様子が観察できる[-12-10]入射の像である。明視野S
TEM像で暗く見える層と明るく見える層が繰り返されているのは、Mの層と酸素および
リチウムの層が繰り返されているためだと考えられる。つまり、FFT3とFFT2は同
じ層状岩塩型の結晶構造を有するが、結晶軸の方向は異なる。
【0433】
また、正極活物質の表層部の領域で、FFT2よりも表面に近い領域であるFFT1は、
岩塩型の結晶構造を有し、[011]入射の像である。
【0434】
<EDX>
次に、サンプル31の正極活物質の表面近傍の断面を、EDXを用いて分析した結果を図
48および図49に示す。
【0435】
図48(A-1)はHAADF-STEM像、図48(A-2)は酸素のマッピング、図
48(B-1)はマグネシウムのマッピング、図48(B-2)はフッ素のマッピングで
ある。また図49(A-1)は図48(A-1)と同じHAADF-STEM像、図49
(A-2)はマンガンのマッピング、図49(B-1)はニッケルのマッピング、図49
(B-2)はコバルトのマッピングである。
【0436】
まず図48(B-1)から、正極活物質の表面から3nm程度の領域にマグネシウムが偏
析している様子が観察された。また、図49(A-2)、図49(B-1)、図49(B
-2)の比較から、正極活物質の表層部に、内部よりもマンガンが少なく、ニッケルおよ
びコバルトが多い領域が存在することが観察された。この領域は表面から5nm程度であ
り、STEM像で内部と異なる規則性が観察された領域とほぼ重畳した。
【0437】
そのためサンプル31は、正極活物質は、表層部にマグネシウムを有する領域を有し、内
部の一部にマンガンの含有量の少ない領域を有する正極活物質であることが確かめられた
【0438】
以上の結果を総合すると、出発原料のモル比をLiNi1/3Mn1/3Co1/3
+1mol%MgO+2mol%LiFとし、800℃の加熱を行って作製したサンプル
31の正極活物質は、以下の特徴を有することが明らかとなった。
【0439】
まずサンプル31の正極活物質は、表層部に酸化マグネシウムを有する第2の領域が存在
する。内部には、より中心部に近い部分に層状岩塩型の結晶構造を有するLiNiMn
Co(x+y+z=1)を有する領域を有し、表面に近い部分に層状岩塩型の結
晶構造を有するLiNiMnCo(a+b+c=1)を有する領域と、を有す
る。
【0440】
内部のLiNiMnCoとLiNiMnCoは、同じ層状岩塩型の
結晶構造を有するが、結晶軸の方向が異なる場合がある。
【0441】
また、各元素の含有率については、y>bであり、ニッケル、マンガン、コバルトの和に
対するマンガンの含有率は、表面に近い領域において低い場合がある。
【0442】
上記のような特徴を有するサンプル31の正極活物質は、二次電池に用いると極めて良好
なサイクル特性を示す。
【実施例7】
【0443】
本実施例では、遷移金属としてコバルトを適用し、出発材料にマグネシウムおよびフッ素
を加えて作製した正極活物質について、EELSを用いて分析した結果について説明する
【0444】
添加出発材料として1mol% MgO、2mol% LiFを用いた、実施例1のサン
プル7を、本実施例の分析サンプルとした。
【0445】
サンプル7の断面内の*1から*6の6つの分析点のコバルトの状態について、EELS
を用いて分析した。図50は、EELS分析に用いたサンプル7の正極活物質の表面近傍
の断面のSTEM像であり、図中に*1(表面からの深さ約1nm)、*2(同約2.5
nm)、*3(同約5nm)の分析点を示した。また*4は正極活物質表面から約10n
m、*5は正極活物質表面から約100nm、*6は正極活物質の粒子の中央付近とした
【0446】
各分析点における、コバルトのL2準位とL3準位のEELSスペクトル強度比を、表1
2および図51に示す。なおL3/L2が高くなるほどコバルトの価数は低くなる。
【0447】
【表12】
【0448】
表12および図51から明らかなように、正極活物質の表面に最も近い分析点*1のL3
/L2が最も高く4.6であった。また分析点*2から分析点*6のL3/L2は分析点
*1よりも低く、かつ2.9以上3.2以下の範囲内であり大きな差はみられなかった。
【0449】
これらの結果から、分析点*1では、酸化コバルト(CoO)として2価で存在している
コバルトが多いことが推測された。また分析点*2から分析点*6では、コバルト酸リチ
ウム(LiCoO)として3価で存在しているコバルトが多いことが推測された。
【符号の説明】
【0450】
100 正極活物質
101 第1の領域
102 第2の領域
103 第3の領域
200 活物質層
201 グラフェン化合物
211a 正極
211b 負極
212a リード
212b リード
214 セパレータ
215a 接合部
215b 接合部
217 固定部材
250 電池
251 外装体
261 折り曲げ部
262 シール部
263 シール部
271 稜線
272 谷線
273 空間
300 二次電池
301 正極缶
302 負極缶
303 ガスケット
304 正極
305 正極集電体
306 正極活物質層
307 負極
308 負極集電体
309 負極活物質層
310 セパレータ
500 二次電池
501 正極集電体
502 正極活物質層
503 正極
504 負極集電体
505 負極活物質層
506 負極
507 セパレータ
508 電解液
509 外装体
510 正極リード電極
511 負極リード電極
600 二次電池
601 正極キャップ
602 電池缶
603 正極端子
604 正極
605 セパレータ
606 負極
607 負極端子
608 絶縁板
609 絶縁板
611 PTC素子
612 安全弁機構
900 回路基板
910 ラベル
911 端子
912 回路
913 二次電池
914 アンテナ
915 シール
916 層
917 層
918 アンテナ
920 表示装置
921 センサ
922 端子
930 筐体
930a 筐体
930b 筐体
931 負極
932 正極
933 セパレータ
950 捲回体
951 端子
952 端子
980 二次電池
993 捲回体
994 負極
995 正極
996 セパレータ
997 リード電極
998 リード電極
1001 結晶欠陥
7100 携帯表示装置
7101 筐体
7102 表示部
7103 操作ボタン
7104 二次電池
7200 携帯情報端末
7201 筐体
7202 表示部
7203 バンド
7204 バックル
7205 操作ボタン
7206 入出力端子
7207 アイコン
7300 表示装置
7304 表示部
7400 携帯電話機
7401 筐体
7402 表示部
7403 操作ボタン
7404 外部接続ポート
7405 スピーカ
7406 マイク
7407 二次電池
7408 リード電極
7409 集電体
8000 表示装置
8001 筐体
8002 表示部
8003 スピーカ部
8004 二次電池
8021 充電装置
8022 ケーブル
8024 二次電池
8100 照明装置
8101 筐体
8102 光源
8103 二次電池
8104 天井
8105 側壁
8106 床
8107 窓
8200 室内機
8201 筐体
8202 送風口
8203 二次電池
8204 室外機
8300 電気冷凍冷蔵庫
8301 筐体
8302 冷蔵室用扉
8303 冷凍室用扉
8304 二次電池
8400 自動車
8401 ヘッドライト
8406 電気モーター
8500 自動車
8600 スクータ
8601 サイドミラー
8602 二次電池
8603 方向指示灯
8604 座席下収納
9600 タブレット型端末
9625 スイッチ
9626 スイッチ
9627 電源スイッチ
9628 操作スイッチ
9629 留め具
9630 筐体
9630a 筐体
9630b 筐体
9631 表示部
9633 太陽電池
9634 充放電制御回路
9635 蓄電体
9636 DCDCコンバータ
9637 コンバータ
9640 可動部
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