(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】腸溶性硬質カプセル
(51)【国際特許分類】
A61K 9/48 20060101AFI20221221BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20221221BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20221221BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221221BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20221221BHJP
A61K 31/167 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/02
A61K47/04
A61K31/167
(21)【出願番号】P 2019529765
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2018026216
(87)【国際公開番号】W WO2019013260
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】P 2017135666
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018039184
(32)【優先日】2018-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228110
【氏名又は名称】クオリカプス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大崎 芳朗
(72)【発明者】
【氏名】麻生 慎
(72)【発明者】
【氏名】臼井 利光
(72)【発明者】
【氏名】本田 護
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-528197(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0104047(US,A1)
【文献】特開昭57-032230(JP,A)
【文献】COLE E.T.et al.,Enteric coated HPMC capsules designed to achieve intestinal targeting.,International Journal of Pharmaceutics,2002年,231,pp.83-95
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成分及び第2成分を含み、さらに第3成分
及び第4成分
から選択される少なくとも一成分を含む皮膜からなる
、冷ゲル法によって調製される腸溶性硬質カプセルであって、
第1成分は、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種の粘度値が100mPa・s~100,000mPa・sの範囲である非イオン性水溶性セルロース化合物であり、
第2成分は、
メタクリル酸とメタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルとのコポリマー、又は、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーからなる群から選択される少なくとも一種の腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、
第3成分は、
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、及びセルロースアセテートフタレートからなる群から選択される少なくとも一種の腸溶性セルロース化合物であり、
第4成分は、
メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとのコポリマーである水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーであり、及び、
前記第2成分の少なくとも一部がその薬学的に又は食品添加物として許容される塩として含まれる、及び/又は第3成分の少なくとも一部がその薬学的に又は食品添加物として許容される塩として含まれる、
腸溶性硬質カプセル。
【請求項2】
さらに第5成分を含む、請求項1に記載の腸溶性硬質カプセルであって、第5成分は、ポリビニルアルコールである、請求項1に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項3】
前記腸溶性メタクリル酸コポリマーが、メタクリル酸40~60質量%とアクリル酸エチル60~40質量%とからなるコポリマーであることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項4】
前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、第4成分、及び第5成分の質量の合計を100質量%とし、第1成分の割合をα質量%、第2成分の割合をβ質量%、第3成分の割合をγ質量%、第4成分の割合をσ%、及び第5成分の割合をφとした場合に、0.5≦(β+γ+σ)/(α+β+γ+σ+φ)≦0.9であり、かつ、0.4≦(β+γ)/(β+γ+σ)である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル
(ただし、請求項1のみを引用する時には、φ=0である)。
【請求項5】
前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、第4成分、及び第5成分の質量の合計を100質量%とし、第1成分の割合をα質量%、第2成分の割合をβ質量%、第3成分の割合をγ質量%、第4成分の割合をσ%、及び第5成分の割合をφとした場合に、0.05≦α/(α+β+γ+σ+φ)≦0.5である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル
(ただし、請求項1のみを引用する時には、φ=0である)。
【請求項6】
前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、第4成分、及び第5成分の質量の合計を100質量%とし、第2成分の割合をβ質量%、及び第3成分の割合をγ質量%とした場合に、0.1≦β/(β+γ)≦1である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル
(ただし、請求項1のみを引用する時には、第5成分の含有量は0である)。
【請求項7】
前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、第4成分、及び第5成分の質量の合計を100質量%とした場合の第1成分の割合をα質量%、第2成分の割合をβ質量%、第4成分の割合をσ%、及び第5成分の割合をφとした場合に、γ=0であり、かつ、0.3≦β/(α+β+γ+σ+φ)≦0.7である、請求項
6に記載の腸溶性硬質カプセル
(ただし、請求項1のみを引用する時には、φ=0である)。
【請求項8】
前記皮膜に含まれる前記第2成分及び第3成分における塩を形成したカルボキシル基と塩を形成していないカルボキシル基のモル数の合計を100モル%とした場合、塩を形成したカルボキシル基の含有量が2~50モル%である、請求項1
~7のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項9】
前記皮膜の厚みが50~250μmである、請求項1~
8のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項10】
前記皮膜の25℃、相対湿度60%における弾性率が1GPa~5GPaである、請求項
9に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項11】
前記皮膜の25℃、相対湿度22%における破断伸び率が2%~30%である、請求項
9又は
10に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項12】
前記腸溶性硬質カプセルの皮膜が海島構造を含み、島相が実質的に第1成分からなる、請求項1~
11のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項13】
前記島相の短径が0.1μm以上、かつ30μm未満である、請求項
12に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項14】
pH1.2を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の前記腸溶性硬質カプセルの溶出率が、25%以下である、請求項1~
13のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項15】
前記溶出試験における腸溶性硬質カプセルの溶出率が、10%以下である、請求項
14に記載の腸溶性硬質カプセル。
【請求項16】
第i成分、第ii成分、薬学的又は食品添加物として許容される塩基性中和剤、及び溶媒を含み、さらに第iii成分
及び第iv成分
から選択される少なくとも一成分を含む
、冷ゲル法によって腸溶性硬質カプセルを調製するための腸溶性硬質カプセル調製液であって、
第i成分は、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種の粘度値が100mPa・s~100,000mPa・sの範囲である非イオン性水溶性セルロース化合物であり、
第ii成分は、
メタクリル酸とメタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルとのコポリマー、又は、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーからなる群から選択される少なくとも一種の腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、
第iii成分は、
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、及びセルロースアセテートフタレートからなる群から選択される少なくとも一種の腸溶性セルロース化合物であり、
第iv成分は、
メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとのコポリマーである水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーであり、
前記第ii成分の一部及び/又は第iii成分の一部が、前記塩基性中和剤によって部分中和されており、
腸溶性硬質カプセル調製液を100質量%としたときに、前記第i成分、第ii成分、第iii成分、及び第iv成分の合計量が10~30質量%であり、
粘度が、100~10,000mPa・sである、
腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項17】
さらに第v成分を含み、第v成分は、ポリビニルアルコールである、請求項16に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項18】
前記第i成分が、固体粒子として分散されている、請求項
16又は17に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項19】
前記部分中和の中和度が第ii及び第iii成分の完全中和に必要なモル数に対して、2~50%である、請求項
16~18のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項20】
前記第ii成分が、コロイド粒子として分散されている、請求項
16~19のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項21】
前記第iv成分が、コロイド粒子として分散されている、請求項
19又は20に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項22】
前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の質量の合計を100質量%とし、第i成分の割合をα’質量%とし、第ii成分の割合をβ’質量%、第iii成分の割合をγ’質量%、第iv成分の割合をσ’質量%、及び第v成分の割合をφ’質量%とした場合に、0.5≦(β’+γ’+σ’)/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)≦0.9であり、かつ、0.4≦(β’+γ’)/(β’+γ’+σ’)である、請求項
16~21のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液
(ただし、請求項16のみを引用する時には、φ’=0である)。
【請求項23】
前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分及び、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の質量の合計を100質量%とし、第i成分の割合をα’質量%、第ii成分の割合をβ’質量%、第iii成分の割合をγ’質量%、第iv成分の割合をσ’質量%、及び第v成分の割合をφ’質量%とした場合に、0.05≦α’/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)≦0.5である、請求項
16~22のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液
(ただし、請求項16のみを引用する時には、φ’=0である)。
【請求項24】
前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の質量の合計を100質量%とした場合の、第ii成分の割合をβ’質量%、第iii成分の割合をγ’質量%とした場合に、0.1≦β’/(β’+γ’)≦1である、請求項
16~23のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液
(ただし、請求項16のみを引用する時には、第v成分は含まない)。
【請求項25】
前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の質量の合計を100質量%とした場合の第i成分の割合をα’質量%、第ii成分の割合をβ’質量%、第iv成分の割合をσ’質量%、及び第v成分の割合をφ’質量%とした場合に、γ’=0であり、かつ、0.3≦β’/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)≦0.7である請求項
23に記載の腸溶性硬質カプセル調製液
(ただし、請求項16のみを引用する時には、φ’=0である)。
【請求項26】
前記塩基性中和剤による第ii成分の中和度が、2~20%である
請求項16~25のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項27】
前記塩基性中和剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項
16~26のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項28】
前記塩基性中和剤が、アンモニア及び炭酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項
16~26のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
【請求項29】
下記工程A1、B1、及びC1;又は下記工程A2、B2、及びC2を含み、
工程A1:第iii成分を少なくとも部分的に中和した第iii成分の中和液を準備する工程、
工程B1:第ii成分の分散液を、前記第iii成分の中和液に混合する工程、及び
工程C1:工程B1において得られた混合液に第i成分を加え、第i成分を部分溶解する工程;
工程A2:第iii成分を少なくとも部分的に中和した第iii成分の中和液を準備する工程、
工程B2:工程A2において得られた前記第iii成分の中和液に前記第i成分を加え、第i成分の部分溶解する工程、及び
工程C2:第ii成分の分散液を、工程B2において得られた前記第i成分の部分溶解液と混合する工程、
第i成分は、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種の粘度値が100mPa・s~100,000mPa・sの範囲である、非イオン性水溶性セルロース化合物であり、
第ii成分は、
メタクリル酸とメタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルとのコポリマー、又は、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーからなる群から選択される少なくとも一種の腸溶性メタクリル酸コポリマーであ
り、
第iii成分は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、及びセルロースアセテートフタレートからなる群から選択される少なくとも一種の腸溶性セルロース化合物であり、
前記第ii成分の一部及び/又は第iii成分の一部が、塩基性中和剤によって部分中和されている、
冷ゲル法によって腸溶性硬質カプセルを調製するための腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法であって、
前記
腸溶性硬質カプセル調製液の粘度が、100~10,000mP
a・sである、
腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項30】
前記塩基性中和剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項
29に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項31】
前記塩基性中和剤が、アンモニア及び炭酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項
29に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項32】
前記工程A
1、又はA2において、
前記第iii成分の中和液は、前記第iii成分を薬学的に又は食品添加物として許容される塩基性中和剤により、少なくとも部分的に中和して溶媒に溶解
し調製され、その中和度が50%以上又は、完全に中和されている、請求項
29~31のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項33】
前記工程C
1が
、前記第i成分を、第i成分の曇点T0以上の第1の温度T1で、
前記工程B1で得られた混合液に添加し、前記曇点よりも低い第2の温度T2で第i成分を部分溶解させた分散液を調製する工程であ
り、
前記工程B2が、前記第i成分を、第i成分の曇点T0以上の第1の温度T1で、前記A2において得られた第iii成分を含む中和液に添加し、前記曇点よりも低い第2の温度T2で第i成分を部分溶解させた分散液を調製する工程である、
請求項
29~
32のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項34】
前記工程
A1、B1、C1、A2、B2、又はC2において調製された溶液と第iv成分である
メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとのコポリマーからなる水不溶性(メタ)アクリル酸エステルコポリマーを混合する工程Dを含む請求項
29~
33のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項35】
前記工程
C1、B2又はDで得られた溶液を、前記第i成分の曇点よりも低い第3の温度T3に保持する工程Eをさらに含む、請求項
29~
34のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項36】
下記工程A1’、B1’、及びC1’;又は下記工程A2’、B2’、及びC2’を含み、
工程A1’:第ii成分を少なくとも部分的に中和した第ii成分の部分中和液を準備する工程、
工程B1’:第i成分を前記第ii成分の部分中和液に加え第i成分を部分溶解する工程、及び
工程C1’:第iv成分の分散液を、工程B2’において得られた溶液と混合する工程;
工程A2’:第ii成分を少なくとも部分的に中和した第ii成分の部分中和液を準備する工程、
工程B2’:第iv成分の分散液を、前記第ii成分の部分中和液と混合する工程、及び
工程C2’:工程B2’において得られた混合液に第i成分の部分溶解する工程、
第i成分は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種の粘度値が100mPa・s~100,000mPa・sの範囲である、非イオン性水溶性セルロース化合物であり、
第ii成分は、メタクリル酸とメタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルとのコポリマー、又は、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーからなる群から選択される少なくとも一種の腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、
第iv成分は、
メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとのコポリマーである水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーであ
り、
前記第ii成分の一部が、塩基性中和剤によって部分中和されている、
冷ゲル法によって腸溶性硬質カプセルを調製するための腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法であって、
前記
腸溶性硬質カプセル調製液の粘度が
、100~10,000mPa・sである、
腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項37】
前記工程
A1’及びA2’が、前記第ii成分を薬学的に又は食品添加物として許容される塩基性中和剤により、少なくとも部分的に中和して溶媒に溶解させ
前記第ii成分の部分中和液を調製する工程であり、その中和度が2~20%である、請求項
36に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項38】
前記工程
B1’が、第i成分を、第i成分の曇点T0以上の第1の温度T1で、第ii成分
の部分中和
液に添加し、前記曇点よりも低い第2の温度T2で第i成分を部分溶解させた分散液を調製する工程であ
り、
前記工程C2’が、第i成分を、第i成分の曇点T0以上の第1の温度T1で、工程B2’において得られた混合液に添加し、前記曇点よりも低い第2の温度T2で第i成分を部分溶解させた分散液を調製する工程である、
請求項
36又は37に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項39】
前記工程B
1’又はC
2’で得られた溶液を、前記第i成分の曇点よりも低い第3の温度T3に保持する工程E’をさらに含む、請求項
38に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項40】
前記第3の温度の範囲T3が、40℃~60℃である、請求項
39に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項41】
前記第1の温度T1の範囲が、60℃~90℃である、請求項
33~35、38、及び39のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項42】
前記第2の温度T2の範囲が、30℃~60℃である、請求項
33~35、38、及び39のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
【請求項43】
下記工程を含む、腸溶性硬質カプセルの調製方法:
請求項
16~
28のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液、又は請求項
29~
42のいずれか一項に記載の調製方法により得られた腸溶性硬質カプセル調製液の中に、前記腸溶性硬質カプセル調製液の温度よりも低い表面温度を有するモールドピンを浸漬する第1工程;及び
前記腸溶性硬質カプセル調製液からモールドピンを引き上げて、モールドピンに付着した腸溶性硬質カプセル調製液を乾燥させる第2工程。
【請求項44】
前記腸溶性硬質カプセル調製液の温度が、40~60℃である、請求項
43に記載の腸溶性硬質カプセルの調製方法。
【請求項45】
前記調製液に浸漬する前のモールドピンの表面温度が、5~40℃である、請求項
43又は
44に記載の腸溶性硬質カプセルの調製方法。
【請求項46】
モールドピンに付着した腸溶性硬質カプセル調製液を乾燥する温度が、40℃未満である、請求項
43~
45のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルの調製方法。
【請求項47】
請求項1~1
5のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに対し、腸溶性メタクリル酸コポリマー及び腸溶性セルロース化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の腸溶性ポリマーの少なくとも部分中和された希釈水溶液、あるいは、水/エタノール又は水/イソプロパノール溶剤に溶解した液からなるシール液によってシールされたことを特徴とする腸溶性硬質カプセル製剤。
【請求項48】
酸性条件で溶解可能な硬質カプセルの内部に請求項1~1
5のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルを内包することを特徴とする硬質カプセル製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、腸溶性硬質カプセル、腸溶性硬質カプセル調製液、腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法、及び腸溶性硬質カプセルの調製方法が開示される。
【背景技術】
【0002】
「腸溶性」とは、経口投与される製剤の剤形の一つであり、一般に、胃内では溶解しにくい製剤上の特性を意味する。また、前記製剤は、腸に移行してからは溶解しやすいという特性を有する。腸溶性製剤は、強酸性環境下である胃内では薬物活性成分を放出せず、腸内に該製剤が移動してから薬物活性成分を放出する。このため、腸溶性製剤は、主として、胃酸又は胃内酵素から薬物活性成分を保護する目的や、胃から小腸に製剤が移動する時間を利用して持続的に薬物活性成分を放出する目的で使用される。
【0003】
医薬製剤分野において、「腸溶性」は、日本(第17局方、6.10溶出試験法、4.3腸溶製剤の項)、米国(US Pharmacopeia Monograph<711>Dissolution 7, Delayed-Release Dosage Formsの項)、欧州(European Pharmacopeia, 2.9.3、Delayed-release dosage formsの項)のPharmacopeiaにおいてほぼ同様に定義されている。特に、37℃、酸性(約pH 1.2、塩酸希釈液)環境下で、2時間、実質的に不溶と言えるレベルの耐酸性を要求する点については、日本、欧州及び米国で一致している。他方、腸内における溶出特性には、特に、時間的規定はない。放出ターゲット部位が小腸、結腸、大腸であるか、薬物放出特性が即放的であるか、徐放的であるかなどによって要求される溶出特性はさまざまである。
【0004】
製剤剤形が錠剤である場合、錠剤を、いわゆる腸溶性ポリマーによってコーティングすることにより、上記要求を満足する「腸溶性」製剤が調製されている(非特許文献1、Chapter9及び10)。
【0005】
また、製剤剤形が硬質カプセルである場合、内容物を充填した硬質カプセルに、錠剤と同様の腸溶性ポリマーのコーティングを施す方法(コーティング法)により、腸溶性硬質カプセル製剤を調製すること、場合によっては、浸漬ピンからの離形前の非腸溶空カプセルに、浸漬法により、腸溶コーティングを施す方法が従前より行なわれている(特許文献1~6、非特許文献2及び3)。
【0006】
さらに、硬質カプセル皮膜自体を腸溶性とする試みもなされている。このような従来技術としては、
(1)耐酸性腸溶性ポリマーの代わりに、又は併用して、ジェランガムのような耐酸性を付与できるゲル化剤を使用し、ゲル化性、皮膜性能を改善しつつ、耐酸性を維持すること(特許文献7~10);
(2)水ベースの溶液の代わりに溶媒ベースの浸漬溶液を用いること(特許文献11 );
(3)難水溶性の耐酸性腸溶ポリマーを主成分として、従来の水溶性かつ皮膜形成能の高いゼラチンや水溶性セルロースなどのポリマーを部分的に使用すること(特許文献12,13);
(4)難水性の腸溶性ポリマーを含む水溶性誘導体を得るために、腸溶性ポリマーのほぼ全ての酸基(特にカルボキシル基)を塩化(salifying)する、あるいは、非塩化ポリマーを塩基性中和剤で少なくとも部分的に中和して水に溶解すること、あるいは、非塩化のエマルジョン分散液を利用すること(特許文献12~20); 及び
(5)射出成形など、ポリマーの可溶化を必要としない代替技術を用いること(特許文献21~25、非特許文献4)
等がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第2196768号明細書
【文献】米国特許第630966号明細書
【文献】米国特許第7094425号明細書
【文献】米国特許第3927195号明細書
【文献】特開2003-325642
【文献】特表2013-500293号公報
【文献】特開2006-16372号公報
【文献】特開2010-202550号公報
【文献】特開2009-196961号公報
【文献】国際公開第2011/036601号
【文献】米国特許第4365060号明細書
【文献】米国特許第3826666号明細書
【文献】米国特許第4138013号明細書
【文献】米国特許第2718667号明細書
【文献】特開2013-504565号公報
【文献】特表2013-540149号公報
【文献】特表2015-518005号公報
【文献】特表2013-540806号公報
【文献】特表2015-515962号公報
【文献】特開昭55-136061号公報
【文献】特開昭47-3547号公報
【文献】特開昭53-52619号公報
【文献】特表2006-52819号公報
【文献】特表2011-503048号公報
【文献】特表2004-522746号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Aqueous Polymeric Coating For Pharmaceutical Dosage Forms, 4th edition, CRC Press、2017、Chapter 4、Chapter 9、Chapter 10(Table 10.5)
【文献】International Journal of Pharmaceutics; 231 (2002), p.83-95
【文献】Drug Dev. Ind. Pharm.; 27(2011) p.1131-1140
【文献】International Journal of Pharmaceutics; 440 (2013), p.264-272
【文献】平成20年度三重県工業研究所研究報告No. 33 (2009)、p.59-64
【文献】Drug Targeting Technology, CRC press, 2001、PartI-1(pp.1-29)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、一般的に、コーティング法による腸溶性硬質カプセル製剤の調製は、表面をコーティングする前に、内容物を充填してキャップとボディを嵌め合わせ、嵌合部をシールする必要があるため、調製プロセスが複雑である。また、調製プロセスが複雑になったことによる作業の負担は、硬質カプセルの製造者ではなく、内容物を充填するメーカー側が担うことになる。このことは、製剤形態としての硬質カプセルの利便性を損ねることになる。あらかじめ、空カプセルにコーティングする場合には、カプセル皮膜とコーティング皮膜、それぞれに乾燥時間が必要になったり、カプセル皮膜とコーティング皮膜の密着性を高めるために、さらに下地のコーティングが必要になったりして、カプセル製造工程そのものが複雑になる。
このような事情から、硬質カプセルの皮膜そのものが腸溶性であることが望まれる。
【0010】
硬質カプセルは、通常、ディッピング(浸漬)法において調製される。具体的には、浸漬法は、カプセル皮膜ポリマー材料を溶解して水溶液とし、該ポリマー水溶液に成型ピン(一般的にはステンレス鋼製の成型ピン)を浸漬し、該成型ピンを浸漬液から引き上げ、成型ピンを反転させ、そして成型ピンの表面に付着した前記ポリマー水溶液を乾燥させて、厚さ100μm程度の皮膜を形成させる。次いで、乾燥したカプセル皮膜を、成型ピンから取り外し、所望の長さに切断したのち、内容物を充填し、キャップとボディを組み立て、硬質カプセルの表面に印字し、硬質カプセルを包装する。
【0011】
また、浸漬法においては、その浸漬用の水性調製液を得るために、硬質カプセル皮膜の主成分であるポリマーが水溶性であること、あるいは、大部分が水溶液であるか、一部が、非常に微細なコロイドもしくは固体粒子を含有する分散液を形成することが望ましい。また、また、調製液に浸漬した成型ピンを引き上げる際に、温度の急激な上昇もしくは下降に伴い、ポリマーがゲル化して急激な粘度増加する性質、すなわち冷ゲル化もしくは熱ゲル化能を有することが望ましい。さらに、浸漬用調製液は、成型ピン引き上げ直後の液だれを抑制でき、続く水分の蒸発による固形分の乾燥固化によって、最終的に、硬質カプセルとして十分硬度と靱性を有する皮膜となることが求められる。
【0012】
しかし、一般的なコーティング用の腸溶性ポリマー(腸溶性基剤)の物性は、浸漬法による硬質カプセルの調製には適さない。錠剤のコーティング用として市販されている腸溶性ポリマーは、錠剤という固形物表面では皮膜として機能しうるが、皮膜単体として自立しうる皮膜形成特性及び強度を有しない。このため、腸溶性ポリマーで皮膜を形成させても、当該皮膜単独では、硬質カプセルとして利用することはできない。
【0013】
また、従来技術は以下の問題を含んでいる。
上記(1)の従来技術は、硬質カプセル皮膜の成型性は改善されるものの、耐酸性は不十分である。さらに、ゲル化剤を使用してポリマーをゲル化させる場合、特にゲル化助剤としてのカチオンを必要とする冷ゲル法において、ポリマーを含む水溶液のpH、又はカチオンと腸溶性ポリマーのイオン基との相互作用により、ポリマー水溶液もしくは分散液の安定性、ゲル化剤の冷ゲル化性能が損なわれるという問題がある。
【0014】
次に、上記(2)の従来技術においては、調製過程において揮発する有機溶媒等による作業環境汚染、火災爆発対策が必要であり、また廃溶媒の回収が必要である。さらに、最終製品に溶媒が残留する畏れがあるといった問題を有する。
【0015】
上記(3)の従来技術は、ゼラチンを水溶性ポリマー、又は冷ゲル化剤として用いる場合、耐酸性腸溶性ポリマーとの相溶性が不十分でカプセル皮膜に濁りが生じる場合が多い。さらに、動物性タンパクであるゼラチンには狂牛病汚染の危険性がある。
【0016】
次に上記(4)の従来技術は、浸漬用の調製液を得るため、腸溶性ポリマーの酸基を塩化、又は腸溶性ポリマーをほぼ完全に中和(あるいは、塩化)している。しかし、これらの処理は、成形された硬質カプセル皮膜自体に好ましくない水感受性を与える。さらに、ポリマーを含む水溶液のpH、又はカチオンと腸溶性ポリマーのイオン基との相互作用により、ポリマー水溶液もしくは分散液の安定性、ゲル化剤の冷ゲル化性能が損なわれるという問題がある。また、過量の中和剤(例えば、アルカリ剤)を含むため、前記処理を加えた腸溶性ポリマーを主成分とする硬質カプセルを高温の苛酷条件で保管すると、カプセルから中和剤成分が徐々に抜け出す、いわゆる塩析出(salting out)が生じ、外観上黄変したりする可能性がある。
【0017】
腸溶性ポリマーを完全に中和溶解しないで微細な分散液として用いる場合でも、特に、腸溶性ポリマーとして、腸溶性セルロース化合物のみを用いる場合は、その粒径を十分微細化するために、過半数のカルボキシル基を中和する必要性があり、皮膜中の残留塩の量が1~10質量%と高濃度になりうるという課題がある。さらに、腸溶性セルロース化合物のみを腸溶性ポリマーとして用いる場合、その熱ゲル特性を利用する場合が多く、冷ゲル法による成形に適した浸漬用調製液については知られていない。
【0018】
次に、上記(5)の従来技術においては、そもそも浸漬法による一般的な製造装置が使えない。かつ、射出成型ではポリマーの熱可塑性を利用してカプセルを成型するため、成型過程で100℃程度の加熱処理されることによるポリマー自体の熱変性が懸念される。また、射出成型では、加熱下でカプセルの形を成型した後、室温まで冷却する際に、皮膜に熱収縮による過大なストレスが係り、成型後のカプセルに割れが生じる懸念がある。また、現在一般に流通している硬質カプセルの皮膜は、100μm程度の厚みであり、カプセル充填機によって内容物が充填されている。これに対して、射出成型では、皮膜に耐酸性を犠牲にするほどの可塑剤を混入して割れを防ぐか、数百μm程度の厚い皮膜として機械強度を保つか等の対策が必要になる。このため、大量の添加剤と内容薬物との相互作用が問題となりうる。また、射出成型によって成型された硬質カプセルの皮膜は流通している硬質カプセルよりも皮膜を厚くせざるを得ないため、一般に使用されているカプセル充填機と互換性を維持した腸溶性硬質カプセルの調製は困難である。
【0019】
本発明は、冷ゲル法によって成型可能な、腸溶性特性を有する硬質カプセル皮膜からなる硬質カプセルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、鋭意研究を重ねたところ、
粘度値が100mPa・s~100,000mPa・sの範囲である非イオン性水溶性セルロース化合物と腸溶性メタクリル酸コポリマーを含み、腸溶性セルロース化合物、
水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー、及び、ポリビニルアルコール共重合体、可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一成分を含む皮膜からなる硬質カプセルが腸溶性特性を有することを見出した。さらに前記成分を含む腸溶性硬質カプセル調製液は、冷ゲル法によって硬質カプセルを調製できることを見出した。
【0021】
本開示は、当該知見に基づいて完成されたものであり、以下の態様を含む。
項1.第1成分及び第2成分を含み、さらに第3成分、第4成分、及び第5成分の少なくとも一成分を含む皮膜からなる腸溶性硬質カプセルであって、
第1成分は、粘度値が100mPa・s~100,000mPa・sの範囲である非イオン性水溶性セルロース化合物であり、
第2成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、
第3成分は、腸溶性セルロース化合物であり、
第4成分は、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーであり、及び、
第5成分は、ポリビニルアルコール、可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一種である、
腸溶性硬質カプセル。
項2.前記非イオン性水溶性セルロース化合物が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種である、項1に記載の腸溶性硬質カプセル。
項3.前記腸溶性メタクリル酸コポリマーが、メタクリル酸とメタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルとのコポリマー、又は、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーからなる群から選択される少なくとも一種である、項1又は2に記載の腸溶性硬質カプセル。
項4.前記腸溶性メタクリル酸コポリマーが、メタクリル酸40~60質量%とアクリル酸エチル60~40質量%とからなるコポリマーであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項5.前記腸溶性セルロース化合物が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、及びセルロースアセテートフタレートからなる群から選択される少なくとも一種である、項1~4のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項6.前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーが、メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとのコポリマーである、項1~5のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項7.前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、第4成分、及び第5成分の質量の合計を100質量%とし、第1成分の割合をα質量%、第2成分の割合をβ質量%、第3成分の割合をγ質量%、第4成分の割合をσ%、及び第5成分の割合をφとした場合に、0.5≦(β+γ+σ)/(α+β+γ+σ+φ)≦0.9であり、かつ、0.4≦(β+γ)/(β+γ+σ)である、項1~6のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項8.前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、第4成分、及び第5成分の質量の合計を100質量%とし、第1成分の割合をα質量%、第2成分の割合をβ質量%、第3成分の割合をγ質量%、第4成分の割合をσ%、及び第5成分の割合をφとした場合に、0.05≦α/(α+β+γ+σ+φ)≦0.5である、項1~7のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項9.前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、第4成分、及び第5成分の質量の合計を100質量%とし、第2成分の割合をβ質量%、及び第3成分の割合をγ質量%とした場合に、0.1≦β/(β+γ)≦1である、項1~8のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項10.前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、第4成分、及び第5成分の質量の合計を100質量%とした場合の第1成分の割合をα質量%、第2成分の割合をβ質量%、第4成分の割合をσ%、及び第5成分の割合をφとした場合に、γ=0であり、かつ、0.3≦β/(α+β+γ+σ+φ)≦0.7である、項9に記載の腸溶性硬質カプセル。
項11.前記第2成分の少なくとも一部がその薬学的に又は食品添加物として許容される塩として含まれる、及び/又は第3成分の少なくとも一部がその薬学的に又は食品添加物として許容される塩として含まれる、項1~10のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項12.前記皮膜に含まれる前記第2成分及び第3成分における塩を形成したカルボキシル基と塩を形成していないカルボキシル基のモル数の合計を100モル%とした場合、塩を形成したカルボキシル基の含有量が2~50モル%である、項11に記載の腸溶性硬質カプセル。
項13.前記皮膜の厚みが50~250μmである、項1~12のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項14.前記皮膜の25℃、相対湿度60%における弾性率が1GPa~5GPaである、項13に記載の腸溶性硬質カプセル。
項15.前記皮膜の25℃、相対湿度22%における破断伸び率が2%~30%である、項13又は14に記載の腸溶性硬質カプセル。
項16.前記腸溶性硬質カプセルの皮膜が海島構造を含み、島相が実質的に第1成分からなる、項1~15のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項17.前記島相の短径が0.1μm以上、かつ30μm未満である、項16に記載の腸溶性硬質カプセル。
項18.pH1.2を有する溶液を用いた溶出試験において、2時間後の前記腸溶性硬質カプセルの溶出率が、25%以下である、項1~17のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル。
項19.前記溶出試験における腸溶性硬質カプセルの溶出率が、10%以下である、項18に記載の腸溶性硬質カプセル。
項20.第i成分、第ii成分、薬学的又は食品添加物として許容される塩基性中和剤、及び溶媒を含み、さらに第iii成分、第iv成分及び第v成分の少なくとも一成分を含む腸溶性硬質カプセル調製液であって、
第i成分は、粘度値が100mPa・s~100,000mPa・sの範囲である非イオン性水溶性セルロース化合物であり、
第ii成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーであり、
第iii成分は、腸溶性セルロース化合物であり、
第iv成分は、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーであり、及び、
第v成分は、ポリビニルアルコール、可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一種である、
腸溶性硬質カプセル調製液。
項21.前記第i成分が、固体粒子として分散されている、項20に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項22.前記、第ii成分の一部及び/又は第iii成分の一部が、前記塩基性中和剤によって部分中和されている、項20又は21に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項23.前記部分中和の中和度が第ii及び第iii成分の完全中和に必要なモル数に対して、2~50%である、項22に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項24.前記第ii成分が、コロイド粒子として分散されている、項20~23のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項25.前記非イオン性水溶性セルロース化合物が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種である、項20~24のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項26.前記腸溶性セルロース化合物が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、及びセルロースアセテートフタレートからなる群から選択される少なくとも一種である、項20~25のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項27.前記腸溶性メタクリル酸コポリマーが、メタクリル酸とメタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルとのコポリマー、又は、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーからなる群から選択される少なくとも一種である、項20~26のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項28.前記腸溶性セルロース化合物の一部又は全部を、第iv成分である水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーで置換したことを特徴とする、項20~27のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項29.前記水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーが、メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとのコポリマーである、項20~28のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項30.前記第iv成分が、コロイド粒子として分散されている、項28又は29のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項31.前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の質量の合計を100質量%とし、第i成分の割合をα’質量%とし、第ii成分の割合をβ’質量%、第iii成分の割合をγ’質量%、第iv成分の割合をσ’質量%、及び第v成分の割合をφ’質量%とした場合に、0.5≦(β’+γ’+σ’)/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)≦0.9であり、かつ、0.4≦(β’+γ’)/(β’+γ’+σ’)である、項20~30項のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項32.前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分及び、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の質量の合計を100質量%とし、第i成分の割合をα’質量%、第ii成分の割合をβ’質量%、第iii成分の割合をγ’質量%、第iv成分の割合をσ’質量%、及び第v成分の割合をφ’質量%とした場合に、0.05≦α’/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)≦0.5である、項20~31のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項33.前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の質量の合計を100質量%とした場合の、第ii成分の割合をβ’質量%、第iii成分の割合をγ’質量%とした場合に、0.1≦β’/(β’+γ’)≦1である、項20~32のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項34.前記腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の質量の合計を100質量%とした場合の第i成分の割合をα’質量%、第ii成分の割合をβ’質量%、第iv成分の割合をσ’質量%、及び第v成分の割合をφ’質量%とした場合に、γ’=0であり、かつ、0.3≦β’/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)≦0.7である項33に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項35.前記塩基性中和剤による第ii成分の中和度が、2~20%である項34に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項36.前記塩基性中和剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種である、項20~35のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項37.前記塩基性中和剤が、アンモニア及び炭酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一種である、項20~35のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項38.腸溶性硬質カプセル調製液を100質量%としたときに、前記第i成分、第ii成分、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の合計量が10~30質量%である、項31~37のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項39.粘度が、100~10,000mPa・sである、項20~38のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液。
項40.溶媒中に薬学的又は食品添加物として許容される塩基性中和剤が存在する条件下で、第i成分と第ii成分が混合される腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法であって、第i成分は、粘度値が100mPa・s~100,000mPa・sの範囲である非イオン性水溶性セルロース化合物であり、第ii成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーである、調製方法。項41.
前記非イオン性水溶性セルロース化合物が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される少なくとも一種である、項40に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項42.前記腸溶性メタクリル酸コポリマーが、メタクリル酸とメタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルとのコポリマー、又は、メタクリル酸とアクリル酸エチルとのコポリマーからなる群から選択される少なくとも一種である、項40又は41のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項43.前記塩基性中和剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種である、項40~42のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項44.前記塩基性中和剤が、アンモニア及び炭酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一種である、項40~42のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項45.工程A:第iii成分の中和液を準備する工程、
工程B:前記第iii成分を含む中和液に第i成分を加え、第i成分の部分溶解液を準備する工程、及び
工程C:前記第ii成分の分散液を、中和液もしくは部分溶解液と混合する工程、
を順不同で含む、
腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法であって、第iii成分は、腸溶性セルロース化合物である、項40~44のいずれか一項に記載の調製方法。
項46.前記腸溶性セルロース化合物が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、及びセルロースアセテートフタレートからなる群から選択される少なくとも一種である、項45に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項47.前記工程Aが、前記第iii成分を薬学的に又は食品添加物として許容される塩基性中和剤により、少なくとも部分的に中和して溶媒に溶解させる中和液を調製する工程であり、その中和度が50%以上又は、完全に中和されている、項45又は46に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項48.前記工程Bが、前記第iii成分を含む中和液、又は前記第iii成分の中和液と前記第ii成分の分散液の混合液に、前記第i成分を部分溶解させた部分溶解液を調製する工程であり、部分溶解液を調製する工程が、第i成分を、第i成分の曇点T0以上の第1の温度T1で、第iii成分を含む中和液、又は第iii成分の中和液と第ii成分の分散液の混合液に添加し、前記曇点よりも低い第2の温度T2で第i成分を部分溶解させた分散液を調製する工程である、項45~47のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項49.前記工程A、B、もしくはCで準備された溶液と第iv成分である水不溶性(メタ)アクリル酸エステルコポリマーを混合する工程Dを含む項45~48のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項50.前記水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーが、メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとのコポリマーである、項49に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項51.前記工程B、C又はDで得られた溶液を、前記第i成分の曇点よりも低い第3の温度T3に保持する工程Eをさらに含む、項45~50のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項52.工程A’:第ii成分の部分中和液を準備する工程、
工程B’:第i成分の部分溶解液を準備する工程、及び
工程C’:第iv成分の分散液を、工程AもしくはBで準備された溶液と混合する工程、
を順不同で含む、
項40記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法であって、
第iv成分は、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーである、
調製方法。
項53.前記水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーが、メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとのコポリマーである、項52に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項54.前記工程A’が、前記第ii成分を薬学的に又は食品添加物として許容される塩基性中和剤により、少なくとも部分的に中和して溶媒に溶解させる中和液を調製する工程であり、その中和度が2~20%である、項52又は53に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項55.前記工程B’が、前記第ii成分を含む中和液に、前記第i成分を部分溶解させた部分溶解液を調製する工程であり、
前記部分溶解液を調製する工程が、第i成分を、第i成分の曇点T0以上の第1の温度T1で、第ii成分を含む中和液、又は第ii成分の中和液と前記第iv成分の分散液の混合液に添加し、前記曇点よりも低い第2の温度T2で第i成分を部分溶解させた分散液を調製する工程である、項52~54のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項56.前記工程B’又はC’で得られた溶液を、前記第i成分の曇点よりも低い第3の温度T3に保持する工程E’をさらに含む、項55に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項57.前記第3の温度の範囲T3が、40℃~60℃である、項51又は56に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項58.前記第1の温度T1の範囲が、60℃~90℃である、項48~51及び55~57のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項59.前記第2の温度T2の範囲が、30℃~60℃である、項48~51及び55~57のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項60.前記腸溶性硬質カプセル調製液の粘度が、100~10,000mPa・sである、項40~59のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法。
項61.下記工程を含む、腸溶性硬質カプセルの調製方法:
項20~39のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセル調製液、又は項40~60のいずれか一項に記載の調製方法により得られた腸溶性硬質カプセル調製液の中に、前記腸溶性硬質カプセル調製液の温度よりも低い表面温度を有するモールドピンを浸漬する第1工程;及び
前記腸溶性硬質カプセル調製液からモールドピンを引き上げて、モールドピンに付着した腸溶性硬質カプセル調製液を乾燥させる第2工程。
項62.前記腸溶性硬質カプセル調製液の温度が、40~60℃である、項61に記載の腸溶性硬質カプセルの調製方法。
項63.前記調製液に浸漬する前のモールドピンの表面温度が、5~40℃である、項62又は61又は62に記載の腸溶性硬質カプセルの調製方法。
項64.モールドピンに付着した腸溶性硬質カプセル調製液を乾燥する温度が、40℃未満である、項61~63のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルの調製方法。
項65.項1~19のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルに対し、腸溶性メタクリル酸コポリマー及び腸溶性セルロース化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の腸溶性ポリマーの少なくとも部分中和された希釈水溶液、あるいは、水/エタノール又は水/イソプロパノール溶剤に溶解した液からなるシール液によってシールされたことを特徴とする腸溶性硬質カプセル製剤。
項66.酸性条件で溶解可能な硬質カプセルの内部に項1~19のいずれか一項に記載の腸溶性硬質カプセルを内包することを特徴とする硬質カプセル製剤。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、冷ゲル法によって成型可能な、腸溶性特性を有する硬質カプセル皮膜からなる硬質カプセルを提供できる。また、本発明によれば、ゲル化剤を用いずに腸溶性カプセルを調製することができる。さらに、当該硬質カプセルは、従来使用されているカプセル充填機を使用して内容物を充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、腸溶性硬質カプセル調製液の降温過程における動的粘弾性挙動の模式図を示す図である。T0は、曇点又は溶解開始温度を示す。T1、T2及びT3は、それぞれ明細書に記載の第1の温度、第2の温度及び第3の温度を示す。T4は、急激な粘度上昇開始温度を示す。T5は室温(20℃~25℃)を示す。
【
図2】
図2は、実施例2-2として調製されたカプセル皮膜の横断面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例2-2として調製されたカプセル調製液(55℃)における光学顕微鏡像を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例2-2として調製されたカプセル調製液の降温時の動的粘弾性挙動を示す図である。縦軸の例えば1.00E+2は100を、1.00E+3は1000を示す。
【
図5】
図5は、引張試験における典型的な引張応力―伸び率(ひずみ、%)曲線の例と、弾性率(ヤング率)、破断伸び率の説明。縦軸の弾性率は、低応力の弾性領域での傾きを示す。縦軸の例えば1.00E―02は0.01を1.00E-1は、0.1を示す。また、横軸の破断伸び率は、試験片の破断が生じるときの伸び率(ひずみ)、%、である。
【
図6】
図6は、実施例6-2として調製されたカプセル皮膜の横断面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例6-2として調製されたカプセル調製液(55℃)における光学顕微鏡像を示す図である。
【
図8】
図8は、本開示に係る腸溶性硬質カプセルを内部に用いた二重カプセルの溶出特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.用語及び材料の説明
はじめに、本明細書、及び特許請求の範囲等で使用される用語及び材料について説明する。本開示に関する用語及び材料は、特に記載がない限り、本項の説明に従う。
【0025】
本開示において、「硬質カプセル」とは、製造されたカプセル皮膜に内容物を充填するための空のカプセルである。通常、硬質カプセルは、キャップ部とボディ部とからなり、ハードカプセル、又はツーピースカプセルとも呼ばれる。本開示における「硬質カプセル」は、ヒト又は動物の対象への経口投与を意図した、市販されている従来の硬質カプセルと同一又は類似の形状を付与することができる。
【0026】
なお、本開示に係る「硬質カプセル」には、2枚のフィルムの間に内容物を充填し、フィルム同士を接着して製造するソフトカプセル、内容物を皮膜溶液と共に凝固液に滴下して製造するシームレスカプセル、及び基材の析出やエマルジョン化によって内部に有効成分を取り込ませて調製するマイクロカプセルは含まれない。
また、本開示では、空の硬質カプセルを単に硬質カプセルもしくはカプセルと呼び、内容物を充填したものを「硬質カプセル製剤」と呼ぶ。
【0027】
本開示において、「腸溶性硬質カプセル」とは、カプセル本体の皮膜自体が下記条件に適合する「腸溶性」の特性を有する硬質カプセルをいう。
すなわち、「腸溶性」とは、少なくとも下記(i)の条件を満たす特性をいう。
【0028】
(i)第17改正日本薬局方(以下、単に「第17局方」ということがある)に記載の溶出試験において、被験対象を37℃±0.5℃の第1液中に2時間浸漬したときの内容物の溶出率が25%以下であり、好ましくは10%以下である。好ましくは、第1液のpHは約1.2である。第1液は、例えば塩化ナトリウム2.0gに塩酸7.0ml及び水を加えて1000mlとすることで調製することができる。
【0029】
「腸溶性」とは、好ましくは上記(i)の条件に加え、下記(ii)の条件も満たす。(ii)前記溶出試験において、被験対象を37℃±0.5℃の第2液中に浸漬したときに内容物が溶出される。好ましくは、第2液のpHは約6.8である。第2液は、例えば、リン酸二水素カリウム3.40g及び無水リン酸水素二ナトリウム3.55gを水に溶かし、1000mLとしたリン酸塩緩衝液1容量に水1容量を加えて調製することができる。
ここで、第2液中での内容物の溶出率を測定する時間に制限はない。例えば、腸に到達後、比較的速やかに溶出することが求められる場合には、第2液に被験対象を浸漬してから、30分後の溶出率が、50%、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。また、例えば、第2液に被験対象を浸漬してから、45分後の溶出率が、75%以上、好ましくは80%より好ましくは90%以上である。さらに、例えば、第2液に被験対象を浸漬してから、1時間後の溶出率が、75%以上、好ましくは80%、より好ましくは90%以上である。
【0030】
溶出試験は、第17局方に定められた溶出試験法(第17局方、6.10-1.2パドル法(パドル回転数50回転/分)、及び、同
図6.10-2aに対応するシンカー使用)に従い試験することができる。
溶出試験に使用する内容物は、それ自身が試験溶液中で速やかに溶解される内容物であって、公知の方法によって定量できるものである限り制限されない。例えば、アセトアミノフェンを挙げることができる。
【0031】
「非イオン性水溶性セルロース化合物」(以後、単に「水溶性セルロース化合物」と称する場合がある)とは、分子内にイオン性基を持たず、-OH、=O、などの非イオン性親水基を持つことで水溶性となるセルロース化合物(ポリマー)であり、セルロースのグルコース環の水酸基の一部をエーテル化した水溶性セルロースエーテルをいう。
【0032】
具体的には、アルキル基又はヒドロキシアルキル基の少なくとも1つの基でセルロースのヒドロキシ基の水素原子が置換された水溶性のセルロースエーテルを挙げることができる。ここで上記アルキル基又はヒドロキシアルキル基でいう「アルキル基」としては、炭素数1~6、好ましくは1~4の直鎖又は分岐状の低級アルキル基、具体的にはメチル基、エチル基、ブチル基及びプロピル基を挙げることができる。非イオン性水溶性セルロース化合物として具体的には、メチルセルロース(MC)などの低級アルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース(HEC)及びヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等のヒドロキシ低級アルキルセルロース;ならびにヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(本明細書においてヒプロメロースあるいはHPMCともいうことがある)等のヒドロキシ低級アルキルアルキルセルロースなどを挙げることができる。商業的に入手可能で、特に医薬品、食品用途として適しているのは、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースである。水溶性セルロースエーテルの置換度は、特に制限されず、日本薬局方で規定されるヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が使用される。例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトキシ基の置換度は好ましくは16.5~30.0質量%、更に好ましくは19.0~30.0質量%、特に好ましくは28.0~30.0質量%であり、ヒドロキシプロポキシ基の置換度は好ましくは4.0~32.0質量%、更に好ましくは4.0~12.0質量%、特に好ましくは7.0~12.0質量%である。また、メチルセルロースのメトキシ基の置換度は好ましくは26.0~33.0質量%、更に好ましくは28.0~31.0質量%である。なお、これらの置換度は、第17局方に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースの置換度の測定方法に準拠した方法で測定できる。
【0033】
中でも、下記式で示されるヒドロキシプロピルメチルセルロースは、皮膜成形性及び低水分下での機械的強度が優れている点で、最適なセルロース化合物である。
【0034】
【0035】
本開示において使用されるヒドロキシプロピルメチルセルロースには、第17局方で定められる置換度タイプ(置換度グレード)2910,2906,2208のヒプロメロースが含まれる。
【0036】
【表1】
また、本開示に係るヒドロキシプロピルメチルセルロースには、日本国で食品添加剤としての使用が認められている下記分子量を有するヒプロメロースが含まれる。
<分子量>
非置換構造単位:162.14
置換構造単位:約180(置換度1.19)、約210(置換度2.37)
重合体:約13,000(n=約70)~約200,000(n=約1000)。
【0037】
商業的に入手可能なメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースとしては、信越化学社の日本薬局方METOLOSE(登録商標)シリーズ、食品添加物用メトローズシリーズ、ロッテ(Lotte,旧Samsung)精密化学社のAnyCoat―CもしくはAnyAddy(登録商標)シリーズ、ダウケミカル(DOW Chemical)社のMETHOCEL(登録商標)シリーズ、Ashland社のBenecel(登録商標)シリーズ等、を挙げることができる。
【0038】
本開示において対象とされるヒドロキシプロピルセルロースには、日本国で食品添加剤や医薬品添加剤としての使用が認められている分子量が約30,000(n=約100)~約1,000,000(n=約2,500)を有するHPCも含まれる(16th JECFA. Hydroxypropyl Cellulose (Revised Specification).FNP52 Add 12, 2004)。商業的に入手可能な高「粘度値」のヒドロキシプロピルセルロースとしては、Ashland社のKlucel(登録商標)シリーズ、日本曹達社のNISSO HPCを挙げることができる。HPCについては、例えば、Ashland社のKlucel(登録商標)シリーズでは、表示粘度タイプがG,M,Hのものに相当する。
【0039】
これらの非イオン性水溶性セルロース化合物は、、通常、約0.1~約100μmのオーダーの範囲に細かく粉砕された固体粒子として供給される。また、「非塩化」であることが好ましい。「非塩化」とは、セルロース化合物の製造過程において不可避的に混入もしくは残留する不純物として存在する微量の塩化物を除き、セルロース化合物の遊離酸残基の大部分が塩化されていないことを意味する。
【0040】
本開示においては、20℃における2質量%水溶液の「粘度値」が、100mPa・s以上の非イオン性水溶性セルロース化合物を用いることが好ましい。以下では、この粘度の値を単に「粘度値」と表示する場合がある。「粘度値」の測定法については、第15局方以降、国際調和案に基づいて策定された、メチルセルロース及びヒプロメロースの項に準じて測定される。すなわち、「粘度値」は、水溶性セルロースの2質量%水溶液の20℃±0.1℃における粘度の値(mPa・s)をいう。「粘度値」の測定には、「粘度値」600mPa・s未満の場合は、一般試験法2.53粘度測定法の第1法(ウベローデ法)を用い、「粘度値」600mPa・s以上の場合は、一般試験法2.53粘度測定法の第2法、2.1.2単一円筒型回転粘度計(ブルックフィールド型粘度計)を用いる。
【0041】
また、「粘度値」は、化合物メーカーによる表示粘度、(粘度グレード値ということもある)を採用することもできる。表示粘度、及び表示粘度の幅としては、例えば、信越化学工業のMETOLOSE(商標)シリーズでは、表示粘度600mPa・s未満では、表示粘度の80~120%、表示粘度が600mPa・s以上の場合は、表示粘度の75~140%とされる。本開示における下限値100mPa・sに関しては、本開示の趣旨を損なわない限りにおいて、表示粘度をそのまま「粘度値」として用いることができる。
【0042】
また、ダウケミカル(DOW Chemical)社のMETHOCEL(登録商標)シリーズにおいては、やはり、20℃、2質量%濃度の水溶液の粘度値をASTM、D1347,又はD2363におけるウロベーデ法を用いているが、表示粘度(粘度グレード)と数平均分子量及び重量平均分子量との関係は、上記、局方値とほぼ互換性のある値となっている。本開示の趣旨を損なわない限りにおいて、いずれの表示粘度も、そのまま「粘度値」として用いることができる。
【0043】
本開示において、好ましい「粘度値」の下限値は100mPa・sであり、より好ましくは、200mPa・s、さらに好ましくは400mPa・sである。上限値としては好ましい「粘度値」は、100,000mPa・sであり、実際上の入手可能なセルロース化合物の上限値である。なお、「粘度値」100~200、000mPa・sに対応する数平均分子量(g/Mol)は、概ね30,000~300,000である。重量平均分子量(g/Mol)は、概ね100,000~1,000,000である(信越化学社METOLOSE(登録商標)シリーズ、ダウケミカル社METOCEL(登録商標)シリーズ、のカタログ値から)。
【0044】
固体状態の非イオン性水溶性セルロース化合物は、通常、1~100μmオーダーの粒径を有する固体粒子である。また、該化合物は下限臨界共溶温度(LCST、Low Critical Solution Temperature)、すなわちT0を持つことが特徴である。LCSTとは、降温過程において水温がT0より低くなると溶解をはじめ、昇温過程においては、水温がT0より高くなると、溶液中の高分子がゲル化もしくは相分離をおこす温度のことである。
【0045】
水溶性セルロース化合物を室温付近で溶媒(水等)に完全に溶解させると該溶液は透明となる。当該溶液を再び昇温する過程では、T0におけるゲル化もしくは溶媒との相分離は、該水溶液の濁りとして観察されるので、曇点と称される。なお、未溶解の水溶性セルロース粒子(通常1~100μm径)を水に溶解させる場合、まず、曇点T0以上で分散させたのち、水温を下げて溶解させると、粒子が表面から徐々に溶解をはじめるが、完全に溶解することはなく、固体微粒子の分散状態を保っている。さらに降温して室温付近まで下げると完全な溶解液が得られる。この溶液を再び昇温すると、曇点付近でゲル化もしくは溶媒との相分離を生ずるが、これは、水溶性セルロース化合物がもともとの未溶解の固体微粒子の分散液に戻るものではない。どちらかというとMCとHPMCでは、セルロース高分子のネットワーク中に水分子が取り込まれたゲルを形成し、HPCではセルロース高分子の固体相と、水の相に相分離する。下限臨界共溶温度(以下、「溶解温度」ともいう)と曇点は、それぞれ、降温過程もしくは昇温過程に着目した呼称であり、降温もしくは昇温過程の履歴により、若干のずれを伴う場合があるが概ね一致する。以下の説明では、同等のものとして扱う。
【0046】
非イオン性水溶性セルロース化合物の曇点は、水溶液のpHなどにも依存するが、通常、40~70℃の範囲にある(高分子論文集, Vol.38(1981)、p.133-137、J. Polym. Sci. C, Vol.36(1971), p.491-508)。例えば、代表的な非イオン性水溶性セルロース化合物であるHPMCでは60℃程度、MCでは40℃程度、HPCでは40℃程度である。
【0047】
「腸溶性セルロース化合物」とは、耐酸性のセルロース化合物(ポリマー)である。具体的にはセルロースのヒドロキシ基の水素原子が、カルボキシル基を含むフタル酸、酢酸、コハク酸等でエーテル化された化合物をいう。腸溶性セルロース化合物としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、セルロースアセテートフタレート(CAP)を挙げることができる。
【0048】
HPMCPは、ヒプロメロースフタル酸エステルとも呼ばれ、HPMC(ヒプロメロース)に無水フタル酸を無水酢酸ナトリウムを触媒として反応させるなどして、さらにカルボキシベンゾイル基(-COC6H4COOH)を導入したものである。カルボキシベンゾイル基はカルボキシル基を含み、それ自身が疎水性で耐酸性を示すのに対して、弱酸性から中性領域ではカルボキシベンゾイル基が解離することで溶解する。したがって、カルボキシベンゾイル基の結合量により溶解pH、概ね当該値以上で溶解が始まる閾値となるpHが変わりうる。
【0049】
製品の例としては、信越化学工業及びロッテ精密化学から、溶解pHの異なるHP-55(置換度タイプ200731)、HP-50(置換度タイプ220824)の2品種及び、HP-55より重合度が高く、フィルム強度に優れるHP-55Sが入手可能である。なお、HP50及びHP55の溶解pHは、それぞれ概ねpH5.0とpH5.5である。
【0050】
HPMCASは、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、ヒプロメロースアセテートスクシネートとも呼ばれ、HPMC(ヒプロメロース)に無水酢酸、無水コハク酸を反応させるなどして、さらにアセチル基(‐COCH3)とスクシノイル(「サクシニル」又は「スクシニル」ともいう)基(‐COC2H4COOH)を導入したものである。スクシノイル基中の-COOH基(カルボキシル基)が、腸溶性機能の発現にとって重要である。HPMCASの置換基の含有量は、特に制限されないが、メトキシ基が好ましくは12~28質量%、より好ましくは20~26質量%、ヒドロキシプロポキシ基が好ましくは4~23質量%、より好ましくは5~10質量%、また、アセチル基が好ましくは2~16質量%、より好ましくは5~14質量%、スクシノイル基が2~20質量%、より好ましくは4~18質量%である。
【0051】
製品の例としては、例えば、信越化学工業からAQOAT(登録商標)シリーズ製品として入手可能である。同シリーズには、AS-L、AS-M及びAS-Hとして、スクシノイル基及びアセチル基の置換度により3種類の置換度グレードがある。グレード(L、M又はH)の順にスクシノイル基、したがってカルボキシル基含量が高くなる一方で、アセチル基含量が低くなるように制御され、溶解pHが高くなるように設定されている。なお、AS-L、M、及びHの溶解pHは、それぞれ概ねpH5.0、pH5.5、とpH6.0である。
【0052】
また、ダウケミカル社からもAFFINISOL(登録商標)シリーズ製品の一つとして、Ashland社からはAquaSolve(登録商標)シリーズの一つとして種々の置換度の製品が入手可能である。
【0053】
CAPは、セラセフェート(英国薬局方)、酢酸フタル酸セルロース(日本薬局方)、セルロシアセタスフタラス(ヨーロッパ薬局方)、及びセラセフェート(米国薬局方)ともよばれる。セルロースアセテート(アセチル化セルロース)に無水フタル酸を無水酢酸ナトリウムなどを触媒として反応させ、カルボキシベンゾイル基(-COC6H4COOH)を導入して得られる。商業的には、FMC社のAquateric(登録商標)シリーズ製品、又はEastman chemicalから入手可能である。
【0054】
これらの腸溶性セルロース化合物は、非中和状態では、水には不溶性であり、塩基性中和剤で少なくとも部分的に中和することで可溶化する。非中和状態とは、遊離酸残基(例えば、分子中に存在するフタル酸、コハク酸及び酢酸部分のカルボン酸残基)が中和されていないことを意味する。本開示においては、腸溶性セルロース化合物は、非中和のものを用いることが好ましい。
【0055】
「メタクリル酸コポリマー」は、「メタアクリレートコポリマー」ともいう。メタクリル酸コポリマーは、骨格にメタクリル酸モノマー単位を含むポリマーである。
【0056】
より好ましくは、メタクリル酸コポリマーは、アニオン性基であるメタクリル酸モノマー単位と、中性であるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルモノマー単位から構成される。アクリル酸又はメタクリル酸とエステル結合するアルキルとしては、炭素数1~4のアルキル、好ましくは炭素数1~3のアルキルを挙げることができる。アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルとして、より具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸ブチルからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0057】
メタクリル酸コポリマーは、腸溶性であることが好ましい。より好ましくは、腸溶性メタクリル酸コポリマーとして、下記メタクリル酸(式(I))と、メタクリル酸メチル(式(II))及びアクリル酸メチル(式(III))とのコポリマー(共重合体)、又はメタクリル酸(式(I))と、アクリル酸エチル(式(IV))とのコポリマー(共重合体)を挙げることができる。(非特許文献1、Chapter 9)
【0058】
【0059】
コポリマーを形成するモノマーの総数(総単位数、もしくは、総基数)を100とした場合に、メタクリル酸モノマー単位を少なくとも5%、好ましくは5~70%、特に8~60%含有、より好ましくは、30~60%含有することが好ましい。なお、各モノマー単位の分子量を用いて、容易に、各モノマー単位の比率を質量%に換算できる。
【0060】
好ましいメタクリル酸コポリマーとしては、メタクリル酸(分子量86.04)40~60質量%と、メタクリル酸メチル(分子量100.05)60~40質量%、もしくはアクリル酸エチル(分子量100.05)60~40質量%とからなるポリマーである(例えば、EUDRAGIT(登録商標)L100又はEUDRAGIT(登録商標)L100-55等)。EUDRAGIT(登録商標)L100-55が特に適しており、これはメタクリル酸50質量%とアクリル酸エチル50質量%とからなるコポリマーである。EUDRAGIT(登録商標)L30D-55は、EUDRAGIT(登録商標)L100-55をおよそ30質量%含有する水性分散液である。これらの、メタクリル酸コポリマーは、pHが概ね5.5以上で溶解するように設定されている。
【0061】
他の好ましい例としては、メタクリル酸5~15質量%、メタクリル酸メチル10~30質量%と、アクリル酸メチル(分子量86.04)50~70質量%とからなるポリマーである。より具体的には、EUDRAGIT(登録商標)FSであり、これはメタクリル酸10質量%、メタクリル酸メチル25質量%、及び、アクリル酸メチル65質量%からなるコポリマーである。EUDRAGIT(登録商標)FS30Dは、EUDRAGIT(登録商標)FSをおよそ30質量%含有する分散液である。このメタクリル酸コポリマーは、pHが概ね7以上で溶解するように設定されており、よりpHの高い環境である、大腸送達を意図した場合に用いられることがある。
【0062】
上記、腸溶性メタクリル酸コポリマーは、一般的には、乳化重合プロセスによって、モノマーレベルから水溶液中で共重合過程を経て、非常に小さなコロイド状粒子を含む水性エマルジョンが先に製造される。したがって、固体ポリマー成分の塩基性中和剤による中和による溶解工程を経由しなくても、平均粒径1μm未満の非常に微細なコロイド粒子の水性分散液が得られる。
【0063】
EUDRGITリーズ(Evonik社)L30D-55同等の水分散液、同等の商品化されたメタクリル酸コポリマーとしては、Kollicoatシリーズ(BASF社)MAE30D/DP、ポリキッドシリーズ(三洋化成社)PA-30も挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。なお、これらの水分散液(水性エマルジョン)は、通常、0.3%未満の残留モノマー及び、その製造過程及び安定化のために、微量のポリソルベート80及びラウリル硫酸ナトリウムを含むが、本開示に係る硬質カプセル皮膜、及び硬質カプセル調製液に対する不可避的に含まれる不純物として許容されうる。
【0064】
「(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー」とは、実質的に中性の(メタ)アクリル酸コポリマーであり、主としてメタクリル酸もしくはアクリル酸のアルキルエステル中性モノマー単位から構成される。アクリル酸又はメタクリル酸とエステル結合するアルキルとしては、炭素数1~4のアルキル、好ましくは炭素数1~3のアルキルを挙げることができる。アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルとして、より具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸ブチルからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。実質的に中性であるためには、中性モノマーの割合は、例えば95質量%超、98質量%超、99質量%超、又は100質量%である。但し、ポリマー中のイオン性基の存在を完全に排除するものではなく、イオン性基、特にアニオン性基の含分が5質量%未満、好ましくは2質量%未満、好ましくは1質量%未満のメタクリル酸コポリマーが、含まれていても良い。
【0065】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーは、好ましくは水不溶性である。
【0066】
より好ましくは、メタクリル酸メチル(分子量100.05)20~40質量%、アクリル酸エチル(分子量100.05)60~80質量%から成るコポリマーである(EUDRAGIT(登録商標)NE又はEUDRAGIT(登録商標)NMのタイプ)が適している。中でも、EUDRAGIT(登録商標)NEが適しており、これはアクリル酸エチル70質量%と、メタクリル酸メチル30質量%とからなるコポリマーである。いずれの場合も、メタクリル酸(分子量86.04)を5質量%未満、好ましくは2質量%未満、好ましくは1質量%未満含みうる。
【0067】
これらの、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーは、そのガラス転移温度が100℃未満、あるいは、造膜温度(Minimum Film-forming Temperture、MFT)が、50℃未満であり、特に腸溶性メタクリル酸コポリマーのコロイド粒子を含む分散液を乾燥させて皮膜化した場合に、粒子間の融着を促して、透明かつ割れにくい乾燥皮膜を得る効果がある。また、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーは、適度な添加量においては、耐酸性を損ねることがないという利点を有する。
【0068】
上記、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーも、乳化重合プロセスによって、モノマーレベルから水溶液中で共重合過程を経て、非常に小さなコロイド状粒子を含む水性エマルジョンを先に製造できる。したがって、固体ポリマー成分の塩基性中和剤による中和による溶解工程を経由しなくても、平均粒径1μm未満の非常に微細なコロイド粒子の水性分散液が得られる。
【0069】
「ポリビニルアルコール」(PVA)は、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られる重合物であり、通常、けん化度が97%以上で下記式(1)で表される完全けん化物と、けん化度が78~96%で下記式(2)で表される部分けん化物とがある。本開示では、上記完全けん化物及び部分けん化物のいずれも使用することができる。特に制限されるものではないが、けん化度、n/(n+m)が、78~90%、特に87~90%程度の部分けん化物が好ましく用いられる。
【0070】
【0071】
PVAの平均重合度(n)は、フィルム形成能を発揮し得る範囲であればよく、特に制限されるものではないが、通常は400~3300、特に1000~3000程度であることが好ましい。なお、上記平均重合度とけん化度から、係るPVAの重量平均分子量を算出すると約18000~約200000になるが、特にこれに制限されるものではない。PVAの添加により、腸溶性を維持しながら、カプセル皮膜に適度な機械強度(弾性率と割れにくさ)をもたらすことができる。
【0072】
なお、本開示において、PVA及びPVA共重合体を併用してもよい。PVA共重合体としては、前述するPVAに重合性ビニル単量体を共重合させて得られるPVA共重合体を挙げることができる。
【0073】
PVA共重合体として好ましくは、前述する部分けん化PVAを骨格として、アクリル酸とメチルメタクリレートを共重合化した高分子共重合体である。商業的に入手可能なPVA共重合体として、POVACOAT(登録商標)シリーズ(日新化成株式会社)を例示することができる。
【0074】
本開示に係る腸溶性硬質カプセル皮膜には、さらに、薬学的及び食品添加物として許容される可塑剤、界面活性剤(乳化剤)、基剤(非イオン性水溶性セルロース化合物を除く)、結合剤(PVAを除く)、コーティング剤等を含んでいてもよい。また、溶解性、特に、中性pH領域での溶出特性を制御するための徐放化剤、溶解補助剤、可溶化剤等を含んでいても良い。医薬品添加物として許容される上記添加物としては、例えば、医薬品添加物辞典、2016年版(日本医薬品添加剤協会 編集、薬事日報社)に、前記用途別に記載されているものを使用することができるがこれらに限定されるものではない。なお、これら添加物は、複数の用途に重複して分類される場合もある。
【0075】
可塑剤は、上記医薬品添加物辞典で示される具体的物質に必ずしも限定されず、医薬品又は食品組成物に使用でき、カプセル皮膜に添加して柔軟性を付与しうるものであれば特に制限されないが、適当な物質は、一般に分子量(Mw)が100~20,000であり、かつ1分子中に1つ又は複数の親水基、例えばヒドロキシル基、エステル基、又はアミノ基を有するものである。例えば、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ポリエステル、エポキシ化ダイズ油、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル、カオリン、クエン酸トリエチル、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、ゴマ油、ジメチルポリシロキサン・二酸化ケイ素混合物、D-ソルビトール、中鎖脂肪酸トリグリセリド、トウモロコシデンプン由来糖アルコール液、トリアセチン、濃グリセリン、ヒマシ油、フィトステロール、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、ブチルフタリルブチルグリコレート、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリソルベート80、マクロゴールミリスチン酸イソプロピル、綿実油・ダイズ油混合物、モノステアリン酸グリセリン、リノール酸イソプロピル、各種分子量のポリエチレングリコール(マクロゴール400、600、1500、4000、6000)、などを挙げることができる。相溶性に優れ、高い光沢性を付与するという観点から、特にポリエチレングリコールが好適である。ポリエチレングリコールの重量平均分子量は、特に制限されないが、高い光沢を付与するという観点から、好ましくは200~35000である。
【0076】
界面活性剤(あるいは、乳化剤ともいう)は、可溶化剤、懸濁化剤、乳化剤、分散剤、溶解補助剤、安定化剤などとして用いられる。具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムポリオキシエチレン(40)モノステアレート(ステアリン酸ポリオキシル40*)、ソルビタンセスキオレエート(セスキオレイン酸ソルビタン*)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80*)、グリセリルモノステアレート(モノステアリン酸グリセリン*)、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(ラウロマクロゴール*)などが挙げられる。(*:日本薬局方中の表記)。この他にも、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、プロピレングリコール脂肪酸エステル(モノステアリン酸プロオレイングリコール)、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレンノニフェニルエーテル、などが挙げられる。
【0077】
本開示に係る腸溶性硬質カプセル皮膜には、さらに、滑沢剤、金属封鎖剤、着色剤、遮光剤、結合剤、等を、高々5質量%程度含んでいてもよい。金属封鎖剤としては、エチレンジアミン四酢酸、酢酸、ホウ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、リン酸、酒石酸、又はこれらの塩、メタホスフェート、ジヒドロキシエチルグリシン、レシチン、β-シクロデキストリン、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0078】
滑沢剤としては、医薬品又は食品組成物に使用できるものであれば特に制限されない。例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、カルナバロウ、でんぷん、ショ糖脂肪酸エステル、軽質無水ケイ酸、マクロゴール、タルク、水素添加植物油等を挙げることができる。
金属封鎖剤としては、エチレンジアミン四酢酸、酢酸、ホウ酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、リン酸、酒石酸、又はこれらの塩、メタホスフェート、ジヒドロキシエチルグリシン、レシチン、β-シクロデキストリン、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0079】
着色剤、遮光剤としては、医薬品又は食品組成物に使用できるものであれば特に制限されない。着色剤としては、例えばアセンヤクタンニン末、ウコン抽出液、塩化メチルロザニリン、黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、オパスプレーK-1-24904、オレンジエッセンス、褐色酸化鉄、カーボンブラック、カラメル、カルミン、カロチン液、β-カロテン、感光素201号、カンゾウエキス、金箔、クマザサエキス、黒酸化鉄、軽質無水ケイ酸、ケッケツ、酸化亜鉛、酸化チタン、三二酸化鉄、ジスアゾイエロー、食用青色1号及びそのアルミニウムレーキ、食用青色2号及びそのアルミニウムレーキ、食用黄色4号及びそのアルミニウムレーキ、食用黄色5号及びそのアルミニウムレーキ、食用緑色3号及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色2号及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色3号及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色102号及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色104号及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色105号及びそのアルミニウムレーキ、食用赤色106号及びそのアルミニウムレーキ、水酸化ナトリウム、タルク、銅クロロフィンナトリウム、銅クロロフィル、ハダカムギ緑茶エキス末、ハダカムギ緑茶抽出エキス、フェノールレッド、フルオレセインナトリウム、d-ボルネオール、マラカイトグリーン、ミリスチン酸オクチルドデシル、メチレンブルー、薬用炭、酪酸リボフラビン、リボフラビン、緑茶末、リン酸マンガンアンモニウム、リン酸リボフラビンナトリウム、ローズ油、ウコン色素、クロロフィル、カルミン酸色素、食用赤色40号及びそのアルミニウムレーキ、水溶性アナトー、鉄クロロフィリンナトリウム、デュナリエラカロテン、トウガラシ色素、ニンジンカロテン、ノルビキシンカリウム、ノルビキシンナトリウム、パーム油カロテン、ビートレッド、ブドウ果皮色素、ブラックカーラント色素、ベニコウジ色素、ベニバナ赤色素、ベニバナ黄色素、マリーゴールド色素、リボフラビンリン酸エステルナトリウム、アカネ色素、アルカネット色素、アルミニウム、イモカロテン、エビ色素、オキアミ色素、オレンジ色素、カカオ色素、カカオ炭末色素、カキ色素、カニ色素、カロブ色素、魚鱗箔、銀、クサギ色素、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、クチナシ黄色素、クーロー色素、クロロフィン、コウリャン色素、骨炭色素、ササ色素、シアナット色素、シコン色素、シタン色素、植物炭末色素、スオウ色素、スピルリナ色素、タマネギ色素、タマリンド色素、トウモロコシ色素、トマト色素、ピーナッツ色素、ファフィア色素、ペカンナッツ色素、ベニコウジ黄色素、ベニノキ末色素、ヘマトコッカス藻色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ムラサキヤマイモ色素、油煙色素、ラック色素、ルチン、エンジュ抽出物、ソバ全草抽出物、ログウッド色素、アカキャベツ色素、アカゴメ色素、アカダイコン色素、アズキ色素、アマチャ抽出物、イカスミ色素、ウグイスカグラ色素、エルダーベリー色素、オリーブ茶、カウベリー色素、グースベリー色素、クランベリー色素、サーモンベリー色素、ストロベリー色素、ダークスィートチェリー色素、チェリー色素、チンブルベリー色素、デュベリー色素、パイナップル果汁、ハクルベリー色素、ブドウ果汁色素、ブラックカーラント色素、ブラックベリー色素、プラム色素、ブルーベリー色素、ベリー果汁、ボイセンベリー色素、ホワートルベリー色素、マルベリー色素、モレロチェリー色素、ラズベリー色素、レッドカーラント色素、レモン果汁、ローガンベリー色素、クロレラ末、ココア、サフラン色素、シソ色素、チコリ色素、ノリ色素、ハイビスカス色素、麦芽抽出物、パプリカ粉末、アカビートジュース、ニンジンジュースなどを挙げることができる。
【0080】
遮光剤としては、例えば酸化チタン、カルシウム化合物、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用緑色3号アルミニウムレーキ、食用赤色2号アルミニウムレーキ、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用赤色102号アルミニウムレーキ、食用赤色104号アルミニウムレーキ、食用赤色105号アルミニウムレーキ、食用赤色106号アルミニウムレーキ、食用赤色40号アルミニウムレーキを挙げることができる。
【0081】
医薬用硬質カプセルにおいては、内容物の紫外線等による劣化を防止するため、遮光剤として特に、酸化チタン及びもしくは、カルシウム化合物を添加する場合がある。カルシウム含有化合物とは、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウムなどの無機カルシウム塩、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ドロマイトやハイドロキシアパタイト等のカルシウム錯体、その他のカルシウム元素を含む化合物が挙げられる。
【0082】
2.腸溶性硬質カプセル
本開示に係る第1の態様は、腸溶性硬質カプセルに関する。
【0083】
具体的には、粘度値が100mPa・s~100,000mPa・sの範囲である非イオン性水溶性セルロース化合物である第1成分と、腸溶性メタクリル酸コポリマーである第2成分を含み、さらに腸溶性セルロース化合物である第3成分及び水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーである第4成分、ポリビニルアルコール、可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一種である第5成分、の少なくとも一成分を含む皮膜からなる腸溶性硬質カプセルである。このうち、第2成分と第3成分は腸溶性機能を付与し、第1成分は、主として支持体なく自立したカプセル形状となる皮膜形成を助け、第4成分、第5成分は、主として、腸溶性機能を維持しつつ、自立したカプセル皮膜が硬質カプセルとしてふさわしい機械的強度を得るために用いられる。
【0084】
本開示において第1成分として用いられる非イオン性水溶性セルロース化合物の粘度値を100mPa・s~100,000mPa・sの範囲とする理由は以下の通りである。
【0085】
従来、pHに依存せず、遅延のない溶解性が重視される経口投与のヒプロメロース硬質カプセルでは、水溶性セルロースの表示粘度(粘度グレード)値として、3~15mPa・sのものが用いられている(特開平08-208458号公報、特開2001-506692号公報、特開2010-270039号公報、特開2011-500871号公報)。これらにおいては、皮膜中のほぼ100%(ゲル化剤、ゲル化助剤、遮光剤、着色料等、0~5質量%程度及び、0~10質量%程度の残留水分を含む場合がある)が水溶性セルロース、特にHPMCである。アセトアミノフェンを指標とした溶出試験では、その溶出速度は、pHにはほとんど依存せず、水溶性セルロースの分子量、したがって、粘度値で決まり、通常、pH1.2試験液、6.8試験液及び純水において、30分以内で内部のアセトアミノフェンが100%溶出する。他方、粘度値が100mPa・s以上では、溶出遅延を起こす傾向があり、速溶性カプセル皮膜材料としては、これまでほとんど用いられていなかった。
【0086】
本開示においては、従来に比べて、粘度値が100mPa・s以上の非常に高粘度、すなわち非常に高分子量の非イオン性水溶性セルロース化合物を腸溶性ポリマー少量添加することで、硬質カプセルに適した特性を実現できると考えられる。なお、理論に拘束されるものではないが、非イオン性水溶性セルロース化合物は、一般的に比較的脆い腸溶性ポリマーに対してフィラーとしての機能を発揮しているものと考えられる。さらに、非常に高分子量であるため、pH1.2の試験液(第1液)においては、水分の侵入による膨潤を適度に抑制し、主成分である腸溶性ポリマーの有する耐酸性機能を損ねることがない。
【0087】
他方、pH6.8試験液では、腸溶性ポリマーが速やかな溶解を促すので、粘度値が100mPa・s以上の水溶性セルロースが含まれていても溶解遅延がおきにくい。
【0088】
本開示において第2成分である腸溶性メタクリル酸コポリマーは、本開示に係る腸溶性硬質カプセルを実現するために必須の構成である。腸溶性基剤本来の性質として、腸溶性メタクリル酸コポリマーは、長期間の保存において腸溶性セルロース化合物に比べて非常に安定(非特許文献6、特にFigure3)で、さらに、水蒸気の透過率が低い、すなわち、皮膜の防湿性に優れるという利点がある(非特許文献6、特にTable2)。
【0089】
しかし、そのポリマー骨格ゆえに硬く脆い皮膜となりやすい傾向がある。この欠点を補うために、腸溶性セルロース化合物(第3成分)を混合しうる。第3成分は、十分な腸溶性を確保しつつ、硬質カプセル皮膜として好ましい機械的強度を達成することができる。同時に、薬学的に許容されうる腸溶性ポリマーの選択肢の中で、第2成分に加えて、第3成分を配合することにより、pH依存性をより柔軟に制御できる。すなわち、pHが4~5程度の中間pH領域の溶出特性を制御することができる。他方、本開示に係るさらなる態様として、腸溶性セルロース化合物の一部又は全部を、第4成分である水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーで置換することができる。第4成分は、耐酸性性能を劣化させることなく、機械的強度、特に割れやすさ、を改善することができる。また、第3成分と異なり、完全溶解もしくは微細粒子化した分散液を得るに当たり、中和をする必要がないので、皮膜中の残留塩の濃度を抑制できる。
【0090】
前記第1成分、第2成分、第3成分及び第4成分に加えて、第5成分として、PVA、可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一種を添加しうる。第5成分は、適度な硬度と割れやすさを付与する効果が得られる他、皮膜の透明性を維持することができるため好ましい。TriEthyl Citrate(TEC)、Polyethylene Glycol(PEG)、PropyleneGlycol(PG)等の一部の可塑剤及び界面活性剤は、腸溶性ポリマーの分散液において、粒子径を微細化し安定化させるためにも有用である。PVAは、皮膜の硬度を高くする効果がある。
【0091】
第1の態様に係る腸溶性硬質カプセルは、前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、第4成分及び第5成分の質量の合計を100質量%とし、第1成分の割合をα質量%、第2成分の割合をβ質量%、及び第3成分の割合をγ質量%、第4成分の割合をσ%、及び第5成分の割合をφとした場合に、腸溶性ポリマー(第2成分と第3成分)及び第4成分の合計の割合、(β+γ+σ)/(α+β+γ+σ+φ)は、0.5以上であることが好ましい。(β+γ+σ)/(α+β+γ+σ+φ)の値は、より好ましくは0.55以上、さらに好ましくは0.6以上である。同時に、(β+γ)/(β+γ+σ)は、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。これにより、腸溶性硬質カプセルとして十分な耐酸性を発揮することができる。
【0092】
他方、カプセル皮膜の適度な硬さと割れにくさを維持するために、(β+γ+σ)/(α+β+γ+σ+φ)の上限は、0.9以下、好ましくは0.8以下とする。
【0093】
第1成分である非イオン性水溶性セルロース化合物の割合としては、0.05≦α/(α+β+γ+σ+φ)≦0.5であることが好ましい。0.05未満では割れやすくなる傾向があり、0.5より多いと、pH=1.2における耐酸性、もしくは、pH=6.8(中性)における溶解性の劣化を招く傾向がある。より好ましくは、0.07≦α/(α+β+γ+σ+φ)≦0.4である。なお、粘度値が概ね1,000mPa・sを超える場合、αが30質量%を超えると、pH=6.8の緩衝液でも溶解が遅くなる傾向がある。腸内に移行して速やかな溶解を求める場合は、粘度値100~1000mPa・sの水溶性セルロース化合物を用いるのが好ましい。あるいは、粘度値1,000~10,000mPa・sの水溶性セルロース化合物を用いる場合は、その比率αを30質量%未満とするのが好ましく、20質量%未満とすることがより好ましい。他方、腸に移行して、徐放的(溶解に概ね60分以上を要する)を求める場合、粘度値10,000mPa・s以上の水溶性セルロースを用いることが好ましい。
【0094】
腸溶性ポリマーである第2成分及び第3成分の割合については、腸溶性メタクリル酸コポリマーが、β/(β+γ)は0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.4以上であることがさらに好ましい。上限は、1以下、すなわち、γ=0であってもよい。これは、腸溶性ポリマー自体の性質として、腸溶性セルロース化合物よりも、腸溶性メタクリル酸コポリマーの方が化学的に安定で、長期間の高湿度下の保存において、カルボキシル基の分解による遊離カルボン酸の生成がほとんどないからである。また、腸溶性メタクリル酸コポリマーは、水蒸気の透過率が低い、すなわち、皮膜の防湿性に優れるという利点もある。
【0095】
より好ましい態様として、第3成分の割合、γ、を少なくするに当たり、第3成分の腸溶性セルロース化合物の一部又は全部を、第4成分の水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーに置換するのが好ましく、より好ましくは、γ=0とすることができる。水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーは、耐酸性を劣化させることなく、皮膜の機械的強度、特に割れやすさを改善する効果がある。γ=0の場合、β/(α+β+γ+σ+φ)すなわち、β/(α+β+σ+φ)は、0.3以上が好ましく、0.4以上がさらに好ましい。他方、腸溶性メタクリル酸コポリマーは、カプセル皮膜を脆くしやすい材料であるため、β/(α+β+σ+φ)の上限は、0.7以下が好ましく、0.65以下がより好ましい。なお、(β+γ+σ)/(α+β+γ+σ+φ)すなわち、(β+σ)/(α+β+σ+φ)としては、前述のよう0.5以上、0.9以下であることが好ましい。さらに、適度な割れにくさを維持するためには、σ/(α+β+γ+σ+φ)すなわち、σ/(α+β+σ+φ)を0.2以上とするのが好ましい。
【0096】
第5成分の割合、φ/(α+β+γ+σ+φ)は、上記いずれの成分比率の場合であっても、0.15以下とすることが好ましく、0.1以下とすることがより好ましい。第5成分を過剰に含むと、特に高湿度下において柔らかすぎて硬質カプセルとして適さない皮膜が得られることがあり、また、第5成分の水溶性により耐酸性が不十分となる場合がある。
【0097】
なお、本開示において、粘度値100mPa・s以上の異なる粘度値もしくは置換度タイプの複数種類の非イオン性水溶性セルロース化合物の混合物を用いてもよく、粘度値100mPa・s以上である、これらの非イオン性水溶性セルロース全体の量を、第1成分とみなし、その割合をα質量%とすることができる。以下、第2、第3、第4成分についても同様であり、複数種類の腸溶性メタクリル酸コポリマーを用いた場合は、その全体量を第2成分とみなし、その割合をβ質量%とし、複数種類の腸溶性セルロース化合物を用いた場合は、その全体量を第3成分とみなし、その割合をγ質量%とし、複数種類の水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーを用いた場合は、その全体量を第4成分とみなし、その割合をσ質量%とする。第5成分についても、PVA、可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも2種を同時に用いる場合その全体量を第5成分とみなし、その割合をφ質量%とする。
【0098】
なお、前記第1成分、第2成分、第3成分、第4成分及び第5成分に加えて滑沢剤、金属封鎖剤、着色剤、遮光剤及び残留水分を含むことができる。前記皮膜に含まれる第1成分、第2成分、第3成分、第4成分及び第5成分の質量の合計をXとし、滑沢剤、金属封鎖剤、着色剤、遮光剤の質量合計をεとした場合、ε/Xは、0.2以下の範囲、より好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0.05以下の範囲とすることができる。
【0099】
本開示に係るカプセル皮膜中には、腸溶性メタクリル酸コポリマー及び/もしくは腸溶性セルロース化合物からなる腸溶性ポリマーの少なくとも部分的な中和による塩の存在、及び、それに伴う他の皮膜成分の中和物の存在を許容しうる。前記塩として、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種の塩を挙げることができる。好ましくは、当該塩として、ナトリウム(Na)塩、及びカリウム(K)塩よりなる群から選択される少なくとも一種の塩を挙げることができる。特に好ましいのは、Na塩である。
【0100】
具体的には、腸溶性セルロース化合物のカルボキシル基が、Naなどの金属イオンにより中和され、-COONaなどの基として固体皮膜中に安定に存在しうる。これら中和された酸(カルボン酸等)残基の割合は、例えば、腸溶性ポリマーに含まれる中和前のカルボキシル残基のモル数(基数)を100%としたときに、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。これを中和度と称する(中和度の詳細な定義は、後述する態様2で説明)。過剰な塩の存在は、皮膜が割れやすくなったり、塩析による皮膜の劣化、水の過剰な浸透による崩壊を起こしうるので好ましくない。他方、適度な塩の存在は、腸溶性ポリマーを含むカプセル皮膜の水による浸透、膨潤を助ける。カプセル皮膜の膨潤は、キャップとボディの隙間を密着せしめ、溶出をより完全に防ぐ効果がある。このためには、中和度は2%であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。
【0101】
言い換えると、前記皮膜に含まれる前記第2成分における塩を形成したカルボキシル基と塩を形成していないカルボキシル基のモル数の合計を100モル%とした場合、塩を形成したカルボキシル基の含有量は2モル%以上、好ましくは5モル%以上である。また、前記塩を形成したカルボキシル基の含有量は50モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。特に、γ=0の場合には、20モル%以下とすることができる。
【0102】
言い換えると、カプセル皮膜に含まれる塩がNa塩である場合、その水酸化物(NaOH質量)に換算して、皮膜重量に対して、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは、0.2質量%である。他方、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。特に、γ=0、の場合には、2質量%以下とすることができる。
【0103】
本開示に係るカプセル皮膜には、割れにくさを維持するため、2~10質量%の残留含有水分が含まれるのが好ましい。適量の含有水分は、カプセルの溶解性にほとんど影響を及ぼすことなく、可塑剤として機能する。含有水分量は、カプセル保存時の環境湿度にも依存するが、相対湿度20~60%程度の範囲では、ほぼ環境湿度に比例して可逆的に変化する。本開示においては、カプセル皮膜の含有水分値は、室温で一定の相対湿度43%に数日間保管(調湿)した後の飽和値を用いる。
【0104】
調湿後の含有水分量は、以下のようにして乾燥減量法によって測定できる 。
【0105】
<乾燥減量法によるカプセル皮膜中の含有水分量の測定方法>
デシケーターに、炭酸カリウム飽和塩を入れて恒湿状態とした雰囲気中に試料(硬質カプセル、又はフィルム)を入れ密閉し、25℃で1週間調湿する。なお、調湿には、以下の飽和塩(水溶液)を用いる。すなわち、酢酸カリウム飽和塩、炭酸カリウム飽和塩、硝酸アンモニウム飽和塩の存在下では、それぞれ、相対湿度約22%、43%、60%の雰囲気を作成することができる。調湿後の試料の質量(湿質量)を測定した後、次いで当該試料を105℃で2時間加熱乾燥し、再度試料の質量(乾燥質量)を測定する。乾燥前の質量(湿質量)と乾燥後の質量(乾燥質量)の差から、下式にしたがって、105℃で2時間加熱乾燥することによって減少する水分量の割合(含水率)を算出し、これを含有水分量(質量%)とする。
【0106】
【0107】
室温、43%相対湿度における含有水分量として、上記含水率が、少なくとも2%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、4%以上であることがさらに好ましい。2%未満では、割れやすくなる。他方、含有水分量が高すぎると、長期間保存した場合に、内部に充填した薬物と反応を起こす場合があるので、10%以下であることが好ましく、8%以下とするのがより好ましく、6%以下とすることがさらに好ましい。
【0108】
本開示に係る腸溶性硬質カプセルは、ヒト又は動物の対象への経口投与を意図した、市販されている従来の硬質カプセルと同一又は類似の形状及び機械的強度(硬さと割れにくさ)を有することが望ましい。参考とすべき市販の硬質カプセルとは、ゼラチンもしくは、HPMC(ヒプロメロース)カプセルである。したがって、そのカプセルの皮膜の厚みは、50μm以上、好ましくは60μm以上であり、さらに好ましくは70μm以上である。他方上限は、250μm以下であり、好ましくは200μm以下であり、さらに好ましくは150μm以下である。特に、70~150μmの範囲が、市販の充填機でそのまま使用することに適している。係る厚みにおいて、市販の硬質カプセル皮膜として同等の機械的強度を有することが必要である。機械的強度は、短冊状に調製した皮膜を用いて、高分子フィルムに通常適用される「引張強度試験」によって評価できる(非特許文献1、Chapter 4)。
【0109】
硬質カプセルの皮膜の機械強度を評価する場合、被験皮膜の厚みをそろえて比較することが重要である。このため、硬質カプセルの各成分組成に依存する皮膜の機械強度は、硬質カプセル調製液の各成分組成と同一成分組成である調製液を用いて、キャスト法によりフィルムを作製し、当該キャストフィルムを用いて評価することができる。
【0110】
キャストフィルムは、室温に保持したガラス面上又はPETフィルム上に金属性のアプリケーターを設置し、50℃~60℃の調製液を流しこみ一定速度で移動させ100μmの均一なフィルムを作製する。その後、室温~30℃で10時間程度の乾燥を行う。
【0111】
100μmの均一な膜厚のフィルムを得るため、ギャップが0.4mm~1.5mmのアプリケーターを適宜使い分けてもよい。
【0112】
作製したフィルムは、例えば、5mm×75mmのダンベル形状(JIS K-7161-2-1BAで規定)にカットした後、例えば、小型卓上試験機(島津製作所EZ-LX)を用いて引張試験を行うことができる。具体的には、フィルムの両端をホルダーにセット(ギャップ長60mm)し、引張速度、10mm/minで引張、フィルムの伸びとフィルム内に生じる応力(引張応力)-伸び率(ひずみ)曲線を示す。
図5に、代表的な伸び-引張応力試験結果を示す。図中における低応力時の弾性変形領域の傾きから、硬さの指標である弾性率をもとめ、破断点における伸び率を破断伸び率(%)を求めることができる(非特許文献1、Chapter4)。
【0113】
前記機械的強度が、通常の使用条件(温度5~30℃程度、相対湿度20~60%程度)の環境下で維持されることが望ましい。例えば、作製したフィルムを、25℃、相対湿度22%(酢酸カリウム飽和塩を使用)の条件の調湿下で1週間以上調湿した後、引張試験を実施し機械的強度を評価することができる。引張試験は、25℃、相対湿度22%の温湿度環境下で行うことが好ましい。あるいは、作製したフィルムを、25℃、相対湿度60%(硝酸アンモニウム飽和塩を使用)の条件の調湿下で1週間以上調湿した後、引張試験を実施し機械的強度を評価する。引張試験は、調湿条件と同じ温湿度環境下で行うことが好ましい。
【0114】
硬さの指標である弾性率(ヤング率)は、1~5GPaであることが好ましく、2~4GPaであることがより望ましい。引張試験で評価される割れにくさの指標である破断伸び率は、2~30%程度であることが好ましく、3~30%程度であることがより好ましい。通常、本開示に係る腸溶性硬質カプセル皮膜の硬さと割れにくさは、この範囲でトレードオフの関係にあることが多い。コーティング皮膜や軟カプセル皮膜では、より柔らかく、破断伸び率が大きい場合が多い。例えば、破断伸び率が30%を超えるような皮膜は、通常は柔らかすぎて、自立した硬質カプセル皮膜としては適さないことが多い。他方、破断伸び率が2%を下回ると、通常のハンドリングにおいても顕著に割れやすくなる。
【0115】
前述のように、カプセル皮膜中に数%程度存在する水分は、通常可塑剤として機械的強度、特に割れ性、に影響しうる。相対湿度が低い使用・保存条件下では、含有水分量が減少し、例えば2~3%程度になると割れやすくなる、すなわち破断伸び率が低下する傾向がある。他方、高湿度側では、含有水分量が増加し、弾性率が低下する傾向がある。結局、低湿度側で破断伸び率が問題となり、高湿度側で弾性率が問題となるが、本開示では、特に、比較的低湿度の22%相対湿度、温度25℃の環境下で調湿及び引張試験を行い、破断伸び率が2~30%である皮膜を得ることができる。また、比較的高湿度の60%相対湿度、温度25℃の環境下で調湿及び引張試験を行い、その弾性率が1~5GPaである皮膜を得ることができる。結果、本開示に係る腸溶性硬質カプセルの硬度は、室内条件における、ほとんどの相対湿度、温度範囲で、1~5Gpa範囲の弾性率、及び、3~30%の破断伸び率が得られる。より好ましくは、弾性率は2~5GPa、破断伸び率は3~10%の範囲とすることである。
【0116】
第1の態様に係る腸溶性硬質カプセル皮膜は、非イオン性水溶性セルロース化合物を主成分とする相が、実質的にその他の成分からなる相に分散した構造を呈する。当該構造を、非イオン性水溶性セルロース化合物を主成分とする相を「島」相、実質的にその他の成分からなる相を「海」相と見做し、海島構造と称する。島相は実質的に第1成分からなる。ここで、「実質的に」とは、島相には、他の成分、特に、第3成分である腸溶性セルロースポリマーが含まれうることを意味し、一方、海相には、一部溶解した第1成分が含まれうることを意味する。また、海相には、第2成分であるメタクリル酸コポリマー、可塑剤、界面活性剤(乳化剤)、滑沢剤、結合剤、遮光剤、顔料、色素、滑沢剤等も含まれる。「海島構造」は、後述の実施例において示されているように、硬質カプセル皮膜の横断面を走査型電子顕微鏡で観察することで確認することができる。このような「海島構造」は、溶液状態での一種の分散平衡状態を経る必要があるため、皮膜成分ポリマーの熱可塑性を利用した射出成形や押し出し成型によっては形成困難と推定される。また、第1成分が後述のカプセル調製液の調製工程において、室温付近の低温にさらされ、完全に溶解された場合も、島相を形成しないものと推定される。
【0117】
各島相の大きさは、硬質カプセルの調製に用いた非イオン性水溶性セルロース化合物の固体粒子の大きさに依存する。硬質カプセル皮膜中の島相は短径が0.1μm以上、かつ30μm未満であることが好ましい。より好ましくは、島相は短径が0.2μm以上、かつ20μm未満である。
【0118】
3.腸溶性硬質カプセル調製液及びその調製方法
本開示に係る第2の態様は、上記2.に記載の腸溶性硬質カプセルを調製するための調製液に関する。本開示に係る硬質腸溶性カプセルは、本態様調製液を乾燥して溶媒を除去して得られる皮膜からなる。
【0119】
具体的には、粘度値が、好ましくは20℃における2%水溶液の「粘度値」が100mPa・s~100,000mPa・sの範囲である非イオン性水溶性セルロース化合物である第i成分と、腸溶性メタクリル酸コポリマーである第ii成分と、及び塩基性中和剤と、溶媒とを含み、さらに、腸溶性セルロースである第iii成分及び水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーである第iv成分、ポリビニルアルコール共重合体、可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一種である第v成分、の少なくとも一成分を含む腸溶性硬質カプセル調製液である。
【0120】
ここで、調製液に用いる溶媒は、水を主成分とし、特に、精製水であることが好ましい。但し、非イオン性水溶性セルロース化合物、腸溶性セルロース化合物、及び/又は腸溶性メタクリル酸コポリマーの固体粉末から分散液を得る溶解過程において、水と;エタノール及び無水エタノールから選択される少なくとも一種と;の混合溶媒を用いることができる。本開示における調製液の調製中、あるいは、浸漬工程においては、このエタノールはほとんどが蒸発するため、浸漬中の調製液としては、実際上、水分の含有量が80質量%であり、さらに好ましくは90質量%以上である。不可避的に含まれる不純物を除き、実質的に100%の精製水を用いることができる。
【0121】
本態様において、第ii成分である腸溶性メタクリル酸コポリマーと、第iii成分である腸溶性セルロース化合物をそれぞれ単独で、又は共に腸溶性ポリマーとして用いる。これらの腸溶性ポリマーは、その溶解性が溶媒のpHに依存するゆえに、中性の水に対しては実質的に不溶であり、塩基性中和剤の存在下で溶解させるか、少なくとも、部分的に溶解させて、概ね10μm、好ましくは概ね1μm径以下の微小な粒子の分散液として用いることが望ましい。これより粒径が大きいと、カプセル皮膜の表面の凹凸やカプセル皮膜の強度に好ましくない影響を与える場合がある。
【0122】
以下では少なくとも一部が中和溶解された場合も含め「中和液」もしくは「部分中和液」と称する。この「中和液」には、未溶解の微小粒子が分散状態で含まれている懸濁液であっても良い。当該塩基性中和剤としては、薬学的又は食品添加物として許容される化合物である限り、制限されない。当該塩基性中和剤として、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。好ましくは、ナトリウム塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種である。より好ましくは、当該塩基性中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア及び炭酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。さらに好ましくは、塩基性中和剤は、水酸化ナトリウムであり、場合によっては、アンモニア及び炭酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0123】
塩基性中和剤が、アンモニアである場合は、皮膜形成後、アンモニアを揮発させて、皮膜中の塩をできるだけ除去することが望ましい。アンモニアを塩基性中和剤として用いる場合、HPMCASを腸溶性セルロース化合物として用いる方が、アンモニアを揮発させやすいので好ましい。
【0124】
なお、本開示では、腸溶性セルロース化合物に代えて、あらかじめ塩基性中和剤により中和された腸溶性セルロース化合物中和物を固形粉末化したものを溶媒に溶解又は分散して用いることもできる。しかし、中和されていない腸溶性セルロース化合物を溶媒に分散させた後に、少なくともその一部を中和することができる量の塩基性中和剤を添加して、腸溶性セルロース化合物を溶媒に溶解又は分散させた溶解液又は部分溶解液を用いることが好ましい。
【0125】
腸溶性ポリマー(第ii成分もしくは第iii成分)の中和溶解に必要な塩基性中和剤の量は、以下のように定義できる。
【0126】
腸溶性ポリマーを完全に中和するためには、腸溶性ポリマーに含まれるカルボキシル基の1モルに対して、塩基性中和剤に由来する陽イオンが等価以上となるように添加することで達成される。なお、塩基性中和剤に由来する陽イオンが2価以上の場合には、1/価数で置き換える。塩基性中和剤に由来する陽イオンが腸溶性ポリマーに含まれるカルボキシル基とほぼ等価量となるように溶媒に溶解した場合を完全中和という。等価である陽イオンのモル数、すなわち「当量(等モル量)」は、例えば、腸溶性メタクリル酸コポリマーに含まれる中和前のカルボキシル残基のモル数(基数)を100%中和によって封鎖しうる量の陽イオンのモル数である。
【0127】
具体的には、目的とする腸溶性ポリマー1gを中和するために必要なKOH(分子量56.10)の質量、(KOH)mg/gとして規定(KOH当量)することができる。また、中和度は、完全中和に必要な塩基性中和剤の当量に対する、実際に添加された塩基性中和剤の質量の割合で定義される。塩基性中和剤が水酸化ナトリウムNaOH(分子量40.00)、及び水酸化カルシウムCa(OH)2(分子量74.09)、アンモニアNH3(分子量17.03)、炭酸アンモニウム(NH4)2CO3(分子量96.09)である場合の当量は、下式
【0128】
【0129】
通常、完全中和に必要な塩基性中和剤の当量は、メーカーによって、カルボキシル基の置換度の許容範囲として、±10~20%程度の幅を持って表示されうる。より正確な中和当量は、一般的な滴定法によって決定できる。
【0130】
例えば、第ii成分がEvonik社製Eudragit, L30D55、L100-55及びL100である場合、そのKOH当量は、301.2mg/gとされ、塩基性中和剤が水酸化ナトリウムである場合は、214.8mg/gとなる。また、アンモニアである場合には、91.4mg/gとなる。第ii成分がEvonik社製Eudragit, FS30Dである場合、そのKOH当量は、56.7mg/g、塩基性中和剤が水酸化ナトリウムである場合は、40.4mg/g、アンモニアである場合には、17.2mg/gとなる。
【0131】
例えば、第iii成分が信越化学製HP50、及びHP55である場合、そのKOH当量は、それぞれ79.0~101.6mg/g及び101.6~131.7mg/gとされる。なお、塩基性中和剤が水酸化ナトリウムである場合には、それぞれ、56.3~72.4mg/g、72.4~93.9mg/gとなる。また、アンモニアである場合には、それぞれ、24.0~30.8mg/g、30.8~40.0mg/gとなる。
【0132】
第iii成分が信越化学社製HPMCAS、AQUAT AS-H、AS-M、もしくはAS-Lである場合、そのKOH当量は、それぞれ22.2~44.4、55.5~77.7、77.7~99.9mg/gとされる。なお、塩基性中和剤が水酸化ナトリウムである場合は、それぞれ15.8~31.7mg/g、39.6~55.4mg/g、55.4~71.2mg/gとなる。また、アンモニアである場合には、それぞれ、6.7~13.5mg/g、16.8~23.6mg/g、23.6~30.3となる。
【0133】
中和度とは、中和当量に相当する塩基性中和剤の量に対して、実際に添加した塩基性中和剤の質量比で定義される。中和度は、同時に、カルボン酸残基のモル数のうち注して封鎖された残基のモル数と等しい:
【数3】
。
【0134】
例えば、腸溶性メタクリル酸コポリマーL30D55、Γ(g)に対して、Ε(g)のNaOHを用いた場合、その中和度は、Ε/(0.2418×Γ)×100(%)、となる。あるいは、に対して、Ε(g)のNaOHを用いた場合、その中和度は、Ε/(0.065×Γ)×100(%)、となる。なお、HP50のNaOHに対する中和当量56.3~72.4の中央値65mg/gを適用している。
【0135】
さらに、本開示において、腸溶性メタクリル酸コポリマーL30D55、Γ1(g)と腸溶性セルロース化合物HP50、Γ2(g)混合して用い、Ε(g)のNaOHを用いて中和した場合、腸溶性ポリマー全体に対する中和度は、E/(0.2418×Γ1+0.065×Γ2)×100(%)、と計算できる。あるいは、腸溶性セルロース化合物HP50、Γ2(g)をΕ(g)のNaOHを用いて中和した溶液に、腸溶性メタクリル酸コポリマーL30D55、Γ1(g)のコロイド分散液を加えた場合も、腸溶性ポリマー全体に対する中和度は同様に定義される。
【0136】
第iii成分である腸溶性セルロース化合物は、本来、原料のパルプに含まれる大きなセルロース塊(個体粒子)を、加水分解や酵素による化学的分解により分子量を制御し、また、メカニカルミリングなどの機械的手法により粉砕して10~100μmオーダーの個体粒子を得ている。これをさらに微細化して、概ね10μm以下の微粒子の分散液とするために、あるいは、完全に溶解するために、腸溶性セルロース化合物の中和度としては完全溶解とするか、部分溶解であっても、分散液に含まれる微粒子のサイズを概ね10μm以下とするため、50%以上であることが好ましい。上限は100%であり、100%を超えて過剰に中和することは、乾燥後の皮膜に残留する塩の塩析などが生じるため好ましくない。
【0137】
他方、第ii成分である腸溶性メタクリル酸ポリマーの場合、乳化重合プロセスによって、モノマーレベルから水溶液中で共重合過程を経て、その径が0.01μm程度より大きく1μ未満の非常に小さなコロイド状粒子が生成された酸性の分散液(水性エマルジョン)が直接得られる。この場合は、固塩基性中和剤による中和による溶解工程を経由しなくても、平均粒径1μm未満の非常に微細なコロイド粒子の分散液として提供される。具体的には、前述のEvonik社のL30D55等、が挙げられる。L30D55のコロイド分散液のpHは約2.5である。
【0138】
なお、溶液中で乳化重合で合成されたのち乾燥して、固形微粒子化された腸溶性メタクリル酸コポリマー粉末(具体的には、Evonik社、L10055等がある)は、水に再分散させ、塩基性中和剤で部分的に中和して微粒子化した水分散液を得ることもできる。その場合は、中和度が2~20%程度でも十分微粒子化された水分散液が得られる。
【0139】
本開示においては、本来、それぞれ単独では冷ゲル化能を有しない、第i成分である非イオン性水溶性セルロース化合物、第ii成分である腸溶性メタクリル酸コポリマー、及び第iii成分である腸溶性セルロース化合物を含む腸溶性硬質カプセル調製液について、塩基性中和剤の存在下で、前記3成分の混合することにより、腸溶性硬質カプセル調製液に冷ゲル化能を付与することができることを見出した。特に、適量の塩基性中和剤の存在下での第i成分である高粘度の非イオン性水溶性セルロース化合物と第ii成分である腸溶性メタクリル酸コポリマーの相互作用が重要であることを見出だした。本開示に係る腸溶性硬質カプセル調製液として好ましくは、
図1に示すように、第i成分である非イオン性水溶性セルロース化合物の曇点T0(曇点又は溶解開始温度)よりも低い温度から降温させたとき、好ましくは第2の温度T2又は第3の温度T3よりも低い、第4の温度T4(急激な粘度上昇開始温度)で、貯蔵及び損失弾性率が急激に増加し、室温近傍で、ゲル状態、すなわち、貯蔵弾性率G’>損失弾性率G’’となる腸溶性硬質カプセル調製液である。
【0140】
本開示に係るカプセル調製液の冷却過程におけるT4近傍の急激な粘度上昇は、第ii成分の腸溶性メタクリル酸コポリマー分散液や第iii成分の腸溶性セルロース化合物の中和液では通常起こらない。したがって、T4近傍の急激な粘度上昇は、主として、第i成分である部分溶解した非イオン性水溶性セルロース化合物の構造粘性により引き起こされていると推定される。特に、本開示で用いる高粘度(すなわち高分子量)の非イオン性水溶性セルロース化合物の作用により、冷却過程において概ね30~50℃の温度域T4で粘度が急激に、かつ一桁以上増大する傾向が顕著になる。このような降温時の急激な粘度上昇を利用するためには、前記調製液に含まれる第i成分の割合が、0.05≦α’/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)≦0.5である、ことが好ましい。0.05未満では粘度上昇が緩やかになる傾向があり、0.5より多いと、粘度が高すぎて後述の浸漬法による成型が困難となる傾向がある。より好ましくは、0.07≦α’/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)≦0.4である。
【0141】
少なくとも室温近傍で、ゲル状態、すなわち、貯蔵弾性率G’>損失弾性率G’’となる冷ゲル化特性を有するためには、比較的高濃度の第ii成分と第i成分の相互作用が重要であり、β’/(β’+γ’)は、0より大きく、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.4以上がさらに好ましい。上限は、1以下、例えば、γ’=0であってもよい。さらに、第i成分と第ii成分の固形分の溶媒に対する濃度が、10質量%以上であることが好ましい。
【0142】
このような冷ゲル化特性は、スプレーコーティング等のコーティングでは、ゲル化物により、スプレー用のノズル等に閉塞を生じるので好ましくないものとされるので、高濃度かつ高粘度値の非イオン性水溶性セルロース化合物と腸溶性メタクリル酸コポリマーを選択的に組み合わせることは、通常は行われない(非特許文献5)。
【0143】
さらに、本開示においては、第iii成分の割合、γ’を少なくするに当たり、第iii成分の一部もしくは、全部を第iv成分である水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーで置換することは、耐酸性を劣化させることなく、必要な腸溶性ポリマーの量、ひいては、塩基性中和剤の総量をさらに減らすことができ好ましい。水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー分散液は乳化重合プロセスによって、コロイドの水分散液を直接製造できる。したがって、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー分散液を用いることが、水への可溶化のための有機溶剤を用いなくて済み好ましい。
【0144】
腸溶性ポリマーとして、腸溶性セルロース化合物と腸溶性メタクリル酸コポリマーを含み、腸溶性ポリマー分散溶液は、例えば、腸溶性セルロース化合物の溶解に際して、完全中和かそれに近い量の塩基性中和剤を用いたとしても、腸溶性メタクリル酸コポリマーとして、中和が不要な乳化重合によるコロイド分散液を用いれば、これら腸溶性ポリマーの総量に対して、塩基性中和剤の使用量を極めて少なくすることができ、全体として、ごく一部の腸溶性ポリマーが中和溶解(部分中和)された微細粒子の分散液とできる。このことは、アンモニアなどの揮発性塩基性中和剤を使用することなく、乾燥後のカプセル皮膜中の残存塩の量を低減できる利点ともなる。特に、β’/(β’+γ’)が0.2以上である場合、腸溶性セルロース化合物と腸溶性メタクリル酸コポリマーを含む腸溶性ポリマー分全体としては、中和度は、50%以下とでき好ましい。β’/(β’+γ’)が0.4以上である場合、腸溶性ポリマー分全体としては、中和度は、30%以下とできてより好ましい。
【0145】
さらに、γ’=0、すなわち、腸溶性ポリマーが腸溶性メタクリル酸コポリマーだけである場合、中和度は、20%以下とできさらに好ましい。但し、その場合も、後述のカプセル調製液の調製方法における制約から、中和度の下限は2%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。なお、溶媒中に塩基性中和剤が全く存在しない状態化で、第i成分と第ii成分を直接混合すると、直ちに、ゲル化して凝縮を起こすので、後述のような調製方法に関する留意が必要である。
【0146】
さらに、前記第i成分、第ii成分、第iii成分及び第iv成分に加えて、第v成分として、PVA、可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一種を加えることは、カプセル調製液の粘度を調製するために用いることができる。あるいは、カプセル調製液のコロイドもしくは固体微粒子の分散状態を安定させるために用いることができる。
【0147】
腸溶性硬質カプセル調製液に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の質量の合計を100質量%とした場合の第i成分の割合をα’質量%とし、第ii成分の割合をβ’質量%、第iii成分の割合をγ’質量%、第iv成分の割合をσ’質量%、及び第v成分の割合をφ’質量%とした場合(以下同じ)に、その割合は、ほぼそのまま、当該調製液を乾燥して得られる硬質カプセル皮膜中の各成分の割合と等しくなる。したがって、カプセル皮膜として好ましい成分比率が適用されうる。ここで、各成分の質量は、固形分の質量である。
【0148】
すなわち、腸溶性ポリマー(第ii成分と第iii成分)及び第iv成分の合計の割合、(β’+γ’+σ’)/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)が、0.5以上であることが好ましい。(β’+γ’+σ’)/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)の値は、より好ましくは0.55以上、さらに好ましくは0.6以上である。同時に、(β’+γ’)/(β’+γ’+σ’)は、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。これにより、腸溶性硬質カプセルとして十分な耐酸性を発揮することができる。他方、カプセル皮膜の適度な硬さと割れにくさを維持するために、(β’+γ’+σ’)/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)の上限値は、0.9、好ましくは0.8とする。
【0149】
より好ましい態様として、皮膜成分と同様に、第iii成分の腸溶性セルロース化合物をすべて、第iv成分の水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーとする組成がある。すなわち、γ’が0%である時、β’/(α’+β’+σ’+φ’)が0.3以上、より好ましくは0.4以上とする組成である。上限値は、0.7以下が好ましく、0.65以下がより好ましい。
【0150】
γ’が0%である場合、(β’+γ’+σ’)/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)、すなわち、(β’+σ’)/(α’+β’+σ’+φ’)については、前述のように、0.5以上、0.9以下とすることが好ましい。さらに、σ’/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)、すなわち、σ’/(α’+β’+σ’+φ’)を0.2以上とするのが好ましい。
【0151】
第v成分の割合、φ’/(α’+β’+γ’+σ’+φ’)は、上記いずれの場合であっても、0.15以下とすることが好ましく、0.1以下とすることがより好ましい。
【0152】
前記第i成分、第ii成分、第iii成分、第iv成分、及び第v成分に加えて滑沢剤、金属封鎖剤、着色剤、及び遮光剤等を含むことができる。前記皮膜に含まれる第i成分、第ii成分、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の質量の合計をX’、可塑剤、滑沢剤、金属封鎖剤、着色剤、及び遮光剤等の質量合計をε’とした場合、ε’/X’は、0.2以下の範囲、より好ましくは0.1以下の範囲とすることができる。
【0153】
また、腸陽性硬質カプセル調製液に含まれる前記第i成分、第ii成分、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の固形分含有量は、硬質カプセル調製液を調製できる限り制限されない。好ましくは、腸溶性硬質カプセル調製液を100質量%としたときに、前記第i成分、第ii成分、第iii成分、第iv成分、及び第v成分の固形分合計量が10~30質量%である。より好ましくは、13~25質量%である。滑沢剤、金属封鎖剤、着色剤、遮光剤等を含む場合には、これらの合計が腸溶性硬質カプセル調製液を100質量%としたときに、6質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0154】
通常、これら、第i~v成分以外に溶解もしくは分散された固形分は、カプセル皮膜中にほぼそのままの成分比を保って存在する。この他に、皮膜中には、溶媒中の水分が一部残存しうるのは、前述の通りである。
【0155】
本開示に係る第3の態様は、第2の態様の腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法に関する。
【0156】
具体的には、第3の態様は、溶媒中に塩基性中和剤が存在する条件下で、第i成分と第ii成分が混合される腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法であって、第i成分は、粘度値が100mPa・s~100,000mPa・sの範囲である非イオン性水溶性セルロース化合物であり、第ii成分は、腸溶性メタクリル酸コポリマーである、調製方法、である。腸溶性メタクリル酸コポリマーに関しては、コロイド分散液を用いるのが好ましい。
【0157】
前述のように、降温過程において急激な粘度上昇と室温付近での冷ゲル化を生じさせるためには、第i成分である、粘度値が100mPa・s~100,000mPa・sの範囲である非イオン性水溶性セルロース化合物と、第ii成分である、腸溶性メタクリル酸コポリマー、を、合わせて用いることが重要であるが、両者を直接混合した場合、直ちに凝集を生じ、安定な分散液が得られない場合があるので、溶媒中に塩基性中和剤が存在する条件下で混合する必要がある。そのためには、腸溶性ポリマーが、第ii成分のみである場合には、第ii成分に対する中和度は2%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。上限は、20%以下、より好ましくは、15%以下である。20%を大きく超えると、冷ゲル化性能が損なわれる傾向がある。
【0158】
第ii成分と第iii成分の両方が含まれる場合には、第ii成分と第iii成分の個々の中和度を区別することは困難であるが、例えば、第ii成分と第iii成分からなる腸溶性ポリマーの全体に対する中和度は、10%以上となるのが好ましく、20%以上となるのがより好ましい。上限は、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0159】
第3の態様は、腸溶性ポリマーとして、第iii成分の腸溶性セルロース化合物を含む態様(第3-1の態様)と、含まない態様(第3-2の態様)とに分けられる。
【0160】
第3-1の態様は、
工程A:第iii成分の中和液を準備する工程、工程B:第iii成分を含む中和液に第i成分を加え、第i成分の部分溶解液を準備する工程、及び工程C:第ii成分の分散液を、工程Aもしくは工程Bで準備された溶液と混合する工程、を含む、
第i成分、第ii成分、及び第iii成分を含む皮膜成分及び溶媒を含む腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法に関する。
【0161】
各工程は、溶媒に対して各成分を添加しても良く、前工程で調製されたすでに他の成分を含む溶液に対して、当該成分を添加もしくは混合してもよい。各工程間の移行温度、もしくは、各工程で調製された溶液の混合に際しての温度調節は、以下の要件にしたがって適宜設定することができる。
【0162】
工程Aにおいて、第iii成分の中和液は、第iii成分の中和物を溶解したものを用いてもよいが、非中和の第iii成分を溶媒に分散してから塩基性中和剤を添加して調製してもよい。好ましくは、工程Aは、非中和の第iii成分を溶媒に分散してから上述の薬学的に又は食品添加物として許容される塩基性中和剤を添加し、少なくとも部分的に中和して溶媒に溶解させる中和液を調製する工程である。
【0163】
具体的には溶媒を除く全成分の合計量の5倍量程度の精製水等の溶媒に、非中和の第iii成分を投入し、だまができないように均一に分散させる。その後、塩基性中和剤を投入し、第iii成分を溶解させる。第iii成分を完全に中和するためには、前述のように、第iii成分に含まれるカルボキシル基の1モルに対して、塩基性中和剤に由来する陽イオンが等価以上となるように添加することで達成される。
【0164】
一般に市販されている、腸溶性セルロース化合物は、大きな固まりのパルプを出発点として、加水分解や酵素による化学的分解により分子量を制御し、また、メカニカルミリングなどの機械的手法により粉砕して10~100μmオーダーの固体粒子となっている。これを微細化して、概ね1μmより小さい粒径にする、又は溶解するためには、第iii成分のみを中和する際の中和度は、等価量の50%以上とするのが好ましい。中和度が、完全中和でない状態を、部分中和という。すなわち、工程Aにおける中和液は、中和度50%以上であることが好ましく、もしくは完全中和液であってもよい。なお、当量を超過した過剰の塩基性中和剤が含まれる場合、塩析などの問題を生じるので好ましくなく、に含まれるカルボキシル基1モルに対して、等価量未満の陽イオンとなるようにすることが好ましい。
【0165】
完全中和された腸溶性セルロース溶液のpHは、腸溶性セルロース化合物の解離点付近のpHとすることが好ましい。具体的には、pH4.5~7.0が好ましく、さらに好ましくは腸溶性セルロース化合物の解離点付近のpH5.0~6.5であることが好ましい。pHが4.5未満であると腸溶性セルロース化合物が溶解しない場合があり、pHが7.0を超えると過剰な陽イオンが後から添加されるメタクリル酸コポリマーまで中和してしまう場合がある。なお、腸溶性のセルロース化合物の解離点は、例えば、HPMCPの場合、中和滴定においてカルボキシベンゾイル基のカルボキシル基が電離してHPMCPが溶解し、溶液が中和されたpHである。また、HPMCASの場合、中和滴定において、サクシノイル基とアセチル基のカルボキシル基が電離して、HPMCASが溶解し、溶液が中和されたpHをいう。HPMCPやHMCASの解離点付近のpHとは、pH5~7である。
【0166】
工程Bは、具体的には、第iii成分を含む中和液、又は第iii成分の中和液とii成分の分散液の混合液に、第i成分を部分溶解させた部分溶解液を調製する工程であり、前記部分溶解液を調製する工程が、第i成分を、第i成分の曇点T0以上の第1の温度T1で、第iii成分を含む中和液、又は第iii成分の中和液と第ii成分の分散液の混合液に添加し、前記曇点よりも低い第2の温度T2で第i成分を部分溶解させた分散液を調製する工程である。
【0167】
本態様3-1において、第1の温度T1は、曇点T0以上であり、溶媒の沸点よりも低い温度である限り制限されない。例えば、60℃~90℃の範囲内とすることができる。好ましくは、非イオン性水溶性セルロース化合物が、HPMC又はMCである場合である場合には、温度T1を70℃~90℃範囲内とすることができる。非イオン性水溶性セルロース化合物が、HPCである場合には、温度T1は、60℃~80℃の範囲内であることが好ましい。曇点以上で分散させるのは、均一に分散される前に、だまの形成を防止するためである。
【0168】
本態様3-1において、第2の温度T2は、室温(20℃~25℃)よりも高く、曇点T0よりも低い温度であることが好ましい。例えば、30℃~60℃の範囲内とすることが好ましい。非イオン性水溶性セルロース化合物が、HPMC又はMCである場合である場合には、温度T2を30℃~60℃範囲内とすることができる。非イオン性水溶性セルロース化合物が、HPCである場合には、温度T2は、30℃~40℃の範囲内であることが好ましい。
【0169】
本態様3-1において、非イオン性水溶性セルロース化合物がT0以上の温度で未溶解で分散している分散液の粘度は、非常に低く、概ね100mPa・s未満である。非イオン性水溶性セルロース化合物の溶解が始まると徐々に粘度が増加し、100mPa・sより高粘度になるので、降温過程においてT0を通過したことが知れる。概ねT0から10℃以内の範囲では、未溶解の水溶性セルロースの固体粒子が安定的に存在する分散液が得られる。さらに、降温すると、1~2桁にわたる急激な粘度増加が継続して1000mPa・s以上となり、さらに、室温近傍に近づくと、高い粘度を概ね維持しつつ、水溶性セルロース化合物の固体粒子がほぼすべて溶解する。非イオン性水溶性セルロース化合物がほぼ完全に溶媒に溶解してしまい、カプセル被膜の海島構造が保てなくなる。また、カプセル調製液として粘度が高くなりすぎるので、温度T2はT0以下であって、T4を下回らないことが好ましい。具体的には、30℃を下回らないようにすることが好ましく、35℃以上とすることがより好ましい。また、T2は、60℃以下であることが好ましく、55℃以下であることがより好ましい。
【0170】
以上により、第i成分である非イオン性水溶性セルロース化合物を曇点T0以上の温度T1で第iii成分の中和液に懸濁し、第2の温度T2まで降温することにより、第i成分が部分溶解した分散液を調製することができる。
【0171】
本開示に係る調製液及び本開示に係る調製液の調製工程Cにおいては、第ii成分であるメタクリル酸コポリマーは、水分散液として、腸溶性セルロース化合物を含む中和溶液と混合されるので、腸溶性セルロース化合物及びメタクリル酸コポリマーを合わせた腸溶性ポリマー全体としては、部分中和状態とすることができる。したがって、第i成分と第ii成分の混合時には、すでに塩基性中和剤が溶媒中に存在していることが好ましい。メタクリル酸コポリマー、特にL30D55のKOH当量は、それぞれ301.2mg/gと非常に大きいため、工程Aにおいて腸溶性セルロース化合物が完全中和されていても、メタクリル酸コポリマーが適度に含まれていれば、腸溶性セルロース化合物とメタクリル酸コポリマーを合わせた腸溶性基剤全体に対する中和度は、50%以下とすることでき、さらに30%以下とすることができる。このことは、溶出試験において、pH4~5の中間領域でのカプセル皮膜の溶解を抑制するのに有効である。
【0172】
本態様3-1は、工程A、B、もしくはCで準備された溶液と第iv成分である水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーを混合する工程Dを含みうる。さらに、工程B、C又はDで得られた溶液を第i成分の曇点よりも低い第3の温度T3に保持する工程Eをさらに含んでいてもよい。また、第3の温度T3は、T2以上であり、曇点T0よりも低いが、10℃以上は低くない温度であることが好ましい。T2=T3の場合もありうる。これにより、第i成分の部分溶解状態を安定的に保つことができる。例えば、30℃~65℃の範囲内とすることができる。非イオン性水溶性セルロース化合物が、HPMC、中でも、置換度タイプが2910及び2906である場合である場合には、温度T3を40℃~65℃の範囲内とすることができる。好ましくは、温度T3を45℃~60℃範囲内とすることができ、さらに好ましくは、50~60℃の範囲内とすることができる。これにより、冷ゲル化による粘度急上昇が始まる温度T4との間に、概ね10℃以上の温度差が確保でき、調製液を安定的に保つうえで好ましい。非イオン性水溶性セルロース化合物が、MCもしくはHPCである場合には、温度T3は、30℃~50℃の範囲とするのが好ましい。
【0173】
本開示における第3-1の態様には、さらに第3-1aの態様、及び第3-1bの態様の2つの態様が含まれる。
【0174】
(1)第3-1aの態様は、工程a1:第iii成分の中和液を準備する工程、工程b1:第iii成分の中和液に、第i成分を部分溶解させる工程、及び工程c1:第ii成分の分散液を、工程b1で得られた溶液と混合する工程、を含む、第i成分、第ii成分、及び第iii成分を含む皮膜成分及び溶媒を含む腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法に関する。
上記第3-1の態様における第iii成分の中和液、曇点T0、温度T1、温度T2及び温度T3の説明は、ここに援用される。
工程a1は、第iii成分の中和液を準備する工程であり、工程a1は、上記第3の態様における工程Aに準ずる。
【0175】
工程b1では、第i成分をその曇点T0以上の第1の温度T1で、工程a1で調製された液に分散させたのち降温し、曇点よりも低い第2の温度T2で部分溶解させた分散液を調製する。つまり、第i成分を曇点T0以上の温度で工程a1で調製された液に分散し、第2の温度T2まで降温することにより、第i成分が部分溶解した分散液を調製することができる。
【0176】
工程c1では、工程b1で得られた第iii成分を含む第i成分の部分溶解液と第ii成分の分散液を混合する。混合方法は、第iii成分の中和液と第ii成分の分散液を混合できる限り、制限されない。
また、本態様は、工程c1の後に、工程c1で得られた溶液に、水不溶性(メタ)アルキルエステルコポリマーを工程d1、さらには、工程b1、c1、又はd1の後で溶液を第i成分の曇点よりも低い第3の温度T3に保持する工程e1をさらに含んでいてもよい。
【0177】
(2)第3-1bの態様は、工程a2:第iii成分の中和液を準備する工程、工程c2:第iii成分の中和液に第ii成分の分散液を混合する工程、及び工程b2:工程c2で得られた溶液に第i成分を部分溶解させる工程、を含む、第i成分、第ii成分、及び第iii成分を含む皮膜成分及び溶媒を含む腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法に関する。
【0178】
上記第3-1の態様における第ii成分の中和液、曇点T0、温度T1、温度T2及び温度T3の説明は、ここに援用される。
【0179】
工程a2は、第iii成分の中和液を準備する工程であり、工程a2は、上記第3の態様における工程Aに準ずる。
【0180】
工程c2では、第iii成分の中和液と第ii成分の分散液を混合する。混合方法は、第iii成分の中和液と第ii成分の分散液を混合できる限り、制限されない。
【0181】
工程b2では、第i成分をその曇点T0以上の第1の温度T1で、工程c2で調製された液に分散させたのち降温し、曇点よりも低い第2の温度T2で部分溶解させた分散液を調製する。つまり、第i成分を曇点T0以上の温度で工程c2で調製された液に懸濁し、第2の温度T2まで降温することにより、第i成分が部分溶解した分散液を調製することができる。
【0182】
また、本態様は、工程b2の後に、工程b2で得られた溶液に、水不溶性(メタ)アルキルエステルコポリマー分散液を加える工程d2、さらには、工程b2、c2、又はd2の後で溶液第i成分の曇点よりも低い第3の温度T3に保持する工程e2をさらに含んでいてもよい。なお、第v成分であるポリビニルアルコール、可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一種は、工程Bにおいて、溶液温度を温度T1に昇温後、工程Eにおいて温度T3にて保持されるまでの過程において添加することが好ましい。
【0183】
本開示における第3-2の態様は、工程A’:第ii成分の部分中和液を準備する工程、
工程B’:第i成分の部分溶解液を準備する工程、及び
工程C’:第iv成分の分散液を、工程A’もしくはB’で準備された溶液と混合する工程、
を含む、第i成分、第ii成分、及び第iv成分を含む皮膜成分及び溶媒を含む腸溶性硬質カプセル調製液の調製方法に関する。本カプセル調製液の調製方法は、特に、γ’=0、すなわち、腸溶性ポリマーが、腸溶性メタクリル酸コポリマーのみである場合に適している。
【0184】
第iv成分は、水不溶性(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーの分散液である。
【0185】
なお、以下において、上記第3-1の態様における、曇点T0、温度T1、温度T2及び温度T3の説明は、ここに援用される。
【0186】
第ii成分であるメタクリル酸コポリマーに関しては、本来、中和による付加的な分散工程が省略できるコロイド分散液を用いるのが好ましい。しかしながら、第i成分もしくは、第i成分の部分溶解分散液との混合による好ましくない凝集・沈殿を防いで、カプセル調製液の分散状態を安定化させるために、最小限の塩基性中和剤の存在下で、第i成分との混合を行うことが望ましい。
【0187】
このため、工程A’において、あらかじめ第ii成分を薬学的に又は食品添加物として許容される塩基性中和剤を添加して、第ii成分の部分中和液を調製するのであるが、その中和度は比較的低く、2~20%とすることが好ましい。より好ましくは、5~15%である。
その後、工程B’において、塩基性中和剤と第ii成分を含む溶液に、第i成分を添加して部分溶解させた部分溶解液を調製する。第i成分を、第i成分の曇点T0以上の第1の温度T1で、第ii成分を含む中和液、又は第ii成分の中和液と第iv成分の分散液の混合液に添加し、前記曇点よりも低い第2の温度T2で第i成分を部分溶解させた分散液を調製する工程である、
【0188】
さらに、本態様3-2では、工程B’又はC’で得られた溶液を第i成分の曇点よりも低い第3の温度T3に保持する工程E’をさらに含んでいてもよい。また、第3の温度T3は、T2よりも高く、曇点T0よりも10℃以上は低くない温度であることが好ましい。これにより、第i成分の分溶解状態を安定的に保つことができる。例えば、30℃~605℃の範囲内とすることができる。非イオン性水溶性セルロース化合物が、HPMCであり、中でも、置換度タイプが2910及び2906である場合である場合には、温度T3を40℃~65℃の範囲内とすることができる。好ましくは、温度T3を45℃~60℃範囲内とすることができ、さらに好ましくは、50~60℃の範囲内とすることができる。これにより、冷ゲル化による粘度急上昇が始まる温度T4との間に、概ね10℃以上の温度差が確保でき、調製液を安定的に保つうえで好ましい。非イオン性水溶性セルロース化合物が、MCもしくはHPCである場合には、温度T3は、30℃~40℃の範囲とすることができるのが好ましい。
【0189】
本開示に係る調製液及び本開示に係る調製液の調製工程C’においては、第iv成分である(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマーは、第i成分、第ii成分のいずれともほとんど相互作用はなく、水分散液として、工程A’、もしくは、工程B’のいずれかの工程に続いて、あるいは、それぞれの工程の後で分割して添加することが可能である。本態様は、工程C’の後で、工程C’で得られた溶液を第i成分の曇点よりも低い第3の温度T3に保持する工程E’をさらに含んでいてもよい。
【0190】
なお、第v成分であるポリビニルアルコール、可塑剤、及び界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも一種は、工程B’において、溶液温度を温度T1に昇温後、工程E’において温度T3にて保持されるまでの過程において添加することが好ましい。
【0191】
さらに、本態様3における調製のすべての工程において、撹拌を継続して行うことが望ましい。例えば、円筒状容器で調製工程を実施する場合、プロペラ状の撹拌翼を1~数百rpmで回転させて、撹拌することが好ましい。
【0192】
4.腸溶性硬質カプセルの調製方法
本開示における第4の態様は、腸溶性硬質カプセルの調製方法に関する。本開示によれば、他の硬質カプセルを調製するカプセル調製機を使用して、腸溶性硬質カプセルを調製することができる。本開示に係る腸溶性硬質カプセルは、浸漬法、中でも「コールドピン浸漬法」によって形成されることを特徴とする。「コールドピン浸漬法」は、浸漬時の成型ピンの表面温度が、カプセル調製液の温度よりも低いことを特徴とする。
【0193】
腸溶性硬質カプセルの調製(成型)方法は、本開示に係る腸溶性硬質カプセル調製液を使用してカプセルを調製する工程を含む限り、特に制限されない。腸溶性硬質カプセルは、一般には、腸溶性硬質カプセル調製液中に、カプセルの鋳型となるモールドピン(カプセル成型用ピン)を浸漬させ、引き上げたときに付着してくる皮膜を硬化、乾燥させることで所望のカプセル形状と厚みを得る(ディッピング法)。具体的には、腸溶性硬質カプセルの調製方法は、上記の方法により腸溶性硬質カプセル調製液を調製するか、腸溶性硬質カプセル調製液を購入する等によって準備する工程と、係る腸溶性硬質カプセル調製液にモールドピンを浸漬した後、これを引き上げ、モールドピンを上下反転させ、モールドピンに付着した溶液を乾燥する調製工程によって製造される。
【0194】
より具体的には、本開示で用いる腸溶性硬質カプセルは下記の成型工程を経て製造することができる。
(1)腸溶性硬質カプセル調製液に、モールドピンを浸漬する工程(浸漬工程)、
(2)腸溶性硬質カプセル調製液調製液(浸漬液)からモールドピンを引き上げて、モールドピンの外表面に付着した腸溶性硬質カプセル調製液を乾燥する工程(乾燥工程)、
(3)乾燥したカプセルフィルム(皮膜)をカプセル成型用ピンから脱離する工程(脱離工程)。
【0195】
ここで、腸溶性硬質カプセル調製液は、モールドピンを浸漬するときに、非イオン性水溶性セルロース化合物の曇点よりも低い温度であり、かつ室温(20℃~25℃)よりも高い温度T5で保持される。T5は、曇点T0よりも10℃以上は低くない温度であることが好ましく、T2より高い温度であることがより好ましい。T3とT5を同じくすることもできる。これにより、第i成分の部分溶解状態を安定的に保つことができる。例えば、水溶性セルロース化合物が、HPMC又はMCである場合である場合には、T5は、30℃~65℃の範囲内とすることが好ましく、35~60℃であることがより好ましく、40~60℃であることがさらに好ましい。非イオン性水溶性セルロース化合物が、HPCである場合には、温度T5は、30℃~40℃の範囲内であることが好ましい。
【0196】
カプセル調製液の浸漬時の粘度は、その保持温度T5において、100mPa・s以上とするのが好ましく、500mPa・s以上とするのがより好ましく、1000mPa・S以上とすることがさらに好ましい。
【0197】
また、カプセル調製液の浸漬時の粘度は、その保持温度T5において、10000mPa・s以下とするのが好ましく、5000mPa・s以下とするのがより好ましく、3000mPa・S以下とすることがさらに好ましい。
【0198】
カプセル調製液の粘度は、単一円筒型回転粘度計(ブルックフィールド型粘度計、B型粘度計)を使用して測定することができる。例えば、粘度は、1Lビーカーでカプセル調製液を調製(液量は600ml)した後、T5に維持したカプセル調製液に、M3ロータ(測定範囲 0~10,000mPa・s)を入れ、ロータ回転数、12 r.p.m.、測定時間50秒で測定することができる。
【0199】
これに対し、浸漬時のモールドピンの表面温度T6は、腸溶性硬質カプセル調製液の液温T5よりも低く、さらには、冷ゲル化による急激な粘度増加を生じる温度T4より低い温度であることが好ましい。例えば、20℃~30℃の範囲であり、より好ましくは20~28℃の範囲である。
乾燥工程(2)は、特に制限されるものではないが、室温(20~30℃)で行うことができる。通常、室温の空気を送風することによって行なわれる。
【0200】
斯くして調製されるカプセル皮膜は、所定の長さに切断調整された後、ボディ部とキャップ部を一対に嵌合した状態又は嵌合しない状態で、腸溶性硬質カプセルとして提供することができる。
【0201】
腸溶性硬質カプセルの皮膜厚みは、通常、50~250μmの範囲とされる。特に、カプセルの側壁部分の厚みは、現在市販されているカプセルでは、75~150μm、より好ましくは、80~120μmとするのが通常である。腸溶性硬質カプセルのサイズとしては、00号、0号、1号、2号、3号、4号、5号等があるが、本開示ではいずれのサイズの腸溶性硬質カプセルも調製することができる。
【0202】
5.腸溶性硬質カプセル製剤
本開示に係る腸溶性硬質カプセルには、一般食品、保健機能食品(機能性表示食品、栄養機能食品、特定保健用食品)、医薬部外品、医薬品等の充填物が充填され得る。充填物として例えば、植物(単細胞緑藻類を含む)に由来する成分(生の植物、一部乾燥された微生物、又は完全乾燥された植物、植物加工品、植物抽出物等)、微生物(細菌、酵母、ミドリムシ等)又は前記微生物に由来する成分(生の微生物、一部乾燥された微生物、又は完全乾燥された微生物、微生物加工品、微生物抽出物等)、滋養強壮保健剤、解熱鎮痛消炎剤、向精神剤、抗不安剤、抗うつ剤、催眠鎮静剤、鎮痙剤、中枢神経作用剤、脳代謝改善剤、脳循環改善剤、抗てんかん剤、交感神経興奮剤、胃腸剤、制酸剤、抗潰瘍剤、鎮咳去痰剤、鎮吐剤、呼吸促進剤、気管支拡張剤、抗アレルギー剤、歯科口腔用剤、抗ヒスタミン剤、強心剤、不整脈用剤、利尿剤、血圧降下剤、血管収縮剤、冠血管拡張剤、末梢血管拡張剤、高脂血症用剤、利胆剤、抗生物質、化学療法剤、糖尿病用剤、骨粗しょう症用剤、抗リウマチ剤、骨格筋弛緩剤、鎮けい剤、ホルモン剤、アルカロイド系麻薬、サルファ剤、痛風治療剤、血液凝固阻止剤、抗悪性腫瘍剤等の有効成分、又は前記有効成分を含む組成物を挙げることができる。なお、これらの充填物は、特に制限されず公知のものを広く挙げることができる。これらの成分は単独又は他の成分との合剤として使用することができる。充填物は、固形、粉末、顆粒、粉砕物、液体、ジェル等のいずれの形態であってもよい。また、これらの成分は、投与対象者の状態、年齢等に応じて適宜、定められた公知の適量が充填される。
【0203】
滋養強壮保健剤には、例えばビタミンA、ビタミンD、ビタミンE(酢酸d-α-トコフェロールなど)、ビタミンB1( ジベンゾイルチアミン、フルスルチアミン塩酸塩など)、ビタミンB2(酪酸リボフラビンなど)、ビタミンB6(塩酸ピリドキシンなど)、ビタミンC(アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウムなど)、ビタミンB12(酢酸ヒドロキソコバラミン、シアノコバラミンなど)のビタミン、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラル、タンパク、アミノ酸、オリゴ糖、生薬などが含まれる。
【0204】
解熱鎮痛消炎剤としては、例えばアスピリン、アセトアミノフェン、エテンザミド、イブプロフェン、塩酸ジフェンヒドラミン、dl-マレイン酸クロルフェニラミン、リン酸ジヒドロコデイン、ノスカピン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸フェニルプロパノールアミン、カフェイン、無水カフェイン、セラペプターゼ、塩化リゾチーム、トルフェナム酸、メフェナム酸、ジクロフェナクナトリウム、フルフェナム酸、サリチルアミド、アミノピリン、ケトプロフェン、インドメタシン、ブコローム、ペンタゾシンなどが挙げられる。但し、これらに限定されるものではない。
【0205】
特に、腸溶性硬質カプセルを適用することで有用性が高いのは、胃で溶解した場合、胃に対して副作用を有する恐れがある場合である。あるいは、酸に不安定で胃内で溶解せずに腸内で吸収される必要性がある場合である。すなわち、胃酸により有効成分の効能が低下し得る製剤は、本開示に係る腸溶性硬質カプセル製剤によって、胃酸から有効成分を保護して、効果的に胃を通過させ、腸に送達させることができ、特に有用である。
【0206】
例えば、アスピリンは例えば裸顆粒で多量に投与すると、胃潰瘍様の症状を引き起こす副作用を有することが知られており、腸溶性硬質カプセルの適用が望まれる代表的薬物の一つである。
【0207】
他方、酸に不安定な薬効成分の例としては、プロトンポンプインヒビター(PPI)として知られる、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム、エソメプラゾールマグネシウム水和物、などが挙げられる。PPIは、血流に乗って壁細胞へ達し、壁細胞の分泌細管において高濃度の水素イオンに接して活性化される。ところがPPIは酸性環境下で極めて不安定な薬剤であり、壁細胞に到達する前に酸にさらされると十分な効果が発揮できなくなる。このため、PPIの強い酸分泌抑制力を発揮するために、通常、腸溶性製剤化する。
【0208】
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬と呼ばれる抗うつ薬の一つであるデュロキセチンも、やはり、酸に弱いので、腸溶製剤化が望ましい原薬の例である。
【0209】
本開示に係る腸溶性硬質カプセルには、一般食品、保健機能食品(機能性表示食品、栄養機能食品、特定保健用食品)として、フコイダン、ヘム鉄、ポリフェノール類、ペプチド類やアミノ酸類(例えば、ローヤルゼリー、オルニチン、シトルリン、アミノレブリン酸、黒酢、又は、疎水性のアミノ酸であるメチオニン、バリン、ロイシン、イソロイシンなど)、タンパク質類(ラクトフェリンなどの乳タンパク、コラーゲン、プラセンタ、など)、糖タンパク質類、酵素発酵食品類(ナットウキナーゼなど)、補酵素類(コエンザイムQ10など)、ビタミン類(βカロテンなど)、ミネラル類、生微生物類(ミドリムシ、クロレラ、酵母、乳酸菌、ビフィズス菌など)、植物抽出物(生薬、ハーブ類、例えば、ウコンエキス、人参エキス、梅エキス、イチョウ葉エキス、ブルーベリーエキス、甜茶エキスなど)、プロポリス等の天然有機物、又はこれらの任意の組み合わせを充填することができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0210】
係る内容物の腸溶性硬質カプセル内への充填は、それ自体公知のカプセル充填機、例えば全自動カプセル充填機(型式名:LIQFILsuper80/150、クオリカプス(株)社製)、カプセル充填・シール機(型式名:LIQFILsuperFS、クオリカプス(株)社製)等を用いて実施することができる。こうして得られる硬質カプセルのボディ部とキャップ部は、内容物をボディ部に充填したのち、該ボディ部にキャップ部を被覆して両者を嵌合させることによりボディ部とキャップ部を接合させる。次いで必要に応じて充填済みカプセルは、継ぎ目を永久に封止するための適切な技術を使用することによって不正開封防止にされ得る。典型的に、シーリング又はバンディング(以下、シーリングと称する)技術が使用され得、ここで、これらの技術はカプセルの分野の当業者に周知である。具体的な例としては、キャップ部の端縁部を中心とした一定幅でボディ部の表面とキャップ部の表面にボディ部とキャップ部との円周方向に、ポリマー溶液のシール剤(以下、シール調製液ともいう)を1回~複数回、好ましくは1~2回塗布することにより嵌合部を封緘して腸溶性硬質カプセル製剤とすることができる。ポリマー溶液は、カプセル皮膜に使用される腸溶性ポリマーの希釈水溶液、あるいは、水/エタノール又は水/イソプロパノール溶剤に溶解した液を用いることができる。また、希釈水溶液、あるいは、水/エタノール又は水/イソプロパノール溶剤に溶解した液を用いる場合、前述のような塩基性中和剤で部分的に中和溶解して用いることもできる。
【0211】
シール調製液に含まれるポリマーは、該シールを適用する腸溶性硬質カプセル皮膜に含まれるのと同じ腸溶性ポリマーもしくは非イオン性水溶性セルロース化合物からなることが好ましい。カプセル皮膜との密着性に優れると共に、不必要な添加剤成分が、該カプセル製剤に含まれることを防ぐことにもなる。また、この場合、非イオン性水溶性セルロース化合物の粘度値は、100mPa・sであってもかまわない。
【0212】
カプセル封緘時、シール調製液は、一般に室温あるいは加温下で使用することができる。硬質カプセルの液漏れ防止という観点から、好ましくは約23~45℃、さらに好ましくは約23~35℃、最も好ましくは約25~35℃の温度範囲内にあるシール調製液を用いることが望ましい。なお、シール調製液の温度調節は、パネルヒーター、温水ヒーター等のそれ自体公知の方法で実施することができるが、例えば循環式温水ヒーターあるいは前記一体型カプセル充填シール機のシールパンユニットを循環式温水ヒーター型に改造したもの等で調節するのが、温度幅が微妙に調節できるので好ましい。
【0213】
こうして得られる本開示に係る腸溶性硬質カプセル製剤は、ヒト又は動物の体内に投与及び摂取されたときに、胃内では耐酸性を示し、主に腸に移行してカプセル皮膜が溶解し内容物が放出されるように設計されている。このため、胃内での放出が好ましくない医薬品や食品を充填した製剤として好適である。
【0214】
本開示において、腸溶性機能を強化するため、さらなる薬物送達制御機能、あるいは、気体や水分の透過性を制御するため、カプセル皮膜は、追加の1つ又はそれ以上のポリマー層で外部からコーティングされていてもよい。
【0215】
特に記載されない限り、機能的ポリマー層は、コーティングされたカプセル皮膜へ特定の機械的又は化学的特性を付与する機能的ポリマーを含有する層を意味する。機能的ポリマーは、薬学的固体投薬形態をコーティングするために従来使用されている腸溶性ポリマー及び/又は結腸放出性ポリマー(即ち、被験体の結腸領域においてコーティングされた投薬形態を崩壊させるために使用されるポリマー)等である。
【0216】
6.硬質カプセル製剤
本開示に係る腸溶性硬質カプセルを用いた新規な応用例として、酸性条件で溶解可能な硬質カプセルの内部に本開示に係る腸溶性硬質カプセルを内包することを特徴とする硬質カプセル製剤が挙げられる。酸性条件で溶解可能な硬質カプセルとしては、ゼラチンカプセル及びヒプロメロースカプセル、あるいは、プルランカプセルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に、ヒプロメロース硬質カプセルでは、水溶性セルロースの表示粘度(粘度グレード)値として、3~15mPa・sのものが用いられている(特開平08-208458号公報、2001-506692号公報、特開2010-270039号公報、特開2011-500871号公報)。これらにおいては、皮膜中のほぼ100%(ゲル化剤、ゲル化助剤、遮光剤、着色料等、0~5質量%程度及び、0~10質量%程度の残留水分を含む場合がある)が水溶性セルロース、特にHPMCである。本開示に係る腸溶性硬質カプセルにあらかじめ有効成分Bを充填しておき、酸性条件で溶解可能な硬質カプセルの内部に、薬効成分A及び該充填済腸溶性硬質カプセルを、充填する。このような二重カプセル製剤は、胃において有効成分Aを放出させ、腸に達してから薬効成分Bを放出させるような、複数部位に選択的かつ異なる薬効成分の送達を可能にする。有効成分A及び有効成分Bは、上記5.に記載の有効成分を挙げることができる。
【実施例】
【0217】
I.使用材料
実施例、参考例、比較例に用いる材料は下記の通りである。
1.非イオン性水溶性セルロース化合物
メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は信越化学工業(株)のMETOLOSE(登録商標)シリーズもしくはTC-5(登録商標)シリーズを使用し、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は日本曹達(株)のNISSO HPCシリーズを使用した。具体的な製品名と置換度タイプ、「粘度値」、(表示粘度もしくは粘度グレード)は表2の通りである。
【0218】
【0219】
2.腸溶性ポリマー
(1)ヒドロキシプロピルセルロースフタレート(HPMCP)
信越化学工業(株) HPMCP(登録商標)シリーズのHP50グレードを使用した(以下、「HP50」と表記する)。
【0220】
(2)ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)信越化学工業(株)AQOAT(登録商標)シリーズのMFもしくはMGグレードを使用した(以下「HPMCAS-MF」と表記する)。
これら非塩化腸溶性セルロース化合物の塩基性中和剤による中和は、メーカーにより推奨されたNaOH当量範囲のその中心値を用いることで、ほぼ完全中和状態とした。完全中和の塩基性中和剤は、これら当量に対し、100±1%未満の誤差範囲内となるようにした。その際の溶液のpHは、5~7程度であった。
具体的には、HP50に対しては、0.065g/g、HMPCAS-MFもしくはHMPCAS-MGに対しては、0.048g/g、L30D55に対しては、0.215g/g、FS30Dに対しては、0.0404g/gとなる。特にHP50は、比較的粒径が大きく皮膜がざらついてしまうので、可能な限り完全中和して用いた。他方、HPMCAS-MFは、比較的粒径が小さいので、中和度が50%以上、より好ましくは80%以上であれば、ほとんど透明な溶解液が得られた。
また、同様にアンモニア対する中和の当量は、HP50に対しては、0.0274g/g、HMPCAS-MFもしくはHMPCAS-MGに対しては、0.0202g/g、L30D55に対しては、0.0914g/g、FS30Dに対しては、0.0172g/gとなる。アンモニアの場合は、調製液及び成果プセル調製過程での揮発があるので、当量より過剰に加えた。
【0221】
(3)メタクリル酸コポリマー
Evonik Industries AG社、EUDRAGIT(登録商標)シリーズのL30D55及びFS30Dを使用した。いずれも固形分含有量30質量%の水分散液である。また、L30D55を乾燥微粉末化したL10055については、精製水中に分散させて撹拌したのち、NaOH(10%水溶液)を所定の中和度となるように添加した。これにより、L30D55のコロイド粒子よりはやや粗いものの、微粒子化された水分散液が得られた。
【0222】
(4)(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー
Evonik Industries AG社、Eudragit(登録商標)シリーズのNE30Dを使用した。固形分含有量30質量%の水分散液として供される。
【0223】
3.ポリビニルアルコール及び可塑剤
日本合成化学工業株式会社のゴーセノール(登録商標)シリーズEG48Pを使用した。けん化度は、86.5~89.0%であり、推定重合度は2500である。PEG35000(ポリエチレングリコール)は、シグマアルドリッチ社から購入した。PG(プロピレングリコール)は和光純薬社から購入した。
【0224】
4.その他
水酸化ナトリウム(粒状 試薬特級)及びアンモニア水(28% 試薬特級)は和光純薬工業株式会社から購入した。酸化チタン(タイペークA-100)は石原産業株式会社から購入した。
【0225】
II.測定及び試験方法
1.カプセルの溶出試験
本開示においては、原則、第17改正日本薬局方における溶出試験を適用した。但し、日本薬局方は、空の硬質カプセル自体の溶解性を規定しているわけではないので、本開示では、速溶性のアセトアミノフェンの溶出を評価することによって、カプセル自体の溶解性(溶出特性)を評価した。1カプセルあたり、アセトアミノフェン40 mg、乳糖140 mg、デンプングリコール酸ナトリウム20 mg(以下、「アセトアミノフェン混合末」という)を充填し、得られた腸溶性硬カプセル製剤を日本薬局方に定められた溶出試験法(第17局方、6.10-1.2パドル法(パドル回転数50回転/分)、及び、同
図6.10-2aに対応するシンカー使用)に従い試験し、アセトアミノフェンの溶出率の時間変化を測定した。溶出試験にはDistek社製バス型溶出試験器Model 2100を用いた。同容量のアセトアミノフェンを別途、全量、溶出試験器バス内の溶液に溶解させたときの244 nmにおける吸光度を100 %とし、カプセルからのアセトアミノフェンの溶出に伴って上昇する溶出試験器バス内の溶液の244 nmにおける吸光度から溶出率を求めた。n数に関しては、n=1~6とした。なお、ここで第1液及び第2液として、下記の水溶液が使用した。いずれもバス内の溶液の温度は37℃とした。
【0226】
第1液:塩化ナトリウム2.0 gに塩酸7.0 mL及び水を加えて溶かし1000 mLに調整した(pHは、約1.2、以下酸性溶液と称することがある。)。
第2液:リン酸二水素カリウム3.40g及び無水リン酸水素二ナトリウム3.55gを水に溶かし、1000 mLとしたリン酸塩緩衝液1容量に水1容量を加えて調製した(pHは、約6.8、以下中性溶液と称することがある)。
【0227】
2.カプセル調製液の動的粘弾性の測定
カプセル調製液の動的粘弾性はAntonPaar社製、レオメーター(MCR102)を用いて測定した。測定には二重円筒管測定治具(型番CC27/T200/SS)と温度制御システムC-PTD200を使用した。液量は約19 mLとした。また、測定中の水分蒸発を防ぐため、円筒管中のサンプル液の最表面に1 mL程度の綿実油を垂らした。温度依存性は、60℃から20℃まで、1℃/分で低下させ、同時にひずみの振り角を1から0.1%まで線形に低下させながら測定した。角周波数ω(rad/sec)は、2π/秒である。動的粘弾性として、貯蔵弾性率G’(Pa)、損失弾性率G’’(Pa)、複素粘度|η*|=|G*|/ω=√(G’2+G’’2)/ω(Pa・s)、及び、粘度η’’=G’’/ω(Pa・s)の値を測定した。
【0228】
3.カプセル調製液の粘度
カプセル調製液(55℃)の粘度は、ブルックフィールド粘度計(TVB-10M(東機産業))を使用して測定した。測定にはM3ロータ(測定範囲 0~10,000 mPa・s)を使用した。ロータ回転数は、12 r.p.m.、1Lビーカーでカプセル調製液を調製(液量は600 ml)したのち、該ビーカーにロータを入れて測定時間50秒で測定した。
【0229】
4.皮膜構造の観察
皮膜構造の観察には、走査型電子顕微鏡(SEM)、及び顕微ラマンを使用した。
(1)SEM
走査型電子顕微鏡は、Carl Zeiss社製Ultra55を使用した。
カプセル被膜の断面を観察するため、調製したカプセル皮膜を輪切りにした小片に切り出し、エポキシ樹脂に包埋後、ミクロトームで薄切し観察用の切片(およそ300~400μm四方で2~3μm厚み)を作製した。切片にPtPdで蒸着処理した。電子線は、加速電圧3kVで照射し、切片をスキャンした。
【0230】
(2)顕微ラマン
顕微ラマン装置にはThermo Fisher Scientific製Nicolet Almega XRを使用した。励起波長は、532nm、分解能は、約10/cm(10カイザー)、照射径は、1μmφ(100倍対物レンズ、25μmピンホール:平面方向 1μmφ × 深さ方向(=切片厚み) 2μmの円柱状内部の情報が得られる。)、励起出力は、100%(10mW以下@試料位置)、露光時間×積算回数は10sec×2回とした。
輪切りにしたカプセル小片をエポキシ樹脂に包埋後、ミクロトームで薄切し、厚み2μmの切片を作成した。切片を金属板上にのせ、観察した。
【0231】
5.調製液の観察
調製液の観察は、ステージの温度調節機能を有する光学顕微鏡(オリンパス社製BX53) を使用して行った。接眼レンズは10倍、対物レンズは10倍のものを使用し、
透過観察した。55℃の調製液をやはり55℃のステージ上で予熱したスライドガラス上に滴下し、さらにその上をやはり55℃に予熱したカバーガラスで覆った。
【0232】
6.皮膜中の残留塩濃度
カプセル皮膜中の塩(ナトリウム)は以下の手順で乾式灰化処理後、原子吸光光度法(AAS)で定量した。試料を白金坩堝に精秤し、濃硫酸を添加後650℃の電気炉で有機物がなくなるまで加熱した。残った灰分を希塩酸に溶解し、適宜希釈して原子吸光度計(VARIAN社製SpectrAA-220)で定量した。
【0233】
7.水分含量(含水率)
<乾燥減量法によるカプセル皮膜中の含水率の測定方法>
デシケーターに、炭酸カリウム飽和水溶液を入れて恒湿状態とした雰囲気中に試料(硬質カプセル、又はフィルム)を入れ密閉し、25℃で1週間調湿した。なお、調湿には、以下の飽和塩(水溶液)を用いた。すなわち、酢酸カリウム飽和塩、炭酸カリウム飽和塩、硝酸アンモニウム飽和塩の存在下で、それぞれ、相対湿度約22%、43%、60%の雰囲気を作成した。調湿後の試料の質量(湿質量)を測定した後、次いで当該試料を105℃で2時間加熱乾燥し、再度試料の質量(乾燥質量)を測定した。乾燥前の質量(湿質量)と乾燥後の質量(乾燥質量)の差から、下式にしたがって、105℃で2時間加熱乾燥することによって減少する水分量の割合(含水率)を算出し、含有水分量(質量%)とした。
【数4】
【0234】
8.カプセル皮膜の機械強度(弾性率と破断伸び率の測定)
硬質カプセルの皮膜の機械強度を評価する場合、被験皮膜の厚みをそろえて比較することが重要である。このため、硬質カプセルの各成分組成に依存する皮膜の機械強度は、ディッピング法によって成形された硬質カプセルのかわりに、硬質カプセル調製液の各成分組成と同一成分組成である調製液を用いて、キャスト法によりフィルムを作製し、当該キャストフィルムを用いて評価した。当該フィルムは、厚みの均一性、評価の再現性に優れており、かつカプセル皮膜としての機械強度をよく反映するものである。
【0235】
キャストフィルムは、室温に保持したガラス面上又はPETフィルム上に金属性のアプリケーターを設置し、50℃~60℃の調製液を流しこみ一定速度で移動させ100μmの均一なフィルムを作製した。その後、室温~30℃で10時間程度の乾燥を行った。
100μmの均一な膜厚のフィルムを得るため、ギャップが0.4 mm~1.5 mmのアプリケーターを適宜使い分けた。
【0236】
作製したフィルムは、5mm × 75mmのダンベル形状(JIS K-7161-2-1BAで規定) にカットした後、小型卓上試験機(島津製作所EZ-LX)を用いて引張試験を行った。フィルムの両端をホルダーにセット(ギャップ長60 mm)し、引張速度、10 mm/minで引張、フィルムの伸びとフィルム内に生じる応力(引張応力)-伸び率(ひずみ)曲線を求めた。
図5中における低応力時の弾性変形領域の傾きから、硬さの指標である弾性率をもとめ、破断点における伸び率を破断伸び率(%)とした(非特許文献1、Chapter4)。
【0237】
まず、前述の含有水分量の測定と同様の飽和塩を用い、25℃、相対湿度22%、又は60%の、それぞれの条件の調湿下で1週間以上調湿した後、引張試験を実施し機械的強度を評価した。引張試験は、それぞれの調湿条件と同じ温湿度で行った。相対湿度22%の低相対湿度下では、特に破断伸び率の低下が課題となり、相対湿度60%の高相対湿度下では、弾性率低下が課題となる。相対湿度43%での弾性率及び破断伸び率は、ほぼ22%と60%の値の中間値となる。
【0238】
III.調製液の調製方法
以下手順にしたがって、カプセル調製液を調製した。操作はすべて溶液を撹枠しながら行った。以下においては、第i~v成分の固形分をポリマー固形分と称する。また、全溶液質量は、溶媒である精製水に加え、ポリマー固形分、塩基性中和剤、その他の固形分(可塑剤、遮光剤など)合計質量となる。ポリマー固形分濃度とは、前記ポリマー固形分合計質量の全溶液質量に対する比率(質量%)をいう。
【0239】
III-1.調製液の調製方法(態様3-1に相当)
a.後に加えるメタクリル酸コポリマーの水分散液(固形分濃度30質量%)、及び遮光剤である酸化チタン(濃度22質量%)の分散液の水分量を考慮し、最終的に、ポリマー固形分濃度が、所定濃度(20%程度)となるような量の室温の精製水を用意した。
b.室温にて、精製水に腸溶性セルロース化合物を投入し、だま、ができないように均一に分散させた。その後塩基性中和剤を投入し、腸溶性セルロースを溶解させた。塩基性中和剤は、特に断らない限り、以下の例においては、腸溶性セルロース化合物をちょうど完全中和するのに必要な分量(当量)を用いた。
c.この溶液を83℃にまで昇温させたのち、非イオン性水溶性セルロース化合物を投入し、だま、ができないように均一に分散させ懸濁液を調製した。
d.非イオン性水溶性セルロース化合物の分散液の温度を下げ、溶解温度(曇点)以下の温度T2まで降温し、非イオン性水溶性セルロース化合物を部分溶解させ分散液を調製した。部分溶解温度T2 は30~55℃の間で適宜調整した。
e.d.で調製された分散液を調製液温度T3(MCの場合は30~50℃、HPMCの場合は45~60℃、HPCの場合は30~40℃)で保持した。結果、ブルックフィールド粘度計での粘度が、ほぼ1,000~3,000 mPa・sの範囲となった。なお、最終的なポリマー固形分濃度は、粘度がこの範囲になるよう、温純水の追加、蒸発による微調整を行った。
f.メタクリル酸コポリマーの分散液は、b.の中和後、もしくはe.の非イオン性水溶性セルロース化合物の部分溶解液完成後のいずれかの段階で加えた。さらに、酸化チタンを入れる場合は、あらかじめ水分散液を作成したうえ、c.の操作の前に投入した。なお、上記すべての工程で、プロペラ撹拌翼を用いて、100~1,000 rpmで撹拌を行っている。
【0240】
ここで、d.において、非イオン性水溶性セルロース化合物の溶解が始まっているかどうかは、分散液の粘度の変化を指標に判断することができる。具体的にはそれまでほぼ水と同じ粘度であった分散液の粘度が溶解開始を期に急激に増加する。また白濁した分散液が、一部の粒子の溶解に伴い、乳白色の半透明な溶液となる。したがって、あらかじめ非イオン性水溶性セルロース化合物単独の分散液で、動的粘弾性評価により急激に粘弾性の上昇する温度、もしくは、半透明となるおよその温度T4を測定しておき、T2、T3がT4より手前(高温側)となるようにした。
【0241】
III-2.調製液の調製方法(態様3-2に相当)
a.後に加えるメタクリル酸コポリマーの水分散液(固形分濃度30質量%)、(メタ)アクリル酸アルキルエステルコポリマー分散液(固形分濃度30質量%)及び遮光剤である酸化チタンの分散液(濃度22質量%)の水分量を考慮し、ポリマー固形分濃度が、所定濃度(20%程度)となるような量の室温の精製水を用意した。
b.室温にて、メタクリル酸コポリマー分散液を所定量上記精製水に投入し、その後塩基性中和剤として水酸化ナトリウム(NaOH)を投入し、部分中和液を調製した。NaOHは、特に断らない限り、以下の例においては、メタクリル酸コポリマーのカルボキシル基の約8%を部分中和するのに相当する分量を用いた。
c.この部分中和溶液を83℃にまで昇温させたのち、酸化チタン分散液を投入しスリーワンモターで十分撹拌した後、非イオン性水溶性セルロース化合物を投入し、だま、ができないように均一に分散させ懸濁液を調製し、脱泡した。その後、さらにPVA又は可塑剤を投入し溶解させた。
d.NaOHの存在下で、非イオン性水溶性セルロース化合物、メタクリル酸コポリマーが混合されたの分散液(さらに、酸化チタンとPVAを含んでいる溶液)の温度を下げ、非イオン性水溶性ポリマーの溶解温度(曇点)以下の温度T2まで降温し、非イオン性水溶性セルロース化合物を部分溶解させた分散溶液を調製した。T2は、30~55℃の間で適宜調整した。e.d.で調製された分散液を調製液温度T3(MCの場合は、35~40℃、HPMCの場合は、30~65℃)で保持しながら、NE30D分散液を投入した。結果、ブルックフィールド粘度計での粘度が、ほぼ1,000~3,000 mPa・sの範囲となった。なお、最終的な全固形分濃度は、粘度がこの範囲になるよう、温純水の追加、蒸発による微調整を行った。また、上記すべての工程で、プロペラ翼を用いて、100~1,000 rpmで撹拌を行った。
【0242】
ここで、d.において、非イオン性水溶性セルロース化合物の溶解が始まっているかどうかは、分散液の粘度の変化を指標に判断することができる。具体的にはそれまでほぼ水と同じ粘度であった分散液の粘度が溶解開始を期に急激に増加する。また白濁した分散液が、一部の粒子の溶解に伴い、乳白色の半透明な溶液となる。したがって、あらかじめ非イオン性水溶性セルロース化合物単独の分散液で、動的粘弾性評価により急激に粘弾性の上昇する温度、もしくは、半透明となるおよその温度T4を測定しておき、T2、T3がT4より手前(高温側)となるようにした。
【0243】
IV.カプセルの成型方法
上記III.で調製されたカプセル調製液を用いて、コールドピン浸漬法により硬質カプセルを調製した。保持温度T5は、ほぼT3と同じとして、ほぼ一定温度に保ったカプセル調製液中に、室温(25℃程度)に放置したモールドピン(サイズ2号)を数秒間浸漬させたのち、大気中に引き上げた。カプセル調製液が付着した成型ピンを上下反転させ、室内雰囲気温度で2~10時間以上乾燥させた。筒状のカプセル側面の膜厚は、約100μmとなるようモールドピンの浸漬時間、引き上げ速度などを適宜調整した。その後、モールドピンから、カプセル部分を引き抜き、筒状部分の長さが所定の長さとなるようにカットした。以上の操作を、キャプ及びボディそれぞれで行った。
【0244】
なお、以下では、調製液成分の組成である、α’、β’、γ’、σ’、φ’、δ’、ε’が、そのまま、皮膜成分の組成が皮膜成分の組成α、β、γ、σ、φ、δ、εと同じになっているものとして用いた。
【0245】
V.調製例
V-1.調製例(調製方法の態様3-1)
以下の実施例1~5、比較例においては、調製例III-1(調製方法の態様3-1)にしたがってカプセル調製液を調製し、成型方法IVによって成型を行った。第i成分(第1成分)、第ii成分(第2成分)、及び第iii成分(第3成分)の固形分質量合計(ポリマー固形分質量合計)を100質量%としたときのそれぞれの質量%を、α、β、γとした。塩基性中和剤(NaOH)、酸化チタン(遮光剤)の、上記ポリマー固形分質量合計に対する質量比をそれぞれ、δ(%)、ε(%)とした。また、溶媒である精製水と第i~iii成分の固形分の合計質量における、第i~iii成分の固形分の質量比をポリマー固形分濃度(%)とした。表3~7にそれぞれの具体的な組成を示した。また、これらの表中において中和度(対第iii成分)とは、調製方法の工程Aにおける、第iii成分の中和溶解の中和度である。基本的に、工程Aでの第iii成分の中和度は100%で完全中和としている。塩基性中和剤がアンモニアである実施例2-10の場合のみ、揮発性を考慮して過剰のアンモニアを加えているが、最終的な皮膜内の残留分は、100%より大幅に少ないものと推定される。
【0246】
なお、中和度(対腸溶性ポリマー)とは、第ii成分と第iii成分の腸溶性ポリマー全体に対する中和度である。第ii成分として、腸溶性メタクリル酸コポリマーの分散液を用いており、調液工程上、工程Aの第iii成分の中和過程でしか塩基性中和剤は加えていないので、あくまで調製液全体の腸溶性ポリマーに対する、みかけの中和度である。混合後の第ii成分と第iii成分のそれぞれがどのような割合で中和されているかは不明であるが、十分微細な分散液を得るために、第iii成分の中和では、完全中和が必要となるが、第iii成分の水分散液との混合により、腸溶性ポリマー全体に対する中和度は50%未満とすることができた。これにより、カプセル皮膜中の過剰な残留塩による弊害を予防できる。
【0247】
1.実施例1
非イオン性水溶性セルロース化合物として、「粘度値」100 mPa・s以上のメチルセルロース(MC)を用いて、表3に示す実施例1-1~1-7の組成のカプセル調製液を用いて上記III-1.の手順でカプセルを調製した。各カプセル調製液は、成型ピン浸漬時の温度T5において、すべて、白濁(懸濁)した分散液となっていた。また、酸化チタン投入前であっても、白濁、もしくは半透明の分散液となっていることは別途確認した。
【0248】
さらに上記IV.の方法によりサイズ2号の硬質カプセルを作成した。
【0249】
続いて、得られた各カプセルについて、上記II.1.にしたがって第1液及び第2液における溶出試験を行った。各カプセルを第1液に浸漬後2時間後の溶出率は、いずれも10%未満であり、酸性溶液に対する難溶性が示された。一方各カプセルを第2液に浸漬後30分後の溶出率は、いずれのカプセルも70%以上であった。いずれのカプセルも、中性溶液に対しては易溶性であることが示された。
【0250】
なお、実施例1-3の硬質カプセルは、溶解試験中の溶解特性は良好であるが、全腸溶性ポリマーに対する中和度が50%以上と高く、中性の試験溶液に対する溶解性のみならず、特に純水に対する溶解性が高くなっていた。また、保存時の皮膜の黄変も懸念された。
【0251】
【0252】
2.実施例2
非イオン性水溶性セルロース化合物として、「粘度値」100 mPa・s以上のヒドキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を用いて、表4に示す実施例2-1~2-10の組成のカプセル調製液を用いて上記III-1.の手順でカプセルを調製した。実施例2におけるカプセル調製液は、成型ピン浸漬時の温度55℃において、すべて、白濁した分散液となっていた。
【0253】
さらに上記IV.の方法によりサイズ2号の硬質カプセルを作成した。
【0254】
続いて、得られた各カプセルについて、上記II.1.にしたがって第1液及び第2液における溶出試験を行った。実施例2-1~2-3及び2-5~2-10のカプセル調製液から調製されたカプセルを第1液に浸漬後2時間後の溶出率は、いずれも10%未満であった。実施例2-4のカプセル調製液から調製されたカプセルの溶出率は、16.4%であった。一方、実施例2-1~2-4、2-6及び2-10のカプセル調製液から調製されたカプセルの第2液中での溶出率は、30分以内で70%以上であった。一般に、腸に到達後、速やかに崩壊するのが好ましい場合は、実施例2-1~2-4、2-10の特性が望ましい。他方、さらに腸管下部まで到達させたい場合、徐々に薬物を放出させたい場合には、実施例2-7~2-9の特性を適宜選択することができる。
【0255】
次に、実施例2-2のカプセル調製液から調製されたカプセルの皮膜の横断面を切り出し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、
図2に示すように、細長い島相と、海相からなる構造が観察された。顕微ラマン分析により、それぞれの相の成分を分析したところ、図中の荒い粒が存在する層が海相で、荒い粒子は酸化チタンの凝集体であった。粒径が荒い、又は、凝集しているので、未溶解のHPMCの島部分に侵入できなかったものと推定される。原子吸光光度計で測定したカプセル皮膜中の残留ナトリウムの組成は、ゼリー溶液中のNaOH濃度とほぼ同量であった。このことから、NaOHのほぼ全量がと反応し、第2成分第3成分のいずれかと反応し、塩(-COONa)を形成し皮膜中に取り込まれていると推定された。当該カプセルを60℃、乾燥オーブン内で3日間保管したが、黄変等の変化は見られなかった。また、溶出試験結果もほとんど変化しなかった。腸溶性セルロース化合物とメタクリル酸コポリマーの腸溶性ポリマー全体に対する部分中和量は、十分低く、50%未満であるため、塩による皮膜への弊害は見られないものと考えられる。また、ラマン分析法からは、調製液中の各ポリマー成分の組成が、カプセル皮膜中でもほぼ保たれていることが確認できた。
【0256】
次に、実施例2-2で用いた調製液の温度を55℃に保ったステージ上のスライドガラス上に滴下し、さらに55℃で予熱したカバーガラスで封入後、光学顕微鏡で観察したときの透過像を
図3に示した。図中の白っぽい部分が部分溶解したHPMCの固体粒子である。周辺の黒っぽい領域は、腸溶性ポリマーを主成分とする水溶液であり、酸化チタンを含むために黒っぽく見える。
【0257】
さらに、
図4に、実施例2-2で用いた調製液を温度T1から室温まで降温したときの貯蔵弾性率G’(Pa)、損失弾性率G’’(Pa)の変化を示す。40℃~35℃の間で、貯蔵弾性率G’(Pa)が損失弾性率G’’(Pa)を上回り、冷ゲル法による硬質カプセルの調製に適した調製液であることが示された。
【0258】
【表4】
表4において、「-」は、測定していないことを表す。
【0259】
3.実施例3
非イオン性水溶性セルロース化合物として、「粘度値」100 mPa・s以上のヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を用いて、表5に示す実施例3-1の組成のカプセル調製液を用いて上記III-1.の手順でカプセルを調製した。実施例3におけるカプセル調製液は、成型ピン浸漬時の温度55℃において、白濁した分散液となっていた。
さらに上記IV.の方法によりサイズ2号の硬質カプセルを作成した。
【0260】
続いて、得られた各カプセルについて、上記II.1.にしたがって第1液及び第2液における溶出試験を行った。実施例3-1のカプセル調製液から調製されたカプセルを第1液に浸漬後2時間後の溶出率は、1.4%であった。また、第2液中での溶出率は、
30分で100%であった。実施例3-1の調製液から調製されたカプセルは、中性溶液に対しては易溶性であることが示された。
【0261】
【0262】
4.実施例4及び比較例4
非イオン性水溶性セルロース化合物として、種々の「粘度値」のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を用いて、表6に示す実施例4-1~4-3及び比較例4-1~4-4の組成のカプセル調製液を用いて上記III-1.の手順でカプセルを調製した。
各カプセル調製液について、ブルックフィールド粘度計による粘度、及び、レオメーターによる降温時における動的粘弾性挙動を前記の装置及び手順で測定した。評価する特性は、i.
図Cにおける調製液保持(浸漬)温度T3=T5=約55℃における粘度が好ましい範囲にあるか、ii.冷却時において
図CのT4=約30~50℃の範囲での構造粘性もしくは冷ゲル化の開始による急激な粘度増加があるか、そして、iii.最終的に、室温近傍(20~30℃)の乾燥温度で、G’>G’’となってゲル化しているか、の3点である。表6にカプセル調製液の組成、T5における調製液粘度(ブルックフィールド粘度計)、降温時の動的粘弾性測定結果、すなわち、室温付近でのゲル化の有無(レオメーター測定で、G’>G’’ならばゲル化と判断)、約30~50℃での急激な粘度増加の有無を示す。HPMCの「粘度値」が、100 mPa・s以上の場合(実施例4-1、4-2、4-3)に、調製液の粘度が1,000~3,000 mPa・s程度となり、また、30~50℃での急激な粘度増加、つまり室温近傍でのゲル化の要件を満たした。他方、HPMCの「粘度値」が、100 mPa・s未満の場合(比較例4-1、4-2、4-3)、約30~50℃での粘度増加が緩やかであり室温付近でのゲル化も見られないことが示された。
【0263】
したがって、コールドピン浸漬法への適用を想定しているカプセル調製液に使用する非イオン性水溶性セルロース化合物の「粘度値」としては、100 mPa・s以上が好ましいことが示された。
【0264】
【0265】
5.実施例5及び参考例1
第i成分、第ii成分及び中和された第iii成分が、本開示に係る態様3-1の調製液の調製方法及びコールドピン浸漬法の調製液に必要なことを確認するため、いずれかの成分を抜き、その分の質量を単純に精製水で置き換えた各種溶液を作成し、カプセル調製液としての適性を確認した。表7に調製液の組成(いずれの場合も酸化チタンは含まない)、レオメーターでの降温時の動的粘弾性測定結果、すなわち、室温付近でのゲル化の有無(レオメーター測定で、G’>G’’ならばゲル化と判断し、「○」で表す。G’<G’’であるか、見かけ上G’>G’’であっても、G’が非常に小さくて、実際上固体化不能である場合は、「×」で表す)及び約30~50℃での急激な粘度増加の有無を示す。また、「自立乾燥皮膜形成」として、キャスト法により自立した皮膜が得られるかどうかを評価した。この評価は、他の支持材によらずに、自立した皮膜が形成できるかどうか、さらには、空の硬質カプセル皮膜として適当な機械強度を有るかどうかを示している。この場合、100μm程度の厚みのキャストフィルムを得るために、単に特性成分を水で置換するだけでなく、ポリマー成分間の比率は保ったまま、ポリマー固形分濃度を適宜調製している場合がある。表7において自立した皮膜が形成できたものは○で示す。キャスト法において多少ポリマー固形分濃度を調製しても、調製液を塗布する基板からはがす際に脆すぎたり、柔らかすぎたりして、自立可能な皮膜として剥離困難なものは×で示す。
【0266】
第i成分として、HPMC、第ii成分としてEudragit(L30D55)の分散液、第iii成分としてHP50(NaOHで中和)の3種の成分すべてが含まれる本開示に係るカプセル調製液(実施例5)と、いずれかの成分が欠ける参考例1-1~1-8の溶液とについて、降温時の動的粘弾性挙動を比較した。すべての成分が含まれる実施例5は、実施例2-2で酸化チタンを除いた場合とほぼ同条件となる。実施例2-2から酸化チタンを除いたものを基準として、除外する成分は、単純に同質量の水で置換したものを参考例1-1~1-8とした。
【0267】
第i成分が部分溶解された分散液単独の場合(参考例1-1)及び第i成分分散液と第iii成分中和液のみを含む場合(参考例1-4)には、急激な粘度増加がみられたが、最終的に室温付近で、G’<G’’となってしまい、ゲル化しなかった。
【0268】
第iii成分(及びNaOH)単独の溶液(参考例1-2)、第ii成分単独の分散液(参考例1-3)、第iii成分中和液と第ii成分分散液のみを含む場合(参考例1-5)では、全温度域でほぼ完全に液体的挙動を示し、G’、G’’ともに非常に小さく、55℃から室温にわたって、概ね100 mPa・s未満であった。
【0269】
第i成分と第ii成分分散液のみを含む(中和剤を含まない)場合(参考例1-6)、両成分を混合した直後に著しい凝集がおき、カプセル調製液としては不適当であった。第i成分、第ii成分、第iii成分を含むが、第ii成分及び第iii成分を全量中和剤で完全中和した場合(参考例1-7)、粘度の急激な増加は見られたが、その温度が30℃より低く、室温付近でのゲル化(G’>G’’)がおきなかった。このことから、腸溶性硬質カプセルを調製するためのカプセル調製液としては、第i成分、第ii成分、及び中和された第iii成分がすべてそろっていることが重要であると考えられた。特に、第i成分と第ii成分の混合に際しては、第iii成分の中和に用いられた塩基性中和剤が、分散液の凝集を防止するのに有効であった。他方、腸溶性ポリマー全体が中和されてしまうと(したがって、第iii成分のみならず、第ii成分まで完全中和されてしまうと)好ましい冷ゲル化特性が失われた。また、第i成分と第ii成分(部分中和)では(参考例1-8)、混合と皮膜形成は可能であるが、非常にもろい膜しか形成できず、自立した乾燥皮膜化は困難であった。第iii成分の存在により、自立した硬質カプセルとして適当な機械強度が実現できている。
【0270】
【0271】
V-2.調製例(調製方法の態様3-2)
以下の実施例6~7においては、調製例III-2(調製方法の態様3-2)にしたがってカプセル調製液を調製し、成型方法IVによって、成型を行った。第i成分(第1成分)、第ii成分(第2成分)、第iv成分(第4成分)、及び第v成分(第5成分)の固形分質量合計(ポリマー固形分質量合計)を100質量%としたときのそれぞれの質量%を、α、γ、σ、φとした。塩基性中和剤、酸化チタン(遮光剤)の、上記ポリマー固形分質量合計に対する質量比をそれぞれ、δ(%)、ε(%)とした。また、溶媒である精製水と第i、ii、iv、v成分の固形分の合計質量における、第i、ii、iv、v成分の固形分の質量比をポリマー固形分濃度(%)とした。表8~9において、中和度は、調製の工程A’において、L30D55分散液に添加する塩基性中和剤の、L30D55固形分質量に対する中和度である。ここでの塩基性中和剤は、第i成分と第ii成分の混合によって直ちに凝集が生じることを防ぐ目的で添加されており、第ii成分自体の溶解による微粒子化を目的としたものではなく、その中和度は、8%程度と十分低くできる。
【0272】
なお、実施例6-8は、L30D55のコロイド分散液の代わりに、乾燥して固体粉末化されたL10055を、工程A’においても、8%程度の中和度で中和溶解していた微粒子の分散液を用いた。
【0273】
1.実施例6
非イオン性水溶性セルロース化合物として、「粘度値」100 mPa・s以上のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を用いて、表8に示す実施例6-1~6-10の組成のカプセル調製液を用いて上記III-2.の手順でカプセル調製液を調製した。各カプセル調製液は、成型ピン浸漬時の温度T5において、すべて、白濁した分散液となっていた。また、酸化チタン投入前であっても、白濁(懸濁)、もしくは半透明の分散液となっていることは別途確認した。
【0274】
【0275】
続いて、得られた各カプセルについて、上記II.1.にしたがって第1液及び第2液における溶出試験を行った。各カプセルを第1液に浸漬後2時間後の溶出率は、第5成分であるPVAを10質量%以上を含む実施例6-4の10.1%の場合を除き、いずれも10%未満であり、酸性溶液に対する難溶性が示された。一方各カプセルを第2液に浸漬後45分後の溶出率は、いずれのカプセルも90%以上であった。いずれのカプセルも、中性溶液に対しては易溶性であることが示された。
【0276】
図6及び
図7に、実施例6-2におけるカプセル調製液の光学顕微鏡像、及び、カプセル皮膜の断面の走査型電子顕微鏡像をそれぞれ示した。カプセル調製液は、第i成分であるHPMCの微細な固体粒子が分散された分散液であることが確認された。また、乾燥後のカプセル皮膜には、HPMCを主成分とする島相を含む海島構造を有していることが確認された。また、ラマン分析法からは、調製液中の各ポリマー成分の組成が、カプセル皮膜中でもほぼ保たれていることが確認できた。
【0277】
2.実施例7及び参考例2
第i成分、及び第ii成分、第iv成分、及び塩基性中和剤がすべてそろっていることが、本開示に係るコールドピン浸漬法の調製液に必要なことを確認するため、調製方法の態様3-2において、いずれかの成分を抜き、その分の質量を単純に精製水で置き換えた各種溶液を作成し、カプセル調製液としての適性を確認した。表9に調製液の組成(いずれの場合も酸化チタンは含まない)、レオメーターでの降温時の動的粘弾性測定結果、すなわち、室温付近でのゲル化の有無、及び約30~50℃での急激な粘度増加の有無を示す。また、「自立乾燥皮膜形成」の可否も示した。
【0278】
【0279】
第i成分として、第ii成分としてEudragit、L30D55の分散液、第iv成分としての2種の組み合わせ及び塩基性中和剤のすべてが含まれる本開示に係るカプセル調製液(実施例7)と、いずれかの成分が欠ける参考例2-1~2-16の溶液とで、降温時の動的粘弾性挙動を比較した。すべての成分が含まれる実施例7は、実施例6-2で酸化チタンを除いた場合と同条件となる。実施例6-2から酸化チタンを除いたものを基準として、除外した成分は、単純に同質量の水で置換したものを参考例2-1~2-16とした。
【0280】
第i成分が部分溶解された分散液(参考例2-1)は、30~50℃での粘度上昇は示したが、室温付近でのゲル化(G’>G’’)は示さなかった。第ii成分分散液(参考例2-2)、第iv成分分散液(参考例2-3)、第v成分溶液(参考例2-4)がそれぞれ単独では、全温度域でほぼ完全に液体的挙動を示し、G’、G’’ともに非常に小さく、55℃から室温にわたって、概ね100 mPa・s未満であった。すなわち、降温過程での適当な粘度上昇も室温付近での冷ゲル化能も示さなかった。さらに、第i成分を除く他の2成分(参考例2-5、2-6、2-7)もしくは3成分(参考例2-8)の混合液、第i成分と第iv成分の混合液(参考例2-9)、第i成分と第v成分の混合液(参考例2-10)、第i成分と第iv成分と第v成分との混合液(参考例2-11)でも、降温過程での適当な粘度上昇と冷ゲル化能を示さなかった。
【0281】
第i成分と、塩基性中和剤無(中和度0%)の第ii成分分散液のみを含む場合(参考例2-12)、両成分を混合した直後に著しい凝集がおき、カプセル調製液としては不適当であった。この現象は、第iv成分又は第v成分の存在には影響されなかった。第i成分と第ii成分を含むが、第ii成分を中和剤で完全中和した場合(参考例2-13、参考例2-16)、降温時に粘度の若干の増加は見られたが、全体に、非常に低い粘度(概ね100mPa・s以下)で、G’<G’’のままとなり、好ましい冷ゲル化特性が失われた。第i成分と中和度7.8%の第ii成分を混合した場合(参考例2-14、2-15)の場合にのみ、適度な冷ゲル化特性が得られた。このことから、腸溶性硬質カプセルを調製するためのカプセル調製液としては、第i成分、第ii成分及び第ii成分を部分的に中和できる塩基性中和剤がすべてそろっていることが重要であると考えられた。特に、腸溶性ポリマーが腸溶性メタクリル酸コポリマーのみである場合、中和度が概ね25%より高いと、G’<G’’となって、冷ゲル特性が失われる傾向がある。
【0282】
当然のことながら、腸溶性ポリマーである第ii成分の存在なくして乾燥後の皮膜の腸溶性は担保出来ない。また、第i成分、第ii成分と適量の塩基性中和剤が存在(参考例2-14)しても、乾燥後の皮膜は非常にもろく、第iv成分であるNE30Dを含む場合に(参考例2-15)自立した皮膜化が実現できた。なお、第iv成分をすべて第v成分で置換した場合、pH 1.2、2時間後の溶出が大きくなり、腸溶性が損なわれる傾向がある。第v成分は、第iv成分と合わせ用いることで、腸溶性を損なわず、皮膜の機械的特性、特に割れやすさが改善できた。
【0283】
この他に、参考例2-12、2-13、2-14に準じて、第i成分をHPMC、第ii成分をFS30Dとした場合、第i成分をMCあるいはHPCとし、第ii成分をL30D55とした場合にも、中和度がゼロでは、第i成分と第ii成分(コロイド分散液)の混合により直ちに凝集し、中和度が100%では、冷ゲル性能を示さないことが確認できた。すなわち、2~20%範囲内の中和度で適宜調節することが、カプセル調製液の冷ゲル性能を得るために必要である。
【0284】
3.実施例8
第1~4成分、もしくは第1~5成分のすべてを含む腸溶性硬質カプセルの例を表10にそれぞれ、実施例8-1及び8-2として示した。調製例III-1(調製方法の態様3-1)にしたがってカプセル調製液を調製し、成型方法IVによって成型を行った。第i成分(第1成分)、第ii成分(第2成分)、第iii成分(第3成分)、第iv成分(第4成分)、及び第v成分(第5成分)の固形分質量合計(ポリマー固形分質量合計)を100質量%としたときのそれぞれの質量%を、α、β、γ、σ、φとした。塩基性中和剤(NaOH)、酸化チタン(遮光剤)の、上記ポリマー固形分質量合計に対する質量比をそれぞれ、δ(%)、ε(%)とした。また、溶媒である精製水と第i~iii成分の固形分の合計質量における、第i~v成分の固形分の質量比をポリマー固形分濃度(%)とした。表10にそれぞれの具体的な組成を示した。また、これらの表中において中和度(対第iii成分)とは、調製方法の工程Aにおける、第iii成分の中和溶解の中和度である。基本的に、工程Aでの第iii成分の中和度は100%で完全中和としている。塩基性中和剤がアンモニアである実施例8-1の場合のみ、揮発性を考慮して過剰のアンモニアを加えているが、最終的な皮膜内の残留分は、100%より大幅に少ないものと推定される。
いずれの場合も、腸溶性硬質カプセルとして十分な溶解特性及び機械的強度を有していた。
【0285】
【0286】
VI.実施例1~8におけるカプセル皮膜の機械的強度
実施例1~7における硬質カプセル化された皮膜の硬さは、空の硬質カプセル皮膜として安定な形状を保つに十分な機械的強度があった。
【0287】
これらの実施例のうち、実施例1-1、1-4,1-6、2-1、2-2、2-3、2-4、2-6、6-1、6-2、6-4、6-6において、同処方のキャストフィルムを作成して、引張試験を行っとき、その弾性率は、相対湿度60%において、2~5 GPaの範囲であることが確認できた。また、伸び率は、低湿度側の22%相対湿度条件でも、3~10%の範囲にあり、通常のハンドリングで、大きく変形したり、割れるなどの問題は見られない機械的強度を有することが確認できた。第4成分は、カプセル皮膜の破断伸び率を大きくし割れ性を改善する効果があった。また、第5成分のPVAは、特に相対湿度が50%より低い範囲でのカプセル皮膜の硬度と破断伸び率、すなわち割れ性、を改善する効果があった。なお、第5成分である可塑剤(PEG35000又はPG)が10質量%を超えた実施例6-5と6-10では、破断伸び率はおおきくなり割れ性は改善されるが、相対湿度60%の高湿度下での硬度(弾性率)が2 GPaを下回った。
【0288】
VII.実施例1~8におけるバンドシールの効果
実施例1~8における溶出試験において、バンドシール(例えば、HPMCAS-MFを水とエタノール2:8の比率の溶媒に溶解させた溶液からなるシール液をサイズ2号カプセルの胴体部のキャップとボディを嵌合した部位に5 mm程度の幅で帯状に塗布後乾燥した)を適用した場合、適用しない場合に比べて、溶出率にはほとんど影響がなかった。本開示に係る腸溶性硬質カプセルは、第1液中で若干膨潤する性質があり、これが、キャップとボディの隙間を効果的にふさぐためと考えられる。但し、第1液に浸漬してから2時間後の溶出率が10%程度を示すカプセルでは、バンドシールの適用により、1~2%程度溶出率の低下がみられる場合もあり、より確実な溶出抑制が必要な場合には、バンドシールを適用することが有効であると考えられた。
【0289】
VII.実施例9
実施例1-1の本開示に係る腸溶性硬質カプセル(サイズ2号)に、アセトアミノフェン混合末を充填したカプセル製剤を用意しこれを内部カプセルとした。ヒプロメロースカプセル(Quali-V(登録商標)、サイズ00号)にカフェイン100 mgと、前記内部カプセルを充填した2重カプセル構造を有するカプセル製剤を用意した。第1液中で2時間溶出試験を行った後、第2液中で溶出試験を行った。カフェイン及びアセトアミノフェンの溶出率の時間変化を
図8に示す。第1液中ではpH依存性のないヒプロメロースカプセルのみが溶解し、中身のカフェインのみが短時間でほぼ100%溶出したが、内側の本開示に係る腸溶性硬質カプセルは溶解せず、アセトアミノフェンの溶出はほぼゼロであった。第2液中に移行してから、速やかに溶解が始まり、アセトミノフェンが約30分で100%溶出していることが示された。