(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】スパッタターゲット、及びスパッタターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20221221BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20221221BHJP
C22C 1/04 20060101ALI20221221BHJP
C22C 14/00 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C23C14/24 E
C22C1/04 E
C22C14/00 Z
(21)【出願番号】P 2019546353
(86)(22)【出願日】2018-02-19
(86)【国際出願番号】 EP2018054041
(87)【国際公開番号】W WO2018158101
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2020-12-09
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】515319954
【氏名又は名称】プランゼー コンポジット マテリアルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】特許業務法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ポルツィク,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】コロジュヴァーリ,シラード
(72)【発明者】
【氏名】マイアホーファー,パウル
(72)【発明者】
【氏名】リードル,ヘルムート
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104480444(CN,A)
【文献】特開平07-157835(JP,A)
【文献】特開2001-181838(JP,A)
【文献】特開2006-097070(JP,A)
【文献】特開2002-194536(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101962721(CN,A)
【文献】特開2000-199054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
B22F 1/00-8/00
C22C 1/04-1/05
C22C 33/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系材料、
チタン系材料、並びにそれらの全ての組み合わせからなる群から選択される複合材料から構成されるマトリックスを有し、前記マトリックスがドーピング元素でドーピングされ、物理蒸着法において使用されるターゲットであって、前記ドーピング元素は、セラミック化合物又はアルミニウム合金の成分として前記マトリックス中に埋め込まれており、かつ前記ドーピング元素は、ランタノイド:La、Ce、Nd、Sm、及びEuからなる群から選択されることを特徴とする、ターゲット。
【請求項2】
前記ドーピング元素は、ターゲットの全濃度において、1原子%以上10原子%以下の範囲で存在する、請求項1に記載のターゲット。
【請求項3】
前記ドーピング元素は、ターゲットの全濃度において、1原子%以上5原子%以下の範囲で存在する、請求項1又は2に記載のターゲット。
【請求項4】
前記マトリックス中の元素は、前記ターゲットの60原子%以上99原子%以下の割合を占める、請求項1~3のいずれか1項に記載のターゲット。
【請求項5】
前記マトリックスは、Al
xM
1-xの組成を有するアルミニウム系材料として存在し、式中、Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ta、W、Siからなる群からの1つ以上の元素であり、かつxは、25原子%より大きい、請求項1~4のいずれか1項に記載のターゲット。
【請求項6】
前記マトリックスは、Ti
xM
1-xの組成を有するチタン系材料として存在し、式中、Mは、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ta、W、Siからなる群からの1つ以上の元素であり、かつxは、50原子%より大きい、請求項1~4のいずれか1項に記載のターゲット。
【請求項7】
前記ターゲット中の酸素含有量は、5000μg/g未満である、請求項1~
6のいずれか1項に記載のターゲット。
【請求項8】
前記ターゲット中の酸素含有量は、3000μg/g未満である、請求項1~
7のいずれか1項に記載のターゲット。
【請求項9】
前記ターゲット中の4.5eV以上の仕事関数を有する元素の割合は、10原子%未満である、請求項1~
8のいずれか1項に記載のターゲット。
【請求項10】
前記セラミック化合物は、ホウ化物及び/又は炭化物及び/又は窒化物及び/又はケイ化物からなる群から選択される、請求項1~
9のいずれか1項に記載のターゲット。
【請求項11】
前記ドーピング元素はセリウムであり、セラミック化合物として二ケイ化セリウムの形で存在する、請求項1~
10のいずれか1項に記載のターゲット。
【請求項12】
前記ドーピング元素はセリウムであり、50重量%より高いセリウム割合を有するCe-Al合金として存在する、請求項1~
11のいずれか1項に記載のターゲット。
【請求項13】
前記ドーピング元素はLaであり、かつ六ホウ化ランタンの形でセラミック化合物として存在する、請求項1~
12のいずれか1項に記載のターゲット。
【請求項14】
粉末バッチを製造するためにドーピング元素を金属粉末中へと導入し、該粉末バッチを圧縮し、かつ前記金属粉末は、アルミニウム系材料及び/又は
チタン系材料からなる群から選択され、物理蒸着法において使用されるターゲットの粉末冶金的製造方法であって、前記ドーピング元素をセラミック化合物又はアルミニウム合金の成分として前記金属粉末中に導入し、かつドーピング元素としてランタノイド:La、Ce、Nd、Sm、及びEuからなる群からの元素を使用することを特徴とする、粉末冶金的製造方法。
【請求項15】
前記ドーピング元素を含有するセラミック化合物を、前記粉末バッチに基づき1mol%以上25mol%以下の濃度で使用する、請求項
14に記載の粉末冶金的製造方法。
【請求項16】
前記ドーピング元素を含有するセラミック化合物を、前記粉末バッチに基づき1mol%以上10mol%以下の濃度で使用する、請求項
14又は
15に記載の粉末冶金的製造方法。
【請求項17】
前記ドーピング元素を含有するアルミニウム合金を、前記粉末バッチに基づき2重量%以上40重量%以下の濃度で使用する、請求項
14~
16のいずれか1項に記載の粉末冶金的製造方法。
【請求項18】
前記ドーピング元素を含有するアルミニウム合金を、前記粉末バッチに基づき2重量%以上25重量%以下の濃度で使用する、請求項
14~
17のいずれか1項に記載の粉末冶金的製造方法。
【請求項19】
請求項1~
13のいずれか1項に記載のターゲット、又は請求項
14~
18のいずれか1項に記載の方法により製造されたターゲット、を使用して実行する物理蒸着法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分の特徴を有するターゲット、物理蒸着法におけて使用されるターゲットの粉末冶金製造方法、及びターゲットの物理蒸着法での使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術においては、様々な層を製造するために、物理蒸着法(英語:physical vapor deposition、略称:PVD))が広範囲に使用されている。上記層が広範囲に使用されているため、様々な種類の成膜材料を蒸着できなければならない。
【0003】
物理蒸着法においては、例えば気化、陰極噴霧(スパッタ堆積)、又はアーク蒸着(陰極アーク蒸着又はアーク源蒸発技術)等の様々な方法が利用可能である。
【0004】
ターゲットは、この目的のために設けられた基板材料上に層を堆積させるPVD法で使用するのに適している。本発明において、「ターゲット」という用語は、特にスパッタターゲット及びアーク蒸着のためのターゲット(アーク陰極とも呼ばれる)を指す。
【0005】
ターゲットは、材料に応じて種々な技術によって製造される。ここでは、原則として、粉末冶金法と溶融冶金法とが区別され得る。粉末冶金方法の場合には、ターゲットの組成に相応して、組み込まれる元素の特性を考慮に入れて選択しなければならない多くの様々な可能性が存在する。例としては、プレス成形、焼結、熱間等方圧加圧法(HIP)、鍛造、圧延、ホットプレス(HP)、又は放電プラズマ焼結法(SPS)(これらを互いに組み合わせてもよい)を挙げることができる。成膜に際して、ターゲット(成膜源、又は略して源としても知られている)には、成膜テェンバー中でプラズマ、アーク、そして最も重要な加熱によって熱応力が加えられる。成膜源の過度の加熱を避けるために、成膜源は裏側から冷却される。この冷却は、ターゲットの裏側の直接水冷、又は硬質銅バッキングプレート若しくは柔質銅膜を介した間接冷却によって行うことができる。
【0006】
従来技術においては、種々の組成を有するターゲットが知られている。
【0007】
このように、特許文献1は、AlxTi1-x-y-zMyRzの組成を有するAlTiターゲットを開示している。
(但し、
Mは、W及びMoから成る群から選択される1つ以上の元素を示し、
Rは、Y、Ce、La、及びミッシュメタルxから成る群から選択される希土類元素を示し、かつ、0.05≦x≦0.7、0.02≦y≦0.25、及び0.0005≦z≦0.05の割合)。
【0008】
特許文献2は、10原子%~50原子%のTi、40原子%~90原子%のAl、並びに0.1原子%~10原子%のCo、0.1原子%~20原子%のCr、0.1原子%~10原子%のTa、0.1原子%~10原子%のW、0.1原子%~10原子%のNb、0.1原子%~10原子%のMo、0.1原子%~10原子%のZr、0.1原子%~10原子%のV、0.1原子%~10原子%のB、0.1原子%~20原子%のSi、0.1原子%~10原子%のY、0.01原子%~5原子%のLa、0.01原子%~5原子%のCe、0.01原子%~5原子%のSeの原子%を含有するCo、Cr、Ta、W、Nb、Mo、Zr、V、B、Si、Y、La、Se、及びCeから成るターゲット組成物を開示している。
【0009】
PVD技術の経済的利用のための最も重要なパラメーターの1つは、基板上の層成長の速度を示す成膜速度である。成膜速度は、一次近似においては以下のパラメーターに依存している。
・PVD技術の種類(例えば、アーク蒸着、スパッタリング、HIPIMS等)
・成膜源に印加される電力
・ターゲットの数
・成膜装置の規模
・ターゲットと基板の間の距離
・ターゲットに対する基板の回転速度
・基板予負荷(バイアス応力)
【0010】
ターゲット自体の組成も、成膜速度に大きな影響を及ぼす。
【0011】
種々の元素は、それらの物理的特性により異なる気化速度を有する。ここで特に重要な要因は、元素の結合、元素の大きさ(原子半径及び原子量)、並びに電子を自由な非結合状態に転移させるのに必要な仕事関数である。元素の結合によって、原子又は原子クラスターをターゲット表面から気相へと転移させるのにどれ位の衝突エネルギー(特に、スパッタリングの場合)が必要か特定する。作動ガスによる衝突過程において(以降、作動ガスの例としてArについて述べるが、それに限定されない)、ターゲットの原子を更にスパッタリングできる、より多くのArイオンを発生させる二次電子も生ずる。これらのスパッタ工程の有効性は、供給エネルギー、とりわけエネルギー密度に大きく左右される。これが十分に高くなったときのみ、ターゲットに噴霧できる。ここで、成膜速度(噴霧速度、スパッタ速度とも呼ばれる)は、エネルギー密度の増加と共に急激に増加し、非常に高いエネルギー密度でのみ飽和に達する。
【0012】
エネルギー密度は、衝突するArイオンのより高いエネルギーによって高くできるか、又は成膜装置の別のパラメーター(例えば、二次電子と作動ガスとの相互作用を増大させ、それによりそのイオン化度を増大させる磁場等)によって影響されることがある。しかしながら、とりわけ衝突するArイオンのより高いエネルギーも、ターゲットの熱応力を増加させる(Arイオンの衝突エネルギーのほぼ90%は熱に変換されて、わずかな割合だけが所望のスパッタリングを行う)。基本的に、それらは全てプロセス制御パラメーターである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】日本国特許第3084402号
【文献】中国特許第104480444号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、気化速度を速め、それにより成膜速度を速めたターゲット、及びターゲットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は、請求項1の特徴を有するターゲット、請求項13の特徴を有する方法、及び請求項16に記載の使用によって達成される。
【0016】
本発明は、アルミニウム系材料、チタン系材料、及びクロム系材料、並びにそれらの全ての組み合わせからなる群から選択される複合材料から構成されるマトリックスを有し、マトリックスがドーピング元素でドーピングされ、物理蒸着法において使用されるターゲットであって、ドーピング元素は、セラミック化合物又はアルミニウム合金の成分としてマトリックス中に埋め込まれており、かつドーピング元素は、ランタノイド:La、Ce、Nd、Sm、及びEuからなる群から選択されることを特徴とする。
ドーピング元素は、ターゲットの全濃度において、1原子%以上かつ10原子%以下、好ましくは5原子%以下の範囲で存在する。
マトリックス中の元素は、ターゲットの60原子%以上かつ99原子%以下の割合を占める。
マトリックスは、Al
x
M
1-x
の組成を有するアルミニウム系材料として存在し、式中、Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ta、W、Siからなる群からの1つ以上の元素であり、かつxは、25原子%より大きい。
マトリックスは、Ti
x
M
1-x
の組成を有するチタン系材料として存在し、式中、Mは、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ta、W、Siからなる群からの1つ以上の元素であり、かつxは、50原子%より大きい。
マトリックスは、Cr
x
M
1-x
の組成を有するクロム系材料として存在し、式中、Mは、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Ta、W、Siからなる群からの1つ以上の元素であり、かつxは、50原子%より大きい。
ターゲット中の酸素含有量は、5000μg/g未満であり、好ましくは3000μg/g未満である。
ターゲット中の4.5eV以上の仕事関数を有する元素の割合は、10原子%未満である。
セラミック化合物は、ホウ化物及び/又は炭化物及び/又は窒化物及び/又はケイ化物からなる群から選択される。
ドーピング元素はセリウムであり、セラミック化合物として二ケイ化セリウムの形で存在する。
ドーピング元素はセリウムであり、50重量%より高いセリウム割合を有するCe-Al合金として存在する。
ドーピング元素はLaであり、かつ25mol%未満の六ホウ化ランタン割合を有する六ホウ化ランタンの形でセラミック化合物として存在する。
本発明の製造方法は、粉末バッチを製造するためにドーピング元素を金属粉末中へと導入し、粉末バッチを圧縮し、かつ金属粉末は、アルミニウム系材料及び/又はチタン系材料及び/又はクロム系材料からなる群から選択され、物理蒸着法において使用されるターゲットの粉末冶金的製造方法であって、ドーピング元素をセラミック化合物又はアルミニウム合金の成分として金属粉末中に導入し、かつドーピング元素としてランタノイド:La、Ce、Nd、Sm、及びEuからなる群からの元素を使用することを特徴とする。
ドーピング元素を含有するセラミック化合物を、粉末バッチに基づき1mol%以上から25mol%以下、好ましくは10mol%以下の濃度で使用する。
ドーピング元素を含有するアルミニウム合金を、粉末バッチに基づき2重量%以上から40重量%以下、好ましくは25重量%以下の濃度で使用する。
本発明の主要な利点は、ランタノイド:La、Ce、Nd、Sm、及びEuから成る群から選択される元素によるターゲットの比較的少量のドーピングによっても達成できる成膜速度(結果として、より速い層成長)にある。
【0017】
本発明は、ドーピング元素を添加することで、成膜速度が非常に効果的に影響されるという出願人の認識に基づく。それは、基本的に以下の2つの効果に基づいている。
【0018】
第一に、ランタノイド:La、Ce、Nd、Sm、及びEuから成る群から選択されるドーピング元素は、相互作用領域の3次元範囲において、衝突するArイオンに存在するエネルギーをより効果的に利用するのに役立つ。選択されたドーピング元素は、その大きさ及び質量によって、利用可能な衝突エネルギー又は運動量をターゲット表面のより小さな相互作用領域に集中させる原子「破城槌(Rammboecke)」のように作用する(粉末冶金により製造されたターゲットの場合のように、ドーピング元素がターゲット中に適切に均質に分布している場合)。このように、伝達された運動エネルギーが少数の原子層に集中し、衝突するArイオンの全エネルギーが、より小さな領域へ集中できる。これにより、衝突するArイオンの一定エネルギーで、スパッタリング速度を速め、より効率的なスパッタリング工程が得られる。これは、二次電子放出の増加にも関連しているため、作動ガスのより高いイオン化度が得られる。
【0019】
第二に、特に低い電子仕事関数を有するランタノイド:La、Ce、Nd、Sm、及びEuから成る群から選択されるドーピング元素によって、二次電子放出を増加させることもできる。電子仕事関数がより低いと言うことは、二次電子の数が増え、作動ガスのイオンの生成確率が向上することを意味し、これにより、より多くのターゲット原子をノックアウトすることができる。
【0020】
本発明では、2つの効果が重なり合うことから、スパッタリング効率は大幅に高まる。
【0021】
反応性スパッタリング工程における更なる有利な効果は、(対応する元素によってより多く集中されたターゲットの表面近くの相互作用領域において)エネルギー密度の増大により、ターゲット表面の毒作用が起こりにくいことである。ターゲットと反応性ガス(例えば、N2)とのより導電性の低い反応生成物の生成、及びターゲット表面上でのその残留(ターゲットの周知の毒作用を引き起こす)は起こりにくくなる。生成物が生成される場合に、これらの生成物は増加したArイオンによって再度速やかに除去され、結果としてターゲットは、より長い間(N2含有量が比較的高い雰囲気の場合にも)所望のメタルモードのスパッタリングモードに留まる。
【0022】
アーク蒸着工程の場合に、本発明の有利な効果は、特にターゲット表面のエネルギー密度が増大し、それによりアーク事象が増加し、結果として気化速度が速まることである。
【0023】
さらに、ランタノイド:La、Ce、Nd、Sm、及びEuから成る群から選択される元素は、達成可能な硬度及び耐摩耗性に関して層特性に更に良い影響を及ぼす。
【0024】
ターゲット中の低い酸素含有量を確保できるようにするために、ドーピング元素が、セラミック化合物又はアルミニウム合金の形でターゲット中に導入される。本明細書に記載された元素は、酸素に対して高い化学的親和性を有するため、純金属形又は非合金形で急速に酸化する。ドーピング元素が酸化物の形で存在するのであれば、これらは非導電性であるため、蒸着工程において蒸気相への転移は非常に起こりにくい。ホウ化物、炭化物、窒化物、及びケイ化物、又はAl系合金等のセラミック化合物の形では、これらの元素は大部分酸化から保護される。
【0025】
二ケイ化セリウムは、ターゲット製造の温度範囲(350℃まで)において金属のセリウムと比べて酸化に対しはるかに耐性があるので、二ケイ化セリウムは、セリウム添加に特に適している。さらに、二ケイ化セリウムは、高い脆性を有し、その結果として、機械的粉砕(フライス加工)によって極めて微細な微粒子を生成できる。このことは、ターゲットを粉末冶金により製造する場合に好ましい。微粒子粉末を用いると、ドーピング元素の非常に均質な分布が得られる。
【0026】
さらに、5000μg/g未満、好ましくは3000μg/g未満のターゲット中の酸素含有量が、相特性のために特に好ましいことが分かっている。蒸着されたナノ結晶性PVD層の特性に関して、酸素含有量が高いと、粒界強度の低下(界面の軟化)をもたらし、これにより、層の硬度及び弾性率の低下を引き起こす。
【0027】
4.5eV以上の仕事関数を有する元素の割合が非常に小さいのが好ましい。特に10原子未満が好ましい。
【0028】
このようにしてグローバル(全ターゲットに基づき)仕事関数の望ましくない増加を回避することができる。また、ターゲットを構成する元素の仕事関数間の差が大きいと、ターゲットの微細構造が、例えば、Ti、Al、又はCeAlから構成され、PVD法において異なる速度で除去される、いろいろな粒子が生成され、この方法で蒸着された層の化学的性質もターゲットの組成と比べて大幅に変化する場合もある。この効果は、PVD法の安定性の観点から望ましくない。
【0029】
本発明を、以下で図面を用いてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】ドーピング元素Ce又はLaの含有量の関数としての成膜速度(蒸着速度としても知られている)を示す図である。
【
図2】TiAlLaB6ターゲット断面の光学顕微鏡写真を示す図である。
【
図3】TiAlCeターゲットの断面の光学顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、TiAlターゲット、TiAlCeターゲット、及びTiAlLaB6ターゲットに対するドーピング元素Ce又はLaの含有量y(原子%)の関数としての成膜速度(nm/分)を示す。成膜速度は、Ti
1-xAl
xN層、Ti
1-x-yAl
xCe
yN層、及びTi
1-x-yAl
x(LaB
6)
yN層の断面形状をREMによって測定した。ドーピングされていないTiAlターゲットの成膜速度は、0原子%のドーピング元素を有する点に相当する。ドーピング元素Ce又はLaの含有量yを、蒸着層において測定し、層の組成についての実験式は、Ti
1-x-yAl
x(Ce/La)
yNである。層中の元素濃度の測定は、EDXによって測定した。
【0032】
約2原子%~2.5原子%(Ce又はLaB6)を有するターゲットの目標とする合金によって、反応性スパッタリング(ガス混合物:Ar/N2)に対して50%~80%のスパッタ速度の増加を達成することができた。
【0033】
説明の言葉として、ターゲット中でランタンはLaB6として存在するが、そこから蒸着される層は、元素のランタンとして、好ましくはTi又はAlの格子位置に存在すると言ってもよい。
【0034】
図2は、TiAlLaB6ターゲット断面の光学顕微鏡写真を示す。図に示すように、明色の領域はアルミニウムからなり、灰色の領域はチタンからなり、そして黒色の領域はLaB6粉末粒子からなる。
【0035】
図3は、TiAlCeターゲット断面の光学顕微鏡写真を示す。図に示すように、明色の領域はアルミニウムからなり、灰色の領域はチタン粉末粒子からなり、微粒子の暗灰色の凝集物はCeAl合金からなる。微細構造中の黒色の領域は、製造に起因した空隙(試料の研磨時に生じた粒子)に相当する。
【実施例】
【0036】
製造例
【実施例1】
【0037】
Ti/Al/LaB6の公称組成49.0mol%/49.0mol%/2.0mol%を有するターゲットを粉末冶金により製造するために、460.4gのTi粉末、259.5gのAl粉末、及び80.0gのLaB6粉末を混合して800gの粉末バッチを製造した。これらの使用重量は、57.6重量%/32.45重量%/10.0重量%の組成のTi/Al/LaB6に相当する。これらの元素に基づけば、この組成は、43.8原子%/43.8原子%/1.8原子%/10.6原子%のTi/Al/La/Bに相当する。その後、粉末バッチを室温で鍛造して成形体にし、続いて350℃で鍛造して半加工品とした。その後、半加工品からφ75mm×6mmの寸法を有するターゲットを機械加工により製造した。上記の材料の性質は、材料断面の光学顕微鏡写真を用いて
図2に示されている。この方法で製造されたターゲット、すなわち、φ75mm×6mmの寸法を有するディスクを、研究室用蒸着装置(改造されたLeybold Heraeus Z400)の銅陰極にインジウムを用いて接合し、装置に取り付けた。PVD法において、0.35Paの全圧p
gesamtでAr及びN
2(20%のN
2)のガス混合物中でターゲットに噴霧した。ターゲットは、9.0W/cm
2の電力密度で35分間作動された。結果として生成される層は、単結晶Si板(100配向、20×7×0.38mm
3)及び金属組織学的に研磨されたオーステナイト板(20×7×0.8mm
3)上に蒸着させた。層の満足のいく付着の保証を可能とするために、基板材料を成膜装置中で430±20℃で熱エッチングを施す前に、基板材料をアセトン及びエタノール中で洗浄した。この熱エッチング工程後に、清浄なAr雰囲気中で6Paの全圧でプラズマエッチングを施した(10分間)。成膜工程時に、基板温度は430±20℃であり、バイアス電位は-50Vであった。このように蒸着された層は、走査型電子顕微鏡(REM)及びX線回折(XRD)によって調べられる、高密度構造を有すると共に面心立方結晶構造を有する。化学組成は、REMにおいてエネルギー分散型X線分光分析(EDX)によって調べた。蒸着層中のLa含有量を減少させるために、TiAl小片(4×4×4mm
3の寸法、及び50原子%/50原子%のTi/Alの化学組成を有する8個の小片)をレーストラック中に配置した。TiAlLaB6ターゲットのTiAl小片による被覆がわずかであるにもかかわらず(レーストラックの10%未満)、成膜速度の明白な増加を検出することができた(
図1参照)。層の厚さは、La含有量(
図1)について、それぞれ約3650nm又は4800nm(3650nmは、層中に約1.5原子%のLaを有する層に対して達成された)であった。Ti
1-x-yAl
xLa
yN層の機械的特性を、ナノインデンテーションにより試験した。同じ条件で蒸着された純粋なTi
1-xAl
xNと比較して機械的特性の向上を示した。
【実施例2】
【0038】
Ti/Al/Ceの公称組成49.0原子%/49.0原子%/2.0原子%を有するターゲットを粉末冶金により製造するために、475.3gのTi粉末、260.2gのAl粉末、及び64.5gの88重量%/12重量%のCe/Al粉末を混合して800gの粉末バッチを製造した。これらの使用重量は、59.4重量%/32.5重量%/8.1重量%の組成のTi/Al/CeAlに相当する。その後、粉末バッチを室温で鍛造して成形体にし、続いて350℃で鍛造して半加工品とした。その後、半加工品からφ75mm×6mmの寸法を有するターゲットを機械加工により製造した。上記の材料の性質は、材料断面の光学顕微鏡写真を用いて
図3に示されている。この方法で製造されたφ75mm×6mmの寸法を有するターゲットを、研究室用蒸着装置(改造されたLeybold Heraeus Z400)の銅陰極にインジウムにより接合し、装置に取り付けた。PVD法において、0.35Paの全圧p
gesamtでAr及びN
2(20%のN
2)からのガス混合物中でターゲットに噴霧した。ターゲットは、9.0W/cm
2の電力密度で45分間作動された。結果として生成される層は、単結晶Si板(100配向、20×7×0.38mm
3)及び金属組織学的に研磨されたオーステナイト板(20×7×0.8mm
3)上に蒸着させた。層の満足のいく付着の保証を可能とするために、基板材料を成膜装置中で430±20℃で熱エッチングを施す前に、基板材料をアセトン及びエタノール中で洗浄した。この熱エッチング工程後、純粋なAr雰囲気中で6Paの全圧でプラズマエッチングを施した(10分間)。成膜工程時、基板温度は430±20℃であり、バイアス電位は-50Vであった。このように蒸着された層は、走査型電子顕微鏡(REM)及びX線回折(XRD)によって調べた、高密度構造を有すると共に面心立方結晶構造を有する。化学組成は、REMにおいてエネルギー分散型X線分光分析(EDX)によって測定した。それらの層は、それぞれ約3600nm又は5000nmの厚さを有する。これらの2つの異なる層厚さは、Ce含有量を減らすために8個のTiAl小片(4×4×4mm
3、50原子%/50原子%のTi/Alの化学組成)をレーストラック中に配置して、成膜速度の増加を減らすことによって達成された。TiAlCeターゲットのTiAl小片による被覆がわずかであるにもかかわらず(レーストラックの10%未満)、成膜速度の増加を検出することができた(
図1参照)。Ti
1-x-yAl
xCe
yN層の機械的特性を、ナノインデンテーションにより試験した。同じ条件で蒸着された純粋なTi
1-xAl
xNと比較してわずかな向上を示した。
【実施例3】
【0039】
Ti/Al/CeSi2の公称組成39.4mol%/60.6mol%/2.1mol%を有するターゲットを粉末冶金により製造するために、383.2gのTi粉末、332.0gのAl粉末、及び84.8gのCeSi2粉末を混合して800gの粉末バッチを製造した。これらの使用重量は、47.9重量%/41.5重量%/10.6重量%の組成のTi/Al/CeSi2に相当する。元素に基づくと、この組成は、37.0原子%/57.0原子%/2.0原子%/4.0原子%のTi/Al/Ce/Siに相当する。その後、粉末バッチを室温で鍛造して成形体にし、続いて350℃で鍛造して半加工品とした。その後、半加工品からφ75mm×6mmの寸法を有するターゲットを機械加工により製造した。