(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】表面層付き成形断熱材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 59/02 20060101AFI20221221BHJP
C04B 35/83 20060101ALI20221221BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20221221BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20221221BHJP
F23M 5/00 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
F16L59/02
C04B35/83
B32B5/26
B32B9/00 A
F23M5/00 D
(21)【出願番号】P 2019551119
(86)(22)【出願日】2018-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2018039191
(87)【国際公開番号】W WO2019087846
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2017209613
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101823
【氏名又は名称】大前 要
(74)【代理人】
【識別番号】100181412
【氏名又は名称】安藤 康浩
(72)【発明者】
【氏名】竹内 敬一
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-089238(JP,A)
【文献】特開2017-172790(JP,A)
【文献】特開平06-190962(JP,A)
【文献】特開2015-174807(JP,A)
【文献】特開2012-184135(JP,A)
【文献】特開2014-211221(JP,A)
【文献】特開2000-327441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/02
C04B 35/83
B32B 5/26
B32B 9/00
F23M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維系成形断熱材と、
前記炭素繊維系成形断熱材
の一つの表面上に積層された
1枚の膨張黒鉛シートと、
前記膨張黒鉛シートに接して積層された炭素繊維シート保護層と、を備え、
前記炭素繊維シート保護層は、炭素繊維を交絡させた炭素繊維不織布シートと炭素繊維不織布シートの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなるマトリックスと、を有
し、
前記炭素繊維系成形断熱材の他の表面上には、膨張黒鉛シート及び炭素繊維シート保護層は配されていない、
表面層付き成形断熱材。
【請求項2】
前記炭素繊維シート保護層は、かさ密度が0.1~0.5g/cm
3であり、厚みが0.3~3mmである、
ことを特徴とする請求項1に記載の表面層付き成形断熱材。
【請求項3】
前記炭素繊維シート保護層を構成する炭素繊維が、等方性ピッチ系炭素繊維である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面層付き成形断熱材。
【請求項4】
炭素繊維不織布シートに熱硬化前の熱硬化性樹脂を含浸させる樹脂含浸炭素繊維不織布シート作製ステップと、
1枚の膨張黒鉛シートが
一つの表面に取り付けられ
、他の表面には膨張黒鉛シートが取り付けられていない炭素繊維系成形断熱材の前記膨張黒鉛シート表面
上のみに、前記炭素繊維不織布シートを少なくとも1つ積層して積層体となす積層ステップと、
前記積層体を加圧しつつ前記熱硬化性樹脂の熱硬化温度以上に加熱して、前記炭素繊維不織布シートを前記膨張黒鉛シート表面に結着する結着ステップと、
結着された前記積層体を不活性ガス雰囲気下で熱処理して、前記熱硬化性樹脂を炭素化させる炭素化ステップと、
を有する表面層付き成形断熱材の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維が交絡された炭素繊維構造体に熱硬化前の熱硬化性樹脂を含浸させてプリプレグとなすプリプレグ作製ステップと、
炭素繊維不織布シートに熱硬化前の熱硬化性樹脂を含浸させる樹脂含浸炭素繊維不織布シート作製ステップと、
前記プリプレグ
の一つの表面上
のみに
1枚の膨張黒鉛シートを積層し、さらに前記膨張黒鉛シート表面
上のみに前記樹脂含浸炭素繊維不織布シートを少なくとも1つ積層して積層体となす積層ステップと、
前記積層体を加圧しつつ前記熱硬化性樹脂の熱硬化温度以上に加熱して、前記プリプレグ、前記膨張黒鉛シート、および前記炭素繊維不織布シートを結着する結着ステップと、
結着された前記積層体を不活性ガス雰囲気下で熱処理して、前記熱硬化性樹脂を炭素化させる炭素化ステップと、
を有する表面層付き成形断熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維を用いた成形断熱材に関し、詳しくは耐久性を高めるための表面層が設けられた成形断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維系の断熱材は、熱的安定性や断熱性能に優れ且つ軽量であることから、種々の用途で使用されている。このような断熱材には、炭素繊維を交絡してなる炭素繊維フェルトや、炭素繊維と樹脂材料の炭素化物とを含んだ炭素繊維系成形断熱材がある。炭素繊維フェルトは、可とう性に優れるという長所を有し、炭素繊維系成形断熱材は、形状安定性に優れ、微細な加工が可能であるという長所を有する。
【0003】
炭素繊維を用いた成形断熱材には、炭素繊維を交絡してなる炭素繊維フェルトに樹脂材料を含浸させ炭素化させたフェルト系の成形断熱材や、湿式法あるいは乾式法で炭素繊維ミルド(短繊維)を合成樹脂とともに成形し炭素化させたショートファイバー系の成形断熱材がある。
【0004】
何れの断熱材を使用するかは、使用目的や用途に応じて適宜選択される。炭素繊維系成形断熱材は、熱的安定性、断熱性能に優れ且つ形状安定性に優れることから、シリコン、サファイア、炭化ケイ素などの結晶成長炉、金属やセラミックスの焼結に用いられる熱処理炉や熱間等方圧加圧炉(HIP炉)、真空蒸着炉等の高温炉の断熱材として使用されている。
【0005】
ところが、高温炉内では、酸素ガスなどの酸化性のガスが製造雰囲気に混入したりする。酸素ガスは活性(反応性)が高く、炭素繊維系成形断熱材と酸素ガスとが反応して炭素酸化物(一酸化炭素、二酸化炭素等)が生じる。これにより特に炭素繊維が劣化し、炭素繊維により構成される骨格構造が崩れ、当該骨格構造が多数の空間を形成することにより得られる断熱作用が低下する。また、この劣化により特に炭素繊維が粉化して炉内雰囲気中に放出されて、製品品質を低下させるというおそれもある。
【0006】
特に、炉内を常圧付近又は高圧にしたり、アルゴンガスや窒素ガスを流したりする熱処理炉やHIP炉では、気流や圧力差によって成形断熱材内部に酸化性ガスが浸透しやすく、上記問題が顕著に現れることになる。
【0007】
この問題を解決するため、特許文献1は、膨張黒鉛を圧延して得られる膨張黒鉛シートを成形断熱材の表面に接着する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【0009】
この技術によると、実質的にガス不浸透である膨張黒鉛シートが、成形断熱材の内部へのガスの浸透を防止し、成形断熱材の劣化を防止できるとされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者が上記特許文献1の技術を検討したところ、次のような問題点があることを知った。膨張黒鉛シートは、膨張黒鉛を圧延してシート状にしているものであり、黒鉛の層と層との間を結着させるバインダー成分は存在していない。このため、膨張黒鉛シートは、反応性ガス雰囲気下で長期間使用したり、酸化損耗が起きやすい環境で使用したりすると、表面に解離などの劣化が目立つようになるとともに、黒鉛層の剥離等が進行してガス浸透防止機能を失ってしまい、成形断熱材の長寿命化を図れなくなるという課題がある。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、断熱作用の低下や無用なコスト高を招くことなく、成形断熱材内部へのガスの浸透を長期間にわたって抑制し得た成形断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための成形断熱材に係る本発明は、次のように構成されている。
炭素繊維系成形断熱材と、前記炭素繊維系成形断熱材の一つの表面上に積層された1枚の膨張黒鉛シートと、前記膨張黒鉛シートに接して積層された炭素繊維シート保護層と、を備え、前記炭素繊維シート保護層は、炭素繊維を交絡させた炭素繊維不織布シートと炭素繊維不織布シートの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなるマトリックスと、を有し、前記炭素繊維系成形断熱材の他の表面上には、膨張黒鉛シート及び炭素繊維シート保護層は配されていない、表面層付き成形断熱材。
【0013】
上記本発明では、炭素繊維系成形断熱材上に、膨張黒鉛シートと、炭素繊維シート保護層と、が順に積層されている。ここで、膨張黒鉛シートは、成形断熱材内部へのガスの浸透を防止するように作用する。また、炭素繊維シート保護層は、酸化性ガスが発生した場合に、膨張黒鉛シートに先んじて酸化性ガスと反応するため、膨張黒鉛シートの早期の劣化が防止される。この結果、膨張黒鉛シートによるガス浸透防止効果を長期間にわたって得ることができる。つまり、膨張黒鉛シートおよび炭素繊維シート保護層からなる表面層は、ガスの成形断熱材内部への浸透を長期間にわたって防止するように作用する。
【0014】
ここで、炭素繊維系成形断熱材は、市販のものを使用することができ、たとえば上述したフェルト系の成形断熱材や、ショートファイバー系の成形断熱材を使用できる。また、膨張黒鉛シートは、市販のものを使用することができる。また、炭素繊維不織布シートとしては、市販のものを用いることができ、たとえば炭素繊維シート、炭素繊維ペーパーや炭素繊維フェルトを用いることができる。
【0015】
また、炭素質からなるマトリックスは、炭素繊維表面を被覆するとともに、炭素繊維シート保護層と膨張黒鉛シートとを結着する。マトリックスは炭素質であれば特に限定はされないが、熱硬化性樹脂の炭素化物であることがより好ましい。
【0016】
また、膨張黒鉛シートは、炭素繊維系成形断熱材に接して積層されていてもよく、両者の間に接着性を高める層が介在していてもよい。膨張黒鉛シートを成形断熱材に接して積層する場合には、熱硬化性樹脂などの接着樹脂が炭素化してなる炭素化物が、両者の界面近傍に存在している構成とすることが好ましい。また、膨張黒鉛シートを2層以上積層するとコスト高になるため、膨張黒鉛シートは1層とする。
【0017】
この一方、炭素繊維シート保護層は、膨張黒鉛シートに直接接している。炭素繊維シート保護層は、所望の厚みとするために2枚以上積層された構成としてもよい。
【0018】
上記構成において、炭素繊維シート保護層は、かさ密度が0.1~0.5g/cm3であり、厚みが0.3~3mmであることが好ましい。
【0019】
炭素繊維シート保護層のかさ密度が小さくなるに伴い、膨張黒鉛シートの保護効果が小さくなる。他方、炭素繊維シート保護層のかさ密度が大きくなるに伴い、膨張黒鉛シートとの接着が難しくなる。両者のバランスから、炭素繊維シート保護層のかさ密度は、0.1~0.5g/cm3であることが好ましく、0.2~0.4g/cm3であることがより好ましく、0.2~0.3g/cm3であることがさらに好ましい。
【0020】
また、炭素繊維シート保護層の厚みが小さくなるに伴い、膨張黒鉛シートの保護効果が小さくなる。他方、炭素繊維シート保護層の厚みが大きくなると、その分コスト高になる。両者のバランスから、炭素繊維シート保護層の厚みは、0.3~3mmであることが好ましく、0.4~2.0mmであることがより好ましく、0.5~1.5mmであることがさらに好ましい。
【0021】
上記構成において、炭素繊維シート保護層を構成する炭素繊維が、等方性ピッチ系炭素繊維であるであることが好ましい。
【0022】
等方性ピッチ系炭素繊維は、柔らかく膨張黒鉛シートに損傷を与えにくいとともに、膨張黒鉛シートとの接着性が良好であるため、好ましい。
【0023】
上記課題を解決するための成形断熱材の製造方法に係る第1の本発明は、次のように構成されている。
炭素繊維不織布シートに熱硬化前の熱硬化性樹脂を含浸させる樹脂含浸炭素繊維不織布シート作製ステップと、1枚の膨張黒鉛シートが一つの表面に取り付けられ、他の表面には膨張黒鉛シートが取り付けられていない炭素繊維系成形断熱材の前記膨張黒鉛シート表面上のみに、前記炭素繊維不織布シートを少なくとも1つ積層して積層体となす積層ステップと、前記積層体を加圧しつつ前記熱硬化性樹脂の熱硬化温度以上に加熱して、前記炭素繊維不織布シートを前記膨張黒鉛シート表面に結着する結着ステップと、結着された前記積層体を不活性ガス雰囲気下で熱処理して、前記熱硬化性樹脂を炭素化させる炭素化ステップと、を有する表面層付き成形断熱材の製造方法。
【0024】
上記課題を解決するための成形断熱材の製造方法に係る第2の本発明は、次のように構成されている。
炭素繊維が交絡された炭素繊維構造体に熱硬化前の熱硬化性樹脂を含浸させてプリプレグとなすプリプレグ作製ステップと、炭素繊維不織布シートに熱硬化前の熱硬化性樹脂を含浸させる樹脂含浸炭素繊維不織布シート作製ステップと、前記プリプレグの一つの表面上のみに1枚の膨張黒鉛シートを積層し、さらに前記膨張黒鉛シート表面上のみに前記樹脂含浸炭素繊維不織布シートを少なくとも1つ積層して積層体となす積層ステップと、前記積層体を加圧しつつ前記熱硬化性樹脂の熱硬化温度以上に加熱して、前記プリプレグ、前記膨張黒鉛シート、および前記炭素繊維不織布シートを結着する結着ステップと、結着された前記積層体を不活性ガス雰囲気下で熱処理して、前記熱硬化性樹脂を炭素化させる炭素化ステップと、を有する表面層付き成形断熱材の製造方法。
【0025】
上記2つの製造方法の相違点は、樹脂含浸炭素繊維不織布シートを積層する際に、成形断熱材部分がすでに炭素化しているか(第1の本発明製造方法)、炭素化していないのか(第2の本発明製造方法)という点である。これらのいずれかを採用することにより、簡便で低コストな手法で、本発明に係る表面層付き成形断熱材を製造することができる。炭素繊維が交絡された炭素繊維構造体は、フェルト系、ショートファイバー系のいずれでもよい。
【発明の効果】
【0026】
以上に説明したように、本発明によると、低コストでもってガスの浸透を抑制し得た長寿命な表面層付き炭素繊維系成形断熱材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明に係る表面層付き成形断熱材の表面近傍の断面顕微鏡写真である。
【0028】
【
図2】
図2は、比較例1に係る表面層付き成形断熱材の耐久性試験2後の膨張黒鉛シート表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施の形態)
本発明に係る表面層付き成形断熱材は、炭素繊維系成形断熱材と、炭素繊維系成形断熱材に積層された膨張黒鉛シートと、膨張黒鉛シートに接して積層された炭素繊維シート保護層と、を備えている。ここで、炭素繊維シート保護層は、炭素繊維を交絡させた炭素繊維不織布シートと炭素繊維不織布シートの炭素繊維表面を被覆する炭素質からなるマトリックスと、を有している。つまり、本発明に係る表面層付き成形断熱材は、炭素繊維系成形断熱材の上に、膨張黒鉛シートと炭素繊維シート保護層とからなる表面層が設けられている構成であり、このうちの炭素繊維シート保護層が最表層となる。
【0030】
上記構成では、膨張黒鉛シートが成形断熱材内部へのガスの浸透を防止するように作用する。また、炭素繊維シート保護層は、酸化性ガスが発生した場合に、膨張黒鉛シートに先んじて酸化性ガスと反応するため、膨張黒鉛シートの早期の損耗が防止される。この結果、膨張黒鉛シートによるガス浸透防止効果を長期間にわたって得ることができる。すなわち、膨張黒鉛シートと炭素繊維シート保護層との二層構造の表面層は、ガスの成形断熱材内部への浸透を長期間にわたって防止するように作用する。
【0031】
ここで、炭素繊維系成形断熱材と膨張黒鉛シートとの間に、両者の接着性を高める層(接着層)が設けられていてもよい。この層は、たとえば、熱硬化性樹脂が含浸された炭素繊維不織布シートを炭素化してなるものとすることができる。接着層なしでも両者を強固に接着できる場合には、接着層は設けなくてもよい。
【0032】
ここで、炭素繊維系成形断熱材、接着層、炭素繊維シート保護層などを構成する炭素繊維としては、特に限定されることはなく、例えば石炭又は石油由来の異方性又は等方性ピッチ系、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、フェノール系、セルロース系等の炭素繊維を、単一種又は複数種混合して用いることができる。中でも、等方性ピッチ系炭素繊維が、柔らかく黒鉛シートに損傷を与えにくく、黒鉛シートとの接着性が良好であるため、好ましい。
【0033】
いずれの炭素繊維も、その微視的な構造としては特に限定されず、形状(巻縮型、直線型、直径、長さ等)が同一のもののみを用いてもよく、また異なる構造のものが混合されていてもよい。ただし、炭素繊維の種類やその微視的構造は、製造される表面層付き成形断熱材の物性に影響を与えるので、用途に応じて適宜選択するのがよい。
【0034】
炭素繊維系成形断熱材としては、特に限定されることはなく、市販のものを適宜使用できる。例えば、厚みが3~15mm程度の炭素繊維シートが複数積層されたものを用いることができる。また、長さや幅は特に限定されることはない。また、炭素繊維の微視的構造としては、ランダムな方向に配向した炭素繊維が複雑に交わっているものを用いることが好ましい。
【0035】
膨張黒鉛シートとしては、特に限定されることはなく、市販のものを適宜使用できる。
【0036】
炭素繊維シート保護層を構成する炭素繊維不織布シートとしては、特に限定されることはなく、例えば厚みが0.3~3mm程度のものを用いることができる。また、長さや幅は特に限定されることはない。また、炭素繊維不織布シートの微視的構造としては、最次元的に、あるいは面方向にランダムな方向に配向した炭素繊維が複雑に交わっているものを用いることが好ましい。
【0037】
また、これらの材料は、長尺や長幅なものを用いて表面層付き成形断熱材を作製後に切断等してもよく、表面層付き成形断熱材のサイズにあらかじめ切断してもよい。
【0038】
マトリックスは、炭素繊維の表面全部、あるいは、炭素繊維の表面の一部を被覆し、あるいは炭素繊維相互間を埋めるように存在しているものである。また、炭素マトリックスは炭素質であればよく、その由来となる化合物は特に限定されることはない。なかでも、炭素繊維不織布シートに含浸可能な樹脂材料の炭素化物であることが好ましい。炭素繊維系成形断熱材と膨張黒鉛シートとの間に接着層を設ける場合には、接着層、炭素繊維不織布シートに含浸させる熱硬化性樹脂が同一の材料であることが好ましい。このような樹脂材料としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂を用いると、膨張黒鉛シートと炭素繊維不織布シートとを熱硬化により簡便かつ強固に結着させることができる。
【0039】
ここで、熱硬化性樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、熱硬化性樹脂は、そのまま炭素繊維不織布シートに含ませてもよく、溶剤で希釈して含ませてもよい。溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコールを用いることができる。
【0040】
また、成形断熱材のかさ密度は、0.10~0.30g/cm3とすることが好ましく、0.12~0.20g/cm3であることがより好ましく、0.13~0.16g/cm3であることがさらに好ましい。成形断熱材の厚みは、目的とする断熱性能などに応じて適宜設定すればよい。
【0041】
また、膨張黒鉛シートのかさ密度は、0.5~1.5g/cm3とすることが好ましく、0.6~1.3g/cm3であることがより好ましく、0.8~1.1g/cm3であることがさらに好ましい。また、膨張黒鉛シートの厚みは、0.1~1.5mmであることが好ましく、0.2~1.0mmであることがより好ましく、0.3~0.5mmであることがさらに好ましい。
【0042】
次に、成形断熱材の製造方法について説明する。
【0043】
(第1の製造方法)
(膨張黒鉛シートが貼りつけられた成形断熱材の準備)
市販の黒鉛シートが接着された成形断熱材を使用することができる。また、熱硬化性樹脂などを用いて、成形断熱材に膨張黒鉛シートを貼りつけ、その後熱硬化、炭素化を行って両者を接着してもよい。このとき、成形断熱材と膨張黒鉛シートとの間に、熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維ペーパーなどを介在させたり、熱硬化性樹脂などの接着剤液を膨張黒鉛シート表面および/または成形断熱材表面に塗布したりして、両者の密着性を高める構成としてもよい。熱硬化や炭素化は、公知の手法を採用できる。熱硬化性樹脂は、そのまま用いてもよく、メタノール、エタノールなどのアルコール溶媒に溶解させて用いてもよく、炭素質の粒子や短繊維がさらに含まれている構成としてもよい。
【0044】
ここで、成形断熱材の形状は特に限定されるものではなく、たとえば直方体や円筒状などであればよい。
【0045】
(樹脂含浸炭素繊維不織布シート作製ステップ)
炭素繊維不織布シートは、市販のものを用いることができる。炭素繊維不織布シートに、熱硬化性樹脂溶液を塗布やスプレーにより含浸させて、樹脂含浸炭素繊維不織布シートとなす。
【0046】
(積層ステップ)
膨張黒鉛シートが接着された成形断熱材の膨張黒鉛シート上に接して、樹脂含浸炭素繊維不織布シートを積層して積層体となす。樹脂含浸炭素繊維不織布シートは、2枚以上積層してもよい。
【0047】
(結着ステップ)
上記積層体を目的の厚みとなるようにプレス機を用いて加圧しつつ、熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度に加熱し、所定の時間(例えば、1~10時間)保持して、積層体を結着する。
【0048】
(炭素化ステップ)
結着された積層体を、不活性雰囲気で1000~2500℃で所定の時間(例えば、1~20時間)加熱し、熱硬化性樹脂を炭素化させて、表面層付きの成形断熱材を得る。この炭素化によって、膨張黒鉛シート上に積層された樹脂含浸炭素繊維不織布シートは、炭素繊維シート保護層となる。また、膨張黒鉛シートと成形断熱材との間に樹脂含浸炭素繊維不織布シートを配置した場合、この層は炭素化によって接着層となる。
【0049】
(第2の製造方法)
第2の製造方法では、成形断熱材として炭素化されていないものを用いる点で上記第1の製造方法と異なっている。ここで、樹脂含浸炭素繊維不織布シート作製ステップ、結着ステップ、炭素化ステップは、上記第1の製造方法と同様であるため、これらについての詳細な説明は省略する。
【0050】
(プリプレグ作製ステップ)
炭素繊維が交絡された炭素繊維構造体に熱硬化前の熱硬化性樹脂を含浸させてプリプレグとなす。炭素繊維構造体としては、フェルト系のものやショートファイバー系のものを用いることができる。好ましくは炭素繊維が三次元的にランダムに交絡されたものを用いる。熱硬化性樹脂は、炭素繊維不織布シートに含浸させるものと同様でよく、溶媒に溶解した状態で含浸させてもよい。
【0051】
(樹脂含浸炭素繊維不織布シート作製ステップ)
上記第1の製造方法と同様にして、炭素繊維不織布シートに熱硬化前の熱硬化性樹脂を含浸させて樹脂含浸炭素繊維不織布シート作製する。
【0052】
(積層ステップ)
プリプレグ上に膨張黒鉛シートを積層し、さらに膨張黒鉛シート表面に樹脂含浸炭素繊維不織布シートを少なくとも1つ積層して積層体となす。このとき、所望とする断熱性能を得るために、プリプレグを2以上積層する構成としてもよい。
【0053】
また、上記第1の製造方法と同様に、熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維ペーパーを、プリプレグと膨張黒鉛シートとの間に介在させたり、熱硬化性樹脂などの接着剤液を膨張黒鉛シート表面および/または成形断熱材表面に塗布したりしてもよい。また、結着ステップで加圧している際に、十分な量の熱硬化性樹脂が膨張黒鉛シートとの界面に存在する場合には、このような手段を講じなくともよい。さらに、熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維ペーパーとしては、上記樹脂含浸炭素繊維不織布シートと同一のものを用いることもできる。
【0054】
この後、上記第1の製造方法と同様にして、結着ステップおよび炭素化ステップを行う。この炭素化によって、プリプレグは炭素繊維系成形断熱材となり、樹脂含浸炭素繊維不織布シートは炭素繊維シート保護層となる。
【0055】
ここで、特に2000℃以上の温度で熱処理する場合、炭素繊維やマトリックスなどの黒鉛構造が発展する場合もあるが、本発明においては、全ての炭素質材料は、非晶質炭素からなる構造、黒鉛質炭素からなる構造、両者が混在した構造全てを含むものを意味する。
【実施例】
【0056】
実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0057】
(実施例1)
成形断熱材(表面層が設けられていないもの)としては、市販のピッチ系炭素繊維からなるフェルト系成形断熱材(大阪ガスケミカル製DON-1000-R 形状:厚み30mm、幅1m、長さ1.5mの平板、かさ密度:0.13g/cm3)を用いた。
【0058】
市販のピッチ系炭素繊維からなるカーボンペーパー(大阪ガスケミカル製ドナカーボペーパー S-255AH 厚み2.4mm、幅1m、長さ1.5m、目付:75g/m2)30重量部に、レゾール系フェノール樹脂70重量部を均一含浸させ熱硬化性樹脂が含浸された炭素繊維不織布シートを作製した。
【0059】
上記成形断熱材に、上記熱硬化性樹脂含浸炭素繊維不織布シートを乗せ、その上に同じ幅及び長さの膨張黒鉛シート(東洋炭素製 パーマフォイルPF-38 形状:厚み0.38mm)を乗せ、さらに膨張黒鉛シートの上に上記熱硬化性樹脂含浸炭素繊維不織布シートを1枚乗せて、積層体となした。この後、当該積層体を、加熱圧縮プレスを用いて、面圧0.05MPa、加熱温度200℃で30分間保持し、熱硬化性樹脂を熱硬化させて、当該積層体を接着した。
【0060】
熱硬化後の積層体を熱処理炉に入れ、不活性雰囲気下、2000℃で5時間保持する熱処理を行って、熱硬化性樹脂を炭素化し、膨張黒鉛シートと炭素繊維シート保護層とからなる表面層が設けられた成形断熱材を得た。このとき、炭素繊維シート保護層のかさ密度が0.24g/cm3であり、厚みが0.6mmであった。
【0061】
(比較例1)
膨張黒鉛シート上に熱硬化性樹脂含浸炭素繊維不織布シートを積層しなかったこと以外は、実施例1と同様な方法で黒鉛シートが接着された成形断熱材を得た。
【0062】
上記実施例1及び比較例1に係る表面層付き成形断熱材について、以下の条件で耐久性、剥離性を測定した。
【0063】
(耐久性試験1)
上記実施例1及び比較例1に係る表面層付き成形断熱材を、50mm×50mm×30mmの直方体に切り出し、温度700℃、空気流量2L/minに設定された空気雰囲気の電気炉に保持し、表面層の剥離状態を観察した。この結果、実施例1にかかる成形断熱材は試験開始から3時間後に表面層の消耗が見られたものの、この時点で膨張黒鉛シートには剥離は見られなかった。他方、比較例1にかかる成形断熱材は、試験開始から3時間後に膨張黒鉛シートの剥離が見られた。
【0064】
(耐久性試験2)
上記実施例1及び比較例1に係る表面層付き成形断熱材を、50mm×50mm×30mmの直方体に切り出し、温度700℃、空気流量2L/minに設定された空気雰囲気の電気炉に4時間保持した。試験後の断熱材の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1では、炭素繊維保護層の劣化は見られたものの膨張黒鉛シートの劣化が殆ど確認されなかった。
図2は、比較例1に係る表面層付き成形断熱材の耐久性試験2後の膨張黒鉛シート表面の状態を示す顕微鏡写真である。比較例1では、
図2に示すように、膨張黒鉛シートに解離などの劣化が見られた。
【0065】
(耐久性試験3)
上記実施例1及び比較例1に係る表面層付き成形断熱材を、50mm×50mm×30mmの直方体に切り出し、温度700℃、空気流量2L/minに設定された空気雰囲気の電気炉に保持した。このとき、表面層の剥離状態を観察するとともに、酸化消耗による表面層付き成形断熱材の質量変化を測定した。この際、表面層のみ空気が触れるように治具にて表面層以外(膨張黒鉛シートと炭素繊維シート保護層以外)を保護した。この結果、実施例1にかかる成形断熱材は、試験開始から6時間後の消耗率(表面層付きの成形断熱材の質量減少率)が18.8%であり、この時点で膨張黒鉛シートの剥離は見られなかった。他方、比較例1にかかる成形断熱材は、試験開始から6時間後の消耗率が26.3%であり、この時点で膨張黒鉛シートの剥離が見られた。
【0066】
(剥離試験)
上記実施例1にかかる成形断熱材を4cm×4cm×3cmの直方体に切り出し、試験片とした。2液性接着剤を用いて、この試験片の積層方向(厚さ方向)上下面に剥離試験治具を接着し、エー・アンド・デイ製テンシロン万能材料試験機(RTC-1210)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/minで厚さ方向に引っ張った。この結果、成形断熱材部分の破壊が膨張黒鉛シートや炭素繊維シート保護層の破壊や剥離よりも先に起こった。このことから、炭素繊維シート保護層と黒鉛シートとの接着強度は成形断熱材部分よりも高く、十分なものであることが確認された。
【0067】
以上のことから、本発明によると、膨張黒鉛シートおよび炭素繊維シート保護層の2層構造の表面層を設けるという簡便な手法で、成形断熱材のガスによる劣化を長期間に抑制し得た表面層付き成形断熱材を実現できることが分かる。
【0068】
図1に、実施例1に係る表面層付き成形断熱材の表面層近傍の断面顕微鏡写真を示す。この写真からわかるように、炭素繊維間の空隙が多い成形断熱材4上に、炭素繊維間の空隙が成形断熱材4よりも少ない接着シート3、緻密な構造の膨張黒鉛シート2、接着シート3とほぼ同様の炭素繊維シート保護層1、が順に積層されていることが分かる。
【0069】
なお、上記実施例では、本発明にかかる第1の製造方法を採用したが、第2の製造方法を採用しても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
上記で説明したように、本発明によると、大幅なコスト上昇を伴うことなく、ガスによる断熱性能の低下を抑制し得た長寿命な表面層付き成形断熱材を実現できるので、その産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0071】
1 炭素繊維シート保護層
2 膨張黒鉛シート
3 接着シート
4 成形断熱材