IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テルモ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図1
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図2
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図3
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図4
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図5
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図6
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図7
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図8
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図9
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図10
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図11
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図12
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図13
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図14
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図15
  • 特許-薬剤付与器具および薬剤層の形成方法 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】薬剤付与器具および薬剤層の形成方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20221221BHJP
【FI】
A61M25/10 502
A61M25/10 510
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019555364
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2018043180
(87)【国際公開番号】W WO2019103098
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2017224338
(32)【優先日】2017-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】北川 悠乃
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博
(72)【発明者】
【氏名】下山 真和
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-205037(JP,A)
【文献】国際公開第2007/148714(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0371837(US,A1)
【文献】特開2005-518(JP,A)
【文献】特開2013-223540(JP,A)
【文献】特開2007-190369(JP,A)
【文献】特表2006-500996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に挿入して使用される医療器具に張り付け可能な薬剤付与器具であって、
柔軟なシートと、
前記シートの一方面に設けられる薬剤層と、を有し、
前記薬剤層は、前記薬剤付与器具が前記医療器具に張り付けられる前に事前に前記シートの一方面に設けられ
前記シートは、熱収縮チューブである薬剤付与器具。
【請求項2】
前記シートの前記薬剤層が設けられる側と反対側の面に設けられる接着層をさらに有する請求項1に記載の薬剤付与器具。
【請求項3】
前記接着層は、加熱により接着力を発揮する請求項2に記載の薬剤付与器具。
【請求項4】
前記シートは、筒状であり、前記薬剤層は、前記シートの外周面に設けられる請求項1~3のいずれか1項に記載の薬剤付与器具。
【請求項5】
前記医療器具は、拡張および収縮が可能なバルーンである請求項1~のいずれか1項に記載の薬剤付与器具。
【請求項6】
前記薬剤層の薬剤は、水不溶性薬剤、水溶性薬剤、親水性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1つを含有する請求項1~のいずれか1項に記載の薬剤付与器具。
【請求項7】
生体内に挿入して使用される医療器具の表面に薬剤を配置するための薬剤層の形成方法であって、
柔軟なシートの一方面に薬剤層が設けられた薬剤付与器具の前記薬剤層が設けられる側の反対面を、前記医療器具の表面に張り付けるステップを有し、
前記薬剤層は、前記薬剤付与器具が前記医療器具に張り付けられる前に事前に前記シートの一方面に設けられ
前記シートは、熱収縮チューブである薬剤層の形成方法。
【請求項8】
前記張り付けるステップにおいて、前記シートの前記薬剤層が設けられる側の反対面に設けられる接着層を前記医療器具の表面に接着させる請求項に記載の薬剤層の形成方法。
【請求項9】
前記張り付けるステップにおいて、前記接着層を加熱して前記接着層に接着力を発揮させる請求項に記載の薬剤層の形成方法。
【請求項10】
前記シートは、筒状であり、前記薬剤層は、前記シートの外周面に設けられる請求項のいずれか1項に記載の薬剤層の形成方法。
【請求項11】
前記張り付けるステップにおいて、生体内から抜去した医療器具に前記薬剤付与器具を張り付ける請求項~1のいずれか1項に記載の薬剤層の形成方法。
【請求項12】
前記医療器具は、拡張および収縮が可能なバルーン、ガイドワイヤ、ガイディングシース、ガイディングカテーテルまたはステントである請求項~1のいずれか1項に記載の薬剤層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーン等の医療器具の表面に薬剤を配置するための薬剤付与器具および薬剤層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体管腔内に生じた病変部(狭窄部)の改善のために、バルーンカテーテルが用いられている。バルーンカテーテルは、通常、長尺なシャフト部と、シャフト部の遠位側に設けられて径方向に拡張可能なバルーンとを備えている。収縮されているバルーンを、細い生体管腔を経由して体内の目的場所まで到達させた後に拡張させることで、病変部を押し広げることができる。
【0003】
しかしながら、病変部を強制的に押し広げると、平滑筋細胞が過剰に増殖して病変部に新たな狭窄(再狭窄)が発症する場合がある。このため、最近では、バルーンの表面に狭窄を抑制するための薬剤をコーティングした薬剤溶出バルーン(Drug Eluting Balloon:DEB)が用いられている。薬剤溶出バルーンは、拡張することで表面にコーティングされている薬剤を病変部へ瞬時に放出し、これにより、再狭窄を抑制することができる。
【0004】
バルーンの表面に薬剤の層を形成する方法として、例えば特許文献1には、バルーンに薬剤を含む溶液をスプレーする方法、ディッピングする方法、ブラシにより塗布する方法、回転体により塗布する方法、ピペットにより供給する方法などが挙げられている。
【0005】
特許文献2には、拡張用バルーンと、拡張用バルーンの外側に位置する薬剤供給用バルーンとの間に、薬剤を充填したデバイスが記載されている。薬剤供給用バルーンには、薬剤を放出するための多数の微細孔が形成されおり、拡張用バルーンと薬剤供給用バルーンの間には、外部から薬剤を追加供給できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第8597720号明細書
【文献】特開2010-154919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法は、バルーンの表面に適切な量の薬剤を迅速に配置することが困難である。また、特許文献2に記載のデバイスは、バルーンに薬剤を外部から供給できるが、構造が複雑であるため、バルーンに薬剤を容易に配置できない。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、医療器具の表面に、適切な量の薬剤を迅速かつ容易に配置できる薬剤付与器具および薬剤層の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明に係る薬剤付与器具は、生体内に挿入して使用される医療器具に張り付け可能な薬剤付与器具であって、柔軟なシートと、前記シートの一方面に設けられる薬剤層と、を有し、前記薬剤層は、前記薬剤付与器具が前記医療器具に張り付けられる前に事前に前記シートの一方面に設けられ、前記シートは、熱収縮チューブである。
【0010】
上記目的を達成する本発明に係る薬剤層の形成方法は、生体内に挿入して使用される医療器具の表面に薬剤を配置するための薬剤層の形成方法であって、柔軟なシートの一方面に薬剤層が設けられた薬剤付与器具の前記薬剤層が設けられる側の反対面を、前記医療器具の表面に張り付けるステップを有し、前記薬剤層は、前記薬剤付与器具が前記医療器具に張り付けられる前に事前に前記シートの一方面に設けられ、前記シートは、熱収縮チューブである。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成した薬剤付与器具は、医療器具の表面に張り付けることで、医療器具の表面に、適切な量の薬剤層を迅速かつ容易に配置できる。
【0012】
前記薬剤付与器具は、前記シートの前記薬剤層が設けられる側と反対側の面に設けられる接着層をさらに有してもよい。これにより、接着層を医療器具の表面へ接着して、薬剤層を医療器具の表面へ剥がれることなく効果的に配置できる。
【0013】
前記シートは、筒状であり、前記薬剤層は、前記シートの外周面に設けられてもよい。これにより、バルーン等の筒状の医療器具の外周面に、適切な量の薬剤層を迅速かつ容易に配置できる。
【0014】
前記シートは、熱収縮チューブであってもよい。これにより、医療器具に薬剤付与器具を被せて加熱することで、シートを縮径させ、医療器具に密着させて配置できる
【0015】
前記接着層は、加熱により接着力を発揮してもよい。これにより、熱収縮チューブを加熱する際に接着層も加熱され、接着層が接着力を発揮する。このため、加熱する前に、接着層が意図しない位置に接着されることを抑制できる。したがって、薬剤層を医療器具に対して高精度に位置決めした後、熱収縮チューブを医療器具の表面の適切な位置に接着できる。
【0016】
前記医療器具は、拡張および収縮が可能なバルーンであってもよい。これにより、バルーンの表面に、適切な量の薬剤層を迅速かつ容易に配置できる。
【0017】
前記薬剤層の薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、およびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有してもよい。これにより、薬剤層により、血管内の狭窄部の再狭窄を良好に抑制できる。
【0018】
前記薬剤層の薬剤は、水不溶性薬剤、水溶性薬剤、親水性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1つを含有してもよい。これにより、多様な薬剤から、条件等に合わせた適切な薬剤を単独で、または組み合わせて薬剤層に適用できる。
【0019】
上記のように構成した薬剤層の形成方法は、医療器具に薬剤付与器具を張り付けることで、医療器具の表面に、適切な量の薬剤層を迅速かつ容易に配置できる。
【0020】
前記張り付けるステップにおいて、前記シートの前記薬剤層が設けられる側の反対面に設けられる接着層を前記医療器具の表面に接着させてもよい。これにより、接着層を医療器具の表面へ接着させて、薬剤層を医療器具の表面へ剥がれることなく効果的に配置できる。
【0021】
前記張り付けるステップにおいて、生体内から抜去した医療器具に前記薬剤付与器具を張り付けてもよい。これにより、生体内で使用した医療器具を生体から抜去した後、同じ医療器具に薬剤層を配置して再利用できる。
【0022】
前記医療器具は、拡張および収縮が可能なバルーン、ガイドワイヤ、ガイディングシース、ガイディングカテーテルまたはステントであってもよい。これにより、バルーン、ガイドワイヤ、ガイディングシース、ガイディングカテーテルまたはステントの表面に、適切な量の薬剤層を迅速かつ容易に配置できる。医療器具がバルーンであれば、バルーンの表面に、適切な量の薬剤層を迅速かつ容易に配置できる。また、生体内の目的部位の前拡張(プレ拡張)に使用したバルーンを抜去した後、同じバルーンに薬剤層を配置して、目的部位の後拡張(ポスト拡張)に再利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係る薬剤付与器具を示す斜視図である。
図2】薬剤付与器具の断面図である。
図3】バルーンカテーテルを示す正面図である。
図4】バルーンカテーテルの遠位部を示す正面図である。
図5図4のA-A線に沿う断面図である。
図6】薬剤付与器具をバルーンに張り付けている状態を示す斜視図である。
図7】薬剤付与器具を張り付けたバルーンを示す断面図である。
図8】第2実施形態に係る薬剤付与器具を示す斜視図である。
図9図8のB-B線に沿う断面図である。
図10】薬剤付与器具をバルーンに被せた状態を示す正面図である。
図11図10のC-C線に沿う断面図である。
図12】薬剤付与器具を張り付けたバルーンを示す正面図である。
図13図12のD-D線に沿う断面図である。
図14】第3実施形態に係る薬剤付与器具を張り付けたバルーンを示す正面図である。
図15】薬剤付与器具の第1の変形例を示す断面図である。
図16】薬剤付与器具の変形例を示す正面図であり、(A)は第2の変形例、(B)は第3の変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0025】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る薬剤付与器具10は、図1、2に示すように、血管等の生体管腔の狭窄部に挿入して押し広げるためのバルーン30(図3を参照)の表面に、薬剤の層を配置し、薬剤溶出型のバルーンとするためのデバイスである。なお、薬剤付与器具10により薬剤の層を配置する医療器具は、バルーン30に限定されず、例えば、ガイドワイヤ、ガイディングシース、ガイディングカテーテル、ステント等であってもよい。以下では、薬剤付与器具10によりバルーン30に薬剤の層を配置する場合を例示する。
【0026】
薬剤付与器具10は、柔軟なシート11と、薬剤を含む薬剤層12と、接着力を有する接着層13とを備えている。
【0027】
シート11は、柔軟で薄いフィルム状の部材である。シート11は、バルーン30とともに折り畳めるように、薄いことが好ましい。シート11の厚さは、例えば1~250μm、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~50μmである。シート11は、バルーン30を折り畳むための形状付けがされた凹部および/または凸部が形成されてもよい。形状付けは、力を作用させて所定の形状に変形させた状態で加熱することで可能である。凹部および/または凸部は、折り畳まれた状態(図5を参照)から拡張したバルーン30に薬剤付与器具10が張り付けられた後、バルーン30を折り畳まれた状態に戻す(リラップする)ことを補助する機能を有する。
【0028】
シート11の構成材料は、例えばポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、フッ素系ポリマー、熱可塑性エラストマー、不織布等である。
【0029】
薬剤層12は、シート11の一方面に設けられる。薬剤層12に含まれる薬剤は、水溶性薬剤であってもよく、水不溶性薬剤であってもよい。水不溶性薬剤とは、水に不溶または難溶性である薬剤を意味し、具体的には、水に対する溶解度は、1mg/mL未満、さらに、0.1mg/mL未満でもよい。水不溶性薬剤は脂溶性薬剤を含む。薬剤層12に含まれる薬剤量は、特に限定されないが、0.1~10μg/mmの密度で含まれ、好ましくは0.5~5μg/mmの密度、より好ましくは0.5~3.5μg/mmの密度で含まれる。薬剤層12の厚さは、特に限定されないが、0.1~100μmであり、好ましくは0.5~50μm、より好ましくは0.5~10μm若しくは10~30μmである。水不溶性または水溶性である薬剤の形態は、特に限定されず、例えば結晶であっても、結晶でなくてもよい。
【0030】
いくつかの好ましい水不溶性薬剤の例は、免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンを含むシクロスポリン類、ラパマイシン等の免疫活性剤、パクリタキセル等の抗がん剤、抗ウイルス剤または抗菌剤、抗新生組織剤、鎮痛剤および抗炎症剤、抗生物質、抗てんかん剤、不安緩解剤、抗麻痺剤、拮抗剤、ニューロンブロック剤、抗コリン作動剤およびコリン作動剤、抗ムスカリン剤およびムスカリン剤、抗アドレナリン作用剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、ホルモン剤ならびに栄養剤を含む。
【0031】
水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。本明細書においてラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスとは、同様の薬効を有する限りそれらの類似体および/またはそれらの誘導体を含む。例えば、パクリタキセルとドセタキセルは類似体の関係にある。ラパマイシンとエベロリムスは誘導体の関係にある。これらのうちでは、パクリタキセルがさらに好ましい。
【0032】
水溶性薬剤は、水に対する溶解度が1mg/mL以上、好ましくは5mg/mL以上、より好ましくは10mg/mL以上、さらに好ましくは33mg/mL以上の薬剤であればよい。水溶性の抗血小板薬としては、クロピドグレル硫酸塩、チクロピジン塩酸塩、プラスグレル塩酸塩、サルポグレラート塩酸塩などである(なお、水不溶性の抗血小板薬は、アスピリン、シロスタゾール、チカグレロルなどがある)。水溶性の血液凝固阻止剤としては、ワルファリン、エドキサバントシル酸塩水和物、ヘパリン、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩等が挙げられる。薬剤はまた、親水性ポリマーであってもよく、親水性ポリマーによる湿潤コーティング(水に濡れると潤滑性を発揮するコーティング)が可能である。薬剤は、バルーンカテーテルの表面(内外表面)に限らず、血管内に挿入する医療機器(例えば、ガイドワイヤ、ガイディングシース、ガイディングカテーテル等)の表面(内外表面)に、親水性ポリマーとして適用されてもよい。
【0033】
薬剤層12は、添加剤(賦形剤)を含んでもよい。薬剤層12に添加剤が含まれる場合、添加剤は、例えば、水溶性の低分子化合物を含む。水溶性の低分子化合物の分子量は、50~2000であり、好ましくは50~1000であり、より好ましくは50~500であり、さらに好ましくは50~200である。水溶性の低分子化合物は、水不溶性薬剤100質量部に対して、好ましくは10~5000質量部、より好ましくは50~3000質量部、さらに好ましくは100~1000質量部である。水溶性の低分子化合物の構成材料は、セリンエチルエステル、グルコースなどの糖類、ソルビトールなどの糖アルコール、クエン酸エステル、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、尿素、水溶性ポリマー、造影剤、アミノ酸エステル、短鎖モノカルボン酸のグリセロールエステル、医薬として許容される塩および界面活性剤等、あるいはこれら二種以上の混合物等が使用できる。水溶性の低分子化合物は、親水基と疎水基を有し、水に溶解することを特徴とする。水溶性の低分子化合物は、非膨潤性または難膨潤性であることが好ましい。水溶性の低分子化合物を含む添加剤は、シート11の表面上で水不溶性薬剤を均一に分散させる効果を有する。添加剤は、ハイドロゲルでないことが好ましい。添加剤は低分子化合物を含有することで、水溶液に接すると膨潤することなく速やかに溶解する。さらに、血管内でのバルーン30の拡張時に添加剤が溶解しやすくなることで、バルーン30の表面上の水不溶性薬剤の結晶粒子を放出しやすくなり、血管への薬剤の結晶粒子の付着量を増加させる効果を有する。
【0034】
水溶性低分子化合物は、分子量が50~2000であって1mg/mL以上水に溶け、好ましくは5mg/mL以上水に溶け、さらに好ましくは10mg/mL以上水に溶け、さらに好ましくは33mg/mL以上水に溶け、膨潤せずに水に溶解することが好ましい。水溶性低分子化合物は、ハイドロゲルではないことが好ましい。水溶性低分子化合物は、ポリマーではないことが好ましく、さらには水不溶性ポリマーではないことが好ましい。水溶性低分子化合物は、ポリエチレングリコール(PEG)および水溶性PEG(たとえば、ポリエチレングリコール200-600)ではないことが好ましい。
【0035】
物質の溶解性は、20℃で30分以内に溶ける度合いで定義できる。例えば、物質の溶解性は、溶質1g(又は1mL)を溶かすのに要する溶媒量(水の量)で定義できる。溶質1gを溶かすのに要する溶媒量が1mL未満である場合、溶質は溶媒に極めて溶けやすい。この場合、溶解量は1000mg/mL超である。このような物質は、例えばソルビトール、尿素、グリセロールが挙げられる。溶質1gを溶かすのに要する溶媒量が1mL以上10mL未満である場合、溶質は溶媒に溶けやすい。この場合、溶解量は100mg/mLを超えて1000mg/mL以下である。このような物質は、例えばポリソルベート、アミノ酸エステル、ポリエチレングリコール200-600、セリンエチルエステル、造影剤(イオプロミド)、水溶性ポリマーが挙げられる。溶質1gを溶かすのに要する溶媒量が10mL以上30mL未満である場合、溶質は溶媒にやや溶けやすい。この場合、溶解量は33mg/mLを超えて100mg/mL以下である。このような物質は、例えばポリエチレングリコールが挙げられる。溶質1gを溶かすのに要する溶媒量が30mL以上100mL未満である場合、溶質は溶媒にやや溶けにくい。この場合、溶解量は10mg/mLを超えて33mg/mL以下である。溶質1gを溶かすのに要する溶媒量が100mL以上1000mL未満である場合、溶質は溶媒に溶けにくい。この場合、溶解量は1mg/mLを超えて10mg/mL以下である。溶質1gを溶かすのに要する溶媒量が1000mL以上10000mL未満である場合、溶質は溶媒に極めて溶けにくい。この場合、溶解量は0.1mg/mLを超えて1mg/mL以下である。溶質1gを溶かすのに要する溶媒量が10000mL以上である場合、溶質は溶媒にほとんど溶けない。この場合、溶解量は0.1mg/mL以下である。このような物質は、例えばグリセリンの脂肪酸エステルが挙げられる。水溶性とは、「極めて溶けにくい」および「ほとんど溶けない」物質以外の物質をいう。水溶性とは、具体的には「極めて溶けやすい」、「溶けやすい」、「やや溶けにくい」、および「溶けにくい」物質を指す。水溶性とは、好ましくは「極めて溶けやすい」、「溶けやすい」および「やや溶けにくい」物質を指す。
【0036】
接着層13は、シート11の薬剤層12が設けられる側の反対側の面に設けられる。接着層13は、バルーン30の表面に接着される層である。接着層13の厚さは、特に限定されないが、0.01~50μmであり、好ましくは0.1~30μm、より好ましくは0.1~5μmである。
【0037】
接着層13を構成する材料は、水溶性であっても、水不溶性であってもよい。水溶性の接着剤は、例えば、塩化ビニル樹脂系接着剤、酢酸ビニル共重合樹脂系接着剤、EVA樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、アクリル酸エステル系接着剤、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス、水性ウレタン系接着剤等である。接着層13は、例えば、押し付けることで接着する感圧接着剤である。感圧接着剤は、例えば、天然ゴムラテックス系接着剤、シリコーン感圧接着剤、MGラテックス系接着剤、アクリル系接着剤、シリカ系接着剤等である。
【0038】
薬剤付与器具10は、バルーン30の薬剤を配置する範囲を覆うことができる大きさを有することが好ましい。例えば、バルーン30のストレート部31に薬剤を配置する場合、薬剤付与器具10は、ストレート部31を覆うことができる大きさを有することが好ましい。
【0039】
次に、薬剤付与器具10を用いて薬剤を配置するバルーンカテーテル50について、図3~5を参照しつつ説明する。なお、本明細書では、バルーンカテーテル50の生体管腔に挿入する側を「遠位側」、操作する手元側を「近位側」と称することとする。
【0040】
バルーンカテーテル50は、長尺なシャフト部20と、シャフト部20の遠位部に設けられるバルーン30と、シャフト部20の近位端に固着されたハブ26とを有している。
【0041】
シャフト部20は、遠位端および近位端が開口した管体である外管21と、外管21の内部に配置される管体である内管22とを備えている。内管22は、外管21の中空内部に納められており、シャフト部20は、遠位部において二重管構造となっている。内管22の中空内部は、ガイドワイヤを挿通させるガイドワイヤルーメン24である。また、外管21の中空内部であって、内管22の外側には、バルーン30の拡張用流体を流通させる拡張ルーメン23が形成される。内管22は、側面開口部25において外部に開口している。内管22は、外管21の遠位端よりもさらに遠位側まで突出している。内管22の遠位部に、別部材である先端チップが設けられてもよい。
【0042】
バルーン30(医療器具)は、軸心方向における中央部に形成されるストレート部31と、ストレート部31の近位側に位置する近位テーパ部32と、ストレート部31の遠位側に位置する遠位テーパ部33とを備えている。ストレート部31は、拡張させた際に外径が略等しい円筒状となる。近位テーパ部32は、ストレート部31から近位側へ向かって外径が徐々に減少している。遠位テーパ部33は、ストレート部31から遠位側へ向かって外径が徐々に減少している。
【0043】
ストレート部31は、薬剤付与器具10により、薬剤が配置される部位である。なお、薬剤付与器具10によって薬剤が配置される範囲は、ストレート部31のみに限定されず、ストレート部31に加えて近位テーパ部32や遠位テーパ部33の少なくとも一部が含まれてもよい。または、薬剤付与器具10によって薬剤が配置される範囲は、ストレート部31の一部のみであってもよい。
【0044】
バルーン30は、近位テーパ部32の近位端に位置するバルーン融着部34が外管21の遠位部に融着されている。また、バルーン30は、遠位テーパ部33の遠位端に位置するバルーン融着部35が内管22の遠位部に融着されている。なお、バルーン30を、外管21および内管22に固定する方法は、融着に限定されず、例えば接着されてもよい。これにより、バルーン30の内部が拡張ルーメン23と連通している。拡張ルーメン23を介してバルーン30に拡張用流体を注入することで、バルーン30を拡張させることができる。拡張用流体は気体でも液体でもよく、例えばヘリウムガス、COガス、Oガス、Nガス、Arガス、空気、混合ガス等の気体や、生理食塩水、造影剤等の液体を用いることができる。
【0045】
バルーン30は、径方向へ突出するように形状付けられた複数の羽根部37を有している。羽根部37は、周方向に寝かせて畳むことができる。羽根部37は、バルーン30の略軸心方向に延びる折り目によって形成される。羽根部37の長軸方向の長さは、バルーン30の長さを超えない。羽根部37の数は特に限定されず、例えば1~7枚であるが、本実施形態では3枚である。複数の羽根部37は、バルーン30の周方向に均一に配置されることが好ましいが、これに限定されない。
【0046】
バルーン30の軸心方向の長さは特に限定されないが、好ましくは5~500mm、より好ましくは10~300mm、さらに好ましくは20~200mmである。バルーン30の拡張時の外径は、特に限定されないが、好ましくは1~10mm、より好ましくは2~8mmである。
【0047】
バルーン30は、ある程度の柔軟性を有するとともに、血管や組織等に到達した際に拡張されて、その表面に有する薬剤を放出できるようにある程度の硬度を有するものが好ましい。具体的には、金属や、樹脂で構成される。バルーン30の少なくとも表面は、樹脂で構成されていることが好ましい。バルーン30の少なくとも表面の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ナイロンエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。そのなかでも、好適にはポリアミド類が挙げられる。
【0048】
ハブ26は、外管21の拡張ルーメン23と連通して拡張用流体を流入出させるポートとして機能する近位開口部27が形成されている。
【0049】
次に、本実施形態に係る薬剤付与器具10の作用を説明する。
【0050】
薬剤付与器具10によりバルーン30に薬剤を配置する際には、ハブ26の近位開口部27より、インデフレーターまたはシリンジ等を用いて拡張用流体を所定量注入し、拡張ルーメン23を通じてバルーン30の内部に拡張用流体を送り込む。これにより、折り畳まれたバルーン30が拡張する。次に、図6、7に示すように、拡張したバルーン30のストレート部31に、薬剤付与器具10の接着層13を押し付ける。これにより、接着層13が、ストレート部31に接着される。薬剤付与器具10は、ストレート部31よりも大きい場合、適切な大きさに切断してもよい。
【0051】
次に、バルーン30の内部から、拡張用流体をハブ26の近位開口部27より吸引して排出する。これにより、バルーン30が収縮して折り畳まれた状態となる。これにより、バルーン30を、薬剤溶出型のバルーンとして、血管等の生体管腔内の狭窄部の拡張に利用できる。
【0052】
以上のように、本実施形態に係る薬剤付与器具10は、生体内に挿入して使用されるバルーン30(医療器具)に張り付け可能な薬剤付与器具10であって、柔軟なシート11と、シート11の一方面に設けられる薬剤層12と、を有する。
【0053】
上記のように構成した薬剤付与器具10は、バルーン30の表面に張り付けることで、バルーン30の表面に、適切な量の薬剤層12を迅速かつ容易に配置できる。薬剤付与器具10は、バルーン30に薬剤層12を迅速かつ容易に配置できるため、使用の場所を選ばず、例えば臨床現場において、使用後のバルーン30に被せて使用することもできる。このため、例えば、狭窄部の前拡張(プレ拡張)に使用して生体から抜去したバルーン30に適用して、薬剤層12を有する後拡張(ポスト拡張)用のバルーン30とすることができる。したがって、前拡張用のバルーンと後拡張用のバルーンが必要である場合に、1つのバルーン30で2つの役割を果たすことが可能となる。また、例えば大きさ、薬剤の種類、薬剤の量等の異なる複数の薬剤付与器具10から、適切な薬剤付与器具10を適宜選択して使用することもできる。また、薬剤付与器具10は、シート状であるため、例えば臨床現場において、大きな薬剤付与器具10から、バルーン30の径や長さに合わせて、適切な大きさに切り出して使用することもできる。
【0054】
薬剤付与器具10は、シート11の薬剤層12が設けられる側と反対側の面に設けられる接着層13をさらに有する。これにより、接着層13をバルーン30の表面へ接着して、適切な量の薬剤層12をバルーン30の表面へ剥がれることなく効果的に配置できる。
【0055】
また、接着層13は水溶性であってもよい。これにより、接着層13は、バルーン30が水分を含んでいることで、良好な接着性を発揮する。このため、バルーン30に薬剤付与器具10を被せる前に、バルーン30の表面を濡らしてもよい。また、前拡張の後に生体から抜去したバルーン30であれば、水分を含んでいる可能性が高く、接着性が向上する。
【0056】
薬剤層12の水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、およびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有する。これにより、薬剤層12により、血管内の狭窄部の再狭窄を良好に抑制できる。
【0057】
薬剤層12の薬剤は、水不溶性薬剤、水溶性薬剤、親水性ポリマーからなる群から選択される少なくとも1つを含有してもよい。これにより、多様な薬剤から、条件等に合わせた適切な薬剤を単独で、または組み合わせて薬剤層12に適用できる。
【0058】
薬剤付与器具10を張り付ける医療器具は、拡張および収縮が可能なバルーン30である。このため、バルーン30の表面に、薬剤層12を迅速かつ容易に配置できる。
【0059】
また、本発明は、バルーン30の表面に薬剤を配置するための薬剤層の形成方法をも含む。当該薬剤層の形成方法は、生体内に挿入して使用されるバルーン30(医療器具)の表面に薬剤を配置するための薬剤層の形成方法であって、柔軟なシート11の一方面に薬剤層12が設けられた薬剤付与器具10の薬剤層12が設けられる側の反対面を、バルーン30の表面に張り付けるステップを有する。
【0060】
上記のように構成した薬剤層の形成方法は、バルーン30に薬剤付与器具10を張り付けることで、バルーン30の表面に、適切な量の薬剤を迅速かつ容易に配置できる。
【0061】
前記張り付けるステップにおいて、シート11の薬剤層12が設けられる側の反対面に設けられる接着層13をバルーン30の表面に接着させてもよい。これにより、接着層13をバルーン30の表面へ接着して、薬剤層12をバルーン30の表面へ剥がれることなく効果的に配置できる。
【0062】
前記張り付けるステップにおいて、生体内から抜去したバルーン30に薬剤付与器具10を張り付けてもよい。これにより、生体内で使用したバルーン30を生体から抜去した後、同じバルーン30に薬剤層12を配置して再利用できる。
【0063】
薬剤付与器具10が貼り付けられる医療器具は、拡張および収縮が可能なバルーン30である。これにより、バルーン30の表面に、適切な量の薬剤層12を迅速かつ容易に配置できる。また、生体の目的部位の前拡張(プレ拡張)に使用したバルーン30を抜去した後、同じバルーン30に薬剤層12を配置して、目的部位の後拡張(ポスト拡張)に再利用できる。
【0064】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る薬剤付与器具60は、図8、9に示すように、筒状である点で、第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態と同様の機能を有する部位には、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0065】
薬剤付与器具60は、加熱することで収縮する熱収縮チューブ61(シート)と、薬剤を含む薬剤層12と、接着力を有する接着層13とを備えている。薬剤層12は、熱収縮チューブ61の外周面に設けられる。接着層13は、熱収縮チューブ61の内周面に設けられる。
【0066】
シートである熱収縮チューブ61は、加熱することで縮径するチューブである。熱収縮チューブ61は、貫通孔62を維持できる強度を備えている。なお、熱収縮チューブ61は、筒状のフィルムであってもよい。筒状のフィルムは、柔軟かつ薄いため、貫通孔62を維持できる強度を備えるとは限らず、貫通孔62が塞がるように平板状に変形可能である。
【0067】
熱収縮チューブ61の構成材料は、加熱することで縮径すれば限定されないが、内周面に薬剤を被覆できる材料であることが好ましい。熱収縮チューブ61は、比較的低温の加熱温度で収縮することが好ましい。熱収縮チューブ61が収縮する温度は、例えば40~150℃、好ましくは40~100℃である。熱収縮チューブ61が、比較的低温で収縮することで、薬剤の変質やバルーン30の変形等を抑制できる。熱収縮チューブ61の内径の収縮率(収縮後の内径/収縮前の内径)は、特に限定さないが、好ましくは40~80%である。熱収縮チューブ61は、バルーン30を折り畳むための形状付けがされた凹部および/または凸部が形成されてもよい。形状付けは、力を作用させて所定の形状に変形させた状態で加熱することで可能である。凹部および/または凸部は、拡張したバルーン30に薬剤付与器具60が張り付けられた後、バルーン30を折り畳まれた状態に戻す(リラップする)ことを補助する機能を有する。
【0068】
チューブ状の熱収縮チューブ61の構成材料は、例えばポリオレフィン、フッ素系ポリマー、ポリ塩化ビニル、熱可塑性エラストマー等である。
【0069】
筒状のフィルムである場合の熱収縮チューブ61の構成材料は、例えばポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等である。
【0070】
接着層13を構成する材料は、シート11を加熱する温度に昇温することで接着力を発揮する材料であってもよい。加熱により接着力を発揮する材料は、例えばスチレン-ブタジエンゴム系接着剤、ポリ(ラクチド-co-グリコチド)共重合体、ポリカプロラクトンなどのポリマーや、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルやポリオキシエチレン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどの界面活性剤、医療用の接着剤として使用されているα-シアノアクリレート系接着剤、フィブリン系接着剤等である。
【0071】
薬剤付与器具60は、拡張した状態のバルーン30を内部に収容して使用される。したがって、薬剤付与器具60の内径は、拡張したバルーン30の外径以上であることが好ましい。
【0072】
薬剤付与器具60の軸方向の長さは、加熱して収縮した際に、バルーン30の薬剤が配置される範囲の軸方向の長さ以上であることが好ましい。本実施形態では、薬剤付与器具60の軸方向の長さは、ストレート部31の長さを超える。
【0073】
次に、第2実施形態に係る薬剤付与器具60の作用を説明する。
【0074】
薬剤付与器具60によりバルーン30に薬剤を配置する際には、ハブ26の近位開口部27より、インデフレーターまたはシリンジ等を用いて拡張用流体を所定量注入し、拡張ルーメン23を通じてバルーン30の内部に拡張用流体を送り込む。これにより、図10、11に示すように、折り畳まれたバルーン30が拡張する。次に、薬剤付与器具60の貫通孔62に、バルーン30を挿入する。なお、貫通孔62にバルーン30を挿入した後に、バルーン30を拡張させてもよい。
【0075】
次に、薬剤付与器具60を、電流が流れることで熱風を供給するドレイヤーやオーブン等により、熱収縮チューブ61が収縮する温度へ加熱する。これにより、図12、13に示すように、熱収縮チューブ11が縮径し、接着層13がバルーン30に密着する。これにより、接着層13がバルーン30の表面に接着される。接着層13が加熱により接着力を発揮する接着剤である場合、熱収縮チューブ61を加熱する際に接着層13も加熱され、接着層13がバルーン30の表面に接着される。収縮した薬剤付与器具60の軸方向の長さが、ストレート部31の長さを超えていれば、収縮した薬剤付与器具60は、ストレート部31の全体を覆うことができる。さらに、収縮した薬剤付与器具60の遠位端は、遠位テーパ部33の近位部を覆い、収縮した薬剤付与器具60の近位端は、近位テーパ部32の遠位部を覆うことができる。これにより、薬剤付与器具60の両端は、ストレート部31を覆う部位よりも径が小さく熱収縮する。これにより、薬剤付与器具60は、バルーン30に対して外れ難く強固に固定される。なお、収縮した薬剤付与器具60の遠位端は、遠位テーパ部33の近位部を覆わなくてもよい。また、収縮した薬剤付与器具60の近位端は、近位テーパ部32の遠位部を覆わなくてもよい。
【0076】
次に、バルーン30の内部から、拡張用流体をハブ26の近位開口部27より吸引して排出する。これにより、バルーン30が収縮して折り畳まれた状態となる。これにより、バルーン30を、薬剤溶出型のバルーンとして、血管等の生体管腔内の狭窄部の拡張に利用できる。
【0077】
以上のように、第2実施形態におけるシートは筒状であり、薬剤層12は、シートの外周面に設けられる。これにより、バルーン30等の筒状の医療器具の外周面に、適切な量の薬剤層12を迅速かつ容易に配置できる。
【0078】
また、薬剤付与器具60のシートは、熱収縮チューブ61である。これにより、バルーン30に薬剤付与器具60を被せて加熱することで、シートである熱収縮チューブ61を縮径させ、バルーン30に密着させることができる。
【0079】
接着層13は、加熱により接着力を発揮してもよい。これにより、熱収縮チューブ61を加熱する際に接着層13も加熱され、接着層13が接着力を発揮する。このため、加熱する前に、接着層13が意図しない位置に接着されることを抑制できる。したがって、薬剤層13をバルーン30に対して高精度に位置決めした後、熱収縮チューブ61をバルーン30の表面の適切な位置に接着できる。
【0080】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係る薬剤付与器具70は、図14に示すように、帯状の長尺なテープ状である点で、第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態と同様の機能を有する部位には、同一の符号を付し、説明を省略する。薬剤付与器具70は、形状以外の構造(シート11、薬剤層12、接着層13)は、第1実施形態と同様である。
【0081】
薬剤付与器具70を使用する際には、薬剤付与器具70を、バルーン30の大きさに合わせた長さに切り、拡張したバルーン30に螺旋状に巻き付け、接着層13をバルーン30に接着させる。これにより、任意の大きさのバルーン30に対して、適切な大きさの薬剤層12を容易に配置できる。
【0082】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、バルーンカテーテル50は、ラピッドエクスチェンジ型(Rapid exchange type)であるが、オーバーザワイヤ型(Over-the-wire type)であってもよい。
【0083】
また、薬剤付与器具10、60、70により薬剤層12を配置する対象は、生体内に挿入して使用される医療器具であれば、バルーン30に限定されず、例えばステント、カバードステント、インプラント等であってもよい。
【0084】
また、薬剤付与器具は、バルーン30の表面に張り付けられるのであれば、接着層を設けられなくてもよい。この場合、薬剤付与器具をバルーン30に張り付ける際に、薬剤付与器具の接着する面またはバルーン30の表面に、接着剤を付着させる。接着剤は、特に限定されないが、液体接着剤であることが好ましく、例えば、シアノアクリレート系の瞬間接着剤、フィブリン接着剤、デンプン系接着剤、天然ゴム系接着剤、セルロース系接着剤、ポリアミド系接着剤等である。これにより、薬剤付与器具に接着層が予め設けられなくても、薬剤付与器具をバルーン30の表面に接着できる。
【0085】
また、図15に示す第1の変形例のように、接着層13に、接着層13から剥離可能な保護フィルム17が張り付けられてもよい。これにより、使用前の接着層13に、ごみ等が付着することを抑制できる。保護フィルム17は、接着層13をバルーン30に接着する前に、容易に剥がすことができる。また、薬剤層12に、薬剤層12を覆う薬剤保護フィルム18が張り付けられてもよい。薬剤保護フィルム18は、薬剤層12に剥離可能に張り付けられる。または、薬剤保護フィルム18は、水溶性フィルムであってもよい。この場合には、接着層13をバルーン30に接着した後、薬剤層12から薬剤保護フィルム18を除去することなく、バルーン30を血管内に挿入することが可能である。薬剤保護フィルム18を搭載した薬剤転写デバイスを貼り付けられたバルーンカテーテル50は、血管内へ挿入時に、薬剤の脱離を抑制できる。薬剤保護フィルム18の構成材料は、例えば、ゼラチンフィルム、コラーゲンフィルム、デンプンフィルム等である。薬剤保護フィルム18は、生体適合性のある接着剤を介して薬剤層12に張り付けられてもよい。生体適合性のある接着剤は、例えば、シアノアクリレート系、ゼラチン系、フィブリン系等の接着剤である。
【0086】
また、薬剤層12は、図16(A)に示す第2の変形例のように、シート11(または熱収縮チューブ61)の面に、部分的に配置されてもよい。なお、薬剤層12が設けられる範囲の形状は、特に限定されない。したがって、薬剤付与器具10、60、70は、薬剤層12が設けられる範囲を任意に設定できる。
【0087】
また、薬剤付与器具10、60、70は、図16(B)に示す第3の変形例のように、複数の孔16を有してもよい。孔16の数や形状は、特に限定されない。
【0088】
なお、本出願は、2017年11月22日に出願された日本特許出願番号2017-224338号に基づいており、それらの開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0089】
10、60、70 薬剤付与器具
11 シート
12 薬剤層
13 接着層
14 貫通孔
30 バルーン(医療器具)
61 熱収縮チューブ(シート)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16