(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】多重核酸増幅測定法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6818 20180101AFI20221221BHJP
C12Q 1/6853 20180101ALI20221221BHJP
【FI】
C12Q1/6818 Z
C12Q1/6853 Z
(21)【出願番号】P 2019564790
(86)(22)【出願日】2018-05-25
(86)【国際出願番号】 EP2018063751
(87)【国際公開番号】W WO2018215640
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-05-21
(32)【優先日】2017-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ゴードン ウィル
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-528029(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194552(WO,A1)
【文献】特開2010-207220(JP,A)
【文献】特表2010-509918(JP,A)
【文献】特開2016-154550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個の試料容器内で複数の標的核酸を検出する方法であって、
(a)複数の標的核酸を含有する可能性のある試料を(i)第1の標識プローブおよび第1のプライマーを含む第1のプライマー
及びプローブセットおよび(ii)第2の標識プローブおよび第2のプライマーを含む第2のプライマー
及びプローブセットと接触させる工程を含み、
前記第1のプライマーは、前記複数の標的核酸のうちの標的核酸に第1の温度でアニールし、前記第2のプライマーは、前記複数の標的核酸のうちの別の核酸に第2の温度でアニールし、前記第1の温度は前記第2の温度よりも高く、
そして第2のプライマーは、第1の温度では前記別の核酸にアニールせず、
(b)前記第1の温度を含む第1のステップおよび前記第2の温度を含む第2のステップを備える少なくとも2ステップのアニール
及び伸長の温度条件を含む増幅反応において、試料中の前記複数の標的核酸を増幅する工程、
(c)前記アニール
及び伸長の温度条件の少なくとも一部にわたって、
(i) 前記第1のステップの間の第1の検出可能なシグナルであって、第1のプライマーのアニール
及び伸長から得られ、そして前記第1の標識により放出されるシグナルに対応する前記第1の検出可能なシグナル;
(ii) 前記第2のステップの間の第2の検出可能なシグナルであって、第1及び第2のプライマーのアニール
及び伸長から得られ、そして前第記第1及び第2の標識により放出されるシグナルに対応する前記第2の検出可能なシグナル
をそれぞれ順次に検出し;そして
(iii)前記第2の検出可能なシグナルから、前記第1の検出可能なシグナルを減算して、第2の標識により放出される検出可能なシグナルを同定する工程;及び
(d)前記複数の標的核酸中の各標的核酸の相対量を測定する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の標識プローブおよび前記第2の標識プローブは、それぞれ同一のレポーター部分により標識されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レポーター部分は蛍光性である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の標識プローブおよび前記第2の標識プローブは、それぞれレポーター部分およびクエンチャー部分により標識されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記レポーター部分および前記クエンチャー部分はフルオロフォアである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記レポーター部分はフルオロフォアであり、前記クエンチャー部分はダーククエンチャーである、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のステップおよび前記第2のステップは、それぞれ少なくとも10秒間保持される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記増幅反応は、DNAポリメラーゼの混合物の存在下で実施される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の温度と前記第2の温度が、少なくとも10℃異なる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の温度と前記第2の温度が、少なくとも15℃異なる、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的に核酸の生体外での増幅および検出に関する。具体的には、本開示は、ハイブリダイズ用のプライマーおよびプローブの複数の組合せを使用して、複数の核酸標的を同時に増幅および検出できる単一管での多重測定法に関し、これらプローブは同一のレポーター標識により標識されている。この測定法は、数個のレポーターを使用してさらに多重に実施できる。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、生体医療の研究、病気の監視、および診断の広範な手法となっている。PCRによる核酸配列の増幅は、米国特許第4,683,195号、第4,683,202号、および第4,965,188号に開示されている。PCRは、現在では当該技術分野で周知であり、科学文献に広く述べられている。PCR Applications, ((1999) Innis et al., eds. Academic Press, San Diego)、PCR Strategies, ((1995) Innis et al., eds., Academic Press, San Diego)、PCR Protocols, ((1990) Innis et al., eds., Academic Press, San Diego)、およびPCR Technology, ((1989) Erlich, ed., Stockton Press, New York)を参照。「リアルタイム」PCR測定法は、初期量の標的配列を同時に増幅、検出、および定量できる。DNAポリメラーゼのヌクレアーゼ活性を使用する基礎的なTaqManのリアルタイムPCR測定法は、Holland et al., (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. 88:7276-7280、および米国特許第5,210,015号に説明されている。ヌクレアーゼ活性のないリアルタイムPCR(ヌクレアーゼフリー測定法)は、2008年12月9日に出願の米国出願第12/330,694号に開示されている。リアルタイムPCRでの蛍光プローブの使用は、米国特許第5,538,848号に開示されている。
【0003】
典型的なリアルタイムPCRの手順には、各標的配列に固有の標識プローブの使用が含まれる。プローブには、検出可能波長の光を放射する1個以上の蛍光部分で標識されることが好ましい。標的配列またはその増幅産物にハイブリダイズすると、プローブには蛍光放射に検出可能な変化が現れる。
【0004】
しかしながら、リアルタイム測定法に残された大きな課題は単一の管内で多数の標的を分析する能力である。医学および診断学の殆どの分野で、対象となる遺伝子座の数は急激に増大している。例えば、少し例を挙げると、法医学的なDNA鑑定、病原性微生物の検出、複数遺伝子座による遺伝子疾患の判定、および複数の遺伝子発現の研究では、複数の遺伝子座を分析する必要がある。現在の方法においては、測定を多重化できる能力は、検出機器により制限される。具体的に、同じ反応で複数のプローブを使用するには、異なる蛍光標識を使用する必要がある。複数のプローブを同時に検出するには、機器により各プローブが放射する光シグナルの差異を区別できることが必要である。現在の技術では、同一の反応容器内で4個までの異なる波長しか検出できない。例えば、最近Bellら(“Real-time quantitative PCR in parasitology(寄生生物学におけるリアルタイム定量PCR)”Trends in Parasitol. (2002) 18(8):337-342.)は、入手可能なリアルタイム定量PCR熱サイクル装置を調査し、4個を超える光学検出経路を備える装置は無いことを報告した。従って、標的毎に1個の固有に標識したプローブを使用する場合は、同一容器内では4個までの異なる標識しか検出できない。実際には少なくとも1個の標的は、通常は対照となる核酸である。従って、実際には同一管内で3個までの実験用標的しか検出できない。光学装置の改善は、有っても僅かな進歩しかないので、増幅および検出技術に急激な変化がない限り、測定を多重化する能力は、臨床での要望に追いついていけない。
【発明の概要】
【0005】
本明細書では、1個の試料容器内で複数の標的核酸を検出する方法を提供し、その方法は、
(a)複数の標的核酸を含有する可能性のある試料を(i)第1の標識プローブおよび第1のプライマーを含む第1のプライマー/プローブセットおよび(ii)第2の標識プローブおよび第2のプライマーを含む第2のプライマー/プローブセットと接触させる工程を含み、ここで第1のプライマーは、複数の標的核酸のうちの1個の標的核酸に対し第1の温度でアニールし、第2のプライマーは、複数の標的核酸のうちの別の1個の核酸に第2の温度でアニールし、第1の温度は第2の温度よりも高く、
(b)第1の温度を含む第1のステップおよび第2の温度を含む第2のステップを備える少なくとも2ステップのアニール/伸長の温度条件を含む増幅反応において、試料中の複数の標的核酸を増幅する工程、
(c)アニール/伸長の温度条件の少なくとも一部にわたって、第1の標識および第2の標識からの検出可能なシグナルをそれぞれ順次に検出する工程、および
(d)複数の標的核酸中の各標的核酸の相対量を測定する工程を含む。
いくつかの態様において、前記第1および第2の標識プローブは、それぞれ同一のレポーター部分により標識されている。特定の態様において、前記レポーター部分は蛍光性である。いくつかの態様において、前記第1および第2の標識プローブは、それぞれレポーター部分およびクエンチャー部分により標識されている。特定の態様において、前記レポーター部分および前記クエンチャー部分はフルオロフォアである。いくつかの態様において、前記レポーター部分はフルオロフォアであり、前記クエンチャー部分はダーククエンチャーである。
いくつかの態様において、前記検出工程はさらに、
(i)前記第1の標識によって放射されるシグナルに対応する第1のシグナルを前記第1のステップ中に検出し、
(ii)第2のシグナルを前記第2のステップ中に検出し、および
(iii)前記第1のシグナルを前記第2のシグナルから減算して、前記第2の標識により放射される検出可能なシグナルを識別することを含む。
いくつかの態様において、前記第1および第2のステップはそれぞれ、10秒間以上保持される。特定の態様において、前記第1および第2のステップはそれぞれ、5~10秒間保持される。本明細書において、アニール工程および/または伸長工程のそれぞれは、所定の期間にわたり一定の温度に保持されてもよい。特定の態様において、アニール工程および/または伸長工程のそれぞれは、10秒間以上、15秒間以上、20秒間以上、または5~10秒間にわたり一定温度に保持されてもよい。いくつかの態様において、試料中の複数の標的核酸を増幅することは、少なくとも5~10秒間にわたり一定の第1の温度で反応を保持し、その後に少なくとも5~10秒間にわたり一定の第2の温度で反応を保持することを含む第1のステップを含む。特定の態様において、第1および/または第2の温度のそれぞれは、10秒間以上、15秒間以上、20秒間以上、または5~10秒間保持される。いくつかの態様において、第1および第2の温度は、15℃以上異なり、特に12℃以上異なり、約10℃以上異なる。さらにいくつかの態様において、第1および第2の標識プローブはそれぞれ同一のレポーター部分で標識され、その検出工程はさらに、
(i)前記第1の標識により放射されるシグナルに対応する第1のシグナルを前記第1のステップ中に検出し、
(ii)第2のシグナルを前記第2のステップ中に検出し、および
(iii)前記第1のシグナルを前記第2のシグナルから減算して、前記第2の標識により放射される検出可能なシグナルを識別することを含む。
いくつかの態様において、前記増幅反応は、DNAポリメラーゼの混合物が存在する状態で実施される。
【0006】
また、1個の試料容器中の複数の標的核酸を検出するキットも提供され、このキットは、異なる容器、バイアル、または区画内に、(i)第1の標識プローブと第1のプライマーを含む第1のプライマー/プローブセットおよび(ii)第2の標識プローブおよび第2のプライマーを含む第2のプライマー/プローブセットを含み、前記第1のプライマーは、複数の標的核酸のうちの1個の標的核酸に第1の温度でアニールし、前記第2のプライマーは、前記複数の標的核酸のうちの別の1個の核酸に第2の温度でアニールし、第1の温度は第2の温度よりも高い。このキットは、既知濃度の対照の核酸を任意に含む複数の標的核酸の増幅に必要な試薬をさらに含んでもよい。いくつかの態様において、前記第1および第2の標識プローブは、それぞれ同じレポーター部分で標識されている。特定の態様において、前記レポーター部分は蛍光性である。いくつかの態様において、前記第1および第2の標識プローブは、それぞれレポーター部分およびクエンチャー部分により標識されている。特定の態様において、前記レポーター部分および前記クエンチャー部分はフルオロフォアである。特定の態様において、前記レポーター部分はフルオロフォアであり、前記クエンチャー部分はダーククエンチャーである。いくつかの態様において、このキットは、既知濃度の対照の核酸をさらに含む。いくつかの態様において、1個の試料容器は、流体流路を規定する管およびその内部に配置された複数の区画を含む試料処理用の細管を含み、その管の少なくとも1個の区画は、前記第1および第2のプライマー/プローブセットを含む。本明細書において、前記管は、標的核酸の増幅に必要な試薬を含む1個以上の別の区画をさらに含んでもよい。いくつかの態様において、前記試薬は、DNAポリメラーゼの混合物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、プライマーの2ステップによるアニール/伸長の温度条件を用いて、プライマー/プローブAおよびプライマー/プローブBを使用する試料内の2個の標的配列を増幅する形態を図示している。
【0008】
【
図2】
図2は、プライマーおよびプローブの2個の異なるセットであるプライマー/プローブAおよびプライマー/プローブBを用いて、試料内の2個の標的配列の増幅から生じる相対蛍光値を示し、その増幅工程は、プライマーでの2ステップのアニール/伸長の温度条件を含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義
本明細書で他に定義のない限り、本開示に関連して使用する科学用語および技術用語は、当業者が通常に理解する意味を持つものとする。さらに、文脈で特に必要のない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。冠詞「a」および「an」は、「1つの」または冠詞の文法的な目的である「1つの」よりも多く(すなわち少なくとも1つの)を指すように、本明細書内で使用される。例として、「1個の要素」とは、1個の要素または2個以上の要素を意味する。
【0010】
「検出する」、「検出すること」、「検出」という用語、および類似の用語は、有無、ならびに程度、量、または水準、あるいは何かが発生する確率を確認または決定するプロセスを、広い意味で指すように本出願では使用される。例えば、標的核酸配列に関して使用する際の「検出すること」という用語は、配列の有無、水準、または量、ならびに有無の確率または可能性の確認または判断を示すことができる。当然のことであるが、「有無を検出すること」、「有無の検出」という表現、および関連の表現には、定性検出ならびに定量検出が含まれる。例えば、定量検出には、試料中のHIV関連の核酸配列の水準、量、または含量の測定が含まれる。
【0011】
「核酸」、「ポリヌクレオチド」、および「オリゴヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドのポリマー(例えば、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチド)を指し、かつ天然存在の核酸(アデノシン、グアニジン、シトシン、ウラシル、およびチミジン)、非天然存在の核酸、および修飾核酸を含む。この用語は、ポリマーの長さ(例えば、モノマー数)により限定されない。核酸は一本鎖でも二本鎖でもよく、一般に5’-3’ホスホジエステル結合を含むが、場合によっては、ヌクレオチドの類似体は他の結合を有していてもよい。モノマーは、通常はヌクレオチドを指している。「非天然ヌクレオチド」または「修飾ヌクレオチド」という用語は、修飾した窒素性塩基、糖またはリン酸基を含むヌクレオチドを指し、またはその構造に非天然部分を組み込むヌクレオチドを指す。非天然ヌクレオチドの例として、ジデオキシヌクレオチド、ならびにビオチン化、アミノ化、脱アミノ化、アルキル化、ベンジル化およびフルオロフォア標識したヌクレオチドが挙げられる。
【0012】
「プライマー」という用語は、適切な条件の下で核酸ポリメラーゼによるポリヌクレオチド鎖合成の開始点として作用する短い核酸(オリゴヌクレオチド)を指す。ポリヌクレオチド合成反応および増幅反応は、典型的には、適切な緩衝液、dNTPおよび/またはrNTP、および1つ以上の任意の補因子を含み、適切な温度で実行される。プライマーは、典型的には、標的配列に少なくとも実質的に相補的な少なくとも1つの標的ハイブリダイズ領域を含む。この領域は、典型的には、長さが約15~約40ヌクレオチドである。「プライマー対」とは、標的配列の対向鎖に相補的であり、標的配列を増幅するように設計された順方向プライマーと逆方向プライマー(しばしば5’プライマーおよび3’プライマーとも呼ぶ)を指す。順方向プライマーと逆方向プライマーは、標的配列で互いに増幅可能な距離、例えば約10~5000ヌクレオチドまたは約25~500ヌクレオチド以内に配置される。
【0013】
本明細書で使用される「プローブ」は、例えばこのプローブによって結合、捕捉、またはハイブリダイズされる対象の核酸配列などの特定の目的の標的生体分子に選択的に結合できる任意の分子を意味する。
【0014】
「相補的」または「相補性」という用語は、ポリヌクレオチド中の核酸が異なるポリヌクレオチド中の別の核酸と塩基対を形成する能力を指す。例えば、配列:5’-A-G-T-3’(RNAでは、5’-A-G-U-3’)は、配列:3’-T-C-A-5’(RNAでは、3’-U-C-A-5’)に相補的である。相補性は、一部の核酸のみが塩基対に従って一致するように部分的であってもよく、または全ての核酸が塩基対に従って一致するように全体的であってもよい。プローブまたはプライマーは、標的配列に少なくとも部分的に相補的であるなら、標的配列に対し「特異的」と見なされる。条件にもよるが、標的配列に対して、典型的にはプライマーのような短い核酸に対する相補性度(例えば、80%超、90%超、95%超、またはそれ以上)の方が、長い配列に対する相補性度よりも高くなる。
【0015】
「増幅条件」という用語または類似の表現は、プライマーのハイブリダイズ化および鋳型依存の伸長を可能にする核酸増幅反応(例えばPCR増幅)での条件を指す。「アンプリコン」という用語は、標的核酸配列の全てまたは断片を含み、かつ任意の適切な増幅方法による生体外での増幅の産物として生成される核酸分子を指す。種々のPCR条件は、PCR Strategies (Innis et al., 1995, Academic Press, San Diego, CA) at Chapter 14、および PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (Innis et al., Academic Press, NY, 1990)に説明されている。
【0016】
「熱安定性核酸ポリメラーゼ」または「熱安定性ポリメラーゼ」という用語は、例えば大腸菌由来のポリメラーゼと比較した場合に、高温で比較的安定なポリメラーゼ酵素を指す。熱安定性ポリメラーゼは、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)に典型的な温度サイクル条件での使用に適している。熱安定性ポリメラーゼの例としては、テルムス・サーモフィルス、テルムス・カルドフィルス、テルムスZ05種(例えば、米国特許第5,674,738号を参照)およびテルムスZ05種ポリメラーゼの変異体、テルムス・アクウァティクス、テルムス・フラブス、テルムス・フィリフォルミス、テルムス種sps17、ディノコッカス・ラディオデュランス、ホットスプリングファミリーB/クローン7、バチルス・ステアロテルモフィルス、バチルス・カルドテナックス、テルモトガ・マリティマ、テルモトガ・ネアポリタナ、およびテルモシホ・アフリカヌス、ならびにそれらの修飾物由来のポリメラーゼが挙げられる。
【0017】
「試料」または「生体試料」という用語は、個体からの核酸を含むまたは含むと推定される任意の組成物を指す。この用語には、細胞、組織、または血液の精製成分あるいは分離成分、例えば、DNA、RNA、タンパク質、無細胞部分、または細胞溶解物が含まれる。特定の態様において、分析は全血試料に対し実施される。本明細書で使用される「全血試料」には、血漿または血小板などの成分が除去されていない身体から採取された血液を含む。一般に、抗凝固剤の存在以外には、試料は加工されていない。試料はまた、他種の生体試料、例えば、血漿、血清、血液成分(白血球層)、および乾燥した血液痕を指してもよい。試料はまた、細胞株を含み、個体から採取した細胞の生体外培養物の構成成分や成分を含んでもよい。
【0018】
「キット」という用語は、本明細書内に記載の標的核酸配列を特異的に増幅、捕捉、タグ付け/転化、または検出するための本明細書内に記載の固形支持体を含む少なくとも1個の装置を含む任意の製造物(例えばパッケージや容器)を指す。このキットはさらに、使用説明書、補足試薬、および/または本明細書に記載の方法またはその工程で使用される構成要素またはモジュールを含んでもよい。
【0019】
「フルオロフォア」は、例えば核酸に結合した化合物または部分であり、適切な波長の光によって励起されると光放射可能である。典型的な蛍光色素として、ローダミン色素、シアニン色素、フルオレセイン色素、およびBODIPY(登録商標)色素が挙げられる。フルオロフォアは蛍光性発色団である。
【0020】
「FRET」または「蛍光共鳴エネルギー移動」または「フォスター共鳴エネルギー移動」は、少なくとも2つの発色団、ドナー発色団、およびアクセプター発色団(クエンチャ-と呼ばれる)の間のエネルギーの移動である。通常、適切な波長での光放射によってドナーが励起されると、ドナーはエネルギーをアクセプターに移動する。アクセプターは通常、異なる波長により光放射の形態で移動されたエネルギーを再放射する。アクセプターが「ダーク」クエンチャーである場合に、アクセプターは光以外の形態で移動されたエネルギーを消散させる。特定のフルオロフォアがドナーまたはアクセプターとして機能するかどうかは、FRET対の他方の部材の特性に依存する。一般的に使用されるドナー-アクセプター対には、FAM-TAMRA対が挙げられる。一般的に使用するクエンチャーは、DABCYLおよびTAMRAである。一般的に使用されるダーククエンチャーは、BlackHole QuenchersTM(BHQ)(Biosearch Technologies, Inc. Novato, Cal.)、Iowa BlackTM (Integrated DNA Tech., Inc. Coralville, Iowa)、およびBlackBerryTM Quencher 650 (BBQ-650)(Berry & Assoc., Dexter, Mich.)である。一般的に使用されるドナー-クエンチャー対には、FAM-BHQ対が挙げられる。
【0021】
「ハイブリダイズ化」は、通常2本の一本鎖または少なくとも部分的に一本鎖の核酸間の相互作用である。ハイブリダイズ化は、核酸塩基間の塩基対形成の結果として起こり、水素結合、溶媒排除、塩基スタッキングなどの物理化学プロセスを伴う。ハイブリダイズ化は、全体的に相補的な核酸鎖、または部分的に相補的な核酸鎖の間で起こってもよい。核酸がハイブリダイズ化する能力は、温度およびその他のハイブリダイズ条件に影響され、部分的に相補的な核酸であってもハイブリダイズ化が起こるように操作できる。核酸のハイブリダイズ化は、当技術分野で周知であり、Ausubel (Eds.) Current Protocols in Molecular Biology, v. I, II and III (1997)に詳細に記載されている。
【0022】
「標識」とは、分子に(共有結合的または非共有結合的に)結合した部分を指し、この部分には分子に関する情報を提供可能である。標識の例として、蛍光標識、放射性標識、および質量修飾基が挙げられる。
【0023】
「アニール温度」とは、相補的な一本鎖核酸分子の集団の半分がホモ二本鎖またはヘテロ二本鎖にハイブリダイズする温度を指す。アニール温度は、融解温度(Tm)、すなわち、二本鎖核酸分子の集団の半分が解離する温度に基づくことになる。アニール温度は、溶液のイオン強度およびpH、ならびに濃度、塩基組成、および二次構造に影響を受ける。所定の条件下での一対の相補性核酸のアニール温度は、実験的に決定するか、Visual OMPTM (DNA Software, Inc., Ann Arbor, Mich.)などの市販のソフトウェアを活用して予測できる。
方法
【0024】
本開示は、核酸標的の同時多重検出の方法を提供する。一態様において、この方法では、同一のレポーター部分により標識された複数のプローブを、それぞれが所定の標的配列に対し固有のアニール温度を持つ複数のプライマーとともに利用する。これらプライマーはそれぞれのアニール温度によって識別できるので、同一のフルオロフォアを使用して各プライマーに対し検出可能なシグナルを生成できる。この測定法は、数個のプライマー/プローブセットを使用してさらに多重化してもよく、それぞれのセットは、検出機器によって識別可能なレポーター部分の数以下の異なるレポーター部分で標識されたプローブを含んでいる。
【0025】
本明細書に記載の方法は、プライマーのアニールおよび伸長の各ステップ中に各プライマーセットによって生成されるシグナルの検出を含む。この方法は、例えば
図1に示される。複数の標的核酸配列を含む試料は、(i)第1の標識プローブおよび第1のプライマーを含む第1のプライマー/プローブセット(
図1中のプローブAおよびプライマーA)、および(ii)第2の標識プローブおよび第2のプライマーを含む第2のプライマー/プローブセット(
図1中のプローブBおよびプライマーB)と混合され、この第1のプライマーは、存在する場合に、試料中の標的核酸に第1の温度でアニールするように設計され、この第2のプライマーは、存在する場合に、試料中の別の核酸に第2の温度でアニールするように設計されていて、第1の温度は第2の温度より高い。混合物中の標的核酸配列は、例えば95℃で変性され(区画A)、温度を徐々に例えば70℃まで低下させ、プローブがそれぞれの標的配列にアニールできるようにする(区画B)。混合物の温度を、複数ステップのプライマーのアニール/伸長条件の第1の温度、例えば62℃まで徐々に低下させ(区画C)、プライマーAが標的配列にアニールして(区画C(i))伸長できるようにする(区画C(ii))。プライマーAが伸長すると、プライマーAはプローブAを加水分解して、検出可能なシグナルを生成する。本工程のこの時点では、プライマーAのみが標的にアニールしているので、検出可能なシグナルは、プライマーAとその各標的配列のアニール/伸長のみに起因する。
【0026】
続いて、温度をもう一度プライマーのアニール/伸長条件の第2の温度、例えば50℃に低下させ(区画D)、この時点では、プライマーBは標的配列とアニールし(区画D(i))伸長して(区画D(ii))、最終的にプローブBにハイブリダイズして別の検出可能なシグナルを生成する。プライマーAのアニール/伸長からの検出可能なシグナルは、温度を第2の温度まで低下させても消失しないので、第2の温度での累積した検出可能シグナルは、プライマーAおよびプライマーBのアニールおよび伸長に関連するシグナルに相当する。プライマーBに関連する検出可能なシグナルは、第1の温度での検出可能なシグナルから第2の温度でのそのシグナルを差し引いて計算できる。この方法は
図2にも示されていて、温度に対する蛍光値がプロットされている。温度が低下すると、相対的な蛍光シグナルは増大する。
【0027】
当然のことであるが、この方法は2個のプライマー/プローブセットを使用して図に示されかつ上記に説明されているが、増幅条件での各プライマーと標的配列のアニール温度が試料中のその他のプライマー/標的配列のアニール温度と異なるのなら、より多重化を高めるために複数のプライマー/プローブセットを同時に試料と混合することができる。一態様において、各プライマー/標的配列のアニール温度は、少なくとも15℃異なり、特に少なくとも12℃異なり、少なくとも約10℃異なる。
【0028】
プローブは同一のレポーター部分で標識してもよい。このレポーター部分は発色団、例えばフルオロフォアであってもよく、2個の発色団がレポーター部分として使用される場合には、一方は典型的にはレポーター発色団であり、他方はクエンチャ-である。両方の発色団ともフルオロフォアであってもよく、または発色団の一方は非蛍光性クエンチャ-であってもよい。適切なフルオロフォアの例として、フルオレセイン系(FAM、HEX、TET、JOE、NAN、およびZOE)、ローダミン系(Texas Red、ROX、R110、R6G、およびTAMRA)、シアニン系(Cy2、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、およびCy7)、クマリン系、オキサジン系、チアジン系、スクアラニン系、および核酸の標識および検出に適した蛍光色素の他の系からの各色素が挙げられる。第2の発色団は、同一のプローブオリゴヌクレオチドまたは異なるプローブオリゴヌクレオチドに組み込まれてもよい。一般的に使用されるダーククエンチャーとして、BlackHole QuenchersTM (BHQ), (Biosearch Technologies, Inc., Novato, Cal.)、Iowa BlackTM, (Integrated DNA Tech., Inc., Coralville, Iowa)、およびBlackBerryTM Quencher 650 (BBQ-650), (Berry & Assoc., Dexter, Mich)が挙げられる。
【0029】
いくつかの態様において、各プローブは、FRET対を形成する2個の発色団により標識されている。いくつかの態様において、両方の発色団ともフルオロフォアである。他の態様において、一方の発色団は非蛍光性クエンチャーである。FRET対を形成する発色団は、同一または異なるプローブ分子に結合されてもよい。融解測定法でのFRETプローブの使用は、米国特許第6,174,670号、およびDe Silvaらの“Rapid genotyping and quantification on the LightCyclerTM with hybridization probes(ハイブリダイズプローブを用いたLightCyclerTMでの迅速な遺伝子型解析および定量)”(Biochemica, 2:12-15 (1998))に説明されている。他の態様において、プローブは、標的核酸に結合されたか、または標的核酸内に挿入されたかのいずれかの第2の発色団と相互作用する1個の発色団により標識されている。米国特許第5,871,908号を参照。
【0030】
あるいは、さらに多重化を高めるために、2個以上のレポーター部分またはレポーター部分セットを使用してもよい。例えば、第1のレポーター部分は第1の2個のプライマーとともに使用され、その各プライマーは異なるアニール温度を有するが同一型の検出可能シグナルで検出され、第2のレポーター部分は別の2個のプライマーとともに使用でき、その各プライマーは第1の2個のプライマーと同一のアニール温度を有するが、それらプライマーは第2型の検出可能なシグナルで標識されているので、第1の2個のプライマーとは分離して検出できる。例えば、
図1A~1Dに示した実験での伸長を参照して、プライマー/プローブセットAおよびBのそれぞれは、同一の第1のレポーター部分を使用し、追加の対であるプライマー/プローブセット、例えばセットCおよびD(図示せず)は、第2のレポーター部分を含み、ここで第1および第2のレポーター部分はそれぞれ異なる検出可能シグナルを発生する。従って、個々の標的配列は、それぞれアニール温度および/またはレポーター部分を使用して検出できる。この例では、AおよびBが同一レポーター部分で標識されていても、両者は異なる温度で標的にアニールするので、それによりAはBと区別され、少なくともAの増幅は、CおよびDの増幅中に観察されるレポーター部分とは異なるレポーター部分を使用して検出されるので、それによりAはCおよびDと区別される。
【0031】
上記に説明し図中に示した例では、2セットのプライマーのアニール/伸長工程を使用するが、多くのプライマー/プローブセットを使用してより多重化する要望がある場合には、プライマーのアニール/伸長工程をこの方法にさらに追加できることは、当業者には当然のことである。
【0032】
プライマーのアニール/伸長工程のための適切な温度の選定は、選択し使用した熱安定性ポリメラーゼに依存する。本明細書に示す非限定的な例として、変性工程は、94~98℃、例えば95℃の温度で20~30秒間実施され、プローブのアニール工程は、70~75℃、例えば70℃で10秒間以上実施され、第1のプライマーのアニール/伸長工程は、62~67℃、例えば62℃で10秒間以上実施され、かつ第2のプライマーのアニール/伸長工程は、50~55℃、例えば50℃で10秒間以上実施される。他の態様において、変性工程は、94~98℃、例えば95℃の温度で20~30秒間実施され、プローブのアニール工程は、70~75℃、例えば72℃で10秒間以上実施され、第1のプライマーのアニール/伸長工程は、62~67℃、例えば67℃で10秒間以上実施され、かつ第2のプライマーのアニール/伸長工程は、60~65℃、例えば62℃で10秒間以上実施される。それぞれのアニール/伸長工程では、20秒間以上、例えば15秒間以上、5~10秒間、および一態様においては10秒間以上、一定温度に保持してもよい。
【0033】
本明細書に記載の方法での使用に選択できる種々の熱安定性核酸ポリメラーゼは、当技術分野で公知である。一態様において、Z05ポリメラーゼまたはその変異体が使用される。あるいは、rTthポリメラーゼまたはその変異体が使用される。5’-3’ヌクレアーゼ活性を持たないポリメラーゼの使用が有益な場合もある。プルーフリーディング(3’-5’-エキソヌクレアーゼ)活性のないポリメラーゼの使用が望ましい場合もある。さらに、ポリメラーゼの混合物、例えば第1のプライマー/プローブセットの増幅に適した第1のポリメラーゼおよび第2のプライマー/プローブセットの増幅に適した第2のポリメラーゼの混合物を使用できる。
【0034】
本開示の方法によって検出される標的核酸配列は、任意の長さであってもよい。典型的には、標的核酸の長さは100~1,000ヌクレオチドである。しかしながら、本開示のいくつかの態様において、より長い(数千個のヌクレオチド)標的配列、およびより短い(50~100個のヌクレオチド)標的配列も使用してもよい。標的核酸配列は、天然または実験的な試料源から単離したより大きな核酸分子内に含まれたものでもよい。
【0035】
本開示は一般に試料内に複数の標的が存在する方法を述べているが、当然のことではあるが、いくつかの態様においては、試料内に存在する標的配列は1個のみの場合もある。本開示の典型的な態様において、2個~12個またはそれ以上の異なる標的の部分配列または遺伝子座を検出する「多重」反応が実施される。これらの態様は、一般的に、必ずしもそうではない場合もあるが、各標的の部分配列または遺伝子座に対して異なる増幅プライマーおよび異なるプローブの使用を含む。しかしいくつかの態様において、同一のプライマーを使用して増幅される同一の核酸を、複数のプローブで検出してもよい。これは、単一の配列が数個の目的の標的物または遺伝子座、例えば数個の潜在的な変異部位を含む場合に有益である。各プライマー/プローブセットは、各部位での変異を検出できる。
【0036】
本開示の増幅プライマーは、標的配列の少なくとも1個の既存の変異体に少なくとも部分的に相補的なオリゴヌクレオチドである。プライマーの長さは6~100ヌクレオチドの範囲にあるが、殆どのプライマーは典型的には15~35ヌクレオチドの範囲にある。核酸増幅のためにプライマーを最適化する方法は、例えば、PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications(PCRプロトコル:方法及び応用への手引き), Innis et al., eds., (1990) Academic Pressに記載されている。典型的には、プライマーは、A、C、G、およびTヌクレオチドから構成される合成オリゴヌクレオチドである。しかしながら、核酸内に組み込み可能な新規の塩基ヌクレオチドもまたプライマーに使用できる。例えば、特定の修飾塩基は、増幅の特異性を高めることが公知である。米国特許第6,001,011号を参照。
【0037】
ハイブリダイズプローブの設計は、当該分野で公知である。本開示のいくつかの態様において、測定に供される反応混合物中には複数のプローブが存在してもよい。当業者は、多重測定法に有用なプローブに適用可能な設計基準に容易に気付くであろう。具体的には、同一の反応混合物中で使用できるプローブを、それらプローブに対応する標的配列に合わせて個別に混成のアニール温度を有するように設計すべきである。
試料処理装置
【0038】
本明細書に記載の方法を、核酸増幅技術を実施する試料処理装置で実行できる。
【0039】
一態様において、本明細書に開示された方法は、内蔵型のミクロ規模からマクロ規模の経路、房室、貯蔵部、検出領域および処理領域を含む装置内で実行される。この装置は、例えば、米国特許第6,440,725号、6,783,934号、6,818,185号、6,979,424号、8,580,559号、および8,940,526号に開示されるカートリッジ、装置、容器、またはパウチであってもよく、ならびにCepheid Corp.、Idaho Technology, Inc.および/またはBiofire Diagnostics, Inc.から入手可能な装置であってもよい。
【0040】
例えば、本明細書に記載の方法は、米国出願第201000056383号の
図1に示すように、細胞溶解区域、核酸調製区域、第1ステップ増幅区域、第2ステップ増幅区域を含む内蔵型の核酸分析パウチ内で実施できる。このパウチは、種々のサイズの様々な経路と膨れ部を備え、かつ試料がシステムと様々な区域を通過して流れるように配置され、それにより処理される。試料処理は、パウチ内に配置した種々の膨れ部で実施される。処理区域内および処理区域間で試料を移動するように多数の経路が配置され、流体および試薬を試料に送達し、またはその流体および試薬を試料から除去する別の経路が配置される。パウチ内の液体は、例えば空気圧の圧力によって膨れ部間を移動する。
【0041】
別の例において、本明細書に記載の方法は、米国特許第9,322,052号の
図3~5および9に示される内蔵型の核酸分析カートリッジ内で実施できる。このカートリッジは特に、吸入口を通して導入された流体試料を保持する試料室、洗浄溶液を保持する洗浄室、溶解試薬を保持する試薬室、溶解室、使用済みの試料および洗浄液を受入れる廃棄物室、中和剤を保持する中和剤室、マスター混合物(増幅試薬および蛍光プローブなど)を保持しかつ試薬およびプローブを流体試料から分離した検体と混合するマスター混合物室、反応室、および検出室を含む。
【0042】
特定の態様において、本明細書に記載の方法は、米国特許第7,718,421号に開示されるような試料処理装置内で実施される。米国特許第7,718,421号に開示されるような区画化した装置は、生体試料を受入れ、保管し、処理し、および/または分析するのに都合のよい容器を提供する。特定の態様において、区画化した装置は、複数の処理工程を伴う試料処理手順を容易にする。特定の態様において、試料は、試料装置内に収集されてもよく、この装置は、続いて装置およびその内容物を操作して試料を処理する分析器内に配置される。
【0043】
特定の態様として、易破壊性の封止膜によって区画に分割されている可撓性装置が挙げられる。個々の区画には、試料を処理する種々の試薬と緩衝液が含まれる。留め具と駆動器具を様々な組合せで様々なタイミングで装置に負荷して流体の流れを誘導し、易破壊性の封止膜を破裂させることができる。この易破壊性の封止膜の破裂により、流体の流れを実質的に妨げない装置内部表面を残すことができる。一態様において、処理が進むにつれて、生体試料の流れを装置の遠位端まで導くことができ、廃棄物を、試料を最初に投入した装置の開口部に向けて反対方向に強制的に移動できる。この試料投入口は、ロック機構を備えた蓋によって、場合によっては永久的に密閉でき、また保管のために廃棄物を受け入れる廃棄物室をこの蓋に配置してもよい。この取り組みの大きな利点は、処理済みの試料が未処理の試料が触れた表面と接触しないことにある。この結果として、装置の壁面を覆う可能性がある未処理の試料に存在する微量の反応阻害物が、処理済み試料を汚染する可能性は低くなる。
【0044】
この試料処理装置は、米国特許第7,718,421号の
図1に示されており、複数の区画からなり、かつ圧縮により実質的に平坦にできる透明な可撓性装置を含んでもよい。一態様において、装置には少なくとも2個の区画があってもよい。一態様において、装置には少なくとも3個の区画があってもよい。可撓性装置は、約2~105℃での作動性、試料、標的物および試薬との適合性、低ガス透過性、最小限の蛍光特性、および/または圧縮および屈曲の繰り返しサイクル中の弾力性を提供できる。装置は様々な材料で作製できるが、その例としては、限定はされないが、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリウレタン、ポリオレフィン共重合体、および/または適切な特性を示すその他の材料が挙げられる。
【0045】
態様例として、1つ以上の試薬を、装置区画内に乾燥物質または液体溶液のいずれかとして保存できる。試薬を乾燥形態で保存できる態様において、試薬溶液への転換を進めるように、液状溶液を隣接区画に保存してもよい。典型的な試薬の例として、溶解試薬、溶出緩衝液、洗浄緩衝液、DNase阻害剤、RNase阻害剤、プロテイナーゼ阻害剤、キレート剤、中和試薬、カオトロピック塩溶液、洗浄剤、界面活性剤、抗凝固剤、発芽剤溶液、イソプロパノール溶液、エタノール溶液、抗体、核酸プローブ、ペプチド核酸プローブ、およびチオリン酸核酸プローブが挙げられる。1種の試薬がカオトロピック塩溶液である態様において、好ましい成分は、グアニジニウムイソシアナートまたはグアニジニウム塩酸塩またはそれらの組み合わせである。いくつかの態様において、試料が投入される開口部から試薬を装置中に保存し得る順序は、管を利用する方法では試薬を使用できる順序を反映している。好ましい態様において、試薬は、試料中の事前に選択した成分に特異的に結合できる物質を含む。例えば、物質は核酸に特異的に結合でき、または核酸プローブは特定の塩基配列を持つ核酸に特異的に結合できる。
【0046】
特定の態様において、装置はまた、核酸の選択的吸着を促進するように1個の粒子または複数の粒子などの基質を含んでもよい。これら粒子は、例えば、シリカ粒子、磁性粒子、シリカ磁性粒子、ガラス粒子、ニトロセルロースコロイド粒子、および磁化ニトロセルロースコロイド粒子である。粒子を常磁性にできるいくつかの態様において、粒子は磁場によって捕捉できる。官能基で被覆した表面への核酸分子の選択的吸着を可能にし得る試薬の例は、例えば、米国特許第5,705,628号、5,898,071号、および6,534,262号に開示されている。分離は、溶液のイオン強度とポリアルキレングリコール濃度を操作して、核酸を固相表面に選択的に沈殿させ、かつ可逆的に吸着させることにより実現できる。これらの固相表面が常磁性微粒子である場合に、標的核酸分子が吸着されている磁性粒子は、他の分子は保持せずに核酸のみを保持する条件で洗浄できる。いくつかの企業が、磁気に基づく精製システムを提供していて、例えばQIAGEN社のMagAttractTM、Cortex Biochem社のMagaZorbTM、およびRoche Life Science社のMagNA Pure LCTMなどである。これらの製品は、負に帯電した粒子を使用し緩衝液条件を操作して、種々の核酸を粒子に選択的に結合し、粒子を洗浄し、かつ水性緩衝液中で粒子を溶出する。これらの企業が使用する多くの製品は、カオトロピック塩を使用して磁性粒子への核酸の沈殿を促進している。その例は、米国特許第4,427,580号、4,483,920号、および5,234,809号に開示されている。
【0047】
好ましい態様の例として、2個以上の装置区画の直線的な配置が挙げられる(米国特許第7,718,421号中の
図1)。直線的な配置により、制御した手法で試料とその結果生じる廃棄物と標的物を管内を移動し易くする。試料は、装置の第1の区画内の第1の開口部から投入できる。その後、処理済みの試料からの廃棄物を第1の開口部に向けて戻すことができ、標的物は対向端に押し出され、それにより装置の壁面に付着した可能性のある反応阻害物による標的物の汚染を最小限にし、標的物の次の操作に適した試薬を含むことが可能な装置の清浄な区画内に標的物を封じ込む。いくつかの態様では、それぞれが少なくとも1つの試薬を含む複数の区画を使用してもよい。いくつかの態様において、これら区画は次の状態で試薬を含んでもよい。第2の区画は、固定化された結合試薬および希釈緩衝液を備える表面を含むことができ;第3の区画は、一方はプロテイナーゼKを含み、他方はシリカ磁気ビーズまたはその他の適切な粒子を含む2個の副区画に分割でき;第4の区画内の試薬はいずれかの溶解試薬であってもよく;第5の区画内の試薬は洗浄緩衝液であってもよく;第6~第8の区画内の試薬は、洗浄緩衝液、中和試薬、懸濁緩衝液、溶出試薬、または核酸増幅試薬および検出試薬であってもよい。いくつかの態様において、これら区画は連続的に配置されてもよく、他の態様においては、これら区画は、それらの間の別の区画によって分離されていてもよい。
【0048】
特定の態様において、その試験の一連の現象には、1)収集器具により収集された生体試料、2)試験中に必要な試薬を含有し得る複数の区画を含み、かつ収集した試料を装置の第1の開口部から投入できる可撓性装置、3)制御温度および/またはその他条件を設定して、所定の培養期間中に標的物である有機体または核酸を捕捉できる少なくとも1つの基質、4)基質に結合せずに、それにより液体を廃棄物貯蔵部に移して回収できる未処理試料中の有機体または分子、5)装置に対して圧縮された留め具および/または駆動器具により標的物と分別できる廃棄物貯蔵部中の保存廃棄物、6)反応阻害物を除去でき、かつ装置の別の区画から放出される洗浄緩衝液、7)制御温度での培養後に基質に結合した標的物を分離できる別の区画からの溶出試薬、および8)当業者に周知の技術によって検出でき、かつ装置の第2の開口部から収集できる核酸を含む。一態様例において、試験が進むにつれて、試料の流れは装置中の第1の開口部からその遠位端まで導くことができ、廃棄物の流れは装置の閉じられた試料投入開口部に導くことができ、ここで装置の蓋にある廃棄物室は、廃棄物を受け入れ貯蔵する。その結果として、未処理の試料が接触した反応容器内の表面と処理済みの試料との望ましくない接触が回避され、それにより未処理の試料中に存在しかつ反応容器の壁面を覆った可能性のある微量の反応阻害物による反応の阻害が防止できる。
【0049】
いくつかの態様では、複数の区画に分割された可撓性装置の使用を組み込んでもよく、これら区画は装置の縦軸に対し横方向に配置されてもよく、この装置は試薬ならびに分析器を含んでもよく、またこの装置は、駆動器具および/または留め具などの複数の圧縮部材、および駆動器具および留め具に対向するブロックを備えて、試料を処理できる。これらの駆動器具、留め具、および/またはブロックの様々な組合せを使用して、装置を閉じるように有効に固定し、それにより流体を分離できる。一態様例において、駆動器具またはブロックのうちの少なくとも1つは、試料処理のために装置区画の温度を制御する熱制御要素を備えていてもよい。試料処理装置は、区画に磁場を印加できる少なくとも1つの磁場源をさらに備えてもよい。試料処理装置は、光度計またはCCDなどの検出装置をさらに備えて、装置内で起こりまたは完了する反応を監視できる。
【0050】
中央に配置した駆動器具、および設置しているのならその側面の留め具により装置を圧縮し、各区画を貫通する約1~約500μm、好ましくは約5~約500μmの隙間を持つ流路を形成して、その流路中に液体を流動させることができる。隣接する駆動器具は、流路と液体連通している隣接の区画を緩やかに圧縮して、内部圧力に傾斜をつけ、流路に実質的に均一な隙間を確保する。次に2個の隣接する駆動器具により、それぞれの区画で装置を交互に圧縮および圧力除去して、調節された流量の流れを生成する。流れセンサー、圧力センサー、および/または力センサーを任意に組み込んで、流れの挙動を閉ループで制御可能としてもよい。この流路プロセスは、洗浄、基質の結合効率の向上、および検出に使用できる。
【0051】
粒子の固定化と再懸濁プロセスを使用して、粒子を試料液から分離できる。磁気源によって発生した磁場を、磁気粒子の懸濁液を含む区画に印加して、粒子を管の壁面に捕捉して固定する。捕捉プロセス中に攪拌プロセスを使用してもよい。別の態様において、磁場が印加された区画に流路を形成でき、磁性粒子を流れ中で捕捉して捕捉効率を増大できる。固定された粒子を再懸濁するには、磁場を切断するか除去し、再懸濁には、攪拌プロセスまたは流路プロセスを使用できる。
【0052】
装置区画からのシグナルのリアルタイム検出は、ブロックに接続された光度計、分光計、CCDなどのセンサーを使用して実現できる。一態様例において、圧力を装置区画上にある駆動器具によって加え、装置区画の形状を適切に形成できる。シグナルの方式は、蛍光などの特定の波長での光の強度、スペクトル、および/または小単位の画像や量子ドットのような人工要素画像などの画像であってもよい。蛍光での検出の場合に、光学系からの光の励起を使用して反応系を照射し、発光を光度計により検出できる。特定の波長を有する複数のシグナルを検出するように、専用の検出経路または分光計により、異なる波長シグナルを直列または並列で検出できる。
キット
【0053】
いくつかの態様において、今回開示した方法を実行する試薬、材料、および装置をキット内に備える。いくつかの態様において、このキットは、異なる容器、バイアルまたは区画内に、(i)第1の標識プローブおよび第1のプライマーを含む第1のプライマー/プローブセットおよび(ii)第2の標識プローブおよび第2のプライマーを含む第2のプライマー/プローブセットを含む構成要素を備え、ここで、第1のプライマーは第1の温度で複数の標的核酸のうちの1個の標的核酸にアニールし、第2のプライマーは第2の温度で前記複数の標的核酸のうちの別の1個の核酸にアニールし、第1温度は前記第2温度より高い。このキットはさらに、1個以上の異なる容器、バイアルまたは区画内に、限定はされないが、DNAポリメラーゼ、dNTP、溶解および/または洗浄緩衝液を含む標的核酸の増幅に必要な試薬、例えば固定化結合試薬、希釈緩衝液、プロテイナーゼKを含む粒子、シリカ磁気ビーズ、または他の適切な粒子などの表面、溶解試薬、中和試薬、懸濁緩衝液、溶出試薬など、ならびに分析用に試料を採取、保存、および/または調製するための試薬を含む。
【0054】
またこのキットは、前記のような測定処理装置を含み、特定の態様において、この測定処理装置は、装置の1個以上の区画内に保存された本明細書に開示される方法を実行するのに必要な種々の試薬を含む。
【0055】
このキットはさらに、例えば、検出される配列に野生型であるポリヌクレオチド、または検出される配列を含むポリヌクレオチドである対照を含む。
【0056】
このキットはまた、さらに試料の管またはバイアルなどの装置、反応容器(例えば、管、マルチウェルプレート、ミクロ流体チップまたはミクロ流体室など)、ならびに使用説明書またはウェブサイトへの参照説明書を含む。