(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】二酸化炭素電解セル用電極触媒層、ならびにそれを具備する、電解セルおよび二酸化炭素電解用電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 11/073 20210101AFI20221221BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20221221BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20221221BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20221221BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221221BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20221221BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20221221BHJP
【FI】
C25B11/073
B01J23/46 M
C25B1/23
C25B3/26
C25B9/00 G
C25B9/00 Z
C25B11/03
C25B11/052
(21)【出願番号】P 2020049682
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】小藤 勇介
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由紀
(72)【発明者】
【氏名】北川 良太
(72)【発明者】
【氏名】元茂 朝日
(72)【発明者】
【氏名】山際 正和
(72)【発明者】
【氏名】田村 淳
(72)【発明者】
【氏名】吉田 孝史
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 智
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-172037(JP,A)
【文献】特開2020-132965(JP,A)
【文献】特開2018-154899(JP,A)
【文献】特開2019-157251(JP,A)
【文献】特開2016-192399(JP,A)
【文献】特開2018-123390(JP,A)
【文献】特開2017-073310(JP,A)
【文献】特開平01-205088(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0017503(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0056294(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0112720(US,A1)
【文献】国際公開第2015/098089(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/045418(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107841764(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
B01J 23/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料に担持された金属触媒、イオン伝導性物質、および親水性ポリマーを含む二酸化炭素電解セル用電極触媒層であって、前記触媒層の窒素吸着により求められたBET比表面積(A
N2)と、前記触媒層の水蒸気吸着により求められたBET比表面積(A
H2O)とから算出される比(A
H2O/A
N2)が0.08以下である、触媒層。
【請求項2】
前記親水性ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メトキシポリエチレンオキシドメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、シクロデキストリン、およびメチルセルロースからなる群より選ばれる、請求項1に記載の触媒層。
【請求項3】
前記触媒層の厚みが5~200μmである、請求項1および2に記載の触媒層。
【請求項4】
水銀圧入法で細孔径を測定したとき、細孔径を横軸、log微分細孔容積を縦軸とする細孔径分布において、直径5~200μmの範囲に分布頻度が最大となるピークが観察される、請求項1~3のいずれか1項に記載の触媒層。
【請求項5】
前記炭素材料が、カーボン粒子、カーボンナノチューブ、およびグラフェンからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1~4に記載の触媒層。
【請求項6】
前記金属触媒が、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、Ni、Co、Fe、Mn、Ti、Cd、Zn、In、Ga、Pb、およびSnからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属またはその金属酸化物であり、前記金属触媒がナノ粒子、ナノ構造体、ナノワイヤからなる群より選ばれる少なくとも1つの構造を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の触媒層。
【請求項7】
前記ナノ粒子の平均直径が1~15nmである、請求項6に記載の触媒層。
【請求項8】
前記触媒層の単位面積あたりの、前記金属触媒の重量が0.01~5 mg/cm
2である、請求項1~7のいずれか1項に記載の触媒層。
【請求項9】
前記イオン伝導性物質がカチオン交換樹脂またはアニオン交換樹脂である、請求項1~8のいずれか1項に記載の触媒層。
【請求項10】
炭素材料に担持された金属触媒、イオン伝導性物質、および親水性ポリマーを含む組成物を基材表面に塗布し、乾燥することを含む
、請求項1~9のいずれか1項に記載の二酸化炭素電解セル用電極触媒層の製造方法であって、
前記組成物に含まれる親水性ポリマーを有機溶媒によって抽出して含有量を減少させる、または
前記組成物を塗布した後の組成物層を高温焼成することによって前記親水性ポリマーの含有量を減少させる
ことを含む、方法。
【請求項11】
前記有機溶媒が、アセトン、エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記高温焼成の条件が、前記組成物層を400℃以下の温度で加熱することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の触媒層が、電極基材上に形成されている二酸化炭素電解セル用電極。
【請求項14】
水または水酸化物イオンを酸化して酸素を生成するアノードと、前記アノードにアノード溶液を供給するアノード溶液流路とを備えるアノード部と、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成する、請求項13に記載の電極を備えるカソードと、前記カソードに二酸化炭素を供給するガス流路とを備えるカソード部と、前記アノード部と前記カソード部とを分離するセパレータとを具備する二酸化炭素の電解セル。
【請求項15】
水または水酸化物イオンを酸化して酸素を生成するアノードと、前記アノードにアノード溶液を供給するアノード溶液流路を備えるアノード部と、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成する、請求項13に記載の電極を備えるカソードと、前記カソードにカソード溶液を供給するカソード溶液流路と、前記カソードに二酸化炭素を供給するガス流路とを備えるカソード部と、前記アノード部と前記カソード部とを分離するセパレータとを具備し、前記アノードは、前記セパレータと接する第1の面と、前記アノード溶液が前記アノードと接するように、前記アノード溶液流路に面する第2の面とを有する、二酸化炭素の電解セル。
【請求項16】
前記カソードは、前記カソード溶液流路に面する第1の面と、前記ガス流路に面する第2の面とを有し、前記カソード溶液流路は前記カソード溶液が前記セパレータおよび前記カソードと接するように、前記セパレータと前記カソードとの間に配置されている、請求項15に記載の電解セル。
【請求項17】
前記アノードは、メッシュ材、パンチング材、多孔体、および金属繊維焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する基材を備え、 前記アノードは、アノード触媒からなる前記基材、または前記基材の表面に設けられたアノード触媒からなる触媒層を有する、請求項14~16のいずれかに記載の電解セル。
【請求項18】
前記基材は、Ti、Ni、およびFeからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む金属材料からなり、前記アノード触媒は、Ni、Fe、Co、Mn、La、Ru、Li、Ir、In、Sn、およびTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む金属材料、または前記金属を含む酸化物材料からなる、請求項
17に記載の電解セル。
【請求項19】
前記アノード溶液および前記カソード溶液は、水酸化物イオン、水素イオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン、および炭酸水素イオンからなる群より選ばれる少なくとも1つのイオンを含む、請求項
15~18のいずれかに記載の電解セル。
【請求項20】
前記セパレータはカチオン交換膜、アニオン交換膜、多孔質膜からなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項14~19のいずれかに記載の電解セル。
【請求項21】
前記炭素化合物は、一酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、メタノール、エタノール、およびエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項14~20のいずれか1項に記載の電解セル。
【請求項22】
請求項14~21のいずれか1項に記載の電解セルと、前記電解セルの前記アノードと前記カソードとの間に電流を流す電源とを具備する二酸化炭素の電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明による実施形態は、二酸化炭素電解セル用電極触媒層、その製造方法、二酸化炭素電解セル用電極、ならびにそれを具備する二酸化炭素電解セルおよび二酸化炭素電解用電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー問題と環境問題の両方の観点から、太陽光などの再生可能エネルギーを電気エネルギーに変換して利用するだけでなく、それを貯蔵し且つ運搬可能な状態に変換することが望まれている。この要望に対して、植物による光合成のように太陽光を用いて化学物質を生成する人工光合成技術の研究開発が進められている。この技術により、再生可能エネルギーを貯蔵可能な燃料として貯蔵する可能性もでき、また、工業原料となる化学物質を生成することにより、価値を生み出すことも期待される。
【0003】
太陽光などの再生可能エネルギーを用いて化学物質を生成する装置として、例えば発電所やごみ処理所から発生した二酸化炭素(CO2)を還元するカソードと、水(H2O)を酸化するアノードとを具備する電気化学反応装置が知られている。カソードでは、例えば二酸化炭素を還元して一酸化炭素(CO)等の炭素化合物を生成する。このような電気化学反応装置を、セル形態(電解セルともいう)により実現する場合、例えばPolymer Electric Fuel Cell(PEFC)等の燃料電池に類似する形態により実現することが有効であると考えられる。二酸化炭素をカソードの触媒層に直接供給することにより、速やかに二酸化炭素還元反応を進行させることが可能となる。
【0004】
しかしながら、このようなセル形態においては、PEFCが有する課題に類似する課題が生じる。すなわち、目的となる炭素化合物に対する部分電流密度を向上させるためには、カソード触媒層の濡れ性を適切に制御して、水管理を厳密に行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-294175号公報
【文献】特開2016-192399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、PEFC用のカソード触媒層と、二酸化炭素を還元する電解セル用のカソード触媒層では、触媒層内を拡散する物質や基材の構成が大きく異なるため、最適な濡れ性もまた異なる。このため、二酸化炭素電解に適したカソード触媒層についての検討が必要であった。
【0007】
本実施形態は上記の事情に鑑みてなされたものである。本実施形態が解決しようとする課題は、二酸化炭素電解セルに用いられる触媒層の濡れ性を制御し、高い部分電流密度を示し、かつ長時間の運転にも耐える二酸化炭素還元電極用触媒層、二酸化炭素還元電極、並びに二酸化炭素電解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
炭素材料に担持された金属触媒、イオン伝導性物質、および親水性ポリマーを含む二酸化炭素電解セル用電極触媒層であって、前記触媒層の窒素吸着により求められたBET比表面積(AN2)と、前記触媒層の水蒸気吸着により求められたBET比表面積(AH2O)とから算出される比(AH2O/AN2)が0.08以下であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】二酸化炭素還元電極100の構成例を示す模式図。
【
図2】二酸化炭素電解装置200の構成例を示す模式図。
【
図3】二酸化炭素電解装置300の構成例を示す模式図である。
【
図4】実施例1および比較例1で得られた電極を用いて行った電解における変換効率を示すグラフ。
【
図5】実施例1および比較例1で使用した電極触媒の熱重量分析結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図面は模式図であり、例えば各構成要素の厚さ、幅等の寸法は実際の構成要素の寸法と異なる場合がある。また、実施形態において、実質的に同一の構成要素には同一の符号を付け、説明を省略する場合がある。
【0011】
図1は二酸化炭素還元電極の構成例を示す模式図である。還元電極100は、電極基材102とその上に形成された、実施形態による触媒層101とを具備する。実施形態による触媒層は、炭素からなる触媒担体、担体に担持される金属触媒、イオン伝導性物質、親水性ポリマーを含んでおり、この触媒層は比表面積から求められる濡れ性によって特徴付けられる。具体的には、窒素吸着により求められたBET比表面積(A
N2)と水蒸気吸着により求められたBET比表面積(A
H2O)との(A
H2O/A
N2)が0.08以下であることを特徴とする。このような電極は、炭素化合物の部分電流密度が高く、高い触媒効率を示す。
【0012】
上記のような比AH2O/AN2(以下、濡れ性ということがある)が低い場合、すなわち触媒層が撥水性を有する場合に部分電流密度が向上する理由は以下のように考えている。カソード触媒層は電解液に触れたセパレータと隣り合っているため、層内に水が滞留しやすい。この滞留した水は二酸化炭素ガスの拡散を阻害してしまう。濡れ性の数値が高く、触媒層が撥水性を有する場合には、触媒層内の水は排出されやすく滞留しにくい。これにより二酸化炭素ガスは拡散を阻害されることなく触媒表面へと供給されるため、高い効率を示すと考えられる。一方で、従来の燃料電池等においては濡れ性は実施形態において特定された範囲よりも大きいものであった。これは、金属触媒は液相合成で得られるのが一般的であり、そのような方法では高活性触媒の合成過程で親水性ポリマーを用いることが必要であり、合成された触媒には不可避的に比較的多量の親水性ポリマーが残存しているために濡れ性が大きく、さらには触媒の性能がその濡れ性に影響を受けることについての知見がなかったために、濡れ性を制御することなく、触媒を利用していたためであると考えられる。本実施形態は、そのような濡れ性の制御によって触媒性能が改良できること、そして濡れ性が特定の範囲であるときに優れた触媒が得られることを見出したことにより、完成されたものである。
【0013】
実施形態において、触媒層の濡れ性は0.08以下であり、好ましくは0.06以下であり、より好ましくは0.05以下である。濡れ性が低いほど、撥水性が高く、二酸化炭素還元に有効な触媒層となる。
【0014】
なお、上記の濡れ性は触媒層101のみを測定した場合に得られるものである。対象となる触媒層を電極基材から剥がした後に測定してもよいし、測定用にSiなどの平滑な基板上に塗布した後に触媒層のみを取り出して測定することもできる。触媒層から得られた粉末はガス吸着法により比表面積を測定するが、具体的にはJIS Z 8830に従って測定を行う。その場合に窒素および水蒸気を吸着質として用いる。
【0015】
上記の濡れ性は主に触媒層内に含まれる親水性ポリマーの量によって左右される。従来の触媒においては、親水性ポリマーは、炭素材料に担持された金属触媒の調製において、触媒を液相合成する際に粒径を変化させるための保護材として用いたり、触媒層のバインダーとして用いられていた。このため、親水性ポリマーは不可避的な材料として触媒層に含まれることが一般的であった。このような親水性ポリマーとしては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メトキシポリエチレンオキシドメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、シクロデキストリンが挙げられる。従来の触媒においては、これらのポリマーが触媒層内にかなりの量が存在していたため、触媒層の親水性が高くなっており、濡れ性が大きく、部分電流が小さかった。
【0016】
従って、触媒層に含まれるこれらのポリマーの含有量を制御することにより、濡れ性の制御が可能となる。そして濡れ性を最適に調整することで、二酸化炭素還元の効率を改善することができる。合成した触媒粉末の時点で除去しても、形成した触媒層から除去しても構わない。また、親水性ポリマーは任意の方法で除去することができる。例えば触媒層を有機溶剤により洗浄することで、除去することができる。このような方法では、有機溶媒としてアセトン、エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、およびそれらの混合物を用いることが好ましい。また、触媒粉末を高温で焼成することでポリマーを除去することができる。このように高温焼成する場合であって、触媒粉末にイオン伝導性物質が含まれている場合には、イオン伝導性物質がダメージを受けたり、除去されることを防ぐために400℃以下の温度で焼成することが好ましい。親水性ポリマーが触媒粉末や形成した触媒層にどの程度含まれているかは、熱重量測定により判別することが出来る。具体的にはJIS K 0050-2019に従って測定を行う。
【0017】
触媒担体は多孔質構造を有していると好ましい。適用可能な材料としては、上記材料に加え、例えばケッチェンブラックやバルカンXC-72等のカーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ等が挙げられる。多孔質構造を有することにより、酸化還元反応に寄与する活性面の面積を大きくすることができるため、変換効率を高めることができる。
【0018】
触媒担体だけでなく、基材上に形成された触媒層そのものも多孔質構造を有し、比較的大きな空孔を多数有していると好ましい。具体的には、水銀圧入法で測定した触媒層の細孔径分布において、直径5~200μmの範囲において空孔の分布頻度が最大となると好ましい。この場合、触媒層内全体にガスが素早く拡散し、還元生成物もこの経路を経て触媒層外へと排出されやすくなるため、効率の良い電極となる。
【0019】
二酸化炭素を触媒層に効率よく供給するために、触媒層を担持する電極基材102にガス拡散層が設けられると好ましい。ガス拡散層は導電性がある多孔体によって形成される。ガス拡散層は撥水性のある多孔体で形成されると、還元反応によって生成された水や、酸化側から移動してきた水の量を減らし、還元流路を経て水を排出させ、多孔体中の二酸化炭素ガスの割合を多く出来るため、好ましい。
【0020】
ガス拡散層の厚みが極端に小さいと、セル面での均一性が損なわれるため、好ましくない。一方で厚みが極端に大きいと部材コストが増加するほか、ガスの拡散抵抗の増加により効率が低下するため、好ましくない。拡散性をより向上させるためにガス拡散層と触媒層の間により緻密な拡散層(メソポーラスレイヤー)を設けると、撥水性や多孔体度を変えて、ガスの拡散性と液体成分の排出を促進させるため、より好ましい。
【0021】
上記担体に担持される金属触媒としては、水素イオンや二酸化炭素を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料が挙げられる。言い換えると、二酸化炭素の還元反応により炭素化合物を生成する際の過電圧を低下させる金属材料が挙げられる。例えば、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、Ni、Co、Fe、Mn、Ti、Cd、Zn、In、Ga、Pb、およびSnからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属および金属酸化物、または当該金属を含む合金を用いることが好ましい。なお、これに限定されず、還元触媒として例えばRu錯体またはRe錯体等の金属錯体、を用いることもできる。また、複数の材料を混合してもよい。金属触媒には板状、メッシュ状、ワイヤ状、粒子状、多孔質状、薄膜状、島状等の各種形状を適用することができる。
【0022】
金属触媒に金属ナノ粒子を適用する場合には、その平均直径は1~15nmであることが好ましく、1~10nmであることがより好ましく、1~5nmであることが更に好ましい。この条件を満たすと、触媒重量あたりの金属の表面積が大きくなり、高い活性を示すようになるため好ましい。
【0023】
前記金属触媒の面積あたりの重量は0.01~5mg/cm2であることが好ましく、0.01~3mg/cm2であることがより好ましく、0.01~1mg/cm2であることが更に好ましい。この条件を満たすと、触媒層内が撥水性となり、水や生成物の排出が速やかに行われるため好ましい。
【0024】
また、実施形態における触媒層はイオン伝導性物質を含んでいる。イオン伝導性物質は、層中に含まれる金属触媒の間のイオンを授受する作用を奏する。このため、金属触媒の一部を被覆する形態で、層中に存在する。このようなイオン伝導性物質としてはカチオン交換樹脂またはアニオン交換樹脂が好ましく用いられる。これらは、イオン性修飾基を有するポリマーであり、例えばペルフルオロスルホン酸基を有するカチオン性ポリマーが知られている。より具体的には、ナフィオン(商品名、デュポン社製)、フレミオン(商品名、AGC株式会社製)などのカチオン交換樹脂、ダイヤイオン(商品名、三菱ケミカル株式会社製などのアニオン交換樹脂が用いられる。
前記イオン伝導性物質の面積あたりの重量は0.01~1mg/cm2であることが好ましく、0.05~0.5mg/cm2であることがより好ましい。この条件を満たすと、触媒層内におけるイオン伝導が容易になり、触媒の効果がより強く発現するので好ましい。
【0025】
還元反応により生成される化合物は、還元触媒として機能する金属触媒の種類等によって異なる。還元反応により生成される化合物は、例えば一酸化炭素(CO)、蟻酸(HCOOH)、メタン(CH4)、メタノール(CH3OH)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、エタノール(C2H5OH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、エチレングリコール等の炭素化合物、または水素である。
【0026】
図2は上述の還元電極を用いた、第1の実施形態による二酸化炭素電解装置200の構成例を示す模式図である。
図2に示す装置は、電源201とセル202とから構成され、そのセルはアノード部203、カソード部204、およびセパレータ205を具備している。アノード部203は、アノード203a、アノード溶液流路203b、およびアノード集電板203dを備えている。アノード溶液流路は、アノードにアノード溶液を供給するものであり、第1の流路板203cに設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。カソード部204は、実施形態による触媒層を備えた二酸化炭素還元電極(カソード)204a、二酸化炭素ガス流路204b、およびカソード集電板204dを備えている。二酸化炭素ガス流路は、カソードに二酸化炭素ガスを供給するものであり、第2の流路板204cに設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。セパレータ205は、アノード部とカソード部とを分離するように配置されている。
【0027】
図3は上述の還元電極を用いた、第2の実施形態による二酸化炭素電解装置300の構成例を示す模式図である。
図3に示す装置は、電源301とセル302とから構成され、そのセルはアノード部303、カソード部304、およびセパレータ305を具備している。アノード部303は、アノード303a、アノード溶液流路303b、およびアノード集電板303dを備えている。アノード溶液流路は、アノードにアノード溶液を供給するものであり、第1の流路板303cに設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。カソード部304は、上実施形態による触媒層を備えた二酸化炭素還元電極304c、カソード溶液流路304a、二酸化炭素ガス流路304d、およびカソード集電板304fを備えている。二酸化炭素ガス流路304dは、カソードに二酸化炭素ガスを供給するものであり、第2の流路板304eに設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。カソード溶液流路304aは、第3の流路板304bに設けられた開口部により構成されている。セパレータ305は、アノード部とカソード部とを分離するように配置されている。カソード溶液流路は、カソード溶液がカソードおよびセパレータと接するように、カソードとセパレータとの間に配置されている。
【0028】
電解セル200のカソードにおいては、セパレータからアノード溶液やイオンが供給され、CO2ガス流路からCO2ガスが供給される。CO2還元生成物はCO2ガス流路から主として排出される。一方、電解セル300のカソードにおいては、カソード溶液流路からカソード溶液やイオンが供給され、CO2ガス流路からCO2ガスが供給される。ガス状のCO2還元生成物はCO2ガス流路から主として排出され、液状の生成物はカソード溶液流路から主として排出される。そのため、電解セル300は蟻酸(HCOOH)、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、エチレングリコール等の溶液状の炭素化合物が生成する場合に使用されるのが好ましい。カソード溶液にこれらの生成物が溶解することで回収が容易となる。
【0029】
アノード溶液流路を構成する流路板203cおよび303c、およびCO2ガス流路を構成する流路板204cおよび304dには、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。カソード溶液流路を構成する第3の流路板304bには、化学反応性が低く、かつ導電性を有しない材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、アクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂等の絶縁樹脂材料が挙げられる。
【0030】
電解セル200および300は、一般に、一対の支持板(図示せず)で挟み込まれ、さらにボルト等で締め付けられている。
図2および
図3において、符号201および301はアノードおよびカソードに電流を流す電源である。電解セルおよび電源は、実施形態の二酸化炭素の電解装置を構成している。電源は、通常の商用電源や電池等に限られるものではなく、太陽電池や風力発電等の再生可能エネルギーで発生させた電力を供給するものであってもよい。再生可能エネルギーを用いると二酸化炭素の有効利用という点も合わせて環境上好ましい。
【0031】
アノードは、アノード溶液中の水(H2O)の酸化反応を促し、酸素(O2)や水素イオン(H+)を生成する、もしくはカソード部で生じた水酸化物イオン(OH-)の酸化反応を促し、酸素や水を生成する電極(酸化電極)である。アノードは、前記セパレータと前記アノード溶液流路との間に、それらと接するように配置されている。より詳細には、アノードは、セパレータと接する第1の面と、アノード溶液流路に面する第2の面とを有している。アノードの第1の面は、セパレータと密着している。第1の流路板には、溶液導入口と溶液導出口(いずれも図示せず)とが接続されており、これら溶液導入口および溶液導出口を介して、ポンプ(図示せず)によりアノード溶液が導入および排出される。アノード溶液は、アノードと接するようにアノード溶液流路内を流通する。アノード集電板は、アノード溶液流路を構成する第1の流路板のアノードとは反対側の面と電気的に接している。
【0032】
アノード上の酸化反応により生成される化合物は、酸化触媒の種類等によって異なる。電解質水溶液を用いる場合、アノードは水(H2O)を酸化して酸素や水素イオンを生成する、もしくは水酸化物イオン(OH-)を酸化して水や酸素を生成することが可能で、そのような反応の過電圧を減少させることが可能な触媒材料(アノード触媒材料)で主として構成されることが好ましい。そのような触媒材料としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等の金属、それらの金属を含む合金や金属間化合物、酸化マンガン(Mn-O)、酸化イリジウム(Ir-O)、酸化ニッケル(Ni-O)、酸化コバルト(Co-O)、酸化鉄(Fe-O)、酸化スズ(Sn-O)、酸化インジウム(In-O)、酸化ルテニウム(Ru-O)、酸化リチウム(Li-O)、酸化ランタン(La-O)等の二元系金属酸化物、Ni-Co-O、Ni-Fe-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等の三元系金属酸化物、Pb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等の四元系金属酸化物、Ru錯体やFe錯体等の金属錯体が挙げられる。
【0033】
アノードは、セパレータと電解液流路との間でアノード溶液やイオンを移動させることが可能な構造、例えばメッシュ材、パンチング材、または多孔体等の多孔質構造を有する基材を備えていることが好ましい。ここで多孔体構造を有する基材としては、金属繊維焼結体のような、比較的空隙の大きいものも包含する。基材は、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の金属やこれら金属を少なくとも1つ含む合金(例えばSUS)等の金属材料で構成してもよいし、上述したアノード触媒材料で構成してもよい。アノード触媒材料として酸化物を用いる場合には、上記した金属材料からなる基材の表面にアノード触媒材料を付着もしくは積層して触媒層を形成することが好ましい。アノード触媒材料は、酸化反応を高める上でナノ粒子、ナノ構造体、ナノワイヤ等の形状を有することが好ましい。ナノ構造体とは、触媒材料の表面にナノスケールの凹凸を形成した構造体である。また、必ずしも酸化電極に酸化触媒を設けなくてもよい。酸化電極以外に設けられた酸化触媒層を酸化電極に電気的に接続してもよい。
【0034】
アノード溶液およびカソード溶液としては、任意の電解質を含む水溶液を用いることができる。電解質を含む水溶液としては、例えばリン酸イオン(PO4
2-)、ホウ酸イオン(BO3
3-)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、リチウムイオン(Li+)、セシウムイオン(Cs+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)等を含む水溶液が挙げられる。他にも、LiHCO3、NaHCO3、KHCO3、CsHCO3、リン酸、ホウ酸等を含む水溶液を用いてもよい。
【0035】
特にカソード溶液には、イミダゾリウムイオンやピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF4
-やPF6
-等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液を用いてもよい。その他のカソード溶液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジン等のアミンもしくはその水溶液が挙げられる。アミンは、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれでもかまわない。
【0036】
セパレータは、アノードとカソードとの間でイオンを移動させることができ、かつアノード部とカソード部とを分離することが可能なイオン交換膜等で構成される。イオン交換膜としては、例えばナフィオンやフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタやセレミオン、サステニオンのようなアニオン交換膜を使用することができる。電解液にアルカリ溶液を使用し、主として水酸化物イオン(OH-)の移動を想定した場合、セパレータはアニオン交換膜で構成することが好ましい。また、炭化水素を基本骨格とした膜や、アミン基を有する膜を用いてイオン交換膜が構成されていてもよい。ただし、イオン交換膜以外にもアノードとカソードとの間でイオンを移動させることが可能な材料であれば、塩橋、ガラスフィルタ、多孔質高分子膜、多孔質絶縁材料等をセパレータに適用してもよい。ただし、カソード部とアノード部との間でガスの流通が起こると、還元生成物の再酸化による循環反応が起きることがある。このため、カソード部とアノード部との間のガスの交換が少ない方が好ましい。このため多孔体の薄膜をセパレータとして用いる場合には注意が必要である。
【0037】
二酸化炭素ガス流路にはカソードとの電気的接触のためにカソードと接するランドが設けることができる。流路には柱状のランドが設けられているのみの構成や細長い流路を折り曲げたサーペンタイン構造等があるが、空洞を有する形状であれば特に限定されない。ただし、複数のパラレル流路やサーペンタイン流路やその組み合わせで構成されると、ガスがセル面に対し均一に流れる為、セル面において均一な反応が行われ、好ましい。
【0038】
また、流路の深さもガス拡散層への二酸化炭素の供給や、液体の排出の観点、セル面で均一の反応を行うといった観点から浅い方が好ましい。ただし、流路が細いことによって流路圧損が増加することで、ガス供給のエネルギーロスや、流路ではなく、ガス拡散層を通過することによるセル面での均一反応の妨げとなるため、極端に狭いのは好ましくない。
【0039】
供給する二酸化炭素ガスは乾燥状態で供給されても良いが、加湿されている方がより好ましい。これによりセパレータにイオン交換膜を用いた場合には、膜の乾燥を防ぐことが出来る。また供給するガスの二酸化炭素濃度は100%でなくてもよい。効率は低下するが、様々な施設で排出された二酸化炭素を含むガスを還元することも可能である。
【0040】
次に、
図2に示す二酸化炭素電解装置200の動作例について説明する。ここでは、炭素化合物として一酸化炭素(CO)を生成する場合について、主として説明するが、二酸化炭素の還元生成物としての炭素化合物は一酸化炭素に限られるものではない。炭素化合物は、前述したようにメタン(CH
4)、エタン(C
2H
6)、エチレン(C
2H
4)、メタノール(CH
3OH)、エタノール(C
2H
5OH)、エチレングリコール(C
2H
6O
2)等であってもよく、さらに還元生成物である一酸化炭素をさらに還元し、上記したような有機化合物を生成してもよい。上述のように溶液状の炭素化合物が生成する場合には電解セル300が使用されるのが好ましい。また、電解セルによる反応過程としては、主に水素イオン(H+)を生成する場合と、主に水酸化物イオン(OH
-)を生成する場合とが考えられるが、これら反応過程のいずれかに限定されるものではない。
【0041】
まず、主に水(H2O)を酸化して水素イオン(H+)を生成する場合の反応過程について述べる。アノードとカソードとの間に電源から電流を供給すると、アノード溶液と接するアノードで水(H2O)の酸化反応が生じる。具体的には、下記の(1)式に示すように、アノード溶液中に含まれるH2Oが酸化されて、酸素(O2)と水素イオン(H+)とが生成する。
2H2O → 4H++O2+4e- ・・・(1)
【0042】
アノードで生成されたH+は、アノード内に存在する電解液、セパレータを移動し、カソード付近に到達する。電源からカソードに供給される電流に基づく電子(e-)とカソード付近に移動したH+とによって、二酸化炭素(CO2)の還元反応が生じる。具体的には、下記の(2)式に示すように、CO2ガス流路からカソードに供給されたCO2が還元されてCOが生成する。また、下記式(3)のように水素イオンが電子を受け取ることにより、水素が生成する。このとき、水素は一酸化炭素と同時に生成してもよい。
CO2+2H++2e- → CO+H2O ・・・(2)
2H++2e- → H2 ・・・(3)
【0043】
次に、主に二酸化炭素(CO2)を還元して水酸化物イオン(OH-)を生成する場合の反応過程について述べる。アノードとカソードとの間に電源から電流を供給すると、カソード付近において、下記の(4)式に示すように、水(H2O)と二酸化炭素(CO2)が還元されて、一酸化炭素(CO)と水酸化物イオン(OH-)とが生成する。また、下記式(5)のように水が電子を受け取ることにより、水素が生成する。このとき、水素は一酸化炭素と同時に生成してもよい。これらの反応により生成した水酸化物イオン(OH-)はアノード付近に拡散し、下記の(6)式に示すように、水酸化物イオン(OH-)が酸化されて酸素(O2)が生成する。
2CO2+2H2O+4e- → 2CO+4OH- ・・・(4)
2H2O+2e- → H2+2OH- ・・・(5)
4OH- → 2H2O+O2+4e- ・・・(6)
【0044】
このような実施形態の二酸化炭素電解装置は、二酸化炭素の還元のみに特化するだけでなく、たとえば一酸化炭素と水素を1:2で生成し、その後の化学反応でメタノールを製造するなどの任意の割合で持って、二酸化炭素還元物と水素を製造することもできる。
【0045】
水素は水の電解や化石燃料から安価かつ入手しやすい原料であるため、水素の比率が大きい必要はない。これらの観点から一酸化炭素の水素に対する比率が少なくとも1以上、望ましくは1.5以上であると経済性や環境性の観点から好ましい。
【0046】
(実施例1)
以下の手順に従い、
図2に示す二酸化炭素電解装置を作製した。
【0047】
カソード触媒層の作製にはスプレー塗布を用いた。電極基材にはマイクロポーラス層を持つ拡散層付きカーボンペーパーを用いた。まず、金属触媒、純水、イソプロパノール、およびナフィオン溶液を所定の割合で混合した塗布溶液を作製した。ここで、金属触媒は、金ナノ粒子が担持されたカーボン粒子を用いたが、この金属触媒は親水性ポリマーの含有量が低減されたものであった。この塗布溶液をスプレーノズルに充填し、加熱したホットプレート上に配置したカーボンペーパー上に噴射してスプレー塗布を行った。これを2×2cmの大きさに切り出してカソード(電極面積4cm2)とした。なお形成した触媒層のみを取り出し、窒素および水蒸気を吸着質としたBET比表面積測定を行ったところ、算出された濡れ性は0.05であった。
【0048】
アノードには、Tiメッシュ上に触媒となるIrO2ナノ粒子を塗布した電極を用いた。このIrO2/Tiメッシュを2×2cmに切り出し、アノードとした。
【0049】
電解セルは、上からカソード集電板、二酸化炭素ガス流路、カソード、セパレータ、アノード、電解液流路、アノード集電板の順で積層し、図示しない支持板により挟み込み、さらにボルトで締め付けて作製した。セパレータには、アニオン交換膜(商品名:サステニオン、Dioxide Materials社製)を用いた。アノード集電板とカソード集電板を外部電源に繋ぎ、
図2に示した電解装置を作製した。
【0050】
図2の電解装置を以下の条件で運転した。二酸化炭素ガス流路に二酸化炭素を所定量供給し、電解液流路に炭酸水素ナトリウム水溶液(濃度0.1M)をフローした。アノードとカソードとの間に12.5、50、100、200、300、400、500、600mAcm
-2の定電流を連続的に10分間ずつ印加した。また、各電流を印加して5分後にカソード側から発生する気体を捕集し、二酸化炭素の変換効率を測定した。発生する気体をサンプリングし、ガスクロマトグラフィにより同定・定量を行った。その際の電圧、および生成される水素と一酸化炭素のそれぞれの部分電流密度を測定した。上記運転により生成したガスは一酸化炭素と水素であり、これらの部分電流密度を足し合わせると上記の電流密度の値とほぼ一致した。
図4に一酸化炭素部分電流密度に対して電圧をプロットしたグラフを示す。この条件での部分電流密度の最高値は490mAcm
-2であった。
【0051】
(実施例2)
実施例1に対して、有機溶媒による洗浄条件を変更し、濡れ性が0.06である触媒層を準備し、実施例1と同様にして評価したところ、部分電流密度の最高値は340mAcm-2であった。
【0052】
(比較例1)
実施例1に対して、濡れ性の異なる触媒層を形成させた。具体的には親水性ポリマーの含有量が異なる金属触媒を用いた。
図5は金属触媒の熱重量測定の結果である。実施例1で使用した金属触媒と比較して、比較例1の金属触媒は450℃まで温度を上昇させると重量が大きく減少している。これにより比較例1に用いた金属触媒は親水性ポリマーの含有量が多いことがわかる。これを用いて実施例1と同様の手順で触媒層を形成し、電極を作製した。なお、金の担持量や金ナノ粒子の平均粒径はどちらもほぼ同じになるように作製した。形成した触媒層のみを取り出し、窒素および水蒸気を吸着質としたBET比表面積測定を行ったところ、算出された濡れ性は0.09であった。
【0053】
上記カソードを用いて実施例1と同様の手順で、
図2に示す二酸化炭素電解装置を作製した。また、この電解装置を実施例1と同じ条件で運転した。
図4に結果を示す。部分電流密度の最高値は295mAcm
-2となり、実施例1を下回る結果となった。実施例1の触媒層は、親水性ポリマーの含有量が低減され、濡れ性が低いことによって、電流密度が向上したものと考えられる。
【0054】
上記実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
100…二酸化炭素還元電極
101…二酸化炭素電解セル用触媒層
102…電極基材
200…二酸化炭素電解装置
201…電源
202…セル
203…アノード部
203a…アノード
203b…アノード溶液流路
203c…第1の流路板
203d…アノード集電板
204…カソード部
204a…二酸化炭素還元電極
204b…二酸化炭素ガス流路
204c…第2の流路板
204d…二酸化炭素ガス流路
205…セパレータ
300…二酸化炭素電解装置
301…電源
302…セル
303…アノード部
303a…アノード
303b…アノード溶液流路
303c…第1の流路板
303d…アノード集電板
304…カソード部
304a…カソード溶液流路
304b…第3の流路板
304c…二酸化炭素還元電極
304d…二酸化炭素ガス流路
304e…第2の流路板
304f…カソード集電板
305…セパレータ