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特許7198242容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20221221BHJP
   A23L 2/54 20060101ALI20221221BHJP
   A23L 2/44 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/00 T
A23L2/54
A23L2/44
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020115076
(22)【出願日】2020-07-02
(62)【分割の表示】P 2018565482の分割
【原出願日】2018-01-25
(65)【公開番号】P2020171301
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2017015447
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】今泉 景介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悠一
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-128240(JP,A)
【文献】特開2012-244971(JP,A)
【文献】国際公開第00/024273(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保存料、甘味物質および苦味物質を含み、甘味度/苦味価の値が100~1200の容器詰めノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法であって、
ショ糖換算の質量ppmで表される甘味度と苦味価(BU)との比率である甘味度/苦味価の値を100~1200に調整する工程、および
前記保存料の含有量を10~1000質量ppmになるように保存料を添加する工程、
を含む、製造方法。
【請求項2】
原材料に穀物が含まれる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記甘味物質の含有量がショ糖換算で1000~20000質量ppmである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記苦味価が10~50BUsである、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記甘味物質が、グルコース、マルトース、アセスルファムKおよびスクラロースからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記保存料が、安息香酸、安息香酸塩類および安息香酸エステル類からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記保存料の含有量が、安息香酸換算で10~1000質量ppmである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記苦味物質が、ホップ由来の成分である、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ホップ由来の成分がイソα酸を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
さらに殺菌操作の工程を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
さらにカラメル色素を加える工程を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
容器詰めノンアルコールビールテイスト飲料に用いられる容器が樽である、請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
保存料、甘味物質および苦味物質を含み、
ショ糖換算の質量ppmで表される甘味度と苦味価(BU)との比率である甘味度/苦味価の値が、100~1200であり、
前記保存料の含有量が、10~1000質量ppmであり、
原材料に穀物が含まれる、容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールなどのビールテイスト飲料に求められる消費者の要求は多様化している。それに伴い、ビールテイスト飲料の供給方法も多様化している。
従来ビールテイスト飲料は、一般的に缶や瓶に密封されて供給されていたが、近年では樽などの容器詰の状態で流通し、ディスペンサー等を用いて供給される場合もある。このような経路で供給される場合、通常の缶や瓶での場合と異なり、ディスペンサーに接続した状態で開封後一定期間提供されることとなる。その場合、微生物の増殖などによる変敗等のリスクが高まるため、安息香酸ナトリウム等の保存料を添加して微生物の増殖を抑制する必要が生じる。したがって、保存料を含むビールテイスト飲料が検討されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、食品用の保存料は特有の呈味を有する場合があるため、そのような呈味を他の原料と組み合わせることで改善する試みがなされている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5249197号公報
【文献】特公平02-20231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビールテイスト飲料に用いられる保存料としては、製品中の保存性を高め、微生物増殖を抑制する効果を持つ安息香酸類が用いられる場合が多く、安息香酸類は一般的には安息香酸塩類の形で添加される。安息香酸塩類の中でもナトリウム塩である安息香酸ナトリウムを用いる場合が多いが、安息香酸類等の保存料には収斂味があり、香味への悪影響があるためビールテイスト飲料に使用する場合には少量しか添加できず、十分な保存性を得られない虞がある。したがって、保存料を添加することによって生じる収斂味がマスキングされた、容器詰に適したビールテイスト飲料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、本発明者らが誠意検討した結果、甘味物質を添加することである程度の収斂味が抑えられることを知得した。一方で、甘味物質のみの添加で収斂味を抑えようとすると、多量に甘味物質を入れる必要があり、収斂味を抑えつつ適度な甘さに調節することが困難であった。この点について本発明者らがさらに誠意検討した結果、ある程度の甘味物質に対して苦味物質を所定の比率で添加することで、収斂味を抑えつつ適度な甘さに調節することができることを知得した。通常、苦味物質だけを添加した場合、収斂身と苦味が合わさり、後味が悪化することから、本発明のように甘味物質と苦味物質を所定の比率で加えることによって収斂味を改善することができる点は、予想外の結果であった。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0007】
本発明には以下の態様の発明が含まれる。
[1]
保存料、甘味物質および苦味物質を含み、
ショ糖換算の質量ppmで表される甘味度と苦味価(BU)との比率である甘味度/苦味価の値が、100~1200である、容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料。
[2]
前記甘味物質の含有量がショ糖換算で1000~20000質量ppmである、[1]に記載の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料。
[3]
前記苦味価が10~50BUsである、[1]または[2]に記載の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料。
[4]
前記甘味物質が、グルコース、マルトース、アセスルファムKおよびスクラロースからなる群から選択される少なくとも一種である、[1]~[3]のいずれかに記載の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料。
[5]
前記保存料が、安息香酸、安息香酸塩類および安息香酸エステル類からなる群から選択される少なくとも一種である、[1]~[4]のいずれかに記載の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料。
[6]
前記保存料の含有量が、10~1000質量ppmである、[1]~[5]のいずれかに記載の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料。
[7]
前記保存料の含有量が、安息香酸換算で10~1000質量ppmである、[5]に記載の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料。
[8]
前記苦味物質が、ホップ由来の成分である、[1]~[7]のいずれかに記載の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料。
[9]
前記ホップ由来の成分がイソα酸を含む、[8]に記載の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、保存料を添加することによって生じる収斂味がマスキングされた、容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1 容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料
本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料は、保存料、甘味物質および苦味物質を含み、ショ糖換算の質量ppmで表される甘味度と苦味価(BU)との比率である甘味度/苦味価の値が、100~1200である飲料である。
【0010】
本明細書において、「ノンアルコールビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味をもつノンアルコールの炭酸飲料をいう。つまり、本明細書のノンアルコールビールテイスト飲料は、特に断わりがない場合、酵母による発酵工程の有無に拘わらず、ビール風味を有するいずれのノンアルコールの炭酸飲料をも包含する。本発明のノンアルコールビールテイスト飲料の種類としては、例えば、ノンアルコールのビールテイスト飲料(アルコール含有量が0.05v/v%未満のビールテイスト飲料)、ビールテイストの清涼飲料なども含まれる。
【0011】
本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料のアルコール含有量は0.05v/v%未満であることが好ましく、さらに0.00v/v%であることが好ましい。なお本明細書において、アルコール含有量は体積/体積基準の百分率(v/v%)で示されるものとする。また、飲料のアルコール含有量は、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。
【0012】
本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料は、容器詰の態様に特に適している。容器の例としては、ビン、缶、または樽が挙げられるが、特に樽での使用に適している。また、本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料の容器として、再栓が可能な容器も好適に用いることができ、そのような容器としてはスクリューキャップ付きのビン、ボトル缶またはペットボトル等が挙げられる。樽などの容器詰の状態で流通し、ディスペンサー等を用いて供給される場合、ディスペンサーに接続した状態で開封後一定期間提供されることとなる。また、再栓が可能な容器詰の状態で流通する場合も、消費者が一旦開封した後に蓋を閉じて一定期間保存する場合がある。そのような場合、微生物の増殖などによる変敗等のリスクが高まるため、安息香酸ナトリウム等の保存料を添加して微生物の増殖を抑制する必要が生じる。ここで、安息香酸類には収斂味があり、香味への悪影響を及ぼす恐れがあるが、本発明のノンアルコールビールテイスト飲料はこのような収斂味を効果的にマスキングすることができるため、香味への悪影響を抑えつつ微生物の増殖を抑制することができる。このことから、本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料は、容器詰の態様に特に適している。
【0013】
本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料は、ショ糖換算の質量ppmで表される甘味度と苦味価(BU)との比率である甘味度/苦味価の値が、100~1200である。甘味度/苦味価の値がこの範囲内であれば、保存料を添加することによって生じる収斂味が効果的にマスキングされる。甘味度/苦味価の値は、好ましくは100~1000であり、より好ましくは150~800である。
【0014】
本明細書において「甘味度」とは、製品の甘さをスクロース(ショ糖)の甘さに換算した値である。種々の甘味物質のショ糖換算の甘味度は、公知文献(村上ら、「甘い糖と甘くない糖」、生物工学会誌、公益社団法人 日本生物工学会、2011年、第89巻第8号、p.486-490や、精糖工業会、「甘味料の総覧」等)から調べることができる。例えば、スクロースの甘さを1とした場合、一般的な甘味物質の甘さは下表のとおりである。ただし、本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料に使用可能な甘味物質は下表のものに限定されず、当業者であれば上記の公知文献等の記載から下表に示した以外の甘味物質も使用することができる。
【表1】
【0015】
本明細書において、「苦味価」とは、イソフムロンなどのイソα酸類によってもたらされる苦味の指標である。苦味価は、「BCOJビール分析法(2004.11.1 改訂版) 8.15 苦味価」の項に記載の方法に従って測定することができる。例えば、脱ガスしたサンプルに酸を加えた後イソオクタンで抽出し、得られたイソオクタン層の吸光度をイソオクタンを対照にして275nmで計測し、ファクターを乗じて苦味価(BU)を得ることができるが、苦味価の測定はこの方法に限定されるものではない。苦味価は、甘味度/苦味価の値として、100~1200を満たしていれば特に限定されないが、好ましくは10~50BUs、より好ましくは15~30BUsである。
【0016】
本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料に含まれる、保存料、甘味物質および苦味物質については、「1.1原材料」において詳述する。
【0017】
1.1 原材料
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料の原材料としては保存料、甘味物質および苦味物質が用いられる。その他に一般的なノンアルコールビールテイスト飲料の原材料として用いられる、水、穀物、水溶性食物繊維および各種添加物等を用いてもよい。
【0018】
保存料としては、特に限定されないが、安息香酸、安息香酸塩類および安息香酸エステル類からなる群から選択される少なくとも一種の保存料が好ましい。安息香酸塩類としては安息香酸ナトリウム等が挙げられ、安息香酸エステル類としてはパラオキシ安息香酸プロピルおよびパラオキシ安息香酸ブチル等が挙げられる。また、市販の製剤として、強力サンプレザー(三栄源社製;安息香酸ナトリウムと安息香酸ブチルの混合品)もよく用いられる。
【0019】
保存料の含有量は、特に限定されないが、10~1000質量ppmであることが好ましく、100~700質量ppmであることがより好ましい。また、保存料として安息香酸類の保存料を使用する場合には、保存料の含有量は、安息香酸換算で10~1000質量ppmであることが好ましく、60~600質量ppmであることがより好ましい。安息香酸換算の含有量は、安息香酸類の保存料の含有量から算出することができる。例えば保存料として安息香酸ナトリウム(分子量:144.11g/mol)を用いた場合、下記式によって安息香酸(分子量:122.12g/mol)換算の含有量を算出することができる。
安息香酸換算の含有量(質量ppm) = 安息香酸ナトリウムの含有量(質量ppm)×[(安息香酸の分子量(g/mol))/(安息香酸ナトリウムの分子量(g/mol))]
【0020】
甘味物質としては、特に限定されないが、例えば糖類やその他の甘味料が含まれる。糖類としては、穀物由来のデンプンを酸または酵素などで分解した市販の糖化液や、市販の水飴などがあげられる。このとき、糖類の形態は、溶液などの液状または粉末などの固形物状など、どのような形態であってもよい。また、デンプンの原料穀物の種類、デンプンの精製方法および酵素や酸による加水分解などの処理条件についても特に制限はない。例えば、酵素や酸による加水分解の条件を工夫することにより、マルトースの比率を高めた糖類を用いてもよい。その他、マルトース、スクロース、フルクトース、グルコース、マルチュロース、トレハロース、トレハルロース、マルトトリオースおよびこれらの溶液(糖液)などを用いることができる。甘味物質としては、上記の糖類の他に、エリスリトール、キシリトールおよびマンニトールなどの糖アルコールや、アセスルファムK、スクラロース、アスパルテームおよびネオテームなどの合成甘味料や、ステビア抽出物、甘草抽出物および羅漢果抽出物などの天然甘味料を用いることができる。甘味物質としては、上記の甘味物質から選択される一種の甘味物質を用いてもよく、または、複数の甘味物質を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、甘味物質は、グルコース、マルトース、アセスルファムKおよびスクラロースからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0021】
甘味物質の含有量は、甘味度/苦味価の値として、100~1200を満たしていれば特に限定されないが、好ましくはショ糖換算で1000~20000質量ppmであり、より好ましくは2000~10000質量ppmである。甘味物質の含有量をこの範囲とすることで、ノンアルコールビールテイスト飲料の甘さを抑えることができ、ノンアルコールビールテイスト飲料としての味の総合評価がより良好となる。
【0022】
苦味物質としては、特に限定されず、通常のビールや発泡酒の原料として用いられる苦味料を用いることができる。例えば、ホップ由来の成分、クワシン、ナリンギン、柑橘抽出物、ニガキ抽出物、コーヒー抽出物、茶抽出物、ゴーヤ抽出物、ハス胚芽抽出物、キダチアロエ抽出物、ニガヨモギ抽出物、マンネンロウ抽出物、レイシ抽出物、ローレル抽出物、セージ抽出物、キャラウェイ抽出物、イソフムロン類および還元型イソフムロン類等が挙げられる。好ましくは、苦味物質としてホップ由来の成分を含有する。ホップとは、ビールなどの製造に使用される通常のペレットホップ、ベールホップ、ホップエキス、ホップ加工品(イソ化ホップ、ヘキサホップ、テトラホップ)などをいう。ホップ由来の成分としては、イソα酸およびα酸の少なくとも一種を含むことが好ましく、イソα酸を含むことがより好ましい。
【0023】
苦味物質の含有量は、甘味度/苦味価の値として、100~1200を満たしていれば特に限定されないが、苦味価として、好ましくは10~50BUs、より好ましくは15~30BUs、を示す量である。
【0024】
穀物としては、例えば、麦(大麦、小麦、ライ麦、ハト麦、カラス麦、オート麦、エン麦およびそれらの麦芽など)、米(白米、玄米など)、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、豆(大豆、えんどう豆など)、そば、ソルガム、粟、ひえおよびそれらから得られたデンプンならびにこれらの抽出物(エキス)などがあげられる。
【0025】
麦芽とは、大麦、小麦、ライ麦、ハト麦、カラス麦、オート麦およびエン麦などの麦類の種子を発芽させて乾燥させ、除根したものをいい、産地や品種は、いずれのものであってもよい。本発明においては、好ましくは大麦麦芽を用いる。大麦麦芽は、日本のノンアルコールビールテイスト飲料の原料として最も一般的に用いられる麦芽の1つである。大麦には、二条大麦、六条大麦などの種類があるが、いずれを用いてもよい。さらに、通常麦芽のほか、色麦芽なども用いることができる。なお、色麦芽を用いる際には、種類の異なる色麦芽を適宜組み合わせて用いてもよいし、一種類の色麦芽を用いてもよい。
【0026】
また、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、グアーガム分解物、ペクチン、グルコマンナン、アルギン酸、ラミナリン、フコイジン、カラギーナンなどの水溶性食物繊維を用いることもできる。これらのうち、安定性や安全性などの汎用性の観点から、難消化性デキストリン、ポリデキストロースが好ましい。
【0027】
1.2 炭酸ガス
本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料に含まれる炭酸ガスは、原材料に含まれる炭酸ガスを利用してもよく、また、炭酸水との混和または炭酸ガスの添加などで溶解させてもよい。
本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料に含まれる炭酸ガスは、原材料に発酵液を用いた場合、発酵工程で炭酸ガスが発生するため、当該炭酸ガスをそのまま用いることができる。また、原材料に非発酵液を用いた場合、発酵工程で発生する炭酸ガスを利用できないため、非発酵液と炭酸水との混和、または非発酵液に炭酸ガスの添加によって、容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料に炭酸ガスを溶解させることができる。
【0028】
本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料に含まれる炭酸ガスの量は、飲料の炭酸ガス圧によって表され、これは、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されない。典型的には、飲料の炭酸ガス圧の上限は4.0kg/cm、3.4kg/cmまたは2.8kg/cmであり、下限は0.2kg/cm、0.9kg/cmまたは1.5kg/cmであり、これらの上限および下限のいずれを組み合わせてもよい。例えば、飲料の炭酸ガス圧は、0.2kg/cm以上4.0kg/cm以下、0.2kg/cm以上3.4kg/cm以下、0.9kg/cm以上2.8kg/cm以下または1.5kg/cm以上2.8kg/cm以下であってよい。本明細書におけるガス圧とは、特別な場合を除き、容器内におけるガス圧をいう。圧力の測定は、当業者によく知られた方法、例えば20℃にした試料をガス内圧計に固定した後、一度ガス内圧計の活栓を開いてガスを抜き、再び活栓を閉じ、ガス内圧計を振り動かして指針が一定の位置に達したときの値を読み取る方法を用いて、または市販のガス圧測定装置を用いて測定することができる。
【0029】
1.3 その他の添加物
本発明では、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、様々な添加物を添加してもよい。例えば、着色料、泡形成剤、香料、発酵促進剤、酵母エキス、ペプチド含有物などのタンパク質系物質、アミノ酸などの調味料、アスコルビン酸などの酸化防止剤、各種酸味料などを本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて添加することができる。着色料は、飲料にビール様の色を与えるために使用するものであり、カラメル色素などを用いることができる。泡形成剤は、飲料にビール様の泡を形成させるため、あるいは飲料の泡を保持させるために使用するものであり、大豆サポニン、キラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質、コーン、大豆などの植物タンパクおよびペプチド含有物、ウシ血清アルブミン等のタンパク質系物質、酵母エキスなどを適宜使用することができる。香料は、ビール様の風味付けのために用いるものであり、ビール風味を有する香料を適量使用することができる。発酵促進剤は、酵母による発酵を促進させるために使用するものであり、例えば、酵母エキス、米や麦などの糠成分、ビタミン、ミネラル剤などを単独または組み合わせて使用することができる。
【0030】
1.4 容器詰飲料
発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料は、容器に詰められている。容器詰飲料にはいずれの形態・材質の容器を用いてもよく、容器の例としては、ビン、缶、樽またはペットボトルが挙げられるが、特に樽が好ましい。容器として、再栓が可能な容器も好適に用いることができ、そのような容器としてはスクリューキャップ付きのビン、ボトル缶またはペットボトル等が挙げられる。
【0031】
2 容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法
容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料の製造工程として、以下にノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法と容器詰め方法について説明する。
【0032】
2.1 ノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法
ノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法は、発酵を行う場合と発酵を行わない場合とに分けて以下に説明する。
【0033】
(1) 発酵を行う場合の製造工程
本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法に用いられるノンアルコールビールテイスト飲料は、例えば、仕込み工程、発酵工程、貯酒工程およびろ過工程などの当業者に周知のビールテイスト飲料の製造工程によって得られる。
具体的には、原料を仕込釜または仕込槽に投入し、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行わせ、ろ過して煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパクなどの固形分を取り除く。その後、さらに酵母を添加して発酵させ、ろ過機などで酵母を取り除き、必要に応じて水や香料、酸味料、色素などの添加剤を加え、ノンアルコールビールテイスト飲料を得る。保存料、甘味物質、苦味物質、香料、酸味料、色素などは、発酵工程後において所定量添加してもよいが、糊化・糖化工程を含む製造工程中の任意のタイミングで添加してもよく、添加タイミングは限定されない。例えば、水飴などの天然甘味料を糊化・糖化工程で添加してもよく、苦味物質を煮沸工程で添加してもよい。
【0034】
発酵工程は、麦、麦芽、麦芽エキス、大豆ペプチドなどと水を含む原液に酵母を添加し、発酵を行う工程であればよく、発酵温度、および発酵期間などの諸条件は、自由に設定することができる。原液に用いられるのは麦汁に限られず、発酵に必要な栄養源をその他の穀物(大豆、コーン、えんどうなど)やアミノ酸、ペプチド、糖液などで供給してもよい。ノンアルコールビールテイスト発酵飲料を製造する場合、通常のビールや発泡酒の製造のための発酵条件である、8~25℃、5~10日間、の条件で発酵させてもよい。発酵期間は最大で14日間である。発酵工程の途中で発酵液の温度(昇温、または降温)または圧力を変化させてもよい。
【0035】
発酵工程で用いる酵母は、製造すべき発酵飲料の種類、目的とする香味や発酵条件などを考慮して選択することができる。例えばWeihenstephan-34株など、市販の酵母を用いることができる。酵母は、酵母懸濁液のまま麦汁に添加しても良いし、遠心分離あるいは沈降により酵母を濃縮したスラリーを麦汁に添加しても良い。また、遠心分離の後、完全に上澄みを取り除いたものを添加しても良い。酵母の麦汁への添加量は適宜設定できるが、例えば、5×106cells/ml~1×108cells/ml程度である。
【0036】
(2) 発酵を行わない場合の製造工程
本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法に用いられるノンアルコールビールテイスト飲料の製造工程は、発酵工程を含まず、麦、麦芽、麦芽エキス、大豆ペプチドなどと水を含む原液に、炭酸水または炭酸ガスを混和する混和工程によって得られる。その際、必要に応じて香料、酸味料、色素などの添加剤を加えてもよい。原液に用いられるのは麦汁に限られず、発酵に必要な栄養源をその他の穀物(大豆、コーン、えんどうなど)やアミノ酸、ペプチド、糖液などで供給してもよい。非発酵液は混和工程の他に、さらに、仕込み工程、糖化工程および貯酒工程などの当業者に周知のノンアルコールビールテイスト飲料の製造工程を含んでもよい。保存料、甘味物質、苦味物質、香料、酸味料、色素などは、混和工程において所定量添加してもよいが、混和工程以外の他の任意の工程において添加してもよく、添加タイミングは限定されない。
【0037】
2.2 ノンアルコールビールテイスト飲料の容器詰め方法
本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料の容器詰め方法は特に限定されず、当業者に周知の容器詰め方法を用いることができる。容器詰め工程によって、本発明の容器詰ノンアルコールビールテイスト飲料は容器に充填・密閉される。容器詰め工程には、いずれの形態・材質の容器を用いてもよく、容器の例としては、「1.4 容器詰飲料」に記載の容器が挙げられる。
【0038】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によっては制限されない。
【実施例
【0039】
[実施例A]様々な甘味度と苦味価の組み合わせを持つ、安息香酸ナトリウム300ppm含有のノンアルコールビールテイスト飲料を作成した場合の効果の検討
【0040】
(サンプルの調製)
ノンアルコールビールテイスト飲料を以下の方法により、作製した。
麦芽:仕込水 = 1:6の重量比となるように、仕込水と麦芽を仕込層に投入して約50℃のマッシュを作製した。それを40分間保持した後、徐々に昇温していき、65℃~72℃の範囲で約60分間保持して糖化させた。糖化が終了したマッシュを76℃まで昇温し酵素を失活させた後、麦汁濾過槽に移し、濾過を実施して麦汁を得た。得られた濾液に温水を加えて希釈し、希釈後の麦汁1Lあたりホップ1g、カラメル色素0.4gとなるように各原料を加えて煮沸釜を用いて100℃で80分間煮沸した。煮沸終了後、ワールプールタンクに移送して、麦汁オリを除去して約2℃に冷却した。
【0041】
得られた冷却液のエキス分を調整し、甘味物質(アセスルファムK)、苦味物質(ホップ抽出物(イソα酸))および保存料(安息香酸ナトリウム)を、表2に示された実施例1~実施例6および比較例1~比較例4の組成の通りになるように添加した。
また、ノンアルコールビールテイスト飲料として必要な香味を有するように香料および炭酸ガスを適切な濃度で添加し、さらに最終製品としてpH3.5~4.0となるように適切な量の乳酸を添加した。
その後、65℃で10分以上の条件で殺菌操作を実施して、実施例1~実施例6および比較例1~4を得た。実施例1~実施例6および比較例1~4のいずれも、アルコール含有量は0.00v/v%であった。
【0042】
(香味の評価)
本明細書において、ノンアルコールビールテイスト飲料の香味を、評点法による官能試験によって評価した。良く訓練された官能評価者5名が、収斂味の「マスキング効果」およびノンアルコールビールテイスト飲料としての「総合評価」について、「収斂味マスキング効果」の場合は、マスキング効果が「非常にある=3点」、「明確にある=2.5点」、「ある=2点」、「ほとんどない=1.5点」、「全くない=1点」の5段階で、ノンアルコールビールテイスト飲料としての「総合評価」の場合は、総合評価が「とても美味しい=3点」、「美味しい=2.5点」、「やや美味しい=2点」、「平凡である=1.5点」、「美味しくない=1点」の5段階で評価した。
それぞれの項目において平均点を算出し、その平均点に応じて、それぞれの実施例および比較例のマスキング効果、総合評価を表2に示す4段階で評価した。
【表2】

マスキング効果と総合評価のいずれも、平均点が1.5未満のものを不合格とした。
【0043】
実施例および比較例についての評価結果を表3に示す。
【表3】
【0044】
表3に記載のとおり、甘味と苦味のバランスを調整した実施例では比較例に対して好適なマスキング効果が認められ、ノンアルコールビールテイスト飲料としての評価も良好であった。
【0045】
[実施例B]保存料濃度の違いによる効果の検討
保存料の濃度について検討した。
安息香酸ナトリウムの添加量を50ppmあるいは700ppmとしたこと以外は実施例Aと同様の方法でサンプルの調製および評価を行った。また、同様に保存料を含まないサンプルについても調製および評価を行い、参考例1とした。結果を表4に示す。
【表4】
【0046】
表4に記載のとおり、甘味と苦味のバランスを調整した実施例では、保存料の濃度が異なっても好適なマスキング効果が認められ、ノンアルコールビールテイスト飲料としての評価も良好であった。また、実施例のノンアルコールビールテイスト飲料としての評価は、収斂味をもたらす保存剤を加えていない参考例と比較しても、劣らないものであった。
【0047】
[実施例C]保存料の種類の違いによる効果の検討
保存料の種類について検討した。
保存料として安息香酸、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、強力サンプレザー(三栄源社製;安息香酸ナトリウムと安息香酸ブチルの混合品;安息香酸ナトリウムと安息香酸ブチルの重量比が5:1)を用いた以外は実施例Aと同様の方法でサンプルの調製および評価を行った。結果を表5に示す。
【表5】
【0048】
表5に記載のとおり、甘味と苦味のバランスを調整した実施例では、保存料の種類が異なっても好適なマスキング効果が認められ、ノンアルコールビールテイスト飲料としての評価も良好であった。
【0049】
[実施例D]甘味物質の種類の違いによる効果の検討
甘味物質の種類について検討した。
甘味物質としてグルコース、マルトース、スクラロース、アセスルファムK+スクラロースの混合品(重量比3:1)を用いた以外は実施例Aと同様の方法でサンプルの調製および評価を行った。結果を表6に示す。
【表6】
【0050】
表6に記載のとおり、甘味と苦味のバランスを調整した実施例では、甘味物質の種類が異なっても好適なマスキング効果が認められ、ノンアルコールビールテイスト飲料としての評価も良好であった。