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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】発酵生成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/00 20060101AFI20221221BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20221221BHJP
   C12N 9/42 20060101ALI20221221BHJP
   C12N 9/54 20060101ALI20221221BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
C12P21/00 A
C12P21/02 C
C12N9/42
C12N9/54
C12N15/09 Z ZNA
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020500531
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2019005172
(87)【国際公開番号】W WO2019159991
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2018022774
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 俊介
(72)【発明者】
【氏名】四方 健一
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-96742(JP,A)
【文献】国際公開第2017/025339(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/110448(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
C12N 9/00- 9/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を培養して発酵生成物を製造する方法であって、次の工程(A)~(D):
(A)第1の培地で微生物を培養する工程、
(B)培養後の菌体、培養原料及び発酵生成物を含有する培養液を、前記発酵生成物を吸着する吸着剤が充填され、菌体の大きさ(短径)d、吸着剤の細孔径D1及び吸着剤間の最小空隙径D2がD1<d<D2の関係を満たす吸着塔内に通液させて、培養液中の発酵生成物を前記吸着剤に吸着させると共に、吸着塔より流出する菌体及び培養原料を含有する流出液を回収する工程、
(C)前記吸着剤に溶出液を接触させて、発酵生成物を溶出させる工程、
(D)前記回収した菌体及び培養原料を含有する流出液を用いた第2の培地で微生物を培養する工程
を含む、発酵生成物の製造方法。
【請求項2】
工程(D)の後、さらに工程(B)~(D)の操作を1回以上繰り返す工程を含む、請求項1記載の発酵生成物の製造方法。
【請求項3】
工程(D)において、回収した菌体及び培養原料を含有する流出液を用いた培地のpHを、工程(A)における培養時の平均pH値より1.2低い値から当該平均pH値より1.2高い値までの範囲内に調整する、請求項2記載の発酵生成物の製造方法。
【請求項4】
微生物がバチルス属細菌である請求項1~3のいずれか1項記載の発酵生成物の製造方法。
【請求項5】
発酵生成物が加水分解酵素である請求項1~4のいずれか1項記載の発酵生成物の製造方法。
【請求項6】
加水分解酵素がアルカリセルラーゼ又はアルカリプロテアーゼである請求項5記載の発酵生成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を用いた発酵生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微生物を用いた発酵法により工業的に有用な化合物を生産する技術が実用化されている。
微生物培養後の発酵培養液には発酵生成物の他に未利用の培養原料、微生物菌体が混在しているため、培養液から発酵生成物を取得する操作においては、先ず菌体を分離した後に、発酵生成物を未利用の培養原料を含む溶液と分離し、回収する操作を行うのが一般的である。分離操作では、遠心分離、膜分離、吸着分離等が利用される(例えば、特許文献1~3)。
また、培養液を多孔質セラミック膜で濾過して菌体を分離すると共に、培養液に含まれる酵素を膜に特異的吸着させて、膜濾過液を除去後に溶出回収する方法が報告されている(特許文献4)。
【0003】
しかしながら、これら従来の方法では、菌体は再利用可能であるが、未利用の培養原料は発酵生成物の回収操作において廃棄されてしまうことが多く、発酵生成物の生産へ再利用されることは少なかった。発酵生産用培地には富栄養な液体培地が用いられることも多いため、経済的な観点から培養原料の有効利用が望まれる。
【0004】
(特許文献1)特開2016-96742号公報
(特許文献2)特開2017-112847号公報
(特許文献3)特開2011-36146号公報
(特許文献4)特開平3-240487号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、微生物を培養して発酵生成物を製造する方法であって、次の工程(A)~(D):
(A)第1の培地で微生物を培養する工程、
(B)培養後の菌体、培養原料及び発酵生成物を含有する培養液を、前記発酵生成物を吸着する吸着剤が充填され、菌体の大きさ(短径)d、吸着剤の細孔径D1及び吸着剤間の最小空隙径D2がD1<d<D2の関係を満たす吸着塔内に通液させて、培養液中の発酵生成物を前記吸着剤に吸着させると共に、吸着塔より流出する菌体及び培養原料を含有する流出液を回収する工程、
(C)前記吸着剤に溶出液を接触させて、発酵生成物を溶出させる工程、
(D)前記回収した菌体及び培養原料を含有する流出液を用いた第2の培地で微生物を培養する工程
を含む、発酵生成物の製造方法を提供するものである。
【発明の詳細な説明】
【0006】
本発明は、発酵培養液に混在する菌体及び未利用の培養原料を回収して、これら菌体及び培養原料の発酵生成物生産への有効利用を可能とする方法に関する。
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、従来のように微生物培養後の発酵培養液から先ず菌体だけを分離するのではなく、菌体、未利用の培養原料及び発酵生成物が混在する発酵培養液を吸着剤を充填した所定の樹脂塔に通液させて、発酵生成物を当該吸着剤に吸着させる一方で、菌体と未利用の培養原料を含む溶液を通過させれば、菌体及び未利用の培養原料を一緒に回収でき、且つこれらと発酵生成物との分離が可能であり、菌体及び未利用の培養原料を以降の発酵生成物の生産に再利用することができることを見出した。
【0008】
本発明によれば、菌体及び培養原料の発酵生成物生産への有効利用を図ることができ、発酵法により発酵生成物を経済的に効率良く生産することができる。
【0009】
本発明は、微生物を培養して発酵生成物を製造する方法であって、工程(A)第1の培地で微生物を培養する工程、工程(B)培養後の菌体、培養原料及び発酵生成物を含有する培養液を、前記発酵生成物を吸着する吸着剤が充填され、菌体の大きさ(短径)d、吸着剤の細孔径D1及び吸着剤間の最小空隙径D2がD1<d<D2の関係を満たす吸着塔内に通液させて、培養液中の発酵生成物を前記吸着剤に吸着させると共に、吸着塔より流出する菌体及び培養原料を含有する流出液を回収する工程、工程(C)前記吸着剤に溶出液を接触させて、発酵生成物を溶出させる工程、及び工程(D)前記回収した菌体及び培養原料を含有する流出液を用いた第2の培地で微生物を培養する工程、を有する。
【0010】
本発明において、発酵生成物は、微生物の培養により菌体外に生産される物質であればよい。
好適には、タンパク質又はポリペプチドが挙げられ、例えば、食品、医薬品、化粧品、洗浄剤、繊維、医療検査等の分野で用いられる産業上有用な酵素や生理活性ペプチド等が挙げられる。
【0011】
酵素としては、酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ)、転移酵素(トランスフェラーゼ)、加水分解酵素(ヒドロラーゼ)、脱離酵素(リアーゼ)、異性化酵素(イソメラーゼ)、合成酵素(リガーゼ/シンセターゼ)等が含まれる。
なかでも、加水分解酵素が好ましく、更にセルラーゼ、α-アミラーゼ、プロテアーゼが好ましく、更にセルラーゼ、プロテアーゼが好ましい。セルラーゼ、プロテアーゼは、アルカリセルラーゼ、アルカリプロテアーゼが好ましい。アルカリセルラーゼ、アルカリプロテアーゼは、アルカリ性領域に至適pHを有するセルラーゼ、プロテアーゼである。
【0012】
セルラーゼは、多糖加水分解酵素の分類(Biochem.J.,280,309(1991))中でファミリー5に属するセルラーゼが好ましく、微生物由来のセルラーゼがより好ましく、バチルス(Bacillus)属細菌由来のセルラーゼが更に好ましい。
α-アミラーゼは、微生物由来のα-アミラーゼが好ましく、バチルス属細菌由来の液化型アミラーゼがより好ましい。
プロテアーゼは、微生物由来のプロテアーゼが好ましく、バチルス属細菌由来のプロテアーゼがより好ましく、活性中心がセリン残基であるセリンプロテアーゼや金属プロテアーゼが更に好ましい。
【0013】
〔工程(A)〕
工程(A)は、第1の培地で微生物を培養する工程である。
微生物は、発酵生成物を生産する能力を有する微生物である。
前記タンパク質又はポリペプチドを生産する能力を有する微生物としては、ブドウ球菌(Staphylococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、リステリア(Listeria)属、バチルス(Bacillus)属、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)に属する微生物等が挙げられる。なかでも、バチルス(Bacillus)属細菌が好ましく、枯草菌(Bacillus subtilis)がより好ましい。
α-アミラーゼ生産性微生物であるバチルス属細菌としては、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-K-38株(FERM BP-6946)等が挙げられる。
アルカリセルラーゼ生産性微生物であるバチルス属細菌としては、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-S237株(FERM BP-7875)、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-64株(FERM BP-2886)等が挙げられる。
アルカリプロテアーゼ生産性微生物であるバチルス属細菌としては、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-64株(FERM P-10482)、バチルス クラウジ(Bacillus clausii)KSM K-16株(FERM BP-3376)、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-KP43株(FERM BP-6532)、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM―KP9860株(FERM BP-6534)、バチルス No.D-6(FERM P-1592)(プロテアーゼE-1)、バチルス エスピーY(FERM BP-1029)、バチルス SD521(FERM P-11162)、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-9865株(FERM P-18566)、NCIB12289株、NCIB12513株等が挙げられる。
微生物は、野生株、又は各種遺伝子操作によって、塩基配列の挿入、置換、欠失等の変異が生じた変異株のいずれでもよく、また、公知の人為的な改変を付すことにより所望の発酵生成物生産能を付与したものであってもよい。
【0014】
微生物の培養に用いられる第1の培地には、培養原料として該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要な有機微量栄養源等を含む合成培地、天然培地、或いは合成培地に天然成分を添加した半合成培地を適宜用いることができる。
炭素源としては、例えば、糖類が挙げられる。糖類としては、グルコース、フルクトース、キシロース等の単糖類、スクロース、ラクトース、マルトース等のニ糖類が挙げられる。糖類は無水物又は水和物であってもよい。また、糖類を含有する糖液、例えば、でんぷんから得られる糖液や糖蜜(廃糖蜜)、セルロース系バイオマスから得られる糖液等を使用することもできる。なかでも、微生物の増殖の点から、グルコース、マルトースが好ましい。
培地中の炭素源の濃度は、好ましくは5~25%(w/v)である。
【0015】
窒素源としては、酵母エキス、肉エキス、魚肉エキス等のエキス類、アンモニア、尿素、無機・有機アンモニウム塩、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等の含窒素化合物、コーングルテンミール、大豆粉、ポリペプトン、トリプトン、ペプトン、各種アミノ酸、ソイビーンミール等が挙げられる。これらの窒素源は、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。
また、培地中のエキス類の濃度は、菌体増殖及び生産性の点から、好ましくは乾燥固形分として0.1~2%(w/v)、より好ましくは1~2%(w/v)である。
【0016】
無機塩類としては、例えば、硫酸塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、リン酸塩、ナトリウム塩等が挙げられる。硫酸塩の例としては、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン等が挙げられる。マグネシウム塩の例としては、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。亜鉛塩の例としては、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等が挙げられる。リン酸塩の例としては、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸二水素カリウム等が挙げられる。ナトリウム塩の例としては、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
培地中の無機塩類の濃度は、好ましくは0.5~1%(w/v)である。
また、培地には、抗生物質や微量成分を適宜必要に応じて添加しても良い。
【0017】
微生物の培養は、当該微生物が増殖し、目的とする発酵生成物を産生することを可能にする条件であれば一般的な方法を適用することができる。
例えば、バチルス属細菌の場合、培養温度は、微生物の増殖に悪影響を与えない範囲であれば特に制限されないが、好ましくは20~48℃であり、より好ましくは25~45℃である。
バチルス属細菌の培地に対する接種量は、好ましくは0.1~5%(v/v)である。
バチルス属細菌の培養時の第1の培地のpH(25℃)は、好ましくは4~10、より好ましくは5~9である。第1の培地のpHは、適宜緩衝剤を用いて調整することができる。
バチルス属細菌の培養期間は、微生物の増殖に応じて10時間~7日、より好ましくは12時間~5日、更に好ましくは24時間~4日である。後述する炭素源変換率向上の点からは、バチルス属細菌の培養期間は、好ましくは66時間~7日、より好ましくは66時間~5日である。
培養に用いる培養槽は、従来公知のものを適宜採用することができる。例えば、通気撹拌型培養槽、気泡塔型培養槽、流動床培養槽であり、回分式、半回分式及び連続式のいずれで行ってもよい。
通気撹拌培養を行う場合は、溶存酸素濃度が好ましくは0ppm超、より好ましくは0.5ppm以上、更に好ましくは1ppm以上に制御された培地で行うのが好ましい。撹拌回転数は、培地に供給された気体を分散する条件が好ましく、スケールに合わせて適宜調整することができる。
【0018】
このような培養により、培養液中に発酵生成物が蓄積する。当該培養液中には、発酵生成物の他に、微生物菌体、未利用の培養原料が混在する。そのため、当該培養液から発酵生成物を取得する操作が必要であるところ、本発明では培養液を次の工程(B)に供する。
工程(B)に供する培養液において、菌体の濃度(OD600値)は、好ましくは20~100、より好ましくは25~100、更に好ましくは30~100である。このOD600値は、後掲の実施例に記載の方法によって測定することができる。
また、工程(B)に供する培養液において、発酵生成物の濃度は、好ましくは0.01~10g/L、より好ましくは0.1~5g/Lである。
また、工程(B)に供する培養液において、未利用の培養原料、例えば残糖量は、好ましくは0.1~100g/L、より好ましくは1~50g/L、より好ましくは5~50g/Lである。
【0019】
〔工程(B)〕
本発明の工程(B)は、培養後の菌体、培養原料及び発酵生成物を含有する培養液を、前記発酵生成物を吸着する吸着剤が充填され、菌体の大きさ(短径)d、吸着剤の細孔径D1及び吸着剤間の最小空隙径D2がD1<d<D2の関係を満たす吸着塔内に通液させて、培養液中の発酵生成物を前記吸着剤に吸着させると共に、吸着塔より流出する菌体及び培養原料を含有する流出液を回収する工程である。
本発明で用いられる吸着剤は、その細孔表面と発酵生成物との間の物理的相互作用により培養液中の発酵生成物を吸脱着できるものである。
【0020】
吸着剤として、例えば、架橋重合体合成樹脂が利用できる。前記タンパク質又はポリペプチドを吸着する吸着剤としては、樹脂母体がスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、又はメタクリル系樹脂である合成樹脂が利用できる。なかでも、発酵生成物の吸着性の点から、樹脂母体がスチレン-ジビニルベンゼン共重合体、ポリメタクリル酸メチルである合成樹脂が好ましい。また、樹脂母体が、側鎖にブロモ基やブチル基、フェニル基等の疎水性の官能基を有さないことが好ましい。
これらの例としては、例えば、アンバーライトXAD4、アンバーライトXAD16HP、アンバーライトXAD1180、アンバーライトXAD2000(以上、オルガノ社)、ダイヤイオンHP20、ダイヤイオンHP20SS、ダイヤイオンHP21、セパビーズSP850、セパビーズSP825、セパビーズSP700、セパビーズSP70(以上、三菱化学社)、VPOC1062(Bayer社)等のスチレン系合成吸着剤;ダイヤイオンHP1MG、ダイヤイオンHP2MG、セパビーズSP2MGS(以上、三菱化学社)等のメタクリル系合成吸着剤;アンバーライトXAD7HP(オルガノ社)等のアクリル系合成吸着剤が挙げられる。
吸着剤の形態は、球形、不均一形状等のいずれの形状であってもよいが、分離効率の点から、球形が好ましい。
【0021】
吸着剤が充填された吸着塔では、菌体の大きさ(短径)d、吸着剤の細孔径D1及び吸着剤間の最小空隙径D2がD1<d<D2の関係を満たす。菌体の大きさ(短径)dが、吸着剤の細孔径D1より大きく、かつ吸着剤間の最小空隙径D2より小さいと、吸着塔内に通液した培養液中の菌体は培養原料と一緒に吸着塔より流出するため、微生物培養後の培養液から菌体及び未利用の培養原料を一緒に回収でき、且つこれらと発酵生成物との分離が可能である。
菌体の大きさd(短径)は、同一種類であれば均一な大きさを有する。培養液中の菌体の大きさd(短径)は、発酵生成物を生産する能力を有する微生物の種類によって相違するものの、好ましくは0.1~300μm、より好ましくは0.1~10μm、よりさらに好ましくは0.3~3μmである。
【0022】
吸着剤の細孔径D1は、発酵生成物の吸着性の点から、好ましくは1~100nm、より好ましくは5~80nm、より更に好ましくは20~60nmである。本明細書において、吸着剤の細孔径D1は平均値である。
【0023】
また、吸着剤の平均粒子径は、発酵生成物の吸着性の点から、好ましくは30~2000μm、より好ましくは50~1000μm、更に好ましくは70~250μmである。平均粒子径は、吸着剤を蒸留水に分散し、粒子径分布測定装置(例えば、LA-920、堀場製作所社)を用いて測定することができる。
更に、吸着剤の粒子径は、菌体の透過性の点から、その分布が狭いことが好ましい。具体的には、平均粒子径Dに対する粒子径の標準偏差σとして算出される下記式(1)で表される変動係数CV値が、35%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、下限は0%以上であることが好ましい。また、入手性の点から、下限は1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、5%以上であることが更に好ましい。
変動係数CV値(%)=[粒子径の標準偏差σ]/[平均粒子径D]×100 (式1)
【0024】
吸着剤間の最小空隙径D2は、吸着剤間の空隙の最小径である。吸着剤間の最小空隙径D2は、菌体の透過性の点から、好ましくは1~500μm、より好ましくは5~300μm、より更に好ましくは7.5~200μm、より更に好ましくは10~100μm、より更に好ましくは12~50μmである。吸着剤間の空隙径は、吸着剤の平均粒子径より算出することができ、最小空隙径も平均値である。
【0025】
吸着剤の細孔径D1(μm)に対する培養液中の菌体の大きさd(短径)(μm)の比率[d/D1]は、発酵生成物の吸着性の点、菌体及び未利用の培養原料と発酵生成物との分離効率の点から、1.25~2000であることが好ましく、5~150であることがより好ましく、10~50であることが更に好ましい。
培養液中の菌体の大きさd(短径)(μm)に対する吸着剤間の最小空隙径D2(μm)の比率[D2/d]は、菌体の透過性の点から、2~2000であることが好ましく、5~300であることがより好ましく、10~100であることが更に好ましい。
【0026】
吸着塔への吸着剤の充填は、菌体の大きさ(短径)d、吸着剤の細孔径D1及び吸着剤間の最小空隙径D2が前記所定の関係を満たすように充填すればよく、その充填法としては、スラリー充填等の従来公知の方法で行うことができる。
【0027】
吸着剤が充填された吸着塔に培養液を通液する前においては、予め吸着剤を洗浄して、吸着剤中の不純物を除去するのが好ましい。
例えば、通液速度(空間速度、SV)が0.5~5/hr、吸着剤の全容量に対する通液倍数(BV)が4~10の通液条件で水を吸着塔に通液して洗浄する方法が挙げられる。また、有機溶媒水溶液を通液した後、水を通液してもよい。洗浄に用いる有機溶媒水溶液は、10~90%(v/v)エタノール水溶液が好ましい。
【0028】
培養液の通液条件は、培養液中の発酵生成物が吸着剤に十分に吸着する条件であればよく、例えば、SVが0.25~10/hrであり、BVが1~20である。発酵生成物の回収効率の点から、より好ましくはSVが1~5/hrであり、BVが2~10である。
これにより、培養液中の発酵生成物は吸着剤に吸着し、菌体及び培養原料は吸着塔より流出するため菌体及び培養原料を含有する流出液を回収する。
【0029】
培養液を通液後は、工程(C)の前に、吸着剤を洗浄液で洗浄する工程を行うのが好ましい。吸着剤を洗浄する洗浄液には、水、有機溶媒水溶液を使用できる。前記タンパク質又はポリペプチドを溶出させる場合、後述する水溶性カルシウム塩を含有する有機溶媒水溶液を洗浄液として用いるのが好ましい。
【0030】
〔工程(C)〕
工程(C)は、前記吸着剤に溶出液を接触させて、発酵生成物を溶出させる工程である。溶出工程は、1回又は複数回行うことができる。
溶出液は、吸着剤に吸着した発酵生成物を脱離、溶出することができるものである。溶出液の種類や濃度は特に制限されないが、例えば、アルカリ性水溶液、塩水溶液、有機溶媒水溶液等が挙げられる。
前記タンパク質又はポリペプチドを溶出させる場合、回収効率と安定性の点から、溶出液として水溶性カルシウム塩を含有する有機溶媒水溶液を用いるのが好ましい。
水溶性カルシウム塩は、水溶液に溶解するカルシウム塩であり、例えば、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム等の有機塩;硝酸カルシウム、塩化カルシウム等の無機塩が挙げられる。
有機溶媒水溶液中の水溶性カルシウム塩の濃度は、回収効率の点から、好ましくは0.02~30mM、より好ましくは0.3~15mM、更に好ましくは1~10mMである。
【0031】
有機溶媒水溶液における有機溶媒としては、ポリオール、炭素数4以下の一価アルコール等が挙げられる。なかでも、回収効率と安定性の点から、ポリオールが好ましい。
ポリオールは、炭化水素の2個以上の水素を水酸基で置換したアルコール類の総称であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール等のアルキレングリコール類;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類等が挙げられる。ポリエチレングリコールの重量平均分子量は、200~20,000のものが好ましい。
なかでも、ポリオールは、SP値が7~20〔(cal/cm31/2〕の範囲内、好ましくはSP値が9~18〔(cal/cm31/2〕の範囲内にあるポリオールが好ましい。
このようなポリオール(括弧内はSP値を示す)としては、プロピレングリコール(12.6)、ポリエチレングリコール400(9.4)、グリセリン(16.5)が好ましく、更にプロピレングリコール(12.6)、ポリエチレングリコール400(9.4)が好ましい。
【0032】
有機溶媒水溶液における有機溶媒の濃度は、回収効率と安定性の点から、20~80%(v/v)、更に40~80%(v/v)が好ましい。溶出工程を複数回行う場合、各溶出工程で使用する有機溶媒水溶液における有機溶媒の濃度は、順次高めることが好ましく、例えば、1段階目の溶出工程を20~60%(v/v)の有機溶媒水溶液を用いて行い、2段階目の溶出工程を40~80%(v/v)の有機溶媒水溶液を用いて行う手法が好ましい。
【0033】
溶出液の通液条件は、回収効率と液量の点から、SVが0.25~10/hrであり、BVが1~10であることが好ましく、更にSVが1~5/hrであり、BVが2~8であることが好ましい。
【0034】
〔工程(D)〕
工程(D)は、前記回収した菌体及び培養原料を含有する流出液を用いた第2の培地で微生物を培養する工程である。本工程では、回収した菌体及び培養原料を含有する流出液の一部を用いてもよく、又は全部を用いてもよい。また、流出液の全部を用いる場合には、第2の培地を第2の培養槽に投入する観点から、流出液を濃縮することが好ましく、濃縮倍率は2~6倍が好ましく、3~5倍がより好ましい。回収した菌体及び培養原料を含有する流出液は、基質の発酵生成物への変換率向上の点から、第2の培地中、好ましくは6質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上となるように用いるのが好ましい。
【0035】
第1の培地から第2の培地に植え継ぐ菌体の量は、基質の発酵生成物への変換率向上の点、及び発酵生成物の生産性の点から、液量基準の百分率として6%(v/v)以上であることが好ましく、10%(v/v)以上であることがより好ましく、30%(v/v)以上であることがより更に好ましく、50%(v/v)以上であることがより更に好ましい。
【0036】
第1の培地から第2の培地に植え継ぐ培養原料の量は、基質の発酵生成物への変換率向上の点、及び発酵生成物の生産性の点から、液量基準の百分率として6%(v/v)以上であることが好ましく、10%(v/v)以上であることがより好ましく、30%(v/v)以上であることがより更に好ましく、50%(v/v)以上であることがより更に好ましい。また、培養原料の植え継ぎ量の比率は、培地中の糖量を基準として以下の算出式により算出することができる。
第1の培地から第2の培地への培養原料植え継ぎ比率(%)=
[第2の培養開始時における第1の培地由来の糖量]/[第1の培養終了時における第1の培養液中の糖量]×100
【0037】
第2の培地は、第1の培地と同様、炭素源の他、窒素源、無機塩類、その他必要な栄養源等を含有することができる。具体的には、前述したとおりである。
工程(D)における微生物の培養は、工程(A)における微生物の培養と同一の培養条件としてもよく、異なる培養条件としてもよい。
【0038】
培養後の菌体及び未利用の培養原料は、再度、発酵生成物の生産に再利用することができる。すなわち、工程(D)の後に、菌体、培養原料及び発酵生成物を含有する培養液を再度工程(B)に供し、回収した菌体及び培養原料を含有する流出液を用いて、微生物の培養を1回以上、更に2回以上、更に3回以上繰り返す工程を行ってもよい。
【0039】
回収した菌体及び培養原料を含有する流出液を用いた培地で微生物を培養する工程を2回以上繰り返す際は、該流出液を用いた培地での微生物培養を行うに先立って、及び/又は微生物培養中に、培地のpH調整を行うことが好ましい。菌体、及び培養原料を再利用しながら培養を繰り返すと、培地成分の蓄積により培地のpHが上昇、又は低下する傾向が見られるところ、流出液を用いた培地のpH調整を行うことにより、発酵生成物を生産する能力を有する微生物の発酵生成物生産性を向上させることができる。
微生物培養時の回収した菌体及び培養原料を含有する流出液を用いた培地のpHは、第1回目の培養、すなわち工程(A)における培養時の平均pH値より1.2低い値から、当該平均pH値より1.2高い値までの範囲内、すなわち、「平均pH値-1.2~+1.2」の範囲内となるように調整することが好ましく、「平均pH値-0.6~+0.6」の範囲内であることがより好ましい。尚、培地のpHは、適宜緩衝剤を用いて調整することができる。
【0040】
本発明により、菌体及び未利用の培養原料を以降の発酵生成物の生産に再利用することで培養原料が無駄なく発酵生成物の生産に利用される。本発明において、投入した炭素源から発酵生成物への炭素源変換率(%)は、好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.6%以上である。炭素源変換率は、発酵生成物の総炭素源重量を、投入した炭素源重量で割った値である。炭素源変換率の算出方法の詳細は実施例に記載した。
【0041】
本発明により得られた発酵生成物は、そのまま使用することもできるが、更に必要に応じて、公知の方法により精製、結晶化、或いは造粒化して使用することができる。
【0042】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の製造方法を開示する。
【0043】
<1> 微生物を培養して発酵生成物を製造する方法であって、次の工程(A)~(D):
(A)第1の培地で微生物を10時間~7日培養する工程、
(B)培養後の菌体、培養原料及び発酵生成物を含有する培養液を、前記発酵生成物を吸着する吸着剤が充填され、菌体の大きさ(短径)d、吸着剤の細孔径D1及び吸着剤間の最小空隙径D2がD1<d<D2の関係を満たす吸着塔内に通液させて、培養液中の発酵生成物を前記吸着剤に吸着させると共に、吸着塔より流出する菌体及び培養原料を含有する流出液を回収する工程、
(C)前記吸着剤に溶出液を接触させて、発酵生成物を溶出させる工程、
(D)前記回収した菌体及び培養原料を含有する流出液を用いた第2の培地で微生物を培養する工程
を含み、第1の培地から第2の培地に植え継ぐ培養原料の量が30%(v/v)以上である、発酵生成物の製造方法。
<2> 微生物を培養して発酵生成物を製造する方法であって、次の工程(A)~(D):
(A)第1の培地で微生物を培養する工程、
(B)培養後の菌体、培養原料及び発酵生成物を含有する培養液を、前記発酵生成物を吸着する吸着剤が充填され、菌体の大きさ(短径)d、吸着剤の細孔径D1及び吸着剤間の最小空隙径D2がD1<d<D2の関係を満たす吸着塔内に通液させて、培養液中の発酵生成物を前記吸着剤に吸着させると共に、吸着塔より流出する菌体及び培養原料を含有する流出液を回収する工程、
(C)前記吸着剤に溶出液を接触させて、発酵生成物を溶出させる工程、
(D)前記回収した菌体及び培養原料を含有する流出液を用いた第2の培地で微生物を培養する工程
を含み、工程(B)における吸着剤の平均粒子径Dが30~2000μmであり、かつ次の式(1)で表される粒子径の変動係数CVが1~35%である、発酵生成物の製造方法。
変動係数CV値(%)=[粒子径の標準偏差σ]/[平均粒子径D]×100 (式1)
<3> 微生物を培養して発酵生成物を製造する方法であって、次の工程(A)~(D):
(A)第1の培地で微生物を培養する工程、
(B)培養後の菌体、培養原料及び発酵生成物を含有する培養液を、前記発酵生成物を吸着する吸着剤が充填され、菌体の大きさ(短径)d、吸着剤の細孔径D1及び吸着剤間の最小空隙径D2がD1<d<D2の関係を満たす吸着塔内に通液させて、培養液中の発酵生成物を前記吸着剤に吸着させると共に、吸着塔より流出する菌体及び培養原料を含有する流出液を回収する工程、
(C)前記吸着剤に溶出液を接触させて、発酵生成物を溶出させる工程、
(D)前記回収した菌体及び培養原料を含有する流出液を用いた第2の培地で微生物を培養する工程
を含み、工程(B)における最小空隙径D2が1~500μmであり、かつ次の式(1)で表される粒子径の変動係数CVが1~35%である、発酵生成物の製造方法。
変動係数CV値(%)=[粒子径の標準偏差σ]/[平均粒子径D]×100 (式1)
【実施例
【0044】
[菌体濃度の測定法]
培養液の一部を分取したものを5%(w/v)塩化ナトリウム水溶液を用いて100倍に希釈混合した後、U-2000形日立分光光度計(日立製作所)を用いて波長600nmにおける濁度を測定し、希釈率からOD600値を算出した。
【0045】
[アルカリプロテアーゼ生成量の測定法]
培養液から菌体を除いた培養上清について、プロテインアッセイラピッドキットワコー(和光純薬工業社製)を使用してタンパク量を測定し、菌体外に分泌生産されたアルカリプロテアーゼの量を求めた。吸光度の測定には、UV-2450分光光度計(島津製作所社製)を用いた。
【0046】
[マルトース一水和物量の測定法]
培養液から菌体を除いた培養上清について、F-キット 麦芽糖/ショ糖/D-グルコース(Roche Diagnostics社製)を使用してマルトース一水和物量を測定した。吸光度の測定には、吸光分光光度計(Benchmark Plusマイクロプレートリーダー、バイオ・ラッド社製)を用いた。培養終了時のマルトース一水和物量を残糖量(g/L)とした。
【0047】
[炭素源変換率の算出]
炭素源変換率は次式により算出した。
炭素源変換率(%)=[アルカリプロテアーゼの総炭素源重量(g)]/[投入マルトース一水和物の重量(g)]×100
【0048】
[アルカリプロテアーゼの回収率の算出]
アルカリプロテアーゼ回収率の算出は、培養液と精製酵素溶液のタンパク量を基に、次式により算出した。
アルカリプロテアーゼの回収率(%)={(精製酵素溶液のタンパク質濃度)×(精製酵素溶液の回収量)}/{(培養液のタンパク質濃度)×(培養液の通液量)}×100
【0049】
[pHの測定法]
pHは、pHメーター F-635(Broadley James社製)を用いて連続的に測定した。
【0050】
実施例1
(1)プロテアーゼ遺伝子発現変異が導入された枯草菌変異株(168_protease株)の構築
プロテアーゼ遺伝子発現変異の導入を行った。枯草菌変異株RIK1140(trpB'A'::PrrnOcatpt1 erm hisC101)(特許第5847458号)のゲノムDNAを鋳型とし、表1記載のプライマーtrpB-F及びPrrnO-catsd-Rを用いて、trpB遺伝子からクロラムフェニコール耐性遺伝子上流域のShine-Dalgarno(SD)配列(Shine,J.,Dalgarno,L.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,1974,71:1342-1346)を含む断片(A)をPCRにより増幅した。また、表1記載のプライマーPrrnO-cat-erm-F及びhisC-R2を用いて、エリスロマイシン耐性遺伝子及びhisC遺伝子を含む断片(B)をPCRにより増幅した。
【0051】
次に、特開2002-218989号公報、特開2002-306176号公報、特開2004-122号公報、特開2004-305176号公報、及び特開2006-129865号公報の記載を参考に、プロテアーゼKP43(配列番号1のアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼ、特開2002-218989号公報参照)に下記(1)~(11)の変異が逐次行われたKP43プロテアーゼ変異体を作製した。
(1)195位のチロシンをアルギニンに置換(特開2002-218989号公報参照)
(2)369位のアスパラギン酸をアスパラギンに置換(特開2002-306176号公報参照)
(3)65位のトレオニンをプロリンに置換(特開2004-122号公報参照)
(4)273位のバリンをイソロイシンに置換(特開2004-122号公報参照)
(5)359位のトレオニンをセリンに置換(特開2004-122号公報参照)
(6)387位のセリンをアラニンに置換(特開2004-122号公報参照)
(7)166位のアスパラギンをグリシンに置換(特開2004-305176号公報参照)
(8)167位のグリシンをバリンに置換(特開2004-305176号公報参照)
(9)133位のアラニンをセリンに置換(特開2006-129865号公報参照)
(10)134位のバリンをスレオニンに置換(特開2006-129865号公報参照)
(11)133位と134位の間にセリンを挿入(特開2006-129865号公報参照)
【0052】
前記KP43プロテアーゼ変異体をコードする遺伝子の塩基配列を含むDNAを鋳型として、表1記載のプライマーPrrnO-P-F及びPrrnO-P-Rを用いて、プロテアーゼ遺伝子を含む断片(C)をPCRにより増幅した。
【0053】
次に、得られた断片(A)、(B)及び断片(C)を表1記載のプライマーtrpB-F及びhisC-R2を用いてSOE-PCR法によって結合させ、最終PCR産物(A+B+C)を得た。得られた最終PCR産物を用いてコンピテント法(J.Bacteriol.,1960,81:741-746)により枯草菌野生株168株の形質転換を行い、エリスロマイシン耐性且つヒスチジン要求性である枯草菌変異株168_protease株を得た。hisC101は、hisC遺伝子内におけるQ318amber変異を表し、この変異はヒスチジン要求性を示す。またhisC101は、trpC2変異(トリプトファン要求性)と連鎖している。じたがって、枯草菌変異株168_protease株は、トリプトファン要求性及びヒスチジン要求性を示す株である。
【0054】
得られた枯草菌変異株168_protease株のゲノムを用いたPCR及びそれに続くサンガー法によるシークエンシングによって、ゲノム上の所定の位置に目的変異が導入されていることを確認した。
【0055】
【表1】
【0056】
(2)第1の培養工程
前記で得た形質転換体を、LB培地(10g/Lトリプトン、5g/L酵母エキス、5g/LNaCl、)30mLに接種し、500mL容坂口フラスコで20時間、30℃で125r/minの振盪速度で培養し、種菌とした(シード培養)。
【0057】
次いで、前記種菌を第1の培地(20g/Lトリプトン、10g/L酵母エキス、10g/LNaCl、75g/Lマルトース一水和物、7.5ppm硫酸マンガン4-5水和物)100mLに2%(v/v)接種し、第1の培養槽を用いて30℃、0.5vvm、1200r/minで66時間、通気撹拌培養を行った(第1の培養)。培養中の平均pHは7.6であった。
培養66時間後の菌体濃度(OD600値)は37であり、培養液中の菌体の大きさを光学顕微鏡により観察した結果、その短径は約0.8μmであった。また、培養液中の残糖量は27(g/L)、アルカリプロテアーゼの生成量は0.24(g/L)であった。
【0058】
(3)分離工程
(吸着)
吸着塔にはカラム(内径23mm、高さ3.6cm、体積15mL)を使用し、カラムに吸着剤としてセパビーズSP2MGS(三菱化学(株)製)をスラリー充填法にて15mL充填した。吸着剤の細孔径は46nm、粒子径は分布の幅が120~150μmで、その平均粒子径は137.0μmであった。吸着剤間の最小空隙径は18.6μmであった。
カラムに蒸留水を流量0.5mL/分、SV=2/hr、BV=5で通液し、平衡化を行った。次いで、第1の培養槽に通気撹拌を行いながら、第1の培養槽から培養液100mLを、平衡化後のカラムに対して流量0.5mL/分、SV=2/hr、BV=6.7で通液することにより、アルカリプロテアーゼを吸着剤に吸着させるとともに、菌体と培養原料を含む溶液を流出させて回収した。
【0059】
(水洗)
次いで、洗浄液として2mM塩化カルシウム水溶液15mLを、流量0.5mL/分、SV=2/hr、BV=1で通液し水洗を行った。
【0060】
(脱離)
水洗後のカラムに対して、溶出液として、2mM塩化カルシウムを含む40%(v/v)プロピレングリコール(PG)水溶液45mL、2mM塩化カルシウムを含む80%(v/v)プロピレングリコール水溶液45mLをそれぞれ流量0.5mL/分、SV=2/hr、BV=3で順次通液し、アルカリプロテアーゼの脱離を行い、精製酵素溶液を回収した。精製アルカリプロテアーゼの回収率は90.7%であった。
【0061】
(4)第2の培養工程
第1の培地を2.86倍に濃縮した以外は同じ組成の第2の培地を第2の培養槽に35mL投入し、上記と同様の条件において第2の培養槽に通気撹拌を行い、そこにカラムから流出した菌体と培養原料を含む流出液65mLを添加した。第1の培地から第2の培地への植え継ぎ量は菌体が65%(v/v)、培養原料(基質)が65%(v/v)、生成物(アルカリプロテアーゼ)が0%(v/v)であった。
6N硫酸により第2の培地のpHを7.0に調整した後、30℃、0.5vvm、1200r/minで76時間、通気撹拌培養を行った(第2の培養)。培養中のpHは7.0~7.9の範囲で、平均pHは7.7であった。
培養76時間後の菌体濃度(OD600値)は70であった。また、アルカリプロテアーゼの生成量は0.51(g/L)であった。
第1の培養、第2の培養全体での糖投入量に対するアルカリプロテアーゼの炭素源変換率は0.67%であった。
【0062】
実施例2
実施例1の第1の培養において、培養を97時間行った以外は同様の操作を行った。第1の培養において、培養97時間後の菌体濃度(OD600値)は30であり、また、培養液中の残糖量は13(g/L)、アルカリプロテアーゼの生成量は0.27(g/L)であった。第2の培養において、培養76時間後の菌体濃度(OD600値)は73であり、アルカリプロテアーゼの生成量は0.53(g/L)であった。
また、第1の培養、第2の培養全体での糖投入量に対するアルカリプロテアーゼの炭素源変換率は0.71%であった。
【0063】
実施例3
実施例1の第1の培養において、培養を122時間行った以外は同様の操作を行った。第1の培養において、培養122時間後の菌体濃度(OD600値)は29であり、また、培養液中の残糖量は10(g/L)、アルカリプロテアーゼの生成量は0.27(g/L)であった。第2の培養において、培養76時間後の菌体濃度(OD600値)は68であり、アルカリプロテアーゼの生成量は0.59(g/L)であった。
また、第1の培養、第2の培養全体での糖投入量に対するアルカリプロテアーゼの炭素源変換率は0.77%であった。
【0064】
実施例4
実施例1の第1の培養において、培養を144時間行った以外は同様の操作を行った。第1の培養において、培養144時間後の菌体濃度(OD600値)は26であり、また、培養液中の残糖量は0(g/L)、アルカリプロテアーゼの生成量は0.28(g/L)であった。第2の培養において、培養76時間後の菌体濃度(OD600値)は60であり、アルカリプロテアーゼの生成量は0.40(g/L)であった。
また、第1の培養、第2の培養全体での糖投入量に対するアルカリプロテアーゼの炭素源変換率は0.61%であった。
【0065】
実施例5
実施例1の第1の培養において7日間、培養を168時間行った以外は同様の操作を行った。第1の培養において、培養168時間後の菌体濃度(OD600値)は22であり、また、培養液中の残糖量は0(g/L)、アルカリプロテアーゼの生成量は0.27(g/L)であった。第2の培養において、培養76時間後の菌体濃度(OD600値)は58であり、アルカリプロテアーゼの生成量は0.36(g/L)であった。
また、第1の培養、第2の培養全体での糖投入量に対するアルカリプロテアーゼの炭素源変換率は0.56%であった。
【0066】
比較例1
実施例1の第1の培養について、培養液中の残糖量が0(g/L)になるまで培養を行い、分離工程以降の工程を実施しなかった。
培養65時間後の菌体濃度(OD600値)は37であった。
第1の培養での糖投入量に対するアルカリプロテアーゼの炭素源変換率は0.48%であった。
【0067】
比較例2
実施例1の第1の培養後、カラムを用いず、培養液を無菌的に遠心分離(5℃、9000r/min、10分)を行って菌体を回収し、第2の培地へ植え継いだ以外は、実施例1と同様の操作を行った。培養中のpHは6.5~8.1の範囲で、平均pHは7.6であった。
第1の培地から第2の培地への植え継ぎ量は菌体が100%(v/v)、培養原料(基質)が0%(v/v)、生成物(アルカリプロテアーゼ)が0%(v/v)であった。
培養76時間後の菌体濃度(OD600値)は44であった。また、アルカリプロテアーゼの生成量は0.29(g/L)であった。
第1の培養、第2の培養全体での糖投入量に対するアルカリプロテアーゼの炭素源変換率は0.47%であった。
実施例1~5及び比較例1~2における条件及び炭素源変換率を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
実施例6
実施例1と同様に、第1の培養工程、分離工程及び第2の培養工程を行った。第1の培地から第2の培地への植え継ぎ量は菌体が65%(v/v)、培養原料(基質)が65%(v/v)、生成物(アルカリプロテアーゼ)が0%(v/v)であった。また、第2の培養工程終了後の菌体濃度(OD600値)は70、培養液中の残糖量は27(g/L)、アルカリプロテアーゼの生成量は0.51(g/L)であった。第2の培養中のpHは7.0~7.9の範囲で、平均pHは7.7であった。
第1の培養、第2の培養全体での糖投入量に対するアルカリプロテアーゼの炭素源変換率は0.67%であった。
【0070】
第2の培養工程終了後、実施例1の分離工程と同様の操作を行い、菌体と培養原料を含む流出液を回収した後、第2の培地と同じ組成の第3の培地35mLを投入した第3の培養槽に流出液65mLを添加した。第2の培地から第3の培地への植え継ぎ量は菌体が65%(v/v)、培養原料(基質)が65%(v/v)、生成物(アルカリプロテアーゼ)が0%(v/v)であった。
6N硫酸により第3の培地のpHを7.0に調整した後、30℃、0.5vvm、1200r/minで52時間、通気撹拌培養を行った(第3の培養)。培養中のpHは7.0~7.9の範囲で、平均pHは7.7であった。
培養52時間後の菌体濃度(OD600値)は85であった。また、アルカリプロテアーゼの生成量は0.44(g/L)であった。
第1の培養、第2の培養、第3の培養全体での糖投入量に対するアルカリプロテアーゼの炭素源変換率は0.71%であった。
【0071】
実施例7
実施例6において、培養開始時に第2の培地及び第3の培地のpH調整を行わなかった以外は同様の操作を行った。第2の培養中のpHは7.3~8.4の範囲で、平均pHは7.9であった。また、第3の培養中のpHは7.7~8.9の範囲で、平均pHは8.3であった。
第1の培地から第2の培地への植え継ぎ量は菌体が65%(v/v)、培養原料(基質)が65%(v/v)、生成物(アルカリプロテアーゼ)が0%(v/v)であった。また、第2の培養工程終了後の菌体濃度(OD600値)は72、培養液中の残糖量は27(g/L)、アルカリプロテアーゼの生成量は0.47(g/L)であった。
第1の培養、第2の培養全体での糖投入量に対するアルカリプロテアーゼの炭素源変換率は0.63%であった。
【0072】
第2の培地から第3の培地への植え継ぎ量は菌体が65%(v/v)、培養原料(基質)が65%(v/v)、生成物(アルカリプロテアーゼ)が0%(v/v)であった。
第3の培養52時間後の菌体濃度(OD600値)は83であった。また、アルカリプロテアーゼの生成量は0.31(g/L)であった。
第1の培養、第2の培養、第3の培養全体での糖投入量に対するアルカリプロテアーゼの炭素源変換率は0.61%であった。
実施例6及び7における条件及び炭素源変換率を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表2より、本発明の方法によれば菌体及び培養原料を無駄にすることなく利用可能で、培地中の炭素源であるマルトース一水和物からアルカリプロテアーゼへの変換率が高いことが確認された。また、表3より、回収した流出液を用いた培地で微生物を培養する工程を2回以上繰り返す際は、該培地のpH調整を行うことが発酵生成物の生産性を向上させる上で好ましいことが確認された。
【配列表】
0007198261000001.app