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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】インプラント送達システム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/966 20130101AFI20221221BHJP
   A61F 2/95 20130101ALI20221221BHJP
【FI】
A61F2/966
A61F2/95
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020510539
(86)(22)【出願日】2018-08-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 US2018047582
(87)【国際公開番号】W WO2019040652
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】62/549,233
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595148888
【氏名又は名称】ストライカー コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】Stryker Corporation
【住所又は居所原語表記】2825 Airview Boulevard Kalamazoo MI 49002 (US)
(73)【特許権者】
【識別番号】522162015
【氏名又は名称】ストライカー ヨーロピアン オペレーションズ ホールディングス リミテッド ライアビリティー カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Stryker European Operations Holdings LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ロガナサン,シッダールタ
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-248332(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02666444(EP,A2)
【文献】米国特許出願公開第2014/0200648(US,A1)
【文献】特開2005-270394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/966
A61F 2/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラント送達システム(10)であって、
ルーメン(17)を有する細長い管状部材(12)と、
前記細長い管状部材(12)のルーメン(17)内に同軸に配置された管状インプラント(20)と、
前記管状インプラント(20)内に同軸に配置された遠位部分を有する送達アセンブリ(30)とを備え、
前記送達アセンブリ(30)が、
送達ワイヤ(31)と、
前記送達ワイヤ(31)に固定的に連結された係合バンパ(42)と、
前記送達ワイヤ(31)に固定的に連結されたストッパバンパ(44)と、
前記送達ワイヤ(31)の周りにスライド可能に連結され、かつバンパ(42、44)の間に配置されたフローティング要素(50)とを含み、
前記フローティング要素(50)が係合部(52)を含み、この係合部は、前記送達ワイヤ(31)が第1の方向に前記細長い管状部材(12)に対して軸方向に沿って平行移動するときに、前記係合バンパ(42)と係合するように構成されており、
前記フローティング要素(50)の係合部(52)が前記係合バンパ(42)と係合するときに、前記フローティング要素(50)が半径方向に拡張してインプラント(20)と摩擦係合するように構成され、
前記フローティング要素(50)が、前記送達ワイヤ(31)の周りにスライド可能に配置された環状部(51)をさらに備え、前記環状部(51)は、前記送達ワイヤ(31)が第1の方向とは反対の第2の方向に前記細長い管状部材(12)に対して軸方向に沿って平行移動したときに、前記ストッパバンパ(44)と接触するように構成されており、前記フローティング要素(50)は、前記フローティング要素(50)の環状部(51)が前記ストッパバンパ(44)に接触するときに、前記フローティング要素(50)が前記インプラント(20)と摩擦係合しない半径方向非拡張形態を維持するように構成されていることを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項2】
請求項に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記フローティング要素(50)の環状部(51)が当接面(58)を有し、前記ストッパバンパ(44)は、前記送達ワイヤ(31)が第2の方向に前記細長い部材(12)に対して軸方向に沿って平行移動するときに、前記フローティング要素(50)の当接面(58)と当接する当接面(48)を有することを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項3】
請求項に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記ストッパバンパ(44)の当接面(48)が、第2の方向に対して垂直であることを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記フローティング要素(50)の係合部(52)が前記係合バンパ(42)と係合するとき、前記フローティング要素(50)が、外側に広がることにより半径方向に拡張することを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記フローティング要素(50)の係合部(52)が内面(53)を有し、前記係合バンパ(42)が外面(43)を有し、この外面が、前記送達ワイヤ(31)が第1の方向に前記細長い部材(12)に対して軸方向に沿って平行移動するときに、前記フローティング要素(50)の内面(53)に接触することを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項6】
請求項に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記係合バンパ(42)の外面(43)が、前記フローティング要素(50)の係合部(52)に向かって内向きにテーパが付されていることを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記フローティング要素(50)の係合部(52)が、漏斗状、花状およびスカート状の形態のうちの1つを有することを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項8】
請求項に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記フローティング要素(50)の係合部(52)が、2つの直線部分(54、56)の間に配置された弾性的に圧縮可能な屈曲部分(55)を含む漏斗状の形態を有することを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項9】
請求項に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記フローティング要素(50)の係合部(52)が、複数の花弁様要素(52a-g)を含む花状の形態を有することを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項10】
請求項に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記フローティング要素(50)の係合部(52)が、複数のフラップ(60)を含む花状の形態を有することを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項11】
インプラント送達システム(10)であって、
ルーメン(17)を有する細長い管状部材(12)と、
前記細長い管状部材(12)のルーメン(17)内に同軸に配置された管状インプラント(20)と、
前記管状インプラント(20)内に同軸に配置された遠位部分を有する送達アセンブリ(30)とを備え、
前記送達アセンブリ(30)が、
送達ワイヤ(31)と、
前記送達ワイヤ(31)に固定的に連結された第1の係合バンパ(42’)および第1のストッパバンパ(44’)を含む第1のバンパのセット(40’)と、
前記送達ワイヤ(31)に固定的に連結された第2の係合バンパ(42”)および第2のストッパバンパ(44”)を含む第2のバンパのセット(40”)と、
前記送達ワイヤ(31)の周りにスライド可能に連結された第1のフローティング要素(50’)および第2のフローティング要素(50”)を含むフローティング要素のセット(50)とを含み、
前記第1のフローティング要素(50’)は、前記第1の係合バンパ(42’)と前記第1のストッパバンパ(44’)との間に配置され、それにより、その間の前記第1のフローティング要素(50’)の直線移動が制限され、前記第1のフローティング要素(50’)は、前記送達ワイヤ(31)が第1の方向に前記細長い部材(12)に対して軸方向に沿って平行移動するときに、前記第1の係合バンパ(42’)に係合するように構成された係合部(52’)を備え、前記第1のフローティング要素(50’)は、前記第1のフローティング要素(50’)の係合部(52’)が前記第1の係合バンパ(42’)と係合するときに、半径方向に拡張して前記インプラント(20)に摩擦係合するように構成されており、
前記第2のフローティング要素(50”)は、前記第2の係合バンパ(42”)と前記第2のストッパバンパ(44”)との間に配置され、それにより、その間の前記第2のフローティング要素(50”)の直線移動が制限され、前記第2のフローティング要素(50”)は、前記送達ワイヤ(31)が第1の方向とは反対の第2の方向に前記細長い部材(12)に対して軸方向に沿って平行移動するときに、前記第2の係合バンパ(42”)に係合するように構成された係合部(52”)を備え、前記第2のフローティング要素(50”)は、前記第2のフローティング要素(50”)の係合部(52”)が前記第2の係合バンパ(42”)と係合するときに、半径方向に拡張して前記インプラント(20)に摩擦係合するように構成されていることを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項12】
請求項11に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記第1のフローティング要素(50’)は、前記送達ワイヤ(31)の周りにスライド可能に配置された環状部(51’)をさらに備え、前記環状部(51’)は、前記送達ワイヤ(31)が第2の方向に前記細長い部材(12)に対して軸方向に沿って平行移動するときに、前記第1のストッパバンパ(44’)に接触するように構成され、前記第1のフローティング要素(50’)は、前記第1のフローティング要素(50’)の環状部(51’)が前記第1のストッパバンパ(44’)に接触するときに、前記第1のフローティング要素(50’)が前記インプラント(20)に摩擦係合しない半径方向非拡張形態を維持するように構成されており、
前記第2のフローティング要素(50”)は、前記送達ワイヤ(31)の周りにスライド可能に配置された環状部(51”)をさらに備え、前記環状部(51”)は、前記送達ワイヤ(31)が第1の方向に前記細長い部材(12)に対して軸方向に沿って平行移動するときに、前記第2のストッパバンパ(44”)に接触するように構成され、前記第2のフローティング要素(50”)は、前記第2のフローティング要素(50”)の環状部(51”)が前記第2のストッパバンパ(44”)に接触するときに、前記第2のフローティング要素(50”)が前記インプラント(20)に摩擦係合しない半径方向非拡張形態を維持するように構成されていることを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項13】
請求項12に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記第1のフローティング要素(50’)の環状部(51’)は当接面(58’)を有し、前記第1ストッパバンパ(44’)は、第2の方向に垂直な当接面(48’)を有し、この当接面は、前記送達ワイヤ(31)が第2の方向に前記細長い部材(12)に対して軸方向に沿って平行移動するときに、前記第1のフローティング要素(50’)の当接面(58’)に当接し、
前記第2のフローティング要素(50”)の環状部(51”)は当接面(58”)を有し、前記第2ストッパバンパ(44”)は、第1の方向に垂直な当接面(48”)を有し、この当接面は、前記送達ワイヤ(31)が第1の方向に前記細長い部材(12)に対して軸方向に沿って平行移動するときに、前記第2のフローティング要素(50”)の当接面(58”)に当接することを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項14】
請求項11乃至13の何れか一項に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記第1のフローティング要素(50’)および第2のフローティング要素(50”)の各々が、外側に広がることにより半径方向に拡張することを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項15】
請求項11乃至14の何れか一項に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記第1のフローティング要素(50’)の係合部(52’)は内面(53’)を有し、前記第1の係合バンパ(42’)は、前記第1のフローティング要素(50’)の係合部(52’)に向かって先細になる外面(43’)を有し、この外面は、前記送達ワイヤ(31)が第1の方向に前記細長い部材(12)に対して軸方向に沿って平行移動するときに、前記第1のフローティング要素(50’)の内面(53’)と係合し、
前記第2のフローティング要素(50”)の係合部(52”)は内面(53”)を有し、前記第2の係合バンパ(42”)は、前記第2のフローティング要素(50”)の係合部(52”)に向かって先細になる外面(43”)を有し、この外面は、前記送達ワイヤ(31)が第2の方向に前記細長い部材(12)に対して軸方向に沿って平行移動するときに、前記第2のフローティング要素(50”)の内面(53”)と係合することを特徴とするインプラント送達システム。
【請求項16】
請求項11に記載のインプラント送達システム(10)において、
前記第1のフローティング要素(50’)および第2のフローティング要素(50”)のそれぞれの係合部(52’、52”)が、漏斗状、花状およびスカート状の形態のうちの1つを有することを特徴とするインプラント送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して医療デバイスおよび血管内医療処置に関し、より具体的には、インプラントを血管または他の脈管の標的部位に送達するためのデバイスおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内医療デバイスの使用は、多くの種類の血管疾患を治療する効果的な方法となっている。一般に、適切な血管内デバイスが患者の血管系内に挿入され、血管系を通って所望の標的部位まで導かれる。この方法を使用すると、冠血管、脳血管および末梢血管を含む患者の血管系のほぼすべての標的部位にアクセスすることができる。
【0003】
ステント、ステントグラフト、フローダイバータおよび大静脈フィルタなどの医療用インプラントは、体内の所望の位置に配置するための送達デバイスと組み合わせて利用されることが多い。ステントなどの医療用インプラントは、ステント送達デバイス内に装填され、その後、直径を縮小した形態で血管の内腔に導入される。体内の標的位置に送達された後、ステントは、血管内で拡大形態へと拡張されて、血管を障害物のない開いた状態に維持しながら、血管壁を支持および補強することができる。ステントは、自己拡張するように、またはバルーンなどの蓄えられた潜在的な半径方向の力によって拡張されるように、または自己拡張とバルーン拡張の組合せになるように構成されている。
【0004】
医療用インプラントを患者の血管系に送達する代替のステント送達デバイスを提供する継続的な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
開示される発明の第1の実施形態によれば、インプラント送達システムが、ルーメンを有する細長い管状部材と、細長い管状部材のルーメン内に同軸に配置された管状インプラントと、管状インプラント内に同軸に配置された遠位部分を有する送達アセンブリとを含む。
【0006】
開示される発明の一態様によれば、送達アセンブリは、送達ワイヤと、送達ワイヤに固定的に結合される係合バンパと、送達ワイヤに固定的に結合されるストッパバンパと、送達ワイヤの周りにスライド可能に連結され、かつバンパ間に配置されたフローティング要素とを含み、バンパ間でフローティング要素の直線移動が制限されている。フローティング要素が係合部を含み、この係合部は、送達ワイヤが第1の方向に細長い管状部材に対して軸方向に沿って平行移動するときに、係合バンパと係合するように構成されており、フローティング要素の係合部が係合バンパと係合するときに、フローティング要素が(例えば、外側に広がることにより)半径方向に拡張してインプラントと摩擦係合するように構成されている。
【0007】
一実施形態では、フローティング要素が、送達ワイヤの周りにスライド可能に配置された環状部を含む。環状部は、送達ワイヤが第1の方向とは反対の第2の方向に細長い部材に対して軸方向に沿って平行移動するときに、ストッパバンパに接触するように構成されている。フローティング要素は、フローティング要素の環状部がストッパバンパに接触したときに、フローティング要素がインプラントに摩擦係合しない半径方向非拡張形態を維持するように構成されている。様々な実施形態では、フローティング要素の係合部が内面を有し、係合バンパは、送達ワイヤが第1の方向に細長い部材に対して軸方向に沿って平行移動するときにフローティング要素の内面と係合する外面を有する。例えば、係合バンパの外面は、フローティング要素の係合部に向かって内向きにテーパが付される。
【0008】
一実施形態では、フローティング要素の環状部は当接面を有し、ストッパバンパは、送達ワイヤが細長い部材に対して第2の方向に軸方向に沿って平行移動するときにフローティング要素の当接面に当接する対応する当接面を有する。この場合、ストッパバンパの当接面は、第2の方向に対して実質的に垂直であってもよい。
【0009】
フローティング要素の係合部は、漏斗状、花状およびスカート状の形態のうちの1つを有することができる。例えば、フローティング要素の係合部は、2つの直線部分の間に配置された弾性的に圧縮可能な屈曲部分を含む漏斗状の形態を有することができる。フローティング要素の係合部は、複数の花弁様要素を含む花状の形態を有することができる。フローティング要素の係合部は、複数のフラップを含む花状の形態を有してもよい。
【0010】
開示される発明の別の実施形態によれば、送達アセンブリは、送達ワイヤと、送達ワイヤに固定的に連結された第1の係合バンパおよび第1のストッパバンパを含む第1のバンパのセットと、送達ワイヤに固定的に連結された第2の係合バンパおよび第2のストッパバンパを含む第2のバンパのセットと、送達ワイヤの周りにスライド可能に連結された第1のフローティング要素および第2のフローティング要素を含むフローティング要素のセットとを含む。
【0011】
第1のフローティング要素は、第1の係合バンパと第1のストッパバンパとの間に配置され、それにより、その間の第1のフローティング要素の直線移動が制限されている。第1のフローティング要素は、送達ワイヤが細長い部材に対して第1の方向に軸方向に沿って平行移動するときに、第1の係合バンパに係合するように構成された係合部を備える。第1のフローティング要素は、第1のフローティング要素の係合部が第1の係合バンパと係合するときに、(例えば、外側に広がることにより)半径方向に拡張してインプラントに摩擦係合するように構成されている。
【0012】
第2のフローティング要素は、第2の係合バンパと第2のストッパバンパとの間に配置され、それにより、その間で第2のフローティング要素の直線移動が制限されている。第2のフローティング要素は、第1の方向とは反対の第2の方向に送達ワイヤが細長い部材に対して軸方向に沿って平行移動するときに、第2の係合バンパに係合するように構成された係合部を備える。第2のフローティング要素は、第2のフローティング要素の係合部が第2の係合バンパと係合するときに、(例えば、外側に広がることにより)半径方向に拡張してインプラントに摩擦係合するように構成されている。
【0013】
一実施形態では、第1のフローティング要素が、送達ワイヤの周りにスライド可能に配置された環状部を含む。環状部は、送達ワイヤが第2の方向に細長い部材に対して軸方向に沿って平行移動するときに、第1のストッパバンパに接触するように構成されている。第1および第2のフローティング要素のそれぞれの係合部は、漏斗状、花状およびスカート状の形態のうちの1つを有することができる。第1のフローティング要素は、第1のフローティング要素の環状部が第1のストッパバンパに接触したときに、第1のフローティング要素がインプラントと摩擦係合しない半径方向非拡張形態を維持するように構成されている。第2のフローティング要素は、送達ワイヤの周りにスライド可能に配置された環状部を含む。環状部は、送達ワイヤが第1の方向に細長い部材に対して軸方向に沿って平行移動するときに、第2のストッパバンパに接触するように構成されている。第2のフローティング要素は、第2のフローティング要素の環状部が第2のストッパバンパに接触したときに、第2のフローティング要素がインプラントと摩擦係合しない半径方向非拡張形態を維持するように構成されている。
【0014】
そのような一実施形態では、第1のフローティング要素の係合部は内面を有し、第1の係合バンパは、第1のフローティング要素の係合部に向かって先細になる対応する外面を有し、この外面は、送達ワイヤが細長い部材に対して第1の方向に軸方向に沿って平行移動するときに、第1のフローティング要素の内面と係合し、第2のフローティング要素の係合部は内面を有し、第2の係合バンパは、第2のフローティング要素の係合部に向かって先細になる対応する外面を有し、この外面は、送達ワイヤが細長い部材に対して第2の方向に軸方向に沿って平行移動するときに、第2のフローティング要素の内面と係合する。
【0015】
そのような一実施形態では、第1のフローティング要素の環状部は当接面を有し、第1ストッパバンパは、第2の方向に垂直な当接面を有し、この当接面は、送達ワイヤが第2の方向に細長い部材に対して軸方向に沿って平行移動するときに、第1のフローティング要素の当接面に当接し、第2のフローティング要素の環状部は当接面を有し、第2ストッパバンパは、第1の方向に垂直な当接面を有し、この当接面は、送達ワイヤが第1の方向に細長い部材に対して軸方向に沿って平行移動するときに、第2のフローティング要素の当接面に当接する。
【0016】
さらに別の実施形態によれば、インプラント送達システムを操作する方法が提供され、インプラント送達システムは、ルーメンを有する細長い管状部材と、細長い管状部材のルーメン内に同軸に配置された管状インプラントと、管状インプラント内に同軸に配置された遠位部分を有する送達アセンブリとを備え、送達アセンブリが、送達ワイヤと、送達ワイヤに固定的に連結された第1の係合バンパと、送達ワイヤに固定的に連結された第1のストッパバンパと、送達ワイヤの周りにスライド可能に連結され、かつ第1のバンパの間に配置された第1のフローティング要素とを含み、当該方法は、第1の係合バンパと第1のストッパバンパとの間で第1のフローティング要素の直線移動を制限しながら、細長い部材に対して第1の方向に送達ワイヤを軸方向に沿って平行移動させるステップと、第1のフローティング要素が半径方向外側に拡張してインプラントと摩擦係合するように、第1の係合バンパを第1のフローティング要素の係合部と係合させるステップと、細長い部材に対して送達ワイヤを第1の方向にさらに軸方向に沿って平行移動させ、それにより、細長い管状部材のルーメン内でインプラントを前進させるステップとを含む。送達ワイヤは、インプラントが細長い管状部材のルーメンから少なくとも部分的に展開するまで、細長い部材に対して軸方向に沿ってさらに平行移動されるようにしてもよい。
【0017】
送達アセンブリはさらに、送達ワイヤに固定的に連結された第2の係合バンパと、送達ワイヤに固定的に連結された第2のストッパバンパと、送達ワイヤの周りにスライド可能に連結され、かつ第2のバンパの間に配置された第2のフローティング要素とを含むようにしてもよい。
【0018】
この場合、本方法は、第2の係合バンパと第2のストッパバンパとの間で第2のフローティング要素の直線移動を制限しながら、第1の方向と反対の第2の方向に細長い部材に対して送達ワイヤを軸方向に沿って平行移動させるステップと、第1のフローティング要素が半径方向内側に収縮してインプラントを解放するように、第1の係合バンパと第1のフローティング要素の係合部との係合を解除させるステップと、第2のフローティング要素が半径方向外側に拡張してインプラントと摩擦係合するように、第2の係合バンパを第2のフローティング要素の係合部と係合させるステップと、細長い部材に対して送達ワイヤを第2の方向に軸方向に沿って平行移動させ続け、それにより、細長い管状部材のルーメン内にインプラントを再び納めるステップとをさらに含むようにしてもよい。
【0019】
開示発明の実施形態の他のおよび更なる態様および特徴は、添付の図面を考慮した以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図面は、開示する発明の好ましい実施形態の設計および有用性を示しており、同様の要素が共通の符号で示されている。なお、図面は縮尺通りに描かれておらず、同様の構造または機能の要素は、図面全体を通して同様の符号で表されていることに留意されたい。また、図面は、実施形態の説明を容易にすることのみを意図しており、網羅的な説明であることを意図するものではなく、また、添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物によってのみ規定される開示発明の範囲を制限することを意図するものでもないことに留意されたい。さらに、図示された実施形態は、示されているすべての態様または利点を有する必要はなく、特定の実施形態に関連して説明した態様または利点は、必ずしもその実施形態に限定されるものではなく、たとえ図示されていなくとも、他の実施形態で実施することが可能である。上記および他の利点および目的が如何にして得られるのかをより良好に理解するために、添付の図面に示されているその特定の実施形態を参照することにより、簡潔に上述した開示発明のより具体的な説明を行う。
【0021】
図1図1は、開示発明の一実施形態に従って構築されたインプラント送達システムの側面図であり、システムの遠位領域が挿入図に示されている。
図2図2は、開示発明の一実施形態に従って構築されたインプラント送達システムの遠位部分の断面図である。
図3図3は、図2のインプラント送達システムの断面図であり、送達アセンブリの前進と、送達のためのインプラントとの係合を示している。
図4図4は、図2のインプラント送達システムの断面図であり、送達アセンブリの後退と、再び納めるためのインプラントとの係合を示している。
図5図5A図5Dは、図2のインプラント送達システムの代替的な実施形態の断面図であり、特にインプラントを係合するプロセスを示している。
図6図6は、図1または図5のインプラント送達システムで使用することができるフローティング要素の一実施形態の斜視図である。
図7図7は、図1または図5のインプラント送達システムで使用することができるフローティング要素の別の実施形態の斜視図である。
図8図8Aおよび図8Bは、図1または図5のインプラント送達システムで使用することができるフローティング要素の実施形態の斜視図である。
図9図9は、図2のインプラント送達システムを操作する1つの方法を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
先ず図1を参照すると、開示発明の一実施形態に従って構築されたインプラント送達システム10の一実施形態が記載されている。このインプラント送達システム10は、概して、細長い管状部材12、管状インプラント20(図1には示されず)および送達アセンブリ30を含む。
【0023】
細長い部材12は、管状であり、例えば、シース、カテーテルまたはマイクロカテーテルなどの形態をとることができる。細長い部材12は、近位部分13と、遠位部分16と、近位部分13と遠位部分16との間で細長い部材12を通って延びるルーメン17とを有する。細長い部材12の近位部分13は、インプラント送達システム10が使用されているときに、患者の外側に留まり、オペレータがアクセス可能である一方、細長い部材12の遠位部分16は、血管系の遠隔位置に到達するサイズおよび寸法であり、患者の体内の標的部位、例えば、血管の閉塞部、動脈瘤頸部に隣接する血管、または分岐する血管などにインプラント20を送達するように構成されている。インプラント送達システム10は、細長い部材12と流体連通する少なくとも1の流体ポート15を有し、流体を細長い部材12内に導入するためにそれが使用される。インプラント20および送達アセンブリ30は、図2からより良好に分かるように、インプラント送達システム10の細長い部材12のルーメン17内に配置されている。
【0024】
ステントまたはフローダイバータなどのインプラント20は、管状弾性部材を含み、この管状弾性部材が、近位部分22および遠位部分24を有し、それらの間に延びる内側ルーメン26を規定する(図2)。インプラント20は、細長い部材12のルーメン17内に配置されるときの送達形態を有し、かつ/または細長い部材12によって半径方向に拘束される。インプラント20は、細長い部材12の外に展開されるときに、インプラント20が拡張する展開形態へと、半径方向外向きに拡張するように付勢されている。インプラント20は、ステンレス鋼、エルジロイ、ニッケル、チタン、ニチノール、形状記憶ポリマーまたはそれらの組合せなど、様々な材料から作ることができる。また、インプラント20は、様々な方法で形成することができる。例えば、インプラント20は、ステント材料のチューブまたはシートからパターンをエッチングまたは切断することにより形成することができ、ステント材料のシートは、所望のステントパターンに従って切断またはエッチングすることができ、その後、シートは、所望の実質的に管状、分岐する形状または他の形状に巻かれるか、他の方法で形成される。インプラント20の場合、ステント材料の1または複数のワイヤまたはリボンが、所望の形状およびパターンに織られ、編まれ、または他の方法で形成されるものであってもよい。インプラント20は、溶接、接着または他の方法で互いに係合する更なる構成要素を含むことができる。インプラント20が血流ダイバータとして使用される場合、インプラント20は、非多孔性、非透過性の生体適合性材料、カバーなどを含むことができる。
【0025】
インプラント送達システム10は、「オーバーザワイヤ」形態で使用することができ、この場合、細長い部材12は、先に導入されたガイドワイヤを介して患者に導入され、細長い部材12がガイドワイヤの全長に亘って延びる(図示省略)。代替的には、インプラント送達システム10は、ガイドワイヤがガイドワイヤポート(図示省略)からインプラント送達システム10の遠位部分のみを通って延びる「迅速交換」形態で、使用されるものであってもよい。他の代替的な実施形態では、アセンブリ10のために標的部位にシースまたはアクセスカテーテルの遠位部分を残してガイドワイヤを引き抜いた後に、インプラント送達システム10を患者に導入して、シースまたはアクセスカテーテル内で患者の血管系を通して導くようにしてもよい。
【0026】
インプラント送達システム10は、その長さに沿って、異なる形態および/または特性を有する1以上、または複数の領域を含むことができる。例えば、細長い部材12の遠位部分16は、近位部分13の外径よりも小さい外径を有し、遠位部分16の外形を縮小し、蛇行する血管系内での案内を容易にすることができる(図1)。さらに、遠位部分16は、近位部分13よりも柔軟であってもよい。一般に、近位部分13は、細長い部材12の遠位部分16よりも硬い材料から形成することができ、その結果、近位部分13は患者の血管系を通って進むのに十分な押し込み性を有し、一方、遠位部分16はより柔軟な材料で形成されるため、遠位部分16は柔軟なままであり、ガイドワイヤ上をより容易に辿って、血管系の蛇行する領域の遠隔位置にアクセスすることができる。細長い部材12は、適切なポリマー材料、金属および/または合金、例えば、ポリエチレン、ステンレス鋼または他の適切な生体適合性材料またはそれらの組合せから構成することができる。場合によっては、近位部分13は、細長い部材12の押し込み性を高めるために、編組層またはコイル層などの補強層を含むことができる。細長い部材12は、近位部分13と遠位部分16との間に移行領域を含むことができる。
【0027】
図2をさらに参照すると、インプラント20が、細長い部材12の遠位部分16内に同軸に配置され、送達アセンブリ30が、細長い部材12およびインプラント20に対して同軸に配置され、軸方向に移動可能である。インプラント20を患者の標的部位に送達するために、システム30が細長い部材12に対して軸方向に平行移動されると、送達部材30がインプラント20と係合するように構成されている。送達アセンブリ30とインプラント20との間の相互作用は、後で詳細に述べる。
【0028】
送達アセンブリ30は、近位領域32および遠位領域33(図1)を有する送達ワイヤ31を備える。送達ワイヤ31は、従来のガイドワイヤ、ねじり可能なケーブルチューブまたはハイポチューブなどから作製することができる。いずれの場合でも、医療デバイスに一般的に関連付けられている所望の特性を達成するために、送達ワイヤ31に使用できる数多くの材料がある。いくつかの例には、金属、金属合金、ポリマーおよび金属-ポリマー複合材料など、またはその他の適切な材料が含まれる。例えば、送達ワイヤ31は、ニッケルチタン合金、ステンレス鋼、ニッケルチタン合金とステンレス鋼の複合材料を含むことができる。場合によっては、送達ワイヤ31は、その長さに沿って同じ材料で作ることができ、いくつかの実施形態では、異なる材料からなる部分またはセクションを含むことができる。いくつかの実施形態では、送達ワイヤ31を構成するために使用される材料が、送達ワイヤ31の異なる部分に様々な柔軟性およびスティフネス特性を与えるように選択される。例えば、送達ワイヤ31の近位領域および遠位領域33を、異なる材料、例えば弾性係数の異なる材料などから形成することができ、それにより柔軟性に差異をもたらすことができる。例えば、近位領域32はステンレス鋼で形成することができ、遠位領域33はニッケルチタン合金で形成することができる。しかしながら、必要に応じて、任意の適切な材料または材料の組合せを送達ワイヤ31に使用することができる。
【0029】
送達ワイヤ31は、遠位の成形可能または予め成形された非侵襲的端部34(図2)をさらに含むことができ、それにより、送達ワイヤ31の前進を支援することができる。いくつかの実施形態では、遠位端34が、送達ワイヤ31の遠位端の一部の上に配置されたコイル(図示省略)を含むことができ、代替的には、溶融されて、送達ワイヤ31の遠位端34の一部の上に配置された材料を含むことができる。いくつかの実施形態では、遠位端34が、視覚化に役立つ放射線不透過性材料を含むことができる。さらに、送達ワイヤ31の遠位端34は、柔軟で、プルワイヤ(図示省略)を使用して操縦可能であり、それにより、血管を通って送達アセンブリ30が辿って標的部位に到達するのを容易にすることができる。図示していないが、送達ワイヤ31の遠位端34は、必要に応じて、1または複数のテーパ部分を含むことが企図される。
【0030】
送達ワイヤ31は、任意には、送達ワイヤ31の遠位領域33に1または複数のバンド(図示省略)を含むことができる。バンドは、送達ワイヤ31に一体的に形成されるようにしてもよく、あるいは送達ワイヤ31とは別個に形成されて、送達ワイヤに取り付けられるようにしてもよい。いくつかの実施形態では、バンドは送達ワイヤ31上に配置されるようにしてもよい。バンドは、取り囲む送達ワイヤ31の直径よりも大きい直径を有するようにしてもよい。バンドは、金属、合金、ポリマー、金属-ポリマー複合材料などの任意の適切な材料、または他の適切な材料や、必要に応じて任意の放射線不透過性材料から形成することができる。代替的には、送達ワイヤ31は、必要に応じて、バンドを提供する代わりに、1または複数の凹部を含むことが企図される。
【0031】
重要なことに、送達アセンブリ30は、送達ワイヤ31に固定的に連結された少なくとも1セットのバンパ40と、送達ワイヤ31にスライド可能に連結されたフローティング要素50とを含む。図2の実施形態では、2セットのバンパ40(第1の遠位バンパ40’のセットおよび第2の近位バンパ40”のセット)が、送達ワイヤ31の遠位部分32に配置され、各セットが、それらの間に、それぞれのフローティング要素50’/50”を有する。特に、遠位バンパ40’は、遠位係合バンパ42’および遠位ストッパバンパ44’を含み、その間に遠位フローティング要素50’を有し、近位バンパ40”は、近位係合バンパ42”および近位ストッパバンパ44”を含み、その間に近位フローティング要素50”を有する。係合バンパ42/42’/42”およびストッパバンパ44/44’/44”は、それらの間のそれぞれのフローティング要素50/50’/50”の平行移動を制限するように構成されている。また、係合バンパ42/42’/42”は、それぞれのフローティング要素50/50’/50”と整合して、標的部位への送達のためにインプラント20と係合(摩擦係合)し(図3図5A図5D)、かつ/またはインプラント20を細長い部材12内に再び納める(図4)ように構成されている。
【0032】
各フローティング要素50/50’/50”は、カラーまたはリングなどのような環状部51/51’/51”を有し、係合部52/52’/52”は、送達アセンブリ30が作動されるときに、係合バンパ42/42’/42”の外面43/43’/43”と整合するように構成された内面53/53’/53”を有する。これについては、後で詳細に説明する。
【0033】
遠位のバンパ40’のセット間で、遠位フローティング要素50’の係合部52’は、遠位フローティング要素50’の環状部51’の近位側に配置され、その結果、遠位係合バンパ42’と遠位フローティング要素50’の係合部52’との間の整合部分が、患者の標的部位にインプラント20を送達するために送達ワイヤ31が遠位方向に前進または平行移動するときに、インプラント20と係合するように構成されている(図3)。
【0034】
対照的に、近位のバンパ40”のセット間で、近位フローティング要素50”の係合部52”は、近位フローティング要素50”の環状部51に対して遠位側に配置され、その結果、近位係合バンパ42”と近位フローティング要素50”の係合部52”との間の整合部分が、インプラント20を細長い部材12内に再び納めるために送達ワイヤ31が近位方向に後退するか又は平行移動するときに、インプラント20と係合するように構成されている(図4)。
【0035】
図3に示すように、送達アセンブリ30は、細長い部材12に対して送達ワイヤ31を前進させる(すなわち、遠位方向に平行移動し、軸方向に沿って移動する)ことによって作動する。送達ワイヤ31が細長い部材12に対して前進すると、遠位係合バンパ42’が遠位フローティング要素50’の係合部52’と整合して、係合バンパ42’の外面43’が係合部52’の内面53’と接触し、それにより、フローティング要素50’の係合部52’が、遠位係合バンパ42’とインプラント20との間に配置される。遠位係合バンパ42’と遠位フローティング要素50’の係合部52’との間の整合部分は、インプラント20の内面25に半径方向外向きの力を及ぼす。この半径方向外向きの力は、送達ワイヤ31が細長い部材12に対して前進するときにインプラント20を前進させて標的部位に送達するように、インプラント20に接触して摩擦係合するのに十分である。さらに、送達ワイヤ31が細長い部材12に対して前進すると、近位ストッパバンパ44”は、近位フローティング要素50”の環状部51”に接触し、送達ワイヤ31の前進とともに、近位フローティング要素50”を前進させ、遠位方向に押す。図3に示すように、近位フローティング要素50”は、送達ワイヤ31の前進中にインプラント20と摩擦係合しない。
【0036】
図4に示すように、送達アセンブリ30は、細長い部材12に対して送達ワイヤ31を後退する(すなわち、近位方向に平行移動する、軸方向に沿って移動する)ことによって作動する。送達ワイヤ31が細長い部材12に対して後退すると、近位係合バンパ42”が近位フローティング要素50”の係合部52”と整合して、係合バンパ42”の外面43が係合部52”の内面53”と接触し、近位フローティング要素50”の係合部52”が、近位係合バンパ42”とインプラント20との間に配置される。近位係合バンパ42”と近位フローティング要素50”の係合部52との間の整合部分は、インプラント20の内面25に半径方向外向きの力を加える。この半径方向外向きの力は、送達ワイヤ31が細長い部材12に対して後退したときにインプラント20を引き込んで再び納めるように、インプラント20と摩擦係合するのに十分である。さらに、送達ワイヤ31が細長い部材12に対して後退すると、遠位ストッパバンパ44’が、遠位フローティング要素50’の環状部51’に接触し、送達ワイヤ31の後退とともに、遠位フローティング要素50’を後退させて、近位方向に押す。図4に示すように、遠位フローティング要素50’は、送達ワイヤ31の後退中にインプラント20と摩擦係合しない。
【0037】
このように、インプラント送達システム10の送達アセンブリ30は、双方向の動作を含む。特に、図3に示すように、送達ワイヤ31が第1の方向に細長い部材12に対して軸方向に沿って平行移動する(すなわち、遠位方向に前進する)と、インプラント20は、遠位係合バンパ42’と遠位フローティング要素50’の係合部52’との間の整合によって係合されるが、近位フローティング要素50”はインプラント20と係合しない。対照的に、図4に示すように、送達ワイヤ31が第1の方向とは反対の第2の方向に細長い部材12に対して軸方向に平行移動する(すなわち、近位方向に後退する)と、インプラント20は、近位係合バンパ42”と近位フローティング要素50”の係合部52”との間の整合によって係合されるが、遠位フローティング要素50’はインプラント20に係合しない。双方向の送達アセンブリ30は、細長い部材12に対して送達ワイヤ31を前進または後退させることによりインプラント20を送達するか又は再び納めることができる、という利点をインプラント送達システム10のオペレータに提供する。
【0038】
図2図4に示す実施形態は、2セットのバンパ40’およびバンパ40”を有する送達アセンブリ30を含み、各セットがそれぞれのフローティング部材50’/50”を有するが、送達アセンブリ30の代替的な実施形態は、2セットを超えるバンパ40およびフローティング部材50を有することができる。送達アセンブリ30のさらに別の実施形態は、1つのみのフローティング部材50とともに1セットのみのバンパ40を備えることができる。
【0039】
例えば、図5A図5Dに示すように、送達アセンブリ30は、インプラント20を標的部位に送達するための1セットのバンパ40および1つのフローティング要素50を含む。送達アセンブリ30は、細長い部材12に対して送達ワイヤ31を前進させる(すなわち、遠位方向に平行移動し、軸方向に沿って移動させる)ことによって作動する。送達ワイヤ31が細長い部材12に対して前進すると、係合バンパ42がフローティング要素50に接近し(図5Aおよび図5B)、送達ワイヤ31がさらに前進すると、係合バンパ42の外面43が、フローティング要素50の係合部52の内面53と整合し(すなわち、接触し)(図5C)、その結果、フローティング要素50の係合部52が、係合バンパ42とインプラント20との間に配置されて、インプラント20と摩擦係合する(図5D)。図5Dに示すように、係合バンパ42とフローティング要素50の係合部52との間の整合部分は、インプラント20の内面25に(図5Dに矢印で示す)半径方向外向きの力を加える。この半径方向外向きの力は、送達ワイヤ31が細長い部材12に対して前進したときに、細長い部材12内でインプラントを前進させるととも、インプラント20を標的部位に送達するように、インプラント20を摩擦係合させるのに十分である。
【0040】
図2図5Dの実施形態では、各フローティング要素50/50’/50”は、フローティング要素50/50’/50”の係合部52/52’/52”がそれぞれの係合バンパ42/42’/42”に係合するときに、インプラント20に摩擦係合するように、(例えば、外側に広がることにより)半径方向外側に拡張するように構成されている。いくつかの実施形態では、フローティング要素50/50’/50”の係合部52/52’/52”は、インプラント20の開口部/セルに部分的に進入または収まるような寸法およびサイズであり(図5D)、それにより、送達アセンブリ30とインプラント20との間の更なる係合および/または摩擦力が可能になる。この設計は、細長い要素12に対するインプラント20の軸方向変位を支援し、インプラント20を送達すること又は再び納めることをさらに容易にする。
【0041】
これらの実施形態では、図5Cに最もよく示されるように、係合バンパ42の外面43が、フローティング要素50の内面53と係合して、フローティング要素50を半径方向外側に拡張し、細長い要素12に対する平行移動のためにインプラント20に摩擦接触および/または係合する。フローティング要素50の係合部52とそれぞれの係合バンパ42との間の係合と、その結果として生じるフローティング要素52の半径方向外向きの拡張とを容易にするために、図示の実施形態では、係合バンパ42の外面43が、それぞれのフローティング要素52の係合部52に向かって内向きにテーパが付されている。図2図5Dに示す係合バンパ42/42’/42”は、テーパ状の環状部を有するディスク形状であるが、係合バンパ42/42’/42”は、少なくとも1つの断面寸法が前述したようにフローティング要素50/50’/50”の係合部52/52’/52”の内面53/53’/53”と整合してインプラント20と摩擦係合するのに適している限りは、不規則な形状など、任意の断面を有する様々な形態を含むことができる。
【0042】
図2図5Dの実施形態では、フローティング要素50/50’/50”がそれぞれのストッパバンパ44/44’/44”と係合するときに、各フローティング要素50/50’/50”が、(例えば、外側に広がらないことにより)半径方向外向きに拡張しないように構成され、その結果、インプラント20との摩擦係合が生じないようになっている。これらの実施形態では、各フローティング要素50/50’/50”の環状部51/51’/51”が当接面58/58’/58”を有し、それぞれのストッパバンパ44/44’/44”が当接面48/48’/48”を有し、ストッパバンパの当接面が、フローティング要素50/50’/50”の当接面58/58’/58”と当接して、インプラント20に対してフローティング要素50/50’/50”を軸方向に変位させる。フローティング要素50/50’/50”とそれぞれのストッパバンパ44/44’/44”との間の係合と、その結果として生じるインプラント20に対するフローティング要素50/50’/50”の軸方向変位を容易にするために、各フローティング要素50/50’/50”の環状部51/51’/51”の当接面58/58’/58”およびストッパバンパ44/44’/44”の当接面48/48’/48”はともに、フローティング要素50/50’/50”の軸方向の動きに対して垂直である。図2図5Dに示すストッパバンパ44/44’/44”はディスク状の形態であるが、前述したようにストッパバンパ44/44’/44”がインプラント20に対して送達ワイヤ31上でフローティング要素50/50’/50’を軸方向に平行移動させる限りは、ストッパバンパ44/44’/44”は、不規則な形状など、様々な形態を含むことができる。
【0043】
図2図5Dに示すように、係合バンパ42/42’/42”およびストッパバンパ44/44’/44”は、インプラント20が細長い部材12のルーメン17内に配置されるときの送達形態におけるインプラント20の内径よりも小さいそれぞれの断面寸法を有する。図2図4の実施形態では、係合バンパ42/42’/42”が、ストッパバンパ44/44’/44”よりも大きい断面寸法を有する。図5A図5Dの実施形態では、係合バンパ42/42’/42”が、ストッパバンパ44/44’/44”と実質的に同様の断面寸法を有する。いくつかの実施形態では、係合バンパ42/42’/42”とストッパバンパ44/44’/44”の様々な相対寸法が適切であり得ることを理解されたい。
【0044】
図2図8Bに示す実施形態では、フローティング要素50/50’/50”の環状部51/51’/51”から延びる係合部52/52’/52”が、例えば、ステンレス鋼、エルジロイ、ニッケル、チタン、ニチノール、形状記憶ポリマーまたはそれらの組合せなど、弾性的に圧縮可能に構成された適切な生体適合性材料から構成される。係合部52/52’/52”と送達アセンブリ30の係合バンパ42/42’/42”との接触面に望ましい特性を達成するために、フローティング要素50/50’/50”に使用できる数多くの材料が存在する。いくつかの例には、金属、金属合金、ポリマー、金属-ポリマー複合材料など、または任意の他の適切な材料が含まれる。適切な金属および金属合金の例には、ステンレス鋼、超弾性(すなわち、擬弾性)または線形弾性ニチノールなどのニッケルチタン合金、ニッケルクロム合金、ニッケルクロム鉄合金、コバルト合金、タングステンまたはタングステン合金、タンタルまたはタンタル合金、金または金合金など、または他の適切な金属、またはそれらの組合せまたは合金が含まれる。いくつかの適切なポリマーの例には、ポリオキシメチレン(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルブロックエステル、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリスルホン、ナイロン、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PFA)、ポリエーテルエステル、ポリマー/金属複合材料、またはそれらの混合物、ブレンドまたは組合せが含まれるが、それらに限定されるものではない。さらに、フローティングデバイス50/50’/50”の係合部52/52’/52”は、チューブまたはシートからパターンをエッチングまたは切断することによって形成されるものであってもよく、あるいは、所望の形状およびパターンに織られ、編まれ又は他の方法で形成された適切な材料の1または複数のワイヤまたはリボンによって形成されるものであってもよい。さらに、係合バンパ42/42’/42”および/またはストッパバンパ44/44’/44”は、放射線不透過性とすることができ、その場合、それらは送達ワイヤ31の位置の特定を容易にするマーカとして機能する。
【0045】
各フローティング要素50/50’/50”の係合部52/52’/52”は、漏斗状、花状およびスカート状の形態のうちの1つを有することができる。フローティング要素50/50’/50”の様々な実施形態が図6図8に示されている。例えば、図6に示すように、フローティング要素50aは漏斗状の形態を有し、係合部52が、2つの直線部分54、56の間に配置された屈曲部分55を含む。屈曲部分55は、例えばステンレス鋼または形状記憶合金(例、ニチノール)を熱硬化することにより、弾性的に圧縮可能に構成される。係合部52は、フローティング要素50aの環状部51から延びており、織られ、編まれ又はメッシュに形成された適切なフィラメントまたはリボンで形成されている。なお、フローティング要素50aの係合部52は、ライナまたはカバーなどの固体材料で形成できることを理解されたい。代替的には、ライナまたはカバーは、透過性、多孔性であってもよく、あるいは開口部または穿孔(図示省略)を含むものであってもよい。
【0046】
図7に示すように、フローティング要素50bは、花のような形態を有し、係合部52が、環状部51から延びる複数の花弁様要素52a~gを含んでいる。花弁様要素52a~gは、環状部51に結合されたループ状フィラメント57によって形成することができ、ループ状フィラメント57の各々が、その中に配置されたそれぞれの編まれたカバー59を有することができる。なお、フローティング要素50bの係合部52の花弁様要素52a~gは、その中に編まれたカバーを配置せずに、ループ状フィラメント57によって形成されるようにしてもよく、あるいは花弁様要素52a~gがライナまたはカバーなどの固体材料によって形成されるようにしてもよいことを理解されたい。代替的には、ライナまたはカバーは、透過性、多孔性であってもよく、あるいは開口部または穿孔(図示省略)を含むものであってもよい。花弁様要素52a~gは、図7に示すように、それぞれ隣接して配置された花弁様要素と重なり合うようにしてもよい。
【0047】
図8Aおよび図8Bに示すように、フローティング要素50cの係合部52は、複数のフラップ60を備え、それぞれの端部60’が、環状部51に連結されるか、または環状部から延びている。なお、フローティング要素50cの係合部52の複数のフラップ160は、透過性、多孔性であってもよく、あるいは開口部または穿孔(図示省略)を含むものであってもよい。
【0048】
インプラント送達システム10の機能および構造を説明してきたが、図2に示すインプラント送達システム10の一つの使用方法100を図9で述べることとする。先ず、細長い部材12の遠位部分16が患者の脈管構造内の標的部位に隣接するように、インプラント送達システム10を従来の方法で患者の脈管構造内に導入する(ステップ102)。次に、第1(この場合、遠位)の係合バンパ42’と第1(この場合、遠位)のストッパバンパ44’との間で第1(この場合、遠位)のフローティング要素50’の直線移動を制限しながら、細長い部材12に対して遠位方向に送達ワイヤ31を軸方向に沿って平行移動させる(ステップ104)。次に、遠位係合バンパ42’を遠位フローティング要素50’の係合部52’と係合させ、それにより、遠位フローティング要素50’を半径方向外側に拡張させてインプラント20と摩擦係合させる(ステップ106)。次に、送達ワイヤ31を、細長い部材12に対して遠位方向に軸方向に沿ってさらに平行移動させ、それにより、細長い部材12のルーメン17内でインプラント20を前進させる(ステップ108)。インプラント20が細長い部材12のルーメン17から外に少なくとも部分的に展開するまで、送達ワイヤ31を細長い部材12に対して軸方向に沿って平行移動させる(ステップ110)。
【0049】
インプラント20が部分的にしか展開されていない場合には、インプラント20の展開部位が不正確ではないと判断されたときに、インプラント20を細長い部材20内に戻して再び納めるようにしてもよい。具体的には、第2(この場合、近位)の係合バンパ42”と第2(この場合、近位)のストッパバンパ44”との間で第2(この場合、近位)のフローティング要素50”の直線的な平行移動を制限しながら、送達ワイヤ31を、細長い部材12に対して近位方向に軸方向に沿って平行移動させる(ステップ112)。遠位係合バンパ42’と、遠位フローティング要素50’の係合部52’との係合を解除し、それにより遠位フローティング要素50’を半径方向内向きに収縮させてインプラント20を解放する(ステップ114)。次に、近位係合バンパ42”を、近位フローティング要素50”の係合部52と係合させ、それにより近位フローティング要素50”を半径方向外向きに拡張させてインプラント20と摩擦係合させる(ステップ116)。任意選択的には、細長い部材12に対して近位方向に送達ワイヤ31を軸方向に沿ってさらに平行移動させ、それにより、細長い部材12のルーメン17内にインプラント20を再び納める(ステップ118)。その後、細長い部材12の遠位部分16を再配置することができ(ステップ120)、ステップ102~110、必要に応じてステップ112~118を繰り返すことができる。
【0050】
開示発明の特定の実施形態を本明細書において開示および説明してきたが、それらが開示発明を限定することを意図したものではないことは当業者によって理解されるとともに、(例えば、様々な部品の寸法など)様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって自明であろう。よって、明細書と図面は、限定的な意味ではなく、例示的なものとして見なされるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8A
図8B
図9