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特許7198274カチオン不規則岩塩型リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物ならびにそれらの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】カチオン不規則岩塩型リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物ならびにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 45/00 20060101AFI20221221BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221221BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20221221BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20221221BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20221221BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221221BHJP
【FI】
C01G45/00
H01M4/505
H01M4/485
H01M4/525
H01M10/0566
H01M10/052
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020515712
(86)(22)【出願日】2018-09-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 US2018051527
(87)【国際公開番号】W WO2019060301
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】62/560,330
(32)【優先日】2017-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/647,326
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シーダー,ゲルブランド
(72)【発明者】
【氏名】ジ,フイウェン
(72)【発明者】
【氏名】ルン,ジェンヤン
(72)【発明者】
【氏名】リチャーズ,ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】キチャエフ,ダニール
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-535801(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03136478(EP,A1)
【文献】Rui Wang et al,A disordered rock-salt Li-excess cathode material with high capacity and substantial oxygen redox activity: Li1.25Nb0.25Mn0.5O2,Electrochem. Comm.,2015年08月11日,Vol.60,p.70-73
【文献】Jinhyuk Lee et al,A new class of high capacity cation-disordered oxides for rechargeable lithium batteries:Li-Ni-Ti-Mo oxides,Energy Environ. Sci.,2015年,Vol.8,p.3255-3265
【文献】Naoaki Yabuuchi et al,Origin of stabilization and destabilization in solid-state redox reaction of oxide ions for lithium-ion batteries,Nature Comm.,2016年12月23日,Vol.7,p.13814-1~13814-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 45/00
H01M 4/505
H01M 4/485
H01M 4/525
H01M 10/0566
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:LiM’M”2-yを有するリチウム金属オキシフッ化物であって、(a)または(b)のいずれか1つのカチオン不規則岩塩型構造を有し、式中、
(a)において、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0<y≦0.7であり、M’は低原子価遷移金属であり、M”は高原子価遷移金属であり、
(b)において、1.1≦x≦1.33、0.1≦a≦0.41、0.39≦b≦0.67、0<y≦0.3であり、M’はMnであり、M”はVまたはMoである、リチウム金属オキシフッ化物
【請求項2】
前記岩塩型構造が(a)であり、M’がMn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のリチウム金属オキシフッ化物
【請求項3】
M’がMn2+である、請求項2に記載のリチウム金属オキシフッ化物
【請求項4】
前記岩塩型構造が(a)であり、M”がV3+、V4+、Mo4+、Mo5+およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウム金属オキシフッ化物
【請求項5】
M”がV4+またはMo5+である、請求項4に記載のリチウム金属オキシフッ化物
【請求項6】
式:LiM’2-yを有し、式中、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0<y≦0.7である、請求項4に記載のリチウム金属オキシフッ化物
【請求項7】
前記岩塩型構造が(a)であり、式中、1.1≦x≦1.2、0.25≦a≦0.4、0.4≦b≦0.6、0<y≦0.3である、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウム金属オキシフッ化物
【請求項8】
結晶空間群Fm-3mを特徴とするカチオン不規則岩塩型構造を有する、請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム金属オキシフッ化物
【請求項9】
50mAh/g~400mAh/gの放電容量を有する、請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム金属オキシフッ化物
【請求項10】
700Wh/kg~900Wh/kgのエネルギー密度を有する、請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム金属オキシフッ化物
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のリチウム金属オキシフッ化物を含む正極材料。
【請求項12】
負極材料と、
電解液と、
請求項11に記載の前記正極材料と、を含む、リチウムイオン電池。
【請求項13】
請求項12に記載の前記リチウムイオン電池を含む、携帯用電子機器、自動車またはエネルギー貯蔵システム。
【請求項14】
一般式:Li M’ M” 2-y を有するリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物であって、式中、1.1≦x≦1.33、0.1≦a≦0.41、0.39≦b≦0.67、0≦y≦0.3であり、M’はMnであり、M”はVまたはMoである、カチオン不規則岩塩型構造を有する、リチウム金属酸化物またはオキシフッ化物。
【請求項15】
Li1.2Mn0.20.6(LR-LMVO)である、請求項14に記載のリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物。
【請求項16】
Li1.23Mn0.2550.5151.80.2(LR-LMVF20)である、請求項14に記載のリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物。
【請求項17】
M’はMn 2+ である、請求項14に記載のリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物。
【請求項18】
M”はV 3+ 、V 4+ 、Mo 4+ 、Mo 5+ からなる群から選択される、請求項14に記載のリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物。
【請求項19】
M”はV 4+ またはMo 5+ である、請求項18に記載のリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物。
【請求項20】
M”はVである、請求項14~16のいずれか1項に記載のリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物。
【請求項21】
1.1≦x≦1.2、0.25≦a≦0.4、0.4≦b≦0.6、0≦y≦0.3である、請求項14に記載のリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物。
【請求項22】
結晶空間群Fm-3mを特徴とするカチオン不規則岩塩型構造を有する、請求項14に記載のリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物。
【請求項23】
250mAh/g~400mAh/gの放電容量を有する、請求項14~22のいずれか1項に記載のリチウム金属オキシフッ化物。
【請求項24】
700Wh/kg~900Wh/kgのエネルギー密度を有する、請求項14~23のいずれか1項に記載のリチウム金属オキシフッ化物。
【請求項25】
請求項14~24のいずれか1項に記載のリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物を含む正極材料。
【請求項26】
負極材料と、
電解液と、
請求項25に記載の前記正極材料と、を含む、リチウムイオン電池。
【請求項27】
請求項26に記載の前記リチウムイオン電池を含む、携帯用電子機器、自動車またはエネルギー貯蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン不規則リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物に関し、高容量リチウムイオン電池電極のための不規則岩塩型バナジウム-モリブデン系リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物ならびにそれらの製造方法を含む。さらに、本発明は、Liイオン電池および関連用途に使用するための高容量および高エネルギー密度を提供するように最適化された不規則岩塩型リチウムマンガン-バナジウム酸化物およびオキシフッ化物化合物ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(「Liイオン」)電池は、それらの比較的高エネルギーかつ高出力な性能によって、最も研究されたエネルギー貯蔵デバイスの1つである。個人用デバイスのための安価で持ち運び可能な高密度エネルギー貯蔵への需要、輸送への需要、および配電網における需要の増大によって高度なLiイオン電池システムの開発が促進された。非特許文献1および非特許文献2を参照のこと。
【0003】
高性能Liイオン電池のこの需要の増加とともに、多様な化学空間から、高エネルギー密度を有するカソード材料が求められてきた。特に、酸化物材料は、すべてのカソード材料の中で最も高いエネルギー密度を与えるのに役立つため最も注目されてきた。
【0004】
より具体的には、LiCoOなどの層状リチウム遷移金属酸化物は、リチウム二次電池用のカソード材料の最も重要なクラスの1つであった。現在、最先端の高エネルギー密度電池システムは、Co、MnおよびNiの高電圧レドックス活性を標的とする層状酸化物に基づいている。これらの材料において、リチウムイオンと遷移金属イオンとは良好に分離されて、それらの結晶構造中で交互に別個の層を形成する。これらの規則化合物において、Liの位置および経路(層状酸化物における2次元スラブ)は、遷移金属副格子から隔てられており、これによって安定性および電子貯蔵容量が提供される。図1は、層状岩塩型構造、Li‐M‐Oの模式図を示す。Li副格子と遷移金属副格子との間の相互拡散(intermixing)がほとんどまたはまったくない秩序だった構造を有することは、一般に、良好なサイクル寿命を示す高容量カソード材料を得るのに重要であると考えられている。実際、それらの構造における良好な層状性は、それらの材料中の高いリチウム移動度に必要であると考えられてきており、リチウム拡散の減速によってカチオン混合が観察されサイクル性の劣化が引き起こされた。これらの観察は、研究者に、有望なカソード材料としてのカチオン不規則リチウム遷移金属酸化物を軽視させたかもしれない。
【0005】
最近、酸化物空間において、高エネルギー密度カソード材料の検索空間を広げる重要な知見が得られた。具体的には、不規則構造によってLi拡散が制限されているため一般に電気化学的に不活性とみなされていたカチオン不規則リチウム遷移金属酸化物(「Li‐ΤΜ酸化物」)は、十分なLi過剰が提供される場合(すなわち、Li位置の数がΤΜ位置の数を超える場合(Li1+xTM1-xにおいてx>0.09))、有望なカソード材料となることができる。実際、十分な過剰Liが導入されれば、今度は、反発するTMイオンを欠くことによる、Li拡散に対する活性化Li+イオンへの弱い静電反発力のために不規則構造におけるLi拡散が容易になることができる、容易なLi拡散チャネル(0‐TMチャネル)の浸透ネットワークが導入されるため、不規則構造において容易なLi拡散が可能である。
【0006】
しかしながら、カチオン不規則/カチオン混合は、高エネルギー密度カソード材料を提供する場合には、依然として多くの困難と課題が存在している。たとえば、不規則材料から高容量を実現するために多くの場合必要な酸素酸化は、格子の高密度化によって酸素欠損を引き起こす可能性があり、それは、特に表面の近傍において、Li過剰レベルを低下させることにより不規則材料において0‐TM浸透(したがってLi拡散)を低下させる。このように、TMレドックス(たとえば、Fe2+/4+、Ni2+/4+、Co2+/4+)が酸素レドックスと重複するほぼすべてのカチオン不規則Li‐TM酸化物は、酸素欠損後に高い分極を受け、サイクル性の劣化を示す。さらに、酸素欠損は、LiCO層などの抵抗性の表層をもたらす可能性もあり、それによってカソードにさらにインピーダンスが追加される可能性がある。さらに、システムにおける不活性な重金属の存在の必要および活性レドックス対の低電圧によって初期の不規則カソード材料の性能が制限されてきた。
【0007】
層状(岩塩型)材料の安定性を改善するための以前に報告された戦略の1つがKangらへの特許文献1に記載されている。Kangは、不規則に対して層状(岩塩型)材料の構造安定性を改善するといわれている層状リチウムニッケルマンガンコバルト系酸化物材料に関するフッ素置換戦略を記載している。層状岩塩型構造とカチオン不規則岩塩型構造との間の構造選択は、材料の組成に大きく依存する。Kangにおいて論じられたフッ素置換リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物は、もっぱら組成物の構造と組成物に含まれる元素の酸化状態とに基づく層状岩塩型構造を形成している。Kangは、たとえば、カチオン不規則構造の構造的完全性に関してフッ素置換の役割または、二価の遷移金属とバナジウムまたはモリブデンの使用の役割を論じてはいない。
【0008】
このように、層状リチウム遷移金属酸化物を利用するアプローチからの出発で、不規則岩塩型システムは高容量カソード候補として同定された。なぜなら、不規則岩塩型システムは、カチオン副格子の少なくとも55%がLiで占有されている場合、組成およびレドックス挙動に自由度を提供するからである(たとえば、非特許文献3および非特許文献4を参照のこと)。それにもかかわらず、不規則カソードの性能は、システムにおける不活性な重金属の存在、活性レドックス対の低電圧、酸素欠損による低可逆性および、充電に対するLiの一部の電気化学的利用不可能性によって制限されてきた(たとえば、非特許文献5および非特許文献6を参照のこと)。
【0009】
よって、たとえばカソード材料として使用するための、改善された電気化学的性能を有するカチオン不規則リチウム遷移金属酸化物の必要性が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第7,205,072号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】B.Kang,G.Ceder,Nature 458,190-193(2009);P.Barpanda,ら Nature materials 10,772-779(2011)
【文献】K.Kang,Y.S.Meng,J.Breger,C.P.Grey,G.Ceder,Science 311,977-980(2006)
【文献】J.Lee,A.Urban,X.Li,D.Su,G.Hautier,G.Ceder,Science 343,519-522(2014)
【文献】A.Urban,J.Lee,G.Ceder,Advanced Energy Materials 4,1400478(2014)
【文献】J.Lee,D.-H.Seo,M.Balasubramanian,N.Twu,X.Li,G.Ceder,Energy Environ.Sci.8,3255(2014)
【文献】N.Yabuuchiら Proc.Natl Acad.Sci.112,7650-7655(2015)
【発明の概要】
【0012】
本発明の側面は、一般式:LiM’M”2-yを有するリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物であって、カチオン不規則岩塩型構造を有し、式中、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0≦y≦0.7であり、M’は低原子価遷移金属であり、M”は高原子価遷移金属である、リチウム金属酸化物またはオキシフッ化物を特徴とする。本発明の一側面は、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるM’を特徴とする。たとえば、M’はMn2+であってもよい。また、M”はV3+、V4+、Mo4+、Mo5+およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。たとえば、M”はV4+またはMo5+であってもよい。さらに他の実施形態において、リチウム金属酸化物またはオキシフッ化物は、式:LiM’2-y(式中、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0≦y≦0.7である)または式:LiM’Mo2-y(式中、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0≦y≦0.7である)を有する。さらに他の実施形態において、一般式:LiM’M”2-yは、1.1≦x≦1.2、0.25≦a≦0.4、0.4≦b≦0.6、0≦y≦0.3を特徴とする。
【0013】
本発明のリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物は、結晶空間群Fm-3mを特徴とするカチオン不規則岩塩型構造を有してもよい。「Fm-3m」において、「-3」は、上線を付した3を表したものを意味する。本発明の実施形態は、約250mAh/g~約400mAh/gの放電容量および約700Wh/kg~約900Wh/kgのエネルギー密度を有するリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物も特徴とする。
【0014】
本発明は、一般式:LiM’M”2-yを有するカチオン不規則リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物であって、カチオン不規則岩塩型構造を有し、式中、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0≦y≦0.7であり、M’は低原子価遷移金属であり、M”は高原子価遷移金属である、リチウム金属酸化物またはオキシフッ化物を製造するためのプロセスであって、少なくとも1つのリチウム系前駆体を提供するステップと、少なくとも1つの低原子価遷移金属系前駆体を提供するステップと、少なくとも1つの高原子価遷移金属系前駆体を提供するステップと、任意選択で少なくとも1つのフッ素系前駆体を提供するステップと、少なくとも1つのリチウム系前駆体、少なくとも1つの低原子価遷移金属系前駆体、少なくとも1つの高原子価遷移金属系前駆体および任意選択で少なくとも1つのフッ素系前駆体を混合して混合物を作成するステップと、混合物をミリングするステップと、を含むプロセスも含む。
【0015】
この側面において、M’はMn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、M”はV3+、V4+、Mo4+、Mo5+およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらに、カチオン不規則リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物を製造するプロセスの実施形態は、このパラグラフが示すような少なくとも1つのリチウム系前駆体、少なくとも1つの低原子価遷移金属系前駆体、少なくとも1つの高原子価遷移金属系前駆体および少なくとも1つの任意選択のフッ素系前駆体の化学量論量を混合することを含む。本発明の実施形態は、さらに、高エネルギーボールミリングを用いるようなミリングステップ(たとえば、前述のような混合物のミリング)を含む。さらに他の実施形態において、混合される少なくとも1つの低原子価遷移金属系前駆体はMnO、CoO、FeO、NiOまたはそれらの組み合わせを含み、混合される少なくとも1つの高原子価遷移金属系前駆体はVO、MoO、MoOまたはそれらの組み合わせを含む。本発明の実施形態は、約40時間~約80時間行われるミリングステップも含む。
【0016】
本発明は、さらに、本発明に記載のリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物を含む正極材料に関する。本発明は、負極材料と、電解液と、本発明によるリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物と、を含む正極材料を含むリチウムイオン電池にも関する。本発明のリチウムイオン電池は、携帯用電子機器、自動車またはエネルギー貯蔵システムに用いてもよい。
【0017】
本発明のさらなる側面は、一般式:LiM’M”2-y(式中、1.10≦x≦1.33、0.1≦a≦0.41、0.39≦b≦0.67、0≦y≦0.3であり、M’は低原子価Mn2+であり、M”はレドックス活性高原子価V3+もしくはV4+またはMo4+もしくはMo5+であり、M’とM”の割合は、ターゲット電圧ウィンドウ内で利用可能Li容量と遷移金属容量とのバランスをとる)を有するカチオン不規則岩塩型構造を有するリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物を特徴とする。利用可能Li容量は、安定な四面体Liの形成と、F(存在する場合)に強く結合したLiとによって電気化学的に利用不可能になったLiを除いた総Li容量と定義されるとみなされる。遷移金属容量は、MnについてはMn4+、VについてはV5+、MoについてはMo6+の最大平均酸化状態を想定する理論遷移金属電子容量と定義される。遷移金属とフッ化物とのバランスが、改善されたLiイオン電池カソードをもたらす。特に、カソードにおけるリチウム含有量は、最大で30%まで遷移金属容量を超え、F‐Li結合(Fが存在する場合)および四面体Li形成によって利用不可能になったリチウムを打ち消す。得られる化合物は、不規則岩塩型構造で作られ、充電/放電サイクルにわたって可逆的な高エネルギー密度を実現する。
【0018】
化合物LR-LMVO(Li1.2Mn0.20.6)およびLR-LMVF20(Li1.23Mn0.2550.5151.80.2)は、利用可能Li容量を制限する機構が遷移金属容量に正確に合わせたLi容量に関連するという認識のもとに所望のバランスを実現することに向けられた実証的研究による設計に基づく本発明の実施形態である。言い換えれば、本発明のこの側面において、以前に開示されたLi‐Mn‐V酸化物およびLi‐Mn‐Vオキシフッ化物のファミリーにおける、設計によって遷移金属容量に正確に合わせたLi容量を有する利用可能Li容量を制限する機構のコンピュータによる特定に関連した研究が実施された。この実証的研究の目的は、容量制限の原因を特定し、制限を回避する材料を設計することであった。前述の化合物LR-LMVOおよびLR-LMVF20は、以下により詳細に説明する有益な属性を示す実証的研究に基づくいくつかの実施形態の例証となる。
【0019】
要約すれば、本発明の側面は、一般式:LiM’M”2-yを有するリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物であって、(a)または(b)のいずれか1つのカチオン不規則岩塩型構造を有し、式中、
(a)において、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0≦y≦0.7であり、M’は低原子価遷移金属であり、M”は高原子価遷移金属であり、
(b)において、1.1≦x≦1.33、0.1≦a≦0.41、0.39≦b≦0.67、0≦y≦0.3であり、M’はMnであり、M”はVまたはMoである、
リチウム金属酸化物またはオキシフッ化物を含む。
【0020】
本発明は、上記の式(a)に関して、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるM’を有すること、たとえばM’がMn2+であることも含む。
【0021】
本発明は、上記の式(a)に関して、V3+、V4+、Mo4+、Mo5+およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるM”を有すること、たとえばM”がV4+またはMo5+であることも含む。上記の式(a)に該当するさらなる例は、式:LiM’2-y(式中、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0≦y≦0.7であるか、または式中、1.1≦x≦1.2、0.25≦a≦0.4、0.4≦b≦0.6、0≦y≦0.3である)を特徴とする。
【0022】
本発明の実施形態は、結晶空間群Fm‐3mを特徴とするカチオン不規則岩塩型構造ならびに、約250mAh/g~約400mAh/gの放電容量および約700Wh/kg~約900Wh/kgのエネルギー密度を有するリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物も特徴とする。
【0023】
本発明の他の実施形態において、リチウム金属酸化物またはオキシフッ化物は式(b)を有し、M’はMnであり、M”はVまたはMoである。式(b)での例として、Li1.2Mn0.20.6(LR-LMVO)のリチウム金属酸化物であり、または、オキシフッ化物実施形態の例として、リチウム金属オキシフッ化物は、Li1.23Mn0.2550.5151.80.2(LR-LMVF20)である。
【0024】
本発明は、一般式:LiM’M”2-yを有するリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物であって、(a)または(b)のいずれか1つのカチオン不規則岩塩型構造を有し、式中、
(a)において、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0≦y≦0.7であり、M’は低原子価遷移金属であり、M”は高原子価遷移金属であり、
(b)において、1.1≦x≦1.33、0.1≦a≦0.41、0.39≦b≦0.67、0≦y≦0.3であり、M’はMnであり、M”はVまたはMoである、
リチウム金属酸化物またはオキシフッ化物を製造するプロセスも特徴とする。本方法は、
少なくとも1つのリチウム系前駆体を提供するステップと、
少なくとも1つの低原子価遷移金属系前駆体を提供するステップと、
少なくとも1つの高原子価遷移金属系前駆体を提供するステップと、
任意選択で少なくとも1つのフッ素系前駆体を提供するステップと、
少なくとも1つのリチウム系前駆体、少なくとも1つの低原子価遷移金属系前駆体、少なくとも1つの高原子価遷移金属系前駆体および任意選択で少なくとも1つのフッ素系前駆体を混合して混合物を作成するステップと、任意選択で混合物をミリング(たとえば高速ボールミリング)することによって最終混合を行うステップと、を含む。
【0025】
本発明のプロセスの実施形態において、岩塩型構造が(a)の場合、M’はMn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。本発明のプロセスの実施形態において、式(a)に関して、M”はV3+、V4+、Mo4+、Mo5+およびそれらの組み合わせからなる群から選択される(M’基が本パラグラフで指定されたものである場合を含めて)。
【0026】
本発明のプロセスは、少なくとも1つのリチウム系前駆体、少なくとも1つの低原子価遷移金属系前駆体、少なくとも1つの高原子価遷移金属系前駆体および少なくとも1つの任意選択のフッ素系前駆体の化学量論量を混合することも含み、ここでリチウム系前駆体が所望のLi化学量論量の10%過剰まで加えられてもよく、また高エネルギーボールミリングを含むミリングで混合物をミリングすることも含む。
【0027】
岩塩型構造が(a)である本発明のプロセスの実施形態は、少なくとも1つの低原子価遷移金属系前駆体(この実施形態においてMnO、CoO、FeO、NiOまたはそれらの組み合わせを含む)および少なくとも1つの高原子価遷移金属系前駆体(この実施形態においてVO、MoO、MoOまたはそれらの組み合わせを含む)を混ぜ合わせることを含む。
【0028】
本発明のプロセスの実施形態において、前述のミリングステップは約40時間~約80時間行われる。
【0029】
本発明のプロセスの実施形態において、岩塩型構造が(b)である場合、M’はMnであり、M”はVまたはMoである。たとえば構造(b)において、Li1.2Mn0.20.6であるリチウム金属酸化物(LR-LMVO)またはLi1.23Mn0.2550.5151.80.2であるリチウム金属オキシフッ化物(LR-LMVF20)が作成される。
【0030】
本発明の側面は、前述の組成物のいずれか1つを有するリチウム金属酸化物またはオキシフッ化物を含む正極材料も含む。
【0031】
本発明のさらなる側面は、
負極材料と、
電解液と、
前述の正極材料と、
を含むリチウムイオン電池を含む。
【0032】
本発明のよりさらなる側面は、
前述のリチウムイオン電池
を含む携帯用電子機器、自動車またはエネルギー貯蔵システムである。
【0033】
本発明の製品は、リチウム系遷移金属前駆体を混合しミリングする固相技術を用いて合成することができる。フッ素系前駆体は、混合する前に導入される任意選択の原料である。本製品は、たとえば、電子機器、エネルギー貯蔵または自動車に一般的に用いられるリチウムイオン電池などの構築に用いられる正極の製造に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本発明のさらなる特徴および利点は、下記の図面に関して提供される以下の詳細な説明から知ることができる。
図1図1は、層状岩塩型構造の模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態による不規則岩塩型構造の模式図である。
図3図3は、本発明の一実施形態による不規則岩塩型バナジウム系オキシフッ化物システムの状態図である。
図4図4は、発明の他の実施形態による不規則岩塩型モリブデン系オキシフッ化物システムの状態図を示す。
図5図5は、リチウムイオン二次電池の模式図を示す。
図6図6は、Li1.143Mn0.2860.572(「本発明のLMV1」)、Li1.156Mn0.3150.5281.90.1(「本発明のLMV2」)、Li1.171Mn0.3430.4861.80.2(「本発明のLMV3」)およびLi1.186Mn0.3710.4431.70.3(「本発明のLMV4」)のX線回折(「XRD」)パターンを示す。
図7A図7Aは、本発明のLMV1、本発明のLMV2、本発明のLMV3および本発明のLMV4の第1サイクルの電気化学的性能を示す。
図7B図7Bは、本発明のLMV3の複数充電/放電サイクル性能を示す。
図7C図7Cは、本発明のLMV3の複数充電/放電サイクル性能を示す。
図8図8は、フッ素化レベルに応じた高電圧F結合および遷移金属容量に合わせたLi容量によって4.6Vまで利用不可能となるLiの平均量を示す。ここで「化学量論的」は、総Li容量(x)が遷移金属容量(2a+b)と等しいことを意味し、20%のLi過剰およびTM過剰は、過剰なLi容量またはTM容量を有する組成物(それぞれ、x=1.2(2a+b)および1.2x=(2a+b)である)を指す。
図9図9は、4.6Vに充電する間に四面体位置に移動するLiの予想される割合を示す。4.6Vは、電解質安定性およびセル可逆性に実験の傾向を与える実用的な電圧限度である。
図10図10は、F結合および四面体Li形成によって利用不可能になったLiを考慮に入れた低F混合Mn2+/4+オキシフッ化物中での予測される1.5V~4.6Vの初回充電容量を示す。実験的に試験されたLR-LMVOおよびLR-LMVF20化合物がマークされている。
図11A図11Aは、合成されたままのLR-LMVO材料のX線回折パターンおよび走査型電子顕微鏡画像を示す。これは生成物が純相不規則岩塩型であることを明らかにしている。
図11B図11Bは、合成されたままのLR-LMVF20材料のX線回折パターンおよび走査型電子顕微鏡画像を示す。これは生成物が純相不規則岩塩型であることを明らかにしている。
図12A図12Aは、1.5V~4.6Vの電圧ウィンドウにおける最初の5サイクルに由来するLR-LMVOの定電流充電/放電電圧プロファイルを示す。挿入画像は、最初の20サイクルにわたる充放電容量の低下を示す。
図12B図12Bは、1.5V~4.6Vの電圧ウィンドウにおける最初の5サイクルに由来するLR-LMVF20の定電流充電/放電電圧プロファイルを示す。挿入画像は、最初の20サイクルにわたる充放電容量の低下を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明はカチオン不規則リチウム金属酸化物に関する。本発明の一側面は、カチオン不規則岩塩型バナジウム-モリブデン系リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物を特徴とする。特定の理論に拘束されるものではないが、任意選択で、アニオン格子上の酸素の部分フッ素置換と組み合わせて、2電子レドックスが可能な低原子価遷移金属、たとえばMn2+、Fe2+、Co2+およびNi2+と、少なくとも1電子レドックスが可能な高原子価遷移金属、たとえばV3+、V4+、Mo4+およびMo5+との混合物を用いることによって、高容量不規則岩塩型材料を得ることができると考えられる。本発明のいくつかの実施形態において、リチウム金属酸化物はフッ素置換を含まなくてもよい。本発明に用いられる原子価の特定の組み合わせは、いくつかの実施形態において、フッ素置換の回避を可能にする。他の実施形態において、リチウム金属酸化物はフッ素で置換されていてもよい。フッ素置換と組み合わせた言及した種々の原子価の組み合わせは高性能組成物を提供する。この側面において、フッ素で置換されたリチウム金属酸化物は、本明細書においてオキシフッ化物と呼ぶ。
【0036】
主として高電圧遷移金属レドックス対(たとえばMn2+/4+、Fe2+/4+、Co2+/4+またはNi2+/4+およびV4+/5+またはMo5+/6+)に対する依存のため、本発明の不規則岩塩型リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物は、システムからのレドックス不活性な遷移金属の排除、電圧を最大化するための活性遷移金属レドックス対の最適化および、不可逆的な酸素欠損を排除するための遷移金属組成物へのリチウムのバランシングに向けられる。実際、本発明の不規則岩塩型リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物は、材料の電気化学サイクルに用いられる酸素レドックスの量を最小限にするために遷移金属容量を最大化することに向けられている。よって、本発明の不規則リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物材料は、以前に報告された不規則岩塩型材料では実現しえなかった高エネルギー密度および優れた電気化学的挙動の可逆性を提供する。実際、以前に報告された不規則岩塩型材料は、最初の数回の充電/放電サイクル以内でそれらのエネルギー密度のかなりの割合を失った。
【0037】
本発明のこの側面において、不規則岩塩型バナジウム-モリブデン系リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物が提供される。一実施形態において、酸化物およびオキシフッ化物はカチオン不規則岩塩型構造を含む。実際、本明細書で論じる酸化物およびオキシフッ化物はもっぱら不規則岩塩型構造を形成する。本明細書においては、カチオン不規則岩塩型構造とは、結晶空間群Fm-3mを特徴とする構造のことをいう。本発明のカチオン不規則岩塩型構造において、リチウムおよび遷移金属は酸素の面心立方(「FCC」)フレームワークにおいて空の八面体位置をランダムに占有してもよく、酸素はフッ素に置換されていてもよい。存在する場合、置換したフッ素は、酸素とともにFCCフレームワーク中にランダムに分布する。他の実施形態において、カチオン不規則岩塩型構造は絡み合ったFCC構造(一方は、酸素およびフッ素などのアニオンからなり、もう一方は、ランダムに分布するリチウムおよび遷移金属からなる)を含んでもよい。しかしながら、構造の設計のいかんにかかわらず、本発明は、リチウムがカチオン副格子の少なくとも55パーセントを占有する不規則岩塩型構造を企図する。たとえば、リチウムはカチオン副格子の55パーセント~100パーセントを占有してもよい。
【0038】
いくつかの実施形態において、本発明のカチオン不規則岩塩型構造は、酸素のフッ素への置換を提供する。上記のように、置換したフッ素は酸素のFCCフレームワークを共有し、酸素とともにランダムに分布する。しかしながら、フッ素がリチウム金属酸化物に存在するかどうかにかかわらず、本発明の不規則酸化物およびオキシフッ化物は、完全にカチオンが混合されている。すなわち100パーセントのカチオン混合である。カチオン不規則岩塩型構造の形成中に最小限の非カチオン混合が生じる場合がある。しかしながら、生じる任意の最小限の非カチオン混合は意図するものではなく、当業者にはなお完全カチオン混合を意味すると理解されるであろう。図2は本発明により企図されるカチオン不規則岩塩型構造を示す。図2に示すように、岩塩型構造における酸素/フッ素、リチウムおよび遷移金属の分布は完全にランダムである。
【0039】
本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物は、たとえば任意選択の酸素の部分フッ素置換と組み合わせた低原子価遷移金属と高原子価遷移金属との特定の組み合わせの使用を企図する。本発明の側面において、酸化物およびオキシフッ化物は一般式(1):
LiM’M”2-y(1)
(式中、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0≦y≦0.7である)を有する。当業者には明らかなように、本明細書に記載の酸化物およびオキシフッ化物の一般式は放電されたシステムを指す。他の実施形態において、一般式(1)は、1.10≦x≦1.30、0.1≦a≦0.5、0.2≦b≦0.6、0≦y≦0.5と定義してもよい。さらに他の実施形態において、一般式(1)は、1.10≦x≦1.25、0.2≦a≦0.4、0.3≦b≦0.6、0≦y≦0.4と定義してもよい。さらに他の実施形態において、一般式(1)は、1.1≦x≦1.2、0.25≦a≦0.4、0.4≦b≦0.6、0.1≦y≦0.3と定義してもよい。
【0040】
本発明の側面によれば、一般式(1)のM’は低原子価遷移金属である。用語「低原子価遷移金属」は、+3未満の酸化状態、より好ましくは+2以下の酸化状態を有する遷移金属を意味する。この側面において、本発明により企図される低原子価遷移金属は2電子レドックスが可能である。一実施形態において、M’は、金属のそれぞれが+2の酸化状態を有するMn、Fe、Co、Niまたはその任意の組み合わせであってもよい。たとえば、M’は+2の酸化状態を有するMnであってもよい。本発明によれば、一般式(1)のM”は高原子価遷移金属である。用語「高原子価遷移金属」は、+3以上の酸化状態、より好ましくは+4以上の酸化状態を有する遷移金属を意味する。この側面において、本発明により企図される高原子価遷移金属は少なくとも1電子レドックスが可能である。一実施形態において、M”は、Vが+3または+4の酸化状態を有し、Moが+4または+5の酸化状態を有するV、Moまたはその任意の組み合わせであってもよい。他の実施形態において、M”は、+4の酸化状態を有するVまたは+5の酸化状態を有するMoであってもよい。
【0041】
他の実施形態において、本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物はバナジウム系であってもよい。すなわち、一般式(1)のM”はVであってもよい。たとえば、酸化物およびオキシフッ化物は、一般式(2):
LiM’2-y(2)
(式中、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0≦y≦0.7である)を有してもよい。他の実施形態において、一般式(2)は、1.10≦x≦1.25、0.1≦a≦0.5、0.2≦b≦0.6、0≦y≦0.5と定義してもよい。さらに他の実施形態において、一般式(2)は、1.10≦x≦1.25、0.2≦a≦0.4、0.3≦b≦0.6、0≦y≦0.4と定義してもよい。さらに他の実施形態において、一般式(2)は、1.1≦x≦1.2、0.25≦a≦0.4、0.4≦b≦0.6、0.1≦y≦0.3と定義してもよい。本発明によれば、一般式(2)のM’は、一般式(1)で定義したものであってもよい。すなわち、M’は、金属のそれぞれが+2の酸化状態を有するMn、Fe、Co、Niまたはその任意の組み合わせから選択される低原子価遷移金属であってもよい。
【0042】
一実施形態において、一般式(2)のM’はMnであってもよい。たとえば、本発明の不規則岩塩型材料は、リチウムマンガン-バナジウム酸化物およびオキシフッ化物を含んでもよい。すなわち、本発明の酸化物およびオキシフッ化物は、一般式(3):
LiMn2-y(3)
(式中、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0≦y≦0.7である)を有してもよい。たとえば、一般式(3)は、1.1≦x≦1.2、0.25≦a≦0.4、0.4≦b≦0.6、0≦y≦0.3と定義してもよい。一実施形態において、一般式(3)の酸化物は、化合物Li1.143Mn0.2860.572(式中、x=1.143、a=0.286、b=0.572、y=0である)を含んでもよい。他の実施形態において、一般式(3)のオキシフッ化物は、化合物Li1.156Mn0.3150.5281.90.1(式中、x=1.156、a=0.315、b=0.528、y=0.1である)を含んでもよい。さらに他の実施形態において、一般式(3)のオキシフッ化物は、化合物Li1.171Mn0.3430.4861.80.2(式中、x=1.171、a=0.343、b=0.486、y=0.2である)を含んでもよい。さらに他の実施形態において、一般式(3)のオキシフッ化物は、化合物Li1.186Mn0.3710.4431.70.3(式中、x=1.186、a=0.371、b=0.443、y=0.3である)を含んでもよい。
【0043】
さらに他の実施形態において、本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物はモリブデン系であってもよい。すなわち、一般式(1)のM”はMoであってもよい。たとえば、酸化物およびオキシフッ化物は、一般式(4):
LiM’Mo2-y(4)
(式中、1.09≦x≦1.35、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0≦y≦0.7である)を有してもよい。他の実施形態において、一般式(4)は、1.10≦x≦1.25、0.1≦a≦0.5、0.2≦b≦0.6、0≦y≦0.5と定義してもよい。さらに他の実施形態において、一般式(4)は、1.10≦x≦1.25、0.2≦a≦0.4、0.3≦b≦0.6、0≦y≦0.4と定義してもよい。さらに他の実施形態において、一般式(4)は、1.1≦x≦1.2、0.25≦a≦0.4、0.4≦b≦0.6、0.1≦y≦0.3と定義してもよい。本発明によれば、一般式(4)のM’は、一般式(1)で定義したものであってもよい。すなわち、M’は、金属のそれぞれが+2の酸化状態を有するMn、Fe、Co、Niまたはその任意の組み合わせから選択される低原子価遷移金属であってもよい。
【0044】
本発明の側面における不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物は、組成物中に含まれるフッ素の量とともに増加する4.10Å~4.30Åの格子定数aを有してもよい。LMV1、LMV2、LMV3およびLMV4の場合は、格子定数aは、それぞれ、4.1777Å、4.1824Å、4.2001Åおよび4.2112Åである。本発明の化合物の粒子径は100~200nmである。
【0045】
本発明は、本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物を製造するプロセスも含む。本発明の酸化物およびオキシフッ化物の調製のために、固相反応法、水溶液法、またはメカノケミカル合成を含むがこれらに限定されない、さまざまな方法を用いてもよい。一実施形態において、調製方法の前に、所望の調製方法によってターゲット不規則岩塩型相が可能となる組成領域を特定するために、関連システムの熱安定性を示す状態図を作成してもよい。すなわち、高エネルギーボールミリングなどの固相合成またはメカノケミカル合成によってターゲット不規則岩塩型相が可能となる組成領域を特定するために、熱安定性を示す状態図を作成してもよい。組成物の熱安定性は、固相合成または高エネルギーボールミリングによって特定の温度で化合物が形成されうるかどうかの良好な指標である。
【0046】
たとえば、図3および図4は、本発明の側面において企図されるシステムの組成空間および熱安定性を示す。図3は、Mn2+、Fe2+、Co2+またはNi2+およびV4+に基づく混合遷移金属不規則Li過剰オキシフッ化物岩塩型構造の組成空間を示し、図4は、Mn2+、Fe2+、Co2+またはNi2+およびMo5+に基づく混合遷移金属不規則Li過剰オキシフッ化物岩塩型構造の組成空間を示す。見られるように、図3および図4は、所定の温度における固相合成および高エネルギーボールミリングによるこれらのシステムの合成可能性を規定する。状態図における等高線は、終端相から出発して、等高線に対応する温度において安定な組成領域を示す。固相合成の場合は、等高線の温度は、ターゲット組成物を形成するために必要な最小アニーリング温度である。高エネルギーボールミリングの場合は、1750℃以下で安定な任意の組成物が合成可能である。
【0047】
さらに、状態図は、また、不規則岩塩型Liパーコレーション閾値より高い(すなわち、Liがカチオン副格子の少なくとも55%を占有する)組成物を示すことができる。たとえば、図3および図4は、不規則岩塩型Liパーコレーション閾値を満足する組成物を示す。実際、本発明は、Liパーコレーション閾値よりも高い組成物を企図する。さらに、状態図は、また、このシステムにおけるすべての遷移金属から達成可能な可逆容量を示してもよい。たとえば、図3および図4は、Mn2+/4+、Fe2+/4+、Co2+/4+またはNi2+/4+およびV4+/5+レドックス対ならびにMn2+/4+、Fe2+/4+、Co2+/4+またはNi2+/4+およびMo5+/6+レドックス対から想定される総容量を示す。
【0048】
一実施形態において、本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物の調整のためにメカノケミカル合成を用いてもよい。この側面において、本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物を製造するプロセスは、酸化物およびオキシフッ化物を製造するために必要な前駆体を提供するためのステップを含む。たとえば、本プロセスは、少なくとも1つのリチウム系前駆体、少なくとも1つの低原子価遷移金属前駆体、少なくとも1つの高原子価遷移金属前駆体および任意選択で少なくとも1つのフッ素系前駆体を提供するためのステップを含んでもよい。この側面において、低原子価遷移金属前駆体は、マンガン系前駆体、コバルト系前駆体、鉄系前駆体またはニッケル系前駆体であってもよい。同様に、高原子価金属前駆体はバナジウム系前駆体またはモリブデン系前駆体であってもよい。
【0049】
当業者には明らかなように、所望の不規則酸化物またはオキシフッ化物の元素組成を提供する任意の前駆体を本発明に用いてもよい。しかしながら、一実施形態において、リチウム系前駆体はLiCO、LiO、またはLiOHを含んでもよい。他の実施形態において、低原子価遷移金属前駆体は、MnO、CoO、FeO、NiOまたはそれらの組み合わせを含んでもよい。さらに他の実施形態において、高原子価遷移金属前駆体はVO、MoO、MoOまたはそれらの組み合わせを含んでもよい。同様に、好ましいフッ素系前駆体はLiFを含む。
【0050】
所望の前駆体の選択後、化学量論量のリチウム系、低原子価遷移金属系、高原子価遷移金属系およびフッ素系前駆体が混合されるが、ここでリチウム系前駆体は、所望のリチウム含有量の10%過剰まで加えられてもよい。前駆体を十分に混合するために任意の機械的手段を用いてもよい。混合の所要時間は用いる機械的手段のタイプおよび前駆体が混合される速度によって異なる。たとえば、一実施形態において、前駆体はボールミル中で混合してもよい(本発明において、混合は、ミルへの収容の前の別々の混合段階を含むことができるが、混合は、ミリングされる材料を提供してミル内で最初の混合物を作成し、次いで収容された混合物を最終混合状態にミリングするという文脈において考えることもできる)。この側面において、前駆体には、ボールミル中、約300rpmで6~12時間混合を行ってもよい。
【0051】
さらに他の実施形態において、混合した前駆体には高エネルギーボールミリングを行ってもよい。この側面において、高エネルギーボールミリングはボールミリングよりも速い速度(rpm)で行われる。たとえば、高エネルギーボールミリングは450rpm~550rpmの速度で行ってもよい。さらに、本発明によれば、ミリングステップは室温、アルゴン雰囲気下で行ってもよい。
【0052】
混合した前駆体は20~200時間ミリングしてもよい。他の実施形態において、混合した前駆体は約40時間~約80時間ミリングしてもよい。さらに他の実施形態において、混合した前駆体は約50時間~約70時間ミリングしてもよい。たとえば、混合した前駆体は約60時間ミリングしてもよい。ミリングステップの後に、本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物が形成される。得られた酸化物およびオキシフッ化物は、微粉末に粉砕してカソード膜として作製してもよい。
【0053】
本発明の実施形態において、本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物の調製のために固相反応合成を用いてもよい。たとえば、本発明のモリブデン系酸化物およびオキシフッ化物を調製するために固相合成を用いてもよい。固相合成は、本発明のバナジウム系金属酸化物を調製するためにも用いてもよい。
【0054】
本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物は改善された電気化学的性能を提供する。たとえば、3つの活性遷移金属対(低原子価金属(たとえばMn2+/4+)から2つ、高原子価金属から1つ)を含む本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物は、高可逆性かつ高エネルギー密度のカソードを提供する。たとえば、本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物は、高カットオフ電圧での反復サイクル曲線後に容量および電圧の最小限の変化を示す。言い換えれば、本発明の酸化物およびオキシフッ化物は高可逆性であるが、これは、通常最初の数サイクル後に酸素欠損によりそれらの容量の多くを失うか、または低電圧においてのみ可逆性である他の報告されているLi過剰カソードと対照的である。特定の理論に拘束されるものではないが、本発明の酸化物およびオキシフッ化物において実証された高い遷移金属含有量(その容量はLi含有量に正確に適合するようにバランスがとれている)が、充電/放電における酸素容量の必要性を排除すると考えられる。これが、今度は可逆的電気化学的性能を向上させる。
【0055】
さらに、本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物は、高エネルギー密度だけでなく高い放電容量を実現する。本発明の実施形態において、酸化物およびオキシフッ化物は約250mAh/g~約400mAh/gの放電容量を実現する。本発明の実施形態は、酸化物および、約275mAh/g~約380mAh/gの放電容量を実現することを特徴とする。さらに他の実施形態において、本発明の酸化物およびオキシフッ化物は、約290mAh/g~約350mAh/gの放電容量を実現する。たとえば、本発明の酸化物およびオキシフッ化物は、約310mAh/gの放電容量を実現してもよい。本発明の酸化物およびオキシフッ化物は、約2.5V~約3Vの平均電圧でこれらの放電容量を実現してもよい。追加の実施形態において、本発明の酸化物およびオキシフッ化物は、約2.6V~約2.75Vの平均電圧でこれらの放電容量を実現してもよい。
【0056】
よって、本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物の実施形態は、約700Wh/kg~約900Wh/kgのエネルギー密度を実現する。本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物の実施形態は、約740Wh/kg~約875Wh/kgのエネルギー密度も実現する。よりさらなる実施形態において、本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物は、約760Wh/kg~約860Wh/kgのエネルギー密度を実現する。たとえば、不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物は、4.6Vのカットオフ電圧で781Wh/kg程度、4.8のカットオフ電圧で862Wh/kg程度のエネルギー密度を実現してもよい。
【0057】
本開示は、電極材料、たとえば本明細書に記載の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物で構成されるカソードを含むリチウム電池およびリチウムイオンセルも提供する。一実施形態において、本発明に従って作成される不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物はリチウムイオン二次電池におけるカソードとして用いてもよい。図5はリチウムイオン二次電池の模式図を示す。図5に示すように、カソード10とアノード20との間のLiイオンの可逆的移動がリチウムイオン二次電池30を可能にする。本明細書(の上記・下記)に記載の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物は、携帯用電子機器、電気自動車およびハイブリッド電気自動車を含む自動車ならびにエネルギー貯蔵システムなどの製品のためのリチウムイオン二次電池におけるカソードとして用いてもよい。本明細書(の上記・下記)に記載の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物は、また、カソードエネルギー密度が全体のセル性能に重要な因子である、高エネルギー密度Liイオンカソード電池のカソード材料に使用してもよい。たとえば、本発明の不規則岩塩型酸化物およびオキシフッ化物は、多くの充電/放電サイクルにわたって安定した性能を実現するために可逆性が望ましい特徴である、長寿命のLiイオン二次セルに用いてもよい。
【0058】
本発明のさらなる側面は、最大利用可能Li容量を最適化し、2電子レドックスが可能な低原子価遷移金属(Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+)と、少なくとも1電子レドックスが可能な高原子価遷移金属電荷補償剤(V3+、V4+、Mo4+、Mo5+)と、アニオン格子上のO2-および(存在する場合)Fの混合物との混合物を特徴づけるために設計される不規則岩塩型リチウムマンガン-バナジウム酸化物およびオキシフッ化物に向けられる。これらの混合物において、高エネルギー密度および可逆性の両方を提供する高電圧遷移金属レドックス対に主として依存する一連の合成可能な高容量不規則岩塩型材料を得ることが可能である。
【0059】
Li‐Mn‐V‐O‐F空間における2つの化合物Li1.143Mn0.2860.572およびLi1.171Mn0.3430.4861.80.2の性能と、Li1.171Mn0.3430.4861.80.2の第一原理モデルの電気化学的挙動との間で、これらの材料における利用可能Li容量を制限する2つの機構が同定された。すなわち、強いLi‐F結合の形成と、高い充電状態における大変安定な四面体へのLiの移動とである。これらの機構を定量化し、Li‐Mn‐V‐O‐F空間において実際に利用可能なLi容量のマップを計算し、それを用いて、以前に報告された化合物よりも高い容量およびエネルギー密度を提供する下記の2つの新たな化合物(LR-LMVO)および(LR-LMVF20)を設計した。
【0060】
たとえば、化学式LiMn2-y(1.10≦x≦1.33、0.1≦a≦0.41、0.39≦b≦0.67、0≦y≦0.30)を有する化合物は、F(存在する場合)への結合による0.4y~0.8yのLi利用不可能位置および、四面体Li形成による0.10x~0.12xのLi利用不可能位置を有するが、ここで、上記の2つの効果は相加的ではなく、むしろ互いに独立してはたらく。すなわち、2つの効果は相加的というよりはむしろ並行して利用可能Li容量を制限する。これらの所見に基づき、この空間における最大利用可能容量を提供する、実際に利用可能なLi容量と理論遷移金属容量(LiMn2-yにおける2a+b)とのバランスをとる材料として、不規則岩塩型酸化物Li1.2Mn0.20.6(LR-LMVO)を導き出した。同様に利用可能Li容量と遷移金属容量とのバランスをとる化合物として類似した不規則岩塩型オキシフッ化物Li1.23Mn0.2550.5151.80.2(LR-LMVF20)を同様に導き出したが、これはFによって付与される表面パッシベーションにより少し優れたサイクル安定性を示した。
【0061】
これら2つの化合物LR-LMVOおよびLR-LMVF20を実験で実現することによって、それらの合成可能性および優れた性能が確認された。これらの結果は、本発明において開発された利用可能Li容量を最大化するための最適化ルールによって提供される利点を例示している。我々の研究の結果として、高度に酸化された遷移金属状態(Mn4+およびV5+)の利用可能性はこれらの材料における制限機構ではないことが決定された。したがって、容量の制限の原因は、材料中のLiの形態に関連するLi利用可能性にあるにちがいないと考えられ、これは過剰な総Li容量を導入することによって回避された。
【0062】
本発明の第2の側面に該当する前述の有利なLR-LMVOおよびLR-LMVF20に関して、図8は、フッ素化レベルに応じた高電圧F結合および遷移金属容量に合わせたLi容量によって4.6Vまで利用不可能となったLiの平均量を示す。ここで「化学量論的」は、総Li容量(x)が遷移金属容量(2a+b)と等しいことを意味し、20%のLi過剰およびTM過剰は、過剰なLiまたはTM容量を有する組成物(それぞれ、x=1.2(2a+b)および1.2x=(2a+b)である)を指す。
【0063】
図9は、4.6Vに充電する間に四面体位置に移動するLiの予想される割合を示す。4.6Vは、電解質安定性およびセル可逆性に実験の傾向を与える実用的な電圧限度である。
【0064】
図10は、F結合および四面体Li形成によって利用不可能になったLiを考慮に入れた低F混合Mn2+/4+オキシフッ化物中での予測される1.5V~4.6Vの初回充電容量を示す。図10において、実験的に試験されたLR-LMVOおよびLR-LMVF20化合物がマークされている。
実施例
以下の非限定的な実施例は不規則岩塩型リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物を明らかにする。実施例の第1セット(実施例カテゴリー1)は、不規則岩塩型バナジウム-モリブデン系リチウム金属酸化物およびオキシフッ化物を特徴とする本発明の第1の側面に向けられる。実施例の第2セット(実施例カテゴリー2)は、上記の有利な属性を有する不規則岩塩型リチウムマンガン-バナジウム酸化物およびオキシフッ化物を特徴とする本発明の第2の側面に向けられる。これらの実施例は、単に本発明の好ましい実施形態の例示に過ぎず、本発明を限定するものとして解釈されるべきではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
実施例カテゴリー1
以下の本発明の不規則岩塩型バナジウム-モリブデン系酸化物およびオキシフッ化物を合成した:
一般式:LiMn2-y、(1.1≦x≦1.2、0.3≦a≦0.4、0.4≦b≦0.6、0≦y≦0.3)を有するLi‐Mn‐V‐O‐F型(式中、x=1.143、a=0.286、b=0.572、y=0である)(Li1.143Mn0.2860.572)(「本発明のLMV1」);
一般式:LiMn2-y、(1.1≦x≦1.2、0.3≦a≦0.4、0.4≦b≦0.6、0≦y≦0.3)を有するLi‐Mn‐V‐O‐F型(式中、x=1.156、a=0.315、b=0.528、y=0.1である)(Li1.156Mn0.3150.5281.90.1)(「本発明のLMV2」);
一般式:LiMn2-y、(1.1≦x≦1.2、0.3≦a≦0.4、0.4≦b≦0.6、0≦y≦0.3)を有するLi‐Mn‐V‐O‐F型(式中、x=1.171、a=0.343、b=0.486、y=0.2である)(Li1.171Mn0.3430.4861.80.2)(「本発明のLMV3」);および
一般式:LiMn2-y、(1.1≦x≦1.2、0.3≦a≦0.4、0.4≦b≦0.6、0≦y≦0.3)を有するLi‐Mn‐V‐O‐F型(式中、x=1.186、a=0.371、b=0.443、y=0.3である)(Li1.186Mn0.3710.4431.70.3)(「本発明のLMV4」)。
【0065】
実施例カテゴリー1における本発明の化合物の調製において、LiO(Sigma-Aldrich社、97% min)、MnO(Sigma-Aldrich社、99.99%)、VO(Sigma-Aldrich社、99.9%)およびLiF(Alfa Aesar社、99.99%)を前駆体として用いた。レッチェ遊星ボールミルPM200(Retsch PM 200 Planetary Ball Mill)を用いて、300rpmの速度で12時間、所望のLi含有量の10%過剰を加えたLiO以外は化学量論量の前駆体を混合した。次いで、混合した前駆体(全部で1g)をアルゴン雰囲気下、500rpmの速度でレッチェ遊星ボールミルPM200を用いてボールミリングした。本発明のLMV1は40時間ボールミリングした。本発明のLMV2は50時間ボールミリングした。本発明のLMV3は60時間ボールミリングした。本発明のLMV4は80時間ボールミリングした。ボールミリング法によって作成された化合物は微粉末で得た。
【0066】
カソード膜を作製するために、本発明のLMV1、本発明のLMV2、本発明のLMV3および本発明のLMV4のそれぞれの粉末を、別々に、70:20の重量比でカーボンブラック(Timcal社、Super P)と手動で混合した。バインダーとして各混合物にポリテトラフルオロエチレン(PTFE、DuPont社、テフロン(登録商標)8C)(「PTFE」)を加えた。得られた各カソード膜は、それぞれ本発明のLMV1、本発明のLMV2、本発明のLMV3または本発明のLMV4;カーボンブラック;およびPTFEを70:20:10の重量比で含んでいた。これらの成分を手動で30分間混合し、アルゴン充填グローブボックス内で延ばして薄膜にした。通常のサイクル試験のためのセルを組み立てるために、1MのLiPFの炭酸エチレン(「EC」)‐炭酸ジメチル(「DMC」)溶液(1:1、Techno Semichem社)、ガラスマイクロファイバーフィルター(GE Whatman社)およびLi金属箔(FMC社)を、それぞれ電解液、セパレータおよび対電極として用いた。アルゴン充填グローブボックス内で2032のコインセルを組み立て、室温で、定電流モードで電池テスター(Arbin社)によって試験した。カソード膜の充填密度はおおよそ5mg/cmであった。比容量は、カソード膜におけるオキシフッ化物(LiMn2-y)の量(すなわち70重量パーセント)に基づいて計算した。
【0067】
調製されたままの化合物のX線回折(「XRD」)パターンは、2θ範囲5~85°をリガクMiniFlex(Cu源)によって収集した。図6は、本発明のLMVl、本発明のLMV2、本発明のLMV3および本発明のLMV4化合物のXRDパターンを示す。図6は、本発明のLMVl、本発明のLMV2、本発明のLMV3および本発明のLMV4というターゲット組成物のそれぞれが純相生成物であることを確証している。言い換えれば、これらの化合物は高エネルギーボールミリングによって首尾よく調製された。
【0068】
本発明のLMVl、本発明のLMV2、本発明のLMV3および本発明のLMV4カソードの電気化学的特性もまた試験した。図7Aは、4.8Vのカットオフ電圧における本発明のLMVl、本発明のLMV2、本発明のLMV3および本発明のLMV4化合物の第1サイクルの電気化学的性能を示す。本発明の化合物のそれぞれは、理論遷移金属容量の90%に近い高容量および高電圧を同様に示した。
【0069】
図7Bおよび図7Cは、それぞれ、4.6Vおよび4.8Vのカットオフ電圧における本発明のLMV3化合物の複数充電/放電サイクル性能を示す。図7Bに示すように、本発明のLMV3化合物は、2.69Vの平均電圧で約290mAh/gまでの放電容量を実現し、4.6Vカットオフ電圧で得られるエネルギー密度781Wh/kgを実現する。最初の5サイクル内において2%以下の放電容量および平均電圧の変動を示す、図7Bで示される反復サイクル曲線によって証明されるように、4.6Vのカットオフ電圧で実現されるエネルギー密度は高可逆性である。さらに、図7Cに示すように、本発明のLMV3化合物は、2.72Vの平均電圧で約317mAh/gの放電容量を実現し、4.8Vのカットオフ電圧で得られるエネルギー密度862Wh/kgを実現する。
実施例カテゴリー2
実施例カテゴリー2において、メカノケミカル合成を用いて調製された前述の不規則岩塩型リチウムマンガン-バナジウム酸化物およびオキシフッ化物LR-LMVOおよびLR-LMVFに向けられる実施例が提供される。LiO(Sigma-Aldrich社、99%)、MnO(Sigma-Aldrich社、99.99%)、VO(Sigma-Aldrich社、99.99%)および(オキシフッ化物の場合)LiF(Alfa Aesar社、99.99%)を前駆体として用い、レッチェ遊星ボールミルPM200を用い、300rpmの速度で12時間(10%過剰のLiO以外は)化学量論的に混合した。次いで、混合した前駆体をアルゴン雰囲気下、500rpmの速度でレッチェ遊星ボールミルPM200を用いて50時間ボールミリングした。
【0070】
カソード膜を作製するために、最初にLiMn2-yの粉末およびカーボンブラック(Timcal社、Super P)を70:20の重量比で40分間手動で混合した。次いで、カソード膜が重量比70:20:10でLiMn2-y、カーボンブラックおよびPTFEからなるように、混合物にバインダーとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE、DuPont社、テフロン(登録商標)8C)を加えた。これらの成分を手動でさらに30分間混合し、アルゴングローブボックス内で延ばして薄膜にした。通常のサイクル試験のためのセルを組み立てるために、1MのLiPFの炭酸エチレン(EC)‐炭酸ジメチル(DMC)溶液(1:1、Techno Semichem社)、ガラスマイクロファイバーフィルター(GE Whatman社)およびLi金属箔(FMC社)を、それぞれ電解液、セパレータおよび対電極として用いた。アルゴン充填グローブボックス内で2032のコインセルを組み立て、室温で、定電流モードで電池テスター(Arbin社)によって試験した。カソード膜の充填密度はおおよそ5mg/cmであった。比容量は、カソード膜におけるオキシフッ化物(LiMn2-y)の量(70重量パーセント)に基づいて計算される。調製されたままの化合物のX線回折(XRD)パターンは、2θ範囲5~85°をリガクMiniFlex(Cu源)によって収集する。
【0071】
遷移金属容量に対するLi容量に関する設計ルールの開発および実験的確認は、我々の以前の開示のようにレドックス活性高原子価遷移金属としてV4+との類似性からMo5+が含まれる、高い充電容量のための一連の最適化合物:LiMn2-y(式中、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0.1≦y≦0.7、(2a+b)≦x≦1.3*(2a+b)である);およびLiMnMo2-y(式中、0.1≦a≦0.7、0.1≦b≦0.7、0.1≦y≦0.7、(2a+b)≦x≦1.3*(2a+b)である)、をもたらす。
【0072】
これらの組成物のサブセットを用いることによって、これらの化合物が実際に高性能Liイオンカソードをもたらすことが実験で実証された。LR-LMVOおよびLR-LMVF20の純相不規則岩塩型構造は、それぞれ図11Aおよび図11Bに示されるX線回折パターンから明らかである。すなわち、図11Aおよび図11Bは、それぞれ、合成されたままの(a)LR-LMVO材料および(b)LR-LMVF20材料のX線回折パターンおよび走査型電子顕微鏡画像を示すが、これらは生成物が純相不規則岩塩型であることを明らかにしている。
【0073】
これらのカソードの電気化学的性能を、それぞれ図12Aおよび図12Bに示す。すなわち、図12Aおよび図12Bは、それぞれ、1.5V~4.6Vの電圧ウィンドウにおける最初の5サイクルに由来する(a)LR-LMVOおよび(b)LR-LMVF20の定電流充電/放電電圧プロファイルを示す。挿入画像は、最初の20サイクルにわたる充放電容量の低下を示す。
【0074】
見られるように、4.6Vのカットオフ電圧においてLR-LMVOは312mAh/g(824Wh/kg)までの初回充放電容量を実現し、LR-LMVF20は296mAh/g(786Wh/kg)の初回充放電容量を実現する。重要なことには、4.6のカットオフ電圧で実現されるエネルギー密度は、図12Aおよび図12Bにおける挿入画像で示されている反復サイクル曲線によって証明されるように高可逆性であり、最初の20サイクルにわたって充放電容量の大変緩慢な低下を示している。この材料の可逆性は、通常最初の数サイクル後に酸素欠損によりそれらの容量の多くを失うか、または低電圧においてのみ可逆性である、他の報告されているLi過剰カソードと好適に対照的である。ここで報告した組成物において、高い遷移金属含有量(その容量は利用可能Li含有量に適合するようにバランスがとれている)は、充電/放電におけるO容量の必要性を排除し、これが電気化学的性能を向上させる。
【0075】
オキシフッ化物Li電池カソードの空間において以前の特許および特許出願は存在するが、これらの特許は、二価の遷移金属(Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+)と、本明細書に記載のようなVまたはMoとの混合物を有する不規則岩塩型の空間を含んでいない。本発明は、特に、これらの二価の金属の電気化学的活性とVまたはMoからの制限された活性とを組み合わせ、任意選択でF置換を用いて、材料中の利用可能Li容量とレドックス活性遷移金属容量とのバランスをとるだけでなく、Li組成物におけるさらなる自由度を実現することに焦点を当てる。このように、本発明は、最適な電気化学的性能を提供することに向けられた組成物を設計する能力を提供する。
【0076】
本発明の側面の直接的な応用例は、カソードエネルギー密度がセルの全体的な性能に対する重要な限定要因である、高エネルギー密度Liイオンカソード電池カソード材料に向けられる。特に、本発明の側面における実施形態は、充電/放電サイクルにわたって安定した性能を実現するために本発明の化合物の可逆性が望ましい特徴を示す長寿命のLiイオン二次セルに用いるのに適している。
【0077】
本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメーターが概数であるにもかかわらず、具体的な実施例に示されている数値は、可能な限り正確に記載されている。しかし、いずれの数値も、各試験測定に見出される標準偏差によって必然的に生じる一定の誤差を本質的に含む。さらに、本明細書においてさまざまな範囲の数値範囲が示されている場合、記載された数値を含めてこれらの数値の任意の組み合わせを用いてもよいことが企図される。実際、本明細書に開示されたすべての範囲は包括的かつ組み合わせ可能である。たとえばすべての範囲は終点およびその範囲のすべての中間値を含む。
【0078】
本明細書に記載されかつ特許請求される本発明は、本明細書に開示された特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。なぜなら、これらの実施形態は、本発明のいくつかの側面の例示を目的とするものだからである。本発明のいくつかの側面は、下記の請求項に関するすべての無矛盾性サブコンビネーションを含む。任意の等価な実施形態は本発明の範囲内であるものとする。実際、前述の説明から、本明細書に記載のものに加えて、当業者には本発明のさまざまな改変が明らかになるであろう。このような改変も、添付の特許請求の範囲内であるものとする。前述のテキストに引用したすべての特許および特許出願は、参照によりその全体が明示的に本願に組み込まれる。
【0079】
1 J.Lee,D.-H.Seo,M.Balasubramanian,N.Twu,X.Li,G.Ceder,Energy Environ.Sci.8,3255(2014);N.Yabuuchiら Proc.Natl Acad.Sci.112,7650-7655(2015);N.Yabuuchi,ら Nat.Commun.7、13814(2016);Armstrong,A.R.ら J.Am.Chem.Soc.128,8694-8698(2006);Hong,J.ら Chem.Mater.24,2692-2697(2012);およびHy,S.,ら J.Am.Chem.Soc.136,999-1007(2014)を参照のこと。
2 Hoshino,Satoshi,ら ACS Energy Letters 2,733-738(2017)を参照のこと。
3 R.Chen,S.Ren,S.Indris,M.Fichtner,H.Hahn,EP2921455 A1,特許出願(2015/9/24);およびS.Kang,K.Amine,US 2004/0091779 A1,特許出願(2003)を参照のこと。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B