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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】人工毛髪用繊維及び頭髪装飾製品
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/48 20060101AFI20221221BHJP
   A41G 3/00 20060101ALI20221221BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20221221BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20221221BHJP
   C08L 25/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
D01F6/48 B
A41G3/00 A
C08L51/06
C08L27/06
C08L25/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020523542
(86)(22)【出願日】2019-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2019015429
(87)【国際公開番号】W WO2019235055
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2018109386
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】堀端 篤
(72)【発明者】
【氏名】金岡 正道
(72)【発明者】
【氏名】武井 淳
(72)【発明者】
【氏名】久米 雅士
【審査官】沖田 孝裕
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-102317(JP,A)
【文献】国際公開第2006/038447(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/48
A41G 3/00
C08L 51/06
C08L 27/06
C08L 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂と、ビニル系共重合体と、塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体を含有する樹脂組成物からなる人工毛髪用繊維であって、
前記塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体は、平均重合度400~1800である、
人工毛髪用繊維
【請求項2】
請求項1に記載の人工毛髪用繊維であって、
前記塩化ビニル系樹脂と前記ビニル系共重合体の合計100質量部に対し、前記塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体1~20質量部を含有する、人工毛髪用繊維。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の人工毛髪用繊維であって、
前記塩化ビニル系樹脂と前記ビニル系共重合体の合計100質量部中に、前記塩化ビニル系樹脂50~95質量部と、前記ビニル系共重合体5~50質量部を含有する、人工毛髪用繊維。
【請求項4】
請求項1~請求項の何れか1つに記載の人工毛髪用繊維であって、
前記塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体は、アクリル系共重合体含量8~55質量%である、人工毛髪用繊維。
【請求項5】
請求項1~請求項の何れか1つに記載の人工毛髪用繊維であって、
前記ビニル系共重合体が、芳香族ビニル単量体単位10~85質量%、シアン化ビニル単量体単位0~40質量%、メタクリル酸エステル単量体単位0~85質量%を有する、人工毛髪用繊維。
【請求項6】
請求項に記載の人工毛髪用繊維であって、
前記芳香族ビニル単量体単位が60~85質量%であり、シアン化ビニル単量体単位が40~15質量%である、人工毛髪用繊維。
【請求項7】
請求項又は請求項に記載の人工毛髪用繊維であって、
前記芳香族ビニル単量体単位がスチレンに由来するものであり、前記シアン化ビニル単量体単位がアクリロニトリルに由来するものである、人工毛髪用繊維。
【請求項8】
請求項1~請求項の何れか1つに記載の人工毛髪用繊維であって、
前記塩化ビニル系樹脂と前記ビニル系共重合体の合計100質量部に対して、帯電防止剤0.01~1質量部、ハイドロタルサイト系複合熱安定剤0.1~5.0質量部、エポキシ化油0.2~10.0質量部、及び、エステル系滑剤0.2~5.0質量部含有する、人工毛髪用繊維。
【請求項9】
請求項1~請求項の何れか1つに記載の人工毛髪用繊維からなる頭髪装飾製品。
【請求項10】
請求項に記載の頭髪装飾製品であって、
ウィッグ、ヘアーピース、ブレード、エクステンションヘアー、ドールヘアーから選ばれる少なくとも一種である、頭髪装飾製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、櫛掛け性が良好である人工毛髪用繊維及びこれを用いた頭髪装飾製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂を紡糸して得た塩化ビニル系樹脂繊維は、柔軟性に優れているので、頭髪装飾製品を構成する人工毛髪用繊維として、多く使用されている。
【0003】
しかし、塩化ビニル系樹脂繊維は、原料である塩化ビニル系樹脂の比重が大きいため、ボリュームが必要とされるスタイルには不向きであった。
【0004】
塩化ビニル系樹脂繊維の比重を小さくするために、塩化ビニル系樹脂に、比重の小さいビニル系共重合体を配合する手段が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-131824号公報
【文献】国際公開第2006/038447号
【文献】特開2012-208136号公報
【文献】特開2017-132996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、配合するビニル系共重合体の組成比率によっては、得られる人工毛髪用繊維の耐熱性が十分ではなく、頭髪装飾製品に加工する際に縮れてしまうため、作製できるスタイルが制限されてしまうという課題があった。
【0007】
上記課題の対策として、ビニル系共重合体の組成比を特定の範囲とする事で解決できた。しかしながら、ビニル系共重合体中のシアン化ビニル結合単位の割合が高くなると、延伸時に糸が切れやすくなるため最大延伸倍率を低下しなければならず、その結果、強度が低下して櫛掛け時に糸が切れやすくなるという課題があった。
【0008】
本発明は、櫛掛け性が良好である人工毛髪用繊維及び頭髪装飾製品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)塩化ビニル系樹脂と、ビニル系共重合体と、塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体を含有する樹脂組成物からなる人工毛髪用繊維。
(2)(1)に記載の人工毛髪用繊維であって、前記塩化ビニル系樹脂と前記ビニル系共重合体の合計100質量部に対し、前記塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体1~20質量部を含有する、人工毛髪用繊維。
(3)(1)又は(2)に記載の人工毛髪用繊維であって、前記塩化ビニル系樹脂と前記ビニル系共重合体の合計100質量部中に、前記塩化ビニル系樹脂50~95質量部と、前記ビニル系共重合体5~50質量部を含有する、人工毛髪用繊維。
(4)(1)~(3)の何れか1つに記載の人工毛髪用繊維であって、前記塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体は、平均重合度400~1800である、人工毛髪用繊維。
(5)(1)~(4)の何れか1つに記載の人工毛髪用繊維であって、前記塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体は、アクリル系共重合体含量8~55質量%である、人工毛髪用繊維。
(6)(1)~(5)の何れか1つに記載の人工毛髪用繊維であって、前記ビニル系共重合体が、芳香族ビニル単量体単位10~85質量%、シアン化ビニル単量体単位0~40質量%、メタクリル酸エステル単量体単位0~85質量%を有する、人工毛髪用繊維。
(7)(6)に記載の人工毛髪用繊維であって、前記芳香族ビニル単量体単位が60~85質量%であり、シアン化ビニル単量体単位が40~15質量%である、人工毛髪用繊維。
(8)(6)又は(7)に記載の人工毛髪用繊維であって、前記芳香族ビニル単量体単位がスチレンに由来するものであり、前記シアン化ビニル単量体単位がアクリロニトリルに由来するものである、人工毛髪用繊維。
(9)(1)~(8)の何れか1つに記載の人工毛髪用繊維であって、前記塩化ビニル系樹脂と前記ビニル系共重合体の合計100質量部に対して、帯電防止剤0.01~1質量部、ハイドロタルサイト系複合熱安定剤0.1~5.0質量部、エポキシ化油0.2~10.0質量部、及び、エステル系滑剤0.2~5.0質量部含有する、人工毛髪用繊維。
(10)(1)~(9)の何れか1つに記載の人工毛髪用繊維からなる頭髪装飾製品。
(11)(10)に記載の頭髪装飾製品であって、ウィッグ、ヘアーピース、ブレード、エクステンションヘアー、ドールヘアーから選ばれる少なくとも一種である、頭髪装飾製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、櫛掛け性が良好である人工毛髪用繊維及びこれを用いた頭髪装飾製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
1.人工毛髪用繊維
本発明は、塩化ビニル系樹脂と、ビニル系共重合体と、塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体を含有する樹脂組成物からなる人工毛髪用繊維である。
【0013】
<塩化ビニル系樹脂>
本発明に使用する塩化ビニル系樹脂は、従来公知の塩化ビニルのホモポリマー樹脂、又は従来公知の塩化ビニルと各種モノマーとのコポリマー樹脂であり、特に限定されるものではない。該コポリマー樹脂としては、塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー樹脂、塩化ビニル-プロピオン酸ビニルコポリマー樹脂などの塩化ビニルとビニルエステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル-アクリル酸ブチルコポリマー樹脂、塩化ビニル-アクリル酸2エチルヘキシルコポリマー樹脂などの塩化ビニルとアクリル酸エステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル-エチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル-プロピレンコポリマー樹脂などの塩化ビニルとオレフィン類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル-アクリロニトリルコポリマー樹脂などが代表的に例示される。好ましい塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー樹脂、塩化ビニル-エチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー樹脂などがあげられる。該コポリマー樹脂において、コモノマーの含有量は特に限定されず、繊維への成型加工性、繊維の特性などに応じて決めることができる。
【0014】
本発明に使用する塩化ビニル系樹脂の粘度平均重合度は、繊維としての十分な強度、耐熱性を得るためには、450~1700の範囲が好ましい。粘度平均重合度をこの範囲に調整することによって、樹脂の強度低下が抑えられ、生産性も向上する。これら成型加工性と繊維特性を達成するために、ポリ塩化ビニルのホモポリマー樹脂を使用する場合、好ましくは、粘度平均重合度が650~1450に調整するとよい。コポリマーを使用する場合は、コモノマーの含有量にも依存するが、好ましくは、粘度平均重合度が1000~1700になるように調整するとよい。前記粘度平均重合度は、樹脂200mgをニトロベンゼン50mlに溶解させ、このポリマー溶液を30℃恒温槽中、ウベローデ型粘度計を用いて比粘度を測定し、JIS-K6721により算出したものである。
【0015】
本発明に使用する塩化ビニル系樹脂は、乳化重合、塊状重合又は懸濁重合などによって製造することができる。繊維の初期着色性などを勘案して、懸濁重合によって製造した重合体が好ましく、特許文献3等に記載の公知の方法で得られる
【0016】
<ビニル系共重合体>
本発明に使用されるビニル系共重合体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン等の芳香族ビニル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロロアクリロニトリル等のシアン化ビニル類、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸類、メタクリル酸類等のビニルカルボン酸等から2種以上選択し共重合したものが挙げられる。
【0017】
前記ビニル系共重合体は、好ましくは、芳香族ビニル単量体単位10~85質量%、シアン化ビニル単量体単位0~40質量%、メタクリル酸エステル単量体単位0~85質量%を有する。このような範囲内であると、塩化ビニル樹脂との相溶性が向上し、紡糸性が向上することでさらに安定した生産性が得られる。
【0018】
前記ビニル系共重合体が、好ましくは、芳香族ビニル単量体単位60~85質量%と、シアン化ビニル単量体単位40~15質量%を有する。このような範囲内であると、塩化ビニル樹脂との相溶性が向上し、紡糸性が向上することでさらに安定した生産性が得られる。
【0019】
前記ビニル共重合体の芳香族ビニル単量体単位としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン等のスチレン類及びその置換体が挙げられ、これらのうちスチレンが特に好ましい。前記スチレンは、紡糸時の樹脂圧の調整が容易であること、スクリュー負荷を下げることができることから、長時間のロングラン性を確保することができる。
【0020】
前記ビニル共重合体のシアン化ビニル単量体単位としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロロアクリロニトリル等が挙げられ、これらのうちアクリロニトリルが特に好ましい。前記アクリロニトリルは、紡糸時の樹脂圧の調整が容易であること、スクリュー負荷を下げることができることから、長時間のロングラン性を確保することができる。
【0021】
前記ビニル共重合体のメタクリル酸エステル単量体単位としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等が挙げられ、これらのうちメチルメタクリレートが特に好ましい。前記メチルメタクリレートは、塩化ビニル樹脂と溶解度パラメータが近いことから、繊維の透明性を向上させることができる。
【0022】
塩化ビニル系樹脂とビニル系共重合体の配合割合は、前記塩化ビニル系樹脂と前記ビニル系共重合体の合計100質量部中に、塩化ビニル系樹脂50~95質量部に対して、ビニル系共重合体5~50質量部であることが好ましく、塩化ビニル系樹脂60~85質量部に対して、ビニル系共重合体15~40質量部であることがさらに好ましい。このような範囲の場合に、得られる人工毛髪用繊維のボリュームが大きく、かつ樹脂組成物の紡糸性が特に良好になるからである。
【0023】
<塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体>
本発明に使用する塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体は、(メタ)アクリル系共重合体に由来する基幹ポリマーと、当該基幹ポリマーにグラフトされた塩化ビニルモノマーまたは塩化ビニル混合モノマーに由来するグラフト鎖とを含む。
【0024】
塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体は、例えば、特許文献4に記載される従来公知の方法で製造できる。塩化ビニル系樹脂とビニル系共重合体の樹脂混合物に、塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体を混合することにより、塩化ビニル系樹脂とビニル系共重合体の相溶性が上がる。そのため、延伸倍率を落とさずに延伸する事が可能となり、その結果、強度が低下せず、櫛掛け時の糸切れを抑制できる。
【0025】
塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体の形態および構造としては、たとえば、粒子の形態を有しかつ、基幹ポリマー((メタ)アクリル系共重合体に由来)がコアを構成し、グラフト鎖(塩化ビニルモノマーまたは塩化ビニル混合モノマーに由来)がシェルを構成するコアシェル構造を有する場合、樹脂粒子が安定である点、および塩化ビニル系樹脂とビニル系共重合体の樹脂混合物に混合した際、紡糸性の向上する点で好ましい。
【0026】
前記塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体の平均重合度は、好ましくは、400~1800であり、さらに好ましくは、600~1000であり、さらに好ましくは、600~800である。塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体の平均重合度が上記範囲内である場合に、紡糸性が特に良好になる。ここで、平均重合度とは、塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、濾過により不溶成分を除去した後、濾液中のTHFを乾燥除去して得た樹脂を試料とし、JIS K-6721「塩化ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定した平均重合度を意味する。
【0027】
前記塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体中のアクリル系共重合体含量は、好ましくは、8~55質量%であり、さらに好ましくは、10~50質量%であり、さらに好ましくは、20~45質量%である。このような範囲内である場合に、紡糸性及び櫛掛け性が特に良好になるからである。
【0028】
本発明に用いられる塩化ビニル系アクリルグラフト共重合の配合量は、塩化ビニル系樹脂とビニル系共重合体の合計100質量部に対し、好ましくは、1~20質量部であり、さらに好ましくは、2~15質量部である。このような範囲内である場合に、紡糸性及び櫛掛け性が特に良好になるからである。
【0029】
本発明の樹脂組成物には、適宜、帯電防止剤、熱安定剤及び滑剤を所定の割合で混合することができる。
【0030】
本発明に使用する帯電防止剤には、カチオン系、アニオン系、両性系のものを使用することができる。帯電防止剤の配合量は、好ましくは、塩化ビニル系樹脂とビニル系共重合体の合計100質量部に対して0.01質量部~1質量部の範囲である。帯電防止剤の配合量をこの範囲に調整することによって、静電気の発生を抑えて、人工毛髪用繊維の製造工程で糸切れが発生しにくくなる。
【0031】
本発明に使用する熱安定剤には従来公知のものが使用できる。中でも、Ca-Zn系熱安定剤、ハイドロタルサイト系熱安定剤、錫系熱安定剤、エポキシ系熱安定剤から選択される1種又は2種以上を使用するのが望ましい。熱安定剤は、成形時の熱分解、ロングラン性、フィラメントの色調を改良するために使用するもので、特に好ましくは、成形加工性、糸特性のバランスが優れている、Ca-Zn系熱安定剤とハイドロタルサイト系熱安定剤の併用が好ましい。これらの熱安定剤の配合量は、塩化ビニル系樹脂とビニル系共重合体の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~5.0質量部である。熱安定剤の配合量をこの範囲に調整することで、得られる人工毛髪用繊維の熱劣化を抑えて、黄変し難くなる。ハイドロタルサイト系熱安定剤は、具体的にはハイドロタルサイト化合物であり、さらに具体的には、マグネシウム及び/又はアルカリ金属とアルミニウムあるいは亜鉛、マグネシウム及びアルミニウムからなる複合塩化合物であり、結晶水を脱水したものがある。又、ハイドロタルサイト化合物は、天然物であっても合成品であってもよく、合成品の合成方法は、従来公知の方法でよい。
【0032】
熱安定剤の中で、Ca-Zn系熱安定剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムなどがある。ハイドロタルサイト系熱安定剤としては、例えば協和化学工業株式会社製のアルカマイザーなどがある。錫系安定剤としては、ジメチルスズメルカプト、ジメチルスズメルカプタイド、ジブチルスズメルカプト、ジオクチルスズメルカプト、ジオクチルスズメルカプトポリマー、ジオクチルスズメルカプトアセテートなどのメルカプト錫系熱安定剤、ジメチルスズマレエート、ジブチルスズマレエート、ジオクチルスズマレエート、ジオクチルスズマレエートポリマーなどのマレエート錫系熱安定剤、ジメチルスズラウレート、ジブチルスズラウレート、ジオクチルスズラウレートなどのラウレート錫系熱安定剤がある。エポキシ系熱安定剤としては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などのエポキシ化油がある。βジケトン系熱安定剤としては、例えば、ステアロイルベンゾイルメタン(SBM)、ジベンゾイルメタン(DBM)などがある。これらの熱安定剤の配合量は、塩化ビニル系樹脂とビニル系共重合体の合計100質量部に対して、好ましくは0.2~10.0質量部である。
【0033】
本発明に使用する滑剤には従来公知のものが使用できる。特に金属石鹸系滑剤、炭化水素系滑剤、高級脂肪酸系滑剤、エステル系滑剤、高級アルコール系滑剤からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。該滑剤は、加工機の金属面との摩擦や樹脂間の摩擦を減少させ、流動性を良くし、加工性を改良させることが出来る。滑剤の配合量は、塩化ビニル系樹脂とビニル系共重合体の合計100質量部に対して、好ましくは0.2~5.0質量部である。滑剤の配合量をこの範囲に調整することによって、樹脂組成物の流動性が向上するので安定的に樹脂組成物の成形ができる。
【0034】
金属石鹸系滑剤としては、例えば、Na、Mg、Al、Ca、Baなどのステアレート、ラウレート、パルミテート、オレエートなどの金属石鹸が例示される。炭化水素系滑剤としては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどが例示される。高級脂肪酸系滑剤としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸、又はこれらの混合物などが例示される。エステル系滑剤としては、アルコールと脂肪酸からなるエステル系滑剤やペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールと高級脂肪酸とのモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、又はこれらの混合物などのペンタエリスリトール系滑剤やモンタン酸とステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコールとのエステル類のモンタン酸ワックス系滑剤が例示される。
高級アルコール系滑剤としては、ステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどが例示される。
【0035】
本発明の樹脂組成物には、目的に応じて、上記帯電防止剤等の他にも公知の配合剤を本発明の効果を阻害しない範囲で添加できる。該配合剤の例としては、加工助剤、可塑剤、強化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、難燃剤、顔料、初期着色改善剤、導電性付与剤、香料等がある。
【0036】
2.樹脂組成物及び人工毛髪用繊維の製造方法
樹脂組成物を得るには、前記塩化ビニル系樹脂と、前記ビニル系共重合体と、塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体に、適宜、帯電防止剤、熱安定剤及び滑剤等を所定の割合で混合し、従来公知のヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、リボンブレンダーなどを使用して攪拌混合してパウダーコンパウンドを得た後、押出機で溶融混練してペレットコンパウンドにする。
【0037】
該パウダーコンパウンドの製造は、ホットブレンドでもコールドブレンドでも製造でき、製造条件として通常の条件を使用できる。好ましくは、樹脂組成物中の揮発分を減少するために、ホットブレンドを使用するのが良い。該ペレットコンパウンドは、通常の塩化ビニル系ペレットコンパウンドの製造と同様にして製造できる。例えば、単軸押出し機、異方向2軸押出し機、コニカル2軸押出し機、同方向2軸押出し機、コニーダー、プラネタリーギアー押出し機、ロール混練り機などの混練り機を使用してペレットコンパウンドとすることができる。該ペレットコンパウンドを製造する際の条件は、特に限定はされないが、塩化ビニル系樹脂の熱劣化を防ぐため樹脂温度を190℃以下になるように設定することが好ましい。また該ペレットコンパウンド中に少量混入しうるスクリューの金属片や保護手袋についている繊維を取り除くため、スクリューの先端付近にメッシュを設置できる。
【0038】
ペレットの製造にはコールドカット法を採用できる。コールドカットの際に混入し得る「切り粉」(ペレット製造時に生じる微粉)などを除去する手段を採用することが可能である。また、長時間使用しているとカッターが刃こぼれをおこし、切り粉が発生しやすくなるため、適宜交換することが好ましい。
【0039】
人工毛髪用繊維を得るには、前記樹脂組成物をノズル孔断面の弱軸の断面2次モーメントが所定の範囲にあるノズルを用いて、シリンダー温度150~190℃、ノズル温度165~195℃の範囲で、紡糸性の良い条件で樹脂を押出し、溶融紡糸する。
【0040】
ノズルから溶融紡糸された未延伸の糸(樹脂組成物の繊維)は、加熱円筒(加熱円筒温度約250℃) に導入されて瞬間的に熱処理され、ノズル直下約4.5mの位置に設置した引取機にて巻き取られる。該ストランドは、未延伸糸のままである。この巻き取りの際、該未延伸糸の繊度が194~206デシテックスになる様に引取速度を調節する。
【0041】
なお、前記樹脂組成物を未延伸の糸にする際には、従来公知の押出し機を使用できる。例えば単軸押出し機、異方向2軸押出し機、コニカル2軸押出し機などを使用できるが、特に好ましくは、口径が35~85mmφ程度の単軸押出し機又は口径が35~50mmφ程度のコニカル押出し機を使用するのが良い。口径が過大であると、押出し量が多くなり、またノズル圧力が過大になり、樹脂の温度が高くなり劣化しやすくなるため好ましくない。
【0042】
次に、該未延伸糸を延伸機(空気雰囲気下90~120℃)で2~4倍に延伸後、熱処理機(空気雰囲気下110~140℃)を用いて0.5~0.9倍で熱処理を施し、繊度が64~69デシテックスになるように人工毛髪用繊維を作製する。
【0043】
上記のようにして得られる本発明の人工毛髪用繊維は、ボリューム及び耐熱性を向上させることができる。
【0044】
3.頭髪装飾製品
人工毛髪繊維は、単独で頭髪装飾製品に用いてもよいが、人毛や他の人工毛髪を混合して用いてもよい。頭髪装飾製品は、ウィッグ(かつら)、ヘアーピース、ブレード、エクステンンョンヘアー、ドールヘアー等であり、人工毛髪繊維の用途は特に限定されない。また、頭髪装飾製品以外にも付け髭、付け睫毛、付け眉毛等に用いることもできる。
【実施例
【0045】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明の具体的な実施態様をより詳細に説明するが、本発明は、この実施例のみに限定されるものではない。
<実施例1>
【0046】
塩化ビニル系樹脂(大洋塩ビ株式会社製、TH-1000)70質量部と、スチレン単量体単位68質量%、アクリロニトリル単量体単位32質量%のビニル系共重合体樹脂(自社製、GR-AT-6S)30質量部に、塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体(積水化学工業株式会社製、平均重合度800、アクリル系共重合体含量16%、AG-162E)5質量部と、帯電防止剤(日油株式会社製、ニューエレガンASK)0.5質量部と、ハイドロタルサイト系複合熱安定剤(日産化学工業株式会社製、CP-410A)3質量部と、エポキシ化大豆油(株式会社ADEKA製、O-130P)0.5質量部と、エステル系滑剤(理研ビタミン社株式会社製EW-100)0.8質量部を配合した混合物をリボンブレンダーで混合しシリンダー温度130~170℃の範囲において、直径40mmの押出機を使用し、コンパウンドを行い、ペレットを作製した。前記ペレットを、ノズル断面積0.06mm、マル型形状、孔数120個のノズルを用いて、シリンダー温度140~190℃、ノズル温度165~195℃の範囲において、押出し量10kg/時間で直径30mmの押出機により、溶融紡糸した。その後、ノズル直下に設けた加熱円筒(200~300℃雰囲気で紡糸性の良い条件)で約0.5~1.5秒熱処理し、150デシテックスの繊維とした。次に、前記溶融紡糸した繊維を100℃の空気雰囲気下で3倍に延伸する工程、そして、前記延伸した繊維に120℃の空気雰囲気下で繊維全長が処理前の0.75倍の長さに収縮するまで熱収縮する工程を順次経て、67デシテックスの人工毛髪用繊維を得た。(エレガンは、登録商標)
【0047】
得られた人工毛髪用繊維について、後述する評価方法及び基準に従って、紡糸性、ボリューム及び櫛掛け性の評価を行った。表1~表2に結果を示す。
<実施例1~23、比較例1>
実施例1~23、比較例1の配合等と評価結果を表1~表2にまとめる。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1~表2の素材は、以下のものを採用した。
<塩化ビニル系樹脂>
・塩化ビニル系樹脂(大洋塩ビ株式会社製、TH-1000)
【0051】
<ビニル系共重合体>
・スチレン単量体単位68質量%、アクリロニトリル単量体単位32質量%(自社製、GR-AT-6S)
・スチレン単量体単位80質量%、アクリロニトリル単量体単位20質量%(自社製)
・スチレン単量体単位55質量%、アクリロニトリル単量体単位45質量%(自社製)
・メタクリル酸メチル単量体単位80質量%、アクリロニトリル単量体単位20質量%(自社製)
・スチレン単量体単位20質量%、メタクリル酸メチル単量体単位75質量%、アクリロニトリル単量体単位5質量%(自社製)
【0052】
<塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体>
・塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体(平均重合度800、アクリル系共重合体含量16%、積水化学工業株式会社製、AG-162E)
・上記以外は、自社製(平均重合度300、400、800、1800、2000と、アクリル系共重合体含量3、8、16、40、55、70を組み合わせたものを作製)
【0053】
表1~表2中の各評価項目についての評価方法とその基準は、以下の通りである。
【0054】
(1)紡糸性
紡糸性は、溶融紡糸し、未延伸糸ができる間で、糸切れの発生状況を観察し、次のとおり評価した。
S:糸切れが1回/1時間
A:糸切れが2~3回/1時間
B:糸切れが4~5回/1時間
X:糸切れが6回以上/1時間
【0055】
(2)櫛掛け性
櫛掛け性は、人工毛髪用繊維を長さ300mm、質量20.0gに束ねた繊維束サンプルを使用し、櫛掛けを50回繰り返した際の糸切れの発生状況を、次のとおり評価した。
S:糸切れ無し
A:糸切れが2~3箇所
B:糸切れが4~5箇所
X:糸切れが6箇所以上
【0056】
(3)ボリューム
ボリュームは、56ccの容器(100mm×14mm×40mm)に、100mmに切断した繊維を容器が一杯になるまで充填させた後、充填させた繊維を取り出し計量し、下記の式にて比容積を算出し、小数第2位を四捨五入して、次のとおり評価した。
容器の容積(cc)÷繊維重量(g)=比容積(cc/g)
S:比容積が2.5(cc/g)以上
A:比容積が2.0~2.4(cc/g)
B:比容積が1.7~1.9(cc/g)
C:比容積が1.4~1.6(cc/g)
X:比容積が1.3(cc/g)以下
【0057】
全ての実施例では、全ての評価項目において良好な結果が得られた。一方、塩化ビニル系アクリルグラフト共重合体を含まない比較例1は、櫛掛け性が悪かった。
【0058】
実施例の人工毛髪用繊維を用いて従来公知の方法でウィッグ、ヘアーピース、ブレード、エクステンションヘアー、ドールヘアーを作成した。これら得られた頭髪装飾製品は、櫛掛け性が良好であった。