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特許7198287長繊維強化プロピレン系樹脂組成物および長繊維強化成形体
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  • 特許-長繊維強化プロピレン系樹脂組成物および長繊維強化成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】長繊維強化プロピレン系樹脂組成物および長繊維強化成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20221221BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221221BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221221BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20221221BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
C08L23/10
C08K3/04
C08K7/02
B29B11/16
B29K105:12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020554984
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043049
(87)【国際公開番号】W WO2020091051
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2018207293
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019066856
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田原 晶子
(72)【発明者】
【氏名】久米田 ゆり恵
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-298553(JP,A)
【文献】特開平03-183531(JP,A)
【文献】特開平11-129246(JP,A)
【文献】国際公開第2009/116608(WO,A1)
【文献】松山眞三,特集:ポリエチレン系ジオメンブレン概説,ジオシンセティックス技術情報,1996年,Vol.12, No.3,p.32-37
【文献】浜田文将,結晶性高分子の融解,高分子,1967年,Vol.16, No.6(183),p.694-706
【文献】佐藤嘉洋,示差走査熱量分析(DSC)について,愛産研ニュース,2011年,10月号, No.115,p.5,http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_91/Docs/R1-1721642.zip
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/10
C08K 3/04
C08K 7/02
B29B 11/16
B29K 105/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維強化樹脂ペレット、および密度が865~950kg/m3、融点が50~105℃、かつ融解熱が52J/g以上である、変性されていてもよいエチレン系重合体(D)、カーボンブラック(E)、ならびに任意にプロピレン系重合体(A2)を含み、
前記長繊維強化樹脂ペレットが、プロピレン系重合体(A1)、強化繊維(B)、および変性ポリプロピレン(C)を含むペレットであり、
前記カーボンブラック(E)の含有量が、前記長繊維強化樹脂ペレット100質量部に対して0.4質量部以上1.5質量部以下であり、
前記強化繊維(B)の含有量が10~50質量%であり、
前記エチレン系重合体(D)の含有量が3~35質量%である長繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
下記式(1)を満たす請求項1に記載の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
5≦PPP1+PPP2+PmPP-PPE≦60 …(1)
〔式(1)において、PPP1、PPP2、PmPPおよびPPEは、それぞれ前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)、前記強化繊維(B)、前記変性ポリプロピレン(C)および前記エチレン系重合体(D)の合計量に対する、前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)、前記変性ポリプロピレン(C)または前記エチレン系重合体(D)の割合(質量%)である。〕
【請求項3】
下記式(2)を満たす請求項1または2に記載の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
25≦MFRPP+mPP≦500 …(2)
〔式(2)において、MFRPP+mPPは、下記式(3)で表される。
MFRPP+mPP
=10^[(Log(MFRPP1)×PPPP1+Log(MFRPP2)×PPPP2+Log(MFRmPP)×PPmPP)/(PPPP1+PPPP2+PPmPP)] …(3)
(式(3)中、MFRPP1、MFRPP2およびMFRmPPは、それぞれ前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)または前記変性ポリプロピレン(C)の、ISO 1133-1に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件下で測定されるメルトフローレート(g/10分)である。
PPPP1、PPPP2およびPPmPPは、それぞれ前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)、前記強化繊維(B)、前記変性ポリプロピレン(C)および前記エチレン系重合体(D)の合計量に対する、前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)または前記変性ポリプロピレン(C)の割合(質量%)である。)〕
【請求項4】
前記変性ポリプロピレン(C)の原料に由来する揮発成分の含有量が、前記変性ポリプロピレン(C)の質量を基準として9000ppm以下である請求項1~のいずれか一項に記載の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
プロピレン系重合体(A)、
強化繊維(B)、
変性ポリプロピレン(C)、
カーボンブラック(E)、および
密度が865~950kg/m3、融点が50~105℃、かつ融解熱が52J/g以上である、変性されていてもよいエチレン系重合体(D)を含有する組成物からなり、
前記組成物中の前記カーボンブラック(E)の含有量が0.3質量%以上1.0質量%以下であり、
前記組成物中の前記強化繊維(B)の含有量が10~50質量%であり、
前記組成物中の前記エチレン系重合体(D)の含有量が3~35質量%である長繊維強化成形体。
【請求項6】
下記式(1´)を満たす請求項5に記載の長繊維強化成形体。
5≦PPP+PmPP-PPE≦60 …(1´)
〔式(1´)において、PPP、PmPPおよびPPEは、それぞれ前記組成物中の前記プロピレン系重合体(A)、前記強化繊維(B)、前記変性ポリプロピレン(C)および前記エチレン系重合体(D)の合計量に対する、前記プロピレン系重合体(A)、前記変性ポリプロピレン(C)または前記エチレン系重合体(D)の割合(質量%)である。〕
【請求項7】
前記変性ポリプロピレン(C)の原料に由来する揮発成分の含有量が、前記変性ポリプロピレン(C)の質量を基準として9000ppm以下である請求項5または6に記載の長繊維強化成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は長繊維強化プロピレン系樹脂組成物および長繊維強化成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂成形体は軽量であり、かつ剛性および耐熱性に優れているので、電気機器、自動車、住宅設備、医療器具など多様な分野で利用されている。
繊維強化樹脂成形体としては、例えば、ガラス繊維等の強化繊維と、ポリアミド、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を用いた成形体が知られている。このような繊維強化樹脂成形体は、自動車分野において、エンジンルーム内のファンシュラウドやプロペラファン等の高剛性および耐熱性が要求される部材に利用されている。
【0003】
しかし、ガラス繊維等の強化繊維を用いた繊維強化プロピレン系樹脂組成物を成形した場合、得られる成形体表面には強化繊維の浮きによる凹凸が発生し外観が悪くなる。このような問題点に鑑み、特許文献1には、繊維強化プロピレン系樹脂組成物に用いられるプロピレン系重合体のコモノマー由来の構造単位の量と立体規則性との関係を調整することにより、成形体の耐熱性、機械的特性および成形体表面の外観をバランスよく向上させることが記載されている。この繊維強化プロピレン系樹脂組成物には、さらに酸変性ポリプロピレン、耐衝撃改良剤(エチレン系重合体など)などが含まれてもよい。
【0004】
また、特許文献2にはプロピレン系重合体、ガラス繊維、変性プロピレン重合体およびエチレン・α-ランダム共重合体を含む組成物からなる、高強度で外観が良好な自動二輪車用リアグリップが開示されている。
【0005】
特許文献3には、メタロセン触媒を用いて製造された熱可塑性樹脂、不飽和カルボン酸等で変性された変性ポリオレフィン樹脂および強化繊維を含有してなる長繊維強化熱可塑性樹脂粒子(A)と、希釈用ポリオレフィン樹脂粒子(B)とからなる長繊維強化粒子ブレンドが開示され、この長繊維強化粒子ブレンドを用いることにより、射出成形時に射出シリンダー内での強化繊維の開繊性が良好で、繊維塊の成形体表面への浮き出しを抑えた射出成形体が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/195787号
【文献】国際公開第2015/002217号
【文献】特開2010-106262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の繊維強化プロピレン系樹脂組成物から得られた成形体には、成形体表面に浮き出た強化繊維により、成形体表面に白いモヤがかかったような外観不良(以下「白モヤの発生)とも記載する。)の改善の点で、さらなる改善の余地があった。
【0008】
したがって本発明は、外観に優れ、かつ機械的特性にも優れた強化繊維成形体を提供すること、およびこのような強化繊維成形体の製造に適した組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
長繊維強化樹脂ペレット、および密度が865~950kg/m3、融点が50~105℃、かつ融解熱が52J/g以上である、変性されていてもよいエチレン系重合体(D)、ならびに任意にプロピレン系重合体(A2)を含み、
前記長繊維強化樹脂ペレットが、プロピレン系重合体(A1)、強化繊維(B)、および変性ポリプロピレン(C)を含むペレットである長繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【0010】
[2]
前記エチレン系重合体(D)の含有量が3~35質量%である前記[1]の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
[3]
さらにカーボンブラック(E)を含有し、前記カーボンブラック(E)の含有量が、前記長繊維強化樹脂ペレット100質量部に対して0.4質量部以上である前記[1]または[2]の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【0011】
[4]
下記式(1)を満たす前記[1]~[3]のいずれかの長繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
5≦PPP1+PPP2+PmPP-PPE≦60 …(1)
〔式(1)において、PPP1、PPP2、PmPPおよびPPEは、それぞれ前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)、前記強化繊維(B)、前記変性ポリプロピレン(C)および前記エチレン系重合体(D)の合計量に対する、前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)、前記変性ポリプロピレン(C)または前記エチレン系重合体(D)の割合(質量%)である。〕
【0012】
[5]
下記式(2)を満たす前記[1]~[4]のいずれかの長繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
25≦MFRPP+mPP≦500 …(2)
〔式(2)において、MFRPP+mPPは、下記式(3)で表される。
MFRPP+mPP
=10^[(Log(MFRPP1)×PPPP1+Log(MFRPP2)×PPPP2+Log(MFRmPP)×PPmPP)/(PPPP1+PPPP2+PPmPP)] …(3)
(式(3)中、MFRPP1、MFRPP2およびMFRmPPは、それぞれ前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)または前記変性ポリプロピレン(C)の、ISO 1133-1に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件下で測定されるメルトフローレート(g/10分)である。
PPPP1、PPPP2およびPPmPPは、それぞれ前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)、前記強化繊維(B)、前記変性ポリプロピレン(C)および前記エチレン系重合体(D)の合計量に対する、前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)または前記変性ポリプロピレン(C)の割合(質量%)である。)〕
【0013】
[6]
前記変性ポリプロピレン(C)の原料に由来する揮発成分の含有量が、前記変性ポリプロピレン(C)の質量を基準として9000ppm以下である前記[1]~[5]のいずれかの長繊維強化プロピレン系樹脂組成物。
【0014】
[7]
プロピレン系重合体(A)、
強化繊維(B)
変性ポリプロピレン(C)、および
密度が865~950kg/m3、融点が50~105℃、かつ融解熱が52J/g以上である、変性されていてもよいエチレン系重合体(D)を含有する組成物からなる長繊維強化成形体。
【0015】
[8]
前記組成物中の前記エチレン系重合体(D)の含有量が3~35質量%である前記[]の長繊維強化成形体。
[9]
前記組成物がさらにカーボンブラック(E)を含有し、前記組成物中の前記カーボンブラック(E)の含有量が0.3質量%以上である前記[7]または[8]の長繊維強化成形体。
【0016】
[10]
下記式(1´)を満たす前記[7]~[9]のいずれかの長繊維強化成形体。
5≦PPP+PmPP-PPE≦60 …(1´)
〔式(1´)において、PPP、PmPPおよびPPEは、それぞれ前記組成物中の前記プロピレン系重合体(A)、前記強化繊維(B)、前記変性ポリプロピレン(C)および前記エチレン系重合体(D)の合計量に対する、前記プロピレン系重合体(A)、前記変性ポリプロピレン(C)または前記エチレン系重合体(D)の割合(質量%)である。〕
【0017】
[11]
前記変性ポリプロピレン(C)の原料に由来する揮発成分の含有量が、前記変性ポリプロピレン(C)の質量を基準として9000ppm以下である前記[7]~[10]のいずれかの長繊維強化成形体。
【発明の効果】
【0018】
本発明の長繊維強化成形体は、外観に特に優れ(すなわち、白モヤの発生が抑制され)、かつ機械的特性にも優れている。また、このような長繊維強化成形体は、本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物から形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ペレット製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明をさらに詳細に説明する。
[長繊維強化プロピレン系樹脂組成物]
本発明に係る長繊維強化プロピレン系樹脂組成物は、
長繊維強化樹脂ペレット、およびエチレン系重合体(D)、ならびに任意にプロピレン系重合体(A2)を含み、
前記長繊維強化樹脂ペレットが、プロピレン系重合体(A1)、強化繊維(B)、および変性ポリプロピレン(C)を含むペレットであることを特徴としている。
【0021】
<長繊維強化樹脂ペレット>
《プロピレン系重合体(A1)》
前記プロピレン系重合体(A1)は、プロピレン由来の構造単位を主たる構造単位として含む重合体であり、その例として、プロピレン単独重合体、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、およびプロピレン系ブロック共重合体が挙げられる。
【0022】
前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体としては、プロピレンとエチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンとのランダム共重合体が挙げられる。前記α-オレフィンの例としては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテンおよび1-オクテンが挙げられ、好ましくはエチレンおよび1-ブテンが挙げられ、特に好ましくはエチレンが挙げられる。前記ランダム共重合体中の全構造単位に占めるプロピレン由来構造単位の割合は、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上である。
【0023】
前記プロピレン系ブロック共重合体は、好ましくはプロピレン単独重合体部分とプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体部分とから構成される。プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体部分の具体的な態様は、前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体の具体的な態様と同様である。
【0024】
前記プロピレン系ブロック共重合体は、n-デカン溶剤分別した場合、23℃のn-デカンに可溶な成分(以下「デカン可溶部」とも記載する。)と23℃のn-デカンに不溶な成分(以下「デカン不溶部」とも記載する。)とに分別される。デカン可溶部の含有量は、通常は5~30質量%、好ましくは5~25質量%、より好ましくは8~18質量%であり、デカン不溶部の含有量は、通常は70~95質量%、好ましくは75~95質量%、より好ましくは82~92質量%である。
【0025】
長繊維強化樹脂ペレットに含まれるプロピレン系重合体(A1)のメルトフローレート(ISO 1133-1に準拠、230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは20g/10分以上、より好ましくは30g/10分以上、さらに好ましくは40g/10分以上であり、その上限は、たとえば300g/10分であってもよい。長繊維強化樹脂ペレットに含まれるプロピレン系重合体(A1)のメルトフローレートがこの範囲にあると、本発明の組成物は射出成形に適した流動性を有する。
【0026】
《強化繊維(B)》
前記強化繊維(B)としては、例えば、炭素繊維、ナイロン繊維、セルロース繊維、バサルト繊維、ガラス繊維が挙げられ、これらの中でもガラス繊維が好ましい。
【0027】
ガラス繊維としては、Eガラス(Electrical glass)、Cガラス(Chemical glass)、Aガラス(Alkali glass)、Sガラス(High strength glass)および耐アルカリガラスなどのガラスを溶融紡糸してフィラメント状の繊維にしたものを挙げることができる。
【0028】
本発明ではガラス繊維としては、通常、ガラス長繊維が使用される。ガラス長繊維の原料としては、通常、連続状ガラス繊維束が用いられ、これはガラスロービングとして市販されている。その平均繊維径は、通常3~30μm、好ましくは13~20μm、さらに好ましくは16~18μmであり、フィラメント集束本数は、通常400~10,000本、好ましくは1,000~6,000本、さらに好ましくは3,000~5,000本である。
【0029】
また、特開平6-114830号公報に記載されているように、複数の繊維束を束ねて使用することもできる。
長繊維強化樹脂ペレット中の強化繊維(B)の繊維長は、通常4~10mm、好ましくは5~8mmであり、繊維径は、通常10~20μm、好ましくは13~18μmである。
【0030】
長繊維強化樹脂ペレット中で、強化繊維(B)はペレットの長手方向に略平行に配列しており、強化繊維(B)の繊維長は、通常、ペレットの粒子長(すなわち、ペレットの長手方向の長さ)と実質的に同一である。
【0031】
長繊維強化樹脂ペレット中の強化繊維(B)の含有量は、長繊維強化樹脂ペレット100質量%に対し、好ましくは40~70質量%、より好ましくは45~60質量%である。強化繊維(B)の含有量が前記下限値以上であると、良好な生産性で長繊維強化樹脂ペレットを製造することができる。強化繊維(B)の含有量が前記上限値以下であると、強化繊維(B)の繊維束に樹脂を充分に含浸させることができる。
【0032】
強化繊維(B)の表面には、電解処理または収束剤処理などの様々な表面処理方法で官能基が導入されていてもよい。表面処理には、収束剤を用いることが好ましく、カップリング剤を含む収束剤を用いることが特に好ましい。表面処理された強化繊維(B)を用いると、強化繊維(B)と樹脂成分との接着性が向上し、強度および外観の良好な成形体が得られる。
【0033】
収束剤の例としては、特開2003-253563号公報に記載されたカップリング剤を含むものが挙げられる。
カップリング剤としては、たとえば、アミノシラン、エポキシシラン等のシラン系カップリング剤、およびチタン系カップリング剤が挙げられる。
【0034】
また、収束剤としては、カップリング剤の他に、取り扱いを容易にするために樹脂エマルジョンを含むものも好ましい。
収束剤に含まれる樹脂エマルジョンとしては、たとえば、ウレタン系、オレフィン系、アクリル系、ナイロン系、ブタジエン系またはエポキシ系のものが挙げられ、これらのうち、ウレタン系またはオレフィン系のものが好ましい。
【0035】
《変性ポリプロピレン(C)》
前記変性ポリプロピレン(C)は、ポリプロピレンを酸変性することにより得られる。その変性方法としては、従来公知の方法、例えばグラフト変性および共重合化が挙げられる。変性されるポリプロピレンとしては、前記プロピレン系重合体(A1)が挙げられる。
【0036】
変性に用いる変性剤としては、例えば、不飽和カルボン酸およびその誘導体が挙げられる。不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、ソルビン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸、およびフタル酸が挙げられる。また、その誘導体の例としては、酸無水物、エステル、アミド、イミド、および金属塩等が挙げられ、具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、無水フタル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、マレイン酸モノエチルエステル、アクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイミド、N-ブチルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、不飽和ジカルボン酸およびその誘導体が好ましく、無水マレイン酸および無水フタル酸がより好ましい。
【0037】
変性ポリプロピレン(C)の酸付加量、換言すると変性ポリプロピレン(C)中の前記酸に由来する構造の割合は、好ましくは0.1~14重量%であり、より好ましくは0.3~8重量%である。酸付加量は、樹脂のIRスペクトルを測定し、1,670cm-1~1,810cm-1のピークの面積から決定される。
【0038】
ポリプロピレンの変性は、長繊維強化樹脂ペレットの製造に先立って行ってもよく、長繊維強化樹脂ペレット製造の際の溶融混練過程において行ってもよい。
変性ポリプロピレン(C)に、変性剤またはこれに由来する揮発性の成分(以下、これらをまとめて「揮発成分」とも記載する。)が残存していると、長繊維強化プロピレン系樹脂組成物から形成された成形体の表面に、曇りが発生する場合がある。このため、前記揮発成分が少ないことが好ましく、下記式で定義される、変性ポリプロピレン(C)中の揮発成分含有量は、好ましくは9000ppm以下、より好ましくは7000ppm以下である。揮発成分の量は、変性ポリプロピレン(C)を真空乾燥させることなどにより、低減させることができる。
【0039】
(揮発成分含有量の測定方法)
試料(変性ポリプロピレン(C))を、その重量を測定した後、温度を240℃に設定したオーブンに入れ、その内部をコンプレッサーにより真空状態とし、60分間放置することにより、乾燥させる。乾燥後の試料の重量を測定し、下記式から揮発成分含量を算出する。
mPP=106×(MBF-MAF)/MBF
(式中、VmPP、MBFおよびMAFは、それぞれ、揮発成分含有量(ppm)、乾燥前の試料の重量、または乾燥後の試料の重量である。)
【0040】
変性ポリプロピレン(C)としては、強化繊維(B)とプロピレン系重合体(A)との親和性を改良し、製造される成形体の強度または耐熱性を向上させる観点から、無水脂肪酸変性ポリプロピレンが好ましく、特に無水マレイン酸変性ポリプロピレンが好ましい。
【0041】
長繊維強化樹脂ペレット中の変性ポリプロピレン(C)の量は、長繊維強化樹脂ペレット100質量%に対し、好ましくは1~5質量%であり、より好ましくは1.5~3.5質量%である。変性ポリプロピレン(C)の量が前記下限値以上であると、強化繊維(B)と樹脂成分との接着性が良好である。変性ポリプロピレン(C)の量が前記上限値以下であると、変性ポリプロピレン(C)の分子量が低くなり過ぎないことから、本発明の組成物から製造される成形体の強度が良好である。
【0042】
変性ポリプロピレン(C)のメルトフローレート(ISO 1133-1に準拠、230℃、2.16kg荷重。)は、好ましくは50g/10分以上、より好ましくは80g/10分以上であり、その上限値は、たとえば1000g/10分であってもよい。変性ポリプロピレン(C)のメルトフローレートがこの範囲にあると、本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物は、射出成形に適した流動性を有する。
【0043】
(長繊維強化樹脂ペレット)
長繊維強化樹脂ペレットは、プロピレン系重合体(A1)、強化繊維(B)および変性ポリプロピレン(C)を含有する。
【0044】
長繊維強化樹脂ペレットの形状は、通常、柱状である。
長繊維強化樹脂ペレットの粒子長(長手方向の長さ)は通常4~10mmであり、好ましくは5~8mmである。長繊維強化樹脂ペレットの粒子長が前記下限値以上であると、本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物から製造される成形体は機械的特性に優れる。また、長繊維強化樹脂ペレットの粒子長が前記上限値以下であると、本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物は成形性に優れる。
【0045】
長繊維強化樹脂ペレット中では、通常、強化繊維(B)がペレットの長手方向に略平行に配列している。
長繊維強化樹脂ペレット中での強化繊維(B)のアスペクト比が大きいために、前記長繊維強化樹脂ペレットを含む本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物から形成された成形体は機械的強度に優れる。
【0046】
長繊維強化樹脂ペレットは、引き抜き法など、公知の成形方法で製造することができ、具体的には、数千本からなる強化繊維(B)のロービングを含浸ダイスに導き、プロピレン系重合体(A1)および変性ポリプロピレン(C)を溶融したもの(以下単に「溶融樹脂」ともいう。)をフィラメント間に均一に含浸させた後、必要な長さに切断することにより容易に得ることができる。
【0047】
この方法では、例えば、押出機先端に設けられた含浸ダイス中に、押出機より溶融樹脂を供給する一方、連続状ガラス繊維束を通過させ、このガラス繊維束に溶融樹脂を含浸させた後、ノズルを通して引き抜き、必要な長さにペレタイズする方法がとられる。
【0048】
また、プロピレン系重合体(A1)、不飽和カルボン酸またはその無水物を、有機過酸化物と共にドライブレンドして押出機のホッパーに投入し、変性を同時に行いながら供給する方法もとり得る。
【0049】
強化繊維(B)のロービングに溶融樹脂を含浸させるための方法としては、特に制限はなく、例えば国際公開2010/137305の[0036]に記載された方法が挙げられる。
【0050】
樹脂を溶融する過程において、フィード部を2つ以上有する押出機を使用し、トップフィードから分解剤を投入し、サイドフィードから別の樹脂を投入してもよい。分解剤としては、有機過酸化物が好ましい。また、2台以上の押出機(押出し部)を使用し、そのうち少なくとも1台に分解剤を投入してもよい。さらに、押出機の少なくとも1個所に樹脂、不飽和カルボン酸またはその誘導体ならびに分解剤を投入してもよい。
【0051】
<プロピレン系重合体(A2)>
本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物は、前記長繊維強化樹脂ペレットに含まれるプロピレン系重合体(A1)とは別に、任意にプロピレン系重合体(A2)を含有してもよい。
【0052】
前記プロピレン系重合体(A2)は、プロピレン由来の構造単位を主たる構造単位として含む重合体であり、その例として、プロピレン単独重合体、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、およびプロピレン系ブロック共重合体が挙げられる。
【0053】
前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、および前記プロピレン系ブロック共重合体の詳細は、上述のプロピレン系重合体(A1)の欄で説明したとおりである。
プロピレン系重合体(A2)のメルトフローレート(ISO 1133-1に準拠、230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは10~300g/10分、より好ましくは20~250g/10分、さらに好ましくは20~200g/10分である。プロピレン系重合体(A2)のメルトフローレートがこの範囲にあると、本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物から形成される成形体は、機械的特性に優れる。
プロピレン系重合体(A2)の形状の例としては、粉末およびペレットが挙げられる。
【0054】
<エチレン系重合体(D)>
本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物は、エチレン系重合体(D)を含有する。
エチレン系重合体(D)の密度(ISO1183に準拠)は、865~950kg/m3、好ましくは875~930kg/m3、より好ましくは885~910kg/m3である。エチレン系重合体(D)の密度が上記範囲内にあると、本発明の成形体において白モヤの発生が抑制される。その理由は、必ずしも定かではないが、密度が低いと射出成形をした際の金型の転写性が良好になる為と推察される。一方、エチレン系重合体(D)の密度が950kg/m3よりも過大であると、白モヤの発生を抑制できないことがあり、865kg/m3よりも過小であると、本発明の成形体の剛性が低下する。上記含有量が上記上限値以下であると、本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物では、良好な機械的特性が維持される。
【0055】
エチレン系重合体(D)の、DSC(示差走査熱量分析)測定により下記条件で測定される融点は、50~105℃、好ましくは60~105℃、より好ましくは70~105℃である。融点が上記範囲内にあると射出成形した際の金型転写性があがり、白モヤの発生が抑制される。一方、融点が105℃よりも高いと課題である白モヤの発生が抑制されにくく、50℃よりも過度に低いと本発明の成形体の剛性が低下する。
【0056】
エチレン系重合体(D)のDSC(示差走査熱量分析)測定により下記条件で測定される融解熱(ΔHm)は、52J/g以上、好ましくは55J/g以上である。エチレン系重合体(D)のDSC(示差走査熱量分析)測定により下記条件で測定される融解熱(ΔHm)は、52J/g以上、好ましくは55J/g以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは200J/g以下、さらに好ましくは125J/g以下、特に好ましくは100J/g以下である。エチレン系重合体(D)の融解熱(ΔHm)が上記範囲内にあると、本発明の成形体において機械的特性が良好であり、また白モヤの発生が抑制される。エチレン系重合体(D)の(ΔHm)が52J/gよりも過小であると、成形体の機械的特性、特に曲げ弾性率が低下する。エチレン系重合体(D)の融解熱(ΔHm)が上記範囲内にあると、本発明の成形体において機械的特性が良好であり、また白モヤの発生が抑制される。エチレン系重合体(D)の(ΔHm)が52J/gよりも過小であると、成形体の機械的特性、特に曲げ弾性率が低下する。
【0057】
(DSC測定条件)
測定試料として、エチレン系重合体のペレットから210℃で成形した厚さ200μmのシートを用いる。
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC8500)を用いて、約5mgの測定試料を、窒素雰囲気下で500℃/分の速度で30℃から230℃に加熱し、230℃で10分間保持した後、10℃/分の速度で230℃から30℃まで冷却し、30℃で1分保持する。次いで、測定試料を10℃/分の速度で230℃まで加熱し、その際の吸熱曲線において、吸熱ピークが検出される温度を融点、そのピーク面積を融解熱(ΔHm)とする。複数のピークが検出される場合には、最も高温側のピークが検出される温度を融点とする。
【0058】
前記エチレン系重合体(D)としては、例えば、エチレン単独重合体、およびエチレン・α-オレフィン共重合体が挙げられる。エチレン・α-オレフィン共重合体は、例えば、エチレンと炭素原子数3~10のα-オレフィンから選ばれる1種以上のα-オレフィンとを共重合したものである。α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-へキセン、および1-オクテンが好ましい。α-オレフィンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
エチレン系重合体(D)は、変性されたエチレン系重合体であってもよく、変性されていないエチレン系重合体であってもよい。変性方法としては、従来公知の方法、例えばグラフト変性および共重合化が挙げられ、変性方法の詳細は、上述した変性ポリプロピレンの製造方法を参照することができる。
【0060】
エチレン系重合体(D)のメルトフローレート(ISO 1133-1に準拠、190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.1~50g/10分、より好ましくは1~45g/10分、特に好ましくは1~40g/10分である。メルトフローレートが前記下限値以上であれば、樹脂流動性の低下や混練時の分散不良が起こりにくく、成形体の耐衝撃性等の物性が低下しにくい。一方、前記上限値以下であれば、成形体に十分な耐衝撃性が得られる傾向にある。
エチレン系重合体(D)の形状の例としては、粉末およびペレットが挙げられる。
【0061】
<カーボンブラック(E)>
本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物は、カーボンブラック(E)を含有してもよい。
カーボンブラック(E)の含有量は、前記長繊維強化樹脂ペレット100質量部に対して好ましくは0.4質量部以上であり、より好ましくは0.5質量部以上である。カーボンブラック(E)の含有量が上記範囲にあると、長繊維強化プロピレン系樹脂組成物から製造される強化繊維成形体は、白モヤの発生が抑制され、かつ機械的特性にも優れる。また、カーボンブラックが強化繊維とプロピレン系重合体との界面接着を阻害することを抑制する観点からは、カーボンブラック(E)の含有量は、前記長繊維強化樹脂ペレット100質量部に対して好ましくは1.5質量部以下である。
カーボンブラック(E)としては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラックが挙げられる。
<その他の成分>
本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物には、上記各成分以外に、必要に応じて、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、銅害防止剤、脂肪酸金属塩、軟化剤、分散剤、充填剤、着色剤、顔料、発泡剤などの添加剤が、本発明の効果を損なわない範囲で(たとえば、前記組成物100質量%に対し5質量%以下の割合で)配合されていてもよい。これらの成分はマスターバッチ化されていてもよい。
【0062】
(長繊維強化プロピレン系樹脂組成物)
本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物は、上述した、長繊維強化樹脂ペレット、およびエチレン系重合体(D)、ならびに必要に応じてプロピレン系重合体(A2)、カーボンブラック(E)、またはその他の成分を含有する。
【0063】
本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物は、好ましくは下記式(1)を、より好ましくは下記式(1a)を満たす。
5≦PPP1+PPP2+PmPP-PPE≦60 …(1)
15≦PPP1+PPP2+PmPP-PPE≦55 …(1a)
〔式(1)および(1a)において、PPP1、PPP2、PmPPおよびPPEは、それぞれ前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)、前記強化繊維(B)、前記変性ポリプロピレン(C)および前記エチレン系重合体(D)の合計量に対する、前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)、前記変性ポリプロピレン(C)または前記エチレン系重合体(D)の割合(質量%)である。〕
PP1+PPP2+PmPP-PPEが前記範囲にあると、白モヤの発生が抑制され、かつ機械的特性に優れた成形体を製造することができる。
【0064】
本発明の組成物中の強化繊維(B)の含有量は、組成物100質量%に対し、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~45質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。強化繊維(B)の含有量が上記範囲にあると、白モヤの発生が抑制され、かつ機械的強度に優れた成形体を製造することができる。
【0065】
本発明の組成物中の変性ポリプロピレン(C)の含有量は、組成物100質量%に対し、好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは0.5~4質量%、さらに好ましくは1.0~3.0質量%である。変性ポリプロピレン(C)含有量がこの範囲にあると、機械的特性に優れた成形体を、射出成形法等の成形方法により優れた加工性で製造することができる。
【0066】
本発明の組成物中の前記エチレン系重合体(D)の含有量は、前記組成物100質量%に対し、好ましくは3~35質量%、より好ましくは5~35質量%、さらに好ましくは8~35質量%である。エチレン系重合体(D)の含有量が上記範囲にあると、白モヤの発生が抑制され、かつ機械的強度に優れた成形体を製造することができる。
【0067】
本発明の組成物中の前記カーボンブラック(E)の含有量は、前記組成物100質量%に対し、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。カーボンブラック(E)の含有量が上記範囲にあると、白モヤの発生が抑制され、かつ機械的強度に優れた成形体を製造することができる。また、カーボンブラックが強化繊維とプロピレン系重合体との界面接着を阻害することを抑制する観点からは、カーボンブラック(E)の含有量は、前記組成物100質量%に対し、好ましくは1.0質量%以下である。
前記組成物は、好ましくは下記式(2)を、より好ましくは下記式(2a)を、さらに好ましくは下記式(2b)を満たす。
25≦MFRPP+mPP≦500 …(2)
50≦MFRPP+mPP≦400 …(2a)
70≦MFRPP+mPP≦300 …(2b)
〔式(2)、(2a)および(2b)において、MFRPP+mPPは、下記式(3)で表される。
MFRPP+mPP
=10^[(Log(MFRPP1)×PPPP1+Log(MFRPP2)×PPPP2+Log(MFRmPP)×PPmPP)/(PPPP1+PPPP2+PPmPP)] …(3)
(式(3)中、MFRPP1、MFRPP2およびMFRmPPは、それぞれ前記前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)または前記変性ポリプロピレン(C)の、ISO 1133-1に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件下で測定されるメルトフローレート(g/10分)である。)
PPPP1、PPPP2およびPPmPPは、それぞれ前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)、前記強化繊維(B)、前記変性ポリプロピレン(C)および前記エチレン系重合体(D)の合計量(質量)に対する、前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)または前記変性ポリプロピレン(C)の質量の割合(%)である。)〕
【0068】
MFRPP+mPPは、本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物に含まれるポリプロピレン系樹脂(すなわち、前記プロピレン系重合体(A1)、前記プロピレン系重合体(A2)および前記変性ポリプロピレン(C))全体としてのメルトフローレートの指標であり、MFRPP+mPPがこの範囲にあると、前記組成物から、機械的特性に優れた成形体を良好な加工性で射出成形することができる。
【0069】
(長繊維強化プロピレン系樹脂組成物の製造方法)
本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物は、長繊維強化樹脂ペレットと、エチレン系重合体(D)と、必要に応じてプロピレン系重合体(A2)と、必要に応じてカーボンブラック(E)と、必要に応じてその他の成分とを混合することにより、例えばドライブレンドすることにより製造することができる。
【0070】
[長繊維強化成形体]
本発明に係る長繊維強化成形体は、プロピレン系重合体(A)、強化繊維(B)、変性ポリプロピレン(C)、およびエチレン系重合体(D)を含有する組成物からなる。
前記プロピレン系重合体(A)は、通常、前記プロピレン系重合体(A1)および任意に前記プロピレン系重合体(A2)からなる。
前記組成物には、必要に応じて前記カーボンブラック(E)が含まれていてもよく、必要に応じて上述したその他の成分が含まれていてもよい。
【0071】
プロピレン系重合体(A1)、プロピレン系重合体(A2)、強化繊維(B)、変性ポリプロピレン(C)、エチレン系重合体(D)、カーボンブラック(E)、その他の成分の詳細は、特に断りのない限り上述のとおりである。また、前記組成物中の各成分の含有量およびその技術的意義も、特に断りのない限り、上述した本発明に係る長繊維強化プロピレン系樹脂組成物中の各成分の含有量およびその技術的意義と同様である。
【0072】
本発明の成形体の中での強化繊維(B)の長さは、通常、本発明の長繊維強化プロピレン系樹脂組成物の中での強化繊維(B)の長さとは異なる。これは、成形中に強化繊維(B)が折損して短くなるためである。本発明に係る長繊維強化成形体中での強化繊維(B)の長さは、成形体から所定本数(1000本)の強化繊維(B)を抽出し、それらの各繊維長を測定して下記式(4)に基づいて算出される重量平均繊維長で表すと、通常0.5~5mm、好ましくは0.8~3mmである。
重量平均繊維長=Σ(繊維長)2/Σ繊維長 …(4)
本発明に係る長繊維強化成形体は、好ましくは下記式(1´)を、より好ましくは下記式(1a´)を満たす。
5≦PPP+PmPP-PPE≦60 …(1´)
15≦PPP+PmPP-PPE≦55 …(1a´)
〔式(1´)および(1a´)において、PPP、PmPPおよびPPEは、それぞれ前記プロピレン系重合体(A)、前記強化繊維(B)、前記変性ポリプロピレン(C)および前記エチレン系重合体(D)の合計量に対する、前記プロピレン系重合体(A)、前記変性ポリプロピレン(C)、または前記エチレン系重合体(D)の割合(質量%)である。〕
PP+PmPP-PPEが前記範囲にあると、本発明に係る長繊維強化成形体は、白モヤの発生が抑制され、かつ機械的特性に優れる。
【0073】
本発明に係る長繊維強化成形体は、プロピレン系重合体(A)、強化繊維(B)、変性ポリプロピレン(C)、およびエチレン系重合体(D)を含む樹脂組成物、例えば上述した本発明に係る長繊維強化プロピレン系樹脂組成物を、成形することにより製造できる。
【0074】
成形方法としては、射出成形法、押出成形法、中空成形法、圧縮成形法、射出圧縮成形法、ガス注入射出成形又は発泡射出成形等の公知の成形法を特に制限なく適用でき、これらの中でも特に射出成形法、圧縮成形法及び射出圧縮成形法が好ましく、外観に優れた(すなわち、白モヤの発生が抑制された)成形体を製造する観点からは、射出成形法が好ましい。
本発明の成形体は、自動車内外装部品、家電部品などの種々の分野に好適に用いることができる。自動車内外装部品の例としては、バックドアのインナー材が挙げられる。
【実施例
【0075】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
(測定方法)
各種物性の測定ないし評価方法は、以下のとおりである。
【0076】
[メルトフローレート]
ISO 1133-1に準拠し、表1に記載の温度、2.16kg荷重の条件下で原料樹脂のメルトフローレートを測定した。
【0077】
[MFR PP+mPP
前述した式(3)によりMFRPP+mPPを算出した。
[融点、融解熱(ΔHm)]
融点および融解熱は示差走査熱量計を用いて測定した。測定用のサンプルとしては、ペレット適量を210℃で作製した厚さ200μmのシートを用いた。
【0078】
《測定条件》
測定装置として、パーキンエルマー社製DSC8500を使用した。
約5mgの測定試料を、窒素雰囲気下で500℃/分の速度で30℃から230℃へ加熱し、230℃で10分間保持した後、10℃/分の速度で230℃から30℃まで冷却し、30℃で1分保持した。次いで、測定試料を10℃/分で230℃まで加熱し、その際の吸熱曲線において、吸熱ピークが検出される温度を融点、その面積を融解熱とした。
【0079】
[成形体の外観]
実施例等で製造された成形体の外観を、以下の基準で評価した。
○:白モヤがほぼ見えない状態
△:白モヤは見えるが、×に比べると見えにくい状態
×:白モヤが一目瞭然の状態
【0080】
[引張破壊応力]
ISO 527に準拠して下記の条件で引張試験を行い、引張破壊応力を測定した。
《測定条件》
温度:23℃
試験片形状:ISO-Atype多目的試験片
試験速度:5mm/分
つかみ具間距離:115mm
【0081】
[曲げ強さ、曲げ弾性率]
ISO 178に準拠して、下記の条件で曲げ強さおよび曲げ弾性率を測定した。
《測定条件》
温度:23℃
試験片形状:10mm(幅)×4mm(厚さ)×80mm(長さ)
試験速度:5mm/分
支点間距離:64mm
【0082】
[シャルピー衝撃強さ]
ISO 179に準拠して、下記の条件でノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。
《測定条件》
温度:23℃
試験片形状:10mm(幅)×80mm(長さ)×4mm(厚さ)
ノッチは機械加工である。
【0083】
[揮発性分含有量]
試料として、4gの変性ポリプロピレンを用いた。
試料を、その重量を測定した後、温度を240℃に設定したオーブンに入れ、その内部をコンプレッサーにより真空状態とし、60分間放置することにより、乾燥させた。乾燥後の試料の重量を測定し、下記式から揮発成分含量を算出した。
mPP=106×(MBF-MAF)/MBF
(式中、VmPP、MBFおよびMAFは、それぞれ、揮発成分含有量(ppm)、乾燥前の試料の重量、または乾燥後の試料の重量である。)
【0084】
(使用原料)
実施例等で使用された原料は、以下のとおりである。
《プロピレン系重合体》
プライムポリマー(株)製の下記物性を有するプロピレン単独重合体を使用した。
・PP1(プロピレン単独重合体(MFR(230℃、2.16kg荷重)=200g/10分)
・PP2(プロピレン単独重合体(MFR(230℃、2.16kg荷重)=30g/10分))
《変性ポリプロピレン》
・mPP1(Adivant製、商品名:POLYBOND3200(MFR(230℃、2.16kg荷重)=200g/10分))
《エチレン系重合体》
・PE1(プライムポリマー(株)製、商品名:SP0540、直鎖状低密度ポリエチレン(MFR(190℃、2.16kg荷重)=3.8g/10分、密度=903kg/m3、融点=91℃、融解熱=72J/g))
・PE2(プライムポリマー(株)製、商品名:SP9046、直鎖状低密度ポリエチレン(MFR(190℃、2.16kg荷重)=3.8g/10分、密度=890kg/m3、融点=86℃、融解熱=59J/g))
・PE3(プライムポリマー(株)製、商品名:SP0510、直鎖状低密度ポリエチレン(MFR(190℃、2.16kg荷重)=1.2g/10分、密度=903kg/m3、融点=91℃、融解熱=97J/g))
・PE4(プライムポリマー(株)製、商品名:SP2540、直鎖状低密度ポリエチレン(MFR(190℃、2.16kg荷重)=3.8g/10分、密度=925kg/m3、融点=107℃、融解熱=128J/g))
・EOR1(ダウ製、商品名:EG8100、MFR(190℃、2.16kg荷重)=1.0g/10分、密度=871kg/m3、融点=63℃、融解熱(ΔHm)=13J/g)
・EOR2(ダウ製、商品名:EG8402、MFR(190℃、2.16kg荷重)=30g/10分、密度=900kg/m3、融点=111℃、融解熱(ΔHm)=78J/g)
・EBR1(三井化学(株)製、商品名:A4090S、MFR(190℃、2.16kg荷重)=3.6g/10分、密度=893kg/m3、融点=80℃、融解熱(ΔHm)=47J/g)
《強化繊維》
・GF(アミノシランで表面処理された繊維径17μmのガラス繊維4000本束ねガラスロービング、日本電気硝子(株)製、商品名:T-431N)
《カーボンブラック(CB)のマスターバッチ(MB)》
・MB1(カーボンブラックを30質量%含むマスターバッチ、トーヨーカラー(株)製、商品名:PPM-01143)
・MB2(カーボンブラックを20質量%含むマスターバッチ)
・MB3(カーボンブラックを15質量%含むマスターバッチ)
・MB4(カーボンブラックを22.5質量%含むマスターバッチ)
・MB5(カーボンブラックを45質量%含むマスターバッチ)
【0085】
(繊維強化樹脂組成物の製造)
[製造例1]
強化繊維含有樹脂の製造
図1に示すペレット製造装置を用いて長繊維強化樹脂ペレットを製造した。
図1中、10はダイ、20はダイ10へ溶融樹脂を供給する押出機、30は繊維束Fのロール、40はダイ10に引き込まれる繊維束Fに一定の張力を与えるテンションロール群、50はダイ10から引き出された溶融樹脂含浸繊維束を冷却するための冷却手段、60は繊維束の引き出しロール、70は引き出された溶融樹脂含浸繊維束をカッ卜するペレタイザである。この装置では、3本のそれぞれ独立した繊維束Fに、溶融樹脂を同時に含浸させている。
【0086】
具体的な製造条件は、以下の通りである。・ダイ:50mφ押出機の先端に取り付け、含浸部に4本のロッドを直線状に配置・繊維束:アミノシランで表面処理された繊維径17μmのガラス繊維4000本束ねたガラスロービング(日本電気硝子(株)製、商品名:T-431N)・予熱温度:200℃・樹脂:プロピレン系重合体PP1と無水マレイン酸変性ポリプロピレンmPP1とを、PP1:mPP1=48:2の質量比で混合したもの・溶融温度:280℃・ロッド:四本6mm(直径)×3mm(長さ)
上記条件下で、テンションロール群で繊維束の量を調整しつつダイ内に送り込み含浸を行い、その後、ダイから引き出して冷却し、ペレタイザで粒子長が8mm、強化繊維の長さが8mm、強化繊維の含有量が50質量%の長繊維強化樹脂ペレットを作製した。
【0087】
[比較例1]
60質量部の製造例1で製造された長繊維強化樹脂ペレット(以下「GFMB」とも記載する。)、40質量部のPP2、および1質量部のMB1をドライブレンドして長繊維強化樹脂組成物を調製した。
【0088】
次に、この長繊維強化樹脂組成物から、射出成形機を用いて以下の条件で機械的特性評価用の各種試験片を製造し、評価した。
射出成形機:NEX110、日精樹脂工業(株)製
成形温度:240℃
金型温度:40℃
【0089】
また、この長繊維強化樹脂組成物から、射出成形機を用いて以下の条件で平板状成形体を製造し、その外観を評価した。
射出成形機:J110AD、(株)日本製鋼所製
金型:140mm×140mm×3mm、フィルムゲート
成形温度:250℃
金型温度:45℃
評価結果を表1に示す。
【0090】
[実施例1]
40質量部のPP2を20質量部のPP2および20質量部のPE1に変更したこと以外は比較例1と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0091】
[実施例2]
PP2およびPE1の量をそれぞれ30質量部および10質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0092】
[実施例3]
PP2およびPE1の量をそれぞれ10質量部および30質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0093】
[実施例4]
GFMBの量を80重量部、PE1の量を20重量部に変更し、かつPP2を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0094】
[実施例5]
20質量部のPE1を20質量部のPE2に変更したこと以外は実施例1と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0095】
[実施例6]
20質量部のPE1を20質量部のPE3に変更したこと以外は実施例1と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0096】
[比較例2]
20質量部のPE1を20質量部のPE4に変更したこと以外は実施例1と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0097】
[比較例3]
20質量部のPE1を20質量部のEOR1に変更したこと以外は実施例1と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0098】
[比較例4]
20質量部のPE1を20質量部のEOR2に変更したこと以外は実施例1と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0099】
[比較例5]
20質量部のPE1を20質量部のEBR1に変更したこと以外は実施例1と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0100】
[実施例7]
MB2の量を1.5質量部に変更したこと以外は比較例6と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0101】
[実施例8]
MB2の量を3質量部に変更したこと以外は実施例7と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0102】
[比較例6]
80質量部のGFMB、20質量部のPP2、および2質量部のMB3をドライブレンドして長繊維強化樹脂組成物を調製した。評価結果を表1に示す。
【0103】
[実施例9]
20質量部のPP2を5質量部のPP2および15質量部のPE1に変更したこと以外は比較例7と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0104】
[実施例10]
2質量部のMB3を2質量部のMB4に変更したこと以外は実施例9と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0105】
[実施例11]
2質量部のMB3を3質量部のMB5に変更したこと以外は実施例9と同様にして、長繊維強化樹脂組成物およびその成形体を製造した。評価結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
【符号の説明】
【0107】
10 ダイ
20 押出機
30 繊維束Fのロール
40 テンションロール群
50 冷却手段
60 引き出しロール
70 ペレタイザ
図1