(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/28 20060101AFI20221221BHJP
F16F 15/30 20060101ALI20221221BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
F16H1/28
F16F15/30 V
F16F15/134 A
(21)【出願番号】P 2020562453
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051295
(87)【国際公開番号】W WO2020138361
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2018242829
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594079143
【氏名又は名称】株式会社アイシン福井
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】木下 友則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃祥
(72)【発明者】
【氏名】大塚 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】小川 亜樹
(72)【発明者】
【氏名】大井 陽一
(72)【発明者】
【氏名】水上 祐
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-184923(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104783(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079040(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/066680(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
F16F 15/30
F16F 15/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからのトルクが伝達される入力要素と、出力要素と、前記入力要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する弾性体と、前記入力要素と前記出力要素との相対回転に応じて回転する質量体を有する回転慣性質量ダンパとを含むダンパ装置において、
前記出力要素は、電動機のロータに連結され、
前記電動機の前記ロータは、変速機の入力軸に連結され、
前記回転慣性質量ダンパは、サンギヤ、リングギヤ、複数のピニオンギヤ、および前記複数のピニオンギヤを支持するキャリヤを有する遊星歯車機構を含み、
前記キャリヤは、前記入力要素の一部であり、前記サンギヤおよび前記リングギヤの一方は、前記出力要素の一部であり、前記サンギヤおよび前記リングギヤの他方は、前記質量体として機能
し、
前記遊星歯車機構を含む前記回転慣性質量ダンパは、前記複数のピニオンギヤおよび前記質量体の慣性モーメントの合計値よりも大きい慣性モーメントを前記入力要素に付加する一方、前記出力要素の慣性モーメントを減少させるダンパ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のダンパ装置において、
前記リングギヤは、前記出力要素の一部であり、
前記サンギヤは、前記質量体として機能し、
前記弾性体は、前記ダンパ装置の径方向における前記複数のピニオンギヤの外側に配置されるダンパ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のダンパ装置において、
前記キャリヤを含む前記入力要素は、前記弾性体、前記リングギヤおよび前記複数のピニオンギヤを包囲するように形成されているダンパ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のダンパ装置において、
前記キャリヤは、環状に形成され、
前記サンギヤは、前記複数のピニオンギヤのギヤ歯に噛合する外歯を含むギヤ部材と、前記ダンパ装置の軸方向における前記キャリヤの外側に配置されると共に前記ダンパ装置の径方向における前記キャリヤの内側で前記ギヤ部材に連結される環状部材とを含むダンパ装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載のダンパ装置において、
前記キャリヤは、対応する前記弾性体との間でトルクを授受するトルク授受部を含み、前記ダンパ装置の径方向における前記トルク授受部の内側で、それぞれ前記ピニオンギヤに挿通された複数のピニオンシャフトの一端を支持するダンパ装置。
【請求項6】
請求項1に記載のダンパ装置において、
前記サンギヤは、前記出力要素の一部であり、
前記リングギヤは、前記質量体として機能し、
前記弾性体は、前記ダンパ装置の径方向における前記複数のピニオンギヤの内側に配置されるダンパ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のダンパ装置において、
前記キャリヤを含む前記入力要素は、前記弾性体、前記リングギヤおよび前記複数のピニオンギヤを包囲するように形成されているダンパ装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載のダンパ装置において、
中間要素を更に備え、
前記弾性体は、前記入力要素と前記中間要素との間でトルクを伝達する入力側弾性体と、前記中間要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する出力側弾性体とを含むダンパ装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一項に記載のダンパ装置において、
前記入力要素と前記出力要素との間で伝達されるトルクが所定値以上であるときに前記弾性体と並列に作用する第2弾性体を更に備えるダンパ装置。
【請求項10】
請求項9に記載のダンパ装置において、
前記第2弾性体は、前記ダンパ装置の径方向における前記弾性体の外側に配置されるダンパ装置。
【請求項11】
請求項9に記載のダンパ装置において、
前記第2弾性体は、前記ダンパ装置の径方向における前記弾性体の内側に配置されるダンパ装置。
【請求項12】
請求項9に記載のダンパ装置において、
前記第2弾性体は、前記ダンパ装置の径方向からみて前記弾性体と少なくとも部分的に重なるように配置されるダンパ装置。
【請求項13】
請求項12に記載のダンパ装置において、
前記弾性体は、コイルスプリングであり、前記第2弾性体は、前記弾性体の内部に同軸に配置されるダンパ装置。
【請求項14】
請求項10または11に記載のダンパ装置において、
前記第2弾性体は、前記複数のピニオンギヤと周方向に隣り合うように配置されるダンパ装置。
【請求項15】
請求項1から14の何れか一項に記載のダンパ装置において、乾式ダンパであるダンパ装置。
【請求項16】
請求項1から15の何れか一項に記載のダンパ装置において、
前記ダンパ装置と前記電動機との間、および前記電動機と前記変速機との間には、クラッチが配置されるダンパ装置。
【請求項17】
請求項1から16の何れか一項に記載のダンパ装置において、
前記質量体の慣性モーメント、前記複数のピニオンギヤの慣性モーメントおよび前記遊星歯車機構の歯数比は、前記遊星歯車機構により前記出力要素に分配される慣性モーメントが負の値になるように定められるダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の発明は、入力要素と出力要素との間でトルクを伝達する弾性体、および回転慣性質量ダンパを含むダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一次フランジ(入力要素)とボス部分(出力要素)との間でトルクを伝達する弾性部材と、ボス部分に固定されたリングギヤ、一次フランジにより回転自在に支持されるピニオンギヤ、およびピニオンギヤに噛合するサンギヤを有する回転慣性質量ダンパとを含むフライホイール装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このフライホイール装置において、サンギヤは、一次フランジとボス部分との相対回転に応じて回転してボス部分に慣性トルクを付与する質量体として機能する。また、遊星歯車機構を含む回転慣性質量ダンパは、質量体の慣性モーメントを入力側回転要素と出力側回転要素とに分配する機能を有していることが知られている(例えば、非特許文献1および2参照)。非特許文献1および2によれば、例えばリングギヤが質量体として機能する回転慣性質量ダンパでは、入力側および出力側回転要素の一方の慣性モーメントが慣性要素としてのリングギヤおよびピニオンギヤの慣性モーメントの合計値よりも大きくなり、かつ入力側および出力側回転要素の他方から慣性モーメントが減じられるように、慣性モーメントを調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】小川亜樹,安達和彦,「イナータを利用した回転機械系のねじり振動低減に関する基礎研究」,日本機械学会東海支部総会講演会講演論文集2017.66巻
【文献】小川亜樹,安達和彦,「回転機械のねじり振動系における遊星歯車機構式イナータ機能の理論的考察」,自動車技術会論文集2017年48巻5号,1073-1078頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような回転慣性質量ダンパを含むダンパ装置の出力要素が変速機の入力軸に連結される場合、ダンパ装置と変速機との連結態様によっては、当該変速機の入力軸等の共振(シャフト共振)が比較的低い回転域(低周波数域)で発生してしまうことがある。このように変速機のシャフト共振が低回転域で発生する場合、回転慣性質量ダンパを含むダンパ装置によりシャフト共振の顕在化を抑制できれば、変速機の設計変更等が不要となり、コスト面等で有利となる。しかしながら、上記特許文献1、非特許文献1および2では、ダンパ装置に連結される変速機のシャフト共振が何ら考慮されていない。
【0005】
そこで、本開示の発明は、回転慣性質量ダンパを含むダンパ装置により、変速機のシャフト共振の顕在化を良好に抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のダンパ装置は、エンジンからのトルクが伝達される入力要素と、出力要素と、前記入力要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する弾性体と、前記入力要素と前記出力要素との相対回転に応じて回転する質量体を有する回転慣性質量ダンパとを含むダンパ装置において、前記出力要素が、電動機のロータに連結され、前記電動機の前記ロータが、変速機の入力軸に連結され、前記回転慣性質量ダンパが、サンギヤ、リングギヤ、複数のピニオンギヤ、および前記複数のピニオンギヤを支持するキャリヤを有する遊星歯車機構を含み、前記キャリヤが、前記入力要素の一部であり、前記サンギヤおよび前記リングギヤの一方が、前記出力要素の一部であり、前記サンギヤおよび前記リングギヤの他方が、前記質量体として機能するものである。
【0007】
本開示のダンパ装置では、出力要素が電動機のロータに連結され、当該電動機のロータが変速機の入力軸に連結される。このようにダンパ装置と変速機との間に電動機が配置される場合、出力要素の慣性モーメントに加えて、ロータの慣性モーメントが変速機の入力軸の慣性モーメントに付加されることで、出力要素やロータと一体に回転する変速機の入力軸の固有振動数すなわちシャフト共振の振動数が小さくなる。これを踏まえて、本開示のダンパ装置は、入力要素の一部が遊星歯車機構(回転慣性質量ダンパ)のキャリヤとして機能すると共に、出力要素の一部がサンギヤおよびリングギヤの一方として機能するように構成される。これにより、遊星歯車機構を含む回転慣性質量ダンパの特性より、複数のピニオンギヤと質量体としてのサンギヤおよびリングギヤの他方との慣性モーメントの合計値よりも大きい慣性モーメントをキャリヤすなわち入力要素に付加する一方、サンギヤおよびリングギヤの一方すなわち出力要素の慣性モーメントを減少させることが可能となる。この結果、出力要素や電動機のロータと一体に回転する変速機の入力軸の慣性モーメント(合計値)の増加、すなわちシャフト共振の振動数の低下を抑制することができる。更に、本開示のダンパ装置では、弾性体から出力要素に伝達される振動とは逆位相の振動(慣性トルク)を回転慣性質量ダンパから出力要素に伝達可能であり、当該回転慣性質量ダンパから出力要素に伝達される振動によってシャフト共振によるトルク変動を小さくすることができる。従って、本開示のダンパ装置によれば、変速機のシャフト共振が比較的低い回転域で発生して顕在化するのを良好に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1の実施形態に係るダンパ装置を含む動力伝達装置の概略構成図である。
【
図2】第1の実施形態に係るダンパ装置を示す断面図である。
【
図3】第1の実施形態に係るダンパ装置を示す正面図である。
【
図4】エンジンの回転数と第1の実施形態に係るダンパ装置の出力要素におけるトルク変動T
Flucとの関係を例示する説明図である。
【
図5】第1の実施形態の変形態様に係るダンパ装置を示す概略構成図である。
【
図6】第1の実施形態の他の変形態様に係るダンパ装置を示す概略構成図である。
【
図7】本開示の第2の実施形態に係るダンパ装置を示す概略構成図である。
【
図8】第2の実施形態の変形態様に係るダンパ装置を示す概略構成図である。
【
図9】第2の実施形態の他の変形態様に係るダンパ装置を示す概略構成図である。
【
図10】第2の実施形態の更に他の変形態様に係るダンパ装置を示す概略構成図である。
【
図11】第2の実施形態の変形態様に係るダンパ装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
図1は、本開示の第1の実施形態に係るダンパ装置10を含む動力伝達装置1を示す概略構成図である。同図に示す動力伝達装置1は、ガソリンや軽油、LPGといった炭化水素系の燃料と空気との混合気を爆発燃焼させて動力を発生するエンジン(内燃機関)EGを含む車両Vに搭載され、当該エンジンEGからの動力をドライブシャフトDSに伝達可能なものである。
図1に示すように、動力伝達装置1は、エンジンEGのクランクシャフトCSに連結されるダンパ装置10に加えて、モータジェネレータMGと、変速機TMと、ダンパ装置10とモータジェネレータMGとの間に配置されたクラッチK0と、モータジェネレータMGと変速機TMとの間に配置されたクラッチK2と、変速機TMおよびドライブシャフトDSに連結されたデファレンシャルギヤDFとを含む。
【0011】
モータジェネレータMGは、図示しないインバータを介してバッテリ(図示省略)に接続される三相同期発電電動機である。モータジェネレータMGは、ステータSと、クラッチK0を介してダンパ装置10に連結されると共にクラッチK2を介して変速機TMに連結されるロータRを含む。モータジェネレータMGは、バッテリからの電力により駆動されて駆動トルクを変速機TMに出力すると共に、車両Vの制動時に回生制動トルクを変速機TMに出力することができる。回生制動トルクの出力に伴ってモータジェネレータMGにより発電される電力は、バッテリの充電や図示しない補機の駆動に供される。
【0012】
変速機TMは、例えば4段~10段変速式の有段変速機であり、クラッチK2を介してモータジェネレータMGのロータRに連結される入力軸(入力部材)ISや、入力軸ISに連結される図示しないインターミディエイトシャフト、デファレンシャルギヤDFに図示しないギヤ機構を介してあるいは直接連結される出力軸(出力部材)OS、入力軸ISから出力軸OSまでの動力伝達経路を複数に変更するための少なくとも1つの遊星歯車機構、複数のクラッチおよびブレーキ(何れも図示省略)等を含む。ただし、変速機TMは、例えばベルト式の無段変速機(CVT)やデュアルクラッチトランスミッション等であってもよい。
【0013】
クラッチK0は、例えば多板式の油圧クラッチであり、ダンパ装置10に連結された伝達軸TSとモータジェネレータMGのロータRとを連結すると共に両者の連結を解除するものである。クラッチK2は、例えば多板式の油圧クラッチであり、モータジェネレータMGのロータRと変速機TMの入力軸ISとを連結すると共に両者の連結を解除するものである。ただし、クラッチK0およびK2は、単板式の油圧クラッチであってもよく、ドグクラッチや電磁クラッチ等の乾式クラッチであってもよい。
【0014】
本実施形態の動力伝達装置1では、車両Vの発進に際してクラッチK0が解放されると共にクラッチK2が係合させられる。これにより、エンジンEGを停止させた状態で、バッテリからの電力により駆動されるモータジェネレータMGからの駆動トルクを変速機TMやデファレンシャルギヤDF等を介してドライブシャフトDSに出力して車両Vを発進させることができる。また、車両Vの発進後、エンジン始動条件の成立に応じてエンジンEGが図示しないスタータモータによりクランキングされて始動される。更に、クラッチK0の係合条件が成立すると、当該クラッチK0がスリップ制御により徐々に係合させられる。これにより、エンジンEGから駆動トルクをダンパ装置10や変速機TM、デファレンシャルギヤDF等を介してドライブシャフトDSに出力することが可能となる。また、動力伝達装置1では、クラッチK2を解放すると共にクラッチK0を係合させた状態で、エンジンEGにより駆動されて発電するモータジェネレータMGからの電力によりバッテリを充電することができる。
【0015】
ダンパ装置10は、乾式ダンパとして構成されており、
図1および
図2に示すように、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)11と、中間部材(中間要素)12と、ドリブン部材(出力要素)15とを含む。更に、ダンパ装置10は、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11と中間部材12との間でトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば3個)の第1スプリング(入力側弾性体)SP1と、それぞれ対応する第1スプリングSP1と直列に作用して中間部材12とドリブン部材15との間でトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば3個)の第2スプリング(出力側弾性体)SP2と、ドライブ部材11とドリブン部材15との間で互いに並列に作用してトルクを伝達可能な複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング(第2弾性体)SPxとを含む。
【0016】
なお、以下の説明において、「軸方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、ダンパ装置10の中心軸(軸心)の延在方向を示す。また、「径方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、ダンパ装置10や当該ダンパ装置10等の回転要素の径方向、すなわちダンパ装置10の中心軸から当該中心軸と直交する方向(半径方向)に延びる直線の延在方向を示す。更に、「周方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、ダンパ装置10や当該ダンパ装置10等の回転要素の周方向、すなわち当該回転要素の回転方向に沿った方向を示す。
【0017】
図1に示すように、複数の第1スプリングSP1、中間部材12および複数の第2スプリングSP2は、ドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する第1トルク伝達経路TP1を構成する。本実施形態では、第1トルク伝達経路TP1の第1および第2スプリングSP1,SP2として、互いに同一の諸元(ばね定数)を有するコイルスプリングが採用されている。また、複数のスプリングSPxは、ドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する第2トルク伝達経路TP2を構成する。図示するように、第2トルク伝達経路TP2は、第1トルク伝達経路TP1と並列に設けられる。第2トルク伝達経路TP2の複数のスプリングSPxは、ドライブ部材11への入力トルクがダンパ装置10の最大捩れ角θmaxに対応したトルクT2(第2の閾値)よりも小さい予め定められたトルク(第1の閾値)T1に達してドライブ部材11のドリブン部材15に対する捩れ角が所定角度θref以上になってから、第1トルク伝達経路TP1の第1および第2スプリングSP1,SP2と並列に作用する。これにより、ダンパ装置10は、2段階(2ステージ)の減衰特性を有することになる。
【0018】
また、本実施形態では、第1および第2スプリングSP1,SP2並びにスプリングSPxとして、荷重が加えられてないときに真っ直ぐに延びる軸心を有するように螺旋状に巻かれた金属材からなる直線型コイルスプリングが採用されている。これにより、アークコイルスプリングを用いた場合に比べて、第1および第2スプリングSP1,SP2並びにスプリングSPxを軸心に沿ってより適正に伸縮させることができる。この結果、ドライブ部材11(入力要素)とドリブン部材15(出力要素)との相対変位が増加していく際に第2スプリングSP2等からドリブン部材15に伝達されるトルクと、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対変位が減少していく際に第2スプリングSP2等からドリブン部材15に伝達されるトルクとの差すなわちヒステリシスを低減化することが可能となる。ただし、第1および第2スプリングSP1,SP2並びにスプリングSPxの少なくとも何れかとして、アークコイルスプリングが採用されてもよい。
【0019】
図2に示すように、ダンパ装置10のドライブ部材11は、エンジンEGのクランクシャフトCSに固定されるフロントカバー3と、当該フロントカバー3と一体化されたリヤカバー21とを含む。フロントカバー3は、環状の側壁部と、当該側壁部の外周から軸方向に延出された短尺の外筒部とを含む環状部材である。フロントカバー3(側壁部)の内周部には、複数のボルト孔が配設されており、フロントカバー3は、それぞれ対応するボルト孔に挿通されてクランクシャフトCSに螺合される複数のボルトを介してクランクシャフトCSに固定される。また、フロントカバー3は、複数(本実施形態では、例えば3個)のトルク授受部(弾性体当接部)3cを含む。複数のトルク授受部3cは、フロントカバー3の外周側領域から周方向に間隔をおいて(等間隔に)外筒部と同方向(軸方向)に突出する。更に、フロントカバー3の外周部には、上記スタータモータの回転軸に取り付けられた図示しないピニオンギヤに噛合する外歯歯車30が固定されている。
【0020】
リヤカバー21は、環状の側壁部と、当該側壁部の外周から軸方向に延出された短尺の外筒部とを含む環状部材であり、フロントカバー3(側壁部)の内径よりも大きい内径を有する。リヤカバー21の外筒部は、フロントカバー3の外筒部に溶接より接合され、それにより、フロントカバー3とリヤカバー21とは、側壁部同士が間隔をおいて互いに対向するように一体化される。また、リヤカバー21は、複数(本実施形態では、例えば3個)のトルク授受部(弾性体当接部)21cを含む。複数のトルク授受部21cは、リヤカバー21の外周側領域から周方向に間隔をおいて(等間隔に)外筒部と同方向(軸方向)に突出し、それぞれフロントカバー3の対応するトルク授受部3cと軸方向に間隔をおいて対向する。
【0021】
更に、リヤカバー21の外周側の角部の内面には、複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング保持凹部21xが周方向に間隔をおいて形成されている。各スプリング保持凹部21xは、スプリングSPxの自然長に応じた周長を有し、
図3に示すように、スプリングSPxを両側から保持する。更に、リヤカバー21には、それぞれ対応するスプリング保持凹部21xの径方向内側に位置するように複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング支持部材211が溶接により固定されている。
【0022】
中間部材12は、
図2および
図3に示すように、フロントカバー3およびリヤカバー21の内部の外周側領域に配置される環状部材である。中間部材12は、それぞれ円弧状に延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング収容窓12wと、複数(本実施形態では、例えば3個)のトルク授受部(弾性体当接部)12cとを有する。トルク授受部12cは、周方向に沿って互いに隣り合うスプリング収容窓12wの間に1個ずつ設けられる。
【0023】
ドリブン部材15は、上記伝達軸TSが固定されるダンパハブ7と、当該ダンパハブ7と一体化されたドリブンプレート25とを含む。ダンパハブ7は、伝達軸TSがスプライン嵌合(固定)される内筒部と、当該内筒部から径方向外側に延出された環状のプレート部とを含む環状部材である。ダンパハブ7のプレート部の外周側領域は、フロントカバー3およびリヤカバー21の内部に配置され、ダンパハブ7の外周面は、中間部材12の内周面を回転自在に支持するように形成されている(
図2参照)。ドリブンプレート25は、ダンパハブ7の外径よりも小さい内径およびダンパハブ7の外径よりも大きい外径を有する環状部材である。ドリブンプレート25は、ダンパハブ7のプレート部からリヤカバー21側に軸方向にオフセットして配置されると共に、複数のリベットを介してダンパハブ7(プレート部)の外周部に固定される。
【0024】
図2および
図3に示すように、ドリブンプレート25は、複数(本実施形態では、例えば3個)のトルク授受部(弾性体当接部)25cと、複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング当接部25xとを含む。複数のトルク授受部25cは、ドリブンプレート25の内周部から周方向に間隔をおいて(等間隔に)径方向外側に突出するように形成される。各トルク授受部25cは、
図2に示すように、フロントカバー3のトルク授受部3cとリヤカバー21のトルク授受部21cとの軸方向における間に位置することができるようにドリブンプレート25の内周部から軸方向にオフセットされている。また、複数のスプリング当接部25xは、周方向に間隔をおいて(等間隔に)並ぶように配設され、それぞれリヤカバー21の対応するスプリング保持凹部21xの周方向における片側に位置する。更に、ドリブンプレート25の内周には、複数の内歯25trが形成されている。複数の内歯25trは、図示するように、ドリブンプレート25の内周の全体に形成されてもよく、ドリブンプレート25の内周に周方向に間隔をおいて(等間隔に)定められた複数の箇所に形成されてもよい。
【0025】
中間部材12の各スプリング収容窓12w内には、第1および第2スプリングSP1,SP2が互いに対をなす(直列に作用する)ように1個ずつ配置される。
図3に示すように、第1および第2スプリングSP1,SP2には、スプリング収容窓12wへの配置に先立って、スプリングシート90および91が装着される。スプリングシート90は、対応する第1または第2スプリングSP1,SP2の一端に嵌合されると共に当該第1または第2スプリングSP1,SP2の外周面の径方向外側の領域を覆うように形成されている。また、スプリングシート91は、対応する第1または第2スプリングSP1,SP2の他端に嵌合されるものである。スプリングシート90,91が装着された第1および第2スプリングSP1,SP2は、スプリングシート90が対応するスプリング収容窓12wを形成する中間部材12の内壁面に摺接するように当該スプリング収容窓12w内に配置される。
【0026】
ダンパ装置10の取付状態において、ドライブ部材11を構成するフロントカバー3およびリヤカバー21の各トルク授受部3c,21cは、互いに異なるスプリング収容窓12wに配置されて対をなさない(直列に作用しない)第1および第2スプリングSP1,SP2の間で両者に装着されたスプリングシート91に当接する。また、ダンパ装置10の取付状態において、中間部材12の各トルク授受部12cは、共通のスプリング収容窓12wに配置されて互いに対をなす第1および第2スプリングSP1,SP2の間で両者に装着されたスプリングシート90の端部に当接する。更に、ダンパ装置10の取付状態において、ドリブン部材15を構成するドリブンプレート25の各トルク授受部25cは、互いに異なるスプリング収容窓12wに配置されて対をなさない(直列に作用しない)第1および第2スプリングSP1,SP2の間で両者に装着されたスプリングシート91に当接する。
【0027】
これにより、第1および第2スプリングSP1,SP2は、
図3に示すように、ダンパ装置10の周方向に交互に並び、互いに対をなす第1および第2スプリングSP1,SP2は、ドライブ部材11とドリブン部材15との間で、中間部材12のトルク授受部12cを介して直列に連結される。従って、ダンパ装置10では、ドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する弾性体の剛性、すなわち第1および第2スプリングSP1,SP2の合成ばね定数をより小さくすることができる。本実施形態において、それぞれ複数の第1および第2スプリングSP1,SP2は、
図3に示すように、同一円周上に配列され、ダンパ装置10の軸心と各第1スプリングSP1の軸心との距離と、ダンパ装置10の軸心と各第2スプリングSP2の軸心との距離とが等しくなっている。
【0028】
また、ドライブ部材11のリヤカバー21の各スプリング保持凹部21xには、スプリングSPxが配置され、各スプリングSPxは、対応するスプリング支持部材211により径方向内側から支持される。これにより、複数のスプリングSPxがダンパ装置10の径方向における第1および第2スプリングSP1,SP2の外側に配置される。ダンパ装置10の取付状態において、各スプリングSPxの一方の端部は、対応するスプリング保持凹部21xの一側に形成されたスプリング当接部に当接し、各スプリングSPxの他方の端部は、対応するスプリング保持凹部21xの他側に形成されたスプリング当接部に当接する一方、ドリブンプレート25の対応するスプリング当接部25xから周方向に離間している。そして、各スプリングSPxの他方の端部は、ドライブ部材11への入力トルク(駆動トルク)あるいは車軸側からドリブン部材15に付与されるトルク(被駆動トルク)が上記トルクT1に達してドライブ部材11のドリブン部材15に対する捩れ角が所定角度θref以上になると、ドリブンプレート25の対応するスプリング当接部25xに当接することになる。
【0029】
更に、ダンパ装置10は、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転を規制するストッパ17を含む。ストッパ17は、ドライブ部材11への入力トルクがダンパ装置10の最大捩れ角θmaxに対応した上記トルクT2に達すると、ドライブ部材11とドリブンプレート15との相対回転を規制し、それに伴って、第1および第2スプリングSP1,SP2並びにスプリングSPxのすべての撓みが規制される。
【0030】
また、ダンパ装置10は、
図1に示すように、複数の第1スプリングSP1、中間部材12および複数の第2スプリングSP2を含む第1トルク伝達経路TP1と、複数のスプリングSPxを含む第2トルク伝達経路TP2との双方に並列に設けられる回転慣性質量ダンパ20を含む。回転慣性質量ダンパ20は、図示するように、ダンパ装置10の入力要素であるドライブ部材11と出力要素であるドリブン部材15との間に配置されるシングルピニオン式の遊星歯車機構PG(
図1参照)を含む。本実施形態において、遊星歯車機構PGは、複数の外歯22tを含むと共に回転慣性質量ダンパ20の質量体(慣性質量体)として機能するサンギヤ22と、それぞれサンギヤ22の外歯22tに噛合する複数のギヤ歯23tを有する複数(本実施形態では、例えば6個)のピニオンギヤ23と、複数のピニオンギヤ23を回転自在に支持してキャリヤとして機能するドライブ部材11のリヤカバー21と、複数のピニオンギヤ23のギヤ歯23tに噛合する複数の内歯25trを含んでリングギヤとして機能するドリブンプレート25とにより構成される。
【0031】
図2および
図3に示すように、サンギヤ22は、複数のリベットを介して一体化されるギヤ部材221、スペーサ222および環状部材223を含む。ギヤ部材221は、複数の外歯22tを含む環状部材であり、複数の外歯22tは、ダンパハブ7に近接すると共にリングギヤとしてのドリブンプレート25(内歯25tr)の径方向内側に位置するように、ギヤ部材221の内周部に対して軸方向にオフセットされている。スペーサ222は、リヤカバー21の内径よりも小さい外径およびギヤ部材221の内径と概ね同一の内径を有する環状部材である。ギヤ部材221およびスペーサ222は、樹脂製のワッシャ224を介してダンパハブ7の内筒部の外周面により回転自在に支持される。
図2に示すように、ギヤ部材221、スペーサ222およびダンパハブ7には、フロントカバー3をボルトによりクランクシャフトCSに連結する際に利用される複数の作業孔が形成されている。
【0032】
環状部材223は、リヤカバー21の内径よりも小さい内径およびリヤカバー21の内径よりも大きい外径を有する。環状部材223は、ダンパ装置10の軸方向におけるリヤカバー21の外側(
図2における左側)に配置されると共にリヤカバー21の内周よりも径方向内側で複数のリベットを介してギヤ部材221およびスペーサ222に連結される。
図2に示すように、ダンパハブ7には、ギヤ部材221、スペーサ222および環状部材223を複数のリベットにより連結する際に利用される複数の作業孔が形成されている。また、環状部材223は、
図2に示すように、軸方向(
図2における左側)からみてリヤカバー21の一部に重なる。このようなギヤ部材221、スペーサ222および環状部材223によりサンギヤ22を形成することで、質量体としてのサンギヤ22の慣性モーメントをより大きくすることが可能となる。ただし、スペーサ222が省略されてもよく、当該スペーサ222に相当する部分がギヤ部材221および環状部材223の何れか一方に形成されてもよい。
【0033】
キャリヤとしてのリヤカバー21は、複数のトルク授受部21cの径方向内側で複数のピニオンシャフト24の一端(基端)を周方向に間隔をおいて(等間隔に)片持ち支持する。すなわち、各ピニオンシャフト24の基端(
図2における左端)は、リヤカバー21の内周部に例えば圧入等により固定される。また、各ピニオンシャフト24の他端(
図2における右端)は、ダンパハブ7に当接しないようにフロントカバー3およびリヤカバー21の内部に突出し、樹脂製のワッシャ24wを介して対応するピニオンギヤ23を回転自在に支持する。すなわち、リヤカバー21は、複数のトルク授受部21cの径方向内側における平均トルクが伝わらない部分により複数のピニオンシャフト24を支持する。また、第1および第2スプリングSP1,SP2、リングギヤとしてのドリブンプレート25および複数のピニオンギヤ23は、ドライブ部材11すなわち互いに接合されるフロントカバー3およびリヤカバー21により包囲される。
【0034】
更に、各ピニオンギヤ23の周囲には、環状のグリス保持部材26が配置される。グリス保持部材26は、各ピニオンギヤ23(ギヤ歯23t)とリングギヤとしてのドリブンプレート25(内歯25tr)との噛合部を径方向外側から覆うように形成され、上述の複数のリベットによりドリブンプレート25およびダンパハブ7に固定される。これにより、複数のギヤ歯23tと複数の内歯25trとの間や各ピニオンギヤ23とワッシャ23wとの間等に塗布されたグリスが遠心力により径方向外側に流出してしまうのを抑制し、複数のギヤ歯23tや複数の内歯25tr、ピニオンギヤ23、ワッシャ24w等の摩耗を抑制することが可能となる。また、乾式のダンパ装置10では、相対回転する2つの部材間に樹脂製のシート等が配置される。
【0035】
続いて、上記ダンパ装置10の動作について説明する。
【0036】
上述のように、クラッチK0の係合条件の成立に応じて当該クラッチK0が係合させられると、エンジンEGからの駆動トルクがドライブ部材11すなわちフロントカバー3およびリヤカバー21に伝達される。エンジンEGからドライブ部材11に伝達されたトルク(平均トルク)は、入力トルクが上記トルクT1に達するまで、複数の第1スプリングSP1、中間部材12および複数の第2スプリングSP2を含む第1トルク伝達経路TP1を介してドリブン部材15に伝達される。そして、ドリブン部材15に伝達されたトルクは、伝達軸TS、クラッチK0、モータジェネレータMGのロータR、クラッチK2、変速機TMおよびデファレンシャルギヤDF等を介してドライブシャフトDSに伝達される。
【0037】
また、ドライブ部材11がドリブン部材15に対して回転すると(捩れると)、第1および第2スプリングSP1,SP2等が撓むと共に、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転に応じて質量体としてのサンギヤ22が軸心周りに回転(揺動)する。このようにドライブ部材11がドリブン部材15に対して回転(揺動)する際には、遊星歯車機構PGの入力要素であるキャリヤとしてのリヤカバー21の回転速度がリングギヤとしてのドリブンプレート25の回転速度よりも高くなる。従って、この際、サンギヤ22は、遊星歯車機構PGの作用により増速され、リヤカバー21すなわちドライブ部材11よりも高い回転速度で回転する。これにより、回転慣性質量ダンパ20の質量体であるサンギヤ22からピニオンギヤ23を介してドリブンプレート25すなわちダンパ装置10の出力要素であるドリブン部材15に慣性トルクを付与し、当該ドリブン部材15の振動を減衰させることが可能となる。なお、回転慣性質量ダンパ20は、ドライブ部材11とドリブン部材15との間で主に慣性トルクを伝達し、平均トルクを伝達することはない。
【0038】
より詳細には、第1および第2スプリングSP1,SP2と回転慣性質量ダンパ20とが並列に作用する際、複数の第2スプリングSP2(第1トルク伝達経路TP1)からドリブン部材15に伝達されるトルク(平均トルク)は、中間部材12とドリブン部材15との間の第2スプリングSP2の変位(撓み量すなわち捩れ角)に依存(比例)したものとなる。これに対して、回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達されるトルク(慣性トルク)は、ドライブ部材11とドリブン部材15との角加速度の差、すなわちドライブ部材11とドリブン部材15との間の第1および第2スプリングSP1,SP2の変位の2回微分値に依存(比例)したものとなる。これにより、ダンパ装置10のドライブ部材11に伝達される入力トルクが周期的に振動していると仮定すれば、ドライブ部材11から複数の第2スプリングSP2を介してドリブン部材15に伝達される振動の位相と、ドライブ部材11から回転慣性質量ダンパ20を介してドリブン部材15に伝達される振動の位相とが180°ずれることになる。この結果、ダンパ装置10では、複数の第2スプリングSP2からドリブン部材15に伝達される振動と、回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達される振動との一方により、他方の少なくとも一部を打ち消して、ドリブン部材15の振動を良好に減衰させることが可能となる。
【0039】
更に、中間部材12を含むダンパ装置10では、第1および第2スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、かつスプリングSPxが撓んでいない状態に対して、2つの固有振動数(共振周波数)を設定することができる。すなわち、第1トルク伝達経路TP1では、第1および第2スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、かつスプリングSPxが撓んでおらず、エンジンEGの回転数Ne(ドライブ部材11の回転数)が極低いときに、例えばドライブ部材11とドリブン部材15とが互いに逆位相で振動することによる共振(第1共振)が発生する。
【0040】
また、一自由度系における中間部材12の固有振動数f12は、f12=1/2π・√((k1+k2)/J12)と表され(ただし、“J12”は、中間部材12の慣性モーメントであり、“k1”は、ドライブ部材11と中間部材12との間で並列に作用する複数の第1スプリングSP1の合成ばね定数であり、“k2”は、中間部材12とドリブン部材15の間で並列に作用する複数の第2スプリングSP2の合成ばね定数である。)、中間部材12を環状に形成することで慣性モーメントJ12が比較的大きくなることから、当該中間部材12の固有振動数f12は比較的小さくなる。これにより、第1トルク伝達経路TP1では、第1および第2スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、かつスプリングSPxが撓んでいない際に、エンジンEGの回転数Neが上記第1共振の振動数に対応した回転数よりもある程度高まった段階で、中間部材12がドライブ部材11およびドリブン部材15の双方と逆位相で振動することによる当該中間部材12の共振(第2共振)が発生する。
【0041】
一方、第1トルク伝達経路TP1(第2スプリングSP2)からドリブン部材15に伝達される振動の振幅は、エンジンEGの回転数Neが、比較的小さい中間部材12の固有振動数f12に対応した回転数に達する前に減少から増加に転じることになる。これに対して、回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達される振動の振幅は、エンジンEGの回転数Neが増加するにつれて徐々に増加していく。これにより、ダンパ装置10では、中間部材12の存在により第1トルク伝達経路TP1を介して伝達されるトルクに2つのピークすなわち第1および第2共振が発生することに起因して、ドリブン部材15の振動振幅が理論上ゼロになる反共振点を合計2つ設定することができる。従って、ダンパ装置10では、第1トルク伝達経路TP1で発生する第1および第2共振に対応した2つのポイントで、第1トルク伝達経路TP1における振動の振幅と、それと逆位相になる回転慣性質量ダンパ20における振動の振幅とをできるだけ近づけることで、ドリブン部材15の振動を極めて良好に減衰させることが可能となる。
【0042】
ここで、ダンパ装置10のドリブン部材15すなわちダンパハブ7およびドリブンプレート25は、伝達軸TSおよびクラッチK0を介してモータジェネレータMGのロータRに連結され、当該ロータRは、クラッチK2を介して変速機TMの入力軸ISに連結される。このようにダンパ装置10と変速機TMとの間にモータジェネレータMGが配置され、エンジンEG、ダンパ装置10、モータジェネレータMGおよび変速機TMがこの順番で連結される場合、ドリブン部材15や図示しないインターミディエイトシャフト等の慣性モーメントに加えて、モータジェネレータMGのロータRの慣性モーメントや、クラッチK0およびK2の構成部材の慣性モーメント等が、変速機TMの入力軸ISの慣性モーメントに付加される。
【0043】
このため、ドリブン部材15やロータR等と一体に回転する変速機TMの入力軸ISの固有振動数が小さくなり、ダンパ装置10に回転慣性質量ダンパ20が設けられていない場合、
図4において破線で示すように、変速機TMの入力軸IS等の共振であるシャフト共振がエンジンEGの作動回転数域(ゼロから上限回転数までの範囲)における中速回転域から高速回転数域(例えば、1500~4000rpm程度)で発生し、当該ダンパ装置10によりシャフト共振によるトルク変動T
Flucを充分に減衰し得なくなってしまう。また、かかるシャフト共振の振動数は、入力軸ISの剛性と当該入力軸ISに連結されるモータジェネレータMGのロータRの慣性モーメント(イナーシャ)とに大きく依存する。このため、ダンパ装置10の第1および第2スプリングSP1,SP2の剛性を低下させたり(ばね定数を小さくしたり)、ダンパ装置10に更なるスプリングを追加したりしても、シャフト共振が顕在化しないように当該振動数を充分に変化させることが困難となる。
【0044】
これを踏まえて、ダンパ装置10は、上述のように、ドライブ部材11の一部であるリヤカバー21が遊星歯車機構PG(回転慣性質量ダンパ20)のキャリヤとして機能すると共に、ドリブン部材15の一部であるドリブンプレート25が遊星歯車機構PGのリングギヤとして機能するように構成される。これにより、遊星歯車機構PGを含む回転慣性質量ダンパ20の特性より、複数のピニオンギヤ23と質量体としてのサンギヤ22との慣性モーメントの合計値よりも大きい慣性モーメントをキャリヤとしてのリヤカバー21すなわちドライブ部材11に付加する一方、リングギヤとしてのドリブンプレート25すなわちドリブン部材15の慣性モーメントを減少させることが可能となる。
【0045】
より詳細には、ギヤ部材221,スペーサ222および環状部材223を含むサンギヤ22の慣性モーメントを“Js”とし、複数のピニオンギヤ23の慣性モーメントの合計値を“Jp”とし、遊星歯車機構PGの歯数比(サンギヤ22(外歯22t)の歯数/内歯25trの歯数)を“λ”としたときに、遊星歯車機構PGによりドライブ部材11に分配される慣性モーメントJiおよびドリブン部材15に分配される慣性モーメントJoは、次式(1)および(2)のように表される。本実施形態において、サンギヤ22の慣性モーメントJsは、複数のピニオンギヤ23の慣性モーメントの合計値Jpよりも十分に大きく、ドライブ部材11に分配される慣性モーメントJiは、サンギヤ22および複数のピニオンギヤ23の慣性モーメントの合計値(Js+Jp)よりも大きい正の値となる。また、ドリブン部材15に分配される慣性モーメントJoは、Jo=Js+Jp-Jiであり、負の値となる。すなわち、回転慣性質量ダンパ20の質量体としてのサンギヤ22等の慣性モーメントJs、複数のピニオンギヤ23の慣性モーメントJpおよび遊星歯車機構PGの歯数比λは、当該遊星歯車機構PGによりドリブン部材15に分配される慣性モーメントJoが負の値になるように定められる。また、慣性モーメントJs,Jpおよび歯数比λは、モータジェネレータMGのロータRの慣性モーメントを“Jm”としたときに、好ましくは、Jo+Jm≧0を満たすように定められる。
【0046】
【0047】
この結果、ドリブン部材15やモータジェネレータMGのロータR等と一体に回転する変速機TMの入力軸ISの慣性モーメント(合計値)の増加を抑制し、それによりシャフト共振の振動数の低下を抑制することができる。更に、ダンパ装置10では、第2スプリングSP2からドリブン部材15に伝達される振動とは逆位相の振動(慣性トルク)を回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達可能であり、
図4において実線で示すように、当該回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達される振動によってシャフト共振によるトルク変動T
Flucを小さくすることができる。また、シャフト共振のレベルは、その振動数すなわち入力軸ISの回転数が高いほど、低下する。従って、ダンパ装置10によれば、変速機TMのシャフト共振が比較的低い回転域で発生して顕在化するのを良好に抑制することが可能となる。
【0048】
なお、ドライブ部材11の一部がリングギヤとして機能すると共にドリブン部材15の一部がキャリヤとして機能し、かつサンギヤ22が質量体として機能するように構成されたダンパ装置(図示省略)では、遊星歯車機構PGによりドライブ部材11に分配される慣性モーメントが上記式(2)により表され、ドリブン部材15に分配される慣性モーメントが上記式(1)により表されることになる。従って、かかるダンパ装置では、変速機TMの入力軸ISの慣性モーメント(合計値)の増加すなわちシャフト共振の振動数の低下を抑制することが困難となる。更に、本発明者ら研究によれば、遊星歯車機構PGのキャリヤを質量体として機能させる場合、反共振点を設定するために各ピニオンギヤの慣性モーメントを非常に大きくしなければならず、ダンパ装置の大型化や重量増を招いてしまうことが判明している。
【0049】
また、ダンパ装置10では、ドリブン部材15の一部であるドリブンプレート25がリングギヤとして機能すると共に、サンギヤ22が質量体として機能し、かつ第1および第2スプリングSP1,SP2が複数のピニオンギヤ23の径方向外側に配置される。これにより、第1および第2スプリングSP1,SP2の剛性(両者の合成ばね)を低下させてダンパ装置10の振動減衰性能をより向上させることが可能となる。
【0050】
更に、サンギヤ22は、複数のピニオンギヤ23のギヤ歯23tに噛合する外歯22tを含むギヤ部材221と、環状に形成されたリヤカバー21の軸方向における外側に配置されると共に当該リヤカバー21の径方向内側でスペーサ222を介してギヤ部材221に連結される環状部材223とを含む。これにより、質量体としてのサンギヤ22の慣性モーメントJsをより大きくして、回転慣性質量ダンパ20の振動減衰性能をより向上させると共に、変速機TMの入力軸ISの慣性モーメント(合計値)の増加、すなわちシャフト共振の振動数の低下を良好に抑制することが可能となる。
【0051】
また、キャリヤとしてのリヤカバー21は、第2スプリングSP2との間でトルクを授受するトルク授受部25cを含み、当該トルク授受部25cの径方向内側で、それぞれピニオンギヤ23に挿通された複数のピニオンシャフト24を支持する。これにより、キャリヤとしてのリヤカバー21の平均トルクが伝わらない部分により複数のピニオンシャフト24を支持することが可能となり、ピニオンシャフト24の変形を抑制して回転慣性質量ダンパ20の性能を良好に維持することができる。
【0052】
そして、ダンパ装置10では、入力トルク等が上記トルクT1以上になってドライブ部材11のドリブン部材15に対する捩れ角が所定角度θref以上になると、各スプリングSPxの上記他方の端部が、ドリブンプレート25の対応するスプリング当接部25xに当接する。これにより、ドライブ部材11に伝達されたトルク(平均トルク)は、入力トルク等が上記トルクT2に達してストッパ17によりドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転が規制されるまで、上記第1トルク伝達経路TP1と、複数のスプリングSPxを含む第2トルク伝達経路TP2とを介してドリブン部材15に伝達される。これにより、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対捩れ角の増加に応じてダンパ装置10の剛性を高め、並列に作用する第1、第2スプリングSP1,SP2とスプリングSPxとによって大きなトルクを伝達したり、衝撃トルク等を受け止めたりすることが可能となる。また、リヤカバー21の外周側の角部の内面に形成されたスプリング保持凹部21x内にスプリングSPxを配置することで、ダンパ装置10の軸長の増加を抑制することが可能となる。
【0053】
ただし、ダンパ装置10において、複数のスプリングSPxは、
図5に示すように、ダンパ装置10の径方向における第1および第2スプリングSP1,SP2の内側で複数のピニオンギヤ23と周方向に隣り合うように配置されてもよい。これにより、ダンパ装置10のコンパクト化を図ることができる。更に、ダンパ装置10において、第1トルク伝達経路TP1は、
図6
に示すように、ドライブ部材11とドリブン部材15との間で互いに並列に作用してトルクを伝達可能な複数(例えば6個)のスプリングSPにより構成されてもよい。
【0054】
図7は、本開示の第2の実施形態に係るダンパ装置10Bを示す概略構成図である。なお、ダンパ装置10Bの構成要素のうち、上述のダンパ装置10等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0055】
図7および
図8に示すダンパ装置10Bでは、ドリブン部材15Bに含まれるドリブンプレート25Bの外周に複数のピニオンギヤ23のギヤ歯23tに噛合する外歯25tsが形成されており、当該ドリブンプレート25Bが遊星歯車機構PG′のサンギヤとして機能する。また、ダンパ装置10Bでは、複数のピニオンギヤ23のギヤ歯23tに噛合する内歯27tを含む遊星歯車機構PG′のリングギヤ27が、回転慣性質量ダンパ20Bの質量体として機能する。更に、ダンパ装置10Bにおいて、第1および第2スプリングSP1,SP2は、
図8に示すように、複数のピニオンギヤ23の径方向における内側に配置される。
【0056】
かかるダンパ装置10Bでは、質量体としてのリングギヤ27の慣性モーメントの大きさに拘わらず、複数のピニオンギヤ23とリングギヤ27との慣性モーメントの合計値よりも大きい慣性モーメントをキャリヤとしてのリヤカバー21すなわちドライブ部材11に付加する一方、サンギヤとしてのドリブンプレート25Bすなわちドリブン部材15Bの慣性モーメントを減少させることが可能となる。より詳細には、リングギヤ27の慣性モーメントを“Jr”とし、複数のピニオンギヤ23の慣性モーメントの合計値を“Jp”とし、遊星歯車機構PG′の歯数比(外歯25tsの歯数/リングギヤ27の歯数)を“λ”としたときに、遊星歯車機構PG′によりドライブ部材11に分配される慣性モーメントJiおよびドリブン部材15Bに分配される慣性モーメントJoは、次式(3)および(4)のように表される。式(3)および(4)からわかるように、ドライブ部材11に分配される慣性モーメントJiは、常に、リングギヤ27および複数のピニオンギヤ23の慣性モーメントの合計値(Jr+Jp)よりも大きい正の値となる。また、ドリブン部材15に分配される慣性モーメントJoは、Jo=Jr+Jp-Jiであり、常に負の値となる。
【0057】
【0058】
この結果、ダンパ装置10Bによっても、ドリブン部材15BやモータジェネレータMGのロータR等と一体に回転する変速機TMの入力軸ISの慣性モーメント(合計値)の増加、すなわちシャフト共振の振動数の低下を抑制することができる。更に、ダンパ装置10Bにおいても、第2スプリングSP2からドリブン部材15Bに伝達される振動とは逆位相の振動(慣性トルク)を回転慣性質量ダンパ20Bからドリブン部材15Bに伝達可能であり、当該回転慣性質量ダンパ20Bからドリブン部材15Bに伝達される振動によってシャフト共振によるトルク変動TFlucを小さくすることができる。従って、ダンパ装置10Bによっても、変速機TMのシャフト共振が比較的低い回転域で発生して顕在化するのを良好に抑制することが可能となる。
【0059】
なお、ドライブ部材11の一部がサンギヤとして機能すると共にドリブン部材15Bの一部がキャリヤとして機能し、かつリングギヤ27が質量体として機能するように構成されたダンパ装置(図示省略)では、遊星歯車機構PG′によりドライブ部材11に分配される慣性モーメントが上記式(4)により表され、ドリブン部材15Bに分配される慣性モーメントが上記式(3)により表されることになる。従って、かかるダンパ装置では、変速機TMの入力軸ISの慣性モーメント(合計値)の増加すなわちシャフト共振の振動数の低下を抑制することが困難となる。
【0060】
また、ダンパ装置10Bでは、
図8に示すように、上記スプリングSPxと同様の機能を有するゴムあるいは樹脂製の短尺円柱状の弾性体(第2弾性体)EBが第1および第2スプリングSP1,SP2の少なくとも何れか一方の内部に同軸に配置される。ただし、ダンパ装置10Bにおいて、
図9に示すように、複数のスプリングSPxがダンパ装置10Bの径方向における第1および第2スプリングSP1,SP2の外側に複数のピニオンギヤ23と周方向に隣り合うように配置されてもよい。また、
図10に示すように、複数のスプリングSPxがダンパ装置10Bの径方向における第1および第2スプリングSP1,SP2の内側に配置されてもよい。更に、
図11に示すように、ダンパ装置10Bの第1トルク伝達経路TP1は、ドライブ部材11とドリブン部材15Bとの間で互いに並列に作用してトルクを伝達可能な複数(例えば6個)のスプリングSPにより構成されてもよい。
【0061】
以上説明したように、本開示のダンパ装置は、エンジン(EG)からのトルクが伝達される入力要素(11)と、出力要素(15,15B)と、前記入力要素(11)と前記出力要素(15,15B)との間でトルクを伝達する弾性体(SP1,SP2,SP)と、前記入力要素(11)と前記出力要素(15,15B)との相対回転に応じて回転する質量体(22,27)を有する回転慣性質量ダンパ(20,20B)とを含むダンパ装置(10,10B)において、前記出力要素(15,15B)が、電動機(MG)のロータ(R)に連結され、前記電動機(MG)の前記ロータ(R)が、変速機(TM)の入力軸(IS)に連結され、前記回転慣性質量ダンパ(20,20B)が、サンギヤ(22,25B)、リングギヤ(25,27)、複数のピニオンギヤ(23)、および前記複数のピニオンギヤ(23)を支持するキャリヤ(21)を有する遊星歯車機構(PG,PG′)を含み、前記キャリヤ(21)が、前記入力要素(11)の一部であり、前記サンギヤおよび前記リングギヤの一方(25,25B)が、前記出力要素(15,15B)の一部であり、前記サンギヤおよび前記リングギヤの他方(22,27)が、前記質量体として機能するものである。
【0062】
本開示のダンパ装置では、出力要素が電動機のロータに連結され、当該電動機のロータが変速機の入力軸に連結される。このようにダンパ装置と変速機との間に電動機が配置される場合、出力要素の慣性モーメントに加えて、ロータの慣性モーメントが変速機の入力軸の慣性モーメントに付加されることで、出力要素やロータと一体に回転する変速機の入力軸の固有振動数すなわちシャフト共振の振動数が小さくなる。これを踏まえて、本開示のダンパ装置は、入力要素の一部が遊星歯車機構(回転慣性質量ダンパ)のキャリヤとして機能すると共に、出力要素の一部がサンギヤおよびリングギヤの一方として機能するように構成される。これにより、遊星歯車機構を含む回転慣性質量ダンパの特性より、複数のピニオンギヤと質量体としてのサンギヤおよびリングギヤの他方との慣性モーメントの合計値よりも大きい慣性モーメントをキャリヤすなわち入力要素に付加する一方、サンギヤおよびリングギヤの一方すなわち出力要素の慣性モーメントを減少させることが可能となる。この結果、出力要素や電動機のロータと一体に回転する変速機の入力軸の慣性モーメント(合計値)の増加、すなわちシャフト共振の振動数の低下を抑制することができる。更に、本開示のダンパ装置では、弾性体から出力要素に伝達される振動とは逆位相の振動(慣性トルク)を回転慣性質量ダンパから出力要素に伝達可能であり、当該回転慣性質量ダンパから出力要素に伝達される振動によってシャフト共振によるトルク変動を小さくすることができる。従って、本開示のダンパ装置によれば、変速機のシャフト共振が比較的低い回転域で発生して顕在化するのを良好に抑制することが可能となる。
【0063】
また、前記リングギヤ(25)は、前記出力要素(15)の一部であってもよく、前記サンギヤ(22)は、前記質量体として機能してもよく、前記弾性体(SP1,SP2,SP)は、前記ダンパ装置(10)の径方向における前記複数のピニオンギヤ(23)の外側に配置されてもよい。これにより、弾性体の剛性を低下させてダンパ装置の振動減衰性能をより向上させることが可能となる。
【0064】
更に、前記キャリヤ(21)を含む前記入力要素(11)は、前記弾性体(SP1,SP2,SP)、前記リングギヤ(25)および前記複数のピニオンギヤ(23)を包囲するように形成されてもよい。
【0065】
また、前記キャリヤ(21)は、環状に形成されてもよく、前記サンギヤ(22)は、前記複数のピニオンギヤ(23)のギヤ歯(23t)に噛合する外歯(22t)を含むギヤ部材(221)と、前記ダンパ装置(10)の軸方向における前記キャリヤ(21)の外側に配置されると共に前記ダンパ装置(10)の径方向における前記キャリヤ(21)の内側で前記ギヤ部材(221)に連結される環状部材(223)とを含むものであってもよい。これにより、質量体としてのサンギヤの慣性モーメントをより大きくして、回転慣性質量ダンパの振動減衰性能をより向上させると共に、変速機の入力軸の慣性モーメント(合計値)の増加、すなわちシャフト共振の振動数の低下を良好に抑制することが可能となる。
【0066】
更に、前記キャリヤ(21)は、対応する前記弾性体(SP1,SP2,SP)との間でトルクを授受するトルク授受部(21c)を含み、前記ダンパ装置(10)の径方向における前記トルク授受部(21c)の内側で、それぞれ前記ピニオンギヤ(23)に挿通された複数のピニオンシャフト(24)の一端を支持するものであってもよい。これにより、キャリヤの平均トルクが伝わらない部分により複数のピニオンシャフトを支持することが可能となり、ピニオンシャフトの変形を抑制して回転慣性質量ダンパの性能を良好に維持することができる。
【0067】
また、前記サンギヤ(25B)は、前記出力要素(15B)の一部であってもよく、前記リングギヤ(27)は、前記質量体として機能してもよく、前記弾性体(SP1,SP2,SP)は、前記ダンパ装置(10B)の径方向における前記複数のピニオンギヤ(23)の内側に配置されてもよい。これにより、質量体としてのリングギヤの慣性モーメントの大きさに拘わらず、複数のピニオンギヤとリングギヤとの慣性モーメントの合計値よりも大きい慣性モーメントをキャリヤすなわち入力要素に付加する一方、サンギヤすなわち出力要素の慣性モーメントを減少させることが可能となる。
【0068】
更に、前記キャリヤ(21)を含む前記入力要素(11)は、前記弾性体(SP1,SP2,SP)、前記リングギヤ(27)および前記複数のピニオンギヤ(23)を包囲するように形成されてもよい。
【0069】
また、前記ダンパ装置(10,10B)は、中間要素(12)を含むものであってもよく、前記弾性体は、前記入力要素(11)と前記中間要素(12)との間でトルクを伝達する入力側弾性体(SP1)と、前記中間要素(12)と前記出力要素(15,15B)との間でトルクを伝達する出力側弾性体(SP2)とを含んでもよい。これにより、出力側弾性体から出力要素に伝達される振動と、回転慣性質量ダンパから出力要素に伝達される振動とが理論上互いに打ち消し合うことになる反共振点を2つ設定することができるので、ダンパ装置の振動減衰性能をより一層向上させることが可能となる。
【0070】
更に、前記ダンパ装置(10,10B)は、前記入力要素(11)と前記出力要素(15,15B)との間で伝達されるトルクが所定値(T1)以上であるときに前記弾性体(SP1,SP2,SP)と並列に作用する第2弾性体(SPx)を含むものであってよい。これにより、入力要素と出力要素との間で伝達されるトルクの増加に応じてダンパ装置の剛性を高め、並列に作用する弾性体および第2弾性体によって大きなトルクを伝達したり、衝撃トルク等を受け止めたりすることが可能となる。
【0071】
また、前記第2弾性体(SPx)は、前記ダンパ装置(10,10B)の径方向における前記弾性体(SP1,SP2,SP)の外側に配置されてもよい。
【0072】
更に、前記第2弾性体(SPx)は、前記ダンパ装置(10,10B)の径方向における前記弾性体(SP1,SP2,SP)の内側に配置されてもよい。
【0073】
また、前記第2弾性体(SPx)は、前記ダンパ装置(10,10B)の径方向からみて前記弾性体(SP1,SP2,SP)と少なくとも部分的に重なるように配置されてもよい。
【0074】
更に、前記弾性体(SP1,SP2,SP)は、コイルスプリングであってもよく、前記第2弾性体(EB)は、前記弾性体(SP1,SP2,SP)の内部に同軸に配置されてもよい。
【0075】
また、前記第2弾性体(SPx)は、前記複数のピニオンギヤ(23)と周方向に隣り合うように配置されてもよい。
【0076】
更に、前記ダンパ装置(10,10B)は、乾式ダンパであってもよい。
【0077】
また、前記ダンパ装置(10,10B)と前記電動機(MG)との間、および前記電動機(MG)と前記変速機(TM)との間には、クラッチ(K0,K2)が配置されてもよい。
【0078】
更に、前記質量体(22,27)の慣性モーメント、前記複数のピニオンギヤ(23)の慣性モーメントおよび前記遊星歯車機構(PG,PG′)の歯数比(λ)は、前記遊星歯車機構(PG,PG′)により前記出力要素(15,15B)に分配される慣性モーメントが負の値になるように定められてもよい。
【0079】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記発明を実施するための形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示の発明は、ダンパ装置の製造分野等において利用可能である。