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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】Mevに基づいたイオンビーム分析設備
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/18 20060101AFI20221221BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20221221BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20221221BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
H01J37/18
H01J37/28 Z
H01J37/20 B
H01J37/244
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020564343
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 DE2019000083
(87)【国際公開番号】W WO2019219103
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】102018004020.9
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(72)【発明者】
【氏名】メラー・ゼーレン
(72)【発明者】
【氏名】ヘーシェン・ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】クルト・ジーナ
(72)【発明者】
【氏名】ヒラー・アルベルト・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ショルティージク・クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】エサー・ゲルヴィン
(72)【発明者】
【氏名】リンスマイアー・クリスティアン
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-257751(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0068067(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をMeV規模によりイオンビーム分析する装置であって、
少なくとも一つの検出器及び一つの試料観測部を備えた真空測定室と、
この真空測定室内に真空を発生させる真空システムと、
イオンビームチューブ及びイオンビームを集束させる集束システムと、
少なくとも一つの試料を受け入れる試料保持部を有する試料マニュピレータを備えた試料運搬システムと、
を有する装置において、
この装置が、イオンビームチューブを測定室に真空密閉式に接続するための結合システムを有し、この入力結合システムが、イオンビーム真空フィードスルー、検出器を受け入れる少なくとも一つの手段、試料観測部を受け入れる少なくとも一つの手段及び試料運搬システムを受け入れる手段を備え、
この入力結合システムが、イオン光学系、検出器及び試料観測部から成る構成部品の間を直に機械的に接続する部分であり、そのようにして、集束システムの最後のイオン光学部品、検査する試料及び検出器の間の短い間隔と精密な方向調整とを実現可能であることを特徴とする装置。
【請求項2】
継手式真空フィールドスルーの形の入力結合システムを有する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
横方向及びそれと交差する方向の柔軟性を有する二段階式継手を備えた入力結合システムを有する請求項2に記載の装置。
【請求項4】
少なくとも二つの粒子種又は粒子阻止能に関する検出器を備えた請求項1~3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
中心孔を有する円環形状の検出器を備えた請求項1~4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
テレセントリックカメラと偏向ミラーを有する試料観測部を備えた請求項1~5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
組み立てた状態において試料表面と検出器の間隔を補正する手段を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
徐々により細かくなる調整ネジとレーザー反射とによってイオンビームに対して並進及び回転方向に調整可能に配置されている真空測定室を有する請求項1~7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
検査する試料と少なくとも一つの検出器の間に少なくとも一つの円環セグメント形絞りが更に配置された真空測定室を有する請求項1~8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
真空測定器と真空分析器を備えた真空システムを有する請求項1~9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
非磁性の試料マニュピレータを有する請求項1~10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
圧電式モーター駆動部と、一体的なストロークセンサー及び/又は位置センサーとを備えた多軸式試料マニュピレータを有する請求項1~11のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、試料の組成を定量的及び局所的に分析するためのイオンビーム顕微鏡法を用いた材料分析分野に関する。
【背景技術】
【0002】
文献により、素材試料の組成を検出する多数の分析方法が知られている。その場合、定性的及び定量的に分析するためには、特に、イオンビーム分析が適している。
【0003】
イオンビーム分析(IBA)には、試料表面の近傍、即ち、約10μmの深さ領域における材料組成の個別濃度を検査、分析するための数MeVに基づいたエネルギーによる様々な粒子線を用いた多くの方法が含まれる。それらの方法は、大抵の場合、非破壊方式で動作して、基準を必要としない。それによって、コンピュータベースの解明と組み合わせた場合、絶対量として、或いは濃度情報としても、元素又は同位元素の深度プロファイルが得られる。更に、イオンビーム分析は、スキャン法と協働すると、コンポジショナル(元素と同位元素を分けた)断層撮影法に関してμm精度の分解能を実現できる。その理由から、材料のイオンビーム分析の用途が、薄膜技術から材料開発に至るまで広がっており、各用途には、それぞれ特別な要件が分析構成に課される。
【0004】
通常は、イオンビームに対する周囲環境の妨害作用のために、検査は真空室内で行われる。検査は、検査すべき試料とイオンビームの相互作用によって生まれる生成物を検出することをベースとしている。それは、二次電子、ガンマ線、X線、散乱発射体又は核反応による生成物であるとすることができる。それらの生成物に含まれる情報を活用するために、様々な技術が利用可能である。平行して検出される異なる生成物を組み合わせることによって、有利には、一義的な成果を獲得することができる。
【0005】
更に、核反応分析(NRA)、ラザフォード後方散乱分析(RBS)及びトータルIBAとも呼ばれる粒子線励起X線放射分光が、特に少ない曖昧度と複雑でない統合を実現できる分析ツールの好適な組合せとなる。
【0006】
例えば、粒子線励起X線放射分光又は陽子線励起X線放射分光(英語で、particle induced X-ray emission又はproton induced X-ray emission, PIXE)が普及したイオンビーム分析方法である。PIXEでは、試料がイオンビームを用いて検査される。イオンが、試料を通過する際に、主に衝突粒子エネルギーの電子殻との相互作用によって消失する。その場合、粒子が内殻電子と衝突することも起こる。それによって、電子が原子殻から弾き飛ばされ、その結果、特性X線による核の緩和を引き起こす可能性が有る。そのことが、PIXEにおいて、元素濃度を計測するために使用される。その方法自体は、特に、重い元素(原子番号Z>12...20)に適しており、それ以外のX線方法と比べて阻止背景放射が明らかに小さい。それによって、微量元素を分析することも可能である。
【0007】
核反応分析(英語で、nuclear reaction analysis, NRA)も、材料組成を検査する役割を果たす。NRAでは、大抵はエネルギーが100keV~数10MeVまでの範囲内のイオンビームを試料に衝突させる。試料原子との粒子線の相互作用によって起こる、アルファ線、陽子線及び/又はガンマ線を放出する核反応を材料分析のために利用している。その反応に応じて、各線は所定の厳密に定義されたエネルギーを有する。使用するイオンビームが検出すべき同位元素に応じて選定されている限り、有利には、試料の表面層の個々の同位元素の濃度を測定することができる。
【0008】
NRAは、試料の表面を検査するのに適している。分析可能な深度は、ビームエネルギーに応じて上昇するとともに、イオンの原子番号に応じて低下する。それは、より小さい程度で試料の組成にも依存する。通常、それは数マイクロメートルである。一つの所定のビームエネルギーとイオン種を用いて、通常は一つ又は幾つかの元素しか測定できないので、試料を完全に特徴付けるためには、通常は別の方法による追加の分析が必要である。
【0009】
その方法は、特に、同位元素の電気性による微量元素の検出に適しており、さもなければ所定のトレーサー同位元素を用いたプロセスの分析にも適している。とりわけ、水素やリチュウムなどの軽元素の検出に使用されている。
【0010】
ラザフォード後方散乱分光法(英語で、Rutherford backscattering spectrometry, RBS)も、イオンビームを用いて薄い層の表面近傍を検査する方法である。一回の測定のために、低い質量(水素又はヘリウム)の高エネルギーイオン(0.1~4Mev)を一つの試料に衝突させる。検出器は、後方散乱したイオンのエネルギーを測定する。そのエネルギーは、当初のエネルギーの大きさ、それぞれ命中した試料原子の質量及び検出角度に依存する。後方散乱する粒子のエネルギーが深度に依存するために、PBSを用いた試料の組成測定が深度分解能も有し、検査パラメータに応じて、数百ナノメートル~数マイクロメートルまでの深度を検査することができる。
【0011】
従って、イオンビーム分析(英語で、ion beam analysis, IBA)による試料の材料組成の検査は、そうこうするうちに既に標準的な方法となっている。PIXE検査、NRA検査及びRBS検査の組合せは、その限りにおいて、既に一回の測定だけで周期律表の全ての元素をほぼ完全に分析するものとなっている。そのような組合せは、例えば、軽元素(NRA)、中重元素(PIXE)及び重元素(PIXE+RBS)に関して、従来の電子ビーム分析と比べて特に有利な一貫した形で、ppm範囲内での検出限界と、1/10%範囲内での精度とを示している。その場合、それらの利点は、特に、しばしば周期律表全体の元素が試料内に非常に異なる濃度で存在する材料研究にとって魅力的である。
【0012】
多くのイオンビーム顕微鏡では、所謂「ビーム走査」技術が試料表面の測定のために使用されているが、それは、イオンビームが一定であるプローブ方法よりも低い精度の位置校正しか実現できない。「ビーム走査」とは、一般的には電磁的な偏向によって試料上のビーム位置を走査することであると理解される。
【0013】
イオンビーム分析での横方向の分解能は、試料の表面上でのイオンビームの横断面(スポットサイズ)によって定義される。典型的には、1~10MeVの陽子イオン又はヘリウムイオンを用いたイオンビームでは、最新の加速器においてnA電流によって生成されたイオンビームを四極磁石を通して集束することが1μmのオーダーで実現可能である。この大きさでは、振動、試料スキャン、ポンプ、試料観測及び散乱磁界に関する技術的な課題を検出器の要件及び精密な方向調整と組み合せることが計器に関する挑戦課題となる。
【0014】
MeVイオンに基づいた試料測定は、その限りにおいて、測定特性と、更に、試料内の原子核の特性に関する感度とにおいて多数の改善点が有る、電子顕微鏡法に代わる重要な測定技術である。その技術は、長い年月に渡って科学において使われている。しかし、これまでの複雑な構造と高い特別なコストのために、それは、電子顕微鏡法と同じ経済的な意味を獲得できなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、これまでの従来技術と比べて、より精密で改善された局所的な分解能を実現できる、イオンビーム分析のための装置を提供することである。特に、本発明の課題は、既存のMeVイオンビーム分析技術を、この場合、特に、MeVイオンビームマイクロトモグラフィを取扱形態、生産性及びコストに関して改善することである。この場合、少なくとも測定品質が同じとして、試料処理能力及び測定速度の向上と測定前処理負担の軽減に特別な注意を払っている。
【0016】
更に、本発明の課題は、そのような改善された装置を動作させる方法を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の課題は、主請求項の特徴を有する装置と、副請求項の特徴を有する方法とによって解決される。
【0018】
本装置及び本方法の有利な実施形態は、それらを参照する請求項からそれぞれ明らかになる。
【0019】
本発明の範囲内において、イオンビーム検査を実行する新しい装置は、有利には、これまでの従来技術と比べて、より精密で改善された局所的な分解能を実現可能であることが見い出された。そのため、本発明による装置は、有利には、既存のMevイオンビームマイクロトモグラフィ技術を取扱形態、生産性及びコストに関して改善することができた。
【0020】
本発明の技術的な挑戦は、引き続き、従来技術を重んじるだけでなく、更に、場合によっては、それどころか改善するとの願望、有利には、同時に、測定精度、測定特性及び再現可能性から生じたものである。この場合、良好な測定特性と高い位置分解能のためには、検出器、イオン集束レンズに対する試料の間隔を最小化することが非常に重要である。
【0021】
更に、試料の分析すべき特性は、使用するイオンビームの特性によって大きく影響される。そのため、精度又は精密度に関して良好な計数統計を高い空間分解能で生み出すためには、スポット直径が非常に小さい、非常に強力なイオンビームが必要である。これらの二つの対立関係は、イオンビームの集束によって解消又は解決することができる。
【0022】
本発明による装置は、従来の技術を、特別に適合され、新たに生み出された技術と統合している。このイオンビーム検査を実行する装置は、詳しくは、少なくとも一つの検出器と、試料観測部と、真空システムに対する真空測定室のポートと、ビームチューブと、イオンビームを集束する集束システムと、試料運搬システムを受け入れるゲートと、有利には、試料マニピュレータ上に配置された、一つ又は複数の試料のための試料保持部とを備えた真空測定室を有する。
【0023】
本発明では、一方において、イオンビームフィールドスルーを備えた、さもなければ同時に少なくとも一つの検出器を受け入れる少なくとも一つの手段も備えた真空測定室にイオンビームチューブを真空密閉式に接続するための入力結合システムを有する。更に、この入力結合システムは、試料観測部を受け入れる手段と、試料運搬システムを受け入れる手段とを有する。図1は、そのような入力結合システムを模式的に図示している。
【0024】
本発明による入力結合システムは、イオン光学系、検出器、試料観測部及び試料運搬システムから成る能動的な構成部品の間を直に、有利には、単一部材により機械的に接続することが可能である。このコンパクトな入力結合システムは、有利には、これまで既知の装置において実現可能であった間隔よりも短い、能動的な構成部品の間の間隔を実現することができ、そのため、前記の能動的な構成部品の間の精密な方向調整を再現することが可能である。
【0025】
イオンビーム検査を実行する装置に関する本発明の中核の考えとして、一方において真空測定室内において集束されたイオンビームを試料上に入力結合させることが可能であり、そのために同時に試料運搬システム、試料観測部及び検出部を備えた、有利には、ワンピースの入力結合システムが有る。そのため、この入力結合システムは、それらの能動的な構成部品をシステムの残りの構成部品と直に接続するとともに、真空密閉式に接続することを実現できる。
【0026】
このイオンビームチューブを測定室に真空密閉式に接続するための入力結合システムは、イオンビーム真空フィールドスルーの外に、少なくとも、検出器を受け入れる手段、試料観測部を受け入れる手段及び試料運搬システムを受け入れる手段を備え、有利には、集束システムの最後のイオン光学部品、検査すべき試料及び検出器の間の特に短い間隔と精密な方向調整を実現できる。
【0027】
この試料観測部を受け入れる手段は、最も簡単な場合、例えば、観測ミラーを上に配置して、固定できるのに適した平坦な面であるとすることができる。
【0028】
しかし、この試料観測部を受け入れる手段は、例えば、高分解能のカメラを受け入れる保持部であるとすることもできる。
【0029】
同様に、検出器を受け入れる手段は、簡単なものとして、検出器を繋いで固定できる保持部であるとすることができる。
【0030】
この試料運搬システムを受け入れる手段は、例えば、試料運搬システムを容易に配置できるレールであるとすることができる。
【0031】
本発明の別の特に有利な実施形態では、更に、最適化された真空システム、最適化された集束システム及び最適化された試料運搬システムが規定され、これらは、それぞれ個々に、或いは任意に組み合せても、従来の分析設備及び本発明による分析設備の更なる明らかな改善を実現するものである。
【0032】
この場合、真空測定室と集束システムを備えたビームラインは、一般的に制振テーブル上に配置される。
【0033】
この真空測定室は、真空システムに対するポートを有する。この真空システムは、測定室内に負圧を発生させる役割を果たす。MeVイオンビームマイクロトモグラフィのためには、例えば、10-3~10-7パスカルの範囲内の圧力が必要であり、最適な測定特性のためには、10-5パスカル未満の圧力を実現するように努めるべきである。この場合、真空システムの設計時に、試料の交換とその後に必要なポンプ排気時間をそれらの本設備の生産性又は測定即応性への影響と共に考慮すべきである。
【0034】
散乱電磁場を低減するために、非磁性の真空構成部品の使用と試料位置に対する真空技術部品の適合した間隔とを提案する。そのため、非磁性材料として、有利には、特に、特殊鋼、アルミニウム、銅、プラスチック及びそれ以外の特殊合金を用いることができる。特に、イオンビーム絞りのために、タンタルやタングステンなどの耐熱性の非磁性材料を用いることができる。この場合、本発明では、温度変動時に、イオンビーム、検出器及び試料の相対的な向きを測定の位置分解能の範囲内に維持するために、全てのコンポーネントの相対的な熱膨張を考慮しなければならない。
【0035】
更に、弾力的な真空構成部品及び軸受けによって、制振を実現することができ、その際、真空特性に対する、これらのコンポーネントの影響を考慮すべきである。有利には、従来の磁気方式により軸支されたターボ分子ポンプを用いることができる。3相モーター式バッキングポンプを用いることも有利である。
【0036】
この真空測定室は、更に、試料運搬システムを受け入れるゲートを有する。このゲートは、例えば、機械的な通過部を備えた窓フランジ又は真空運搬ゲートであるとすることができる。
【0037】
本発明では、これまでに周知の一つ又は複数の試料のための試料保持部の外に、特に適合された形の試料運搬システムを用いることもできる。このシステムは、先ずは、少なくとも一つの試料マニピュレータ上に工具無しで直に取り付けることができる試料保持部を有する。
【0038】
本発明の特別な実施構成では、真空測定室は、試料運搬システムを受け入れるのに好適な手段によって、例えば、異なる軸を備えた、様々な形式の試料マニビュレータをサポートすることが可能であり、これらは、全て同じ、或いは異なる試料保持部を使用することができる。
【0039】
試料保持部を工具無しで、そのため、より速く取り付けることによって、特に、試料保持部を交換する時間を節約することができる。
【0040】
本発明では、真空でも、窓フランジに空気を通した場合でも、工具無しでの試料保持部の交換を行うことができる。
【0041】
特に、真空での交換又は取付に関して、本発明では測定室の換気及びポンプ排気をすること無く試料の交換を実施できるので、本発明による装置は特別な利点を提供する。
【0042】
特に、既に存在する試料マニビュレータ上において、試料保持部を新しい試料保持部に交換することができる。しかし、本発明で考えられることとして、試料の交換のために、試料保持部と共に、場合によっては、試料マニビュレータと共に試料運搬システム全体をそれぞれ測定室から運び出すこと、並びに測定室に運び込むこともできる。後者は、例えば、それぞれ異なる試料マニビュレータを必要とする大きく異なる重い試料の場合に有利である。
【0043】
この試料保持部は、有利には、複数の試料を受け入れるのに適している(複式試料保持部)。一つの試料保持部に多くの試料を配置できるようになるほど、測定セルからの、並びに測定セルへの試料の運搬に要する時間がそれに比例して短くなる。このことは、同じく一般的に測定容量又は生産性を向上させることとなる。
【0044】
この試料保持部は、試料マニビュレータ及び真空室から電気的に絶縁された形で試料マニビュレータ上に配置して、固定できるように構成される。
【0045】
それによって、試料保持部は、イオンビーム測定時に最大空間角度範囲を超えて生じる二次電子を抑制するために、それら(試料マニュピレータと真空室)に対して、定義された電圧を印加することができる。二次電子イメージングのために、有利には、この印加する電圧を変化させることができる。
【0046】
この試料マニュピレータ自体は、非磁性材料から成り、有利には、多軸式試料マニュピレータとして構成される。このモーター駆動は、有利には、統合型のストローク/位置センサーを用いて圧電方式で行われる。この試料マニュピレータを用いて、試料保持部上における集束されたイオンビームに対する一つ又は複数の試料の精密な位置決めが行われる。それによって、試料の走査が可能である。この場合、「走査」とは、常にイオンビームを固定しつつ、固定点の所で(予め定義された走査パターンにより)、或いは予め決められた動き(スキャニング)の間に測定信号をプローブして記録する方法によって、試料表面を横方向に測定することであると理解する。
【0047】
この試料マニュピレータ方法又は接触方法によって、相応の測定技術又は試料変化技術によってイオンビーム測定を補完するために、イオンビームの測定スポットの領域内に試料を機械的及び/又は電気的に接触させることが可能である。
【0048】
例えば、バッテリーと接触させることができ、そのようにして、充放電プロセス中にイオンビーム測定を分析することができる針金を連結部品に配置することができる。しかし、加熱部品又は侵入テスターも考えられる。この技術的な拡張は、この方法をインサイチュ分析とすることを可能にする。
【0049】
試料、イオンビーム及び検出器の互いの正しい方向調整を実現できるようにするために、この測定室は、有利には、徐々により細かくなる調整ネジとレーザー反射器とによって、イオンビームに対して並進及び回転方向に調整可能である。
【0050】
この場合、位置決め技術は「校正不要」であり、そのことは、この位置決め技術が位置情報を提供して、常に同じであるので、測定設定、例えば、イオンビームのエネルギー又は種類を取り込む、或いは変更する際に、有利には、新たな位置校正を行う必要がないことを意味する。
【0051】
この入力結合システムは、試料観測部を受け入れる手段を有する。この手段は、最も簡単な場合、観測ミラーが上に配置される平坦な面であるとすることができる。
【0052】
しかし、この手段は、有利には、複雑な試料観測機器を受ける入れるのにも適している。これは、有利には、高分解能のテレセントリックレンズと、イオンビームの視点から試料を観測できるようにする少なくとも一つの偏向ミラーとを備えた少なくとも一つのカメルから構成される。このことは、測定室が、例えば、異なる軸を備えているが、全て同じ試料保持部を使用する、異なるタイプの試料マニビュレータをサポートする場合に特に有利である。
【0053】
従来技術により実現可能なマイクロメートル範囲での光学的な分解能は、イオンビームに対する試料の速い位置決めを可能にする。このテレセントリックな観測は、使用者に対して試料の幾何学形状と向き又は測定角に依存しない測定走査パターンを精密に定義することを可能にする。特に、試料の厚さが異なる場合に、試料と検出器の間隔を補正するために、カメラ観測の焦点深度又はそれ以外の光学的又は機械的な間隔測定方法を用いることができる。
【0054】
この真空測定室は、特に、イオン光学集束部を備えたイオンビーム源と共に用いることができる。イオンビーム源としては、典型的には、エネルギーが100keV~数10MeVの範囲内の陽子、重陽子又はヘリウムイオンを用いた従来のイオンビーム源と加速器が考慮の対象となる。イオンは、加速器から、イオンビームチューブを介して、測定室内にまで運ばれる。
【0055】
本発明の意味におけるイオンビームマイクロトモグラフィに必要なイオンビームの集束は、例えば、既に最新の加速器で用いられている通りの四極磁石によって行うことができる。イオンビームの集束が行われる、そのため、最も小さいビーム直径となる面又は点は、イオンビーム焦点とも呼ばれる。
【0056】
しかし、本発明の中核部分は入力結合システムである。このシステムによって、有利には、試料のイオン集束レンズ(イオンビーム焦点面)と少なくとも一つの検出器の間の最適に短縮された間隔が実現可能になり、その結果、この間隔は、測定結果又は位置分解能を明らかに改善させることとなる。
【0057】
本発明による入力結合システムは、例えば、少なくとも、検出器を受け入れる手段、試料観測部を受け入れる手段及び試料運搬システムを受け入れる手段を備えたイオンビームチューブ真空フィードスルーであるとすることができる。
【0058】
本発明では、この入力結合システムは、コンパクトに、有利には、それどころかワンピースで構成される。これは、有利には、非磁性の特殊鋼から構成される。
【0059】
この入力結合システムは、有利には、継手式真空フィードスルーの形で存在することができる。
【0060】
この入力結合システムは、特別な実施構成では、横方向及びそれと交差する方向の柔軟性を有する二段式継手を備えることができる。
【0061】
図2は、特に、イオンビームチューブ真空フィードスルーの領域に関連する、入力結合システムの特に有利な実施構成の一部を図示している(ここでは、検出器を受け入れる手段、試料観測部を受け入れる手段及び試料運搬システムを受け入れる手段を図示していない)。
【0062】
この入力結合システムは、検出器を受け入れる手段を有する。この少なくとも一つの検出器は、少なくとも一つの粒子種、例えば、陽子又はイオンを検出するのに適している。有利には、複数の粒子種を検出できる検出器を用いることもできる。有利には、少なくとも一つの検出器は、所定の粒子種、粒子エネルギー又は散乱角を遮蔽する絞りを備えることができる。
【0063】
更に有利には、一つ又は複数の粒子種のための複数の検出器を入力結合システムに配置することもできる。別の検出器は、入力結合システムと関係無く測定構造体に置くこともできる。
【0064】
この少なくとも一つの検出器の外に、有利には、例えば、(偏向)ミラー及び高分解能のテレセントリックレンズを備えたカメラの形の別の試料観測機器を入力結合システムに配置することもできる。
【0065】
任意選択として、イオンビーム絞りを入力結合システムに固定することもできる。
【0066】
本発明による入力結合システムを使用することによって、別個の検出器保持部、真空構成部品及びそれ以外の固定部を省くことができる。それにより、検出器、試料及びイオン集束レンズの間に存在する構成部品の数とそれらのサイズが低減され、それによって、間隔を短縮することができる。これら三つの中心部品の相対的に精密な方向調整、そのため測定精度は、間隔が短くなるにつれて技術的に難しくなるので、統合又は一体化された構造が、この技術的な挑戦課題を組立から製造に移転させ、それにより、明らかにより小さい公差を実現することができる。
【0067】
有利には、本装置又は入力結合システムは、例えば、厚さが異なる、或いは湾曲した試料の場合に、測定点と検出器の間の一定の間隔を保証するために、組み上がった状態における試料表面と検出器の間隔を補正する手段を有する。そのような手段は、その可変の間隔を検出器と固定的な関係に有る別の間隔に関連付ける。この場合、有利には、観測カメラの焦点深度を適用するか、或いはそれ以外の光学的又は機械的な方法を適用することもできる。
【0068】
本装置全体は、その有利な実施構成において、一般的にこの測定技術の計器に関する挑戦課題である、検出器の要件と精密な方向調整に関連する、振動、試料走査、ポンプ駆動、試料観測及び散乱磁界に関して提起された技術的な問題の解決策を提供する。この場合、試料処理能力及び測定速度の向上と測定前処理負担の軽減に特別な注意を払っている。
【0069】
要約すると、本発明によるMeVイオンビームマイクロトモグラフィに関する本発明による装置の利点は、以下の通り纏めることができる。
【0070】
ア 多段式調整ネジと本発明による特別な入力結合システムによって、0.1mm未満で検出器、試料及びイオン集束レンズを調整できること、並びに0.5度未満で方向調整できること、高速交換装置、高分解能のテレセントリックカメラ観測部及び高真空吸引能力と同時に測定室内への僅かな振動侵入と共に校正不要の真空内試料マニュピレータの採用によって、試料処理能力が向上されること
【0071】
イ (ビームスキャン技術の代替手段としての)真空内の圧電式試料マニュピレータ、測定時間が長い時の熱膨張を相殺するための材料及びコンポーネントの選択及び配置、試料の振動軽減によって、位置決め精度と位置決め再現性がナノメートルオーダーになること
【0072】
ウ 室と試料マニュピレータの材料選択、測定機器の選択及び機器と試料の間隔の最適化によって、散乱磁界が無視できること
【0073】
エ 最適な計数速度と同時に高いエネルギー分解能(環状セグメント式検出器絞り)のための検出器と試料の間隔の最適化、狭い空間上での三つの測定技術(NRA、RBS、PIXE)の組合せ、精密なイオン電流測定のために空間を完全に覆う形の二次電子抑制によって、測定精度が1/10%オーダーになり、検出限度がppmオーダーになること
【0074】
オ 例えば、統合された検出器保持部、(ビーム走査に代わる)真空内の試料マニュピレータ及び偏向ミラーを介した外部のテレセントリックカメラ観測部を備えた本発明による入力結合システムを用いた磁石と試料の間の減少した間隔によって、位置分解能のための磁気集束がμm範囲に向上されること
【0075】
カ 活性プロセスのインサイチュ測定のために試料、テレセントリック観測部及び試料マニュピレータが真空内で接触されること
【0076】
キ 検出器と試料の最小間隔(小さいイオンビーム直径)、小さい相対的な公差(精度)及び検出器と電気接触部のためのスペースのパラメータ空間が最適化されること
【0077】
以下において、本発明によるMeVに基づいたイオンビーム分析設備の具体的な実施例に基づき本発明を詳しく説明するが、これは、広い保護範囲を制限するものではない。本発明では、以下に述べる本設備の最適化された細部は、個々に用いるか、或いは本発明による入力結合システムと任意に組み合わせて用いることもできる。
【0078】
本発明の範囲内において、10~1,000nmの位置分解能によるMeVイオンに基づいたイオンビーム分析のための新たな構造が開発、提示された。この構成は、最新の産業製品を、取り扱いが簡単で、精度が高く、スループットが一日当たり40試料以上の信頼できる機器として組み合わせたものである。この構造は、イオンビーム分析のための四つの独立した部分である、真空システム、イオンビームの磁気集束部、試料観測・位置決め部及び検出器から構成される。散乱磁場又は顕著な振動を試料室内に持ち込むこと無く、約10-7ミリバールの真空を維持することに特別な注意を払った。
【0079】
試料室内において、数ナノメートルの範囲内の精度により圧電式精密試料マニュピレータを用いて固定されたビーム軸と、高分解能のテレセントリックカメラとを組み合せることが、試料の位置決めに関して信頼できるものにするとともに、実用的であることが分かった。高い深度分解能、1/10%範囲での精度及びppm範囲での検出限界によるトータルIBA分析を実現できるようにするために、帯電粒子とX線ビームのための三つの検出器を特別な絞りとストップフォイルと共に設置した。
【0080】
1%未満の目標とする測定精度を達成するためには、様々な部分の方向調整に関して0.1mm未満かつ0.5°未満の精度が必要であるので、この機器の設置及び調整は特別な挑戦課題であった。複数の位置での二つの精度段階による平面、オートレベルカメラ、レーザー及び調整ネジを用いた複数ステップが方向調整の成功に繋がった。最後の工程は、直接的なイオンビーム観測部を用いたビーム軸の周りの数μmによる磁石の方向調整を必要とし、それは、仕様で定められた約24分の1の縮小率を実現可能にした。シンチレーションガラス上のテストパターンを使用することが、ビーム位置と直径の計測を可能にした。
【0081】
更に、本発明による装置を一層明らかにする幾つかの図面を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】イオンビーム真空フィードスルー、試料観測部を受け入れる手段、例えば、ミラー、検出器を受け入れる手段及び試料運搬システムを受け入れる手段(ここでは、取付レール)を備えた、本発明による入力結合システムの実施構成の模式図。
図2】本入力結合システムの有利な実施例の部分図(左側はイオン集束レンズに繋がり、右側は試料保持部に繋がる。この実施例は、機械的に切り離すためにOリングパッキンを備えた複式継手を使用している。1:入力結合システム、2:イオンビームチューブ、3:真空測定室、4:二軸式真空継手、5:Oリングパッキン、6:測定室の内側)
図3】有利なポンプシステムの模式図(所要のポンプシステムは、速いポンプ排気と出来る限り振動の無い動作を実現できなければならない。そのために、バイパスが配備されており、その結果、ターボポンプを連続して運転できる。剛性の小さい真空コンポーネントの使用は、同じく有利には、振動の伝達を低減する。速いポンプ排気のために、0.1ミリバール未満の圧力を達成するために、ロータリーベーンポンプに対するバイパスが使用されている。その後、5*10-3ミリバールの真空を達成するために、バイパスを閉じることができる。)。
図4】a)シンチレーションフロートガラス上にクロムラインを備えたUSAF1951ホイールターゲットの1インチ×3インチポジ図(各ブロックは、大きさが小さくなる一列の三重線を有する。各トリプレットの線の間隔と線の幅は既知であり、従って、最も小さい弁別可能なライントリプレットがカメラ又はイオンビームの分解能を提供する。)。b)a)の拡大図。c)b)の拡大図(この画像は、中心から中心の距離が22ピクセルのラインペアを図示している。仕様によると、このトリプレット上に、mm毎に8つのラインペアが有る。従って、一つのラインペアが0.125mmの間隔を有し、ピクセルが5.68μmの空間幅に校正されている。)。
図5】a)絞りf/6によるUSAF1951テストパターンの詳細図(最良の場合、1/5グループ(ボックス)の第5エレメントのラインを弁別することができ、そのことは、19.7μmの空間分解能を生み出す。)。b)絞りと動作間隔に関する分解能グラフ。
図6】本発明による入力結合システムを備えたMeV分析設備の実施構成の模式図(左側:振動抑制テーブル上の集束磁石を伴ったμNRA構成、右側:試料、試料観測部及び検出器を伴った、入力結合システムとその上に配置された試料マニュピレータを備えた真空室の断面)。
図7】集束構成の素描図(イオンビームが右側から到来する。対物レンズ/絞り開口が大きさを規定する。四極磁石がビームを動く試料上に集束する。)。
【発明を実施するための形態】
【0083】
本発明による実施構成の技術構造は、三重式四極集束磁石、UHV測定室、振動減衰テーブル及び検出器構造を組み合わせたものである。これらの磁石は、光軸に沿って0.4Tまでの磁界を誘導する。これらは、1μmの精度で方向を調整することができる。磁石の製造業者は、最後の磁石と試料の間の間隔が160mmの場合に、1μmの大きさの点に対して、0.6nAのビーム電流を仕様として定めている。深度分解能が約100nmの場合の軽元素の良好な検出限界に関して、実際の限界を数100pAに定義している。従って、このイオンビーム部分が所要のビーム特性を提供する。
【0084】
本発明で提案する通り、頻繁に試料を交換する可能性、精密な角度方向調整要件及び小さいイオン特有の線量と組み合わせて、この精度範囲内において、技術的な構造を構築するには、本発明の範囲内において、以降μNRAとの名称で述べる、MeVイオン分析設備の新たな分析構成を開発することを必要とする。
【0085】
本発明の有利な実施構成のこの技術的な構造の個々のコンポーネントを詳しく説明する。以下のものが、それに属する。
a.ポンプシステムと振動抑制部
b.試料観測部
c.真空測定室とビームライン
d.磁気集束システム
e.試料又は試料マニピュレータの位置決め部
f.イオンビーム分析のための検出器システム
【0086】
a.ポンプシステムと振動抑制部
真空室のポンプシステムは、安定した試料表面と0.1keVを大きく下回るイオンエネルギー損失のために、5±2*10-8ミリバールの低いベース圧力を提供するように構成されている。同時に、速い試料交換と速いポンプ排気を実現できる。更に、このポンプシステムは、測定室内に散乱磁界と振動を誘導しない。そのために、本発明によるポンプシステムは、図2に図示されている通り、仕切弁と弾力的な構成部品によって分割された三つの部分を有する。
【0087】
これら三つの部分には、バッキング真空ポンプ、ターボポンプ及びμNRA室部分(真空測定室)が属する。これら三つの部分の各々は、安全な接近と簡単な保守のために真空計と排気弁を備えている。このポンプシステムは、試料室の側方のCF100ポートに設置されている。
【0088】
このロータリーベーンポンプは、先ず第一にポンプシステムの振動に対応している。このターボ分子ポンプ(ファイファー300M)は、完全に非接触形態で動作する磁気軸受と共に動作し、それによって、外部からの振動振幅が大幅に低減される。固い真空配管は、通常それらの振動を分析室内の試料に伝搬させる。この伝搬を軽減するために、本発明では、振動振幅を1μm以内に低減するために、剛性の小さい真空コンポーネントを設置している。
【0089】
このアプローチの成果を定量化するために、KEYENCE社の高精度レーザー変位計LK-H052を用いて、振動振幅を測定した。このストロークセンサーは、0.025μmの繰り返し精度、50μmのスポット径及び50kHzの測定周波数(最大限に検出可能な振動周波数が25kHz)で動作する。レーザーは、制振テーブルの傍の三脚に置いた。異なる点上にレーザーの位置を決めた場合、60秒の間に3百万個の地点での距離が記録された。真空システムの異なる場所において、1.6μmまでの振幅を実証することができた一方、試料の位置での振動が検出限界未満であった。
【0090】
b.試料観測部
試料観測部に関しては、カラーカメラFLEA3-FL3-U3-88S2CをTechspec(登録商標)の0.28倍テレセントリックレンズと共に180mmの動作間隔で8.8-MPixel-1/2.5インチ検出器と組み合わせた。これは、約23mm(1/2インチカメラ)の視野、±7mmの焦点深度及び0.03°未満のテレセントリシティを提供した。このテレセントリシティのために、試料が常に仮想的に正面から観測され、その結果、試料を回転した場合でも、視野全体に渡って全ての間隔が得られた。これは、シンチレータ上でビームの位置と大きさを発見し、カメラ画像上でその位置を保存して、巡ってきた距離を精密に知りつつ蛍光を発しない試料上にナビゲートすることを可能にした。
【0091】
試料交換後毎に、ビーム光学系の機械的な公差と変化が試料とイオンビームの位置決め精度を制限するので、カメラシステムを用いた位置の検証が必要である。ファーフィールド顕微鏡は、確かに、テレセントリックレンズよりも良好な空間分解能を提供できるが、本発明により選択された解決策は、より広い視野、より大きな焦点深度、テレセントリシティ及び明らかにより低いコストを提供した。このカメラは、先ずは外でテストし、その後真空測定室上に設置した。この設置時に、調整ネジが、設定された試料マニピュレータにおける試料の観測による傾斜、回転及び距離の設定を可能にした。
【0092】
テレセントリックカメラ構造は、先ずは検査スタンドにおいて、その後のビーム分解能テストにも使用される標準化された真空互換テストパターンを用いて校正した。最善の空間分解能が、入射角、対物レンズの絞り値、カメラの視野内でのテストパターン位置、テストパターンの照度及び対物レンズ正面とテストパターンの間の間隔から成るパラメータの検証によって発見された。この場合、テストパターン上の二つのレンズ中心間の間隔を二つの線の間のピクセル数と比較した結果、図3に図示されている通りのピクセル幅校正が得られた。名目上の5.5μm/ピクセルと比較すると、平均して、一つのピクセルが5.71±0.12μmに等しい。カメラの視野内におけるテストパターンの位置の変化は、この校正に対して影響せず、そのため、対物レンズのテレセントリシティの正しさが証明された。
【0093】
入射角、絞り開口、カメラ視野内でのテスト画像位置、テスト画像照度及びカメラ前面とテスト画像の間の距離(動作間隔)に関して、位置分解能を検査した。空間的な校正時と同様に、非垂直方向からの観測時の視野に渡る動作間隔の影響の外に、観測角が空間分解能に対して影響しないことも観測された。垂直方向からの観測に関しては、名目上の180mmの動作間隔に対して、177mmと185mmの間で、この動作間隔を変化させた。
【0094】
カメラのテスト画像の如何なる構成要素が依然として目で見分けられるのかを検査することによって、空間分解能を検出した。カメラのレンズ正面とテストパターンの間の間隔が180mmにおいて、19.7+0~2.1μmの最大限の完全開放時に、最善の空間分解能が達成された。180~183mmの間では、この分解能の無視できる低下しか生じなかった(図4を参照)。
【0095】
絞り開口を狭くした場合の空間分解能が10μmであるとの製造業者の言い分は、おそらく絞りを閉じた場合の照度が十分でなく、光の状況が悪い時のカメラの雑音が支配的になったために達成されなかった。残念ながら、光を感知するビーム検出器を損傷させる可能性が有るため、より強い照度はイオンビーム分析室内での利用を妨げた。
【0096】
c.真空測定室とビームライン
図5は、CATIAで設計して、最適化した真空測定室と、ビームラインの一部としてのビームチューブとを備えた、本発明の非常に有利な実施構成を図示している。この製作は、例えば、イオンビーム衝突角に関して、測定角と測定距離への影響に関連する点において公差が小さくなるように行われた。
【0097】
このビームガイド部は、CF100/316特殊鋼製真空部分から成り、試料からスイッチ磁石までの長さが約5mであった。これは、真空測定室と同じバッキングポンプとターボポンプを備え、1*10-8ミリバールのベース圧力を達成した。
【0098】
二つのファラデーカップと一つのビームプロフィールモニターをビーム診断のために設置した。第一の開口の後の制御磁石は、ビーム制御のための追加の柔軟性を提供する。
【0099】
真空測定室は、特殊鋼316から製作され、内側と外側から機械的に磨かれている。これは、18CFフランジと、フィールドスルーと、少なくとも一つの検出器と、試料観測部と、試料通路と、ビームチューブを真空測定室と柔軟に接続するために個々に構成された短いコンパクトな入力結合システムとを有する。
【0100】
ビームチューブと真空測定室を組み立てる時に、ビームライン及び検出器領域において散乱磁場を防止することに特別な注意を払った。磁場測定は、望ましくない磁場の重要な源として、真空計(Pfeiffer真空PKR360)、(電空式)バルブ調整駆動部及び磁気軸受式ターボ分子ポンプを示した。
【0101】
イオンビームに対する散乱磁場の影響と核反応生成物を抑制するために、ビーム中心ラインと測定室において、それぞれ10μT未満が得られるように、十分な間隔を提供するエキスパンダーフランジに、これらの装置を取り付けた。これらの磁場は、有効分解能が1μT(デジタル分解能0.01μT)の手持式磁気コンパスを用いて測定した。この散乱磁場は、ターボ分子ポンプに関する450mmの間隔と、真空計及び真空アクチュエータに関する200mmの間隔では、最早検出されなかった。
【0102】
このビームラインは、オートレベルカメラを用いて組み立てられて配置された。全てのフランジは、テーブル上のビームライン、磁石、開口及び試料室を含めて、理想的な軸の周りに±1mmで芯出しした(図5を参照)。
【0103】
この芯出し後に、調整ネジと、5mの距離から分散磁石の裏側に入射するレーザービームとを用いて、ビーム軸に対して10-4度の精度で測定室の方向を調整した。ビームチューブと真空測定室を取り付けた後、試料マニピュレータを測定室内に組み入れた。組立後に達成された精度は、次のステップにおいて、全ての部分をそれぞれの個別の微調整ネジを用いて微調整することを可能にした。
【0104】
ビームスポットの相対的な動きに関連する熱ドリフトは、夏の一週間に渡る周囲環境の測定によって評価した。空間温度の変動は、1K/時までのオーダーで確認された。最も急峻な勾配は、典型的には、10:00時~12:00時において観測された。8:00時~20:00時における全体的な温度変動は、2K以内に留まった。受け入れられる最大限の温度差は、全ての金属コンポーネントが熱平衡のために測定されるべき熱伝導度を提供するので、1Kである。この測定の結果、30~70%の範囲内の相対湿度の変化も得られた。湿度が引き起こす膨張を防止するために、保護構造全体に対して、専ら金属を使用した。
【0105】
長時間のイオンビーム測定のために、最後の絞りと試料(両方とも同じ制振テーブル上に配置されている)の間の位置変化を相対量として見做した。間隔の変化は、次の段落で考察する焦点の長さと比べて無視できるので、関係無かった。
【0106】
主要な問題は、支持構造の熱膨張によって誘発される垂直方向のシフトである。絞りがアルミニウム製レールの上に置かれる一方、試料は、特殊鋼から成る真空測定室内において、コバルト・クロム・ニッケル合金(Phynox登録商標)から成る試料マニピュレータ上に配置される。制振テーブルが、その上に取り付けられた全ての部分に対して同じシフトを引き起こすと仮定すると、150mmである、テーブル上方のビームラインの高さだけが関連する。1.0*10-5K-1の特殊鋼の熱膨張率だけ低い、2.3*10-5K-1のアルミニウムの熱膨張率を考慮すると、この高さにおける2μmの最大シフトが温度差が1Kの場合の上限として計算することができる。熱伝導を伴う実際の場合には、大幅により小さいビームスポットが実現されない限り、熱伝導効果を無視できると仮定される。
【0107】
d.磁気集束システム
高分解能のイオンビーム分析のためには、最小ビーム直径で最大イオン電流を提供するマイクロビームが必要である。この目的のためには、ビーム集束とビーム絞りが必要である。本発明のこの実施例では、最後の磁石鉄心と試料の間の間隔を123mmとして、10mmの孔を有する三つのオックスフォードマイクロビームOM-56から成る三重式四極磁石を設置した。
【0108】
特別な用途のためには、試料保持部をスライドさせることによって、100mmの最小間隔を実現することができるが、その場合には検出器の後調整が必要である。
【0109】
マイクロフォーカスは、集束ビームにより動作するので、仕様で定められた最大縮小率が線状焦点に関して約1/100であり、点状焦点に関して約1/25である場合に、1.2°までの衝撃角度分布が得られた(これに関しては、図6を参照)。これは、試料におけるプローブ深度と発射体のエネルギー損失の差を誘発するが、0.3°以下の典型的な値では、これは、通常、最終的な検出器サイズによって生じる幾何学的なばらつきと比べて無視できる。
【0110】
これらの磁石は、電圧3V及び電流100A以内、残留リップル10mA以内、ドリフト5ppm/K以内の二つの高安定電源ユニットによって動作させた。これらの電源ユニットを異なる極性とグループ分けで繋ぐことによって、垂直方向又は水平方向のライン又は丸いイオンビームスポットを生成することができる。
【0111】
一般的に、各磁石の軸方向の長さが100mmのために、各磁石に対する励起が全く異なる場合に試料の最大縮小係数が達成されることを考慮すべきである。それを相殺するために、中央の磁石を外側の二つの磁石と逆の極性に繋いで、この最終磁石を個別に駆動した。これらの磁石は、マイクロメートルネジの調整によって、それらの基板プレート(制振テーブル上のアルミニウム製レール)の基本設定に対して±1~2,000μm及び5°以内の尺度に設定した。
【0112】
稼働開始前に、各個別磁石を二つの極に繋いで、このマイクロメートルネジを用いて、それらの水平方向及び垂直方向のビーム変位と菱形焦点効果をゼロに低減することによって、全ての磁石をビーム軸に対して芯出しした。
【0113】
試料観測カメラと、3MeV及び約1nAの陽子ビームを照射されるシンチレーション性LiAlO2単結晶ターゲットとを使用して、試料上のビームスポットを観測した。次の段落で、最適な磁石電流と集束を精密に決定することを説明する。
【0114】
e.試料又は試料マニピュレータの位置決め部
真空内の試料マニュピレータは、試料の撮像を可能にした。この試料マニュピレータは、10nmの位置決め精度と1nmの位置分解能により、三軸において±25mmの操作範囲を提供する。この構造は、空間的な校正が不要であり、イオンビームが常に理想的なビーム軸内に留まることができ、磁石と試料のより短い間隔(走査磁石が無い)とより大きな走査範囲が達成されるので、イオンビーム走査と比べて複数の利点を提供する。
【0115】
他方において、非磁性材料、モーター、nm/秒からcm/秒の運動速度による約106の動的な運動範囲を有する複雑な試料マニュピレータが必要である。
【0116】
試料マニュピレータの直線的な運動は、圧電式モーターによって駆動される。取り扱い時の主要な利点は、組立中に強過ぎる力が加えられた場合に、モーターの損傷を防止する、圧電式モーターの過負荷耐性である。この試料マニュピレータは、テレセントリックカメラによって検証された、その内部位置センサーによって校正、基準設定した。
【0117】
試料マニュピレータの想定重量は、試料保持部を含めて300g~600g(150gモーター力)である。この重量許容範囲は、典型的な試料に関して選定したが、試料マニュピレータの対抗ばね(ここでは、450gの釣合い重り)を変えることによって、別の要件に合わせることができる。試料マニュピレータには、多数の小さい試料や幾つかの大きな試料に対応するために、自動芯出しアダプター上に様々な種類の試料保持部を設置することができる。
【0118】
回転角及び傾斜角は、試料保持部に取り付けられた鏡面仕上げで磨かれた試料からのレーザー反射によって方向調整した。この目的のために、レーザービームをスイッチ磁石の裏側に入射させた。このレーザービームは、5mの長さのイオンビームラインと2mmの絞りを通って真空測定室上を動いた後、試料保持部に取り付けられたミラーによって反射される。試料マニュピレータの傾斜角と回転角は、レーザーが100mmの間隔で定規の2mmの入口孔を通って逆反射されるまで調整した。この結果、±0.2°の角度方向調整精度となった。
【0119】
従って、イオンビーム衝突角の精度は同じであるが、検出器は、定規と検出器保持部の±1mmの相対的な向きの不確実性に起因する追加の不確実性を有する。イオンビーム衝突角におけるこの許容差は、0.1%のオーダーでの測定結果の偏差を引き起こす可能性が有る。
【0120】
更に、真空内で試料を直に電気的に接触させる試料マニュピレータシステム、例えば、オープン電池ユニットを使用した。試料面の前に触針を設置することは、接触点の直接的な観測及びビデオ撮影と試料への起こり得る作用とを可能にした。触針の方向に試料マニュピレータを動かすことは、1Ωのオーダーでの接触抵抗による確実な接触を引き起こす。検出器の角度への作用がほんの僅か(31mmまでの試料と検出器の間隔)となるように、mmスケールで試料マニュピレータ位置を制御することによって、接触圧力を変化させた。試料の追加的な電気接触が真空フィードスルーによって実現でき、このことは、電圧、電流及び周波数における柔軟性が高い多くのインサイチュ実験を可能にした。
【0121】
集束磁石電流を上昇させる最後の工程に関して、異なるグループのUSAF1951テスト画像を試料マニュピレータを用いて駆動した。これらの磁石電流を上昇させて、ビーム蛍光の大きさをテスト画像グループの既知のライン幅と比較した。金属製の部分以外に、最早光が見れなくなるまで、より小さいライングループを入手しようと努めた。この手順が水平方向と垂直方向のライングループに対して繰り返され、このことは、グループ間の最終的な違いのために、ビームの大きさの約5%の計測精度を生み出した。
【0122】
本方法は、それどころかカメラの光学的な分解能よりも小さいビーム点及び電流密度の高いビームに関するビームサイズの計測を実現可能にした。1200×1200μm2の対物レンズ絞りにより50×35μm2までの最小スポットサイズが計測された。それに対応して、1/24又は1/34の縮小率が達成された。
【0123】
f.イオンビーム分析のための検出器システム
NRA及びRBSに関して帯電粒子を検出するために、異なる粒子種を弁別するための反応角が165°である二つのシリコン検出器を設置した。検出器内に光によって誘発されるバックグラウンド信号は、測定中に全てのウィンドウを完全に覆うことによって防止された。FWHMが2μsの立ち上がり時間に対して11keV(或いは0.6μsに対して16keV)であり、大きさが50mm2であり、公称の活性的な厚さが100μmである高分解能の検出器が、約3.5MeVまでの陽子と約15MeVのアルファ線を検出した。第二の検出器の活性的な厚さが1,500μmであり、大きさが150mm2であり、FWHM分解能が1.4μsの立ち上がり時間に対して22keVであった。
【0124】
この第二の検出器は、入射光と約5MeV未満のアルファ線粒子をブロックするために、30nmのアルミニウムをコーティングされた、25μmの厚さのポリイミドから成るストップフォイルを備えている。両方の検出器は、計数速度と幾何学的な散乱を制限するために、165°の円環セグメントの形の絞りを備えることができる。この開口部は4mm又は1.5mmの開口を有する。検出器の残る空間角度は、例えば、高分解能の検出器における1.5mmの絞りに関して、空間角度が3.52±0.04分の1に縮小された全てのケースに関して、実験により7Li(p,α)4He反応を使用して、1%より良い精度に校正した。
【0125】
PIXE分析に関して、活性的な厚さが450μmのKETEK/AXAS-D型シリコン製ドリフト検出器で、放出されたX線ビームを計数した。4MeVまでの陽子と15MeVまでのアルファ線の入射帯電粒子をブロックするために、検出器は、厚さが200μmである1.2g/cm3のグラファイトフォイルと厚さが8μmであるベリリウムとを備えている。この検出器は、試料面内のポートから45°の角度で試料を観測した。試料までの間隔は、計数速度を最適化するために、30~200mmに設定することができる。この検出器は、高精細のWターゲット,Moターゲット及びYターゲットからのK線及びL線によって校正した。そのH係数(エネルギーに依存する感度)は、各RBS信号による正規化と組み合わせて、同じ試料によって計測した。
【0126】
イオンビーム分析による試料組成の定量分析は、粒子*Sr値の計測を必要とする。この値は、検出器の空間角度と入射イオンの電流及び電荷から構成される。このイオン電流は、ケースレー6487ピコアンペアメータを使用して、ソフトウェアログ収集と積分によって、0.1%よりも良い精度で測定された。収集した電荷における相対誤差は、イオンビームの衝突による二次電子の放出によって起こる。この二次電子を抑制するためには、それを試料に押し戻す電界が必要である。
【0127】
本構成に、周囲の構造に対する試料保持部の絶縁部を設置した。(金属製)試料保持部自体には、ピコアンペアメータの電源を使用して、地気に対してバイアスを加えた。このバイアス電圧方式は、全ての方向に対して作用するので、二次電子を最大限に抑制することが可能である。入射イオン電流を正しく測定するための二次電子の抑制は、3MeVの4Heビームを使用して、W試料に対してテストされる。発光可能な当該入射イオン電流は、異なる試料バイアスに対してピコ電流計を使用して測定される。この測定電流は、60V以上で安定し、このことは、二次電子の完璧な抑制を暗示しているが、このビームの安定性は、10%未満の精度に対しては十分ではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7