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特許7198322結合剤組成物、固着体及び固着体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】結合剤組成物、固着体及び固着体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/00 20060101AFI20221221BHJP
   C08L 101/08 20060101ALI20221221BHJP
   C08K 5/47 20060101ALI20221221BHJP
   C08K 5/405 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C23F11/00 C
C08L101/08
C08K5/47
C08K5/405
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021136553
(22)【出願日】2021-08-24
(62)【分割の表示】P 2019540844の分割
【原出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2022000541
(43)【公開日】2022-01-04
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2017170596
(32)【優先日】2017-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】川田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】清水 郁雄
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-005069(JP,A)
【文献】特開平10-195345(JP,A)
【文献】特開2007-169545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00- 17/00
C08L 1/00- 101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に硫黄原子を有する防錆剤、硬化促進剤、及びカルボキシル基含有重合体を含有する、無機フィラー又は有機フィラーを固着するための結合剤組成物であって、
前記無機フィラーが、ガラス繊維、ロックウール、カーボン繊維、粉末ガラス、ガラス粒子、鉱物粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記有機フィラーが、羊毛、セルロース、麻、ナイロン、ポリエステル、ナイロン微粒子、ポリエステル微粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記防錆剤が、チアゾール系防錆剤、ベンゾチアゾール系防錆剤、チアジアゾール系防錆剤及びチオウレア系防錆剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記カルボキシル基含有重合体を構成する全構造単位に対するカルボキシル基を含む構造単位の割合が50モル%以上であり、
前記カルボキシル基含有重合体が、水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体及び不飽和アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体由来の構造単位を有する、結合剤組成物。
【請求項2】
分子内に硫黄原子を有する防錆剤、硬化促進剤、及びカルボキシル基含有重合体を含有する、無機フィラー又は有機フィラーを固着するための結合剤組成物であって、
前記無機フィラーが、ガラス繊維、ロックウール、カーボン繊維、粉末ガラス、ガラス粒子、鉱物粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記有機フィラーが、羊毛、セルロース、麻、ナイロン、ポリエステル、ナイロン微粒子、ポリエステル微粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記防錆剤が、チアゾール系防錆剤、ベンゾチアゾール系防錆剤、チアジアゾール系防錆剤及びチオウレア系防錆剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記カルボキシル基含有重合体を構成する全構造単位に対するカルボキシル基を含む構造単位の割合が50モル%以上であり、
前記カルボキシル基含有重合体が、アクリル酸由来の構造単位を有する、結合剤組成物。
【請求項3】
架橋剤を更に含有する、請求項1又は2に記載の結合剤組成物。
【請求項4】
分子内に硫黄原子を有する防錆剤、硬化促進剤、及びカルボキシル基含有重合体を含有する、無機フィラー又は有機フィラーを固着するための結合剤組成物であって、
架橋剤を更に含有するか、あるいは、前記カルボキシル基含有重合体が水酸基を更に有し、
前記防錆剤が、チアゾール系防錆剤、ベンゾチアゾール系防錆剤、チアジアゾール系防錆剤及びチオウレア系防錆剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記カルボキシル基含有重合体を構成する全構造単位に対するカルボキシル基を含む構造単位の割合が50モル%以上であり、
前記カルボキシル基含有重合体が、水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体及び不飽和アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体由来の構造単位を有する、結合剤組成物。
【請求項5】
分子内に硫黄原子を有する防錆剤、硬化促進剤、及びカルボキシル基含有重合体を含有する、無機フィラー又は有機フィラーを固着するための結合剤組成物であって、
架橋剤を更に含有するか、あるいは、前記カルボキシル基含有重合体が水酸基を更に有し、
前記防錆剤が、チアゾール系防錆剤、ベンゾチアゾール系防錆剤、チアジアゾール系防錆剤及びチオウレア系防錆剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記カルボキシル基含有重合体を構成する全構造単位に対するカルボキシル基を含む構造単位の割合が50モル%以上であり、
前記カルボキシル基含有重合体が、アクリル酸由来の構造単位を有する、結合剤組成物。
【請求項6】
ガラス繊維、ロックウール、カーボン繊維、粉末ガラス、ガラス粒子、鉱物粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種の無機フィラーと、該無機フィラーを固着する請求項1~のいずれか一項に記載の結合剤組成物の硬化物と、を備える固着体。
【請求項7】
分子内に硫黄原子を有する防錆剤、硬化促進剤、及びカルボキシル基含有重合体を含有する結合剤組成物を無機フィラーに接触させて中間体を得る工程と、当該中間体を加熱する工程と、を備え、
前記無機フィラーが、ガラス繊維、ロックウール、カーボン繊維、粉末ガラス、ガラス粒子、鉱物粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記防錆剤が、チアゾール系防錆剤、ベンゾチアゾール系防錆剤、チアジアゾール系防錆剤及びチオウレア系防錆剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記カルボキシル基含有重合体を構成する全構造単位に対するカルボキシル基を含む構造単位の割合が50モル%以上であり、
前記カルボキシル基含有重合体が、水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体及び不飽和アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体由来の構造単位を有する、固着体の製造方法。
【請求項8】
分子内に硫黄原子を有する防錆剤、硬化促進剤、及びカルボキシル基含有重合体を含有する結合剤組成物を無機フィラーに接触させて中間体を得る工程と、当該中間体を加熱する工程と、を備え、
前記無機フィラーが、ガラス繊維、ロックウール、カーボン繊維、粉末ガラス、ガラス粒子、鉱物粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記防錆剤が、チアゾール系防錆剤、ベンゾチアゾール系防錆剤、チアジアゾール系防錆剤及びチオウレア系防錆剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記カルボキシル基含有重合体を構成する全構造単位に対するカルボキシル基を含む構造単位の割合が50モル%以上であり、
前記カルボキシル基含有重合体が、アクリル酸由来の構造単位を有する、固着体の製造方法。
【請求項9】
前記中間体が更に架橋剤を含む、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
分子内に硫黄原子を有する防錆剤、硬化促進剤、及びカルボキシル基含有重合体を含有する結合剤組成物を無機フィラーに接触させて中間体を得る工程と、当該中間体を加熱する工程と、を備え、
前記中間体が架橋剤を更に含有するか、あるいは、前記カルボキシル基含有重合体が水酸基を更に有し、
前記防錆剤が、チアゾール系防錆剤、ベンゾチアゾール系防錆剤、チアジアゾール系防錆剤及びチオウレア系防錆剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記カルボキシル基含有重合体を構成する全構造単位に対するカルボキシル基を含む構造単位の割合が50モル%以上であり、
前記カルボキシル基含有重合体が、水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体及び不飽和アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体由来の構造単位を有する、固着体の製造方法。
【請求項11】
分子内に硫黄原子を有する防錆剤、硬化促進剤、及びカルボキシル基含有重合体を含有する結合剤組成物を無機フィラーに接触させて中間体を得る工程と、当該中間体を加熱する工程と、を備え、
前記中間体が架橋剤を更に含有するか、あるいは、前記カルボキシル基含有重合体が水酸基を更に有し、
前記防錆剤が、チアゾール系防錆剤、ベンゾチアゾール系防錆剤、チアジアゾール系防錆剤及びチオウレア系防錆剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記カルボキシル基含有重合体を構成する全構造単位に対するカルボキシル基を含む構造単位の割合が50モル%以上であり、
前記カルボキシル基含有重合体が、アクリル酸由来の構造単位を有する、固着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合剤組成物、固着体及び固着体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維等に結合剤を付着させ、マット状に成形した耐熱性成形体が、住居や倉庫、装置や機器等の断熱材等として広く使用されている。上記結合剤としては、フェノール-ホルムアルデヒド結合剤が広く使用されている。しかし、フェノール-ホルムアルデヒド結合剤は、未反応のホルムアルデヒドが成形体に残留し、住居等の施工後にホルムアルデヒドが放出されるという問題がある。よって、ホルムアルデヒドを放出することがない結合剤が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリカルボキシポリマーとポリオールとを含有し、pHが3.5未満に調整されているガラス繊維用バインダー(結合剤)が、特許文献2には、ポリカルボン酸類と架橋剤と硬化促進剤とを含む無機繊維用水性バインダーが、それぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第6331350号明細書
【文献】特開2007-169545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2の段落0044にも記載されているように、pHの低い結合剤を用いた場合には、長期の使用により、製造設備が腐食されるという問題が生じることが知られている。このため、特許文献1等の低pHの結合剤は、実験室レベルでは良好な性質を示す可能性があるものの、実際の製造に応用しようとすると、問題が生じるおそれがある。
【0006】
また、特許文献2に記載の結合剤については、アンモニア水を用いることによりpHを調整し、製造設備の腐食を防止しているが、揮発したアンモニアの無害化処理やアンモニアを含む排水処理の面から、多量のアンモニア水を用いることは望ましくない。さらに、本発明者等による検討の結果、特許文献2に記載の結合剤を用いてガラス繊維等の成形体(固着体)を製造する場合には、固着体が黄変化し見栄えが悪くなる点や、硬化速度が遅い点について改善の余地があることが明らかとなった。
【0007】
そこで本発明は、製造設備の腐食、及び製造される固着体の黄変化が十分に防止され、且つ良好な硬化速度を得ることが可能な結合剤組成物、及びこれを用いた固着体を提供することを目的とする。また、本発明は、製造設備の腐食、及び製造される固着体の黄変化が十分に防止され、且つ良好な硬化速度を得ることが可能な固着体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、以下の[1]~[13]に示す発明を完成させた。
[1] 分子内に硫黄原子を有する防錆剤、及びカルボキシル基含有重合体を含有する結合剤組成物。
[2] 防錆剤が分子内に窒素原子を更に有する、[1]に記載の結合剤組成物。
[3] 防錆剤が、チアゾール系防錆剤、ベンゾチアゾール系防錆剤、チアジアゾール系防錆剤及びチオウレア系防錆剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、[2]に記載の結合剤組成物。
[4] カルボキシル基含有重合体が水酸基を更に有する、[1]~[3]のいずれかに記載の結合剤組成物。
[5] カルボキシル基含有重合体が、水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体及び不飽和アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体由来の構造単位を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の結合剤組成物。
[6] 無機フィラーと、該無機フィラーを固着する[1]~[5]のいずれかに記載の結合剤組成物の硬化物と、を備える固着体。
[7] 無機フィラーがガラス繊維又は粉末ガラスである、[6]に記載の固着体。
[8] 分子内に硫黄原子を有する防錆剤、カルボキシル基含有重合体、及び無機フィラーを接触させて中間体を得る工程と、当該中間体を加熱する工程と、を備える、固着体の製造方法。
[9] 防錆剤が分子内に窒素原子を更に有する、[8]に記載の製造方法。
[10] 防錆剤が、チアゾール系防錆剤、ベンゾチアゾール系防錆剤、チアジアゾール系防錆剤及びチオウレア系防錆剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、[9]に記載の製造方法。
[11] カルボキシル基含有重合体が水酸基を更に有する、[8]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12] カルボキシル基含有重合体が、水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体及び不飽和アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体由来の構造単位を有する、[8]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13] 無機フィラーがガラス繊維又は粉末ガラスである、[8]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造設備の腐食、及び製造される固着体の黄変化が十分に防止され、且つ良好な硬化速度を得ることが可能な結合剤組成物、及びこれを用いた固着体を提供することができる。また、本発明によれば、製造設備の腐食、及び製造される固着体の黄変化が十分に防止され、且つ良好な硬化速度を得ることが可能な固着体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書中、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。「(メタ)アクリル酸」等の他の類似表現においても同様である。
【0011】
<結合剤組成物>
本実施形態の結合剤組成物は、防錆剤及びカルボキシル基含有重合体を含有する。本実施形態の結合剤組成物はまた、必要に応じて、硬化促進剤、架橋剤、溶剤等のその他の成分を含有してもよい。以下、各成分について詳細に説明する。
【0012】
(防錆剤)
本実施形態の防錆剤は、分子内に硫黄原子を有する。分子内に硫黄原子を有する防錆剤を、後述するカルボキシル基含有重合体と組み合わせて結合剤組成物として固着体の製造に用いると、アンモニア水等の塩基によりpHを調整せずとも、鉄等から構成される製造設備の腐食を十分に防止することができる。さらに、製造される固着体の黄変化が十分に防止されるとともに、良好な硬化速度を得ることができる。
【0013】
分子内に硫黄原子を有する防錆剤の具体例としては、チアゾール、2-メルカプトチアゾリン、2,2’-ジベンゾチアゾルジスルフィド、ベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-アミノ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(ビスムチオール)、2-チオ酢酸-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ジチオ酢酸-1,3,4-チアジアゾール、1,3-ジメチル-2-チオウレア、1,3-ジエチル-2-チオウレア、1,3-ジブチル-2-チオウレア、1,3-ジイソプロピル-2-チオウレア、2-メルカプトイミダゾリン、L-システイン、L-シスチン、3-メルカプトプロピオン酸、3,3’-ジチオジプロピオン酸、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、ジベンジルジスルフィド、1,3-ベンゼンジチオール、1,4-ブタンジチオール、ベンゼンチオール、シクロヘキサンチオール、ジシクロヘキシルジスルフィド、アリルプロピルジスルフィド、2-メルカプトエタノール、2,2-ジチオジエタノール、オクタンチオール、3-(2-ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸等が挙げられる。これらの防錆剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
分子内に硫黄原子を有する防錆剤は、製造設備の腐食防止効果及び製造される固着体の黄変化防止効果を更に向上させる観点から、分子内に窒素原子を更に有する防錆剤であることが好ましく、チアゾール系防錆剤(チアゾール、2-メルカプトチアゾリン等)、ベンゾチアゾール系防錆剤(ベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2,2’-ジベンゾチアゾルジスルフィド等)、チアジアゾール系防錆剤(2-アミノ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、ビスムチオール等)又はチオウレア系防錆剤(1,3-ジエチル-2-チオウレア等)であることがより好ましい。
【0015】
防錆剤がメルカプト基、カルボキシル基、アミノ基等の、塩を形成し得る基を有する場合には、防錆剤は塩の形態であってもよい。防錆剤がメルカプト基又はカルボキシル基を有する場合には、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩等として用いることができる。また、防錆剤がアミノ基を有する場合には、例えば塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等として用いることができる。特に、防錆剤が水に難溶である場合には、塩の形態とすることにより、水への溶解性を向上させることができる。
【0016】
本実施形態の結合剤組成物における防錆剤の含有量は、結合剤組成物全量に対して、1~3000ppmであることが好ましく、10~2000ppmであることがより好ましく、20~1500ppmであることが更に好ましく、50~1000ppmであることが特に好ましい。防錆剤の含有量が上記所定の範囲内であることにより、製造設備の腐食防止効果及び製造される固着体の黄変化防止効果を更に向上させることができる。
【0017】
(カルボキシル基含有重合体)
カルボキシル基含有重合体とは、少なくともカルボキシル基を含む構造単位を有する重合体である。カルボキシル基を含む構造単位は、例えば、カルボキシル基含有単量体をラジカル重合させることにより得ることができる。カルボキシル基含有単量体とは、炭素-炭素二重結合と、カルボキシル基及びカルボキシル基の塩から選ばれる1つ以上の基を有する単量体である。
【0018】
上記カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、α-ヒドロキシアクリル酸、α-ヒドロキシメチルアクリル酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、2-メチレングルタル酸等の不飽和ジカルボン酸、及びこれらの塩等が挙げられる。中でも、カルボキシル基含有単量体は、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、これらの塩であることがより好ましく、アクリル酸、マレイン酸であることが更に好ましく、アクリル酸であることが特に好ましい。これらは、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0019】
カルボキシル基の塩とは、具体的にはカルボキシル基のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;鉄、アルミニウム等の遷移金属塩;アンモニウム塩;有機アミン塩等を表す。有機アミン塩としては、例えば、メチルアミン、n-ブチルアミン等のアルキルアミンの塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジプロパノールアミン等のアルカノールアミンの塩;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のポリアミンの塩等が挙げられる。
【0020】
上記カルボキシル基を含む構造単位は、カルボキシル基含有単量体をラジカル重合させることにより得られる構造単位であり、例えばカルボキシル基含有単量体がアクリル酸である場合、-CH-CH(COOH)-で表される構造単位をいう。
【0021】
カルボキシル基含有重合体は、水酸基を含む構造単位を更に有することが好ましい。水酸基を含む構造単位は、例えば、水酸基を有する単量体をラジカル重合させることにより得ることができる。カルボキシル基含有重合体が水酸基を含む構造単位を更に有すると、カルボキシル基と水酸基とのエステル化反応により、カルボキシル基含有重合体を架橋させることが可能となる。これにより、硬化後の固着体の機械強度をより向上させることができる傾向にある。
【0022】
水酸基を有する単量体としては、例えば、水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体、不飽和アルコール等が挙げられる。これらは、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、α-ヒドロキシメチルエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体としては、例えば、3-メチル-3-ブテン-1-オール、3-メチル-2-ブテン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-2-オール等の不飽和アルコールに、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加した化合物が挙げられる。より具体的には、ポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(3-メチル-2-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2-メチル-3-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(2-メチル-2-ブテニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(1,1-ジメチル-2-プロペニル)エーテル、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテルが挙げられる。
【0025】
不飽和アルコールの具体例としては、アリルアルコール、β-メタリルアルコール、イソプレノール、3-メチル-3-ブテン-1-オール、3-メチル-2-ブテン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-2-オール等が挙げられる。
【0026】
カルボキシル基含有重合体は、カルボキシル基を含む構造単位及び水酸基を含む構造単位以外のその他の構造単位を有していてもよい。その他の構造単位を与える単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等のアルキル(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート又はその塩等のアミノ基含有アクリレート;(メタ)アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド等のアミド基含有単量体類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;スチレン等の芳香族ビニル系単量体類;マレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系単量体類;3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体又はこれらの塩;ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸、メタリルホスホン酸等のホスホン酸基含有単量体類;(メタ)アクロレイン等のアルデヒド基含有ビニル系単量体類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール:ビニルピロリドン等のその他の官能基含有単量体類等が挙げられる。これらは、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
カルボキシル基含有重合体を構成する全構造単位(カルボキシルを含む構造単位とその他の構造単位の合計)に対するカルボキシル基を含む構造単位の割合は、50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることが更に好ましい。
【0028】
カルボキシル基を含む構造単位におけるカルボキシル基は、その一部又は全部が塩として存在していてもよい、すなわち塩の形態のカルボキシル基を含む構造単位を有していてもよい。塩の形態のカルボキシル基を含む構造単位を有するカルボキシル基含有重合体は、カルボキシル基含有単量体として上述の塩を用いる方法や、カルボキシル基含有重合体を合成した後に、塩基により中和する方法等により得ることができる。塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基;アンモニア;メチルアミン、n-ブチルアミン等のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジプロパノールアミン等のアルカノールアミン;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のポリアミンが挙げられる。なお、塩基としてアルカノールアミンを用いた場合には、アルカノールアミン由来の水酸基をカルボキシル基含有重合体に付与することができる。
【0029】
カルボキシル基含有重合体が、塩の形態のカルボキシル基を含む構造単位を有する場合のその割合は、カルボキシル基含有重合体を構成する全構造単位に対して、0.1~50モル%であることが好ましく、1~40モル%であることがより好ましく、5~30モル%であることが更に好ましい。
【0030】
カルボキシル基含有重合体が、水酸基を含む構造単位を有する場合のその割合は、カルボキシル基含有重合体を構成する全構造単位に対して、0.1~50モル%であることが好ましく、1~40モル%であることがより好ましく、5~30モル%であることが更に好ましい。
【0031】
カルボキシル基含有重合体の重量平均分子量(Mw)は、100~50000であることが好ましく、500~30000であることがより好ましく、1000~20000であることが更に好ましい。なお、重量平均分子量は後述する測定方法により測定することができる。
【0032】
カルボキシル基含有重合体は、カルボキシル基を有するので、水に溶解させた場合に、通常酸性を示す。特に、結合剤組成物を水溶液として調製する場合には、当該水溶液のpHが1以上5未満であることが好ましく、1.5以上4.5以下であることがより好ましく、2以上4以下であることが更に好ましい。
【0033】
本実施形態の結合剤組成物におけるカルボキシル基含有重合体の含有量は、結合剤組成物の固形分全量(すなわち溶剤を除く全量)を基準として、70~99.999質量%であることが好ましく、70~99.9質量%であることがより好ましく、80~99.5質量%であることが更に好ましく、85~99質量%であることが特に好ましい。
【0034】
カルボキシル基含有重合体としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には例えば、上述の単量体を含む単量体組成物を、水中、過硫酸ナトリウム等の重合開始剤及び次亜リン酸ナトリウム等の硬化促進剤の存在下で、加熱還流条件で重合させる、従来公知の溶液重合法等により製造されるカルボキシル基含有重合体を用いることができる。
【0035】
(その他の成分)
本実施形態の結合剤組成物は、製造される固着体の機械強度がより向上する傾向にあることから、硬化促進剤を含有してもよい。
【0036】
硬化促進剤としては、例えば、リン含有化合物、プロトン酸(硫酸、カルボン酸、炭酸等)、およびその塩(金属(アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、2B族、4A族、4B族、5B族等)塩、アンモニウム塩等)、金属(上記のもの)の、酸化物、塩化物、水酸化物およびアルコキシド等が挙げられる。リン含有化合物としては、例えば、次亜リン酸(塩)、亜リン酸(塩)、リン酸(塩)、ピロリン酸(塩)、ポリリン酸(塩)、有機リン酸(塩)等の酸基含有化合物(なお、これらの水和物も含まれる);トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド等の有機リン化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本実施形態の結合剤組成物が硬化促進剤を含有する場合のその含有量は、結合剤組成物全量に対して、0.1~20質量%であることが好ましく、0.2~10質量%であることがより好ましく、0.5~7質量%であることが更に好ましい。
【0038】
本実施形態の結合剤組成物は、製造される固着体の機械強度がより向上する傾向にあることから、架橋剤を含有してもよい。
【0039】
架橋剤は、製造される固着体の機械強度がより向上する傾向にあることから、分子量が1000以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましく、300以下であることが特に好ましい。
【0040】
架橋剤としては、一分子中に、水酸基及び/又はアミノ基を2以上有する化合物等を用いることができる。好ましい架橋剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のアルカンジオール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール等の(ポリ)オキシアルキレングリコール;グリセリン、ポリグリセリン、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール等の三価以上のアルコール;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のポリアミン;該ポリアミンにアルキレンオキシドが付加したポリオール等が挙げられる。
【0041】
本実施形態の結合剤組成物が架橋剤を含有する場合のその含有量は、例えば、上記カルボキシル基含有重合体に含まれる酸基100モル部に対して、1~50モル部であることが好ましく、5~40モル部であることがより好ましく、10~35モル部であることが更に好ましく、15~30モル部であることが特に好ましい。
【0042】
本実施形態の結合剤組成物は、操作性の観点から、溶剤を含む溶液状態の結合剤組成物であることが好ましい。溶剤としては、水及び/又は有機溶剤を含んでいてもよいが、水を含むことが好ましい。また、溶剤全量に対して、50質量%以上が水であることが好ましく、75質量%以上が水であることがより好ましく、溶剤全量が水であることが更に好ましい。なお、防錆剤等の成分が溶剤に難溶である場合には、分散液として用いてもよいが、無機フィラーに接触させる結合剤組成物の量が一定となるように、均一な溶液であることが好ましい。
【0043】
本実施形態の結合剤組成物が溶剤を含む場合のその含有量は、結合剤組成物全量に対して、例えば5質量%~90質量%とすることができる。
【0044】
上述の結合剤組成物は、無機フィラー又は有機フィラーの固着に好適に用いることができる。また、上述の結合剤組成物は、断熱材用結合剤組成物として好適に用いることができる。
【0045】
無機フィラーとしては、例えば、ガラス繊維、ロックウール、カーボン繊維等の無機繊維;粉末ガラス、ガラス粒子(ガラスビーズ)、鉱物粒子等の無機粒子(無機粉体)等が挙げられる。これらの中で、固着体が断熱材等として広く適用可能である点から、ガラス繊維又は粉末ガラスであることが好ましい。
【0046】
有機フィラーとしては、例えば、羊毛、セルロース、麻、ナイロン、ポリエステル等の有機物の繊維;ナイロン微粒子、ポリエステル微粒子等の有機物の粒子(有機物の粉体)等が挙げられる。
【0047】
<固着体>
本実施形態の固着体は、無機フィラーと、該無機フィラーを固着する上述の結合剤組成物の硬化物とを備える。無機フィラーとしては、上述のものを用いることができる。固着体は、例えば、後述する固着体の製造方法により製造することができる。
【0048】
<固着体の製造方法>
本実施形態の固着体の製造方法は、分子内に硫黄原子を有する防錆剤、カルボキシル基含有重合体、及び無機フィラーを接触させて中間体を得る接触工程と、当該中間体を加熱する加熱工程とを備える。分子内に硫黄原子を有する防錆剤、カルボキシル基含有重合体及び無機フィラーとしては、それぞれ上述のものを用いることができる。
【0049】
接触工程において、分子内に硫黄原子を有する防錆剤及びカルボキシル基含有重合体は、それぞれ別々に無機フィラーに接触させてもよく、これらを予め混合した後に無機フィラーに接触させてもよいが、操作性の観点から、分子内に硫黄原子を有する防錆剤及びカルボキシル基含有重合体を溶剤に溶解させた溶液として無機フィラーに接触させることが好ましい。当該溶液は、溶液状態の上述の結合剤組成物(単に「結合剤組成物」ともいう。)であってもよい。以下、結合剤組成物を無機フィラーに接触させる方法について説明する。
【0050】
結合剤組成物を無機フィラーに接触させる方法としては、例えば、無機フィラーを結合剤組成物に含浸させる方法、無機フィラーに結合剤組成物を散布する方法等が挙げられる。これらの中で、結合剤組成物の付着量を調節しやすい点から、無機フィラーに結合剤組成物を散布する方法が好ましい。なお、結合剤組成物の付着量とは、接触工程後に実際に無機フィラーに付着した結合剤組成物の量をいう。
【0051】
結合剤組成物の付着量は、無機フィラー100質量部に対して、固形分換算で1~40質量部であることが好ましく、1~30質量部であることがより好ましく、1~15質量部であることが更に好ましい。結合剤組成物の付着量が上記範囲であると、製造される固着体の機械強度が向上する傾向にある。
【0052】
加熱工程においては、中間体を加熱することにより、少なくとも中間体中のカルボキシル基含有重合体を硬化させて、全体として中間体を硬化させる。加熱工程における加熱温度及び加熱時間は、例えば100~300℃及び1~120分とすることができるが、操作性の観点から、低温短時間で行うことが好ましい。例えば、加熱温度は、120~250℃であることが好ましく、140~230℃であることがより好ましく、150~200℃であることが更に好ましい。また、加熱時間は、1~60分であることが好ましく、及び1~45分であることがより好ましく、1~30分であることが更に好ましい。本実施形態の固着体の製造方法によれば、従来の結合剤を用いた方法と比べて硬化速度が速いので、比較的低温短時間で所望の曲げ強度を有する固着体を得ることができる。
【実施例
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
<重量平均分子量の測定条件>
装置:東ソー製 HLC-8320GPC
検出器:RI
カラム:東ソー製 TSK-GEL G4000PWXL,G3000PWXL
カラム温度:40℃
流速:0.5ml/min
検量線:創和科学社製 POLY SODIUM ACRYLATE STANDARD
溶離液:リン酸二水素ナトリウム12水和物/リン酸水素二ナトリウム2水和物(34.5g/46.2g)の混合物を純水にて5000gに希釈した溶液
【0055】
<カルボキシル基含有重合体水溶液の固形分測定方法>
カルボキシル基含有重合体水溶液を150℃に加熱したオーブンに20分間放置して乾燥処理した。乾燥前後の重量変化から、固形分(%)を算出した。
【0056】
<pH測定方法>
純水を添加して固形分35%に調整して得られたカルボキシル基含有重合体水溶液(25℃調整)について、pHメーターによりpH値を測定した。
【0057】
<防食性の評価方法>
結合剤組成物50gをガラス製容器に入れ、穴の開いた圧延鋼板(グレート:SPCC-SD、サイズ:厚さ1mm、縦30mm、横30mm)をひも状テフロン(登録商標)で吊るして結合剤組成物中に浸漬させた。25℃、20日間静置した後、圧延鋼板の重量減量率を測定した。
なお、圧延鋼板の重量減少率は、実用性の観点から、0.5%未満である必要があり、0.1%未満であることが好ましく、0.09%未満であることがより好ましい。
【0058】
<曲げ強度の評価方法>
結合剤組成物100g、及び粒径50~93μmのガラスビーズ350gを十分に混合した。次に、離型処理した140mm×20mm×5mmの型枠に得られた混合物を押し入れて成型し、所定の硬化条件(温度、時間)に沿ってオーブン中で静置した。その後、デシケータに移し30分冷却することで曲げ強度用の試験片を得た。次に、JISK7171に準じ、2mm/minの試験速度で曲げ強度(MPa)を5回測定し、平均値を算出した。
なお、曲げ強度は、実用性の観点から、7MPa以上である必要があり、8MPa以上であると好ましく、9MPa以上であるとより好ましい。
【0059】
<黄色度の評価方法>
結合剤組成物100g、及び粒径0.35~0.50mmのガラスビーズ350gを十分に混合した。次に、離型処理した50mm×50mm×5mmの型枠に得られた混合物を押し入れて成型し、所定の硬化条件(温度、時間)に沿ってオーブン中で静置した。その後、デシケータに移し30分冷却することで黄色度測定用の試験片を得た。次に、JISK7373(反射モード)に準じ、日本電色工業社製の分光色差計(品番SE-2000)を用いて黄色度(YI値)を3回測定し、平均値を算出した。
なお、黄色度は、見栄えの観点から、15未満である必要があり、12未満であることが好ましく、10未満であることがより好ましい。
【0060】
<製造例1>
還流冷却機、攪拌機(パドル翼)及び温度計を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水 200gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、沸点まで昇温した。次いで攪拌下、沸点還流状態の重合反応系中に80質量%アクリル酸水溶液(以下「80%AA」と称する)400g(すなわち4.44mol)を180分間、50質量%ヒドロキシエチルメタクリレート(以下「50%HEMA」と称する)290.0g(すなわち1.12mol)を180分間、15質量%過硫酸ナトリウム水溶液(以下「15%NaPS」と称する)25.0gを195分間、45質量%次亜リン酸ナトリウム水溶液(以下「45%SHP」と称する)15.0gを18分間と更に続いて50.0gを192分間と2段階の供給速度で、それぞれ別々の供給経路を通じて先端ノズルより滴下した。それぞれの成分の滴下は、45%SHP以外は一定の滴下速度で連続的に行った。80%AAの滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を沸点還流状態に保持(熟成)して重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液に45%SHP 25.0gを投入することにより、カルボキシル基含有重合体(1)水溶液を得た。該水溶液の固形分値は51.5%、重量平均分子量(Mw)は6500だった。
【0061】
<製造例2>
還流冷却機、攪拌機(パドル翼)及び温度計を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水 400gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、沸点まで昇温した。次いで攪拌下、沸点還流状態の重合反応系中に80%AA 600g(すなわち6.66mol)を180分間、15%NaPS 25.0gを195分間、45%SHP15.0gを18分間と更に続いて50.0gを192分間と2段階の供給速度で、それぞれ別々の供給経路を通じて先端ノズルより滴下した。それぞれの成分の滴下は、45%SHP以外は一定の滴下速度で連続的に行った。80%AAの滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を沸点還流状態に保持(熟成)して重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液に45%SHP 25.0gを投入した。次に、ジエタノールアミン140g(AA中和率20%分)を別の供給経路を通じて先端ノズルより重合釜内に滴下することにより、カルボキシル基含有重合体(2)水溶液を得た。該水溶液の固形分値は52.8%、重量平均分子量(Mw)は7800だった。
【0062】
<製造例3>
還流冷却機、攪拌機(パドル翼)及び温度計を備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水400gを仕込み(初期仕込)、攪拌下、沸点まで昇温した。次いで攪拌下、沸点還流状態の重合反応系中に80%AA 600g(すなわち6.66mol)を180分間、15%NaPS 25.0gを195分間、45%SHP 15.0gを18分間と更に続いて50.0gを192分間と2段階の供給速度で、それぞれ別々の供給経路を通じて先端ノズルより滴下した。それぞれの成分の滴下は、45%SHP以外は一定の滴下速度で連続的に行った。80%AAの滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を沸点還流状態に保持(熟成)して重合を完結せしめた。重合の完結後、反応溶液に45%SHP 25.0gを投入した。次に、1,3-プロパンジオール 100g(すなわち1,3-プロパンジオールが重合体中のカルボキシル基に対して20mol%)を別の供給経路を通じて先端ノズルより重合釜内に滴下することにより、カルボキシル基含有重合体(3)水溶液を得た。該水溶液の固形分値は51.2%、重量平均分子量(Mw)は7800だった。
【0063】
<実施例1>
製造例1で得られたカルボキシル基含有重合体(1)水溶液に純水を添加して固形分35%に調整し、pH値を測定した。次に、防錆剤として2-メルカプトチアゾリンを100ppmの濃度となるように添加した。得られた結合剤組成物(水溶液)について、上記の測定方法により、防食性、曲げ強度及び黄色度を測定した。その結果を表1に示す。
なお、曲げ強度及び黄色度の評価における硬化条件は220℃/30分とした。
【0064】
<実施例2~10、比較例1~5>
表1に示す防錆剤を用いた他は実施例1と同様にして、防食性、曲げ強度及び黄色度を測定した。その結果を表1に示す。
【0065】
<比較例6>
防錆剤を用いずに、純水及びアンモニア水を添加して、固形分を35%、pHを7に調整した他は実施例1と同様にして、防食性、曲げ強度及び黄色度を測定した。その結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
<実施例11~16>
防錆剤の種類及び量を表2に示すように変更した他は実施例1と同様にして、防食性、曲げ強度及び黄色度を測定した。その結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
<実施例17~20>
曲げ強度及び黄色度の評価における硬化条件を表3に示すように変更した他は実施例1と同様にして、曲げ強度及び黄色度を測定した。その結果を表3に示す。
【0070】
<比較例7~10>
曲げ強度及び黄色度の評価における硬化条件を表3に示すように変更した他は比較例6と同様にして、曲げ強度及び黄色度を測定した。その結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
<実施例21、22>
表4に示すカルボキシル基含有重合体の水溶液を用いた他は実施例1と同様にして、防食性、曲げ強度及び黄色度を測定した。その結果を表4に示す。
【0073】
【表4】