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特許7198334電源電圧波形算出方法、回路連成磁界解析方法、プログラム及びプログラムを記録した記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】電源電圧波形算出方法、回路連成磁界解析方法、プログラム及びプログラムを記録した記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20221221BHJP
   G06F 30/367 20200101ALI20221221BHJP
   H02P 31/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/367
H02P31/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021198366
(22)【出願日】2021-12-07
(62)【分割の表示】P 2017252916の分割
【原出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2022033920
(43)【公開日】2022-03-02
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 健治
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-003971(JP,A)
【文献】特開2014-142701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/398
H02P 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微分方程式を数値的に解くための離散化データと、解析プロセスを制御するためのコイル電流波形データを含むコントロールデータからなる入力データを計算機に読み込ませるステップと、
前記入力データを用いて、前記計算機により、前記コイル電流波形データを強制電流とした過渡磁界解析を行うステップと、
電源回路における回路方程式を用いて、前記過渡磁界解析を行うステップで得られたコイル誘起電圧波形と、入力データとして用いた前記コイル電流波形データから電源電圧波形を前記計算機により算出するステップと、
を含む電源電圧波形算出方法。
【請求項2】
前記コイル電流波形データから電源電圧波形を前記計算機により算出するステップは、回路上の各点の電位を用いた回路方程式を用いてコイル電流波形から電源電圧波形を算出するステップを含む
請求項1に記載の電源電圧波形算出方法。
【請求項3】
さらに、前記計算機により算出された解析結果である前記電源電圧波形を記憶装置に記憶するステップと、
前記計算機により、前記解析結果を表示装置に表示するステップと、
を含む請求項1または2に記載の電源電圧波形算出方法。
【請求項4】
さらに、前記計算機により、前記電源電圧波形から電源電圧基本正弦波電圧成分またはPWM電圧波形を算出するステップを含む
請求項1または2に記載の電源電圧波形算出方法。
【請求項5】
微分方程式を数値的に解くための離散化データと、解析プロセスを制御するためのコイル電流波形データを含むコントロールデータからなる入力データを計算機に読み込ませるステップと、
前記入力データを用いて、前記計算機により、前記コイル電流波形データを強制電流とした過渡磁界解析を行うステ
ップと、
電源回路における回路方程式を用いて、前記過渡磁界解析を行うステップで得られたコイル誘起電圧波形と、入力データとして用いた前記コイル電流波形データから電源電圧波形を前記計算機により算出するステップと、
前記電源電圧波形から電源電圧基本正弦波電圧成分を前記計算機により算出するステップと、
前記電源電圧基本正弦波電圧成分を電源電圧波形として前記計算機により入力するステップと、
前記コントロールデータとして入力されたコイル電流波形の初期値を未知変数であるコイル電流の初期値として、前記計算機により回路連成磁界解析を行うステップと、
を含む回路連成磁界解析方法。
【請求項6】
前記コイル電流波形データから電源電圧波形を前記計算機により算出するステップは、回路上の各点の電位を用いた回路方程式を用いてコイル電流波形から電源電圧波形を算出するステップを含む
請求項5に記載の回路連成磁界解析方法。
【請求項7】
さらに、前記計算機により、少なくとも2タイムステップの過渡解析を実施した後に、三相交流ETF法による補正を1回行うステップを、
含む請求項5または6に記載の回路連成磁界解析方法。
【請求項8】
微分方程式を数値的に解くための離散化データと、解析プロセスを制御するためのコントロールデータからなる入力データを計算機に読み込ませる手順と、
前記入力データを用いて、コイル電流波形を強制電流とした過渡磁界解析を前記計算機により行う手順と、
電源回路における回路方程式を用いて、前記過渡磁界解析を行う手順で得られたコイル誘起電圧波形と、入力データとして用いたコイル電流波形データから電源電圧波形を前記計算機により算出する手順と、
を前記計算機に実行させるためのプログラム。
【請求項9】
前記コイル電流波形データから電源電圧波形を前記計算機により算出する手順は、回路上の各点の電位を用いた回路方程式を用いてコイル電流波形から電源電圧波形を算出する手順を含む
請求項8に記載のプログラム。
【請求項10】
さらに、前記電源電圧波形から電源電圧基本正弦波電圧成分を前記計算機により算出する手順と、
前記電源電圧基本正弦波電圧成分を、前記計算機により電源電圧波形として入力する手順と、
前記コントロールデータとして入力されたコイル電流波形の初期値を未知変数であるコイル電流の初期値として、前記計算機により回路連成磁界解析を行う手順と、
を前記計算機に実行させるための請求項8または9に記載のプログラム。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載のプログラムを記録した記録媒体。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源電圧波形算出方法、回路連成磁界解析方法、ならびにこれらの方法を実行するためのプログラム及びプログラムを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ等の電磁機器を駆動する磁場発生源として、磁石及びコイル電流がある。電磁機器に所定の動作をさせるためには、コイル電流波形を設計通りに流すことが望まれる。通常、電磁機器とそれを駆動する電源回路とを組み合わせた回路連成磁界解析においては、電源電圧波形を入力して、磁場を記述する磁気ベクトルポテンシャルに関する量ならびにコイル電流を未知変数とした解析が実行される。
【0003】
この場合、所望のコイル電流波形にするために、電源電圧波形の振幅や位相を調整することになる。しかし、これでは、数回の試行錯誤が必要になる。また、1回の計算に関しても、コイル電流波形が未知のため、定常のコイル電流波形を得るのに、多くの計算時間を要する。通常、定常解に到達するのに、100~数100ステップ程度の過渡解析が必要になるため、三次元解析では数日間の計算時間が必要になることもある。
【0004】
これを補助するために、所望のコイル電流波形を入力した磁界解析からコイル誘起電圧波形を平均磁気ベクトルポテンシャルの後退差分により求め、巻線抵抗とコイル電流により、コイル線間電圧波形を算出する方法がある(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】高橋則雄著 「磁気工学の有限要素法」 朝倉書店 (2013年) pp. 251-253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載された従来法では、所望のコイル電流波形を入力としたコイル線間電圧波形の算出にとどまっており、電源電圧波形の算出には至っていない。
また、定常場への収束を早める方法として、TP-EEC(Time Periodic-Explicit Error Correction)法または簡易TP-EEC法といった手法が知られているが、この方法を用いても、目的の定常場を求めるのに、ある程度の時間ステップによる過渡解析を必要とするため、定常場に達するまである程度時間がかかるという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、まず第一番目の問題(所望のコイル電流波形になるように電源電圧波形入力による回路連成磁界解析を数回試行錯誤的に実施する必要があるという問題)を解決するための電源電圧波形算出方法を提供することにある。また二番目の問題(電源電圧波形を最終決定した後のコイル電流波形の定常解を得るのにある程度時間を要する)を解決するために、回路連成磁界解析方法、ならびに上記両方法に関するプログラム及びプログラムを記録した記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本発明は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、本発明の電源電圧波形算出方法は、以下のステップ(a)~(d)から構成される。
(a)微分方程式を数値的に解くための離散化データと、解析プロセスを制御するためのコイル電流波形データを含むコントロールデータからなる入力データを計算機に読み込ませるステップ、
(b)入力データを用いて、計算機によりコイル電流波形データを強制電流とした過渡磁界解析を行うステップ、
(c)電源回路における回路方程式を用いて、過渡磁界解析を行うステップで得られたコイル誘起電圧波形と、入力データとして用いたコイル電流波形データから電源電圧波形を計算機により算出するステップ。
【0009】
また、本発明の回路連成磁界解析方法は、上記ステップ(a)~(c)に加えて,以下の(d)~(f)を含む。
(d)電源電圧波形から基本正弦波電圧成分を計算機により算出するステップ、
(e)電源電圧基本正弦波電圧成分を電源電圧波形として計算機により入力するステップ、
(f)コントロールデータとして入力されたコイル電流波形の初期値を未知数であるコイル電流の初期値として、計算機により回路連成磁界解析を行うステップ。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電源電圧波形算出方法によれば、所望のコイル電流波形を実現するための電源電圧波形を直接算出することができる。また、前述のステップ(a)~(d)はモータ設計プロセスで必ず実施する工程なので、電源電圧波形が決定した段階では、実質、前述のステップ(e)~(g)のみを実行すれば、最終的なコイル電流波形を求めることができる。したがって、本発明の回路連成磁界解析方法によれば、回路連成磁界解析による解析時間を短縮できるという効果がある。その結果、モータ等の電気機器設計開発のための設計開発を短期間化・低コスト化することが可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施の形態例を説明するためのフローチャートである。
図2】本発明の第2の実施の形態例を説明するためのフローチャートである。
図3】本発明の第3の実施の形態例を説明するためのフローチャートである。
図4】本発明を実装するための装置の概略構成図である。
図5】本発明の第4の実施の形態例を説明するためのフローチャートである。
図6】本発明の第5の実施の形態例を説明するためのフローチャートである。
図7】本発明の第1~第5の実施の形態例の解析対象を示す同期電動機のコイルと電源の関係を示す図である。
図8】従来法において、電源波形からコイル電流波形を安定化させる手順を示す波形図である。
図9】本発明の方法を用いた回路連成磁界解析から少ない補正回数で安定化したコイル電流波形を得る手順を示す波形図である。
図10】第5の実施形態例における補正を1回行った回路連成磁界解析から得られたコイル電流波形と補正を行わないコイル電流波形の違いを示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最初に、図1~3、図5~6に示す本発明の実施の形態例1~5について説明する前に、本発明の課題を解決するための数学的な根拠を従来法と比較して、図7図9を参照して説明する。
【0013】
<従来の回路連成磁界解析手法の説明>
図7は、同機モータを含む磁界解析領域100とモータコイル101ならびにモータコイル101に接続された電源回路200を示す。
【0014】
図7に示すように、同期モータを含む磁界解析領域100のモータコイル101(U、V、W)は、それぞれ抵抗RとインダクタンスLを介して、三相交流電源200(UV、VW、WU)に接続されている。
モータコイル101における設計上適正なコイル電流波形を実現するための電源電圧波形を高速に求めることが第一目的である。
【0015】
モータコイル101に流すコイル電流波形は、モータの運転特性を最適化する観点で、その波形が定まるのであるが、その際に、どのような電源電圧波形を供給すればよいかは事前にはわからない。そこで、従来法では、ユーザは、三相交流の電源電圧波形を仮設定して、定常のコイル電流波形を高速に求めるために三相交流TP-EEC法または三相交流簡易TP-EEC法という手法を採用していた。
【0016】
図8は、この三相交流TP-EEC法を用いてコイル電流波形を求める従来の方法を説明するための図である。図8Aに示すように、この従来の手法は、三相交流電源の電圧波形がベースになっている。図8Bは、図8Aに示した三相交流電源の電圧波形を電源200に加え、かつ三相交流簡易TP-EEC法による補正をしないときのコイル電流波形を示している。
これに対して、図8Cは、三相交流電源の電圧波形を元にした回路連成の過渡磁界解析において、三相交流簡易TP-EEC法により、電気角60°相当の時間間隔で3回補正した場合のコイル電流波形を示している。
【0017】
図8Bでは、三相交流簡易TP-EEC法による補正をしていないため、モータコイル101のコイル電流波形は、25ms後でも定常状態に達していない。しかし、図8Cに示すように、三相交流簡易TP-EEC法により3回の補正を行った場合には、5ms後にほぼ定常状態のコイル電流波形に達していることが分かる。図8Cのコイル電流波形が不連続に変化している箇所が、5msまでに3箇所認められるが、この不連続な変化点の3箇所が三相交流簡易TP-EEC法による3回の補正に対応している。
【0018】
<本発明の回路連成磁界解析手法の説明>
次に、図9を参照して、本発明の回路連成磁界解析手法を用いて、定常的なコイル電流波形を高速に求める手法について説明する。図9Aに示すように、本発明では、設計仕様で決めた三相のコイル電流基本正弦波波形から出発する点が従来の方法とは異なっている。後述するように電源電圧波形を基準にとると、コイル電流波形はこの基本正弦波波形からやや歪んだ波形になる。本発明の手法は、元のコイル電流波形から、図9Bに示すような電源電圧波形を直接求める。図9Bから分かるように、このとき、電源電圧波形はきれいな正弦波になっておらず、モータを構成する磁性体の非線形磁気特性により高調波成分を含んでいる。
【0019】
次に図9Bの電源電圧波形から高調波成分を取り除き、基本正弦波電圧成分を抽出する。その結果を図9Cに示す。
最後に、図9Cに示す電源電圧波形の基本正弦波電圧成分を使って回路連成磁界解析を実施する。図9B図9Cに示す電源電圧波形は互いに近い波形をしているので、この回路連成磁界解析で求まるコイル電流波形は、図9Aに示した元のコイル電流波形に近い波形になる。このため、この回路連成磁界解析においては、モータコイル101のコイル電流の初期値として、図9Aに示した元のコイル電流波形の初期値を用いることで、過渡解析の初期の段階で定常波形に近い波形を形成できる。より高精度な定常場を得たい場合は、さらにここで三相交流ETF(Error-correction Time-interval Flexible)法による補正を1回実施することで図9Dに示されるように初期の数ステップ目から(図9Dでは2ステップ目から)定常のコイル電流波形が得られる。
【0020】
図8に示す従来の方法と比べて、図9に示す本発明による回路連成磁界解析では、瞬時にコイル電流が定常状態になっていることが分かる。つまり、図8の従来法と比較して、本発明の手法を用いると、定常状態になるまでの過渡解析の時間ステップ数が大幅に削減されている。
【0021】
<回路方程式に基づいた回路連成磁界解析の説明>
以上、本発明の回路連成磁界解析法の原理の概略を説明したが、本発明では、最初にコイル電流波形の初期値を入力して通常の磁界解析を実施する点に特徴がある。回路系は回路理論により複数の基本ループで構成される。例えば、図7の例では、以下の3つの基本ループが形成されている。
(a)モータコイルU→抵抗R→インダクタンスL→電源WU→インダクタンスL→抵抗R→モータコイルWの基本ループ。
(b)モータコイルU→抵抗R→インダクタンスL→電源UV→インダクタンスL→抵抗R→モータコイルVの基本ループ。
(c)モータコイルV→抵抗R→インダクタンスL→電源VW→インダクタンスL→抵抗R→モータコイルWの基本ループ。
【0022】
このため、回路を流れる電流は複数の基本ループ電流Ik ioop(k=1~n 但し、ここではn=3)から形成され、電源電圧も複数の基本ループ電圧V loopで表現することができる。基本ループ電圧V loopは基本ループ電流I loopを用いて次式で求められる。
【0023】
【数1】
【数2】
【数3】
【0024】
ここで、式(1)の右辺の第1項は基本ループkにおける複数のコイル誘起電圧項、第2項は基本ループkにおける複数の抵抗による電圧降下量である。また、第3項は基本ループkにおける複数のインダクタンスによる電圧降下量である。図7に示すような、三相交流同期モータの回路連成磁界解析の場合、kは1~3である。
【0025】
また、式(1)におけるaは有限要素領域の辺jに割り当てられた磁気ベクトルポテンシャルに関する未知変数である。式(2)におけるR、Lは、回路上におけるk番目の抵抗及びインダクタンスであり、Tikはi番目の回路要素を流れる電流Iiとk番目の基本ループ電流Ik loopとを連結する行列で、行列成分は「+1」か「-1」か「0」の値を持っている。
【0026】
また、式(3)におけるNjは有限要素領域における辺jに関する辺要素ベクトル基底関数で、npはp番目のコイルの電流の向きを表す単位ベクトルである。i番目の回路要素を流れる電流Iiは、式(4)で表すことができる。
【0027】
【数4】
【0028】
基本ループ電圧Vk loopは基本ループkに電源が1個しかなければ、電源電圧そのものであり、複数の電源が存在していれば、向きを考慮した総和量になる。
図7に示す回路構成であれば、電源200(WU、VW、UV)の中の1個の電源がそれぞれの基本ループの電源に対応しているので、電源電圧は基本ループ電圧から直接算出される。
【0029】
但し、三相交流電源系のY結線において、中性点の連結線がない場合は、基本ループ上に2個の電源が存在することになる。しかし、この場合には、三相交流電源の総和電圧がゼロとみなせる場合、この条件式を用いて、基本ループ電圧から各電源の電圧を算出することができる。
【0030】
なお、式(1)は、回路上の基本ループ電流を用いた式であるが、本発明の連成磁界解析は、この式に限定されるものではなく、回路上の各点の電位を用いた回路方程式としてもよい。本発明のポイントは、回路方程式を解いてコイル電流波形から電源電圧波形を算出することにあり、用いる回路方程式の種類を限定するものではない。
【0031】
さらに、上記計算式で得られる電源電圧波形から基本波形成分の振幅及び初期位相を抽出し、これを回路連成磁界解析の入力電圧波形の主成分として、通常の磁界解析を行う。このとき、前述したコイル電流波形の初期値を磁界解析の初期値に用いる。
【0032】
図9で説明したように、この場合、得られるコイル電流波形は、元のコイル電流波形に近い波形になる。したがって、定常解に近いコイル電流波形の初期値から回路連成磁界解析を始めるので、定常解への収束が高速になり、定常解に到達できるまでの解析時間を大幅に短縮することが可能になる。
【0033】
さらに、少なくとも2タイムステップの過渡解析を実施後、1回の三相交流ETF法による補正を実施してもよい。ここでタイムステップとは、過渡解析における時間軸分割における1刻みを意味する。
【0034】
また、本発明に係る電源電圧波形算出法に関するプログラム、回路連成磁界解析に関するプログラムは、上記の一連のプロセスをコーディングすることを特徴としている。
【0035】
以下、図1~6を参照して本発明の実施の形態例について詳細に説明する。
<第1の実施の形態例の説明>
図1は、本発明の第1の実施の形態例の解析のプロセスを説明するためのフローチャートである。
図1に示すように、最初に、微分方程式を数値的に解くための離散化データ11(メッシュデータ)及び解析プロセスをコントロールするためのコントロールデータ12(コイル電流波形データを含む)から構成される入力データファイル10を計算機に読み込ませる(ステップS13、S14)。
【0036】
ここで離散化データ11(メッシュデータ)は、構造物(ここでは、図7の磁界解析領域にある同期モータ100をいう)を複数の有限個の要素(メッシュ)に分解したデータである。一般に解析空間の方程式は、連続では解くことができないので、メッシュに分割して解く有限要素法(FEM:Finite Element Method)という手法が用いられる。つまり、有限要素法とは、解析空間を分割して数値解析を行う手法であり、メッシュが細かいほど解析の精度は上がる。コントロールデータ12は、解析条件に関する入力データである。このコントロールデータの中には、コイル電流波形の初期値データが含まれている。
【0037】
これら入力データは、解析実行モジュール20に供給される。解析実行モジュール20は、これらの入力データを用いて、上記コイル電流波形を強制電流とした過渡磁界解析を実行する(ステップS21)。
【0038】
次に、タイムステップ毎に得られた未知変数ajの値を、式(1)に代入することにより、すべての基本ループ電圧波形を求めるプロセスを実行する(ステップS22)。そして、得られた基本ループ電圧波形から、電源電圧波形を算出する(ステップS23)。その後、得られた電源電圧波形を記憶装置3(図4参照)に記憶し(ステップS31)、この電源電圧波形を表示装置2(図4参照)に表示する(ステップS32)。
【0039】
上述の第1の実施形態例によれば、コントロールデータとして入力されたコイル電流波形の初期値から直接電源電圧波形を算出して、電源電圧波形を表示装置2に表示することができるので、ユーザは、電源電圧波形を直接把握することができる。
【0040】
<第2の実施形態例の説明>
次に、図2を参照して、本発明の第2の実施形態例について説明する。図2において、電源電圧波形を算出するプロセスであるステップS23までの処理は第1の実施形態例と同じなので説明は省略する。
【0041】
第2の実施形態例では、ステップS23で求めた電源電圧波形から基本正弦波電圧成分を算出している(ステップS24)。基本正弦波電圧成分は、ステップS23で求めた電源電圧波形から高調波を除くことで容易に算出することができる。ステップS23で得られた電源電圧波形及びステップS24で求めた基本正弦波電圧成分は、記憶装置3に記憶されるとともに(ステップ31)、表示装置2に表示される(ステップS32)。
【0042】
本発明の第2の実施形態例によれば,初期に入力したコイル電流波形から算出した電源電圧波形から、基本正弦波電圧成分を算出し、電源電圧波形とともに基本正弦波電圧成分を表示装置2に表示することができるので、ユーザは電源電圧波形と基本正弦波電圧成分をともに直接把握することが可能となる。
【0043】
<第3の実施形態例の説明>
次に、図3の解析プロセスを参照して、本発明の第3の実施形態例について説明する。この第3の実施形態例でも、電源電圧波形を算出するステップS23までは第1または第2の実施の形態例と同じあるから、その説明は省略する。
【0044】
第3の実施形態例では、ステップS23で求めた電源電圧波形からパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)電圧波形を算出する(ステップS25)。そして、ステップS23とステップS25で得られた電源電圧波形及びPWM電圧波形を記憶装置3に記憶し(ステップS31)、この電源電圧波形及びPWM電圧波形を表示装置2に表示する(ステップS32)。
【0045】
第3の実施形態例は、電源電圧波形の基本正弦波電圧波形の代わりに、PWM電圧波形を用いて以降の解析を行うものであり、例えば、数kHz~20kHzの搬送波を使ってPWM電圧波形を作ることができる。PWM電圧波形を使うとオンとオフの繰り返しでスイッチング制御を行うことができるので、多少のノイズは発生するものの、周波数の決まった基本正弦波電圧駆動に比べてモータの回転数制御がやりやすくなるというメリットがある。
【0046】
本発明の第1~第3の実施の形態例を実現する解析システムの一例を図4に示す。
図4に示すように、本発明の第1~第3の実施の形態例の解析システムは、計算機1、表示装置2、記憶装置3、及び入力装置4から構成される。
【0047】
図4では、記憶装置3は、それを明示するために計算機1の外に出しているが、計算機1の内部に設置してもよい。計算機1には、上述した第1~第3の実施の形態例の解析プロセスのうち、少なくともいずれか1つのアルゴリズムに基づくプログラムが格納されている。
【0048】
入力装置4は、例えばキーボードやマウスであり、この入力装置4から、前述した磁界解析領域のメッシュデータや、その他の操作に必要なコントロールデータを含む入力データが入力される。入力データが入力されると、計算機1は、格納されているプログラムに従い、入力データの読み取りやメッシュデータに関連した演算処理を実行する。そして、処理結果を表示装置2に表示し、あるいは、処理結果をデータファイルとして記憶装置3に記憶する。なお、得られた処理結果の全てではなく、その一部を表示したり記憶したりしてもよい。
【0049】
<第4の実施形態例の説明>
次に、図5に示す解析プロセスを参照して、本発明の第4の実施形態例について説明する。図5に示すように、電源電圧波形から基本正弦波電圧成分を算出するステップS24までのプロセスは第2の実施形態例と同じなので、その説明は省略する。
【0050】
ステップS24で求めた電源電圧波形の基本正弦波電圧成分は、電源電圧波形として計算機1(図4)に入力される(ステップS41)。計算機1は、コントロールデータとして入力したコイル電流波形の初期値を、これから求めるコイル電流(未知変数)の初期値として、回路連成磁界解析を実行する(ステップS42)。
そして、ステップS42で得られたコイル電流波形及びトルク波形等のモータ特性データを記憶装置3に記憶する(ステップS31)。このコイル電流波形及びトルク波形等のモータ特性データは表示装置2に表示される(ステップS32)。
【0051】
ここで、ステップS24で得られる電源電圧波形の基本正弦波電圧成分は、一般的に電源電圧波形に近い波形をしているので、回路連成磁界解析で得られるコイル電流波形もステップS14で用いられるコントロールデータ12に入力したコイル電流の初期値に近い波形をしている。
【0052】
このため、本発明の第4の実施形態例によれば,ステップS42で、未知変数であるコイル電流を、近似的なコイル電流の初期値から出発して回路連成磁界解析を実行できるので、従来法に比べて格段と高速に準定常解が得られる。
【0053】
<第5の実施形態例の説明>
次に、図6を参照して本発明の第5の実施形態例を説明する。
第5の実施形態例は、電源電圧波形の基本正弦波電圧成分を電源電圧波形として入力するプロセス41までは、第4の実施形態例と同じなので、その説明は省略する。
【0054】
上述したように、ステップS42では、コントロールデータに含まれるコイル電流波形の初期値を、求める未知変数であるコイル電流の初期値にして回路連成磁界解析を実行した。このステップS42において、タイムステップ1及びタイムステップ2では通常の回路連成磁界解析が実施される。この回路連成磁界解析におけるタイムステップ2が終了した段階で、時間微分項が解析に関与する三相成分(代表的には三相コイル鎖交磁束)に後述する三相交流ETF法による補正を施す(ステップS43)。
【0055】
図10は、第5の実施形態例の解析結果を示す図である。図10Aは、図6のステップS43の補正しない場合の例であり、図10Bは、ステップS43で2タイムステップ目の解析終了後に、三相交流ETF法による補正を1回実施した場合の例である。
図10Aの左図に示すように、元のコイル電流波形の初期値を用いた場合、もともと定常解に近い初期値から出発したことになるので、補正がなくともほぼ定常解に近いコイル電流波形が早期に得られる。
【0056】
図10の右側の図は、図10の左側の波形図のピーク付近を拡大して示した図である。この図10Aの右側の図を見ると分かるように、ステップS43の補正なしの場合、三相コイル電流の振幅誤差は±1.6%である。一方、図10Bの右側の図に示すように、三相交流ETF法による1回の補正を行った場合には、コイル電流の振幅誤差が±0.04%になり、さらに高精度の定常解を得ることができることが分かる。
【0057】
<三相交流ETF法の説明>
この三相交流ETF法は、既に特開2014-142701号公報「時間周期非線形場の解析方法及び時間周期非線形場の解析プログラム」に開示されている方法であるが、具体的には次式で示す補正を実施している。
【0058】
【数5】
【0059】
【数6】
【0060】
【数7】
【0061】
【数8】
【0062】
【数9】
【0063】
ここに、U、V、Wという記号は補正対象である三相成分を意味する量であり、Unew,Vnew,Wnewは補正後のU、V、Wの値である。dU、dV、dWは、それぞれタイムステップ1からタイムステップ2にかけてのU、V、Wの変動量である。また、dθは時間ステップ幅を電気角に換算した量である。なお、αは任意の値でよいが、通常は1/2の値が用いられる。
【0064】
以上、本発明の第1~第5の実施形態例を順に説明してきた。ここで説明した例はあくまで実施の形態例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載した内容を逸脱しない限りにおいて、他の応用例及び変形例を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0065】
1…計算機、2…表示装置、3…記憶媒体、4…入力装置、10…入力データファイル、11…離散化データ、12…コントロールデータ、20 …解析プロセス、100…同期モータを含む磁界解析領域、101…モータコイル、200…電源
図1
図2
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図4
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図6
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図10