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特許7198340ホルダ、切削工具、切削加工物の製造方法及びデータの収集方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】ホルダ、切削工具、切削加工物の製造方法及びデータの収集方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/00 20060101AFI20221221BHJP
   B23C 9/00 20060101ALI20221221BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20221221BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
B23B27/00 D
B23C9/00 Z
B23Q17/09 A
B23B51/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021502125
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006694
(87)【国際公開番号】W WO2020171157
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2019028711
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 重孝
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智春
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏和
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-004492(JP,U)
【文献】国際公開第2017/094531(WO,A1)
【文献】特開平02-041851(JP,A)
【文献】特開平10-225847(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102007036002(DE,A1)
【文献】国際公開第2018/029308(WO,A1)
【文献】特開2012-020359(JP,A)
【文献】国際公開第2015/011489(WO,A1)
【文献】特開2014-104578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00 ー 29/34
B23C 9/00
B23Q 17/09
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸に沿って、第1端から第2端に向かって延びた棒形状であって、
切刃を有するインサートを取り付けることが可能なポケットを有する金属部材と、
前記金属部材よりも前記第2端の近くに位置する第1樹脂部材と、
を有する本体と、
前記第1樹脂部材に覆われたアンテナ部材と、
前記アンテナ部材よりも前記ポケットの近くに位置して、前記アンテナ部材に有線接続され、且つ、前記本体の状態を測定することが可能なセンサと、
前記金属部材及び前記第1樹脂部材の間に位置して、前記第2端の側から平面透視した場合に、前記アンテナ部材を囲む環状の第2樹脂部材と、
を有するホルダ。
【請求項2】
前記本体は、前記金属部材及び前記第1樹脂部材で囲まれた空洞を有し、
前記アンテナ部材は、前記空洞に位置している、請求項1に記載のホルダ。
【請求項3】
前記アンテナ部材は、一対の主面を有する平板形状であって、
前記一対の主面が、前記中心軸に平行である、請求項1又は2に記載のホルダ。
【請求項4】
前記金属部材は、前記アンテナ部材から離れている、請求項1~3のいずれか1つに記載のホルダ。
【請求項5】
前記第1樹脂部材の硬度が、前記第2樹脂部材の硬度よりも高い、請求項1~4のいずれか1つに記載のホルダ。
【請求項6】
前記第2端の側から平面透視した場合に、前記第1樹脂部材は、前記第2樹脂部材よりも外周側に位置しており、前記中心軸に沿って前記第2端の側から前記第1端に向かって延びた1又は複数の貫通孔を有し、
前記貫通孔に挿入され、前記第1樹脂部材を前記金属部材に固定する1又は複数のネジ部材をさらに有する、請求項1~5のいずれか1つに記載のホルダ。
【請求項7】
前記本体は、
前記第2端に位置する端面と、
前記ポケット及び前記端面の間に位置する凹部をさらに有し、
前記センサは、前記凹部に位置している、請求項1~のいずれか1つに記載のホルダ。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1つに記載のホルダと、
前記ポケットに位置する前記インサートと、を有する切削工具。
【請求項9】
前記第1端の側から平面透視した場合に、
前記アンテナ部材は、前記切刃から離れている、請求項に記載の切削工具。
【請求項10】
前記第1端の側から平面透視した場合に、
前記切刃は、前記本体よりも第1方向に向かって突出しており、
前記アンテナ部材は、前記中心軸を基準として前記第1方向とは反対側に偏って位置している、請求項に記載の切削工具。
【請求項11】
被削材を回転させ、
回転している前記被削材に請求項10のいずれか1つに記載の切削工具を接触させ、
前記切削工具を前記被削材から離す、ことを備えた切削加工物の製造方法。
【請求項12】
被削材を回転させ、
前記被削材に請求項10のいずれか1つに記載の切削工具を接触させ、
前記センサが前記本体の状態を測定し、
前記センサにおいて測定された情報を、前記アンテナ部材を介して外部との間で無線通信する、ことを備えたデータの収集方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年2月20日に出願された日本国特許出願2019-028711号の優先権を主張するものであり、この先の出願の開示全体を、ここに参照のために取り込む。
【技術分野】
【0002】
本開示は、一般的には、被削材の切削加工において切削加工の状態を測定することが可能なホルダに関する。より具体的には、測定した切削加工の状態を外部との間で通信可能なホルダに関する。
【背景技術】
【0003】
金属などの被削材を切削加工する際に用いられる切削工具として、例えば特開2012-20359号公報(特許文献1)に記載の切削工具が知られる。特許文献1に記載された切削工具は、本体部、切削刃、センサ部、ケーブル部材及び通信部を備える。通信部がケーブル部材に着脱可能に接続されることによって、切削加工の状態を測定することが可能である。
【0004】
特許文献1に記載の切削工具においては、通信部がケーブル部材を介して本体部に接続される。そのため、通信部に電力を供給するための電源配線と併せて配線の数が増加し、配線の取り扱いが煩雑になる。
【発明の概要】
【0005】
本開示の限定されない態様に基づくホルダは、本体、アンテナ部材及びセンサを有する。本体は、中心軸に沿って、第1端から第2端に向かって延びた棒形状である。また、本体は、金属部材及び第1樹脂部材を有する。金属部材は、切刃を有するインサートを取り付けることが可能なポケットを有する。第1樹脂部材は、金属部材よりも第2端の近くに位置する。アンテナ部材は、第1樹脂部材に覆われる。センサは、アンテナ部材よりもポケットの近くに位置して、アンテナ部材に有線接続され、且つ、本体の状態を測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】限定されない一例の切削工具を示す斜視図である。
図2図1に示す切削工具の分解斜視図である。
図3図1に示す領域B1の拡大図である。
図4図1に示す切削工具を別の方向から見た斜視図である。
図5図1に示す切削工具を第1端に向かって見た平面図である。
図6図1に示す切削工具を第2端に向かって見た平面図である。
図7図5に示す切削工具をA1方向から見た側面図である。
図8図7に示す切削工具のVIII-VIII断面の断面図である。
図9図7に示す切削工具のIX-IX断面の断面図である。
図10図8に示す領域B2の拡大図である。
図11】限定されない一例の切削加工物の製造方法における一工程を示す概略図である。
図12】限定されない一例の切削加工物の製造方法における一工程を示す概略図である。
図13】限定されない一例の切削加工物の製造方法における一工程を示す概略図である。
図14】限定されない一例の切削加工の制御方法におけるフローを示すブロック図である。
図15】限定されない一例の切削加工の制御方法におけるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の限定されない複数の実施形態のホルダ1を有する切削工具101について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下で参照する各図では、説明の便宜上、各実施形態を説明する上で必要な主要部材のみが簡略化して示される。したがって、切削工具101は、参照する各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0008】
<切削工具>
切削工具101としては、例えば、旋削工具、転削工具及びドリルなどが挙げられ得る。旋削工具としては、外径加工用工具、内径加工用工具、溝入れ工具及び突っ切り工具などが挙げられ得る。転削工具としては、フライス工具及びエンドミルなどが挙げられ得る。
【0009】
限定されない実施形態の切削工具101は、ホルダ1及び切削インサート3(以下、単にインサート3とも言う。)を有してもよい。図1に示す限定されない一例における切削工具101は、旋削工具である。上記のように切削工具101が、転削工具又はドリルであっても何ら問題ない。
【0010】
限定されない実施形態のホルダ1は、本体5、アンテナ部材7及びセンサ9を有してもよい。限定されない実施形態における本体5は、第1端1aから第2端1bに向かって延びた棒形状であってもよい。一般的には、第1端1aが先端であり、第2端1bが後端である。図1に示す限定されない一例のように、本体5は、四角柱形状であってもよい。第1端1aから第2端1bに向かって延びた仮想直線を中心軸O1としたとき、本体5は、中心軸O1を有し、この中心軸O1に沿って延びているとも言える。
【0011】
本体5は、複数の部材によって構成されてもよい。例えば、図1に示すように、第1端1aの側に位置する金属部材11と、金属部材11よりも第2端の近くに位置する第1樹脂部材13とを有してもよい。金属部材11は、図1に示す限定されない一例のように第1端1aを含んでもよい。また、第1樹脂部材13は、図1に示す限定されない一例のように第2端1bを含んでもよい。
【0012】
第1樹脂部材13は、金属部材11に接してもよい。また、第1樹脂部材13及び金属部材11の間に別の部材が位置することによって、第1樹脂部材13が金属部材11から離れてもよい。第1樹脂部材13が金属部材11に接する場合において、第1樹脂部材13は金属部材11に接合されてもよく、また、単に当接していてもよい。
【0013】
本体5は、第1端面15、第2端面17、第1側面19、第2側面21、第3側面23及び第4側面25を有してもよい。第1端面15は、第1端1aに位置してもよい。第2端面17は、第2端1bに位置してもよい。
【0014】
第1側面19、第2側面21、第3側面23及び第4側面25は、それぞれ第1端1aから第2端1bに向かって延びてもよい。第2側面21は、第1側面19の反対側に位置してもよい。第3側面23及び第4側面25は、それぞれ第1側面19及び第2側面21の間に位置してもよい。第4側面25は、第3側面23の反対側に位置してもよい。第3側面23及び第4側面25は、それぞれ第1側面19及び第2側面21に対して直交してもよい。
【0015】
限定されない実施形態における金属部材11は、ポケット27を有してもよい。ポケット27には、切刃29を有するインサート3を取り付けることが可能である。ポケット27は、第1端1aの側に位置してもよい。図1に示す限定されない一例におけるポケット27は、第1端面15、第1側面19及び第3側面23に対して開口してもよい。
【0016】
インサート3は切刃29を有しており、切削加工時に被削材を切削する機能を有してもよい。図1に示す限定されない一例のように、インサート3は、四角板形状であって、第1面31及び第2面33を有してもよい。第1面31は、切屑が流れる第1領域31aを有してもよい。第1領域31aは、一般的にすくい面と呼ばれる。
【0017】
第2面33は、第1面31に隣接してもよい。第2面33は、被削材の加工面と対向する第2領域33aを有してもよい。第2領域33aは、一般的に逃げ面と呼ばれる。切刃29は、第1面31及び第2面33の交わりの少なくとも一部に位置してもよい。
【0018】
インサート3の第1面31は、図3に示す限定されない一例のように本体5の第3側面23に対して概ね平行に位置してもよい。言い換えれば、第1面31が、第1側面19及び第2側面21に対して概ね直交するように位置してもよい。この場合には、概ね第3側面23に直交する方向に切削工具101に対して主分力が加わり易い。
【0019】
なお、インサート3の形状は、上記の形態に限定されない。限定されない実施形態のインサート3は、第1面31の形状が四角形である四角板形状であってもよい。しかしながら、第1面31の形状は、例えば三角形、五角形又は六角形であってもよい。すなわち、インサート3は、例えば三角板形状、五角板形状又は六角板形状であってもよい。
【0020】
インサート3の大きさは特に限定されない。例えば、第1面31の一辺の長さは、3~20mm程度に設定されてもよい。また、第1面31に直交する方向で示されるインサート3の高さは、5~20mm程度に設定されてもよい。
【0021】
インサート3の材質としては、例えば、超硬合金及びサーメットなどが挙げられ得る。超硬合金の組成としては、例えば、WC-Co、WC-TiC-Co及びWC-TiC-TaC-Coが挙げられ得る。ここで、WC、TiC、TaCは硬質粒子であり、Coは結合相であってもよい。
【0022】
また、サーメットは、セラミック成分に金属を複合させた焼結複合材料であってもよい。具体的には、サーメットとして、炭化チタン(TiC)及び/又は窒化チタン(TiN)を主成分としたチタン化合物が挙げられ得る。ただし、インサート3の材質が上記の組成に限定されないことは言うまでもない。
【0023】
インサート3の表面は、化学蒸着(CVD)法、又は物理蒸着(PVD)法を用いて被膜でコーティングされていてもよい。被膜の組成としては、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)及びアルミナ(Al)などが挙げられ得る。
【0024】
本体5の大きさは特に限定されない。例えば、第1端1aから第2端1bまでの長さは、50~200mm程度に設定されてもよい。第1側面19及び第2側面21の間隔は、5~30mm程度に設定されてもよい。第3側面23及び第4側面25の間隔は、5~30mm程度に設定されてもよい。
【0025】
アンテナ部材7は、第1樹脂部材13に覆われてもよく、且つ、センサ9に接続されてもよい。センサ9で測定された本体5の情報がアンテナ部材7へと伝達され、アンテナ部材7において外部との間で無線通信され得る。
【0026】
限定されない実施形態におけるアンテナ部材7は、ケーブル部材によって本体5に接続されているのではなく、本体5の内部に位置する。そのため、センサ9及びアンテナ部材7を接続するケーブル部材が不要であり、ホルダ1の取り扱いが容易である。
【0027】
ここで、図2に示す限定されない一例のように、アンテナ部材7は、第1樹脂部材13に覆われた状態で本体5の内部に位置する。第1樹脂部材13は、第2端1bの近くに位置する。第2端1bは、ポケット27が位置する第1端1aの側とは反対側である。すなわち、第2端1bの近くに位置するアンテナ部材7は、第1端1aの側に位置するポケット27から大きく離れる。
【0028】
切削加工物を製造するための被削材の切削加工時において、切刃29で切屑が生じる。また、切刃29に向かって冷却液(クーラント)が噴射される場合がある。しかしながら、アンテナ部材7がポケット27から大きく離れている場合には、切屑の飛散及び冷却液の噴射による影響をアンテナ部材7が受けにくい。そのため、アンテナ部材7の耐久性が高い。
【0029】
さらに、単にアンテナ部材7がポケット27から大きく離れているだけでなく、アンテナ部材7が第1樹脂部材13に覆われる場合には、第1樹脂部材13がアンテナ部材7に対するカバーとして機能することが可能である。そのため、切屑の飛散及び冷却液の噴射による影響をアンテナ部材7が一層受けにくく、アンテナ部材7の耐久性がさらに高い。
【0030】
また、切削加工時にホルダ1に対して第1端1aの側から第2端1bの側に向かって切削負荷が加わる場合がある。例えば、図8に示すような切削工具101においては、第1端1aの側から第2端1bの側に向かって背分力が加わる場合がある。このような場合において、アンテナ部材7ではなく第1樹脂部材13によってホルダ1を支持することが可能である。そのため、ホルダ1の位置ずれが生じにくい。
【0031】
図6に示す限定されない一例のように、アンテナ部材7は、一対の主面7aを有する平板形状である。このようにアンテナ部材が平板形状である場合において、一対の主面7aが、中心軸O1に平行であってもよい。アンテナ部材7が上記のように位置している場合には、金属部材11などにおける無線通信の伝搬の損失が抑えられ易い。
【0032】
例えば、アンテナ部材7からの無線信号に指向性がある場合には、アンテナ部材7からの無線信号が一対の主面に直交する方向に進行し易い。また、アンテナ部材7からの無線信号が全方位に特性を持つ場合にも、金属が周囲にない状態が確保され易いためアンテナ特性が向上する。
【0033】
センサ9は、アンテナ部材7よりもポケット27の近くに位置している。センサ9は、本体5の表面上に位置してもよく、また、本体5の内部に位置してもよい。図2に示す限定されない一例のように、本体5の第1側面19が凹部35を有し、この凹部35内にセンサ9が位置している。具体的には、第1側面19におけるポケット27及び第2端面17の間に凹部35が位置している。
【0034】
本体5が凹部35を有し、この凹部35内にセンサ9が位置している場合には、センサ9が本体5の内部に位置する場合と比較して、本体5へのセンサ9の取り付けが容易である。また、センサ9が単に本体5の表面に位置する場合と比較して、切屑の飛散及び冷却液の噴射による影響をセンサ9が受けにくい。
【0035】
センサ9は、切削加工時における本体5の状態を測定することが可能な部材である。本体5の状態としては、例えば、温度、加速度、振動、ひずみ、内部応力及び損耗などの物理量が挙げられ得る。本体5の状態を測定するとは、本体5における上記に代表される物理量の少なくともいずれか1つの情報を測定することを意味する。また、測定の対象は、静的な状態での情報に限定されず、動的な状態での情報、すなわち、状態の変化であってもよい。
【0036】
例えば、測定対象の情報を温度とする。また、切削加工前の本体5の温度が20°であって、切削加工時に本体5の温度が80°に上昇したとする。このとき、切削加工前の本体5の温度である20°が、温度に関する静的な状態での情報である。また、20°から80°への本体5の温度の上昇が、温度に関する動的な状態での情報である。これらの情報のいずれか一方が測定されてもよく、また、両方が測定されてもよい。
【0037】
例えば、ホルダ1がセンサ9として熱電対を有している場合には、本体5の温度を測定することが可能である。ホルダ1がピエゾ素子を用いた圧電センサを有している場合にも、加速度、振動、ひずみ及び内部応力などを測定することが可能である。また、ホルダ1がセンサ9として機能する配線回路を有してもよい。具体的には、本体5の損耗に伴って配線回路が損耗し、この回路の抵抗値が変化した場合に、この抵抗値の変化によって本体5の損耗状態を測定してもよい。
【0038】
なお、センサ9で測定され得る本体5の状態は上記の物性値に限定されない。また、センサ9は上記の具体例に限定されず、上に例示した本体5の物性値を測定できるものであれば、特に記載していない他の素子を用いてもよい。例えば、カメラ及びマイクが挙げられ得る。
【0039】
また、本体5の状態を測定することによって、例えばインサート3の切刃29の状態を評価することが可能である。センサ9がアンテナ部材7よりもポケット27の近くに位置している場合には、インサート3の状態が高い精度で評価され易い。特に、センサ9からポケット27までの距離(第1距離L1)が、センサ9から第2端1bまでの距離(第2距離L2)よりも短い場合には、インサート3の状態がより高い精度で評価され易い。センサ9からポケット27までの距離が相対的に短いことによって、ポケット27に位置するインサート3の近くにセンサ9が位置することになるからである。
【0040】
ホルダ1は、カバー部材63を有してもよい。図8に示す限定されない一例のように、カバー部材63が凹部35の開口部に位置してもよい。カバー部材63がセンサ9の上に位置する、と言い換えてもよい。このようなカバー部材63をホルダ1が有する場合には、切削加工時にセンサ9が傷つきにくい。また、クーラントに対する防水性を有することができる。
【0041】
センサ9は、アンテナ部材7に有線接続されている。具体的には、限定されない実施形態のホルダ1は、センサ9及びアンテナ部材7を有線接続する接続部37を有している。接続部37としては、例えば、導体を用いた配線及び回路が挙げられ得る。なお、センサ9からアンテナ部材7への情報の伝達は、上記に限定されず、例えば、光配線を用いて行われてもよい。
【0042】
ポケット27から第2端1bまでの距離を第3距離L3としたとき、第2距離L2は、第3距離L3より長くてもよく、また、第3距離L3より短くてもよい。第2距離L2が第3距離L3よりも短い、すなわち、センサ9がポケット27よりも前記第2端1bの近くに位置する場合には、接続部37が必要以上に長くなりにくい。そのため、接続部37の劣化による耐久性の低下が避けられ易い。また、センサ9及びアンテナ部材7の接続状態が安定し易い。
【0043】
センサ9及びアンテナ部材7は、直接に接続されていてもよいが、例えば第1制御部39などを有するモジュール41を介して有線接続されていてもよい。モジュール41の構成の限定されない一例として、センサ9で測定された物理量に基づく第1信号43を検出する検出部45と、検出部45で検出された第1信号43を制御する第1制御部39と、第1制御部39によって制御された信号を第2信号47としてアンテナ部材7へと出力する出力部49とを有する構成が挙げられ得る。
【0044】
アンテナ部材7と無線通信を行う外部の部材が無線通信部51である場合においては、センサ9で測定された本体5の情報がアンテナ部材7から送信され、無線通信部51が受信する。無線通信部51が受信した本体5の情報は、評価部53へ伝達される。評価部53において本体5の状態が評価される。
【0045】
評価結果に基づいて、例えば、送り量、切込み量、被削材の回転速度、及び、冷却液(クーラント)の噴射量などの加工条件が変更されてもよい。また、場合によっては切削加工が停止されてもよい。なお、実施形態の限定されない一例における切削工具101は旋削工具であるが、切削工具101が転削工具又はドリルである場合には、変更され得る加工条件として切削工具101の回転速度も挙げられ得る。
【0046】
なお、上記における無線通信とは、アンテナ部材7から無線通信部51への情報の送信に限定されず、無線通信部51からアンテナ部材7への情報の送信を含む概念である。また、上記における無線通信とは、アンテナ部材7及び無線通信部51の双方向での情報の送受信であってもよい。
【0047】
金属部材11の材質としては、例えば、鋼、鋳鉄などが挙げられ得る。金属部材11の靭性を高める観点から、これらの材質の中で鋼が用いられてもよい。
【0048】
金属部材11及び第1樹脂部材13が接する場合において、本体5は、金属部材11及び第1樹脂部材13で囲まれた空洞61を有してもよい。そして、この空洞61にアンテナ部材7が位置してもよい。上記した背分力のように、切削加工時にホルダ1に対して第1端1aの側から第2端1bの側に向かって切削負荷が加わった場合において、アンテナ部材7へと伝わった切削負荷が上記の空洞61で解放され易い。そのため、アンテナ部材7が、金属部材11及び第1樹脂部材13によって押しつぶされにくい。
【0049】
また、アンテナ部材7は、金属部材11に接していてもよく、また、金属部材11から離れていてもよい。言い換えれば、金属部材11及びアンテナ部材7の間に隙間があってもよい。この隙間で上記した背分力が解放され易い。そのため、アンテナ部材7が、金属部材11及び第1樹脂部材13によって押しつぶされにくい。
【0050】
また、ホルダ1は、図2に示す限定されない一例のように第1樹脂部材13に加えて、第2樹脂部材55をさらに有してもよい。図2に示す限定されない一例のように第2樹脂部材55は、金属部材11及び第1樹脂部材13の間に位置してもよい。また、図6に示す限定されない一例のように第2樹脂部材55は、第2端1bの側から平面透視した場合に、アンテナ部材7を囲む環状であってもよい。
【0051】
上記のような第2樹脂部材55を有している場合には、アンテナ部材7及び第1樹脂部材13の間に、例えば冷却液などが入り込みにくい。そのため、アンテナ部材7が劣化しにくく、また、アンテナ部材7における外部との間での無線通信への影響が小さい。
【0052】
このとき、第1樹脂部材13の硬度が第2樹脂部材55の硬度より高くてもよい。第1樹脂部材13の硬度が相対的に高い場合には、第1樹脂部材13によってホルダ1を安定して支持し易い。また、第2樹脂部材55の硬度が相対的に低い場合には、第1樹脂部材13の形状を保ちつつ第2樹脂部材55が弾性変形することによって、アンテナ部材7の気密性が高められる。第1樹脂部材13及び第2樹脂部材55の硬度は、例えばロックウェル硬さ試験(JIS Z 2245:2016)を行うことで評価できる。
【0053】
第1樹脂部材13及び第2樹脂部材55は特定の樹脂に限定されない。例えば、これらの樹脂部材の材質として、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、シリコン樹脂及びエポキシ樹脂から選ばれる1つを用いてもよい。
【0054】
第1樹脂部材13は金属部材11に接着剤を用いて接合されてもよく、また、ネジ部材57を用いて固定されてもよい。第1樹脂部材13が接着剤を用いて金属部材11に接合されている場合には、アンテナ部材7の気密性が高められ易い。
【0055】
一方、第1樹脂部材13がネジ部材57を用いて金属部材11に固定されている場合には、例えばアンテナ部材7が劣化した場合などにおいて、アンテナ部材7の交換が容易である。図6に示す限定されない一例のように、第1樹脂部材13がネジ部材57によって金属部材11に固定されてもよい。
【0056】
具体的には、第1樹脂部材13は、中心軸O1に沿って第2端1bの側から第1端1aに向かって延びた1又は複数の貫通孔59を有してもよい。そして、ホルダ1が、貫通孔59に挿入され、第1樹脂部材13を金属部材11に固定する1又は複数のネジ部材57をさらに有してもよい。
【0057】
ここで、1又は複数の貫通孔59は、第2端1bの側から平面透視した場合に、第2樹脂部材55より外周側に位置してもよい。ネジ止めする際に生じる押圧力が第1樹脂部材13から第2樹脂部材55へと伝わり易い一方で、アンテナ部材7へは伝わりにくい。そのため、アンテナ部材7の気密性が高められ易く、かつ、アンテナ部材7が押しつぶされにくい。
【0058】
上記した通り、切削工具101におけるインサート3は切刃29を有してもよい。ここで、図5に示す一例のように、第1端1aの側から平面透視した場合に、アンテナ部材7は切刃29から離れてもよい。切削加工時において、切刃29で切削負荷が生じ、この切削負荷がホルダ1へと伝わる。ここで、第1端1aの側から平面透視した場合にアンテナ部材7が切刃29から離れている場合には、上記した背分力がアンテナ部材7へと伝わりにくい。そのため、アンテナ部材7の耐久性が高い。
【0059】
例えば、第1端1aの側から平面透視した場合に、切刃29が本体5よりも第1方向(図5における左方向)に向かって突出し、且つ、アンテナ部材7が中心軸O1を基準として第1方向とは反対側(図5における右側)に偏って位置する場合には、アンテナ部材7の耐久性がさらに高い。
【0060】
アンテナ部材7及びモジュール41に対しては、外部の電源から電力が供給されてもよく、また、ホルダ1がバッテリーを有し、このバッテリーから電力が供給されてもよい。外部の電源からアンテナ部材7に電力が供給される場合には、ホルダ1にバッテリーを搭載するスペースを確保する必要がない。
【0061】
また、バッテリーからアンテナ部材7及びモジュール41に電力が供給される場合には、例えば、上記の電源及びアンテナ部材7を電気的に接続するケーブル部材を工作機械に設ける必要がない。そのため、既存の工作機械が用いられ易い。
【0062】
<切削加工物の製造方法>
次に、限定されない実施形態の切削加工物の製造方法について図面を用いて説明する。
【0063】
切削加工物201は、被削材203を切削加工することによって作製され得る。限定されない実施形態における切削加工物201の製造方法は、以下の工程を備えてもよい。すなわち、
(1)被削材203を回転させる工程と、
(2)回転している被削材203に上記の限定されない実施形態に代表される切削工具101を接触させる工程と、
(3)切削工具101を被削材203から離す工程と、
を備えている。
【0064】
より具体的には、まず、図11に示すように、被削材203を軸O2の周りで回転させるとともに、被削材203に切削工具101を相対的に近付けてもよい。次に、図12に示すように、切削工具101における切刃を被削材203に接触させて、被削材203を切削してもよい。そして、図13に示すように、切削工具101を被削材203から相対的に遠ざけてもよい。
【0065】
限定されない実施形態においては、軸O2を固定するとともに被削材203を回転させた状態で切削工具101をY1方向に移動させることによって被削材203に近づけてもよい。また、図12においては、回転している被削材203にインサートにおける切刃を接触させることによって被削材203を切削してもよい。また、図13においては、被削材203を回転させた状態で切削工具101をY2方向に移動させることによって遠ざけてもよい。
【0066】
なお、限定されない実施形態の製造方法における切削加工では、それぞれの工程において、切削工具101を動かすことによって、切削工具101を被削材203に接触させる、あるいは、切削工具101を被削材203から離しているが、当然ながらこのような形態に限定されない。
【0067】
例えば、(1)の工程において、被削材203を切削工具101に近づけてもよい。同様に、(3)の工程において、被削材203を切削工具101から遠ざけてもよい。切削加工を継続する場合には、被削材203を回転させた状態を維持して、被削材203の異なる箇所にインサートにおける切刃を接触させる工程を繰り返してもよい。
【0068】
なお、被削材203の材質の代表例としては、炭素鋼、合金鋼、ステンレス、鋳鉄、又は非鉄金属などが挙げられ得る。
【0069】
<切削加工の制御方法>
次に、限定されない実施形態の切削加工の制御方法について図面を用いて説明する。
【0070】
上記した(2)の工程において被削材203を切削することにより、本体5の状態が変化する。例えば、切削加工時に切削工具101に対して切削負荷が加わるため、本体5が振動し、また、本体5にひずみ及び内部応力が生じる。また、切削加工を行うことによって本体5の温度が上昇し、また、切刃が損耗することによって本体5の振動モードが変化する。
【0071】
例えば、センサ9が熱電対である場合には、本体5の温度を測定できる。また、センサ9が圧電センサである場合には、本体5の振動、ひずみ及び内部応力を測定できる。このように、センサ9が本体5の状態を測定する測定手段を有している。
【0072】
センサ9において測定された情報は、センサ9からアンテナ部材7へと伝達されてもよい。すなわち、センサ9は、図14に示すように、測定された情報をアンテナ部材7へと伝達する第1伝達手段C1を有してもよい。センサ9から伝達された情報は、アンテナ部材7から外部へと送信されてもよい。すなわち、アンテナ部材7は、センサ9から伝達された情報を外部との間で無線通信する第2伝達手段C2を有してもよい。
【0073】
アンテナ部材7から外部へと送信された情報は、例えば、上記した無線通信部51において受信され、評価部53へと伝達されてもよい。評価部53へ伝達された情報が、予め測定された結果に基づく情報と比較され、本体5の状態が評価され得る。すなわち、評価部53は、本体5の状態を評価する第1評価手段を有している。
【0074】
上記により評価された本体5の状態が所定の条件を満たした場合に、送り量、被削材203の回転速度、及び、冷却液の噴射量などの加工条件が変更されてもよい。変更された加工条件が工作機械における第2制御部へ伝達されてもよい。すなわち、評価部53が、第1評価手段によって評価された結果に基づいて加工条件を評価する第2評価手段と、第2評価手段によって評価された変更後の加工条件を無線通信部51へと伝達する第3伝達手段C3と、を有してもよい。
【0075】
無線通信部51は、工作機械における第2制御部へと情報を伝達する第4伝達手段C4を有してもよい。この第4伝達手段C4によって、上記した変更後の加工条件が第2制御部へと伝達されてもよい。そして、図15に示すように、変更後の加工条件によって切削加工が継続される、或いは、切削加工が停止されてもよい。以上のプロセスにより、適切な加工条件で切削加工を行うことができる。
【0076】
また、評価部53は、切削工具101が被削材203から離されたか否かを評価する第3評価手段を有してもよい。上記した(3)の工程において、切削工具101が被削材203から離される。そのため、本体5の振動、ひずみ及び/又は内部応力がほぼ0になり得る。
【0077】
例えば、振動、ひずみ及び内部応力などに関する情報が一定時間、所定の強度を下回ったことによって、切削工具101が被削材203から離されたと評価されてもよい。
【0078】
切削工具101が被削材203から離されたと第3評価手段によって評価部53において評価された場合には、バッテリーの電力消費を抑えるため、アンテナ部材7及び外部の間での無線通信が一時的に停止されてもよい。例えば、無線通信部51から第2制御部へと無線通信を一時的に停止する信号が送信されることによって、アンテナ部材7及び外部の間での無線通信が一時的に停止されてもよい。
【0079】
また、上記の限定されない実施形態では、工作機械が、第1制御部39及び第2制御部の2つの制御部を有する構成について例示した。しかしながら、工作機械が、第1制御部39及び第2制御部の機能を有する1つの制御部のみを有する構成であっても何ら問題ない。
【符号の説明】
【0080】
101・・・切削工具
1・・・ホルダ
1a・・第1端
1b・・第2端
3・・・切削インサート(インサート)
5・・・本体
O1・・・中心軸
7・・・アンテナ部材
7a・・主面
9・・・センサ
11・・・金属部材
13・・・第1樹脂部材
15・・・第1端面
17・・・第2端面
19・・・第1側面
21・・・第2側面
23・・・第3側面
25・・・第4側面
27・・・ポケット
29・・・切刃
31・・・第1面
31a・・第1領域
33・・・第2面
33a・・第2領域
35・・・凹部
L1・・・第1距離
L2・・・第2距離
L3・・・第3距離
37・・・接続部
39・・・第1制御部
41・・・モジュール
43・・・第1信号
45・・・検出部
47・・・第2信号
49・・・出力部
51・・・無線通信部
53・・・評価部
55・・・第2樹脂部材
57・・・ネジ部材
59・・・貫通孔
61・・・空洞
63・・・カバー部材
101・・・切削加工物
103・・・被削材

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15