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特許7198344直流電源装置、モータ駆動装置、空気調和装置、冷蔵庫およびヒートポンプ給湯装置
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  • 特許-直流電源装置、モータ駆動装置、空気調和装置、冷蔵庫およびヒートポンプ給湯装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】直流電源装置、モータ駆動装置、空気調和装置、冷蔵庫およびヒートポンプ給湯装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20221221BHJP
   H02M 7/06 20060101ALI20221221BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20221221BHJP
【FI】
H02M3/155 W
H02M3/155 C
H02M3/155 P
H02M7/06 A
H02M7/48
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021506910
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2019011543
(87)【国際公開番号】W WO2020188769
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-02-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】田中 章斗
【合議体】
【審判長】林 毅
【審判官】山澤 宏
【審判官】田中 寛人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-007827(JP,A)
【文献】特開2018-064410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00- 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から出力される交流電圧を整流する整流回路と、
複数のリアクタ、複数のスイッチング素子および複数の逆流防止素子を有し、前記整流回路で整流された電圧を昇圧する昇圧回路と、
前記昇圧回路から出力される電圧である出力電圧を平滑化する平滑コンデンサと、
前記平滑コンデンサの両端電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部により検出された電圧が前記出力電圧の目標値以上の場合に、前記複数のスイッチング素子のデューティ比を0より大きく閾値以下のあらかじめ定められた値に決定し、決定した前記デューティ比に基づいて前記複数のスイッチング素子を制御する制御部と、
前記整流回路と前記昇圧回路との間を流れる電流を検出する一次電流検出回路
を備え、
前記制御部は、前記一次電流検出回路により検出された電流および前記電圧検出部により検出された電圧のうち少なくとも一方が異常範囲であるか否かによって異常を検出し、異常を検出した場合に前記複数のスイッチング素子の動作を停止させる直流電源装置。
【請求項2】
前記あらかじめ定められた値は、設定可能な最小値である請求項1に記載の直流電源装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の直流電源装置と、
前記直流電源装置から出力される直流電力を交流電力に変換してモータへ出力するインバータと、
を備えるモータ駆動装置。
【請求項4】
モータと、
前記モータを駆動する請求項に記載のモータ駆動装置と、
を備える空気調和装置。
【請求項5】
モータと、
前記モータを駆動する請求項に記載のモータ駆動装置と、
を備える冷蔵庫。
【請求項6】
モータと、
前記モータを駆動する請求項に記載のモータ駆動装置と、
を備えるヒートポンプ給湯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクタおよびスイッチング素子で構成される複数の直列回路が複数並列に接続された昇圧回路、を備える直流電源装置、この直流電源装置を備えるモータ駆動装置、空気調和装置、冷蔵庫およびヒートポンプ給湯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示される電源装置には、整流回路の出力が複数の電流経路に分岐され、リアクタおよびスイッチング素子で構成される複数の直列回路が互いに並列に設けられる。スイッチング素子がオフのときに、複数の直列回路のそれぞれに設けられたリアクタから出力される電流は、逆流防止ダイオードを介して平滑コンデンサに供給される。特許文献1に開示される電源装置では、スイッチング素子のデューディ比が調整されることで、平滑コンデンサから出力される電圧を昇圧させることができる。特許文献1に開示される電源装置では、複数の直列回路のそれぞれに設けられたスイッチング素子は、それぞれが異なる位相で駆動される。これにより、複数のスイッチング素子のそれぞれに流れる電流が抑制されるとともに、リアクタから出力される電流のリプル成分が抑制される。並列に接続された複数の直列回路を備え、並列に接続された複数の直列回路のそれぞれに設けられたスイッチング素子が異なる位相で駆動される昇圧回路は、一般に、インターリーブ方式の昇圧回路とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-195282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような、リアクタおよびスイッチング素子で構成される直列回路が複数並列に接続された昇圧回路では、昇圧の目標電圧を超える電圧が入力された場合には、昇圧動作を行う必要がないため、スイッチング素子のスイッチングデューティ比は0となる。スイッチング素子のスイッチングデューティ比が0となると、スイッチング素子のスイッチングによるアクティブな制御が行われなくなるため、昇圧回路は、パッシブ回路のようにふるまう。その際に、並列に複数接続された直列回路のリアクタ、およびインピーダンスの低い経路に電流が集中する。これにより、リアクタ、インピーダンスの低い経路上の電子部品、といった部品に異常発熱が生じる可能性があるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、部品の異常発熱を抑制することができる直流電源装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる直流電源装置は、交流電源から出力される交流電圧を整流する整流回路と、複数のリアクタ、複数のスイッチング素子および複数の逆流防止素子を有し、整流回路で整流された電圧を昇圧する昇圧回路と、を備える。また、直流電源装置は、昇圧回路から出力される電圧である出力電圧を平滑化する平滑コンデンサと、平滑コンデンサの両端電圧を検出する電圧検出部と、を備える。さらに、直流電源装置は、電圧検出部により検出された電圧が出力電圧の目標値以上の場合に、複数のスイッチング素子のデューティ比を0より大きく閾値以下のあらかじめ定められた値に決定し、決定したデューティ比に基づいて複数のスイッチング素子を制御する制御部と、整流回路と昇圧回路との間を流れる電流を検出する一次電流検出回路と、を備える。制御部は、一次電流検出回路により検出された電流および電圧検出部により検出された電圧のうち少なくとも一方が異常範囲であるか否かによって異常を検出し、異常を検出した場合に複数のスイッチング素子の動作を停止させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかる直流電源装置は、部品の異常発熱を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1にかかる直流電源装置の構成例を示す図
図2】実施の形態1のプロセッサを備える制御回路の構成例を示す図
図3】実施の形態1の直流電源装置の制御部における動作の一例を示すフローチャート
図4】実施の形態2に係るモータ駆動装置の構成例を示す図
図5】実施の形態3に係る空気調和機の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態にかかる直流電源装置、モータ駆動装置、空気調和装置、冷蔵庫およびヒートポンプ給湯装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる直流電源装置の構成例を示す図である。直流電源装置100は、単相交流電源である交流電源1から供給される交流電力を直流電力に変換した後、当該直流電力を昇圧して出力することが可能である。
【0011】
直流電源装置100は、突入電流を防止するための突入電流防止回路である突入防止回路3と、交流電源1と突入防止回路3との間に設けられ、交流電源1から出力される電流に重畳している高周波ノイズを低減するノイズフィルタ2と、を備える。直流電源装置100は、さらに、ノイズフィルタ2および突入防止回路3を介して交流電源1から出力される交流電圧を整流する整流回路4と、整流回路4で整流された電圧を昇圧する昇圧回路20と、昇圧回路20から出力される電圧を平滑化する平滑コンデンサ8と、を備える。直流電源装置100は、さらに、昇圧回路20の負側の端部に接続される一次電流検出用のシャント抵抗9と、整流回路4とシャント抵抗9との間に配され、電源電流である一次電流を検出する電流検出回路である一次電流検出回路10と、平滑コンデンサ8の両端電圧を検出する電圧検出部12とを備える。直流電源装置100は、さらに、昇圧回路20を制御する制御部11を備える。
【0012】
図1に示した直流電源装置100が、動作を開始すると、初期状態では平滑コンデンサ8には電荷が無いため、突入電流と呼ばれる電流が流れる。突入防止回路3は、突入電流による部品の破壊を防ぐために設けられる。交流電源1から供給される交流電力は、ノイズフィルタ2と突入防止回路3を介して整流回路4で全波整流され、昇圧回路20で昇圧されて平滑コンデンサ8で平滑される。
【0013】
昇圧回路20は、3つのリアクタ5と、3つのスイッチング素子6と、3つの逆流防止ダイオード7とを備える。1つのリアクタ5および1つのスイッチング素子6は1つの直列回路を構成する。図1に示した例では、直列回路が3つ並列に接続されているが、並列に接続される直列回路の数は3に限定されず、2または4以上であってもよい。すなわち、昇圧回路20は、複数のリアクタ5、複数のスイッチング素子6および複数の逆流防止ダイオード7を有していればよい。各直列回路の中点は、それぞれ逆流防止ダイオード7を介して、平滑コンデンサ8の正側電極に接続される。
【0014】
3つのリアクタ5それぞれは、例えば、高調波鉄損が小さいコアを用いることができるが、3つのリアクタ5のそれぞれのコアは、これに限定されない。3つのリアクタ5のそれぞれのコアは、直流電源装置100の回路構成、制御部11による制御方法、直流電源装置100の電力変換効率、直流電源装置100で発生する熱量と、直流電源装置100の重量、直流電源装置100の体積といった要素を考慮して選定されればよい。
【0015】
3つのスイッチング素子6のそれぞれは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。3つのスイッチング素子6のそれぞれは、コレクタまたはドレインがリアクタ5と逆流防止ダイオード7の間に接続され、エミッタまたはソースがシャント抵抗9に接続されている。
【0016】
3つの逆流防止ダイオード7のそれぞれは、逆流防止素子の一例である。逆流防止ダイオード7のアノードがリアクタ5とスイッチング素子6に接続され、カソードが平滑コンデンサ8に接続されている。
【0017】
シャント抵抗9は、一次電流検出用に設けられており、一端が、昇圧回路20の一端、具体的にはスイッチング素子6のエミッタまたはソースと接続される。シャント抵抗9の他端は、整流回路4の負側端子と平滑コンデンサ8の負側電極とを接続する接続線に接続される。一次電流検出回路10は、整流回路4の負側端子と平滑コンデンサ8の負側電極とを接続する接続線がシャント抵抗9と接続する接続点13と、整流回路4の負側端子との間に設けられる。これにより、一次電流検出回路10は、整流回路4と昇圧回路20との間を流れる電流を一次電流として検出する。一次電流検出回路10は、一次電流の検出結果を制御部11に出力する。
【0018】
平滑コンデンサ8は、整流回路4で全波整流され昇圧回路20で昇圧された電圧を平滑化する。平滑コンデンサ8の正側電極は、逆流防止ダイオード7のカソードと接続され、平滑コンデンサ8の負側電極は、シャント抵抗9および一次電流検出回路10に接続される。
【0019】
制御部11は、一次電流検出回路10と接続されるとともに、電圧検出部12に接続される。制御部11は、一次電流検出回路10から、一次電流の検出結果を取得し、電圧検出部12から、平滑コンデンサ8の両端電圧の検出結果を取得する。また、図示は省略しているが、制御部11は、各スイッチング素子6と接続されており、各スイッチング素子6のオンとオフを制御するPWM(Pulse Width Modulation)制御信号を各スイッチング素子6へ出力する。制御部11は、各スイッチング素子6が同時とならないように、具体的には各スイッチング素子6がオンとなる期間を互いにずらすようなPWM信号を生成する。
【0020】
また、制御部11は、昇圧回路20で昇圧される電圧である出力電圧が、該出力電圧の目標値であってあらかじめ定められた値である目標電圧となるように、目標電圧、一次電流の検出結果および電圧値に基づいて各スイッチング素子6のデューティ比であるスイッチングデューティ比を決定し、スイッチングデューティ比に基づいてPWM信号を生成する。昇圧回路20で昇圧された電圧が目標電圧となるような各スイッチング素子6のスイッチングデューティ比の決定方法は、一般的な方法を用いることができ、特に制約はないため、詳細な説明を省略する。
【0021】
制御部11は、処理回路により実現される。この処理回路は、プロセッサを備える制御回路であってもよいし、専用ハードウェアであってもよい。図2は、本実施の形態のプロセッサを備える制御回路の構成例を示す図である。制御回路200は、プロセッサ201と、メモリ202とを備える。プロセッサ201は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)である。メモリ202は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ等が該当する。
【0022】
図2に示す制御回路200により、制御部11が実現される場合、プロセッサ201がメモリ202に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、制御部11が実現される。また、メモリ202は、プロセッサ201が実施する各処理における一時メモリとしても使用される。
【0023】
上記の処理回路が、専用のハードウェアとして構成される場合、処理回路は、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものである。制御部11は、専用のハードウェアである処理回路と制御回路とが組み合わされて実現されてもよい。
【0024】
つづいて、本実施の形態の動作について説明する。リアクタおよびスイッチング素子で構成される直列回路が複数並列に接続された一般的な昇圧回路では、昇圧の目標電圧を超える電圧が入力された場合には、スイッチングデューティ比が0となる。スイッチングデューティ比が0になると、複数のリアクタ、およびインピーダンスの低い経路に電流が集中する。これにより、リアクタ、インピーダンスの低い経路上の電子部品、といった部品に異常発熱が生じる可能性がある。本実施の形態では、このような部品の異常発熱を抑制するため、以下に述べるように、制御部11が、平滑コンデンサ8の両端電圧の検出値(以下、単に電圧の検出値という)が目標電圧以上の場合、複数のスイッチング素子6のデューティ比を0より大きく閾値以下のあらかじめ定められた値に決定し、決定したデューティ比に基づいて複数のスイッチング素子6を制御する。このあらかじめ定められた値の一例は、規定された最小値である。すなわち、制御部11は、例えば、規定された最小のスイッチングデューティ比でスイッチング素子6を動作させる。これにより、本実施の形態の直流電源装置100は、複数のリアクタ5、およびインピーダンスの低い経路に電流が集中することを抑制する。このため、部品の異常発熱を抑制することができる。規定された最小のスイッチングデューティ比とは、例えば、直流電源装置100において設定可能な最小のスイッチングデューティ比である。すなわち、上記のあらかじめ定められた値の一例は、設定可能な最小値である。最小のスイッチングデューティ比は、例えば、スイッチング素子のスイッチング特性と回路仕様により生じる遅れ、例えばRCフィルタ、フォトカプラなどによる遅れ等により決まる。また、スイッチンス素子には、許容される最小パルス幅などの制約がある。最小のスイッチングデューティ比は、例えば、これらの制約を満たすように定められる。なお、以下では、平滑コンデンサ8の両端電圧の検出値が目標電圧以上の場合に、規定された最小のスイッチングデューティ比を用いる例を説明するが、最小に限定されず、例えば、閾値以下のスイッチングデューティ比であればよい。
【0025】
図3は、本実施の形態の直流電源装置100の制御部11における動作の一例を示すフローチャートである。初期状態では、制御部11は、全スイッチング素子6を停止させている。制御部11は、動作を開始する(ステップS1)と、一次電流および電圧の検出結果を取得する(ステップS2)。具体的には、制御部11は、一次電流の検出結果を一次電流検出回路10から取得し、電圧すなわち平滑コンデンサ8の両端電圧の検出結果を電圧検出部12から取得する。一次電流検出回路10および電圧検出部12は、検出結果を定期的に制御部11へ出力してもよいし、制御部11が、一次電流検出回路10および電圧検出部12へ検出結果の送信を指示することにより、一次電流検出回路10および電圧検出部12から検出結果を取得してもよい。
【0026】
制御部11は、一次電流および電圧のうち少なくとも一方が異常範囲内か否かを判断する(ステップS3)。異常範囲は、一次電流および電圧のそれぞれに関してあらかじめ定められている。異常範囲は、正常範囲外の範囲である。正常範囲の上限は、例えば、使用するパワーモジュール、コンデンサなどの耐圧の制約を満たす電圧に設定される。正常範囲の下限は、負荷側の電流耐量、突入電流耐量などに応じて設定される。例えば、運転中になんらかの原因で目標電圧まで昇圧できず、直流電圧が低下してしまった場合、インバータを含む負荷側の電流が大きくなり、電子部品などが故障するまたは性能が低下する可能性がある。また、運転中に直流電源に瞬停が生じて直流電圧が低下した後に、直流電源が復帰すると、大きな突入電流が流れる可能性がある。これらのことから、正常範囲の下限を設け、下限を下回る場合には異常と判断して運転を停止させる。図3の説明に戻り、一次電流および電圧のうち少なくとも一方が異常範囲内である場合(ステップS3 Yes)、制御部11は異常と判断し、スイッチング素子6の動作を停止する。すなわち、制御部11は、一次電流検出回路10により検出された電流、および電圧検出部12により検出された電圧のうち少なくとも一方に基づいて異常を検出し、異常を検出した場合に複数のスイッチング素子6の動作を停止させる。また、このとき、制御部11は、異常であることを外部に通知する、または図示しない表示部に表示するなどによって、ユーザに知らせてもよい。
【0027】
リアクタ5の断線、スイッチング素子6の故障等によって、昇圧回路20に欠相が生じることがある。欠相となった状態で昇圧動作が続けられると、直流電源装置100の後段に接続される負荷の大きさによっては平滑コンデンサ8に供給するエネルギーが不足し、負荷を連続稼働させることができなくなる可能性がある。例えば、直流電源装置100が空気調和機等に用いられる場合、空気調和機等の連続運転ができなくなることは、快適性、省エネ性を損なってしまう問題が発生する。このため、本実施の形態では、一次電流および電圧のそれぞれの異常範囲を欠相状態の場合と想定される範囲として定めておき、一次電流および電圧のうち少なくとも一方が異常範囲内の場合にスイッチング素子6の動作を停止されることにより、欠相となった状態で昇圧動作が続くことを防止する。
【0028】
また、後述するように、本実施の形態では、検出した電圧が目標電圧以上となっている状態でスイッチング素子6を動作させるので(後述するステップS7を経由したステップS6)、平滑コンデンサ8の両端電圧が目標電圧を超える電圧となる、または制御が安定しなくなり平滑コンデンサ8の両端電圧が目標電圧を下回る電圧となる可能性がある。電圧の異常範囲として、目標電圧より一定値以上高い範囲、および目標電圧より一定値以上低い範囲を定めておけば、ステップS7を経由したステップS6の後のステップS3でYesと判断され、スイッチング素子6を停止させることができる。
【0029】
一次電流および電圧の両方が、異常範囲内でない場合(ステップS3 No)、制御部11は、検出した電圧すなわち電圧検出部12の検出結果が、目標電圧未満であるか否かを判断する(ステップS4)。検出した電圧が目標電圧未満である場合(ステップS4 Yes)、制御部11は、目標電圧、検出した一次電流および電圧に基づいて、スイッチングデューティ比を決定する(ステップS5)。そして、制御部11は、決定したスイッチングデューティ比に基づいてPWM信号を生成してスイッチング素子6へ出力し(ステップS6)、ステップS2からの処理を繰り返す。
【0030】
検出した電圧が目標電圧以上である場合(ステップS4 No)、制御部11は、スイッチングデューティ比を、規定された最小のスイッチングデューティ比に決定し(ステップS7)、ステップS6の処理へ進む。このように、本実施の形態では、検出した電圧が目標電圧以上となっている状態で、スイッチング素子6を動作させるので、平滑コンデンサ8の両端電圧が目標電圧を超える電圧となる、または制御が安定しなくなり平滑コンデンサ8の両端電圧が目標電圧を下回る電圧となる可能性がある。しかし、上述したように、電圧の異常範囲を適切に定めておくことにより、上述したステップS3の判断によって、電圧が異常範囲であると判断され(ステップS3 Yes)、スイッチング素子6の動作が停止される。なお、通常運転時には、負荷側に電流が流れているため、スイッチング素子6をオフとすると、リアクタ5などに大きな電流が流れる可能性があるが、スイッチング素子6の動作が停止されている間は、スイッチング素子6をオフとしてもリアクタ5などに大きな電流が流れることはない。
【0031】
一般には、部品の異常発熱は、部品が故障するまで検知することが難しい。これは、次のような理由による。目標電圧を超える電圧が印加されると、昇圧回路は昇圧動作を行わないため、昇圧回路において並列に接続されたリアクタ、逆流素子ダイオードなどの部品のうち最もインピーダンスの小さい相に電流が偏って流れ発熱する。一般に、これらの部品の温度は制御上必要でないためこれらの部品の温度の上昇を検出することができない。したがって、部品の異常発熱は、部品が故障するまで検知することが難しい。また、部品の保護のためだけにサーミスタ、電流検出器などを追加すると、回路への部品追加が必要となりコストが増加する。これに対し、以上のように、本実施の形態の直流電源装置100は、検出した電圧が目標電圧以上である場合、規定された最小のスイッチングデューティ比でスイッチング素子6を動作させるようにしたので、複数のリアクタ5、およびインピーダンスの低い経路に電流が集中することを抑制する。このため、部品の異常発熱を抑制することができる。また、検出した一次電流または電圧が異常範囲内の場合には、スイッチング素子6を停止させるようにしたので、欠相となった状態で昇圧動作が続けることを防止することができる。
【0032】
実施の形態2.
図4は、実施の形態2に係るモータ駆動装置の構成例を示す図である。実施の形態2のモータ駆動装置101は、実施の形態1で説明した直流電源装置100を備える。モータ駆動装置101は、負荷であるモータ42を駆動する。モータ駆動装置101は、実施の形態1で説明した直流電源装置100と、インバータ41と、モータ電流検出部44と、インバータ制御部43とを備える。インバータ41は、実施の形態1で説明した直流電源装置100から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ42へ出力することにより、モータ42を駆動する。なお、以下では、直流電源装置100をインバータ41の電源として用いる装置の例としてモータ駆動装置101を例に挙げて説明するが、直流電源装置100をインバータ41の電源として用いる装置はモータ駆動装置101に限定されない。すなわち、インバータ41に接続される負荷は、交流電力が入力される機器であればよく、モータ42以外の機器でもよい。
【0033】
インバータ41は、IGBTをはじめとするスイッチング素子を、3相ブリッジ構成または2相ブリッジ構成とした回路である。インバータ41に用いられるスイッチング素子は、IGBTに限定されない。
【0034】
モータ電流検出部44は、インバータ41とモータ42との間に流れる電流を検出する。インバータ制御部43は、モータ電流検出部44で検出された電流を用いて、モータ42が所望の回転数にて回転するように、インバータ41内のスイッチング素子を駆動するためのPWM信号を生成してインバータ41へ印加する。インバータ制御部43は、実施の形態1の制御部11と同様に、処理回路により実現される。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態のモータ駆動装置101は、実施の形態1で説明した直流電源装置100を用いることにより部品の異常発熱を抑制することができる。また、検出した一次電流または電圧が異常範囲内の場合には、スイッチング素子6を停止させるため、モータ42の運転を停止させることができる。したがって、欠相となった状態で昇圧動作が続けることを抑制することができ、モータ42の連続運転ができなくなる現象を抑制することができる。
【0036】
実施の形態3.
図5は、実施の形態3に係る空気調和機の構成例を示す図である。図5に示すように、本実施の形態の空気調和機700は、実施の形態2で述べたモータ駆動装置101およびモータ42を備える。すなわち、空気調和機700は実施の形態1で述べた直流電源装置100を備える。空気調和機700は、圧縮機構87およびモータ42を内蔵した圧縮機81と、四方弁82と、室外熱交換器83と、膨張弁84と、室内熱交換器85と、冷媒配管86とを備える。空気調和機700は、室外機が室内機から分離されたセパレート型空気調和機に限定されず、圧縮機81、室内熱交換器85および室外熱交換器83が1つの筐体内に設けられた一体型空気調和機でもよい。モータ42は、モータ駆動装置101により駆動される。
【0037】
圧縮機81の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構87と、圧縮機構87を動作させるモータ42とが設けられる。圧縮機81、四方弁82、室外熱交換器83、膨張弁84、室内熱交換器85および冷媒配管86に冷媒が循環することにより、冷凍サイクルが構成される。なお、実施の形態2で述べたモータ駆動装置101およびモータ42を備える冷凍サイクル装置の一例として空気調和機700を例に説明したが、直流電源装置100を備える冷凍サイクル装置は空気調和機700に限定されず、冷蔵庫、ヒートポンプ給湯装置等であってもよい。
【0038】
また、以上説明した例では、圧縮機81の駆動源にモータ42が利用され、モータ駆動装置101によりモータ42を駆動する構成例を説明した。しかしながら、空気調和機700が備える不図示の室内機送風機および室外機送風機を駆動する駆動源にモータ42を適用し、当該モータ42をモータ駆動装置101で駆動してもよい。また、室内機送風機、室外機送風機および圧縮機81の駆動源にモータ42を適用し、当該モータ42をモータ駆動装置101で駆動してもよい。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態の空気調和機700は、実施の形態1で説明した直流電源装置100を用いることにより部品の異常発熱を抑制することができる。また、検出した一次電流または電圧が異常範囲内の場合には、スイッチング素子6を停止させるため、空気調和機700の運転を停止させることができる。したがって、欠相となった状態で昇圧動作が続けることを抑制することができ、空気調和機700の連続運転ができなくなる現象を抑制することができる。これによって、快適性、省エネ性を保つことができる。空気調和機700以外の冷凍サイクル装置に実施の形態1で説明した直流電源装置100を適用した場合にも、空気調和機700と同様の効果を奏することができる。
【0040】
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 交流電源、2 ノイズフィルタ、3 突入防止回路、4 整流回路、5 リアクタ、6 スイッチング素子、7 逆流防止ダイオード、8 平滑コンデンサ、9 シャント抵抗、10 一次電流検出回路、11 制御部、12 電圧検出部、20 昇圧回路、41 インバータ、42 モータ、43 インバータ制御部、44 モータ電流検出部、81 圧縮機、82 四方弁、83 室外熱交換器、84 膨張弁、85 室内熱交換器、86 冷媒配管、87 圧縮機構、100 直流電源装置、101 モータ駆動装置、700 空気調和機。
図1
図2
図3
図4
図5