(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】積層体、及び三次元賦形積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/28 20060101AFI20221221BHJP
B32B 27/04 20060101ALI20221221BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20221221BHJP
B29C 43/20 20060101ALI20221221BHJP
B29C 70/22 20060101ALI20221221BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20221221BHJP
B29K 105/04 20060101ALN20221221BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20221221BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20221221BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
B32B5/28 101
B32B27/04 Z
B32B27/32 E
B29C43/20
B29C70/22
B29C70/42
B29K105:04
B29K105:08
B29L9:00
B29K101:12
(21)【出願番号】P 2021511153
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003366
(87)【国際公開番号】W WO2020202754
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019069921
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊崎 健晴
(72)【発明者】
【氏名】水本 和也
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0020231(US,A1)
【文献】特開2014-227610(JP,A)
【文献】特開2008-207523(JP,A)
【文献】特開2015-083365(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052645(WO,A1)
【文献】特開2016-068324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 43/20
B29C 70/22
B29C 70/42
B29B 11/16,15/08-15/14
C08J 5/04-5/10,5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含み前記炭素繊維が長手方向に引き揃えられた一方向性繊維強化樹脂シートを縦糸及び横糸として含む織物を含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)と、熱可塑性樹脂の発泡体層(Y)とを、層(X)/層(Y)/層(X)の順の層構成で有し、
層(Y)の厚さ(y)と層(X)の厚さ(x)との比(y/x)が3~40であり、
層(Y)の密度が0.2~0.6g/ccであり、
層(X)と層(Y)とは部分的に融着または接着されている積層体。
【請求項2】
炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)に含まれる織物の開口率が0.01~20%である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
厚さが1~12mmである請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)に含まれるマトリックス樹脂(XA)と、発泡体層(Y)に含まれる樹脂(YA)とが同じ種類の樹脂である請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)に含まれるマトリックス樹脂(XA)と、発泡体層(Y)に含まれる樹脂(YA)とが何れもプロピレン系重合体である請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
発泡体層(Y)の発泡倍率が1.3~5倍である請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
輸送機器用途、家電装置用途及び建築用途から選ばれる用途の外装材に用いられる請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
積層体の長手方向を0°とした場合、炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)に含まれる織物の一方向性繊維強化樹脂シートの繊維の向きの角度が±30~±60°である請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1に記載の積層体を熱プレス加工することにより三次元形状を付与する三次元賦形積層体の製造方法。
【請求項10】
熱プレス加工がスタンピング法による加工である請求項
9に記載の三次元賦形積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元形状を付与した際に割れが発生しにくい積層体、そのような積層体に三次元形状が付与された三次元賦形積層体、及び三次元賦形積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂発泡体の外面に繊維補強された樹脂層を設けた複合積層構造体が知られており、この複合積層構造体は軽量でかつ面剛性の高いという特性を有する。例えば、特許文献1には、連続した強化繊維を一方向に整列させ熱可塑性樹脂を含浸した1枚以上のプリプレグと樹脂発泡体とを積層し、層間を熱接合した積層体が記載されている。また特許文献2には、繊維補強樹脂板を積層して成る積層体と樹脂発泡体との間に断熱層を設けた複合積層構造体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7‐178859号公報
【文献】特開平7‐112501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らが、特許文献1及び特許文献2に記載の積層体及び複合積層構造体に対して、三次元形状を付与しようとプレス成形しようとしたところ、積層体及び複合積層構造体に割れやしわが生じてしまったり、外縁部分において内側の層が外側の層に追従できず、内側の層が露出してしまったりする場合、すなわち追従性に劣る場合があることが分かった。
【0005】
すなわち本発明の目的は、三次元形状を付与した際に割れが発生しにくい積層体、そのような積層体に三次元形状が付与された三次元賦形積層体、及び三次元賦形積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の一方向性繊維強化樹脂シートの織物と特定の熱可塑性樹脂の発泡体とを用いることが非常に有効であることを見出し、本発明を完成した。即ち本発明は以下の構成を有する。
【0007】
[1]連続した炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含み前記炭素繊維が長手方向に引き揃えられた一方向性繊維強化樹脂シートを縦糸及び横糸として含む織物を含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)と、熱可塑性樹脂の発泡体層(Y)とを、層(X)/層(Y)/層(X)の順の層構成で有し、
層(Y)の厚さ(y)と層(X)の厚さ(x)との比(y/x)が3~40であり、
層(Y)の密度が0.2~0.6g/ccである積層体。
【0008】
[2]炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)に含まれる織物の開口率が0.01~20%である[1]に記載の積層体。
【0009】
[3]厚さが1~12mmである[1]に記載の積層体。
【0010】
[4]炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)に含まれるマトリックス樹脂(XA)と、発泡体層(Y)に含まれる樹脂(YA)とが同じ種類の樹脂である[1]に記載の積層体。
【0011】
[5]炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)に含まれるマトリックス樹脂(XA)と、発泡体層(Y)に含まれる樹脂(YA)とが何れもプロピレン系重合体である[1]に記載の積層体。
【0012】
[6]発泡体層(Y)の発泡倍率が1.3~5倍である[1]に記載の積層体。
【0013】
[7]輸送機器用途、家電装置用途及び建築用途から選ばれる用途の外装材に用いられる[1]に記載の積層体。
【0014】
[8]積層体の長手方向を0°とした場合、炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)に含まれる織物の一方向性繊維強化樹脂シートの繊維の向きの角度が±30~±60°である[1]に記載の積層体。
【0015】
[9][1]に記載の積層体に三次元形状が付与された三次元賦形積層体。
【0016】
[10]三次元賦形積層体の三次元形状を含む部分の断面における端点と端点の直線長さ(Ld)に対する断面周長(Lw)の比(Lw/Ld)の最大値が1.01~1.60である[9]に記載の三次元賦形積層体。
【0017】
[11]三次元賦形積層体の厚み方向に平面視した場合の三次元形状の投影面積(S)が100~3000mm2である[9]に記載の三次元賦形積層体。
【0018】
[12]三次元賦形積層体の厚み方向における三次元形状の深さ(N)が1~100mmである[9]に記載の三次元賦形積層体。
【0019】
[13]三次元賦形積層体の三次元形状における曲げ半径(R)の最小値が0.5~10.0mmである[9]に記載の三次元賦形積層体。
【0020】
[14][1]に記載の積層体を熱プレス加工することにより三次元形状を付与する三次元賦形積層体の製造方法。
【0021】
[15]熱プレス加工がスタンピング法による加工である[14]に記載の三次元賦形積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、三次元形状を付与した際に割れが発生しにくい積層体、そのような積層体に三次元形状が付与された三次元賦形積層体、及び三次元賦形積層体の製造方法を提供できる。
【0023】
特に本発明においては、一方向性繊維強化樹脂シートを縦糸及び横糸として含む織物を用いるので、織物を構成するシート間にわずかな可動域が生じ、この可動域が存在することにより割れない程度に三次元形状に追従可能となる。その結果、単一の一方向性繊維強化樹脂シート又は複数の一方向性繊維強化樹脂シートを積層融着したものに三次元形状を付与する場合と比較して、割れが発生しにくくなる。
【0024】
また、一方向性繊維強化樹脂シートの連続繊維として炭素繊維を用いるので、他の強化繊維(例えばガラス繊維)を用いた場合と比較して三次元形状に追従し易い。その結果、割れが発生しにくくなる。
【0025】
さらに、2つの炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)の間に熱可塑性樹脂の発泡体層(Y)を設けるので、層(X)間にわずかな可動域が生じ、この可動域が存在することにより割れない程度に三次元形状に追従可能となる。その結果、単一の一方向性繊維強化樹脂シート又は複数の一方向性繊維強化樹脂シートを積層融着したものに三次元形状を付与する場合と比較して、割れが発生しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】(a)は本発明の積層体の実施形態の層構成を説明する為の模式的斜視図であり、(b)はその模式的部分平面拡大図である。
【
図2】本発明の積層体の実施形態の模式的断面図である。
【
図3】本発明の三次元賦形積層体の三次元形状を例示する模式的断面図及び三次元形状の模式的平面図である。
【
図4】(a)は実施例及び比較例のプレス成形で使用した型の形状を示す模式的斜視図であり、(b)はそのA-A線の模式的断面図、(c)はそのB-B線の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)>
本発明において炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)を構成する一方向性繊維強化樹脂シートは、熱可塑性樹脂と炭素繊維を含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物である。
【0028】
炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物としては、特に、
融点及び/又はガラス転移温度が50~400℃の重合体(I)20~80質量%、及び
炭素繊維(C)20~80質量%
[但し(I)成分と(C)成分の合計を100質量%とする]
を含むことが好ましい。
【0029】
重合体(I)は融点及び/又はガラス転移温度が50~400℃の熱可塑性樹脂であれば良く、その種類は限定されない。ただし、炭素原子数2~20のオレフィン単位を含むポリオレフィンが好ましい。
【0030】
炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、プロピレンから導かれる構成単位を好ましくは50モル%以上含むプロピレン系樹脂(A)と、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含むプロピレン系樹脂(B)と、炭素繊維(C)とを含むことが好ましい。
【0031】
プロピレン系樹脂(A)は、重量平均分子量Mwが5万を超える成分(A-1)60質量%を超え、100質量%以下と、重量平均分子量Mwが10万以下の(A-2)成分0質量%以上、40質量%未満を含み(但し、(A-1)成分と(A-2)成分の合計が100質量%であり、その重量平均分子量Mwは(A-1)>(A-2)である。)を含むことが好ましい。また、プロピレン系樹脂(A)の重量平均分子量は、プロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量よりも大きいことが好ましい。プロピレン系樹脂成分(A-1)の好ましい含有率は、70質量%以上、100質量%以下である。プロピレン系樹脂(A)の融点もしくはガラス転移温度は、通常0~165℃である。融点を示さない樹脂を用いる場合もある。
【0032】
プロピレン系樹脂(A)100質量部に対してプロピレン系樹脂(B)の量は、好ましくは3~50質量部、より好ましくは5~45質量部、特に好ましくは10~40質量部である。プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)の合計の含有率は、炭素繊維束全体の中で好ましくは5~60質量%、より好ましくは3~55質量%であり、特に好ましくは3~50質量%である。
【0033】
炭素繊維束を構成する炭素繊維(C)としては、具体的には、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が力学特性の向上の観点から好ましく、強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がより好ましい。
【0034】
炭素繊維(C)としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が0.05~0.5である炭素繊維が好ましい。表面酸素濃度比[O/C]は、より好ましくは0.08~0.4、特に好ましくは0.1~0.3である。表面酸素濃度比[O/C]が0.05以上であることにより、炭素繊維(C)の表面の官能基量を確保でき、熱可塑性樹脂とより強固な接着を得ることができる。表面酸素濃度比[O/C]の上限には特に制限はないが、炭素繊維(C)の取扱い性、生産性のバランスから一般的に0.5以下が好ましい。
【0035】
炭素繊維(C)の表面酸素濃度比[O/C]は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めることができる。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。C1sピーク面積をK.E.として1191~1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積をK.E.として947~959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0036】
ここで表面酸素濃度比[O/C]は、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES-200を用い、感度補正値を1.74とする。
【0037】
表面酸素濃度比[O/C]を0.05~0.5に制御する手段は特に限定されない。例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理及び気相酸化処理などの手法をとることができる。中でも電解酸化処理が好ましい。
【0038】
炭素繊維(C)の平均繊維径は特に限定されない。ただし、力学特性と表面外観の点から、平均繊維径は好ましくは1~20μm、より好ましくは3~15μmである。炭素繊維束の単糸数は特に限定されない。通常は100~350,000本。好ましくは1,000~250,000本、より好ましくは5,000~220,000本である。
【0039】
プロピレン系樹脂(A)のうち、重量平均分子量が5万を超える成分(A-1)の重量平均分子量は、好ましくは7万以上、より好ましくは10万以上である。一方、重量平均分子量の上限値については特に規定されない。ただし、成形時の溶融流動性や後述する組成物成形体の外観の点から、その重量平均分子量は好ましくは70万以下、より好ましくは50万以下、特に好ましくは45万以下、最も好ましくは40万以下である。プロピレン系樹脂成分(A-1)とポリプロピレン系樹脂成分(A-2)との合計を100質量%とした場合、プロピレン系樹脂成分(A-1)の含有量は、好ましくは60質量%を超え、100質量%以下、より好ましくは70~100質量%、特に好ましくは73~100質量%である。
【0040】
ポリプロピレン系樹脂(A)には、必要に応じて重量平均分子量が10万以下の成分(A-2)が含まれる。その重量平均分子量は、好ましくは5万以下、より好ましくは4万以下である。一方、重量平均分子量の下限については、炭素繊維束の強度や取扱い性(例えばベタ付き)を考慮すると、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上、最も好ましくは25,000以上である。前記の成分(A-1)と成分(A-2)との合計を100質量%とした場合、ポリプロピレン系樹脂成分(A-2)の含有量は、好ましくは0質量%以上、40質量%未満、より好ましくは0~30質量%、特に好ましくは0~27質量%である。
【0041】
プロピレン系樹脂成分(A-1)の重量平均分子量と、プロピレン系樹脂成分(A-2)との重量平均分子量との差は、好ましくは20,000~300,000、より好ましくは30,000~200,000、特に好ましくは35,000~200,000である。
【0042】
プロピレン系樹脂(A)は、プロピレン由来の構造単位を有する樹脂であり、通常はプロピレンの重合体である。好ましくはα-オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどから選ばれる少なくとも一種のオレフィンやポリエン由来の構造単位が含まれる所謂共重合体が好ましい例である。
【0043】
α-オレフィンの具体例としては、エチレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4ジメチル-1-ヘキセン、1-ノネン、1-オクテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等のプロピレンを除く炭素原子数2~20のα-オレフィンが挙げられる。中でも、1-ブテン、エチレン、4-メチル―1-ペンテン、1-ヘキセンが好ましく、1-ブテン、4-メチル―1-ペンテンがより好ましい。
【0044】
共役ジエン及び非共役ジエンの具体例としては、ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5-ヘキサジエンが挙げられる。これら成分は2種類以上を併用しても良い。
【0045】
プロピレン系樹脂(A)は、プロピレンと前記のオレフィンやポリエン化合物とのランダムあるいはブロック共重合体であることが好ましい。本発明の目的を損なわない範囲内であれば他の熱可塑性重合体を併用することも出来る。他の熱可塑性重合体としては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体が好適なものとして挙げられる。
【0046】
後述するプロピレン系樹脂(D)(一般的に、マトリックス樹脂と言われる)との親和性を高める点と、後述するプロピレン系樹脂(B)との親和性を高める点から、プロピレン系樹脂(A)はプロピレンから導かれる構成単位を通常50モル%以上、100モル%以下、好ましくは、50~99モル%、より好ましくは55~98モル%、特に好ましくは60~97モル%含んでいる。
【0047】
プロピレン系樹脂(A)のショアA硬度が60~90であるか、又はショアD硬度が45~65であることが好ましい。ショアA硬度は、より好ましくは65~88、特に好ましくは70~85である。ショアD硬度は、より好ましくは48~63。特に好ましくは50~60である。
【0048】
プロピレン系樹脂(A)はカルボン酸基やカルボン酸エステル基などの基を含む化合物で変性されていても良いし、未変性体であっても良い。プロピレン系樹脂(A)が変性体である場合、その変性量(-C(=O)-O-で表される基に換算)は、好ましくは2.0ミリモル当量未満、より好ましくは1.0ミリモル当量以下、特に好ましくは0.5ミリモル以下である。プロピレン系樹脂(A)が変性体である場合、主として前記の成分(A-2)が変性体である態様が好ましい。
【0049】
一方、用いる用途によってはプロピレン系樹脂(A)は、実質的に未変性体であることが好ましい場合もある。ここで、実質的に未変性とは、望ましくは全く変性されていないことであるが、変性されたとしてもその変性量は本発明の目的を損なわない範囲である。この場合の変性量(プロピレン系樹脂(A)1g当たり、-C(=O)-O-で表される基に換算)は、通常0.05ミリモル当量未満、好ましくは0.01ミリモル当量以下、より好ましくは0.001ミリモル以下、特に好ましくは0.0001ミリモル当量以下である。
【0050】
プロピレン系樹脂(B)は、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含むプロピレン系樹脂である。このプロピレン系樹脂(B)は、炭素繊維(C)との相互作用を高める点で効果的である。
【0051】
プロピレン系樹脂(B)の原料としては、例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体で代表される、プロピレンとα-オレフィンの1種類又は2種類以上との共重合体が挙げられる。さらに、例えば、中和されている又は中和されていないカルボン酸基を有する単量体、及び/又はケン化されている又はケン化されていないカルボン酸エステルを有する単量体が挙げられる。プロピレン系樹脂(B)を製造する代表的な方法は、プロピレン系重合体とカルボン酸構造(カルボン酸自体の構造だけでなく、カルボン酸無水物、カルボン酸塩、カルボン酸エステル等のカルボン酸に起因する構造も包含する)を含む単量体とをラジカルグラフト重合する方法である。プロピレン系重合体に用いられるオレフィンとしては、プロピレン系樹脂(A)と同様に各種のオレフィンを選定することができる。
【0052】
ここで、中和されている又は中和されていないカルボン酸基を有する単量体、及び、ケン化されている又はケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、例えば、エチレン系不飽和カルボン酸やその無水物が挙げられる。また、これらのエステルや、オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する化合物も挙げられる。
【0053】
エチレン系不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などが例示され、その無水物としては、ナジック酸 TM(エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸が挙げられる。
【0054】
オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有ビニル類、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル類、ビニルイソシアナート、イソプロペニルイソシアナート等のイソシアナート基含有ビニル類、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン等の芳香族ビニル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、N、N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N、N-ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N-ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N-ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、モノ(2-メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2-アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート等の不飽和リン酸類が挙げられる。
【0055】
これらの単量体のうち、1種類の単量体を用いても良いし、2種類以上の単量体を用いても良い。中でも、酸無水物が好ましく、特に無水マレイン酸が好ましい。
【0056】
プロピレン系樹脂(B)は、上述したようにラジカルグラフト重合により得ることができる。プロピレン系樹脂(B)の具体的な製造方法としては、有機溶剤中でプロピレン系重合体とカルボン酸構造を含む単量体とを重合開始剤の存在下で反応させた後に脱溶剤する方法や、プロピレン系重合体を加熱溶融し得られた溶融物にカルボン酸構造を含む単量体及び重合開始剤を攪拌下で反応させる方法や、プロピレン系重合体とカルボン酸構造を含む単量体と重合開始剤との混合物を押出機に供給して加熱混練しながら反応させた後、中和やけん化などの方法でカルボン酸塩とする方法が挙げられる。
【0057】
プロピレン系樹脂(B)のカルボン酸基の含有率は、NMRやIRで測定できる。また、酸価で評価することも出来る。プロピレン系樹脂(B)の酸価は、好ましくは10~100mg-KOH/g、より好ましくは20~80mg-KOH/g、特に好ましくは25~70mg-KOH/g、最も好ましくは25~65mg-KOH/gである。
【0058】
プロピレン系樹脂(B)を中和又はケン化工程を経て得る方法は、プロピレン系樹脂(B)の原料を水分散体にして処理することが容易なので、実用的な好ましい方法である。
【0059】
中和度又はけん化度、すなわち、プロピレン系樹脂(B)の原料が有するカルボン酸基の金属塩やアンモニウム塩などの塩への転化率は、水分散体の安定性の点及び繊維との接着性の点から、通常50~100%、好ましくは70~100%、より好ましくは85~100%である。プロピレン系樹脂(B)におけるカルボン酸基は、塩基物質により全て中和又はケン化されていることが望ましいが、中和又はケン化されずに一部カルボン酸基が残存していてもよい。
【0060】
炭素繊維(C)との相互作用を高める点から、プロピレン系樹脂(B)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の含有量、すなわち変性量(プロピレン系樹脂(B)1g当たり、-C(=O)-O-で表される基換算の総量)は、好ましくは0.05~5ミリモル当量、より好ましくは0.1~4ミリモル当量、特に好ましくは0.3~3ミリモル当量である。
【0061】
プロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量は、プロピレン系樹脂(A)の重量平均分子量よりも小さいことが好ましい。この場合、プロピレン系樹脂(A)の重量平均分子量とプロピレン系樹脂(B)との重量平均分子量との差は、好ましくは10,000~380,000、より好ましくは120,000~380,000、特に好ましくは130,000~380,000である。プロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量がプロピレン系樹脂(A)の重量平均分子量よりも小さい場合は、成形時にプロピレン系樹脂(B)が移動し易く、炭素繊維(C)とプロピレン系樹脂(B)との相互作用が強くなることが期待される。
【0062】
プロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量は、上記相互作用の点及びプロピレン系樹脂(A)、好ましくはプロピレン系樹脂成分(A-2)との相溶性などを考慮すると、1,000~100,000であることが好ましい。より好ましくは2,000~80,000、さらに好ましくは5,000~50,000、特に好ましくは5,000~30,000である。
【0063】
本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって決定される。
【0064】
プロピレン系樹脂(B)のメルトフローレート(ASTM1238、230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは3~500g/10分である。その下限値は、より好ましくは5g/10分、特に好ましくは7g/10分である。その上限値は、より好ましくは400g/10分、特に好ましくは350g/10分である。
【0065】
炭素繊維束には、プロピレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(B)の他に、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を併用しても構わない。例えば、エマルジョン形態のプロピレン系樹脂を炭素繊維束に付与する場合は、エマルジョン形態を安定化させる為の界面活性剤を別途加えていても構わない。他の成分の添加量は、プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)の合計100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0066】
炭素繊維束全体を100質量%とした場合、炭素繊維束に含まれるプロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)の合計含有量は、接着性と炭素繊維束の取り扱い性とのバランスの点から、好ましくは0.3~5質量%である。その下限値は、好ましくは0.4質量%である。その上限値は、好ましくは4質量%、より好ましくは3質量%である。
【0067】
マトリックス樹脂(XA)は、後述するプロピレン系重合体(D)であることが好ましい。プロピレン系重合体(D)以外の熱可塑性樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、液晶ポリエステル、ポリアリーレート、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂、塩化ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン、後述するプロピレン系重合体(D)以外のポリプロピレン、ポリブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂も用いることができる。さらには、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1-ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/ジエン共重合体、エチレン/一酸化炭素/ジエン共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル、エチレン/酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体等の共重合体も用いることができる。マトリックス樹脂(XA)として、2種類以上の樹脂を併用しても良い。中でも、特に極性の低いポリオレフィン系樹脂が好ましく、コストや軽量性の点からエチレン系樹脂やプロピレン系樹脂がより好ましい。そして、後述するプロピレン系樹脂(D)が特に好ましい。
【0068】
プロピレン系樹脂(D)は、未変性プロピレン系樹脂のみからなる樹脂であっても良いし、未変性プロピレン系樹脂と、カルボン酸やカルボン酸塩を含む変性プロピレン系樹脂とを含んでいても良い。特に、未変性プロピレン系樹脂(未変性体)と変性プロピレン系樹脂(変性体)とを含むことが好ましい。その好ましい質量比(未変性体/変性体)は、好ましくは80/20~99/1、より好ましくは89/11~99/1、特に好ましくは89/11~93/7、最も好ましくは90/10~95/5である。プロピレン系樹脂(D)として用いる未変性プロピレン系樹脂及び変性プロピレン系樹脂としては、プロピレン系樹脂(A)やプロピレン系樹脂(B)の説明において記載した単量体(例えば、オレフィンやカルボン酸エステル化合物)由来の構造単位を含むプロピレン系樹脂が好ましい。例えば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、変性ポリプロピレンの何れもプロピレン系樹脂(D)として用いることができる。
【0069】
プロピレン系樹脂(D)の重量平均分子量は、先に説明したプロピレン系樹脂(A)、プロピレン系樹脂(B)と下記のような関係にあることが好ましい。
プロピレン系樹脂(A) > プロピレン系樹脂(D) > プロピレン系樹脂(B)
【0070】
プロピレン系樹脂(D)の重量平均分子量は、好ましくは5万~35万、より好ましくは10万~33万、特に好ましくは15万~32万である。プロピレン系樹脂(D)の重量平均分子量がプロピレン系樹脂(A)の重量平均分子量よりも小さい場合、両者の重量平均分子量の差は、好ましくは1万~40万、より好ましくは2万~20万、特に好ましくは2万~10万である。
【0071】
炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物中の炭素繊維(C)の含有量は、好ましくは25~75質量部、より好ましくは30~68質量部、特に好ましくは35~65質量部である。一方、プロピレン系樹脂(D)の含有量は、好ましくは25~75質量部、より好ましくは32~70質量部、特に好ましくは35~65質量部である。但し、これら含有量は、炭素繊維(C)とプロピレン系樹脂(D)の合計を100質量部とした場合の値である。
【0072】
プロピレン系樹脂(D)は、炭素繊維束(主として炭素繊維(C)、プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)を含む炭素繊維束)の周りに接着するような態様になっていることが好ましい。
【0073】
プロピレン系樹脂(D)は、未変性プロピレン系樹脂と酸変性プロピレン系樹脂を含むことが好ましい。特に、比較的多量の変性プロピレン系樹脂を含む場合は、例えばレーザー融着法を用いても炭素繊維と樹脂との間の構造が変化し難い傾向がある。
【0074】
本発明に用いられる炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)の炭素繊維(C)と重合体(I)[層(X)中に含まれる樹脂成分]との質量比(C/I)は、通常80/20~20/80、好ましくは75/25~30/70、より好ましくは70/30~35/65、特に好ましくは65/35~40/60、最も好ましくは60/40~40~60である。
【0075】
重合体(I)の融点及び/又はガラス転移温度は50~400℃である。さらに、その下限値は好ましくは70℃、より好ましくは80℃である。上限値は、好ましくは350℃、より好ましくは300℃、特に好ましくは270℃である。また、この温度範囲の特定は、融点に対する特定であることが好ましい。特に融点の上限値は、好ましくは250℃、より好ましくは240℃である。
【0076】
重合体(I)は、カルボン酸基及び/又はカルボン酸塩基を含む樹脂を含有することが好ましい。炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物中の炭素繊維(C)と重合体(I)の合計を100質量部とした場合、カルボン酸基及び/又はカルボン酸塩基を含む構造単位の含有率は、好ましくは0.010~0.045質量部、より好ましくは0.012~0.040質量部、特に好ましくは0.015~0.035質量%である。カルボン酸基及び/又はカルボン酸塩基を有する構造単位としては、例えば、プロピレン系樹脂(A)、プロピレン系樹脂(B)及びプロピレン系樹脂(D)に含まれるカルボン酸基由来の構造単位やカルボン酸塩基由来の構造単位が挙げられる。
【0077】
重合体(I)にカルボン酸基が含まれている場合、その含有率を酸価で評価することも出来る。重合体(I)の酸価は、好ましくは0.1~0.55mg-KOH/g、より好ましくは0.12~0.45mg-KOH/g、特に好ましくは0.13~0.40mg-KOH/gである。
【0078】
重合体(I)の好ましいメルトフローレート(ASTM1238、230℃、2.16kg荷重)は、通常1~500g/10分、好ましくは3~300g/10分、より好ましくは5~100g/10分である。重合体(I)の重量平均分子量は、好ましくは5万~40万、より好ましくは10万~37万、特に好ましくは15万~35万である。
【0079】
炭素繊維束を形成する単繊維は、より強い接着性を発揮するために、単繊維表面の60%以上がプロピレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(B)とを含む混合物で被覆されていることが好ましい。
【0080】
炭素繊維束の好ましい形状は、連続繊維を一方向に引きそろえ熱可塑性樹脂と複合化した一方向性炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形体である。
【0081】
炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、波長が300~3000μmの光を吸収する色素(P)を含んでいても良い。このような色素としては、公知の物を制限なく用いることが出来る。好ましい例としてはカーボン系の色素を挙げることが出来る。より好ましくはカーボンブラックである。このような色素(P)の含有量は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂全体100質量%中、好ましくは0.01~5質量%である。その下限値は、より好ましくは0.1質量%、特に好ましくは0.2質量%である。上限値は、好ましくは3質量%、より好ましくは2質量%である。
【0082】
本発明においては、以上説明した連続した炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含み、この炭素繊維が長手方向に引き揃えられた一方向性繊維強化樹脂シートを縦糸及び横糸として含む織物を用いる。
【0083】
具体的には、例えばテープ状の一方向性繊維強化樹脂シートを用いて、このシートを縦糸及び横糸として織って得た織物を用いることができる。その織り方は特に限定されず、例えば平織、綾織、朱子織、紗綾織、市松織等の公知の方法によって織物を製造すれば良い。中でも、平織、綾織が好ましい。
【0084】
一方向性繊維強化樹脂シートのサイズは、製織する際の縦糸及び横糸として用いることが可能なサイズであれば良い。例えば、テープ状の一方向性繊維強化樹脂シートの場合、その幅は、好ましくは1mm~50mm、より好ましくは3mm~40mm、特に好ましくは5mm~30mmである。幅がこれら範囲の下限値以上であると、例えば、製織時に端部が接触しにくくなり、その結果として毛羽が発生しにくくなる傾向にある。また、これら範囲の上限値以下であると、積層体が三次元形状により追従し易くなり、三次元形状を付与した際に割れやしわがより発生しにくくなる。
【0085】
織物の開口率は、好ましくは0.01~20%、より好ましくは0.01~10%、特に好ましくは0.01~1%である。開口率がこれら範囲の下限値以上であると、積層体中の発泡体層(Y)が露出する部分の面積が減少し、その分強度が向上する傾向にある。また、これら範囲の上限値以下であると、織物の縦糸及び横糸である一方向性繊維強化樹脂シートのシート間の可動域が増加し、三次元形状を付与した際に割れやしわがより発生しにくくなる。織物の開口率は、経糸と緯糸として用いる一方向性繊維強化樹脂シートの間隔を制御することで変更できる。開口率の具体的な測定方法は、実施例の欄に記載する。
【0086】
<発泡体層(Y)>
本発明において発泡体層(Y)に含まれる樹脂(YA)[以下、「発泡体樹脂(YA)」と称す]は特に限定されず、公知の各種樹脂を使用できる。発泡体樹脂(YA)は、架橋樹脂でも良いし、無架橋体でも良い。発泡体樹脂(YA)の具体例としては、ポリエチレン系樹脂発泡体、ポリプロピレン系樹脂発泡体、ポリスチレン系樹脂発泡体、ポリプロピレン系樹脂発泡体を外層に有するポリスチレン系樹脂発泡体等の熱可塑性樹脂発泡体が挙げられる。特に発泡体樹脂(YA)は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)に含まれるマトリックス樹脂(XA)と同じ種類の熱可塑性樹脂で構成されることが好ましく、どちらもプロピレン系重合体であることが好ましい。このような構成とすることで、接着強度がより向上される傾向にある。なお、「同じ種類の熱可塑性樹脂」とは、マトリックス樹脂(XA)と発泡体層(Y)のいずれもが、例えばポリオレフィン樹脂を含むことを指す。この例でポリオレフィンとして、例えば、マトリックス樹脂(XA)がポリプロピレンを含み、発泡体層(Y)がポリブテンを含んでいても、いずれもポリオレフィン樹脂を含むため、マトリックス樹脂(XA)と発泡体層(Y)は「同じ種類の熱可塑性樹脂」を含む。ポリオレフィン樹脂の他にも、例えば、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、液晶ポリエステル、ポリアリーレート、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂、塩化ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂についても同様である。また、「どちらもプロピレン系重合体である」とは、マトリックス樹脂(XA)と発泡体層(Y)のいずれもが、プロピレンを構成単位として50質量%以上含む重合体を含むことを指す。ここで、「樹脂」と「重合体」は同じ概念であり、区別されない。
【0087】
発泡体層(Y)の密度は0.2~0.6g/ccであり、好ましくは0.25~0.4g/ccである。発泡体樹脂(YA)中の気泡は、独立気泡でも良いし、連通気泡でも良い。一般に、独立気泡の発泡体樹脂は強度が高い傾向にある。
【0088】
発泡体層(Y)の発泡倍率は、好ましくは1.3~5倍、より好ましくは2~4倍である。
【0089】
発泡体層(Y)は、リブ構造を含んでいても良く、より具体的には、発泡体層(Y)の一部に非発泡リブ構造を含んでいても良い。リブ構造は、例えば、発泡体の収縮や変形を抑制する作用を奏する。リブ構造の形態は特に制限されず、例えば格子状、ストライプ状、円柱状、リング状等の形態をとることができる。これらの形状は相互に重なった形態をとっても良い。リブ構造は、発泡体層(Y)の表面及び裏面の全面に格子状等の形状の断面方向のリブを形成した態様であっても良いし、表面又は裏面のどちらか一方の全面又は一部の面に格子状等の形状の断面方向のリブを形成した態様であっても良い。また、表面の構造と裏面の構造がつながっていてもかまわない。発泡体層(Y)の一部に非発泡リブ構造を形成する方法としては、例えば、発泡体層(Y)の一部に熱したナイフを接触させて、所望の位置を熱溶融させる方法がある。また、熱した棒状の金属を発泡体層(Y)に押し当てて、円柱状の形状を形成する方法や、熱したパイプ状の金属を発泡体層(Y)に押し当てて、リング状の形状を形成する方法を挙げることが出来る。
【0090】
<積層体>
本発明の積層体は、炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含み前記炭素繊維が長手方向に引き揃えられた一方向性繊維強化樹脂シートを縦糸及び横糸として含む織物を含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)と、熱可塑性樹脂の発泡体層(Y)とを、層(X)/層(Y)/層(X)の順の層構成で有する。
【0091】
層(X)と層(Y)とは、直接接していても良いし、他の層(中間層など)を介して積層されていても良い。好ましい態様は、層(X)と層(Y)とが接する箇所を有する積層構造である。他の層としては、例えば、繊維強化されていない樹脂シート、短繊維強化樹脂シート、一方向性繊維が1~50mm程度の長さでランダムな方向に強化された樹脂シート、繊維が不織布状に絡み合った形態を有する樹脂マットが挙げられる。他の層に使用する繊維としては、例えば、アルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維などの金属繊維、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系又はピッチ系などの炭素繊維や黒鉛繊維、ガラス繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維などの無機繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維が挙げられる。これらのうち、1種類の繊維を用いても良いし、2種以上の繊維を併用しても良い。
【0092】
炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)の厚さ(x)は、好ましくは0.05~5mm、より好ましくは0.1~2mmである。厚さ(x)がこれら範囲の上限値以下であると、三次元形状をより付与し易くなる。また、これら範囲の下限値以上であると、繊維の破断強度が向上する傾向にある。一方向性繊維強化樹脂シートの厚さが薄い場合及び織物の厚さが薄い場合は、複数枚の一方向性繊維強化樹脂シートを重ねて製織に使用し織物を得ても良いし、複数枚の織物を積層しても良い。
【0093】
発泡体層(Y)の厚さ(y)は、好ましくは1~11.7mm、より好ましくは2~10mmである。なお、発泡体層(Y)がリブ構造を含む場合、発泡体層(Y)の厚さ(y)は、リブ構造以外の部分(主要部)の厚さを意味する。また、リブ構造以外でも厚さが部分的に変化した部分(例えば部分的な凸部)を含む場合も同様に、発泡体層(Y)の厚さ(y)は、その部分以外の部分(主要部)の厚さを意味する。
【0094】
本発明の積層体の厚さ(全体厚さ)は、好ましくは1~12mm、より好ましくは2~10mm、特に好ましくは3~8mmである。積層体の厚さがこれら範囲の上限値以下であると、積層体がより三次元形状に追従し易くなる傾向にある。その結果、割れがより発生しにくくなる。また、これら範囲の下限値以上であると、積層体の強度がより向上する傾向にある。
【0095】
発泡体層(Y)の厚さ(y)と炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)の厚さ(x)との比(y/x)は3~40であり、好ましくは5~30である。
【0096】
本発明の積層体の長手方向を0°とした場合、炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)に含まれる織物の一方向性繊維強化樹脂シートの繊維の向きの角度は、好ましくは±30~±60°より好ましくは±40~±50°である。繊維の向きの角度がこれら範囲内であると、三次元形状を付与した際の割れがより発生しにくくなる。なお、積層体の「長手方向」とは、積層体が長方形の場合は長辺の方向であり、他の形状である場合は各辺のうち最も長い辺の方向を意味する。
【0097】
図1(a)は本発明の積層体の実施形態の層構成を説明する為の模式的斜視図であり、(b)はその模式的部分平面拡大図である。また、
図2はその模式的断面図である。
【0098】
図1に示す実施形態においては、炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)と、熱可塑性樹脂の発泡体層(Y)とを、層(X)/層(Y)/層(X)の順の層構成を形成している。炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)は、連続した炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含み且つ炭素繊維が長手方向に引き揃えられたテープ状の一方向性繊維強化樹脂シートを用いて、このシートを縦糸及び横糸として平織で得た織物によって構成されている。また、積層体の長手方向を0°とした場合、炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)に含まれる織物の一方向性繊維強化樹脂シートの繊維の向きの角度は、
図1(b)に示すように±45°である。
【0099】
ただし、本発明は
図1及び
図2の実施形態に限定されるものではない。例えば
図1では繊維の向きの角度は±45°であるが、この角度は所望に応じて適宜変更しても良い。また平織ではなく、他の織り方により得た織物を用いても良い。さらに、上面の層(X)及び/又は下面の層(X)に2枚以上の織物(一方向性繊維強化樹脂シートの織物)を積層して用いても良く、上面の層(X)及び/又は下面の層(X)の表面に他の部材(例えば離型フィルム)や他の層を設けても良い。
【0100】
図1及び
図2の実施形態においては積層体の全体形状は長方形であるが、本発明はこれに限定されない。その形状は所望の用途に応じて適宜決定すれば良い。
【0101】
本発明の積層体の製造方法は特に限定されない。例えば、各層を順番に積層して、そのまま積層体として用いても良いし、接着剤を用いて各層の界面の一部又は全部を接着しても良いし、プレス機やアイロン等の機器を用いて加圧及び加熱して各層の界面の一部又は全部を融着しても良い。また、粘着テープを用いて各層の端部を固定しても良いし、樹脂製のピンを用いて各層の任意の部分に刺し込んで位置がずれないようにしても良い。
【0102】
本発明の積層体の製造方法としては、特に、加圧及び加熱して各層の界面の一部又は全部を融着する方法が好ましい。プレス圧力及びプレス時間は特に限定されず、各層の界面の一部又は全部が良好に融着するような適度な圧力及び時間であれば良い。加熱温度は、各層の樹脂成分の種類によって最適な温度が異なるが、通常は100~450℃、好ましくは150~300℃である。なお、三次元賦形積層体の好ましい製造方法については、後述する。
【0103】
<三次元賦形積層体>
本発明の三次元賦形積層体は、以上説明した本発明の積層体に三次元形状が付与されたものである。三次元形状の具体的な形態は特に制限されず、その表面に平面形状以外の形状が付与された場合はこれに該当する。
【0104】
図3は、本発明の三次元賦形積層体の三次元形状を例示する模式的断面図及び三次元形状の模式的平面図である。本発明の三次元賦形積層体は、このような凹状の三次元形状が付与されても割れが発生しにくい。
【0105】
図3において、三次元賦形積層体の三次元形状を含む部分の断面における端点と端点の直線長さ(Ld)に対する断面周長(Lw)の比(Lw/Ld)の最大値は、好ましくは1.01~1.60、より好ましくは1.05~1.5である。以下、この比(Lw/Ld)を「絞り量(Lw/Ld)」と称す。なお、三次元形状体が複数存在する場合は、絞り量(Lw/Ld)も複数になる場合があるが、絞り量(Lw/Ld)の最大値とはそれら異なる絞り量(Lw/Ld)のうちの最大の値を意味する。
【0106】
図3において、三次元賦形積層体の厚み方向に平面視した場合の三次元形状の投影面積(S)は、好ましくは100~3000mm
2、より好ましくは150~2000mm
2ある。また、三次元賦形積層体の厚み方向における三次元形状の深さ(N)は、好ましくは1~100mm、より好ましくは2~80mmある。
【0107】
図3において、三次元賦形積層体の三次元形状における曲げ半径(R)の最小値は、好ましくは0.5~10.0mm、より好ましくは0.7~3.0mmある。なお、三次元形状の曲げ半径(R)は、位置によって異なるのが一般的である。そして曲げ半径(R)の最小値とは、それら異なる曲げ半径(R)のうちの最小の値を意味する。
【0108】
図3に例示した三次元形状は四角の凹状であるが、本発明はこれに限定されない。その形状は所望の用途に応じて適宜決定すれば良い。また、三次元形状は複数存在していても良く、その数は所望の用途に応じて適宜決定すれば良い。
【0109】
本発明の三次元賦形積層体の製造方法は特に限定されず、三次元形状を付与する為の公知の方法を用いれば良い。例えば、熱プレス法、真空成型法などの方法により所望の三次元形状を付与できることが知られている。特に本発明においては、本発明の積層体を熱プレス加工することにより所望の三次元形状を付与する方法が好ましい。以下、この熱プレス加工について説明する。
【0110】
本発明の積層体を熱プレス加工することにより所望の三次元形状を付与する場合、熱プレス加工する前の積層体は、例えば、各層を順番に積層しただけの積層体であっても良いし、接着剤を用いて各層の界面の一部又は全部を接着した積層体あっても良いし、プレス機やアイロン等の機器を用いて加圧及び加熱して各層の界面の一部又は全部を融着した積層体あっても良い。ただし熱プレス加工前の積層体としては、特に、アイロン等の機器を用いて各層の界面の一部を融着した積層体を用いて熱プレス加工することが好ましい。この場合の加熱温度、プレス圧力及びプレス時間は、先に説明したとおりである。このように、各層の界面の一部を部分的に融着した積層体を熱プレス加工に使用すると、各層の界面の全部を融着した積層体を使用する場合と比較して、シワや光沢不良が生じにくく優れた外観が得られる傾向にある。各層の界面の一部を部分的に融着した積層体における炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)は、融着していない部分が存在するので、たとえ常温であっても柔軟性が比較的高い。したがって、加熱が不十分な箇所が生じた場合(加熱ムラが生じた場合)であっても、この柔軟性が高い炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層(X)は金型に十分密着できる傾向にある。その結果、三次元賦形性がより向上し、シワや光沢不良が生じにくく優れた外観が得られる傾向にあると考えられる。また、各層の界面の一部を融着するので、各層間の位置ずれも生じない。
【0111】
本発明の積層体に所望の三次元形状を付与する為の熱プレス加工としては、ヒートアンドクール法による加工、スタンピング法による加工が好ましく、特にスタンピング法による加工がより好ましい。
【0112】
ヒートアンドクール法は、金型内で積層体を加圧及び加熱し、加圧状態を保持したまま冷却を行う方法である。ヒートアンドクール法における加熱温度は、各層の樹脂成分の種類によって最適な温度が異なるが、通常は100~450℃、好ましくは150~300℃である。プレス圧力は、通常は0.5~30MPa、好ましくは1~10MPaである。金型内での予備加熱時間は通常は1~30分、好ましくは2~10分である。金型が完全に閉まってからのプレス時間は、通常は0.5~5分、好ましくは1~3分である。
【0113】
スタンピング法は、赤外線ヒーター等の外部加熱手段を用いて金型外で積層体を加熱し、その加熱した積層体を金型内に投入して加圧及び冷却を行う方法である。このスタンピング法においては、金型外で積層体を均一に加熱できるので積層体に加熱ムラが生じにくい傾向にある。その結果、スタンピング法はヒートアンドクール法と比較して、光沢ムラなどの外観不良が生じにくい傾向にある。スタンピング法における加熱温度は、各層の樹脂成分の種類によって最適な温度が異なるが、通常は100~450℃、好ましくは150~300℃である。プレス圧力は、通常は0.5~30MPa、好ましくは1~10MPaである。プレス時間は、通常は0.5~5分、好ましくは1~3分である。
【0114】
本発明の積層体及び三次元賦形積層体は、例えば、輸送機器用途、家電装置用途及び建築用途から選ばれる用途の外装材として有用である。本発明において「外装材」とは、内部と外部の間を隔てるように配置して内部を守る又は外部を守る為の部材を意味し、装飾目的の有無は問わない。この外装材は、例えば、外部から高速の衝撃や高エネルギー物体による衝撃が加わる可能性がある個所に配置されるものである。高速の衝撃としては、例えば、自動車走行中に生じる飛び石や他の車両による衝撃が挙げられる。高エネルギー物体としては、例えば、輸送車両に用いるエンジンやモーターや高性能電池、家電製品又は通信機器に用いるモーターやコンプレッサーや高性能電池が挙げられる。また工事用車両などの大型車両は、それ自身が高エネルギー物体と考えられる場合もある。
【0115】
輸送機器用途に用いられる外装材の具体例としては、車両の床材、ルーフ、トランク、ボンネット、ドア、フェンダーが挙げられる。家電装置用途に用いられる外装材の具体例としては、パーソナルコンピュータ又はタブレットの筐体、洗濯機、冷蔵庫又はテレビの構成部材が挙げられる。建築用途に用いられる外装材の具体例としては、壁材、パーティション、床材、天井材、ドアが挙げられる。中でも、飛翔した小石やその他の異物が当たる面に位置する外装材(例えば、車両の床材、アンダーガード、マットガード)や、防音壁、工事現場の養生用部材として本発明の積層体及び三次元賦形積層体を用いることは非常に有用である。
【実施例】
【0116】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例に使用した材料は以下のとおりである。
【0117】
<実施例1>
(一方向性繊維強化樹脂シートの織物の製造)
ポリプロピレンと炭素繊維を含有する一方向性炭素繊維強化樹脂シート(三井化学株式会社製、商品名TAFNEX、繊維体積分率(Vf)50%、厚さ0.16mm)を12.5mm幅となるよう切断した。そして、この切断後のテープ状の一方向性炭素繊維強化樹脂シートを用い、平織にて開口率が0.38%となるように、また経糸と緯糸の間隔が平均で約0.05mm~約1mmになるように製織し、一方向性繊維強化樹脂シートの織物を得た。
【0118】
この織物の開口率の測定方法は次のとおりである。まず1200万画素のカメラにて40×40mmの範囲を撮影し、画像解析ソフト(商品名Image J)を用いて、画像を白黒16bitに変換し、その後Yenのアルゴリズムを用いて閾値を自動判別し2値化した。その後、ヒストグラム化して計算し、白データ数/全データ数を開口率として得た。
【0119】
(三次元賦形積層体の製造)
以上のようにして得た一方向性繊維強化樹脂シートの織物と、厚さ5mmのポリプロピレン発泡シート(三井化学東セロ株式会社製、商品名パロニア、密度0.3g/cc、発泡倍率3倍)を、各々縦157mm×横240mmの形状に切断した。そして、一方向性繊維強化樹脂シートの織物/ポリプロピレン発泡シート/一方向性繊維強化樹脂シートの順で積層し、さらに離型フィルムとしてポリイミドフィルムを最表面に配置した。そして、このポリイミドフィルムを介して、表面温度が約200℃のアイロンを用いて積層体の四隅(4つの角部分)のみを5秒間加熱した。その後、離型フィルムを剥がして、各層の四隅の界面のみが融着した積層体を得た。なお、この積層体の長手方向を0°とした場合、織物中の一方向性繊維強化樹脂シートの繊維の向きの角度は±45°とした。
【0120】
以上のようにして得た積層体に対してスタンピング法による加工を行うことにより、
図4に示すような三次元形状を付与した。具体的には、オーブン(ヤマト科学株式会社製、装置名DH832)を用いて、270℃、1.5分の条件で積層体を加熱した。次いで、この加熱した積層体をオーブンから取り出し、250tプレス加工機(株式会社オギハラ製)の型内に投入し、型温度95℃、圧力3MPa、型締め時間3分の条件で冷却プレス成形し、三次元賦形積層体を得た。各層の厚みは、0.32mm/4.36mm/0.32mmであった。ポリプロピレン発泡シートの層の厚み(y)と織物層の厚み(x)との比(y/x)は、13.63であった。
【0121】
図4(a)は、本実施例のプレス成形で使用した型の形状を示す模式的斜視図であり、(b)はそのA-A線の模式的断面図、(c)はそのB-B線の模式的断面図である。本実施例において、熱プレス成形によってその中心部に凹部を設けた三次元賦形積層体の各項目は以下の通りである。
長手方向の絞り量(Lw/Ld):1.0375
幅方向絞り量(Lw/Ld):1.0573=最大値
凹部の投影面積(S):40mm×40mm=1600mm
2
凹部の深さ(N):7mm
凹部の曲げ半径(R)の最小値:1.0mm
【0122】
<実施例2>
織物中の一方向性繊維強化樹脂シートの繊維の向きの角度を0°及び90°に変更したこと以外は、実施例1と同様にして三次元賦形積層体を得た。各層の厚みは、0.32mm/4.36mm/0.32mmであった。ポリプロピレン発泡シートの層の厚み(y)と織物層の厚み(x)との比(y/x)は、13.63であった。
【0123】
<実施例3>
一方向性繊維強化樹脂シートの織物の製造において、平織に用いるシートの幅を25.0mmに変更し、開口率を0.09%に変更したこと以外は、実施例2と同様にして三次元賦形積層体を得た。各層の厚みは、0.32mm/4.36mm/0.32mmであった。ポリプロピレン発泡シートの層の厚み(y)と織物層の厚み(x)との比(y/x)は、13.63であった。
【0124】
<実施例4>
三次元賦形積層体の製造において、厚さ5mmのポリプロピレン発泡シートの代わりに、厚さ8mmのポリプロピレン発泡シート(三井化学東セロ株式会社製、商品名パロニア、密度0.3g/cc、発泡倍率3倍)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして三次元賦形積層体を得た。各層の厚みは、0.32mm/7.36mm/0.32mmであった。ポリプロピレン発泡シートの層の厚み(y)と織物層の厚み(x)との比(y/x)は、23であった。
【0125】
<実施例5>
三次元賦形積層体の製造において、まず実施例4と同様にして、一方向性繊維強化樹脂シートの織物/ポリプロピレン発泡シート/一方向性繊維強化樹脂シートの順で積層した。そして、これを金型温度180℃の条件で熱プレス成形して、各層の界面が全体的に融着した積層体を得た。
【0126】
以上のようにして得た積層体に対してスタンピング法による加工を行うことにより、
図4に示すような三次元形状を付与した。具体的には、300kN加熱冷却2段プレス成形機(関西株式会社製)を用いて、金型温度180℃、予熱時間5分の条件で積層体を加熱した。次いで、予圧2.5MPaで1分間加圧し、さらに圧力10MPaで2分間加圧し、その後10MPaの圧力を保持しながら金型温度180℃の条件で2分間冷却プレス成形し、三次元賦形積層体を得た。各層の厚みは、0.32mm/7.36mm/0.32mmであった。ポリプロピレン発泡シートの層の厚み(y)と織物層の厚み(x)との比(y/x)は、23であった。
【0127】
<実施例6>
三次元賦形積層体の製造において、厚さ5mmのポリプロピレン発泡シートの代わりに、厚さ3mmのポリプロピレン発泡シート(三井化学東セロ株式会社製、商品名パロニア、密度0.3g/cc、発泡倍率3倍)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして三次元賦形積層体を得た。各層の厚みは、0.32mm/2.36mm/0.32mmであった。ポリプロピレン発泡シートの層の厚み(y)と織物層の厚み(x)との比(y/x)は、7.38であった。
【0128】
<実施例7>
三次元賦形積層体の製造において、スタンピング法の代わりにヒートアンドクール法を用いたこと以外は、実施例1と同様にして三次元賦形積層体を得た。具体的には、200℃の金型内に積層体を挿入し、積層体中の樹脂成分を徐々に軟化させながら金型を閉め、金型が完全に閉まった状態になってから圧力3MPaの条件で、2分間加熱プレス成形した。次いで、3MPaの圧力を保持したまま金型温度を90℃まで低下させ、90℃になった時点から2分間冷却した。その後、積層体を取り出して三次元賦形積層体を得た。各層の厚みは、0.32mm/4.36mm/0.32mmであった。ポリプロピレン発泡シートの層の厚み(y)と織物層の厚み(x)との比(y/x)は、13.63であった。
【0129】
<比較例1>
下側及び上側の一方向性繊維強化樹脂シートの織物の代わりに、織物と同じサイズ(縦157mm×横240mm)の4枚の一方向性繊維強化樹脂シートを用い、0°方向の一方向性繊維強化樹脂シート/90°方向の一方向性繊維強化樹脂シート/ポリプロピレン発泡シート/90°方向の一方向性繊維強化樹脂シート/0°方向の一方向性繊維強化樹脂シートの順で積層した。そして、これを実施例1と同様にしてスタンピング法による加工を行うことにより、三次元賦形積層体を得た。各層の厚みは、0.16mm/0.16mm/4.36mm/0.16mm/0.16mmであった。
【0130】
<比較例2>
下側及び上側の一方向性繊維強化樹脂シートの織物の代わりに、織物と同じサイズ(縦157mm×横240mm)の4枚の一方向性繊維強化樹脂シートを用い、45°方向の一方向性繊維強化樹脂シート/-45°方向の一方向性繊維強化樹脂シート/ポリプロピレン発泡シート/-45°方向の一方向性繊維強化樹脂シート/45°方向の一方向性繊維強化樹脂シートの順で積層した。そして、これを実施例1と同様にしてスタンピング法による加工を行うことにより、三次元賦形積層体を得た。各層の厚みは、0.16mm/0.16mm/4.36mm/0.16mm/0.16mmであった。
【0131】
以上のようにして得た実施例及び比較例の三次元賦形積層体に対して、以下の評価を行った。結果を表1~3に示す。
【0132】
(割れの評価)
三次元賦形積層体の三次元形状部分及びその周辺を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
「〇」:割れが無かった。あるいは5mm未満の微細な割れが有った。
「△」:5mm以上の割れが有った。
「×」:5mm以上の著しい割れが有り、割れた部分から発泡体層が見えていた。
【0133】
(しわの評価)
三次元賦形積層体の三次元形状部分及びその周辺を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
「〇」:しわが無かった。
「△」:5mm未満の微細なしわが有った。
「×」:5mm以上の著しいしわが有った。
【0134】
(収縮量の評価)
成形前の長手方向の織物の長さを100として、成形後の三次元賦形積層体の織物の収縮量の割合を計算し、以下の基準で評価した。
「〇」:収縮量が成形前の長さの1%未満であった。
「△」:収縮量が成形前の長さの1%以上、5%未満であった。
「×」:収縮量が成形前の長さの5%以上であった。
【0135】
(光沢の評価)
光沢計(コニカミノルタホールディングス株式会社製、商品名GM-268)を用いて、光源はCIE標準光源Cの分光特性を有する白色光とし、受光角度60°における反射率のN=5の算術平均値を求め、以下の基準で評価した。
「◎」:算術平均反射率が50%以上であって、かつ最小反射率と最大反射率の差異が算術平均反射率の20%以内であった。
「〇」:算術平均反射率が50%以上であって、かつ最小反射率と最大反射率の差異が算術平均反射率の20%を超えていた。
「△」:算術平均反射率が10%以上、50%未満であった。
「×」:算術平均反射率が10%未満であった。
【0136】
(ハイレートインパクト試験(面衝撃特性試験))
試験片(100×100mm)を、中央部分に撃芯が激突する様にASTM規格の高速面衝撃試験装置に固定し、以下の条件で最大衝撃力、最大衝撃力変位、最大衝撃力エネルギー及びパンクチャー点エネルギーを測定した。
撃芯径:1/2インチ
受け側リング径:1インチ
測定温度:室温
撃芯速度:3.57m/s
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
表1及び2から明らかなように、実施例1~7の三次元賦形積層体は、割れやしわの発生が少なく、収縮量も少なかった。さらに光沢に関しては反射率が高く、すなわち光沢ムラが少なかった。また実施例1~7の三次元賦形積層体は、比較例1及び2の三次元賦形積層体に劣らぬ面衝撃特性を有していた。
【0141】
一方、表3から明らかなように、比較例1の三次元賦形積層体は、上下の一方向性繊維強化樹脂シートの織物の代わりに各々2枚の一方向性繊維強化樹脂シートを用いたので、割れの発生が多く、収縮量も多かった。また、比較例2の三次元賦形積層体は、一方向性繊維強化樹脂シートの繊維の向きの角度を±45°にすることにより割れの発生が若干改善されたが、収縮量は多かった。
【0142】
実施例1の三次元賦形積層体は、織物中の一方向性繊維強化樹脂シートの繊維の向きの角度、平織に用いるシートの幅、開口率など構成を最適化したので、実施例2及び3と比較した場合において割れの発生防止の点でさらに優れていた。
【0143】
実施例1の三次元賦形積層体は、スタンピング法による加工を行うことにより三次元形状を付与したので、ヒートアンドクール法を用いた実施例7と比較した場合において光沢ムラがより少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の積層体及び三次元賦形積層体は、例えば、輸送機器用途、家電装置用途及び建築用途から選ばれる用途に有用であり、中でも、飛翔した小石やその他の異物が当たる面に位置する外装材(車両の床材、アンダーガード、マットガードなど)や、防音壁、工事現場の養生用部材として非常に有用である。
【符号の説明】
【0145】
X 炭素繊維強化熱可塑性樹脂織物層
Y 発泡体層
Ld 三次元賦形積層体の三次元形状を含む部分の断面における端点と端点の直線長さ
Lw 三次元賦形積層体の三次元形状を含む部分の断面における断面周長
S 三次元賦形積層体の厚み方向に平面視した場合の三次元形状の投影面積
N 三次元賦形積層体の厚み方向における三次元形状の深さ
R 三次元賦形積層体の三次元形状における曲げ半径