(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】ポリウレタン水分散体、接着剤、合成擬革、及び塗料
(51)【国際特許分類】
C08G 18/00 20060101AFI20221221BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20221221BHJP
C08G 18/44 20060101ALI20221221BHJP
C08G 18/08 20060101ALI20221221BHJP
C08G 18/40 20060101ALI20221221BHJP
C08G 18/72 20060101ALI20221221BHJP
C08G 18/73 20060101ALI20221221BHJP
C08G 18/74 20060101ALI20221221BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20221221BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20221221BHJP
C09J 175/08 20060101ALI20221221BHJP
C09J 175/06 20060101ALI20221221BHJP
C09D 175/08 20060101ALI20221221BHJP
C09D 175/06 20060101ALI20221221BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20221221BHJP
C09D 171/00 20060101ALI20221221BHJP
C09D 169/00 20060101ALI20221221BHJP
【FI】
C08G18/00 C
C08G18/48
C08G18/44
C08G18/08 019
C08G18/40 009
C08G18/72 020
C08G18/73
C08G18/74
C08G18/32 071
D06N3/14 101
C09J175/08
C09J175/06
C09D175/08
C09D175/06
C09J7/30
C09D171/00
C09D169/00
(21)【出願番号】P 2022074950
(22)【出願日】2022-04-28
【審査請求日】2022-05-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】武藤 多昭
(72)【発明者】
【氏名】伊能 諒平
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-330339(JP,A)
【文献】国際公開第2021/172485(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0085805(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第103382253(CN,A)
【文献】S.K.Lee, et al.,High solid and high stability waterbornepolyurethanes via ionic groups in soft segments and chain termini,Journal of Colloid and Interface Science,2009年,Volume 336, Issue 1,Pages 208-214,https://doi.org/10.1016/j.jcis.2009.03.028
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00- 18/87
C09J 175/00-175/16
C09D 175/00-175/16
C09D 171/11-171/14
C09D 169/00
D06N 3/14
CAPlus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体。
【請求項2】
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物である請求項1に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項3】
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基に対して、10モル%以上の前記アルカノールアミンを反応させた反応物である請求項2に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項4】
前記アルカノールアミンが、アルカノールモノアミンである請求項2に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項5】
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が1<[NCO基/OH基(モル比)]≦1.7となる比率で反応させた反応物である請求項2~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項6】
前記脂肪族
ポリイソシアネート(A)と前記脂環族
ポリイソシアネート(B)のモル比が、(A):(B)=10:90~90:10である請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項7】
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=25:75~90:10である請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項8】
前記樹脂粒子の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D
50)が、5~500nmである請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含む接着剤。
【請求項10】
請求項9に記載の接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体を含有する塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン水分散体、接着剤、合成擬革、及び塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン系樹脂は、耐摩耗性、屈曲性、可撓性、柔軟性、加工性、接着性、及び耐薬品性等の諸物性に優れているとともに、各種加工法への適性にも優れた樹脂である。このため、合成擬革(人工皮革と合成皮革の総称)用材料、各種コーティング剤、インキ、及び塗料等のバインダーとして、又はフィルム、シート、及び各種成形物用の材料として広く使用されており、種々の用途に適したポリウレタン系樹脂が提案されている。
【0003】
なかでも、水中への乳化分散を可能にした親水性のポリウレタン樹脂の水分散体は、コーティング後に乾燥することで、機械的物性、耐久性、耐薬品性、及び耐磨耗性等の性能に優れた皮膜を形成することができる。このため、このような親水性のポリウレタン樹脂の水分散体(ポリウレタン水分散体)は、塗料、接着剤、繊維加工処理剤、紙処理剤、及びインキ等に広く使用されている。従来、これらの塗料等の用途には、ポリウレタン樹脂を有機溶剤に溶解させた溶剤系の液状組成物等が用いられていた。しかし、環境問題等に対応すべく、近年では溶剤系の組成物から水分散体へと切り替えられつつある。
【0004】
ポリウレタン樹脂の水分散体としては、要求される特性に応じて種々のものが知られている。例えば、水酸基含有ポリアミンや水酸基含有モノアミンに由来する構造を含む水性ポリウレタン樹脂の分散体、及びこれを用いたコーティング剤組成物等が提案されている(特許文献1)。また、NCO官能性プレポリマーにアミノアルコール成分を反応させて得られるヒドロキシ官能性ポリウレタン、及びこれを用いた塗料や被覆材料等が提案されている(特許文献2)。さらに、その酸価が20~50mgKOH/gのアニオン性ウレタン樹脂エマルションを含有する水性塗料組成物が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-83902号公報
【文献】特表2011-518899号公報
【文献】特開2005-330339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~3で提案されたポリウレタン樹脂の分散体等は経時的に粘度が上昇やすく、必ずしも保存安定性が良好であるとはいえなかった。なお、これらのポリウレタン樹脂の分散体等は、硬化剤と組み合わせることで、接着剤として用いることができる。しかし、このような接着剤を用いて形成される硬化膜(接着層)は、常温条件下と低温条件下における強度等の物性の差が大きく、温度変化に曝される物品(例えば、寒冷地で使用される合成擬革等)を構成するための材料としては必ずしも適当であるとはいえなかった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、温度変化によっても強度等の物性が変化しにくい硬化膜である接着層を形成しうる接着剤や塗料等を調製することが可能な、保存安定性に優れたポリウレタン水分散体を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、このポリウレタン水分散体を用いた接着剤、合成擬革、及び塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示すポリウレタン水分散体が提供される。
[1]その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であるポリウレタン水分散体。
[2]前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物である前記[1]に記載のポリウレタン水分散体。
[3]前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基に対して、10モル%以上の前記アルカノールアミンを反応させた反応物である前記[2]に記載のポリウレタン水分散体。
[4]前記アルカノールアミンが、アルカノールモノアミンである前記[2]又は[3]に記載のポリウレタン水分散体。
[5]前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が1<[NCO基/OH基(モル比)]≦1.7となる比率で反応させた反応物である前記[2]~[4]のいずれかに記載のポリウレタン水分散体。
[6]前記脂肪族ポリイソシアネート(A)と前記脂環族ポリイソシアネート(B)のモル比が、(A):(B)=10:90~90:10である前記[1]~[5]のいずれかに記載のポリウレタン水分散体。
[7]前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含む前記[1]~[6]のいずれかに記載のポリウレタン水分散体。
[8]前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5である前記[7]に記載のポリウレタン水分散体。
[9]前記樹脂粒子の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)が、5~500nmである前記[1]~[8]のいずれかに記載のポリウレタン水分散体。
【0009】
また、本発明によれば、以下に示す接着剤、合成擬革、及び塗料が提供される。
[10]前記[1]~[9]のいずれかに記載のポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含む接着剤。
[11]前記[10]に記載の接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。
[12]前記[1]~[9]のいずれかに記載のポリウレタン水分散体を含有する塗料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温度変化によっても強度等の物性が変化しにくい硬化膜である接着層を形成しうる接着剤や塗料等を調製することが可能な、保存安定性に優れたポリウレタン水分散体を提供することができる。また、本発明によれば、このポリウレタン水分散体を用いた接着剤、合成擬革、及び塗料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例の評価で使用した試料の形態を説明する模式図である。
【
図2】実施例の評価で使用したギアオーブンの形態を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ポリウレタン水分散体>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のポリウレタン水分散体の一実施形態は、その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有する。ポリウレタンは、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有する。ウレタンプレポリマーは、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有する。そして、ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下である。以下、本実施形態のポリウレタン水分散体の詳細について説明する。
【0013】
(ポリウレタン)
本実施形態のポリウレタン水分散体は、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子(ポリウレタン樹脂粒子)を含有する。すなわち、本実施形態のポリウレタン水分散体は、水を含む水系の分散媒体中にポリウレタンの樹脂粒子が分散された水性分散体である。
【0014】
[ポリオール]
ウレタンプレポリマーは、ポリオールに由来する構成単位を有する。ポリオールは、1分子中に2以上の水酸基(OH基)を有する化合物である。環境に対する負荷等を考慮して、バイオマス由来のポリオールを用いることもできる。
【0015】
ポリオール(但し、後述する「酸性基含有ポリオール」を除く)は、ポリエーテルポリオールを含む。ポリエーテルポリオールは、分子中にエーテル結合を有するポリオールである。ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリテトラメチレンエーテルグリコール(ブロック又はランダム)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、及びポリヘキサメチレンエーテルグリコール等を挙げることができる。なかでも、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール)が好ましい。これらのポリエーテルは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
ポリエーテルポリオールの数平均分子量は、500~3,000であることが好ましく、900~2,100がさらに好ましい。ポリエーテルポリオールの数平均分子量が小さすぎると、柔軟性がやや不足するとともに、耐寒性が不十分になる場合がある。一方、ポリエーテルポリオールの数平均分子量が大きすぎると、耐溶剤性や長期耐熱性が低下する場合がある。
【0017】
ポリオールは、ポリエーテルポリオール以外のその他のポリオールをさらに含んでいてもよい。その他のポリオールとしては、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール等を挙げることができる。なかでも、ポリカーボネートポリオールを用いること、すなわち、ポリオールがポリカーボネートポリオールをさらに含むことが、耐溶剤性及び長期間の熱耐久性が向上した接着層を形成することが可能となるために好ましい。
【0018】
ポリオールが、ポリエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールを含む場合に、ポリエーテルポリオール(C)とポリカーボネートポリオール(D)の質量比は、(C):(D)=20:80~95:5であることが好ましく、25:75~90:10であることがさらに好ましく、35:65~80:20であることが特に好ましい。ポリエーテルポリオールとポリカーボネートポリオールを上記の質量比で用いることで、耐摩耗性及び耐寒屈曲性に優れた硬化膜を形成しうる塗料を調製可能なポリウレタン水分散体とすることができる。
【0019】
ポリカーボネートポリオールとしては、下記一般式(1)で表されるジオール及び下記一般式(2)で表されるジオールの少なくともいずれかに由来する構造と、カーボネート結合とを有するポリカーボネートポリオールが好ましい。なお、ポリカーボネートポリオールは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
【0021】
一般式(1)中、A1は、炭素原子数2~12の二価の脂肪族炭化水素基を示す。炭素原子数2~12の二価の脂肪族炭化水素基は、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基であることが好ましい。また、一般式(2)中、A2は、炭素原子数6~18の二価の環状脂肪族炭化水素基を示す。炭素原子数6~18の二価の環状脂肪族炭化水素基は、1,4-シクロヘキサンジメチレン基であることが好ましい。
【0022】
一般式(1)で表されるジオールとしては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ウンデカンジオール、及びドデカンジオールが好ましく、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールがさらに好ましい。これらのジオールは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
一般式(2)で表されるジオールとしては、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、及び1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましく、1,4-シクロヘキサンジメタノールがさらに好ましい。これらのジオールは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
ポリエステルポリオールとしては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリへキサメチレンイソフタレートアジペートジオール、ポリエチレンサクシネートジオール、ポリブチレンサクシネートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリ-ε-カプロラクトンジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)ジオール、及び1,6-へキサンジオールとダイマー酸との重縮合物等を挙げることができる。
【0025】
[ポリイソシアネート]
ウレタンプレポリマーは、ポリイソシアネートに由来する構成単位を有する。ポリイソシアネートは、1分子中に2以上のイソシアネート基(NCO基)を有する化合物である。ポリイソシアネートは、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含む。すなわち、ウレタンプレポリマーは、脂肪族ポリイソシアネートに由来する構成単位と、脂環族ポリイソシアネートに由来する構成単位の両方を有する。
【0026】
脂環族ポリイソシアネートを用いることで、得られるポリウレタンの凝集力を低下させることができる。これにより、樹脂粒子(エマルジョン粒子)どうしの凝集が生じにくくなり、ポリウレタン水分散体の経時的な増粘を抑制し、保存安定性を向上させることができる。但し、脂肪族ポリイソシアネートと併用せず、脂環族ポリイソシアネートのみを用いると、温度による硬化膜(接着層)の物性変化が生じやすくなり、耐寒性が低下する。これに対して、脂肪族ポリイソシアネートと脂環族ポリイソシアネートを併用することで、ポリウレタン水分散体の保存安定性を向上させることができるとともに、このポリウレタン水分散体を用いた接着剤で形成される硬化膜(接着層)の温度による物性変化を生じにくくすることができる。
【0027】
脂肪族ポリイソシアネート(但し、脂環族ポリイソシアネートを除く)は、直鎖又は分岐鎖アルキル基を有するイソシアネート化合物である。脂肪族ポリイソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、及び2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエート等を挙げることができる。
【0028】
脂環族ポリイソシアネートは、環状アルキル基を有するイソシアネート化合物である。脂環族ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12-MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水素添加TDI)、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ノルボルナンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0029】
ポリオール中、脂肪族ポリイソシアネート(A)と脂環族ポリイソシアネート(B)のモル比は、(A):(B)=10:90~90:10であることが好ましく、30:70~70:30であることがさらに好ましい。ポリオール中、脂肪族ポリイソシアネートの割合が過剰になると、形成される硬化膜(接着層)の温度による物性変化がより生じにくくなる一方で、ポリウレタン水分散体の保存安定性がやや低下することがある。
【0030】
[酸性基含有ポリオール]
ウレタンプレポリマーは、酸性基含有ポリオールに由来する構造単位を有する。酸性基含有ポリオールは、1分子内に1以上の酸性基を有するポリオールである。このため、ポリウレタンは、その分子中に酸性基を有する、その酸価が所定範囲内の樹脂である。酸性基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、及びフェノール性水酸基等を挙げることができる。酸性基含有ポリオールとしては、2,2-ジメチロールプロピオン酸及び2,2-ジメチロールブタン酸等のジメチロールアルカン酸の他、N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N-ビスヒドロキシエチルアラニン、3,4-ジヒドロキシブタンスルホン酸、及び3,6-ジヒドロキシ-2-トルエンスルホン酸等を挙げることができる。なかでも、入手容易性の観点から、2つのメチロール基を含む炭素原子数4~12のアルカン酸(ジメチロールアルカン酸)が好ましく、2,2-ジメチロールプロピオン酸(2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸)がさらに好ましい。
【0031】
[ウレタンプレポリマー]
ウレタンプレポリマーは、ポリイソシアネート及びポリオールを含む原料化合物を常法にしたがって反応させて得ることができる反応物である。より具体的には、ウレタンプレポリマーは、ポリイソシアネートとポリオールを、ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)とポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率、好ましくは1<[NCO基/OH基(モル比)]≦1.7、さらにこのましくは1.1<[NCO基/OH基(モル比)]≦1.5となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物である。ポリイソシアネートとポリオールを反応させる際の[NCO基/OH基(モル比)]の値が大きすぎると、得られるウレタンプレポリマーの末端に存在するイソシアネート基の量(末端イソシアネート基(NCO基)含有量)、ウレア量などが過剰となる。このため、このウレタンプレポリマーを用いて製造されるポリウレタンを硬化剤で硬化させた接着層の温度による物性変化が生じやすくなるとともに、接着力がやや低下する傾向にある。
【0032】
ウレタンプレポリマーの末端に存在するイソシアネート基の量(末端イソシアネート基(NCO基)含有量)は、樹脂固形分に対して1.0~10.0質量%であることが好ましく、1.5~6.0質量%であることがさらに好ましい。ウレタンプレポリマーの末端NCO基含有量が多すぎると、このウレタンプレポリマーを用いて製造されるポリウレタンを硬化剤で硬化させた接着層の温度による物性変化が生じやすくなるとともに、接着力がやや低下する傾向にある。
【0033】
[ポリウレタン]
ポリウレタンの酸価は、30mgKOH/g以下であり、好ましくは3~27mgKOH/g、さらに好ましくは5~25mgKOH/g、特に好ましくは15~25mgKOH/gである。なお、ポリウレタンを構成するウレタンプレポリマーは酸性基含有ポリオールに由来する構成単位を有するため、ポリウレタンの酸価は、通常、0mgKOH/g超である。ポリウレタンの酸価が高すぎると、ハードセグメントの割合が過剰になる。このため、ポリウレタンを硬化剤で硬化させた接着層の温度による物性変化が生じやすくなるとともに、柔軟性及び接着力が低下する。一方、ポリウレタンの酸価が低すぎると、ポリウレタン水分散体の保存安定性が不十分になる。なお、本明細書における「ポリウレタンの酸価」は、下記式(1)により算出される物性値(計算値)である。
ポリウレタンの酸価(mgKOH/g)={(W/M)×56110}/Y
・・・(1)
W:酸性基含有ポリオールの使用量(g)
M:酸性基含有ポリオールの分子量
Y:ポリウレタンの構成材料の合計使用量(g)
【0034】
ポリウレタンの分子鎖末端には水酸基が存在する。ポリウレタンの水酸基価は、通常、0.5~60mgKOH/gであり、好ましくは2~45mgKOH/g、さらに好ましくは10~35mgKOH/gである。なお、本明細書における「ポリウレタンの水酸基価」は、下記式により算出される物性値(計算値)である。
ポリウレタンの水酸基価(mgKOH/g)={(A/B)×C×56110}/Y
A:アルカノールアミンの使用量(g)
B:アルカノールアミンの分子量
C:アルカノールアミン1分子中に有する水酸基数
Y:ポリウレタンの構成材料の合計使用量(g)
【0035】
ポリウレタンは、好ましくは、その末端にイソシアネート基を有する前述のウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物である。アルカノールアミンは、ウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基と反応してウレア結合を形成する。これにより、ウレア結合を含むとともに、その末端に水酸基を有するポリウレタンが形成される。
【0036】
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、モノ-n-ブチルエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルアミノエタノール、N-ターシャリーブチルエタノールアミン、アドレナリン、2-(4-アミノフェニル)エチルアルコール、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、1-アミノ-2-プロパノール、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、2-アミノ-1-ブタノール、1-アミノ-2-ブタノール、5-アミノ-1-ペンタノール等のアルカノールモノアミン;N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、3,5-ジアミノベンジルアルコール、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、2,2’-(エチレンビスイミノ)ビスエタノール等のアルカノールジアミン;等を用いることができる。なかでも、アルカノールモノアミンが好ましく、入手容易性等の観点からモノエタノールアミンがさらに好ましい。アルカノールモノアミンを用いることで、保存安定性と、形成される接着層の耐寒性(温度変化によっても強度等の物性が変化しにくい性質)とのバランスにより優れたポリウレタン水分散体とすることができる。これに対して、アルカノールジアミンを用いると、得られるポリウレタン水分散体の保存安定性がやや低下する傾向にある。
【0037】
ポリウレタンは、ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基に対して、好ましくは1~100モル%、さらに好ましくは5~95モル%、特に好ましくは25~70モル%、最も好ましくは40~60モル%のアルカノールアミンを反応させた反応物である。反応させるアルカノールアミンの量を上記の範囲とすることで、保存安定性がさらに向上するとともに、耐溶剤性及び耐熱性等に優れた接着層を形成しうる接着剤を調製可能なポリウレタン水分散体とすることができる。反応させるアルカノールアミンの量が少なすぎると、架橋度がやや低下し、形成される網目構造が不十分になったり、ポリウレタンの末端に導入される水酸基の量がやや不足したりする場合がある。一方、反応させるアルカノールアミンの量が多すぎると、未反応のアルカノールアミンによって不具合が生じやすくなる、又は温度変化によって物性が変化しやすくなる場合がある。
【0038】
ポリウレタン水分散体中、樹脂粒子の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)は、5~500nmであることが好ましく、10~450nmであることがさらに好ましく、50~350nmであることが特に好ましい。樹脂粒子のD50(メジアン径)が5nm未満であると、水分散体の粘度が過度に上昇することがある。一方、D50(メジアン径)が500nm超の樹脂粒子は、沈降しやすくなる場合がある。
【0039】
ポリウレタン水分散体中の樹脂粒子の含有量は、水分散体の全体を基準として、5~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがさらに好ましい。
【0040】
(分散媒体)
本実施形態のポリウレタン水分散体は、水を含む水系の分散媒体中にポリウレタンの樹脂粒子が分散された水性分散体である。水としては、イオン交換水、蒸留水、純水、及び超純水等を用いることができる。なかでも、樹脂粒子の分散安定性の観点から、イオン交換水が好ましい。水系の分散媒体は、樹脂粒子の分散性及び安定性を低下させない範囲で有機溶媒をさらに含んでもよい。有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、β-アルコキシプロピオンアミド、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、及び酢酸エチル等を挙げることができる。
【0041】
(ポリウレタン水分散体の製造方法)
本実施形態のポリウレタン水分散体は、ポリウレタンからなる樹脂粒子の水分散体を製造する従来公知の方法と同様の方法によって製造することができる。具体的には、その末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを調製した後、鎖延長剤として機能するアルカノールアミンを反応させるプレポリマー法等によって、目的とするポリウレタン水分散体を得ることができる。
【0042】
プレポリマー法によるポリウレタン水分散体の製造方法は、例えば、ポリオール、ポリイソシアネート、及び酸性基含有ポリオールを反応させてウレタンプレポリマーを得る工程(1)と;得られたウレタンプレポリマー中の酸性基を中和剤で中和した後、アルカノールアミンを反応させてポリウレタンを形成する工程(2)と;水を含む分散媒体中に形成したポリウレタンの樹脂粒子を分散させる工程(3)と;を有する。
【0043】
ウレタンプレポリマー中の酸性基を中和するための中和剤は、酸性基の種類等に応じて適宜選択すればよい。中和剤としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン等の有機アミン類;水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等の無機アルカリ塩類;アンモニア;等を挙げることができる。なかでも、有機アミン類が好ましく、トリエチルアミンがさらに好ましい。
【0044】
<接着剤>
本発明の接着剤の一実施形態は、前述のポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含むものである。本実施形態の接着剤は前述のポリウレタン水分散体を含有するので、温度変化によっても強度等の物性が変化しにくい硬化膜である接着層を形成することができる。このため、本実施形態の接着剤は、合成擬革の他、各種の積層体を製造するための接着剤として好適である。
【0045】
イソシアネート系硬化剤としては、イソシアネート系の硬化剤として従来公知のものを用いることができる。イソシアネート系硬化剤の市販品としては、以下商品名で、デュラネートWT30-100、デュラネートWB40-100、デュラネートWL70-100、デュラネートWR80-70P」(以上、旭化成社製);アクアネート105、アクアネート130、アクアネート140、アクアネート200、アクアネート210(以上、東ソー社製);タケネートWD-725、タケネートWD-730、タケネートWD-726(以上、三井化学社製);等を挙げることができる。
【0046】
接着剤中のイソシアネート系硬化剤の含有量は、目的に応じて適宜設定すればよい。具体的には、接着剤中のイソシアネート系硬化剤の含有量は、ポリウレタン(固形分)100質量部に対して、1~50質量部であることが好ましく、10~40質量部であることがさらに好ましい。
【0047】
本実施形態の接着剤には、必要に応じて、熱可塑性樹脂、粘着付与樹脂、触媒、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、難燃剤、充填剤、及び発泡剤等の各種添加剤を適量配合することができる。
【0048】
本実施形態の接着剤は、被着体表面に塗布することにより被着体どうしを容易に接着させることができる。上記の合成擬革用の基材層以外の被着体としては、例えば、金属、非金属(ポリカーボネート、ガラス等)の基材を挙げることができる。
【0049】
<合成擬革>
本発明の合成擬革の一実施形態は、前述の接着剤で形成された接着層を備えるものである。接着層を形成する接着剤は、前述のポリウレタン水分散体を含有するので、温度変化によっても強度等の物性が変化しにくい。このため、この接着層を備える本実施形態の合成擬革は、温度変化によっても強度等の物性が変化しにくく、耐寒性に優れている。
【0050】
合成擬革は、例えば、表皮層と、表皮層上に設けられる接着層と、接着層上に設けられる基布等の基材層とを備える。基材層を構成する基布としては、例えば、綾織り、平織り等からなる織物、当該織物の綿生地を機械的に起毛して得られる起毛布、レーヨン布、ナイロン布、ポリエステル布、ケブラー布、不織布(ポリエステル、ナイロン、各種ラテックス)、各種フィルム、シート等を挙げることができる。また、表皮層としては、溶剤系ポリウレタン、水系ポリウレタン、TPU等の表皮層形成用塗料で形成されたものを挙げることができる。
【0051】
合成擬革は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、コンマコート、ナイフコート、ロールコート、グラビアコート、ダイコート、スプレーコート等の公知の方法によって、表皮層を形成する表皮層形成用の塗料を離型紙上に塗布する。塗布した塗料を適宜乾燥して表皮層を形成した後、コンマコート、ナイフコート、ロールコート等の公知の方法によって、形成した表皮層上に前述の接着剤を塗布する。塗布した接着剤と基材層を圧着した後、所定の条件下で熟成(エージング)等する。次いで、離型紙から剥離することで、目的とする合成擬革を得ることができる。本実施形態の合成擬革は、靴、衣料、鞄、家具、車両内装材(例えば、インパネ、ドア、コンソール、座席シート)等を構成する材料として好適である。
【0052】
<塗料>
本発明の塗料の一実施形態は、前述のポリウレタン水分散体を含有する。本実施形態の塗料は前述のポリウレタン水分散体を含有するので、被塗工面に塗工した後、必要に応じてエージング等することによって、温度変化によっても強度等の物性が変化しにくく、耐寒性に優れた硬化膜(皮膜)を形成することができる。このため、本実施形態の塗料は、各種の被塗工基材の表面をコーティングするためのコーティング剤として有用である。
【0053】
塗料は、形成される硬化膜(皮膜)の機械物性や耐久性等の物性を向上させる場合、硬化剤(以下、「架橋剤」とも記す)をさらに含有することが好ましい。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤の他、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、及びエポキシ系架橋剤等を挙げることができる。
【0054】
塗料中の架橋剤の含有量が多すぎると、未反応の架橋剤によって皮膜が可塑化したり、脆化したりする等の不具合が生ずることがある。このため、塗料中の架橋剤の含有量(固形分換算)は、ポリウレタン樹脂100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、0.5~35質量部であることがさらに好ましい。
【0055】
塗料には、必要に応じて、各種の添加剤をさらに含有させることができる。添加剤としては、マット剤;ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系等の光安定剤;ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤;ヒドラジン系等のガス変色安定剤;金属不活性剤;等を挙げることができる。
【0056】
マット剤としては、樹脂粒子、シリカ粒子、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、アルミナシリケート、モレキュラーシーブ、カオリン、雲母、及びマイカ等を挙げることができる。マット剤を含有する塗料を用いることで、艶消し調の表皮材等の皮膜を形成することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0058】
<材料の用意>
以下に示す材料を用意した。
・ポリエーテルポリオール(1):ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、数平均分子量2,000
・ポリエーテルポリオール(2):ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、数平均分子量1,000
・ポリエーテルポリオール(3):ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、数平均分子量3,500
・ポリエーテルポリオール(4):ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、数平均分子量250
・ポリカーボネートポリオール:ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、商品名「ETERNACOLL UH-100」、宇部興産社製、数平均分子量1,000
・HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
・IPDI:イソホロンジイソシアネート
・BisMPA:2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸
・MEA:モノエタノールアミン
・MBM:モノ-n-ブチルエタノールアミン
・EA:N-(β-アミノエチル)エタノールアミン
・TEA:トリエチルアミン
・MEK:メチルエチルケトン
【0059】
<ポリウレタン水分散体の製造>
(実施例1)
撹拌機、温度計、ガス導入管、及び還流冷却器を備えた反応容器に、ポリエーテルポリオール(2)150部、ポリカーボネートポリオール150部、BisMPA22.1部、HDI28.2部、及びIPDI86.8部を入れた。固形分30%となるようにMEKを添加し、均一に溶解させた後、60℃で7時間反応させた。イソシアネート基(NCO基)が所定の含有量になったのを確認した後、反応液を室温まで冷却した。TEA16.7部を添加して撹拌し、ウレタンプレポリマーを含有する液体を得た。得られた液体中のウレタンプレポリマーの末端NCO基含有量は、0.54%(樹脂固形分に対して1.8%)であった。なお、ウレタンプレポリマーの末端NCO基含有量は、ウレタンプレポリマー末端のNCO基に過剰量のジブチルアミンを反応させた後、余剰のジブチルアミンの量を塩酸で滴定して算出することによって求めた。
【0060】
得られた液体にMEA5.7部を添加し、撹拌して反応させた。適当量の水を添加して乳化した後、真空脱気してMEKを除去して、ポリウレタン樹脂粒子を含有するポリウレタン水分散体(固形分30%)を得た。ポリウレタン樹脂粒子を形成するポリウレタンの酸価は20.0mgKOH/g、水酸基価は11.4mgKOH/gであった。また、レーザー回折散乱式の粒度分布測定装置を使用して測定したポリウレタン樹脂粒子の平均粒子径(D50)は200nmであった。
【0061】
(実施例2、3、5~18、参考例4、比較例1~7)
表1-1~1-3に示す配合としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、ポリウレタン樹脂粒子を含有するポリウレタン水分散体(固形分30%)を得た。なお、比較例4については、酸性基含有ポリオール(BisMPA)に代えて、樹脂固形分に対して10%となる量の界面活性剤(ノニオン性のポリオキシアルキレンエーテル、商品名「パイオニンD-1110DIR」、竹本油脂社製)を添加して乳化した。各種物性等を表1-1~1-3に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
<ポリウレタン水分散体の評価>
(保存安定性)
ポリウレタン水分散体を10℃で1か月間保管した。B型粘度計(#2ローター、30rpm)を使用して保管後のポリウレタン水分散体の25℃における粘度を測定し、以下に示す評価基準にしたがって保存安定性を評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。
1(非常に良い):150mPa・s以下であった。
2(良い) :150mPa・sを超えて300mPa・s以下
3(通常) :300mPa・sを超えて800mPa・s以下
4(許容) :800mPa・sを超えて1,000mPa・s以下
5(不合格) :1,000mPa・s超、又は沈降・分離
【0066】
<接着剤の製造及びフィルムの作製>
ポリウレタン水分散体100部に対して、イソシアネート系硬化剤(商品名「デュラネートWT30-100」、旭化成社製)10部(すなわち、ポリウレタン樹脂(固形分)100部に対して、33.3部)を添加した後、混合及び脱泡して接着剤を得た。得られた接着剤を離型紙上に塗工した後、70℃で3分間及び100℃で1分間乾燥した。さらに、50℃で24時間エージングして硬化させて、厚さ30μmのフィルムを得た。
【0067】
<接着剤の評価>
(物性変化率)
作製したフィルムを幅15mm、長さ60mmに裁断して試験片とした。引張試験機(商品名「オートグラフAGS-500NS」、島津製作所社製)を使用して、引張速度200mm/minの条件で試験片の強度(100%M)を測定した。温度条件は、25℃、-10℃、及び-30℃とした。そして、以下の計算式を用いて物性変化率A及び物性変化率Bを算出するとともに、以下に示す評価基準にしたがって物性変化率を評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。
・物性変化率A(%)
={(-10℃における100%M)/(25℃における100%M)}×100
・物性変化率B(%)
={(-30℃における100%M)/(25℃における100%M)}×100
【0068】
[物性変化率Aの評価基準]
1(非常に良い):155%以下
2(良い) :155%を超えて165%以下
3(通常) :165%を超えて180%以下
4(許容) :180%を超えて200%以下
5(不合格) :200%超
【0069】
[物性変化率Bの評価基準]
1(非常に良い):170%以下
2(良い) :170%を超えて200%以下
3(通常) :200%を超えて230%以下
4(許容) :230%を超えて250%以下
5(不合格) :250%超
【0070】
(耐溶剤性)
作製したフィルムを幅15mm、長さ60mmに裁断して試験片とした。試験片をアセトンに10分間浸漬し、浸漬前後の試験片の長さを測定した。そして、以下の計算式を用いて線膨潤率を算出するとともに、以下に示す評価基準にしたがって耐溶剤性を評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。
・線膨潤率(%)
={(浸漬後の試験片の長さ)/(浸漬前の試験片の長さ)}×100
1(非常に良い):120%以下
2(良い) :120%を超えて125%以下
3(通常) :125%を超えて130%以下
4(許容) :130%を超えて140%以下
5(不合格) :140%超
【0071】
(長期耐熱性)
作製したフィルムを幅10cm、長さ10cmに裁断し試験片とした。試験片を120℃で400時間保持した後、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-500NS」、島津製作所社製)を使用して、引張速度200mm/minの条件で強度(100%M)を測定した。温度条件は25℃とした。そして、以下の計算式を用いて変化率を算出するとともに、以下に示す評価基準にしたがって長期耐熱性を評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。
・変化率(%)={(保持後の100%M)/(保持前の100%M)}×100
1(非常に良い):90%以上
2(良い) :80%以上90%未満
3(通常) :70%以上80%未満
4(許容) :60%以上70%未満
5(不合格) :60%未満
【0072】
(耐熱性)
作製したフィルムを幅15mm、長さ60mmに裁断して試験片とした。
図1に示すように、フィルム10の上下にクリップ12を取り付け、セロハンテープでさらにクリップ12を固定した。一方のクリップ12に吊り下げたときに450g/cm
2の荷重がかかるような重り14を取り付けて試料16を作製した。なお、フィルム10の中央部(2cm)はセロハンテープで覆われていない。
【0073】
次いで、
図2に示すように、試料16の重り14が取り付けられていないクリップ12をギアオーブン20の回転盤22に取り付けた。その後、回転盤22を5rpmで回転させながら、室温から3℃/minの速度でギアオーブン20内を昇温した。フィルム10が切断したとき、又はフィルム10が2倍に伸長したときの温度(軟化点(℃))を測定し、以下に示す評価基準にしたがって耐熱性を評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。
1(非常に良い):220℃以上
2(良い) :200℃以上220℃未満
3(通常) :180℃以上200℃未満
4(許容) :160℃以上180℃未満
5(不合格) :160℃未満
【0074】
(接着力)
合成擬革用のウレタン樹脂(商品名「レザミンNE-8875-30M」、大日精化工業社製)を離型紙上に塗工し、120℃で乾燥して、厚さ50μmの表皮層を形成した。形成した表皮層上に接着剤を塗工した後、70℃で3分間及び100℃で1分間乾燥して、厚さ100μmの接着層を形成した。形成した接着層の表面にポリエステルメッシュ素材の基布を貼り合わせた。50℃で24時間エージングした後、離型紙を剥離して、試験用の合成擬革を得た。得られた合成擬革を2cm幅に切り出したものを試験片とした。そして、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-500NS」、島津製作所社製)を使用して、25℃、引張速度200mm/minの条件で表皮層/基布のT字剥離試験を実施し、以下に示す評価基準にしたがって接着力を評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。
1(非常に良い):1.0kgf/cm以上又は材破
2(良い) :0.7kgf/cm以上1.0kgf/cm未満
3(通常) :0.5kgf/cm以上0.7kgf/cm未満
4(許容) :0.2kgf/cm以上0.5kgf/cm未満
5(不合格) :0.2kgf/cm未満
【0075】
<塗料の製造及び試験シートの作製>
ポリウレタン水分散体20部に対して、マット剤(商品名「ACEMATT TS-100」、エボニック社製、体積平均粒子径9.5μm)1.8部及びイオン交換水を添加し、水性の表面処理剤(固形分20%)を得た。得られた表面処理剤100部に対して、イソシアネート系硬化剤(商品名「デュラネートWT30-100」、旭化成社製)2.0部(すなわち、ポリウレタン樹脂(固形分)100部に対して、33.3部)を添加して塗料を調製した。バーコーターを用いて調製した塗料をPVCシートに塗布した。乾燥機を使用し、120℃で1分間乾燥して、厚さ10μm皮膜が形成された試験シートを得た。
【0076】
<塗料の評価>
(耐摩耗性)
試験シートから幅70mm、長さ300mmの試験片を切り出した。JASO M403/88/シート表皮用布材料の平面摩耗試験機(B法、大栄科学精器製作所社製)の平面摩耗台に置いたクッション材の上に試験片を載置し、皺が生じないようにクランプで固定した。JIS L 3102(綿帆布)の6号綿帆布をセットした摩擦子を試験片上に接触させた。摩擦子を含めた押圧荷重を9.81N(1kgf)とし、ストロ-ク140mm、速度60±10往復/minの条件で10,000往復する摩耗試験を実施し、以下に示す評価基準にしたがって耐摩耗性を評価した結果を表2-1及び2-2に示す。
1(非常に良い):外観に変化なし
2(良い) :傷はなく、わずかな外観変化
3(通常) :傷はなく、明らかな外観変化
4(許容) :確認できる傷が1本以上5本未満
5(不合格) :確認できる傷が5本以上
【0077】
(分散性)
試験シートの外観を目視にて観察するとともに、表面の触感を確認し、以下に示す評価基準にしたがって分散性を評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。
1(非常に良い):外観上マット剤の凝集を理由とする白点が見られず、触感も粗大粒子を感じられない。
2(良い) :5cm×5cmの範囲に白点が1~5個見られる。触感では粗大粒子を感じられない。
3(通常) :5cm×5cmの範囲に白点が1~5個見られる。触感ではわずかに粗大粒子を感じる。
4(許容) :5cm×5cmの範囲に白点が5~10個見られる。触感で明らかに粗大粒子を感じる。
5(不合格) :塗膜が白く透明性がない。
【0078】
(耐寒屈曲性)
試験シートから幅50mm、長さ150mmの試験片を切り出した。デマッチャ試験機を使用し、屈曲ストローク100mm、-10℃の条件で屈曲試験を実施して、以下に示す評価基準にしたがって耐寒屈曲性を評価した。結果を表2-1及び2-2に示す。
1(非常に良い):30,000回で白化及び割れが生じない
2(良い) :20,000回以上30,000回未満で白化又は割れが生じる
3(通常) :10,000回以上20,000回未満で白化又は割れが生じる
4(許容) :5,000回以上10,000回未満で白化又は割れが生じる
5(不合格) :5,000回未満で白化又は割れが生じる
【0079】
【0080】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のポリウレタン水分散体は、例えば、合成擬革等の各種製品の接着層を形成するための材料の他、耐摩耗性及び耐寒屈曲性に優れた硬化膜を形成しうる各種コーティング剤や塗料等として有用である。
【符号の説明】
【0082】
10:フィルム
12:クリップ
14:重り
16:試料
20:ギアオーブン
22:回転盤
【要約】
【課題】温度変化によっても強度等の物性が変化しにくい硬化膜である接着層を形成しうる接着剤や塗料等を調製することが可能な、保存安定性に優れたポリウレタン水分散体を提供する。
【解決手段】その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位とを有し、ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であるポリウレタン水分散体である。
【選択図】なし