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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-20
(45)【発行日】2022-12-28
(54)【発明の名称】乳幼児の発達段階算出システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/00 20180101AFI20221221BHJP
【FI】
G16H50/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022559956
(86)(22)【出願日】2022-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2022017495
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/016095
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】須藤 元喜
(72)【発明者】
【氏名】浅野 春菜
【審査官】佐伯 憲太郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108921907(CN,A)
【文献】特開2016-221110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行している被験乳幼児を撮影した動画像データを取得する取得手段と、
取得した前記動画像データにおける前記被験乳幼児の特定部位を抽出する抽出手段と、
歩行により移動する前記抽出した前記特定部位の位置の時間変化に基づいて前記被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出する算出手段と、
を備え、
前記特定部位は、前記被験乳幼児が歩行することで当該被験乳幼児の体の重心に対し位置が変化する部位であり、
前記抽出手段において、前記被験乳幼児の特定部位の位置の時間変化から発達関連パラメータを複数抽出し
前記算出手段において、抽出した前記複数の発達関連パラメータの少なくとも2つを用いて前記発達段階を算出することを特徴とする乳幼児の発達段階算出システム
【請求項2】
前記特定部位は、複数あり、
前記抽出手段において、前記被験乳幼児の前記特定部位それぞれの位置の時間変化から複数の発達関連パラメータを抽出することを特徴とする請求項1に記載の乳幼児の発達段階算出システム
【請求項3】
前記特定部位は、前記被験乳幼児の関節であることを特徴とする請求項1または2に記載の乳幼児の発達段階算出システム
【請求項4】
前記発達関連パラメータは、1歩行周期を切り出した範囲内で抽出した値を身長データで正規化した値または当該値を用いて演算した値であることを特徴とする請求項1または2に記載の乳幼児の発達段階算出システム
【請求項5】
前記発達関連パラメータには、時間に関係するパラメータ、歩幅に関するパラメータ、歩隔に関するパラメータ、腰高さに関するパラメータ、上肢の高さに関するパラメータ、および、上半身の揺れに関するパラメータのいずれか2つを少なくとも含むことを特徴とする請求項1または2に記載の乳幼児の発達段階算出システム
【請求項6】
複数の乳幼児の各々について前記発達関連パラメータを求めることで得られる、各々の乳幼児における前記発達関連パラメータと乳幼児の実齢との複数の組み合わせを用いて、前記発達関連パラメータと実齢との相関を示す関係情報を取得する相関取得手段を更に含み、
前記算出手段は、前記被験乳幼児の前記複数の発達関連パラメータと、前記関係情報とに基づき当該被験乳幼児の前記発達段階を算出することを特徴とする請求項1に記載の乳幼児の発達段階算出システム
【請求項7】
前記算出手段で用いる前記関係情報は、前記複数の乳幼児の各々について得られた前記発達関連パラメータを説明変数とし、前記実齢を目的変数とする重回帰式であることを特徴とする請求項6に記載の乳幼児の発達段階算出システム
【請求項8】
前記算出手段による算出結果に基づき前記被験乳幼児の歩容を評価する評価手段をさらに備え、
前記評価手段は、前記発達関連パラメータおよび前記発達段階の何れかのデータを示す第一軸と、他のデータを示す第二軸とを含む座標系に、前記複数の乳幼児から抽出した算出結果と、前記被験乳幼児の算出結果と、を識別してプロットしたグラフデータを出力することを特徴とする請求項6または7に記載の乳幼児の発達段階算出システム
【請求項9】
前記算出手段による算出結果に基づき前記被験乳幼児の歩容を評価する評価手段をさらに備え、
前記評価手段は、前記発達関連パラメータまたは前記発達段階と、当該発達関連パラメータの算出に用いた動画像データが撮影された日付または実齢とを関連づけて出力することを特徴とする請求項1または2に記載の乳幼児の発達段階算出システム
【請求項10】
前記評価手段は、前記発達関連パラメータまたは前記発達段階を示す第一軸と、撮影した日付または実齢を示す第二軸とを含む座標系に、前記算出結果をプロットしたグラフデータを出力することを特徴とする請求項9に記載の乳幼児の発達段階算出システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳幼児の発達段階算出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
乳幼児の発達段階を算出する方法として、各質問事項に対する回答を入力することで、乳幼児の各質問事項ごとの発育の遅れの有無を診断するものがある(例えば、特許文献1)。
先行技術文献
特許文献1 特開2006-107159号公報
【発明の概要】
【0003】
本発明は、歩行している被験乳幼児を撮影した動画像データを取得する取得ステップと、取得した前記動画像データにおける前記被験乳幼児の特定部位を抽出する(実施例で抽出も推定も記載)抽出ステップと、歩行により移動する前記抽出した前記特定部位の位置の時間変化に基づいて前記被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出する算出ステップと、を備える乳幼児の発達段階算出方法に関する。
【0004】
また、本発明は、歩行している被験乳幼児を撮影した動画像データを取得する取得手段と、取得した前記動画像データにおける前記被験乳幼児の特定部位を抽出する抽出手段と、歩行により移動する前記抽出した前記特定部位の位置の時間変化に基づいて前記被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出する算出手段と、を備える乳幼児の発達段階算出システムに関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】発達段階算出システムの概念図である。
図2】本実施形態の発達段階算出方法(本方法)を示すフローチャートである。
図3】母集団の乳幼児の特定部位を示す概念図である。
図4】母集団の乳幼児の撮影イメージ図である。
図5】スマートフォンの画面イメージ図である。
【発明の詳細な説明】
【0006】
特許文献1の場合、各質問事項に回答を入力するため、手間がかかるという問題があった。また、質問事項に対する回答が適切なものでない場合、診断結果の質にも問題があった。
【0007】
本発明は歩行している被験乳幼児を撮影した動画像データを取得し、取得した動画像データにおける被験乳幼児の特定部位を抽出し、抽出した歩行により移動する特定部位の位置の時間変化に基づいて被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出する技術に関する。本明細書において「発達段階算出」とは、非医療目的で、被験乳幼児の発達段階を算出することを意味し、専門家以外の者であっても可能な発達段階の算出を含む。
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、各図面において同様の構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0009】
本実施形態の乳幼児の発達段階算出方法(以下、本方法と表示する場合がある)は、取得ステップ、抽出ステップ、および、算出ステップを含む。取得ステップは、歩行している被験乳幼児を撮影した動画像データを取得するステップである。抽出ステップは、取得した動画像データから被験乳幼児の特定部位を抽出するステップである。算出ステップは、抽出ステップは、歩行により移動する抽出した特定部位の位置の時間変化に基づいて被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出するステップである。
【0010】
本発明者らは、これまでの技術、例えば、特許文献1では、各質問事項に回答を入力し、その回答結果によって発育の遅れの有無などを診断していたため、回答を入力する作業負荷もあり、また、回答者の主観に影響した診断結果となっており、改善の余地があるとの見識に至った。
そこで、本方法においては、歩行している被験乳幼児を撮影した動画像データから被験乳幼児の特定部位を抽出し、歩行により移動する特定部位の位置の時間変化に基づいて、被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出するようにした。
【0011】
以下、本方法について図1を用いて更に詳細に説明する。
発達段階算出システム200は、歩行している被験乳幼児を撮影した動画像データをネットワーク経由、または、所定の媒体を用いて取得する。発達段階算出システム200には、取得手段110、抽出手段120および算出手段130で構成される。取得手段110は、ネットワーク経由、または、所定の媒体を用いて取得した動画像データを情報処理端末100に取り込む。抽出手段120は取得した動画像データにおける被験乳幼児の特定部位を抽出する手段である。抽出方法としては、公知の人体画像からの骨格情報取得技術や特定部位にマーカを貼付して行うモーションキャプチャ技術などが挙げられる。抽出した特定部位の位置の時間変化を用いて発達関連パラメータを抽出する。算出手段130は、抽出された発達関連パラメータを用いて被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出する。発達関連パラメータそのものや関係情報を用いて発達段階を発達齢で算出する。発達段階算出システム200は、算出結果を視覚的に把握しやすくするために評価手段140をさらに備えることが好ましい。評価手段140は、算出結果のグラフ化、他の発達関連パラメータと比較表示、過去のデータの比較表示などを行わせることで算出結果を視覚的に把握しやすくできる。また、発達段階算出システム200は、複数の乳幼児の各々について発達関連パラメータを求めることで得られる、各々の乳幼児における発達関連パラメータと乳幼児の実齢との複数の組み合わせを用いて、発達関連パラメータと実齢との相関を示す関係情報を取得し、情報処理端末100に取り込む相関取得手段(図示しない)を備えることが好ましい。相関取得手段によって取得した関係情報を用いて、算出手段130は被験乳幼児の歩容発達度合いを発達齢で算出してもよい。この他に、記憶手段(図示しない)を設けることが好ましい。記憶手段には、相関取得手段によって取得した関係情報(例えば、後述する回帰式)が記憶されている。算出手段130は、記憶手段に記憶されている関係情報を参照し、被験乳幼児から抽出した複数の発達関連パラメータと関係情報とに基づき被験乳幼児の歩容発達度合いを発達齢で算出する。また、各種の処理を実行可能な情報処理端末100を備え、当該情報処理端末100に、抽出手段120、算出手段130および評価手段が備えられている。情報処理端末100は、キーボード、ポインティングデバイスなどの入力装置、演算処理装置、記憶部等を備えている。
「発達関連パラメータ」とは、歩行動作中に計測される身体部位(特定部位)同士の関係を示す指標であり、本実施形態では身体部位に応じて複数の種類の指標を有する。
「発達齢」とは、被験者(例えば被験乳幼児)の発達段階、特に、歩行に関する発達段階を示した値である。発達齢は、母集団となる複数の乳幼児の発達関連パラメータと当該乳幼児の実齢との相関を示す関係情報に、被験乳幼児の発達関連パラメータを適用することにより算出することができる。発達齢は、発達年齢、発達月齢、発達週齢、発達日齢など、どのような単位でもよい。また例えば、歩行に関する発達段階が早い被験乳幼児の場合、発達日齢が360日であれば、当該乳幼児の実日齢は360日未満であり、歩行に関する発達段階が標準的な被験乳幼児の場合、発達日齢が360であれば実日齢は360日であり、歩行に関する発達段階が遅い被験乳幼児の場合、発達日齢が360であれば、当該乳幼児の実日齢は360日より経過している可能性が高い。
図1に示すよう、まず、歩行している被験乳幼児を撮像装置(例えば、スマートフォン10)で撮影する。本実施形態では、被験乳幼児の両親、祖父母など、撮像装置の操作に精通していない利用者が撮影することも想定しているため、当該利用者が普段から使っているスマートフォン10に内蔵されたカメラで撮影することとしている。
撮影された動画像データをネットワーク経由、または、所定の媒体を用いて、発達段階算出システム200に送信(受渡)する。発達段階算出システム200は取得した被験乳幼児の動画像データから被験乳幼児の特定部位を抽出し、被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出する。算出した結果は被験乳幼児を撮影したスマートフォン10に送信してもよい。
【0012】
本方法の被験乳幼児とは、生後7ヶ月~48ヶ月程度の乳幼児を対象としているが、対象となる乳幼児を実齢(実月齢、実日齢ともいう)で切り分ける必要はない。詳細は後述するが、本方法では、被験乳幼児が歩行している動画像データを用いて算出を行うため、歩行できない乳幼児(例えば、ずりばいやハイハイで移動する乳幼児)では、算出に必要な動画像データを取得できないため、対象乳幼児とはしにくい。また、算出する際に、乳幼児特有の体のバランスや重心位置の情報を考慮するため、歩行発達の遅れを考慮しても7歳(84ヶ月)程度までが精度よく算出できる。
歩行しているとは、足によって移動することであり、速度や歩き方に制限はない。すなわち、歩いている、走っている、スキップ,前進移動、後退移動、横移動など足によって立ち、かつ移動していれば何れも含まれる。また、本実施形態では、移動途中で静止動作が含まれる場合も、歩行しているに含むものとする。
動画像データは、撮像装置(カメラ)により撮影された動画像データであり、撮像装置は、一般的なRGBカメラであってもよいし、モノクロカメラ又はスペクトルカメラであってもよく、撮像装置の性能や仕様は制限されない。撮像装置には、ビデオカメラ、スマートフォンに内蔵されたカメラ、タブレット端末に内蔵されたカメラ、パーソナルコンピュータなどにケーブルなどの接続手段によって取り付け可能なWEBカメラなどが含まれる。照明数、照明角度、照度、撮影角度などの撮影環境条件についても制限はない。本実施形態では、RGB画像を取得することとする。また、歩行している被験乳幼児の全身が含まれる動画像データが好ましいがこれに限らず、動画像データの一部は胴体から足にかけてのもの、動画像データの全てが胴体から足にかけてのものでもよい。算出精度を考慮すると正面の全身が含まれる動画像データが好ましい。なお、洋服、靴などは着用した状態でも着用していない状態でもよい。
取得するとは、撮像装置で撮影された動画像データを直接用いるほか、動画像データが記録された媒体によって取得すること、ネットワーク経由で取得すること、所定のサーバに記憶された動画像データを取得することなどが含まれる。
【0013】
被験乳幼児の特定部位とは、当該被験乳幼児が歩行をする際に影響する体の部位であり、体の重心に対して位置が変化する部位や関節などである。具体的には、頭頂、眉間(頭)、首、背中側の胸骨上端位置(背中)、左右肩峰(肩)、左右肘(肘)、左右手首(手首)、左右上前腸骨棘(骨盤)、左右大転子(股関節)、左右膝、左右大腿骨外側上顆(膝関節)。左右外果(足関節)、左右足首などである。なお、詳細は後述するが、ここに列記した体の部位は名称そのものの部位だけではなく、周辺も含まれるものとする。したがって、例えば、「背中側の胸骨上端位置(背中)」は、胸郭の全面の正中部にある扁平骨の上端の背中側の位置ではあるが、本実施形態では、背中に限らず、胸も含むものとする。特定部位を抽出する際には、これら全てを抽出してもよいし、一部について抽出するようにしてもよい。また、これらとは別に、重心位置も推定する。
特定部位の抽出とは、被験乳幼児が撮影された動画像データから特定部位を抽出することである。抽出方法はどのような方法でもよい。例えば、被験乳幼児が撮影された動画像データから公知の骨格情報取得技術を用いて骨格を抽出し、特定部位を抽出する方法や被験乳幼児の特定部位を含む部位にマーカを貼付し撮影された動画像データからマーカを解析して特定部位を抽出する方法があげられる。
【0014】
歩行により移動する特定部位の位置の時間変化とは、特定部位は被験乳幼児の動画像データから抽出するため、当該抽出された特定部位の位置(座標)は時間経過に伴い変化する。どのような特定部位の位置がどのように変化するかに基づいて被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出する。
被験乳幼児の発達段階とは、歩行に関わる発達段階であり、歩行の発達段階を発達齢で表したもの、歩行の発達度合いを歩行発達が早い、標準、ゆっくりなどで表したもの、所定の年齢(例えば、就学時児童)を100%とした場合に何%程度発達しているか、筋肉の発達度合い、歩行の安定度合いなどが挙げられる。
【0015】
次に、図2を用いて処理の流れを説明する。
ステップS100は、被験乳幼児の動画像データを取得する。動画像データはネットワーク経由、または、所定の媒体を用いて取得するステップである。
ステップS105は、複数の乳幼児の母集団から抽出した複数の乳幼児の発達関連パラメータと実齢との相関を示す関係情報もネットワーク経由、または、所定の媒体を用いて取得するステップである。
【0016】
ステップS110は、取得した動画像データから特定部位を抽出するステップである。
本実施形態では、被験乳幼児にマーカをつけずに(日常状態で)歩行している様子を撮影した動画像データであるため、公知の骨格情報取得技術、例えば、OpenPose(URL=https://gthub.com/CMU-Perceptual-Computing-Lab/poenpose)やVisionPose(URL=https://www.next-system.com/visionpose)を用いて抽出する。骨格情報取得技術では、首、肩、肘、手首、腰、膝、足首などを抽出し、抽出した部位を点と線で示して姿勢を推定する。また、骨格情報取得技術では、関節位置を特定することも可能である。これらの技術を用いて、本実施形態では図1に示した以下の7点の特定部位の抽出を行う。
1)眉間(頭)とは、眉と眉との間、額の中央部分だけでなく、頭頂部以外の頭部も含まれる。
2)胸骨上端(胸)とは、胸郭前面の正中部にある扁平骨の上端部であり、いわゆる胸が含まれる。
3)左肩峰(肩)とは、肩甲骨にある骨の突起で、肩関節の先端部を形成する部分で、左肩の肩峰であり、左肩全体が含まれる。
4)左手首(手首)とは、左のてのひらと左腕をつなぐ関節である。
5)左大転子(股関節)とは、左側の大腿骨の上外方にある突起で、股関節を指し、左脚の付け根部分も含まれる。
6)左大腿骨外側上顆(膝関節)とは、左脚の大腿骨の下の方で、外側に突隆している部分で、膝関節であり、いわゆる膝が含まれる。
7)左外果(足関節)とは、下腿の外側の腓骨の下端は肥厚して下方に突出し、特にその外側(外くるぶし)であり、足首の中でも地面に近い位置にある部分で、足関節である。
また、特定部位の抽出とは別に、被験乳幼児の重心を推定する。一般的に、幼児の重心位置は床面から57%の位置にあるとされているため、被験乳幼児の動画像データから当該被験乳幼児の重心位置を推定する。
1)から7)に示した特定部位は、被験乳幼児が歩行することで当該被験乳幼児の身体の重心に対し位置が変化する部位である。歩行することで重心に対し位置が変化する部位を特定部位とすることで、歩行にともなう身体のバランスや筋肉の発達度合いを測定することが可能となる。乳幼児の歩行は、歩幅や膝の伸張など脚に関わる要素だけでなく、バランスを取る際の手の位置、肩の位置など、多岐にわたるため、特定部位を複数とし、特定部位の位置の時間変化から抽出した複数の発達関連パラメータを用いることで有効な歩容発達度合いを算出することが可能となる。複数の発達関連パラメータとは、1つの特定部位から発達関連パラメータを複数抽出することや複数の特定部位から発達関連パラメータを抽出することで、抽出可能となる。また、3)から7)に示した特定部位は関節である。関節の動きは歩行動作に影響が大きいため、関節の位置の時間変化から発達関連パラメータを抽出することは歩容に関する発達段階を算出するうえで重要な要素である。
上記特定部位は、被験乳幼児の動画像データから1歩行周期を切り出し、当該1歩行周期に対して抽出を行う。本実施形態では、左足踵が地面または床面に接地してから次に左足踵が地面または床面に接地するまでを1歩行周期とする。抽出した左外果の位置から左足が地面または床面に接地したことを判定する。抽出した特定部位ごとに1歩行周期中の最大値、最小値および振幅を算出し、身長で正規化する。これは、正規化したデータを用いることで、被験乳幼児の身長が伸びた際の影響を排除するためである。また、正規化したデータを用いた方が、後述する関係情報(重回帰式)で算出された相関係数がよい値であったためである。そして、正規化したデータ、正規化したデータを演算したデータ、または、正規化したデータと推定した重心位置とから発達関連パラメータを抽出する。なお、本実施形態では、抽出した特定部位ごとに1歩行周期中の最大値、最小値および振幅を算出し、身長で正規化したが、必ずしも正規化を行う必要はない。関係情報を作成する際に算出された相関係数の値などにより、正規化するか否かを決定すればよい。
【0017】
ステップS120は、抽出した発達関連パラメータおよび取得した関係情報に基づいて被験乳幼児の発達段階(歩容発達度合い)を発達齢で算出するステップである。
本実施形態では、複数の乳幼児の母集団から乳幼児の発達関連パラメータを用いて予め関係情報を作成し、取得ステップで取得した関係情報を用いて被験乳幼児の発達段階(歩容発達度合い)を発達齢で算出する。
【0018】
ステップS130は、算出ステップによる算出結果に基づいて被験乳幼児の歩容を評価するステップである。ここで、歩容を評価とは、抽出した発達関連パラメータを加工せずに表示すること、複数の発達関連パラメータを用いてグラフ化すること、発達関連パラメータを図式化すること、統計的な処理を行うこと、評価コメントをつけること、発達段階に適したアドバイスなどである。評価内容については後述する。
【0019】
次に、関係情報を算出するために必要となる複数の乳幼児の母集団から乳幼児の発達関連パラメータを抽出するための特定部位の抽出方法について図3図4を用いて説明する。
本実施形態では、13ヶ月から37ヶ月までの男女幼児109名の母集団から特定部位を抽出した。母集団の乳幼児から特定部位を抽出する方法は、乳幼児の身体にマーカを貼付し、当該乳幼児が歩行する様子を図4に示すように複数台の撮像装置(ビデオカメラ)で撮像し、当該動画像データを解析するモーションキャプチャを用いて抽出した。図中の点線○は複数台の撮像装置を設置した場所を示す。モーションキャプチャとしては、デプスカメラ(マイクロソフト社のKinect)、複数のビデオカメラを使用する3次元動作解析システム(インターリハ株式会社製3次元動作分析装置VICON、VICON MXシステム、VICON NEXUS)等を使用することができる。このうちマイクロソフト社のKinectは、RGBカラー映像用カメラと、奥行き測定用に赤外線カメラと赤外線発光部を備え、被験者の関節点の位置情報を自動的に抽出し、被験者の歩行画像に重ねて表示することを可能とする。モーションキャプチャの深度センサによって人物形状を認識し、人物形状から機械学習にて骨格点を推定する公知の手法により、図3に示す1)から10)の特定部位の抽出および重心位置の推定を行う。なお、母集団の乳児の特定部位を抽出する方法は、被験乳幼児の特定部位を抽出する方法と同様の方法で抽出してもよい。本実施形態では、母集団の乳幼児には所定の場所でデータを取得するために撮影することを想定しているため、抽出精度を重視し、マーカを貼付し、モーションキャプチャを用いた抽出とした。以下に抽出する特定部位を図3を用いて説明する。
1)頭頂とは、頭のいただき、頭のてっぺんに限られず、頭の上部も含まれる。
2)眉間(頭)とは、眉と眉との間、額の中央部分も含まれる。
3)首とは、頭(頭部)と胴体をつなぐ部位であり、肩より上方でかつ頭部より下方の位置が含まれる。
4)背中側の胸骨上端位置(背中)とは、胸郭の全面の正中部にある扁平骨の上端の背中側の位置であり、本実施形態では背中に限らず、胸の全面側も含まれる。
5)左右肩峰(肩)とは、肩甲骨にある骨の突起で、肩関節の先端部を形成する部分で、左肩の肩峰と右肩の肩峰のそれぞれを指す。
6)左右肘(肘)とは、上腕と前腕を繋ぐ肘関節で、左肘と右肘のそれぞれを指す。
7)左右手首(手首)とは、てのひらと腕をつなぐ関節で、左手首と右手首のそれぞれを指す。
8)左右上前腸骨棘(骨盤)とは、骨盤の横の骨(腸骨)の一番突出している部分であり、左側と右側のそれぞれを指しており、股関節でもあり、脚の付け根も含まれる。
9)左右膝とは、脚の関節部で、腿と脛を繋ぐ部分関節で、左膝と右膝のそれぞれを指す。
10)左右足首とは、あしのくるぶしであり、足関節部分を指す。
そして、抽出した特定部位および推定した重心位置から発達関連パラメータを抽出する。
本実施形態では、図4に示すように、母集団の乳幼児が歩行する歩行路の中央部分には、下肢加重計50が設けられている。歩行路の上で歩行する乳幼児の足裏から当該歩行面が押圧された足圧の情報を時間情報と対応付けて歩行跡情報として取得する。これにより、被験者の足圧分布の二次元情報が経時データとして取得される。下肢加重計50としては、シート式圧力センサウォークWayと床反力計を使用することができる。下肢加重計50を用いることで、歩行角度の基点となる踵内の圧力中心点を正確に特定することができ、左右の脚に関する歩隔もしくは歩行角度、またはこれらの左右差を含む発達関連パラメータを取得するとよい。また、下肢加重計50で取得された情報を用いることで、1歩行周期を正確に切り出すこともできる。
【0020】
<発達関連パラメータについて>
次に、抽出する発達関連パラメータの一例を説明する。以下に示す発達関連パラメータは、後述する関係情報(重回帰式)を作成するのに必要な発達関連パラメータである。なお、この他の発達関連パラメータを抽出して発達段階を発達齢で算出してもよいことは言うまでもない。
本実施形態では、上述したように、被験乳幼児と母集団の乳幼児とでは特定部位の抽出方法が異なっている。被験乳幼児を撮影するのは、日常生活において、被験乳幼児の両親、祖父母などが撮影することを想定しているため、利便性を重視する一方で、母集団の乳幼児には所定の場所でデータを取得するために撮影することを想定しているため、抽出精度を重視するためである。何れの方法で特定部位の抽出を行った場合でも、以下に示す発達関連パラメータを抽出することとする。
【0021】
発達関連パラメータの算出方法について説明する。
(1)歩行周期の切り出しを行う。図4に示したような環境のもとで歩行した母集団の乳幼児の動画像データから歩行周期を特定し、切り出し、動画像データに何歩行周期分(何歩分)のデータが含まれるか判定する。
(2)切り出した歩行周期毎に各座標値のXYZ軸に対し、平均値、中央値、最大値、最小値、および、振幅値を算出する。
(3)上記(2)で算出した値を用いて以下の値を特定部位毎に算出する。
左右方向Xに対して、右最大値-左最小値の値を算出する。例えば、特定部位を足首とした場合、右足首のX軸最大値から左足首のX軸最小値を引くことで算出する。
前後方向Yに対して、右最大値-左最小値の値を算出する。例えば、特定部位を足首とした場合、右足首のY軸最大値から左足首のY軸最小値を引くことで算出する。
高さ方向Zに対して、左右平均を算出する。例えば、特定部位を足首とした場合、右足首のZ軸最大値と左足首のX軸最大値との平均値を算出する。
(4)上記(2)および(3)で算出したそれぞれの歩行周期毎のデータを歩数で平均化し、被験者の代表値とする。
(5)上記(4)で算出した代表値の生データを身長で正規化したデータ、生データを対数化したデータ、正規化したデータを対数化したデータを算出し、生データを含むこれら4種類のデータを発達関連パラメータとして算出する。
(6)(5)で算出した発達関連パラメータのうち、どの方法でも実日齢との相関が0.2以上であり、発達段階の評価に有効な発達関連パラメータのみを本実施形態では関係情報(重回帰式)を作成するのに用いる発達関連パラメータとした。関係情報(重回帰式)を作成するのに用いる発達関連パラメータは、「時間に関係するパラメータ」、「歩幅に関するパラメータ」、「歩隔に関するパラメータ」、「腰高さ関するパラメータ」、「上肢の高さに関するパラメータ」、および、「上半身の揺れに関する」の6種類に分類される。以下に、関係情報(重回帰式)を作成するのに用いる発達関連パラメータについて説明する。
【0022】
「時間に関係するパラメータ」とは、算出した発達関連パラメータのうち、時間に関係する値を含むデータであり、具体的には、「1歩行周期にかかる時間」、「歩行率」、および、「歩行比」である。「1歩行周期にかかる時間」とは、一方の脚の踵が地面に接地してから、同じ脚の踵がもう一度地面に接地するまでの時間を示す。「歩行率」とは、ケイデンスやピッチとも呼ばれ、左右一方の踵が接地してから左右同じ側の踵が再び接地するまでの時間から、1分間の歩数を計算した値であり、単位は[歩/分]である。「歩行比」は、抽出した歩幅(m)を歩行率(歩/分)で除した値である。歩行比は歩行の効率(歩行率)を示す。
【0023】
「歩幅に関するパラメータ」とは、切り出した1歩行周期中での左右一方の踵接地から、もう一方の側の踵が再び接地するまでの距離である「歩幅」から演算した値や特定部位の前後方向Yに対して算出した値など、歩行時の足の前後方向Yの距離に関するデータを意味し、足首から重心の前後方向の距離や右足首と左足首との前後方向の距離であり、具体的には、「歩幅平均値」、「右(左)足首から重心の前後方向振幅値」、および、「右足首前後方向最大値-左足首前後最小値」である。
【0024】
「歩隔に関するパラメータ」とは、算出した発達関連パラメータのうち、下半身の特定部位の左右方向Xの距離に関するデータを意味し、特定部位と重心との左右方向の距離に関するデータや同一特定部位の左右間の距離に関するデータであり、具体的には、「右(左)足首から重心の左右方向の平均値」、「右(左)足首から重心の左右方向の中央値」、「右(左)足首から重心の左右方向の最大値」、「右(左)膝から重心の左右方向の平均値」、「右(左)膝から重心の左右方向の中央値」、「右(左)膝から重心の左右方向の最大値」、「右足首左右方向最大値-左足首左右方向最小値」、および、「右膝左右方向最大値-左膝左右方向最小値」である。
【0025】
「腰高さに関するパラメータ」とは、算出した発達関連パラメータのうち、下半身の特定部位の上下方向Zの距離に関するデータを意味し、特定部位と重心との上下方向の距離に関するデータであり、具体的には、「右(左)足首から重心の上下方向の平均値」、「右(左)足首から重心の上下方向の中央値」、「右(左)足首から重心の上下方向の最小値」、「右(左)膝から重心の上下方向の平均値」、「右(左)膝から重心の上下方向の中央値」、および、「右(左)膝から重心の上下方向の最大値」である。
【0026】
「上肢の高さに関するパラメータ」とは、算出した発達関連パラメータのうち、上半身の特定部位の上下方向Zの距離に関するデータを意味し、特定部位と重心との上下方向の距離に関するデータであり、具体的には、「右(左)手首から重心の上下方向の平均値」、「右(左)手首から重心の上下方向の中央値」、「右(左)手首から重心の上下方向の最大値」、「手首から重心までの距離の左右平均の平均値」、「手首から重心までの距離の左右平均の中央値」、および、「手首から重心までの距離の左右平均の最大値」である。
【0027】
「上半身の揺れに関するパラメータ」とは、算出した発達関連パラメータのうち、上半身の特定部位の左右方向Xの揺れ幅に関するデータであり、具体的には、「頭頂の左右方向振幅」、「眉間の左右方向振幅」、「首の左右方向振幅」、および、「胸部の左右方向振幅」である。
【0028】
次に母集団の乳幼児から抽出した上述した6種類のパラメータに含まれる発達関連パラメータを説明変数として重回帰式を作成した。作成した重回帰式に被験乳幼児から抽出した発達関連パラメータを用いて当該被験乳幼児の歩行発達度合い(発達齢)を推定した。
本方法において、6種類のパラメータに含まれる発達関連パラメータのうち、2つ以上の発達関連パラメータを選択して(用いて)重回帰式を作成することで、有効な歩行発達度合い(発達日齢)を推定できることがわかった。発達関連パラメータは、上述した4種類(生データ、生データを身長で正規化したデータ、生データを対数化したデータ、正規化したデータを対数化したデータ)の何れでもよいが、ここでは、身長で正規化したデータに基づき求めた一覧(表1および表2)を示す。
【0029】
【表1】
【表2】
【0030】
表1および表2の結果に基づき、選択する発達関連パラメータの一例を示す。ここでは、上述した6種類のパラメータのうち、各種類から1パラメータずつ選択し、選択したパラメータを用いて重回帰式を作成した。
<選択したパラメータ>
時間に関係するパラメータ:歩行率(1)
歩幅に関するパラメータ:歩幅平均値(2)
歩隔に関するパラメータ:右足首左右方向最大値-左足首左右方向最小値(3)
腰高さ関するパラメータ:右(左)足首から重心の上下方向の最小値(4)
上肢の高さに関するパラメータ:右(左)手首から重心の上下方向の最大値(5)
上半身の揺れに関する:眉間の左右方向振幅(6)
<重回帰式1>
歩行発達度合い(発達日齢)=-43.48*(3)-15.09*(4)-1.50*(1)+8.51*(2)-3.82*(5)-8.65*(6)-874.12
上記式中の( )付きの数字は、選択したパラメータが含まれる上述した6種類のパラメータの種類を示す。
ここで、上記に選択したパラメータの単相関の場合の相関係数は、表1および表2に示したように、歩行率(1):-0.32、歩幅平均値(2):0.23、右足首左右方向最大値-左足首左右方向最小値(3):-0.57、右(左)足首から重心の上下方向の最小値(4):-0.56、右(左)手首から重心の上下方向の最大値(5):-0.48、眉間の左右方向振幅(6):-0.43であった。これに対し、上記重回帰式1による相関係数は0.77と強い相関があるといえる。また、単相関のときと比べ、相関係数が高い値となっていることより、重回帰式に基づき歩容発達度合い(発達齢)を算出することは有効であることがわかる。なお、上記重回帰式1に被験乳幼児から抽出した発達関連パラメータを用いて当該被験乳幼児の歩行発達度合い(発達齢)を推定する際の発達関連パラメータは、上記組み合わせに限らない。各種類から選択するパラメータは上述したパラメータであれば何れを選択してもよい。また、パラメータは少なくとも2つあれば推定可能である。例えば、「歩隔に関するパラメータ」に属するパラメータと「腰高さ関するパラメータ」に属するパラメータとの2つを用いて推定した場合の相関係数は0.71であった。「歩隔に関するパラメータ」に属するパラメータ、「腰高さ関するパラメータ」に属するパラメータ、「時間に関係するパラメータ」に属するパラメータ、および、「歩幅に関するパラメータ」に属するパラメータの4つを用いて推定した場合の相関係数は0.75であった。このように、パラメータの数が増えるほど相関係数は高くなるため、推定精度が上がるといえる。
【0031】
また、選択する2つ以上のパラメータを同一特定部位から算出した異なるパラメータとしてもよい。例えば、同一特定部位である右(左)足首から算出した「歩幅に関するパラメータ」の右(左)足首から重心の前後方向振幅値と「歩隔に関するパラメータ」の右足首左右方向最大値-左足首左右方向最小値とを用いた場合は、相関係数0.59となり、相関があるといえる。このように、同一特定部位から算出した異なるパラメータを用いることで、例えば、被験者乳幼児の動画像データが特定部位(この場合は足首)以外の部分について鮮明に撮影できていなかった場合でも歩行発達度合い(発達齢)を算出することが可能となる。
また、動画像データから歩行周期毎のデータを算出し、複数歩行周期分のデータを用いて各パラメータを算出したが、1歩行周期分のデータだけでもよいし、特定の歩行周期分を用いてもよい。このようにすることで、撮影された動画像データのうち一部期間は鮮明に撮影できていない場合でも歩行発達度合い(発達齢)を算出することが可能となる。
【0032】
また、上述したように、被験者の代表値は、生データを身長で正規化したデータを対数化したデータを用いてもよい。このようなデータを用いてパラメータを算出し推定すると、さらに推定精度を高める事ができる。これは、乳幼児の発達が二次曲線的に変化するからである。対数化したデータを作成した重回帰式は次の通りである。
<重回帰式2>
log10歩行発達度合い(発達日齢)=-0.44log10*(3)-2.35log10*(4)-0.37log10*(1)+0.35log10*(2)-0.19log10*(5)-0.06log10*(6)+0.11
上記式中の( )付きの数字は、選択したパラメータが含まれる上述した6種類のパラメータの種類を示す。
上記重回帰式2の算出結果を真数に戻すことで、歩行発達度合い(発達日齢)を算出できる。
上述したように、生データを身長で正規化したデータを用いた重回帰式1の場合は、相関係数が0.77であったのに対し、生データを身長で正規化したデータを対数化したデータを用いた重回帰式2の場合は、相関係数が0.79と高い値となった。したがって、生データを身長で正規化したデータを対数化したデータを用いた方が推定精度を高められるといえる。
【0033】
以下の重回帰式3から重回帰式6は、足に含まれる特定部位(足の踵または足首)の位置の時間変化から抽出した複数の発達関連パラメータ(例えば、歩行率、歩幅および足距離(歩隔)など)を用いて歩行発達度合い(発達日齢)を算出する例である。なお、歩幅は、表1、2の「歩幅平均値」を、足距離(歩隔)は、表1、2の「左右足首の左右距離」を指す。
<重回帰式3>
複数の被験乳幼児の歩行率、歩幅および足距離(歩隔)を説明変数とし、複数の被験乳幼児の実齢を目的変数として作成した重回帰式3を用いて、歩行発達度合い(発達日齢)を求める。重回帰式3の説明変数に被験乳幼児から抽出した発達関連パラメータ(歩行率、歩幅および足距離(歩隔))を用いて、歩行発達度合い(発達日齢)を算出した。
歩行発達度合い(発達日齢)=1162.53-2.54*歩行率+11.68*歩幅-22.33*足距離(歩隔)
重回帰式3による相関係数は0.69と相関があるといえる値となった。また、単相関のときと比べ、相関係数が高い値となっていることより、重回帰式に基づき歩容発達度合い(発達齢)を算出することは有効であることがわかる。
<重回帰式4>
複数の被験乳幼児の歩行率および歩幅を説明変数とし、複数の被験乳幼児の実齢を目的変数として作成した重回帰式4を用いて、歩行発達度合い(発達日齢)を求める。重回帰式4の説明変数に被験乳幼児から抽出した発達関連パラメータ(歩行率および歩幅)を用いて、歩行発達度合い(発達日齢)を算出した。
歩行発達度合い(発達日齢)=698.75-3.06*歩行率+16.76*歩幅
重回帰式4による相関係数は0.51と相関があるといえる値となった。また、単相関のときと比べ、相関係数が高い値となっていることより、重回帰式に基づき歩容発達度合い(発達齢)を算出することは有効であることがわかる。
<重回帰式5>
複数の被験乳幼児の歩行率および足距離(歩隔)を説明変数とし、複数の被験乳幼児の実齢を目的変数として作成した重回帰式5を用いて、歩行発達度合い(発達日齢)を求める。重回帰式5の説明変数に被験乳幼児から抽出した発達関連パラメータ(歩行率および足距離(歩隔))を用いて、歩行発達度合い(発達日齢)を算出した。
歩行発達度合い(発達日齢)=1493.79-1.75*歩行率-25.58*足距離(歩隔)
重回帰式5による相関係数は0.63と相関があるといえる値となった。また、単相関のときと比べ、相関係数が高い値となっていることより、重回帰式に基づき歩容発達度合い(発達齢)を算出することは有効であることがわかる。
<重回帰式6>
複数の被験乳幼児の歩幅および足距離(歩隔)を説明変数とし、複数の被験乳幼児の実齢を目的変数として作成した重回帰式6を用いて、歩行発達度合い(発達日齢)を求める。重回帰式6の説明変数に被験乳幼児から抽出した発達関連パラメータ(歩幅および足距離(歩隔))を用いて、歩行発達度合い(発達日齢)を算出した。
歩行発達度合い(発達日齢)=1015.61+5.05*歩幅-25.18*足距離(歩隔)
重回帰式6による相関係数は0.58と相関があるといえる値となった。また、単相関のときと比べ、相関係数が高い値となっていることより、重回帰式に基づき歩容発達度合い(発達齢)を算出することは有効であることがわかる。
重回帰式3から6のように、足に含まれる特定部位(足の踵または足首)の位置の時間変化から抽出した複数の発達関連パラメータのうち少なくとも2種以上を目的変数として作成した重回帰式を用いて、歩行発達度合い(発達齢)を求めることが可能である。足に含まれる特定部位(足の踵または足首)は、比較的特定しやすいため発達関連パラメータを抽出しやすい。このように、抽出しやすい発達関連パラメータを用いて歩行発達度合いを算出しても有効な値を算出することができる。また、上述したように、足に含まれる特定部位(足の踵または足首)の位置の時間変化から抽出した複数の発達関連パラメータは、2種より3種のほうが相関係数が高い値であることより、3種用いることが好ましい。
また、重回帰式4のように、特定部位を足の踵とし、当該特定部位の位置の時間変化から抽出した複数の発達関連パラメータのうち少なくとも2種以上を目的変数として作成した重回帰式を用いて、歩行発達度合い(発達齢)を求めることが可能である。1特定部位から抽出する複数の発達関連パラメータを用いるため、仮に、当該特定部位以外の特定部位は鮮明に撮影できていない画像の場合でも正確な簡易な歩行発達度合いを算出することができる。
【0034】
<評価方法について>
図5を用いて、評価方法について説明する。
本実施形態では、撮影した被験乳幼児の動画像データ、動画像データから抽出した特定部位を用いた骨格データ、抽出した各発達関連パラメータ、算出した歩容発達度合い(発達齢)などを用いて当該被験乳幼児の歩容に関する発達段階の評価を行う。また、評価結果は、被験乳幼児の動画像データを提供した(送信した)利用者に提供される。本実施形態では、被験乳幼児の動画像データが送信されたスマートフォン10に評価結果を送信するものとする。
図5に、スマートフォン10の画面イメージを示す。
(1)は、抽出した発達関連パラメータのうち所定のパラメータを用いてグラフ化したイメージ図である。例えば、身体のバランスをはかるパラメータ(例えば、手高さ、膝距離、腰高さの何れか)を示す横軸と、歩行比を示す縦軸とを含む座標系に、母集団の乳幼児から抽出した発達関連パラメータをプロットする。当該プロットと識別できるように、被験乳幼児から抽出した発達関連パラメータを例えば母集団の乳幼児から抽出した発達関連パラメータと異なる色および/または形のドットを用いてプロットすることで、相対的な評価を視覚的に行うことができる。
(2)は、被験乳幼児を撮影する画面イメージ図である。撮影した動画像データや過去に撮影した動画像データを見ることができるため、歩容に関する発達を見比べることができる。
(3)は、歩行時の足跡をイメージした図である。発達関連パラメータから抽出した歩幅と歩隔とに基づき足跡イメージを作成し表示する。また、過去の動画像データから抽出した歩幅と歩隔とに基づき作成した足跡イメージと比較表示することで、歩容に関する発達を見比べることができる。
(4)は、算出した歩容発達度合い(発達日齢)に関するグラフのイメージ図である。日経過を示す横軸と、歩容発達度合いを示す縦軸とを含む座標系に、母集団の乳幼児から算出した歩容発達度合いをプロットする。当該プロットと識別できるように、被験乳幼児から算出した歩容発達度合いを例えば母集団の乳幼児から抽出した発達関連パラメータと異なる色および/または形のドットを用いてプロットすることで、相対的な評価を視覚的に行うことができる。
図5に示した評価内容および画面イメージは一例である。この他に、例えば、発達関連パラメータまたは算出した歩容発達度合い(発達日齢)と発達関連パラメータの算出に用いた動画像データが撮影された日付または実日齢とを関連づけて出力できるようにする。このように構成すると、利用者が被験者乳幼児の発達日齢と実際の成長とを関連づけて確認することが可能となる。また、出力方法として、発達関連パラメータまたは歩容発達度合いを示す第一軸と、撮影した日付または実日齢を示す第二軸とを含む座標系にグラフ表示することで、視覚的に把握しやすくできる。この他に、抽出した発達関連パラメータ毎の経時変化のグラフ化、抽出した特定部位による3D骨格点のモデル化、身長、体重などの測定値(別途、体重計や身長計で計測した計測値を入力したデータ)のグラフ化、メッセージの入力など、撮影した動画像データや抽出した発達関連パラメータを用いたデータを用いて様々な評価を行うことができる。
【0035】
<変形例>
本発明の実施は、上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形、改良等が可能である。
【0036】
本実施形態では、算出ステップにおいて、特定部位の位置の時間変化から抽出した発達関連パラメータから発達段階を発達齢で算出した。しかし、これに限らず、例えば、母集団の乳幼児から抽出した特定部位の位置の時間変化を示すデータを用いて機械学習により作成された学習済みモデルに基づき被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出してもよい。機械学習をディープラーニングで行うことにより、精度の高い発達段階を算出することができる。
【0037】
本実施形態では、被験乳幼児と母集団の乳幼児とで特定部位の抽出方法を異なる方法とした。しかし、これに限らず、両者が同一の方法であってもよいし、他の抽出方法でも、特定部位を抽出できれば抽出方法は問わない。
また、本実施形態では、図3に示す特定部位の抽出方法では、重心を含む17点の特定部位を抽出したが、これに限らない。例えば、左大腿骨外側上顆(膝関節)について、左膝の右端および左端を推定し、推定した値から左膝の中心点を求めるようにすると、さらに制度のよい抽出を行うことも可能であるため、17点以上の特定部位(例えば、32点の特定部位)を抽出するようにしてもよい。
【0038】
本実施形態では、評価ステップにおいて、評価結果は、被験乳幼児の動画像データを提供した(送信した)利用者にネットワーク経由で提供されることとした。しかし、これに限らず、被験乳幼児の動画像データを提供した(送信した)利用者が発達段階算出システム200の所定のサイトへアクセスし、評価結果を出力するようにしてもよい。このようにすることで、利用者が利用しやすい形で評価結果を確認することができる。
【0039】
本実施形態では、抽出した特定部位ごとに1歩行周期中の最大値、最小値および振幅を算出し、身長で正規化したデータを用いて発達関連パラメータを抽出した。しかし、これに限らず、抽出した特定部位ごとに1歩行周期中の最大値、最小値および振幅を算出し、当該算出した値と推定した重心位置とから歩容を示す発達関連パラメータを抽出してもよい。関係情報を作成した際に算出された相関係数の値などにより、身長で正規化したデータを使用するか否かを決定すればよい。
【0040】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含する。
<1>歩行している被験乳幼児を撮影した動画像データを取得する取得ステップと、
取得した前記動画像データにおける前記被験乳幼児の特定部位を抽出する抽出ステップと、
歩行により移動する前記抽出した前記特定部位の位置の時間変化に基づいて前記被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出する算出ステップと、
を備える乳幼児の発達段階算出方法。
<2> 前記特定部位は、前記被験乳幼児が歩行することで当該被験乳幼児の体の重心に対し位置が変化する部位であり、
前記抽出ステップにおいて、前記被験乳幼児の特定部位の位置の時間変化から発達関連パラメータを複数抽出し、
前記算出ステップにおいて、抽出した前記複数の発達関連パラメータの少なくとも2つを用いて前記発達段階を算出することを特徴とする<1>に記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<3>前記特定部位は、複数あり、
前記抽出ステップにおいて、前記被験乳幼児の前記特定部位それぞれの位置の時間変化から複数の発達関連パラメータを抽出することを特徴とする<2>に記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<4>前記特定部位は、前記被験乳幼児の関節であることを特徴とする<2>または<3>に記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<5>前記発達関連パラメータは、前記被験乳幼児の体の重心に対する、当該被験乳幼児の前記特定部位の相対位置の時間変化から抽出することを特徴とする<2>から<4>何れか1項に記載の乳幼児発達段階算出方法。
<6>前記発達関連パラメータは、1歩行周期を切り出した範囲内で抽出した値を身長データで正規化した値または当該値を用いて演算した値であることを特徴とする<2>から<5>何れか1項に記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<7>前記発達関連パラメータは、1歩行周期を切り出した範囲内で抽出した値を身長データで正規化した後に対数化した値であることを特徴とする<2>から<6>何れか1項に記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<8>前記発達関連パラメータには、時間に関係するパラメータ、歩幅に関するパラメータ、歩隔に関するパラメータ、腰高さに関するパラメータ、上肢の高さに関するパラメータ、および、上半身の揺れに関するパラメータのいずれか2つを少なくとも含むことを特徴とする<2>から<7>何れか1項に記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<9>前記複数の発達関連パラメータは、同一の前記特定部位から抽出したものとすることを特徴とする<2>から<8>何れか1項に記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<10>複数の乳幼児の各々について発達関連パラメータを求めることで得られる、各々の乳幼児における発達関連パラメータと乳幼児の実齢との複数の組み合わせを用いて、発達関連パラメータと実齢との相関を示す関係情報を取得する相関取得ステップを更に含み、前記算出ステップは、前記被験乳幼児の前記複数の発達関連パラメータと、前記関係情報とに基づき当該被験乳幼児の前記発達段階を算出することを特徴とする<2>から<9>何れか1項に記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<11>
前記算出ステップで用いる前記関係情報は、前記複数の乳幼児の各々について得られた発達関連パラメータを説明変数とし、前記実齢を目的変数とする重回帰式であることを特徴とする<10>に記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<12>前記発達関連パラメータは、1歩行周期を切り出した範囲内で抽出した値を複数歩行周期分用いることを特徴とする<10>または<11>に記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<13>前記算出ステップによる算出結果に基づき前記被験乳幼児の歩容を評価する評価ステップをさらに備え、
前記評価ステップでは、前記発達関連パラメータおよび前記発達段階の何れかのデータを示す第一軸と、他のデータを示す第二軸とを含む座標系に、前記複数の乳幼児から抽出した算出結果と、前記被験乳幼児の算出結果と、を識別してプロットしたグラフデータを出力することを特徴とする<10>または<12>何れかに記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<14>前記算出ステップによる算出結果に基づき前記被験乳幼児の歩容を評価する評価ステップをさらに備え、前記評価ステップでは、前記発達関連パラメータまたは前記発達段階と、当該発達関連パラメータの算出に用いた動画像データが撮影された日付または実齢とを関連づけて出力することを特徴とする<2>から<9>何れか1項に記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<15>前記評価ステップでは、前記発達関連パラメータまたは前記発達段階を示す第一軸と、撮影した日付または実齢を示す第二軸とを含む座標系に、前記算出結果をプロットしたグラフデータを出力することを特徴とする<14>に記載の乳幼児の発達段階算出方法。
<16>歩行している被験乳幼児を撮影した動画像データを取得する取得手段と、
取得した前記動画像データにおける前記被験乳幼児の特定部位を抽出する抽出手段と、
歩行により移動する前記抽出した前記特定部位の位置に基づいて前記被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出する算出手段と、
を備える乳幼児の発達段階算出システム。
<17>前記特定部位は、前記被験乳幼児が歩行することで当該被験乳幼児の体の重心に対し位置が変化する部位であり、前記抽出手段は、前記被験乳幼児の特定部位の位置の時間変化から発達関連パラメータを複数抽出し、前記算出手段は、抽出した前記複数の発達関連パラメータの少なくとも2つを用いて前記発達段階を発達齢で算出することを特徴とする<16>に記載の乳幼児の発達段階算出システム。
<18>複数の乳幼児の各々について発達関連パラメータを求めることで得られる、各々の乳幼児における発達関連パラメータと乳幼児の実齢との複数の組み合わせを用いて、発達関連パラメータと実齢との相関を示す関係情報を取得する相関取得手段を更に含み、前記算出手段は、前記被験乳幼児の前記複数の発達関連パラメータと、前記関係情報とに基づき当該被験乳幼児の歩容発達度合いを算出する手段を含むことを特徴とする<16>から<17>何れか1項に記載の乳幼児の発達段階算出システム。
<19>前記算出手段で用いる前記関係情報は、前記複数の乳幼児の各々について得られた発達関連パラメータを説明変数とし、前記実齢を目的変数とする重回帰式であることを特徴とする<18>に記載の乳幼児の発達段階算出システム。
【0041】
この出願は、2021年4月20日に出願された国際出願PCT/JP2021/016095を基礎とする優先権を主張し、その開示の総てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0042】
10 スマートフォン
50 下肢加重計
100 情報処理端末
110 取得手段
120 抽出手段
130 算出手段
140 評価手段
200 発達段階算出システム
【要約】
発達段階算出方法は、歩行している被験乳幼児を撮影した動画像データを取得する取得ステップと、取得した前記動画像データにおける前記被験乳幼児の特定部位を抽出する抽出ステップと、歩行により移動する前記抽出した前記特定部位の位置の時間変化に基づいて前記被験乳幼児の発達段階を発達齢で算出する算出ステップと、を備える。
図1
図2
図3
図4
図5