(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】アンモニアの除去方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/24 20060101AFI20221222BHJP
B09B 3/65 20220101ALI20221222BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20221222BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20221222BHJP
B01D 61/28 20060101ALI20221222BHJP
B01D 63/06 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
B01D61/24
B09B3/65 ZAB
B01D69/02
C02F11/04 A
B01D61/28
B01D63/06
(21)【出願番号】P 2018082775
(22)【出願日】2018-04-24
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518145271
【氏名又は名称】株式会社レミング
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】316014456
【氏名又は名称】ゼネック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500561517
【氏名又は名称】株式会社小桝屋
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】522312551
【氏名又は名称】株式会社豊橋バイオマスソリューションズ
(72)【発明者】
【氏名】熱田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】西村 宗樹
(72)【発明者】
【氏名】高崎 力也
(72)【発明者】
【氏名】大門 裕之
(72)【発明者】
【氏名】網谷 基徳
(72)【発明者】
【氏名】坪井 博和
(72)【発明者】
【氏名】藤原 雅人
(72)【発明者】
【氏名】堀江 友理
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】松原 卓也
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-064084(JP,A)
【文献】特開2016-083609(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0347630(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0307369(US,A1)
【文献】特開2006-255580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00-71/82
C02F 1/44
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
C02F 11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを含有する被処理液と、該被処理液よりも高温に調整された酸性液
または蒸留水とを、多孔質の疎水性材料によって構成される疎水膜によって隔てた状態で配置すること
により、被処理液からアンモニアを除去する方法であって、
前記被処理液は、温度上昇により揮散して該被処理液の酸度を上昇させる重炭酸その他の成分を含有されるものであり、
前記酸性液または蒸留水は、前記疎水膜を介して前記被処理液に熱を伝達し、該被処理液のうち、前記疎水膜の表面に接する部分およびその近傍に存在するものに対し加温するために該被処理液よりも10℃以上の温度差を有するものとし、
前記酸性液または蒸留水から伝達される熱により加温された前記被処理液の酸性度を上昇させることにより、該被処理液に含有するアンモニアを遊離させガス化したうえで前記疎水膜の空孔を介して前記酸性液または蒸留水に移動させ、該酸性液によりアンモニア塩を生成させることにより、または該蒸留水に溶解させることにより、前記被処理液からアンモニアを除去することを特徴とするアンモニアの除去方法。
【請求項2】
前記酸性液は、pH5以下とするものである請求項1に記載のアンモニアの除去方法。
【請求項3】
前記疎水膜は、空隙率を80%以上とするものである請求項1または2に記載のアンモニアの除去方法。
【請求項4】
前記被処理液は、バイオマスをメタン発酵させるための嫌気性消化処理における処理水である請求項1~3のいずれかに記載のアンモニアの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物(バイオマス)を嫌気性消化処理する過程で発生するアンモニアを、嫌気性消化槽から除去するための方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオマスをメタン発酵して再利用する分野では、嫌気性消化処理によりメタンガスを発生させ、エネルギーの回収プロセスが行われるようになってきた。嫌気性消化は、メタン生成菌の活動により、有機物を分解させ、メタンガスを発生させるものであるが、タンパク質やアミノ酸の分解によりアンモニアが生成されることとなっていた。ところが、アンモニア性窒素は、細菌の増殖においては必須の栄養素であるものの、アンモニア性窒素が過剰に存在する場合には、メタン生成菌の活動を阻害し、嫌気性消化に影響を与えることが報告されている(非特許文献1参照)。
【0003】
そこで、アンモニアを除去する代表的な方法としては、アンモニアストリッピング法がある。この方法は、被処理液のpHを高くし調整し、温度上昇させることにより、アンモニアが液中から揮散ことを利用するものであり、液中のアンモニウムイオンや遊離のアンモニア濃度を低減させることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-113265号公報
【文献】特開2009-66557号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】藤島繁樹、宮原高志、角田俊司、野池達也「嫌気性消化における酸生成相へのアンモニア性窒素の影響」、土木学会論文集 No.650/VII-15, 33-40, 2000.5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アンモニアストリッピング法をバイオマス処理に用いる場合、従来は、消化における嫌気性消化処理の前処理としてアンモニアストリッピング法によってアンモニアを除去するものが提案されており(特許文献1参照)、また、メタン発酵槽(嫌気性消化槽)から抜き出した消化液に対して、アンモニアストリッピング法によるアンモニア除去を施すものが提案されていた(特許文献2参照)。
【0007】
ところが、嫌気性消化処理の前処理としてアンモニアを除去する場合には、メタン生成菌の増殖に必須となるアンモニアまで除去する可能性があり、また、嫌気性消化処理の前にpHおよび温度を上昇させることは、その後の嫌気性消化においてメタン生成菌の活動を阻害するおそれがあった。他方、嫌気性消化処理後の消化液からアンモニアを除去する場合は、嫌気性消化処理槽内は、メタン生成菌の活動を阻害させた状態での消化が行われることとなり、嫌気性消化の効率が上昇しないことが懸念されていた。
【0008】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、嫌気性消化処理の前後工程でなくても被処理液からアンモニアを除去する方法および除去装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、アンモニアの除去方法にかかる本発明は、アンモニアを含有する被処理液と、該被処理液よりも高温に調整された酸性液とを、多孔質の疎水性材料によって構成される疎水膜によって隔てた状態で配置することを特徴とする。
【0010】
上記の方法によれば、被処理液よりも高温に調整された酸性液が、被処理液と疎水膜によって隔てられた状態により、疎水膜表面が被処理液に接することとなり、この疎水膜表面に接する被処理液の温度が上昇することとなる。被処理液の温度上昇により、アンモニアがガスとして揮散される。また、被処理液に溶存している重炭酸等がガス化して揮散することとなり、酸性度が低下する(pHが高くなる)。この酸性度の低下により、被処理液に溶存しているアンモニア(アンモニウムイオン)が遊離し、ガスとなって揮散するのである。このとき、被処理液と接する疎水膜は多孔質の疎水性材料で構成されることから、液体は通過しないものの気体は通過できることとなり、ガス化したアンモニアは疎水膜を通過して酸性液によりアンモニウム塩を生成することとなる。このように生成されたアンモニウム塩を酸性液とともに回収することにより、被処理液のアンモニアを除去することができるのである。なお、蒸留水を使用してアンモニアを溶解させてもよい。また、アンモニアを酸性液によってアンモニウム塩を生成させやすくするためには、酸性液のpHが低いことが好ましく、従ってpH5以下が好ましく、pH1.5~pH2.0がより好ましい。
【0011】
上記構成の発明において、前記酸性液は、被処理液よりも10℃以上の温度差を有するものであることが好ましい。例えば、被処理液がメタン生成菌による嫌気性消化処理を行う消化槽内の消化液である場合には、当該消化液は嫌気性消化を促進させるために、38℃程度またはそれ以上に温度調整されるものである。そのため、酸性液が僅かな温度差である場合には、疎水膜表面に接する被処理液の温度を上昇させることができず、アンモニア(アンモニウムイオン)の遊離を促す作用が不足することとなる。そこで、10℃以上の温度差を有することにより、疎水膜表面に接する被処理液の温度を上昇させることができる結果として、重炭酸のガス化とアンモニアの遊離を促進させることができるのである。なお、被処理液が38℃の場合には、酸性液を50℃~100℃とすることが好ましく、80℃程度がより好ましい。
【0012】
他方、アンモニア除去装置にかかる本発明は、バイオマスを嫌気性消化処理する過程において消化槽内に増加するアンモニアを除去するための装置であって、前記嫌気性消化処理のための消化槽と、該消化槽内に貯留する被処理液に対して表面を接する状態で配置される多孔質の疎水性材料による疎水膜と、該疎水膜によって前記被処理液との境界が形成され、該被処理液に隣接して配置される隣接領域と、該隣接領域に前記処理液よりも高温に調整された酸性液を供給する酸性液供給手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
上記構成の装置によれば、メタン生成菌の活動により嫌気性消化処理がなされる消化槽内の被処理液は、疎水膜の表面に接しつつ隣接領域に隣接した状態となり、この隣接領域に酸性液が供給されることにより、被処理液と酸性液が疎水膜を境界として相互に隣接させることができる。これにより、温度の高い酸性液の熱は、疎水膜を介して被処理液に伝達され、疎水膜表面に接する被処理液の温度が上昇し、前述と同様に、溶存する重炭酸等がガス化し、酸性度を低下させることができる。さらに、酸性度の低下により、被処理液に溶存しているアンモニア(アンモニウムイオン)を遊離させてガス化させ、疎水膜を通過するアンモニアを酸性液によって溶解させることができる。
【0014】
上記構成の発明にあっては、平膜状の疎水膜を使用し、これを被処理液と酸性液とを当該平膜によって仕切る構成としてよいが、他の構成により両液の境界に疎水膜を配置することができる。そこで、上記発明において、前記疎水膜は、多孔質の疎水性材料をチューブ状に形成してなる疎水性チューブであり、前記隣接領域は、前記疎水性チューブの中空内部によって構成されるように構成することができる。
【0015】
このような構成の場合には、被処理液に疎水チューブを浸漬させることにより、隣接領域を容易に形成することができ、当該隣接領域に対する酸性液の供給も容易となる。また、疎水チューブを液中に浸漬する場合には、被処理液の液中における隣接領域の位置を自在に調整することができる。
【0016】
このような構成の場合、前記疎水性チューブは、前記酸性液供給装置との間で循環する循環路を形成するものとすれば、酸性液は酸性液供給装置との間で疎水性チューブ内を循環させることが可能となり、疎水性チューブ内部の隣接領域に対し、酸性液を連続的に供給させることができる。
【0017】
さらに、酸性液供給手段が、加温用の熱源と、該熱源により前記酸性液を加温する加温槽と、送液ポンプとを備えることにより、循環する酸性液を所定の温度に維持させつつ連続して供給することができ、また、前記加温槽にpH調整剤を供給するpH調整部を備えることにより、循環する酸性液を所定のpHに調整しつつ連続して供給することが可能となる。
【0018】
上記各構成のアンモニア除去装置にかかる発明おいては、さらに、前記消化槽との間で循環しつつ前記被処理液を貯留する処理槽を備え、前記隣接領域は、前記処理槽内に形成されるものとすることができる。
【0019】
上記構成によれば、消化槽とは異なる処理槽によりアンモニアを効率よく除去することができるうえ、消化槽内の被処理液と処理槽内の被処理液が循環されることから、アンモニアが減少した処理槽内の被処理液が消化槽に返送されることにより、消化槽内の被処理液におけるアンモニアを希釈させ、液中の溶存量を全体的に低下させることができる。このようなアンモニアの希釈化により、溶存するアンモニアの量を調整し、メタン生成菌等の活動に好適な環境を構築することができる。
【発明の効果】
【0020】
アンモニアの除去方法にかかる本発明によれば、アンモニア含有液(被処理液)に対し、高温の酸性液を利用してアンモニアを除去することができることから、被処理液が当初より高濃度のアンモニア含有液である場合の処理を可能とすることはもちろんのこと、例えば、バイオマスにおける嫌気性消化処理の過程において生成されるアンモニアを除去することも可能となる。嫌気性消化処理の過程におけるアンモニアの除去にあっては、嫌気性消化処理工程の前後に区別した別工程によることなく、嫌気性消化処理と並行しつつアンモニアを除去することも可能となる。
【0021】
また、アンモニア除去装置にかかる本発明によれば、バイオマスを嫌気性消化処理する過程において消化槽内に増加するアンモニアを適宜除去することができる。このときのアンモニアの除去は、消化槽に貯留される被処理液に対して行われることから、当該消化槽内のアンモニアの濃度を低下させることができるものとなる。従って、嫌気性消化処理と並行してアンモニアを除去することができることにより、メタン生成菌の増殖に必要なアンモニア性窒素の供給を可能としつつ、過剰なアンモニアを除去することが可能となり、バイオマスの嫌気性消化の環境を好適なものとすることができる。
【0022】
さらに、被処理液に隣接される隣接領域を疎水性チューブによって構成することにより、被処理液に浸漬することが可能となり、被処理液の所望の位置においてアンモニアを除去し得ることとなる。また、この疎水性チューブに対して酸性液を循環させることにより連続して酸性液を供給することができ、その供給源を加温槽とすれば常に所定温度の酸性液を供給し、またpH調整部を備えれば、所定のpHに調整された酸性液を継続的に供給することができ、安定した効率によりアンモニアを除去することができる。
【0023】
なお、加温した酸性液を隣接領域に供給し、被処理液(消化液)の境界部分の温度を上昇させることは、被処理液から重炭酸等をガス化して揮散させ、被処理液の酸性度を低下させることのほかに、嫌気性消化に必要とされる熱源を提供することができる効果をも有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】アンモニア除去方法にかかる実施形態の原理を示す模式図である。
【
図2】アンモニア除去装置にかかる第1の実施形態の模式図である。
【
図3】アンモニア除去装置にかかる第2の実施形態の模式図である。
【
図4】アンモニア除去装置にかかる第3の実施形態の模式図である。
【
図5】バイオ処理施設におけるアンモニア除去装置の使用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、アンモニア除去方法の原理を示す模式図である。本発明のアンモニア除去方法にかかる実施形態は、
図1に示されるように、被処理液1と酸性液2とが、疎水膜3によって隔てられた状態に配置するものである。このとき、酸性液2は、予め加温されており、被処理液1に比較して十分に高温な状態であり、疎水膜3は、多孔質の疎水性材料によって設けられるものである。
【0026】
多孔質の疎水性材料とは、例えば、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)を化学的エッチング処理することによって、微細な空孔を無数に形成させたものがある。PTFEそのものが疎水性を有するうえ、化学的エッチング処理により、空孔を形成させることができるものである。空孔径は、エッチングの処理時間に応じて適宜調整可能であり、0.1μm~5.0μmの範囲で任意な空孔径を有する膜を設けることができる。
【0027】
本実施形態では、被処理液1の通過を阻止しつつ、アンモニアガスを通過させるため、1μm前後の孔径による空孔により空隙率を80%以上に調整したものを使用する。ただし、この空孔径に限定されるものではなく、空孔径が上記よりも大きくまたは小さく形成された場合であっても気体のみを通過させることができれば、本実施形態に使用することができる。また、疎水性を有する樹脂材料についてもPTFEに限定されるものではない。
【0028】
アンモニア除去に使用される酸性液2は、加温されるものであるが、加温による温度は、被処理液1に対して温度上昇を生じさせる程度に、当該被処理液1よりも高温となるように設定される。例えば、被処理液1の温度が38℃である場合には、50℃以上(例えば80℃)となるように温度調整がなされる。温度差が大きければ、被処理液1の温度上昇を容易とすることとなるが、緩やかに上昇させる場合には、10℃程度の差以上であれば、被処理液1の温度を上昇させ得るものである。
【0029】
ところで、このように加温された酸性液を、疎水膜3を介して被処理液1を隣接して配置することにより、酸性液2の熱は疎水膜3を介して被処理液1に伝達することとなる。従って、被処理液1は、その全体のうち、疎水膜3の表面に接する部分(およびその近傍)に存在するものから温度上昇を開始する。なお、被処理液1は攪拌装置や自然対流により上昇した液体は分散するが、温度変化の勾配は疎水膜3の近傍から離間した場所に向かって徐々に低下することとなるため、疎水膜3の表面に接する部分を最も高温なものとみなすことができる。
【0030】
適度な温度まで被処理液1を加温させることにより、被処理液1に含有する重炭酸等がガス化して揮散する。この重炭酸等の揮散により被処理液1の酸性度が上昇し、溶存するアンモニアが遊離してガス化することとなる。このとき、ガス化したアンモニアガスは揮散するが、すべてが液外に放散されるものではなく、また仮に放散するとしても、これらを放置することは臭気の発生等の他の問題を招来させる。そこで、ガス化したアンモニアを酸性液によって回収するのである。アンモニアの回収には、pHの低い(例えばpH5以下とする)ものを使用する。周知のとおりアンモニアは酸と反応してアンモニア塩を生成することから、ガス化したアンモニアを疎水膜の空孔を介して酸性液に移動させることにより酸と反応させるのである。アンモニア塩を生成させることにより、外部へ放散させることなく回収することができるのである。
【0031】
被処理液としては、バイオマスをメタン発酵させるための嫌気性消化処理における処理液を想定することができる。処理液は、いわゆるバイオマス(有機性廃棄物)をメタン発酵菌等の嫌気性菌によって処理するものであり、バイオマスは、例えば、畜産廃棄物として処理すべき家畜等の糞尿や飼料残渣等、農水産業廃棄物や食品加工廃棄物などが挙げられる。嫌気性消化処理は、メタン発酵菌によってメタンを生成させ、そこで発生するメタンを再生可能エネルギーとして利用することが可能である。そのため、メタン発酵菌を含有する消化槽にバイオマスを投入して処理されるものであるが、このメタン発酵菌は、タンパク質やアミノ酸等を分解する際にアンモニアを生成することが知られている。
【0032】
バイオマスを嫌気性消化させてメタンを生成させるためには、メタン発酵菌を活発に活動させることが必要である。メタン発酵菌の増殖にはアンモニア性窒素が必要であるが、消化槽内のアンモニア濃度が過剰となる場合には、メタン発酵菌の活動を阻害することとなっていた。そのため、消化槽内におけるアンモニア濃度を適度な状態とすることが要求される。そこで過剰に生成されたアンモニアを除去する方法が必要となるのである。
【0033】
本実施形態のアンモニア除去方法は、上述のように、被処理液1と酸性液2とを疎水膜3で隔てた状態に配置するものであることから、この被処理液1が上述の消化槽内の消化液であれば、当然に消化液中のアンモニアを除去し得るものとなる。図の例示は、単一の容器(例えば消化槽)10の内部を疎水膜3で仕切り、一方の領域には消化液(被処理液)を、他方の領域には酸性液を貯留させる状態としている。このような状態において、疎水膜3の接する消化液から、アンモニウムイオンをアンモニアガスとして、酸性液に反応させてアンモニア塩を生成させつつ除去するのである。なお、酸性液に代えて蒸留水によってアンモニアを溶解させて除去してよい。
【0034】
次に、アンモニア除去装置にかかる実施形態について説明する。アンモニア除去装置は、基本的には前述のアンモニア除去方法を実現するためのものであり、
図1に示されているように、嫌気性消化処理を行う消化槽10に貯留される消化液(被処理液)1に対して、表面を接する状態の疎水膜3と、この疎水膜3によって被処理液1との境界が形成されつつ隣接する隣接領域が構成され、この隣接領域に酸性液を供給することによって構築することができるものである。
【0035】
すなわち、アンモニア除去装置にかかる第1の実施形態は、
図2に示すように、嫌気性消化処理を行う消化槽10の内部を疎水膜(平膜)3によって仕切ることにより、貯留される消化液(被処理液)1に隣接する隣接領域20を形成することができ、この隣接領域20に酸性液2を供給すれば、酸性液2は、疎水膜3によって消化液(被処理液)1との間に境界を形成することができる。このとき、疎水膜(平膜)3の表面(片側表面)は、消化液(被処理液)1に接することができ、また裏面(反対側表面)は酸性液2に接することとなるから、熱の伝達およびアンモニアの移動は、相互間において行われることとなる。
【0036】
また、単に、隣接領域20に酸性液2を供給した状態のみ(被処理液1と酸性液2とを平膜3で仕切る場合)では、バッチ式にてアンモニアを除去することが可能である。さらに、連続して酸性液を供給する場合には、図示のように、消化槽10に隣接する加温槽40を設けるように構成してもよい。この加温槽40には、酸性液4が貯留され、加温装置(温水式熱交換器)5が設けられ、適度な温度に加温された酸性液4をポンプ41によって、隣接領域20に供給するものである。このときのポンプ41が酸性液供給手段として機能するものである。また、加温槽40が隣接領域20に隣接して(隔壁を介して)形成されることにより、隔壁を介して熱が伝達され、隣接領域20に貯留される酸性液2を常時保温させ得る効果を有する。
【0037】
また、隣接領域20に連続的に酸性液4を供給する場合には、当該隣接領域20に貯留される酸性液2の量が増大するため、隣接領域20の酸性液2をポンプ42にて返送するようにしているのである。従って、隣接領域20に貯留される酸性液2と、加温槽40に貯留される酸性液4とは、相互に循環することとなり、隣接領域20の酸性液2を常に適量かつ適温に維持させることができるものである。
【0038】
すなわち、循環を繰り返すことにより、両者20,40に貯留される酸性液2,4は同じものとなり、また、隣接領域20において生成されるアンモニア塩を含有した酸性液が加温槽40に返送されるものとなる。従って、アンモニアの回収は、循環させることによってアンモニア塩を含有した酸性液2,4を回収すればよいこととなる。この場合、使用される酸性液2,4の量を調整することにより、アンモニア塩を含有する酸性液2,4を大量に生じさせることなく、適度の量のアンモニア塩含有液とすることができる。
【0039】
以上が第1の実施形態であるが、これを変形することにより第2の実施形態とすることができる。
図3は、第2の実施形態を示す模式図である。この図に示されるように、基本的な構成は第1の実施形態と同じであるが、疎水膜は、多孔質の疎水性材料からなるチューブ状の疎水性チューブ3(図中U字状に示す)によって構成している。この疎水性チューブ3は、消化槽10の内部に設置され(被処理液1に浸漬され)、その表面が被処理液1に接する状態となる。従って、この疎水性チューブ3の内部が隣接領域20として機能するのである。
【0040】
そこで、加温槽40に貯留される酸性液4は、ポンプ41によって疎水性チューブ3の内部(隣接領域20)に圧送され、当該疎水性チューブ3の内部(隣接領域20)を通過した後、当該ポンプ41の圧力によって返送される。疎水性チューブ3を酸性液4が通過するとき、その熱が疎水性チューブ3を介して、消化液(被処理液)1に伝達され、重炭酸等の揮散と、アンモニアのガス化を促進させるものである。なお、疎水性チューブ3の内部(隣接領域20)には、僅かな酸性液4が送られることから、前述のような隣接領域20に貯留する酸性液2は、実質的に加温槽40に貯留する酸性液4と同じものとみなすことができる。
【0041】
本実施形態では、さらにpH調整部6を備える構成としている。これは、加温槽40に貯留する酸性液4のpHを低く維持させるためのものであり、pHセンサの測定結果に基づき適宜pH調整剤を加温槽40に投入するものである。投入時および投入量は、pHセンサに連動させた制御装置によって制御させる方法もあるが、pHの上昇が予測できる場合は、所定時間ごとに間欠供給させるようにしてもよい。
【0042】
このようなpH調整部6を備えることにより、アンモニア塩の含有によってpHが上昇することを抑えるのである。すなわち、上述のように、疎水性チューブ3に酸性液4を圧送し、当該酸性液4を循環させることにより、疎水性チューブ3の空孔を介して回収されるアンモニアは、酸性液4と反応してアンモニア塩を生成し、これを含有した状態で酸性液4は、さらに継続的に循環に供されることとなる。このように継続的にアンモニア塩を生成させることにより、その濃度が上昇することとなる結果、酸性液4のpHが上昇することとなるのである。疎水性チューブ(疎水膜も同じ)3の空孔を介してガス化したアンモニアを回収する際、その回収率は、酸性液4(特に隣接領域の酸性液2)のpHが低ければ低い程に向上することが実験によって判明したことから、そのための調整を行っているのである。
【0043】
さらに、第2の実施形態を変形したものとして第3の実施形態がある。
図4は、第3の実施形態の模式図である。この図に示されている形態は、消化液(被処理液)1aを、前述の消化槽(嫌気性消化槽)10から分離した槽(処理槽)10aに送液し、この処理槽10aにおいて消化液(被処理液)1aを処理するものである。また、疎水性チューブ3は、当該チューブ3を略螺旋状にしつつ消化液(被処理液)1aに浸漬したものである。
【0044】
このような構成の場合には、消化液(被処理液)1aが、嫌気性消化のための嫌気性消化槽から送液されて、異なる処理槽10aにおいてのみ処理されることとなる。従って、嫌気性消化槽に混入する固形物を排除した液体のみを貯留させつつ処理することが可能となる。また、疎水性チューブ3は略螺旋状とすることにより、浸漬できるチューブを長く構成することができるため、消化液(被処理液)1aに接する表面積を向上させることができるのである。なお、処理槽10aに貯留する消化液(被処理液)1aは、ポンプ11によって嫌気性消化槽から送液されるものであり、その流入量と同じ量液1aを嫌気性消化槽に返送することにより、処理槽10aに貯留される消化液1aは、同量の貯留量を維持し得る。
【0045】
このような構成から、本実施形態の場合には、図示を省略している嫌気性消化槽には、処理槽10aから処理された消化液(現実には未処理液との混合液)が返送されることから、嫌気性消化槽内のアンモニアは希釈され、全体的な濃度を低下させることとなる。嫌気性消化槽内のアンモニアを希釈させる構成は、当該嫌気性消化槽内のアンモニア性窒素を皆無にすることはないことから、バイオマスをメタン生成菌によって嫌気性消化処理を行う場合、そのメタン生成菌の増殖を活発にさせる程度の濃度に調整することができることとなる。特に、嫌気性消化槽内におけるアンモニア濃度を測定しつつ、処理槽10aとの間の循環量を調整すれば、常に好適な濃度に維持させることも可能となる。
【0046】
次に、上述のように構成したアンモニア除去装置にかかる第3の実施形態を使用した場合のバイオ処理施設の全体像を説明する。
図5は、バイオ処理施設の概略を示す図である。この図に示されるように、嫌気性消化槽10には、原料となるバイオマス(畜産糞尿等)7が投入され、当該槽10においてメタン発酵菌によって嫌気性消化処理がなされる。この嫌気性消化処理によって発生するメタンは、再生可能エネルギーの一種であるバイオガス8として使用される。例えば、バイオガス8を燃焼することにより熱を発生させ、その熱によって発電器9を作動させることができる。発電器9によって発電される電力は、一般の電力と同様に使用できる。また、その発電器9において利用される廃熱(ボイラを使用する場合はその温水)等を利用することにより、加温槽40の熱源として利用することができる。
【0047】
この加温槽40には、前述のように酸性液が貯留され、処理槽10aに設置される疎水性チューブ3に圧送されることにより、処理槽10aにおいてアンモニアを回収することとなる。なお、嫌気性消化槽10および処理槽10aには、攪拌手段13,13aを備えることにより、貯留される消化液を攪拌することができるものとしている。これは、嫌気性消化槽10の内部においては、アンモニアの希釈のためである。また、処理槽10aでは、未処理の消化液と処理された(アンモニアが除去された)液とを適度に混合させるためであると同時に、液の全体温度を均一にするためである。なお、攪拌手段13,13aは、撹拌翼(図示)を使用することができるほか、マグネチックスターラーを使用することも可能である。
【0048】
このように、処理槽10aにおいて処理液が適度に加温され、かつアンモニア濃度が減少した状態となり、これを嫌気性消化槽10に返送することにより、当該槽10の内部で活動するメタン生成菌を増殖させ、またその活動を阻害しない環境にすることができるのである。
【0049】
以上のように、アンモニア除去方法および除去装置にかかる実施形態によれば、嫌気性消化処理を行う消化槽において、または消化槽との間で循環する個別の槽において、アンモニアを除去することができることから、嫌気性消化処理の前後工程において、アンモニアの除去工程を設ける必要はなく、同時並行的な処理が可能となる。その結果として、倍イオ処理施設に関する説明のように、嫌気性処理を可能とするメタン生成菌に対し、その増殖に必要なアンモニア性窒素を提供しつつ、メタン生成菌の活動を阻害する過剰なアンモニアを除去し得ることとなるのである。また、同時にメタン生成菌が活動するための適度な加温も可能となり、バイオマスを利用する再生可能エネルギーの生成に好適な状態とすることができるものである。
【実施例】
【0050】
上記のアンモニア除去方法によってバイオマスを嫌気性消化処理によって生成される消化液からアンモニアを除去できることの実験を行った。実験には、消化液として、消化槽内に豚の糞を原料とするバイオマスを嫌気性消化させたものを使用した。その際、消化液をpH8.0となるように、アンモニア水(25%)を添加して調整した。また、酸性液には、pH5.0となるように希釈した硫酸(64%)を使用した。
【0051】
実験装置としては、消化液2リットルを容器に貯留し、加温器を使用して38℃に調整した。また、異なる容器に酸性液1リットルを貯留し、加温器を用いて酸性液を80℃に加温した。消化液が貯留される液には、疎水性チューブを浸漬させ、これに送液用のチューブを連結するとともに、中間に圧送用ポンプを介して酸性液を圧送させるものとした。
【0052】
疎水性チューブとしては、住友電工ファインポリマー株式会社製のポアフロン(登録商標)チューブ(PTFE製の膜厚1mm)を使用し、疎水性チューブへ送液流量を60mL/minとした。また、消化液にはpH計を設置し、時間経過後とのpH値を測定することとし、時間経過ごとに消化液をサンプリングし、液中のアンモニア濃度(アンモニウムイオン濃度)を計測した。なお、両液ともに温度計を設置し、酸性液については、80℃に維持されていることを確認し、消化液については、38℃に維持されていることを確認するとともに、酸性液によって温度上昇することを想定して冷却装置を用意した。
【0053】
上述の実験装置を使用し、消化液中のpH値の変化とアンモニア濃度(アンモニウムイオン濃度)の変化を測定した。上記の測定は初期値、1時間後、4時間後、8時間後12時間後(アンモニウムイオン濃度のみ13時間後を含む)について所定の経過時間ごとに行った。その結果を
図6に示す。同時に計測時の一部においてpH値を測定した。
【0054】
上記の実験の結果から明らかなとおり、80℃(処理液よりも42℃高い温度)に加温された酸性液を疎水性チューブに供給を開始すると、消化液に溶存する無機炭素(重炭酸等)の濃度が低下し、これと同時にアンモニア(アンモニウムイオン)濃度も低下する結果となった。無機炭素濃度は概ね1,500(mg/L)に収束し、アンモニア(アンモニウムイオン)濃度も約2,000(mg/L)程度まで低下することとなった。pH値を参照すると、1時間後を除けば、pHは上昇しており、重炭酸等がガス化によって揮散されたことを示す結果となった。
【0055】
また、実験の前後において、消化液および酸性液中のアンモニア(アンモニウムイオン)量を測定したところ、実験前は消化液中のアンモニアイオン量は5,926mgであったものが、実験後には4,420mgとなっていた。これに対し、酸性液中のアンモニアイオン量は、実験後に382mgとなった(当然のことながら実験前は0mg)。従って、残余の1,124mgはガス化により放散されたものと判断される。
【0056】
なお、上述した実験装置を使用して、酸性液をpH2.0とし、温度を50℃に加温(温度差12℃)とした場合についても同じ実験を行ったところ、同様の傾向を示すことを確認した。
【0057】
以上より、酸性液によるアンモニア(アンモニウムイオン)の回収率は25%割程度と想定される。従って、ガス化により放散されるアンモニウムガスは、消化液を貯留して処理される槽から排出されるガスを回収する必要はあるものの、酸性液によって十分に回収され得るものであることが判明した。
【符号の説明】
【0058】
1,1a 消化液(被処理液)
2,4 酸性液
5 加温装置(温水式熱交換器)
6 pH調整部(pH調整剤)
7 原料
8 バイオガス
9 発電器
10 消化槽(嫌気性消化槽)
10a 処理槽
11,12,41,42 ポンプ
13,13a 攪拌手段
20 隣接領域
40 加温槽