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特許7198454繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法
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  • 特許-繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法 図1
  • 特許-繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法 図2
  • 特許-繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/06 20060101AFI20221222BHJP
【FI】
B29C70/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019021861
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2019147374
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2018033705
(32)【優先日】2018-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】312016780
【氏名又は名称】共和工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】市来 誠
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-025466(JP,A)
【文献】特開2012-125948(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0099215(KR,A)
【文献】特開2014-205833(JP,A)
【文献】特開平09-109310(JP,A)
【文献】特開2012-148443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂及び繊維を溶融混練して押し出すことにより製造された第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材と、熱可塑性樹脂を繊維に含浸させることにより製造された第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材とを混合するステップと、
混合された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を加熱するステップと、
加熱された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を成形するステップと、
を備え、
前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値は、前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値よりも長く、
前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材は、一方向に引き揃えた複数の繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた一方向繊維強化熱可塑性樹脂を所定長に切断したフレークである
ことを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂及び繊維を溶融混練して押し出すことにより製造された第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材と、熱可塑性樹脂を繊維に含浸させることにより製造された第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材とを混合するステップと、
混合された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を加熱するステップと、
加熱された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を成形するステップと、
を備え、
前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値は、前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値よりも長く、
前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の溶融時の粘度は、前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材の溶融時の粘度よりも高いことを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂及び繊維を溶融混練して押し出すことにより製造された第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材と、熱可塑性樹脂を繊維に含浸させることにより製造された第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材とを混合するステップと、
混合された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を加熱するステップと、
加熱された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を成形するステップと、
を備え、
前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値は、前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値よりも長く、
前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材の繊維体積含有率は、前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の繊維体積含有率よりも高いことを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂及び繊維を溶融混練して押し出すことにより製造された第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材と、熱可塑性樹脂を繊維に含浸させることにより製造された第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材とを混合するステップと、
混合された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を加熱するステップと、
加熱された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を成形するステップと、
を備え、
前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値は、前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値よりも長く、
前記混合するステップは、前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の表面に前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を散布するステップを含むことを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂及び繊維を溶融混練して押し出すことにより製造された第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材と、熱可塑性樹脂を繊維に含浸させることにより製造された第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材とを混合するステップと、
混合された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を加熱するステップと、
加熱された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を成形するステップと、
を備え、
前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値は、前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値よりも長く、
前記混合するステップは、
前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材をシート状に成形するステップと、
前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の表面に前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材のシートを被せるステップと、
を含むことを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂及び繊維を溶融混練して押し出すことにより製造された第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材と、熱可塑性樹脂を繊維に含浸させることにより製造された第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材とを混合するステップと、
混合された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を加熱するステップと、
加熱された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を成形するステップと、
を備え、
前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値は、前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値よりも長く、
前記混合するステップは、前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の内部に前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を注入するステップを含むことを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法。
【請求項7】
前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の母材となる熱可塑性樹脂と、前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材の母材となる熱可塑性樹脂は、同種の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法。
【請求項8】
前記第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の母材となる熱可塑性樹脂と、前記第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材の母材となる熱可塑性樹脂は、ポリアミド6であることを特徴とする請求項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維強化熱可塑性樹脂の成形技術に関し、とくに、繊維強化熱可塑性樹脂の成形物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維などにより強度を向上させた繊維強化プラスチックが開発されている。繊維強化プラスチックは、軽量で強度が高い上に、安価で耐久性にも優れていることから、様々な分野での応用が期待されている。
【0003】
そのような分野の一つとして、自動車などの移動体の製造がある。自動車などの移動体の構造部品を繊維強化プラスチックで製造することにより、必要な強度を維持しつつ車体を軽量化することができるので、二酸化炭素排出量の削減など、環境問題の解決にも大きく貢献することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-173646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
移動体などの分野に繊維強化プラスチックを応用するためには、製品の仕様に応じた良好な物理的特性を有する繊維強化プラスチックの成形物を製造するための製造技術が不可欠である。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、良好な物理的特性を有する繊維強化熱可塑性樹脂の成形物を製造するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法は、熱可塑性樹脂及び繊維を溶融混練して押し出すことにより製造された第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材と、熱可塑性樹脂を繊維に含浸させることにより製造された第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材とを混合するステップと、混合された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を加熱するステップと、加熱された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を成形するステップと、を備える。第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値は、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値よりも長い。
【0008】
本開示の別の態様の繊維強化熱可塑性樹脂の成形物は、繊維及び熱可塑性樹脂を含む繊維強化熱可塑性樹脂の成形物であって、成形物の表面層を構成する繊維強化熱可塑性樹脂に含まれる繊維の長さの平均値は、成形物の内部を構成する繊維強化熱可塑性樹脂に含まれる繊維の長さの平均値よりも長い。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、良好な物理的特性を有する繊維強化熱可塑性樹脂の成形物を製造するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法の関連技術について説明するための図である。
図2】実施の形態に係る炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法を模式的に示す図である。
図3】実施の形態に係る炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法の別の例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施の形態に係る繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法は、熱可塑性樹脂及び繊維を溶融混練して押し出すことにより製造された第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材と、熱可塑性樹脂を繊維に含浸させることにより製造された第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材とを混合するステップと、混合された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を加熱するステップと、加熱された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を成形するステップとを備える。ここで、第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値は、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値よりも長い。
【0012】
高い流動性を有する第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材に、弾性率や強度などの物理的特性を付与することが可能な第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を適当量混合することにより、プレス成形による高速な成形物の製造を可能とする高い加工性を維持しつつ、製品に要求される仕様に応じた良好な物理的特性を有する成形物を製造することができる。このような製造方法によれば、所望の物理的特性を有する成形物を短時間で量産することが可能となるので、本開示の技術の工業的意義は極めて高い。
【0013】
強化材として使用される繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、金属繊維、植物繊維などであってもよいが、以下の実施の形態においては、炭素繊維を強化材として使用した例について説明する。
【0014】
図1は、実施の形態に係る炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法の関連技術について説明するための図である。図1は、LFT-D(Long Fiber Thermoplastics Direct)工法と呼ばれる炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法を模式的に示す。LFT-D工法においては、まず、熱可塑性樹脂原料と添加材を溶融混練することにより製造された熱可塑性樹脂ペレットと、炭素繊維ロービングから供給される炭素繊維とが、二軸スクリュー押出機で混練され、押し出される。押し出されたLFT-D押出素材は、高速プレス成形装置に供給されるまでの間、保温・昇温炉において適温に保たれる。保温・昇温炉内のLFT-D押出素材は、ロボットアームにより高速プレス成形装置に供給され、所望の形状に成形される。このように、LFT-D工法によれば、熱可塑性樹脂ペレットと炭素繊維を連続的に供給して最終製品を成形するまでの一貫した自動製造システムを構築することが可能となる。また、熱可塑性樹脂を原料としたLFT-D押出素材は、流動性及び成形性が高いので、高速プレス成形装置により短時間に所望の形状の最終製品を成形することが可能となる。
【0015】
本発明者らは、図1に示した製造方法により自動車のシャシー部材を成形する実験を行い、従前よりも圧倒的に速い1分程度の時間で成形を完了させることに成功した。また、融着が可能である熱可塑性樹脂の利点を生かし、超音波融着法を用いてシャシー部材を接合することにより、炭素繊維強化熱可塑性樹脂のみによる自動車用シャシーの製作に世界で初めて成功した。
【0016】
本発明者らは、炭素繊維強化熱可塑性樹脂の自動車などの構造部材への応用を更に促進させるために、成形物の物理的特性を更に向上させる技術を検討し、本開示の実施の形態に係る炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法に想到した。
【0017】
図2は、実施の形態に係る炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法を模式的に示す図である。まず、図1に示したLFT-D工法と同様に、二軸スクリュー押出機に、炭素繊維ロービングから供給される炭素繊維と、熱可塑性樹脂のペレットとを原料として供給し、これらを溶融混練して押し出すことにより、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材(以下、単に「第1素材」ともいう)を製造する。つづいて、混練以外の製造方法により製造された第2の繊維熱可塑性樹脂素材(以下、単に「第2素材」ともいう)を、第1素材に混合する。後述するように、第2素材は、例えば、一方向炭素繊維強化熱可塑性樹脂のフレーク(短片)である。混合された第1素材及び第2素材を、流動性が十分に高くなるような温度に加熱し、高速プレス成形装置に導入してプレス成形することにより、所望の形状の成形物を製造する。
【0018】
第1素材は、溶融混練押出しにより製造されるので流動性が高く、プレス成形により容易かつ高速に成形物を製造することができる反面、二軸スクリュー押出機において混練される際に炭素繊維が切断されるので、炭素繊維の長さを長くすることにより成形物の弾性率や強度などの物理的特性を向上させるのには一定の限界がある。また、炭素繊維の繊維体積含有率(Vf)を高くし過ぎると、二軸スクリュー押出機による混練及び押出しが困難になるので、炭素繊維の量を多くすることにより物理的特性を向上させるのにも限界がある。したがって、本実施の形態では、第1素材に含まれる炭素繊維の長さの平均値よりも、第2素材に含まれる炭素繊維の長さの平均値の方が長くなるように調整された第2素材を第1素材に混合することにより、成形物の弾性率や強度などの物理的特性を向上させる。第1素材及び第2素材に含まれる炭素繊維の長さの平均値は、各素材の中心部及び四方の任意の箇所において単位面積(1mm)当たりに存在する炭素繊維のそれぞれの長さを、画像測定装置で測定したときの平均値として算出することができる。
【0019】
このように、高速なプレス成形を可能とするための流動性及び加工性は主に第1素材により実現され、成形物の弾性率や強度などの物理的特性の更なる向上は主に第2素材により実現される。したがって、本実施の形態の繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法において、第1素材の溶融時の粘度は、第2素材の溶融時の粘度よりも高い。溶融時の粘度は、メルトフローレイト(MFR:Melt Mass-Flow Rate)により測定することができる。また、本実施の形態の繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法において、第2素材の繊維体積含有率は、第1素材の繊維体積含有率よりも高い。繊維体積含有率は、日本工業規格JIS K 7075-1991「炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験方法」により測定することができる。
【0020】
第1素材と第2素材の混合比率は、加工物の形状の複雑さや、製品に要求される仕様などに応じて調整されればよい。一般に、第2素材の混合比率が高くなるほど、弾性率や強度などの物理的特性は高くなるが、混合物の加工性は低くなると考えられるので、加工物の形状の複雑さに応じて、混合物の粘度、流動性、加工性を勘案しつつ、製品に要求される仕様に応じて、適切な物理的特性が得られるように、第1素材と第2素材の混合比率を調整してもよい。例えば、高強度・高剛性が要求され、かつ、形状が比較的単純な成形物であれば、第2素材の割合を高くすればよい。また、形状が比較的複雑な成形物であれば、プレス成形の際に高い流動性が要求されるので、第1素材の割合を高くすればよい。
【0021】
第2素材に含まれる炭素繊維の長さや、第2素材における炭素繊維の繊維体積含有率についても同様である。一般に、第2素材に含まれる炭素繊維の長さが長いほど、また、第2素材における炭素繊維の繊維体積含有率が高いほど、弾性率や強度などの物理的特性は高くなるが、混合物の加工性は低くなると考えられるので、加工物の形状の複雑さに応じて、混合物の粘度、流動性、加工性を勘案しつつ、製品に要求される仕様に応じて、適切な物理的特性が得られるように、第2素材に含まれる炭素繊維の長さや、第2素材における炭素繊維の繊維体積含有率を調整してもよい。
【0022】
第2素材は、含まれる炭素繊維の長さの平均値が、第1素材に含まれる炭素繊維の長さの平均値よりも長くなるような製造方法であれば、任意の製造方法により製造されてもよいが、第2素材における炭素繊維の繊維体積含有率を高くするためには、炭素繊維に熱可塑性樹脂を含浸させることにより製造された炭素繊維強化熱可塑性樹脂を第2素材として使用するのが好適である。また、製品に要求される仕様に応じて、第2素材に含まれる炭素繊維の長さを調整可能とするためには、一方向に引き揃えた炭素繊維の束又はシートに熱可塑性樹脂を含浸させることにより製造された炭素繊維強化熱可塑性樹脂、又は、炭素繊維を織ったシートに熱可塑性樹脂を含浸させたプリプレグを所定長に切断したフレークを第2素材として使用するのがとくに好適である。
【0023】
第2素材として、均一な長さを有する多数のフレークが使用されてもよい。また、異なる長さを有する複数種類のフレークが使用されてもよいし、長さが所定の範囲に分布した多数のフレークが使用されてもよい。この場合であっても、第2素材に含まれる炭素繊維の長さの平均値は、第1素材に含まれる炭素繊維の長さの平均値よりは長くなるようにする。第2素材に含まれる炭素繊維の長さの平均値は、例えば、5~10mmであってもよい。
【0024】
また、第2素材として、均一な炭素繊維の繊維体積含有率を有する多数のフレークが使用されてもよいし、異なる炭素繊維の繊維体積含有率を有する複数種類のフレークが使用されてもよいし、炭素繊維の繊維体積含有率が所定の範囲に分布した多数のフレークが使用されてもよい。
【0025】
第2素材は、針状、フレーク状、短冊状、線状、棒状の形状を有していてもよいし、その他の任意の二次元形状又は三次元形状を有していてもよい。
【0026】
第1素材及び第2素材の母材となる熱可塑性樹脂は、例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミドM5Tなどのポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミドなどであってもよい。
【0027】
第1素材の母材となる熱可塑性樹脂と、第2素材の母材となる熱可塑性樹脂は、同種の熱可塑性樹脂であることが好ましい。これにより、成形物の全体を同種の熱可塑性樹脂を母材とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂により形成することができるので、第1素材と第2素材との境界面から破断したり、反りが生じたりするのを防ぐことができ、成形物の強度や剛性などの物理的特性を向上させることができる。異種の熱可塑性樹脂であっても、融点や熱膨張率などの物理的性質が類似する熱可塑性樹脂の組合せや、相溶性を有する熱可塑性樹脂の組合せや、境界面が生じたとしても境界面における接着性が良好である熱可塑性樹脂の組合せなどを母材とする第1素材と第2素材が混合されてもよい。
【0028】
第1素材及び第2素材は、それぞれ、複数の種類の熱可塑性樹脂を母材として含むポリマーブレンドであってもよい。この場合も、それぞれが同種の熱可塑性樹脂を母材として含んでいるのが好ましく、また、ポリマーブレンドの組成比が同程度であることが好ましい。
【0029】
第1素材と第2素材を混合する方法として、例えば、以下の第1~3の方法が考えられる。第1の方法は、第2素材を第1素材の表面にまぶす方法である。第1素材の上方から第2素材を散布してもよい。第1素材の上面だけでなく、裏面や側面にも第2素材をまぶす場合には、第1素材を回転させて別の面を上面とし、上方から第2素材を散布してもよいし、第1素材の裏面又は側面から第2素材を吹き付けてもよい。製品に要求される仕様に応じて、多数の第2素材の長手方向が揃うように第1素材の表面にまぶしてもよいし、ランダムな方向になるように第1素材の表面にまぶしてもよい。第1の方法によれば、第1素材の表面に第2素材の層を形成することができるので、成形物の表面層の強度や剛性などの物理的特性を向上させることができる。また、簡易な方法で第1素材に第2素材を混合することができるので、設備のコストを抑えることができる。
【0030】
第2の方法は、第2素材によりシートを成形し、成形したシートを第1素材に被せる方法である。第2素材のシートは、例えば、第2素材を平面上に散布して加熱及び加圧することにより成形されてもよい。第2素材のシートを、第1素材の表面の全てを覆うように被せてもよいし、上面と裏面を覆うように被せてもよいし、一部の表面のみを覆うように被せてもよい。この場合も、製品に要求される仕様に応じて、多数の第2素材の長手方向が揃うようにシートを成形してもよいし、ランダムな方向になるようにシートを成形してもよい。第2の方法によれば、第1素材の表面に均一な第2素材の層を形成することができるので、第2素材の分布ムラを防ぎ、良好な物理的特性を有する成形物を製造することができる。
【0031】
第3の方法は、第1素材の内部に第2素材を注入する方法である。多数の第2素材を集積して連続的な流れとし、これを第1素材が排出される前又は後に注入してもよい。第3の方法によれば、成形物の内部の弾性率や強度も向上させることができる。
【0032】
第1及び第2の方法で第1素材と第2素材を混合する場合は、成形物の表面層は主に第2素材により形成され、成形物の内部は主に第1素材により形成されることになるので、成形物の表面層を構成する繊維強化熱可塑性樹脂に含まれる繊維の長さの平均値は、成形物の内部を構成する繊維強化熱可塑性樹脂に含まれる繊維の長さの平均値よりも長くなる。これにより、成形物の表面層の弾性率や強度などの物理的特性を向上させることができる。
【0033】
図3は、実施の形態に係る炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法の別の例を模式的に示す図である。図2に示した例では、第2素材を製品として購入し、第1素材に混合することを想定していたが、図3に示した例では、第1素材と第2素材を並行して製造し、両者を混合する。
【0034】
フレーク製造装置において、炭素繊維ロービングから供給される炭素繊維に熱可塑性樹脂を含浸させ、所定長に切断することにより、第2素材を製造する。熱可塑性樹脂のモノマーを炭素繊維に含浸させた後、加熱して重合させれば、ポリマーを炭素繊維に含浸させる場合と異なり、含浸のために高温及び高圧を発生させる必要がないので、とくに好適である。
【0035】
このような現場重合型の炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造においては、ε-カプロラクタムをモノマーとするポリアミドを使用するのがとくに好適である。ε-カプロラクタムの融点は69℃と低く、融解させた液体の粘度も十分に低いので、炭素繊維に容易に含浸させることができる。また、重合反応に要する温度が比較的低く、重合反応に要する時間も極めて短いので、フレーク製造装置において連続的に含浸、重合、切断を行い、効率良く第2素材を製造することができる。
【0036】
図3の例によれば、炭素繊維ロービングから供給される炭素繊維を、第1素材の原料としても、第2素材の原料としても使用することができるので、廃材が極めて少ない製造方法を実現することができる。また、第1素材と第2素材を同時に並行して製造するので、製造した第1素材と第2素材を高温のまますぐに混合し、高速プレス成形装置に導入して成形することができる。したがって、省エネルギーかつ省スペースの製造ラインを実現することができる。これらの点においても、本開示の技術の工業的意義は極めて高い。
【0037】
以上、本開示を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0038】
本開示の一態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様の繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法は、熱可塑性樹脂及び繊維を溶融混練して押し出すことにより製造された第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材と、熱可塑性樹脂を繊維に含浸させることにより製造された第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材とを混合するステップと、混合された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を加熱するステップと、加熱された第1及び第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を成形するステップと、を備える。第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値は、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる繊維の長さの平均値よりも長い。
【0039】
この態様によると、流動性の高い第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材による高い加工性を維持しつつ、第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材により所望の物理的特性を成形物に付与することができるので、製品の仕様に応じた良好な物理的特性を有する成形物を製造することができる。
【0040】
この繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法において、第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材は、一方向に引き揃えた複数の繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた一方向繊維強化熱可塑性樹脂を所定長に切断したフレークであってもよい。この態様によると、製品の使用に応じた物理的特性を有する成形物を得るために、第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材に含まれる炭素繊維の長さを調整するのが容易となる。
【0041】
この繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法において、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の母材となる熱可塑性樹脂と、第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材の母材となる熱可塑性樹脂は、同種の熱可塑性樹脂であってもよい。この態様によると、成形物の全体を同種の熱可塑性樹脂を母材とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂により形成することができるので、第1素材と第2素材との境界面から破断したり、反りが生じたりするのを防ぐことができ、成形物の強度や剛性などの物理的特性を向上させることができる。
【0042】
この繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法において、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の母材となる熱可塑性樹脂と、第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材の母材となる熱可塑性樹脂は、ポリアミド6であってもよい。この態様によると、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材と第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を同時に並行して製造し、その場で両者を混合して成形する製造ラインを実現することができる。
【0043】
この繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法において、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の溶融時の粘度は、第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材の溶融時の粘度よりも高くてもよい。この態様によると、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材により高い成形性を得ることができる。
【0044】
この繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法において、第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材の繊維体積含有率は、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の繊維体積含有率よりも高くてもよい。この態様によると、第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材により良好な物理的特性を得ることができる。
【0045】
この繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法において、混合するステップは、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の表面に第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を散布するステップを含んでもよい。この態様によると、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の表面に第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材の層を形成することができるので、成形物の表面層の強度や剛性などの物理的特性を向上させることができる。また、簡易な方法で第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材に第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を混合することができるので、設備のコストを抑えることができる。
【0046】
この繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法において、混合するステップは、第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材をシート状に成形するステップと、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の表面に第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材のシートを被せるステップと、を含んでもよい。この態様によると、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の表面に均一な第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材の層を形成することができるので、第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材の分布ムラを防ぎ、良好な物理的特性を有する成形物を製造することができる。
【0047】
この繊維強化熱可塑性樹脂の成形物の製造方法において、混合するステップは、第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材の内部に第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を注入するステップを含んでもよい。この態様によると、成形物の内部の弾性率や強度も向上させることができる。
【0048】
本開示のある態様の繊維強化熱可塑性樹脂の成形物は、繊維及び熱可塑性樹脂を含む繊維強化熱可塑性樹脂の成形物であって、成形物の表面層を構成する繊維強化熱可塑性樹脂に含まれる繊維の長さの平均値は、成形物の内部を構成する繊維強化熱可塑性樹脂に含まれる繊維の長さの平均値よりも長い。
【0049】
この態様によると、流動性の高い繊維強化熱可塑性樹脂素材によって製造された成形物でありながら、より長い繊維を含有する繊維強化熱可塑性樹脂によって形成された表面層により、高い弾性率や強度などの物理的特性を得ることができる。
【0050】
この繊維強化熱可塑性樹脂の成形物において、熱可塑性樹脂はポリアミド6であってもよい。この態様によると、成形物の内部を形成する第1の繊維強化熱可塑性樹脂素材と、成形物の表面層を形成する第2の繊維強化熱可塑性樹脂素材を同時に並行して製造し、その場で両者を混合して成形する製造ラインにより成形物を製造することができる。
図1
図2
図3