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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】自走装置及びパラレルワイヤ機構
(51)【国際特許分類】
   B66C 21/00 20060101AFI20221222BHJP
【FI】
B66C21/00 D
B66C21/00 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019103977
(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2020196589
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】菅原 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ランディ ラハルジャ スディオノ
(72)【発明者】
【氏名】武田 行生
(72)【発明者】
【氏名】松浦 大輔
(72)【発明者】
【氏名】片村 立太
(72)【発明者】
【氏名】岡 尚人
(72)【発明者】
【氏名】柳田 克巳
(72)【発明者】
【氏名】古賀 達雄
(72)【発明者】
【氏名】水谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】三谷 哲史
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-113123(JP,A)
【文献】特開昭63-283408(JP,A)
【文献】特開2016-077070(JP,A)
【文献】特開昭53-030569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 19/00-23/94
H02G 1/00- 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ケーブルと、前記第1ケーブルから分岐する第2ケーブルとを含むケーブルに沿って移動する自走装置であって、
前記ケーブルを挟み込むと共に、前記ケーブルが延びる延在方向に交差する交差方向に延びる車輪回転軸を有する一対の車輪と、
各前記車輪回転軸を中心として前記一対の車輪のそれぞれを回転させることにより、前記ケーブルに沿って前記一対の車輪を走行させる車輪回転機構と、
前記一対の車輪を前記ケーブル周りに回転させる回転機構と、
を備え、
前記一対の車輪の間には、
前記第1ケーブルが入り込む空間と、
前記空間の前記交差方向の少なくとも片側に設けられ、前記空間から前記第2ケーブルを逃がす溝と、
が形成される自走装置。
【請求項2】
前記一対の車輪の少なくともいずれかの前記車輪は鼓型とされており、
前記空間は、前記鼓型のくびれた部分に形成される、
請求項1に記載の自走装置。
【請求項3】
前記一対の車輪のそれぞれは、複数の前記溝を有し、
複数の前記溝は、各前記車輪の周方向に沿って断続的に形成されている、
請求項1又は2に記載の自走装置。
【請求項4】
前記回転機構は、前記一対の車輪の間において前記ケーブルに沿って延びる第1回転軸を中心として前記一対の車輪を回転させる第1回転機構を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の自走装置。
【請求項5】
前記一対の車輪から延び出すアーム部を備える、
請求項1~4のいずれか一項に記載の自走装置。
【請求項6】
複数の前記一対の車輪と、
複数の前記一対の車輪のそれぞれから延び出す複数の前記アーム部と、
複数の前記アーム部を互いに連結する連結部と、
を備える請求項5に記載の自走装置。
【請求項7】
前記走行に伴って前記第2ケーブルが前記交差方向に移動し、前記交差方向に移動した前記第2ケーブルが前記空間から前記溝に入り込むことによって前記第2ケーブルが前記車輪から抜け出る、
請求項1~6のいずれか一項に記載の自走装置。
【請求項8】
前記回転機構は、前記延在方向及び前記交差方向の双方に交差する上下方向に沿って延びる第3回転軸を中心として前記一対の車輪を回転させる第3回転機構を含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の自走装置。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の複数の前記自走装置と、
複数の前記自走装置の間において延在すると共に移動対象物が吊り下げられるワイヤと、
複数の前記自走装置のそれぞれに設けられ、各前記自走装置からの前記ワイヤの巻き出し及び巻き取りを行うワイヤ巻き出し機構と、
を備えるパラレルワイヤ機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ケーブルに沿って移動する自走装置及びパラレルワイヤ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ケーブルに沿って移動する自走装置及びパラレルワイヤ機構については種々のものが知られている。特許文献1には、天井の四隅のそれぞれに設けられた複数のケーブル駆動装置を備えたパラレルケーブル駆動システムが記載されている。各ケーブル駆動装置からは高強度カーボン繊維製のケーブルが室内に向かって延び出しており、各ケーブルの下端は搬送テーブルに連結されている。
【0003】
前述したパラレルケーブル駆動システムは、複数のケーブル駆動装置を制御する制御装置と、制御装置による各ケーブル駆動装置の制御を操作する入力装置とを備える。パラレルケーブル駆動システムの使用者はベッドに横たわっており、ベッドに横たわった使用者が入力装置を操作することによって制御装置が各ケーブル駆動装置を制御し、これに伴い、各ケーブルの下端が連結された搬送テーブルが室内において移動する。搬送テーブルは、入力装置の操作によって室内を自在に動き回るので、ベッドに横たわった使用者であっても室内において物を搬送させることが可能となる。
【0004】
特許文献2には、仮設足場で用いられる揚重水平運搬装置が記載されている。揚重水平運搬装置は、仮設足場の内部空間の上方において荷を搬送する揚重手段と、揚重手段が固定された移動用ワイヤと、移動用ワイヤの一方側に設けられた移動シーブユニットと、移動用ワイヤの他方側に設けられた固定シーブユニットとを備える。固定シーブユニットの下方には、地盤に固定された電動ウインチ及びウエイトが設けられており、ウエイトに移動用ワイヤの一端が固定されている。
【0005】
また、電動ウインチからは、固定シーブユニット及び移動シーブユニットに対する移動用ワイヤの繰り出し及び繰り戻しが可能とされている。この電動ウインチによって移動用ワイヤの繰り出し及び繰り戻しを行うことによって移動用ワイヤを移動し、移動用ワイヤの移動に伴って揚重手段が移動することにより仮設足場において荷を搬送することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-313590号公報
【文献】特開平10-167669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したパラレルケーブル駆動システム及び揚重水平運搬装置では、予め敷設したケーブル又は移動用ワイヤの繰り出し及び繰り戻しを行うことによって荷の搬送を行う。しかしながら、パラレルケーブル駆動システム及び揚重水平運搬装置では、ケーブル又は移動用ワイヤに沿って荷を搬送することしかできず、荷を搬送する経路に障害物が存在するときにはケーブルを張ることが困難である。従って、障害物の多い狭隘な場所で用いることは困難となりうる。
【0008】
前述したパラレルケーブル駆動システム及び揚重水平運搬装置では、線状に延びるケーブルに沿って荷等の移動対象物を移動させることしかできない。すなわち、分岐を有するケーブル等、線状でないケーブルに沿って移動対象物を移動することはできない。従って、線状に延びるケーブルに沿って移動対象物を移動させることしかできないため、移動対象物を所望の場所に効率よく移動させることができないという問題が生じうる。
【0009】
本開示は、移動対象物を所望の場所に効率よく移動させることができる自走装置及びパラレルワイヤ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る自走装置は、第1ケーブルと、第1ケーブルから分岐する第2ケーブルとを含むケーブルに沿って移動する自走装置であって、ケーブルを挟み込むと共に、ケーブルが延びる延在方向に交差する交差方向に延びる車輪回転軸を有する一対の車輪と、各車輪回転軸を中心として一対の車輪のそれぞれを回転させることにより、ケーブルに沿って一対の車輪を走行させる車輪回転機構と、一対の車輪をケーブル周りに回転させる回転機構と、を備え、一対の車輪の間には、第1ケーブルが入り込む空間と、空間の交差方向の少なくとも片側に設けられ、空間から第2ケーブルを逃がす溝と、が形成される。
【0011】
この自走装置は、第1ケーブルと、第1ケーブルから分岐する第2ケーブルとを含むケーブルに沿って移動する。すなわち、この自走装置は、分岐を有するケーブルに沿って移動することが可能である。自走装置は、ケーブルを挟み込む一対の車輪と、各車輪をケーブルに沿って走行させる車輪回転機構と、一対の車輪をケーブル周りに回転させる回転機構とを備える。自走装置は、一対の車輪がケーブルを挟み込んだ状態でケーブルに沿って移動するので、上下方向に勾配を有するケーブルであっても容易に自走することができる。また、自走装置は、一対の車輪の間に形成されて第1ケーブルが入り込む空間と、当該空間の少なくとも片側に形成されて第2ケーブルを空間から逃がす溝とを有する。従って、第1ケーブルが当該空間に入り込んだ状態で回転機構が一対の車輪をケーブル周りに回転することにより上記の溝から第2ケーブルを逃がして、一対の車輪が第2ケーブルを乗り越えることができる。よって、第1ケーブルから交差する第2ケーブルを乗り越えることができ、分岐を有するケーブルに沿って自走装置が移動することができるので、自走装置によって線状でないケーブルに沿って移動対象物を移動させることができる。すなわち、自走装置は、複雑に張り巡らされた蜘蛛の巣状のケーブルであっても、交差部分を乗り越えながら当該ケーブルに沿って狭隘な場所を含むあらゆる場所に移動することができる。従って、移動対象物を所望の場所に効率よく移動させることができる。
【0012】
また、一対の車輪の少なくともいずれかの車輪は鼓型とされており、空間は、鼓型のくびれた部分に形成されてもよい。この場合、車輪が鼓型とされており、第1ケーブルが入り込む空間は鼓型のくびれた部分に形成される。よって、車輪のくびれた部分に第1ケーブルを入り込ませて当該車輪に対する第1ケーブルの摩擦力を高めることができるのと同時に、第1ケーブルの上に車輪を載せて自動的に車輪の方向を定めることができる。すなわち、第1ケーブルの上に車輪を載せると車輪の回転方向が自動的に第1ケーブルの延在方向に一致する。また、当該車輪に対する第1ケーブルの摩擦力を高めることができるので、第1ケーブルに対する車輪のスリップを抑制することができる。従って、車輪を第1ケーブルに沿って安定して移動させることができるので、移動対象物を安定して効率よく移動させることができる。
【0013】
また、一対の車輪のそれぞれは、複数の溝を有し、複数の溝は、各車輪の周方向に沿って断続的に形成されていてもよい。この場合、第2ケーブルは、各車輪の周方向に沿って断続的に配置された複数の溝のいずれかに入り込むことによって前述した空間から排出される。すなわち、第2ケーブルを複数の溝のいずれかに入り込ませることによって第2ケーブルを当該空間から逃がすことができる。従って、第1回転機構で一対の車輪を回転させることによって複数の溝のいずれかから第2ケーブルを当該空間から排出することができるので、第2ケーブルを容易に乗り越えることができる。よって、交差する第2ケーブルを容易に乗り越えることにより自走装置は蜘蛛の巣状のケーブルを移動自在となるため、移動対象物を所望の場所に更に効率よく移動させることができる。
【0014】
また、前述した自走装置において、回転機構は、一対の車輪の間においてケーブルに沿って延びる第1回転軸を中心として一対の車輪を回転させる第1回転機構を含んでもよい。この場合、ケーブルに沿って延びる第1回転軸を中心として第1回転機構が一対の車輪を回転させる。従って、第1回転機構によって一対の車輪をケーブル周りに回転させることができるので、第1ケーブルを空間内に保持しつつ第2ケーブルを溝から外部にスムーズに排出することができる。
【0015】
また、前述した自走装置において、回転機構は、交差方向に沿って延びる第2回転軸を中心として一対の車輪を回転させる第2回転機構を含んでもよい。この場合、交差方向に沿って延びる第2回転軸を中心として一対の車輪を回転させることにより、ケーブルの張力を調整することができる。
【0016】
また、前述した自走装置において、回転機構は、延在方向及び交差方向の双方に交差する上下方向に沿って延びる第3回転軸を中心として一対の車輪を回転させる第3回転機構を含んでもよい。この場合、上下方向に延びる第3回転軸を中心として一対の車輪を回転させることができる。
【0017】
また、回転機構は、一対の車輪の間においてケーブルに沿って延びる第1回転軸を中心として一対の車輪を回転させる第1回転機構と、交差方向に沿って延びる第2回転軸を中心として一対の車輪を回転させる第2回転機構と、延在方向及び交差方向の双方に交差する上下方向に沿って延びる第3回転軸を中心として一対の車輪を回転させる第3回転機構と、を含んでおり、第1回転軸、第2回転軸及び第3回転軸は、空間において一点で交差してもよい。この場合、ケーブルに沿って延びる第1回転軸、交差方向に沿って延びる第2回転軸、及び上下方向に沿って延びる第3回転軸、のそれぞれを中心として一対の車輪をケーブル周りに回転させることができる。また、第1回転軸、第2回転軸及び第3回転軸は、一対の車輪の間に形成された空間において一点で交わる。従って、第1回転軸、第2回転軸及び第3回転軸のそれぞれを中心として一対の車輪をケーブル周りに高精度に回転させることができる。一対の車輪の回転を高精度に行うことによって、当該空間から第2ケーブルを効率よく逃がすことができるので、ケーブルの交差部分を効率よく乗り越えることができると共に一対の車輪を高精度に移動させることができる。
【0018】
また、前述した自走装置は、一対の車輪から延び出すアーム部を備えてもよい。この場合、一対の車輪から延び出すアーム部に移動対象物を吊り下げることができる。
【0019】
また、前述した自走装置は、複数の一対の車輪と、複数の一対の車輪のそれぞれから延び出す複数のアーム部と、複数のアーム部を互いに連結する連結部と、を備えてもよい。この場合、自走装置は、複数の一対の車輪を有し、複数の一対の車輪のそれぞれがケーブルを挟み込む。従って、例えば、複数の一対の車輪の一方がケーブルを挟み込むと共に、複数の一対の車輪の他方が上記のケーブルとは異なるケーブルを挟み込むことができる。すなわち、ケーブルの交差部分において、互いに異なる複数のケーブルのそれぞれに一対の車輪を挟み込ませることができるので、ケーブル上の自走装置をより安定させることができる。更に、この自走装置は、上下方向により急な勾配を有するケーブルであってもトラクションを稼ぐことができるので、急な勾配を有するケーブルであっても移動対象物を容易に移動することができる。
【0020】
本開示に係るパラレルワイヤ機構は、前述した複数の自走装置と、複数の自走装置の間において延在すると共に移動対象物が吊り下げられるワイヤと、複数の自走装置のそれぞれに設けられ、各自走装置からのワイヤの巻き出し及び巻き取りを行うワイヤ巻き出し機構と、を備える。
【0021】
このパラレルワイヤ機構は、前述した複数の自走装置と、複数の自走装置の間で延びるワイヤと、各自走装置からワイヤの巻き出し及び巻き取りを行うワイヤ巻き出し機構とを備える。よって、蜘蛛の巣状に張り巡らされたケーブルに沿って移動可能な複数の自走装置のそれぞれからワイヤの巻き出し及び巻き取りを行うことができるので、ワイヤに移動対象物を吊り下げることによって移動対象物をあらゆる場所に効率よく移動させることができる。従って、移動対象物を所望の場所に効率よく移動させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、移動対象物を所望の場所に効率よく移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係る自走装置及びパラレルワイヤ機構が移動する例示的な現場を示す図である。
図2図1の現場に張られたケーブルの構造及び自走装置の例を模式的に示す図である。
図3図1の自走装置を示す斜視図である。
図4図1の自走装置を図3とは異なる方向から見た斜視図である。
図5図1の自走装置の回転機構を模式的に示す図である。
図6図1の自走装置の一対の車輪、車輪回転機構、第1回転機構、第2回転機構、第3回転機構及びケーブルを模式的に示す斜視図である。
図7図1の自走装置の一対の車輪及びケーブルを示す断面図である。
図8図6の一対の車輪の側面図である。
図9】第2実施形態に係る自走装置を示す斜視図である。
図10図9の自走装置の一対の車輪、車輪回転機構及び第1回転機構を模式的に示す斜視図である。
図11】(a)、(b)、(c)及び(d)のそれぞれは、図1の自走装置及びパラレルワイヤ機構が移動する例を模式的に示す図である。
図12図1の自走装置及びパラレルワイヤ機構が移動する別の例を模式的に示す図である。
図13図1の自走装置及びパラレルワイヤ機構が移動する更に別の例を模式的に示す図である。
図14図1の自走装置及びパラレルワイヤ機構が移動する更に別の例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る自走装置及びパラレルワイヤ機構の実施形態について詳細に説明する。図面の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解を容易にするため、一部を簡略化又は誇張している場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る自走装置10、及び自走装置10を備えたパラレルワイヤ機構1が適用される例示的な現場Aを示している。なお、本明細書において、「現場」とは、建設現場又は工事現場に限られず、自走装置又はパラレルワイヤ機構が用いられるあらゆる場所を含んでいる。
【0026】
図1に示されるように、一例としての現場Aは、森林A1、及び森林A1の中の湖A2に設けられており、湖A2に上からアクセスして湖A2を検査する現場である。湖A2は、例えば、特殊装備が必要であったり、人の進入が困難であったりする場所であってもよく、このような場所であっても自走装置10及びパラレルワイヤ機構1は自在に移動することが可能である。
【0027】
現場Aには、例えば、森林A1に設けられた複数の柱A3と、複数の柱A3のそれぞれの上部において複数の柱A3を掛け渡すケーブルCとが設けられる。一例として、複数の柱A3は、予め現場Aに設けられており、ケーブルCはドローンによって予め敷設される。しかしながら、柱A3は新たに現場Aに設置されたものであってもよいし、ケーブルCは人手によって予め敷設されたものであってもよい。また、ケーブルCは、柱A3に代えて、森林A1の樹木に掛け渡されてもよい。
【0028】
パラレルワイヤ機構1は、複数の自走装置10と、各自走装置10に設けられたワイヤ巻き出し機構30と、複数のワイヤ巻き出し機構30の間に延在する複数のワイヤ31と、複数のワイヤ31の交差部分に設けられる移動対象物であるエンドエフェクタ32とを備える。エンドエフェクタ32は、例えば、物を吊り下げ支持するフックを含んでいてもよい。
【0029】
ワイヤ巻き出し機構30は、例えば、ワイヤ31の巻き出し及び巻き取りを行うウインチを含んでいる。なお、移動対象物は、エンドエフェクタ32に限られず、例えば、現場Aを撮影するカメラ(一例として、見回りを行う全天球カメラ等の監視カメラ)、現場Aの検査を行う検査装置、又は搬送対象物(荷物)であってもよく、移動対象物の種類は適宜変更可能である。
【0030】
各自走装置10はケーブルCに沿って移動可能とされており、各ワイヤ巻き出し機構30からはワイヤ31の巻き出し及び巻き取りが可能とされている。従って、パラレルワイヤ機構1では、各自走装置10がケーブルCに沿って移動しながらワイヤ31の巻き出し及び巻き取りを行うことにより、エンドエフェクタ32を所望の位置に移動させることが可能となっている。
【0031】
図2は、ケーブルCと自走装置10を模式的に示す図である。図2に示されるように、ケーブルCは、自走装置10が移動する第1ケーブルC1と、第1ケーブルC1から分岐する第2ケーブルC2とを含んでおり、第1ケーブルC1及び第2ケーブルC2が交差する複数の交差部分C3を有する網状索道とされている。
【0032】
第1ケーブルC1と第2ケーブルC2との交差部分C3は、例えば、ケーブルCの結び目とされており、従来の自走装置では乗り越えることが困難な部分である。一例として、ケーブルCは、円形状又は長円形状の断面を有するワイヤである。ケーブルCは、可撓性を有していてもよく、この場合、ケーブルCに荷重が加えられたときにケーブルCを変形させることが可能となる。ケーブルCの材料は、金属であってもよいし、樹脂であってもよく、適宜変更可能である。また、ケーブルCは、荷重が加えられても変形しない棒(ロッド)であってもよい。
【0033】
自走装置10は、移動する第1ケーブルC1を選択する機能、交差部分C3(例えば、結び目)を乗り越える機能、第2ケーブルC2をかわす機能、及び上下方向D3(鉛直方向)に勾配を有する第1ケーブルC1を移動する機能を備える。移動する第1ケーブルC1を選択する機能としては、例えば、自走装置10を制御する制御部によって予め第1ケーブルC1が決められていてもよいし、自走装置10の操作によって第1ケーブルC1を定めてもよい。このように、自走装置10が移動する第1ケーブルC1、及び自走装置10が移動しない第2ケーブルC2は、適宜選択又は適宜変更される。
【0034】
図3は、自走装置10を拡大した斜視図である。図4は、図3とは異なる方向から見た自走装置10の斜視図である。図3及び図4に示されるように、自走装置10は、ケーブルC(例えば第1ケーブルC1)を上下方向D3から挟み込む複数の一対の車輪11と、複数の一対の車輪11のそれぞれから延び出す複数のアーム部21と、複数のアーム部21の間を連結する連結部29とを備える。
【0035】
一対の車輪11は、上側の車輪11Aと、下側の車輪11Bとを含んでいる。上側の車輪11Aと下側の車輪11BとでケーブルCを挟み込むと共に車輪11A,11Bを回転させることによって自走装置10がケーブルCに沿って移動する。自走装置10は、例えば、2本のアーム部21を備えるダブルアーム型の自走装置である。2本のアーム部21のうちの一方のアーム部21はケーブルCから交差方向D2の一方側に延び出しており、2本のアーム部21のうちの他方のアーム部21はケーブルCから交差方向D2の他方側に延び出している。
【0036】
一例として、アーム部21は、第1連結部22と、第2連結部23と、第3連結部24と、第1アーム部25と、第4連結部26と、第2アーム部27と、第5連結部28とを備える。第1連結部22は車輪11に連結されており、第2連結部23は車輪11及び第1連結部22を互いに連結する。
【0037】
第3連結部24は第2連結部23から車輪11の反対側に延び出しており、第1アーム部25は第3連結部24から延在方向D1に延びると共にケーブルCに向かって曲がっている。第4連結部26は第1アーム部25から車輪11の反対側に突出しており、第2アーム部27は第4連結部26の第1アーム部25との反対側の端部から斜め下方に延在する。第5連結部28は、第2アーム部27と連結部29とを互いに連結する。
【0038】
例えば、第2連結部23は第3連結部24に対して回転運動し、第1アーム部25は第4連結部26に対して交差方向D2及び上下方向D3に沿って(すなわち、第4連結部26の内部に設けられたモータの軸周りに)回転可能とされていてもよい。また、第2アーム部27は、第5連結部28に対して延在方向D1及び交差方向D2に沿って(すなわち、第5連結部28の内部に設けられたモータの軸周りに)回転可能とされていてもよい。例えば、延在方向D1、交差方向D2及び上下方向D3は、互いに直交している。しかしながら、延在方向D1、交差方向D2及び上下方向D3は、互いに直交していなくてもよく、互いに交差していればよい。
【0039】
一対のアーム部21の第5連結部28の間には、連結部29が延在している。連結部29は、例えば、一定方向に延びる板状とされている。一例として、連結部29の一端に一方の第5連結部28が固定されており、連結部29の他端に他方の第5連結部28が固定されている。連結部29は、例えば、錘として機能してもよいし、連結部29に連結部29とは異なる別の錘が吊り下げられてもよい。
【0040】
自走装置10は、一対の車輪11のそれぞれを、ケーブルCの延在方向D1に交差する交差方向D2に延びる車輪回転軸Xを中心として回転させる車輪回転機構12を備える。車輪回転機構12は、ケーブルCを挟み込む各車輪11を車輪回転軸X周りに回転させることによって一対の車輪11をケーブルCに沿って走行させる。一例として、車輪回転機構12は、第1連結部22の内部に設けられたモータと、当該モータの駆動力を各車輪11に伝達する複数のギヤとを含んでいる。
【0041】
図5及び図6のそれぞれは、自走装置10の一対の車輪11を回転させる回転機構10Aを模式的に示す図である。図5及び図6に示されるように、自走装置10は、一対の車輪11をケーブルC周りに回転させる回転機構10Aを備える。回転機構10Aは、例えば、ケーブルCに沿って延びる第1回転軸L1を中心として一対の車輪11を回転させる第1回転機構13と、交差方向D2に沿って延びる第2回転軸L2を中心として一対の車輪11を回転させる第2回転機構14と、上下方向D3に沿って延びる第3回転軸L3を中心として一対の車輪11を回転させる第3回転機構15とを含む。但し、回転機構10Aは、第1回転機構13、第2回転機構14及び第3回転機構15の全てを含んでいなくてもよいし、第1回転機構13、第2回転機構14及び第3回転機構15とは別の回転機構を含んでいてもよい。
【0042】
車輪回転機構12、第1回転機構13、第2回転機構14及び第3回転機構15は、例えば、複数の一対の車輪11のそれぞれに連結されたモータを含んでいる。この場合、自走装置10は、2個の車輪回転機構12、2個の第1回転機構13、2個の第2回転機構14及び2個の第3回転機構15(例えば8個のモータ)を備える。
【0043】
例えば、第1回転軸L1、第2回転軸L2及び第3回転軸L3は、互いに直交している。しかしながら、第1回転機構13の向き、第2回転機構14の向き、及び第3回転機構の15の向きは、互いに直交していなくてもよく、互いに交差していればよい。例えば、第1回転機構13の向き、第2回転機構14の向き、及び第3回転機構の15の向きは、互いに85°の角度を成していてもよいし、互いに110°の角度を成していてもよい。また、第1回転機構13の向き及び第2回転機構14の向きが成す角度と、第2回転機構14及び第3回転機構の15の向きが成す角度と、が互いに異なっていてもよい。更に、回転機構10Aは、4つ以上の回転機構を備えていてもよく、例えば、4つの回転機構の向きが互いに60°の角度を成していてもよい。回転機構10Aは一対の車輪11をケーブルC周りに回転すればよく、回転機構の数及び向きは適宜変更可能である。
【0044】
第1回転軸L1、第2回転軸L2及び第3回転軸L3は、例えば、一対の車輪11の間に形成される空間16において一点Qで交わっている。また、第1回転軸L1、第2回転軸L2及び第3回転軸L3のそれぞれが延びる方向は、延在方向D1、交差方向D2及び上下方向D3のそれぞれとは異なっていてもよく、適宜変更可能である。
【0045】
図4図6に示されるように、一例として、第1回転機構13は、第1アーム部25及び第2アーム部27を互いに連結する第4連結部26の内部に設けられている。例えば、第2回転機構14は第3連結部24の内部に設けられており、第3回転機構15は第5連結部28の内部に設けられている。しかしながら、第1回転機構13、第2回転機構14及び第3回転機構15の配置態様は適宜変更可能である。
【0046】
図7は、一対の車輪11(上側の車輪11A及び下側の車輪11B)とケーブルC(第1ケーブルC1及び第2ケーブルC2)とを示す断面図である。図8は、一対の車輪11を交差方向D2の一方側から見た側面図である。図7及び図8に示されるように、各車輪11は、車輪回転軸Xの中央側がくびれた鼓型とされている。すなわち、車輪11の直径は、車輪回転軸Xの両端側に向かうに従って大きくなっている。
【0047】
車輪11は、交差方向D2の一方側に向かうに従って徐々に拡径する第1部分11fと、交差方向D2の他方側に向かうに従って徐々に拡径する第2部分11gとを有する。第1部分11fと第2部分11gの間には、後述するケーブル搭載領域11c(鼓型のくびれた部分)が形成される。第1部分11f及び第2部分11gは、一例として、截頭円錐状とされている。
【0048】
一対の車輪11の間には、ケーブルCが入り込む空間16と、空間16の交差方向D2(車輪回転軸Xが延びる方向)の少なくとも片側に位置する溝17とが形成される。延在方向D1に交差(例えば直交)する断面において、空間16は、交差方向D2の両端側に向かうに従って狭くなっている。すなわち、空間16は、交差方向D2の中央側に向かうに従って広くなっている。更に換言すれば、各車輪11の直径は交差方向D2の中央側に向かうに従って小さくなっており、これにより、車輪11には交差方向D2の中央に第1ケーブルC1が入り込むケーブル搭載領域11cが形成される。なお、ケーブル搭載領域11cは車輪11の交差方向D2の中央よりも溝17寄りに位置していてもよく、ケーブル搭載領域11cの位置は適宜変更可能である。
【0049】
ケーブル搭載領域11cは、車輪11のくびれた部分に相当し、例えば、角形とされている。一例として、ケーブル搭載領域11cは、鈍角とされているが、直角又は鋭角とされていてもよい。このようにケーブル搭載領域11cが角形とされている場合、第1ケーブルC1が車輪11に2つの点P1,P2で接触するので、車輪11に対する第1ケーブルC1の摩擦力を高めることができ、傾斜しているケーブルCを昇降するときの車輪11の滑落防止に寄与する。
【0050】
なお、ケーブル搭載領域11cの形状は、例えば、円弧状又は放物線状を含む曲線状であってもよく、適宜変更可能である。また、図7の例では、上側の車輪11Aの形状と下側の車輪11Bの形状とが互いに同一であって、車輪11A及び車輪11Bが共にケーブル搭載領域11cを有する。しかしながら、上側の車輪11Aの形状と下側の車輪11Bの形状とは互いに異なっていてもよい。例えば、上側の車輪11Aのみが鼓型であって、車輪11Aのみがケーブル搭載領域11cを有していてもよい。但し、車輪11A及び車輪11Bの上下を含む位置関係は回転機構10Aによって変わるので、車輪11Aの形状、及び車輪11Bの形状は互いに同一であることが好ましい。
【0051】
溝17は、第1ケーブルC1から分岐する第2ケーブルC2を空間16から車輪11の外部に逃がす領域である。溝17は、車輪11の交差方向D2の端部において凹状とされている。溝17は、例えば、車輪11の交差方向D2を向く端面11d及び外周面11hから曲面状に窪んでいる。一例として、溝17は、端面11dから放物線状に窪むと共に外周面11hから円弧状に窪んでいる。溝17が曲面状に窪んだ形状である場合、溝17に対する第2ケーブルC2の噛み込みをより確実に抑制することが可能となる。
【0052】
車輪11は、例えば、複数の溝17を備えており、複数の溝17は車輪11の周方向に沿って並ぶように配置されている。一例として、車輪11は12個の溝17を有し、各溝17は、車輪11の周方向に沿って等間隔に配置されている。各車輪11が交差部分C3に達して第1ケーブルC1がケーブル搭載領域11cに入り込んだ状態で車輪11が走行しているときに、当該走行に伴って第2ケーブルC2が交差方向D2に移動する。
【0053】
そして、交差方向D2に移動した第2ケーブルC2が空間16から溝17に入り込むことによって第2ケーブルC2が車輪11から抜け出る。例えば、交差方向D2に移動する第2ケーブルC2は、上下一対の溝17の間に入り込むことによって空間16から車輪11の外に移動する。なお、溝17の形状、大きさ、数及び配置位置は、前述した例に限られず適宜変更可能である。
【0054】
次に、本実施形態に係る自走装置10の作用効果について詳細に説明する。図6及び図7に示されるように、自走装置10は、第1ケーブルC1と、第1ケーブルC1から分岐する第2ケーブルC2とを含むケーブルCに沿って移動する。よって、自走装置10は、分岐を有するケーブルCに沿って移動することが可能である。
【0055】
自走装置10は、ケーブルCを挟み込む一対の車輪11と、各車輪11をケーブルCに沿って走行させる車輪回転機構12と、一対の車輪11を回転させる回転機構10Aとを備える。自走装置10は、上下方向D3に勾配を有するケーブルCであっても容易に自走することができる。具体例として、自走装置10は、水平面に対して72°の角度を成して斜め上方に延びるケーブルCに沿ってスムーズに移動することができ、高い登坂能力を備える。
【0056】
また、自走装置10は、一対の車輪11の間に形成されて第1ケーブルC1が入り込む空間16と、空間16の少なくとも片側に形成されて第2ケーブルC2を空間16から逃がす溝17とを有する。従って、第1ケーブルC1が空間16に入り込んだ状態で回転機構10Aが一対の車輪11を回転することにより溝17から第2ケーブルC2をスムーズに逃がして、一対の車輪11が第2ケーブルC2を容易に乗り越えることができる。従って、第1ケーブルC1から交差する第2ケーブルC2を容易に乗り越えることができ、交差部分C3を有するケーブルCに沿って自走装置10が移動することができるので、自走装置10によって線状でないケーブルCに沿って移動対象物を移動させることができる。すなわち、自走装置10は、複雑に張り巡らされた蜘蛛の巣状のケーブルCであっても、交差部分C3を乗り越えながらケーブルCに沿って狭隘な場所を含むあらゆる場所に移動することができる。従って、移動対象物を所望の場所に効率よく移動させることができる。
【0057】
また、一対の車輪11の少なくともいずれかのうち車輪11Aは鼓型とされており、空間16は、鼓型のくびれた部分に形成されていてもよい。この場合、車輪11Aが鼓型とされており、第1ケーブルC1が入り込む空間16は鼓型のくびれた部分に形成される。よって、上側の車輪11Aのくびれた部分に第1ケーブルC1を入り込ませて車輪11Aに対する第1ケーブルC1の摩擦力を高めることができる。そして、第1ケーブルC1の上に上側の車輪11Aを載せて自動的に上側の車輪11Aの方向を定めることができる。
【0058】
すなわち、第1ケーブルC1の上に上側の車輪11Aを載せると車輪11Aの回転方向が自動的に第1ケーブルC1の延在方向D1に一致する。また、車輪11Aに対する第1ケーブルC1の摩擦力を高めることができるので、第1ケーブルC1に対する車輪11のスリップを抑制することができる。従って、車輪11を第1ケーブルC1に沿って安定して移動させることができるので、移動対象物を安定して効率よく移動させることができる。
【0059】
また、一対の車輪11のそれぞれは、複数の溝17を有し、複数の溝17は、各車輪11の周方向に沿って断続的に形成されていてもよい。この場合、第2ケーブルC2は、各車輪11の周方向に沿って断続的に配置された複数の溝17のいずれかに入り込むことによって空間16から排出される。すなわち、第2ケーブルC2を複数の溝17のいずれかに入り込ませることによって第2ケーブルC2を空間16から容易に逃がすことができる。
【0060】
従って、第1回転機構13で一対の車輪11を回転させることによって複数の溝17のいずれかから第2ケーブルC2を空間16から排出することができるので、第2ケーブルC2を容易に乗り越えることができる。よって、交差する第2ケーブルC2を容易に乗り越えることにより自走装置10は蜘蛛の巣状のケーブルCを移動自在となるため、移動対象物を所望の場所に効率よく移動させることができる。
【0061】
また、回転機構10Aは、一対の車輪11の間においてケーブルCに沿って延びる第1回転軸L1を中心として一対の車輪11を回転させる第1回転機構13を含んでもよい。この場合、ケーブルCに沿って延びる第1回転軸L1を中心として第1回転機構13が一対の車輪11を回転させる。従って、第1回転機構13によって一対の車輪11をケーブルC周りに回転させることができるので、第1ケーブルC1を空間16内に保持しつつ第2ケーブルC2を溝17からスムーズに外部に排出することができる。
【0062】
また、回転機構10Aは、交差方向D2に沿って延びる第2回転軸L2を中心として一対の車輪11を回転させる第2回転機構14を含んでもよい。この場合、交差方向D2に沿って延びる第2回転軸L2を中心として一対の車輪11を回転させることができるので、ケーブルCの張力を調整することができる。
【0063】
また、回転機構10Aは、延在方向D1及び交差方向D2の双方に交差する上下方向D3に沿って延びる第3回転軸L3を中心として一対の車輪11を回転させる第3回転機構15を含んでもよい。この場合、上下方向D3に延びる第3回転軸L3を中心として一対の車輪11を回転させることができる。
【0064】
また、自走装置10は、交差方向D2に沿って延びる第2回転軸L2を中心として一対の車輪11を回転させる第2回転機構14と、上下方向D3に沿って延びる第3回転軸L3を中心として一対の車輪11を回転させる第3回転機構15と、を更に備え、第1回転軸L1、第2回転軸L2及び第3回転軸L3は、空間16において一点Qで交差している。よって、ケーブルCに沿って延びる第1回転軸L1、交差方向D2に沿って延びる第2回転軸L2、及び上下方向D3に沿って延びる第3回転軸L3、のそれぞれを中心として一対の車輪11をケーブルC周りに回転させることができる。
【0065】
また、第1回転軸L1、第2回転軸L2及び第3回転軸L3は、一対の車輪11の間に形成された空間16において一点Qで交わる。従って、第1回転軸L1、第2回転軸L2及び第3回転軸L3のそれぞれを中心として一対の車輪11をケーブルC周りに高精度に回転させることができる。一対の車輪11の回転を高精度に行うことによって、空間16から第2ケーブルC2を効率よく逃がすことができるので、ケーブルCの交差部分C3を効率よく乗り越えることができる共に一対の車輪11を高精度に移動させることができる。
【0066】
また、図3及び図4に示されるように、自走装置10は、複数の一対の車輪11と、複数の一対の車輪11のそれぞれから延びる複数のアーム部21と、複数のアーム部21を互いに連結する連結部29と、を備えてもよい。この場合、自走装置10は、複数の一対の車輪11を有し、複数の一対の車輪11のそれぞれが上下方向D3からケーブルCを挟み込む。
【0067】
従って、例えば、複数の一対の車輪11の一方がケーブルCを挟み込むと共に、複数の一対の車輪11の他方が上記のケーブルCとは異なるケーブルCを挟み込むことができる。すなわち、ケーブルCの交差部分C3において、互いに異なる複数のケーブルCのそれぞれに一対の車輪11を挟み込ませることができるので、ケーブルC上の自走装置10をより安定させることができる。更に、自走装置10は、上下方向D3により急な勾配(例えば90°)を有するケーブルCであっても、トラクションを稼ぐことができるので、容易に移動することができる。
【0068】
図1に示されるように、本実施形態に係るパラレルワイヤ機構1は、複数の自走装置10と、複数の自走装置10の間で延びるワイヤ31と、各自走装置10からワイヤ31の巻き出し及び巻き取りを行うワイヤ巻き出し機構30とを備える。よって、蜘蛛の巣状に張り巡らされたケーブルCに沿って移動可能な複数の自走装置10のそれぞれからワイヤ31の巻き出し及び巻き取りを行うことができるので、ワイヤ31に移動対象物であるエンドエフェクタ32を吊り下げることによってエンドエフェクタ32をあらゆる場所に効率よく移動させることができる。従って、エンドエフェクタ32を所望の場所に効率よく移動させることができる。
【0069】
(第2実施形態)
続いて、第2実施形態に係る自走装置40について図9及び図10を参照しながら説明する。自走装置40の少なくとも一部は、自走装置10と同様の構成を備えるため、以降の説明では自走装置10と重複する説明を適宜省略する。自走装置40は、一対の車輪11から延び出す1本のアーム部41を備える。すなわち、自走装置40は、1本のアーム部41を備えるシングルアーム型の自走装置である。
【0070】
アーム部41(例えば後述する第2アーム部27)には、移動対象物が吊り下げられて当該移動対象物が支持される支持部45が設けられる。支持部45には、当該移動対象物が吊り下げ支持されてもよいし、ケーブルC上で自走装置40を安定させる錘が吊り下げ支持されてもよい。
【0071】
一例として、アーム部41は、第1連結部22と、第2連結部23と、第3連結部24と、第1アーム部25と、第4連結部26と、第2アーム部27とを備える。第1連結部22、第2連結部23、第3連結部24、第1アーム部25、第4連結部26及び第2アーム部27のそれぞれの構成は、例えば第1実施形態と同様である。自走装置40は、自走装置10と同様、車輪回転機構12、第1回転機構13及び第2回転機構14を備える。なお、第2回転機構14については省略することも可能である。
【0072】
以上のように、自走装置40は、少なくとも、ケーブルCを上下方向D3から挟み込む一対の車輪11と、各車輪11をケーブルCに沿って走行させる車輪回転機構12と、ケーブルCに沿って延びる第1回転軸L1を中心として一対の車輪11を回転させる第1回転機構13とを備える。
【0073】
自走装置40は、上下方向D3に勾配を有するケーブルCであっても容易に自走することができる。また、自走装置40は、一対の車輪11の間に形成されて第1ケーブルC1が入り込む空間16と、空間16の少なくとも片側に形成されて第2ケーブルC2を空間16から逃がす溝17と、を有する。
【0074】
従って、第1ケーブルC1が空間16に入り込んだ状態で第1回転機構13が一対の車輪11をケーブルC周りに回転することにより溝17から第2ケーブルC2をスムーズに逃がして、一対の車輪11が第2ケーブルC2を容易に乗り越えることができる。従って、自走装置40は、第1ケーブルC1から第2ケーブルC2が分岐する交差部分C3を備えたケーブルCであっても容易に自走することができる。従って、自走装置40からは自走装置10と同様の効果が得られる。
【0075】
自走装置40は、一対の車輪11から延び出すアーム部41を備える。従って、一対の車輪11から延び出すアーム部41(例えば支持部45)に移動対象物を吊り下げることができる。また、自走装置40は、シングルアーム型の自走装置であり、アーム部及び回転機構等の数を減らすことができるので、部品点数を削減して構成を簡易にすると共に製造等のコストを抑えることが可能となる。
【0076】
次に、本実施形態に係るパラレルワイヤ機構1の更なる作用効果について図11図14を参照しながら説明する。図11図14では、パラレルワイヤ機構1(自走装置10)の構成を簡略化している。まず、図11(a)、図11(b)、図11(c)及び図11(d)に示されるように、パラレルワイヤ機構1は、複数の交差部分C3を有するケーブルCが張られた現場A11に配置される。
【0077】
前述したように、パラレルワイヤ機構1は、ケーブルCに沿って移動可能な複数の自走装置10と、複数の自走装置10の間において延在するワイヤ31と、各自走装置10に設けられてワイヤ31の巻き出し及び巻き取りを行うワイヤ巻き出し機構30とを備える。なお、パラレルワイヤ機構1は、自走装置10に代えて自走装置40を備えていてもよい。
【0078】
ワイヤ31には、前述したエンドエフェクタ32等の移動対象物Tが吊り下げられる。また、各自走装置10は交差部分C3を有するケーブルCに沿って移動しながらワイヤ巻き出し機構30からのワイヤ31の巻き出し量を変更する。従って、パラレルワイヤ機構1は、移動対象物Tを現場A11の任意の位置に移動させることが可能である。
【0079】
具体的には、各自走装置10がケーブルCの交差部分C3を乗り越えて移動自在であると共に、各ワイヤ巻き出し機構30からのワイヤ31の巻き出し量が変更可能であるため、図11(c)及び図11(d)に示されるように現場A11に障害物Bが存在していても障害物Bを避けて移動対象物Tを任意の場所に移動させることができる。
【0080】
図12に示されるように、ケーブルCに含まれる複数のルートR1とバイパスルートR2とを備えた現場A12において、パラレルワイヤ機構1はあらゆる場所に移動対象物Tを効率よく移動させることができる。具体例として、移動対象物Tの経路をルートR1から切り替えるときに各自走装置10はルートR1からバイパスルートR2に移動してルートR1に存在する物を追い抜かすことができる。また、索道の切り替え、及びレールをトラバースして切り替える機構等を不要とすることができる。
【0081】
例えば、移動対象物Tは、吊り上げ装置(巻き上げ装置)であってもよい。この場合、現場A12において、巨大な物及び重い物を吊り上げて任意の場所に移動させることができる。また、パラレルワイヤ機構1を設けずに、自走装置10に吊り上げ装置(巻き上げ装置)を直接設置し、自走装置10を当該吊り上げ装置と共に移動させてもよい。更に、ケーブルCの設置場所は特に限定されず、例えば、ケーブルCは建物の天井に設置されてもよい。
【0082】
図13に示されるように、複数の柱W1及び壁W2が存在する現場A13において、柱W1及び壁W2のそれぞれを囲むようにケーブルCが張られる場合であっても、パラレルワイヤ機構1はあらゆる場所に移動対象物Tを効率よく移動させることができる。例えば、現場A13には複数のパラレルワイヤ機構1が設けられており、各パラレルワイヤ機構1は2台、3台又は4台の自走装置10を備える。このように、パラレルワイヤ機構が備える自走装置の数は適宜変更可能である。
【0083】
各自走装置10からはワイヤ巻き出し機構30を介してワイヤ31が延び出しており、例えば、複数のワイヤ31の交差部分に移動対象物Tが吊り下げられる。複数の自走装置10のそれぞれはケーブルCに沿って移動して交差部分C3を乗り越えることができるため、盛替えを不要にすることができると共に、移動対象物Tが搬送されるパラレル搬送エリアを任意に設定することができる。
【0084】
図14に示されるように、各自走装置10は、ワイヤ巻き出し機構30に代えてワイヤ51を掛け渡すシーブ50(滑車)を備えていてもよい。この場合、各自走装置10にウインチを搭載しなくてもよいので、自走装置10の負荷荷重を小さくすることができる。また、シーブ50を備えた各自走装置10が配置された現場A14には、例えば、ワイヤ51を掛け渡す複数のシーブYが設けられている。
【0085】
一対の自走装置10のシーブ50から延び出すワイヤ51に移動対象物Tが吊り下げられており、一対の自走装置10の間の距離が調整されることによって上下方向D3に対するワイヤ51の角度θを調整することが可能である。従って、角度θが大きくなりすぎてワイヤ51にかかる張力が大きくなることを抑制することができる。
【0086】
以上、本開示に係る自走装置及びパラレルワイヤ機構の実施形態について説明した。しかしながら、本発明に係る自走装置及びパラレルワイヤ機構は、前述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載された要旨を変更しない範囲において変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。すなわち、自走装置及びパラレルワイヤ機構の各部の構成、機能、形状、大きさ、材料、数及び配置態様は、各請求項の要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0087】
例えば、前述の実施形態では、車輪回転機構12、第1回転機構13、第2回転機構14及び第3回転機構15を備える自走装置10について説明した。しかしながら、自走装置が備える回転機構の数及び種類は適宜変更可能である。例えば、第2回転機構14及び第3回転機構15の少なくともいずれかが省略された自走装置10であってもよい。
【0088】
また、前述の実施形態では、空間16、及び複数の溝17を備えた一対の車輪11について説明した。しかしながら、一対の車輪の間に形成される空間及び溝の数、形状、大きさ及び配置態様は適宜変更可能である。例えば、1つの溝を備えた車輪であってもよい。また、車輪の形状も鼓型に限られず適宜変更可能である。
【0089】
また、前述の実施形態では、ダブルアーム型の自走装置10、及びシングルアーム型の自走装置40について説明した。しかしながら、自走装置が備えるアームの数、形状、材料、大きさ及び配置態様は適宜変更可能である。例えば、トリプルアーム型、又は4本以上のアーム部を備える自走装置であってもよい。更に、アーム部を省略することも可能であり、アーム部以外の構造(例えばロボット)が取り付けられた自走装置であってもよい。すなわち、一対の車輪から延び出すものの構造は適宜変更可能である。
【0090】
また、前述の実施形態では、森林A1及び湖A2に設けられた現場Aにおいてパラレルワイヤ機構1及び自走装置10を用いて湖A2を検査する例について説明した。しかしながら、本発明に係るパラレルワイヤ機構及び自走装置が用いられる現場の種類は更に変更することが可能である。
【0091】
例えば、月面に柱及びケーブルCを敷設し、ケーブルCに複数の自走装置10を備えたパラレルワイヤ機構1を配置することも可能であり、この場合、月面上でパラレルワイヤ機構1及び自走装置10をケーブルCに沿って自在に移動させることによって、例えば、クレーターの中を調査する等、月面探査にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0092】
1…パラレルワイヤ機構、10,40…自走装置、10A…回転機構、11,11A,11B…車輪、11c…ケーブル搭載領域、11d…端面、11f…第1部分、11g…第2部分、11h…外周面、12…車輪回転機構、13…第1回転機構、14…第2回転機構、15…第3回転機構、16…空間、17…溝、21,41…アーム部、22…第1連結部、23…第2連結部、24…第3連結部、25…第1アーム部、26…第4連結部、27…第2アーム部、28…第5連結部、29…連結部、30…ワイヤ巻き出し機構、31…ワイヤ、32…エンドエフェクタ、45…支持部、50…シーブ、51…ワイヤ、A,A11,A12,A13,A14…現場、A1…森林、A2…湖、A3…柱、B…障害物、C…ケーブル、C1…第1ケーブル、C2…第2ケーブル、C3…交差部分、D1…延在方向、D2…交差方向、D3…上下方向、L1…第1回転軸、L2…第2回転軸、L3…第3回転軸、P1,P2…点、R1…ルート、R2…バイパスルート、T…移動対象物、W1…柱、W2…壁、X…車輪回転軸、Y…シーブ、θ…角度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14