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特許7198457インテリアCT位相イメージングX線顕微鏡装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】インテリアCT位相イメージングX線顕微鏡装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/041 20180101AFI20221222BHJP
   G01N 23/046 20180101ALI20221222BHJP
   G21K 7/00 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
G01N23/041
G01N23/046
G21K7/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019545185
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2018036520
(87)【国際公開番号】W WO2019066051
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2017189610
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 「ERATO百生量子ビーム位相イメージングプロジェクト」委託研究、 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】中野 朝雄
(72)【発明者】
【氏名】高野 秀和
(72)【発明者】
【氏名】百生 敦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 博幸
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-220982(JP,A)
【文献】特開2012-135612(JP,A)
【文献】特表2008-528096(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0066873(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G21K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を放射する放射線源と、
前記放射線源と試料の間に配置され、前記放射線源を格子状に成形するための第一の格子と、
前記試料を回転保持するための試料台と、
前記試料の後方に配置された放射線結像光学系と、
前記試料の後方に配置された第二の格子と、
前記試料の放射線像を強度分布として検出するための手段とを備えた放射線顕微鏡装置であって、
前記放射線結像光学系と第二の格子を二組以上複数の組み合わせで同時に交換できる機構を備えていることを特徴とするインテリアCT位相イメージング放射線顕微鏡装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載したインテリアCT位相イメージング放射線顕微鏡装置において、さらに、前記放射線源と前記第一の格子の間において前記放射線源から放射された放射線を集光する集光レンズを備え、当該集光レンズと前記試料との間に設置された第一の格子が前記放射線結像光学系と第二の格子を複数の組み合わせで同時に交換できる機構の動作とともに位置を変更できる機構を備えていることを特徴とするインテリアCT位相イメージング放射線顕微鏡装置。
【請求項3】
試料の内部の計測を所望する領域を通過する放射線により投影データを取得し、回転制御可能な一軸の回転ステップ毎に撮像した複数の投影データを用いて断層撮像(CT)の画像再構成法により第1段階の近似的な再構成を行い、この再構成により得たCT画像に基づいて、前記試料内部における計測を所望する領域内において物理量を表す投影データの画像数値が少なくとも区分的に一様または区分的に多項式で表される領域Aを特定し、前記領域Aの位置とその内部で前記物理量が区分的に一様または区分的に多項式で表される性質を用いて、前記第1段階の再構成よりも精度の高い第2段階の再構成を行うことにより、前記試料内部の計測を所望する領域内の構造の3次元計測を行うインテリアCTの画像再構成方法。
【請求項4】
360度の円軌道を放射線源の軌道とするファンビームCT、前記円軌道の一部を放射線源の軌道とするファンビームショートスキャンCT、または、多角形軌道を放射線源の軌道とする多角形ファンビームCT、のいずれかのインテリアCTにおいて、試料内部における計測を所望する領域を通過する放射線により投影データを取得する第1段階のデータとして、試料全体のCTデータを取得可能な低倍率において、一点ではない前記軌道の一部のセグメントから前記試料全体をカバーする放射線を照射して、全体の投影データを測定し、前記第1段階のデータ、精度の高い第2段階の再構成を行うための前記計測を所望する領域を通過する放射線のみを照射して得られた投影データと、を併せて利用することにより、前記試料内部の計測を所望する領域内の構造の3次元計測を行うインテリアCTの画像再構成方法。
【請求項5】
円軌道を放射線源の軌道とする平行ビームスキャンCTにおいて、試料内部における計測を所望する領域を通過する放射線により投影データを取得する第1段階のデータとして、試料全体のCTデータを取得可能な低倍率において、一点ではない前記円軌道の一部の円弧セグメントから前記試料全体をカバーする放射線を照射して、全体の投影データを測定し、前記第1段階のデータ、精度の高い第2段階の再構成を行うための前記計測を所望する領域を通過する放射線のみを照射して得られた投影データと、を併せて利用することにより、前記試料内部の計測を所望する領域内の構造の3次元計測を行うインテリアCTの画像再構成方法。
【請求項6】
前記投影データの画像数値が、前記試料による前記放射線の位相シフトを含んでいる、請求項3から請求項5のいずれか一項に記載のインテリアCTの画像再構成方法。
【請求項7】
前記投影データの画像数値が、前記試料による前記放射線の回折を含んでいる、請求項3から請求項5のいずれか一項に記載のインテリアCTの画像再構成方法。
【請求項8】
前記試料内部における、計測を所望する領域内において特定される前記領域Aが、前記第1段階の近似的な再構成で得られたCT画像から特定した区分的に一様または区分的に多項式で表される複数の領域Aの中から選択されるようになっている、請求項3から請求項5のいずれか一項に記載のインテリアCTの画像再構成方法。
【請求項9】
前記試料内部における、計測を所望する領域内において特定される前記領域Aは、前記第1段階の近似的な再構成により得られたCT画像を使用してユーザにより手動で設定可能となっている、請求項3から請求項5のいずれか一項に記載したインテリアCTの画像再構成方法。
【請求項10】
前記第1段階の近似的な再構成により得られたCT画像を使用して前記試料内部の計測を所望する領域内で特定される前記領域Aは、前記試料内部の計測を所望する領域内において、同一あるいは類似試料についての過去に取得したCT画像からの特定、前記試料の構造を表すモデル、先験情報からの特定のうちの少なくとも一つにより予め設定されるようになっている、前記請求項3から請求項5のいずれか一項に記載したインテリアCTの画像再構成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線顕微鏡装置(X-ray Microscope:XRM)に関し、特に、X線の位相をコントラストに変換して試料の構造を計測する位相差式のX線顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
XRMは、試料のサブミクロンレベルの構造を観察する等に広く用いられている。これは、試料にX線を照射し、当該試料を透過したX線を、検出器上に拡大投影し、試料内部の構造を透かし観る手法であり、試料物体内部のX線の吸収度を反映した投影像が得られるものであり、例えば、以下の非特許文献1により既に知られている。
【0003】
更に、X線の吸収度ではなく物質を通過することにより変化するX線の位相を画像化した位相画像を取得する手法については非特許文献2により既に知られている。また位相格子を用いた位相画像取得方法とフレネルゾーンプレート(FZP)による拡大光学系を用いて、試料の拡大像を得るTalbot干渉計―XRMについても非特許文献3によって既に知られている。
【0004】
次に、3次元像を構成する手法は、試料の断面を完全に覆うX線を照射して、試料断面を通過する全ての直線上の投影データを測定し、そのデータを用いて画像再構成するものになっている。このような手法は非特許文献4によって知られている。しかし、対象物(試料)内の小さな関心領域(ROI:Region of Interest)だけの断層画像が欲しい場合でも、一般的にはROIのみではなく、試料断面を通過する全ての直線上の投影データを必要であった。
【0005】
一般に高倍率で空間分解能高く撮像する場合、投影像は高倍率で試料のROI部分を測定することが多く、従来のCT手法では周囲のデータ欠落により必ずしも精度の高い3次元像再構成が出来なかった。これは、CTの画像再構成に用いられる計算手順であるフィルタ補正逆投影(FBP:Filtered Back Projection)法において、ROI画像を生成するのにROIを通過しない直線上の投影データも必要なことによる。しかし、ROIを通過しない直線上の投影データはROIの情報を全く含んでいない。そこで、X線CTの分野ではROIだけにX線を照射して、ROIを通過する(全ての)直線上の投影データのみを測定してROIの画像のみを生成するCT撮影の方法が、インテリアCTとして開発されてきた。
【0006】
このインテリアCTには、不必要な投影データをも測定する従来のX線CTと比較して、(1)ROI外部の被曝量(試料損傷)の大幅な低減、(2)検出器サイズやX線ビーム幅の削減、(3)視野に収まらない大きい物体の撮影が可能になること、(4)物体の小視野だけにX線を照射して拡大撮影する高分解能CTが可能になること等が挙げられる。
【0007】
インテリアCTでは、ROIを通過しない直線上の投影データは測定されないため、一部が欠損した不完全投影データから画像再構成を行う手法が必要となる。平行ビームによる投影データ収集では、対象物f(x,y)と画像化の対象となるROIを(図1を参照)直線が通過する投影データp(r,θ)(rは動径、θは角度)のみが測定可能である。この場合、直線がROIを通過しないp(r,θ)は測定されないため、各角度θの投影データは、左右がトランケーションされて欠損することになる。このようなトランケーションされた投影データからROIにおいて画像f(x,y)を正しく再構成する必要がある。
【0008】
このインテリアCTの再構成は長年多くの研究が行われてきており、非特許文献5では、インテリアCTの画像再構成は解が投影データから唯一に決まり数学的に正しい画像再構成として定まらないことが数学的に証明されている。この非一意性が知られていたため、多くの近似的な画像再構成法が研究されてきた。
【0009】
その代表的な手法として、(1)各方向投影データ左右の欠損部分を滑らかな関数で外挿してから画像再構成する手法、(2)不完全な投影データのまま逐次近似法により画像再構成を行う手法などが研究されたが、近似誤差によるアーティファクトが発生して実用に至らなかった(非特許文献6、7、8)。このインテリアCTにおいて発生する典型的なアーティファクトの例を示すと、画像低周波成分に歪みが発生するシェーディングアーティファクト(図2(a)を参照)やROI周辺部で値が増大するカッピング効果(図2(b)を参照)が発生し、画像の値が安定に定まらないことが知られている。
【0010】
これらの先行研究に対し、インテリアCTの厳密な画像再構成法が案出され(非特許文献8、9)、ROIの内部にある任意の小さな領域B(即ち、図3(a)においてROIの内部にある丸印の領域)において画像f(x,y)の値が事前に既知であるという先験的知識があれば、インテリアCTの画像再構成の解は一意に定まることを証明した。解の一意性を保証するための領域Bは複数あれば小さくともROI S内のどの場所にあっても良い。この成果は、特許文献1として知られている。
【0011】
一方、別の先験的知識を用いて厳密な画像再構成を可能にする手法も案出されており(非特許文献7)、圧縮センシングと呼ばれる不足した測定データから高精度で信号復元を行う手法に基づき、画像f(x,y)がROIの全体で区分的一様であれば、インテリアCTの画像再構成の解は一意に定まることが示された。ここで、区分的一様とは、数値ファントムのように、画像が完全な一定値を持つ有限個の領域で構成されていることを指す(図3(b)を参照)。この成果は、特許文献2として知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Y. Yoneda:New Emission X-ray Microscope, Review of Scientific Instruments, Vol.33, (1962), 529-532
【文献】U.Bonse and M. Hart:An X-ray Interferometer, Applyied Physics Letter, 6, (1965) 155-156
【文献】Y. Takeda, W. Yashiro, T. Hattori, A. Takeuchi, Y. Suzuki and A. Momose:Differential Phase X-ray Imaging Microscopy with X-ray Talbot Interferometer, Applied Physics Express, Vol.1, 11,(2008) 117002
【文献】Natterer F: The Mathematics of Computerized Tomography. Wiley, 1986
【文献】Ye Y, Yu H, Wei Y, Wang G: A general local reconstruction approach based on a truncated Hilbert transform. International Journal of Biomedical Imaging 2007: Article ID 63634, 2007
【文献】Kudo H, Courdurier M, Noo F, Defrise M: Tiny a priori knowledge solves the interior problem in computed tomography. Physics in Medicine and Biology 53: 2207-2231, 2008
【文献】Yu H, Wang G: Compressed sensing based interior tomography. Physics in Medicine and Biology 54: 2791-2805, 2009
【文献】Yang J, Yu H, Jiang M, Wang G: High order total variation minimization for interior tomography. Inverse Problems, 26: Article ID 35013, 2010
【文献】Courdurier M, Noo F, Defrise M, Kudo H: Solving the interior problem of computed tomography using a priori knowledge. Inverse Problems 24: Paper No. 065001, 2008
【文献】Wataru Yashiro, Yoshihiro Takeda, and Atsushi Momose:Efficiency of capturing a phase image using cone-beam x-ray Talbot interferometry, Journal of the Optical Society of America A, 8 (2008) 2025-2039
【文献】百生 敦:Talbot効果を利用したX線位相イメージング, 放射光, 23 (2010) 382-392
【特許文献】
【0013】
【文献】米国特許第7,697,658号
【文献】米国特許第8,811,700号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
XRMにおいて、X線の吸収が少なくコントラストの着きにくい無染色の生体軟組織、樹脂や似通った組成の薄膜を積層した構造体などを対象とする場合には、試料物体を透過する電子線の位相をコントラストに変換して観察する、所謂、位相差XRMが用いられる。本発明は、上述した位相差XRMのうち、試料のROIを中心にX線の照射を行っても高分解能の画像が構築できるため、特に、試料のX線被曝の低減に有利なインテリアCT位相イメージングXRMに関する。
【0015】
本発明の関わる位相差XRMにおいても、なお、試料物体中においてより重い元素がより高い密度で存在している程、大きなX線の散乱があり、明瞭なコントラストが得られるという吸収コントラストの原理による画像のコントラストは生ずる。しかしながら、同種の軽元素を主成分とする無染色の生体組織、樹脂や似通った組成の薄膜を積層した構造体を対象とする場合には、像にコントラストが着きにくいため、これを解決する手法として、X線格子を用いて試料物体を透過するX線の位相をコントラストに変換して観察する、位相イメージングXRMを用いる。
【0016】
しかし、従来型の位相差XRMで、空間分解能を高くとって画像を得ようとすると、光学系や画像検出器のサイズの限界から、画像記録範囲が狭くなる。このような試料全体の位相差X線CTデータが取得できない状態でCT法を用いるための位相差X線画像データを取得しても、所望の精度の画像再構成が出来ないため、かならずしもROIの高空間分解能CTデータの取得が出来ないという欠点があった。
【0017】
上記した欠点を克服するためにはインテリアCT画像解析手法が用いられるが、前記非特許文献7と非特許文献8により知られた厳密解法を適用するには、撮像前に、物体に関する先験的知識(図3aにおけるROI内部の小さな領域Bにおける画像の値)が分かっている必要があるが、撮像前に画像の値が既知という状況はごく希である。また、前記非特許文献7の厳密解法では、画像のROIの一部が区分的一様という仮定をするため、この手法では滑らかな濃度変化が失われてしまう。
【0018】
そこで、本発明は、同種の軽元素を主成分とする無染色の生体組織、樹脂や似通った組成の薄膜を積層した構造体を対象とする場合でも、像のコントラストを向上し、操作性にも優れかつ、より実用的なインテリアCTの画像再構成方法により試料一部の所望領域の高空間分解能3次元断層像を計測可能なインテリアCT位相イメージングXRMを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述した目的を達成するため、画像記録範囲を2種以上、複数の容易に交換できる位相差画像データ計測用光学を備えた位相イメージングXRMを考案した。本発明によれば、まず、画像記録範囲が大きな低倍率で試料全体の位相差XRM像を撮影し、その低倍率位相差XRM像をもとに高倍率・高空間分解能で撮影する試料の関心領域ROIを決め、高倍率X線光学系に変更して高倍率・高空間分解能データを取るようにした。こうすることにより、低倍率測定時の位相差XRM再構成像のうち、所望の高倍率測定するROIの内部にある測定点の再構成データを用いることにより、インテリアCT画像再構成を行うことが出来るインテリアCT位相イメージングXRMを構築することが可能である。
【0020】
また、本発明では、上記に記載したインテリアCT位相イメージングXRMにおいて、倍率の異なるX線光学系のX線格子、フレネルゾーンプレート(FZP)等の光学素子はそれぞれの倍率の異なる光学系毎に最適化できるよう位置及び傾きの調整ができる冶具に設置され、これらの光学系を併進や回転等の操作で容易に切り替えられる機構を備えていることが、前記インテリアCT位相イメージングXRMの使い勝手上好ましい。最大の視野を得るためにはFZPを取り付けない光学系もあり、拡大しない等倍光学系も含まれる。
【0021】
さらに、上記に記載のインテリアCT位相イメージングXRMでは、前期光学素子の位置を微小量変化させ、複数の画像を取得することにより、前記試料による位相変化、振幅変化、もしくは、散乱を画像として検出することが好ましい。
【0022】
撮像された低倍率画像データについては、断面撮像のため少なくとも試料回転を行う1軸に垂直な断面の投影像全てが撮像できる条件で試料を通過するX線により投影データを取得し、前記で得られた投影データを用いてCTの画像再構成法により第1段階の近似的な再構成を行う。次に、ROI全ての投影像が測定可能な最大の倍率で、投影データを測定し、前記で再構成したCT画像に基づいて前記ROI内において物理量を表す画像数値が少なくとも区分的に一様または区分的に多項式で表される領域を特定し、前記特定した領域の位置とその内部で前記物理量が区分的に一様または区分的に多項式で表すことにより、前記第1段階の再構成よりも精度の高い第2段階の再構成を行うインテリアCTの画像再構成方法とする。
【0023】
なお、本発明では、前記に記載したインテリアCTの画像再構成方法において、前記物理量を表す投影データの数値は、当該撮影対象による前記X線の吸収を含んでもよく、或いは、当該撮影対象による前記X線の位相シフトを含んでもよく、或いは、当該撮影対象による前記X線の回折を含んでもよく、或いは、当該撮影対象による前記電子ビームの散乱を含んでもよい。
【0024】
前記インテリアCTの画像再構成方法において、前記ROI内において特定される前記少なくとも区分的に一様または区分的に多項式な領域は、前記第1段階の再構成により得られたCT画像を使用して人間が手動で設定してもよく、或いは、前記第1段階の再構成により得られたCT画像を使用して画像処理により設定してもよい。或いは、前記ROI内で、前記撮影対象の以前に取得したCT画像からの特定、前記撮影対象の構造を表すモデルや先験情報からの特定の少なくとも一つにより予め設定されていてもよい。なお、前記第1段階の近似的な再構成により得られたCT画像を使用して前記ROI内で特定される前記少なくとも区分的に一様または区分的に多項式な領域は、前記ROIの境界の一部を含んで形成されてもよい。
【0025】
前記インテリアCTの画像再構成方法において、前記第1段階の近似的な再構成を、フィルタ補正逆投影(FBP)法、逐次近似法、統計的再構成法を含む従来のCTの画像再構成法の少なくとも一つにより実行してもよく、或いは、前記第2段階の再構成を、微分逆投影ヒルベルト変換法、拘束条件付き逐次近似法、及び、拘束条件付き統計的再構成法を含むCTの画像再構成法の少なくとも一つにより実行してもよい。
【発明の効果】
【0026】
上述した本発明によれば、試料物体を通過するX線の位相差を画像化し、X線の位相差の分布を定量的に計測し、従来技術よりも、はるかに少ない先験的知識で厳密な画像再構成が可能な、より実用的なインテリアCTの画像再構成方法を備えたインテリアCT位相イメージングXRMを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】通常のCTとの比較により本発明が関わるインテリアCTについて説明する図である。
図2】従来の厳密な再構成が可能になる場合と、従来の厳密な再構成が可能になる例を示す図である。
図3】インテリアCTにおいて発生する典型的なアーティファクトの例を示す図である。
図4】本発明で用いたX線光学系を説明する図である。
図5】本発明で用いたX線光学系で各光学素子の配置について説明する図である。
図6】本発明で用いた2種類のX線光学系で各光学素子の調整及び切替について説明する図である。
図7】本発明のインテリアCT位相イメージングXRM装置の主要部分構成について説明する図である。
図8】本発明のインテリアCT位相イメージングXRM装置の全体構成について説明する図である。
図9】本発明のインテリアCT位相イメージングXRM装置の測定方法について説明する図である。
図10】本発明の2段階画像再構成法の詳細を示すフローチャート図である。
図11】本発明の2段階画像再構成法における不完全画像と厳密な画像の一例を示す図である。
図12】従来の厳密な再構成が可能になる場合と、従来の厳密な再構成が可能になる例を示す図である。
図13】本発明でいう区分的一様と区分的多項式について説明する図である。
図14】先験的知識非同定型画像再構成法(実施例3)においてROI Sの一部に先験情報領域Bを設定する具体例を示す図である。
図15】先験的知識同定型画像再構成法と先験的知識非同定型画像再構成法の具体的なシミュレーション実験例を示す図である。
図16】本発明の画像再構成方法である先験情報を利用することなくインテリアCTの数学的に厳密な画像再構成を実現する手法を説明する図である。
図17】本発明の画像再構成方法を一般化する場合の考え方を説明する図である。
図18】上記画像再構成方法を、180度平行ビーム、ファンビームショートスキャン、多角形軌道ファンビームスキャンに適用した場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を参照しながら本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
<実施例1>
【0029】
まず、本発明の基本的な考え方として、市販のXRM装置に光学系切替機構を付加する形で、装置を構成した。装置のうちX線源、試料載置機構、X線検出器は大きさと重量の観点から固定することとした。これらの機器が位置変更可能な光学系とすることも可能である。本実施例ではX線源-試料中心間距離を500mm、試料中心-X線検出器・素子面間距離を760mmとして、2種類の倍率の光学系を組み込んだ。
【0030】
図4(a)に本発明で採用したFZPを加えた拡大光学系をもつTalbot-Lau干渉計の各光学素子の配置を記載する。ここで集光鏡2は中空ガラス管の内面の形状を2つの焦点の一方がX線源1、他方が試料4となる回転楕円面に形成され内面でX線を全反射できるようになっている。中空ガラス管の内側は金属膜の単層膜や、2種類以上の密度の異なる膜の多層膜が形成してあっても良い。G0格子3と試料4を透過したX線はフレネルゾーンプレート(FZP)5とG1格子6を透過してX線検出器7に入射し、像として記録される。本発明ではFZP5に10倍と40倍の拡大倍率が得られるものを用意し、全体の光学系が切り替えられるようにした。
【0031】
図4(b)で、G0格子3は格子のX線を透過する部分が仮想X線源となり、Talbot-Lau干渉計は多くの細いX線源を重ね合わせるような光学系となっている。その結果、X線源1が微小焦点X線源ではなく、ある程度の面積があっても高空間分解能顕微鏡として機能する。X線強度が大きなX線源は有限な面積をもつため、空間分解能を高くとるためにはG0格子3が必要であるが、X線源サイズが10μm以下のときはG0格子を使わない場合もある。本実施例ではX線源の直径が70μmのものを用いた。
【0032】
本実施例で用いた、G0格子3-1及び3-2、FZP5-1及び5-2、G1格子6-1及び6-2の試料位置からの距離を図5に表す。G0格子3の格子ピッチは低倍率・高倍率ともに3.0μmとした。低倍率FZP5-1は×10倍、高倍率FZP5-2は×40倍、低倍率G1格子6-1のピッチは2.9μm、高倍率G1格子6-2のピッチは2.4μmとした。表1に本実施例光学素子の設置位置を纏めて表示する。これらの光学素子の位置の決定方法については非特許文献10に詳細が述べられている。
【表1】
【0033】
本実施例ではX線検出器にピクセルサイズ0.65μm×0.65μmで1024ch×1024chの2次元検出器を用いた。本実施例の撮像領域サイズと空間分解能はこの検出器の検出エリアとピクセルサイズで決まり、低倍率(×10倍)では0.65μm×1024×1/10=66μm(角)の検出エリアと0.65μm/10=65nmの検出ピクセルサイズとなる。同様に高倍率(×40倍)では、16.4μm(角)の検出エリアと16.3nmの検出ピクセルサイズとなる。実際の空間分解能については、各光学素子の出来上がり精度等の影響を受け、標準試料の測定から低倍率で約150nm、高倍率で約50nmであった。
【0034】
本実施例での光学系の倍率交換機構の構成を図6に示す。図6においてG0格子3を通過したX線は試料4を通過後FZP5-1及びG1格子6-1を通過、あるいはFZP5-2及びG1格子6-2を通過する。上記表1に示したように、FZPで顕微鏡としての倍率を決め、それに合うようなG1格子を組み合わせて用いている。従って、本発明ではFZP5-1とG1格子6-1、FZP5-2とG1格子6-2はそれぞれの組み合わせで用いられ、光学素子載置台8を動かすことにより、顕微鏡としての倍率を変更している。
【0035】
図6においてG0格子3は取り付け冶具31に固定され、G0格子の中心付近でX線光路Xを中心にX垂直面内で回転調整可能なスィーベル32、回転可能な回転機構33、G0格子の位置をX線光路Xとその垂直方向に移動可能な移動機構34によりその位置及び取り付け状態を調整可能である。なお、X線光路X方向への移動は外部制御可能な移動機構を備えている。試料4は試料取り付け冶具41に固定され、試料XY移動台42に固定される。該試料XY移動台42は試料回転台43に固定されている。試料回転台43はX線光路Xに対して垂直な軸の周りに外部制御可能な回転角θで回転できるようになっている。また、試料回転台43は回転軸に方向に対してZ併進可能な構造となっている。
【0036】
低倍率で試料全体像の撮像を行った後に、試料XY移動台42と試料回転台のZ併進機能により、試料の位置を移動し、試料の所望の特定部位(Region of Interest、ROI)を視野中心に合わせることが可能となっている。
【0037】
FZP5-1及び5-2はそれぞれ高さ調整Zが可能な取り付け冶具51に固定され、FZP XY移動台52に固定されたうえで光学系切替台8に搭載される。これにより、FZP5-1及びFZP5-2は独立に光学系切替台の上で、X線光路X方向とそれに垂直な2軸YZに対して調整可能となっている。
【0038】
G1格子6-1及び6-2はそれぞれ高さ調整Zが可能な取り付け冶具61に固定され、G1格子の中心付近でX線光路Xを中心にX垂直面内で回転調整可能なスィーベル62、回転可能な回転機構63、G1格子XY移動台64に固定されたうえでX線光学系切替台8に搭載される。これにより、G1格子6-1及びG1格子6-2は独立にX線光学系切替台8の上で、X線光路X方向とそれに垂直な2軸YZ及びG1格子のX線格子に対する垂直面内での回転及びX線経路Xに垂直な軸での回転に対して調整可能となっている。
【0039】
FZP5-1及び5-2またG1格子6-1及び6-2の各調整項目は2通りの顕微鏡倍率のX線光路に対してそれぞれ調整される。これらの調整については手動が可能な調整もあるが、外部制御で調整できるようにすることが望ましい。なお、G1格子6-1及び6-2のX線光路に対する垂直なY移動に関しては、位相画像情報を取得する測定のため、必ず外部制御で移動できるようにしておく必要がある。
【0040】
上記のようにX線光学系切替台8上に構成したFZP5-1及び5-2、G1格子6-1及び6-2により2通りの顕微鏡倍率のX線光路が構成されるが、X線光学系切替台8全体をX線光路Xに対し移動することで、XRM倍率を容易に切り替えることが可能である。本実施例では、XRM倍率を2種類切り替える構造としたが、2種類以上複数の光学系が切り替えられるようにすることも可能である。なお、倍率を1Xとする場合は、X線光路XにFZPを設置しない構成となる。
【0041】
図7に本実施例の装置制御系を含む構成図を示す。X線源1はX線源制御装置93を介して、G0格子調整機構、試料位置調整機構、FZP位置調整機構、G1位置調整機構及びX線光学系切替台8は図示したごとく位置調整用制御装置94を介して、さらにX線検出器9はX線検出器制御装置95を介してXRM制御装置91に接続される。これらの調整パラメータ及びX線検出器測定データはデータ蓄積装置92に蓄積される。
【0042】
図8に本実施例の顕微鏡装置全体のブロック図を示す。図7に示した機器類は床からの振動を防ぐ除振機能を待つ課題104の上に設置された光学ベンチ103の上に設置されXRMを構成する。該XRMは温度を厳密に制御する温度制御装置102を設置した防X線シールド兼装置外部パネル101の中に設置される。内部温度制御は0.1℃に制御できるようにした。
(位相CT像データの取得方法)
【0043】
上述した本実施例の位相差XRM装置によりX線検出器8に試料4の透過X線像が得られる。位相像を撮像するためには、撮像に供しているG1格子6-1或いは6-2をその格子ピッチの1/3以下の移動ピッチでX線光路Xに垂直かつ格子のストライプに垂直な方向(この場合はY方向)に微小量ΔY移動する毎に透過像を撮像して得る。試料の構造により僅かに屈折したX線がG1格子を通過することにより格子の像を歪めX線検出器8で画像データとして測定しデータ蓄積装置92に記録される。本実施例の低倍率(X10)X線顕微像を撮像する場合、G1格子のピッチ(2.9μm)の1/4の0.725μmをΔYとして、0、0.725μm、1.45μm、2.175μmの移動量で4枚の透過像を撮像する。この4枚の画像から、非特許文献11で解説されている方法を用いて位相像を取得する。このとき位相像だけでなく、吸収像、散乱像が取得できる。
【0044】
CT像を取得するためには、上記した透過X線像の撮像方法を用い、図6に示した試料回転台43の回転軸をΔθずつ回転させる毎にG1をΔY移動させて複数の透過像を撮像し、試料回転角毎の位相像のCTデータをデータ蓄積装置92に記録する。なお、このとき同時に同様に吸収像、散乱像の試料回転角度毎のCTデータとして記録することが出来る。この測定方法はΔYを一定にして、Δθ毎に角度移動させて透過像を記録し、ΔYを移動する毎にΔθ毎の透過像データを測定、データ蓄積装置に記録し、全データを測定し終えてからデータ処理し、位相像、吸収像、散乱像のCTデータとすることも可能である。
(位相インテリアCT像データの取得方法)
【0045】
試料4の中には特に高空間分解能データ測定を行う必要が含まれる場合がある。本実施例装置の場合、低倍率(×10倍)で66μm(角)の検出エリアと65nmの検出ピクセルサイズ、高倍率(×40倍)で16.4μm(角)の検出エリアと16.3nmの検出ピクセルサイズとなる。例えば、試料サイズが直径50μmで、その中の10μm部分を最高空間分解能CTで測定したい場合がこの例に相当する。試料サイズが直径50μmあるとすれば、低倍率XRMの低倍率の設定で測定し、65nm検出ピクセルサイズでCT画像取得をすることになる。高倍率設定では厳密なCT画像再構成をすることが出来ない。
【0046】
本発明のインテリアCT画像再構成方法はこのような場合でも、精度の高い画像再構成が可能であり、位相インテリアCT画像再構成を行うためのデータの取得方法について説明する。
【0047】
低倍率で測定する場合、図9(a)にあるように試料4全体にX線が照射されそのX線はFZP5―1及びG1格子6-1を通過してX線検出器8に入射する。この条件でCTデータを取得し、厳密なCT画像再構成を行うことが可能である。一方、同一の試料を高倍率設定のXRMで撮像するとFZP5-2の拡大倍率とX線検出器8の大きさの関係から図9(b)に示すような状態となり、試料の41部分のみがCT画像再構成に必要な全方位のX線透過が行われる条件になるが、その他の部分は不充分な測定データとなり、試料41部分を含めて厳密なCT画像再構成を行うことが出来ない。そこで、本発明では図9(a)に示される低倍率測定で得られた厳密CT画像再構成可能なデータを用いて、図9(b)の試料41部分の精密CT画像再構成を行う方法を開発した。低倍率測定で得られた測定データ或いは再構成したCT画像は構造未知の試料4の先験情報として用いることが可能である。
【0048】
更に、この方法によれば、図9(a)で全体のCT画像データを取得した後は図9(b)に示される設定で測定することになる。図9(a)及び図9(b)において、X線源1に付属しているX線シャッター11により、データを取得する必要があるときのみX線光路XからX線シャッター11を移動させ、試料4にX線が照射されるようにする。更に、高倍率の設定で試料の一部のみのデータ取得を行うときは4象限X線スリット12或いはX線ピンホールを用いて必要とされる部分にのみX線を照射することになり、試料全体のX線被曝を著しく減少させることが可能となるメリットが得られる。
(インテリアCTの画像再構成法)
【0049】
本発明では、測定した投影データから先験的知識を同定する手法(先験的知識同定型画像再構成法)と、同定せずに(どんな画像でも概ね近似的に当てはまる)画像の周辺部に固定する手法(先験的知識非同定型画像再構成法)を開発した。
【0050】
図10は、本発明の2段階画像再構成法の処理の流れを示す。第1ステップ(S61)では、先験的知識なしで従来のFBP法、逐次近似画像再構成法、統計的画像再構成法などを用いて、アーティファクトを含む不完全画像を生成する。この不完全画像はアーティファクトを含むが、インテリアCTで発生するアーティファクトは低周波成分であるため、組織や構造物などの境界の情報はほとんどの場合、正確に生成されている。図11(a)にも示す上記の不完全画像から、ユーザが手動やソフトウェアを用いた画像解析(処理)により、先験的知識として使用できるROI 内の任意小領域である領域Bを特定する(S62)。
【0051】
第2ステップでは、第1ステップで得られた領域Bを先験的知識に使用して、図11(b)に示すように、厳密な画像再構成法により(即ち、第1段階の再構成よりも精度の高い)画像再構成を行う(S63)。なお、第1ステップによりどのような先験情報領域Bが抽出できたかにより決定する。
【0052】
ここで、上記の不完全画像から得られた結果は、以下の[結果1]~[結果4]の4つに要約される。例えば、一定値のBであれば[結果1]を、一定値とは言えないが多項式の濃度変化に近いBであれば[結果2]を、区分的一様のBであれば[結果3]を、そして、区分的多項式の濃度変化に近いBであれば[結果4]を選択して用いる。
【0053】
[結果1(一定値先験的知識)]
図12(a)に示すように、ROI の内部に任意の小さな先験情報領域Bが存在し、Bにおいて前記の画像f(x,y)が一定値C(constant)であることが既知であれば、インテリアCTの画像再構成の解は一意に定まる。この結果1は非特許文献5、6の厳密解法の先験的知識を少なくしたものとなっている。
【0054】
[結果2(多項式先験的知識)]
図12(a)に示すように、ROI の内部に任意の小さな先験情報領域Bが存在し、Bにおいて前記画像f(x,y)がM次の多項式(polynomial)であることが既知であれば、インテリアCTの画像再構成の解は一意に定まる。ここで、多項式とは、前記画像f(x,y)の濃度変化が以下の形をしていることである。
【数1】
【0055】
ただし,多項式の次数Mは既知である必要があり,多項式の係数amnは未知で良い。[結果1]は、[結果2]において多項式の次数をM=0に設定した関数の形の制限を強くしたものであり、即ち、[結果2]は[結果1]の先験的知識を少なくしたものになっている。
【0056】
[結果3(区分的一様先験的知識)]
図12(a)に示すように、ROI の内部に任意の小さな領域Bが存在し、Bにおいて前記画像f(x,y)が区分的一様(piecewise constant)であることが既知であれば、インテリアCTの画像再構成の解は一意に定まる。ここで、区分的一様とは、図13に示すように、Bが有限個(L個)の領域D1,D2, …,DLから構成され各領域で一定値C1,C2, …,CLであることである。ただし、領域数Lと一定値C1,C2, …,CLの値は事前に未知で良く、[結果3]は[結果1]の先験的知識を少なくしたものとなっている。
【0057】
[結果4(区分的多項式先験的知識)]
図12(a)に示すように、ROI の内部に任意の小さな領域Bが存在し、Bにおいて前記画像f(x,y)がM次の区分的多項式(piecewise polynomial)であることが既知であれば、インテリアCTの画像再構成の解は一意に定まる。ここで、区分的多項式とは、図13に示すようにBが有限個(L個)の領域D1,D2,…,DLから構成されl番目の領域の画像fl(x,y)の濃度変化が以下の形をしていることである。
【数2】
【0058】
ただし、多項式の次数Mは既知である必要があり、領域数Lと多項式係数amn (l)は未知で良く、[結果4]は、[結果2]と[結果3]の先験的知識を少なくしたものとなっている。
【0059】
このように、厳密な画像再構成を行うために必要な物体に関する先験的知識を理論的に考察して、上記従来技術(非特許文献5と6、特許文献1)に述べられている先験的知識より、はるかに少ない先験的知識で厳密な画像再構成を可能とした。
【0060】
上記非特許文献5と6では、[結果1]~[結果4]と同じROI 内の任意小領域Bの先験的知識を用いているが、画像f(x,y)の値そのものが必要であるのに対し、本発明では、[結果1]~[結果4]では画像f(x,y)の値が(区分的)一様または(区分的)多項式など、はるかに少ない先験的知識だけで良い点で大きく異なる。また、非特許文献5では、区分的一様タイプの先験的知識を用いているが、ROI 内の任意小領域Bではなく、ROI 全体で区分的一様という無理な仮定が必要な点で異なる。
【0061】
また、図14(a)~(c)には、上記[結果1]~[結果3]の先験的知識を用いた場合の実際の再構成例を示す。どの場合も、少しの先験的知識により大きなアーティファクトの低減が達成できていることがわかる。
<実施例2>
【0062】
上記の実施例で説明した発明により、インテリアCTの厳密な画像再構成に必要な先験的知識ははるかに少なくできた。しかしながら、実際のCTイメージングにおいては、撮影前に対象とする物体に関する先験的知識が分かっている場合は比較的少ない。そこで、実施例2では、上記の図13に示した処理の流れにおいて、ステップS62で先験的知識として使用できるROI 内の任意小領域である領域Bを自動的に同定するものである。この先験情報領域の自動的同定は、例えば、画像解析(処理)技術を利用することによって実現可能である。
<実施例3>
【0063】
上記の実施例1の先験的知識自動推定型画像再構成法の成否は、第1ステップにおける先験的知識(領域B)の同定が上手くできるか否かに依存する。そこで、更に実施例3では、領域Bを同定しないで画像再構成を行う「先験的知識非同定型画像再構成法」である。ROI 周囲の縁の部分が区分的一様または区分的多項式であるという仮定は厳密には正しくないため、本手法は近似的な画像再構成法に止まるが、しかし、多くのCTイメージングの状況では[知見3]が成立するため、ROI の周囲である縁の部分に固定して配置することにより、図14(a)~(c)に示すように、先験的知識を利用しない他の近似的画像再構成法と比較して、はるかに精度高く画像再構成できる。
【0064】
図15(a)~(f)には、先験的知識同定型画像再構成法(実施例1)と先験的知識非同定型画像再構成法(実施例3)の具体的なシミュレーション実験例を、従来技術との比較により示す。実験には胸部CT画像を用い、中央に位置する心臓部分がROI Sとして画像再構成を行った(図15(a)参照)。
【0065】
実施例1では、第1ステップのFBP法による再構成画像をユーザが見て先験情報領域BをROI S内に指定して、第2ステップの厳密な画像再構成を行った(なお、用いた先験的知識は[結果3]に対応するBで区分的一様である)。その結果を図15(e)に示す。また、実施例3では、ROI Sの周辺部(図14(c)の額縁型)に先験情報領域Bを固定して画像再構成を行った(なお、用いた先験的知識は[結果3]に対応するBで区分的一様である)。その結果を図15(f)に示す。
【0066】
また比較例として、投影データの欠損部分を滑らかな関数で外挿してFBP法を適用するローカルFBP法による結果を図15(b)に、同じ先験情報領域Bにおける画像f(x,y)の真値を先験的知識に用いた手法(非特許文献5、6)による結果を図15(c)に、小さな先験情報領域BのみではなくROI S全体に対して区分的一様の拘束であるトータリバリエーション(TV:Total Variation)をかける圧縮センシング法(非特許文献5)による結果を図15(d)に、それぞれ、示す。
【0067】
これらの結果から明らかなように、ローカルFBP法では強いカッピング効果が発生して画像劣化が著しく、圧縮センシング法ではTVの影響により細部や滑らかな濃度変化がかなり失われている。これに対して、本発明の実施例1及び3の手法では、いずれもアーティファクトを削減してかなり上手く画像再構成できていることがわかる。
【0068】
[画像再構成法]
上述した[結果1]~[結果4]の解の一意性に基づいて投影データから画像を生成する画像再構成法について説明する。まず、画像f(x,y)と投影データp(r,θ)を離散化したベクトルを、各々、f,bで表し、画像に投影データを対応づける投影演算行列をAで表す。ただし、画像fはROI S内の画素のみではなく、断面内の物体存在領域に属する全ての画素を含め(注意が必要)、投影データベクトルbは全ての測定値を一列に並べて作成する。また、先験情報領域Bにおいて先験的知識が満足されているかどうかを評価する評価関数をF(x)で表す。このとき、画像再構成は以下の3つの最適化問題のいずれかとして定式化できる。
【0069】
[定式化1]
【数3】
【0070】
[定式化2]
【数4】
【0071】
[定式化3]
【数5】
【0072】
ただし、x∈Cは画像に関して事前に分かる拘束条件を表し、以下のものが良く用いられる。
(a)(サポート拘束)画像fが事前に既知であるサポート領域ΩOBJの外側でゼロになる。
(b)(非負条件)画像fの成分は負の値を取らない。
(c)(ヒルベルト直線上の投影データ値)後述するヒルベルト変換を用いた画像再構成法では、Af=bをHf=cに書き換える際の情報のロスを補うため、後述するヒルベルト直線L(u)上の投影データ値が用いられる。
【0073】
もしもF(x)が凸関数と呼ばれる局所的最適解(local minimum)が存在しない関数であれば、上述の問題を解く反復解法または非反復解法は、数理最適化分野や画像再構成分野で多数知られており、これらの手法が全て利用可能である。例えば、拘束条件付統計的画像再構成法や拘束条件付逐次近似法などが利用できる。また,別のクラスの画像再構成法として、微分逆投影(DBP:Differentiated Back Projection)と呼ばれる後述する枠組みに基づき、画像再構成法を構築することが可能である。DBP法の詳細は後述するが、DBP法ではAf=bで表される画像fと投影データbの関係式をそのまま用いるのではなく、一旦、DBPと呼ばれる手法により画像fとヒルベルト画像(Hilbert image)と呼ばれる不完全な画像cの関係式Hf=cに変換して、以下のように定式化して画像再構成を行う。このクラスの手法は、微分逆投影+トランケーションヒルベルト変換法などの名称で呼ばれる(非特許文献5と6、特許文献1)。
【0074】
[定式化4]
【数6】
【0075】
[定式化5]
【数7】
【0076】
[定式化6]
【数8】
【0077】
もちろん、上述のように定式化した問題は反復解法または非反復解法を用いて解く。
【0078】
次に,本発明において厳密または正確な画像再構成を行うキーである先験情報領域Bにおける先験的知識を評価する評価関数F(x)について説明する。
【0079】
まず、F(x)を設計するにあたって、ROI S全体に対して先験的知識に基づく拘束条件をかける非特許文献5や非特許文献6の手法と異なり、本発明の画像再構成法ではS内の任意小領域である先験情報領域Bのみに拘束条件を課す。[結果1]の場合はf(x,y)の一回導関数がB内でゼロになる先験的知識であるから、Bにおけるf(x,y)の一回導関数のノルムを最小化するか、または、B内の濃度変化のばらつき(分散)を最小化すれば良い。[結果2]の場合は、f(x,y)のM+1回導関数がB内でゼロになる先験的知識であるから、M+1回導関数のノルムを最小化するか、f(x,y)とf(x,y)((x,y)∈B)にM次の多項式を当てはめた関数との誤差を最小化すれば良い。[結果3]の場合は、f(x,y)がB内で区分的一様になる先験的知識であるから、B内におけるL0ノルムまたはL1ノルムに基づくトータルバリエーション(TV:Total Variation)ノルムを最小化すれば良い。[結果4]の場合は、f(x,y)のM回導関数がB内で区分的一様になる先験的知識であるから、M+1回の導関数に基づき定義されたTVノルムを最小化すれば良い。
【0080】
典型的なF(x)の例を表2に示す。ただし、表2においてパラメータpはノルムの次数であり、その値は[結果1]と[結果2]では0≦p≦2で良いが、[結果3]と[結果4]では一様またはM次の多項式の濃度変化を持つ有限個(L個)の部分領域の境界の影響が過度に大きく評価されるのを避けるため、0≦p≦1を用いる必要がある。ただし、0≦p<1の場合には、F(x)は凸関数にならないため、反復解法や非反復解法に工夫が必要であり、p=1を用いるのが良いと言える。なお,表2に示したF(x)で複数の候補があるものは数値実験によるテストを行ったが、どれも概ね良好に動作して大きな差は見られなかった。
【表2】
【0081】
更に、上述したように従来技術における対象物に関する先験情報を利用することなく、低倍率による全体画像データを用いたインテリアCTの数学的に厳密な画像再構成を実現する手法について、以下に詳述する。
<実施例4>
【0082】
インテリアCTにおいて解の一意性(画像再構成問題の解が一つに定まること)が成り立ち、厳密な画像再構成を可能にするためには、インテリアCT投影データに加えて、何らかの付加的な情報が必要である。実施例4ではこれに代わるものとして、インテリアCTでは通常は測定しない投影データ、即ち、画像を得たい領域ROIΩを通らない余分な投影データを測定して、この補足データを利用する。即ち、本発明実施例4の厳密解法の重要な特徴は、ROIΩを通らない必要最小限の余分な投影データを測定することにある。
【0083】
特に試料撮像の倍率を変更可能な撮像光学系をもつことにより、試料全体像を撮像し、その一部がROIΩを通らない余分な投影データとて、補足データを利用することが有効な方法となる。
【0084】
上記の手法は電子線、X線、中性子線等の顕微CTの多様な光学系にも適用できる一般性を有するが、まず、試料が回転することにより相対的に電子線源が円軌道上を360度動くファンビームCTについてその原理を説明する。図16(a)に示すように、360度の円軌道のファンビームCTにおいて、ROIΩを通過する電子線のみを照射して投影データを測定するインテリアCTの状況を考える。もちろん、インテリアCT投影データだけでは数学的に厳密なROI Ωの画像再構成は不可能であり、図16(b)に示すように、付加的な情報として、円軌道の一部の円弧セグメントEから対象物全体をカバーする電子線を照射して、全体の投影データを測定する。この部分的な全体投影データ(以下、単に「全体投影データ」とも言う)をインテリアCT投影データに加味して、厳密なROI Ωの再構成ができるようにしたところ、円弧セグメントEの任意の、一点ではない小さな円弧セグメントで全体投影データがあれば、厳密なROI Ωの画像再構成が可能であることが数学的に証明できた。
【0085】
また、上記の問題に対しては、過去の対象物に関する先験情報を用いたインテリアCT厳密解法の研究で解の一意性を示すツールとして使用された微分逆投影(DBP: Differentiated Back Projection)法とトランケーションヒルベルト変換を組み合わせた画像再構成法(非特許文献[5]-[9])では証明できないが、FBP法におけるフィルタリング処理にトランケーションヒルベルト変換を導入した新しい画像再構成法を用いることで証明した。ここで、本発明で明らかになった360度円軌道ファンビームCTにおけるインテリアCT画像再構成問題の解の一意性をまとめると、次のようになる。
【0086】
[解の一意性]
インテリアCT投影データに加えて任意の円弧セグメントE(いくら小さくともよい)の全体スキャン(左右のトランケーションなし)投影データがあれば、インテリアCTの画像再構成の解は一意である。
【0087】
<得られたインテリアCTにおける解の一意性>
ここでは、後に説明するFBP法のフィルタリング処理にトランケーションヒルベルト変換を導入した新しい画像再構成法に基づき証明することに成功した、インテリアCT画像再構成における解の一意性の結果をまとめて述べる。なお、記号の定義として、対象画像(物体)をf(x,y)、ROIをΩで表す。
【0088】
まず、図17に基づいて、一般化する際の考え方を述べる。任意の幾何学系を用いた場合において、物体の直線上の線積分値の集合を測定している点は共通であり、両者の投影データの間には座標変換の関係が成立する。そこで、任意の幾何学系で測定した投影データを、一旦、図17(a)に示すように、仮想的な360度円軌道ファンビームCTの投影データに座標変換して、そのデータが360度円軌道ファンビームCTの場合における一意性の条件を満足しているか調べ、任意の幾何学系で測定した投影データに適用可能な解の一意性を導出すると、最終的に、次の結論が得られる。
【0089】
[解の一意性(任意の幾何学系)]
以下の2つの両方の条件が満足されるように投影データが測定されていれば、ROI Ωで画像f(x,y)は一意に定まり、Ωの厳密な再構成が可能である。
【0090】
(条件1)ROI Ωを通る全ての投影データが測定されていること(インテリアCTの測定条件)。
【0091】
(条件2)物体外部にある任意の(物体を内部に含むある円に対応する)小円弧セグメントEを通る全ての直線上の投影データ(部分的な全体投影データ)が測定されていること(解を一意に定めるために余分に測定する投影データの条件)。
【0092】
ただし、小円弧セグメントEの長さは、物体を内部に含むある円に対応するセグメントであり、一点ではないならばいくら短くともよく、どの場所にあってもよい。上述した2つの幾何学的条件の意味を、図17(b)に示す。
【0093】
更に、上述の一般化した解の一意性が有効な3つの事例を以下に述べる。
【0094】
(a)180度平行ビームスキャンの場合
CTのデータ収集法の中で、電子線撮像では最も基本的な180度平行ビームスキャンでインテリアCTを実施する場合を考える。動径をr、角度をθとして投影データをp(r,θ)(投影角度範囲-π/2≦θ<π/2)で表す。いま、-ε≦θ≦ε(εは小角度)の角度範囲では(トランケーションなしの)全体投影データが測定され、それ以外ではインテリアCT投影データしか測定されないとする。このとき、小円弧セグメントEを図18(a)に示すようにとれば上述の解の一意性の条件を満足していることが分かり、ROI再構成の解は一意である。
【0095】
[解の一意性(180度平行ビーム)]
-π/2≦θ<π/2の角度範囲のインテリアCT投影データに加え任意の小角度範囲E(いくら小さくともよい)で全体投影データを測定すれば、ROI Ωで画像f(x,y)は一意に定まり、Ωの厳密な再構成が可能である。
【0096】
なお、この一意性は、360度円軌道ファンビームCTの場合の解の一意性において円軌道の半径を無限にした極限と解釈することができ、180度平行ビームスキャンにおいても360度円軌道ファンビームCTと同様な解の一意性が成立する。なお、この結果は任意の幾何学系に一般化した一意性を用いて初めて証明できる。
【0097】
(b)ファンビームショートスキャンの場合
図18(b)に示すファンビームショートスキャンの場合を考える。円軌道上のX線源の位置をβ∈[-π/2-αmax,π/2+αmax)(αmaxはショートスキャンの条件から決まるオーバースキャン角度、非特許文献[7])、直線検出器上の座標をuとしてファンビーム投影データをg(u,β)で表す。いま、-ε≦β≦ε(εは小角度)の角度範囲で(トランケーションなしの)全体投影データが測定され、それ以外ではインテリアCT投影データしか測定されないとする。このとき、小円弧セグメントEを図21(b)に示すようにとれば、上述の解の一意性の条件を満足していることが分かり、ROI再構成の解は一意である。
【0098】
[解の一意性(ファンビームショートスキャン)]
-π/2-αmax≦β<π/2+αmaxの角度範囲のインテリアCT投影データに加えて、任意の小角度範囲E(いくら小さくともよい)で全体投影データを測定すれば、ROI Ωで画像f(x,y)は一意に定まり、Ωの厳密な再構成が可能である。
【0099】
(c)多角形軌道を用いたファンビームスキャン:
図18(c)に示す正五角形軌道を用いたファンビームスキャンを考える。正五角形軌道上のX線源の位置をβ∈[-π,π)(βは正五角形の中心から軌道上の点を見た方位角)、直線検出器上の座標をuとしてファンビーム投影データをg(u,β)で表す。今、-ε≦β≦ε(εは小角度で正五角形軌道の一辺がEになるように決定)の角度範囲では(トランケーションなしの)全体投影データが測定され、それ以外ではインテリアCT投影データしか測定されないとする。
【0100】
このとき、小円弧セグメントEを図18(c)に示すようにとれば、上述の解の一意性の条件を満足していることが分かり、ROI再構成の解は一意である。
【0101】
[解の一意性(多角形軌道を用いたファンビームスキャン)]
-π≦β<πの角度範囲のインテリアCT投影データに加えて、任意の小角度範囲E(いくら小さくともよい)で全体投影データを測定すれば、ROI Ωで画像f(x,y)は一意に定まり、Ωの厳密な再構成が可能である。
【0102】
(b)位置合わせのScout-Viewスキャン投影データを全体投影データに利用する
撮影を行う前に見たいROIΩを上手く視野内に収める位置決めの目的で、物体全てが視野内に入るような低倍率のScout-Viewスキャンが行われる。このScout-Viewスキャンの機能を利用して、低倍率の投影データを、部分軌道Eの全体投影データとして利用することができる。
【0103】
次にScout-Viewスキャンにより特定したROIΩに対して2回目の測定が行われ、Ry軸の回転により、ROIを通過する電子線のみを照射してインテリアCT投影データ全てが測定され、画像情報データ蓄積装置61に保存される。これにより、インテリアCT画像を再構築するためのデータ取得が行える。
【0104】
画像情報データ蓄積装置61に保存された1回目測定の試料全体投影の部分データ及びROIΩに対して行う2回目のインテリアCT投影データ全ての測定データを用いて記述の画像再構築方法を用いて、インテリアCT画像を再構築する。
【符号の説明】
【0105】
1…X線源、2…X線集光鏡、3…G0格子、4…試料、5-1、5-2…FZP、6-1、6-2…G1格子、7…X線検出器、8…光学素子載置台、11…X線シャッター、12…4象限X線スリット、31…G0格子取り付け冶具、32…G0格子スィーベル、33…G0格子回転機構、34…G0格子移動機構、41…試料取り付け冶具、42…試料XY移動台、43…試料回転台、51…FZP取り付け冶具、52…FZP XY移動台、61…G1格子取り付け冶具、62…G1格子スィーベル、63…G1格子回転機構、64…G1格子XY移動台、91…XRM制御装置、92…データ蓄積装置、93…X線源制御装置、94…位置調整用制御装置、95…X線検出器制御装置、101…防X線シールド兼装置外部パネル、102…温度制御装置、103…光学ベンチ、104…架台。
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