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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】殺虫エアゾール製品
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/06 20060101AFI20221222BHJP
   A01M 7/00 20060101ALI20221222BHJP
   A01N 53/00 20060101ALI20221222BHJP
   A01N 53/08 20060101ALI20221222BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
A01N25/06
A01M7/00 S
A01N53/00
A01N53/08
A01P7/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017004997
(22)【出願日】2017-01-16
(65)【公開番号】P2018115113
(43)【公開日】2018-07-26
【審査請求日】2019-11-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智基
(72)【発明者】
【氏名】中原 良成
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-253029(JP,A)
【文献】特開2012-162497(JP,A)
【文献】特開2012-229347(JP,A)
【文献】特開2012-219034(JP,A)
【文献】特開2013-151493(JP,A)
【文献】特開昭53-93187(JP,A)
【文献】特開2009-227662(JP,A)
【文献】特開2017-100782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N1/00-65/48
A01P1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺虫成分及びHFO系溶剤(噴射剤として作用するものを除く)を含有するエアゾール組成物と、
上記エアゾール組成物を噴射させるための噴射剤とがエアゾール容器に収容され、
上記噴射剤は、液化石油ガス及びジメチルエーテルの一方または両方からなることを特徴とする殺虫エアゾール製品。
【請求項2】
請求項1に記載の殺虫エアゾール製品において、
上記エアゾール組成物が流動パラフィンを含有していることを特徴とする殺虫エアゾール製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハチやアブ等の害虫を殺虫する殺虫エアゾール製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、油状液体を含む殺虫剤が検討されている。特許文献1には、展着剤として作用する鉱物油を含有する有害生物防除剤が開示されている。特許文献2には、低粘度の鉱油を含有する殺有害生物組成物が開示されている。特許文献3には、樹脂発泡エアゾールにおいて、発泡調整剤として流動パラフィンを添加することが開示されている。特許文献4には、トランスフルトリンの溶媒として流動パラフィンを用い、トランスフルトリンの高濃度液中での結晶の析出を防止することが開示されている。特許文献5には、ピレスロイド化合物の光及び紫外線劣化を防止するために常温液状のパラフィンを含有させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4053131号公報
【文献】特開2011-517685号公報
【文献】特許第4741780号公報
【文献】特開2001-192309号公報
【文献】特許第5556790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のように油状液体は種々の目的で殺虫剤組成物に含有されているのであるが、使用者にとって殺虫剤組成物の効力として優先順位が高いのは、殺虫剤組成物を害虫に付着させてから害虫の正常な動きが停止するまでの時間、いわゆるノックダウン時間である。特に、ハチやアブのように動きが速く、人間を刺す害虫の場合には重要視される。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、害虫のノックダウン時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、HFO系溶剤を含有させるようにした。
【0007】
第1の発明は、殺虫成分及びHFO系溶剤を含有するエアゾール組成物と、上記エアゾール組成物を噴射させるための噴射剤とがエアゾール容器に収容され、上記噴射剤は、液化石油ガス及びジメチルエーテルの一方または両方からなることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、HFO系溶剤を含有していることで害虫のノックダウン時間が短縮する。
【0009】
尚、ノックダウン時間とは、害虫に対してエアゾール組成物の噴射を開始してから、当該害虫がノックダウンするまでの時間である。ノックダウンとは、害虫の正常な動きが停止した状態を言い、具体的には、飛翔や歩行に異常をきたした害虫が仰天した(ひっくり返った)状態になることを指す。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、上記エアゾール組成物が流動パラフィンを含有していることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、害虫のノックダウン時間がより一層短縮する。
【0012】
また、上記流動パラフィンの含有量は、エアゾール組成物の10w/v%以下とされていることを特徴とする。
【0013】
すなわち、殺虫エアゾール製品を使用した場合には殺虫剤組成物が壁等に付着することがある。特許文献1~5のように油状液体を含んだ殺虫剤組成物が壁等に付着すると、蒸発に時間がかかり、殺虫剤組成物により長時間に亘って汚染された状態が続いてしまう恐れがあるが、本発明によれば、油状液体である流動パラフィンの含有量が10w/v%以下であるため、エアゾール製品を使用してエアゾール組成物が壁等に付着した場合に時間の経過に伴って無くなりやすく、エアゾール組成物が壁等に残ったままになりにくい。
【0014】
また、流動パラフィンの含有量が10w/v%以下であるため、エアゾール組成物が噴射ノズルの内部に詰まりにくくなる。
【0015】
また、上記流動パラフィンの動粘度は18.0mm/s(40℃)以上であることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、害虫のノックダウン時間がさらに短縮する。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、HFO系溶剤を含有していることでノックダウン時間を短縮できる。
【0018】
第2の発明によれば、エアゾール組成物が流動パラフィンを含有しているので、害虫のノックダウン時間をより一層短縮できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
本発明の実施形態に係るエアゾール製品は、エアゾール組成物と、エアゾール組成物を噴射させるための噴射剤とがエアゾール容器に収容されてなるものである。エアゾール容器は従来から周知のものであるため、詳細な説明は省略するが、収容物を噴射するための噴射口を有するバルブが設けられており、このバルブを押動操作することによって収容物が所定流量で噴射されるようになっている。噴霧粒径や噴霧の有効到達距離等は、噴射剤の種類やバルブの構造、噴射口の径等で設定することができる。
【0021】
噴射剤は、例えば液化石油ガス(LPG)やジメチルエーテル(DME)等を用いることができ、これらのうち、1種のみまたは2種以上を混合して用いることもできる。
【0022】
エアゾール組成物は、殺虫成分と、HFO系溶剤と、流動パラフィンと、溶剤とを含有しているが、流動パラフィンは省略してもよい。殺虫成分としては、例えばピレスロイド系の殺虫成分を使用することができ、トラロメトリン、ビフェントリン、ペルメトリン、フェノトリン、シペルメトリン、シフェノトリン、フタルスリン、レスメトリン、エトフェンプロックス、アクリナトリン、シラフルオフェンなどを挙げることができる。これらのうち、任意の1種を使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。殺虫成分としてふさわしいのは、フタルスリンとトラロメトリンである。なおフタルスリンは、立体異性体の含有割合に応じてd-T80フタルスリン、d-T98フタルスリン等が知られているが、何れも用いることができる。フタルスリンは、害虫に対する即効的なノックダウン効果に優れた殺虫成分であり、この意味で『ノックダウン剤』と呼ぶことができる。トラロメトリンは、即効性よりはむしろ害虫の最終的な致死効果に優れた殺虫成分であり、この意味で『致死剤』と呼ぶことができるものである。ノックダウン剤と致死剤の両方を含むことにより、即効的なノックダウン効果および確実な致死効果を得ることができる。なお、本発明はノックダウン時間の短縮に関するものであるから、即効的なノックダウン効果に優れた殺虫成分(ノックダウン剤)を使用することにより、発明の効果をより好適に発揮することができる。
【0023】
HFO系溶剤としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製のバートレルスープリオン、バートレルシネラ等を使用することができる。
【0024】
流動パラフィンとしては、例えば、動粘度が18.0mm/s(40℃)以上の流動パラフィンが好ましい。動粘度が18.0mm/s(40℃)以上の流動パラフィンは、三光化学工業株式会社製の品名100-S、120―S、150―S、260-S、350-S、380―S等があり、これらのうち、任意の1種を使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。各流動パラフィンの動粘度は、品名100-Sが18.0mm/sプラスマイナス2(40℃)であり、120―Sが20.5mm/sプラスマイナス2(40℃)であり、150―Sが25.4mm/sプラスマイナス2(40℃)であり、260-Sが49.0mm/sプラスマイナス3(40℃)であり、350-Sが67.0mm/sプラスマイナス3(40℃)であり、380―Sが73.0mm/sプラスマイナス3(40℃)である。
【0025】
尚、後述するが、動粘度4.4mm2/sの流動パラフィン(品名40-S)、動粘度8.0mm2/sの流動パラフィン(品名55-S)、動粘度13.8mm2/sの流動パラフィン(品名80-S)をそれぞれ単独で使用した場合には、流動パラフィン無添加の場合と比べてノックダウン時間の短縮がそれほど見られなかった。
【0026】
また、上記した複数の品番の流動パラフィンのうち、任意の2種以上を混合して動粘度が18.0mm/s(40℃)以上の流動パラフィンとしてもよい。
【0027】
溶剤は、殺虫成分等を溶解できるものであれば特に制限は無く、例えば炭化水素類、アルコール類、イソパラフィン類等の中から1つまたは複数の溶剤を目的に応じて含むことができる。例えば、虫体表面に対する親和性を向上させるための溶剤として、ケロシン(灯油)等を含んでいても良い。また、エアゾール組成物は、難溶解性の殺虫成分の溶解性を向上させるための溶剤(補助溶剤)を、更に含んでいても良い。このような補助溶剤としては例えばグリコールエーテル系溶剤を挙げることができ、グリコールエーテル系溶剤としては例えばPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を挙げることができる。
【0028】
エアゾール製品の対象害虫は、ハチ、アブ等を挙げることができるが、これら以外の害虫に対しても使用することができる。
【0029】
次に、実施形態に係るエアゾール製品について、効力試験の結果と汚染性試験の結果について説明する。
【0030】
まず、効力試験の結果について説明する。供試剤は、表1に示す比較例と実施例1、2である。
【0031】
【表1】
【0032】
トラロメトリン及びd-T98フタルスリンは殺虫成分である。ネオチオゾールF(ケロシン)は殺虫成分を溶解する溶剤である。LPG0.4(0.4MPaG(at20℃))は噴射剤である。なお、本明細書の実施例および比較例においては、エアゾール組成物を体積が165mlとなるように調製し、当該エアゾール組成物と噴射剤をエアゾール容器に充填して550mlの殺虫エアゾール製品とした。
【0033】
比較例はHFO系溶剤及び流動パラフィンを含有していない例である。実施例1はHFO系溶剤としてバートレルシネラを、エアゾール組成物の1w/v%含有している。実施例2はHFO系溶剤としてバートレルシネラを含有するとともに、品名260-Sの流動パラフィンを10w/v%含有している。
【0034】
試験方法は次のとおりである。供試虫はセイヨウミツバチの雌成虫である。比較例、実施例1、2のそれぞれについて供試虫1匹×3回反復してノックダウン時間を計測した。供試虫は直径9cmのガラスリングに1匹ずつ入れ、ナイロンメッシュと金属リングとを用いてガラスリングの両端に蓋をした。このガラスリングをエアゾール噴射装置に接続されているガラス管の内部に設置した。エアゾール噴射装置の噴霧口と供試虫との距離は5mとし、噴射時間は連続して2秒間とした。エアゾール噴射装置の噴射が開始した時点から供試虫がノックダウンするまでの時間(ノックダウン時間)を計測し、3回反復した後の平均値を算出した。
【0035】
試験結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
比較例ではノックダウン時間が平均して20秒以上であったのに対し、実施例1では約18秒であり、また、実施例2では約12秒であった。したがって、HFO系溶剤を含有していることにより、害虫のノックダウン時間を短縮することができる。また、流動パラフィンを含有していることで害虫のノックダウン時間をより一層短縮することができる。
【0038】
尚、流動パラフィンの動粘度が18.0mm/s(40℃)未満であると、18.0mm/s(40℃)以上である場合に比べてノックダウン時間が長くなる傾向にあるので、流動パラフィンの動粘度が18.0mm/s(40℃)以上が好ましい。また、セイヨウミツバチ以外にもスズメバチやアブ等の害虫に対しても同様な傾向の試験結果になると推定される。
【0039】
ところで、害虫に対するHFO系溶剤の作用については未知の部分が多く、ましてやHFO系溶剤と殺虫成分を組み合わせたときの効果は、従来全く知られていない。この点、本願出願人は、本発明に到る過程において、害虫に対する各種HFO系溶剤の効果について検討している。この結果、本願出願人は、ある種のHFO系溶剤を単体で害虫に吹きかけることにより、害虫の行動を阻害する(動きを鈍らせる)効果があることを突き止めている。これは、一種の麻酔効果のようなものと考えられており、殺虫成分によるノックダウン作用とは全く異なるメカニズムが働いていると考えられる。従って、仮にHFO系溶剤と殺虫成分を組み合わせたとしても、それによってどのような効果があるかは、従来の知見からは全く予想できなかった。
【0040】
また、上記のようにHFO系溶剤を単体で害虫に吹きかけることによって行動を阻害することはできるにしても、本願発明者らの検討によれば、害虫の行動が停止するほどの効果を得るためには、大量のHFO系溶剤を吹きかける必要があった。即ち、エアゾール製品として現実的な配合量では、HFO系溶剤のみによって害虫を停止させるのは困難と考えられた。このため、現実的な殺虫エアゾール製品においては、仮にHFO系溶剤を配合したとしても、ノックダウン時間を短縮する効果があるとは期待できなかった。それどころか、HFO系溶剤による麻酔作用によって害虫の活動が低下することで、ノックダウン剤の効果発現が遅延し、却ってノックダウンまでの時間が長引いてしまう可能性すら考えられた。
【0041】
ところが本願発明者らは、上記のように、HFO系溶剤を殺虫エアゾール製品に配合することによって意外にもノックダウン時間を短縮する効果が得られることを見出し、本発明を完成させたのである。なおHFO系溶剤の配合量は特に制限は無いが、他の成分の溶解性等に悪影響を与えないようにする等の観点からすれば、エアゾール組成物の10w/v%以下とすることが好ましく、5w/v%以下とすることが更に好ましい。
【0042】
以上説明したように、この実施形態に係るエアゾール製品によれば、害虫のノックダウン時間を大幅に短縮できる。また、油状液体である流動パラフィンの含有量が10w/v%以下である場合には、エアゾール製品を使用してエアゾール組成物が壁等に付着した場合に時間の経過に伴って無くなりやすく、エアゾール組成物が壁等に残ったままになりにくく、汚染性を低下させることができる。
【0043】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、本発明に係るエアゾール製品は、例えばハチやアブに使用することができる。