(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】半導体素子接合構造、半導体素子接合構造の生成方法及び導電性接合剤
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20221222BHJP
【FI】
H01L21/52 B
H01L21/52 D
(21)【出願番号】P 2018163838
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-08-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/次世代パワーエレクトロニクス/SiCに関する拠点型共通基板技術開発/自動車向けSiC耐熱モジュール実装技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】巽 宏平
(72)【発明者】
【氏名】田中 康紀
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/053356(WO,A1)
【文献】特開2017-172029(JP,A)
【文献】特開2018-029143(JP,A)
【文献】特開2017-147151(JP,A)
【文献】特開2018-111856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
H01L 21/60
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属の金属粒子を第2の金属で固着接合した半導体素子接合層を有する半導体素子接合構造であって、
前記第1の金属は、前記第2の金属よりも硬度が低く、融点が当該第2の金属と同等以下であり、且つ、粒径がマイクロサイズであり、前記第1の金属の金属粒子は半導体素子と当該半導体素子に接合する被接合体との間に複数介在しており、前記第1の金属の金属粒子は前記第2の金属で固着接合され
、
前記第1の金属がアルミニウム(Al)又はアルミニウム合金(Al合金)であり、前記第2の金属がニッケル(Ni)であり、
前記金属粒子の容積率が50%以上、90%以下であることを特徴とする半導体素子接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体素子接合構造において、
前記第1の金属の金属粒子の粒径が0.5μmより大きく、500μm以下である半導体素子接合構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体素子接合構造において、
当該半導体素子接合層の厚みが3μm以上、800μm以下の範囲である半導体素子接合構造。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の半導体素子接合構造
の生成方法であって、
前記第1の金属の金属粒子を前記半導体素子と前記被接合体との間に複数介在させ、前記第1の金属の金属粒子間に生じる隙間にめっき液を流通し、めっき処理により前記第2の金属を析出させて前記第1の金属の金属粒子を固着接合する半導体素子接合構造
の生成方法。
【請求項5】
請求項1ないし
3のいずれかに記載の半導体素子接合構造
の生成方法であって、
粒径が5nm以上、500nm以下で、且つ、前記第1の金属の金属粒子の粒径の1/10以下である前記第2の金属を含む前記第2の金属の金属粒子と前記第1の金属の金属粒子との混合体を200℃以上で加熱し、前記第2の金属の金属粒子の焼結体で前記第1の金属の金属粒子を固着接合する半導体素子接合構造
の生成方法。
【請求項6】
ナノサイズのニッケル(Ni)を含むニッケル(Ni)粒子と、前記ニッケル(Ni)よりも硬度が低く、粒径がマイクロサイズの金属粒子との混合体からなり、前記金属粒子の容積率が50%以上、90%以下であることを特徴とする導電性接合剤。
【請求項7】
ナノサイズの銅(Cu)を含む銅(Cu)粒子と、前記銅(Cu)よりも硬度が低く、粒径がマイクロサイズの金属粒子との混合体からなり、前記金属粒子の容積率が50%以上、90%以下であることを特徴とする導電性接合剤。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の導電性接合剤において、
マイクロサイズの前記金属粒子がアルミニウム(Al)又はアルミニウム合金(Al合金)であることを特徴とする導電性接合剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的硬度が低く、粒径がマイクロサイズの一の金属粒子を面心立方の結晶構造を持つ他の金属粒子で固着接着して形成される半導体素子の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、Siを用いた半導体は、動作温度が150℃程度以下とされているが、化合物半導体であるSiCやGaNなどは、さらなる高温動作が可能とされている。高温動作が可能となれば、高電流密度での動作が可能となるなど、特にパワーデバイスでの利点が大きい。電気自動車やハイブリッド自動車のインバータの冷却装置が簡素化されるなどが期待される。しかし、現行の半導体実装技術で広く使用されているはんだを用いた接合は、融点が200数十℃であり、融点以上での使用は困難である。また、200℃以下であっても、長期の使用では、熱応力等により接続不良を生じることが知られている。そこで新たな高耐熱実装技術が必要とされている。
【0003】
その実装技術としてAu-Ge、Zn-Al合金などの比較的高融点の溶融接合材料、高融点と低融点金属の拡散による液相拡散接合、金属ナノ粒子の焼結接合などの接合技術の検討が進められており、その中の金属ナノ粒子による焼結接合は種々検討されてきた。この金属ナノ粒子による焼結接合は、金属をナノ粒子化することで比表面積を大きくし、表面が活性になることで比較的低温の温度で接合が可能である。また、接合後は金属本来の融点になるため、接合材料として高い耐熱性が期待できる。
【0004】
近年、金属ナノ粒子の低温焼結接合では、銀や銅等の金属ナノ粒子材料での研究開発が進められている。しかし、銀は高コストであり、酸化、マイグレーションの問題を生じる懸念があり、銅は自身の酸化が課題となっている。また、金属ナノ粒子の焼結体は、比表面積が大きいために表面に形成あるいは吸着している、酸素、炭素原子の焼結時の内部への取り込みのため、純金属よりも降伏応力の上昇と同時に脆化する傾向があり、熱応力に対して十分な応力緩和効果が見られなかった。
【0005】
そこで、発明者らは、特許文献1、2に示すように、融点が1453℃と銀や銅よりも高く、電気抵抗は6.99×10-8Ωcmと比較的低いNi粒子に着目して検討をおこなってきた。なお、従来広く使用されてきたSn-Pb共晶はんだ及び鉛フリーはんだ(Sn-Ag-Cu)の電気抵抗はそれぞれ15×10-8Ωcm、11×10-8Ωcmである。また、Niの熱膨張率は13.3×10-6であり、銅の17×10-6、銀の19×10-6よりも低く、SiやSiCの熱膨張率により近い。
【0006】
これまでにNiナノ粒子を用いた場合、400℃以下での接合が可能であり、250℃以上における耐熱性を有する接合材料であることが分かっている。また、特許文献1に開示されているように、アルミニウム(以下、Alという)との直接接合が可能であることも明らかとなっている。しかしながら、焼結後の接合層において大きなガスボイドやクラックが発生していることが分かった。これらのボイドは、ナノ粒子表面の有機物などの蒸発に起因するものであるが、金属ナノ粒子の焼結体のいずれにおいても問題となっていた。また、金属ナノ粒子による接合にはSiやSiCなどの半導体素子と銅基板等との熱膨張係数(CTE)の差により生じる応力を緩和することができず、接合強度を著しく低下させてしまう問題がある。これらの問題に関して、例えば、特許文献1、2に示す技術が開示されている。
【0007】
特許文献1に示す技術は、第1被接合体の被接合面(第1被接合面)と第2被接合体の被接合面(第2被接合面)との間に金属ナノ粒子を含む接合層が形成され、接合層中の金属ナノ粒子によって第1接合面と第2接合面とが接合されてなる接合構造であって、第1被接合面と第2被接合面の一方又は両方はAl又はAl合金であり、金属ナノ粒子はNiナノ粒子とするものであり、金属ナノ粒子としてNiナノ粒子を用いることにより、たとえ第1被接合面と第2被接合面の一方又は両方がAl又はAl合金であっても、両者の接合を可能とするものである。
【0008】
特許文献2に示す技術は、第1被接合体の被接合面(第1被接合面)と第2被接合体の被接合面(第2被接合面)との間に、金属ナノ粒子を含む第1接合層、金属箔層、金属ナノ粒子を含む第2接合層がこの順に形成されており、第1被接合体と第2被接合体の熱膨張量に差があっても、接合構造中の金属箔層が変形することによって熱膨張量の差を吸収することができ、第1接合層と第2接合層のせん断変形量を低減し、接合強度の低下を防止することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-93296号公報
【文献】特開2015-93295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に示す技術は、接合層中にNiナノ粒子を含むことで、AlやAl合金との接合を可能とするが、Niは硬いため上述したような熱膨張差による熱応力を緩和することができず、クラックなどが生じてしまう可能性がある。
【0011】
また、特許文献2に示す技術は、接合構造に金属箔層を設けることで、この金属箔層が変形し、チップと基板との熱膨張差による熱応力を緩和することが可能であるが、焼結接合されたナノNiとチップと間の熱膨張差を緩和することができず、十分な熱応力の緩和をおこなうことができない。また、金属箔層を設けることで多層構造を形成するための形成工程が増え、製造効率が悪くなってしまう。
【0012】
本発明は、比較的硬度が低く粒径がマイクロサイズの一の金属粒子を半導体素子と被接合体との間に介在させ、面心立方の結晶構造を持つナノサイズの他の金属粒子で固着接合することで、半導体素子と被接合体とを強固に接合すると共に、熱膨張差による熱応力を緩和することができる半導体素子接合構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る半導体素子接合構造は、第1の金属の金属粒子を第2の金属で固着接合した半導体素子接合構造であって、前記第1の金属は、前記第2の金属よりも硬度が低く、融点が当該第2の金属と同等以下であり、且つ、粒径がマイクロサイズであり、前記第1の金属の金属粒子を半導体素子と当該半導体素子に接合する被接合体との間に複数介在させ、前記第1の金属の金属粒子を前記第2の金属で固着接合するものである。
【0014】
このように、本発明に係る半導体素子接合構造においては、第1の金属の金属粒子を第2の金属で固着接合した半導体素子接合構造であって、前記第1の金属は、前記第2の金属よりも硬度が低く、融点が当該第2の金属と同等以下であり、且つ、粒径がマイクロサイズであり、前記第1の金属の金属粒子を半導体素子と当該半導体素子に接合する被接合体との間に複数介在させ、前記第1の金属の金属粒子を前記第2の金属で固着接合するため、第2の金属により半導体素子と被接合体とを強固に且つ高品質に接合することができると共に、マイクロサイズの第1の金属の金属粒子の変形により半導体素子と被接合体との熱膨張差による熱応力を吸収し、クラックなどの発生を防止することができるという効果を奏する。
【0015】
また、接合構造中にマイクロサイズの第1の金属の金属粒子が存在することで、第1の金属の金属粒子間に焼結中に発生するガスの排出パスを生じさせることができ、ガスボイドが内包されることを防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の実施形態に係る半導体素子接合構造を示す図である。
【
図2】
図1の接合構造における接合層の構成を示すイメージ図である。
【
図3】第1の実施形態に係る半導体素子接合構造を焼結結合で形成する場合の形成方法を示す模式図である。
【
図4】実施例において実験用に作成したサンプル構造を示す図である。
【
図5】実施例において光学顕微鏡で観察した接合構造の全体断面図である。
【
図6】実施例においてナノサイズのNi粒子にマイクロサイズのAl粒子を混合した場合の接合材料ペーストを利用したときの接合断面のSEM像である。
【
図7】実施例において接合部分の表面を観察した結果を示す図である。
【
図8】実施例においてチップサイズ別のシェア強度の絶対値の比較結果を示す図である。
【
図9】実施例において縦軸を接合強度、横軸をせん断応力方向におけるツールの変位量とした応力-ひずみ曲線のグラフを示す図である。
【
図10】実施例において有限要素法による熱応力解析をおこなった結果を示す図である。
【
図11】従来においてナノサイズのNi粒子による低温焼結接合した場合の接合構造の全体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0018】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る半導体素子接合構造について、
図1ないし
図3を用いて説明する。本実施形態に係る半導体素子接合構造は、硬度、融点が比較的低く、粒径がマイクロサイズの第1の金属粒子を面心立方の結晶構造を持つ第2の金属で接着固着したものである。比較的硬度、融点が低い第1の金属として、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)があり、粒径をマイクロサイズとするこれらの第1の金属の金属粒子を半導体素子と当該半導体素子に接合する被接合体との間に複数介在させ、第1の金属の金属粒子を面心立方の結晶構造を持つ、比較的硬度、融点が高い第2の金属で固着接合した構造である。
【0019】
上記金属の内、例えばAlは硬度が低く応力緩和の効果が高い。また、他の金属との間の接合界面のような大気等の酸素が存在する環境下でも、高温安定性にすぐれている。そのため、本実施形態において、第1の金属として主にAlを用いた場合について説明する。さらに、例えばNiは硬度及び融点が比較的高いことから、本実施形態においては、第2の金属として主にNiを用いた場合について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る半導体素子接合構造を示す図、
図2は、
図1の接合構造における接合層の構成を示すイメージ図である。本実施形態に係る半導体素子接合構造1は、例えば表面をNiでコーティングしたCuリードフレームなどの基板2と、当該基板2と対向する接合面をAl電極3aとする例えばSiCの半導体チップ3との間に接合層4を介することで、基板2と半導体チップ3とを接合する構造である。
【0021】
接合層4は、粒径がマイクロサイズ(以下、マイクロサイズの範囲を0.5μmより大きく、1mm未満とし、好ましくは500μm以下とする)の第1の金属であるAlの金属粒子5を第2の金属であるNiで固着接合して形成されている。特許文献1において示されるように、NiはAlやAl合金との接合を可能とするが、硬度が高いため、熱膨張差による熱応力を緩和することができず、上述したようにクラック発生の原因となってしまう。そのため、
図2に示すように、Niよりも硬度が低く、粒径がマイクロサイズの金属粒子5を混合して介在させることで、金属粒子5が熱応力を吸収しつつ、Al電極3aとの接合を強固に行うことが可能となる。また、基板2側の接合面は、NiでコーティングしたCuリードフレームの場合、Niとの接合になるため、Ni同士で強固に接合することが可能となる。なお、基板2の最表面はNi以外に、金(Au)、Ag、Al等でもよい。
【0022】
また、接合層4中にマイクロサイズの金属粒子5が存在することで、金属粒子5間に焼結中に発生するガスの排出パスができ、ガスボイドが接合層4に内包されることを防ぐことができる。ここで、マイクロサイズの金属粒子5が全て同一径である場合には、最密に充填された場合でも容積率は74%程度となる。したがって、金属粒子5が占める容積以外の金属粒子5間の領域(74%の残りの26%領域)でNi粒子とガスの流出パスが形成されることになり、流出パスが分散されてボイドを一か所に凝集して粗大化することを防止することができる。金属粒子5にサイズ分布がある場合には、最大の容積率は74%以上になるが、それでも十分に一定のガス流出パスを確保することができる。すなわち、金属粒子5が最密に充填されていない場合であっても、応力緩和効果を得られると共に、ガス流出パスを確保し、ボイド成長抑制効果にも寄与することが可能となる。
【0023】
なお、接合層3に介在させるマイクロサイズの金属粒子5は、Niよりも硬度が低いものであればよく、例えば、上述したように、Al、Ag、Zn、Cu等を用いることができるが、特にAlを用いた場合は、優れた応力緩和の効果を得ることができる。また、Ni粒子(後述するように、ここではナノサイズのNi粒子を用いる)の焼結温度、及び半導体チップ3の発熱による耐熱性を考慮した場合には、融点が少なくとも300℃以上、好ましくは350℃以上の金属粒子5を用いることが望ましい。
【0024】
接合層4の形成方法については、例えば、粉末状のマイクロサイズの第1の金属の金属粒子5と、粒径がナノサイズ(以下、ナノサイズの範囲を5nm以上、500nm以下とする)であって、金属粒子5の粒径の1/10以下の粒径のNiを含む粉末状のNi粒子とを混合した混合体をペースト状にし、当該ペースト状の接合剤を基板2に塗布し、その上に半導体チップ3を載せて焼結接合するようにしてもよい。または、基板2と半導体チップ3との間に金属粒子5を介在させた状態でめっき液を流通し、めっきによりNiを析出させて基板2と半導体チップ3との間を金属粒子5で固着接合するようにしてもよい。例えば、無電解Niの析出により、Al粒子との良好な接合性が確保できる。いずれの場合にも、例えばAl粒子の表面にNiなどの表層を事前に形成しておくことができる。
【0025】
以下、焼結接合による接合層4の形成方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る半導体素子接合構造を焼結結合で形成する場合の形成方法を示す模式図である。まず、液相還元法により粒径がナノサイズのNi粒子と粒径がマイクロサイズの金属粒子5(ここでは、Al粒子を用いるものとし、以下金属粒子5をAl粒子とする)とを用意する(
図3(A)及び(B)を参照)。これを溶媒及びバインダーと混合してペースト状の接合材料を作成する(
図3(C)を参照)。
【0026】
基板2上にペースト状の接合材料を塗布し、その上に半導体チップ3(ここでは、SiCのパワー半導体を用いるものとし、以下SiCチップとする)を載せる(
図3(D)を参照(
図3(D)において基板2及びSiCチップは図示しない))。接合条件として、例えば、昇温速度5(3~50)℃/min、保持温度350(300~400)℃、保持時間60(10~120)分、加圧1(0.5~5)MPaで焼結接合する。すなわち、上記のような温度で加熱することで、溶媒が蒸発し(
図3(E)を参照)、ナノサイズのNi粒子が焼結結合することで(
図3(F)を参照)、接合層4を含む半導体素子接合構造1が形成される。
【0027】
粒径がナノサイズのNi粒子は、金属としてのNiの融点(1455℃)よりも極めて低い温度(例えば、300℃程度)で粒子間を結合させることが可能である。また、結合した後の焼結体としての金属は、本来のNiの融点を維持することができるため、SiCチップの発熱に対して、十分な耐熱性を有することが可能となる。
【0028】
このとき、Ni粒子の粒径はナノサイズであればよいが、500nm以下であることが好ましく、100nm以下とすることで、低温での焼結性が増すためさらに好ましい。一方、粒径が小さすぎると表面の酸化物、有機成分の割合が大きくなり、接合性が低下する。したがって、5nm以上であることが好ましい。なお、これらの粒径のNi粒子は、全ての粒子が上記サイズを満たす必要はなく、少なくとも上記サイズのNi粒子を含む状態であればよく、好ましくは平均粒径が上記サイズを満たすようにすればよい。
【0029】
また、上記接合材料において、溶媒及びバインダーを除いたAl粒子とNi粒子との混合比率は、Al粒子の容積率が20%以上、90%以下とし、好ましくは50%以上とする。そうすることで、Al粒子で格子形成がなされ、Ni粒子の焼結時に生じるボイドの粗大化を抑制することが可能となる。20%以下では、応力緩和の効果が十分ではなく、90%以上では、固着接合する金属部分が少なく、接合力が低下する。
【0030】
なお、
図1の半導体素子接合構造1において、接合層4の厚みは3~800μm程度とすることが望ましい。3μm以下では、応力緩和の効果が十分に得られず、また800μm以上では、熱伝導率の低下が大きくなるため、放熱特性として好ましくない。より好ましくは、10μm~150μm程度である。
【0031】
また、本実施形態においては、第2の金属としてNiを使用して説明したが、同様の原理を用いてナノサイズのCuを用いることもできる。この場合、ナノサイズのCu粒子焼結体よりも硬度の低い第1の金属の金属粒子5として、例えばAl、Ag、Zn粒子を用いることができる。これらの第1の金属の金属粒子5とナノサイズの第2の金属としてのCu粒子とを混合することによって、応力緩和、及びガス流出パスの確保を行うことができる。Ni,Cu以外のナノサイズの粒子は、Au、Agなど面心立方の結晶構造をもつものが好ましく、焼結後の金属の特に低温での変形能の低下の程度が少ないので、低温側でのクラックの発生、進展を抑制するために適している。
AlやAgのマイクロサイズの第1の金属の金属粒子5は、ナノサイズの場合と比較して酸化の程度が抑制され、またAgはマイクロサイズの場合に、マイグレーションの懸念も軽減される。
【実施例】
【0032】
本発明に係る半導体素子接合構造について、以下の実験を行った。
図4は、実験用に作成したサンプル構造を示す図である。なお、本実施例においては、半導体素子接合構造をマイクロサイズのAl粒子とナノサイズのNi粒子とを混合した接合剤を焼結することで
図1における接合層4を形成した。
【0033】
接合には液相還元法により作製した粒径サイズ100nm以下のナノサイズのNi粒子と平均粒径10μmのマイクロサイズのAl粒子、溶媒及びバインダーから成るペーストを接合材料として用いた。ペースト中のNi粒子とAl粒子との割合は重量割合で1:1(体積割合で0.24:0.76)とした。なお、比較材料としてナノサイズのNi粒子のみのペーストも接合材料として用いた。
【0034】
接合評価には表面にNiめっきが施されたTO-247リードフレームと、サイズがそれぞれ2.7mm×2.7mm,5.0mm×5.0mm,7.0mm×7.0mmのSiチップとを用いた。チップの接合表面には厚み1μmのAl電極が蒸着法により形成されている。厚み0.1mmのステンレス板で作製したメタルマスクを用いてTO-247リードフレーム側にペーストを塗布し、チップを塗布部上にのせて、大気中にて昇温速度5℃/min、保持温度350℃、保持時間60分、加圧3MPaの接合条件で接合を行った。Al粒子の体積率は約76Vol%であることから、接合層中で充填率が74%の最密構造に近い構造を形成していると考えられる。
【0035】
接合強度の測定については、せん断強度による評価を行った。測定にはボンドテスター(ノードソン・アドバンテージ・テクノロジー製 万能型ボンドテスター4000Plus)を用い、常温で測定を行った。ツールの試験サンプルからの高さは100μm、ツールの移動速度は100μm/secに設定した。接合強度試験後のサンプルは、走査型電子顕微鏡(SEM, Hitachi High-Technologies:SU3500)を用いて破断面の観察を行った。
【0036】
以下、実験結果を説明する。接合後の断面及び表面を観察した。
図5は、光学顕微鏡で観察した接合構造の全体断面図を示しており、
図5(A)はナノサイズのNi粒子にマイクロサイズのAl粒子を混合した場合の接合材料ペーストを利用したときの断面図、
図5(B)は
図5(A)における中心付近の断面画像、
図5(C)は
図5(A)における右端付近の断面画像である。また、
図6は、ナノサイズのNi粒子にマイクロサイズのAl粒子を混合した場合の接合材料ペーストを利用したときの接合断面のSEM像である。
【0037】
図11に示したマイクロサイズのAl粒子を含まない場合の接合構造と比較した場合に、
図11の断面画においては大きなクラックやガスボイドがみられていたが、
図5のナノサイズのNi粒子とマイクロサイズのAl粒子とを混合したペーストを用いた接合の断面像からは大きなクラックやガスボイドはみられなかった。また、
図6のSEM断面像から焼結したNi粒子層中にAl粒子がおおよそ均一に分散して存在している様子が確認できた。これは、上述したように、Al粒子が体心立方格子か六方最密構造の体系を形成することで接合過程における溶剤が気化した際の通り道を確保し、大きなクラックやガスボイドの発生を抑制できたと考えられる。
【0038】
また、
図7は、接合部分の表面を観察した結果を示す図である。
図7(A)はマイクロサイズのAl粒子を含まない場合の加熱後における接合部分の表面を示す図、
図7(B)はナノサイズのNi粒子にマイクロサイズのAl粒子を混合した場合の加熱後における接合部分の表面を示す図である。
図7(A)において、Al粒子を含まない場合の接合層では大きなクラックやガスボイドが全体的に存在していることが確認できた。
図7(B)においては、Al粒子を含む場合の接合層では大きなクラックやガスボイドがないきれいな層状であることが確認できた。すなわち、上述したように、接合過程における溶剤が気化した際の通り道が確保されることで、大きなクラックやガスボイドの発生を抑制できたことが確認された。
【0039】
次に、接合強度の測定結果について説明する。
図8は、チップサイズ別のシェア強度の比較グラフである。2.7mm角のチップの接合強度を1とし、チップサイズ別にナノサイズのNi粒子とマイクロサイズのAl粒子とを混合した場合と、ナノサイズのNi粒子のみの場合とでせん断応力を比較した。2.7mm角の小さいサイズのものでは、熱応力による劣化が顕著でないため、マイクロサイズのAl粒子の有無の差がほとんどないが、マイクロサイズのAl粒子を含まない場合の接合材料の混合ペーストでは、チップサイズが大きくなるほど接合強度が低下している。一方、ナノサイズのNi粒子/マイクロサイズのAl粒子の接合材料の混合ペーストでは、チップサイズが大きくなると共に接合強度も増加している。
【0040】
チップサイズが増大するに連れてチップの熱膨張率は増加する。すなわち、マイクロサイズのAl粒子を含んでいない場合は、熱応力を解放することができないため、チップのサイズが大きくなるに連れて接合強度が低下したと考えられる。一方、Ni粒子/Al粒子の混合ペーストの場合は、接合層の中のAl粒子が熱応力の解放部として作用することで高い接合強度が観察されたと考えられる。
【0041】
図9は、縦軸を接合強度、横軸をせん断応力方向におけるツールの変位量とした応力-ひずみ曲線のグラフである。
図9(A)は、マイクロサイズのAl粒子を含んでいる場合の接合材料を用いた結果、
図9(B)は、マイクロサイズのAl粒子を含んでいない場合の接合材料を用いた結果を示している。なお、
図9では、5.0mm×5.0mmのチップの接合強度結果を元にした。
【0042】
図9に示されるように、Al粒子が混合されている接合の変位量が、Al粒子が混合されていない場合の接合に比べて大きく且つ緩やかな曲線を描いている。これは、Al粒子にせん断応力が加わった際にAl粒子が延びて塑性変形しているとためと考えられる。
【0043】
次に、マイクロサイズのAl粒子を混合した場合の効果について、有限要素法による熱応力解析をおこなった。検討したモデルは、SiCチップとCu基板とが接合されており、チップサイズは7.0mm×7.0mm、接合表面はAgとした。基板サイズは10.0m×10.0mmとした。また、ナノサイズのNi粒子とマイクロサイズのAl粒子との混合による接合層中のAl粒子の体積率は74%として解析を行った。
【0044】
温度サイクルの上限は250℃、下限は-45℃とし、サイクル数は6回までの解析を行った。熱サイクル開始は200℃で熱応力が解放された状態から、低温側、高温側の順に温度を変化させた。最大発生応力は、接合部のチップ端面となるが、マイクロサイズのAl粒子を含まない場合の接合における応力は、いずれのサイクル数でもNi粒子/Al粒子を含む場合に比較して、最大応力は下がっている。
図10に示すように、マイクロサイズのAl粒子を含まない場合の接合の応力値と比べて、Ni粒子/Al粒子を混合した場合の接合の応力値が
2倍になっていることがわかる。
【0045】
さらに、上記と同様の条件の下、複数の金属混合の組み合わせで以下の表1に示す評価を行った。ナノサイズの金属粒子の焼結(結合体)は、粒子が結合してバルク金属と同等の硬度となることで結合体と考える。ただし、実際のナノサイズの金属粒子の焼結では、酸素、炭素などが混入する場合が多く、硬度はより高くなる場合があるが、その場合は本発明の効果がより顕著となる。なお熱サイクルの最高温度は200℃とした。表1において、接合用のナノサイズの金属粒子100%に対して、マイクロサイズの金属粒子を混合した場合に20%以上最大応力が低減されたものを丸で示した。
【0046】
【0047】
表1より、ナノサイズのNi/マイクロサイズのAlの混合以外にも、Ni/Ag、Cu/Ag、Cu/Al(ナノサイズの金属/マイクロサイズの金属)の金属粒子の組み合わせでも、本発明の効果を得ることができることが明らかとなった。
【0048】
次に、めっきによりマイクロサイズのAlをNiで固着接合する実験を行った。平均粒径が150μmのAl粒子の表面に0.3μmのNiを無電解Niめっきにより被覆した粒子を準備し、電極表面がNiである5mm角SiCチップとNiメッキされたCu基板との間に、500μmの厚みになるように前記Al粒子を挟持して固定した。このとき、SiCチップとCu基板との両側に永久磁石を配置し、Niの磁性を利用して固定した。Al粒子の空隙にNiめっき液を流通させ、粒子間を電気めっきにより固着接合した。断面から観察し、Alの断面占有率は約70%、めっきによる固着部分は12%であった。
【0049】
すなわち、めっき金属によりマイクロサイズの金属粒子を強固に固着接合することが可能となり、また、マイクロサイズの金属粒子の降伏(塑性変形)により熱応力を吸収することが可能となる。
【0050】
以上の実験結果から、ナノサイズのNi粒子にマイクロサイズのAl粒子を混合することで、マイクロサイズのAl粒子を含まない接合構造において発生していた大きなクラックやガスボイドの発生を抑制できることが明確となった。また、Ni/Al粒子の混合ペーストを用いた接合は、Al粒子を含まない場合の接合に比べて接合強度の低下がみられなかったことから、Ni粒子の焼結後においてAl粒子と良好な接合ができていることが明確となった。さらに、上記実験結果からNi粒子層に分散して存在するAl粒子の塑性変形の傾向がみられ、シェアテスト後の破断面観察からもAl粒子が延びて塑性変形している様子が確認できた。したがって、本発明に係る半導体素子接合構造は、Niにより半導体素子と被接合体とを強固に且つ高品質に接合することができると共に、金属粒子の降伏(塑性変形)により半導体素子と被接合体との熱膨張差による熱応力を吸収し、クラックなどの発生を防止することが可能であることが明確となった。
【0051】
また、ナノサイズのNi/マイクロサイズのAlの混合以外にも、面心立方の結晶構造を持つナノサイズの金属粒子に、当該金属粒子よりも硬度が低く、融点が同等以下のマイクロサイズの金属粒子を混合して接合構造を形成することで、本発明の効果を有する半導体素子接合構造を実現することが可能であることが明確となった。
【符号の説明】
【0052】
1 半導体素子接合構造
2 基板
3 半導体チップ
3a Al電極
4 接合層
5 金属粒子