(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】送信装置、受信装置、中継装置および送受信システム
(51)【国際特許分類】
H04L 7/033 20060101AFI20221222BHJP
【FI】
H04L7/033
(21)【出願番号】P 2018207503
(22)【出願日】2018-11-02
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】399011195
【氏名又は名称】ザインエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】久保 俊一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 賢
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴之
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-142872(JP,A)
【文献】特開2004-056229(JP,A)
【文献】特開2014-160966(JP,A)
【文献】特開2006-217372(JP,A)
【文献】特開2012-124573(JP,A)
【文献】特開2012-044446(JP,A)
【文献】特開平07-115440(JP,A)
【文献】特開平10-145378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 7/033
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数帯域が制限された高速信号を生成する高速信号生成部と、
前記高速信号の周波数帯域より低い周波数の低速信号を生成する低速信号生成部と、
前記高速信号と前記低速信号とを重畳して当該重畳後の信号を送出する信号重畳部と、
を備え
、
前記信号重畳部は、
前記低速信号により振幅変調された駆動電圧を出力する電源回路と、
前記高速信号を入力し、前記駆動電圧が与えられることで、前記高速信号と前記低速信号とを重畳して当該重畳後の信号を送出するバッファと、
を含む、
送信装置。
【請求項2】
前記高速信号のデータレートと前記低速信号の周波数との比が整数比である、
請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
前記低速信号生成部は、正弦波または三角波の時間波形を有する低速信号を生成する、
請求項1または2に記載の送信装置。
【請求項4】
前記高速信号生成部は、符号化により周波数帯域が制限された高速信号を生成する、
請求項1~3の何れか1項に記載の送信装置。
【請求項5】
前記高速信号生成部は、DCバランスが保証されたmBnB符号化により周波数帯域が制限された高速信号を生成する、
請求項4に記載の送信装置。
【請求項6】
前記低速信号生成部は、スペクトラム拡散した低速信号を生成する、
請求項1~5の何れか1項に記載の送信装置。
【請求項7】
前記高速信号生成部は、スペクトラム拡散した高速信号を生成する、
請求項6に記載の送信装置。
【請求項8】
前記高速信号生成部は、パラレルデータをシリアルデータに変換して該シリアルデータを前記高速信号として出力するシリアライザを含み、
前記低速信号生成部は、前記シリアライザから前記シリアルデータの各ビットを出力するタイミングを指示するクロックを生成して前記シリアライザへ与えるPLL回路に入力されるクロック、または、前記PLL回路から出力されるクロックを、前記低速信号として出力する、
請求項1~7の何れか1項に記載の送信装置。
【請求項9】
前記低速信号と前記高速信号との位相関係は独立である、
請求項1~
8の何れか1項に記載の送信装置。
【請求項10】
周波数帯域が制限された高速信号と前記高速信号の周波数帯域より低い周波数の低速信号とが重畳された信号を受信して、その受信した信号から前記高速信号と前記低速信号とを互いに分離して出力する信号分離部と、
前記信号分離部から出力された前記低速信号に基づいて周波数トラッキングを行い、前記信号分離部から出力された前記高速信号に基づいて位相トラッキングを行って、クロックおよびデータを復元して出力する復元部と、
を備え
、
前記高速信号のデータレートDRと、前記高速信号のデータ通信方式に応じた係数Kと、前記低速信号の周波数Fと、前記復元部における周波数トラッキング終了時の前記低速信号の周波数に対する前記クロックの周波数の比(M/N)との間に、下記(1)式で表される関係を有する、
受信装置。
【数1】
【請求項11】
周波数帯域が制限された高速信号と前記高速信号の周波数帯域より低い周波数の低速信号とが重畳された信号を受信して、その受信した信号から前記高速信号と前記低速信号とを互いに分離して出力する信号分離部と、
前記信号分離部から出力された前記低速信号に基づいて周波数トラッキングを行い、前記信号分離部から出力された前記高速信号に基づいて位相トラッキングを行って、クロックおよびデータを復元して出力する復元部と、
を備え
、
前記信号分離部は、受信した信号のうち前記高速信号を選択的に出力する第1フィルタと、受信した信号のうち前記低速信号を選択的に出力する第2フィルタと、を含み、
前記低速信号の周波数Fと、前記高速信号のデータレートDRと、前記高速信号のデータ符号化方式に応じた係数Lと、前記低速信号の振幅に対する前記高速信号の振幅の比Vrと、前記高速信号の周波数帯域への前記低速信号の干渉許容量Gdとの間に、下記(2)式で表される関係を有する、
受信装置。
【数2】
【請求項12】
周波数帯域が制限された高速信号と前記高速信号の周波数帯域より低い周波数の低速信号とが重畳された信号を受信して、その受信した信号から前記高速信号と前記低速信号とを互いに分離して出力する信号分離部と、
前記信号分離部から出力された前記低速信号に基づいて周波数トラッキングを行い、前記信号分離部から出力された前記高速信号に基づいて位相トラッキングを行って、クロックおよびデータを復元して出力する復元部と、
前記低速信号が正常であるか否かを検出するエラー検出部と、
を備え
、
前記復元部は、前記エラー検出部により前記低速信号が異常であることが検出されたときに復元動作を停止し、その後に前記エラー検出部により前記低速信号が正常であることが検出されたときに復元動作を再開する、
受信装置。
【請求項13】
周波数帯域が制限された高速信号と前記高速信号の周波数帯域より低い周波数の低速信号とが重畳された信号を受信して、その受信した信号から前記高速信号と前記低速信号とを互いに分離して出力する信号分離部と、
前記信号分離部から出力された前記低速信号に基づいて周波数トラッキングを行い、前記信号分離部から出力された前記高速信号に基づいて位相トラッキングを行って、クロックおよびデータを復元して出力する復元部と、
前記高速信号が正常であるか否かを検出する第1エラー検出部と、
前記低速信号が正常であるか否かを検出する第2エラー検出部と、
を備え
、
前記復元部は、前記第1エラー検出部により前記高速信号が異常であることが検出されたときに復元動作を停止し、その後に前記第2エラー検出部により前記低速信号が正常であることが検出されたときに復元動作を再開する、
受信装置。
【請求項14】
前記復元部は、
前記信号分離部から出力された高速信号を入力するとともに、発振信号を入力して、これら入力した2つの信号の間の位相差を表す第1位相差信号を出力する第1位相比較器と、
前記信号分離部から出力された低速信号またはこの低速信号を分周した信号を入力するとともに、前記発振信号または前記発振信号を分周した信号を入力して、これら入力した2つの信号の間の位相差を表す第2位相差信号を出力する第2位相比較器と、
前記第2位相比較器に入力される2つの信号の間で周波数ロックしているか否かを検出するロック検出器と、
前記ロック検出器により周波数ロックしていないことが検出されている期間に前記第2位相差信号を入力し、前記ロック検出器により周波数ロックしていることが検出されている期間に前記第1位相差信号を入力して、前記第1位相差信号または前記第2位相差信号が表す位相差に応じた量の充放電電流を出力するチャージポンプと、
前記チャージポンプから出力された充放電電流を容量部に入力して、その容量部の蓄積電荷量に応じた電圧値を出力するループフィルタと、
前記ループフィルタから出力された電圧値を入力して、その電圧値に応じた周波数を有する前記発振信号を出力する電圧制御発振器と、
を含み、
前記ロック検出器により周波数ロックしていることが検出されている期間に、前記第1位相比較器から復元データを出力し、前記電圧制御発振器から出力される前記発振信号を復元クロックとして出力する、
請求項
10~13の何れか1項に記載の受信装置。
【請求項15】
前記低速信号の有無を検出する信号検出部を更に備える、
請求項
10~14の何れか1項に記載の受信装置。
【請求項16】
前記低速信号と前記高速信号との位相関係は独立である、
請求項
10~15の何れか1項に記載の受信装置。
【請求項17】
周波数帯域が制限された高速信号と前記高速信号の周波数帯域より低い周波数の低速信号とが重畳された信号を受信して、その受信した信号から前記高速信号と前記低速信号とを互いに分離して出力する信号分離部と、
前記信号分離部から出力された前記低速信号に基づいて周波数トラッキングを行い、前記信号分離部から出力された前記高速信号に基づいて位相トラッキングを行って、クロックおよびデータを復元して出力する復元部と、
前記復元部から出力されたデータの高速信号と、前記復元部から出力されたクロックに基づいて生成された低速信号または前記信号分離部から出力された前記低速信号と、を重畳して、当該重畳後の信号を送出する信号重畳部と、
を備え
、
前記低速信号は三角波の時間波形を有する、
中継装置。
【請求項18】
請求項1~
9の何れか1項に記載の送信装置と、
前記送信装置から送出されて通信リンクを経て到達した信号を受信する請求項
10~16の何れか1項に記載の受信装置と、
を備える送受信システム。
【請求項19】
請求項1~
9の何れか1項に記載の送信装置と、
前記送信装置から送出されて通信リンクを経て到達した信号を受信し、その受信した信号を中継して送出する請求項
17に記載の1または複数の中継装置と、
前記中継装置から送出されて通信リンクを経て到達した信号を受信する請求項
10~16の何れか1項に記載の受信装置と、
を備える送受信システム。
【請求項20】
通信リンクを介して接続された前記送信装置および前記受信装置が複数組あり、
複数の前記送信装置のうちの何れか1の送信装置が前記高速信号と前記低速信号とを重畳して当該重畳後の信号を送出し、
他の送信装置が
重畳後の信号の送出に替えて前記高速信号を送出し、
複数の前記受信装置のうちの前記重畳後の信号を受信した
何れか1の受信装置が、その受信した信号から前記高速信号と前記低速信号とを互いに分離し、その低速信号を他の受信装置へ与え
、
他の受信装置が、重畳後の信号の受信に替えて、同じ組の前記送信装置から送出された前記高速信号を受信し、前記1の受信装置から与えられる前記低速信号を受信する、
請求項
18に記載の送受信システム。
【請求項21】
複数の前記受信装置
それぞれは、前記低速信号の有無を検出する信号検出部を用いて、前記重畳後の信号を受信したか否かを検知
し、
複数の前記受信装置のうち前記重畳後の信号を受信したことを前記信号検出部により検知した受信装置は、その受信した信号から前記高速信号と前記低速信号とを互いに分離し、その低速信号を他の受信装置へ与える、
請求項
20に記載の送受信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信装置、受信装置、中継装置および送受信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
送受信システムにおけるクロックデータ復元(CDR: Clock Data Recovery)技術は、クロックが埋め込まれたデータを送信装置から送出して、その信号を受信した受信装置によりクロックおよびデータを復元する技術である。受信装置は、受信信号からクロックおよびデータを復元するために一般にBang-Bang型の位相比較器(BBPD: Bang-Bang Phase Detector)を備えている。受信装置は、受信信号と復元クロックとの間の位相のずれをBBPDにより検出し、その位相ずれが小さくなるようにフィードバック制御を行って、受信信号からクロックおよびデータを復元する。
【0003】
BBPDは、受信信号と復元クロックとの間の位相ずれを検出することができるが、受信信号と復元データとの間の周波数ずれを検出することができない。したがって、望ましくない周波数でロックする現象(以下「周波数誤同期」という。)が発生する場合がある。この周波数誤同期の発生を回避するため、BBPDに加えて位相周波数比較器(PFD: Phase Frequency Detector)を受信装置に設けて、周波数トラッキング・ループ(FTL: Frequency Tracking Loop)および位相トラッキング・ループ(PTL: Phase Tracking Loop)を行う技術が知られている。
【0004】
この周波数誤同期の発生を回避するための技術では、第1段階において、参照クロックを送信装置から受信装置へ送り、受信装置ではPFDを用いて参照クロックに基づいて周波数トラッキングを行うことで周波数をロックする。周波数ロック後の第2段階において、クロックが埋め込まれたデータを送信装置から受信装置へ送り、受信装置では、BBPDを用いて位相トラッキングを行うことで位相をロックして、受信信号からクロックおよびデータを復元して出力する。
【0005】
この技術において、FTLの際に参照クロックを送信装置から受信装置へ送るための参照クロック用通信リンクと、PTLの際にクロックが埋め込まれたデータを送信装置から受信装置へ送るためのデータ用通信リンクとは、別個に設けられてもよい。この場合、受信装置は、第1段階において参照クロックに基づくFTLにより周波数ロックが完了したことを検知すると、第2段階においてPTLにより位相ロックして、クロックが埋め込まれたデータからクロックおよびデータを復元して出力する。参照クロック用通信リンクおよびデータ用通信リンクは、電気信号を伝送する有線であってもよいし、光信号等を伝送する無線であってもよい。参照クロック用通信リンクおよびデータ用通信リンクが電気信号を伝送する場合、その信号線として、高速な(ビットレートが例えば数Gbpsの)電気信号を伝送するために差動信号線が用いられる。この技術では、参照クロック用通信リンクとデータ用通信リンクとが別個に設けられることから、送受信のための部品数が多くなる。
【0006】
また、共通の通信リンクを用いて、送信装置から受信装置へ、参照クロックを送るとともに、クロックが埋め込まれたデータを送ることもできる。この場合、受信装置は、第1段階において参照クロックに基づくFTLにより周波数ロックが完了したことを検知すると、その旨を表すロック信号を送信装置へ送る。このロック信号を受けた送信装置は、それまでの参照クロックに替えて、クロックが埋め込まれたデータを受信装置へ送る。そして、受信装置は、第2段階においてPTLにより位相ロックして、受信したデータからクロックおよびデータを復元して出力する。この技術では、送信装置から受信装置へ参照クロックに続いてデータを送るため共通の通信リンクに加えて、受信装置から送信装置へロック信号を送るための通信リンクが必要となるので、やはり、送受信のための部品数が多くなる。
【0007】
送信装置および受信装置を備える送受信システムは、例えばテレビ映像伝送インターフェースとして用いられる。この例に限らず、クロックが埋め込まれた多数のデータが並列的に送信される場合があり、そのような場合に、通信リンクの増加はシステムの大型化に繋がる。したがって、送信装置と受信装置との間の通信リンクの本数は削減されることが望ましい。特許文献1,2に、送信装置と受信装置との間の通信リンクの本数の削減が可能な発明が開示されている。
【0008】
特許文献1に開示された発明では、送信装置と受信装置との間の通信リンクとして差動信号線を用いる。送信装置は、第1段階において、差動信号線により、参照クロックを差動信号として受信装置へ送る。受信装置は、第1段階において参照クロックに基づくFTLにより周波数ロックが完了したことを検知すると、差動信号線のコモンレベルを変化させることで、ロック信号を送信装置へ送る。差動信号線のコモンレベルの変化によりロック信号を受けた送信装置は、第2段階において、差動信号線により、クロックが埋め込まれたデータを差動信号として受信装置へ送る。この発明では、送信装置から受信装置へ参照クロックに続いてデータを送るため通信リンクと、受信装置から送信装置へロック信号を送るための通信リンクとは、共通化されている。
【0009】
特許文献2に開示された発明では、送信装置は、送信すべきシリアルデータに含まれる連続する所定数のデータにより構成されるワードの区切りを示すワードクロックを当該ワードと多重し、当該ワードクロックに応じた振幅調整が施された論理信号を生成して送出する。受信装置は、受信した論理信号からシリアルデータおよびワードクロックを抽出する。この発明では、シリアルデータのワード区切りを示すワードクロックの位相とシリアルデータのワードの位相とを互いに一致させた上で、ワードクロックとシリアルデータとを重ね合わせて論理信号とし、この論理信号を送信装置から受信装置へ送る。この論理信号は、4とおりの論理レベルからなる信号である。この発明では、ワードクロックとシリアルデータとの重ね合わせによる論理信号を送信装置から受信装置へ送るので、受信装置から送信装置へロック信号を送る必要はなく、ロック信号を送るための通信リンクは不要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平11-98130号公報
【文献】特開2005-142872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示された発明は、共通の通信リンクを用いて送信装置と受信装置との間で双方向の信号伝送を行うものであるから、一方向のみの信号伝送が可能な通信リンク(例えば光および無線による通信リンク)を用いる場合には適用できない。また、特許文献1に開示に開示された発明は、受信装置において周波数ロックが外れたときに、周波数ロックが外れた旨を受信装置から送信装置へ通知、参照クロックを送信装置から受信装置へ送信、受信装置において参照クロックに基づくFTLによる周波数トラッキング、受信装置において周波数ロックが完了した旨を送信装置へ通知、および、クロックが埋め込まれたデータを送信装置から受信装置へ送信、という一連の手続が必要となり、再び周波数および位相がロックするまで時間を要する。
【0012】
特許文献2に開示された発明では、ワードクロックとシリアルデータとの重ね合わせによる論理信号を送信装置から受信装置へ送るので、特許文献1に開示された発明が有する上記の問題点を解消することができる。
【0013】
しかし、特許文献2に開示された発明は、次のような問題点を有している。特許文献2に開示された発明では、送信装置において、ワードクロックの位相とシリアルデータのワードの位相とを互いに一致させる必要がある。もし、ワードクロックとシリアルデータのワードとの間に位相差がある場合、ワードクロックが示すシリアルデータのワード区切りが誤ったものとなることから、受信装置において、シリアルデータをパラレルデータに正しく変換することができない。伝送レートが高いほど、ワードクロックとシリアルデータのワードとの間の位相の一致の精度が高いことが要求される。したがって、高い位相一致精度を実現するために、回路の消費電力は多くなり、半導体基板上に回路を集積化したときのレイアウト面積は大きくなる。
【0014】
また、特許文献2に開示された発明では、送信装置において、ワードクロックおよびシリアルデータそれぞれのレベル遷移時間(Tr,Tf)を互いに一致させる必要がある。もし、ワードクロックおよびシリアルデータそれぞれのレベル遷移時間が互いに異なっていると、上記の位相差がある場合と同様の問題が生じる。低速のワードクロックのレベル遷移時間を高速のシリアルデータのレベル遷移時間に合わせる為に、ワードクロックを生成する為の回路は高速である必要がある。したがって、このことによっても、回路の消費電力は多くなり、半導体基板上に回路を集積化したときのレイアウト面積は大きくなる。
【0015】
さらに、特許文献2に開示された発明では、送信装置から受信装置へ送られる論理信号は4とおりの論理レベルからなる信号であることから、受信装置において、受信した論理信号からワードクロックおよびシリアルータを復元するために、3個のコンパレータが必要である。3個のコンパレータのうち第1コンパレータは、論理信号のレベルと第1閾値とを大小比較する。第2コンパレータは、論理信号のレベルと第2閾値とを大小比較する。第3コンパレータは、論理信号のレベルと第3閾値とを大小比較する。第1閾値,第2閾値および第3閾値は、互いに異なる値に設定される。送信装置と受信装置との間の通信リンクにおいて論理信号が減衰を受ける場合、その減衰の程度に応じて第1閾値,第2閾値および第3閾値を変更する必要がある。減衰が大きいと、第1閾値,第2閾値および第3閾値の設定が困難となり、受信した論理信号からワードクロックおよびシリアルータを復元することができない事態が生じる。したがって、特許文献2に開示された発明は、通信リンクにおける論理信号の減衰が大きい長距離伝送には適用困難である。
【0016】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、通信リンク本数、消費電力および回路レイアウト面積それぞれの増加を抑制することができ長距離伝送においても適用が可能な送信装置および受信装置、これら送信装置と受信装置との間に設けられる中継装置、ならびに、これら送信装置および受信装置を備える送受信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の送信装置は、周波数帯域が制限された高速信号を生成する高速信号生成部と、高速信号の周波数帯域より低い周波数の低速信号を生成する低速信号生成部と、高速信号と低速信号とを重畳して当該重畳後の信号を送出する信号重畳部と、を備える。
【0018】
本発明の送信装置において、高速信号のデータレートと低速信号の周波数との比が整数比であるのが好適である。低速信号生成部は、正弦波または三角波の時間波形を有する低速信号を生成するのが好適である。
【0019】
本発明の送信装置において、高速信号生成部は、符号化により周波数帯域が制限された高速信号を生成するのが好適である。高速信号生成部は、DCバランスが保証されたmBnB符号化により周波数帯域が制限された高速信号を生成するのが好適である。
【0020】
本発明の送信装置において、低速信号生成部は、スペクトラム拡散(SS)した低速信号を生成するのが好適である。高速信号生成部は、スペクトラム拡散(SS)した高速信号を生成するのが好適である。
【0021】
本発明の送信装置において、高速信号生成部は、パラレルデータをシリアルデータに変換して該シリアルデータを高速信号として出力するシリアライザを含み、低速信号生成部は、シリアライザからシリアルデータの各ビットを出力するタイミングを指示するクロックを生成してシリアライザへ与えるPLL回路に入力されるクロック、または、PLL回路から出力されるクロックを、低速信号として出力するのが好適である。
【0022】
本発明の送信装置において、信号重畳部は、抵抗器を共有する第1CML回路および第2CML回路を含み、第1CML回路に高速信号を入力し、第2CML回路に低速信号を入力して、高速信号と低速信号とを重畳して当該重畳後の信号を送出するのが好適である。
【0023】
本発明の送信装置において、信号重畳部は、低速信号により振幅変調された駆動電圧を出力する電源回路と、高速信号を入力し、駆動電圧が与えられることで、高速信号と低速信号とを重畳して当該重畳後の信号を送出するバッファと、を含むのが好適である。低速信号と高速信号との位相関係は独立であるのが好適である。
【0024】
本発明の受信装置は、(1) 周波数帯域が制限された高速信号と高速信号の周波数帯域より低い周波数の低速信号とが重畳された信号を受信して、その受信した信号から高速信号と低速信号とを互いに分離して出力する信号分離部と、(2) 信号分離部から出力された低速信号に基づいて周波数トラッキングを行い、信号分離部から出力された高速信号に基づいて位相トラッキングを行って、クロックおよびデータを復元して出力する復元部と、を備える。
【0025】
本発明の受信装置において、高速信号のデータレートDRと、高速信号のデータ通信方式に応じた係数Kと、低速信号の周波数Fと、復元部における周波数トラッキング終了時の低速信号の周波数に対するクロックの周波数の比(M/N)との間に、下記(1)式で表される関係を有するのが好適である。
【0026】
【0027】
本発明の受信装置において、信号分離部は、受信した信号のうち高速信号を選択的に出力する第1フィルタと、受信した信号のうち低速信号を選択的に出力する第2フィルタと、を含むのが好適である。低速信号の周波数Fと、高速信号のデータレートDRと、高速信号のデータ符号化方式に応じた係数Lと、低速信号の振幅に対する高速信号の振幅の比Vrと、高速信号の周波数帯域への低速信号の干渉許容量Gdとの間に、下記(2)式で表される関係を有するのが好適である。
【0028】
【0029】
本発明の受信装置において、復元部は、(1) 信号分離部から出力された高速信号を入力するとともに、発振信号を入力して、これら入力した2つの信号の間の位相差を表す第1位相差信号を出力する第1位相比較器と、(2) 信号分離部から出力された低速信号またはこの低速信号を分周した信号を入力するとともに、発振信号または発振信号を分周した信号を入力して、これら入力した2つの信号の間の位相差を表す第2位相差信号を出力する第2位相比較器と、(3) 第2位相比較器に入力される2つの信号の間で周波数ロックしているか否かを検出するロック検出器と、(4) ロック検出器により周波数ロックしていないことが検出されている期間に第2位相差信号を入力し、ロック検出器により周波数ロックしていることが検出されている期間に第1位相差信号を入力して、第1位相差信号または第2位相差信号が表す位相差に応じた量の充放電電流を出力するチャージポンプと、(5) チャージポンプから出力された充放電電流を容量部に入力して、その容量部の蓄積電荷量に応じた電圧値を出力するループフィルタと、(6) ループフィルタから出力された電圧値を入力して、その電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力する電圧制御発振器と、を含むのが好適である。ロック検出器により周波数ロックしていることが検出されている期間に、第1位相比較器から復元データを出力し、電圧制御発振器から出力される発振信号を復元クロックとして出力するのが好適である。
【0030】
本発明の受信装置は、低速信号の有無を検出する信号検出部を更に備えるのが好適である。
【0031】
本発明の受信装置は、低速信号が正常であるか否かを検出するエラー検出部を更に備え、復元部は、エラー検出部により低速信号が異常であることが検出されたときに復元動作を停止し、その後にエラー検出部により低速信号が正常であることが検出されたときに復元動作を再開するのが好適である。
【0032】
本発明の受信装置は、高速信号が正常であるか否かを検出する第1エラー検出部と、低速信号が正常であるか否かを検出する第2エラー検出部と、を更に備え、復元部は、第1エラー検出部により高速信号が異常であることが検出されたときに復元動作を停止し、その後に第2エラー検出部により低速信号が正常であることが検出されたときに復元動作を再開するのが好適である。低速信号と高速信号との位相関係は独立であるのが好適である。
【0033】
本発明の中継装置は、(1) 周波数帯域が制限された高速信号と高速信号の周波数帯域より低い周波数の低速信号とが重畳された信号を受信して、その受信した信号から高速信号と低速信号とを互いに分離して出力する信号分離部と、(2) 信号分離部から出力された低速信号に基づいて周波数トラッキングを行い、信号分離部から出力された高速信号に基づいて位相トラッキングを行って、クロックおよびデータを復元して出力する復元部と、(3) 復元部から出力されたデータの高速信号と、復元部から出力されたクロックに基づいて生成された低速信号または信号分離部から出力された低速信号と、を重畳して、当該重畳後の信号を送出する信号重畳部と、を備える。
【0034】
本発明の送受信システムは、上記の本発明の送信装置と、送信装置から送出されて通信リンクを経て到達した信号を受信する上記の本発明の受信装置と、を備える。或いは、本発明の送受信システムは、上記の本発明の送信装置と、送信装置から送出されて通信リンクを経て到達した信号を受信し、その受信した信号を中継して送出する上記の本発明の中継装置と、中継装置から送出されて通信リンクを経て到達した信号を受信する上記の本発明の受信装置と、を備える。
【0035】
本発明の送受信システムにおいて、通信リンクを介して接続された送信装置および受信装置が複数組あり、複数の送信装置のうちの何れか1の送信装置が高速信号と低速信号とを重畳して当該重畳後の信号を送出し、他の送信装置が重畳することなく高速信号を送出し、複数の受信装置のうちの重畳後の信号を受信した受信装置が、その受信した信号から高速信号と低速信号とを互いに分離し、その低速信号を他の受信装置へ与えるのが好適である。受信装置は、低速信号の有無を検出する信号検出部を用いて、重畳後の信号を受信したか否かを検知するのが好適である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、通信リンク本数、消費電力および回路レイアウト面積それぞれの増加を抑制することができ、長距離伝送においても適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、送受信システム1の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、高速信号および低速信号それぞれの周波数帯域、ならびに、第1フィルタ31および第2フィルタ32それぞれの通過帯域を説明する図である。
図2(a)は、送信装置10から出力される信号の周波数分布を示す。
図2(b)は、受信装置20の第1フィルタ31から出力される信号の周波数分布を示す。
図2(c)は、受信装置20の第2フィルタ32から出力される信号の周波数分布を示す。
【
図3】
図3は、高速信号生成部11により生成される高速信号、低速信号生成部12により生成される低速信号、信号重畳部13により重畳されて送信装置10から出力される信号、受信装置20に入力される信号、第2フィルタ32から出力される低速信号、および、第1フィルタ31から出力される高速信号を説明する図である。
【
図4】
図4は、高速信号と低速信号との間の振幅比を2:8とした場合のシミュレーション結果を示す図である。
図4(a)は、信号重畳部13により重畳されて送信装置10から出力される信号のアイパターンを示す。
図4(b)は、第2フィルタ32から出力される低速信号のアイパターン、および、第1フィルタ31から出力される高速信号のアイパターンを示す。横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示す。
【
図5】
図5は、高速信号と低速信号との間の振幅比を8:2とした場合のシミュレーション結果を示す図である。
図5(a)は、信号重畳部13により重畳されて送信装置10から出力される信号のアイパターンを示す。
図5(b)は、第2フィルタ32から出力される低速信号のアイパターン、および、第1フィルタ31から出力される高速信号のアイパターンを示す。横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示す。
【
図6】
図6は、送信装置10の構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、送信装置10の他の構成例を示す図である。
【
図8】
図8は、高速信号およびSS印加した低速信号それぞれの周波数帯域、ならびに、第1フィルタ31および第2フィルタ32それぞれの通過帯域を説明する図である。
図8(a)は、送信装置10から出力される信号の周波数帯域を示す。
図8(b)は、受信装置20の第1フィルタ31から出力される信号の周波数帯域を示す。
図8(c)は、受信装置20の第2フィルタ32から出力される信号の周波数帯域を示す。
【
図9】
図9は、低速信号を基本周波数1MHzの三角波とし、第1フィルタ31のカットオフ周波数を100MHzとしたときの、高速信号の周波数帯域への低速信号の干渉量を纏めた表である。
【
図10】
図10は、受信装置20の他の構成例を示す図である。
【
図12】
図12は、信号検出部23の他の回路例を示す図である。
【
図13】
図13は、受信装置20の他の構成例を示す図である。
【
図15】
図15は、ノイズ印加とクロックデューティとの関係を説明する図である。
【
図16】
図16は、受信装置20の他の構成例を示す図である。
【
図19】
図19は、中継装置60の他の構成例を示す図である。
【
図20】
図20は、中継装置60の他の構成例を示す図である。
【
図21】
図21は、中継装置60の他の構成例を示す図である。
【
図23】
図23は、信号重畳部13および信号分離部21それぞれの回路構成例を示す図である。
【
図24】
図24は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。
【
図25】
図25は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。
【
図26】
図26は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。
【
図27】
図27は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。
【
図28】
図28は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。
【
図29】
図29は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。
【
図30】
図30は、信号分離部21の他の回路構成例を示す図である。
【
図31】
図31は、信号分離部21の他の回路構成例を示す図である。
【
図32】
図32は、信号分離部21の他の回路構成例を示す図である。
【
図33】
図33は、信号分離部21の他の回路構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0039】
図1は、送受信システム1の構成を示す図である。この図に示される送受信システム1は、通信リンクを介して互いに接続された送信装置10および受信装置20を備える。送信装置10は、通信リンクへ信号を送出する。受信装置20は、送信装置10から通信リンクへ送出された信号を受信する。通信リンクは、有線のリンクであってもよいし、無線のリンクであってもよい。通信リンクは、送信装置10から受信装置20への一方向のみに通信が可能なリンクであってもよい。通信リンクは、差動通信リンクであってもよいし、シングルリンクであってもよい。
【0040】
送信装置10は、高速信号生成部11、低速信号生成部12および信号重畳部13を備える。高速信号生成部11は、周波数帯域が制限された高速信号を生成する。低速信号生成部12は、高速信号の周波数帯域より低い周波数の低速信号を生成する。信号重畳部13は、高速信号生成部11により生成された高速信号を入力するとともに、低速信号生成部12により生成された低速信号を入力して、これら高速信号と低速信号とを重畳して当該重畳後の信号を通信リンクへ送出する。
【0041】
受信装置20は、信号分離部21および復元部22を備える。信号分離部21は、送信装置10から通信リンクへ送出された信号を受信して、その受信した信号から高速信号と低速信号とを互いに分離して出力する。復元部22は、信号分離部21から出力された低速信号に基づいて周波数トラッキングを行い、信号分離部21から出力された高速信号に基づいて位相トラッキングを行って、クロックおよびデータを復元して出力する。
【0042】
信号分離部21は、受信した信号のうち高速信号を選択的に出力する第1フィルタ31と、受信した信号のうち低速信号を選択的に出力する第2フィルタ32と、を含む。第1フィルタ31は、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタにより構成される。第2フィルタ32は、ローパスフィルタまたはバンドパスフィルタにより構成される。
【0043】
復元部22は、第1位相比較器41、第2位相比較器42、ロック検出器43、チャージポンプ44、ループフィルタ45、電圧制御発振器46、分周器47、帰還分周器48、スイッチ51、スイッチ52およびインバータ回路53を含む。
【0044】
第1位相比較器41は、信号分離部21の第1フィルタ31から出力された高速信号を入力するとともに、電圧制御発振器46から出力された発振信号を入力して、これら入力した2つの信号の間の位相差を表す第1位相差信号を出力する。第1位相比較器41は、Bang-Bang型の位相比較器(BBPD)である。
【0045】
第2位相比較器42は、信号分離部21の第2フィルタ32から出力された低速信号が分周器47により分周された信号を入力するとともに、電圧制御発振器46から出力された発振信号が帰還分周器48により分周された信号を入力して、これら入力した2つの信号の間の位相差を表す第2位相差信号を出力する。第2位相比較器42は、位相周波数比較器(PFD)である。
【0046】
ロック検出器43は、第2位相比較器42に入力される2つの信号の間で周波数ロックしているか否かを検出する。スイッチ51およびスイッチ52は、ロック検出器43の出力信号に応じてオン/オフの状態が設定される。ロック検出器43の出力端とスイッチ52との間にインバータ回路53が設けられており、このインバータ回路53によりスイッチ51およびスイッチ52のうち一方がオン状態であるとき他方はオフ状態となる。周波数ロックしていないとロック検出器43が判断している期間、スイッチ51はオフ状態であり、スイッチ52はオン状態である。逆に、周波数ロックしているとロック検出器43が判断している期間、スイッチ51はオン状態であり、スイッチ52はオフ状態である。
【0047】
チャージポンプ44は、ロック検出器43により周波数ロックしていないことが検出されている期間に、第2位相比較器42から出力される第2位相差信号を入力する。チャージポンプ44は、ロック検出器43により周波数ロックしていることが検出されている期間に、第1位相比較器41から出力される第1位相差信号を入力する。チャージポンプ44は、入力した第1位相差信号または第2位相差信号が表す位相差に応じた量の充放電電流をループフィルタ45へ出力する。
【0048】
ループフィルタ45は、チャージポンプ44から出力された充放電電流を容量部に入力して、その容量部の蓄積電荷量に応じた電圧値を電圧制御発振器46へ出力する。電圧制御発振器46は、ループフィルタ45から出力された電圧値を入力して、その電圧値に応じた周波数を有する発振信号を第1位相比較器41および分周器48へ出力する。
【0049】
復元部22は、ロック検出器43により周波数ロックしていないことが検出されている期間に、信号分離部21の第2フィルタ32から出力された低速信号に基づいて周波数トラッキングを行う。復元部22は、ロック検出器43により周波数ロックしていることが検出されている期間に、信号分離部21の第1フィルタ31から出力された高速信号に基づいて位相トラッキングを行って、第1位相比較器41から復元データを出力し、電圧制御発振器46から出力される発振信号を復元クロックとして出力する。また、位相トラッキングを行っているときに周波数ロックが外れたことがロック検出器43により検出されたときには、直ちに、信号分離部21の第2フィルタ32から出力された低速信号に基づいて周波数トラッキングを行うことができる。
【0050】
このように、低速信号と高速信号とを重畳した信号を送信装置10から受信装置20へ送信することにより、受信装置20は、周波数トラッキングの際に用いる低速信号を常に入力することができる。受信装置20は、周波数ロックが外れたときに低速信号の送出を送信装置10に要求しなくてもよい。したがって、低速信号の送出を要求するための通信リンクは不要である。
【0051】
また、受信装置20において重畳された信号から信号分離部21により高速信号と低速信号とを互いに分離するので、高速信号と低速信号との間の位相関係は任意でよく、低速信号と高速信号との位相関係は独立であってもよい。高速信号および低速信号それぞれの位相は互いに一致していなくてもよい。かつ、高速信号および低速信号それぞれのレベル遷移時間(Tr,Tf)を互いに一致させる必要もない。
【0052】
したがって、通信リンクの本数の増加を抑制することができ、回路の消費電力の増加を抑制することができ、また、回路のレイアウト面積の増加をも抑制することができる。
【0053】
図2は、高速信号および低速信号それぞれの周波数分布、ならびに、第1フィルタ31および第2フィルタ32それぞれの通過帯域を説明する図である。
図2(a)は、送信装置10から出力される信号の周波数分布を示す。
図2(b)は、受信装置20の第1フィルタ31から出力される信号の周波数分布を示す。
図2(c)は、受信装置20の第2フィルタ32から出力される信号の周波数分布を示す。この図に示されるように、高速信号の周波数分布は制限されており、低速信号は、高速信号の周波数分布より低い周波数を有する(
図2(a))。第1フィルタ31は、受信した信号のうち高速信号を選択的に出力することができる(
図2(b))。第2フィルタ32は、受信した信号のうち低速信号を選択的に出力することができる(
図2(c))。
【0054】
図3は、高速信号生成部11により生成される高速信号、低速信号生成部12により生成される低速信号、信号重畳部13により重畳されて送信装置10から出力される信号、受信装置20に入力される信号、第2フィルタ32から出力される低速信号、および、第1フィルタ31から出力される高速信号を説明する図である。この図では、各信号は差動信号として表されている。
【0055】
図4は、高速信号と低速信号との間の振幅比を2:8とした場合のシミュレーション結果を示す図である。
図5は、高速信号と低速信号との間の振幅比を8:2とした場合のシミュレーション結果を示す図である。各図(a)は、信号重畳部13により重畳されて送信装置10から出力される信号のアイパターンを示す。各図(b)は、第2フィルタ32から出力される低速信号のアイパターン(左図)、および、第1フィルタ31から出力される高速信号のアイパターン(右図)を示す。これらの図に示されるように、受信装置20において信号分離部21の第1フィルタ31および第2フィルタ32により高速信号と低速信号とを互いに分離することができる。
【0056】
高速信号と低速信号との分離を容易とするために、高速信号の周波数帯域への低速信号の干渉量が出来る限り小さいことが望ましい。したがって、低速信号が周波数以外の情報を持たないようにするのが望ましい。
【0057】
ここで、本実施形態の構成と、特許文献2に開示された発明の構成とを対比すると、以下のとおりである。
【0058】
特許文献2に開示された発明では、ワードクロックとシリアルデータとの重ね合わせによる論理信号を送信装置から受信装置へ送信する。その為に、送信装置は、ワードクロックとシリアルデータとの排他的論理和をとり、この排他的論理和信号とシリアルデータとを重ね合わせることで、ワードクロックおよびシリアルデータそれぞれのレベルに応じた4値差動信号を生成する。それ故、ワードクロックとシリアルデータとを重ね合わせることが無ければ電流出力は+I,-Iと遷移するところ、特許文献2に開示された発明では電流出力は+3I,+I,-I,-3Iと遷移する。消費電流の最大値は3Iとなる。
【0059】
これに対して、本実施形態では、4値差動信号ではなく、高速信号と低速信号とを重畳した信号を送信装置10から受信装置20へ送信する。低速信号は、受信装置20において高速信号と分離可能となるように、高速信号の周波数帯域より低い周波数とされる。したがって、送信装置10の低速信号生成部12は、低速な動作をすればよいので、消費電力の増加を抑制することができる。また、
図5に示したように、高速信号の振幅と比べて低速信号の振幅を小さくすることができるので、この点でも、低速信号生成部12は消費電力の増加を抑制することができる。例えば、高速信号の振幅に対して低速信号の振幅を1/2とし、高速信号の生成に必要な電流量をIとすると、消費電流の最大値は1.5Iとなる。これは、特許文献2に開示された発明における消費電流の最大値の1/2である。
【0060】
また、特許文献2に開示された発明では、受信装置は、受信した4値差動信号からワードクロックとシリアルデータとを互いに分離する為に、閾値が互いに異なる3個のコンパレータを必要とする。これら3個のコンパレータは、高速な4値差動信号を閾値と比較するために高速動作が必要であることがら、消費電力が大きい。また、この受信装置は、ワードクロックを抽出する為に、シリアルデータの値に応じて2個のコンパレータの出力信号のうちの何れか一方の信号を選択して出力するセレクタを必要とする。さらに、この受信装置は、シリアルデータの選択するタイミングによって生じる可能性があるワードクロックのグリッジを低減する為に、ローパスフィルタを必要とする。
【0061】
これに対して、本実施形態では、受信装置20は、信号分離部21により受信信号を高速信号と低速信号とに互いに分離した後、第1位相比較器41に含まれるコンパレータにより高速信号を閾値と比較する。そのため、コンパレータは1個でよい。低速信号を閾値と比較するコンパレータが設けられる場合であっても、そのコンパレータは、低速な動作をすればよいので、高速信号用のコンパレータの消費電力の1/10程度の消費電力とすることができる。特許文献2に開示された発明が3個の高速コンパレータを必要としたのに対し、本実施形態では、1個の高速コンパレータおよび1個の低速コンパレータを用いるだけでよいので、消費電力を小さくすることができる。
【0062】
図6は、送信装置10の構成例を示す図である。この図に示される構成例では、送信装置10は、8b10b符号化パラレルデータをシリアルデータに変換するシリアライザを高速信号生成部11として備える。送信装置10は、PLL(Phase Locked Loop)回路を低速信号生成部12として備える。高速信号生成部11としてのシリアライザは、低速信号生成部12としてのPLL回路によりビットクロックに基づいて生成されたクロックを入力し、そのクロックが指示するタイミングでシリアルデータの各ビットを出力する。また、低速信号生成部12としてのPLL回路は、ビットクロックに基づいて低速信号をも生成し出力する。
【0063】
図7は、送信装置10の他の構成例を示す図である。この図に示される構成例では、送信装置10は、8b10b符号化パラレルデータをシリアルデータに変換するシリアライザを高速信号生成部11として備える。高速信号生成部11としてのシリアライザは、PLL回路14によりビットクロックに基づいて生成されたクロックを入力し、そのクロックが指示するタイミングでシリアルデータの各ビットを出力する。送信装置10は、逓倍回路を低速信号生成部12として備える。低速信号生成部12としての逓倍回路は、ビットクロックに基づいて低速信号を生成し出力する。
【0064】
高速信号のデータレートをDRとする。高速信号のデータ通信方式に応じた係数をKとする。低速信号の周波数をFとする。分周器47の分周比をNとする。分周器48の分周比をMとする。復元部22における周波数トラッキング終了時の低速信号の周波数に対する復元クロックの周波数の比はM/Nである。高速信号のデータ通信方式がRZ(Return to Zero)であるとき、K=0.5である。高速信号のデータ通信方式がNRZ(Non Return to Zero)であるとき、K=1である。高速信号のデータ通信方式がPAM(Pulse Amplitude Modulation)4であるとき、K=2である。高速信号のデータ通信方式がPAM16であるとき、K=4である。これらのパラメータの間に、下記(3)式で表される関係があるのが望ましい。
【0065】
【0066】
送信装置10から重畳されて送出される信号に含まれる高速信号のデータレートDRと低速信号の周波数Fとの比(DR/F)が整数比であれば、受信装置20の分周器47の分周比Nおよび帰還分周器48の分周比Mを適切に設定することで、上記(3)式の関係を満たすことができる。例えば、高速信号のデータレートDRを1Gbpsとし、係数Kを2とし、分周器47の分周比Nを1とし、分周器48の分周比Mを50とした場合、低速信号の周波数Fは10MHzとなる。送信装置10は、受信装置20において必要とされる低速信号の周波数Fに合わせて、ビットクロックを逓倍することで低速信号を生成する。
【0067】
受信装置20の信号分離部21により高速信号と低速信号とを互いに分離することができるように、送信装置10の高速信号生成部11は、符号化により周波数帯域が制限された高速信号を生成するのが望ましい。この符号化としては、DCバランスが保証されたmBnB符号化が望ましく、また、マンチェスタ符号化も望ましい。
【0068】
また、受信装置20の信号分離部21により高速信号と低速信号とを互いに分離したときに、高速信号の周波数帯域への低速信号の干渉量を1/100程度以下とするのが望ましい。ノイズ量を数mVとして、高速信号の周波数分布への低速信号の干渉量をノイズのレベルまで小さくすることができれば、干渉の影響をノイズと同等に扱って除外することができる。低速信号の振幅が数百mVであるとすると、高速信号の周波数帯域への低速信号の干渉量が1/100程度であれば、その干渉量はノイズと同等の数mVとなって、干渉の影響を除去することができる。
【0069】
例えば、8B10B符号化を行った高速信号のデータレートが1Gbpsであるとすると、この高速信号の周波数分布は概ね100MHz以上となる。第1フィルタ31として、1次のフィルタであってカットオフ周波数が100MHzであるハイパスフィルタを用いるものとする。このフィルタは、周波数1MHzで減衰が0.01であり、周波数10MHzで減衰が0.1である。このとき、高速信号と低速信号との振幅比が1:1であって、低速信号の周波数が1MHzである場合、高速信号への低速信号の干渉量は1/100となる。高速信号と低速信号との振幅比が10:1であって、低速信号の周波数が10MHzである場合、高速信号への低速信号の干渉量は1/100となる。なお、フィルタの次数を大きくすれば、1MHz、10MHzでの減衰量を大きくすることができる。しかし、フィルタの次数を大きくすることは、IC内の素子の増加によるICの面積の増加やIC外部に素子が追加になり回路基板の面積の増加が懸念されるので、好適でない。
【0070】
送信装置10の低速信号生成部12は、高速信号の周波数帯域への低速信号の干渉を小さくするために、正弦波または三角波の時間波形を有する低速信号を生成するのが望ましい。特に、低速信号を正弦波とすることで、高速信号の周波数帯域への低速信号の干渉を最小化することができる。これにより、高速信号と低速信号とを重畳しても、通信品質を損なうことはない。
【0071】
低速信号の周波数をFとする。高速信号のデータレートをDRとする。高速信号のデータ符号化方式に応じた係数をLとする。第1フィルタ31のカットオフ周波数をFcとする。低速信号の振幅に対する高速信号の振幅の比をVrとする。高速信号の周波数帯域への低速信号の干渉許容量をGdとする。このとき、これらのパラメータの間に、下記(4)式で表される関係があるのが望ましい。Fc=DR/Lを用いると、この(4)式は下記(5)式となる。係数Lは、高速信号のデータ符号化方式に応じた値である。高速信号のデータ符号化方式が8B10B符号化であるとき、L=10である。高速信号のデータ符号化方式がマンチェスタ符号化であるとき、L=2である。
【0072】
【0073】
【0074】
例えば、8B10B符号化を行った高速信号のデータレートDRが1Gbpsであるとして、L=10とする。また、振幅比Vrを10とし、干渉許容量Gdを0.01とする。このとき、低速信号の周波数Fは10MHz以下となる。
【0075】
送信装置10の低速信号生成部12は、スペクトラム拡散した低速信号を生成するのが望ましい。低速信号をスペクトラム拡散することで、通信リンクからのEMI(Electro Magnetic Interference)放射を低減することができる。また、低速信号生成部12がスペクトラム拡散した低速信号を生成するのに加えて、高速信号生成部11も、スペクトラム拡散した高速信号を生成するのが望ましい。このとき、低速信号と高速信号との間で、スペクトラム拡散(SS: Spread Spectrum)の変調周期が互いに同じであるのが望ましく、SSの変調強度が互いに同じであるのが望ましい。これは、受信装置20のロック検出器43が入力する2つの信号の間で周波数が大きく異なると、ロック検出器43により周波数ロックが外れたと判定されて周波数トラッキングを行うことになるからである。周波数トラッキングを行っている期間は、第2位相比較器42を用いているため高速信号に基づいてデータを復元することができない。
【0076】
なお、ロック検出器43の感度を低くすることで、SSの変調周期および変調強度に対する限界を調整することが可能である。しかし、感度が低すぎると、周波数トラッキングの精度が劣化し、周波数誤同期が生じて、データを正しく復元することができない。
【0077】
図8は、高速信号およびSS印加した低速信号それぞれの周波数分布、ならびに、第1フィルタ31および第2フィルタ32それぞれの通過帯域を説明する図である。
図8(a)は、送信装置10から出力される信号の周波数分布を示す。
図8(b)は、受信装置20の第1フィルタ31から出力される信号の周波数分布を示す。
図8(c)は、受信装置20の第2フィルタ32から出力される信号の周波数分布を示す。SS印加しない場合の低速信号(
図2)と比較すると、SS印加した場合の低速信号(
図8)は、周波数帯域が広くなり且つ振幅が小さくなっている。
【0078】
SS印加する場合、(3)式~(5)式は、高速信号の中心データレートをDRとし、低速信号の中心周波数をFとして、満たされればよい。
【0079】
送信装置10の低速信号生成部12は、高速信号の周波数帯域への低速信号の干渉を小さくするために、三角波の時間波形を有する低速信号を生成してもよい。正弦波は単一の周波数成分を有するのに対して、三角波は基本周波数成分に加えて高調波成分をも有する。しかし、矩形波と異なり、三角波では奇数次(n次)の高調波成分の振幅がn
2で減衰していく。例えば、三角波の11次の高調波成分の振幅は基本周波数成分の振幅の1/121となる。下記(6)式は、三角波関数をフーリエ級数で表した式である。下記(7)式は、矩形波関数をフーリエ級数で表した式である。低速信号を基本周波数1MHzの三角波とし、第1フィルタ31のカットオフ周波数を100MHzとすると、高速信号の周波数帯域への低速信号の干渉量は、
図9に示される表のようになる。
【0080】
【0081】
【0082】
正弦波と比べると、三角波は、1MHzでの干渉量が等しいが、3MHzでの干渉量が1桁以上も小さくなるので、干渉の影響が非常に小さくなる。基本周波数1MHzで振幅100mVの三角波の低速信号とした場合、3次高調波成分の振幅は0.3mVとなる。これは、ノイスレベル(数mV)より小さい。このように、三角波の低速信号の高調波成分による干渉の影響も非常に小さい。
【0083】
送信装置10の低速信号生成部12において低速信号に周波数情報に加えて低速データを含めることも可能である。例として次の第1~第3の方法がある。
【0084】
第1の方法では、低速信号の振幅を低速データのレベルに応じたものとする。例えば、低速データがローレベルであるとき低速信号の振幅を100mVとし、低速データがハイレベルであるとき低速信号の振幅を200mVとする。
【0085】
第2の方法では、低速信号の周波数を低速データのレベルに応じたものとする。この場合、低速信号の中心周波数は一定であるのが望ましい。(3)式~(5)式は、低速信号の中心周波数をFとして、満たされればよい。mBnB符号化またはマンチェスタ符号化を採用すれば、低速信号の中心周波数5一定とすることができる。
【0086】
第3の方法では、低速信号のデューティを低速データのレベルに応じたものとする。この場合、低速信号の数周期分のデューティの移動平均が50%程度であるのが望ましい。mBnB符号化またはマンチェスタ符号化を採用すれば、低速信号の数周期分のデューティの移動平均を50%程度とすることができる。
【0087】
図10は、受信装置20の他の構成例を示す図である。この図に示される構成例では、受信装置20は、
図1に示された受信装置の構成に加えて、低速信号の有無を検出する信号検出部23を更に備える。信号検出部23は、信号分離部21の第2フィルタ32の出力に基づいて、低速信号の有無を検出する。
【0088】
仮に、信号検出部が設けられていないとすると、送信装置が信号を送出していない期間であっても、受信装置は、何らかの信号が入力されているものとして動作する。受信装置は、実際には信号が入力されていない期間では、ノイズを信号として扱って処理することになり、意図しないデータを後段の回路へ出力することになる。後段の回路が映像システムである場合、画像が表示されない状態になる。後段の回路が通信システムである場合、正常に通信が成り立たない状態になる。よって、信号が入力されていない状態のときは、受信装置は、間違ったデータを後段の回路へ送信しないことが望ましい。また、信号が入力されていない状態では、受信装置は、消費電力の観点で動作しないことが望ましい。したがって、受信装置は、信号が入力されているか否かを信号検出部により検出して、信号が入力されていない期間には、間違ったデータを後段の回路へ送信しないようにし、また、一部の動作を停止するようにするのが望ましい。
【0089】
送信装置が信号を送出しているか否かの情報を受信装置へ別線を用いて送るシステムでは、受信装置は信号検出部を備える必要はない。この場合には、信号を送るための通信リンクに加えて、送信装置が信号を送出しているか否かの情報を送るための通信リンクが別途必要となり、この点で好ましくない。
【0090】
特許文献1に開示された発明の如く差動信号線のコモンレベルを変化させることで情報を送信することができるシステムでも、受信装置は信号検出部を備える必要はなく、また、追加の通信リンクを必要とすることもない。しかし、このようなシステムでは、差動信号線により送信される信号が高速であることから、受信装置に到達する信号は減衰する。受信装置は、その減衰した信号から、送信装置が信号を送出しているか否かの情報を抽出する必要がある。したがって、この受信装置は、高速なアンプ等を必要とし、消費電力および設計工数が増加する。
【0091】
これに対して、
図10に示される受信装置20は、低速信号の有無を検出する信号検出部23を更に備える。この信号検出部23は、簡易な回路により構成することができ、消費電力および設計工数の増加を抑制することができる。信号検出部23は、受信信号から高速信号と低速信号とを互いに分離する信号分離部21の出力から低速信号の有無を検出するので、高速なアンプ等を必要としない。例えば、特許文献1に開示された発明で用いられるアンプの帯域は数GHzまで必要であるのに対して、本実施形態の受信装置20で用いられるアンプの帯域は数十MHzまででよい。
【0092】
本実施形態では、受信装置20の信号検出部23は、低速信号の有無を検出することで、高速信号の有無をも検出する。したがって、送信装置10は、高速信号および低速信号の双方を送出するか、双方を送出しないか、の何れかとなる。仮に、送信装置10が高速信号を送出する一方で低速信号を送出しないとすると、受信装置20は、信号が無い旨を信号検出部23により検出することになり、データを後段の回路へ送信しないことになる。また、仮に、送信装置10が高速信号を送出しない一方で低速信号を送出とすると、受信装置20は、信号が有る旨を信号検出部23により検出することになるものの、実際には高速信号が入力されていないので、間違ったデータを後段の回路へ送信することになる。
【0093】
図11は、信号検出部23の回路例を示す図である。この図に示される回路例では、信号検出部23は、NMOSトランジスタM
1、NMOSトランジスタM
2、PMOSトランジスタM
3、キャパシタC
1、定電流源I
1および定電流源I
2を含む。信号検出部23は、低速信号を差動信号Vinp,Vinnとして入力し、Vinp,Vinnの双方が低レベルである期間(入力信号が無い期間)が一定時間経過したか否かを表す信号Voutを出力する。
【0094】
NMOSトランジスタM1のドレインは、電源電位供給端と接続されている。NMOSトランジスタM1のソースは、キャパシタC1を介して接地電位供給端と接続されている。NMOSトランジスタM1のゲートは、Vinpが入力される。
【0095】
NMOSトランジスタM2のドレインは、電源電位供給端と接続されている。NMOSトランジスタM2のソースは、定電流源I1を介して接地電位供給端と接続されている。NMOSトランジスタM2のゲートは、Vinnが入力される。
【0096】
PMOSトランジスタM3のソースは、定電流源I2を介して電源電位供給端と接続されている。PMOSトランジスタM3のドレインは、接地電位供給端と接続されている。PMOSトランジスタM3のゲートは、NMOSトランジスタM1のドレインおよびNMOSトランジスタM2のドレインと接続されている。PMOSトランジスタM3のソースの電位が出力信号Voutとなる。
【0097】
信号が入力されていない期間では、VinpおよびVinnの双方が低レベルになるので、NMOSトランジスタM1およびNMOSトランジスタM2の双方がオフ状態である状態が続く。この期間では、NMOSトランジスタM1またはNMOSトランジスタM2を経てキャパシタC1に電荷が蓄積されていくことはなく、定電流源I1によりキャパシタC1から電荷が流れ出して行くだけである。その結果、PMOSトランジスタM3はオン状態となって、出力信号Voutはローレベルとなる。
【0098】
信号が入力されている期間では、VinpおよびVinnが交互にハイレベルになるので、NMOSトランジスタM1およびNMOSトランジスタM2の双方がオフ状態である時間が短い。この期間では、NMOSトランジスタM1またはNMOSトランジスタM2を経てキャパシタC1に蓄積されていく電荷の量と、定電流源I1によりキャパシタC1から流れ出す電荷の量とが互いに同程度となる。その結果、PMOSトランジスタM3はオフ状態のままとなって、出力信号Voutはハイレベルとなる。
【0099】
この信号検出部23は、出力信号Voutのレベルに基づいて、信号が入力されているか否かを検出することができる。
【0100】
図12は、信号検出部23の他の回路例を示す図である。この図に示される回路例では、信号検出部23は、アンプ231およびシュミットトリガバッファ232を含む。アンプ231は、低速信号を差動信号INp,INnとして入力して、これをゲインAで増幅し、その増幅した信号をシュミットトリガバッファ232へ出力する。アンプ231は、低速(例えば数十MHz)のものでよい。
【0101】
信号が入力されていない期間では、アンプ231から出力されてシュミットトリガバッファ232に入力される信号の値(A(INp-INn))は、シュミットトリガバッファ232の閾値Vtpと閾値Vtnとの間mの範囲にある状態が続く。したがって、シュミットトリガバッファ232からの出力信号OUTの値は変化しない(
図12(b),(c))。
【0102】
信号が入力されている期間では、アンプ231から出力されてシュミットトリガバッファ232に入力される信号の値(A(INp-INn))は、シュミットトリガバッファ232の閾値Vtpと閾値Vtnとの間の範囲から出る場合がある。したがって、シュミットトリガバッファ232からの出力信号OUTの値は変化する(
図12(d))。
【0103】
この信号検出部23は、シュミットトリガバッファ232からの出力信号OUTの値の変化の状態に基づいて、信号が入力されているか否かを検出することができる。
【0104】
図13は、受信装置20の他の構成例を示す図である。この図に示される構成例では、受信装置20は、
図1に示された受信装置の構成に加えて、低速信号が正常であるか否か検出するエラー検出部25を更に備える。エラー検出部25は、信号分離部21の第2フィルタ32の出力に基づいて、低速信号が正常であるか否か検出する。復元部22は、エラー検出部25により低速信号が異常であることが検出されたときに復元動作を停止し、その後にエラー検出部25により低速信号が正常であることが検出されたときに復元動作を再開する。
【0105】
仮に、エラー検出部が設けられていないとすると、受信装置が受信する信号にノイズが印加されていて信号の波形が乱れていると、第1位相比較器41が誤判定をし、周波数ロックが外れ、復元部による復元動作(高速信号に基づくデータおよびクロックの復元)が正しく行われない事態が生じる。ノイズ印加が無くなった後に、受信装置は、周波数トラッキングおよび位相トラッキングを行う必要があり、復元部による復元動作の再開まで時間を要する。
【0106】
一方で、高速信号のエラー検出を使用してノイズ印加を検出し、復元部による復元動作を停止する方法がある。復元部による復元動作の停止は、位相比較器またはチャージポンプを停止することで可能である。
【0107】
しかし、この方法では、ノイズ印加が無くなったことを検出することができない。何故なら、ノイズ印加後に信号の周波数および位相が異常になることから、受信装置は、高速信号を正しく受信することができず、高速信号が正常に復帰することを待つことでノイズ印加が無くなったと判定することができないからである。したがって、受信装置は、ノイズ印加を検出した後に一定時間に亘り復元動作を停止し、一定時間経過後に復元動作を再開することになる。したがって、ノイズ印加が無くなったにも拘わらず一定時間が経過する迄は、受信装置は復元動作を再開することができない(
図14参照)。
【0108】
これに対して、
図13に示される受信装置20は、低速信号が正常であるか否か検出するエラー検出部25を更に備える。このエラー検出部25は、低速信号に基づいて、ノイズが印加されたことを早期に検出することができ、また、ノイズ印加が無くなったことをも早期に検出することができる。
【0109】
エラー検出部25は、低速信号のクロックデューティを監視することで、ノイズ印加の影響の有無を検出することができる(
図15参照)。エラー検出部25は、低速信号のデューティが正常範囲内にあれば、信号がノイズの影響を受けておらず正常であると判定する。エラー検出部25は、低速信号のデューティが正常範囲から外れていれば、信号がノイズの影響を受けていて異常であると判定する。
【0110】
エラー検出部25により信号が正常であると判断されると、復元部22は、復元動作を再開する。エラー検出部25により長時間に亘り信号が異常であると判断された後に信号が正常であると判断された場合には、復元部22は、周波数トラッキングを行った後に復元動作を再開するのが望ましい。
【0111】
図16は、受信装置20の他の構成例を示す図である。この図に示される構成例では、受信装置20は、
図1に示された受信装置の構成に加えて、高速信号が正常であるか否か検出する第1エラー検出部24、および、低速信号が正常であるか否か検出する第2エラー検出部25を更に備える。
【0112】
第1エラー検出部24は、信号分離部21の第1フィルタ31の出力または復元部22の第1位相比較器41の出力に基づいて、高速信号が正常であるか否か検出する。第2エラー検出部25は、信号分離部21の第2フィルタ32の出力に基づいて、低速信号が正常であるか否か検出するものである。復元部22は、第1エラー検出部24により高速信号が異常であることが検出されたときに復元動作を停止し、その後に第2エラー検出部25により低速信号が正常であることが検出されたときに復元動作を再開する。
【0113】
前の
図13の構成では、高速信号が正常であるか否か検出するエラー検出部が設けられていない。
図13の構成では、低速信号が正常であるか否か検出するエラー検出部25は、データレートまたは周波数が低い低速信号を監視するので、エラー検出に時間を要する。その結果、ノイズ印加の影響が信号に現れる時から、エラー検出部25がエラーを検出する時までの期間、復元部22において周波数ロックが外れる場合がある。周波数ロックが外れると、ノイズ印加が無くなった後に周波数トラキングおよび位相トラッキングを行うことになり、復元部22における復元動作の再開までに時間を要する。
【0114】
これに対して、
図16の構成では、低速信号が正常であるか否か検出する第2エラー検出部25に加えて、高速信号が正常であるか否か検出する第1エラー検出部24が設けられている。第1エラー検出部24は、低速信号と比べてデータレートが数十倍~数百倍と高い高速信号を監視することができる。ノイズ印加の影響が信号に現れる時から、第1エラー検出部24がエラーを検出する時までの期間は短い。したがって、この期間に復元部22において周波数ロックが外れる事態を回避することができ、ノイズ印加が無くなった後に復元部22における復元動作の再開までに要する時間を短くすることができる。
【0115】
図17は、送受信システム2の構成を示す図である。
図1に示された送受信システム1の構成と比較すると、この
図17に示される送受信システム2は、送信装置10と受信装置20との間の通信リンク上に中継装置60Aおよび中継装置60Bが設けられている点で相違する。中継装置60A,60Bは、前段から通信リンクを経て到達した信号を受信し、その受信した信号を中継して後段へ送出するもので、中継装置は1段又は複数段あってよい。
【0116】
信号を波形整形することに特化した中継装置は、電力を抑えられる反面、受信信号の波形劣化が大きい場合には複数段用いても、その信号を完全に波形整形することができない場合がある。
【0117】
これに対して、中継の際に信号をデジタルデータに一旦変換する中継装置(Retimer)は、受信信号の波形劣化が大きい場合、完全に整形された信号を後段へ送出することができる。したがって、後者の中継装置は、通信リンクが長い場合に有用である。
【0118】
送信装置10と受信装置20との間に1または複数の中継装置が設けられる。
図17に示される構成では、2つの中継装置60A,60Bが設けられている。送信装置10および中継装置60Aが第1基板上に実装され、中継装置60Bおよび受信装置20が第2基板上に実装されている。また、高速信号のデータレートが8GHzであるとする。このとき、典型的には、送信装置10と中継装置60Aとの間の第1基板上の通信リンクにおける信号の減衰は数dBであり、中継装置60Bと受信装置20との間の第2基板上の通信リンクにおける信号の減衰は数dBである。一方、中継装置60Aと中継装置60Bとの間の通信リンクにおける信号の減衰は20dBとなる場合がある。中継装置60A,60Bは、このように通信リンクにおける信号の減衰が大きい場合に設けられる。
【0119】
中継装置がRetimerの場合、高速信号と低速信号とが重畳された信号が送信装置10から受信装置20へ送られるので、これらの間に設けられる中継装置60A,60Bは、高速信号と低速信号とが重畳された信号を受信し、この受信信号から高速信号と低速信号とを互いに分離し、そのうち高速信号をデジタルデータに一旦変換して、その後に高速信号と低速信号とを重畳して後段へ送出する。以下では、
図18~
図21を用いて、中継装置60A,60Bとして好適な中継装置60の構成について説明する。
【0120】
図18は、中継装置60の構成例を示す図である。この図に示される中継装置60は、信号重畳部13、信号分離部21、復元部22およびシリアライザ61を備える。中継装置60の信号重畳部13は、送信装置10の信号重畳部13と同様の構成を有し同様に動作する。中継装置60の信号分離部21は、受信装置20の信号分離部21と同様の構成を有し同様に動作する。中継装置60の復元部22は、受信装置20の復元部22と同様の構成を有し同様に動作する。復元部22の第1位相比較器41は、高速信号に基づく復元データ(デジタルデータ)を出力する。
【0121】
シリアライザ61は、第1位相比較器41から出力された復元データをシリアライズしてシリアルデータとし、そのシリアルデータを信号重畳部13へ出力する。シリアライザ61は、電圧制御発振器46から出力される復元クロックが指示するタイミングで、シリアルデータの各ビットのデータを出力する。信号重畳部13は、シリアライザ61から出力された高速信号(シリアルデータ)と、分周器47から出力された低速信号とを重畳して、当該重畳後の信号を送出する。
【0122】
図19は、中継装置60の他の構成例を示す図である。この図に示される中継装置60は、信号重畳部13、信号分離部21、復元部22、シリアライザ61およびPLL回路62を備える。シリアライザ61は、第1位相比較器41から出力された復元データをシリアライズしてシリアルデータとし、そのシリアルデータを信号重畳部13へ出力する。シリアライザ61は、PLL回路62から出力されるクロックが指示するタイミングで、シリアルデータの各ビットのデータを出力する。PLL回路62は、分周器48から出力される発振信号に基づいてクロックを生成してシリアライザ61に与える。信号重畳部13は、シリアライザ61から出力された高速信号(シリアルデータ)と、分周器47から出力された低速信号とを重畳して、当該重畳後の信号を送出する。
【0123】
図20は、中継装置60の他の構成例を示す図である。この図に示される中継装置60は、信号重畳部13、信号分離部21、復元部22、シリアライザ61およびPLL回路62を備える。シリアライザ61は、第1位相比較器41から出力された復元データをシリアライズしてシリアルデータとし、そのシリアルデータを信号重畳部13へ出力する。シリアライザ61は、PLL回路62から出力されるクロックが指示するタイミングで、シリアルデータの各ビットのデータを出力する。PLL回路62は、分周器47から出力される発振信号に基づいて、クロックを生成してシリアライザ61に与え、また、低速信号を生成する。信号重畳部13は、シリアライザ61から出力された高速信号(シリアルデータ)と、PLL回路62から出力された低速信号とを重畳して、当該重畳後の信号を送出する。
【0124】
図21は、中継装置60の他の構成例を示す図である。この図に示される中継装置60は、信号重畳部13、信号分離部21、復元部22、シリアライザ61およびPLL回路62を備える。シリアライザ61は、第1位相比較器41から出力された復元データをシリアライズしてシリアルデータとし、そのシリアルデータを信号重畳部13へ出力する。シリアライザ61は、PLL回路62から出力されるクロックが指示するタイミングで、シリアルデータの各ビットのデータを出力する。PLL回路62は、分周器48から出力される発振信号に基づいて、クロックを生成してシリアライザ61に与え、また、低速信号を生成する。信号重畳部13は、シリアライザ61から出力された高速信号(シリアルデータ)と、PLL回路62から出力された低速信号とを重畳して、当該重畳後の信号を送出する。
【0125】
図18~
図21の何れの構成においても、第1位相比較器41内で復元データをデシリアライズする場合、または、第1位相比較器41から出力される復元データがシリアルデータであっても後段でデシリアライズする場合に、シリアライザ61は設けられる。デシリアライズすることで、高速処理が容易でない何らかの処理(例えば、エラー検出、等化器のキャリブレーション等)を論理回路により容易に行うことができる。しかし、第1位相比較器41から出力される復元データがシリアルデータであって、そのシリアルデータを信号重畳部13に入力させることができる場合には、シリアライザ61が設けられる必要はない。
【0126】
シリアライザ61は、中継装置に入力される低速信号の周波数Finと、その中継装置から出力される低速信号の周波数Foutとは、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。中継装置の入出力周波数比(Fout/Fin)に応じて、後段の中継装置または受信装置の分周器47の分周比Nおよび帰還分周器48の分周比Mを適切に設定すればよい。中継装置において低速信号の周波数を異ならせる場合、EMIを低減することができる点で好ましい。
【0127】
図18~
図21の各構成を対比すると以下のとおりである。
図18の構成では、電圧制御発振器46から出力されるクロックを直接にシリアライザ61に入力させているので、第1位相比較器41に起因するジッタがシリアライザ61から出力される。このジッタの影響により、中継装置から出力される信号の波形が揺らぎ、後段の中継装置または受信装置で信号を正常に受信することができない場合がある。これに対して、
図19の構成では、PLL回路62から出力されるクロックをシリアライザ61に入力させているので、第1位相比較器41に起因するジッタの影響を抑制することができる。
【0128】
図19の構成では、送信装置10から受信装置20まで送られる低速信号は、直列に接続された複数のバッファを介して送信されることになる。したがって、各バッファでノイズが増幅され、低速信号のジッタが増加していく。これに対して、
図20の構成では、低速信号の経路上にPLL回路62が設けられているので、低速信号のジッタを除去することができる。また、PLL回路62から出力されるクロックをシリアライザ61に入力させているので、第1位相比較器41に起因するジッタの影響をも抑制することができる。
【0129】
図20の構成では、分周器47から出力される低速信号の位相と、電圧制御発振器46から出力される復元クロックの位相とは、互いに一致していない場合は、両者間の位相の不一致を解消するために、シリアライザ61はFIFO(First-In First-Out)メモリを備える必要があることから、回路規模、回路レイアウト面積および消費電力の増加が懸念される。これに対して、
図21の構成では、電圧制御発振器46から出力される復元クロックが帰還分周器48により分周されて出力される発振信号に基づいてPLL回路62により低速信号を生成する。分周器47から出力される低速信号の位相と、電圧制御発振器46から出力される復元クロックの位相との間の関係は、容易に知ることができる。したがって、FIFOを不要とすることができ、或いは、FIFOの回路規模を小さくすることができる。
【0130】
図22は、送受信システム3の構成を示す図である。この図に示される送受信システム3は、
図1に示された送受信システム1の構成(1組の送信装置10および受信装置20)に加えて、1または複数の組の送信装置10Aおよび受信装置20Aを備えている。すなわち、この送受信システム3は複数レーンにより構成される。
【0131】
この送受信システム3では、信号重畳部13により高速信号と低速信号とが重畳された信号が送信装置10から受信装置20へ送られ、その信号を受信した受信装置20の信号分離部21により高速信号と低速信号とが互いに分離される。
【0132】
受信装置20の信号分離部21から出力された低速信号は、その受信装置20の復元部22の分周器47に入力される他、他の受信装置20Aの復元部22の分周器47にも入力される。
【0133】
受信装置20Aは、通信リンクにより接続された送信装置10Aから送出された高速信号を受信する。その受信された高速信号は、第1フィルタ31を経て、第1位相比較器41に入力される。
【0134】
送信装置10Aは、低速信号生成部12により低速信号を生成する必要はなく、また、信号重畳部13により高速信号と低速信号とを重畳する必要もない。受信装置20Aは、信号分離部21により信号分離を行う必要がない。
【0135】
このような構成とすることにより、高速信号と低速信号とを重畳した信号を送信するレーンを1つにすることができるので、EMIを低減することができる。また、低速信号の有無を検出する信号検出部23を各受信装置が備えることで、各受信装置が低速信号を受信したか否かを検出することができ、低速信号を受信した受信装置が他の受信装置へ低速信号を送ることができる。さらに、低速信号を送信するレーンを逐次切り替えることにより、EMIの放射位置を分散させることができ、EMIを低減することができる。
【0136】
次に、送信装置10の信号重畳部13および受信装置20の信号分離部21それぞれの回路構成例について説明する。
【0137】
図23は、信号重畳部13および信号分離部21それぞれの回路構成例を示す図である。信号重畳部13と信号分離部21とは、差動信号線により接続されている。差動信号線の一方の信号線上に結合キャパシタC
71,C
73が設けられ、他方の信号線上に結合キャパシタC
72,C
74が設けられている。結合キャパシタC
71,C
72は信号重畳部13の出力端の近傍に設けられ、結合キャパシタC
73,C
74は信号分離部21の入力端の近傍に設けられている。
【0138】
信号重畳部13は、抵抗器R11,R12、NMOSトランジスタM11~M14、定電流源I11,I12および波形整形回路15を含む。
【0139】
NMOSトランジスタM11のドレインは、抵抗器R11を介して電源電位供給端に接続されている。NMOSトランジスタM12のドレインは、抵抗器R12を介して電源電位供給端に接続されている。NMOSトランジスタM11,M12の各ソースは、定電流源I11を介して接地電位供給端に接続されている。抵抗器R11,R12、NMOSトランジスタM11,M12および定電流源I11は、第1CML(Current Mode Logic)回路を構成している。この第1CML回路は、NMOSトランジスタM11,M12の各ゲートに高速信号を入力する。
【0140】
NMOSトランジスタM13のドレインは、抵抗器R11を介して電源電位供給端に接続されている。NMOSトランジスタM14のドレインは、抵抗器R12を介して電源電位供給端に接続されている。NMOSトランジスタM13,M14の各ソースは、定電流源I12を介して接地電位供給端に接続されている。抵抗器R11,R12、NMOSトランジスタM13,M14および定電流源I12は、第2CML回路を構成している。この第2CML回路は、NMOSトランジスタM13,M14の各ゲートに、波形整形回路15により波形整形された低速信号を入力する。波形整形回路15は、高速信号の周波数帯域への低速信号の干渉を小さくするために、例えば正弦波または三角波の時間波形を有する低速信号を生成する。
【0141】
第1CML回路および第2CML回路は、抵抗器R11,R12を共有している。信号重畳部13は、第1CML回路に高速信号を入力し、第2CML回路に低速信号を入力して、高速信号と低速信号とを重畳して当該重畳後の信号を差動信号として送出する。信号重畳部13から重畳されて出力される信号の振幅は、定電流源I11,I12に流れる電流の和に応じたものとなる。一般に、CML回路では出力振幅に上限があるので、定電流源I11,I12に流れる電流の和および終端抵抗の抵抗値により、出力振幅が上限を超えないようにする。
【0142】
信号分離部21の第1フィルタ31は、結合キャパシタC73,C74および抵抗器R21,R22により構成されるハイパスフィルタである。抵抗器R21の一端はアンプ33の第1入力端と接続され、他端は一定電圧が印加される。抵抗器R22の一端はアンプ33の第2入力端と接続され、他端は一定電圧が印加される。このハイパスフィルタのカットオフ周波数は、結合キャパシタC73,C74の容量値および抵抗器R21,R22の抵抗値により決まる。アンプ33は、第1フィルタ31から出力された高速信号を増幅して第1位相比較器41へ出力する。
【0143】
信号分離部21の第2フィルタ32は、インダクタL21,L22およびキャパシタC21,C22により構成されるローパスフィルタである。インダクタL21の一端は一方の信号線と接続され、他端はキャパシタC21を介して接地電位供給端と接続されている。インダクタL22の一端は他方の信号線と接続され、他端はキャパシタC22を介して接地電位供給端と接続されている。このローパスフィルタのカットオフ周波数は、インダクタL21,L22のインダクタンスおよびキャパシタC21,C22の容量値により決まる。シュミットトリガバッファ34は、第2フィルタ32から出力された低速信号を矩形波として分周器47へ出力する。
【0144】
図24~
図29は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。それぞれの構成の効果について以下にまとめる。
図24および
図25に示される構成例では、
図23のNMOSトランジスタM
13,M
14やESD保護ダイオードの寄生容量の影響を低減することができ、波形品質を改善することができる。
図26に示される構成例では、波形成型回路を使用することなく低速信号を重畳できるので、回路面積を低減させることができる。
図27に示される構成例では、キャパシタC
11,C
12により高速信号が低速信号へ回り込むことに因る低速信号の波形品質の劣化を低減することができる。
図28および
図29に示される構成例では、
図23のNMOSトランジスタM
13,M
14が不要になり、寄生容量の影響を低減することができる。
【0145】
図24は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。この図に示される信号重畳部13は、
図23の信号重畳部13の構成に加えてTコイルT
11,T
12を更に備えている。TコイルT
11は、NMOSトランジスタM
11のドレインと信号重畳部13の一方の出力端との間に設けられている。TコイルT
12は、NMOSトランジスタM
12のドレインと信号重畳部13の他方の出力端との間に設けられている。TコイルT
11,T
12を設けることで、低速信号用のバッファ(第2CML回路)の負荷の影響を低減することができる。
【0146】
図25は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。この図に示される信号重畳部13は、
図24の信号重畳部13の構成に加えてESD保護ダイオードD
11~D
14を更に備えている。ESD保護ダイオードD
11は、NMOSトランジスタM
13のドレインと電源電位供給端との間に設けられている。ESD保護ダイオードD
12は、NMOSトランジスタM
13のドレインと接地電位供給端との間に設けられている。ESD保護ダイオードD
13は、NMOSトランジスタM
14のドレインと電源電位供給端との間に設けられている。ESD保護ダイオードD
14は、NMOSトランジスタM
14のドレインと接地電位供給端との間に設けられている。このような構成とすることで、高速信号用のバッファ(第1CML回路)から見えるESD保護ダイオードの負荷を低減することができる。
【0147】
図26は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。この図に示される信号重畳部13は、抵抗器R
11~R
14、NMOSトランジスタM
11~M
14、定電流源I
11,I
12および波形整形回路16を含む。抵抗器R
11,R
12、NMOSトランジスタM
11,M
12および定電流源I
11は、第1CML回路を構成している。この第1CML回路は、NMOSトランジスタM
11,M
12の各ゲートに高速信号を入力する。抵抗器R
13,R
14、NMOSトランジスタM
13,M
14および定電流源I
12は、第2CML回路を構成している。この第2CML回路は、NMOSトランジスタM
13,M
14の各ゲートに低速信号を入力する。第1CML回路および第2CML回路が抵抗器を共有していない構成とすることで、消費電力を低減することができる。
【0148】
波形整形回路16は、結合キャパシタC71,C72およびインダクタL11,L12により構成される。インダクタL11は、NMOSトランジスタM13のドレインと一方の信号線との間に設けられている。インダクタL12は、NMOSトランジスタM14のドレインと他方の信号線との間に設けられている。波形整形回路16は、第1CML回路からの高速信号と第2CML回路からの低速信号とを重畳するとともに、低速信号の波形を整形することができる。
【0149】
図27は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。この図に示される信号重畳部13は、
図24の信号重畳部13の構成に加えてフィルタ回路17を更に備えている。フィルタ回路17は、キャパシタC
11,C
12を含む。キャパシタC
11は、NMOSトランジスタM
13のドレインと接地電位供給端との間に設けられている。キャパシタC
12は、NMOSトランジスタM
14のドレインと接地電位供給端との間に設けられている。仮にフィルタ回路17が設けられていないとすると、低速信号出力側の出力可能電圧範囲は、高速信号出力側からの信号の回り込みを低速信号出力に加えたものとなり、低速信号の出力電圧が小さくなる。フィルタ回路17を設けることで、高速信号出力側から低速信号出力側への信号の回り込みを防ぐことができ、低速信号出力側の出力レンジを改善することができる。
【0150】
図28は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。この図に示される信号重畳部13は、抵抗器R
11,R
12、NMOSトランジスタM
11,M
12、定電流源I
11および電源回路18,19を備える。電源回路18,19は、例えば正弦波または三角波に波形整形された低速信号を参照電圧として入力し、その参照電圧により振幅変調された駆動電圧を抵抗器R
11,R
12の一端に与える。抵抗器R
11,R
12、NMOSトランジスタM
11,M
12および定電流源I
11は、第1CML回路を構成している。この第1CML回路は、NMOSトランジスタM
11,M
12の各ゲートに高速信号を入力する。NMOSトランジスタM
11、M
12の各ドレインから出力される差動信号は、NMOSトランジスタM
11,M
12の各ゲートに入力される高速信号と、抵抗器R
11,R
12に与えられる駆動電圧(低速信号)とを重畳したものとなる。電源回路18,19は、低ノイズ等の特徴を有するLDO(Low Drop Out)電源であるのが好適である。この構成では、低速信号用の第2CML回路が不要であり、第1CML回路の負荷が低減される。LDO電源は、高速動作には不向きであるが、低速信号の時間変化に応じて変化する駆動電圧を出力するのに好適に用いられ得る。
【0151】
図29は、信号重畳部13の他の回路構成例を示す図である。この図に示される信号重畳部13は、バッファB
11,B
12、抵抗器R
15,R
16および電源回路18,19を備える。電源回路18,19は、例えば正弦波または三角波に波形整形された低速信号を参照電圧として入力し、その参照電圧により振幅変調された駆動電圧をバッファB
11,B
12に与える。バッファB
11の出力端は抵抗器R
15を介して一方の信号線に接続されている。バッファB
12の出力端は抵抗器R
16を介して他方の信号線に接続されている。バッファB
11,B
12は、電源回路18,19から与えられる駆動電圧(低速信号)により駆動され、高速信号を入力して、高速信号と低速信号とを重畳した信号を出力する。バッファB
11,B
12は、例えば、PMOSトランジスタおよびNMOSトランジスタを含むインバータ回路構成を有するバッファ(Source-Series-Terminated (SST) Buffer)であって、PMOSトランジスタのソースに電源回路からの駆動電圧が与えられる。この構成でも、低速信号用の第2CML回路が不要であり、第1CML回路の負荷が低減される。LDO電源は、高速動作には不向きであるが、低速信号の時間変化に応じて変化する駆動電圧を出力するのに好適に用いられ得る。
【0152】
図30~
図33は、信号分離部21の他の回路構成例を示す図である。それぞれの構成の効果について以下にまとめる。
図30および
図31に示される構成例では、帯域制限コンパレータを用いることで、
図23中の第2フィルタ32を省略することができ、回路面積を低減できる。
図32および
図33に示される構成例では、帯域制限コンパレータ26やシュミットトリガバッファ34の寄生容量の影響を低減することができる。
【0153】
図30は、信号分離部21の他の回路構成例を示す図である。この図に示される信号分離部21の第1フィルタ31は、キャパシタC
23,C
24および抵抗器R
21,R
22により構成されるハイパスフィルタである。キャパシタC
23は、結合キャパシタC
73とアンプ33の第1入力端との間に設けられている。キャパシタC
24は、結合キャパシタC
74とアンプ33の第2入力端との間に設けられている。抵抗器R
21の一端はアンプ33の第1入力端と接続され、他端は一定電圧が印加される。抵抗器R
22の一端はアンプ33の第2入力端と接続され、他端は一定電圧が印加される。このハイパスフィルタのカットオフ周波数は、キャパシタC
23,C
24の容量値および抵抗器R
21,R
22の抵抗値により決まる。アンプ33は、第1フィルタ31から出力された高速信号を増幅して第1位相比較器41へ出力する。
【0154】
第2フィルタ32は、バイアス回路35および帯域制限コンパレータ36により構成される。帯域制限コンパレータ36の第1入力端は、キャパシタC23と結合キャパシタC73とを接続する信号線に接続されている。帯域制限コンパレータ36の第2入力端は、キャパシタC24と結合キャパシタC74とを接続する信号線に接続されている。帯域制限コンパレータ36は、低速信号を選択的に出力することができ、ローパスフィルタの機能を有する。バイアス回路35は、帯域制限コンパレータ36の第1入力端および第2入力端に入力される信号のコモン電圧を設定する為に設けられている。バイアス回路35は抵抗器R23,R24を含む。抵抗器R23の一端は帯域制限コンパレータ36の第1入力端に接続され、他端は一定電圧が印加される。抵抗器R24の一端は帯域制限コンパレータ36の第2入力端に接続され、他端は一定電圧が印加される。
【0155】
このような構成とすることで、
図23に示される構成では必要であった外部素子を不要とすることができる。なお、バイアス回路35は、結合キャパシタC
73,C
74とともにハイパスフィルタを構成している。したがって、抵抗器R
23,R
24の抵抗値を大きくし、このハイパスフィルタのカットオフ周波数を低くして、低速信号をも通過させる必要がある。
【0156】
図31は、信号分離部21の他の回路構成例を示す図である。この図に示される信号分離部21は、
図30の信号分離部21の構成に加えてESD保護ダイオードD
21~D
24を更に備えている。ESD保護ダイオードD
21は、帯域制限コンパレータ36の第1入力端と電源電位供給端との間に設けられている。ESD保護ダイオードD
22は、帯域制限コンパレータ36の第1入力端と接地電位供給端との間に設けられている。ESD保護ダイオードD
23は、帯域制限コンパレータ36の第2入力端と電源電位供給端との間に設けられている。ESD保護ダイオードD
24は、帯域制限コンパレータ36の第2入力端と接地電位供給端との間に設けられている。
【0157】
図32は、信号分離部21の他の回路構成例を示す図である。この
図32に示される信号分離部21は、
図30の信号分離部21の構成に加えてTコイルT
21,T
22を更に備えている。
図33は、信号分離部21の他の回路構成例を示す図である。この
図33に示される信号分離部21は、
図31の信号分離部21の構成に加えてTコイルT
21,T
22を更に備えている。
図32および
図33において、TコイルT
21は、キャパシタC
23と結合キャパシタC
73との間に設けられている。TコイルT
22は、キャパシタC
24と結合キャパシタC
74との間に設けられている。このような構成とすることで、帯域制限コンパレータ36の負荷を低減することができる。
【0158】
なお、帯域制限コンパレータ36は、
図12に示されるような低速なアンプおよびシュミットトリガバッファを含む構成とすることができ、この構成によりローパスフィルタおよびコンパレータの双方の機能を有することができる。アンプを高利得とし、シュミットトリガバッファの閾値を数百mVとすることで、信号とノイズとを分離することができる。また、帯域制限コンパレータ36は、低速信号の有無を検出する信号検出部23を兼ねることができ、これにより消費電力および回路レイアウト面積を低減することができる。
【0159】
以上のとおり、本実施形態の構成は、送信装置から受信装置へ高速信号と低速信号とを重畳して送信するので、受信装置において位相ロックが外れた場合に、その旨を受信装置から送信装置へ通知する必要がない。したがって、送信装置から受信装置へ一方向にしか信号を送信することができないシステムにおいても適用が可能である。また、受信装置において直ちに周波数トラッキングを行うことができる。送信装置から受信装置へ重畳して送信される高速信号と低速信号との間で高度の位相調整が不要であるので、回路設計工数および消費電力を低減することができる。また、受信装置において重畳された信号から信号分離部により高速信号と低速信号とを互いに分離するので、高速信号と低速信号との間の位相関係は任意でよく、高速信号および低速信号それぞれの位相は互いに一致していなくてもよい。したがって、高速信号および低速信号それぞれのレベル遷移時間(Tr,Tf)を互いに一致させる必要もない。したがって、通信リンクの本数の増加を抑制することができ、回路の消費電力の増加を抑制することができ、また、回路レイアウト面積の増加をも抑制することができる。また、長距離伝送においても適用が可能である。
【符号の説明】
【0160】
1~3…送受信システム、10…送信装置、11…高速信号生成部、12…低速信号生成部、13…信号重畳部、20…受信装置、21…信号分離部、22…復元部、23…信号検出部、24…第1エラー検出部、25…第2エラー検出部、31…第1フィルタ、32…第2フィルタ、41…第1位相比較器、42…第2位相比較器、43…ロック検出器、44…チャージポンプ、45…ループフィルタ、46…電圧制御発振器、47…分周器、48…帰還分周器、51…スイッチ、52…スイッチ、53…インバータ回路、60,60A,60B…中継装置、61…シリアライザ、62…PLL回路。