(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-21
(45)【発行日】2023-01-04
(54)【発明の名称】アルミニウム用熱間圧延油組成物及びアルミニウムの熱間圧延方法
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20221222BHJP
C10M 173/00 20060101ALI20221222BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20221222BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20221222BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20221222BHJP
C10M 101/04 20060101ALN20221222BHJP
C10M 105/32 20060101ALN20221222BHJP
C10M 129/40 20060101ALN20221222BHJP
C10M 135/10 20060101ALN20221222BHJP
C10M 129/16 20060101ALN20221222BHJP
C10M 129/74 20060101ALN20221222BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20221222BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20221222BHJP
C10N 40/24 20060101ALN20221222BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M173/00
B21B1/22 M
B21B3/00 J
C10M101/02
C10M101/04
C10M105/32
C10M129/40
C10M135/10
C10M129/16
C10M129/74
C10N10:02
C10N30:00 A
C10N40:24 A
(21)【出願番号】P 2018247451
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000207399
【氏名又は名称】大同化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157934
【氏名又は名称】森田 隼明
(72)【発明者】
【氏名】根本 慎平
(72)【発明者】
【氏名】中村 修二
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-068368(JP,A)
【文献】特開2005-146094(JP,A)
【文献】特開2007-009004(JP,A)
【文献】特開平11-343494(JP,A)
【文献】特開昭63-289099(JP,A)
【文献】特開平08-183987(JP,A)
【文献】特開平06-025689(JP,A)
【文献】特開2018-145258(JP,A)
【文献】特開2010-235791(JP,A)
【文献】特開平11-140477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
B21B 1/00- 11/00;
47/00- 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油、天然油脂、及び合成エステルからなる群から選択される少なくとも1種からなる基油と、
(A)ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、牛脂脂肪酸、ヤシ油脂肪酸及びパーム油脂肪酸からなる群から選択される少なくとも一種の脂肪酸と、
(B)炭素数が4~12のアルケニルスルホン酸ナトリウム、炭素数が4~12のα-オレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が8~30のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が3~12のモノアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が3~12のジアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が8~12のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、及びアルキル基の炭素数が8~12のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種のナトリウムスルホネート型アニオン乳化剤と、
(C)ポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールアルケニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種の非イオン性乳化剤(C1)と、
を含有し、脂肪酸(A)の添加量が、基油100重量部に対して
10~25重量部であり、
ナトリウムスルホネート型アニオン乳化剤(B)の添加量が、基油100重量部に対して1~10重量部であり、且つ乳化剤(C)の添加量が、基油100重量部に対して4~18重量部であることを特徴とするアルミニウム用熱間圧延油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム用熱間圧延油組成物を水中に乳化分散させて、
濃度4~20重量%のエマルションとして、アルミニウム材を熱間圧延するアルミニウムの熱間圧延方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム板、アルミニウム合金板等のアルミニウム材を熱間圧延する際に使用されるアルミニウム用熱間圧延油組成物、及び該組成物を用いたアルミニウムの熱間圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム用熱間圧延油組成物としては、精製鉱油等を基油として、これに油性剤として油脂や脂肪酸、乳化剤として脂肪酸石けん、非イオン界面活性剤等を含有する圧延油組成物が多く用いられており、これを水で稀釈し、所定濃度のエマルションとして、アルミニウム(アルミニウム合金を含む。以下同様。)の熱間圧延に使用されるのが主流である。
【0003】
上記従来のアルミニウム用熱間圧延油組成物は、圧延ロールへの油分(即ちエマルション粒子)の付着量に乏しく、アルミニウム材からの熱を圧延ロールに直接伝達してしまうために、ロールヒートクラウンによる中延びが発生し、製品の生産性に悪影響を及ぼすという問題がある。ロールヒートクラウンによる中延びとは、圧延ロール巾端部よりも圧延ロール巾中央部の方がアルミニウム材からの熱が溜まりやすく、熱膨張を起こすことで圧延ロールが太鼓状にたわみ、圧延されたアルミニウム板等の巾中央部の厚みがその巾端部よりも薄くなる現象である。
【0004】
アルミニウムの熱間圧延において、圧延材の板厚は飲料缶に代表されるように製品コイルの全巾全長について厳しい精度(許容差約±5μm)が要求されるため、ロールヒートクラウンによる中延びを抑制するための検討が進められている。特に、スプレー流量密度、ノズル捩れ角、ノズル配置などの操業面での検討が行われている。しかしながら、圧延油組成物の成分内容に関するロールヒートクラウンによる中延び抑制についての十分な検討はなされていない。
【0005】
特許文献1及び特許文献2は、基油、脂肪酸、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤、アミン化合物を含有するアルミニウム用熱間圧延油組成物を開示している。しかしながら、圧延ロールへの油分の付着性については何らの記載も無く、勿論ロールヒートクラウンによる中延び抑制については、全く考慮されていない。
【0006】
特許文献3は、精製鉱油、硫黄系極圧剤、スルフォネート型アニオン界面活性剤を含有するアルミニウム及びアルミニウム合金用熱間圧延油組成物を開示している。しかしながら、圧延ロールへの油分の付着性については何らの記載も無く、勿論ロールヒートクラウンによる中延び抑制については、全く考慮されていない。
【0007】
特許文献4は、基油、脂肪酸、ナトリウムスルホネート及びポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤を含有するテーブルシャワー油を開示している。しかしながら、このテーブルシャワー油は、アルミニウム板を搬送するためのテーブルローラー又は/及びアルミニウム板に供給するものであり、アルミニウム用熱間圧延油ではない。また、テーブルシャワー油であるため、使用濃度が0.1~3重量%と低濃度であり、圧延油として使用することは全く想定されておらず、勿論、圧延ロールへの油分の付着性については何らの記載も無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第2899224号公報
【文献】特許第2990021号公報
【文献】特開2005-146094号公報
【文献】特開2005-68368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、アルミニウムの熱間圧延において、圧延ロールへの油分の付着量を増加させて、油分が介在物として機能して、アルミニウム材からの熱を圧延ロールに直接的に伝達しないように働き、これによってロールヒートクラウンによる中延びを抑制することを可能にしたアルミニウム用熱間圧延油組成物及び該組成物を用いたアルミニウムの熱間圧延方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、基油に、特定の脂肪酸と、特定のナトリウムスルホネート型アニオン乳化剤と、特定の非イオン性乳化剤及び/又は特定のアミン化合物である乳化剤と、を配合することによって、圧延ロールへの油分の付着性を顕著に向上させることができ、上記目的を達成し得ることを見出し、これに基づいて更に種々検討して、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、以下に示す、アルミニウム用熱間圧延油組成物及びアルミニウムの熱間圧延方法を提供するものである。
【0012】
1.鉱油、天然油脂、及び合成エステルからなる群から選択される少なくとも1種からなる基油と、
(A)ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、牛脂脂肪酸、ヤシ油脂肪酸及びパーム油脂肪酸からなる群から選択される少なくとも一種の脂肪酸と、
(B)炭素数が4~12のアルキルスルホン酸ナトリウム、炭素数が4~12のアルケニルスルホン酸ナトリウム、炭素数が4~12のα-オレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が8~30のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が3~12のモノアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が3~12のジアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が8~12のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、及びアルキル基の炭素数が8~12のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種のナトリウムスルホネート型アニオン乳化剤と、
(C)ポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールアルケニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種の非イオン性乳化剤(C1)、及び/又はモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも一種のアミン化合物である乳化剤(C2)と、
を含有することを特徴とするアルミニウム用熱間圧延油組成物。
【0013】
2.脂肪酸(A)の添加量が、基油100重量部に対して、6~25重量部である上記項1に記載のアルミニウム用熱間圧延油組成物。
【0014】
3.ナトリウムスルホネート型アニオン乳化剤(B)の添加量が、基油100重量部に対して、1~10重量部である上記項1又は2に記載のアルミニウム用熱間圧延油組成物。
【0015】
4.乳化剤(C)の添加量が、基油100重量部に対して、1~25重量部である上記項1~3のいずれかに記載のアルミニウム用熱間圧延油組成物。
【0016】
5.上記項1~4のいずれかに記載のアルミニウム用熱間圧延油組成物を水中に乳化分散させて、エマルションとして、アルミニウム材を熱間圧延するアルミニウムの熱間圧延方法。
【0017】
6.エマルションの濃度が、4~20重量%である上記項5に記載のアルミニウムの熱間圧延方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアルミニウム用熱間圧延油組成物及びアルミニウムの熱間圧延方法によれば、次の様な顕著な効果が奏される。
【0019】
(1)本発明のアルミニウム用熱間圧延油組成物は、水中に乳化分散し、エマルションを形成する。このエマルションは、広範囲の温度域(通常100~200℃程度)において、圧延ロールへの油分の付着量が格別に多い。
【0020】
(2)従って、本発明のアルミニウム用熱間圧延油組成物を用いることによって、アルミニウムの熱間圧延において、圧延ロールへの油分の付着量が増加しており、その油分が介在物として機能して、アルミニウム材からの熱を圧延ロールに伝達しないように働くことによって、ロールヒートクラウンによる中延びを、効果的に抑制することができる。
【0021】
(3)また、本発明のアルミニウムの熱間圧延方法によれば、アルミニウム材の熱間圧延において、圧延材の板厚を均一にできるため、生産性の高いアルミニウムの熱間圧延方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】付着試験機の試験時の状態を拡大して説明する図である。
【
図3】付着試験において、試験片温度と付着量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
アルミニウム用熱間圧延油組成物
本発明のアルミニウム用熱間圧延油組成物は、鉱油、天然油脂、及び合成エステルからなる群から選択される少なくとも1種からなる基油に、
(A)ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、牛脂脂肪酸、ヤシ油脂肪酸及びパーム油脂肪酸からなる群から選択される少なくとも一種の脂肪酸と、
(B)炭素数が4~12のアルキルスルホン酸ナトリウム、炭素数が4~12のアルケニルスルホン酸ナトリウム、炭素数が4~12のα-オレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が8~30のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が3~12のモノアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が3~12のジアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が8~12のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、及びアルキル基の炭素数が8~12のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種のナトリウムスルホネート型アニオン乳化剤と、
(C)ポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールアルケニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種の非イオン性乳化剤(C1)、及び/又はモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも一種のアミン化合物である乳化剤(C2)と、
を併用して、配合していることによって、特徴付けられる。
【0024】
本発明のアルミニウム用熱間圧延油組成物は、これを原液として、水中に、4~20重量%程度の濃度となるように、乳化分散させることによって、油滴が水に分散したO/W型エマルションを形成する。エマルションの濃度が4重量%未満では、圧延ロールとアルミニウム板等の圧延加工物との間でエマルション中の油滴が捕捉され難く、油分(即ちエマルション粒子)の付着性が不十分となり、濃度が20重量%を超えると、潤滑が過多となり、噛み込み不良等の問題が発生し易い。
【0025】
基油
本発明に使用される基油としては、従来からこの種の圧延油組成物に使用されてきたものを、いずれも使用できる。具体的には、鉱油、天然油脂、及び合成エステルからなる群から選択される一種又は二種以上を、使用することができる。鉱油としては、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油のいずれでもよく、他の成分との併用に支障のないように、40℃の温度における圧延油の動粘度が150cSt以下になるように選定使用すればよい。天然油脂としては、例えば、大豆油、ナタネ油、ヒマシ油、パーム油、ヤシ油、豚脂、牛脂、豚油、鯨油、ヌカ油等の動植物油脂を挙げることができる。合成エステルとしては、例えば、牛脂、パーム油、ヤシ油、ヒマシ油等から得られる脂肪酸及び/又は合成脂肪酸と炭素原子数8~18の脂肪族1価アルコールとのモノエステル;前記脂肪酸及び/又は合成脂肪酸とエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとのジ、トリ、テトラエステルである合成エステル等を挙げることができる。
【0026】
脂肪酸(A)
脂肪酸(A)は、ナトリウムスルホネート型アニオン乳化剤(B)及び乳化剤(C)と併用して、配合することによって、圧延ロールへの油分の付着量の向上に寄与する。脂肪酸としては、特に、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、牛脂脂肪酸、ヤシ油脂肪酸及びパーム油脂肪酸からなる群から選択される一種又は二種以上の脂肪酸を、使用することが、適切である。
【0027】
脂肪酸(A)の添加量は、基油100重量部に対して、好ましくは6~25重量部程度、より好ましくは10~20重量部程度、更に好ましくは12~16重量部程度である。添加量が6重量部未満の場合には、目的の付着量を得るのが難しく、また、25重量部を超えて添加しても、その効果の増大が無い。
【0028】
ナトリウムスルホネート型アニオン乳化剤(B)
ナトリウムスルホネート型アニオン乳化剤(B)は、脂肪酸(A)及び乳化剤(C)を併用して、配合することによって、圧延ロールへの油分の付着性の向上に寄与する。ナトリウムスルホネート型アニオン乳化剤(B)としては、特に、炭素数が4~12のアルキルスルホン酸ナトリウム、炭素数が4~12のアルケニルスルホン酸ナトリウム、炭素数が4~12のα-オレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が8~30のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が3~12のモノアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が3~12のジアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキル基の炭素数が8~12のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、及びアルキル基の炭素数が8~12のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムからなる群から選択される一種又は二種以上を、使用することによって、上記付着性を顕著に向上し得る。これらの内、アルキル基の炭素数が8~30のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びアルキル基の炭素数が8~12のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムからなる群から選択される一種又は二種以上を用いるのが、より好ましい。
【0029】
ナトリウムスルホネート型アニオン乳化剤(B)の添加量は、基油100重量部に対して、好ましくは1~10重量部程度、より好ましくは2~8重量部程度、更に好ましくは3~6重量部程度である。添加量が1重量部未満の場合には、目的の付着量を得るのが難しく、また、10重量部を超えて添加しても、その効果の増大が無い。
【0030】
乳化剤(C)
乳化剤(C)は、脂肪酸(A)及びナトリウムスルホネート型アニオン乳化剤(B)と併用して、配合することによって、圧延ロールへの油分の付着性の向上に寄与する。乳化剤(C)としては、特に、非イオン性乳化剤(C1)及び/又はアミン化合物である乳化剤(C2)を使用する。
【0031】
非イオン性乳化剤(C1)としては、ポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールアルケニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群から選択される一種又は二種以上を、使用する。
【0032】
ポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテル/ポリオキシアルキレングリコールアルケニルエーテルにおいて、ポリオキシアルキレン部分は、重合度が1~50程度で、オキシエチレン、オキシプロピレン、オキシブチレン等の一種単独又は二種以上の混合物であって、混合物の場合は、配列がブロック型、ランダム型などのいずれでもよい。また、アルキルエーテル/アルケニルエーテル部分は、モノエーテル又はジエーテルであって、そのアルキル基/アルケニル基は、炭素数8~22の直鎖状、分岐鎖状、環状等のいずれであってもよい。
【0033】
ポリオキシエチレン脂肪酸エステルにおいて、オキシエチレン部分の重合度は1~50程度であって、脂肪酸エステル部分の炭化水素鎖は炭素数8~22の直鎖状、分岐鎖状、環状等のいずれであってもよく、飽和鎖であっても、不飽和鎖であってもよい。
【0034】
ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル/ポリオキシエチレンアルケニルフェノールエーテルにおいて、オキシエチレン部分の重合度は1~50程度であって、そのアルキル基/アルケニル基は、炭素数8~22の直鎖状、分岐鎖状、環状等のいずれであってもよい。
【0035】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルにおいて、オキシエチレン部分の重合度は1~50程度であって、脂肪酸エステル部分の炭化水素鎖は炭素数8~22の直鎖状、分岐鎖状、環状等のいずれであってもよく、飽和鎖であっても、不飽和鎖であってもよい。
【0036】
ソルビタン脂肪酸エステルにおいて、脂肪酸エステル部分の炭化水素鎖は炭素数8~22の直鎖状、分岐鎖状、環状等のいずれであってもよく、飽和鎖であっても、不飽和鎖であってもよい。
【0037】
乳化剤(C2)は、脂肪酸(A)と反応して、脂肪酸アミン石けんとなって、乳化剤として作用するアミン化合物である。乳化剤(C2)としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンからなる群から選択される一種又は二種以上を、使用する。
【0038】
乳化剤(C)の添加量は、基油100重量部に対して、好ましくは1~25重量部程度、より好ましくは4~18重量部程度、更に好ましくは6~15重量部程度である。添加量が1~25重量部程度の範囲であれば、アルミニウム用熱間圧延油組成物のエマルションの油分の付着性の向上に対して効果が発揮される。
【0039】
その他の成分
本発明の圧延油組成物には、基油、脂肪酸(A)、乳化剤(B)、及び乳化剤(C)に加えて、更に、必要に応じて、公知の各種添加剤、例えば、油性向上剤、極圧剤、酸化防止剤、消泡剤、防腐剤等を添加することができる。
【0040】
油性向上剤としては、例えば、脂肪族アルコール等を挙げることができる。極圧剤としては、例えば、硫化油脂、硫化オレフィン、トリクレジルホスファイト、ジアルキルジチオリン酸亜鉛等を挙げることができる。酸化防止剤としては、例えば、2, 6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等のフェノール系化合物や、フェノチアジン等の芳香族アミン等を挙げることができる。消泡剤としては、例えば、疎水性シリカとPEG型非イオン性界面活性剤との混合物等を挙げることができる。防腐剤としては、例えば、1, 2-ベンゾチアゾリン-3-オン等のチアゾリン系のものや、ソジウムピリジンチオール-1-オキシド等のピリジン系のものを挙げることができる。
【0041】
クーラント
本発明のアルミニウム用熱間圧延油組成物は、これを原液として、水中に、4~20重量%程度の濃度となるように、乳化分散させることによって、油滴が水に分散したO/W型エマルションを形成する。乳化分散に使用される水は、特に限定されず、例えば、純水、蒸留水、イオン交換水、水道水、井戸水、工業用水等のいずれでもよい。
【0042】
本発明のアルミニウム用熱間圧延油組成物は、エマルション粒子を形成し、圧延ロールへの付着量が多い。従来の圧延油のエマルションでは、アルミニウム板等の母材から伝達する熱と、加工熱、及び圧延ロール・アルミニウム材間の摩擦熱とにより圧延ロールの表面温度が150℃を超えるため、エマルションでの付着量が極端に少なかった。これに対して、本発明のアルミニウム用熱間圧延油組成物のエマルションを使用する場合には、圧延ロールの表面温度が150℃を超えても付着量が多いため、油分(即ちエマルション粒子)が介在物となり、母材からの熱を圧延ロールに直接伝達するのを防ぎ、ロールヒートクラウンによる中延びを抑制することができる。
【0043】
アルミニウムの熱間圧延方法
本発明のアルミニウムの熱間圧延方法は、本発明アルミニウム用熱間圧延油組成物を原液とし、これを水中に乳化分散させてなるクーラントを用いて、アルミニウム材を熱間圧延加工するものである。クーラントのエマルションの濃度は、通常、4~20重量%程度であるのが好ましい。
【0044】
本発明のアルミニウムの熱間圧延方法は、本発明アルミニウム用熱間圧延油組成物を水中に乳化分散させて、エマルションとして、タンデムミル圧延機を含む各種圧延機で、アルミニウム材を熱間圧延するアルミニウムの熱間圧延方法であるのが、好ましい。
【0045】
また、本発明のアルミニウムの熱間圧延方法において、上記クーラントを供給する方法には特に限定は無い。例えば、循環ポンプを使用してノズルから供給する方法、ブラシ塗りや油差し等の手差し供給、噴霧供給等が挙げられる。また、必要があれば、本発明の圧延油組成物をダイレクト方式で供給することも可能である。また、圧延加工物であるアルミニウム材の材質としては、例えば、純アルミニウム、アルミニウム合金(3000番系、5000番系、6000番系等)等を挙げることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって、何ら限定されるものではない。
【0047】
実施例1~3及び比較例1~4
下記表1に示す各成分を用いて、本発明及び比較用のアルミニウム用熱間圧延油組成物を調製した。比較例1は乳化剤(B)を添加しておらず、比較例2は脂肪酸(A)を添加しておらず、 比較例3は乳化剤(C)を添加していない。また、比較例4は脂肪酸(A)の添加量が、本発明組成物に比して、十分ではない。
【0048】
【0049】
表1において、各配合組成の数値は、何れも重量部表示である。表1の各成分は、以下のものを示す。
【0050】
鉱油:パラフィン系鉱油(40℃における動粘度が47cStのもの)
脂肪酸(A):オレイン酸
乳化剤(B):アルキル基の炭素数が20~22のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム
乳化剤(C1): アルキル基の炭素数が12~16のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル(オキシアルキレン部分の重合度は15~25程度で、アルキレンはエチレンとプロピレンの混合物であって、配列はブロック型である)
乳化剤(C2):トリエタノールアミン
【0051】
付着試験
図1に、付着試験機の概略図を示した。
図1において、1は付着試験機を、2は試験片を、3はノズルを、4は循環ポンプを、5はタンクを、6は希釈水を、7はスターラを、それぞれ示す。
【0052】
図1の付着試験機1に付属しているタンク5に、大和郡山市水4Lを投入し、ヒーター(図示せず)にて、50℃に加温して希釈水6としてから、更に、実施例1~3又は比較例1~4の圧延油組成物を、エマルション濃度が10重量%となるように入れた。循環ポンプ4によって、希釈水と圧延油組成物との混合物を、10分間循環させて、エマルションとしてから、試験を行った。
【0053】
図2は、付着試験機の試験時の状態を拡大して説明する図である。
図2において、2は試験片を、3はノズルを、8はシャッターを、9は開口部を、それぞれ示す。この試験機は、
図2のように、開口部9を有するシャッター8を、図中の矢印方向に自然落下させて、噴霧部分が、実機高速域での実質スプレー時間に相当するスプレー時間(約0.1秒間)だけ試験片2の静止鋼板面にスプレーされるようにしており、スプレー後に鋼板への油分(エマルション粒子)の付着量を測定した。
【0054】
尚、試験片として、下記の通り、SPCC鋼板を使用する。その理由は、通常、圧延ロールの材料として代表的であるFH-11等の鋼板も、SPCC鋼板も、どちらの成分も約95%以上はFeであり、油分の付着性についての傾向は同様だからである。従って、圧延ロールへの付着性を調べるのに、SPCC鋼板を代用品として用いることができるからである。
【0055】
上記の付着試験機の試験条件を、下記に示した。
試験片:材質SPCC-SD、寸法80×100×0.8mm
試験片温度:100℃、125℃、150℃、175℃、200℃
ノズル品番:1/4EX424
ノズルから試験片までの距離:15cm
シャッター開口部の大きさ:45×115mm
スプレー圧:2kgf/cm2
スプレー流量:2.1L/min
エマルション濃度:10重量%
エマルション温度:50~55℃
【0056】
付着試験の結果を、下記表2に示す。表2は、各試験片である鋼板の各温度(℃)における油分の付着量(mg/m2)を示すものである。
【0057】
【0058】
また、表2に示した付着試験の結果を、
図3に図示した。即ち、
図3は、付着試験において、試験片温度と油分の付着量の関係を示すグラフである。
図3において、横軸は鋼板の温度(℃)を、縦軸は付着量(mg/m
2)を、それぞれ示す。
【0059】
表2及び
図3に示されるように、実施例1、実施例2及び実施例3の本発明圧延油組成物のエマルションは、比較例1、比較例2、比較例3及び比較例4の比較用圧延油組成物のエマルションと比べて、100℃、125℃、150℃、175℃及び200℃の各鋼板温度において、油分の付着量が顕著に多いことが明らかである。
【0060】
本発明圧延油組成物のエマルションが圧延ロールに対する高温付着性に優れる理由として、次の様に考えられる。即ち、本発明圧延油組成物のエマルションは、比較用圧延油組成物のエマルションと比べて、冷却性に優れ、圧延ロールを想定した鋼板の温度を下げやすいからであると考えられる。付着性に関しては、一般的に、エマルションが高温の鋼板に接触すると水蒸気膜を形成して、後続のエマルション粒子が鋼板に接触するのを妨げる為、付着量が低下すると言われている。これに対して、本発明圧延油組成物のエマルションは、接触する鋼板の温度を下げることで、水蒸気膜の発生を低減させて、付着量を顕著に向上させているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のアルミニウム用熱間圧延油組成物は、広範囲の温度域において圧延ロールを想定した鋼板への付着性に優れる為、ロールヒートクラウンによる中延びを抑制することができる。実際の産業上でもその効果は確認されており、製品の生産性が高く、アルミニウムの熱間圧延において好適に使用される。